説明

繊維状複合材、その製造方法、成型体及びディーゼルパティキュレートフィルター

【課題】助触媒成分の剥離を抑制ないし防止し得る繊維状複合材、その製造方法、これを用いた成型体及びディーゼルパティキュレートフィルターを提供すること。
【解決手段】繊維状複合材は、繊維基材と、繊維基材に含まれる助触媒成分とを有し、繊維状複合材の平均繊維径が1〜10μmである。
繊維状複合材の製造方法は、紡糸原液を回転する中空円盤の側壁に設けられた複数個の細孔から吐出させて液糸化した後、焼成する繊維状複合材の製造方法であって、紡糸原液として、助触媒成分原料と繊維基材原料と紡糸助剤とを含有し、且つ助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が10〜50質量%であり、且つ紡糸助剤の含有率が3〜12質量%であり、且つ粘度が500〜20000mPa・sであるものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状複合材、その製造方法、成型体及びディーゼルパティキュレートフィルターに係り、更に詳細には、助触媒成分の剥離を抑制ないし防止し得る繊維状複合材、その製造方法、これを用いた成型体及びディーゼルパティキュレートフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンと比較して燃費効率が良く、二酸化炭素の排出量低減に効果的であるが、排ガス中に含まれる粒状物質の低減が課題となっている。この課題解決には、触媒を担持させた無機繊維成形体から成るディーゼルパティキュレートフィルターを用い、粒状物質を捕集し浄化する方法が有効である。ディーゼルエンジンが排出するガス温度では、粒状物質を十分に酸化させることができないので、助触媒を用いることが検討されており、セリウム−プラセオジム酸化物、セリウム−ジルコニウム酸化物などの希土類元素酸化物が有効であるとの報告がある(非特許文献1参照。)。
一方、助触媒を無機繊維に担持する方法としては、助触媒成分である有機酸塩と界面活性剤とを含む水溶液に無機繊維をディッピングし、乾燥・焼成する方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−326036号公報
【非特許文献1】原田 浩一郎,對尾 良則,高見 明秀,Journal of the Japan Petroleum Institute,Vol.48,No.4,p.216(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の助触媒を無機繊維に担持する方法では、助触媒を繊維表面に均一に担持することができなかった。また、このような方法で得られた無機繊維においては、助触媒成分の剥離が生じやすいという問題点があった。
【0004】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、助触媒成分の剥離を抑制ないし防止し得る繊維状複合材、その製造方法、これを用いた成型体及びディーゼルパティキュレートフィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねたところ、繊維基材と該繊維基材に含まれる助触媒成分とを有し、平均繊維径が1〜10μmである繊維状複合材とすることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の繊維状複合材は、繊維基材と該繊維基材に含まれる助触媒成分とを有する繊維状複合材であって、当該繊維状複合材の平均繊維径が1〜10μmであることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の繊維状複合材の製造方法は、紡糸原液を回転する中空円盤の側壁に設けられた複数個の細孔から吐出させて液糸化した後、焼成する繊維状複合材の製造方法であって、該紡糸原液として、助触媒成分原料と繊維基材原料と紡糸助剤とを含有し、且つ助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が10〜50質量%であり、紡糸助剤の含有率が3〜12質量%であり、且つ粘度が500〜20000mPa・sであるものを用いることを特徴とする。
【0008】
更に、本発明の成型体は、上記本発明の繊維状複合材から成ることを特徴とする。
【0009】
更にまた、本発明のディーゼルパティキュレートフィルターは、上記本発明の繊維状複合材から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維基材と該繊維基材に含まれる助触媒成分とを有し、平均繊維径が1〜10μmである繊維状複合材とすることなどとしたため、助触媒成分の剥離を抑制ないし防止し得る繊維状複合材、その製造方法、これを用いた成型体及びディーゼルパティキュレートフィルターを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の繊維状複合材について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の繊維状複合材は、繊維基材と繊維基材に含まれる助触媒成分とを有する繊維状複合材であって、繊維状複合材の平均繊維径が1〜10μmであるものである。
このような構成とすることにより、熱劣化や熱による収縮、衝撃などによる助触媒成分の剥離が抑制ないし防止された繊維状複合材となる。
ここで、「助触媒成分」とは、触媒成分の活性や選択性を増大又は安定化させるものである。例えばディーゼルパティキュレートフィルターにおいて、粒状物質を酸化ないし燃焼させる触媒成分の一例である白金の活性を増大させるものなどを挙げることができる。
また、平均繊維径は、例えば、試料50gをプレス機により20.6MPaに加圧、圧砕した後、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製「JSM−5300」)を用いて写真撮影し(倍率:1500倍、枚数:約25枚)、任意に選ばれた繊維1000本の繊維径を市販の測定具(ミツトヨ社製デジタルノギス)を用いて測定し、その平均値を算出することによって求められる。
【0012】
また、例えば、繊維状複合材の平均繊維径を上記範囲とすることにより、後述する成型体などを製造する際に粉塵の発生が抑制できることや、繊維強度を高く維持できるといった利点がある。このような観点からは、繊維状複合材の平均繊維径は3〜8μmであることが好ましい。
【0013】
更に、本発明においては、助触媒成分の好適例として、例えば希土類元素を含有する酸化物を挙げることができる。このような構成とすることにより、助触媒能や繊維強度、更にその生産性などが、より優れたものとなる。
【0014】
また、本発明においては、上述の希土類元素含有酸化物の含有率が5〜50質量%であることが好ましく、8〜30質量%であることがより好ましい。希土類元素含有酸化物の含有率が5質量%未満の場合には、十分な助触媒機能が得られないことがある。また、希土類元素含有酸化物の含有率が50質量%を超える場合には、例えばアルミナやアルミナシリカ成分などの繊維状複合材を構成する成分が少なくなり、繊維強度が低下する蓋然性が高い。
【0015】
更に、本発明においては、上述の希土類元素として、例えばセリウム、イットリウム、プラセオジム、ランタン、ネオジムなどを挙げることができ、これらを単独で又は複数組み合わせることができる。特に、セリウムとプラセオジムとが含まれていることが好ましい。
助触媒成分として、このような希土類元素含有酸化物が含まれていると、繊維化が容易であり、助触媒機能が優れるという利点があり、例えばディーゼルパティキュレートフィルターに用いた場合には、ディーゼルパティキュレートフィルターにおけるパティキュレートマターの燃焼開始温度の低温化を図ることができる。
【0016】
また、本発明においては、繊維基材が少なくともアルミニウムを構成元素として含有する酸化物であることが、助触媒能や耐熱性、その生産性の観点から望ましい。
【0017】
更に、本発明においては、アルミニウムを構成元素として含有する酸化物が、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ又はθ−アルミナ、及びこれらの任意の組合せに係る1種のものを含有することが、耐熱性向上の観点から望ましい。
【0018】
また、本発明においては、繊維基材が少なくともアルミニウム及びケイ素を構成元素として含有する酸化物であることが、助触媒能や繊維強度、その生産性の観点から望ましい。
【0019】
更に、本発明においては、アルミニウム及びケイ素を構成元素として含有する酸化物のAl/SiO比が、質量比で72/28〜100未満/0超であることが好ましく、80/20〜97/3であることがより好ましい。Al/SiO比が、質量比で72/28未満の場合には、耐熱性が低下することがある。
【0020】
更にまた、本発明においては、繊維基材のムライトの含有率が、80質量%以下であることが好ましく、5〜60質量%であることがより好ましい。繊維基材のムライトの含有率が80質量%を超える場合には、繊維強度が低下することがある。
なお、本発明においては、繊維基材にムライトが含まれていなくてもよい。
また、ムライトの含有率は、例えば後述するように、繊維状複合材と、酸化マグネシウムと、アセトンとを遊星型ボールミル(FRITSCH社製)で湿式混合し、乾燥させた後、X線回折装置(RIGAKU社製「multiflexs」)にて粉末X線強度を測定し、定量ソフト(Sietronics社製「SIROQUONT」)を用いて定量できる。
【0021】
次に、本発明の繊維状複合材の製造方法について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の繊維状複合材の製造方法は、上記本発明の繊維状複合材の製造方法の一実施形態であって、紡糸原液を回転する中空円盤の側壁に設けられた複数個の細孔から吐出させて液糸化した後、焼成して、所望の繊維状複合材を得るに当たり、紡糸原液として、助触媒成分原料と繊維基材原料と紡糸助剤とを含有し、且つ助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が10〜50質量%であり、且つ紡糸助剤の含有率が3〜12質量%であり、且つ粘度が500〜20000mPa・sであるものを用いる製造方法である。
このような構成とすることにより、上述した所望の繊維状複合材を得ることができる。
【0022】
例えば、助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が10質量%未満の場合には、平均繊維径が著しく細くなり所望の繊維状複合材が得られないことがある。また、助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が50質量%を超える場合には、平均繊維径が著しく太くなり所望の繊維状複合材が得られないことがある。
また、紡糸助剤の含有率が3質量%未満の場合には、紡糸原液において所望の粘度に調整することが困難となる。また、紡糸助剤の含有率が12質量%を超える場合には、繊維状複合材前駆体を例えば炉内で焼成する際に、紡糸助剤の燃焼が起こり、得られる繊維状複合材の繊維強度が低下するおそれがある。
更に、紡糸原液の粘度が500mPa・s未満の場合には、液糸化が困難となる。また、紡糸原液の粘度が20000mPa・sを超える場合には、繊維径が太くなりすぎることがある。このような観点からは、例えば濃縮するなどして1000〜5000mPa・sに調整することが好ましい。
なお、ここでの含有率は、助触媒成分原料や繊維基材原料、紡糸助剤などがそれぞれ固形物の場合はその固形分濃度、溶液やゾルなどの場合にはそれらを濃度換算したものを示す。
【0023】
ここで、上記助触媒成分原料としては、繊維状複合材とした際に、上述した助触媒成分となるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば希土類元素含有酸化物となる希土類元素化合物を挙げることができる。
具体的には、セリウムやイットリウム、プラセオジム、ランタン、ネオジムなどの希土類元素の硝酸塩、塩化物などを例示することができる。
【0024】
また、上記繊維基材原料としては、繊維状複合材とした際に、上述した助触媒成分を含有し得る繊維基材となるものであれば、特に限定されるものではないが、例えばアルミナやアルミナシリカとなるアルミニウム化合物やケイ素化合物を挙げることができる。
上記アルミニウム化合物として、具体的には、アルミニウムの塩基性塩化物、塩基性酢酸塩、塩基性硝酸塩を例示することができる。また、上記ケイ素化合物として、具体的には、コロイダルシリカ、水溶性シリコーン、水溶性シロキサン誘導体、シリコンアルコキシドを例示することができる。
【0025】
更に、上記紡糸助剤としては、例えばポリビニルアルコール、デンプン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコールなどを挙げることができ、これらは単独で又は適宜2種以上を組み合わせて用いることができる。
上述した助触媒成分原料と繊維基材原料と紡糸助剤とからは、それぞれ例示したものから少なくとも1種を選択し、混合して用いることができる。
【0026】
また、本発明においては、特に限定されるものではないが、中空円盤の周速を30〜80m/秒とすることが好ましく、40〜60m/秒とすることがより好ましい。
中空円盤の周速が80m/秒を超える場合には、平均繊維径が細くなり所望の繊維状複合材が得られにくく、また、非繊維形状であるショット量が増大する。また、中空円盤の周速が30m/秒未満の場合には、液糸化の際に細孔が目詰まりを起こし、紡糸工程に悪影響を及ぼすことがある。
更に、本発明においては、特に限定されるものではないが、細孔の直径を0.1〜0.5mmとすることが好ましい。これにより、平均繊維径1〜10μmの所望の繊維状複合材を形成し易くなる。
また、本発明においては、特に限定されるものではないが、細孔の間隔を0.3〜0.8mmとすることが好ましい。細孔間隔が0.3mm未満である場合には、液糸化直後に繊維状複合材前駆体同士が接触するおそれがあり、細孔間隔が0.8mmを超える場合には、生産性が低下する。
更に、本発明においては、特に限定されるものではないが、1孔当たりの紡糸原液の吐出量を8〜20ml/時とすることが好ましく、10〜18ml/時とすることがより好ましい。吐出量が8ml/時未満の場合には、紡糸性が劣ってショット発生の原因となり、20ml/時を超える場合には、繊維状複合材の平均繊維径が著しく太くなり、しかも脆性が顕著となって繊維の破壊が起こりやすくなる。
【0027】
また、本発明においては、特に限定されるものではないが、例えば液糸は乾燥された後に、焼成される。
上記液糸の乾燥は、例えば熱風の供給により雰囲気温度が50〜400℃、好ましくは70〜350℃に保たれた乾燥室に液糸を浮遊状態で通過させて行うことが望ましい。乾燥温度が50℃未満の場合には、液糸の延伸過多による平均繊維径の細径化や、繊維状複合材前駆体同士の合着が起こるおそれがある。また、乾燥温度が400℃を超える場合には、液糸が十分に延伸させる前に乾燥されるため、平均繊維径が太くなるおそれがある。
【0028】
上記焼成は、液糸の乾燥物(繊維状複合材前駆体)を浮遊状態で集綿室に搬送し、集綿室で下部から吸引して集めてから、焼成炉において大気雰囲気下で行うことが望ましい。
焼成炉としては、ローラハウス炉やウォーキングビーム炉などの連続炉を適用することが好ましい。
焼成する際の昇温速度は1000℃までは5〜50℃/分として繊維状複合材前駆体の水分や紡糸助剤等を除去することが好ましい。1000℃までの昇温速度が5℃/分未満の場合には、所望の温度を達成するには連続炉前半部の炉長を必要以上に長くする必要があり、50℃/分を超える場合には、急激な加熱により繊維状複合材前駆体中の紡糸助剤が燃焼し、繊維強度が低下するおそれがある。
また、1000℃を超えてからは10〜30℃/分として、1100〜1500℃まで昇温し、この温度で10〜100分間保持することが好ましい。1000℃を超えてからの昇温速度が10℃/分未満であると、炉長を必要以上に長くする必要があり、30℃/分を超えると急激な加熱により繊維状複合材に焼きムラが発生するおそれがある。更に、1100〜1500℃における保持時間が10分未満である場合には、繊維状複合材に焼きムラが発生するおそれがあり、また、100分を超える場合には、繊維強度が低下するおそれがある。
更にまた、1100〜1500℃の範囲内において温度を選ぶことによって、繊維状複合材の主成分をα−アルミナやムライトなどに変化させることができる。
【0029】
次に、本発明の成型体について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の成型体は、上記本発明の繊維状複合材から成るものである。このような構成とすることにより、繊維状複合材自体の性能を効率良く発揮し得るものとなる。
このような成型体は、例えば押出成型法、射出成形法、抄造法などによって得ることができる。例えば抄造法としては、丸網抄造機、長網抄造機等の連続抄造設備を用いる方式、抄造ボックスにスラリーを流し込むバッチ抄造方式、スラリーから平網で漉き上げる方式等が採用できる。いずれの方式であっても、例えばアクリルエマルジョン、塩化ビニルエマルジョン、ポリスチレンエマルジョン、NBRラテックス等の有機質バインダーを繊維状複合材100重量部に対して3〜20重量部混合することが好ましい。有機質バインダーの混合は、予め繊維状複合材と有機質バインダーとを所定量混ぜる方法、繊維状複合材のみのスラリーを抄造し、ケーキとした後、その上方から有機質バインダーを含む溶液をスプレーし、下方より吸引する方法、又はそれらを併用する方法により行うことができる。この場合、スラリーには触媒成分を含有させることもできる。
【0030】
次に、本発明のディーゼルパティキュレートフィルターについて詳細に説明する。
上述の如く、本発明のディーゼルパティキュレートフィルターは、上記本発明の繊維状複合材から成るものである。このような構成とすることにより、所望の形状や強度を有し、更にパティキュレートマターを捕集しやすいディーゼルパティキュレートフィルターとなる。
例えば蛇腹形状やハニカム形状に成形したディーゼルパティキュレートフィルターを挙げることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1−1〜1−9、比較例1及び2)
アルミニウム化合物(オキシ塩化アルミニウム水溶液)、ケイ素化合物(コロイダルシリカゾル)、希土類元素化合物(試薬特級の硝酸セリウム、硝酸プラセオジム)及び紡糸助剤(10%ポリビニルアルコール水溶液)を混合し、濃縮することにより、表1に示す各例の紡糸原液を調製した。
なお、表1には、原液の繊維組成を酸化物の化学成分で記載した。
【0033】
これらの紡糸原液を、回転する中空円盤(直径:350mm、周速50m/秒)の側壁に設けられた直径0.2mmの細孔300個(細孔間隔:0.5mm)から、1孔当たり15ml/時で吐出させて液糸化し、250℃の熱風に浮遊させて乾燥させながら、下部から吸引する方式の集綿室に搬送し、繊維状複合材前駆体を集めた。これをローラーハウス炉を用いて、大気雰囲気下で焼成して、各例の繊維状複合材を得た。各例の繊維状複合材の仕様と製造条件を表1に示す。
ここで、焼成は、1000℃までを5℃/分の昇温速度で昇温し、1000℃を超えてからは1300℃までを10℃/分昇温速度で昇温し、1300℃で60分間保持した。
【0034】
【表1】

【0035】
(実施例2−1〜2−10)
紡糸条件及び乾燥条件を変更したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返して、各例の繊維状複合材を得た。各例の繊維状複合材の仕様と製造条件を表2に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
(実施例3−1〜3−7)
焼成条件を変更したこと以外は、実施例1−1と同様の操作を繰り返して、各例の繊維状複合材を得た。各例の繊維状複合材の仕様と製造条件を表3に示す。
【0038】
【表3】

【0039】
(比較例3)
市販のアルミナ繊維(アルミナ80質量%、シリカ20質量%、平均繊維径3.9μm)を、非イオン性界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーテル)を0.02%含有し、酸化セリウムと硝酸プラセオジム(酸化セリウム:硝酸プラセオジム=7:3(質量比))を合計で30質量%含有して成る水溶液に10分間浸漬し、120℃で2時間乾燥した後、1000℃で60分間焼成して、本例の繊維状複合材を得た。
【0040】
なお、上記各例の繊維状複合材の平均繊維径については、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製「JSM−5300」)を用いて1500倍で観察し、ミツトヨ社製デジタルノギスを用い、任意に選んだ1000本の繊維の繊維径を測定し、その平均繊維径を算出した。
また、上記各例の繊維状複合材の化学組成については、ICP発光分析法により化学組成を測定した。
更に、上記各例の繊維状複合材の組織については、X線回折装置(RIGAKU社製「multiflexs」)にて粉末X線強度を測定し、定性ソフト(RIGAKU社製「JADE」)を用い、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ及びθ−アルミナの検出を行った。なお、γ−アルミナ、δ−アルミナ及びθ−アルミナのいずれも検出されなかった場合、表中に「中間アルミナ」が「未検出」と表記する。
更にまた、上記各例の繊維状複合材2.1gと、酸化マグネシウム(特級試薬)0.9gと、アセトン(特級試薬)7gとを遊星型ボールミル(FRITSCH社製、容量45ml)を用い、400rpmで5分間湿式混合した後、80℃で2時間乾燥させ、X線回折装置(RIGAKU社製「multiflexs」)にて粉末X線強度を測定し、測定結果を定量ソフト(Sietronics社製「SIROQUONT」)を用い、ムライトの含有率を定量した。
【0041】
また、図1は、実施例1−1の繊維状複合材のSEM写真(倍率:15000倍)であり、図2は、その概念図である。一方、図3は、比較例3の繊維状複合材のSEM写真(倍率:15000倍)であり、図4は、その概念図である。
【0042】
図1及び2から、本発明の範囲に属する実施例1−1の繊維状複合材では、繊維基材10の表面及び内部に助触媒成分の一例である希土類元素含有酸化物20が含まれていることが分かる。一方、図3及び4から、本発明外の比較例3の繊維状複合材は、繊維基材10の表面にのみ助触媒成分の一例である希土類元素含有酸化物20が存在していることが分かる。
【0043】
また、表1〜3から、本発明の繊維状複合材の範囲に属する各実施例の繊維状複合材は、図1及び2に示すように、剥離が抑制ないし防止され得るファイバー状の構造を有しており、繊維強度や助触媒能、耐熱性に優れた形状を有する。一方、本発明外の繊維状複合材の範囲に属する各実施例(なお、本発明の繊維状複合材の製造方法の範囲には属する。)は、剥離が抑制ないし防止されない構造である。
【0044】
更に、表1〜3から、本発明の繊維状複合材の製造方法の範囲に属する各実施例の繊維状複合材の製造方法は、所望の繊維状複合材を作製し得ることが分かる。また、防止原液と紡糸条件、乾燥条件、焼成条件などの製造条件を変えることによって、繊維状複合材の化学組成や平均繊維径、繊維強度を変えることができ、各条件を所定の範囲にすることによって、所望の繊維状複合材を容易に作製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の繊維状複合材は、例えば、ろ過材、環境浄化触媒、ディーゼルパティキュレートフィルターなどの製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1−1の繊維状複合材のSEM写真である。
【図2】実施例1−1の繊維状複合材の概念図である。
【図3】比較例3の繊維状複合材のSEM写真である。
【図4】比較例3の繊維状複合材の概念図である。
【符号の説明】
【0047】
10 繊維基材
20 希土類元素含有酸化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と上記繊維基材に含まれる助触媒成分とを有する繊維状複合材であって、
上記繊維状複合材の平均繊維径が1〜10μmであることを特徴とする繊維状複合材。
【請求項2】
上記助触媒成分は希土類元素を含有する酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状複合材。
【請求項3】
上記希土類元素含有酸化物の含有率が5〜50質量%であることを特徴とする請求項2に記載の繊維状複合材。
【請求項4】
上記希土類元素がセリウム、イットリウム、プラセオジム、ランタン及びネオジムから成る群より選ばれた少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項2に記載の繊維状複合材。
【請求項5】
上記希土類元素がセリウム及びプラセオジムであることを特徴とする請求項4に記載の繊維状複合材。
【請求項6】
上記繊維基材が少なくともアルミニウムを構成元素として含有する酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状複合材。
【請求項7】
上記アルミニウムを構成元素として含有する酸化物が、α−アルミナ、γ−アルミナ、δ−アルミナ及びθ−アルミナから成る群より選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項6に記載の繊維状複合材。
【請求項8】
上記繊維基材が少なくともアルミニウム及びケイ素を構成元素として含有する酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の繊維状複合材。
【請求項9】
上記アルミニウム及びケイ素を構成元素として含有する酸化物のAl/SiO比が72/28〜100未満/0超であることを特徴とする請求項8に記載の繊維状複合材。
【請求項10】
上記繊維基材のムライトの含有率が80質量%以下であることを特徴とする請求項8に記載の繊維状複合材。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の繊維状複合材から成ることを特徴とする成型体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の繊維状複合材から成ることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルター。
【請求項13】
紡糸原液を回転する中空円盤の側壁に設けられた複数個の細孔から吐出させて液糸化した後、焼成する繊維状複合材の製造方法であって、
上記紡糸原液として、助触媒成分原料と繊維基材原料と紡糸助剤とを含有し、且つ助触媒成分原料及び繊維基材原料の合計含有率が10〜50質量%であり、且つ紡糸助剤の含有率が3〜12質量%であり、且つ粘度が500〜20000mPa・sであるものを用いることを特徴とする繊維状複合材の製造方法。
【請求項14】
上記中空円盤の周速が30〜80m/秒であり、上記細孔の直径が0.1〜0.5mmであり、上記細孔の間隔が0.3〜0.8mmであり、1孔当たりの上記紡糸原液の吐出量が8〜20ml/時であり、上記焼成の昇温速度を1000℃までは5〜50℃/分とし、1000℃を超えてからは10〜30℃/分として、1100〜1500℃まで昇温し、この温度で10〜100分間保持することを特徴とする請求項13に記載の繊維状複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−221155(P2008−221155A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64629(P2007−64629)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】