説明

緩衝装置

【課題】ピストン速度が非常に高速となっても車両における乗り心地を向上することができる緩衝装置を提供することである。
【解決手段】本発明における課題解決手段は、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画する隔壁部材2と、圧力室R3と、圧力室R3を伸側圧力室7と圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9を附勢するばね要素10を備えた緩衝装置Dにおいて、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3、伸側サブ減衰通路12および圧側サブ減衰通路13と、切換機構14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩衝装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の緩衝装置にあっては、車両の車体と車軸との間に介装されて、車体振動を抑制する目的で使用されており、たとえば、シリンダと、シリンダ内に摺動自在に挿入されシリンダ内をピストンロッド側の伸側室とピストン側の圧側室に区画するピストンと、ピストンに設けられた伸側室と圧側室を連通する第一流路と、ピストンロッドの先端から側部に開通して伸側室と圧側室を連通する第二流路と、第二流路の途中に接続される圧力室を備えてピストンロッドの先端に取付けられたハウジングと、圧力室内に摺動自在に挿入され圧力室を伸側圧力室と圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、フリーピストンを附勢するコイルばねとを備えて構成されている。すなわち、伸側圧力室は同じく第二流路を介して伸側室に連通されるとともに、圧側圧力室は第二流路を介して圧側室に連通されるようになっている。
【0003】
このように構成された緩衝装置は、圧力室がフリーピストンによって伸側圧力室と圧側圧力室とに区画されており、第二流路を介しては伸側室と圧側室とが直接的に連通されてはいないが、フリーピストンが移動すると伸側圧力室と圧側圧力室の容積比が変化し、フリーピストンの移動量に応じて圧力室内の流体が伸側室と圧側室へ出入りするため、見掛け上、伸側室と圧側室とが第二流路を介して連通されているが如くに振舞う。
【0004】
ここで、圧側室の圧力を基準として、緩衝装置の伸縮時における伸側室と圧側室との差圧をPとし、伸側室から流出する流体の流量をQとし、上記差圧Pと第一流路を通過する流体の流量Q1との関係である係数をC1とし、圧側室と伸側圧力室内の差圧をP1とし、差圧Pと差圧P1との差と伸側室から伸側圧力室内に流入する流体の流量Q2との関係である係数をC2とし、圧側室と圧側圧力室の差圧をP2とし、この差圧P2と圧側圧力室から圧側室に流出する流体の流量Q2との関係である係数をC3とし、フリーピストンの受圧面積である断面積をAとし、フリーピストンの圧力室に対する変位をXとし、コイルばねのばね定数をKとして、流量Qに対する差圧Pの伝達関数を求めると、式(1)が得られる。なお、式(1)中、sはラプラス演算子を示している。
【数1】

【0005】
さらに、上記式(1)で示された伝達関数中のラプラス演算子sにjωを代入して、周波数伝達関数G(jω)の絶対値を求めると、以下の式(2)が得られる。
【数2】

【0006】
上記各式から理解できるように、この緩衝装置における流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、図7のボード線図に示したように、Fa=K/{2・π・A・(C1+C2+C3)}とFb=K/{2・π・A・(C2+C3)}の2つの折れ点周波数を持ち、また、F<Faの領域においては、伝達ゲインは略C1となり、Fa≦F≦Fbの領域においてはC1からC1・(C2+C3)/(C1+C2+C3)まで漸減するように変化して、F>Fbの領域においては一定となる。すなわち、流量Qに対する差圧Pの伝達関数の周波数特性は、低周波数域では伝達ゲインが大きくなり、高周波数域では伝達ゲインが小さくなる。
【0007】
したがって、この緩衝装置では、図8中の減衰特性で示すように、低周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生し、他方、高周波数の振動の入力に対しては低い減衰力を発生することができるので、車両が旋回中等の入力振動周波数が低い場面においては高い減衰力を確実に発生可能であるとともに、車両が路面の凹凸を通過するような入力振動周波数が高い場面においては減衰力を低減して、車両における乗り心地を向上させることができる(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−215459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記した緩衝装置にあっては、上記した第二流路をオリフィスで絞っていることもあって、ピストン速度が非常に高速となって当該第二流路を通過しようとする流体の流量が大流量となる場合、減衰力の低減幅が小さくなる傾向にある。
【0010】
したがって、たとえば、車両が荒れた路面を走行する際に、上記したようなピストン速度が高速となる場合があるが、このような場合に、緩衝装置に入力される振動周波数が高くとも減衰力の低減効果があまり発揮されなくなるため、車両における乗り心地の向上が難しくなるという問題があり、改善が望まれている。
【0011】
そこで、本発明は上記した不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、ピストン速度が非常に高速となっても車両における乗り心地を向上することができる緩衝装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を解決するために、本発明における課題解決手段は、シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入され当該シリンダ内を伸側室と圧側室に区画する隔壁部材と、圧力室と、上記圧力室内に軸方向へ移動自在に挿入されて当該圧力室を伸側流路を介して上記伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して上記圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、当該フリーピストンを上記圧力室内で中立位置に位置決めて当該フリーピストンの中立位置からの変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、上記伸側室と上記圧側室とを連通する減衰通路と、上記伸側室から上記圧側室へ向かう流れのみを許容するとともに上記減衰通路に並列される伸側サブ減衰通路と、上記圧側室から上記伸側室へ向かう流れのみを許容するとともに上記減衰通路に並列される圧側サブ減衰通路と、上記フリーピストンが中立位置から上記伸側圧力室を圧縮する方向へ所定の伸側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路を開放するとともに圧側サブ減衰通路を遮断し、上記フリーピストンが中立位置から上記圧側圧力室を圧縮する方向へ所定の圧側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路を遮断するとともに圧側サブ減衰通路を開放する切換機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の緩衝装置によれば、ピストン速度が非常に高速となっても車両における乗り心地を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】一実施の形態における緩衝装置の縦断面図である。
【図2】流量に対する圧力の周波数伝達関数のゲイン特性を示したボード線図である。
【図3】緩衝装置の振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
【図4】より具体化した一実施の形態の緩衝装置の構造を示す図である。
【図5】フリーピストンが伸側圧力室を圧縮する方向へ変位した状態における切換機構の作動を説明する図である。
【図6】フリーピストンが圧側圧力室を圧縮する方向へ変位した状態における切換機構の作動を説明する図である。
【図7】従来の緩衝装置の流量に対する圧力の周波数伝達関数のゲイン特性を示したボード線図である。
【図8】従来の緩衝装置の振動周波数に対する減衰特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に基づいて本発明を説明する。本発明の緩衝装置Dは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されシリンダ1内を伸側室R1と圧側室R2に区画する隔壁部材としてのピストン2と、圧力室R3と、圧力室R3内に軸方向へ移動自在に挿入されて圧力室R3を伸側流路5を介して伸側室R1に連通される伸側圧力室7と圧側流路6を介して圧側室R2に連通される圧側圧力室8とに区画するフリーピストン9と、フリーピストン9を圧力室R3内で中立位置に位置決めてフリーピストン9の中立位置からの変位を抑制する附勢力を発生するばね要素10と、伸側室R1と圧側室R2とを連通する減衰通路3と、伸側室R1から圧側室R2へ向かう流れのみを許容するとともに減衰通路3に並列される伸側サブ減衰通路12と、圧側室R2から伸側室R1へ向かう流れのみを許容するとともに減衰通路3に並列される圧側サブ減衰通路13と、切換機構14とを備えて構成されている。この緩衝装置Dは、車両における車体と車軸との間に介装されて減衰力を発生し車体の振動を抑制するものである。なお、伸側室R1とは、車体と車軸が離間して緩衝装置Dが伸長作動する際に圧縮される室のことであり、圧側室R2とは、車体と車軸が接近して緩衝装置Dが収縮作動する際に圧縮される室のことである。
【0016】
そして、伸側室R1および圧側室R2さらには圧力室R3内には作動油等の流体が充満され、また、シリンダ1内の図中下方には、シリンダ1の内周に摺接して圧側室R2と気体室Gとを区画する摺動隔壁15が設けられている。なお、上記した伸側室R1、圧側室R2および圧力室R3内に充填される流体は、作動油以外にも、たとえば、水、水溶液といった流体を使用することもできる。
【0017】
ピストン2は、シリンダ1内に移動自在に挿通されたピストンロッド4の一端に連結され、ピストンロッド4は、シリンダ1の図中上端部から外方へ突出されている。なお、ピストンロッド4とシリンダ1との間は図示しないシールでシリンダ1内が液密状態とされている。図示したところでは、緩衝装置Dがいわゆる片ロッド型に設定されているため、緩衝装置Dの伸縮に伴ってシリンダ1内に出入りするピストンロッド4の体積は、気体室G内の気体の体積が膨張あるいは収縮し摺動隔壁15が図1中上下方向に移動することによって補償されるようになっている。このように緩衝装置Dは、単筒型に設定されているが、摺動隔壁15および気体室Gの設置に変えて、シリンダ1の外周や外部にリザーバを設けて当該リザーバによって上記ピストンロッド4の体積補償を行ってもよい。伸側室R1,圧側室R2および圧力室R3に充填する流体を気体とする場合には、気体室Gやリザーバを省略することも可能である。また、緩衝装置Dが片ロッド型ではなく、両ロッド型に設定されてもよい。
【0018】
さらに、減衰通路3は、伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容して通過流体の流れに抵抗を与える伸側減衰通路3aと圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容して通過流体の流れに抵抗を与える圧側減衰通路3bとを備えて、ピストン2に設けられている。
【0019】
より詳しくは、伸側減衰通路3aと圧側減衰通路3bには、減衰バルブ16a,16bが設けられており、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bを通過する流体の流れに減衰バルブ16a,16bによって抵抗を与えることができるようになっている。この減衰バルブ16aは、詳しくは、図示はしないが、逆止弁としても機能して伸側減衰通路3aを伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定し、減衰バルブ16bも、また、逆止弁としても機能し圧側減衰通路3bを圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容する一方通行の通路に設定している。つまり、緩衝装置Dが伸縮する際に、伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3bのみを介して減衰力を発生する場合を考えると、伸長作動時には伸側減衰通路3aのみを流体が通過し、収縮作動時には圧側減衰通路3bのみを流体が通過するようになっている。なお、減衰バルブ16a,16bは、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成等とすればよく、この構成以外にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもでき、逆止弁を別途設けるのであれば流体の双方向通行を可能とするバルブを採用することも可能である。
【0020】
そして、圧力室R3は、この実施の形態の場合、ピストン2の下方に連結されて圧側室R2へ臨むハウジング17内に設けた中空部17aによって形成されており、当該中空部17aの側壁に摺接して中空部17a内を図1中上下方向となる軸方向に摺動可能とされるフリーピストン9で圧力室R3を図1中上方の伸側圧力室7と図1中下方の圧側圧力室8とに仕切っている。すなわち、フリーピストン9は、ハウジング17内に摺動自在に挿入されており、ハウジング17に対して図1中では上下方向となる軸方向に変位することができるようになっている。
【0021】
また、フリーピストン9は、中空部17aの下端部に一端が連結されて圧側圧力室8内に収容されるばね要素10における他端に連結され、これにより、フリーピストン9は圧力室R3内の所定位置に位置決めされた位置(以下、単に「フリーピストン中立位置」という)から変位するとばね要素10からその変位量に比例した附勢力が作用することになる。なお、上記したフリーピストン中立位置は、フリーピストン9が圧力室R3に対してばね要素10によって位置決められる位置であって、必ずしも中空部17aの上下方向における中間点に設定されなくともよい。
【0022】
なお、ハウジング17内は、図示したところでは、フリーピストン9によって上下に伸側圧力室7、圧側圧力室8に区画され、緩衝装置Dが伸縮して抑制する振動方向とフリーピストン9の移動方向が一致しており、緩衝装置D全体が図1中上下方向に振動することによって、フリーピストン9のハウジング17に対する上下方向の振動が励起されることを避けたい場合には、フリーピストン9の移動方向を緩衝装置Dの伸縮方向と直交する方向、すなわち、図1中左右方向に設定し、伸側圧力室7と圧側圧力室8を図1中横方向に配置するようにすることもできる。
【0023】
また、当該ハウジング17には、圧側室R2と圧側圧力室8とを連通する圧側流路6が設けられており、当該圧側流路6には、絞り6aが設けられ、これを通過する流体の流れに抵抗を与えることができるようになっている。なお、当該絞り6aをフリーピストン9が中立位置から変位すればするほど開口面積を小さくする可変絞りとしてもよく、その場合には、フリーピストン9がハウジング17の上端に当接するか、ばね要素10が最圧縮状態となるストロークエンドへ近づくにつれてフリーピストン9の変位速度を減ずることができる。
【0024】
さらに、伸側室R1と伸側圧力室7は、ピストンロッド4の伸側室R1に臨む側部から開口してピストン2およびハウジング17を通じる伸側流路5を介して連通されている。このように、伸側室R1と伸側圧力室7とが伸側流路5によって連通され、圧側室R2と圧側圧力室8と圧側流路6によって連通され、伸側圧力室7と圧側圧力室8の容積はフリーピストン9がハウジング17内で変位することによって変化するので、この緩衝装置Dにあっては、上記した伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる流路が、見掛け上、伸側室R1と圧側室R2を連通しており、伸側室R1と圧側室R2は、減衰通路3を構成する伸側減衰通路3aと圧側減衰通路3bの他にも上記した見掛け上の流路によっても連通されることになる。
【0025】
伸側サブ減衰通路12および圧側サブ減衰通路13は、この実施の形態では、共に隔壁部材であるピストン2の図1中上端の伸側室側端から図1中下端の圧側室側端へ通じていて、上記した減衰通路3である伸側減衰通路3aと圧側減衰通路3bに並列して伸側室R1と圧側室R2とを連通している。
【0026】
詳しくは、伸側サブ減衰通路12は、途中に、伸側サブバルブ12aを備えている。この伸側サブバルブ12aは、伸側サブ減衰通路12を通過する流体の流れに抵抗を与えることができるようになっているとともに、この例では、伸側室R1から圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁としても機能して、伸側サブ減衰通路12を一方通行の通路に設定している。また、伸側サブバルブ12aが通過流体に与える抵抗は、上記した伸側減衰通路3aに設けられた減衰バルブ16aが通過流体に与える抵抗に比して大きくても小さくてもよい。そして、伸側減衰通路3aと伸側サブ減衰通路12は並列して伸側室R1と圧側室R2とを連通しているので、緩衝装置Dの伸長作動時において、伸側サブ減衰通路12が開放されると流体は伸側減衰通路3aに加えて伸側サブ減衰通路12をも通過して伸側室R1から圧側室R2へ移動することになる。そのため、流体が伸側減衰通路3aのみを通過する場合に比較して、伸側サブ減衰通路12を開放する場合の方が緩衝装置Dの発生減衰力は低くなる。
【0027】
他方の圧側サブ減衰通路13も途中に、圧側サブバルブ13aを備えている。この圧側サブバルブ13aは、圧側サブ減衰通路13を通過する流体の流れに抵抗を与えることができるようになっているとともに、この例では、圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁としても機能して、圧側サブ減衰通路13を一方通行の通路に設定している。また、圧側サブバルブ13aが通過流体に与える抵抗は、上記した圧側減衰通路3bに設けられた減衰バルブ16bが通過流体に与える抵抗に比して大きくても小さくてもよい。そして、圧側減衰通路3bと圧側サブ減衰通路13は並列して伸側室R1と圧側室R2とを連通しているので、緩衝装置Dの収縮作動時において、圧側サブ減衰通路13が開放されると流体は圧側減衰通路3bに加えて圧側サブ減衰通路13をも通過して圧側室R2から伸側室R1へ移動することになる。そのため、流体が圧側減衰通路3bのみを通過する場合に比較して、圧側サブ減衰通路13を開放する場合の方が緩衝装置Dの発生減衰力は低くなる。
【0028】
なお、伸側サブバルブ12aと圧側サブバルブ13aは、たとえば、周知のオリフィスとリーフバルブとを並列した構成等とすればよく、この構成以外にも、たとえば、チョークとリーフバルブを並列させる構成やその他の構成を採用することもでき、逆止弁を別途設けるのであれば流体の双方向通行を可能とするバルブを採用することも可能である。
【0029】
切換機構14は、伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13の途中に設けられており、伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13の途中に設けた切換スプール18と、切換スプール18とフリーピストン9とを連結する連結レバー19とを備えて構成されている。そして、切換スプール18は、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向へ所定の伸側変位以上変位すると採る伸側ポジション18bと、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向へ所定の圧側変位以上変位すると採る圧側ポジション18cと、フリーピストン9の中立位置からの変位が上記伸側変位および圧側変位に達しない状態にあるときに採る中立ポジション18aとを備えた4ポート3位置の切換弁として構成されている。
【0030】
そして、切換スプール18は、中立ポジション18aを採る際に、伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13とを共に遮断し、伸側ポジション18bを採る際に、伸側サブ減衰通路12を開放すると共に圧側サブ減衰通路13を遮断し、圧側ポジション18cを採る際に伸側サブ減衰通路12を遮断するとともに圧側サブ減衰通路13を開放するようになっている。
【0031】
なお、切換機構14は、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向へ所定の伸側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路12を開放するとともに圧側サブ減衰通路13を遮断し、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向へ所定の圧側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路12を遮断するとともに圧側サブ減衰通路13を開放するようになっていればよいので、上記構成以外の構成を採用することもでき、たとえば、伸側サブ減衰通路12を開閉する開閉弁と圧側サブ減衰通路13を開閉する開閉弁とを独立して設けて、これら開閉弁をフリーピストン9に連動するようにしてもよい。また、上記した所定の伸側変位と所定の圧側変位は、任意に設定することができる。
【0032】
さらに、切換スプール18をフリーピストン9側へ向けて附勢するばねを設けて、常に連結レバー19がフリーピストン9に当接するようにすれば、連結レバー19とフリーピストン9とが一体的に連結されなくとも良く、この場合には、上記切換スプール18を附勢するばねとばね要素10との間にフリーピストン9と切換スプール18が介装されることになるので、上記ばねとばね要素10とフリーピストン9を中立位置に位置決めるばね要素を構成するようにしてもよい。
【0033】
つづいて、緩衝装置Dの基本的な作動について説明する。
【0034】
(a)フリーピストン9の中立位置からの変位が上記した所定の伸側変位および圧側変位に達しない状態での緩衝装置Dの作動
この場合、切換機構14は、中立ポジション18aを採り、伸側サブ減衰通路12および圧側サブ減衰通路13は遮断された状態となる。この状態では、緩衝装置Dがシリンダ1に対してピストン2が図1中上下動する伸縮作動を呈すると、ピストン2によって伸側室R1と圧側室R2の一方が圧縮され、伸側室R1と圧側室R2の他方が拡張されるので、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮される方の圧力が高まると同時に、伸側室R1と圧側室R2のうち容積拡大される方の圧力が低下して両者に差圧が生じて、伸側室R1と圧側室R2のうち圧縮側の流体は減衰通路3(伸側減衰通路3aおよび圧側減衰通路3b)と、これに加えて伸側流路5、伸側圧力室7、圧側圧力室8および圧側流路6からなる見掛け上の流路を介して伸側室R1と圧側室R2のうち拡大側に移動する。
【0035】
ここで、緩衝装置Dに入力される振動の周波数、すなわち、緩衝装置Dの伸縮方向の振動の周波数が低周波であっても高周波であっても、緩衝装置Dの伸長行程におけるピストン速度が同じである場合、低周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅は、高周波振動入力時の緩衝装置Dの振幅よりも大きくなる。このように緩衝装置Dに入力される振動の周波数が低い場合、振幅が大きいため、伸縮1周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う流体の流量は大きくなる。この流量に略比例して、フリーピストン9が動く変位も大きくなるが、フリーピストン9はばね要素10で附勢されているため、フリーピストン9の変位が大きくなると、フリーピストン9が受けるばね要素10からの附勢力も大きくなり、その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力に差圧が生じて、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧が小さくなり、上記の見掛け上の流路を通過する流量は小さくなる。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、減衰通路3の流量は大きくなるので、緩衝装置Dが発生する減衰力が高いまま維持される。
【0036】
逆に、緩衝装置Dに高周波振動が入力される場合、振幅が低周波振動入力時よりも小さいため、伸縮一周期で伸側室R1と圧側室R2を行き交う流体の流量は小さく、フリーピストン9の動く変位も小さくなる。すると、フリーピストン9が受けるばね要素10から附勢力も小さくなる。その分、伸側圧力室7の圧力と圧側圧力室8の圧力がほぼ同等圧となり、伸側室R1と伸側圧力室7の差圧および圧側室R2と圧側圧力室8の差圧は低周波振動入力時よりも大きくなって、上記の見掛け上の流路を通過する流量が低周波振動入力時よりも増大する。この見掛け上の流路を通過する流量が増大した分は、減衰通路3の流量が減少することになるので、緩衝装置Dが発生する減衰力は低周波振動入力時の減衰力より低減されて低くなる。
【0037】
このように、ピストン速度が低い場合には、流量に対する差圧の周波数伝達関数の周波数に対するゲイン特性は、従来例と同じく式(2)で示される図2に示すが如くの特性となる。また、振動周波数の入力に対する減衰力のゲインを示す緩衝装置Dにおける減衰力の特性は、図3に示すように、低周波数域の振動に対しては高い減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を低くすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。なお、緩衝装置Dの収縮行程にあっても、上述の伸長行程と同様に、低周波数域の振動に対しては高い減衰力を発生し、高周波数域の振動に対しては減衰力を低くすることができ、緩衝装置Dの減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができる。そして、図3の減衰特性における小さい値を採る折れ点周波数Faの値を車両のばね上共振周波数の値以上であって車両のばね下共振周波数の値以下に設定し、大きい値を採る折れ点周波数Fbを車両のばね下共振周波数以下に設定することで、緩衝装置Dは、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することができ、車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に、搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず減衰力が低減されて低い減衰力を発生することになるので、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0038】
(b)フリーピストン9の中立位置からの変位が上記した所定の伸側変位および圧側変位に達する状態での緩衝装置Dの作動
この場合は、緩衝装置Dのピストン速度が速くて振幅も大きく、伸側圧力室7或いは圧側圧力室8に大流量が流入して、フリーピストン9が中立位置から大きく変位し、ストロークエンドまでのストローク余裕が少なくなる状況であり、ストロークエンドまで達すると、見掛け上の流路を介して伸側室R1と圧側室R2の流体の交流が少なくなるので、高周波振動の入力に対して減衰力を低減する効果が少なくなる。
【0039】
しかしながら、このようにフリーピストン9が変位すると、切換機構14は、フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向へ変位している場合には、伸側サブ減衰通路12を開放して圧側サブ減衰通路13を遮断し、他方、フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向へ変位している場合には、圧側サブ減衰通路13を開放して伸側サブ減衰通路12を遮断する。
【0040】
そして、切換機構14が伸側サブ減衰通路12を開放して圧側サブ減衰通路13を遮断している状態では、緩衝装置Dが伸長作動をすると、伸側室R1の流体は伸側減衰通路3aのみならず伸側サブ減衰通路12をも介して圧側室R2へ移動するので、緩衝装置Dは、低い減衰力を発生する。この状態で、緩衝装置Dが収縮作動をすると、圧側サブ減衰通路13が遮断されているので、圧側室R2の流体は圧側減衰通路3bのみを介して伸側室R1へ移動するので、緩衝装置Dは、高い減衰力を発生する。
【0041】
フリーピストン9が中立位置から伸側圧力室7を圧縮する方向へ変位しているということは、緩衝装置Dは、ピストン速度が速く大振幅で収縮作動を呈していた状況であるから、さらに収縮作動を呈する場合には、高減衰力を発揮し、反対に、収縮作動を終えて伸長作動に転じる場合には低い減衰力を発揮することになる。
【0042】
つまり、この状況では、車体が車輪に対して大きく沈み込む場合に緩衝装置Dは高い減衰力を発揮してこれを抑制し、反対に、車体が車輪から離間する、すなわち、緩衝装置Dが伸びようとすると、減衰力を低減させて当該車体の動きを極力抑制しないようにして、車体振動を低減する。
【0043】
逆に、切換機構14が伸側サブ減衰通路12を遮断して圧側サブ減衰通路13を開放している状態では、緩衝装置Dが伸長作動をすると、伸側サブ減衰通路12が遮断されているので、伸側室R1の流体は伸側減衰通路3aのみを介して圧側室R2へ移動するので、緩衝装置Dは、高い減衰力を発生する。この状態で、緩衝装置Dが収縮作動をすると、圧側室R2の流体は圧側減衰通路3bのみならず圧側サブ減衰通路13をも介して伸側室R1へ移動するので、緩衝装置Dは、低い減衰力を発生する。
【0044】
フリーピストン9が中立位置から圧側圧力室8を圧縮する方向へ変位しているということは、緩衝装置Dは、ピストン速度が速く大振幅で伸長作動を呈していた状況であるから、さらに伸長作動を呈する場合には、高減衰力を発揮し、反対に、伸長作動を終えて収縮作動に転じる場合には低い減衰力を発揮することになる。
【0045】
つまり、この状況では、車体が車輪から大きく離間する場合に緩衝装置Dは高い減衰力を発揮してこれを抑制し、反対に、車体が車輪へ沈み込む方向へ変位する、すなわち、緩衝装置Dが縮もうとする際には、減衰力を低減させて当該車体の動きを極力抑制しないようにして、車体振動を低減する。
【0046】
以上をまとめると、緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してフリーピストン9が中立位置から所定の伸側変位以上変位する場合、それ以上の収縮作動に対して緩衝装置Dは高い減衰力を発揮し、伸長作動に転じると緩衝装置Dは低い減衰力を発揮し、緩衝装置Dが大振幅で伸長作動を呈してフリーピストン9が中立位置から所定の圧側変位以上変位する場合、それ以上の伸長作動に対して緩衝装置Dは高い減衰力を発揮し、収縮作動に転じると緩衝装置Dは低い減衰力を発揮する。
【0047】
一般にスカイフック制御では、車体の上下方向速度にスカイフック減衰係数を乗じた力を緩衝装置に発揮させることで車体の振動を効果的に抑制するようにするが、パッシブな緩衝装置では、伸縮方向と同じ方向へ能動的に力を発揮できないため、車体の上下方向速度と緩衝装置の伸縮速度の方向が異なる方向となる場合には緩衝装置の発生減衰力を低くすることで車体の振動を助長しないようにする。緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してフリーピストン9が中立位置から所定の伸側変位以上変位する場合の動作は、それ以上の収縮作動に対して高い減衰力を発揮し、伸長作動に転じると低い減衰力を発揮し、また、緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の伸長作動を呈してフリーピストン9が中立位置から所定の圧側変位以上変位する場合の動作は、それ以上の伸長作動に対して高い減衰力を発揮し、収縮作動に転じると低い減衰力を発揮することから、上記したスカイフック制御を用いて緩衝装置を制御したときの動作と近似する。
【0048】
したがって、緩衝装置Dは、ピストン速度が速く大振幅で伸縮作動を呈してフリーピストン9が中立位置から所定の伸側変位以上、或いは、所定の圧側変位以上、変位する場合には、スカイフックダンパとして振る舞う。
【0049】
そのため、この緩衝装置Dでは、ピストン速度が速く大振幅で伸縮する場合には、スカイフックダンパとして振る舞って、車体の振動を抑制することができるので、ピストン速度が非常に高速となっても車両における乗り心地を向上することができる。
【0050】
また、スカイフックダンパとして振る舞うについてこの緩衝装置Dでは、フリーピストン9の動作に切換機構14を連動させて伸側サブ減衰通路12および圧側サブ減衰通路13の死活を切換えるのみで足りるから、わざわざ、車体および緩衝装置Dに速度や加速度を検知するセンサを取り付け、減衰力調整弁を設け、高価な制御装置を用いて減衰力調整弁を制御する必要がないから、低コストでスカイフックダンパを実現することができる。
【0051】
さらに、緩衝装置Dは、ピストン速度が速く大振幅で伸縮作動を呈する状況以外では、入力される振動周波数が高くなると減衰力を低減することができるので、入力振動周波数に依存した減衰力を発揮して、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0052】
なお、上述したフリーピストン9の中立位置からの所定の伸側変位と圧側変位とを小さくすればするほど、上記した緩衝装置Dの動作のうち(a)で説明した周波数によって減衰力が変化する動作(周波数感応動作)よりも(b)で説明したスカイフックダンパとしての動作(スカイフック動作)が優先的に現れるようになり、反対に、大きくすればするほどスカイフック動作よりも周波数感応動作の方が優先的に現れるようになる。したがって、車両の特性に応じて上記所定の伸側変位と圧側変位をチューニングすることで車両に適した動作を緩衝装置Dに発揮させるようにするとよい。
【0053】
また、上記したところでは、緩衝装置Dは、切換スプール18が中立ポジション18aを採る際に、伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13とを共に遮断するようになっているが、伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13とを共に連通するように設定することも可能である。この場合には、緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してから伸長方向へ転じて、フリーピストン9が中立位置から所定の伸側変位以上変位してからその変位量が所定の伸側変位以下となっても、切換スプール18は、伸側サブ減衰通路12を開放状態に保つため、低い減衰力を発揮し続け、車軸側から車体への振動伝達を絶縁し続ける。逆に、緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の伸長作動を呈してから収縮方向へ転じて、フリーピストン9が中立位置から所定の圧側変位以上変位してからその変位量が所定の圧側変位以下となっても、切換スプール18は、圧側サブ減衰通路13を開放状態に保つため、低い減衰力を発揮し続け、車軸側から車体への振動伝達を絶縁し続けることができる。したがって、フリーピストン9が中立位置から所定の伸側変位未満であって所定の圧側変位未満で変位する際に、切換機構14が伸側サブ減衰通路12と圧側サブ減衰通路13とを共に連通するように設定すると、よりスカイフックダンパに近似する減衰力を発揮できることになる。
【0054】
以上では、緩衝装置Dの基本的な構造を説明したが、以下、より構造を具体化した緩衝装置D1について説明する。
【0055】
具体的な緩衝装置D1は、基本的には、図4に示すように、シリンダ21と、シリンダ21内に摺動自在に挿入されシリンダ21内を伸側室R4と圧側室R5に区画する隔壁部材としてのピストン22と、圧力室R6と、圧力室R6内に軸方向へ移動自在に挿入されて圧力室R6を伸側流路25を介して伸側室R4に連通される伸側圧力室27と圧側流路26を介して圧側室R5に連通される圧側圧力室28とに区画するフリーピストン29と、フリーピストン29を圧力室R6内で中立位置に位置決めてフリーピストン29の中立位置からの変位を抑制する附勢力を発生するばね要素30と、伸側室R4と圧側室R5とを連通する減衰通路31と、伸側室R4から圧側室R5へ向かう流れのみを許容するとともに減衰通路31に並列される伸側サブ減衰通路32と、圧側室R5から伸側室R4へ向かう流れのみを許容するとともに減衰通路31に並列される圧側サブ減衰通路33と、切換機構34とを備えて構成されている。なお、図示はしないが、図1に示した緩衝装置Dと同様に、シリンダ21の下方には、摺動隔壁が設けられており気体室が設けられている。
【0056】
以下、各部について詳細に説明すると、ピストンロッド23は、その図4中下端側に小径部23aが形成されるとともに、小径部23aの先端側には螺子部23bが形成されている。
【0057】
そして、ピストンロッド23には、小径部23aの先端から開口する袋孔状の弁孔35が設けられており、この弁孔35の底部側がピストンロッド23の側部から開口する連通孔36によって、伸側室R4に連通されている。
【0058】
ピストン22は、環状に形成されるとともに、その内周側にピストンロッド23の小径部23aが挿入されている。また、このピストン22には、伸側室R4と圧側室R5とを連通する伸側ポート31aと圧側ポート31cが設けられ、伸側ポート31aの図4中下端はピストン22の図4中下方に積層されるリーフバルブでなる伸側バルブ31bにて開閉され、他方の圧側ポート31cの図4中上端もピストン22の図4中上方に積層されるリーフバルブでなる圧側バルブ31dによって開閉される。
【0059】
この伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dは、共に環状に形成され、内周側にはピストンロッド23の小径部23aが挿入され、内周側がピストンロッド23に固定されて外周側の撓みが許容されてピストン22に積層されている。なお、伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dを構成するリーフバルブの積層枚数や厚みは、望む減衰特性に応じて任意に変更することができる。
【0060】
そして、伸側バルブ31bは、緩衝装置D1の伸長作動時に伸側室R4と圧側室R5の差圧によって撓んで開弁し伸側ポート31aを開放して伸側室R4から圧側室R5へ移動する流体の流れに抵抗を与えるとともに、緩衝装置D1の収縮作動時には伸側ポート31aを閉塞するようになっていて伸側ポート31aを一方通行に設定している。他方の圧側バルブ31dは、伸側バルブ31bとは反対に緩衝装置D1の収縮作動時に圧側ポート31cを開放し、伸長作動時には圧側ポート31cを閉塞するようになっていて圧側ポート31cを一方通行に設定している。すなわち、伸側バルブ31bは、緩衝装置D1の伸長作動時における伸側減衰力を発生する減衰力発生要素であり、他方の圧側バルブ31dは、緩衝装置Dの収縮作動時における圧側減衰力を発生する減衰力発生要素である。よって、この実施の形態にあっては、減衰通路31は、伸側ポート31a、伸側バルブ31b、圧側ポート31cおよび圧側バルブ31dとで構成されている。
【0061】
なお、伸側ポート31aの圧側室側の開口端には、窓31eが設けられており、当該窓31eは、ピストン22の内周へ連通されている。また、圧側ポート31cの伸側室側の開口端には、窓31fが設けられており、当該窓31fもピストン22の内周へ連通されている。
【0062】
つづいて、ピストン22の図4中下方であって、伸側バルブ31bの図4中下側となる圧側室側には、伸側バルブディスク37が積層され、さらに、伸側バルブディスク37の図4中下側となる圧側室側には、リーフバルブでなる伸側サブバルブ38が積層されている。さらに、ピストン22の図4中上方であって、圧側バルブ31dの図4中上側となる伸側室側には、圧側バルブディスク39が積層され、さらに、圧側バルブディスク39の図4中上側となる伸側室側には、リーフバルブでなる圧側サブバルブ40が積層されている。
【0063】
そして、伸側バルブディスク37は、環状であって、圧側室側端から内周へ通じる伸側サブポート37aを備えており、この伸側サブポート37aの出口端が上記した伸側サブバルブ38によって開閉されるようになっている。また、圧側バルブディスク39は、環状であって、伸側室側端から内周へ通じる圧側サブポート39aを備えており、この圧側サブポート39aの出口端が上記した圧側サブバルブ40によって開閉されるようになっている。つまり、伸側サブバルブ38は、圧側室R5側からの圧力によっては開かずに伸側室R4の圧力を受けて撓むと伸側サブポート37aを開放するようになっていて、伸側サブポート37aを通過する流体の流れに抵抗を与えると共に、伸側サブポート37aを一方通行に設定している。また、圧側サブバルブ40は、伸側室R4側からの圧力によっては開かずに圧側室R5の圧力を受けて撓むと圧側サブポート39aを開放するようになっていて、圧側サブポート39aを通過する流体の流れに抵抗を与えると共に、圧側サブポート39aを一方通行に設定している。
【0064】
なお、伸側サブバルブ38および圧側サブバルブ40を構成するリーフバルブの積層枚数や厚みは、望む減衰特性に応じて任意に変更することができる。
【0065】
また、伸側バルブ31bと伸側バルブディスク37との間には、環状のシム60が介装され、圧側バルブ31dと圧側バルブディスク39との間には、環状のシム61が介装されている。さらに、伸側サブバルブ38よりも図4中下方には、環状のシム62と伸側サブバルブ38の撓み量を規制する環状のバルブストッパ42が積層され、圧側サブバルブ40よりも図4中上方には、環状のシム63と圧側サブバル40の撓み量を規制する環状のバルブストッパ41が積層されている。シム60は、環状であって外径が伸側バルブ31bの外径よりも小径であり、シム61は、環状であって外径が圧側バルブ31dの外径よりも小径であり、シム62は、環状であって外径が伸側サブバルブ38の外径よりも小径であり、シム63は、環状であって外径が圧側サブバルブ40の外径よりも小径であり、これらシム60,61,62,63は、副数枚の環状板を積層して構成してもよい。
【0066】
上記したバルブストッパ41、シム63、圧側サブバルブ40、圧側バルブディスク39、シム61、圧側バルブ31d、ピストン22、伸側バルブ31b、シム60、伸側バルブディスク37、伸側サブバルブ38、シム62およびバルブストッパ42は、順に上記したピストンロッド23の小径部23aに組み付けられ、バルブストッパ42の図4中下方から、上記螺子部23bに圧力室R6を形成するハウジング43が螺着される。このハウジング43によって、バルブストッパ41、シム63、圧側サブバルブ40、圧側バルブディスク39、シム61、圧側バルブ31d、ピストン22、伸側バルブ31b、シム60、伸側バルブディスク37、伸側サブバルブ38、シム62およびバルブストッパ42がピストンロッド23に固定される。このように、ハウジング43は、内部に圧力室R6を形成するだけでなく、ピストン22をピストンロッド23に固定する役割をも果たしている。
【0067】
上記したように、ピストン22、圧側バルブディスク39および伸側バルブディスク37をピストンロッド23の小径部23aの外周に装着すると、ピストン22の伸側ポート31aは、窓31eとピストンロッド23の小径部23a外周から開口する透孔23cを通じて弁孔35へ連通され、ピストン22の圧側ポート31cは、窓31fとピストンロッド23の小径部23a外周から開口する透孔23dを通じて弁孔35へ連通される。また、伸側バルブディスク37に設けた伸側サブポート37aもピストンロッド23の小径部23a外周から開口する透孔23eを通じて弁孔35へ連通され、圧側バルブディスク39に設けた圧側サブポート39aもピストンロッド23の小径部23a外周から開口する透孔23fを通じて弁孔35へ連通される。
【0068】
そして、この実施の形態では、伸側サブ減衰通路32は、伸側ポート31a、透孔23c、透孔23eおよび伸側サブポート37aによって構成されている。また、透孔23cと透孔23eとが弁孔35を通じて連通されており、このように、伸側サブ減衰通路32の途中に弁孔35が設けられている。
【0069】
圧側サブ減衰通路33は、圧側ポート31c、透孔23d、透孔23fおよび圧側サブポート39aによって構成されている。また、透孔23dと透孔23fとが弁孔35を通じて連通されており、このように、圧側サブ減衰通路33の途中に弁孔35が設けられている。
【0070】
ハウジング43は、ピストンロッド23の螺子部23bに螺合される鍔45付のナット部44と、ナット部44における鍔45の外周に開口部が加締められて一体化される有底筒状の筒部47とを備えて構成されている。そして、ナット部44および筒部47で圧側室R5内に圧力室R6を画成している。なお、ナット部44と筒部47との一体化に際し、上記加締め加工以外にも溶接等の他の方法を採用することも可能である。
【0071】
そして、上記のように形成される圧力室R6内には、フリーピストン29が摺動自在に挿入されて、圧力室R6は、図4中上方側の伸側圧力室27と下方側の圧側圧力室28に区画されている。
【0072】
また、ナット部44は、上述のように側方に鍔45を備え、その内周には筒状の螺子部46が形成され、この螺子部46をピストンロッド23の螺子部23bに螺着することによって、ハウジング43をピストンロッド23の小径部23aに固定することが可能なようになっている。ゆえに、筒部47の図4中下方外周の断面形状を真円以外の形状、たとえば、一部を切欠いた形状や、六角形等の形状としてあって、当該外周に係合する工具を用いてハウジング43をピストンロッド23に螺着する作業を容易としている。
【0073】
筒部47は、有底筒状であって、底部には、圧側流路26の一部を構成する固定オリフィス48が設けられ、筒部47の側部には圧側室R5をハウジング43内へ連通する二つの可変オリフィス49,50が設けられている。
【0074】
他方、フリーピストン29は、有底筒状とされており、底部29aを図4中下方へ向けて筒部29bの外周を筒部47の内周に摺接させてハウジング43内に挿入されている。フリーピストン29は、上記のようにハウジング43内に摺動自在に挿入されると圧力室R6内を伸側圧力室27と圧側圧力室28とに区画する。なお、フリーピストン29の底部29aを図4中下方へ向けてハウジング43内に収容することで、フリーピストン29のナット部44における螺子部46への干渉を避けることができる。さらに、フリーピストン29は、この実施の形態の場合、筒部29bの外周に環状溝29cと、フリーピストン9の底部29aから環状溝29cへ通じる孔29dを備えている。
【0075】
また、このフリーピストン29に、フリーピストン29の圧力室R6に対する変位量に応じてその変位を抑制する附勢力を作用させるばね要素30が設けられており、このばね要素30は、圧側圧力室28内であって筒部47の底部とフリーピストン29の底部29aとの間に介装されるコイルばね51と、弁孔35内であって後述する切換スプール53との間に介装されるコイルばね52とで構成されている。切換スプール53は、弁孔35内に摺動自在に挿入されており、図4中下端をフリーピストン29の底部29aに当接させていて、フリーピストン29は、切換スプール53を介してコイルばね51,52に挟持されて圧力室R6内で中立位置に位置決められた上で弾性支持されている。
【0076】
なお、ばね要素としては、フリーピストン29を弾性支持できればよいので、コイルばね51,52以外のものを採用してもよく、たとえば、皿ばね等の弾性体を用いてフリーピストン29を弾性支持するようにしてもよい。また、一端がフリーピストン29に連結される単一のばね要素を用いる場合には、ナット部44或いは筒部47に他端を固定するようにしてもよい。切換スプール53がフリーピストン29に一体化される場合、コイルばね52を廃止してコイルばねを伸側圧力室27内に収容してフリーピストン29とナット部44との間に介装するようにしてもよいし、コイルばね52をそのままにして別のコイルばねを伸側圧力室27内に収容してコイルばね51,52と当該別のコイルばねでばね要素30を構成することも可能である。
【0077】
そして、上記環状溝29cは、フリーピストン29がばね要素30によって弾性支持されて中立位置にあるときには必ず上記可変オリフィス49,50に対向して圧側圧力室28と圧側室R5を連通するとともに、フリーピストン29がストロークエンドまで変位する、すなわち、ナット部44の鍔45或いは筒部47の内周に設けた段部47aに当接するまで変位するとフリーピストン29の外周で完全にラップされて閉塞されるようになっている。すなわち、圧側流路26は、環状溝29c、孔29d、可変オリフィス49,50および固定オリフィス48で構成されている。なお、可変オリフィス49,50を二つ設けているが、その数は任意である。
【0078】
つまり、この具体的な緩衝装置D1の場合、フリーピストン29の中立位置からの変位量が増加していくと、可変オリフィス49,50の開口全てが環状溝29cに対向する状況からフリーピストン29の外周に対向し始める状況に移行して徐々に可変オリフィス49,50の流路面積が減少し始め、圧側流路26における流路抵抗が徐々に増加する。そして、この実施の形態では、フリーピストン29の変位量の増加に伴って徐々に可変オリフィス49,50の流路面積が減少し、フリーピストン29がストロークエンドに達すると、可変オリフィス49,50が完全にフリーピストン29の外周で閉塞されて、圧側流路26における流路抵抗が最大となり圧側圧力室28が固定オリフィス48のみによって圧側室R5に連通されるようになっている。
【0079】
つづいて、切換機構34は、ピストンロッド23の一端となる図4中下端から開口して伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33の途中に設けられる弁孔35と、当該弁孔35内に摺動自在に挿入されてフリーピストン29の変位によって軸方向へ変位する切換スプール53とを備えて構成されている。
【0080】
弁孔35内に摺動自在に挿入される切換スプール53は、外周に周方向に沿って設けた二つの環状凹部53a,53bと備え、その一端となる図4中下端は球状とされて、この下端をフリーピストン29の底部29aに当接させている。切換スプール53のフリーピストン29への当接面を球状としているので、フリーピストン29の底部29aを傷めることがない。また、フリーピストン29と切換スプール53とが分離状態とされているので、圧力室R6内で軸方向へ摺動するフリーピストン29と、弁孔35内で軸方向へ摺動する切換スプール53が偏心していても容易に組み立てることができ、フリーピストン29と切換スプール53とが互いに相手の変位を妨げる摩擦力を発生することもない。
【0081】
また、切換スプール53は、他端となる図4中上端から開口して、一端側の外周へ通じるスプール内通路53cを備えている。スプール内通路53cは、常時伸側圧力室27内に通じており、また、弁孔35および連通孔36を介して伸側室R4に通じて、連通孔36とともに、伸側流路25を形成している。なお、図示したところでは、この伸側流路25の途中には、抵抗となる弁を設けていないが、スプール内通路53c或いは連通孔36の途中に絞り等の弁を設けて、通過流体に抵抗を与えるようにしてもよい。
【0082】
さらに、切換スプール53は、上記した弁孔35の底部と切換スプール53の他端となる図4中上端との間に介装してコイルばね52によって、常時、フリーピストン29へ向けて附勢されており、フリーピストン29から離間することがないようになっている。
【0083】
そして、切換スプール53は、フリーピストン29の中立位置からの変位が伸側変位および圧側変位に達しない位置にある際には、ピストン22の伸側ポート31aと圧側ポート31cに連通する透孔23c,23dに対して、その外周であって環状溝53a,53b間を対向させてこれを閉塞するようになっている。この状態では、伸側ポート31aに通じる透孔23cと伸側サブポート37aに通じる透孔23eとの連通は、切換スプール53によって遮断され、圧側ポート31cに通じる透孔23dと圧側サブポート39aに通じる透孔23fの連通も切換スプール53によって遮断される。したがって、フリーピストン29の中立位置からの変位が伸側変位および圧側変位に達しない位置にある際には、緩衝装置D1が伸縮作動を呈しても、流体は、伸側ポート31aのみ或いは圧側ポート31cのみを通過して伸側室R4と圧側室R5を行き来することになる。なお、透孔23cと透孔23eとの連通を断つに際して、透孔23eに切欠スプール53の環状溝53a,53b以外の部位を対向させることで行ってもよく、透孔23dと透孔23fとの連通を断つに際しても、透孔23fに切欠スプール53の環状溝53a,53b以外の部位を対向させることで行うようにしてもよい。
【0084】
他方、フリーピストン29が図5に示すように、上方へ移動して中立位置から所定の伸側変位以上に変位する際には、切換スプール53もフリーピストン29によって図4の状態から図5のように上方へ押し上げられて、環状溝53aを透孔23c,23eに対向させて、透孔23c,23eを環状溝53aで連通するようになっている。なお、この状態では、切換スプール53は、外周であって環状溝53a,53b間を透孔23dに対向させて透孔23dを遮断する。この場合には、伸側ポート31aに通じる透孔23cと伸側サブポート37aに通じる透孔23eが切換スプール53によって連通され、圧側ポート31cに通じる透孔23dが切換スプール53によって遮断される。したがって、フリーピストン29が中立位置から所定の伸側変位以上に変位する際には、伸側ポート31a、伸側サブ減衰通路32および圧側ポート31cが連通状態とされ、圧側サブ減衰通路33は遮断された状態となる。この場合、透孔23dを切換スプール53で閉塞することに代えて、透孔23fに切換スプール53の環状溝53a,53b以外の部位を対向させて、これを遮断するようにしてもよい。
【0085】
また、フリーピストン29が図6に示すように、下方へ移動して中立位置から所定の圧側変位以上に変位する際には、切換スプール53もフリーピストン29の変位でコイルばね52によって図4の状態から図6のように下方へ押し下げられて、環状溝53bを透孔23d,23fに対向させて、透孔23d,23fを環状溝53bで連通するようになっている。なお、この状態では、切換スプール53は、外周であって環状溝53a,53b間を透孔23cに対向させて透孔23cを遮断する。この場合には、圧側ポート31cに通じる透孔23dと圧側サブポート39aに通じる透孔23fが切換スプール53によって連通され、伸側ポート31aに通じる透孔23cが切換スプール53によって遮断される。したがって、フリーピストン29が中立位置から所定の圧側変位以上に変位する際には、圧側ポート31c、圧側サブ減衰通路33および伸側ポート31aが連通状態とされ、伸側サブ減衰通路32は遮断された状態となる。この場合、透孔23cを切換スプール53で閉塞することに代えて、透孔23eに切換スプール53の環状溝53a,53b以外の部位を対向させて、これを遮断するようにしてもよい。
【0086】
なお、伸側バルブ31b、圧側バルブ31d、伸側サブバルブ38および圧側サブバルブ40が通過流体に与える抵抗は、リーフバルブの積層枚数や厚みを変更することで行うことができる。リーフバルブの積層枚数や厚みを変更する場合、透孔23c,23d,23e,23fとピストン22、伸側バルブディスク37および圧側バルブディスク39との相対位置が変化するので、その調整をシム60,61,62,63における厚みや環状板の積層枚数の調節で、透孔23cを伸側ポート31aに連通させ、透孔23dを圧側ポート31cに連通させ、透孔23eを伸側サブポート37aに連通させ、透孔23fを圧側サブポート39aに連通させることができる位置へピストン22、伸側バルブディスク37および圧側バルブディスク39をピストンロッド23に対して位置決めるようにすればよい。また、この実施の形態では、減衰特性の設定が比較的容易となるために、伸側バルブ31b、圧側バルブ31d、伸側サブバルブ38および圧側サブバルブ40にリーフバルブを用いたが、オリフィス或いはチョークと逆止弁とを直列に設けたバルブ構成や、ポペット弁やニードル弁といったリーフバルブ以外の構成を採用することも可能であるが、リーフバルブを採用することで、減衰特性の調節が容易で、且つ、バルブ自体の軸方向の全長が短くて済むので、緩衝装置D1のストローク長を確保して、緩衝装置D1の車両への搭載性が向上する利点がある。
【0087】
緩衝装置D1は、以上のように構成されるが、続いて緩衝装置D1の作動について説明する。
【0088】
(c)フリーピストン29の中立位置からの変位が上記した所定の伸側変位および圧側変位に達しない状態での緩衝装置D1の作動
まず、フリーピストン29における中立位置からの変位量が可変オリフィス49,50を閉塞し始める変位を可変変位とすると、当該可変変位が上記した伸側変位および圧側変位未満に設定される場合であって、フリーピストン29の中立位置からの変位量が上記可変変位に達しない場合の作動について説明する。
【0089】
この場合、フリーピストン29は、圧側流路26の抵抗を変化させることなく変位することが可能である。そして、緩衝装置D1へ入力される振動周波数が低い場合と高い場合で、ピストン速度が同じであるという条件下で考えると、まず、入力周波数が低い場合、入力される振動の振幅が大きくなり、フリーピストン29の振幅も、可変オリフィス49,50を閉塞し始めない範囲内で大きくなる。また、切換スプール53が中立位置からの変位量が上記可変変位に達していないので、伸側ポート31aのみ或いは圧側ポート31cのみが有効となり、伸側サブ減衰通路32および圧側サブ減衰通路33は遮断状態にある。
【0090】
フリーピストン29の振幅が上記の範囲で大きくなると、フリーピストン29がコイルばね51,52から受ける附勢力が大きくなり、緩衝装置D1が伸長する場合、圧側圧力室28内の圧力は、伸側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね51,52の附勢力分だけ小さくなり、逆に、緩衝装置D1が収縮する場合には、伸側圧力室28内の圧力は、圧側圧力室27内の圧力よりも上記コイルばね51,52の附勢力分だけ小さくなる。
【0091】
このように、緩衝装置D1が低周波振動を呈すると伸側圧力室27と圧側圧力室28にコイルばね51,52の附勢力に見合った差圧が生じているので、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧が小さくなり、伸側流路25、圧側流路26、伸側圧力室27および圧側圧力室28でなる見掛け上の流路を通過する流量は小さい。この見掛け上の流路を通過する流量が小さい分、減衰通路31である伸側ポート31aと圧側ポート31cの流量は大きくなるので、緩衝装置D1が発生する減衰力が高いまま維持される。
【0092】
逆に、緩衝装置D1への入力周波数が高い場合、入力される振動の振幅が小さくなり、フリーピストン29の振幅はより小さくなる。フリーピストン29の振幅が小さくなると、フリーピストン29がコイルばね51,52から受ける附勢力が小さくなり、緩衝装置D1が伸長行程にあっても収縮行程にあっても、伸側圧力室27内の圧力と圧側圧力室28内の圧力とが略等しくなる。すると、伸側室R4と伸側圧力室27の差圧および圧側室R5と圧側圧力室28の差圧は大きくなるので、見掛け上の流路である伸側流路25および圧側流路26を通過する流量も多くなる。
【0093】
緩衝装置D1へ入力される振動の周波数が低い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は小さく、入力周波数が高い場合には、見掛け上の流路を通過する流量は大きくなり、入力速度が同じであれば、伸側室R4から圧側室R5或いは圧側室R5から伸側室R4へ流れる流量は、入力周波数によらず等しくならなければならないため、減衰通路31の伸側バルブ31bおよび圧側バルブ31dを通過する流量は、入力周波数が低い場合には多くなって減衰力が高く、反対に、入力周波数が高い場合には少なくなって減衰力は低くなる。したがって、緩衝装置D1の減衰特性は、上記した緩衝装置Dと同様に図3に示すように、推移することになる。
【0094】
したがって、この緩衝装置D1にあっても、減衰力の変化を入力振動周波数に依存させることができ、ばね上共振周波数の振動の入力に対しては高い減衰力を発生することで車両の姿勢を安定させて、車両旋回時に搭乗者に不安を感じさせることを防止できるとともに、ばね下共振周波数の振動が入力されると必ず低い減衰力を発生させて車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0095】
つづいて、可変変位が伸側変位および圧側変位未満に設定される場合であって、フリーピストン29の中立位置からの変位量が可変変位に達した場合の作動について説明する。
【0096】
可変オリフィス49,50は、緩衝装置D1が伸長しても収縮しても、フリーピストン29が可変変位に達してからは、その変位量に応じて、徐々に流路面積を小さくする。つまり、フリーピストン29が可変オリフィス49,50を閉塞し始めた後は変位量に応じて圧側流路26の流路抵抗を徐々に大きくなる。
【0097】
ここで、フリーピストン29が可変変位まで変位するのは、伸側圧力室27もしくは圧側圧力室28への流体の流出入量が多い場合であり、具体的には、緩衝装置D1の伸縮の振幅が大きい場合である。
【0098】
緩衝装置D1に入力される振動周波数が比較的高い場合、緩衝装置D1は、フリーピストン29が可変オリフィス49,50を閉塞し始める位置へ変位するまでは、比較的低い減衰力を発生しているが、フリーピストン29が可変オリフィス49,50を閉塞し始める位置を越えて変位するようになると、徐々に圧側流路26の流路抵抗が徐々に大きくなっていくので、フリーピストン29のそれ以上のストロークエンド側への移動速度が減少されて、見掛け上の流路を介しての流体の移動量も減少し、その分、減衰通路31を通過する流体量が増加することになり、緩衝装置D1の発生減衰力は徐々に高くなっていく。
【0099】
すなわち、高周波振動が緩衝装置D1に入力される状況でフリーピストン29の中立位置からの変位量が可変変位を超えると、フリーピストン29がストロークエンドに達するまでに緩衝装置D1は徐々に発生減衰力を高くするので、緩衝装置Dの発生減衰力が急激に高くなることがなく減衰力が急変することが無くなる。つまり、フリーピストン29がストロークエンドに達して圧力室R6を介して伸側室R4と圧側室R5の流体の交流ができなくなるときに急激に減衰力の高さが変化してしまうことがなくなり、低減衰力から高減衰力への減衰力変化がなだらかとなる。さらに、フリーピストン29が圧力室R6における両端側のストロークエンドまで到る際に、徐々に発生減衰力を高くするので、減衰力の急激な変化を抑制する機能は、緩衝装置D1の伸圧の両行程で発揮される。なお、フリーピストン29の中立位置から伸側圧力室を圧縮する方向へ可変変位である伸側の可変変位と、フリーピストン29の中立位置から圧側圧力室を圧縮する方向へ可変変位である圧側の可変変位とは、任意に設定することができ、双方を必ずしも等しくしなくとも良い。
【0100】
したがって、この緩衝装置D1にあっては、高周波数で振幅が大きい振動が入力されても、発生減衰力がなだらかに変化することになって、搭乗者に減衰力の変化によるショックを知覚させずにすみ、車両における乗り心地を向上することができ、特に、急激な減衰力変化によって車体が振動しボンネットが共振して異音が発生してしまう事態も防止でき、この点でも車両における乗り心地を向上することができる。
【0101】
このように、ピストン速度が高速となって、固定オリフィス48、可変オリフィス49,50における流路抵抗が大きくなりすぎる状況とならない場合には、この具体的な緩衝装置D1は、上記(c)で説明したように、入力される振動周波数に依存した減衰力を発揮するとともに、フリーピストン29の中立位置からの変位量が可変変位を超える状況となると、減衰力を徐々に高めて、低下していた減衰力が性急に高くなるような減衰力変化を抑制することができるのである。
【0102】
(d)フリーピストン29の中立位置からの変位が上記した所定の伸側変位および圧側変位に達する状態での緩衝装置D1の作動
この場合は、緩衝装置D1のピストン速度が速くて振幅も大きく、伸側圧力室27或いは圧側圧力室28に大流量が流入して、フリーピストン29が中立位置から大きく変位し、ストロークエンドまでのストローク余裕が少なくなる状況であり、ストロークエンドまで達すると、見掛け上の流路を介して伸側室R4と圧側室R5の流体の交流が少なくなるので、高周波振動の入力に対して減衰力を低減する効果が少なくなる。
【0103】
しかしながら、このようにフリーピストン29が変位すると、切換機構34は、フリーピストン29が中立位置から伸側圧力室27を圧縮する方向へ変位している場合には、伸側サブ減衰通路32を開放して圧側サブ減衰通路33を遮断し、他方、フリーピストン29が中立位置から圧側圧力室28を圧縮する方向へ変位している場合には、圧側サブ減衰通路33を開放して伸側サブ減衰通路32を遮断する。
【0104】
そして、切換機構34が伸側サブ減衰通路32を開放して圧側サブ減衰通路33を遮断している状態では、緩衝装置D1が伸長作動をすると、伸側室R4の流体は伸側ポート31aのみならず伸側サブ減衰通路32をも介して圧側室R5へ移動するので、緩衝装置D1は、低い減衰力を発生する。この状態で、緩衝装置D1が収縮作動をすると、圧側サブ減衰通路33が遮断されているので、圧側室R5の流体は圧側ポート31cのみを介して伸側室R4へ移動するので、緩衝装置D1は、高い減衰力を発生する。
【0105】
フリーピストン29が中立位置から伸側圧力室27を圧縮する方向へ変位しているということは、緩衝装置D1は、ピストン速度が速く大振幅で収縮作動を呈していた状況であるから、さらに収縮作動を呈する場合には、高減衰力を発揮し、反対に、収縮作動を終えて伸長作動に転じる場合には低い減衰力を発揮することになる。
【0106】
つまり、この状況では、車体が車輪に対して大きく沈み込む場合に緩衝装置D1は高い減衰力を発揮してこれを抑制し、反対に、車体が車輪から離間する、すなわち、緩衝装置Dが伸びようとすると、減衰力を低減させて当該車体の動きを極力抑制しないようにして、車体振動を低減する。
【0107】
逆に、切換機構34が伸側サブ減衰通路32を遮断して圧側サブ減衰通路33を開放している状態では、緩衝装置D1が伸長作動をすると、伸側サブ減衰通路32が遮断されているので、伸側室R4の流体は伸側ポート31aのみを介して圧側室R5へ移動するので、緩衝装置D1は、高い減衰力を発生する。この状態で、緩衝装置D1が収縮作動をすると、圧側室R5の流体は圧側ポート31cのみならず圧側サブ減衰通路33をも介して伸側室R4へ移動するので、緩衝装置D1は、低い減衰力を発生する。
【0108】
フリーピストン29が中立位置から圧側圧力室28を圧縮する方向へ変位しているということは、緩衝装置D1は、ピストン速度が速く大振幅で伸長作動を呈していた状況であるから、さらに伸長作動を呈する場合には、高減衰力を発揮し、反対に、伸長作動を終えて収縮作動に転じる場合には低い減衰力を発揮することになる。
【0109】
つまり、この状況では、車体が車輪から大きく離間する場合に緩衝装置D1は高い減衰力を発揮してこれを抑制し、反対に、車体が車輪へ沈み込む方向へ変位する、すなわち、緩衝装置D1が縮もうとする際には、減衰力を低減させて当該車体の動きを極力抑制しないようにして、車体振動を低減する。
【0110】
以上をまとめると、緩衝装置D1が速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してフリーピストン29が中立位置から所定の伸側変位以上変位する場合、それ以上の収縮作動に対して緩衝装置D1は高い減衰力を発揮し、伸長作動に転じると緩衝装置Dは低い減衰力を発揮し、緩衝装置D1が速いピストン速度で大振幅の伸長作動を呈してフリーピストン29が中立位置から所定の圧側変位以上変位する場合、それ以上の伸長作動に対して緩衝装置D1は高い減衰力を発揮し、収縮作動に転じると緩衝装置D1は低い減衰力を発揮する。
【0111】
したがって、緩衝装置D1は、ピストン速度が速く大振幅で伸縮作動を呈してフリーピストン29が中立位置から所定の伸側変位以上、或いは、所定の圧側変位以上、変位する場合には、スカイフックダンパとして振る舞う。
【0112】
そのため、この緩衝装置D1では、ピストン速度が速く大振幅で伸縮する場合には、スカイフックダンパとして振る舞って、車体の振動を抑制することができるので、ピストン速度が非常に高速となっても車両における乗り心地を向上することができる。
【0113】
また、スカイフックダンパとして振る舞うについてこの緩衝装置D1では、フリーピストン29の動作に切換機構34を連動させて伸側サブ減衰通路32および圧側サブ減衰通路33の死活を切換えるのみで足りるから、わざわざ、車体および緩衝装置D1に速度や加速度を検知するセンサを取り付け、減衰力調整弁を設け、高価な制御装置を用いて減衰力調整弁を制御する必要がないから、低コストでスカイフックダンパを実現することができる。
【0114】
さらに、緩衝装置D1は、ピストン速度が速く大振幅で伸縮作動を呈する状況以外では、入力される振動周波数が高くなると減衰力を低減することができるので、入力振動周波数に依存した減衰力を発揮して、車軸側の振動の車体側への伝達を絶縁して、車両における乗り心地を良好なものとすることができる。
【0115】
なお、上述したフリーピストン9の中立位置からの所定の伸側変位と圧側変位とを小さくすればするほど、上記した緩衝装置Dの動作のうち(c)で説明した周波数によって減衰力が変化する動作(周波数感応動作)よりも(d)で説明したスカイフックダンパとしての動作(スカイフック動作)が優先的に現れるようになり、反対に、大きくすればするほどスカイフック動作よりも周波数感応動作の方が優先的に現れるようになる。したがって、車両の特性に応じて上記所定の伸側変位と圧側変位をチューニングすることで車両に適した動作を緩衝装置Dに発揮させるようにするとよい。
【0116】
また、フリーピストン29における中立位置からの変位量が可変オリフィス49,50を閉塞し始める変位である可変変位を上記した伸側変位および圧側変位を超える変位に設定し、フリーピストン29の中立位置からの変位量が上記可変変位に達する場合には、圧側流路26における流路面積が減少して、フリーピストン29の変位が抑制される。このようにフリーピストン29の変位が抑制されるので、緩衝装置D1が速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してからは、切換スプール53が伸側サブ減衰通路32を開放して圧側サブ減衰通路33を遮断する状態がしばらくの間維持され、それ以上の収縮作動に対して緩衝装置D1は高い減衰力を発揮し、伸長作動に転じると緩衝装置D1は低い減衰力を発揮する。また、緩衝装置D1が速いピストン速度で大振幅の伸長作動を呈してからは、切換スプール53が圧側サブ減衰通路33を開放して伸側サブ減衰通路32を遮断する状態がしばらくの間維持され、それ以上の伸長作動に対して緩衝装置D1は高い減衰力を発揮し、収縮作動に転じると緩衝装置D1は低い減衰力を発揮する。
【0117】
このようにフリーピストン29の中立位置からの変位量が可変変位を超えるようになると、スカイフックダンパとしての機能する時間が長くなり、車軸側から車体への振動伝達を絶縁し続けることができる。
【0118】
なお、切換スプール53は、フリーピストン29の中立位置からの変位量が所定の伸側変位および圧側変位未満である場合に、伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33とを共に遮断するようになっているが、環状溝53aを透孔23cと透孔23eに対向させてこれらを連通し,環状溝53bを透孔23dと透孔23fに対向させてこれらを連通して、伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33とを共に有効とするように設定することも可能である。この場合には、緩衝装置D1が速いピストン速度で大振幅の収縮作動を呈してから伸長方向へ転じて、フリーピストン29が中立位置から所定の伸側変位以上変位してからその変位量が所定の伸側変位以下となっても、切換スプール53は、伸側サブ減衰通路32を開放状態に保つため、低い減衰力を発揮し続け、車軸側から車体への振動伝達を絶縁し続ける。逆に、緩衝装置Dが速いピストン速度で大振幅の伸長作動を呈してから収縮方向へ転じて、フリーピストン29が中立位置から所定の圧側変位以上変位してからその変位量が所定の圧側変位以下となっても、切換スプール53は、圧側サブ減衰通路33を開放状態に保つため、低い減衰力を発揮し続け、車軸側から車体への振動伝達を絶縁し続けることができる。したがって、フリーピストン29が中立位置から所定の伸側変位未満であって所定の圧側変位未満で変位する際に、切換機構34が伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33とを共に連通するように設定すると、よりスカイフックダンパに近似する減衰力を発揮できることになる。
【0119】
また、この緩衝装置D1にあっては、シリンダ21内に移動自在に挿入されて一端に隔壁部材としてのピストン22が固定されるピストンロッド23を備え、圧力室R6がピストンロッド23の一端に固定されるハウジング43により形成され、切換機構34が、ピストンロッド23の一端から開口して伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33の途中に設けられる弁孔35と、弁孔35内に摺動自在に挿入されてフリーピストン29の変位によって軸方向へ変位する切換スプール53とを備えているので、切換機構34をピストンロッド23の内部に組み込むことができ、これにより緩衝装置D1をコンパクトにすることができる。
【0120】
また、緩衝装置D1は、伸側サブ減衰通路32が切換機構34を介して伸側室R4へ連通される伸側サブポート37aを備えて圧側室R5に配置される伸側バルブディスク37と伸側バルブディスク37に積層されて伸側サブポート37aを開閉する伸側サブバルブ38とを備え、圧側サブ減衰通路33が切換機構34を介して圧側室R5へ連通される圧側サブポート39aを備えて伸側室R4に配置される圧側バルブディスク39と圧側バルブディスク39に積層されて圧側サブポート39aを開閉する圧側サブバルブ40とを備えているので、伸側サブ減衰通路32を通過する流体の流れに与える抵抗と圧側サブ減衰通路33を通過する流体の流れに与える抵抗とを別々に設定でき、伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33の開放の際において、伸長作動時と収縮作動時における減衰力を異ならしめることができる。
【0121】
また、この緩衝装置D1では、減衰通路31が隔壁部材としてのピストン22に設けられて伸側室R4と圧側室R5とを連通する伸側ポート31aおよび圧側ポート31cと、ピストン22の圧側室R5側に積層されて伸側ポート31aを開閉する伸側バルブ31bと、ピストン22の伸側室R5側に積層されて圧側ポート31cを開閉する圧側バルブ31dとを備えているので、伸側サブ減衰通路32と圧側サブ減衰通路33の遮断の際において、伸長作動時と収縮作動時における減衰力を異ならしめることができる。
【0122】
さらに、この緩衝装置D1にあっては、ピストンロッド23に弁孔35を伸側室R4へ連通する連通孔36を設け、切換スプール53は、一端をフリーピストン29に当接するとともに、他端から開口して伸側圧力室27へ通じるスプール内通路53cを備え、伸側流路25がスプール内通路53cと連通孔36を含んで形成されるので、伸側通路25をピストンロッド23と切換スプール53に集約することができ、他所へ伸側通路25を設ける場合に比較して、緩衝装置D1をコンパクトにすることができ、また、スプール内通路53cの途中に絞り弁等を設けておらず、切換スプール53の両端となる図4中上下端に伸側圧力室27内の圧力が作用しても切換スプール53が当該圧力によって上下方向に附勢されないので、フリーピストン29の変位に影響を与えることがない。
【0123】
そして、緩衝装置D1にあっては、隔壁部材としてのピストン22、伸側バルブ31b、圧側バルブ31dが共に環状であって、伸側バルブディスク37は、環状であって伸側バルブ31bの圧側室R5側に積層され、伸側サブバルブ38は、環状であって伸側バルブディスク37の圧側室R5側に積層され、圧側バルブディスク39は、環状であって圧側バルブ31dの伸側室R4側に積層され、圧側サブバルブ40は、環状であって圧側バルブディスク39の伸側室側に積層され、ピストン22、伸側バルブ31b、圧側バルブ31d、伸側バルブディスク37、伸側サブバルブ38、圧側バルブディスク39および圧側サブバルブ40は、ピストンロッド23の一端外周に装着されてハウジング43によってピストンロッド23に固定されるようになっているので、上記した各部材を順にピストンロッド23に組み付けるだけで伸側サブ減衰通路32および圧側サブ減衰通路33の形成ができ、固定もハウジング43によって行うことができるので組立が容易となる。さらに、伸側バルブ31b、伸側サブバルブ38、圧側バルブ31dおよび圧側サブバルブ40が互いに対面していないのでお互いが干渉せず、各々の撓みが阻害されることがないので、安定した減衰力を発揮することができる。
【0124】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の緩衝装置は、車両の制振用途に利用することができる。
【符号の説明】
【0126】
1,21 シリンダ
2,22 隔壁部材としてのピストン
3.31 減衰通路
4,23 ピストンロッド
5,25 伸側流路
7,27 伸側圧力室
6,26 圧側流路
8,28 圧側圧力室
9,29 フリーピストン
10,30 ばね要素
12,32 伸側サブ減衰通路
12a,38 伸側サブバルブ
13,33 圧側サブ減衰通路
13a,40 圧側サブバルブ
14,34 切換機構
17,43 ハウジング
31a 伸側ポート
31c 圧側ポート
31b 伸側バルブ
31d 圧側バルブ
35 弁孔
36 連通孔
37 伸側バルブディスク
37a 伸側サブポート
39 圧側バルブディスク
39a 圧側サブポート
53 切換スプール
53c スプール内通路
D,D1 緩衝装置
R1、R4 伸側室
R2,R5 圧側室
R3,R6 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、当該シリンダ内に摺動自在に挿入され当該シリンダ内を伸側室と圧側室に区画する隔壁部材と、圧力室と、上記圧力室内に軸方向へ移動自在に挿入されて当該圧力室を伸側流路を介して上記伸側室に連通される伸側圧力室と圧側流路を介して上記圧側室に連通される圧側圧力室とに区画するフリーピストンと、当該フリーピストンを上記圧力室内で中立位置に位置決めて当該フリーピストンの中立位置からの変位を抑制する附勢力を発生するばね要素とを備えた緩衝装置において、
上記伸側室と上記圧側室とを連通する減衰通路と、
上記伸側室から上記圧側室へ向かう流れのみを許容するとともに上記減衰通路に並列される伸側サブ減衰通路と、
上記圧側室から上記伸側室へ向かう流れのみを許容するとともに上記減衰通路に並列される圧側サブ減衰通路と、
上記フリーピストンが中立位置から上記伸側圧力室を圧縮する方向へ所定の伸側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路を開放するとともに圧側サブ減衰通路を遮断し、上記フリーピストンが中立位置から上記圧側圧力室を圧縮する方向へ所定の圧側変位以上変位すると伸側サブ減衰通路を遮断するとともに圧側サブ減衰通路を開放する切換機構とを
備えたことを特徴とする緩衝装置。
【請求項2】
上記シリンダ内に移動自在に挿入されて一端に上記隔壁部材が固定されるピストンロッドを備え、
上記圧力室が上記ピストンロッドの一端に固定されるハウジングにより形成され、
上記切換機構は、上記ピストンロッドの一端から開口して上記伸側サブ減衰通路と圧側サブ減衰通路の途中に設けられる弁孔と、当該弁孔内に摺動自在に挿入されて上記フリーピストンの変位によって軸方向へ変位する切換スプールとを備え、
当該切換スプールで上記伸側サブ減衰通路と圧側サブ減衰通路の開放と遮断を切換えることを特徴とする請求項1に記載の緩衝装置。
【請求項3】
上記伸側サブ減衰通路は、上記切換機構を介して伸側室へ連通される伸側サブポートを備えて上記圧側室に配置される伸側バルブディスクと当該伸側バルブディスクに積層されて上記伸側サブポートを開閉する伸側サブバルブとを備え、
上記圧側サブ減衰通路は、上記切換機構を介して圧側室へ連通される圧側サブポートを備えて上記伸側室に配置される圧側バルブディスクと当該圧側バルブディスクに積層されて上記圧側サブポートを開閉する圧側サブバルブとを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の緩衝装置。
【請求項4】
上記減衰通路は、上記隔壁部材に設けられて上記伸側室と上記圧側室とを連通する伸側ポートおよび圧側ポートと、上記隔壁部材の圧側室側に積層されて上記伸側ポートを開閉する伸側バルブと、上記隔壁部材の伸側室側に積層されて上記圧側ポートを開閉する圧側バルブとを備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の緩衝装置。
【請求項5】
上記ピストンロッドに上記弁孔を伸側室へ連通する連通孔を設け、上記切換スプールは、一端を上記フリーピストンに当接するとともに、他端から開口して上記伸側圧力室へ通じるスプール内通路を備え、上記伸側流路が上記スプール内通路と連通孔を含んで形成されることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の緩衝装置。
【請求項6】
上記隔壁部材、上記伸側バルブ、上記圧側バルブは共に環状であって、
上記伸側バルブディスクは、環状であって上記伸側バルブの圧側室側に積層され、
上記伸側サブバルブは、環状であって上記伸側バルブディスクの圧側室側に積層され、
上記圧側バルブディスクは、環状であって上記圧側バルブの伸側室側に積層され、
上記圧側サブバルブは、環状であって上記圧側バルブディスクの伸側室側に積層され、
上記隔壁部材、上記伸側バルブ、上記圧側バルブ、上記伸側バルブディスク、上記伸側サブバルブ、上記圧側バルブディスクおよび上記圧側サブバルブは、上記ピストンロッドの一端外周に装着されて上記ハウジングによって当該ピストンロッドに固定されることを特徴とする請求項4または5に記載の緩衝装置。
【請求項7】
上記切換機構は、上記フリーピストンが中立位置にある場合に、伸側サブ減衰通路と圧側サブ減衰通路を開放することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の緩衝装置。
【請求項8】
上記切換機構は、上記フリーピストンが中立位置にある場合に、伸側サブ減衰通路と圧側サブ減衰通路を遮断することを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の緩衝装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−207749(P2012−207749A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74945(P2011−74945)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】