説明

緩衝溶液カートリッジを滅菌および保持する方法およびデバイス

基部を備えるトレイは、スロット内に緩衝剤または他の医療用溶液容器を受容するように適合される複数の軸方向スロットを有する。スロットの底面におけるバネまたは他の圧縮要素は、スロット内に存在するとき、溶液容器の底面におけるプランジャと係合するように構成されることによって、内容物を安定化させる一方、容器が高温で滅菌されるように圧力が容器の内容物に印加される。本発明の第1の側面では、医療用溶液によって充填された、密閉された容器は、例えば、医療用溶液によって充填されたカートリッジ内のゴムストッパまたはプランジャに対して力を付与することによって容器内の溶液に力が印加される様態において、熱滅菌される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(1.発明の分野)本発明は、概して、医療用緩衝剤および他の溶液を滅菌する方法および装置に関する。より具体的には、本発明は、熱滅菌を受ける間、圧力下において医療用緩衝剤および溶液を保持する方法およびデバイスに関する。
【0002】
緩衝剤溶液は、緩衝剤溶液のpHに接触する他の溶液のpHを変化させる傾向にある溶液である。医療用緩衝剤溶液は、多くの場合、重炭酸イオンを含有し、解毒剤、透析液、体内交換流体、体内灌流溶液、心臓灌流液を含む、多数の医療用用途、および多くの他の目的のために使用される。最も一般的に使用される医療用重炭酸塩緩衝剤溶液の1つは、水と混合された重炭酸ナトリウム(NaHCO)から成り、とりわけ、注射に先立って、注射剤をより生理的なpHに緩衝するために使用可能である。この用途の特に着目すべきことは、重炭酸塩溶液を使用して、酸性局所麻酔注射を緩衝することによって、麻酔の有効性が向上され得ること、注射痛が軽減され得ること、および組織外傷が制限され得ることである。局所麻酔を緩衝するための重炭酸ナトリウムの使用、ならびに酸血症の処理を含むが、それに限定されない他の医療用使用のために、重炭酸ナトリウム溶液を特定の既知のpHまたはその近傍に精密に維持することが望ましい。既知のpHを有する緩衝剤溶液の使用によって、医療施術者は、緩衝剤溶液の所定の比率を非経口溶液と混合することによって、非経口溶液の結果として生じるpHの制御を達成し、pHが制御されない場合の非経口溶液の使用に勝る有意な効果を有する。
【0003】
実施例として、8.4%重炭酸ナトリウム緩衝剤溶液を2%リドカインとエピネフリン1:100,000の市販のカートリッジと化合すると、緩衝剤溶液のpHは、ほぼ例外なく、市販の麻酔剤カートリッジのpHの組み合わせのpHを駆動させ、比較的小体積の緩衝剤溶液が、組み合わされた溶液のpHに不相応に大きい影響を及ぼす傾向にある。したがって、局所麻酔剤に添加するための緩衝剤溶液の量を把握および制御することに加えて、予測可能なpHを有する非経口溶液を達成するために、緩衝剤溶液のpHが精密に既知化および制御されることが重要である。添加される緩衝剤溶液のpHおよび添加される緩衝剤の量が、両方とも既知であるときのみ、施術者は、緩衝される麻酔剤の結果として生じるpHを把握および制御することが可能となる。
【0004】
商用に生産された重炭酸ナトリウム緩衝剤は、精密に制御されたpHを有する緩衝剤パッケージを提供しない。例えば、発明者らによって行われた市販の重炭酸ナトリウム溶液のアッセイでは、いくつかの商用に取得された重炭酸塩緩衝剤カートリッジにおいて、7.62乃至8.26のpH範囲を示した。市場で利用可能な製品の実際の範囲は、この小規模アッセイにおいて識別された範囲よりもさらに広範であると想定される。
【0005】
本文脈においては、7.6の実際のpHを有する医療用緩衝剤は、8.3の実際のpHを有する医療用緩衝剤と有意に異なって機能し得ることが認知されなければならない。これは、医療用緩衝剤が、例えば、酸血症の処置において、体液のpHを緩衝するために設計されているのか、または医療用緩衝剤が、その使用に先立って、非経口溶液のpHを緩衝するために設計されているかどうかに該当する。施術者が、重炭酸ナトリウム溶液を使用して、麻酔剤を緩衝し、生理的pHを達成する実施例では、緩衝剤溶液と麻酔剤溶液の比率は、重炭酸塩溶液のpHが8.3であるときと比較して、pHが7.6であるときと非常に異なるであろう。したがって、緩衝溶液と非経口溶液との同一比率の添加(緩衝剤の実際のpHに関わらず)に依存する、緩衝溶液を非経口溶液と組み合わせる先行技術方法は、緩衝される非経口剤のための所望のpHに一貫して到達することはないであろう。
【0006】
複数の等しい緩衝剤カートリッジまたは他の容器内において、医療用緩衝剤および他の医療用溶液のpHを精密に制御された値に調節する方法ならびにシステムは、2010年4月23日出願の同時係属中の出願第12/766,259号(代理人整理番号第027239−000600US号)に説明されており、全開示は、参照することによって本明細書に組み込まれる。この出願は、個々の容器内の溶液のpHが、開放されている間、それらの容器を制御温度、湿度、圧力、および二酸化炭素レベルを有する環境に露出することによって、調節可能であることを教示する。pHが、標的pHと平衡化された後、カートリッジは、カートリッジ内にヘッドスペースを残留させることなく、密閉可能である。カートリッジが密閉されると、精密に制御され、等しいpH値を有するカートリッジの在庫品が作成可能となる。しかしながら、容器およびその内容物を滅菌する必要性は、カートリッジの内容物に悪影響を及ぼす可能性がある。滅菌は、一般的には、高温で行われ、緩衝剤または他の医療用溶液を沸騰させ、密閉を損なわせるか、または別様に、溶液および容器に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
これらの理由から、カートリッジおよび同様にパッケージ化された緩衝剤溶液を滅菌して、沸騰および熱滅菌の間に生じ得る他の有害な変化を防止する方法ならびに装置を提供することが望ましいであろう。特に、後の緩衝剤の保管および出荷にも好適であるトレイまたは他の容器内にパッケージを保持しながら、複数の緩衝剤または他の医療用溶液パッケージを同時に滅菌可能であることが望ましいであろう。これらの目的のうちの少なくともいくつかは、後述の本発明によって満たされるであろう。
【背景技術】
【0008】
(2.背景技術の記述)医療用溶液を保存するためのガラス製バイアルおよびカートリッジは、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、および特許文献9に説明されている。薬物カートリッジを採用する注射ペンは、特許文献10に説明されている。本発明による、緩衝剤溶液が装填され得る、例示的な使い捨て薬物カートリッジは、特許文献11および共同所有の同時係属中の出願第US2009/0292271号(USSN12/406,670)に説明されており、両方とも、参照することによって本明細書に組み込まれる。輸送針を使用して、緩衝剤を麻酔剤カートリッジ内に送達するためのデバイスは、特許文献11に説明されている。溶解されたガスをパウチ内の溶液中に維持するためのデバイスは、特許文献12、特許文献13、および特許文献14、ならびに特許文献15に説明されている。他の着目特許および出願として、特許文献16、特許文献17、特許文献18、特許文献19、特許文献20、特許文献21、特許文献22、特許文献23、特許文献24、特許文献11、特許文献25、特許文献26、および特許文献27が挙げられる。重炭酸ナトリウム溶液の広範囲に異なる比率を有する緩衝麻酔剤について説明する文献刊行物として、非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12;および非特許文献13が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第1,757,809号明細書
【特許文献2】米国特許第2,484,657号明細書
【特許文献3】米国特許第4,259,956号明細書
【特許文献4】米国特許第5,062,832号明細書
【特許文献5】米国特許第5,137,528号明細書
【特許文献6】米国特許第5,149,320号明細書
【特許文献7】米国特許第5,226,901号明細書
【特許文献8】米国特許第5,330,426号明細書
【特許文献9】米国特許第6,022,337号明細書
【特許文献10】米国特許第5,984,906号明細書
【特許文献11】米国特許第5,603,695号明細書
【特許文献12】米国特許第5,690,215号明細書
【特許文献13】米国特許第5,610,170号明細書
【特許文献14】米国特許第4,513,015号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2007/0265593号明細書
【特許文献16】米国特許第2,604,095号明細書
【特許文献17】米国特許第3,993,791号明細書
【特許文献18】米国特許第4,154,820号明細書
【特許文献19】米国特許第4,630,727号明細書
【特許文献20】米国特許第4,654,204号明細書
【特許文献21】米国特許第4,756,838号明細書
【特許文献22】米国特許第4,959,175号明細書
【特許文献23】米国特許第5,296,242号明細書
【特許文献24】米国特許第5,383,324号明細書
【特許文献25】米国特許第5,609,838号明細書
【特許文献26】米国特許第5,779,357号明細書
【特許文献27】米国特許出願公開第2004/0175437号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ridenauer et al.、Anesth Prog、vol.48、p.9−15(2000)
【非特許文献2】Palmon et al.、Anesth Analg、vol.86,pp.379−81(1998)
【非特許文献3】Metzinger et al.、Southern Med J、vol.87、no.2(1994)
【非特許文献4】Nelson、Contracept、vol.55、p.299(1995)
【非特許文献5】Samdal、Scand J Plast and Recons Surg and Hand Surg、vol.28、p.33−37(1993)
【非特許文献6】Master、Br.J Plast Surg、vol.51、p.385(1998)
【非特許文献7】Difazio et al.、Anesth Analg、vol.65、p.760(1986)
【非特許文献8】Fitton et al.、Br.J Plast Surg、vol.49、pp.404−08(1996)
【非特許文献9】Peterfreund et al.、Region Anesth、vol.14、no.6、p.265(1989)
【非特許文献10】Momsen et al.、Ugeskr Laeger、vol.162、no.33、p.4391(2000)
【非特許文献11】Schwab et al.、Am J Emerg Med、vol.no.3、(1996)
【非特許文献12】McGlone et al.、Arch Emerg Med、vol.7、pp.65−68(1990)
【非特許文献13】Sapin P et al.、Catheterization and Cardio Diag、vol.23、pp.100−102(1991)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、緩衝剤溶液等の注入可能医療用溶液を保持するカートリッジおよびカープル等の医療用溶液容器を滅菌、輸送、および保管する方法ならびに装置を提供する。緩衝剤および他の医療用溶液は、多くの場合、不安定であって、滅菌において使用される高温での沸騰の危険がある。特に、重炭酸ナトリウム緩衝剤溶液は、二酸化炭素(CO)の溶液からの発生を受け、遊離したCOの全部が、冷却時に溶液に戻らない場合、緩衝剤のpHに影響を及ぼす可能性がある。以下の開示は、特に、飽和近傍において可逆平衡を有する塩を有する重炭酸ナトリウム緩衝剤および他の医療用溶液を滅菌するための方法および装置を対象とするが、本発明は、カートリッジ内において高温で滅菌されると、沸騰または部分的蒸発を受ける容器またはカープル内に保持される任意の医療用溶液まで拡大される。
【0012】
本発明は、特に、その上端に針穿刺可能膜と、その底端に変位可能プランジャとを有する小型のガラスまたはプラスチック製バイアルを備えるカープルと称される場合がある小型の医療用カートリッジを滅菌および保管することが意図される。そのようなカートリッジは、注射器または他の送達システム内に載置され、針が、隔壁を穿刺し、緩衝剤または他の内容物にアクセスし、システムのシャフトがプランジャを前進させ、溶液を針を通して送達可能である。本発明によって調製される緩衝剤によって、麻酔剤カートリッジを緩衝することに有用な投薬ペンシステムは、2009年3月18日出願の同時係属中の出願番号第12/406,670号に説明されており、全開示は、参照することによって本明細書に組み込まれる。
【0013】
医療用重炭酸塩緩衝剤溶液は、水素イオン(H)と重炭酸イオン(HCO)とに解離される炭酸(HCO)を形成する二酸化炭素(CO)と水の組み合わせに依存する緩衝剤である。リドカイン、アルチカイン、プリロカイン、およびメピバカイン等の局所麻酔剤を含む医療用溶液を緩衝するためのそのような重炭酸塩溶液の使用において、重炭酸塩溶液の量および使用される重炭酸塩溶液のpHの両方が、2つの溶液が組み合わされた後の医療用溶液のpHの決定因子である。異なる見方をすると、医療用溶液を特定の標的pHに安定化させるために必要とされる緩衝溶液の量は、緩衝溶液自体のpHに左右されるであろう。したがって、緩衝溶液の実際のpHがその公称pHから有意に異なるとき、ある測定された体積の緩衝溶液は、医療用溶液のpHを標的pHに調節するために依存されることは不可能であって、緩衝される医療用溶液の安定化されたpHは、標的値から有意に異ならせるであろう。したがって、緩衝溶液のカートリッジの滅菌から生じる緩衝溶液のpHのいかなる不確実性または変化も、緩衝剤と組み合わせるときの麻酔剤のpHに有意に影響を及ぼし、医師が、患者に送達される麻酔剤の緩衝されたpHを精密に制御することを非常に困難にする可能性がある。
【0014】
本発明は、熱滅菌の間、カートリッジ内に密閉された緩衝剤または他の医療用溶液のpHを安定化可能である方法および装置を提供する。特に、本発明は、滅菌の間、沸騰を抑制または防止するために十分なレベルに溶液の圧力を上昇させるために、容器内の医療用溶液に外圧(大気圧超)を印加することが可能な方法および保持または保管トレイを提供する。重炭酸塩溶液の沸騰が防止される場合には、一定の二酸化炭素の気泡が、一時的に発生または形成され得るが、本発明は、不可逆的な二酸化炭素気泡形成、すなわち、熱滅菌後、溶液の冷却の際に、溶液に戻らない気泡の形成を防止するであろう。圧力を印加し、不可逆的な気泡形成を防止することによって、医療用溶液のpHの有害な変化を防止可能であることが見出された。
【0015】
驚くべきことに、発明者らはさらに、高過ぎる(閾値上限または上限値超)圧力を印加することは、緩衝剤または他の医療用溶液中に不可逆的塩の結晶化をもたらし、溶液を使用不可能にする可能性があることを発見した。本発明の例示的な重炭酸ナトリウム緩衝剤の場合、閾値上限を上回って印加される圧力は、不可逆的な様態において、緩衝塩を結晶化させ、したがって、非経口溶液を緩衝するため、および多くの他の医療用目的に対して、溶液を不適格にする沈殿物となることが見出された。
【0016】
本発明の第1の側面では、医療用溶液によって充填された、密閉された容器は、例えば、医療用溶液によって充填されたカートリッジ内のゴムストッパまたはプランジャに対して力を付与することによって容器内の溶液に力が印加される様態において、熱滅菌される。容器は、容器および医療用溶液を滅菌するために十分な高温に露出される。ストッパに印加される力は、医療用溶液中に含有される水の沸騰を抑制するだけではなく、溶液からの水以外の蒸気(例えば、二酸化炭素ガス)の発生を抑制するために十分な圧力を溶液中に生成する。「溶液からの水以外の蒸気の発生を抑制するために十分な」とは、圧力によって、溶液が高い滅菌温度に保持される間、溶液中におけるそのような蒸気泡の不可逆的な形成を防止することを意味する。ある場合には、小蒸気泡が、一時的に産生され得るが、そのような蒸気泡は、冷却時に急速に消失し、かつそのような小蒸気泡の発生は、医療用溶液のpHまたは他の望ましい特色に悪影響を及ぼさないであろう。本蒸気形成を防止する外圧は、容器またはその密閉を損傷させ得る、流体の熱膨張を防止するほど高くあるべきではない。また、重要なこととして、外圧は、溶液の圧力が限界を超える場合、医療用溶液中の緩衝剤または他の種の結晶化が生じる可能性がある上限値を下回って維持されなければならない。
【0017】
本方法は、特に、医療用緩衝剤を滅菌するため、より具体的には、重炭酸ナトリウム緩衝剤を滅菌するために有用である。そのような重炭酸塩緩衝剤の場合、滅菌温度は、通常、100°C乃至140°Cの範囲内であって、熱滅菌前、間、および後の内圧は、0.7kPa(14.7psig)乃至8.3kPa(175psig)の範囲内であろう。この範囲内の圧力下に保持される容器は、通常、3分乃至60分に及ぶ持続時間の間、熱滅菌器の高温に曝露され、時間が長いほど、概して、より低い滅菌温度で使用される。
【0018】
具体的実施形態では、滅菌される容器は、医療用溶液によって充填された開放内部、針穿刺可能膜、およびプランジャを有するカートリッジであろう。溶液上の圧力は、プランジャに対して、コイルまたは他のバネ等の圧縮部材を係合させることによって、印加され得る。いくつかの実施形態では、容器は、該容器がトレイ内に載置されると、プランジャと係合し、圧力を印加するように配設される複数のバネまたは他の圧縮部材を有するトレイ内に保持される。通常、トレイは、スロットの一端にバネを有する複数のスロットを含む。保持具は、一般的には、蒸気滅菌プロセス前後において所望の高圧を達成するために十分な所望の力(バネ定数、バネが圧縮される程度、およびプランジャの面積に依存する)によって、容器内でプランジャを押動または圧縮させるために、スロット内の容器の上部を保持するように使用される。滅菌プロセス自体の間、バネの特性は、バネが、流体の熱膨張を吸収可能であるようなものでなければならなず、吸収されない場合、容器は、粉砕し得る。重要なこととして、バネはまた、溶液の熱膨張を吸収し、拡張を防止するために十分に軟性でなければならない。
【0019】
本発明の第2の側面において、トレイは、複数の整列したスロットを有する基部を備える。各スロットは、緩衝剤等の医療用溶液を保持する容器を受容するように配設される。バネ等の圧縮部材は、各スロットの底面に配置され、容器がスロット内に保持されると、医療用溶液容器の底面上のプランジャと係合するように配向される。保持具は、各スロットの上部に配置され、容器の上部に係合し、容器をスロット内に軸方向に設置するように設置されることによって、容器上のプランジャは、容器が、溶液を滅菌するために十分な高温に曝露されると、医療用溶液の圧力を溶液内の蒸気の発生を抑制するレベルまで上昇させるために十分な力(バネまたは他の圧縮部材の圧縮の程度によって決定される)によって、スロットの底面における圧縮部材に対して保持される。
【0020】
トレイは、一般的には、容器を滅菌するだけではなく、容器を出荷および保管するためにも使用されるであろう。したがって、本発明は、その中に複数の容器を有するトレイをさらに備え、容器は各々、トレイ内に保持されている間に滅菌される医療用溶液を含有する。一般的には、容器の各々の中の医療用溶液は、同等の特性を有する同じものであろう。例えば、容器は各々、容器の各々の中に同一または略同一のpHおよび他の特性を有する重炭酸ナトリウム緩衝剤を含有してもよい。
【0021】
トレイが、医療用緩衝剤、特に、重炭酸ナトリウム緩衝剤を有する容器を保持するように意図されるとき、圧縮部材は、容器がスロット内に保持されると、圧力を少なくとも0.7kPa(14.7psig)まで上昇させるように構成され、一般的には、熱滅菌の間、0.7kPa乃至8.3kPa(175psig)の範囲内の値まで圧力を上昇させるであろう。例示的実施形態では、圧縮部材は、1.1Nm乃至11Nmの範囲内のバネ定数を有する軸方向圧縮バネ、一般的には、コイルバネであって、保持具は、プランジャが20mmの面積を有するとき0.5mm乃至5mmの範囲内の距離だけ、バネを圧縮するように設置される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、本発明の原理に従って構築される、滅菌および保管トレイの斜視図である。
【図2】図2は、1つの容器が除去され、1つの容器が部分的にスロット内に挿入され、2つの容器が完全にそのスロット内に挿入されて示される、図1の保管および滅菌トレイの正面図である。
【図3】図3は、pH平衡化チャンバ内に載置される、キャップが除去されたカートリッジを担体に載置することによって、pH安定化緩衝剤カートリッジを調製するための方法を例証する。
【図4】図4は、本発明の原理に従って、加圧滅菌器内で滅菌される、複数の保管および滅菌トレイを例証する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1および2を参照すると、本発明の原理に従って構築される、保管および滅菌トレイ80は、複数の軸方向スロット86を画定する基部84を備え、各スロットは、底端にコイルバネ82等の圧縮部材と、上端に取外し可能な保持具90とを有する。保持具90は、図2から最も良く分かるように、各軸方向スロットの上部に、開口部92内に取外し可能に受容される。単一の容器10は、開口部92を通して容器を下方に通過させることにより、各スロット86内に受容されることによって、図2に見られるように、容器の底面における可動プランジャ24はバネ82と係合する。特に、カートリッジ10が、軸方向スロット86内に挿入されることによって、プランジャ24が、最初に、バネの上部83と係合し、次いで、トレイ80の2つの中間のスロットに示されるように、バネを部分的に圧縮する。カートリッジ10が完全に挿入されると、保持具90が、開口部92内に戻され、カートリッジの位置を適切に維持することが可能であることによって、バネは、図2におけるトレイ80の2つの右側スロットに示されるように、カートリッジ24の内容物に対して所望の圧縮力を印加するように圧縮されたままである。バネは、完全には圧縮されず、それによって、熱滅菌の間に熱膨張を生じさせることによって、熱膨張が、容器を破裂させるか、または溶液の構成成分の結晶化を生じさせるために十分な圧力を生成しない。
【0024】
次に、図3を参照すると、トレイ80は、特に、同時係属中の出願番号第12/766,259号に詳述され、全開示が前述において参照することによって本明細書に組み込まれるように、重炭酸塩緩衝剤によって充填され、次いで、正確かつ再現可能なpHに安定化される緩衝剤カートリッジ10を滅菌することに有用である。初めに、個々の緩衝剤容器10が、含水重炭酸塩緩衝剤Bによって充填され、メニスカスM近傍に定められる。一般的には、導入される緩衝剤Bの体積は、緩衝剤の上表面またはメニスカスMが、小径頸部16の下方に位置することによって、メニスカスMが、頸部内に存在する場合に有するものより大きい面積を有するように選択される。このより大きい面積によって、緩衝剤内の炭酸は、面積が縮小される場合よりも迅速に、チャンバ40内の雰囲気中の二酸化炭素との平衡に到達可能である。次いで、容器10は、一般的には、担体上に載置後に、処理チャンバ40内に導入される。容器10は、支持部50上に装填された後に、前述の条件下において数時間の間、二酸化炭素ガスが継続的に補充される二酸化炭素環境と平衡化されたまま放置される。容器内の緩衝剤が、処理チャンバ40内の二酸化炭素と平衡化するために十分な時間が経過後に、容器が除去され、プランジャ24が前進させられて、緩衝剤のレベルが、頸部16における開口部18まで上昇させられる。次いで、キャップ20が、殆どまたは全くヘッドスペースを残さずに頸部16の上に載置され、次いで、個々の密閉された容器10は、バネ82がプランジャ24に対して係合されて、緩衝剤を加圧し、緩衝剤溶液からの二酸化炭素ガスの発生を抑制可能な貯蔵トレイ80内に載置される。そのような発生を制限することによって、緩衝剤のpHが、より安定して維持されるであろう。処理トレイ80はまた、後述のように、容器を高圧蒸気殺菌し、滅菌性を保証することに好適である。次いで、容器は、トレイ80内に貯蔵および分散されてもよく、または別個の容器内に貯蔵および分散されてもよい。
【0025】
図4を参照すると、滅菌は、100°C乃至150°Cの範囲内の温度において、その中のトレイ80およびカートリッジ10を過熱蒸気に曝露するように設計された加圧滅菌器100内で行うことが可能である。加圧滅菌器は、一般的には、取水し、加熱器102に水を通過させ、加圧滅菌器100のチャンバ内に蒸気を放出する。蒸気および/または凝縮水は、上方弁または下方弁104を通して除去され、加圧滅菌器100内に所望の圧力と、該当する場合、温度を維持することが可能である。好適な加圧滅菌器は、Steris Corp.,Mentor,Ohio 44060から市販のAMSCO Eagle Model 3000 SL Sterilizer等の多くの商用部品製造業者から入手可能である。トレイ80は、通常、加圧滅菌器100内の棚106上に積層され、本願において前述のように、滅菌時間の間、高温および高圧に保持される。常時、バネ82は、結晶化をもたらすことなく、蒸発を抑制するが、熱膨張を可能にするために、前述と同様の範囲内の高圧を容器内の緩衝剤または他の医療用溶液に印加するであろう。処理時間後、加圧滅菌器への蒸気は、オフにされ、温度は、周囲温度に戻るであろう。トレイ80が、加圧滅菌器100から除去されるとき、個々の容器10内の緩衝剤または他の医療用溶液は、pHが安定化されているであろう。通常、カートリッジ10は、保管、出荷、および在庫のためにトレイ80内に維持され、さらに、容器または医療用溶液内容物の損傷あるいは劣化の危険性を低減させ得る。
【0026】
前述は、本発明の好ましい実施形態の完全な説明であるが、種々の代替、修正、および均等物が使用されてもよい。したがって、前述の説明は、添付の請求項によって定義される発明の範囲を限定するものとして捉えられるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用溶液によって充填された容器を滅菌する方法であって、該医療用溶液は、加熱されると蒸気を発生し、該方法は、
該医療用溶液によって充填された、密閉された容器を提供することと、
大気圧を上回る圧力を該密閉された容器内の該医療用溶液に印加することと、
該容器内の該医療用溶液を滅菌するために十分な高い温度に該容器を露出することであって、該温度は、大気圧において蒸気を発生させるために十分であろう、ことと
を含み、該印加される圧力は、緩衝剤を沈殿させることなく、該容器内における蒸気の発生を抑制するために十分である、方法。
【請求項2】
前記印加される圧力が、滅菌の間、前記溶液の熱膨張を可能にすることにより、該溶液は、該溶液の構成成分の固体状態への変換を生じさせるために十分な圧力を達成しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記緩衝剤は、重炭酸ナトリウムであり、滅菌温度は、100°C乃至150°Cの範囲内にあり、高圧蒸気殺菌法の前、間、および後に該緩衝剤に印加される圧力は、少なくとも0.7kPa(14.7psig)であるが、8.3kPa(175psig)以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記容器は、3分乃至60分の範囲内の時間の間、前記高温に露出され、圧力が印加される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記容器は、前記医療用溶液によって充填された開放内部と、針穿刺可能膜と、プランジャとを有し、前記圧力は、圧縮部材を該プランジャに対して係合させることによって印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
複数の容器は、トレイ内に保持され、該トレイは、前記プランジャと係合して前記圧力を印加するように配設される複数のバネを有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
滅菌および保管のために、複数の医療用溶液カートリッジを保持するトレイであって、該トレイは、
複数の整列したスロットを有する基部であって、各スロットは単一の容器を受容するように配設される、基部と、
各スロットの底面に配置される圧縮部材であって、該容器が該スロット内にあるとき、該容器の底面上のプランジャと係合するように配向される圧縮部材と、
各スロットの上部に配置される保持具であって、該保持具は、該容器の上部と係合するように設置されて、該容器を該スロット内に軸方向に設置し、それにより、該容器が該溶液を滅菌するために十分な高温に露出されるときに、該溶液内における蒸気の発生を抑制するために十分に該容器内の該医療用溶液の圧力を上昇させるために十分な力によって、該容器上の該プランジャが、該スロットの底面における該圧縮部材に対して保持される、保持具と
を備える、トレイ。
【請求項8】
複数の容器をさらに備え、各容器は、スロット内に設置される、請求項6に記載のトレイ。
【請求項9】
前記医療用溶液は、緩衝剤を備える、請求項7に記載のトレイ。
【請求項10】
前記緩衝剤は、重炭酸ナトリウムである、請求項8に記載のトレイ。
【請求項11】
前記圧縮部材は、少なくとも0.7kPaまで圧力を上昇させる、請求項9に記載のトレイ。
【請求項12】
前記圧力は、0.7kPa(14.7psig)乃至8.3kPa(175psig)の範囲内にある、請求項10に記載のトレイ。
【請求項13】
前記プランジャは、約20mmの面積を有し、圧縮部材は、1.1Nm(10lb/in)乃至11Nm(100lb/in)の範囲内のバネ定数を有するコイルバネであって、前記保持具は、0.5mm乃至5mmの範囲内の距離だけ該バネを圧縮するように前記容器を設置する、請求項12に記載のトレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−532701(P2012−532701A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519787(P2012−519787)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/041601
【国際公開番号】WO2011/006122
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510307842)オンファーマ, インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】