説明

緩衝器

【課題】 ロッドの外周をシールするオイルシールを有する緩衝器において、オイルシールの性能のバリエーションを増やすことを容易に可能とする。
【解決手段】 作動流体を収容するシリンダ1と、このシリンダ1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2と、環状に形成されて上記ロッド2外周に摺接し上記シリンダ1の開口側端部に取り付けられるオイルシール3,4,5とを備える緩衝器Aにおいて、上記オイルシールを複数備え(3,4,5)、これらオイルシール3,4,5は、上記ロッド2の軸方向に沿って重ね合わせて配置され、組立可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、緩衝器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
上記緩衝器は、例えば、特許文献1に開示されるように、作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、環状に形成されて上記ロッド外周に摺接し上記シリンダの開口側端部に取り付けられるオイルシールとを備える。
【0003】
図2に示すように、このオイルシール6は、シリンダに固定されるインサート部材60と、このインサート部材60の内周側端部からシリンダ側に斜めに配置されるオイルシールリップ61とを備え、このオイルシールリップ61のシリンダ側端部内周に形成されるオイルリップ部61aが上記ロッドに摺接する。
【0004】
そして、上記オイルシールリップ61の外周には、上記オイルリップ部61aと対応する位置に環状の溝61bが形成されてなり、この溝61bに環状のバックアップリングRが係合し、オイルシールリップ61の締付性を確保し、ロッド外周を確実にシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−265954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の緩衝器において、オイルシール6は、固有のシール性を有し、新しい性能のオイルシールを開発しようとする場合、オイルシールリップ61を形成する弾性体の材料開発をする必要がある。
【0007】
したがって、多大な費用及び期間がかかり、オイルシールの性能のバリエーションを増やすことが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、従来よりも性能のバリエーションを増やすことが容易に可能なオイルシールを備えた緩衝器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための手段は、作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、環状に形成されて上記ロッド外周に摺接し上記シリンダの開口側端部に取り付けられるオイルシールとを備える緩衝器において、上記オイルシールを複数備え、これら複数のオイルシールは、上記ロッドの軸方向に沿って重ね合わせて配置され、組立可能に構成されていることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、緩衝器がオイルシールを複数備え、これら複数のオイルシールがそれぞれロッド外周をシールすることから、性質の異なるオイルシールを組み合わせることが可能となり、従来よりも性能のバリエーションを増やすことが容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る緩衝器におけるオイルシールを示す部分縦断面図である。
【図2】従来の緩衝器におけるオイルシールを示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の一実施の形態を示す緩衝器について図1を参照しながら説明する。
【0013】
本実施の形態に係る緩衝器Aは、作動流体を収容するシリンダ1と、このシリンダ1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2と、環状に形成されて上記ロッド2外周に摺接し上記シリンダ1の開口側端部に取り付けられるオイルシール3,4,5とを備える。
【0014】
そして、上記緩衝器Aは、上記オイルシールを複数備え(3,4,5)、これらオイルシール3,4,5は、上記ロッド2の軸方向に沿って重ね合わせて配置され、組立可能に構成されている。
【0015】
以下に詳細に説明すると、本実施の形態に係る緩衝器Aは、自動車の車体と車輪との間に介装されて、車輪に入力される路面振動を吸収するものであり、図示しないが、シリンダ1が車輪側連結部材を介して車輪に、ロッド2が車体側連結部材を介して車体に連結される。
【0016】
また、上記シリンダ1の軸心部には、図示しないが、インナーシリンダが起立してなり、このインナーシリンダとシリンダ1との間にリザーバが形成される。
【0017】
さらに、上記インナーシリンダと上記シリンダ1の車体側開口部(図1中上側開口部)には、同じく図示しないが、環状のロッドガイドが装着されてなり、このロッドガイドは、上記シリンダ1の車体側端部10を加締めることにより、インナーシリンダ上に固定される。
【0018】
上記シリンダ1内に軸方向に移動可能に挿入されるロッド2は、上記ロッドガイドの軸心部に嵌合する図示しない環状のブッシュにより軸支されてなり、その先端には上記インナーシリンダ内周に摺接する図示しないピストンが保持される。
【0019】
そして、上記複数のオイルシール3,4,5は、上記ロッドガイドの車体側(図1中上側)にロッド2の軸方向に沿って3個積層されてオイルシール組立体を構成し、このオイルシール組立体は、シリンダの車体側端部10とロッドガイドとの間に挟持されシリンダ1に固定される。
【0020】
上記各オイルシール3,4,5は、上記シリンダ1に固定される環状のインサート部材30,40,50と、このインサート部材30,40,50の内周側端部に連設されてシリンダ側(図1中下側)に向けて斜めに伸びるオイルシールリップ31,41,51とをそれぞれ備える。
【0021】
そして、各オイルシールリップ31,41,51のシリンダ側端部(図1中下端部)内周には、尖端がロッド2外周に摺接するオイルリップ部31a,41a,51aがそれぞれ形成される。
【0022】
また、上記各オイルシールリップ31,41,51の外周には、上記各オイルリップ部31a,41a,51aと対応する位置に環状の第一溝31b,41b,51bがそれぞれ形成され、これらの第一溝31b,41b,51bは、同一形状を有する。
【0023】
そして、最もシリンダ1の内側、即ち、ロッドガイドの直上部に積層され図1中最も下側に配置される内側オイルシール3のオイルシールリップ31は、そのオイルリップ部31aよりもインサート部材30側内周に上記第一溝31b,41b,51bの形状と符合する突起31cを有する。
【0024】
また、上記オイルシールリップ31の外周には、上記突起31cと対応する位置に第二溝31dが形成され、上記各溝31b,31dにはバックアップリングR1,R2がそれぞれ係合する。
【0025】
また、上記内側オイルシール3は、そのインサート部材30の図1中下面に吊設されるチェックシール32と、上記インサート部材30の外周部に設けられる外周シール33とを備える。
【0026】
そして、上記チェックシール32は、オイルシール3,4,5で掻き落とした作動流体が図示しないロッドガイドに形成された連通孔を介してリザーバに移動することをのみを許容し、逆方向への作動流体の移動を阻止する。
【0027】
また、上記外周シール33は、シリンダ1とロッドガイドとの隙間をシールし、シリンダ1内に収容される作動流体がロッドガイド外周から作動流体がシリンダ1外に漏れることを防止する。
【0028】
上記内側オイルシール3の図1中直上部に積層される中間オイルシール4のオイルシールリップ41は、そのオイルリップ部41aよりもインサート部材40側内周に上記第一溝31b,41b,51bの形状と符合する突起41cを有する。
【0029】
また、上記オイルシールリップ41外周には、上記突起41cと対応する位置に第二溝41dが形成され、この第二溝41dにはバックアップリングR3が係合する。
【0030】
そして、中間オイルシール4の第一溝41bに内側オイルシール3の突起31cが係合し、中間オイルシール4のオイルシールリップ41の締付性は、内側オイルシール3の第二溝31dに係合するバックアップリングR2によって確保される。
【0031】
また、上記中間オイルシール4のインサート部材40の内周部シリンダ側(図1中下側)には、上記突起41cと対応する位置に環状の切り欠き42が形成されてなり、この切り欠き42とオイルシールリップ41外周との間に空間43が形成され、上記インサート部材40には、軸方向に貫通して上記空間43と連通する中間通気孔44が形成される。
【0032】
そして、上記中間オイルシール4の直上部に積層されて、最もシリンダ1の外側に配置される外側オイルシール5は、上記オイルシールリップ51と、インサート部材50の内周側端部から反シリンダ側(図1中上側)に斜めに配置されるダストシールリップ52とを備え、このダストシールリップ52の反シリンダ側端部内周に形成されるダストリップ部52aがロッド2に摺接する。
【0033】
そして、外側オイルシール5の第一溝51bに中間オイルシール4の突起41cが係合し、外側オイルシール5のオイルシールリップ51の締付性は、中間オイルシール4の第二溝42dに係合するバックアップリングR3によって確保される。
【0034】
また、上記ダストシールリップ52は、緩衝器Aの外側に露出して外周に異物が付着したロッド2がシリンダ1内に進入するとき、ダストリップ部52aで上記異物を掻き落としてオイルシールリップ3,4,5が損傷することを防止するものである。
【0035】
また、上記外側オイルシール5のインサート部材50には、軸方向に貫通して上記中間通気孔44と連通する外側通気孔53が形成されてなり、上記空間43は、これら両通気孔44,53を介して緩衝器Aの外側と連通する。
【0036】
つまり、本実施の形態に係る緩衝器Aは、オイルシールを複数備え(3,4,5)、これらのオイルシール3,4,5でそれぞれロッド2外周をシールすることから、性質の異なるオイルシール3,4,5を組み合わせることが可能となり、従来よりも性能のバリエーションを増やすことが容易に可能となる。
【0037】
例えば、ひとつのオイルシールを低温時にもシール性を発揮することが可能な低温耐性オイルシールとし、他のオイルシールを高温時にもシール性を発揮することが可能な高温耐性オイルシールとすることにより、オイルシールリップを形成する弾性体の材料開発をすることなく従来よりも広範囲の温度環境でシール性を発揮することが可能となる。
【0038】
また、本実施の形態において、各オイルシール3,4,5のオイルシールリップ31,41,51外周に第一溝31b,41b,51bが形成され、内側オイルシール3及び中間オイルシール4のオイルシールリップ31,41内周に突起31c,41cが形成される。
【0039】
したがって、外側オイルシール5の第一溝51bに中間オイルシール4の突起41cを、中間オイルシール4の第一溝41bに内側オイルシール3の突起41cを係合し、各オイルシール3,4,5を容易に組み立てることが可能となる。
【0040】
また、上記突起31c,41cと対応するオイルシールリップ31,41外周に第二溝31d,41dが形成されることから、これら第二溝31d,41dにバックアップリングR2,R3をそれぞれ係合して、中間オイルシール4および外側オイルシール5の各オイルシールリップ41,51の締付性を確保することが容易に可能となる。
【0041】
尚、内側オイルシール3のオイルシールリップ31の締付性は、内側オイルシール3の第一溝31bに係合するバックアップリングR1で確保することが可能となる。
【0042】
また、本実施の形態において、中間通気孔44と外側通気孔53とを有することにより、空間43内の気体を緩衝器Aの外側に両通気孔44,53を介して逃がすことが可能となる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱することなく改造、変形及び変更を行うことができることは理解すべきである。
【0044】
例えば、上記実施の形態において、3個のオイルシール3,4,5を重ね合わせるとしたが、この限りではなく、中間オイルシール4を2個以上設けて4個以上のオイルシール3,4,4,・・・,5を重ね合わせるとしても、中間オイルシール4を設けず、2個のオイルシール3,5を重ね合わせるとしても良い。
【0045】
また、上記実施の形態において、中間オイルシール4のオイルシールリップ41外周に第二溝41bを形成し、オイルシールリップ41と切り欠き42との間に空間43を形成するとしたがこの限りではなく、オイルシールリップ51の締付性を確保し得る限りにおいて、上記空間43を上記オイルシールリップ41を形成する弾性体で埋めるとしても良い。
【0046】
この場合においては、中間オイルシール4及び外側オイルシール4に中間通気孔44及び外側通気孔53を設ける必要がない。
【0047】
また、上記実施の形態において、各オイルシールリップ31,41,51の外周のうち、各オイルリップ部31a,41a,51aと対応する位置として、シリンダ1の軸に垂直であり、且つ、各オイルリップ部31a,41a,51aの尖端を通る平面上となる位置を採用したが、厳密に各オイルリップ部31a,41a,51aの尖端を通る平面上となる位置でなくても良い。
【0048】
また、上記実施の形態において、内側及び中間オイルシール3,4の各オイルシールリップ31,41の外周のうち、各突起31c,41cと対応する位置として、シリンダ1の軸に垂直であり、且つ、各突起31c,41cを通る平面上となる位置を採用したが、厳密に各突起31c,41cを通る位置でなくても良い。
【符号の説明】
【0049】
A 緩衝器
R,R1,R2,R3 バックアップリング
1 シリンダ
2 ロッド
3,4,5 オイルシール
30,40,50 インサート部材
31,51,51 オイルシールリップ
31a,41a,51a オイルリップ部
31b,41b,51b 第一溝
31c,41c 突起
31d,41d 第二溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体を収容するシリンダと、このシリンダ内に軸方向に移動可能に挿入されるロッドと、環状に形成されて上記ロッド外周に摺接し上記シリンダの開口側端部に取り付けられるオイルシールとを備える緩衝器において、
上記オイルシールを複数備え、これら複数のオイルシールは、上記ロッドの軸方向に沿って重ね合わせて配置され、組立可能に構成されていることを特徴とする緩衝器。
【請求項2】
上記複数のオイルシールは、最も上記シリンダの内側に配置される内側オイルシールと、最も上記シリンダの外側に配置される外側オイルシールと、上記内側オイルシールと上記外側オイルシールとの間に配置される一または複数の中間オイルシールとからなり、
上記各オイルシールは、上記シリンダに固定される環状のインサート部材と、このインサート部材の内周側端部に連設されてシリンダ側に向けて斜めに伸びるオイルシールリップとをそれぞれ備え、各オイルシールリップは、シリンダ側端部内周に形成されて上記ロッドに摺接するオイルリップ部と、このオイルリップ部と対応する外周に形成される環状の第一溝とを有し、
上記内側オイルシール及び上記中間オイルシールは、それぞれのオイルシールリップの内周に上記各第一溝の形状と符合する突起をそれぞれ有することを特徴とする請求項1に記載の緩衝器。
【請求項3】
上記内側オイルシールは、この内側オイルシールの上記突起と対応する上記オイルシールリップの外周に第二溝を有し、
上記中間オイルシールは、そのインサート部材の内周部シリンダ側に形成される環状の切り欠と、上記中間オイルシールの上記突起と対応する上記オイルシールリップの外周に形成される第二溝とを有し、この第二溝が上記切り欠きと対向することを特徴とする請求項2に記載の緩衝器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−202481(P2012−202481A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67666(P2011−67666)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】