説明

缶用めっき鋼板及びその製造方法

【課題】飲料缶、食缶等に使用される、有機皮膜密着性、耐食性に優れた表面処理鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板側から順に、錫合金層、金属錫層を有するめっき鋼板であって、その上層に、還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2の酸化錫とP量として0.5〜5.0mg/m2のリン酸錫とを有する化成処理層を少なくとも有することを特徴とする缶用めっき鋼板、及び、その製造方法である。さらに、化成処理層上に、Si量として0.2〜2mg/m2のシラノール基含有有機化合物を含む皮膜を有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料缶、食缶等に使用される、有機皮膜の二次密着性、耐食性に優れた缶用めっき鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、缶用材料として使用されてきた表面処理鋼板は、ブリキやLTS、TNS等の錫めっき鋼板、ニッケルめっき鋼板(TFS-NT)、電解クロムめっき鋼板(TFS-CT)が主なものである。通常、これらの鋼板のめっき表面には化成処理が施され、それによって塗料や樹脂フィルムとの密着性を確保している。
【0003】
現在、商品化されている缶用表面処理鋼板の化成処理の殆どは、重クロム酸塩又はクロム酸を主成分とする水溶液を用いた、浸漬処理又は陰極電解処理である。例外として、特許文献1及び2に開示されているブリキのリン酸塩水溶液中での陰陽極電解処理が知られているが、用途は内面を無塗装のまま使用する粉乳用缶に限定されている。この陰陽極電解処理が粉乳用缶以外の飲料缶、食缶に使用されない主たる理由は、塗料や樹脂フィルムのような有機皮膜の密着性が不十分であるためである。
【0004】
一方、重クロム酸塩又はクロム酸を主成分とする水溶液を用いた、浸漬処理又は陰極電解処理によって得られたクロム(III)酸化膜は、有機皮膜の密着性を向上させる効果が大きく、これに代わる化成処理は、種々検討されているものの、実用化には至っていないのが現状である。例えば、特許文献3には、浸漬処理によってリン酸系皮膜を形成させたDI缶用電気めっきブリキが開示されている。また、特許文献4には、フィチン酸又はフィチン酸塩溶液中で陽極処理する方法が開示されている。
【0005】
近年は、錫めっき層上に、シランカップリング剤を使用した皮膜を施す技術が多く開示されている。例えば、特許文献5には、錫めっき鋼板のSn層又はFe-Sn合金層上に、シランカップリング剤塗布層を設けた鋼板及び缶が開示されており、特許文献6には、錫めっき層上に、下層としてP、Snを含有する化成皮膜、上層としてシランカップリング層を有する錫めっき鋼板が開示されている。また、特許文献6に類似した技術として、特許文献7〜16が開示されている。
【特許文献1】特開昭52-68832号公報
【特許文献2】特開昭52-75626号公報
【特許文献3】特開昭59-47396号公報
【特許文献4】特開昭52-92837号公報
【特許文献5】特開2002-285354号公報
【特許文献6】特開2001-316851号公報
【特許文献7】特開2002-275643号公報
【特許文献8】特開2002-206191号公報
【特許文献9】特開2002-275657号公報
【特許文献10】特開2002-339081号公報
【特許文献11】特開2003-3281号公報
【特許文献12】特開2003-175564号公報
【特許文献13】特開2003-183853号公報
【特許文献14】特開2003-239084号公報
【特許文献15】特開2003-253466号公報
【特許文献16】特開2004-68063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記特許文献に記載された化成皮膜はいずれも、缶用めっき鋼板として用いるに必要な有機皮膜の二次密着性、耐食性等の性能を備えているとは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、有機皮膜の二次密着性、耐食性に優れた缶用めっき鋼板、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意検討し、極めて良好な有機皮膜の二次密着性が得られる錫めっき鋼板の層構造と、それを実現する方法を構築して本発明に至ったものである。
【0009】
即ち、本発明の要旨とするところは、
(1) 鋼板側から順に錫合金層、金属錫層を有するめっき鋼板であって、その上層に還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2の酸化錫とP量として0.5〜5.0mg/m2のリン酸錫とを含む化成処理層を少なくとも有することを特徴とする缶用めっき鋼板、
(2) 前記化成処理層上に、Si量として0.2〜2mg/m2のシラノール基含有有機化合物を含む皮膜を有する前記(1)記載の缶用めっき鋼板、
(3) 前記錫合金層が、Fe-Sn合金層、Ni量として2〜100mg/m2のFe-Ni合金層、又は、Ni量として2〜100mg/m2のFe-Ni-Sn合金層の1種又は2種以上から成る前記(1)又は(2)に記載の缶用めっき鋼板、
(4) 鋼板を電解脱脂、酸洗してから、電気錫めっき、及び、錫の加熱溶融処理をした後、リン酸塩水溶液中で、陰極電解処理、次いで、0.2〜5A/dm2、0.1〜2秒の陽極電解処理を施すことを特徴とする缶用めっき鋼板の製造方法、
(5) さらに、シランカップリング処理をSi量として0.2〜2mg/m2施す前記(4)記載の缶用めっき鋼板の製造方法、
(6) 前記電気錫めっきの前に、電気Fe-Ni合金めっき又は電気NiめっきをNi量として2〜100mg/m2施す前記(4)又は(5)に記載の缶用めっき鋼板の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、極めて良好な有機皮膜の二次密着性、耐食性を具備した缶用めっき鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で使用する鋼板には、特に制限を設ける必要はない。従来から缶用鋼板に使用されているアルミキルド鋼や低炭素鋼等の成分系の鋼板が問題なく使用できる。また、鋼板の厚みや調質度は、使用目的に適したグレードを選択すればよい。
【0013】
本発明の主たる構成は、鋼板側から順に、錫合金層、金属錫層を有するめっき鋼板であって、その上層に、還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2の酸化錫とP量として0.5〜5.0mg/m2のリン酸錫とを含む化成処理層を少なくとも有することを特徴とする有機皮膜の二次密着性に優れた缶用めっき鋼板である。
【0014】
錫合金量や金属錫量は、使用目的によって適当な付着量のものを選択すればよいので、本発明では限定しないが、合金錫は、Sn量として0.1〜1.6g/m2、金属錫付着量は、0.2〜5g/m2が一般的である。
【0015】
錫めっき後に錫の加熱溶融工程(リフロー処理)を経る錫めっき鋼板では、必然的に0.1g/m2の錫合金層は不可避的に生じるものであるし、一方、1.6g/m2を超えると、曲げ、カーリング等の加工工程で微小なクラックが生じ易くなり、腐食の起点となる恐れがあるため、通常は使用されない。
【0016】
金属錫付着量は、0.2g/m2より少ないと、缶胴を製造するためのワイヤーシーム溶接の際、局所的に過熱される頻度が高くなり、チリと呼ばれる溶融金属の飛散が多くなって、十分な溶接適正電流範囲が得難くなるし、金属錫が5g/m2を超えても、外観の光沢が増すばかりで、有機皮膜を有する缶として使用する場合の性能上の利点は認められないので、経済的な理由や希少資源を浪費しないためにも通常は使用されない。
【0017】
金属錫層上の化成処理層は、XPS(X線光電子分光分析)によって深さ分析することで、酸化錫とリン酸錫とが共存する層であることを確認することができる。
【0018】
酸化錫とリン酸錫とから成る層中の酸化錫量は、還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2であることが必要である。酸化錫層の還元に要する電気量は、錫めっき鋼板を、窒素ガスのバブリング等の手段によって溶存酸素を除去した0.001mol/Lの臭化水素酸水溶液中で0.05mA/cm2の定電流で陰極電解し、得られる電位-時間曲線から求めることができる。酸化錫層が還元に要する電気量として、0.3mC/cm2より少ない場合も、5.0mC/cm2を超える場合も、共に有機皮膜の二次密着性が低下してしまう。有機皮膜の二次密着性確保という観点から、酸化錫層量のより好ましい範囲は1.5〜5.0mC/cm2である。さらに好ましい範囲は、2.6〜5.0mC/cm2であり、この範囲であれば、塗装後耐食性及びラミネート後耐食性が極めて良好な薄錫めっき鋼板となる。
【0019】
酸化錫とリン酸錫とから成る化成処理層中のリン酸錫は、P量として0.5〜5.0mg/m2であることが必要である。P量は、0.5mg/m2未満でも、有機皮膜の一次密着性は確保可能であるが、二次密着性は確保できない。一方、P量として5.0mg/m2を超えるリン酸錫は、凝集破壊し易くなるため、有機皮膜の一次密着性、二次密着性の確保ができない。
【0020】
本発明の缶用めっき鋼板の化成処理層上には、Si量として0.2〜2mg/m2のシラノール基含有有機化合物を含む皮膜を有することが好ましい。シラノール基含有有機化合物の皮膜は、空気が金属錫表面に達する障壁となって、酸化錫層の成長を抑制すると共に、親水基が化成処理層中のリン酸錫の-OH基と脱水結合し、疎水性の部分が有機皮膜と結合することで、有機皮膜の密着性を向上させる作用をする。シラノール基含有有機化合物が0.2mg/m2未満では、化成処理層を十分に被覆することができず、空気のバリア層としての作用が不十分となることがある。一方、2mg/m2を超える量のシラノール基含有有機化合物は、自己縮合によって弱い皮膜となってしまうため、有機皮膜密着性はむしろ低下する。
【0021】
好ましいシラノール基含有有機化合物は、シランカップリング剤を加水分解させることでシラノール基を生じさせて得ることができる。シラノール基含有有機化合物を得るために用いるシランカップリング剤は、その分子中にアミノ基を有するものであることが好ましい。例として、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等を挙げることができる。アミノ基を有するシランカップリング剤の加水分解によって生じたシラノール基含有有機化合物は、他のシランカップリング剤と比べて、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂やエポキシ塗料等に対し、顕著な密着性向上効果が認められる。
【0022】
金属錫層の下地層として、前記錫合金層が、Fe-Sn合金層、Ni量として2〜100mg/m2のFe-Ni合金層又はFe-Ni-Sn合金層の1種又は2種以上があってもよい。特に、Niを含有する合金層は、上層の錫をリフロー処理する際のバリア層となり、過剰なFe-Sn合金化を抑制すると言うメリットがある。Fe-Ni合金層が、Ni量として2mg/m2未満では、上記Fe-Sn合金化反応のバリアとしての効果が認められない。一方、100mg/m2を超えても、Fe-Sn合金化のバリアとしての性能は向上せず、むしろNi-Sn合金化が促進される傾向があるため、好ましくない。
【0023】
次に、有機皮膜の二次密着性に優れた缶用めっき鋼板の製造方法について詳述する。
【0024】
鋼板のめっき前処理の方法及び用いる錫めっき浴については、本発明では特に規定しないが、前処理として電解アルカリ脱脂及び希硫酸酸洗を施した後、光沢添加剤を含むフェノールスルホン酸浴、硫酸浴等の酸性錫めっき浴で電気錫めっきを施すと、良好な錫めっきが得られる。なお、錫めっきの前に、Fe-Ni合金めっきを施してもよい。あるいは、ニッケルめっきを施した後、加熱してニッケルを鋼板表面層に拡散させて、Fe-Ni合金層を形成させてもよい。錫めっき後の鋼板は、水又は錫めっき液の希釈液の入った槽に浸漬され、乾燥された後、リフロー処理が施される。リフロー処理は、錫めっき鋼板を錫の融点である232℃以上に加熱する工程であるが、300℃を超えると、Fe-Sn合金化が非常に促進されてしまうので、好ましくない。加熱の手段としては、電気抵抗加熱や誘導加熱、又は、それらを組み合わせて用いるとよい。リフロー処理の直後にクエンチ処理することで、Fe-Sn合金層又はFe-Ni-Sn合金層や、表面の酸化錫層の過剰な生成を防ぐことが必要である。クエンチ処理は、錫を溶融した錫めっき鋼板を水に浸漬して行う。ストリップを連続的にリフロー処理及びクエンチ処理すると、クエンチ槽の水は約80℃まで上昇するが、リフロー処理で加熱された鋼板は、この程度の温度まで冷却されればよいので、差し支えない。
【0025】
クエンチ処理後、以下に述べる方法で化成処理を施す。
【0026】
還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2の酸化錫とP量として0.5〜5.0mg/m2のリン酸錫とを含む化成処理層を得るため、リン酸塩水溶液中での陰極電解処理、次いで、同一溶液中で陽極電解処理を施すのが最適である。本処理液はpH2〜3で良好な結果が得られるが、このpH域ではリン酸塩水溶液中のリン酸の化学種は、主としてリン酸とリン酸二水素イオンであって、リン酸二水素イオンの対カチオンとしてはNa、Sn、Fe、Al、Mg、Caが電解処理に影響を与えることがなく好ましい。Na、Sn、Fe、Al、Mg、Caのカチオンは、1種又は2種以上共存してもよい。リン酸の全濃度はリン酸換算で5〜80g/L、液温25〜60℃の範囲が適当である。
【0027】
陰極電解処理は、リフロー処理で錫めっき鋼板表面に生じた、有機皮膜の密着性を阻害する錫酸化物を還元する工程であり、陰極電解処理の陰極電流密度は1〜20A/dm2、電解時間は0.1〜2秒が適当である。陰極電流密度が1A/dm2より低いと、リフロー処理で生じた酸化錫の還元が十分にできず、良好な有機皮膜密着性が得られない。一方、陰極電流密度を20A/dm2より高くしても、陰極表面で発生する水素ガスの量が多くなるばかりで、有機皮膜密着性は向上しない。
【0028】
陽極電解処理は、陰極電解処理によって還元することで現れた金属錫表面に酸化錫を生じさせると共に、錫をゆっくりと溶解させ、処理液中のリン酸イオンと結合させることでリン酸錫を付与する工程である。陽極電解処理によって生じる酸化錫は、リフロー処理で生じる酸化錫と質的な違いがあると考えられ、有機皮膜の密着を阻害するものではない。陽極電解処理の陽極電流密度は0.2〜5A/dm2、電解時間は0.1〜2秒が適当である。0.2A/dm2より低いと、表面錫の溶解が不十分で、有機皮膜の二次密着性を確保するのに十分な量のリン酸錫を得るのに時間がかかるため、実用的でない。一方、5A/dm2を超える陽極電流密度では、表面錫の溶解が速過ぎ、疎で脆いリン酸錫が生成するため、この層の凝集破壊によって、有機皮膜の密着性は著しく劣化する。
【0029】
前記の化成処理後、鋼板をさらに、シランカップリング剤水溶液に浸漬するかこれを塗布し、ロールで余剰の処理液を絞って、又は、絞らずに、直ちに乾燥することが好ましい。処理液が均一に分布せずにハジキが生じる場合は、少量のエタノールを処理液に添加するとよい。ロール絞り後、鋼板が自然乾燥する前に、100℃以上200℃以下の温度で乾燥すると、鋼板への密着性が良好で、空気が錫表面に達するのを妨げるバリアとしても良好な、シラノール含有有機化合物の皮膜が形成されるので好ましい。さらに、めっき鋼板表面と結合しない過剰なシラノール基含有有機化合物を水洗によって除去し、乾燥させてもよい。好適なシランカップリング剤として、例えば、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。この水溶液(0.01〜1g/L)に鋼板を浸漬した後、鋼板上の処理液の量が、1m2当たり5〜20mLとなるよう、ゴムロールの絞り圧を調整して処理液を絞ることで、適当な厚みのシラノール基含有有機化合物皮膜が得られる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例によって、本発明をさらに詳細に説明する。
【0031】
低炭素冷延鋼帯を連続焼鈍、次いで、調質圧延して得た板厚0.18mm、調質度T-5CAの鋼帯を使用した。めっき前処理として、10mass%水酸化ナトリウム溶液中で電解脱脂した後、5mass%希硫酸で酸洗した。
【0032】
一部の鋼帯にはFe-Ni合金めっき、または、Niめっきを施した。Niめっきを施した鋼帯は、その後に焼鈍してNiを拡散させて、Fe-Ni合金層を形成させた。
【0033】
次いで、フェロスタン浴を用いて電気錫めっきを施した。錫イオンを20g/L、フェノールスルホン酸イオンを75g/L、界面活性剤を5g/L含む43℃のめっき液中で、陰極電流密度20A/dm2で陰極電解した。陽極には、白金めっきしたチタンを用いた。錫めっきの狙い量は電解時間で調節し、1.3g/m2とした。錫めっき後は、錫めっき液を10倍希釈した溶液に浸漬し、ゴムロールで液切りをした後、冷風で乾燥し、通電加熱によって10秒間で250℃まで昇温させて錫をリフローし、直ちに70℃の水でクエンチした。
【0034】
引き続き、該錫めっき鋼板に、下記のように化成処理を施した。
【0035】
全リン酸濃度をリン酸換算で35g/L、対カチオンを4g/L含むpH2.5、液温40℃の処理液中で陰極電解処理、次いで、同一溶液中で陽極電解処理を施した。比較のため、該化成処理を施さない条件も行った。
【0036】
化成処理後、鋼板をさらに、25℃の3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)水溶液(1g/L)に浸漬した後、鋼板上の処理液の量が、1m2当たり約10mLとなるよう、ゴムロールの絞り圧を調整して処理液を絞った。鋼板が自然乾燥する前に、140℃の雰囲気温度で乾燥した。また、この処理を施さない条件も行った。
【0037】
全Sn、P、Si、Niの付着量は、蛍光X線強度から、予め作成した検量線を使って算出した。全Sn中の金属Sn量は、1mol/Lの希塩酸中で錫めっき鋼板を陽極とする電解剥離法により求めた。なお、Pがリン酸錫として存在することは、AES(オージェ電子分光分析)による微小領域におけるSn、P、Oの比率と、XPS(X線光電子分光分析)によるSn、P、Oの結合状態の解析によって確認した。
【0038】
酸化錫量は、窒素バブリングによって脱気した0.001mol/Lの臭化水素酸水溶液中で、0.05mA/cm2の定電流陰極電解し、得られた電位-時間曲線から、還元に要する電気量として求めた。
【0039】
上記処理材について、以下に示す(A)〜(D)の各項目について評価試験を実施した。
(A) 塗料一次密着性
評価材に、エポキシ・フェノール系塗料を60mg/dm2塗布し、210℃で10分間の焼き付けを行った。さらに、190℃で15分間、230℃で90秒間の追い焼きを行った。この塗装板から、5mm×100mmの大きさの試料を切り出した。2枚の同一水準の試料を、塗装面が向かい合わせになるようにし、間に厚さ100μmのフィルム状のナイロン接着剤を挟んだ。これを、つかみ代を残して、ホットプレスで200℃で60秒間予熱した後、2.9×105Paの圧力をかけて200℃で50秒間圧着し、引張試験片とした。つかみ部をそれぞれ90゜の角度で曲げてT字状とし、引張試験機のチャックでつかんで引っ張り、剥離強度を測定して、塗料一次密着性を評価した。試験片幅5mm当たりの測定強度が、68N以上を◎、49N以上68N未満を○、29N以上49N未満を△、29N未満を×とした。
(B) 塗料二次密着性
評価材に、前記(A)と同様の方法で、塗装、焼付け、ナイロン接着剤を挟んで圧着を施し、試験片を作製した。これを1.5%クエン酸と1.5%塩化ナトリウムからなる55℃の試験液中に、大気開放下で96時間浸漬した後、つかみ部をそれぞれ90゜の角度で曲げてT字状とし、引張試験機のチャックでつかんで引っ張り、剥離強度を測定して、塗料二次密着性を評価した。試験片幅5mm当たりの測定強度が、42N以上を◎、34N以上42N未満を○、25N以上34N未満を△、25N未満を×とした。
(C) 耐食性
評価材の缶内面に相当する面の耐食性を評価するため、UCC(アンダーカッティング・コロージョン)試験を行った。エポキシ・フェノール系塗料を50mg/dm2塗布し、205℃で10分間の焼き付けを行った。さらに180℃で10分間の追い焼きを行った。この塗装板から、50mm×50mmの大きさの試料を切り出した。塗膜にカッターで地鉄に達するまでクロスカットを入れ、端面と裏面を塗料でシールした後、1.5%クエン酸と1.5%塩化ナトリウムからなる55℃の試験液中に、大気開放下で96時間浸漬した。水洗・乾燥後、速やかにスクラッチ部及び平面部をテープで剥離して、クロスカット部近傍の腐食状況、クロスカット部のピッティング腐食及び平面部の塗膜剥離状況を観察して、耐食性を評価した。テープによる剥離も腐食も認められないものを◎(非常に良好)、スクラッチ部から0.2mm未満のテープ剥離又は目視で認められない僅かな腐食の一方又は両方が認められたものを○(良好)、スクラッチ部から0.2mm以上0.5mm以下のテープ剥離又は目視で認められる小さい腐食の一方又は両方が認められたものを△(やや不良)とした。
(D) 外観
評価材の外観を、光沢、色調、ムラの総合的なものとして、目視で評価した。非常に良好な外観であるものを◎、商品として問題のない良好な外観であるものを○、商品としては外観にやや不良な点があるものを△、外観不良で商品にならないものを×とした。
【0040】
以上の性能評価結果から、総合評価を◎(非常に良好)、○(良好)、△(やや不良)、×(不良)の4段階に分類し、◎、○を合格レベルとした。
【0041】
上記に記載しなかった試験条件、及び、評価結果を、表1〜3に示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
本発明の実施例1〜38は、全ての評価項目及び総合評価で、◎又は○であり、求められる性能を満足した。
【0046】
比較例1は、リン酸塩溶液に浸漬せず、シランカップリング処理のみ施した例である。リフロー処理で生じた酸化錫が厚く残っているため、塗料密着性は、一次、二次共に劣っており、耐食性も不良であった。
【0047】
比較例2は、リン酸塩溶液中で陰極電解処理のみ施し、陽極電解処理を施さなかった例である。シランカップリング処理は施したが、P付着量と酸化錫量が不足で、十分な二次塗料密着性と耐食性が得られなかった。
【0048】
比較例3は、リン酸塩溶液中で、陰極電解処理、陽極電解処理を施し、さらにシランカップリング処理を施した例であるが、陽極電解処理の電流密度が低かったため、P付着量が不足で、十分な二次塗料密着性と耐食性が得られなかった。
【0049】
比較例4は、リン酸塩溶液中で、陰極電解処理、陽極電解処理を施し、さらにシランカップリング処理を施した例であるが、陽極電解処理の電流密度が高過ぎたため、生じたリン酸錫が脆く、また、P付着量が多過ぎるため、塗料密着性は一次、二次共に劣っており、耐食性も不良であった。
【0050】
比較例5は、リン酸塩溶液に浸漬しなかった例である。リフロー処理で生じた酸化錫が厚く残っているため、塗料密着性は一次、二次共に劣っており、耐食性も不良であった。
【0051】
比較例6は、リン酸塩溶液中で、陰極電解処理のみ施し、陽極電解処理を施さなかった例である。P付着量と酸化錫量が不足で、十分な二次塗料密着性と耐食性が得られなかった。
【0052】
比較例7は、リン酸塩溶液中で、陰極電解処理、陽極電解処理を施した例であるが、陽極電解処理の電流密度が低かったため、P付着量が不足で、十分な二次塗料密着性と耐食性が得られなかった。
【0053】
比較例8は、リン酸塩溶液中で、陰極電解処理、陽極電解処理を施した例であるが、陽極電解処理の電流密度が高過ぎたため、生じたリン酸錫が脆く、また、P付着量が多過ぎるため、塗料密着性は一次、二次共に劣っており、耐食性も不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板側から順に、錫合金層、金属錫層を有するめっき鋼板であって、その上層に、還元に要する電気量として0.3〜5.0mC/cm2の酸化錫とP量として0.5〜5.0mg/m2のリン酸錫とを含む化成処理層を少なくとも有することを特徴とする缶用めっき鋼板。
【請求項2】
前記化成処理層上に、Si量として0.2〜2mg/m2のシラノール基含有有機化合物を含む皮膜を有する請求項1記載の缶用めっき鋼板。
【請求項3】
前記錫合金層が、Fe-Sn合金層、Ni量として2〜100mg/m2のFe-Ni合金層、又は、Ni量として2〜100mg/m2のFe-Ni-Sn合金層の1種又は2種以上から成る請求項1又は2に記載の缶用めっき鋼板。
【請求項4】
鋼板を電解脱脂、酸洗してから、電気錫めっき、及び、錫の加熱溶融処理をした後、リン酸塩水溶液中で、陰極電解処理、次いで、0.2〜5A/dm2、0.1〜2秒の陽極電解処理を施すことを特徴とする缶用めっき鋼板の製造方法。
【請求項5】
さらに、シランカップリング処理をSi量として0.2〜2mg/m2施す請求項4記載の缶用めっき鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記電気錫めっきの前に、電気Fe-Ni合金めっき又は電気NiめっきをNi量として2〜100mg/m2施す請求項4又は5に記載の缶用めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2008−202094(P2008−202094A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−39403(P2007−39403)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】