説明

置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛の製造方法

【課題】置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法を提供する。
【解決手段】テトラフルオロエチレンと有機亜鉛化合物とを反応させる、下式で示される置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛の製造方法。


[式中、Yは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、Cl、Br又はIを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛の製造方法に関する。特に、入手容易なテトラフルオロエチレンから、様々な化合物を合成可能な置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を製造できる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛は、様々な合成反応に用いることができることが知られている(例えば、特許文献1〜2及び非特許文献1〜23参照)。そこで、ハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法が研究されてきており、例えば、以下の方法が報告されている。
【0003】
CF=CFX(X:フッ素原子以外のハロゲン原子)の炭素−ハロゲン(C−X)結合を、ブチルリチウムにより炭素−リチウム(C−Li)結合に変換してから、C−C結合生成反応を行う方法が知られている。また、前記で生成したC−Li結合のLiを、さらにSn、Si等の金属に再変換してから、C−C結合生成反応を行う方法が知られている(非特許文献16等参照)。
【0004】
これらの方法を使用すれば、上記のハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛を合成できるが、これらの方法では、原料のCF=CFXの入手が比較的困難又は高価であり、第一段階に発生するC−Li結合を有する含フッ素リチウム試薬が非常に不安定であるため、反応が−100℃程度の冷却下において実施する必要がある。そのため、実用的な方法ではない。
【0005】
一方、HFC134a(CFCFH)にアルキルリチウムを反応させ、脱離反応により含フッ素ビニルリチウムを発生させ、さらに亜鉛と金属交換を行って生成したビニル亜鉛試薬を用いて、カップリング反応する方法も知られている。
【0006】
しかし、この方法では、高価なアルキルリチウムを過剰量用いるだけでなく、中間に生成する含フッ素ビニルリチウムの不安定性から、反応温度のコントロールが困難である。
【0007】
このように、ハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法はいまだ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第03/051801号パンフレット
【特許文献2】特表2008−510832号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】R. Sauvetreら, Synthesis, 1986年, 7巻, 538頁
【非特許文献2】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2003年, 121巻, 75頁
【非特許文献3】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 1986年, 31巻, 115頁
【非特許文献4】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2004年, 125巻, 673頁
【非特許文献5】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2006年, 127巻, 456頁
【非特許文献6】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 1988年, 53巻, 2714頁
【非特許文献7】Zhen-Yu Yang, J. Fluorine Chem., 2001年, 111巻, 247頁
【非特許文献8】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 1987年, 35巻, 415頁
【非特許文献9】Lee G. Spragueら, J. Fluorine Chem., 1991年, 52巻, 301頁
【非特許文献10】Henryk Koroniakら, J. Fluorine Chem., 1995年, 71巻, 135頁
【非特許文献11】Xi-Kui Jiangら, J. Fluorine Chem., 1996年, 79巻, 173頁
【非特許文献12】Itsumaro Kumadakiら, J. Fluorine Chem., 2000年, 103巻, 99頁
【非特許文献13】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2009年, 130巻, 254頁
【非特許文献14】William R. Dolbier, Jr.ら, J. Org. Chem., 1993年, 58巻, 7064頁
【非特許文献15】Raymond Sauvetreら, Journal of Organomet. Chem., 1987年, 331巻, 281頁
【非特許文献16】J-F. Normantら, J. Organomet. Chem., 1989年, 367巻, 1頁
【非特許文献17】Raymond Sauvetreら, Tetrahedron Letteres, 1985年, 26巻, 33号, 3999頁
【非特許文献18】Donald J. Burtonら, Tetrahedron Letteres, 2002年, 43巻, 2731頁
【非特許文献19】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 2004年, 69巻, 7083頁
【非特許文献20】Dieter Lentzら, Chem. Asian J., 2008年, 3巻, 719頁
【非特許文献21】Donald J. Burtonら, J. Org. Chem., 1997年, 62巻, 1064頁
【非特許文献22】Donald J. Burtonら, J. Fluorine Chem., 2008年, 129巻, 435頁
【非特許文献23】David Ganiら, Tetrahedron Letteres, 2000年, 41巻, 4493頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究をした結果、テトラフルオロエチレンと有機亜鉛化合物とを反応させることで、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得られることを見出した。特にこの反応系にフッ素親和性化合物及び遷移金属触媒を添加することで、反応効率を高めることができることも見出した。その後さらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示す製造方法を包含する。
項1.有機亜鉛化合物を用いて、テトラフルオロエチレンから、式(A):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、Yは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、Cl、Br又はIを示す)
で示される、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を製造する方法。
項2.遷移金属触媒の存在下に行われる、項1に記載の方法。
項3.遷移金属触媒が、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム又はコバルトを含む触媒である、項2に記載の方法。
項4.遷移金属触媒が、ニッケル又はパラジウムを含む触媒である、項2又は3に記載の方法。
項5.有機亜鉛化合物が、式(1−1)又は(1−2):
Zn (1−1)
(式中、2個のRは同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す)
RZnX (1−2)
(式中、Rは式(1−1)と同じ;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物である、項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
項6.有機亜鉛化合物が、式(2):
ZnX (2)
(式中、XはCl、Br又はIである)
で表される化合物と、式(3):
RMgX (3)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物とから系中で作製される、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.さらに、式(4):
MX (4)
(式中、MはLi、Na、K、Mg、Zn又はCu;n個のXは同じか又は異なり、いずれもCl、Br若しくはI、又は有機酸若しくは炭酸の共役塩基;nは1又は2である)
で表されるフッ素親和性化合物を添加する、項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8.フッ素親和性化合物が、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化亜鉛又はカルボン酸リチウムである、項7に記載の方法。
項9.フッ素親和性化合物が、ハロゲン化リチウム又はZnClである、項7又は8に記載の方法。
項10.フッ素親和性化合物の投入量が、使用する有機亜鉛化合物1モルに対して、1.1〜10モルである、項7〜9のいずれかに記載の方法。
項11.式(B−1):
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−1):
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、R〜Rは式(B−1)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造する方法。
項12.式(B−2):
【0018】
【化4】

【0019】
(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−2):
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、R〜Rは式(B−2)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造する方法。
項13.式(D):
−X
(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族基又は複素環基;XはCl、Br又はIである)
で示される化合物を用いて、
項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(E):
【0022】
【化6】

【0023】
(式中、Rは式(D)と同じである)
で表される化合物を製造する方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を、入手容易なテトラフルオロエチレンから1段階の反応工程のみで製造でき、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を安全に、安価に、且つ収率よく得られる。これにより、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から製造される種々の機能材料の入手も容易となり、その普及も期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明では、有機亜鉛化合物を用いて、テトラフルオロエチレンから、式(A):
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Yは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、Cl、Br又はIを示す)
で示される置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を製造する。
【0028】
Yで示される置換基を有してもよいアリール基におけるアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル基等の単環、二環又は三環のアリール基が挙げられる。アリール基上の置換基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基;ビニル、アリル、クロチル等の低級(特にC2〜6)アルケニル基;メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アリール基は、上記置換基で1〜4個(特に1〜2個)置換されていてもよい。Yとして好ましくはフェニル基である。
【0029】
Yで示される置換基を有しても良いアルキル基におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基が挙げられる。アルキル基上の置換基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アルキル基は、上記置換基で1〜3個(特に1〜2個)置換されていてもよい。
【0030】
上記の条件を満たす置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛としては、具体的には、
【0031】
【化8】

【0032】
等が挙げられる。
【0033】
なお、非特許文献8には、
【0034】
【化9】

【0035】
が平衡状態にあることが示されているので、本発明の製造方法で製造する置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛には、
【0036】
【化10】

【0037】
のような二量体も含まれる。
【0038】
<遷移金属触媒>
本発明の製造方法では、遷移金属化合物を触媒として添加することで、収率が向上する等、反応の効率を高めることができる。
【0039】
遷移金属触媒としては、具体的には、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム又はコバルトを含む触媒が挙げられる。これらの触媒は、試薬として投入するもの又は反応中で生成するもの(触媒活性種)の両方を意味する。
【0040】
パラジウムを含む触媒としては、具体的にはパラジウム錯体が挙げられる。パラジウム錯体としては、0価パラジウム錯体;II価パラジウム錯体から反応中に発生した0価パラジウム錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0041】
0価パラジウム錯体としては、特に限定はないが、例えば、Pd(dba)(dbaはジベンジリデンアセトン)、Pd(cod)(codはシクロオクタ−1,5−ジエン)、Pd(dppe)(dppeは1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)、Pd(PCy(Cyはシクロヘキシル基)、Pd(Pt−Bu(t−Buはt−ブチル基)及びPd(PPh(Phはフェニル基)等が挙げられる。
【0042】
II価パラジウム錯体としては、例えば、塩化パラジウム、臭化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)パラジウム(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価パラジウム錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価パラジウム錯体が生成する。
【0043】
上記の0価パラジウム錯体又はII価パラジウム錯体から還元により生じた0価パラジウム錯体は、反応中で、必要に応じて添加されるケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の化合物(配位子)と作用して、反応に関与する0価のパラジウム錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のパラジウム錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0044】
これらパラジウム錯体は上記の様な配位子を用いることで、反応基質との均一な溶液を形成させて反応に用いることが多いが、これ以外にもポリスチレン、ポリエチレン等のポリマー中に分散又は担持させた不均一系触媒としても用いることが可能である。このような不均一系触媒は、触媒の回収等のプロセス上の利点を有する。具体的な触媒構造としては、以下の化学式:
【0045】
【化11】

【0046】
に示すような、架橋したポリスチレン鎖にホスフィンを導入した、ポリマーホスフィンなどで金属原子を固定したもの等が挙げられる。
【0047】
また、これ以外にも、以下:
1)Kanbaraら、Macromolecules, 2000年、33巻、657頁
2)Yamamotoら、J. Polym. Sci., 2002年、40巻、2637頁
3)特開平06−32763号公報
4)特開2005−281454号公報
5)特開2009−527352号公報
に示す報告記載のポリマーホスフィンも利用可能である。
【0048】
ここで、ケトンとしては、特に制限されないが、ジベンジリデンアセトン等が挙げられる。
【0049】
ジケトンとしては、特に制限されないが、例えば、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0050】
ホスフィンとしては、ハロゲン−リン結合を有するホスフィン類では、それ自身が有機亜鉛化合物と反応してしまうので、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィン等が挙げられる。また、トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィン等が挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィンが好ましい。
【0051】
また先に挙げたように、ホスフィン単位をポリマー鎖に導入した不均一系触媒用のアリールホスフィンも好ましく用いることが出来る。具体的には以下の化学式:
【0052】
【化12】

【0053】
に示す、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基をポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィンが例示される。
【0054】
なお、目的の反応を進行させるためには、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等のような二座配位子を使用しないことが好ましい。
【0055】
ジアミンとしては、特に制限されないが、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0056】
これらの配位子のうち、ホスフィン、ジアミン、ビピリジルの配位子が好ましく、さらにトリアリールホスフィン及びトリアルキルホスフィンが好ましく、特にトリフェニルホスフィン及びトリt−ブチルホスフィンが好ましい。同様に、上述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。
【0057】
また、ニッケルを含む触媒としては、具体的にはニッケル錯体が挙げられる。ニッケル錯体としては、0価ニッケル錯体;II価ニッケル錯体から反応中に発生した0価ニッケル錯体;又はこれらとケトン、ジケトン、ホスフィン、ジアミン及びビピリジルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物(配位子)とを混合して得られる錯体が挙げられる。
【0058】
0価ニッケル錯体とは、特に限定はないが、例えば、Ni(cod)、Ni(cdd)(cddはシクロデカ−1,5−ジエン)、Ni(cdt)(cdtはシクロデカ−1,5,9−トリエン)、Ni(vch)(vchは4−ビニルシクロヘキセン)、Ni(CO)、(PCyNi−N≡N−Ni(PCy、Ni(PPh等が挙げられる。
【0059】
II価ニッケル錯体とは、例えば、塩化ニッケル、臭化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。これらのII価ニッケル錯体は、例えば、反応中に共存する還元種(ホスフィン、亜鉛、有機金属試薬等)により還元されて0価ニッケル錯体が生成する。
【0060】
上記の0価ニッケル錯体又はII価ニッケル錯体から還元により生じた0価ニッケル錯体は、反応中で、必要に応じ添加される配位子と作用して、反応に関与する0価のニッケル錯体に変換することもできる。なお、反応中において、0価のニッケル錯体にこれらの配位子がいくつ配位しているかは必ずしも明らかでは無い。
【0061】
これらニッケル錯体は上記の様な配位子を用いることで、反応基質との均一な溶液を形成させて反応に用いることが多いが、これ以外にもポリスチレン、ポリエチレン等のポリマー中に分散又は担持させた不均一系触媒としても用いることが可能である。このような不均一系触媒は、触媒の回収等のプロセス上の利点を有する。具体的な触媒構造としては、以下の化学式:
【0062】
【化13】

【0063】
に示すような、架橋したポリスチレン鎖にホスフィンを導入した、ポリマーホスフィン等で金属原子を固定したもの等が挙げられる。
【0064】
また、これ以外にも、以下:
1)Kanbaraら、Macromolecules, 2000年、33巻、657頁
2)Yamamotoら、J. Polym. Sci., 2002年、40巻、2637頁
3)特開平06−32763号公報
4)特開2005−281454号公報
5)特開2009−527352号公報
に示す報告記載のポリマーホスフィンも利用可能である。
【0065】
ここで、ケトンとしては、特に制限されないが、ジベンジリデンアセトン等が挙げられる。
【0066】
ジケトンとしては、特に制限されないが、例えば、アセチルアセトン、1−フェニル−1,3−ブタンジオン、1,3−ジフェニルプロパンジオン等のβジケトン等が挙げられる。
【0067】
ここで、ホスフィンとしては、ハロゲン−リン結合を有するホスフィン類では、それ自身が有機亜鉛化合物と反応してしまうので、トリアルキルホスフィン又はトリアリールホスフィンが好ましい。トリアルキルホスフィンとしては、具体的には、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリテキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリアダマンチルホスフィン、トリシクロペンチルホスフィン、ジt−ブチルメチルホスフィン、トリビシクロ[2,2,2]オクチルホスフィン、トリノルボルニルホスフィン等のトリ(C3−20アルキル)ホスフィン等が挙げられる。トリアリールホスフィンとしては、具体的には、トリフェニルホスフィン、トリメシチルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等のトリ(単環アリール)ホスフィン等が挙げられる。
【0068】
また先に挙げたように、ホスフィン単位をポリマー鎖に導入した不均一系触媒用のアリールホスフィンも好ましく用いることが出来る。具体的には以下の化学式:
【0069】
【化14】

【0070】
に示す、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基をポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィンが例示される。
【0071】
なお、目的の反応を進行させるためには、1,4−ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン等のような二座配位子を使用しないことが好ましい。
【0072】
これらの配位子のうち、トリアリールホスフィンとしては、特にトリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン等が好ましい。同様に、上述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。またトリアルキルルホスフィンとしては、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン等が好ましい。
【0073】
ジアミンとしては、テトラメチルエチレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0074】
ニッケル錯体としては、系中で生じる0価のニッケル錯体を安定化させる機能が高いものが好ましい。具体的には、ホスフィン、ジアミン、ビピリジル等の配位子を有しているものが好ましく、特にホスフィンを有しているものが好ましい。これらの中でも、トリフェニルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリt−ブチルホスフィン、トリイソプロピルホスフィンが好ましい。同様に、上述したような、トリフェニルホスフィンの1つのフェニル基を、ポリマー鎖に結合させたトリアリールホスフィン類も好ましい。
【0075】
その他、白金を含む触媒としては、Pt(PPh、Pt(cod)、Pt(dba)、塩化白金、臭化白金、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)白金(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;ルテニウムを含む触媒としては、(Cl)Ru(PPh、Ru(cot)(cod)(cotはシクロオクタ−1,3,5−トリエン)、塩化ルテニウム(III)、ジクロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)ルテニウム(II)、トリス(アセチルアセトナト)ルテニウム(III)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;ロジウムを含む触媒としては、(Cl)Rh(PPh、塩化ロジウム(III)、クロロ(η−1,5−シクロオクタジエン)ロジウム(I)ダイマー、トリス(アセチルアセトナト)ロジウム(III)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等;コバルトを含む触媒としては、(Cl)Co(PPh、(CCo(PPh(Cはシクロペンタジエニル基)、(CCo(cod)、トリス(アセチルアセトナト)コバルト(III)、塩化コバルト(II)、又はこれらにトリフェニルホスフィン等のホスフィン配位子が配位した錯体等が挙げられる。
【0076】
上記の触媒のうち、目的とする置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛の反応性、収率、選択性等の観点から、ニッケル又はパラジウムを含む触媒、なかでもパラジウムを含む触媒、さらにパラジウム錯体、特に0価のパラジウムのホスフィン錯体(とりわけトリフェニルホスフィン錯体、トリt−ブチルホスフィン錯体又は以下の化学式:
【0077】
【化15】

【0078】
で示したポリマーホスフィン錯体)が好ましい。
【0079】
遷移金属触媒の使用量は、特に制限されるわけではないが、試薬として投入する遷移金属触媒の使用量は、後述する有機亜鉛化合物1モルに対して、通常、0.0001〜0.5モル程度、好ましくは0.0001〜0.1モル程度である。
【0080】
配位子を投入する場合には、配位子の使用量は、後述する有機亜鉛化合物1モルに対して、通常、0.0002〜1モル程度、好ましくは0.0002〜0.2モル程度である。また、配位子と触媒のモル比は、通常2/1〜10/1であり、好ましくは2/1〜4/1である。
【0081】
<有機亜鉛化合物>
本発明で使用される有機亜鉛化合物は、反応系内において、用いる溶媒と溶媒和物を形成していてもよい。また、市販されている試薬を用いることができ、また公知の方法で製造することもできる。
【0082】
有機亜鉛化合物の典型例としては、例えば、式(1−1)又は(1−2):
Zn (1−1)
(式中、2個のRは同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す)
RZnX (1−2)
(式中、Rは式(1−1)と同じ;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物等が挙げられる。
【0083】
Rで示される置換基を有してもよいアリール基におけるアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニル、フェナントリル基等の単環、二環又は三環のアリール基が挙げられる。アリール基上の置換基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基;ビニル、アリル、クロチル等の低級(特にC2〜6)アルケニル基;メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アリール基は、上記置換基で1〜4個(特に1〜2個)置換されていてもよい。Rとして好ましくはフェニル基である。
【0084】
Rで示される置換基を有しても良いアルキル基におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ヘキシル等の低級(特にC1〜6)アルキル基が挙げられる。アルキル基上の置換基としては、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ等の低級(特にC1〜6)アルコキシ基;フェニル、ナフチル等のアリール基等が挙げられる。アルキル基は、上記置換基で1〜3個(特に1〜2個)置換されていてもよい。
【0085】
上記の有機亜鉛化合物としては、例えば、式(1−1)又は(1−2)で表される有機亜鉛化合物を投入してもよいし、式(2):
ZnX (2)
(式中、XはCl、Br又はIである)
で表される化合物と、式(3):
RMgX (3)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基で、式(1−1)又は(1−2)と同じである;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物とを投入して、系中で式(1−1)又は(1−2)で表される化合物を形成してもよい。
【0086】
なお、X及びXは好ましくはBr又はClである。
【0087】
基質であるテトラフルオロエチレン(TFE)の使用量は、通常、有機亜鉛化合物1モルに対して、0.1〜100モル程度、好ましくは0.5〜10モル程度を用いることができる。
【0088】
<フッ素親和性化合物>
本発明の製造方法では、反応系にさらにフッ素親和性化合物を添加して、反応を促進することができる。
【0089】
フッ素親和性化合物としては、フッ素原子との親和性を有するルイス酸性を有する金属イオンからなる塩化合物を挙げることができる。具体的には、式(4):
MX (4)
(式中、MはLi、Na、K、Mg、Zn又はCu;n個のXは同じか又は異なり、いずれもCl、Br若しくはI、又は有機酸(特にカルボン酸、スルホン酸等)若しくは炭酸の共役塩基;nは1又は2である)
で表されるフッ素親和性化合物が挙げられる。なお、MがCuの場合は、1価及び2価のいずれでもよい。
【0090】
例えば、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、ハロゲン化マグネシウム、ハロゲン化亜鉛、ハロゲン化銅、カルボン酸リチウム、カルボン酸ナトリウム、スルホン酸リチウム、スルホン酸ナトリウム、炭酸リチウム等が挙げられる。具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム;臭化カリウム、ヨウ化カリウム等のハロゲン化カリウム;臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム等のハロゲン化マグネシウム;塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛等のハロゲン化亜鉛;塩化銅(II)、塩化銅(I)、臭化銅(II)、臭化銅(I)、ヨウ化銅(II)、ヨウ化銅(I)等のハロゲン化銅;酢酸リチウム、ギ酸リチウム等のカルボン酸リチウム;酢酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム;ベンゼンスルホン酸リチウム、トルエンスルホン酸リチウム等のスルホン酸リチウム;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、トルエンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸ナトリウム;炭酸リチウム等が挙げられる。好ましくは、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム、塩化亜鉛等のハロゲン化亜鉛又は酢酸リチウム等のカルボン酸リチウム(特に塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム又は塩化亜鉛)である。
【0091】
フッ素親和性化合物を投入する場合、その使用量は、通常、有機亜鉛化合物1モルに対して、1.1〜10モル程度、好ましくは1.5〜5モル程度とすることができる。
【0092】
<その他条件>
反応温度は特に制限されないが、通常、−100℃〜200℃、0℃〜150℃、好ましくは室温(20℃程度)〜100℃が挙げられる。C−F結合への遷移金属触媒の酸化的付加反応の促進の観点から、0℃〜150℃、好ましくは室温(20℃程度)〜100℃の加熱条件が挙げられる。反応で得られるハロゲン化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛の重合等の副反応が起きない程度に、その上限を設定することができる。
【0093】
また、反応時間も特に制限されないが、10分〜72時間程度が挙げられる。
【0094】
反応雰囲気は、特に限定されないが、有機亜鉛化合物(好ましくは有機亜鉛化合物及び遷移金属触媒)の活性を考慮して、通常アルゴン、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行われる。また、反応圧力も、加圧下でも、常圧下でもよいし、減圧下でもよい。一般に加圧下で行うことが好ましく、その場合、0.1〜10MPa程度、好ましくは0.1〜1MPa程度である。
【0095】
使用する溶媒としては、反応に悪影響を与えない溶媒であれば特に制限はなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、ジエチルエーテル、グライム、ジグライム等のエーテル系溶媒;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸エステル系溶媒等を使用することができる。中でも、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、ジオキサン、THF等が好ましく、特に、THF、ジオキサンが好ましい。
【0096】
このように、本発明では、様々な有機化合物の合成に有用な置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を、安全に、安価に、且つ収率よく得ることができる。
【0097】
また、この方法により得られる置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を用いて、種々の有用な機能材料を容易に得ることができる。
【0098】
例えば、式(B−1):
【0099】
【化16】

【0100】
(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−1):
【0101】
【化17】

【0102】
(式中、R〜Rは式(B−1)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造できる。
【0103】
また、式(B−2):
【0104】
【化18】

【0105】
(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−2):
【0106】
【化19】

【0107】
(式中、R〜Rは式(B−2)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造できる。
【0108】
さらに、式(D):
−X
(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族基又は複素環基;XはCl、Br又はIである)
で示される化合物を用いて、
置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(E):
【0109】
【化20】

【0110】
(式中、Rは式(D)と同じである)
で表される化合物を製造することもできる。
【0111】
さらに、公知の方法(例えば、特許文献1〜2及び非特許文献1〜23に記載の方法)により、他の化合物を合成することもできる。
【0112】
具体的には、本発明の製造方法により製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を用いて、
【0113】
【化21】

【0114】
【化22】

【0115】
【化23】

【0116】
等を製造することができる。
【実施例】
【0117】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。なお、以下全ての操作は窒素雰囲気下で行った。
【0118】
また、実施例で用いる略号は、それぞれ
dba:ジベンジリデンアセトン
Cy:シクロヘキシル
THF:テトラヒドロフラン
Et:エチル
である。
【0119】
実施例1
グローブボックス中、LiI(32.1mg、0.240mmol)、Pd(dba)(0.001mg、1.0×10−6mmol)、PCy(0.001mg、4.0×10−6mmol)をTHF−d(0.5mL)に溶解させて得られる溶液を耐圧チューブに移し、ZnEt(12.4mg、0.100mmol)と混合させた。続いて、α,α,α−トリフルオロトルエン(12.3μL、0.100mmol:NMR測定時の内部標準)を加え、チューブ内を脱気減圧した。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで加圧した)を加え、60℃で4時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が61%の収率で得られたことを確認した。
【0120】
ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛
19F−NMR(THF−d):δ −96.5(dd,JFF=33.0,86.8Hz,1F,CFF=CF−),−130.5(dd,JFF=86.8,105.8Hz,1F,CFF=CF−),−196.5(dd,JFF=33.0,105.8Hz,1F,CFF=CF−).
【0121】
実施例2
グローブボックス中、LiI(32.1mg、0.240mmol)、Pd(dba)(0.02mg、2.0×10−5mmol)、PCy(0.02mg、8.0×10−5mmol)、ZnCl(13.6mg、0.100mmol)をTHF(0.4mL)/C(0.1mL)に溶解させて得られる溶液を耐圧チューブに移し、ZnEt(24.8mg、0.200mmol)と混合させた。続いて、α,α,α−トリフルオロトルエン(12.3μL、0.100mmol:NMR測定時の内部標準)を加え、チューブ内を脱気減圧した。さらにここにTFE(0.313mmol;3.5atmまで加圧した)を加え、60℃で18時間加熱した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が55%の収率で得られたことを確認した。
【0122】
実施例3
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)、P(t−Bu)(4.0mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で4時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が61%の収率で得られたことを確認した。
【0123】
実施例4
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)、P(PPh)(5.2mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で4時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が26%の収率で得られたことを確認した。
【0124】
実施例5
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)、P(PPh)(5.2mg,0.02mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を室温で9時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が32%の収率で得られたことを確認した。
【0125】
実施例6
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で15時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が26%の収率で得られたことを確認した。
【0126】
実施例7
グローブボックス中、LiBr(20.8mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で3時間放置した。反応液の解析から、臭化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が18%の収率で得られたことを確認した。
【0127】
実施例8
グローブボックス中、LiCl(10.2mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で8時間放置した。反応液の解析から、塩化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が11%の収率で得られたことを確認した。
【0128】
実施例9
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で72時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が33%の収率で得られたことを確認した。
【0129】
実施例10
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol)のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で50時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が49%の収率で得られたことを確認した。
【0130】
実施例11
グローブボックス中、tetrakis(triphenylphosphine)palladium, polymer-bound 200-400 mesh, 2% cross-linked with divinylbenzene(20.0mg,0.01〜0.018mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で6時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が57%の収率で得られたことを確認した。
【0131】
実施例12
グローブボックス中、tetrakis(triphenylphosphine)palladium, polymer-bound 200-400 mesh, 2% cross-linked with divinylbenzene(20.0mg,0.01〜0.018mmol),LiI(32.2mg,0.240mmol)のTHF−d(0.4mL)/C(0.1mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で48時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が48%の収率で得られたことを確認した。
【0132】
実施例13
グローブボックス中、tetrakis(triphenylphosphine)palladium, polymer-bound 200-400 mesh, 2% cross-linked with divinylbenzene(2.0mg,0.001〜0.0018mmol),LiI(66.9mg,0.500mmol)のジメトキシエタン(DME,0.4mL)/THF−d(0.2mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で6時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が61%の収率で得られたことを確認した。
【0133】
実施例14
グローブボックス中、tetrakis(triphenylphosphine)palladium, polymer-bound 200-400 mesh, 2% cross-linked with divinylbenzene(2.0mg,0.001〜0.0018mmol),LiI(66.9mg,0.500mmol)の1,4−ジオキサン(0.4mL)/THF−d(0.2mL)溶液を耐圧チューブ中に調製し、これに(CZn(12.5mg,0.100mmol)とα,α,α−trifluorotoluene(12.3μL,0.100mmol:19F−NMR測定時の内部標準)を加えた。さらにここにTFE(0.313mmol、0.35MPaまで封入した)を加えた。この反応溶液を60℃で8時間放置した。反応を19F−NMRで追跡し、内部標準より、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が54%の収率で得られたことを確認した。
【0134】
実施例15
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)、DPPE[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、8.0mg,0.02mmol]のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を80℃で4時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が24%の収率で得られたことを確認した。他の生成物は、ほとんど検出できなかった。
【0135】
実施例16
グローブボックス中、LiI(32.1mg,0.240mmol),ZnEt(10.4μL,0.100mmol),Pd(dba)(5mg,0.005mmol)、DPPE[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、8.0mg,0.02mmol]のTHF(0.4mL)/C(0.1mL)混合溶媒溶液を耐圧チューブ中に調製し、これにTFE(0.313mmol,3.5atmまで封入した)を加えた。この反応溶液を40℃で24時間放置した。反応液の解析から、ヨウ化(1,1,2−トリフルオロエテニル)亜鉛が13%の収率で得られたことを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機亜鉛化合物を用いて、テトラフルオロエチレンから、式(A):
【化1】

(式中、Yは置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、Cl、Br又はIを示す)
で示される、置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛を製造する方法。
【請求項2】
遷移金属触媒の存在下に行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遷移金属触媒が、ニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム又はコバルトを含む触媒である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
遷移金属触媒が、ニッケル又はパラジウムを含む触媒である、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
有機亜鉛化合物が、式(1−1)又は(1−2):
Zn (1−1)
(式中、2個のRは同じか又は異なり、いずれも置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基を示す)
RZnX (1−2)
(式中、Rは式(1−1)と同じ;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
有機亜鉛化合物が、式(2):
ZnX (2)
(式中、XはCl、Br又はIである)
で表される化合物と、式(3):
RMgX (3)
(式中、Rは置換基を有していてもよいアルキル基、又は置換基を有していてもよいアリール基;XはCl、Br又はIを示す)
で表される化合物とから系中で作製される、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
さらに、式(4):
MX (4)
(式中、MはLi、Na、K、Mg、Zn又はCu;n個のXは同じか又は異なり、いずれもCl、Br又はI、又は有機酸若しくは炭酸の共役塩基;nは1又は2である)
で表されるフッ素親和性化合物を添加する、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
フッ素親和性化合物が、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化亜鉛又はカルボン酸リチウムである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
フッ素親和性化合物がハロゲン化リチウム又はZnClである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
フッ素親和性化合物の投入量が、使用する有機亜鉛化合物1モルに対して、1.1〜10モルである、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
式(B−1):
【化2】

(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
請求項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−1):
【化3】

(式中、R〜Rは式(B−1)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造する方法。
【請求項12】
式(B−2):
【化4】

(式中、R〜Rは同じか又は異なり、いずれもH、F、置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、R〜Rの少なくとも1つは置換基を有していてもよい炭化水素基;XはCl、Br又はI;シストランス異性体を有する場合にはいずれでもよい)
で示されるオレフィンを用いて、
請求項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(C−2):
【化5】

(式中、R〜Rは式(B−2)と同じである)
で表される含フッ素オレフィンを製造する方法。
【請求項13】
式(D):
−X
(式中、Rは置換基を有していてもよい芳香族基又は複素環基;XはCl、Br又はIである)
で示される化合物を用いて、
請求項1〜10のいずれかに記載の方法で製造された置換された1,1,2−トリフルオロエテニル亜鉛から、式(E):
【化6】

(式中、Rは式(D)と同じである)
で表される化合物を製造する方法。

【公開番号】特開2012−67067(P2012−67067A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53263(P2011−53263)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】