説明

繊維強化樹脂シートの製造装置及びその製造方法

【課題】これまでに比べ、より短い時間かつ安価に、マトリクス樹脂を強化繊維基材内部に均一に含浸することができる繊維強化樹脂シートの製造装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂シートを製造する製造装置は、含浸ロール10に熱可塑性樹脂Pを加圧して供給する樹脂供給部31と、含浸ロール10を回転駆動させるモータ32とを備える。含浸ロール10は、軸芯CL周りの回転方向に対して固定されると共に樹脂供給部31に接続された内筒部11と、内筒部11を内部に内挿すると共に、モータ32に連結された外筒部12と、を備える。内筒部11には搬送方向Lの上流側に向った周方向の位置に、第1のスリット11が形成されており、外筒部12には、軸方向に沿って形成された複数の第2のスリットが、周方向に等間隔に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維基材とマトリクス樹脂とを一対の含浸ロール間に導入し、強化繊維基材にマトリクス樹脂を好適に含浸することができる繊維強化樹脂材の製造装置及び繊維強化樹脂シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸した繊維強化樹脂材(FRP)は、金属材料に比べて軽量であり、樹脂材料に比べて高強度であるので、車両用部材等の適用に注目されている材料である。
【0003】
このような繊維強化樹脂材は、連続した長繊維などの強化繊維からなる強化繊維基材を用いて、この強化繊維基材に予めマトリクス樹脂を含浸した繊維強化樹脂シート(プリプレグシート)として使用されるのが一般的である。
【0004】
このような繊維強化樹脂シートを製造する技術として、例えば、開繊した強化繊維基材の表面に、マトリクス樹脂の粉体を付着させ、これを加熱ローラにより加熱・加圧する技術(例えば、特許文献1参照)や、この粉体(粉末)を有機溶媒に分散させ、これを強化繊維に付着して、これをローラにより加熱・加圧する技術(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。また、この他にもシート状のマトリクス樹脂とシート状の強化繊維基材とをロール間に導入しながらこれらを加熱及び加圧する技術(例えば、特許文献3)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−278218号公報
【特許文献2】特開2005−239843公報
【特許文献3】特開平11−114953公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の製造装置を用いた場合、強化繊維基材に付着するマトリクス樹脂の形態は粉体であるので、強化繊維基材への付着量を管理にし難く、強化繊維基材へのマトリクス樹脂の付着量にばらつきが出易くなる。また、粉体が付着した強化繊維基材を加熱ロールで挟圧したとしても、強化繊維基材の内部に入り込んだ粉体に熱が届かないこともあり、均質にマトリクス樹脂が含浸されない場合がある。
【0007】
この点を鑑みると、特許文献2に記載の製造装置を用い場合、有機溶媒に分散した粉体(粉末)を用いて含浸するので、上記装置を用いた場合に比べて、付着量のばらつきを抑え、均質にマトリクス樹脂を含浸させることができる。しかしながら、粉体を有機溶媒に分散する工程、及び有機溶媒を強化繊維基材から揮発させる工程が必要となり、工程が煩雑となり、これまでのものに比べて製造時間が長くなる傾向にある。
【0008】
一方、特許文献3に記載の製造装置を用いた場合、シート状のマトリクス樹脂を強化繊維基材に充分に含浸させるためには、複数の一対ロールで連続して加熱しながら挟圧する必要がある。このため、上述したものに比べて、多くの加熱・加圧が必要となり、製造コストが増加する傾向にある。さらに、PPなどの熱可塑性樹脂は、溶融状態でも粘度が高いため、仮にシート状に溶融した熱可塑性樹脂を強化繊維基材と共に加圧しても、充分に含浸できないことがある。
【0009】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、未硬化の熱硬化性樹脂ばかりでなく、たとえ粘度の高い熱可塑性樹脂のようなマトリクス樹脂であっても、これまでの装置を用いた場合に比べてより短い時間かつ安価に、これを強化繊維基材内部に均一に含浸することができる繊維強化樹脂シートの製造装置及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決すべく、本発明に係る繊維強化樹脂シートの製造装置は、一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールを回転させながら該含浸ロール間でマトリクス樹脂と共に挟圧することにより、該マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸して繊維強化樹脂シートを製造することを前提として、以下の特徴部分を有する。
【0011】
すなわち、本発明に係る繊維強化樹脂シートの製造装置は、各含浸ロールに前記マトリクス樹脂を加圧して供給する樹脂供給部と、前記各含浸ロールを回転駆動させる回転駆動部とを備えており、前記一対の含浸ロールは、軸芯周りの回転方向に対して固定されると共に、前記マトリクス樹脂が内部に充填されるように前記樹脂供給部に接続された内筒部と、該内筒部を内部に内挿すると共に、軸芯周りに回転するように前記回転駆動部に連結された外筒部と、を少なくとも備えており、前記内筒部には、前記内部に供給されたマトリクス樹脂が、前記一対の含浸ロールから前記強化繊維基材の搬送方向の上流側に向って吐出される周方向の位置に、第1のスリットが軸方向に沿って形成されており、前記外筒部には、軸方向に沿って形成された複数の第2のスリットが、周方向に等間隔に設けられていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、樹脂供給部により、強化繊維基材に含浸するためのマトリクス樹脂を加圧して、一対の含浸ロールの内筒部に供給する。マトリクス樹脂が熱硬化性樹脂である場合には、未硬化の熱硬化性樹脂を供給し、熱可塑性樹脂の場合には、加熱して軟化した熱可塑性樹脂を供給することができる。
【0013】
そして、回転駆動部により、一対の含浸ロールの外筒部を回転させる。軸芯周りの回転方向に対して内筒部が固定されているので、内部に供給されたマトリクス樹脂が、搬送方向の上流側の一定方向に、第1のスリットを介して吐出される。さらに、内筒部から吐出されたマトリクス樹脂は、第1及び第2のスリットが一致したときに、回転している外筒部の第2のスリットを介して前記上流側の一定方向に吐出される。
【0014】
このような状態で、一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材のうち、これら含浸ロールから上流側の強化繊維基材(すなわち、一対の含浸ロール間に導入される直前の強化繊維基材)の幅方向に沿った表面にマトリクス樹脂を断続的に供給することができる。
【0015】
そして、マトリクス樹脂の供給の直後に、含浸ロールの回転により、マトリクス樹脂が供給された強化繊維基材が一対の含浸ロール間に導かれ、一対の含浸ロールの外筒部で挟み込んで加圧される(挟圧される)。これにより、強化繊維基材にマトリクス樹脂が含浸された繊維強化樹脂シートを製造することができる。
【0016】
このように、マトリクス樹脂の供給直後にマトリクス樹脂を強化繊維基材に含浸するので、特に、融点以上に溶融した熱可塑性樹脂を用いる場合には、含浸までの間の温度低下に伴う溶融粘度の急激な上昇前に、熱可塑性樹脂を強化繊維基材に含浸することができる。
【0017】
このような結果、未硬化の熱硬化性樹脂ばかりでなく、たとえ粘度の高い熱可塑性樹脂のようなマトリクス樹脂であっても、これまでの装置を用いた場合に比べて短い時間で、これを強化繊維基材内部に均一に含浸することができる。
【0018】
また、内筒部に供給されたマトリクス樹脂は、強化繊維基材に充分に含浸することができる程度の粘度を有していればよく、特に、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を用いた場合、樹脂供給部において粘度が低くなるように加熱されていればよい。しかしながら、より好ましい態様として、本発明に係る製造装置は、前記内筒部の内部及び外筒部の内部の少なくとも一方に、前記マトリクス樹脂を加熱するためのヒータが設けられている。
【0019】
この態様によれば、このようなヒータを用いることにより、含浸ロールから吐出されるマトリクス樹脂を加熱して、この粘度を低下させることができる。これにより、強化繊維基材へのマトリクス樹脂の含浸をさらに高めることができる。特に、外筒部の内部にヒータを配置すれば、第2のスリットから吐出直前のマトリクス樹脂を加熱することができる。
【0020】
また、マトリクス樹脂に熱可塑性樹脂を用い、これが結晶性ポリマである場合には、少なくとも熱可塑性樹脂の融点以上、非結晶性ポリマである場合には、少なくともガラス転移点以上に、ヒータの温度を設定すれば、含浸ロールからの吐出前の熱可塑性樹脂の粘度を下げるばかりでなく、このヒータの熱が外筒部に伝達されるため、含浸ロールから吐出後に一対の含浸ロール間に導入された熱可塑性樹脂の粘度を、再び下げることができる。このようにして、強化繊維基材内部への熱可塑性樹脂の含浸をより高めることができる。
【0021】
さらに、マトリクス樹脂が強化繊維基材に均一に含浸することができるのであれば、一対の含浸ロールから上流側及び下流側に配置される装置は特に限定されるものではない。例えば、より含浸し易く、得られた繊維強化樹脂シートの強度を効率的に高めるために、上流側に、強化繊維が均一に分散した、より薄いシート状の強化繊維基材であることが好ましい。このような場合、上流側に強化繊維基材を開繊する開繊装置が配置されてもよい。また、繊維強化樹脂シートの取り扱い性を向上させるために、下流側に、繊維強化樹脂シートを巻き取るための巻き取り装置が配置されていてもよい。
【0022】
さらに、より好ましい態様としては、前記一対の含浸ロールから前記搬送方向の下流側には、前記マトリクス樹脂が含浸された前記強化繊維基材を挟圧しながら加熱する一対の加熱ロールが配置されている。
【0023】
このような態様によれば、加熱ロールにより、第2のスリット部分により充分に加圧できなかったマトリクス樹脂の部分を強化繊維基材の繊維内に確実に含浸できるばかりでなく、強化繊維基材の表面のマトリクス樹脂を平滑にすることもできる。
【0024】
また、好ましい態様としては、前記樹脂供給部は、前記内筒部に供給されるマトリクス樹脂の圧力が調整可能であり、前記回転駆動部は、前記外筒の回転する回転速度の調整が可能である。
【0025】
このような態様によれば、前記樹脂供給部により前記内筒部に供給されるマトリクス樹脂の加圧する圧力を調整し、かつ、前記回転駆動部により前記外筒部の回転する回転速度を調整することにより、前記強化繊維基材の単位面積あたりに供給されるマトリクス樹脂の供給量を精度良くコントロールすることができる。
【0026】
本願では、上述した製造装置を用いて好適に繊維強化樹脂シートを製造することができる製造方法をも開示する。本発明に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールを回転させながら該含浸ロール間でマトリクス樹脂と共に挟圧することにより、該マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸して繊維強化樹脂シートを製造する製造方法であって、前記一対の含浸ロールを回転させる共に、該一対の含浸ロールから前記強化繊維基材の搬送方向の上流側に向って、前記一対の含浸ロールの内部で加圧されたマトリクス樹脂を、前記内部から前記強化繊維基材の幅方向に沿った表面に供給し、前記マトリクス樹脂が供給された強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールの回転により、該一対の含浸ロール間に導入して、前記強化繊維基材と前記マトリクス樹脂とを一対の含浸ロール間で挟圧しながら前記マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸することを特徴とする。
【0027】
本発明によれば、一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材のうち、一対の含浸ロール間に導入される直前の強化繊維基材の表面にマトリクス樹脂を供給することができる。そして、このマトリクス樹脂の供給の直後に、含浸ロールの回転により、マトリクス樹脂が供給された強化繊維基材が一対の含浸ロール間に導かれ、一対の含浸ロールで加圧される。これにより、強化繊維基材にマトリクス樹脂が均一に含浸された繊維強化樹脂シートを短時間で製造することができる。
【0028】
なお、本発明にいう「繊維強化樹脂シート」とは、シート状ばかりでなく、フイルム状、またはテープ状の繊維強化樹脂材をも含むものである。また、この繊維強化樹脂材とは、強化繊維と、この強化繊維に含浸されたマトリクス樹脂とを含む複合材であり、強化繊維と合わせて所定の強度を保つことができるのであれば、特にこれらの種類は限定されるものではない。
【0029】
本発明にいう「強化繊維基材」とは、強化繊維からなる基材であり、例えば、一方向に連続繊維が引き揃えられたマルチフィラメントからなる基材、強化繊維を多軸に積層した基材、布状繊維からなる基材いずれであってもよい。布状繊維の場合には、織布、不織布いずれであってもよく、織布である場合には、その織り方としては、平織、綾織、朱子織などの織組織いずれであってもよい。
【0030】
さらに、強化繊維は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、スチール繊維、PBO繊維、又は高強度ポリエチレン繊維などの繊維が挙げることができ、繊維強化樹脂シートの機械的強度を強化するための樹脂強化用の繊維であればと特に限定されるものはない。
【0031】
マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂、又は熱硬化性樹脂を使用できる。熱可塑性樹脂としては、結晶性熱可塑性樹脂や非結晶性熱可塑性樹脂を使用でき、例えば、ナイロン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、またはABS系樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えばビニルエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、繊維強化樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂等を挙げることができる。
【0032】
しかしながら、前記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、該マトリクス樹脂を前記一対の含浸ロールの内部で、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱することがより好ましい。なお、非結晶性熱可塑性樹脂(非結晶性ポリマ)の場合は、ガラス転移点以上であればよい。
【0033】
このような態様によれば、融点以上の温度に加熱して溶融したマトリクス樹脂を強化繊維基材に供給し、マトリクス樹脂の供給直後に一対の含浸ロール間で加熱・加圧してマトリクス樹脂を強化繊維基材に含浸するので、供給から含浸までの間の温度低下に伴う、熱可塑性樹脂の溶融粘度の急激な上昇前に、熱可塑性樹脂を強化繊維基材に含浸することができる。
【0034】
さらに、より好ましい態様としては、前記一対の含浸ロールから前記搬送方向の下流側において、前記マトリクス樹脂が含浸された前記強化繊維基材を挟圧しながら加熱する。これにより、強化繊維基材に含浸されたマトリクス樹脂をより確実に繊維内に含浸させることができる。
【0035】
また、より好ましくは、前記一対の含浸ロールの内部のマトリクス樹脂の圧力を調整し、かつ、前記一対の含浸ロールの回転速度を調整することにより、前記強化繊維基材の単位面積あたりに供給されるマトリクス樹脂の供給量を調整することがより好ましい。
【0036】
本発明によれば、マトリクス樹脂の加圧する圧力を調整することにより、含浸ロールから吐出されるマトリクス樹脂の吐出量を調整することができ、さらに、含浸ロールの回転速度を調整することにより、強化繊維基材に供給されるマトリクス樹脂の量を調整することができる。このようにして、前記強化繊維基材の単位面積あたりに吐出されるマトリクス樹脂の量(目付量)を精度よく調整することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、未硬化の熱硬化性樹脂ばかりでなく、たとえ粘度の高い熱可塑性樹脂のようなマトリクス樹脂であっても、これまでの装置を用いた場合に比べてより短い時間で、これを強化繊維基材内部に均一に含浸することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的斜視図。
【図2】図1に示す一対の含浸ロールの模式的分解斜視図。
【図3】図1に示す一対の含浸ロールの第1スリットを含む軸方向に沿った模式的断面図。
【図4】図1に示す一対の含浸ロールにより含浸方法を説明するための模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明に係る本実施形態を説明する。図1は、本発明の実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置の模式的斜視図であり、図2は、図1に示す一対の含浸ロールの模式的分解斜視図である。図3は、図1に示す一対の含浸ロールの第1スリットを含む軸方向に沿った模式的断面図、図4は、図1に示す一対の含浸ロールにより含浸方法を説明するための模式的断面図である。
【0040】
図1に示すように、本実施形態に係る繊維強化樹脂シートの製造装置1は、1対の含浸ロール10,10間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材Fを、一対の含浸ロール10、10を回転させながら、マトリクス樹脂である熱可塑性樹脂Pと共に含浸ロール10,10で挟み込んで加圧するものである。これにより、熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに含浸して、繊維強化樹脂シートSが製造される。
【0041】
製造装置1は、図1に示すように、一対の含浸ロール10,10を備えており、一対の含浸ロール10,10は、熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに供給することと、熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに含浸することとを兼用したロールである。
【0042】
このような熱可塑性樹脂Pの供給及び含浸を行うために、樹脂供給部(例えば押出し成形機)31と、回転駆動部(モータ)32とを備えている。樹脂供給部31は、各含浸ロール10に熱可塑性樹脂Pを融点以上に加熱して軟化させ、この軟化した熱可塑性樹脂Pを加圧して、各含浸ロール10に供給するように構成されている。
【0043】
さらに、樹脂供給部31には、含浸ロール10に供給される熱可塑性樹脂Pの圧力を調整する圧力調整機構(例えばシリンダとピストンとを組合せた機構の場合、ピストンの推力及び速度を調整する機構)が設けられている。これにより、含浸ロール10内(具体的には後述する内筒部11内)の熱可塑性樹脂Pの圧力を調整することができる。一方、回転駆動部32は、各含浸ロール10を回転駆動させるように、各含浸ロール10(具体的には後述する外筒部12)に接続されている。
【0044】
そして、図2に示すように、各含浸ロール10は、内筒部11と、これを内挿した外筒部12とを備えている。内筒部11は、図3に示すように、含浸ロール10の軸芯CL周りに回転しないように、回転方向に対して一端側の軸部11cで固定されている。内筒部11の他端側の軸部11dは、ベアリング14aを介して、外筒部12に支承されている。内筒部11の側壁の樹脂供給口11bには、加圧及び加熱された熱可塑性樹脂Pが内筒部11の内部S1に充填されるように、樹脂供給部31に接続されている。
【0045】
また、図1及び図2に示すように、内筒部11には、内部S1に供給された熱可塑性樹脂Pが、一対の含浸ロール10,10から強化繊維基材Fの搬送方向Lの上流側に向って吐出することができる周方向の位置に、第1のスリット11aが軸方向に沿って形成されている。
【0046】
一方、図3に示すように、外筒部12は、その胴部において内挿された内筒部11にベアリング14bを介して支承されており、軸部12cでは、ベアリング18を介してハウジング等(図示せず)に支承されている。さらに、軸部12cは、外筒部12のみが回転駆動できるようにモータ32に連結されている。
【0047】
外筒部12には、軸方向に沿って形成された複数の第2のスリット12a,12a…が、周方向に等間隔に設けられている。第1及び第2のスリットは、周方向幅1〜2mm程度であり、軸方向幅は、強化繊維基材Fの幅に致して1〜2mm程度である。また、回転時にこれらのスリットが、略一致するように、内筒部11と外筒部12とが配置されている。なお、内筒部11と外筒部12との周方向のクリアランスは、第1及び第2のスリットの周方向幅1〜2mmよりも狭くなっており、これにより、内筒部11から吐出される樹脂が、外筒部12の内周面に回り込み難くなる。
【0048】
外筒部12の内部S2及び内筒部11の内部S1には、樹脂供給部31により供給された熱可塑性樹脂Pを加熱するためのヒータ17a,17bが周方向に等間隔で内蔵されており(図3及び図4参照)、これらのヒータ17a,17bは、電源33からの電流Iが通電されることにより発熱するように、電源33に接続されている。
【0049】
なお、電源33は、可変抵抗等を備えることでヒータ17a,17bに通電する電流Iを調整し、これによりヒータ17a,17bの発熱温度(加熱温度)が調整できるようになっている。また、モータ32は、回転速度を調整するためのインバータ等を備えることにより、外筒部12の回転速度を調整することが可能となっている。
【0050】
製造装置1は、一対の含浸ロール10,10から搬送方向Lの上流側に、一方向に引き揃えられた強化繊維束である強化繊維基材F(マルチフィラメント)を開繊する開繊装置(図示せず)を備えている。これにより、繊維強化樹脂シートS内の強化繊維の分布を均一化すると共に、強化繊維基材Fに熱可塑性樹脂Pを好適に含浸することができる。
【0051】
さらに、一対の含浸ロール10から搬送方向Lの下流側には、熱可塑性樹脂Pが含浸された強化繊維基材Fを挟圧しながら加熱する加熱ロール20,20を備えている。各加熱ロール20には、ヒータ(図示せず)が内蔵されており、このヒータに電流iを通電して発熱させるための電源34が接続されている。
【0052】
このようにして、構成された製造装置1を用いて、繊維強化樹脂シートSを製造する方法を以下に説明する。
【0053】
まず、一方向に引き揃えられた、例えば炭素繊維からなる強化繊維基材Fを開繊装置を用いて開繊する。この開繊方法は特に限定されるものではなく、たとえば空気による開繊、超音波による開繊などを挙げることができる。これにより、シート状の強化繊維基材Fの強化繊維を、幅方向に均一に分布させて、その厚みを薄くすることができる。
【0054】
一方、樹脂供給部31により、強化繊維基材Fに含浸するための例えばPPやナイロンなどの熱可塑性樹脂Pを融点以上に加熱して軟化させ、この軟化した熱可塑性樹脂Pの圧力調整を行いながら加圧して、各含浸ロール10の内筒部11の内部S1に予め加圧状態で供給する。
【0055】
この際、熱可塑性樹脂Pの融点以上の温度になるように、電源33を用いて電流を調整し、調整した電流Iをヒータ17a,17bに通電する。また、加熱ロール20,20も、同様に電源34を用いて、ロール表面が熱可塑性樹脂Pの融点以上の温度になるように、電流iを通電する。このような状態で各モータ32,36を回転駆動させて、含浸ロール10及び加熱ロール20を駆動させる。
【0056】
なお、モータ32は、後述する熱可塑性樹脂Pの単位時間あたりの吐出量に応じて、最適な熱可塑性樹脂Pの供給量となるように、内筒部11の内部S1の熱可塑性樹脂Pの圧力に基づいて回転速度を調整する。
【0057】
そして、モータ32により、一対の含浸ロール10,10の外筒部12,12を回転し、軸芯CL周りの回転方向に対して内筒部11が固定されているので、内筒部11の内部S1に供給された熱可塑性樹脂Pが、搬送方向Lの上流側の一定方向に、第1のスリット11aを介して吐出される。そして、定位置に固定された第1のスリット11aと、外筒部12の回転により軸芯周りを移動する第2のスリットが一致したときに、内筒部11から吐出された熱可塑性樹脂Pが、回転している外筒部12の第2のスリット12aを介して、上流側の一定方向に吐出される(図4参照)。
【0058】
このような状態で、開繊されたシート状の強化繊維基材Fを、一対の含浸ロール10,10間に向って搬送する。このとき、含浸ロール10、10から上流側の強化繊維基材F(すなわち、一対の含浸ロール10,10間に導入される直前の強化繊維基材F)の幅方向に沿った表面に、熱可塑性樹脂Pが断続的に供給される。
【0059】
また、熱可塑性樹脂Pの供給の直後に、モータの回転駆動により含浸ロール10,10の回転により、熱可塑性樹脂Pが供給された強化繊維基材Fが一対の含浸ロール10,10間に導かれ、一対の含浸ロール10,10の外筒部12,12で挟み込んで加圧される(挟圧される)。これにより、強化繊維基材Fに熱可塑性樹脂Pが均一に含浸された繊維強化樹脂シートSを製造することができる。
【0060】
さらに、樹脂供給部31により内筒部11に供給される熱可塑性樹脂Pの圧力を調整し、かつ、モータ32により外筒部12の回転する回転速度を調整することにより、強化繊維基材Fの単位面積あたりに供給される熱可塑性樹脂Pの供給量を精度良くコントロールすることができる。
【0061】
このように、熱可塑性樹脂Pの融点以上の温度に加熱して溶融した熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに供給し、熱可塑性樹脂Pの供給直後に一対の含浸ロール間で加熱・加圧して熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに含浸するので、供給から含浸までの間の温度低下に伴う、熱可塑性樹脂Pの溶融粘度の上昇前に、熱可塑性樹脂Pを強化繊維基材Fに含浸することができる。
【0062】
また、外筒部12の内部S2にヒータ17aを配置しているので、第2のスリット12aから吐出直前の熱可塑性樹脂Pの粘度上昇を抑制でき、ヒータ17bの熱ばかりでなく、ヒータ17aの熱を外筒部12にも直接的に伝達することができる。これにより、含浸ロール10から吐出後に一対の含浸ロール10,10間に導入された熱可塑性樹脂Pの粘度を、再び下げることができる。このようにして、強化繊維基材内部への熱可塑性樹脂の含浸をより高めることができる。
【0063】
さらに含浸後には、一対の加熱ロール20,20により、第2のスリット12aにより充分に加圧できなかった熱可塑性樹脂Pの部分を強化繊維基材Fの繊維内に確実に含浸できるばかりでなく、強化繊維基材Fの表面にある熱可塑性樹脂Pを平滑にすることもできる。
【0064】
以上のようにして、未硬化の熱硬化性樹脂ばかりでなく、たとえ粘度の高い熱可塑性樹脂Pのようなマトリクス樹脂であっても、これまでの装置を用いた場合に比べて短い時間で、これを強化繊維基材内部に均一に含浸することができ、製造コストの安価化を図ることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【0066】
例えば、各含浸ロールには、軟化して溶融した熱可塑性樹脂の温度、及び圧力を測定する測定計を設けてもよい。また、熱可塑性樹脂を繊維強化基材に含浸できるのであれば、ロール間のギャップを所定の大きさにしてこれらを通過してもよく、一対の含浸ロール同士、一対の加熱ロール同士を押付けるように、両端から加圧するための油圧または水圧式の加圧機構(ピストンとシリンダ)をさらに設けてもよく、熱可塑性樹脂及び繊維強化基材の加圧方法は特に限定さられるものではない。
【符号の説明】
【0067】
1:繊維強化樹脂シートの製造装置、10:含浸ロール、11:内筒部、11a:第1のスリット、11c,11d:軸部、12:外筒部、12a:第2のスリット、11b:樹脂供給口、12c:軸部、14:ベアリング、17a,17b:ヒータ、18:ベアリング、20:加熱ロール、31:樹脂供給部、32:モータ(回転駆動部)、33,34:電源、CL:軸芯、F:強化繊維基材、P:熱可塑性樹脂、S:繊維強化樹脂シート、S1:内筒部の内部、S2:外筒部の内部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールを回転させながら該含浸ロール間でマトリクス樹脂と共に挟圧することにより、該マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸して繊維強化樹脂シートを製造する製造装置であって、
該製造装置は、各含浸ロールに前記マトリクス樹脂を加圧して供給する樹脂供給部と、前記各含浸ロールを回転駆動させる回転駆動部とを備えており、
前記各含浸ロールは、軸芯周りの回転方向に対して固定されると共に、前記マトリクス樹脂が内部に充填されるように前記樹脂供給部に接続された内筒部と、
該内筒部を内部に内挿すると共に、軸芯周りに回転するように前記回転駆動部に連結された外筒部と、を少なくとも備えており、
前記内筒部には、前記内部に供給されたマトリクス樹脂が、前記一対の含浸ロールから前記強化繊維基材の搬送方向の上流側に向って吐出される周方向の位置に、第1のスリットが軸方向に沿って形成されており、
前記外筒部には、軸方向に沿って形成された複数の第2のスリットが、周方向に等間隔に設けられていることを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項2】
前記内筒部の内部及び外筒部少なくとも一方の内部には、前記マトリクス樹脂を加熱するためのヒータが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
前記一対の含浸ロールから前記搬送方向の下流側には、前記マトリクス樹脂が含浸された前記強化繊維基材を挟圧しながら加熱する加熱ロールが配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項4】
前記樹脂供給部は、前記内筒部に供給されるマトリクス樹脂の圧力が調整可能であり、前記回転駆動部は、前記外筒の回転する回転速度の調整が可能であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
一対の含浸ロール間に向って搬送されるシート状の強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールを回転させながら該含浸ロール間でマトリクス樹脂と共に挟圧することにより、該マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸して繊維強化樹脂シートを製造する製造方法であって、
前記一対の含浸ロールを回転させる共に、該一対の含浸ロールから前記強化繊維基材の搬送方向の上流側に向って、前記一対の含浸ロールの内部で加圧されたマトリクス樹脂を、前記内部から前記強化繊維基材の幅方向に沿った表面に供給し、
前記マトリクス樹脂が供給された強化繊維基材を、前記一対の含浸ロールの回転により、該一対の含浸ロール間に導入して、前記強化繊維基材と前記マトリクス樹脂とを一対の含浸ロール間で挟圧しながら前記マトリクス樹脂を前記強化繊維基材に含浸することを特徴とする繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
前記マトリクス樹脂は、熱可塑性樹脂であり、該マトリクス樹脂を前記一対の含浸ロールの内部で、前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度に加熱することを特徴とする請求項5に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
前記一対の含浸ロールから前記搬送方向の下流側において、前記マトリクス樹脂が含浸された前記強化繊維基材を挟圧しながら加熱することを特徴とする請求項5または6に記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
前記一対の含浸ロールの内部のマトリクス樹脂の圧力を調整し、かつ、前記一対の含浸ロールの回転速度を調整することにより、前記強化繊維基材の単位面積あたりに供給される前記マトリクス樹脂の供給量を調整することを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に繊維強化樹脂シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−236361(P2011−236361A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110281(P2010−110281)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】