説明

繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法

【課題】材料の歩留りが高く、強度及び剛性を有する成形品のニヤーネットシェイプの積層方法を提供することである。
【解決手段】強化繊維と熱可塑性樹脂との複合材料であるプリプレグテープを用いて、成形品としての強度や剛性を有するように、プリプレグテープの配置は繊維配列方向と外力の方向とを考慮して、1つの層内で異なる繊維配列方向のプリプレグテープを配置するようにし、かつ前記プリプレグテープを着接させながら縫い方を変えるステッチング方法を実施して、多層構造からなる成形品のニヤーネットシェイプを縫成することによって実現できた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を補強基材とする樹脂との複合材料であるプリプレグを用いた積層方法に関する。さらに詳しくは、強化繊維を補強基材とし熱可塑性樹脂と一体化させたプリプレグを用いて任意形状を有する成形品のニヤーネットシェイプを縫成する積層方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸させた繊維強化熱可塑性のプリプレグテープを各層毎に一定方向に並べて各層毎に強化繊維の方向を異ならせて積層し、ステッチングを施して一体化した多軸積層シートを製造する工程と、前記多軸積層シートを裁断又は積層して金型に設置する所定形状に整形する整形工程と、前記所定形状に整形した中間体を金型内に設置する設置工程と、前記中間体設置工程で金型内に設置した中間体をプレスし繊維強化熱可塑性複合材料の熱可塑性樹脂の融点より高い温度に加熱して成形した後、前記熱可塑性樹脂の融点より低い温度に冷却する成形工程と、を備えた繊維強化熱可塑性複合材料の成形方法が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1の発明は、ステッチングを積層シート状態で、または積層シートを所定形状に整形した状態で行っている。
【0004】
所定形状の繊維強化プラスチック複合材料を製造するにあたり、基材上に強化用繊維を用いて製造すべき複合材の形状及び要求特性等に従って定まる個所に所望の任意の複数方向に強化用繊維材が方向性を有しかつ所望の任意の量となるように刺繍加工を施し、この刺繍加工を施した基材から必要に応じて非刺繍部を除去し、次いでこれを芯材としてハンドレイアップ方式などの一般的な方法で繊維強化プラスチック複合材を成形する方法が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−1089号公報
【特許文献2】特開昭60−11339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の繊維強化熱可塑性複合材料の成形方法は、プリプレグテープを並列させた層をつくりながら積層させ、その積層させたシートを金型に設置する所定形状に整形するためには整形工程の追加が必要になるという問題があった。
【0007】
積層させたシートを所定形状に整形するために裁断することによって、所定形状に使用しない部分を切り離し廃棄する。よって、所定形状物を製造するにあたり、積層シートの歩留りが低いという問題があった。さらに繊維が炭素繊維など高価な場合は製造コスト高になるという問題があった。
【0008】
一般的に繊維強化複合材料は、繊維配列方向からの引張強さは極めて高く、繊維の配列方向と直角方向に対する引張強さは極めて低い。したがって、繊維方向によっては引張力という外力が加わったときに端面が割れやすいという問題があった。
【0009】
プリプレグシートを単に積重ねたままのシート状態で、または前記積層シート状態を裁断して所定形状に整形した状態でステッチングを実施するため、各層のプリプレグシートを形成しているプリプレグテープがステッチング時に位置ずれを生じやすいという問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の繊維強化プラスチック複合材料の製造方法は、強化用繊維を刺繍して形成した所定形状物に溶融させたプラスチック材料を含浸させたりして繊維強化プラスチックを製造するが、一般的にプラスチックなどの高分子の溶融物は粘度が極めて高いので、芯材間の隙間にプラスチック溶融体が浸透しにくい。したがって、芯材とプラスチックとを一体化させることができないという問題があり、強度が低下するという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、所定形状を有する成形品を繊維強化熱可塑性樹脂で成形するにあたり、材料の歩留りが高く、曲げ強さや引張強さなどの強度及び剛性を有する成形品のニヤーネットシェイプの積層方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明における「プリプレグ」とは繊維を補強材とし熱可塑性樹脂を母材樹脂として、補強材と母材樹脂とを一体化させた複合材料を意味し、「プリプレグテープ」とは前記プリプレグを薄厚で幅1〜100mmの帯状にしたものを意味する。
【0013】
本発明における「ニヤーネットシェイプ」とは、金型によるプレス工程の前に不要な部分を除去するなどの除去・整形工程を設けず、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの積層によって中間品を作製すると、そのままの状態の前記中間品を金型内にセットして金型で加圧して成形すると成形品としてのはみ出し部分がほとんど生じない、高い歩留りを実現させる中間品を意味する。
【0014】
「発明が解決しようとする課題」に記載した課題を解決するために、請求項1にかかる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法の発明は、シート状の基材3上または既にできている層の上に、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を任意の向き及び任意の位置に着接しながらステッチングをし、任意の長さに裁断して一つの繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の縫着を完了させる手順からなる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1縫着手順を、各層における任意の位置から実施し、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1縫着手順を繰り返しながら順次繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を縫着させて平面状の一つの層を形成し、前記層の上部に更に次の平面状の層を前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1縫着手順に従って形成して積層し、順次次の平面状の層を形成しながら積層して多層構造体からなる所定形状を有する成形品のニヤーネットシェイプを縫成することを特徴とする。
【0015】
請求項2にかかる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法の発明は、請求項1において、成形品として必要な強度及び剛性を具備するように繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の配置を行う方法として、成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の繊維配列方向とを一致させる部位を設ける配置方法、前記成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の繊維配列方向とが直角な位置関係となる部位を生じさせない配置方法、隣接する2つの異なる繊維配列方向の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の突合せ部位の同一層内の狭間部位や、前記突合せ部位の上層及び/または下層で隣接する前記プリプレグテープ1を跨設させて繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を配置する配置方法などの方法の中から少なくとも一つの方法を一つの層内または複数の層内で織り込むことを特徴とする。
【0016】
請求項3にかかる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法の発明は、請求項1または2において、成形品として必要な強度及び剛性を具備するようにステッチングを行う方法として、層間剥離を生じやすい部位や変形しやすい部位に縫い糸の間隔を縮めて集中的にステッチングすることを特徴とする。
【0017】
請求項4にかかる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、シート状の基材3が、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を構成する熱可塑性樹脂と同一の材質からなる、プラスチックシート、プラスチックフィルム、織物、編物、組物、マット材、またはステッチングシートのいずれかであることを特徴とする。
【0018】
請求項5にかかる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、成形品のニヤーネットシェイプ縫成過程におけるステッチングを、ステッチングの縫いデータ、及びプリプレグテープ1の配置の位置データ並びに裁断位置データを含む制御データに基づいたプログラムに従って作動する、X方向及びY方向に直線移動する被ステッチング物の移送装置を具備した刺繍用ミシンを使用して行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明は、所定形状を有する成形品の形態と、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層からなる形態が略同一であるため、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグなる材料の歩留りが極めて高くなるという効果を奏する。また高価な強化繊維を廃棄する量を極端に減じることができるので大幅な原料コスト低減を実現でき、かつ産業廃棄物量を減じることができるという効果を奏する。
【0020】
また、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを大きなシートになるように配置し、前記シートを多層積層させた場合には成形品の形態をつくるために必要となる整形工程を、本発明では不要にできるという効果を奏する。
【0021】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグからなる積層物の形状が成形品としての形状と略同じ形状をしているので、プレス金型内に設置しやすくなるという効果を奏する。
【0022】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を着接させながらステッチングしていくので、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を任意の位置、任意の向きまたは任意の長さに裁断して配置しても位置ずれが生じないという効果を奏する。
【0023】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を任意の長さに裁断し任意の向きや任意の位置に配置できるので、同一層内で前記プリプレグテープ1の向きを自由自在に変えられるという効果を奏する。
【0024】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを使用しているため、すでに繊維間に熱可塑性樹脂が含浸しているので、繊維間に空隙が生じることはなく、積層して硬化時の樹脂流出は極めてわずかとなり高精度の成形品が得られるという効果を奏する。
【0025】
請求項2及び3に記載の発明は請求項1と同じ効果を奏する。さらに、成形品としての必要な強度及び剛性を具備させることができるという効果を奏する。
【0026】
請求項4に記載の発明は請求項1乃至3のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグを構成する熱可塑性樹脂と同一の材質を基材3に使用することにより成形品成形工程で溶融し成形品と一体化するので、基材3除去工程が不要になるという効果を奏する。
【0027】
請求項5に記載の発明は請求項1乃至4のいずれかに記載の発明と同じ効果を奏する。さらに、成形品のニヤーネットシェイプの縫成を自動的にできるという
という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に使用される繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの一例の概要図である。
【図2】本発明の成形品の一例の概要図である。
【図3】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを使用した1層目の平面概要図である。
【図4】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを使用した2層目の平面概要図である。
【図5】繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを使用した3層目の平面概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
任意の形状を有する成形品を製造する過程は、本発明の準備段階と、本発明である成形品のニヤーネットシェイプ縫成段階と、本発明の後工程となる成形品成形段階で構成される。本発明の位置づけは、前記製造の流れの中で原料の歩留りや成形品の強度・剛性を決定できる段階である。
【0030】
まず、本発明で使用する材料である繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1について説明する。前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1は、一方向に引き揃えられた連続繊維に熱可塑性樹脂を溶融し含浸した後、冷却ロールにより冷却して製造されたものであって市販品を用いることができる。
【0031】
前記プリプレグテープ1の幅は自由に選択できるが、テープ幅が広すぎると積層の際の前記プリプレグテープ1の向きなどの自由度が減少し、テープ幅が狭すぎるとステッチングの回数が増加し作製時間がかかるため、幅1〜100mmが適正であり、好ましくは幅5〜25mmがよい。なお、用途によっては前記範囲の幅に限定されない。
【0032】
また、前記プリプレグテープ1の厚さは、厚すぎるとステッチングの針の侵入が難しくなり、薄すぎると積層回数が増加し作製に時間がかかるため、0.05〜0.8mmが好ましい。なお、用途によっては前記範囲の厚さに限定されない。
【0033】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を構成する強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ザイロン繊維などの中から、製品が必要とする機械的特性などに応じて選択できる。また、前記繊維は用途に合わせた表面処理を施してもよい。
【0034】
繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を構成する熱可塑性樹脂としては、「ナイロン6」8などのポリアミド系樹脂、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂などの中から、成形可能温度、耐熱性、耐水性などの樹脂の特性に応じて選択できる。
【0035】
まず、本発明の準備段階を説明する。プリプレグテープ1を使用して、外郭形状が左右方向や高さ方向で直線、斜線若しくは曲線などからなる形状、または内側に孔部が存する形状などさまざまな形状を有する成形品を、材料の高い歩留りを実現して作製するためには、前記プリプレグテープ1を積層した段階において整形工程を設置することがなく廃棄する部位が生じないように積層する方法が望ましい。
【0036】
そのため、プリプレグテープ1の厚みを1層の高さとして所定形状を有する成形品の高さと略一致するように前記プリプレグテープ1の層数を算出する。ここで、層数が5〜15層になるようにプリプレグテープ1の厚みを選択するのがよい。
【0037】
そして、算出して分割した1つの層ごとに該当する成形品の断面形状を定める。ここで、プリプレグテープ1の幅は前記断面形状を具現化できる幅のものを選択するのがよい。各層ごとに定めた成形品の断面形状をプリプレグテープ1で各層ごとの平面形状として具現化し、これらを下から順次積層していけば高い歩留りで成形品を製造することのできるニヤーネットシェイプを形設することができる。
【0038】
また、成形品として必要な強度や剛性を満足させることが求められる。このため、曲げ、引張または圧縮などの外力が加わる成形品の部位に対して強度や剛性を満足させるようプリプレグテープ1の配置などを設定する。
【0039】
例えば、成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の繊維配列方向とを一致させるように前記プリプレグテープ1を配置したり、前記成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の繊維配列方向とが直角な位置関係となる部位を生じさせないように前記プリプレグテープ1を配置したり、隣接する2つの異なる繊維配列方向の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の突合せ部位の同一層内の狭間部位や、前記突合せ部位の上層及び/または下層で隣接する前記プリプレグテープ1を跨設させて繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を配置する。
【0040】
同一層内では同一の繊維配列方向しか成り立たないということになれば、成形品の部位に対して強度や剛性を満足させるプリプレグテープ1の配置ができなくなる。したがって、同一層内で複数の異なる繊維配列方向のプリプレグテープ1を配置するように設定する。
【0041】
また、層間剥離を生じやすい部位や変形しやすい部位に縫い糸の間隔を縮めて集中的にステッチングするように設定する。
【0042】
以上のように本発明の準備段階において、層別に平面形状、複数の繊維配列方向とその位置、及びステッチングの集中部位などを設定する。
【0043】
次に、成形品のニヤーネットシェイプ縫成段階を説明する。繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を配置するシート状の基材3として、前記プリプレグテープ1を構成する熱可塑性樹脂と同一の材質からなるシートを選択する。これによって、成形時の加熱によって前記基材3は溶融し成形品と一体化するので、前記シートを除去する工程が不要となる。
【0044】
ステッチングに使用する縫い糸は種々の糸を使用することができる。例えば、成形温度で溶解する糸を選択する場合は成形品の外観、表面のなめらかさが向上する効果があり、成形温度で溶解せず形状を保つ糸を選択する場合は成形時の圧縮圧力による繊維のずれを防止し繊維配列方向を正確に維持することができるという効果がある。
【0045】
本発明の準備段階で定めた各層ごとの平面形状、複数の繊維配列方向とその位置、及びステッチング方法に従って1層目から順次形成していく。まず、1層目は、基材3となるシート上に、1層目として設定された平面形状、及び繊維配列方向とその位置に従って繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を配置し、前記配置しながら縫い糸で基材3と前記プリプレグテープ1とをステッチングしていく。ステッチングする過程で、設定されたステッチング集中部位に対しては集中的にステッチングを実施する。
【0046】
前記繊維配列方向とその位置に従って繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1を配置する手順は、まず基材3上に本発明の準備段階で定めた繊維配列方向とその位置に一致させて前記プリプレグテープ1を着接していき、かつ着接しながらステッチングして、一つのプリプレグテープ1の着接が完了するごとに前記プリプレグテープ1をプリプレグテープ1切断機構により裁断する。ここで、プリプレグテープ1着接過程においてステッチング集中部位にきたら集中的にステッチングを実施する。
【0047】
そして、先にステッチングされ基材3シートに縫着されたプリプレグテープ1に隣接させてまたは隣接させないで任意の位置から、次のプリプレグテープ1を本発明の準備段階で定めた同一または異なる繊維配列方向に沿って着接しつつステッチングし、設定されたステッチング集中部位にくるとステッチングを集中させる。所定の着接を完了したらプリプレグテープ1をプリプレグテープ1切断機構により裁断する。このような着接・ステッチング・裁断からなる縫成方法を順次繰り返して1層目を作製する。
【0048】
次に、1層目に重ねて2層目の作製を行う。2層目は、1層目の繊維配列方向において強度や剛性が低下する個所を補強する方向に本発明の準備段階で定めた複数の繊維配列方向とその位置及びステッチング方法を具現化するように、1層目と同じ方法で2層目を作製する。
【0049】
3層目は2層目に重ねて作製していく。3層目は1層目や2層目の繊維配列方向において強度や剛性が不十分な個所を補強するような方向に本発明の準備段階で定めた複数の繊維配列方向とその位置及びステッチング方法を具現化するように、1層目や2層目と同じ方法で3層目を作製する。
【0050】
以上のような繰り返しを行って順次積層していき成形品のニヤーネットシェイプを作製する。
【0051】
ここで、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1送給装置と、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1裁断装置と、X方向及びY方向に直線移動する被ステッチング物の移送装置を具備した刺繍用ミシンとを、ステッチングの縫いデータ、プリプレグテープ1の配置の位置データ並びに裁断位置データを含む制御データに基づいたプログラムに従って作動するシステムを構成することにより、自動的に成形品のニヤーネットシェイプを作製することができる。
【0052】
次に、成形品成形段階を説明する。成形品成形段階には2つの異なる手順があり、どちらでもよい。
【0053】
まず、作製した成形品のニヤーネットシェイプを金型の外でプリプレグテープ1の熱可塑性樹脂の融点以上に加熱、溶融した後、前記熱可塑性樹脂の融点より低い温度の金型内に設置し、速やかにプレスし、賦形、冷却して成形品を作製する。ここで、使用する金型の外で前記ニヤーネットシェイプを加熱する方法は限定されないが、赤外線加熱装置による加熱が最も効率的である。
【0054】
また、作製した成形品のニヤーネットシェイプを金型内に設置した後、プリプレグテープ1の熱可塑性樹脂の融点より高い温度に加熱してプレスし賦形した後、前記熱可塑性樹脂の融点より低い温度に冷却する方法で成形品2を作製する。
【0055】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は実施例により限定されるものでない。
【実施例1】
【0056】
本発明の準備段階として、まず繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1は、図1に示すような強化繊維7として炭素繊維及び熱可塑性樹脂として「ナイロン6」8からなる複合材料であって、幅15mm、厚さ0.12〜0.13mmのプリプレグテープ1を使用した。図1に示すように、強化繊維7の繊維配列方向とプリプレグテープ1の長さ方向とは一致している。
【0057】
図2に示す形状の成形品2を製造する。成形品2の寸法、成形品2としての強度や剛性を有するようにすることを考慮してプリプレグテープ1の層数を8層とした。
【0058】
成形品2として強度及び剛性を有するようにするためには、端面a、端面b、端面c及び端面dは水平方向の引張強さを有するようにそれぞれの端面に平行な繊維配列方向のプリプレグテープ1を少なくとも1層は配置するように設定する。
【0059】
コーナー部eにおいて剛性を有するようにするため、プリプレグテープ1の突合せ部に補強用のプリプレグテープ1を配置するように設定し、前記突合せ部にステッチングを集中的に実施する設定をする。
【0060】
図3において、シート状の基材3の材質は、使用する繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ1の熱可塑性樹脂の材質と同一である「ナイロン6」8である。
【0061】
図3において、一例である成形品2のニヤーネットシェイプの縫成過程の1層目4を説明する。シート状の基材3の上に、成形品2の直線状である端面a及び端面bにそれぞれ平行な繊維配列方向になるように配置位置イ及び配置位置ロにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して8本ずつ縫設した。そして、配置位置ハにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して6本縫設し1層目4を縫成した。ここで、コーナー部eについてはステッチングを集中的に実施した。
【0062】
次に図4において、一例である成形品2のニヤーネットシェイプの縫成過程の2層目5を説明する。前記2層目5は前記1層目4に重ねて縫成を行う。成形品2の端面a及び端面bにそれぞれ平行な繊維配列方向になるように配置位置イ及び配置位置ロにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して8本ずつ縫成した。そして、配置位置ハにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して12本縫設し2層目5を縫成した。ここで、コーナー部eについてはステッチングを集中的に実施した。
【0063】
次に図5において、一例である成形品2のニヤーネットシェイプの縫成過程の3層目6を説明する。前記3層目6は前記2層目5に重ねて縫成を行う。成形品2の端面c及び端面dにそれぞれ平行な繊維配列方向になるように配置位置ニ及び配置位置ホにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して19本ずつ縫成した。そして、配置位置ヘにプリプレグテープ1をステッチングしながら所定の長さに裁断して8本縫設し3層目6を縫成した。ここで、コーナー部eについてはステッチングを集中的に実施した。
【0064】
以上のようにプリプレグテープ1の縫成を繰り返して8層を積層し成形品2のニヤーネットシェイプを作製した。
【0065】
次に、成形品2成形段階を説明する。成形品2のニヤーネットシェイプを赤外線加熱炉に内設し、250℃で40秒間加熱した。その後前記成形品2のニヤーネットシェイプを150℃に加温された金型内に設置し3MPaで30秒間加圧し、金型内から取り出して成形品2を完成させた。
【0066】
ここで、金型から取り出した成形品2に不必要なはみ出し部分を除去した結果、歩留り90%であった。これに対して従来の方法である積層シートを裁断又は積層させて金型内に設置するための中間体を整形する場合は整形工程と金型取出し後の2箇所において、成形品に不必要な部分を除去するため歩留りが65%であったので、本発明により歩留りを大幅に向上させることができた。
【符号の説明】
【0067】
1 繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ
2 成形品
3 基材
4 一例である成形品のニヤーネットシェイプの縫成過程の1層目
5 一例である成形品のニヤーネットシェイプの縫成過程の2層目
6 一例である成形品のニヤーネットシェイプの縫成過程の3層目
7 強化繊維
8 ナイロン6
a 端面
b 端面
c 端面
d 端面
e コーナー部
イ 配置位置
ロ 配置位置
ハ 配置位置
ニ 配置位置
ホ 配置位置
ヘ 配置位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の基材上または既にできている層の上に、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを任意の向き及び任意の位置に着接しながらステッチングをし、任意の長さに裁断して一つの繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの縫着を完了させる手順からなる繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ縫着手順を、各層における任意の位置から実施し、前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ縫着手順を繰り返しながら順次繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを縫着させて平面状の一つの層を形成し、前記層の上部に更に次の平面状の層を前記繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープ縫着手順に従って形成して積層し、順次次の平面状の層を形成しながら積層して多層構造体からなる所定形状を有する成形品のニヤーネットシェイプを縫成することを特徴とする繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法。
【請求項2】
成形品として必要な強度及び剛性を具備するように繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの配置を行う方法として、成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの繊維配列方向とを一致させる部位を設ける配置方法、前記成形品に対して引張力のかかる方向と繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの繊維配列方向とが直角な位置関係となる部位を生じさせない配置方法、隣接する2つの異なる繊維配列方向の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープの突合せ部位の同一層内の狭間部位や、前記突合せ部位の上層及び/または下層で隣接する前記プリプレグテープを跨設させて繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを配置する配置方法などの方法の中から少なくとも一つの方法を一つの層内または複数の層内で織り込むことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法。
【請求項3】
成形品として必要な強度及び剛性を具備するようにステッチングを行う方法として、層間剥離を生じやすい部位や変形しやすい部位に縫い糸の間隔を縮めて集中的にステッチングすることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法。
【請求項4】
シート状の基材が、繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグテープを構成する熱可塑性樹脂と同一の材質からなる、プラスチックシート、プラスチックフィルム、織物、編物、組物、マット材、またはステッチングシートのいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法。
【請求項5】
成形品のニヤーネットシェイプ縫成過程におけるステッチングを、ステッチングの縫いデータ、及びプリプレグテープの配置の位置データ並びに裁断位置データを含む制御データに基づいたプログラムに従って作動する、X方向及びY方向に直線移動する被ステッチング物の移送装置を具備した刺繍用ミシンを使用して行うことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の繊維強化熱可塑性樹脂プリプレグの積層方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−207198(P2011−207198A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80046(P2010−80046)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(591079487)広島県 (101)
【出願人】(000219749)東海工業ミシン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】