説明

繊維強化樹脂製歯車

【課題】本発明の目的は、樹脂との接着性を阻害しない表面処理剤で処理されたパラ型アラミド繊維、及びそれを用いた機械的強度に優れた繊維強化樹脂製歯車を提供することにある。
【解決手段】繊維補強材としてパラ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、該繊維表面に、平均粒径が20μm以下である非融着性微粉末の付着量が0.4〜15mg/mの範囲で付着されているものを用いることで上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製歯車及びその製造方法に関する。更に詳しくは、樹脂と繊維補強材との接着性が向上し、機械的強度に優れた繊維強化樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車の材料として、特に高負荷が必要な用途においては鋼等の金属材料が一般的であったが、歯車の噛み合い時に生ずる騒音の低減や軽量化などを目的として、歯部に繊維強化樹脂複合体を用いたものが検討されている。
【0003】
その内の一つとして例えば高強度、高弾性のアラミド繊維をマトリックス樹脂中に充填した繊維強化樹脂製歯車やアラミド繊維を主成分として含むアラミド繊維基材にマトリックス樹脂を保持した繊維強化樹脂製歯車が注目されている。
【0004】
しかしながら、アラミド繊維特にパラ型アラミド繊維を用いる場合マトリックス樹脂とアラミド繊維との接着が十分でなく、歯車の強度、例えば圧縮強度、押し込み強度が不足するという問題があった。
【0005】
その原因の一つとして、アラミド繊維を製造する工程で使用する表面処理剤、例えば平滑剤とか離型剤、帯電防止剤等によりマトリックス樹脂とパラ型アラミド繊維の接着が阻害されることがあげられる。
【0006】
この対策として、特開2005−179840号公報ではアラミド繊維構造物の残留油剤を特定の洗浄液で洗浄し油剤量を特定値範囲にすることが提案されている。この方法により、残留表面処理剤が減少し接着力の向上は望めるものの何度も洗浄を行うという工程の煩雑さや形態が変化してしまうという問題がある。
【0007】
又アラミド繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上するために特開平09−124801号公報、特開2005−369117号公報ではアラミド繊維表面を特定の樹脂皮膜で覆うという方法が提案されている。これらの方法では、樹脂皮膜で繊維表面を覆うことが可能であるがアラミド樹脂に残留する表面処理剤により繊維と樹脂皮膜との接着はそれほど向上しないためやはり残留表面処理剤を除去して行う必要がある。
【0008】
更に特開2006−77809号公報ではアラミド繊維表面にシランカップリング剤を処理してアラミド繊維とマトリックス樹脂との接着力を向上する試みがなされているが、この方法でも、やはり残留表面処理剤を除去して後に行う必要があった。
【0009】
【特許文献1】特開2005−179840号公報
【特許文献2】特開2005−369117号公報
【特許文献3】特開2006−77809号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、マトリックス樹脂との接着性に影響しない形で表面処理剤で処理されたパラ型アラミド繊維を用いた機械的強度に優れた繊維強化樹脂製歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前期課題を解決する為に鋭意検討した結果、表面に付着する表面処理剤により繊維表面が被覆されアラミド繊維表面とマトリックス樹脂と接触出来ない状態、又は接触するための面積が少なくなっていることに着目し、出来るだけ繊維表面を被覆しない形状の表面処理剤を、特定量付着させることが適切であることに気づいたものであり、アラミド繊維表面に、平均粒径が20μm以下の非融着性微粉末が0.4〜15mg/mの範囲で付着しているパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維補強材は従来の表面処理剤と異なり、平均粒子系の非常に細かい微粒子を表面処理剤として用いてあり、繊維表面を被覆することなく点状付着していることにより、アラミド繊維表面が露出した状態で存在するため繊維補強材と樹脂との接着性を向上させることが出来、繊維強化樹脂製歯車とした際に、機械的強度を飛躍的に向上させることができる。したがって、該繊維補強材を用いた繊維強化樹脂製歯車は、特に高負荷が必要な用途において、長期使用が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明の繊維強化樹脂製歯車の繊維補強材に使用されるパラ型芳香族ポリアミドは、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸などを、カルボキシル基とアミノ基とが略等モルとなる割合で重縮合して得られるもので、かつ延鎖結合が共軸又は平行であり且つ反対方向に向いているポリアミドである。具体的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維等を例示することができる。特にコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維は、高強力繊維を得るためには未延伸糸を300℃以上、好ましくは350〜550℃の高温に加熱して6倍以上に熱延伸する必要があるので、単繊維が軟化し互いに融着して延伸性が悪化しやすく、また、各種マトリックスの補強繊維として用いられることが多いので、本発明が対象とする繊維としては好適である。
【0014】
本発明で使用される非融着性微粉末とは、上記パラ型全芳香族ポリアミド繊維の軟化温度近傍でも融着性を示さず、又油膜状皮膜を形成することのない微粉末であれば、有機物であっても無機物であっても構わないが、特に化学的に安定かつパラ型全芳香族ポリアミド繊維に対し酸化等の化学作用を及ぼさない無機微粉末が好ましい。非融着性微粉末の大きさは、粒子の小さい方がよく、平均粒径が20μm以下、好ましくは10μm以下、特に好ましくは0.001〜5μmのものが、単繊維の表面に均一に付着するので好ましい。
【0015】
また、該無機微粉末としては、粒状結晶構造または鱗片状結晶構造を有するものが好ましい。ここで鱗片状結晶構造を有する場合には、該微粉末が付着した繊維を高温の熱板または加熱ローラー面を走行させる際、摩擦抵抗が低下して加工性が向上する。一方、粒状結晶構造を有する場合には、繊維と微粉末との接触面積が小さいので、パラ型全芳香族ポリアミドの軟化により微粉末が繊維表面にいったん固着されても、その後の処理により容易に除去できるため、付着量を後述する範囲とすることが容易になる。これに対して、水性分散液中で水和するヘクトライトのような無定形の無機微粉末は、繊維表面を皮膜状に均一に覆いやすいので、付着量を後述する範囲とするのが困難となる。本発明に関して表面処理剤が皮膜状で繊維表面を被覆しないことが重要なポイントである。
【0016】
更に、非融着性微粉末は、加熱により凝集しがたいものが好ましい。ここでいう加熱で凝集しがたいとは、その水性分散液を温度110℃で1時間乾燥熱処理しても粉末状態を維持していることをいう。凝集しやすい微粉末を用いると、高温で行う各種工程での微粉末の凝集が起こりやすくなるので、例えば、該微粉末を塗布後に高温で熱延伸または熱処理を施すと、その後には該微粉末を容易に除去することができなくなり、付着量を後述する範囲とすることが困難となる。
【0017】
好ましく用いられる非融着性微粉末としては、具体的には無水珪酸アルミニウム、アルミノ珪酸ナトリウムが挙げられ、特に粒状結晶構造を有するものが好ましい。これらは単独で使用しても併用してもよい。
【0018】
上記の非融着性微粉末の繊維表面への付着量が多い場合は、補強材として使用する場合には各種マトリックスとの接着性が低下して十分な補強効果が得られなくなる。一方付着量が少なすぎる場合は、単繊維間、繊維とガイドなどの摩擦体との間の摩擦が大きくなってフィブリル化や単糸切れが発生しやすくなる。従って、該微粉末の付着量は、0.4〜15mg/m、特に1.3〜10mg/mの範囲とすることが好ましい。
【0019】
なお、上記微粉末の付着形態は任意であるが、特にパラ型全芳香族ポリアミドの軟化点近傍の温度で熱処理することにより、該繊維表面に固着させることが好ましい。このようにすることで、微粉末の繊維表面への接着性が向上するため、後加工工程での脱落が抑制され、工程通過性が向上するだけでなく、高品位の製品とすることができる。
【0020】
熱処理する条件としては、例えばパラ型全芳香族ポリアミドがコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの場合には、該ポリアミドからなる未延伸糸を300℃以上、好ましくは350〜550℃の高温に加熱して6倍以上に延伸することにより、高強力化と高弾性率化とが図られるが、この条件で非融着性微粉末を繊維表面に固着させることができる。
【0021】
本発明の繊維強化樹脂製歯車の繊維補強材に使用される繊維素材は上記パラ型芳香族ポリアミド繊維を含むことを特徴とするが、該繊維の他に配合する繊維としては、成形する際の温度、及び歯車としたときの噛み合わせ時の静粛性を考慮すれば、熱分解温度が350℃以上の有機繊維を使用することが好ましい。
【0022】
具体的には全芳香族ポリエステル繊維、ポリアリレート繊維、メタ型全芳香族ポリアミド繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリイミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維などが例示される。また、特に機械的強度が重要とされる場合であれば、炭素繊維、ガラス繊維なども使用できる。これら繊維素材は単独、もしくは2種以上の繊維を混合して使用することも可能であり、また本発明の効果を損なわない範囲で、熱分解温度が350℃以下の範囲、例えばポリオレフィン系繊維などを少量混合してもよい。
【0023】
中でも、歯車にしたときの耐熱性、機械的強度、切削加工性の点から、高い引張強度を持つパラ型芳香族ポリアミド繊維と、柔軟性のあるメタ型芳香族ポリアミド繊維とを複合して使用することが最も好ましく、その混合比率は重量比率で80/20〜20/80(メタ型/パラ型)の範囲が好ましい。メタ型芳香族ポリアミド繊維の割合が80重量%を超えると、歯車に必要とされる機械的強度が小さくなり、またパラ型芳香族ポリアミド繊維の割合が80重量%を超えると、基材への樹脂含浸性が著しく悪くなり、更に歯部を形成するための切削加工時に毛羽が発生するなどの問題を生じる。
【0024】
上記繊維の表面には、樹脂含浸性を向上させるために効果を損なわない範囲で種々の界面活性剤を少量付着させたり、また、繊維製造工程で付与する処理剤(油剤など)を除去せずそのまま使用してもよい。
【0025】
上記繊維の単繊維繊度は、0.1〜5.5dtex、好ましくは0.3dtex〜2.5dtexの範囲である。0.1dtex未満の場合は製糸技術上困難な点が多く、断糸や毛羽が発生して良好な品質の繊維を安定して生産することが困難になるだけでなく、コストも高くなるため好ましくない。一方、5.5dtexを超えると繊維の機械的物性、特に強度低下が大きくなり、かつ湿式抄造の際の均一な地合形成が困難となるため好ましくない。
【0026】
本発明に使用される繊維補強材は、織布、編布、乾式不織布、湿式不織布のいずれかの形態で形成されていることを特徴とする。中でも基材全体に繊維を均一に存在させられる、湿式抄造により形成した湿式不織布であることが好ましい。
【0027】
繊維補強材の目付は特に限定はないが、50〜2000g/mの範囲内であることが好ましい。目付が50g/m未満の場合には、歯車成形時に基材の積層枚数が多くなるため生産性が低下し、また多くの界面が存在するため歯車としての均一性が低下するため好ましくない。一方、目付が2000g/mを超える場合には、製造が困難となるため好ましくない。
【0028】
本発明に使用される繊維補強材として湿式不織布を用いる場合には、有機高分子重合体からなるフィブリッドを、該繊維補強材の全重量中に1〜30重量%含むことが好ましい。ここで言うフィブリッドとは、バインダー性能を有する微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、又は、ランダムにフィブリル化した微小短繊維の総称であり、例えば、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により、有機系高分子重合体溶液を該高分子重合体溶液の沈澱剤と剪断力の存在する系において混合することにより製造されるフィブリッドや、あるいは、特公昭59−603号公報に記載された方法により、光学的異方性を示す高分子重合体溶液から成形した分子配向性を有する成形物に叩解等の機械的剪断力を与えてランダムにフィブリル化させたフィブリッド(なお、この様なフィブリッドは「パルプ」と称されることがある。)を用いるものが好ましく、なかでも後者の方法によるものが、基材への樹脂含浸性を促進しやすく最適である。
【0029】
このような耐熱性の有機高分子重合体としては、繊維、もしくはフィルム形成能を有する有機高分子重合体であって熱分解温度が350℃以上のものであればどれでも使用できる。
【0030】
例えば、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリアリレート、ポリイミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができるが、中でも特に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維に機械的剪断力を与えて微細なフィブリルを持たせたフィブリッド(テイジントワロン(株)製「トワロンパルプ」)が好適である。
【0031】
このような湿式不織布は、従来から公知の方法により製造することができる。例えば、繊維及びフィブリッドを所定の比率になるように秤量し、繊維濃度が0.15〜0.40重量%の範囲になるように水中に投入して均一分散させ、調整した水性スラリー中に、必要に応じて、分散剤や粘度調整剤を加えた後、長網式や丸網式等の抄紙機による湿式抄造法で湿紙を形成し、この湿紙にもし必要ならば、有機系のバインダー樹脂をスプレー方式等により所定の固形分比率の重量になるよう付与した後、乾燥して得た乾燥紙を所定の嵩密度の範囲となるように加熱加圧加工して湿式不織布を得ることが出来る。
【0032】
本発明に使用される繊維補強材の嵩密度は特に限定されないが、シート状の補強材を積層して歯車とする際にはその嵩密度は0.1g/cm〜1.0g/cmの範囲にあることが好ましい。嵩密度が0.1g/cm未満の場合、ドーナツ状に形成する際、きれいな端面を形成することが困難である。また、1.0g/cmを超える場合には、樹脂を均一に含浸することが困難となるため好ましくない。また、嵩密度が前記の範囲内であれば一定の嵩密度のものに限らず、嵩密度の異なるものを併用しても良い。嵩密度の異なるものを併用する場合、例えば、ブッシュの近傍に目付けの低い不織布を巻きつけ、外側に進むにしたがって徐々に嵩密度を上げて巻きつけることで、ブッシュに巻き付ける際に生じる皺を防止することができる。
【0033】
製造された繊維補強材は、中央に円形のスペースを空けたドーナツ型に形成し、それを所定の樹脂率となるように積層して筒状に形成する。
このとき繊維補強材は、筒状に形成する前、又は筒状に形成した後に樹脂を含浸してプリプレグとしてもよいし、上記筒状繊維補強材を金型に配置し、所定の樹脂率となるよう圧縮した後に樹脂を注入してもよいが、樹脂を含浸してプリプレグとする場合は、歯車としたときの樹脂率を所定の比率にするために、あらかじめ繊維補強材の嵩密度を高くしておくことがより好ましい。但し、前記の嵩密度範囲を外れる場合は成形が困難となり、歯車にしたときの機械的強度が低下するため好ましくない。
【0034】
成形を行う際は、事前に金型を減圧状態にしたり、温度を上げておいたりすることによって、樹脂の補強材への含浸性を向上させることが好ましい。また、補強材を樹脂に含浸させる前に加圧して形態を安定させてもよいし、樹脂含浸後に軸方向に加圧し、樹脂の含浸性を高めても良い。また、歯車を成形する場合は、一般に樹脂成形後に、歯車の歯部を機械切削により作製するが、歯車型の金型で成形し、作製しても良い。歯車型の金型で成形する場合は、例えば、金型の歯車の本体部分に不織布をブッシュに巻き付けるなどして配置させ、歯の部分には歯の形状とした繊維補強材を積層するなどして、金型内に配置させる。
【0035】
繊維補強材に含浸させる樹脂は特に限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シアネートエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、架橋ポリアミノアミド樹脂、架橋ポリエステルアミド樹脂などの熱硬化性樹脂、あるいは、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などの熱可塑性樹脂が好ましい。これらは共重合体、変性体、あるいは2種以上の樹脂を混合した樹脂であってもよい。また、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂を複合してもよい。あるいは樹脂中に、難燃剤、耐光剤、紫外線吸収剤、平滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、着色剤、抗菌剤、顔料、導電剤、シランカップリング剤、無機系コーティング剤などの機能剤を包含してもよい。
【0036】
このようにして得られた繊維強化樹脂製歯車は、繊維補強材と樹脂との接着性が向上し、その結果機械的強度に優れ、従来よりも高い耐久性を持つ歯車を提供できる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例で用いた試験片の作成方法、及びその評価方法は下記のとおりである。
(1)単糸繊度、引張強度、破断伸度、弾性率
JIS L 1013に準拠して測定した。
(2)非融着性微粉末の付着量
予め仕上げオイルを付与しない試料を約3gサンプリングする。次いで120℃で1時間乾燥した後に重量A(g)を精秤する。次いでこの試料を800℃の焼却炉中で完全に灰化させ、灰化後の灰分重量B(g)を測定し、次式で計算する。
付着量(%)={B/(A−B)}×100
(3)編物補強材の目付、厚さ、及び嵩密度
JIS L 1096に準拠して測定した。
(4)湿式不織布補強材の目付
JIS P 8124に準拠して測定した。
(5)湿式不織布補強材の厚さ及び嵩密度
JIS P 8118に準拠して測定した。
(6)繊維強化樹脂成形体の体積繊維含有率
繊維強化樹脂成形体の体積V、成形体中に導入した樹脂の体積Vrを計測し、
下記式を用いて計算した。
体積繊維含有率=(V−Vr)/V×100(%)
(7)繊維強化樹脂成形体の曲げ強度
JIS K 7171に準拠し、厚さ3mm、長さ60mm、幅15mmの試験片を用いて、支点間距離48mmでの3点曲げにて測定した。
(8)繊維強化樹脂成形体の圧縮強度
JIS K 7181に準拠し、厚さ3mm、長さ10mm、幅10mmの試験片を用いて測定した。
(9)歯車の押し込み強度
樹脂製歯車から、歯部根元の幅が5mm、歯部根元から歯部頂点までの幅が5mmのテストピースを作製し、3.5mm径のピンゲージを2.5mm/minの速さで歯と歯の間に押し込み、歯が破壊されるときの押し込み強度(N)を測定した。歯の破壊は歯元に亀裂が入ることにより生じた。
【0038】
[実施例1]
水分率が100ppm以下のN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPという)112.9部、パラフェニレンジアミン1.506部、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル2.789部を常温下で反応容器に入れ、窒素中で溶解した後、攪拌しながらテレフタル酸クロリド5.658部を添加した。最終的に85℃で60分反応せしめ、透明で粘稠なポリマー溶液を得た。次いで22.5重量%の水酸化カルシウムを含有するNMPスラリー9.174部を添加し、中和反応を行った。得られたポリマーの対数粘度は3.33であった。
【0039】
得られたポリマー溶液を用い、孔径0.3mm、孔数1000の紡糸口金からNMP30重量%の凝固浴(水溶液)に押し出し湿式紡糸した。紡糸口金面と凝固浴との距離は10mmとした。紡糸口金から紡出された繊維を水洗し、絞りローラに通して表面付着水を除去し、表1に示すような組成からなる濃度2.0重量%の無機微粉末(無水珪酸アルミニウムの平均粒径1.1μm、アルミノ珪酸ナトリウムの平均粒径2.1μm)の水系分散浴に約1秒間浸漬し、次いで絞りローラに通し、無機微粉末液の付着した糸を得た。次いで該糸を表面温度が200℃の乾燥ローラを用いて完全に乾燥させた後、530℃で10倍に熱延伸した。
【0040】
得られた延伸糸にまずシャワー水量10L/分で水を吹き付けて、延伸糸を十分に湿潤させた。次いで、内径が1.5mm、長さ10mmのエアーノズルを通して200L/分の空気流を噴射した。これらの操作を2回繰り返した後、仕上げ油剤を付着量が2.5重量%となるように付与し、500m/分の速度で巻き取った。得られた繊維のフィラメント数は1000本、繊度は1670dtexであった。更に得られた繊維に圧力0.3MPaの水蒸気を付与して捲縮を付与した後に切断し、単糸繊度1.67dtex、繊維長51mmの短繊維を得た。
【0041】
得られた短繊維と、単糸繊度2.0dtex、繊維長51mmのメタ型アラミド短繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「コーネックス」)とを重量比が45/55になるように混紡し、撚り数16ターン/インチ、20番手(約295dtex)となるように紡績した後、目付117g/m、網目長約0.2インチ、かつウェール25ヶ/インチ、コース30ヶ/インチの編地密度で筒状編布を作成した。
【0042】
[実施例2]
実施例1において無機微粉末として無水珪酸アルミニウム100%で行った以外は同一の方法で行った。
【0043】
[実施例3]
実施例1において無機微粉末としてアルミノ珪酸ナトリウム100%で行った以外は同一の方法で行った。
【0044】
[繊維強化樹脂成形体の作成]
実施例1,2,3で作成した編地を長手方向に切断し、積層した後、板状にくり抜かれた金型に配し、金型を約200℃にして、真空減圧下、架橋ポリアミドアミド樹脂を注入して、補強材である編地に樹脂を含浸させた後、樹脂を硬化させて、体積繊維含有率が50%の繊維強化樹脂成形体を作成した。
【0045】
[歯車の作成]
実施例1,2,3で作成した編地を端から巻き返すことでドーナツ状として、中空部にブッシュを配置した後金型に配置し、これを歯車成形用金型に入れ、上記繊維強化樹脂成形体と同様の条件にてドーナツ状樹脂成形体を作成し、この成形体に機械切削を施すことにより、歯車の歯部を作成して、繊維強化樹脂製歯車を得た。
この繊維、編地、繊維強化樹脂成形体、及び繊維強化製樹脂製歯車について前記(1)〜(9)の項目について評価した諸特性は、表1に示すとおりであった。
【0046】
[実施例4〜6]
次に、実施例1,2,3で得られた繊維を、ギロチンカッターにて切断し、繊維長3mmの短繊維を得た。この繊維と、ポリメタフェニレン・イソフタルアミドからなる、単繊維繊度2.0dtex、繊維長3mmの短繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製「コーネックス」)、及びポリパラフェニレン・テレフタルアミドからなるフィブリッド(テイジントワロン(株)製「トワロンパルプ1094」)を、重量比で70/20/10となるようにパルパーに投入して水中に離解分散させ、繊維濃度0.2重量%の抄紙用スラリーを作成した。 次にタッピー式角型手抄機を用いて該抄紙用スラリーを抄紙し、軽く加圧脱水後、温度120℃の熱風乾燥機中で約30分間乾燥して、坪量200g/mの湿式不織布からなる繊維補強材を得た。
【0047】
[繊維強化樹脂成形体及び歯車の作成]
得られた湿式不織布を、温度200℃、線圧50kg/cmのカレンダーに通し、湿式不織布基材の嵩密度を0.5g/cmとした後、打抜きにより長方形に形成して積層した後、実施例1と同様の方法で成形し、繊維強化樹脂成形体を得た。更にカレンダーに通した該基材を打抜きによりドーナツ型に形成し、積層して中空部に金属製ブッシュを通し(このとき、ブッシュ径が、ドーナツ型に打抜いた基材の中空部よりも若干太くなるように湿式不織布の打抜きを行った)、これを歯車成形用金型に入れ、その後は実施例1と同様の方法にて繊維強化樹脂製歯車を得た。
この湿式不織布基材、繊維強化樹脂成形体、及び繊維強化製樹脂製歯車について前記(1)〜(9)の項目について評価した諸特性は、表2に示すとおりであった。
【0048】
[比較例1]
実施例1において、空気流の噴射処理を行わない以外は実施例1と同様にして、フィラメント数1000本、繊度1670dtexの繊維を得た。得られた繊維を用いて実施例1と同様にして、編地、繊維強化樹脂成形体、及び繊維強化樹脂製歯車を得た。
この繊維、編地、繊維強化樹脂成形体、及び繊維強化製樹脂製歯車について前記(1)〜(9)の項目について評価した諸特性は、表1に示すとおりであった。
【0049】
[比較例2]
比較例1で使用したフィラメントを実施例4で行ったと同様の方法で短繊維化し湿式不織布とし、樹脂を含浸して繊維樹脂成形体、さらにドーナツ状に打ち抜き歯車を作成した。得られた湿式不織布基材、繊維強化樹脂成形体、及び繊維強化製樹脂製歯車について前記(1)〜(9)の項目について評価した諸特性は、表2に示すとおりであった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、高負荷がかかる歯車においても高い耐久性を有し、また耐熱性を有するパラ型芳香族ポリアミド繊維を主成分として強化している為、自動車部品などの高温環境下で使用する歯車として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維補強材によって強化された樹脂で歯部を構成した繊維強化樹脂製歯車において、該繊維補強材がパラ型全芳香族ポリアミド繊維を含み、且つ、該パラ型全芳香族ポリアミド繊維表面に、平均粒径が20μm以下の非融着性微粉末が0.4〜15mg/mの範囲で付着していることを特徴とする繊維強化樹脂製歯車。
【請求項2】
前記非融着性微粉末が1.3〜10mg/mの範囲である請求項1記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項3】
前記非融着性微粉末の平均粒子径が5μm以下である請求項1又は2項記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項4】
前記非融着性微粉末が無機微粉末である請求項1〜3いずれか1項記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項5】
前記非融着性微粉末が繊維表面に固着している請求項1〜4のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項6】
前記パラ型全芳香族ポリアミドがパラ型全芳香族コポリアミドである請求項1〜5のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項7】
前記繊維補強材が、織布、編布、乾式不織布、湿式不織布のいずれかの形態で形成されている請求項1〜6いずれか1項記載の繊維強化製樹脂歯車。

【公開番号】特開2008−138334(P2008−138334A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328134(P2006−328134)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】