説明

繊維形態のナノ構造化吸着剤によるガス状汚染物質の吸着方法

ガス状汚染物質の存在に敏感な装置のハウジングから、ナノ構造化吸着剤によって除去する方法であって、当該吸着剤は活性物質を内部に含む繊維の形態である方法を記載する。ナノ構造化吸着剤及びその製造方法も記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電子装置、例えばOLED型の有機ディスプレー(Organic Light Emitting Display)、及び太陽電池、例えばOSC(Organic Solar Cells)の分野における最近の発達は、これらの装置のハウジング内のガス状汚染物質の除去に関して、一層厳格な要求がなされている。
【背景技術】
【0002】
これらの装置は、実際、それらの性能の漸進的な低下を引き起こすガス状汚染物質の存在に対して、特に、水及び酸素に関して非常に敏感である。これらの汚染物質の有害な影響についての更なる情報は、OLEDディスプレーに関するShuang Fang Lim等の論文「Correlation between dark spot growth and pinhole size in organic light-emitting diodes」(Applied Physics Letters, Vol. 78, April 9, 2001に公表);及びOSC型の太陽電池に関する書籍「Organic Photovoltaics-Concepts and Realization」(2003年、Springer-Verlagより刊行)中の、Brabec等による第5章中に見出すことができる。
【0003】
ガス状不純物の存在に敏感な装置のハウジングからのガス状不純物除去用吸着剤の利用は、公知である。例えば、本出願人による国際特許出願WO2004/072604号は、適当な多孔性材料中に分散された活性成分の利用を開示しており、国際特許出願WO2007/013118号及びWO2007/013119号(両方とも本出願人による)は、活性成分が多孔性手段内に限られ、それが更に高分子マトリクス中に分散されるナノ構造化システムを開示している。透過性高分子マトリクス中に分散された官能化された核の利用は、国際特許出願WO2007/074494号に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許出願WO2004/072604号
【特許文献2】国際特許出願WO2007/013118号
【特許文献3】国際特許出願WO2007/013119号
【特許文献4】国際特許出願WO2007/074494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、一層効果的なガス状汚染物質の除去を可能にする吸着方法である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の態様において、本発明は、ガス状汚染物質の存在に敏感である装置のハウジングからの、分散された活性物質ナノパウダーを含むナノ構造化繊維による、ガス状汚染物質の除去方法であり、該繊維は、1000ナノメートル(nm)以下の直径を有している。好適な具体例において、これらのナノ構造化繊維の直径は、100nm以下である。
【0007】
本発明の繊維は、完全な円形ではない断面を有することもできる。この場合、用語「直径」は、その繊維の最大厚を意図している。
【0008】
本発明を、下記において、エレクトロスピニングによってナノ構造化繊維を製造するためのシステムの概略を示した図1を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】エレクトロスピニングによってナノ構造化繊維を製造するためのシステムの概略を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1において示された様々な要素の大きさ及び寸法比は、正確ではなく、図の理解を助けるために、例示であり限定するものではないナノ構造化繊維の厚みに関して変えてある。
本発明の繊維は、高分子材料で構成されることができ、高分子材料として、例えば、アセタールポリマー、アクリル系ポリマー、セルロースポリマー、フルオロポリマー、イオノマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ビニルポリマー、スチレンポリマー、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリシロキサン、ポリオキシド、液晶ポリマー、ポリエーテル、ポリ無水物、ポリイミド、ポリケトンが挙げられる。
【0011】
アルカリ土類金属の酸化物、中でも好ましくは酸化カルシウム、ゼオライト及び過塩素酸マグネシウムは、H2Oの除去に有用な活性物質である。
【0012】
ナノ構造化繊維の活性物質は、酸素との相互作用で酸化状態を増大できる金属の酸化物を含むか、それらから構成されても良く、特に、鉄、ニッケル、銅及びマンガンの酸化物が挙げられ、マンガンは、II〜VIの酸化数を有する。これらの物質は、O2の除去に適している。本発明の実施に有用な他の酸素吸着剤として、不飽和結合を有する有機化合物が挙げられる。
【0013】
すべての上記活性物質は、分散されたナノパウダーの形態で繊維中に存在し、該ナノパウダーは、繊維の厚みの半分、即ち、繊維の半径、以下のナノパウダーに好適なサイズを有する。
【0014】
敏感な装置のハウジングからの種々のガス状種の吸着は、複合繊維の使用により行なうことができ、該複合繊維においては、複数の吸着剤物質が同一繊維内に存在しており、又は同一ハウジング内で、所定の汚染物質に対してそれぞれ特異的な活性物質を有しそれ故特異的反応性を有する異なるナノ構造化繊維を使用することもできる。このような手法は、特定の応用の観点から活性物質の量及び種類を制御することができ、例えば水を吸着可能な物質の量を増すこと等の、より多量のそれぞれの吸着性ナノ構造化繊維を敏感な装置のハウジング内に単純に導入することにより制御できる利点を有している。
【0015】
敏感な装置のハウジングからのガス状汚染物質の除去に有用なナノ構造化繊維の興味深い別の具体例は、ナノチューブ即ち中空のナノ繊維の利用である。この構成の利点は、露出表面の増加による、水分に対する又は一般に汚染物質に対する増大した活性である。
【0016】
装置のハウジングからのガス状汚染物質の除去は、下記の2つの方法で行うことができる:
a)不規則に充填された繊維形状の吸着剤をハウジング内に挿入して、不純物に対するゲッター剤として作用させる、又は
b)分離された繊維形状の吸着剤を、第一の物質層はハウジングの外側に面しており、第二の物質層は、敏感な装置の環境に面している2層の物質の間に封入される。
【0017】
これらの層が低透過性の場合には、封入された吸着剤は、不純物の侵入に対する活性なバリヤーとして作用する。類似の効果は、繊維を単一の低透過性物質中に分散させたときにも達成される。
【0018】
b)の重要な変形物は、有害なガス状種に対して異なる透過性を有する物質の間に繊維を閉じ込めることにあり、特に、第一層の物質(ハウジングの外側に面している)は、ガス状不純物が装置のハウジングに入るのを防ぐために、低透過性又は低透過性物質と組み合わされていなければならない、一方、第二層の物質(敏感な装置に面している)は、多孔性であって、有害なガス状種に対して透過性である。この種の解決手法は、ガス状不純物の侵入に対する有効なバリヤーと、外部環境からの透過以外の理由によりハウジングの内側に存在しうる有害なガス状種に対するゲッターとを同時に満たす。ガス状不純物の内的生成の典型的機構は、装置を含むハウジング内に閉じ込められた幾つかの成分の「ガス放出」である。
【0019】
低透過性という表現は、1×10-123(STP)m-3bar-12-1以下の透過性を有する物質を示し、ここに、m3(STP)は、室温で且つ100kPaの圧力で測定したガスの立方メートルを表す。
【0020】
好適具体例において、ナノ構造化繊維は、低透過性物質と高度に透過性の物質の間に閉じ込められ、後者は、少なくとも1×10-113(STP)m-3bar-12-1の透過性を有し、ここに、該高度に透過性の物質は、ナノ構造化繊維と敏感な装置のハウジングの内側との間の境界面(interface)として作用する。
【0021】
第二の態様において、本発明は、汚染物質の除去のためのナノ構造化繊維の製造方法に関係する。
前述のナノ構造化繊維の製造のための非常に興味深い技術は、エレクトロスピニングである。
【0022】
この技術は、図1に模式的に表現してあり、該図は、末端部分14が適切な発電機15によって通電されているシリンジ13を含むエレクトロスピニング用システム10を示す。この発電機は又、表面16との電位差を確立し、表面16は繊維の吸引器(attractor)及び捕集板(collecting plate)として作用する。この繊維は、灰色で示した液状形態の前駆体11を出発物質として製造され、典型的にはポリマーから構成される。このポリマー中には、この図では点が付された要素12により表されるガス状不純物を吸着する目的を有する活性物質のナノパウダーである、他の要素を分散させることができる。
【0023】
通常、シリンジの内容物は、図には示されていない適切な手段によって加熱することにより液体形態に維持される。
【0024】
シリンジのチップ(末端部分)と捕集板との間の電界の作用は、繊維の形成中にそれを引き伸ばす効果及び一度シリンジから供給されたならば繊維を固化させる効果を有し、その結果、活性物質ナノパウダーを内部に含有するナノ構造化繊維を得ることが可能となる。この製造技術に関する更なる情報は、医薬の制御された供給用システムに関してこの製造システムを開示している米国特許出願US2004/0137225号中に見出すことができる。
【0025】
プレート−針配置よりも、同軸の2本の針の利用のほうが、ナノチューブを得ることを更に可能にする。
【0026】
本発明は、第三の態様において、分散された活性要素ナノパウダーを含む一種以上のナノ構造化繊維よりなるガス状不純物用の吸着剤であり、該ナノ繊維は、1000nm以下の直径を有し、好適具体例においては、直径は100nm以下である。
【0027】
これらのナノ構造化繊維は、敏感な装置のハウジング内に上記のように存在しても、ハウジングの外側に面する物質の第一の層と敏感な装置の環境に面する物質の第二の層の間に封入されてもよく、又はこの繊維を一の材料内に分散させてもよい。これらの材料は、この繊維を含み、敏感な装置のハウジング自体の一部を形成する。
【0028】
これらの材料の少なくとも一種であり第一層用に用いられるものは、有害なガス状種に対して低透過性であるか又は低透過性物質と組み合わされており、一方、第二層用の材料は、有害なガス状種に対して低透過性であり有効なバリヤーを形成するか又は透過性である。この場合には、この繊維は又、有害なガス状種の侵入を妨げることに加えて、ハウジング内に存在するそれらを吸着することができる。
【0029】
ナノ構造化繊維の製造に特に適した活性材料は、アルカリ土類金属酸化物、特に酸化カルシウム、及び過塩素酸マグネシウムである。
【符号の説明】
【0030】
10 エレクトロスピニング用システム
11 前駆体
12 ナノパウダー
13 シリンジ
14 シリンジの末端部分
15 発電機
16 表面
17 ナノ構造化繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状汚染物質を、それらの存在に敏感な(sensitive)装置のハウジングから、分散された活性物質ナノパウダーを含むナノ構造化繊維によって除去する方法であって、該繊維が1000nm以下の直径を有する当該方法。
【請求項2】
前記の繊維が、100nm以下の直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記のナノパウダーが、繊維の半径以下の寸法を有する、請求項1又は2の何れかに記載の方法。
【請求項4】
前記の繊維が、高分子物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記の高分子物質が、アセタールポリマー、アクリル系ポリマー、セルロースポリマー、フルオロポリマー、イオノマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ビニルポリマー、スチレンポリマー、ポリウレタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテート、ポリシロキサン、ポリオキシド、液晶ポリマー、ポリエーテル、ポリ無水物、ポリイミド、ポリケトンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記の活性物質が、アルカリ土類金属の酸化物、ゼオライト及び過塩素酸マグネシウムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
アルカリ土類金属の酸化物が、酸化カルシウムである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記の活性物質が、酸素との相互作用によって酸化状態を増大させることができる金属の酸化物よりなる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記の金属の酸化物が、鉄、銅、ニッケル及びマンガンの酸化物から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記の活性物質が、不飽和有機化合物である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記の繊維が、複数の活性物質を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
異なる活性物質を含む複数の繊維が、前記のガス状汚染物質の除去に用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記の繊維が、中空である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記のナノ構造化繊維が、低透過性物質中に分散される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記のナノ構造化繊維が、ハウジングの外側と面する第一の層の物質と敏感な装置の環境に面する第二の層の物質との間に封入される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記の第一の層の物質が、前記のガス状汚染物質に対して低透過性な、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記の第一及び第二の層の物質が、前記のガス状汚染物質に対して低透過性な、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記の第二の層の物質が、前記のガス状汚染物質に対する高い透過性を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
エレクトロスピニングを利用して行われる、請求項1に記載のナノ構造化繊維の製造方法。
【請求項20】
活性物質を含むナノ構造化繊維よりなるガス状不純物吸着剤であって、該活性物質が、アルカリ土類金属の酸化物、過塩素酸マグネシウム及びこれらの組合せから選択される、当該吸着剤。
【請求項21】
前記のアルカリ土類金属の酸化物が酸化カルシウムである、請求項20に記載の吸着剤。
【請求項22】
前記のナノ繊維が、ハウジングの外側と面する第一の層の物質と敏感な装置の環境に面する第二の層の物質との間に封入された、請求項20に記載の吸着剤。
【請求項23】
前記の第一及び第二の層の物質が、前記のガス状汚染物質に対して低透過性な、請求項22に記載の吸着剤。
【請求項24】
前記の第二の層の物質が、前記のガス状汚染物質に対して高い透過性を有する、請求項22に記載の吸着剤。

【図1】
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【公表番号】特表2010−523311(P2010−523311A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501608(P2010−501608)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【国際出願番号】PCT/IB2008/000776
【国際公開番号】WO2008/120090
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(500275854)サエス ゲッターズ ソチエタ ペル アツィオニ (54)
【Fターム(参考)】