説明

繊維製造用材料並びにこれを用いた繊維及び不織布

【課題】 溶融状態でも粘度の増大を確実に抑制することができ、液晶ポリエステルとしての特性を維持しながら繊維化することが可能な繊維製造用材料を提供すること。
【解決手段】 本発明の繊維製造用材料は、繰り返し単位として、下記一般式(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位を有し、Ar、Ar及びArで表される基は、これらの合計100モル%のうちの40モル%以上となるように2,6−ナフタレンジイル基を含んでおり、且つ、流動開始温度が280〜320℃である液晶ポリエステルからなる。



[式中、Arは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基、Ar及びArは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製造用材料、特に液晶ポリエステル繊維の製造用材料並びにこれを用いた繊維及び不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族液晶ポリエステルは、優れた低吸湿性、耐熱性及び薄肉形成性等を有することにより、電子部品等の材料として広く用いられている。例えば、電子部品用途に好適な芳香族液晶ポリエステルの形態として、フィルム状の芳香族ポリエステルが知られている。
【0003】
このようなフィルム状とした場合に、誘電損失が小さく、高い耐熱性が得られる芳香族液晶ポリエステルとして、本出願人により、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位、フェニレン系ジオールに由来する構造単位、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位及びフェニレン系ジカルボン酸に由来する構造単位を有するものが開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−272819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、上述したような芳香族液晶ポリエステルの特性を活かして更に様々な用途に適用するため、芳香族液晶ポリエステルを繊維化することが検討されている。芳香族ポリエステルを繊維化する場合、一般的には、芳香族液晶ポリエステルをいったん溶融した後に引き延ばすことが行われる。この際、溶融状態の芳香族液晶ポリエステルは、低粘度であるほど、細い繊維を得ることが可能であるなど、良好に繊維化が可能である。
【0005】
ところが、従来の芳香族液晶ポリステルは、長時間溶融状態とした場合に、粘度が大きく増加してしまうことが少なくなかった。そのため、誘電損失が小さく、しかも高い耐熱性が得られる芳香族液晶ポリエステルを繊維化することは、これまで必ずしも容易なことではなかった。
【0006】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、溶融状態でも粘度の増大を確実に抑制することができ、液晶ポリエステルとしての特性を維持しながら容易に繊維化が可能な液晶ポリエステルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の繊維製造用材料は、繰り返し単位として、下記一般式(i)で表される構造単位、下記一般式(ii)で表される構造単位及び下記一般式(iii)で表される構造単位を有し、下記Arで表される基、下記Arで表される基及び下記Arで表される基の合計100モル%のうちの40モル%以上を、2,6−ナフタレンジイル基として有しており、且つ、流動開始温度が280〜320℃液晶ポリエステルからなることを特徴とする。
【化1】

[式中、Arは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を示し、Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を示し、Ar、Ar及びArは、これらが有している芳香環が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基によって置換されたものであってもよい。]
【0008】
上記本発明の繊維製造用材料は、上記(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位を繰り返し単位として有し、これらにおけるAr、Ar及びArで表される基として、40モル%以上の2,6−ナフタレンジイル基を含むという特定の構造を有するとともに、流動開始温度が280〜320℃であることにより、低誘電損失、且つ高耐熱性を有するとともに、長時間溶融状態とした場合であっても粘度の増加が小さいという特性(熱安定性)をも有するものとなる。したがって、かかる繊維製造用材料は、液晶ポリエステルの優れた特性を維持しながら良好に繊維化することが可能である。
【0009】
また、本発明の繊維製造用材料は、流動開始温度が302〜318℃である液晶ポリエステルからなるものであるとより好ましい。これにより、更に優れた熱安定性が得られるようになる。
【0010】
本発明はまた、上記本発明の繊維製造用材料からなる繊維を提供する。かかる繊維は、繊維製造用材料を溶融紡糸して得られたものであると好適である。本発明の繊維は、上記液晶ポリエステルから形成されたものであるため、低誘電損失、且つ高耐熱性を有するものとなる。
【0011】
本発明はさらに、上記本発明の繊維からなる不織布を提供する。本発明の不織布は、繊維の材料である液晶ポリエステルの低誘電損失及び高耐熱性といった特性を良好に有しており、プリント配線板用の基板等として極めて有用である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融状態でも粘度の増大を確実に抑制することができ、液晶ポリエステルとしての特性を維持しながら繊維化することが可能な繊維製造用材料を提供することが可能となる。また、かかる本発明の繊維製造用材料を用いた繊維及び不織布を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0014】
(液晶ポリエステル)
まず、本発明の繊維製造用材料に好適な液晶ポリエステルについて説明する。本実施形態の液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成し得るものであり、上記一般式(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位を繰り返し単位として有するものである。
【0015】
上記一般式(i)におけるArは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基であり、上記一般式(ii)及び(iii)におけるArは、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の2価の芳香族基である。これらの芳香族基は、その芳香環が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基によって置換されたものであってもよい。なお、液晶ポリエステル中、Ar、Ar及びArで表される芳香族基はそれぞれ複数含まれているが、複数の各芳香族基は、それぞれ同一の基であっても異なる基であってもよい。
【0016】
そして、本実施形態の液晶ポリエステルは、上記一般式(i)、(ii)及び(iii)におけるAr、Ar及びArで表される基の合計100モル%のうち、40モル%以上を2,6−ナフタレンジイル基として有している。本明細書では、以下、Ar、Ar及びArで表される基の合計100モル%中の2,6−ナフタレンジイル基の割合を、「2,6−ナフタレンジイル基配合率」ということとする。なお、2,6−ナフタレンジイル基は、Ar、Ar及びArで表される基の全体に対して上記の条件を満たすように含まれていればよく、かかる条件が満たされる限り、例えば、Ar、Ar及びArで表される基のうちの1種又は2種は、2,6−ナフタレンジイル基を含まないものでもよい。
【0017】
液晶ポリエステルにおいて、2,6−ナフタレンジイル基配合率は50モル%以上であるとより好ましく、65モル%以上であると更に好ましく、70モル%以上であると一層好ましい。このように、2,6−ナフタレンジイル基配合率が好適な範囲となるほど、得られる液晶ポリエステルは、低誘電正接となる。ただし、十分な溶融時の加工性(溶融紡糸性)を得る観点からは、2,6−ナフタレンジイル基配合率は90モル%以下であることが好ましい場合もある。
【0018】
液晶ポリエステルは、上記一般式(i)、(ii)及び(iii)で表される構造単位の合計を100モル%としたとき、上記一般式(i)で表される構造単位(以下、「(i)構造単位」という)を合計で30〜80モル%、上記一般式(ii)で表される構造単位(以下、「(ii)構造単位」という)を合計で10〜35モル%、上記一般式(iii)で表される構造単位(以下、「(iii)構造単位」という)を合計で10モル%有するものであると好ましい。
【0019】
このような各構造単位のモル比率(共重合比率)を満たす液晶ポリエステルは、高度な液晶性を有するため、優れた特性を有するものとなるほか、実用的な温度で溶融可能なものとなり、液晶ポリエステル繊維の製造用材料として特に有利なものとなる。
【0020】
なお、液晶ポリエステルは、高い耐熱性を得る観点から、全芳香族ポリエステルであると好ましく、したがって、全ての繰り返し単位が、(i)構造単位、(ii)構造単位及び(iii)構造単位のみからなり、これら以外の繰り返し単位を有していないものが好適である。また、同様の観点から、全構造単位の合計に対し、(ii)構造単位のモル比率と、(iii)構造単位のモル比率とは等しいことが好ましい。
【0021】
より好適な場合、各構造単位のモル比率は以下のとおりである。すなわち、全構造単位の合計100モル%に対し、(i)構造単位の合計のモル比率は、40〜70モル%であると好ましく、45〜65モル%であるとより好ましい。また、(ii)構造単位及び(iii)構造単位のモル比率は、それぞれ、15〜30モル%であると好ましく、17.5〜27.5モル%であるとより好ましい。
【0022】
各構造単位のモル比率が好適な範囲となるほど、液晶ポリエステルがより高度な液晶性を発現することができ、低誘電損失且つ高耐熱性といった高い特性が得られるようになるほか、溶融温度がより実用的な範囲となり、繊維化が一層容易となる傾向にある。
【0023】
これらの各構造単位のうち、まず、(i)構造単位は、芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位である。(i)構造単位に誘導されるモノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸等が挙げられる。これらのモノマーが有しているベンゼン環又はナフタレン環は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。2,6−ナフタレンジイル基は、これらのうち、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸から誘導される。
【0024】
また、(ii)構造単位は、芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位である。この(ii)構造単位に誘導されるモノマーである芳香族ジカルボン酸としては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸等が挙げられる。これらのモノマーが有しているベンゼン環又はナフタレン環は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。2,6−ナフタレンジイル基は、これらのうち、2,6−ナフタレンジカルボン酸から誘導される。
【0025】
さらに、(iii)構造単位は、芳香族ジオールから誘導される構造単位である。この(iii)構造単位に誘導されるモノマーである芳香族ジオールとしては、2,6−ナフタレンジオール、ヒドロキノン、レゾルシン、4,4’―ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。これらのモノマーが有しているベンゼン環又はナフタレン環は、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。2,6−ナフタレンジイル基は、これらのうち、2,6−ナフタレンジオールから誘導される。
【0026】
(i)、(ii)及び(iii)構造単位がそれぞれ有しているAr、Ar及びArは、これらが有している芳香環が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基によって置換されたものであってもよい。これらの置換基は、上記のように、各構造単位に誘導されるモノマーにおけるベンゼン環又はナフタレン環が有していることによって各構造単位に導入される。
【0027】
ここで、置換基であるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、直鎖状又は分岐状の基のいずれであってもよく、また、脂環基であってもよい。炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0028】
(i)、(ii)及び(iii)構造単位を有する液晶ポリエステルの製造方法としては、公知の液晶ポリエステルの製造方法を適用することができ、例えば、これらの各構造単位に誘導されるモノマーを、それぞれ所望のモル比率が得られるように配合して重合させる方法が挙げられる。この場合、液晶ポリエステルにおいて、上述した好適な2,6−ナフタレンジイル基配合率が得られるように、(i)、(ii)及び(iii)の各構造単位に誘導されるモノマー中の、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に誘導されるモノマーの割合を調整する。
【0029】
特に液晶ポリエステルの製造方法としては、上述したような(i)、(ii)及び(iii)の各構造単位に誘導されるモノマーを、エステル形成性誘導体に転換した後、重合させる方法が好適である。これにより、重合が容易化され、液晶ポリエステルの形成が促進される。ここで、エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有する化合物を意味する。例えば、カルボキシル基を有するモノマーにおいて、そのカルボキシル基を酸ハロゲン化物や酸無水物に転換したものが、エステル形成性誘導体に該当する。また、水酸基を有するモノマーにおいて、水酸基を低級カルボン酸を用いてエステル化したものがエステル形成性誘導体に該当する。
【0030】
このようなエステル形成性誘導体を経由する液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、モノマー中の水酸基に、低級カルボン酸を反応させてエステルに転換したエステル形成性誘導体を用いる方法が挙げられる。より具体的には、(i)構造単位及び(iii)構造単位にそれぞれ誘導されるモノマーである芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールの水酸基をアシル基に転換(アシル化)して得られたエステル形成性誘導体を用いる方法が好適である。アシル化は、上記モノマー中の水酸基に、無水酢酸を反応させることが行うことができる。
【0031】
こうして得られたエステル形成性誘導体は、(ii)構造単位に誘導されるモノマーである芳香族ジカルボン酸と脱酢酸重縮合を生じることができ、容易に液晶ポリエステルを製造することができる。
【0032】
上記のようなエステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載された方法を適用することができる。以下、かかる方法を具体的に説明することとする。
【0033】
すなわち、まず、(i)、(ii)及び(iii)の各構造単位に誘導されるモノマーとして、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールをそれぞれ準備する。ここでは、上述した2,6−ナフタレンジイル基配合率が得られるように、これらのモノマーのうち、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に誘導されるモノマーを、かかる2,6−ナフタレンジイル基配合率が得られるような割合で含有させる。
【0034】
次いで、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールを、これらの水酸基をアシル化することにより、エステル形成性誘導体に転換する。その後、芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジオールにそれぞれ由来するエステル形成性誘導体を、芳香族ジカルボン酸と溶融重合させて、所望とするものよりも分子量が小さい液晶ポリエステル(プレポリマー)を得る。液晶ポリエステルの製造においては、このプレポリマーを、200℃以上280℃未満の流動開始温度を有するようにすると好ましい。そして、このようなプレポリマーを、後述する固相重合によって、流動開始温度が280〜320℃、より好ましくは302〜318℃の液晶ポリエステルとなるまで高分子量化する。
【0035】
次に、得られたプレポリマーを用い、好適な流動開始温度を有する液晶ポリエステルを得るための固相重合を行う。この固相重合は、プレポリマーを粉末とした後、粉末状のプレポリマーを加熱するといった操作によって実施することができる。これにより、プレポリマーの状態の液晶ポリエステルの重合が進行して、目的とする分子量の液晶ポリエステルが得られる。このような固相重合によって、プレポリマーの重合が良好に進行して、高分子量の液晶ポリエステルが得られ易くなる。したがって、固相重合を行うことによって、後述するような所望の流動開始粘度となるように調整し易くなる。
【0036】
固相重合の際にプレポリマーを粉末とするには、溶融重合により得られたプレポリマーを冷却固化した後、固化したプレポリマーを各種の公知の粉砕手段によって粉砕すればよい。固相重合を行う際のプレポリマー粉末の平均粒子径は、0.05〜3mmであると好ましく、0.05〜1mmであるとより好ましい。プレポリマー粉末の粒径がこのような範囲であると、高重合化が促進される傾向にあり、特に0.05〜1mmの範囲であると、粒子間のシンタリングを生じることが無く、更なる高分子量化が促進される傾向にある。
【0037】
固相重合は、次のような条件で行うことが好ましい。すなわち、まず、第1段階目の昇温として、室温からプレポリマーの流動開始温度よりも20℃以上低い温度まで昇温する。この際の昇温速度は、反応時間を短縮させる観点からは、1時間以内とすることが好ましい。
【0038】
次に、第2段階目の昇温として、第1段階目の昇温が完了した温度から260℃以上の温度となるまで更に昇温する。この際、昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.05〜0.15℃/分の昇温速度で行うことがより好ましい。この段階での昇温速度が0.3℃/分以下であると、粉末の粒子間のシンタリングが生じ難くなり、より高重合度の液晶ポリエステルが得られ易くなる。
【0039】
第2段階目の昇温が完了した後には、液晶ポリエステルの重合度を更に大きくするため、260℃以上の温度で加熱を行うことが好ましく、260〜320℃の温度範囲で30分以上の加熱を行うことがより好ましい。特に、液晶ポリエステルを後述するような好適な流動開始温度を有するようにして熱安定性を高める観点からは、270〜310℃で30分〜30時間加熱を行うことが更に好ましく、270〜305℃で30分〜20時間加熱を行うことが一層好ましい。なお、このような加熱を行う場合の条件は、液晶ポリエステルの製造に用いたモノマーの種類等に応じて適宜設定することができる。
【0040】
このような固相重合における重合条件は、以下のような予備実験を行うことによって予め設定してもよい。すなわち、例えば、プレポリマー100g程度を用い、上記の第2段階目の昇温での最終到達温度を変えて数点の予備実験を行う。この際、最終到達温度に到達してからの反応時間は、5時間程度とすることができる。
【0041】
そして、この数点の予備実験で得られた液晶ポリエステルの流動開始温度をそれぞれ測定し、所望の範囲内(例えば280〜320℃)であるかどうかを確認して、この範囲の流動開始温度が得られた場合の最終到達温度を採用する。得られた流動開始温度がこの範囲を下回る場合には、最終到達温度を上げて、再度予備実験を行う。一方、流動開始温度がこの範囲を越える場合には、最終到達温度を低くして、再度予備実験を行う。このようにして、予備実験を行うことにより流動開始温度280〜320℃の液晶ポリエステルを得るための、固相重合の好適な重合条件を設定することができる。
【0042】
上記の構造を有し、上述のようにして得られる本実施形態の液晶ポリエステルは、その流動開始温度が280〜320℃であり、302〜318℃であるとより好ましい。ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm)の荷重をかけた状態で、昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味する。流動開始温度は、例えば、株式会社島津製作所社製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いて測定することができる。この流動開始温度は、液晶ポリエステルの分子量の指標となる値である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0043】
このような流動開始温度の測定に用いる液晶ポリエステルは、パウダー状であっても、ペレット状であってもよい。ペレット化は、公知の方法により行うことができ、例えば、次の方法が挙げられる。すなわち、押出機として、例えば単軸又は多軸押出機、好ましくは二軸押出機、バンパリー式混練機又はロール式混練機を用い、液晶ポリエステルを、その流動開始温度Tp(℃)を基準とし、Tp−10(℃)〜Tp+100(℃)の温度範囲で溶融させた状態とし、これをペレット形状に加工する。ここでいう流動開始温度としては、予め他の方法で測定した値や、文献値等を用いることができる。
【0044】
なお、液晶ポリエステルの熱劣化を十分に防止する観点からは、ペレット化に際して、液晶ポリエステルは、Tp−10(℃)〜Tp+70(℃)の温度範囲で溶融させることがより好ましく、Tp−10(℃)〜Tp+50(℃)の温度範囲で溶融させることが更に好ましい。
【0045】
本実施形態の液晶ポリエステルが、上記の好適な流動開始温度を有するためには、(i)、(ii)及び(iii)の各構造単位を有し、且つ、好適な2,6−ナフタレンジイル基配合率を有するとともに、その製造過程において上述した固相重合が行われたものであることが好ましい。固相重合によって液晶ポリエステルの分子量が適切に調整され、好ましい流動開始温度が得られ易くなる。
【0046】
上述したような構造を有し、且つ、流動開始温度を有する本実施形態の液晶ポリエステルとしては、例えば、以下のようなものが好適である。
【0047】
すなわち、本実施形態の液晶ポリエステルは、(i)構造単位として、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する構造単位(i−a)を40〜75モル%有し、(ii)構造単位として、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する構造単位(ii−a)及びテレフタル酸に由来する構造単位(ii−b)を合計で12.5〜30モル%有し、(iii)構造単位として、ヒドロキノンに由来する構造単位(iii−a)を12.5〜30モル%有し、且つ、(ii)の構造単位において、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}がモル比で0.5以上となるものであると好ましい。なお、各構造単位のモル比率は、上記各構造単位の合計を100モル%とした場合の値である。
【0048】
より好適な液晶ポリエステルは、(i−a)の構造単位を40〜60モル%有し、(ii−a)の構造単位を14.5〜29.5モル%有するとともに(ii−a)及び(ii−b)の構造単位を合計で15〜30モル%有し、さらに、(iii−a)の構造単位を15〜30モル%有するとともに、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}がモル比率で0.6以上となるものである。
【0049】
また、さらに好適な液晶ポリエステルは、(i−a)の構造単位を50〜60モル%有し、(ii−a)の構造単位を15〜24.5モル%有するとともに(ii−a)及び(ii−b)の構造単位を合計で20〜25モル%有し、さらに、(iii−a)の構造単位を20〜25モル%有するとともに、(ii−a)/{(ii−a)+(ii−b)}がモル比率で0.6以上となるものである。
【0050】
(液晶ポリエステルからなる繊維及び繊維布)
次に、上述した実施形態の液晶ポリエステルからなる繊維及びこれを用いた繊維布(不織布等)について説明する。
【0051】
本実施形態の繊維は、上述した液晶ポリエステルからなるものである。かかる繊維は、液晶ポリエステルを公知の方法によって繊維化することにより得ることができ、例えば、液晶ポリエステルを溶融紡糸することにより得ることができる。
【0052】
液晶ポリエステルを溶融紡糸により繊維化する場合は、液晶ポリエステルを加熱して溶融状態とし、この溶融状態の液晶ポリエステルを所定のノズルを通して押し出すことにより、液晶ポリエステルを引き伸ばしつつ冷却して再び固化させることで、液晶ポリエステルが細線化した繊維を得ることができる。
【0053】
この際、溶融紡糸により引き伸ばされた液晶ポリエステルを、そのまま巻き取る等すれば液晶ポリエステル繊維が得られる一方、液晶ポリエステルが完全に固化する前に、ノズル等を移動させつつ所定の基板等の上に堆積させれば、液晶ポリエステル繊維からなる繊維布(不織布)を得ることができる。
【0054】
このような液晶ポリエステル繊維は、上述した本実施形態の液晶ポリエステルからなるものであることから、誘電損失が小さく且つ高い耐熱性を有している。また、この液晶ポリエステルは、長時間溶融状態としても粘度の低下が小さいという高い熱安定性を有していることから、上述した溶融紡糸による繊維化が容易であるほか、低い粘性を維持できるため、細い繊維の形成も可能である。
【0055】
したがって、本実施形態の液晶ポリエステル繊維及び繊維布(不織布)は、容易に繊維化がなされ、しかも細い繊維径を有し、更に低誘電損失及び高耐熱性という液晶ポリエステルの優れた特性をも維持したものとなり、電子部品をはじめとする様々な用途に適用可能なものとなる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
[溶融開始温度の測定]
以下の各実施例及び比較例では、プレポリマーや液晶ポリエステルの溶融開始温度を次の測定方法により測定した。すなわち、まず、フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用い、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターに、液晶ポリエステルの試料約2gを充填した。次いで、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下、昇温速度4℃/分の条件で液晶ポリエステルをノズルから押出し、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示したときの温度を流動開始温度(℃)とした。
【0058】
[液晶ポリエステルの製造]
(製造例1)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ヒドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び触媒である1−メチルイミダゾール0.17gを加え、室温で15分間攪拌した後、更に攪拌しながら昇温した。反応器内の温度が137℃となった時点で昇温を止め、同温度を保持したまま1時間攪拌させた。
【0059】
次いで、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、反応器内の内容物を4時間50分で310℃まで昇温した。そして、同温度で3時間保持して、液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーを室温まで冷却し、これを粉砕機で粉砕して、粒子径が0.1〜1mmであるプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの流動開始温度を測定したところ、270℃であった。
【0060】
それから、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から280℃まで5時間かけて更に昇温した後、同温度で5時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。
【0061】
得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は、液晶ポリエステルの製造に用いた原料モノマー中の、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位に誘導されるモノマー(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸)の割合に基づいて算出した結果、72.5モル%であった。なお、2,6−ナフタレンジイル基配合率は、以下の実施例及び比較例でも同様にして求めた。また、液晶ポリエステルの流動開始温度を測定したところ、302℃であった。
【0062】
(製造例2)
まず、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を作製した。その後、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から293℃まで7時間10分かけて更に昇温した後、同温度で5時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は72.5モル%であり、流動開始温度は318℃であった。
【0063】
(製造例3)
まず、実施例1と同様にしてプレポリマーの粉末を作製した。その後、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から298℃まで8時間かけて更に昇温した後、同温度で5時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は72.5モル%であり、流動開始温度は322℃であった。
【0064】
(製造例4)
窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1129.08g(6.00モル)、4,4’―ジヒドロキシビフェニル409.66g(2.00モル、0.200モル過剰仕込み)、テレフタル酸332.26g(0.200モル)、無水酢酸1221g(11.9モル)及び触媒である1−メチルイミダゾール0.17gを加え、室温で15分間攪拌した後、更に攪拌しながら昇温した。反応器内の温度が137℃となった時点で昇温を止め、同温度を保持したまま1時間攪拌させた。
【0065】
次いで、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、反応器内の内容物を3時間30分で310℃まで昇温した。そして、同温度で2時間保持して、液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーを室温まで冷却し、これを粉砕機で粉砕して、粒子径が0.1〜1mmであるプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの流動開始温度を測定したところ、298℃であった。
【0066】
それから、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から310℃まで10時間かけて更に昇温した後、同温度で5時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。
【0067】
得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は60モル%であり、流動開始温度は354℃であった。
【0068】
(製造例5)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p−ヒドロキシ安息香酸794.19g(5.75モル)、ヒドロキノン257.38g(2.337モル、0.212モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸334.01g(1.545モル)、テレフタル酸96.36g(0.58モル)、無水酢酸1223.93g(12.0モル)及び触媒である1−メチルイミダゾール0.15gを加え、室温で15分間攪拌した後、更に攪拌しながら昇温した。反応器内の温度が137℃となった時点で昇温を止め、同温度を保持したまま1時間攪拌させた。
【0069】
次いで、留出する副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、反応器内の内容物を4時間50分で310℃まで昇温した。そして、同温度で1時間保持して、液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーを室温まで冷却し、これを粉砕機で粉砕して、粒子径が0.1〜1mmであるプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの流動開始温度を測定したところ、268℃であった。
【0070】
それから、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から295℃まで5時間かけて更に昇温した後、同温度で3時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。
【0071】
得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は15.45モル%であり、流動開始温度は314℃であった。
【0072】
(製造例6)
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p―ヒドロキシ安息香酸を911g(6.6モル)、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを409g(2.2モル)、イソフタル酸を91g(0.55モル)、テレフタル酸を274g(1.65モル)、無水酢酸を1235g(12.1モル)用いて攪拌した。次いで、1−メチルイミダゾールを0.17g添加し反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して1時間還流させた。
【0073】
その後、1−メチルイミダゾールを1.7g添加した後、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら2時間50分かけて310℃まで昇温し、そして、同温度で1時間保持して、液晶ポリエステル(プレポリマー)を得た。このプレポリマーを室温まで冷却し、これを粉砕機で粉砕して、粒子径が0.1〜1mmであるプレポリマーの粉末を得た。得られたプレポリマーの流動開始温度を測定したところ、257℃であった。
【0074】
それから、得られたプレポリマーの粉末を、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、同温度から285℃まで5時間かけて更に昇温した後、同温度で3時間保持して固相重合を生じさせた。固相重合後の粉末を冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。
【0075】
得られた液晶ポリエステルの2,6−ナフタレンジイル基配合率は0モル%であり、流動開始温度は330℃であった。
【0076】
[繊維製造用材料の特性評価]
上述した各種の液晶ポリエステルを用いて、実施例1〜2及び比較例1〜5の各繊維製造用材料を準備した。なお、製造例1〜2で得られた液晶ポリエステルが、実施例1〜2の繊維製造用材料であり、製造例3〜6で得られた液晶ポリエステルが、比較例1〜4の繊維製造用材料であり、製造例1の液晶ポリエステルの製造途中で生成したプレポリマー(以下、「プレポリマー1」という。)が、比較例6の繊維製造用材料である。
【0077】
これらの繊維製造用材料を、それぞれ二軸押出機(池貝鉄工(株) 「PCM−30」)によって、繊維製造用材料を構成する各液晶ポリエステルの流動開始温度よりも約10℃程度高い温度で造粒して、ペレットを作製した。
【0078】
次いで、得られた各ペレットを、120℃で3時間乾燥させた後、射出成形機(日清樹脂工業(株)製PS40E5ASE型)により、シンリンダー温度を各液晶ポリエステルの流動開始温度よりも、約20℃程度高い温度、金型温度130℃で成形して、長さ64mm、幅64mm、厚さ1mmの試験片を作製した。そしてこれらの試験片を誘電正接の測定及び溶融粘度の測定用サンプルとして用いた。
【0079】
(誘電正接の測定)
実施例1〜2及び比較例1〜5の繊維製造用材料から得られた各ペレットについて、インピーダンスアナライザー(Hewlett Packerd社製)により1GHz(測定温度23℃)における誘電正接を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0080】
(溶融粘度の測定)
実施例1〜2及び比較例1〜5の繊維製造用材料から得られた各ペレットについて、コントロールストレスレオメータCVO(Bohlin Instruments社製)を用い、下記の条件で溶融粘度の時間変化を測定した。なお、溶融粘度は、溶融を開始してから1分、10分、30分及び60分が経過した各時点で測定し、これにより溶融粘度の経時変化を評価した。得られた結果を表1に示す。
<測定条件>
温度:360℃
雰囲気:窒素200ml/min
測定時間:1時間
ジオメトリー:コーンプレート5.4°/25φ
測定周波数:1Hz
Pre−Shear:OFF
Target Strain:0.01
Mode:Auto
【0081】
(糸ひき性の評価)
実施例1〜2及び比較例1〜5の繊維製造用材料から得られた各ペレットについて、それぞれキャピログラフ1B型(東洋精機製作所製)を用いて、試料約10gを仕込み、シリンダーバレル径を1mmφ、ピストンの押出し速度を5.0mm/分とし、速度可変巻取機で自動昇速しながら試料を糸状に引き取り紡糸する際の、糸ひき性を以下の評価基準にしたがって評価した。得られた結果を表1に示す。
<評価基準>
○:液晶ポリエステルの流動開始温度以上400℃以下の温度範囲で糸ひきが可能な測定領域があり、その測定領域において試料を糸状に巻き取ることが可能であった。
△:液晶ポリエステルの流動開始温度以上400℃以下の温度範囲で糸ひきが可能な測定領域があるが、その測定領域で試料の糸状に巻き取ることができるが20回以上糸切れがみられた。
×:液晶ポリエステルの流動開始温度以上400℃以下の温度範囲で糸ひきが可能な測定領域が見出せず、その測定領域で試料の糸状に巻き取ることができなかった。
【0082】
【表1】

【0083】
表1より、2,6−ナフタレンジイル基配合率及び流動開始温度が本発明の範囲内であった製造例1及び2の液晶ポリエステルからなる実施例1及び2の繊維製造用材料は、低誘電正接であった。また、溶融開始から60分経過後でも溶融粘度が10000を下回っており、十分に繊維化が可能であることが確認された。さらに、糸ひき性も良好であることが判明した。
【0084】
これに対し、2,6−ナフタレンジイル基配合率又は流動開始温度が本発明の範囲外であった製造例3〜6の液晶ポリエステルからなる比較例1〜4の液晶ポリエステルは、いずれも溶融開始から60分経過後に、溶融粘度が10000を大幅に上回っており、その状態での繊維化が困難であることが判明した。また、比較例2の液晶ポリエステルは、実施例に比して糸ひき性も劣っていた。なお、プレポリマー1を用いた比較例6の繊維製造用材料では、熱安定性が悪く、溶融粘度が安定しないため、溶融粘度の測定が不可能であり、また、紡糸の際に糸切れが多発し、糸を得ることもできなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位として、下記一般式(i)で表される構造単位、下記一般式(ii)で表される構造単位及び下記一般式(iii)で表される構造単位を有し、
下記Arで表される基、下記Arで表される基及び下記Arで表される基の合計100モル%のうちの40モル%以上を、2,6−ナフタレンジイル基として有しており、且つ、
流動開始温度が280〜320℃である液晶ポリエステルからなる、
繊維製造用材料。
【化1】

[式中、Arは、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を示し、Ar及びArは、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基及び4,4’−ビフェニレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を示し、Ar、Ar及びArは、これらが有している芳香環が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基によって置換されたものであってもよい。]
【請求項2】
流動開始温度が302〜318℃である、請求項1記載の繊維製造用材料。
【請求項3】
請求項1又は2記載の繊維製造用材料からなる、繊維。
【請求項4】
請求項3記載の繊維からなる、不織布。

【公開番号】特開2010−43380(P2010−43380A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−208592(P2008−208592)
【出願日】平成20年8月13日(2008.8.13)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】