説明

繊維強化樹脂、繊維強化樹脂の製造方法、繊維強化樹脂の製造装置

【課題】強度と寸法精度に優れた繊維強化樹脂を製造し、量産時の製品の品質のばらつきを抑制する。
【解決手段】成形型のキャビティ部に強化繊維基材を設置し、成形終了時よりも距離X1開いた状態の成形型のキャビティ部に樹脂を注入する第1工程、キャビティ部の樹脂を排出させながら、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じる第2工程、キャビティ部の樹脂排出を停止し、型締め圧を予め設定した値に保持して樹脂を硬化させながら、成形終了時の距離まで成形型を閉じる第3工程を、この順序で行う。これによって強化繊維基材に樹脂を均質に含浸させ、適切な樹脂量を確保しつつ、製品にヒケが発生するのを防止して樹脂を硬化させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂と、その製造方法、製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂は、強化繊維基材を含有する樹脂を用いて成形し、硬化させることによって製造することができる。高品質の繊維強化樹脂を製造するためには、強化繊維基材に均質に樹脂を含浸させる必要がある。例えば、特許文献1では、成形型のキャビティ部において、キャビティ内面と強化繊維基材との間に隙間を確保し、この隙間に製品相当量の樹脂注入を行ったあと、成形型を閉じてキャビティ部を狭くして、強化繊維基材に樹脂を行き渡らせる。また、特許文献2では、製品自体に必要な樹脂量に対して余剰量となる樹脂を強化繊維基材に予め含浸させ、これを上下の成形型のキャビティ部に設置する。そして、成形型を閉じていき、樹脂を樹脂排出孔に導入することによって、成形型に製品を密着させて、製品を成形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−271551号公報
【特許文献2】特開昭63−286306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強度と寸法精度に優れた繊維強化樹脂を製造するためには、適量の樹脂を均質にキャビティ部内に行き渡らせ、均質に硬化させる必要がある。特許文献1に記載された技術では、製品相当量の樹脂を注入するのみであるため、樹脂注入量に過不足が生じ易く、量産時において、繊維強化樹脂の品質のばらつきが発生し易い。特許文献2に記載された技術では、余剰な樹脂を排出する工程において成形型を閉じ切ってしまうため、その後に行う樹脂の硬化時にヒケ(樹脂の成形収縮によって生じる窪み)が発生し、製品の強度や寸法精度が損なわれる。
【0005】
本願は、かかる課題を解決し、適量の樹脂を均質にキャビティ内に含浸させ、均質に硬化させることによって、強度と寸法精度に優れた繊維強化樹脂を製造し、量産時の製品の品質のばらつきを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の繊維強化樹脂の製造方法では、成形型のキャビティ部に配置した強化繊維基材に樹脂を含浸させて成形する。この製造方法は、成形型のキャビティ部に強化繊維基材を設置し、成形終了時よりも距離X1開いた状態の成形型のキャビティ部に樹脂を注入する第1工程と、第1工程の後に、キャビティ部の樹脂を排出させながら、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じる第2工程と、第2工程の後に、キャビティ部の樹脂排出を停止し、型締め圧を予め設定した値に保持して樹脂を硬化させながら、成形終了時の距離まで成形型を閉じる第3工程とを含んでいる。
【0007】
上記の製造方法によれば、第1工程において、成形終了時よりも距離X1開いた状態の成形型のキャビティ部に樹脂を注入することによって、強化繊維基材とキャビティ部内面の隙間に樹脂を行き渡らせた後、第2工程において、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じるため、強化繊維基材に樹脂を均質に含浸させることができる。さらに、第3工程では、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じた状態でキャビティ部の樹脂排出を停止し、型締め圧を予め設定した値に保持して樹脂を硬化させながら、成形終了時の距離まで成形型を閉じることによって、適切な樹脂量を確保しつつ、製品にヒケが発生するのを防止することができる。
【0008】
上記の製造方法においては、第1工程において、成形型のキャビティ部に強化繊維基材と共に、樹脂拡散媒体を設置してもよい。樹脂が流動しにくい箇所に樹脂拡散媒体を設置することによって、樹脂をより均質に含浸させることができる。
【0009】
上記の製造方法は、成形型を成形終了時よりも距離X1だけ開いた状態に調整し、その後、成形型を閉じ、成形終了時よりも距離X2だけ開いた状態に調整する位置調整手段と、成形終了時よりも距離X1だけ開いた状態の成形型のキャビティ部内に樹脂を注入する樹脂注入手段と、成形型が距離X2まで閉じられる過程において、キャビティ部内の余剰樹脂を排出させる排出手段と、余剰樹脂の排出が完了した後に、キャビティ部を外部と遮断する遮断手段と、キャビティ部を外部と遮断した後に、樹脂の硬化完了まで型締め圧を予め設定した値に保持する型締め圧調整手段とを備えた繊維強化樹脂の製造装置によって実現することができる。
【0010】
上記の製造装置は、強化繊維基材の位置を保持するための基材保持手段をさらに含んでいることが好ましい。成形終了時よりも距離X1だけ開いた状態の成形型のキャビティ部内に樹脂を注入する場合に、強化繊維基材の位置がずれることを抑制することができる。
【0011】
上記の製造方法によって製造される繊維強化樹脂は、立ち壁部分を有しており、立ち壁部分の強化繊維基材の樹脂含浸性が、それ以外の部分の強化繊維基材の樹脂含浸性よりも高くなっていてもよい。ここで、立ち壁部分とは、キャビティ面と、成形後の繊維強化樹脂の型抜き方向との角度θが15°以下となっている部分を意味する。立ち壁部分は、樹脂が流動含浸する抵抗が大きくなるが、強化繊維基材の樹脂含浸性を向上させることによって、樹脂をより均質に含浸させることができる。
【0012】
上記の製造方法によって製造される繊維強化樹脂は、成形型を閉じる方向に直交する多重壁面と、多重壁面間に設けられた連結構造とを備えていてもよい。連結構造を介して樹脂が移動できるため、多重壁面を有する部品であっても、樹脂を均質に含浸させることができる。
【0013】
上記の連結構造には、強化繊維基材が設置されていてもよい。この場合、連結構造の強化繊維基材の樹脂含浸性は、多重壁面の強化繊維基材の樹脂含浸性よりも高くなっていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊維強化樹脂において、適量の樹脂を均質にキャビティ内に行き渡らせ、均質に硬化させることができる。強度と寸法精度に優れた繊維強化樹脂を製造することができ、量産時の製品の品質のばらつきを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例1の製造装置を示す図。
【図2】実施例1の成形型、減圧装置、樹脂注入装置を示す図。
【図3】実施例1の製造工程を説明する図。
【図4】実施例1の製造工程を説明する図。
【図5】実施例1の製造工程を説明する図。
【図6】実施例1の製造工程を説明する図。
【図7】実施例2の成形型に強化繊維基材等を設置した状態を示す図。
【図8】実施例3の成形型に強化繊維基材を設置した状態を示す図。
【図9】実施例4の強化繊維基材を成形型に設置した状態を示す図。
【図10】変形例の強化繊維基材を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に説明する実施例の主要な特徴を以下に列記する。
(特徴1)繊維強化樹脂の製造装置は、減圧手段を備えている。
【実施例1】
【0017】
以下、本発明の実施例1について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施例に係る繊維強化樹脂の製造装置1を示す図である。製造装置1は、成形型10と、成形型10に接続された減圧装置20および樹脂注入装置30と、成形型10を上下方向に加圧する型閉じ装置40とを備えている。成形型10は上型101と下型102を有し、それらの間には製品形状に対応するキャビティ部11が形成されている。製造装置1は、上型101と下型102とによって囲まれたキャビティ部11に樹脂を注入し、型閉じ装置40によって加圧しながら硬化させることによって、注入した樹脂の成形を行うことができる。型閉じ装置40は、成形型10の型閉じ位置を調整する位置調整手段(図示しない)と、成形型10に加える型締め圧を調整する型締め圧調整手段(図示しない)とを備えている。
【0018】
図2は、成形型10と、これに接続する減圧装置20および樹脂注入装置30とを示す図である。図2においては、成形型10は開いた状態となっており、成形型が閉じると、上型101のキャビティ面111と、下型102のキャビティ面112とによって囲まれた部分がキャビティ部11となる。下型102の上面側(キャビティ面112側)には弾性体のシール材153が設けられている。シール材153は、下型102の周縁部に沿って設けられ、キャビティ面112よりも外周側に位置しており、キャビティ面112を取り囲んでいる。成形型10が閉じられた場合には、シール材153によって、キャビティ部11と外部とが遮断される。
【0019】
上型102のキャビティ面111には、基材保持手段151、152が設けられている。基材保持手段151、152は、成形型10を閉じたときに、キャビティ部11内に設置された強化繊維基材に当接する位置に設けられている。基材保持手段151、152は、弾性体であり、成形型10を閉じると、その弾性力によって強化繊維基材を保持することができる。本実施例では、基材保持手段151は、球状の弾性体であり、基材保持手段152は、上型102のキャビティ面111の外縁に沿って一連となった環状の弾性体である。
【0020】
上型101には、そのキャビティ面111に開口する排出路105が形成されている。排出路105は、減圧バルブ21を介して、減圧装置20に接続されている。排出路105と減圧バルブ21を接続する経路上には、樹脂排出バルブ22に接続する分岐部が設けられている。排出路105には、キャビティ面111近傍の位置に、バルブ106が設置されている。また、上型101には、キャビティ面111と樹脂注入装置30とを接続する樹脂注入路103が設けられている。樹脂注入路103には、キャビティ面111近傍の位置に、バルブ104が設置されている。さらに、上型101には、キャビティ面111よりも外側であって、下型102のシール材153が当接する位置よりも内側の位置に、樹脂溜め108が設けられている。
【0021】
次に、図3〜図6を用いて、本実施例に係る繊維強化樹脂製品の製造方法について説明する。図3〜図6は、図2に示す成形型10の状態を示しており、図2に記載された減圧装置20や樹脂注入装置30については、記載を省略している。
【0022】
(第1工程)
先ず、図3に示すように、開放した成形型10の下型102のキャビティ面112へ、強化繊維基材120を設置しておく。強化繊維基材120としては、例えば、炭素繊維等を用いることができる。樹脂注入路103に設置されたバルブ104は閉じており、排出路105に設置されたバルブ106は開いた状態となっている。減圧バルブ21と樹脂排出バルブ22は、閉じた状態となっている。
【0023】
次に、図4に示すように、上型101の下面側と下型102の上面側との距離が、成形終了時よりもX1開いた状態となるまで、成形型10を閉じる。本実施例では、成形終了時には、上型101の下面側と下型102の上面側との距離はX3となるから、図4に示すように、上型101の下面側と下型102の上面側との距離はX1+X3となる。型閉じ装置40に備えられた位置調整手段は、上型101の下面側と下型102の上面側との距離がX1+X3となるように、型閉じの位置調整を行う。X1は、0.5〜2mm程度の値に設定されることが好ましい。
【0024】
この状態において、シール材153は、上型101の下面側に圧接した状態となっており、バルブ104、106を閉じた状態にすれば、キャビティ部11は、外部から遮断された状態となる。基材保持手段151、152は、強化繊維基材120に圧接しており、弾性力によって強化繊維基材120を保持している。
【0025】
バルブ104を閉じ、バルブ106を開いた状態で、減圧装置20を運転し、減圧バルブ21を開いて、排出路105からキャビティ部11内を減圧する。例えば、キャビティ部11内の圧力が、大気圧よりも90kPa程度低くなるまで、減圧装置20を稼動させる。尚、樹脂排出バルブ22は閉じられている。
【0026】
次に、減圧装置20を停止し、減圧バルブ21を閉じた後で、バルブ104を開け、樹脂注入装置30を稼動させて、樹脂注入路103から、キャビティ部11内に樹脂注入を行う。繊維強化樹脂製品に必要な量に対して余剰量の樹脂(必要量よりも多量の樹脂)がキャビティ部11内に注入される。上型101の下面側と下型102の上面側との距離が、成形終了時よりもX1開いた状態となっているので、キャビティ部11内では、強化繊維基材120の上方に、高さX1ほどの隙間が空いている。このため、樹脂注入を行うと、図4に示すように、この隙間部分全体に樹脂130が行き渡る。強化繊維基材120は、基材保持手段151、152によって保持されているため、高さX1ほどの隙間が空いた状態で樹脂注入を行っても、樹脂の流動によって強化繊維基材120がずれることを防止できる。
【0027】
尚、本実施例においては、製造装置1は減圧装置20を備えていたが、減圧装置20は、必須の構成ではない。製造する繊維強化樹脂製品の形状が簡素なものである場合には、第1工程において、キャビティ部11内を減圧することなく樹脂注入を行ってもよい。製造する繊維強化樹脂製品の形状が複雑なものである場合には、本実施例において説明したように、キャビティ部11内を減圧した後に、樹脂注入を行うことが好ましい。これによって、ボイドの少ない高品質の製品を製造することができる。
【0028】
(第2工程)
樹脂注入完了後、バルブ104を閉じる。バルブ106は開放したままで、型閉じ装置40に備えられた位置調整手段によって、上型101の下面側と下型102の上面側との距離がX2+X3となるように、型閉じの位置調整を行う。これによって、成形終了時よりもX2開いた状態となるまで、成形型10が閉じられる。X2<X1であるので、キャビティ部11内の容積は減少し、第1工程において、「高さX1ほどの隙間」に充填された樹脂130が、強化繊維基材120側に向かって押し出され、強化繊維基材120は、樹脂によって含浸された状態となる。余剰な樹脂131、132は、強化繊維基材120を通過して、基材保持手段152の外側に流出し、樹脂溜め108に溜まり、排出路105へと移動するので、樹脂排出バルブ22を適宜開いて、余剰な樹脂を排出させる。X2は、X2<X1であって、かつ、製品肉厚の3〜15%程度の値に設定されることが好ましい。
【0029】
尚、本実施例においては、1つの排出路105が設けられていたが、複数の排出路を設置してもよい。また、キャビティ部11内の内圧を検知する内圧検知手段をさらに備えていてもよい。これによって、例えば、キャビティ部11内の内圧を検知し、その検知値に基づいて、複数の排出路の開閉状態(開閉するタイミングや開度、並びに、開放する排出路の数や組み合わせなど)を調整することによって、キャビティ部11内の内圧を制御することもできる。このようにすれば、樹脂の流動状態や、強化繊維基材の含浸状態をより均一化することができる。
【0030】
(第3工程)
樹脂排出完了後に、排出路105のバルブ106を閉じる。次に、型閉じ装置40に備えられた型閉じ圧調整手段によって、予め設定された一定の型閉じ圧が成形型10に加圧されるように制御する。型閉じ装置40は、油圧プレス、エアプレス、サーボモータ等の成形型10に型閉じ圧を加圧する手段を備えている。型閉じ圧調整手段は、型閉じ圧を加圧する手段を調整して、上型101の下面側と下型102の上面側との距離がX2+X3から、X3となるまで、型閉じ圧を保持する。型閉じ圧調整手段が、型閉じ圧を保持した状態のもとで、樹脂の硬化を行う。
【0031】
樹脂の硬化が進行するに従って、樹脂が収縮する。本実施例では、型閉じ装置40に備えられた型閉じ圧調整手段によって一定の型閉じ圧が成形型10に加圧されているから、樹脂の収縮に伴い、成形型10が次第に閉じて、図6の状態となる。図6に示す成形終了時には、上型101の下面側と下型102の上面側との距離はX3となる。成形型10が図6に示す状態となって、樹脂の硬化が完了した後に、成形型10を開いて、繊維強化樹脂製品を取り出す。
【0032】
上記のとおり、本実施例においては、第1工程において、成形終了時よりも距離X1開いた状態の成形型のキャビティ部に樹脂を注入することによって、強化繊維基材とキャビティ部内面の隙間に樹脂を行き渡らせた後、第2工程において、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じるため、強化繊維基材に樹脂を均質に含浸させることができる。さらに、第3工程では、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じた状態でキャビティ部の樹脂排出を停止し、型締め圧を予め設定した値に保持して樹脂を硬化させながら、成形終了時の距離まで成形型を閉じるため、適切な樹脂量を確保しつつ、製品にヒケが発生するのを防止することができる。
【0033】
また、第1工程の距離X1を適切に管理することによって、第2工程で排出させる余剰な樹脂量を適切に管理し、樹脂の圧力が高くなり過ぎないようにすることができる。また、第2工程の距離X2を適切に管理することによって、製品の樹脂量を適切に管理することができる。距離X1、X2を管理することによって、適切な樹脂量を管理できるため、樹脂注入器によって注入する樹脂量を厳密に管理する必要がなく、量産時に、製品ごとに樹脂量がばらつくことを抑制できる。
【実施例2】
【0034】
実施例2では、図7に示す成形型50を用いて、コア材をその内部に包含する繊維強化樹脂製品を製造する場合について説明する。図7に示す成形型50を、成形型10に代えて、図1に示す製造装置1に設置し、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うことによって、コア材をその内部に包含する繊維強化樹脂製品を製造することができる。
【0035】
図7に示すように、成形型50は、下型502のキャビティ面512の突出部が、図2に示す成形型10のキャビティ面112よりも低くなっている。その他の構成については、成形型10と同様であるため、図2に示す成形型10に備えられた100番台の符号について、500番台に読み替えることとし、詳細な説明を省略する。
【0036】
実施例2においては、第1工程において、図7に示すように、下型502のキャビティ面512に、まず、樹脂拡散媒体521を設置し、その上に、コア材522をその内部に包含する強化繊維基材520を設置する。コア材522としては、例えば、硬質発泡ウレタン、発泡ポリメタクリルを用いることができる。強化繊維基材520としては、例えば、炭素繊維を用いることができる。
【0037】
樹脂拡散媒体521は、強化繊維基材520と、下型502のキャビティ面512に、樹脂が流動するための空間を確保するために設置される。樹脂拡散媒体521としては、例えば、厚み0.8mm、開口率80%以上のナイロンメッシュを用いることができる。
【0038】
成形型50を用いる場合には、第1工程において、上型501側に設けられた樹脂注入路503から樹脂を注入すると、樹脂の圧力によって、強化繊維基材520およびコア材522が、下型502のキャビティ面512に向かって押しつけられる。キャビティ面512と強化繊維基材520との間に樹脂拡散媒体521が無い場合には、強化繊維基材520およびコア材522が下型502のキャビティ面512に向かって押しつけられると、強化繊維基材520のキャビティ面512側の部分は、樹脂によって含浸されにくくなる。この場合、樹脂の圧力をより高くする等によって、強化繊維基材520のキャビティ面512側の部分にも樹脂を含浸させることは可能であるが、樹脂の圧力を高くすることによって、コア材522に樹脂が浸透してしまったり、成形型50のシール材553の耐圧を超えてしまう場合がある。
【0039】
本実施例では、キャビティ面512と強化繊維基材520との間に樹脂拡散媒体521が設置されている。このため、樹脂の圧力によって、強化繊維基材520およびコア材522が、下型502のキャビティ面512に向かって押しつけられても、樹脂拡散媒体521によって、強化繊維基材520とキャビティ面512とが離間される。樹脂拡散媒体521は、開口率が高い材料が用いられており、これによって樹脂が流動するための空間が確保される。樹脂は、強化繊維基材520とキャビティ面512との間に設置された樹脂拡散媒体521を通過して流動するため、樹脂の圧力を高くすることなく、強化繊維基材520のキャビティ面512側の部分にも樹脂を含浸させることができる。
【0040】
上記のとおり、本実施例に係る成形型50を用いて、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うと、コア材などを用いて、成形型を閉じる方向に直交する多重壁を有する繊維強化樹脂製品を製造することができる。この場合、樹脂が流動しにくい箇所に樹脂拡散媒体を設置すれば、樹脂圧力を高くしなくても、樹脂をより均質に含浸させることができる。
【実施例3】
【0041】
実施例3では、図8に示す成形型60を用いて、立ち壁部分を含む繊維強化樹脂製品を製造する場合について説明する。図8に示す成形型60を、成形型10に代えて、図1に示す製造装置1に設置し、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うことによって、立ち壁部分を含む繊維強化樹脂製品を製造することができる。
【0042】
図8に示すように、成形型60は、上型601のキャビティ面611、下型602のキャビティ面612の形状が、図2に示す成形型10のキャビティ面111、112と異なっている。図8は、上型601の下面側と下型602の上面側との距離がX4であり、成形終了時よりもX1開いた状態となるまで、成形型60を閉じた状態を示している。成形型60のキャビティ部には、立ち壁部分66が存在する。成形型60のその他の構成については、成形型10と同様であるため、図2に示す成形型10に備えられた100番台の符号について、600番台に読み替えることとし、詳細な説明を省略する。
【0043】
立ち壁部分66は、下型602のキャビティ面612、もしくは上型601のキャビティ面611と、図8の下方に示す繊維強化樹脂製品の型抜き方向との角度θ(型抜き角)が、0≦θ≦15°となっている部分である。立ち壁部分66のキャビティ面611、612に垂直な方向の距離をD1とすると、距離D1は、上型601の下面側と下型602の上面側との距離X4に対して、D1=X4sinθとなる。0≦sinθ≦sin15°であり、sin15°=0.259であるから、D1は、X4の約1/4となる。同様に、θ=5°の場合には、D1は、X4の約1/10となる。型抜き角θが小さくなるほど、X4に対してD1が小さくなる。D1は、立ち壁部分66の樹脂の流路の幅であるから、立ち壁部分66においては、上型601の下面側と下型602の上面側との距離X4に対して、樹脂の流路の幅となる距離D1が著しく小さくなる。このため、立ち壁部分66においては、他の部分と比較して、樹脂が流動しにくい。立ち壁部分66が大きい場合や、樹脂の粘度が高い場合(樹脂の硬化過程において粘度上昇率が高い場合を含む)には、立ち壁部分66の強化繊維基材662に樹脂を含浸させることが困難となる。
【0044】
本実施例では、立ち壁部分66に設置する強化繊維基材662の樹脂含浸性が、それ以外の部分(型抜き角が15°よりも大きい部分)に設置する強化繊維基材620の樹脂含浸性と比べて、高くなっている。例えば、強化繊維基材の目付け量を小さくすることによって、樹脂含浸性を高くすることができる。また、同じ目付け量で比較すると、平織基材は、多軸織基材よりも樹脂含浸性が高い。
【0045】
具体的には、例えば、強化繊維基材620として、炭素繊維の多軸織基材であって、Vf=55%のものを用いた場合には、強化繊維基材662としては、炭素繊維の多軸織基材であって、Vf=45%のものを用いればよい。あるいは、例えば、強化繊維基材662としては、炭素繊維の平織基材であって、Vf=55%のものを用いればよい。
【0046】
上記のとおり、本実施例に係る成形型60を用いて、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うと、立ち壁部分66を含む繊維強化樹脂製品を製造することができる。立ち壁部分66が大きい場合や、樹脂の粘度が高い場合には、樹脂が流動しにくい立ち壁部分66に設置する強化繊維基材662の樹脂含浸性が、それ以外の部分に設置する強化繊維基材620の樹脂含浸性と比べて高くなるように、繊維強化樹脂製品を設計すれば、立ち壁部分66にも樹脂をより均質に含浸させることができ、強度と寸法精度に優れた製品を得ることができる。
【0047】
尚、本実施例において説明した、「立ち壁部分を有する繊維強化樹脂製品において、立ち壁部分に設置する強化繊維基材の樹脂含浸性を、それ以外の部分に設置する強化繊維基材の樹脂含浸性と比べて高くする」ことは、実施例1の第1工程、第2工程、第3工程を備えた製造方法以外に適用しても、立ち壁部分に樹脂をより均質に含浸させ易くするという効果を得ることができる。
【実施例4】
【0048】
実施例4では、図9に示す成形型50を用いて、コア材をその内部に包含する繊維強化樹脂製品を製造する場合について説明する。図9に示す成形型50を、成形型10に代えて、図1に示す製造装置1に設置し、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うことによって、コア材をその内部に包含する繊維強化樹脂製品を製造することができる。図9に示す成形型50は、図7に示す成形型と同一であるため、重複説明を省略する。
【0049】
本実施例においては、成形型50に、図9に示すように、コア材722、723をその内部に包含する強化繊維基材720を設置する。コア材、強化繊維基材としては、例えば、実施例2において説明した材料を用いることができる。強化繊維基材720の上面部720uと中央部720mとの間に、コア材723が設置されており、強化繊維基材720の中央部720mと下面部720dとの間に、コア材722が設置されている。強化繊維基材720の上面部720uから中央部720mに向かって、複数のリブ771、772がコア材723を貫通しており、強化繊維基材720の中央部720mから下面部720dに向かって、複数のリブ781、782がコア材722を貫通している。中央部720mを介して、リブ771とリブ781は連結されており、リブ772とリブ782は連結されている。
【0050】
本実施例では、上記の強化繊維基材720を用いて、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行うことによって、型閉じ方向に直交する多重壁面(強化繊維基材720の上面部720u、中央部720m、下面部720d)を有しており、その多重壁面間に連結構造(リブ771、772、781、782)を備えた繊維強化樹脂製品を製造する。本実施例では、上型501側に設けられた樹脂注入路503から樹脂を注入すると、リブ771、772によって、強化繊維基材720の上面部720uから、中央部720mへと樹脂が流動する。同様に、リブ781、782によって、強化繊維基材720の中央部720mから、下面部720dへと樹脂が流動する。これによって、樹脂注入路503からより遠い中央部720m、下面部720dに樹脂が供給される。
【0051】
上記のとおり、本実施例に係る成形型50を用いて、実施例1において説明した第1工程、第2工程、第3工程を行って、多重壁面を有する繊維強化樹脂製品を製造する場合には、互いの多重壁面を連結する連結構造(リブ771、772、781、782)によって、より樹脂が供給されやすい壁面部分(例えば上面部720u)と、樹脂が供給されにくい壁面部分(例えば中央部720m、下面部720d)とが連結されるように、繊維強化樹脂製品を設計する。これによって、樹脂の流動経路が確保され、樹脂をより均質に含浸させることができ、強度と寸法精度に優れた製品を得ることができる。
【0052】
尚、本実施例に係る多重壁面と連結構造とを備えた繊維強化樹脂は、図10に示すように、リブ771〜773と、リブ781〜784が、中央部720mを介して連結されていなくともよい。リブ781〜784の隣接する2つのリブの間(例えば、リブ781とリブ7782との中間)に、リブ771〜773のうちの1つ(例えば、リブ771)が形成されていてもよい。
【0053】
また、図9や図10に示すリブ771〜773、リブ781〜784には、強化繊維基材や、実施例2において説明した樹脂拡散媒体等を充填してもよい。強化繊維基材720が、樹脂の圧力等によって押された場合に、リブが狭くなったり、閉塞したりすることを防ぐことができる。
【0054】
尚、本実施例において説明した、「多重壁面を有する繊維強化樹脂製品において、互いの多重壁面を連結する連結構造によって、より樹脂が供給されやすい壁面部分と、樹脂が供給されにくい壁面部分とを連結する」ことは、実施例1の第1工程、第2工程、第3工程を備えた製造方法以外に適用しても、樹脂が供給されにくい壁面部分に樹脂を含浸させ易くするという効果を得ることができる。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0056】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0057】
1 製造装置
10、50、60 成形型
11 キャビティ部
20 減圧装置
21 減圧バルブ
22 樹脂排出バルブ
30 樹脂注入装置
40 型閉じ装置
66 立ち壁部分
101、501、601 上型
102、502、602 下型
103、503、603 樹脂注入路
104、504、604 バルブ
105、505、605 排出路
106、506、606 バルブ
108、508、608 樹脂溜め
111、511、611 上型のキャビティ面
112、512、612 下型のキャビティ面
120、520、620、662、720 強化繊維基材
130、131、132 樹脂
151、152、551、552、651、652 基材保持手段
153、553、653 シール材
521 樹脂拡散媒体
522、722、723 コア材
720d 強化繊維基材の下面部
720m 強化繊維基材の中央部
720u 強化繊維基材の上面部
771、772、773、781、782、783、784 リブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型のキャビティ部に配置した強化繊維基材に樹脂を含浸させて成形する繊維強化樹脂の製造方法であって、
成形型のキャビティ部に強化繊維基材を設置し、成形終了時よりも距離X1開いた状態の成形型のキャビティ部に樹脂を注入する第1工程と、
第1工程の後に、キャビティ部の樹脂を排出させながら、成形終了時よりも距離X2開いた状態まで成形型を閉じる第2工程と、
第2工程の後に、キャビティ部の樹脂排出を停止し、型締め圧を予め設定した値に保持して樹脂を硬化させながら、成形終了時の距離まで成形型を閉じる第3工程とを含むことを特徴とする繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項2】
成形型を成形終了時よりも距離X1だけ開いた状態に調整し、その後、成形型を閉じ、成形終了時よりも距離X2だけ開いた状態に調整する位置調整手段と、
成形終了時よりも距離X1だけ開いた状態の成形型のキャビティ部内に樹脂を注入する樹脂注入手段と、
成形型が距離X2まで閉じられる過程において、キャビティ部内の余剰樹脂を排出させる排出手段と、
余剰樹脂の排出が完了した後に、キャビティ部を外部と遮断する遮断手段と、
キャビティ部を外部と遮断した後に、樹脂の硬化完了まで型締め圧を予め設定した値に保持する型締め圧調整手段とを備えた繊維強化樹脂の製造装置。
【請求項3】
強化繊維基材の位置を保持するための基材保持手段をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂の製造装置。
【請求項4】
第1工程において、成形型のキャビティ部に強化繊維基材と共に、樹脂拡散媒体を設置することを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法によって製造される繊維強化樹脂であって、
立ち壁部分を含んでおり、
立ち壁部分の強化繊維基材の樹脂含浸性が、それ以外の部分の強化繊維基材の樹脂含浸性よりも高くなっていることを特徴とする繊維強化樹脂。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法によって製造される繊維強化樹脂であって、
型閉じ方向に直交する多重壁面と、
多重壁面間に設けられた連結構造とを備えた繊維強化樹脂。
【請求項7】
連結構造には、強化繊維基材が設置されていることを特徴とする請求項6に記載の繊維強化樹脂。
【請求項8】
連結構造の強化繊維基材の樹脂含浸性は、多重壁面の強化繊維基材の樹脂含浸性よりも高くなっていることを特徴とする請求項7の繊維強化樹脂。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2011−847(P2011−847A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147381(P2009−147381)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】