説明

緩衝器

【課題】 緩衝器のピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの発生減衰力を大きくするについて、装置全体の大型化などを招来させずして車両への搭載性を低下させない。
【解決手段】 シリンダ体1と、このシリンダ体1に出没可能に連繋するロッド体2とを有してなる緩衝器において、シリンダ体1側とロッド体2側との間に配設されてシリンダ体1に対してロッド体2が出没する伸縮作動時にシリンダ体1に対するロッド体2の出没位置を検出する検出手段Sを有すると共に、この検出手段Sが外力作用に応じて静電容量の変化させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝器に関し、特に、シリンダ体に対するロッド体の出没位置の検出を可能にする検出手段を有する緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、四輪車両における懸架装置を構成する緩衝器にあっては、車両が走行する路面状況に応じて車高調整や減衰力調整を実践するのが好ましいが、そのためには、緩衝器における伸縮状況、すなわち、シリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出することが最良となる。
【0003】
そこで、緩衝器において、シリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出する方策として、これまでに種々の提案があるが、たとえば、特許文献1に開示の提案にあっては、検出手段たるストロークセンサを有している。
【0004】
すなわち、上記の文献開示の提案にあっては、緩衝器を構成するシリンダ体内に出没可能に挿通されて同じく緩衝器を構成するロッド体がマグネットを有する一方で、シリンダ体のヘッド端部にホールセンサを有してなる。
【0005】
それゆえ、この緩衝器にあっては、ロッド体がシリンダ体に対して出没するときにロッド体から放出される磁束をホールセンサで検知することで緩衝器のストローク状況、すなわち、シリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出し得る。
【0006】
そして、この方策による場合には、従前のポテンションメータを検出手段にする場合に比較して、検出手段を構成するマグネットが緩衝器に内蔵されるから、緩衝器が検出手段を有することによる車載性の悪化を招来しない
【特許文献1】特開平7‐98036公報(要約,明細書中の段落0008,同0014,同0016から同0020,図2,図3参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した文献開示の提案にあっては、緩衝器においてシリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出できる点で、基本的に不具合がある訳ではないが、その実施化にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0008】
すなわち、上記の文献開示の検出手段にあっては、ロッド体が放出する磁束を検知するホールセンサがシリンダ体のヘッド端部たるいわゆるシリンダ体の外に配設されるから、この緩衝器の周辺に他の磁束を発生する構成がある場合には、ホールセンサが反応し、この検出手段が正確に作動し得なくなる危惧がある。
【0009】
そして、具体的な構成を看ると、マグネットがロッド体の外周に保持される場合には、シリンダ体内におけるロッド体のストロークを減殺する傾向になり、本来目的たる車高調整や減衰力調整の上からは好ましくない不具合もある。
【0010】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、シリンダ体に対するロッド体の出没位置を正確に検出する検出手段を有して、車高調整や減衰力調整の具現化に寄与し、その汎用性の向上を期待するのに最適となる緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、この発明による緩衝器の構成を、基本的には、シリンダ体と、このシリンダ体に出没可能に連繋するロッド体とを有してなる緩衝器において、シリンダ体側とロッド体側との間に配設されてシリンダ体に対してロッド体が出没する伸縮作動時にシリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出する検出手段を有すると共に、この検出手段が外力作用に応じて静電容量の変化させてなるとする。
【発明の効果】
【0012】
それゆえ、この発明の緩衝器にあっては、シリンダ体に対してロッド体が出没する伸縮作動時にシリンダ体に対して出没するロッド体の出没位置を検出手段で検出するから、緩衝器における実際の伸縮状況を把握できる。
【0013】
このとき、検出手段が緩衝器に内蔵されないから、検出手段を設けるために緩衝器の構成を変更させずして既存の緩衝器をそのまま利用でき、また、検出手段が緩衝器の外径をいたずらに大きくしないから、車両への搭載性を低下させない利点がある。
【0014】
そして、検出手段は、既存のいわゆるセンサを利用しないから、緩衝器における製品コストの高騰化を回避でき、緩衝器における汎用性を低下させない利点がある。
【0015】
その結果、たとえば、緩衝器が四輪車両における懸架装置を構成する場合に、車両が走行する路面状況に応じて車高調整や減衰力調整を実践でき、車両における乗り心地を最適にすると共に、その汎用性の向上を期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明による緩衝器は、いわゆる緩衝器本体の外に懸架バネたるエアバネを構成する空気室を有するエアサスと称される油圧緩衝器とされ、四輪車両における四輪各部に配設されて各輪を懸架する懸架装置を構成する。
【0017】
そして、この緩衝器は、図1および図2に示すように、下端側部材とされるシリンダ体1と、このシリンダ体1に出没可能に連繋されて上端側部材とされるロッド体2とを有してなる。
【0018】
シリンダ体1内には、図示しないが、ピストン体が摺動可能に収装され、このピストン体は、シリンダ体1内に伸側室と圧側室とを画成しながらシリンダ体1内に臨在されるロッド体2の先端部に連結される。
【0019】
そして、このピストン体は、減衰手段の配在下に上記の伸側室と圧側室の相互連通を許容し、シリンダ体1に対してロッド体2が出没するときに、伸側室と圧側室を作動油の往復で広狭させて減衰手段による減衰力の発生を可能にしている。
【0020】
なお、シリンダ体1についてであるが、図示しないが、複筒型に形成される場合と単筒型に形成される場合とがあり、複筒型であれ単筒型であれリザーバを有するが、特に、複筒型の場合には、シリンダ体1内とリザーバとの間に圧側減衰手段を有することがある。
【0021】
また、シリンダ体1内に収装されるピストン体が有する減衰手段で発生される減衰力については、たとえば、ロッド体2の軸芯部に配在される制御手段で大小が調整されることがある。
【0022】
一方、この緩衝器は、懸架バネたるエアバネを構成する空気室Aを有するが、この空気室Aは、剛体からなるエアピストン3およびエアチャンバ4と、弾性体からなるダイヤフラム5とで画成される。
【0023】
そして、この空気室Aは、内部に収容される空気量を一定にしてエアバネ力を不変にするのに対して、内部に収容される空気量を積極的に変更してエアバネ力を変更し、エアバネ力の変更による車高調整を可能にする場合もある。
【0024】
エアピストン3は、下方で収斂する截頭円錐筒状に形成されて下端部3aが円筒体からなるシリンダ体1の外周に密封構造下に結合され、上端部3bにダイヤフラム5の下端部5aを固定バンド6の配在下に結合している。
【0025】
エアチャンバ4は、下方に開口する有頭筒状に形成されて、図示しないが、頭部の軸芯部をロッド体2に密封構造下に結合させ、図示するように、下端部4aを加締め端部にして固定リング7によるバックアップ下にダイヤフラム5の上端部5bを結合させている。
【0026】
ダイヤフラム5は、適宜の肉厚のゴム膜からなり、概ね筒状に形成されて、内側に折り曲げられる下端部5aがその外周に隣接される固定バンド6の締め付けでエアピストン3の上端部3bに結合される。
【0027】
そして、このダイヤフラムにあっては、内側に固定リング7を隣接させた状態の上端部5bをエアチャンバ4の下端部4aの内側に嵌挿し、この状態下にエアチャンバ4の下端部4aを加締め加工して、下端部5bをエアチャンバ4の下端部4aに結合させる。
【0028】
それゆえ、このダイヤフラム5にあっては、シリンダ体1に対してロッド体2が出没する緩衝器に伸縮作動時に、すなわち、エアチャンバ4に対してエアピストン3が出没するときに、折り曲げ部5cがエアピストン3の外周でこのエアピストン3の軸線方向に上下動する。
【0029】
すなわち、緩衝器の伸縮作動時には、ダイヤフラム5にあっては、図1中に符号u,dで示すように、折り曲げ部5cがエアピストン3の外周でこのエアピストン3の軸線方向に上下動し、この動きが後述する検知手段Sの検出作動の根拠となる。
【0030】
ところで、この発明にあっては、シリンダ体1に対してロッド体2が出没する緩衝器の伸縮作動時に、シリンダ体1側とロッド体2側との間に配設される検出手段Sがシリンダ体1に対するロッド体2の出没位置を検出する。
【0031】
すなわち、前記したことであるが、凡そ緩衝器を有する懸架装置で四輪が懸架される車両にあっては、車両が走行する路面状況に応じて車高調整や減衰力調整を実践するのが好ましく、そのためには、緩衝器における伸縮状況、すなわち、シリンダ体1に対するロッド体2の出没位置を検出することが最良となる。
【0032】
一方、緩衝器における伸縮状態を的確に判断するとしても、いわゆるセンサを利用する場合には、前記したようにセンサの態様によっては、緩衝器の車載性を低下させることがあり、また、センサが高価となることもあって、その緩衝器の製品コストが高騰化され易く、その汎用性の向上を期待する上からは不利になり易い。
【0033】
そこで、この発明にあっては、緩衝器の伸縮作動時におけるシリンダ体1に対するロッド体2の出没位置を検出する検出手段Sに人工筋肉(EPAM)と称される安価に調達できる部材を利用する。
【0034】
また、この検出手段Sは、原理的には、外力作用に応じて静電容量の変化させるもので、静電容量の変化量を検知することで、外力の作用状態、すなわち、シリンダ体に対するロッド体の出没位置、すなわち、図示するところでは、エアチャンバ4に対するエアピストン3の出没位置の検出を可能にする。
【0035】
そして、この検出手段Sは、図3に示すように、柔軟にして伸縮可能とされる中間部材たる高分子膜Cと、この高分子膜Cを挟む二枚の柔軟にして伸縮可能とされる導電性膜E1,E2とを有する構造原理からなる。
【0036】
それゆえ、この検出手段Sは、図3中に白抜き矢印Pで示すように、その肉厚を挟むようにする外力作用があるとき、あるいは、図3中に白抜き矢印Tで示すように、軸線方向に引っ張るようにする外力作用があるとき、静電容量を変化させる。
【0037】
以上のように形成される検知手段Sは、図1に示す実施形態では、エアピストン3の外周部にあってこのエアピストン3の軸線方向に配設され、エアピストン3のエアチャンバ4に対する出没時に外周に圧接するダイヤフラム5の移動量に応じて静電容量を変化させる。
【0038】
このとき、検知手段Sは、細幅のテープ状に形成されて、エアピストン3の外周に接着されるか、あるいは、細幅の帯状に形成されて、エアピストン3の外周に形成の凹溝内に嵌挿されるのが好ましい。
【0039】
このように、図1に示す実施形態にあっては、検出手段Sがエアピストン3の外周に設けられるから、緩衝器における外径をいたずらに大きくせず、したがって、この緩衝器における車載性を低下させない。
【0040】
また、緩衝器の伸縮作動時には、特に、エアピストン3がエアチャンバ4内に没入するときには、検出手段Sが言わば線状に部分的に設けられることもあるが、移動するダイヤフラム5によって外側から覆われるから、たとえば、飛び石が衝突する機会を減少させることも可能になる。
【0041】
なお、検出手段Sが検出した結果については、たとえば、図1中に破線で示すように、検出手段Sの下端に接続されたリード線を介するなどして、外部に誘導されるであろう。
【0042】
以上からすると、上記した検出手段Sは、シリンダ体1に対してロッド体2が出没する位置を検出する限りには、図示した実施形態に示す以外の方策で配設されても良いと言い得るが、凡そこの種の検出手段が緩衝器に配在される場合を鑑みると、いわゆる内蔵されるか、あるいは、それに近い状態におかれるのが好ましい。
【0043】
図2に示す実施形態にあっては、検出手段Sが空気室A内に収装されてエアチャンバ4とエアピストン4との間に架け渡され、エアピストン3のエアチャンバ4に対する出没時に生じる張力に応じて静電容量を変化させるとしている。
【0044】
このとき、検出手段Sの上端部S1は、適宜のプラグなどの利用下にエアチャンバ4の内周壁に固定的に連結され、検出手段Sの下端部S2は、ダイヤフラム5の下端部5aに同じく適宜のプラグなどの利用下に固定的に連結される。
【0045】
それゆえ、この実施形態にあっては、検出手段Sがエアチャンバ4とエアピストン3との間に配設される、すなわち、直結されるが、前記したように、検出手段Sを構成する人工筋肉は、伸縮性能に優れているので、検出手段Sが細幅のテープ状あるいは帯状に形成されることで、エアチャンバ4に対してエアピストン3が大きいストロークで出没しても、この検出手段が破断などする危惧はなく、また、この検出手段Sが両者に直結されても、両者間における動きを疎外する危惧はない。
【0046】
そして、この実施形態にあっては、検出手段Sが空気室A内に配設されるから、緩衝器の外径を変化させずして車載性を低下させないのはもちろんのこと、飛び石の衝突を一切危惧させない。
【0047】
なお、前記した実施形態の場合と同様に、検出手段Sが検出した結果については、たとえば、図2中に破線で示すように、検出手段Sの上端部に接続されたリード線を介するなどして、外部に誘導されるであろう。
【0048】
前記したところでは、この発明の緩衝器が懸架バネたるエアバネを構成する空気室Aを有するエアサスと称される油圧緩衝器とされるとして説明したが、この発明が意図するところは、検出手段Sがシリンダ体1に対するロッド体2の出没位置を検出することにあるから、その限りには、緩衝器本体の外に空気室Aを有しない通常の油圧緩衝器に具現化されても良いことはもちろんである。
【0049】
そして、シリンダ体1に対してロッド体2が出没する構成を有する限りには、この発明の具現化を可能にするから、たとえば、二輪車の前輪側に架装される緩衝器たるフロントフォークにこの発明が具現化されるとしても良い。
【0050】
また、前記したところでは、検出手段Sが検出した結果の処理については、言及していないが、凡そこの種の検出手段Sが検出した結果を処理する従前の方策が適用されて良い。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の一実施形態による緩衝器を示す部分正面縦断面図である。
【図2】他の実施形態の緩衝器を図1と同様に示す図である。
【図3】検出手段を原理的に示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 シリンダ体
2 ロッド体
3 エアチャンバ
4 エアピストン
5 ダイヤフラム
A 空気室
S 検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ体と、このシリンダ体に出没可能に連繋するロッド体とを有してなる緩衝器において、シリンダ体側とロッド体側との間に配設されてシリンダ体に対してロッド体が出没する伸縮作動時にシリンダ体に対するロッド体の出没位置を検出する検出手段を有すると共に、この検出手段が外力作用に応じて静電容量の変化させてなることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
シリンダ体に結合されるエアピストンと、ロッド体に結合されるエアチャンバと、エアピストンとエアチャンバとに結合されるダイヤフラムとでエアバネたる空気室を形成すると共に、検出手段がシリンダ体に対してロッド体が出没する伸縮作動時にエアチャンバに対するエアピストンの出没位置を検出してなる請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
検出手段がエアピストンの外周部にあってこのエアピストンの軸線方向に配設され、エアピストンのエアチャンバに対する出没時に外周に圧接するダイヤフラムの移動量に応じて静電容量を変化させてなる請求項2に記載の緩衝器。
【請求項4】
検出手段がエアチャンバとエアピストンとの間に架け渡され、エアピストンのエアチャンバに対する出没時に生じる張力に応じて静電容量を変化させてなる請求項2に記載の緩衝器。
【請求項5】
検出手段が中間部材たる柔軟にして伸縮可能とされる高分子膜と、この高分子膜を挟む二枚の柔軟にして伸縮可能とされる導電性膜とからなり、高分子膜と二枚の導電性膜からなる肉厚の変化時に静電容量を変化させてなる請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293698(P2009−293698A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147853(P2008−147853)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】