説明

織物製造装置

【課題】摩擦による経糸の損傷を低減可能な製織性の高い織物製造装置を提供する。
【解決手段】織物製造装置11は、経糸12を供給する経糸リール14の上下運動によって、複数の経糸12を上下に分けて杼口を形成しながら、順次的に緯糸13を通して経糸12と交錯させて織物15を製造する。装置11は織前側把持ローラ19および糸道補正手段20を含む。把持ローラ19は織物15の後端を保持する。糸道補正手段20は経糸12の糸道を補正するもので、複数の円板状部材21を備える。円板状部材21は、底面がそれぞれ対向し、厚み方向に貫く中心軸22が水平であり、隣り合う円板状部材21の間に経糸12が通るように配置される。円板状部材21は、経糸12の進行を妨げないように回転する。これによって経糸12が所定の糸道からはずれて円板状部材21に接触しても、円板状部材21との摩擦による糸の損傷が小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開繊糸などを用いて織物を製造する織物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維およびガラス繊維は、製織された織物の状態で、繊維強化複合材料の補強材として使用されている。炭素繊維は、多数の炭素フィラメントを束ねて、扁平なリボン状にした形態で製造される。織物は、経糸と緯糸とが交錯し、交錯部分で繊維束の屈曲が避けられないので、屈曲部分で応力集中が生じやすくなり、繊維束が本来有する機械的特性が損なわれやすい難点がある。炭素繊維などの繊維束は、開繊処理によって、薄く扁平に引き延ばすことができる。開繊処理が施された開繊糸を使用して織物を製造すれば、経糸と緯糸との交錯部分での繊維束の屈曲の程度を低減し、応力集中を生じにくくして、機械的特性が損なわれるのを避けることができる。
【0003】
織物を製造する織物製造装置は、ヘルドなどの綜絖手段の開口運動によって複数の経糸を上下に分けて杼口を形成しながら、杼口に順次的に緯糸を通して経糸と緯糸とを交錯させて、織物を製造する。開繊糸を用いて織物を製造する場合、杼口に通した緯糸を筬で織前へ打寄せる筬打ち運動を行うと、開繊糸の扁平な断面形状がくずれ、糸幅が狭くなって厚みが厚くなるように変形してしまい、扁平な織物を製造することができない。開繊糸を用いて扁平な織物を製造する織物製造装置としては、たとえば、特許文献1に記載されている。特許文献1の織物製造装置は、筬打ち運動を行うための筬を備える代わりに、製織の進行方向に関して、綜絖手段から進行側に離れた位置で製織された織物の後端を挟んで保持し、杼口の位置と、杼口の位置から進行側に離れる離間位置との間で往復移動可能な織前側把持手段を備えている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−253547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1によれば、織物製造装置は、筬打ち運動によって杼口に通された緯糸を織り前まで打ち寄せるのではなくて、織前側把持手段によって、織物の後端を移動させて杼口に通された緯糸を織り前まで寄せる。よって、この織物製造装置は、開繊糸の扁平な断面形状をくずすことなく、扁平な織物を製造することができる。
【0006】
しかしながら、摩擦によって損傷されやすく、毛羽立ちの発生しやすい糸である開繊糸を用いて織物を製造する際、経糸は、ヘルドに接触して進行するので、ヘルドとの摩擦によって、経糸が損傷して毛羽立ってしまうことがある。たとえば、織前側把持手段によって織物の後端を移動させる際や開口運動の際に、経糸が引っ張られて経糸がヘルドに強く押し付けられた状態で経糸を進行させるときなどに、経糸は、ヘルドとの摩擦によって損傷し毛羽立ってしまうことがある。
【0007】
本発明の目的は、摩擦による経糸の損傷を低減することでき、製織性の高い織物製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、経糸を供給する経糸供給手段の上下運動によって、複数の経糸を上下に分けて杼口を形成しながら、杼口に順次的に緯糸を通して経糸と緯糸とを交錯させて織物を製造する織物製造装置であって、
経糸の糸道を補正する糸道補正手段と、
織物の後端を挟んで保持する織前側把持手段とを含み、
前記糸道補正手段は、複数の円板状部材を備え、
前記円板状部材は、底面がそれぞれ対向し、厚み方向に貫く中心軸が水平であり、隣り合う円板状部材の間に経糸が通るように配置し、
前記円板状部材の上端部が前記織前側把持手段に近づくように前記円板状部材が回転するときは、前記経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、前記円板状部材の中心軸線と前記中心軸線に平行な線であって前記織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の上方側に配置され、
前記円板状部材の上端部が前記織前側把持手段から離れるように前記円板状部材が回転するときは、前記経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、前記円板状部材の中心軸線と前記中心軸線に平行な線であって前記織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の下方側に配置されることを特徴とする織物製造装置である。
【0009】
また本発明は、前記円板状部材は、端部が丸みを帯びていることを特徴とする。
また本発明は、前記円板状部材は、ポリテトラフルオロエチレンを含む層を表面に形成した金属板からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、織物製造装置は、経糸を供給する経糸供給手段の上下運動によって、複数の経糸を上下に分けて杼口を形成しながら、杼口に順次的に緯糸を通して経糸と緯糸とを交錯させて織物を製造する。織物製造装置は、糸道補正手段および織前側把持手段を含む。織前側把持手段は、経糸と緯糸とが交錯された織物の後端を保持する。糸道補正手段は、織物を製造する際に経糸の糸道を補正する。
【0011】
糸道補正手段は、複数の円板状部材を備える。円板状部材は、底面がそれぞれ対向し、厚み方向に貫く中心軸が水平であり、隣り合う円板状部材の間に経糸が通るように配置される。したがって、経糸間に円板状部材が配置されるので、経糸同士が擦れ合ったり、経糸が所定の糸道から外れたりすることがなくなる。
【0012】
さらに、円板状部材の上端部が織前側把持手段に近づくように円板状部材が回転するときは、経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、円板状部材の中心軸線と中心軸線に平行な線であって織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の上方側に配置される。また、円板状部材の上端部が織前側把持手段から離れるように円板状部材が回転するときは、経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、円板状部材の中心軸線と中心軸線に平行な線であって織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の下方側に配置される。
【0013】
したがって、円板状部材は、経糸の進行を妨げないように回転する。よって、経糸が、所定の糸道からはずれ、経糸が円板状部材に接触しても、経糸と円板状部材との摩擦による経糸の損傷が小さい。
【0014】
以上より、摩擦による経糸の損傷を低減することでき、製織性の高い織物製造装置が得られる。
【0015】
また本発明によれば、円板状部材は、端部が丸みを帯びており、端部に角がない形状である。したがって、円板状部材の端部の角が経糸に接触することによる経糸の損傷が発生しないので、経糸が円板状部材に接触することによる経糸の損傷が小さい。よって、摩擦による経糸の損傷をより低減することができる。
【0016】
また本発明によれば、円板状部材は、ポリテトラフルオロエチレンを含む層を表面に形成した金属板からなる。そうすることによって、ポリテトラフルオロエチレンは、摩擦係数が小さいので、経糸が円板状部材に接触することによる経糸の損傷が小さい。また、経糸間に配置できるような薄い部材であっても、充分な強度を発揮することができる。したがって、円板状部材に経糸が接触しても、経糸の損傷が小さいだけでなく、円板状部材が経糸の接触によって損傷されない充分な強度を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、経糸を最も損傷させるヘルドを用いずに織物を製造する織物製造装置であり、開繊炭素繊維などの開繊糸を用いて織物を製造するのに好適な織物製造装置である。
【0018】
複数の経糸を上下に分けて杼口を形成させるヘルドを用いずに織物を製造するために、本発明である織物製造装置は、経糸を供給する経糸供給手段を上下運動させる。そうすると、ヘルドを用いずに杼口を形成できる。よって、ヘルドとの摩擦による経糸の損傷が発生せず、経糸の損傷を著しく低減させることができる。しかしながら、経糸供給手段を上下運動させると、特許文献1に記載の織物製造装置のようなヘルドを用いて杼口を形成させる場合と比較して、経糸同士が擦れ合ったり、経糸が所定の糸道から外れたりすることが多くなってしまう。
【0019】
したがって、ヘルドを用いる代わりに経糸供給手段を上下運動させるだけでは足りず、経糸の糸道が所定の糸道から外れないように、経糸間を仕切るための仕切り板などの糸道補正手段を備える。そうすると、経糸同士が擦れ合ったり、経糸が所定の糸道から外れたりするという問題を解決することができる。しかしながら、経糸の糸道を補正する仕切り板などに経糸が接触することによる経糸の損傷が発生してしまう。
【0020】
そこで、本発明は、仕切り板などに経糸が接触することによる経糸の損傷を防ぐために、糸道補正手段として、経糸の進行方向に合わせて回転させる仕切り板を備える。
【0021】
以上より、経糸供給手段を上下運動させ、経糸間を仕切るための仕切り板を回転させることによって、ヘルドを用いずに、織物を製造することができる。以下に、このヘルドを用いずに織物を製造する本発明について詳細に説明する。
【0022】
図1は、本発明の実施の一形態である織物製造装置11の構成を側面方向から見た概略図である。織物製造装置11は、織機であり、複数の経糸12が仕掛けられ、経糸12と緯糸13とを交錯させて織物15を製造する織物製造装置である。製織の進行方向は、図の左方から右方に向かう。経糸12および緯糸13は、たとえば、炭素繊維を12000本束ね、糸幅が約20mm程度となるように開繊されている状態の開繊糸を使用する。炭素繊維相互間は、サイジング剤などで微着されている。
【0023】
織物製造装置11は、経糸リール14と、織前部16と、経糸側案内ローラ17,18と、糸道補正手段20とを含む。
【0024】
経糸リール14は、経糸12を織機に供給する経糸供給手段である。また、経糸リール14は、たとえば、隣り合う経糸リール14を交互に上下に移動させる上下運動によって、複数の経糸12をそれぞれ上下に分けて、緯糸13を通す杼口を形成する。
【0025】
織前部16は、製織の進行方向に関して、経糸リール14から進行側に離れた実線で示す位置と、破線で示す緯入れした緯糸13の位置との間を往復移動する。織前部16は、往復移動することによって、杼口に通した緯糸13を織前へ打寄せて、製織を行う。織前部16は、製織された織物15の後端を挟んで保持する織前側把持手段である織前側把持ローラ19を備える。
【0026】
経糸側案内ローラ17,18は、経糸リール14の上下運動によって、複数の経糸12をそれぞれ上下に分けて杼口を形成する際に、経糸12を案内する。経糸リール14の上下運動によって上に移動された経糸12は、上側に配置されている経糸側案内ローラ17で案内される。経糸リール14の上下運動によって下に移動された経糸12は、下側に配置されている経糸側案内ローラ18で案内される。経糸側案内ローラ17,18は、経糸リール14の上下運動によって上下に移動した経糸12をそれぞれ案内することによって、経糸12に適度なテンションを与え、経糸12がたわむことなく、所望の形状の杼口が形成される。
【0027】
経糸リール14によって上下に分けられた経糸12は、製織の進行方向の後方側では、経糸側案内ローラ17,18で案内され、製織の進行方向の前方側では、織前部6に装着されている上下一対の織前側把持ローラ19で挟まれている。織前側把持ローラ19は、織前部16が往復移動に伴って、杼口へ緯糸13を挿入する破線で示す位置と、杼口の位置から製織の進行の前方側に離れる実線で示す離間位置との間で移動する。
【0028】
糸道補正手段20は、後述の構成によって、経糸12の糸道を補正し、経糸12が所定の糸道からはずれることを防止する。
【0029】
織物製造装置11は、複数の経糸リール14の上下運動によって経糸12を上下に分けて杼口を形成させる。経糸リール14による杼口形成は、たとえば、隣り合う経糸リール14を交互に上下に移動させる上下運動によって、複数の経糸12を上側に配置されている経糸側案内ローラ17で案内される経糸12と下側に配置されている経糸側案内ローラ18で案内される経糸12とに分けることによって行われる。そのとき、織前部16は、経糸リール14から進行側に離れた実線で示す位置にあり、織前部16と糸道補正手段20との間の杼口に緯糸13を通す。その後、織前部16を破線で示す緯入れした緯糸13の位置に移動させて緯糸13を織前へ打寄せ、経糸リール14を上下運動させて、経糸12と緯糸13とを交錯させる。そうすることによって、緯糸13の糸幅分ずつ製織される。織物製造装置11は、これらの操作を繰り返すことによって、織物15を製造する。
【0030】
図2は、織物製造装置11の上面図である。糸道補正手段20は、図2に示すように、複数の円板状部材21、中心軸22、モータ23を備える。
【0031】
円板状部材21は、底面がそれぞれ対向する。中心軸22は、円板状部材21の厚み方向に貫き、水平となるように設置されている。また、隣り合う円板状部材21の間に経糸12が通るように、円板状部材21が離間されて配置される。したがって、経糸12が所定の糸道から外れても、円板状部材21に経糸12が接触するので、経糸12同士が擦れ合ったり、経糸12が所定の糸道から外れたりすることがなくなる仕切り板として働く。モータ23は、中心軸22を駆動させて、円板状部材21を回転させる。また、ギア24,25は、そのギア比によって、円板状部材21の回転速度を調節することができる。
【0032】
図1に戻って説明する。モータ23は、円板状部材21を後述のように経糸12の進行方向に常時、回転させる。経糸リール14の上下運動によって移動する経糸12の可動領域が、円板状部材21の中心軸線24と中心軸線24に平行な線であって織前側把持ローラ19が織物15を把持する位置を通る線とで囲まれる面25の上方側に配置されるときは、円板状部材21の上端部が織前側把持ローラ19に近づくように円板状部材21を回転させる。また、経糸リール14の上下運動によって移動する経糸12の可動領域が、円板状部材21の中心軸線24と中心軸線24に平行な線であって織前側把持ローラ19が織物15を把持する位置を通る線とで囲まれる面25の下方側に配置されるときは、円板状部材21の上端部が織前側把持ローラ19から離れるように円板状部材21を回転させる。経糸12の可動領域は、円板状部材21の中心軸線24に平行な線であって上側に配置される経糸側案内ローラ17が経糸12を案内する位置を通る線と円板状部材21の中心軸線24に平行な線であって織前側把持ローラ19が織物15を把持する位置を通る線とで囲まれる面と、円板状部材21の中心軸線24に平行な線であって下側に配置される経糸側案内ローラ18が経糸12を案内する位置を通る線と円板状部材21の中心軸線24に平行な線であって織前側把持ローラ19が織物15を把持する位置を通る線とで囲まれる面とで囲まれる領域である。円板状部材21は、経糸リール14が上下運動しても、経糸12が中心軸線24を通過することがないように配置される。
【0033】
そうすることによって、円板状部材21は、経糸12の進行を妨げないように回転する。よって、経糸12が、所定の糸道からはずれ、経糸12が円板状部材21に接触しても、経糸12と円板状部材21との摩擦による経糸の損傷が小さい。
【0034】
円板状部材21は、厚み方向に垂直な断面が円形である板状の部材である。また、円板状部材21は、経糸12が接触しても損傷しない程度の強度を有するなどの所望の機能を有していればよく、表面加工したプラスチックおよび繊維強化プラスチックなどの公知の材料からなる円板状部材を用いることができる。その中でも、たとえば、ポリテトラフルオロエチレンを含む層を表面に形成した金属板であることが好ましい。そうすることによって、ポリテトラフルオロエチレンは、摩擦係数が小さいので、経糸が円板状部材に接触することによる経糸の損傷が小さい。また、経糸間に配置できるような薄い部材であっても、充分な強度を発揮することができる。したがって、円板状部材に経糸が接触しても、経糸の損傷が小さいだけでなく、円板状部材が経糸の接触によって損傷されない充分な強度を有する。
【0035】
図3は、円板状部材21の端部を拡大して示す拡大図である。円板状部材21は、図3に示すように、端部が丸みを帯びており、端部に角がない形状である。したがって、円板状部材21の端部の角が経糸に接触することによる経糸の損傷が発生しないので、経糸が円板状部材に接触することによる経糸の損傷が小さい。よって、摩擦による経糸の損傷をより低減することができる。
【0036】
隣り合う円板状部材21の間隔は、経糸12の糸幅と同程度であることが好ましい。隣り合う円板状部材21の間隔が経糸の糸幅より短いと、開繊糸などの経糸が、円板状部材21と接触してしまい、経糸12が損傷される。また、円板状部材21の間隔が経糸の幅より長いと、隣り合う経糸が離れてしまい、高品質な織物を製造できなくなってしまう。円板状部材21の厚みは、0.3mm以上2.0mm以下であることが好ましい。0.3mmより薄いと、経糸がゆれたときなどに、隣り合う経糸が接触し、経糸が損傷してしまうことがある。また、2.0mmより厚いと、隣り合う経糸が離れてしまい、高品質な織物を製造できなくなってしまう。
【0037】
円板状部材21の直径は、300mm以上1000mm以下であることが好ましい。経糸側案内ローラ17,18と織前側把持ローラ19との距離は、500mm以上1500mm以下であることが好ましい。また、経糸側案内ローラ17,18と織前側把持ローラ19との距離は、円板状部材21の直径より短い。
【0038】
また、円板状部材21は、経糸リール14が上下運動しても、経糸が中心軸22に触れないことが必要であり、円板状部材21の端部が経糸12の可動領域より10mm以上出ることが好ましい。
【0039】
織前部16は、緯糸13打込みの際、円板状部材21の方に移動してくるため、その移動距離を考慮した上で、経糸側案内ローラ17,18と織前側把持ローラ19との距離を短くすることが好ましい。
【0040】
直径が300mmより小さい円板状部材21であると、経糸12を所定の糸道から外れないようにする仕切り板として充分に働かない。また、直径が1000mmより大きい円板状部材21であると、経糸側案内ローラ17,18と織前側把持ローラ19との距離を長くしなければならず、経糸12がたわんだりして、好ましくない。
【0041】
また、上側の経糸側案内ローラ17と下側の経糸側案内ローラ18との距離は、150mm以上1000mm以下であることが好ましい。また、緯糸13を挿入するレピアヘッドが、上方に移動した経糸と下方に移動した経糸との間を通るため、そのスペースを確保した開口角度を考慮した上で、上側の経糸側案内ローラ17と下側の経糸側案内ローラ18との距離を短くすることが好ましい。
【0042】
円板状部材21の回転速度は、経糸12の送り速度に合わせて調整する。たとえば、経糸12の送り速度は、10m/分以上80m/分以下が好ましく、円板状部材21の回転速度は、1rpm以上6rpm以下が好ましい。
【0043】
以上より、織物製造装置11は、摩擦による経糸の損傷を低減することでき、製織性が高い。
【0044】
図4は、図1の織物製造装置11で織物15を製造する過程を説明するために交錯部分を拡大して示す概略図である。図4(a)は、経糸リール14の上下運動によって経糸12を開口して杼口を形成し、緯糸13を挿入している状態を示す。図4(b)は、織前側把持ローラ19を緯糸13の前端位置Bまで後退させている状態を示す。図4(c)は、織前側把持ローラ19を回転させながら、さらに後退することによって、緯糸13の後端位置Aまで後退している状態を示す。
【0045】
図4(a)では、織前側把持ローラ19は、緯糸13が挿入される挿入位置よりも、製織の進行方向に関して前方に離間した離間位置Cで織物15の後端を把持している。離間位置Cで織前側把持ローラ19が織物15の後端を挟んで保持しながら、杼口に緯糸13を通す緯入工程が行われる。図4(b)では、織前側把持ローラ19は、織物15の後端を把持したまま移動する。具体的には、織物15の後端を保持する織前側把持ローラ19を、離間位置Cから杼口に挿入された緯糸13の前端位置Bまで経糸リール14側に戻して、杼口に通した緯糸13を織前へ打寄せる打寄工程が行われる。図4(c)では、杼口に挿入される緯糸13の後端位置Aまで、緯糸13の糸幅分だけ、織前側把持ローラ19を回転させながら後退させ、BからAに回転移動し、織前側把持ローラ19に対して織物15を進行方向の前方に送り、織物15の後端に打寄せられた緯糸13を把持する把持工程が行われる。
【0046】
このようにして、筬打ち運動を行わなくても、杼口に通した緯糸13を織前へ打寄せることができ、緯糸13を織物15の後端に結合させることができる。さらに、緯糸13が織物15の後端に結合した状態で経糸リール14を上下運動することによって、経糸12と緯糸13とを交錯させることができる。そして、織前側把持ローラ19が織物15の後端を挟んだまま、杼口の位置から離間位置Cまで経糸リール14から離れるように前進する離間工程を行うと、緯糸13の挿入が可能な状態になる。緯糸13を新たに形成された杼口に挿入することによって、図4(a)に示すような緯糸13を挿入している状態に戻る。これらの工程を繰返すことで、順次、緯糸13の糸幅分ずつ、織物15の製造が行われる。
【0047】
図5は、図1の織物製造装置11で織物を製造する過程を説明するための概略図である。図5(a)は、図4(a)同様、経糸リール14の上下運動によって経糸12を開口して杼口を形成し、緯糸13を挿入している状態を示す。図5(b)は、織前側把持ローラ19を緯糸13の前端位置Bまで後退させ、さらに、緯糸13の後端位置Aまで後退させた後、経糸リール14が上下運動している状態を示す。図5(c)は、経糸リール14の上下運動によって、経糸12と緯糸13とが交錯されて、新たな杼口が形成されている状態を示す。
【0048】
図5(a)では、経糸リール14の上下運動によって、上側の経糸側案内ローラ17によって案内される経糸12と、下側の経糸側案内ローラ18によって案内される経糸12とに分けて、杼口が形成される。離間位置Cで織前側把持ローラ19が織物15の後端を挟んで保持しながら、杼口に緯糸13を通す緯入工程が行われる。図5(b)では、織前側把持ローラ19を緯糸13の後端位置Aまで後退させると、杼口に通した緯糸13を織前へ打寄せることができ、緯糸13を織物15の後端に結合させることができる。その後、緯糸13が織物15の後端に結合した状態で経糸リール14の上下運動を行われる。図5(c)では、経糸リール14の上下運動によって、経糸12と緯糸13とが交錯される。その後、織前側把持ローラ19を杼口の位置から離間位置Cまで経糸リール14から離れるように前進する離間工程が行われる。離間工程の際、織前側把持ローラ19が織物15の後端を挟んだまま、前進させるので、経糸12が経糸リール14から供給される。円板状部材21は、経糸12の進行を妨げないように回転するので、経糸12の損傷が小さい。
【0049】
織物製造装置11は、図4および図5に示すように、経糸リール14および織前部16を移動させることによって、開繊炭素繊維などの扁平な経糸および緯糸を用いても、筬打ち運動を行わないので、その扁平な形状をくずすことなく、織物を製造することができる。また、製織中で、経糸が損傷することもない。よって、織物製造装置11は、薄くて高品質な織物を製造することができる。また、織物製造装置11は、開繊炭素繊維以外の繊維を用いて、織物を製造することができる。さらに、織物製造装置11は、筬打ち運動を行わず、ヘルドを用いずに製織するので、強度が弱い繊維を用いても、織物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の一形態である織物製造装置11の構成を側面方向から見た概略図である。
【図2】織物製造装置11の上面図である。
【図3】円板状部材21の端部を拡大して示す拡大図である。
【図4】図1の織物製造装置11で織物15を製造する過程を説明するために交錯部分を拡大して示す概略図である。
【図5】図1の織物製造装置11で織物を製造する過程を説明するための概略図である。
【符号の説明】
【0051】
11 織物製造装置
12 経糸
13 緯糸
14 経糸リール
15 織物
16 織前部
17,18 経糸側案内ローラ
19 織前側把持ローラ
20 糸道補正手段
21 円板状部材
22 中心軸
23 モータ
24 中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸を供給する経糸供給手段の上下運動によって、複数の経糸を上下に分けて杼口を形成しながら、杼口に順次的に緯糸を通して経糸と緯糸とを交錯させて織物を製造する織物製造装置であって、
経糸の糸道を補正する糸道補正手段と、
織物の後端を挟んで保持する織前側把持手段とを含み、
前記糸道補正手段は、複数の円板状部材を備え、
前記円板状部材は、底面がそれぞれ対向し、厚み方向に貫く中心軸が水平であり、隣り合う円板状部材の間に経糸が通るように配置し、
前記円板状部材の上端部が前記織前側把持手段に近づくように前記円板状部材が回転するときは、前記経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、前記円板状部材の中心軸線と前記中心軸線に平行な線であって前記織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の上方側に配置され、
前記円板状部材の上端部が前記織前側把持手段から離れるように前記円板状部材が回転するときは、前記経糸供給手段の上下運動によって移動する経糸の可動領域が、前記円板状部材の中心軸線と前記中心軸線に平行な線であって前記織前側把持手段が織物を把持する位置を通る線とで囲まれる面の下方側に配置されることを特徴とする織物製造装置。
【請求項2】
前記円板状部材は、端部が丸みを帯びていることを特徴とする請求項1記載の織物製造装置。
【請求項3】
前記円板状部材は、ポリテトラフルオロエチレンを含む層を表面に形成した金属板からなることを特徴とする請求項1または2記載の織物製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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