説明

織物

【課題】麻織物の有する形態安定性、皺が生じやすい、発色性、染色堅牢度等の欠点を改善し、従来の麻調織物では表現できなかった爽やかなドライタッチ、膨らみ感、ナチュラルな異繊度感、爽やかな清涼感、吸湿性と放湿性に富みムレ感の少ない麻織物。更に、番手が細すぎるため生産が難しかった細番手の高級麻織物を安価に提供する。
【解決手段】R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を少なくとも70%以上含む仮撚スラブ加工糸を用いる。〔式〕R(%)=[(m−m’)/m’]×100ここで、mは試料の標準状態の質量(g)であり、m’は試料の絶乾質量(g)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高級な麻調織物に適し、更に詳しくは麻織物の有する欠点を改善し、高級な麻織物の特長を表現した特に高級麻調織物に適した織物に関する。
【背景技術】
【0002】
麻織物は、麻の有する繊度斑による独特な異繊度感や、ドライで清涼感のある風合いと、中空構造からくる軽量感、適度なハリコシ感や、吸湿性と放湿性に優れる等から快適な高級夏物衣料として広く認められている。しかし一方で、皺になりやすく洗濯堅牢度や湿摩擦堅牢度が低い等、取り扱い上の問題や発色性が劣る問題や、高価であり価格も不安定である等の問題もある。中でも細番手は高級麻織物として好評であるが、細番手の麻の価格は非常に高価であることは問題である。また、麻の番手が細番手になるほど製織が難しくなるという問題もある。この麻の上記特長を表現して欠点を補い、更に細番手の高級麻調織物を生産すべく様々な開発が行われ、多くの商品が市販されているが、未だ満足のいく商品が得られているとは言えない。
【0003】
例えば、ポリエステル系フィラメント糸を用いて仮撚加工等でスラブ外観を付与したものを用いた商品も多種開発されている。しかし、ワキシーで硬い風合い、吸湿性が無いためのムレ感、静電性等の問題があり、また、充分な麻調織物は得られていない。
【0004】
また、麻の細番手の製織性を向上させるために、ポリエステルと麻の混紡糸が作られてはいるが生産数量が少ないために、麻本来の梳毛紡では極めて高い工賃となり、綿紡を適用すると短繊維長を短くしなければならず、織物のハリコシ感が不足し、高級感に欠ける問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、麻織物の有する形態安定性、皺が生じやすい、発色性、染色堅牢度等の欠点を改善し、従来の麻調織物では表現できなかった爽やかなドライタッチ、膨らみ感、ナチュラルな異繊度感、爽やかな清涼感、吸湿性と放湿性に富みムレ感の少ない快適な着用感等の、麻織物の特長を表現し、更に、細番手の高級麻織物を表現し、麻の番手が細すぎるため生産が難しかった織物をも含めた特に麻調織物を生産性に優れた方法で、安定した価格にて安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨は、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を少なくとも70%以上含む仮撚スラブ加工糸を用いてなる織物にある。
R率は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下2桁を四捨五入して得られる値である。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
【0007】
好ましい態様によれば、仮撚スラブ加工糸を50%以上含んでいることがよい。また、仮撚スラブ加工糸は200dtex以下であることが好ましい。R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸としては、セルロースアセテートフィラメント糸が好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、麻織物の有する形態安定性に優れ、皺が生じにくく、発色性にも優れ、染色堅牢度等が向上した、従来の麻調織物では表現できなかった爽やかなドライタッチ、膨らみ感、ナチュラルな異繊度感、爽やかな清涼感、吸湿性と放湿性に富み、ムレ感の少ない快適な着用感等、麻織物の特長を表現し、更に、細番手の高級麻織物を表現し、生産性の良い方法で、安定した価格で安価な特に高級麻調の織物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明で用いるフランス綾織物の組織図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明におけるセルロース系フィラメント糸とは、例えばセルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維等が挙げられるが、その製法や種類を特に限定するものではない。また該フィラメント糸は、繊維の表面形状、艶、繊度などを特に限定するものではなく、得られる織物表現を考慮して任意に選定すればよい。
【0011】
本発明のセルロース系フィラメント糸はR率が8%以下であることが必要である。セルロース系フィラメント糸のR率が8%を超えると、水膨潤性による収縮が問題となり、洗濯収縮、形態安定性、湿潤堅牢度の問題や、保水性が高く速乾性に劣る等の問題が生じる。
【0012】
本発明の仮撚スラブ加工糸は、R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を70%以上含む必要があり、90%以上含むことが好ましい。R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸の混率が70%未満では、麻の有するドライで清涼感のある風合いや、吸湿性と放湿性の表現が不十分となる。
【0013】
本発明における仮撚スラブ加工糸は、その製造方法やスラブ形態、R率8%以下のセルロース系フィラメント糸と複合される糸の種類などを特に限定するものではなく、任意の方法、条件で実施することが出来る。例えば、仮撚スラブ加工糸の強度確保や、セルロース系フィラメント糸の風合いを活かす為に、ポリエステル系フィラメント糸を芯糸に用い、セルロース系フィラメント糸を芯糸と花糸に用いる方法が好ましく用いられる。また、芯糸や花糸にカチオン可染型のポリエステル系フィラメント糸やカチオン可染型のセルロース系フィラメント糸を用いる等により杢調の異色効果が得られる。なお、スラブ形態は高級感の点でスラブ長の短いものよりも、長いものの方が好ましく用いられる。
【0014】
本発明における織物の組織や目付け、密度等は特に限定されるものではなく、また、他の繊維との配列や交織等も特に限定するものではなく、得ようとする織物表現を考慮して任意に選定すればよい。
【0015】
本発明の織物は、仮撚スラブ加工糸を50%以上含むことが好ましい。該仮撚スラブ加工糸の混率が50%未満では、麻の細番手使いの高級麻織物調表現が曖昧になる。
本発明における仮撚スラブ加工糸の繊度は200dtex以下が好ましく用いられる。細番手の高級麻織物の特長が得られるのは麻の番手が80番手(207dtex)以下であり、仮撚スラブ加工糸の繊度が200dtexを超えると、目的とする麻の細番手を用いた高級麻織物調表現が得られ難い。
【0016】
本発明のR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸は、その製法や種類を特に限定するものではないが、アセテート繊維がその低屈折率からくる鮮明性、発色性、高級感のある光沢、適度なヤング率、分散染料可染性等を有しており好ましく用いられる。因みに、ジアセテートのR率は約6.5%、トリアセテートは約3.5%であり適度な吸湿性と速乾性を有し、沸水収縮率も約2〜3%と少ない。また風合いや光沢の高級感の点からトリアセテートの使用が更に好ましい。
【0017】
本発明の織物は皺加工を施すことにより皺形態とスラブ形態とが調和したナチュラルな表面感を有する麻調外観が得られる。そのため、皺加工が好ましく用いられる。セルロース系フィラメント糸は皺加工によりナチュラルな皺の形成が容易であり、本発明の織物はセルロース系フィラメント糸を豊富に含有しているため、ナチュラルな皺形成が容易に得られる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。また、R率は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下2桁を四捨五入して得られる。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。また、絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
風合いや発色性等はハンドリングと目視によって評価した。
【0019】
[実施例1]
芯糸にブライト40dtex9fセルローストリアセテートフィラメント糸(dtexはデシテックスの略。以下dtexで記載する。fはフィラメントの略。以下fで記載する。菊型断面、R率3. 5%、三菱レイヨン社製)1本と、ブライト11dtex4fM210ポリエステル系フィラメント糸(丸断面、三菱レイヨン社製)1本とを用い、花糸にブライト40dtex9fセルローストリアセテートフィラメント糸(菊型断面、R率3. 5%、三菱レイヨン社製)を用いて、仮撚加工により仮撚スラブ加工糸を作成した。得られた仮撚スラブ加工糸の繊度は124dtex、混率はセルローストリアセテート91%、ポリエステル9%であった。
【0020】
得られた仮撚スラブ加工糸を経糸と緯糸に用いて平組織の織物を製織した。この生機を常法に従って染色仕上加工し、色は黒色に染色し、仕上げ巾113cm、経糸密度73本/2.54cm、緯糸密度69本/2.54cmの平織物を得た。得られた織物はナチュラルで繊細な麻調外観を有し、高級感のある上品で控えめな光沢、ソフトで爽やかな清涼感のある、適度なシャリ感、ドライ感、膨らみ感に優れた細番手高級麻調織物であった。また、黒色の発色性に優れ、製織性にも優れており、本物の細番手麻織物では得ることのできない細番手高級麻調織物が得られた。
【0021】
[比較例1]
実施例1の芯糸であるセルローストリアセテートフィラメント糸をセミダル33dtex12fA118のポリエステル系フィラメント糸(丸断面、三菱レイヨン社製)に変更し、花糸をセミダル33dtex12fA118のポリエステル系フィラメント糸(丸断面、三菱レイヨン社製)に変更した以外は、実施例1と同じ仮撚スラブ加工糸を作成した。得られた仮撚スラブ加工糸の繊度は105dtexであった。
【0022】
得られた仮撚スラブ加工糸を経糸と緯糸に用いて実施例1と同じ組織の織物を製織した。この生機を常法に従って染色仕上加工し、色は黒色に染色し、仕上げ巾113cm、経糸密度79本/2.54cm、緯糸密度74本/2.54cmの平織物を得た。その結果、ナチュラルで繊細な麻調外観を有した麻調織物が得られたが、実施例1に比べ黒色の発色性が悪く、高級感に欠けた光沢であり、風合いがワキシーで硬く、ムレ感があり、爽やかさや清涼感に欠けたものであり、本発明の目的とする高級麻調織物は得られなかった。また、硬さを改善する為にアルカリによる減量加工も試みたが、硬さが取れた分フカツキ感が増し爽やかな清涼感は得られなかった。
【0023】
[実施例2]
経糸に実施例1で用いたのと同じ仮撚スラブ加工糸を用い、緯糸には熱収縮性の異なる2成分のポリエステル系重合体を複合紡糸したポリエステル系複合繊維のフィラメント糸セミダル56dtex36fV210C (丸断面、三菱レイヨン社製)2本を撚数1200回/mで合撚した合撚糸を用いた。該合撚糸の撚方向をZ撚とS撚のものをそれぞれ作成し、Z撚とS撚が1本交互になるように打ち込み、組織はフランス綾(図1参照)で製織した。この生機の仮撚スラブ加工糸混率は62%であった。この生機を常法に従って染色仕上加工し、色はカチオン染料のみでベージュ色に染色し、仕上げ巾142cm、経糸密度163本/2.54cm、緯糸密度89本/2.54cmのフランス綾織物を得た。
【0024】
得られた織物は経糸方向にナチュラルな麻調異繊度外観を有し、高級感のある上品で控えめな光沢、ソフトで爽やかな清涼感のある、適度なシャリ感、ドライ感、膨らみ感に優れ、更に、適度なストレッチ性と反発感、ハリコシを有しており、好適な細番手高級麻調織物であった。また、緯糸をベージュに染色して、経糸を白残ししたことにより、経糸のスラブがより強調され清涼感のある麻調異繊度外観を演出した意匠性に優れたものであった。更に、製織性にも優れており、本物の細番手麻織物では得ることの出来ない細番手高級麻調織物が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の測定方法で求めたR率が8%以下のセルロース系フィラメント糸を少なくとも70%以上含む仮撚スラブ加工糸を用いてなる織物。
R率は、試料約20gを採り、その標準状態の質量及び絶乾質量を量り、次の式によって算出し、小数点以下2桁を四捨五入して得られる値である。
R(%)=[(m−m’)/m’]×100
m :試料の標準状態の質量(g)
m’:試料の絶乾質量(g)
なお、標準状態の質量は、予備乾燥(試料を相対湿度10〜25%、温度50℃を超えない環境で恒量にすること)した後、標準状態(温度20±2℃、相対湿度65±4%)の試験室に放置し、恒量になった状態の質量である。絶乾質量は、試料を温度105±2℃の熱風乾燥機中に放置して恒量になった状態の質量である。
【請求項2】
仮撚スラブ加工糸を50%以上含む請求項1記載の織物。
【請求項3】
仮撚スラブ加工糸が200dtex以下である請求項1または2に記載の織物。
【請求項4】
R率が8%以下のセルロース系フィラメント糸が、セルロースアセテートフィラメント糸である請求項1〜3のいずれかに記載の織物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−84832(P2011−84832A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238030(P2009−238030)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(301067416)三菱レイヨン・テキスタイル株式会社 (102)
【Fターム(参考)】