説明

置換ブチロフェノン誘導体

本発明は中枢神経系で作用する置換ブチロフェノンに関する。これらの化合物は、統合失調症を含む精神病、特にL-DOPA誘導性精神病に対する抗精神病薬として有用である一方で、錐体外路副作用、高プロラクチン血症、または遅発性ジスキネジーを誘発する危険は低いかまたはまったくない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は中枢神経系で作用する置換ブチロフェノン誘導体に関する。これらの化合物は、統合失調症を含む精神病、特にパーキンソン病患者におけるL-DOPA誘導性精神病に対する抗精神病薬として有用である一方で、錐体外路副作用、高プロラクチン血症、または遅発性ジスキネジーを誘発する危険は低いかまたはまったくない。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
精神病は、統合失調症、ハンチントン病、アルツハイマー病を含む多くの精神疾患において、およびパーキンソン病に対してL-DOPAを服用する個人において発生する。これらの型の精神病の生物学的原因は不明であるが、ドーパミンD2受容体を遮断する抗精神病薬がこれらの型の精神病すべてにおいて精神病の症状を阻止または軽減しうることが知られている。抗精神病薬のドーパミン遮断作用は、精神病が通常は過度に活性なドーパミン神経伝達に関連することを示唆している。Su et al. (Arch. Gen. Psychiat. 54: 972-973, 1997)(非特許文献1)によって記載されているとおり、「抗精神病作用を示し、D2受容体に著しい親和性を持たない薬物はまだ特定されていない」。パーキンソン病の特定の症例において、そうした患者は不動性を軽減するために高用量の経口L-DOPAを服用し、したがって容易に精神病を誘発する。すべての抗精神病薬がL-DOPA誘導性精神病を阻止しうるわけではないが、これらの薬物は運動不能および硬直のパーキンソン症候群の徴候を増強する。クロザピンおよびクエチアピンは例外であり、パーキンソン症候群の徴候を悪化させることはないが、クロザピンは白血球減少症を引き起こすことがあり、クエチアピンは過度の鎮静を引き起こすことがある。したがって、L-DOPA精神病を治療するために、クロザピンおよびクエチアピンの利点を有するが、欠点は有していない抗精神病薬が必要とされている。
【0003】
伝統的抗精神病薬(クロルプロマジン、ハロペリドール、およびトリフルペラジンなど)は、パーキンソン症候群、血清プロラクチン上昇および胸部腫脹、眩暈、ならびに遅発性ジスキネジーなどの望まれない臨床副作用を誘導することがある。副作用のほとんどは抗精神病化合物の作用の基本的メカニズム、つまりドーパミンD2受容体を遮断することに関連している。
【0004】
「非定型」抗精神病薬はこれらの副作用を誘発しないか、あるいは誘発してもその強度ははるかに低いかまたは高用量でのみ誘発する。前述のとおり、すべての抗精神病化合物は、主に脳内のドーパミンD2受容体に結合し、これらを遮断することによってはたらく。非定型抗精神病薬は、D2受容体を一時的に占有し、次いで速やかに解離して正常なドーパミン神経伝達を可能にすることにより、患者を臨床的に助けうると考えられる。この理論に従い、ドーパミンD2受容体にドーパミンよりも緩く結合し、したがってドーパミンよりも高い解離定数を有する薬物は、伝統的抗精神病薬よりも少ない副作用を示す可能性がある。伝統的および非定型抗精神病薬の作用のメカニズムはP. Seeman, Can. J. Psychiat. Vol. 47(1): 27-38, 2002(非特許文献2)に記載されている。
【0005】
精神病症状を軽減する上で臨床上有効であるが、副作用を示さず、パーキンソン病患者のL-DOPA誘導性精神病の特定の症例において、パーキンソン症候群の徴候および症状を悪化させない、新しい非定型抗精神病薬が必要とされている。
【0006】
【非特許文献1】Su et al. (Arch. Gen. Psychiat. 54: 972-973, 1997)
【非特許文献2】P. Seeman, Can. J. Psychiat. Vol. 47(1): 27-38, 2002
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本出願は、精神病および関連する精神疾患、特にL-DOPA誘導性精神病を治療するための非定型抗精神病薬として有用な特定の置換ブチロフェノン誘導体に関する。抗精神病薬において用いる場合、これらの化合物は錐体外路徴候、高プロラクチン血症、および遅発性ジスキネジーなどの有害または望まれない副作用を示さない。化合物は遊離塩基の形または薬学的に許容される酸付加塩で存在してもよく、薬学的に許容される担体と組み合わせてもよい。
【0008】
したがって、本発明の1つの局面は式(I)の化合物から選択される化合物、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物を含む:

式中
R1はOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択され;
ただしR1がOCH3であるとき、R1はフェニル環の3位に結合している。
【0009】
本発明は、本発明の化合物と薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む薬学的組成物も含む。
【0010】
同様に、精神病の治療法であって、本発明の化合物の有効量をそれを必要としている対象に投与する段階を含む方法も、本発明の範囲内に含まれる。さらに、本発明は精神病を治療するための本発明の化合物の使用、ならびに精神病治療用の薬剤を調製するための本発明の化合物の使用を含む。
【0011】
本発明の他の特徴および利点は下記の詳細な説明から明らかになると考えられる。ただし、詳細な説明および具体的実施例は本発明の好ましい態様を示しているが、この詳細な説明から本発明の精神および範囲内の様々な変更および改変が当業者には明らかになると考えられるため、これらは例示のために示されるにすぎないことが理解されるべきである。
【0012】
詳細な説明
本出願は、新しい非定型抗精神病化合物、すなわち特定の置換ブチロフェノン誘導体ならびにその薬学的に許容される塩および溶媒和物に関する。
【0013】
したがって、その局面の1つにおいて、本発明は式(I)の化合物から選択される化合物、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物を含む:

式中
R1はOC1-6アルキル、ハロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択され;
ただしR1がOCH3であるとき、R1はフェニル環の3位に結合している。
【0014】
式Iの化合物には、R1がOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択されるものが含まれる。本発明の態様において、R1はOC1-4アルキル、フルオロ置換OC14アルキル、およびOHからなる群より選択される。本発明のさらなる態様において、R1はOCH3、OCF3、およびOHからなる群より選択される。本発明のさらなる態様において、R1はOCH3である。
【0015】
式Iの化合物には、R2がHまたはFであるものが含まれる。本発明の態様において、R2はHである。本発明のさらなる態様において、R2はフェニル環の4位に結合しているFである。
【0016】
本発明の1つの態様において、式Iの化合物は下記の構造、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物を有する:

式中
R1はOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択される。
【0017】
本発明のもう1つの態様において、式Iの化合物は下記の構造、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物を有する:

式中
R1はOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択される。
【0018】
本発明の1つの態様において、式Iの化合物は下記から選択される:
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;および
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン、ならびに
その薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物。
【0019】
本発明のさらなる態様において、式Iの化合物は下記から選択される:
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン;および
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン、ならびに
その薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物。
【0020】
本明細書において用いられる「C1-nアルキル」という用語は、1からn個の炭素原子を含む、直鎖および/または分枝鎖の飽和アルキル基を意味し、(nの同一性に依存して)メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、s-ブチル、イソブチル、t-ブチル、2,2-ジメチルブチル、n-ペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、4-メチルペンチル、n-ヘキシルなどが含まれる。
【0021】
本明細書において用いられる「フルオロ置換C1-nアルキル」という用語は、水素原子の1つまたは複数がFで置き換えられているC1-nアルキル基を意味し、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチルなどが含まれる。
【0022】
本明細書において用いられる「本発明の化合物」という用語は、式Iの化合物ならびに/またはその薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物を意味する。
【0023】
本発明は式Iの化合物の薬学的に許容される塩および溶媒和物、ならびに式Iの化合物、式Iの化合物の薬学的に許容される塩、および式Iの化合物の薬学的に許容される溶媒和物の2つ以上を含む混合物を含むことが明らかであるべきである。
【0024】
「薬学的に許容される」という用語は、動物、特にヒトの治療と適合性であることを意味する。
【0025】
本明細書において用いられる「薬学的に許容される酸付加塩」という用語は、本発明の任意の塩基性化合物またはその任意の中間体の任意の非毒性有機または無機塩を意味し、これらは動物、特にヒトの治療に適しているかまたは適合性である。適当な塩を形成する例示的無機酸には、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸、ならびにオルトリン酸一水素ナトリウムおよび硫酸水素カリウムなどの金属塩が含まれる。適当な塩を形成する例示的有機酸には、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、安息香酸、フェニル酢酸、ケイ皮酸およびサリチル酸などのモノ、ジ、およびトリカルボン酸、ならびにp-トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸などのスルホン酸が含まれる。一酸塩または二酸塩のいずれも形成することができ、そのような塩は水和、溶媒和または実質的に無水の形のいずれで存在してもよい。一般に、本発明の化合物の酸付加塩はその遊離塩基型に比べて、水および様々な親水性有機溶媒中の溶解性が高く、かつ一般に高い融点を示す。適当な塩の選択は当業者には公知であると考えられる。他の薬学的に非許容性の塩、例えば、シュウ酸塩を、例えば、実験で用いるため、または薬学的に許容される酸付加塩に後で変換するための、本発明の化合物の単離において用いてもよい。本発明の1つの態様において、薬学的に許容される酸付加塩は塩酸塩である。所望の化合物塩の生成は標準の技術を用いて達成される。例えば、中性化合物を適当な溶媒中において、酸で処理し、生成した塩をろ過、抽出、または任意の他の適当な方法で単離する。
【0026】
本明細書において用いられる「溶媒和物」という用語は、適当な溶媒の分子が結晶格子中に取り込まれている、本発明の化合物を意味する。適当な溶媒は投与した用量で生理的に耐容性である。適当な溶媒の例はエタノール、水などである。水が溶媒である場合、分子は「水和物」と呼ばれる。本発明の化合物の溶媒和物の生成は化合物および溶媒和物に応じて変動することになる。一般に、溶媒和物は、化合物を適当な溶媒に溶解し、冷却または貧溶媒の使用によって溶媒和物を単離することにより生成する。溶媒和物は典型的には周囲条件下で乾燥または共沸させる。
【0027】
式Iの化合物は当技術分野において公知の方法を用いて、例えば、スキーム1に示し、以下の特定の実施例において記載するとおりに調製することができる。
スキーム1

したがって、R1およびR2は式Iにおける定義のとおりであり、LGがハロなどの適当な脱離基、例えばヨードである式IIの化合物を式IIIの化合物と、適当な塩基存在下において、標準の求核置換反応条件下で反応させて、式Iの化合物を提供しうる。
【0028】
式IIの化合物は、例えば、スキーム2に示し、以下の特定の実施例において記載するとおりに調製してもよい。
スキーム2

したがって、R1およびR2は式Iにおける定義のとおりである式IVのグリニャール試薬を塩化4-クロロブチリルと、標準のグリニャール反応条件下で反応させて、R1およびR2は式Iにおける定義のとおりであり、LGがクロロである式IIの化合物を提供しうる。LGがクロロである式IIの化合物を、代わりのLG部分を有する式IIの他の化合物に、標準の化学を用いて変換してもよい。
【0029】
式III、IVの化合物および塩化4-クロロブチリルは、市販されているか、または当技術分野において周知の方法を用いて調製してもよい。
【0030】
本発明は、本発明の化合物の放射性同位体標識した形、例えば、3H、11Cもしくは14C、または125Iおよび18Fなどの放射性ハロゲンの構造内への取り込みによって標識した本発明の化合物を含む。放射性同位体標識した本発明の化合物は、当技術分野において公知の標準の方法を用いて調製しうる。例えば、トリチウムを標準の技術を用いて、例えば、適当な前駆体をトリチウムガスおよび触媒により水素添加して本発明の化合物とすることにより、本発明の化合物に取り込んでもよい。または、放射性ヨードを含む本発明の化合物を対応するトリアルキルスズ(適当にはトリメチルスズ)誘導体から、ジメチルホルムアミドなどの適当な溶媒中、クロラミン-T存在下、[125I]ヨウ化ナトリウムなどの標準的ヨウ素化条件を用いて調製してもよい。トリアルキルスズ化合物は対応する非放射性ハロ、適当にはヨード化合物から、標準のパラジウム触媒スタニル化条件、例えば、ジオキサンなどの不活性溶媒中、高温、適当には50〜100℃で、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)存在下、ヘキサメチル2スズを用いて調製してもよい。さらに、放射性フッ素を含む本発明の化合物は、例えば、18Fアニオンと置き換えうる適当な脱離基、例えば、トシル基を含む式Iの化合物などの適当な前駆体化合物とK[18F]/K222との反応により調製してもよい。
【0031】
パーキンソン病患者では、ドーパミンはその尾状核に正常レベルの0.3%から2%の間しか残っておらず、被殻には0.1%から1%の間のさらに低い濃度しかない。したがって、そのような患者は、運動不能および硬直を軽減するためにその脳内ドーパミンを補充するには、非常に高用量のL-DOPAを服用する必要がある。これらの高用量は通常、患者にとってきわめて厄介でかつ治療の必要がある精神病症状を誘発する。このような場合、非常に緩く結合し、したがって例えばおよそ30から160nMの高いK値を有する抗精神病薬を投与することが望ましい。そのような高いKを有する化合物はドーパミンD2受容体を非常に簡単に遮断し、幻覚を阻止および防止するが、パーキンソン症候群の硬直および運動不能を悪化させることはない。
【0032】
パーキンソン病患者におけるL-DOPA精神病が、統合失調症の精神病に対して通常用いる用量の約5%または10%の用量のクロザピンで最もうまく治療されることは、神経学において周知である。「ファーストオフD2」仮説は、下記のとおり、これを容易かつ定量的に予測する。D2受容体を占有するのに必要な抗精神病薬の用量はK×[1+D/D]に比例し、ここでKは抗精神病薬の解離定数であり、Dは瞬間神経インパルス中のシナプス間隙におけるドーパミンの濃度(約200nM)であり、DはD2の高親和性状態でのドーパミンの解離定数(約1.75nM)である。ドーパミン含量の95%から99%がないパーキンソン病では、Dの値は約10nMである。したがって、L-DOPA精神病に対する抗精神病薬の用量は統合失調症に対する用量よりも{1+D/D}正常/{1+D/D}パーキンソンすなわち{1+200/1.75}/{1+10/1.75}だけ低い、すなわち20分の1である。したがって、1日用量500mgのクロザピンは統合失調症を治療するのに適していると考えられるが、L-DOPA精神病を治療するには、この用量の20分の1、すなわち25mg(またはそれ未満)で十分である。この計算は内因性ドーパミンと緩く結合した抗精神病薬との間の競合に最もよく適用できる。ハロペリドールなどの強く結合した抗精神病薬は、内因性ドーパミンを容易に競合的にそれと置き換えることはない。
【0033】
本発明の特定の化合物はおよそ140±8nMのK値を有し、L-DOPA精神病を治療するための最適範囲に入る。このことは、分子が、自身のD2受容体に対して1.75nMの親和性を有するドーパミン自体よりも、ラット脳またはヒト脳のドーパミンD2受容体に約80倍緩く結合することを示すため、この値は最適である。そのような特徴を有する化合物はラットでカタレプシー誘発またはプロラクチン上昇を回避することが示されており、条件づけ回避行動を容易に阻止すると考えられる。
【0034】
したがって、本発明は、精神病の治療法であって、本発明の化合物の有効量をそれを必要としている対象に投与する段階を含む方法も含む。本発明は、精神病を治療するための本発明の化合物の使用、および精神病治療用の薬剤を調製するための本発明の化合物の使用も含む。
【0035】
本明細書において用いられる薬剤の「有効量」または「十分量」という用語は、臨床結果を含む有益または所望の結果を得るために十分な量であり、したがって「有効量」はそれが適用されている文脈に依存する。例えば、精神病を治療する薬剤を投与する文脈において、薬剤の有効量は、例えば、薬剤の投与なしで得られる反応に比べて、そのような治療を達成するのに十分な量である。
【0036】
本明細書において用いられ、当技術分野において十分に理解されているとおり、「治療」とは、臨床結果を含む有益または所望の結果を得るためのアプローチである。有益または所望の臨床結果には、検出可能か検出不能かにかかわらず、1つまたは複数の症状または状態の軽減または改善、疾患の程度の低減、疾患の安定(すなわち、悪化しない)状態、疾患の拡散の防止、疾患進行の遅延または速度低下、疾患状態の改善または緩和、および寛解(部分または完全にかかわらず)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。「治療」は、治療を受けない場合に予想される生存と比べて、生存を延長することを意味しうる。
【0037】
疾患または障害を「緩和すること」は、障害を治療しない場合に比べて、障害もしくは疾患状態の程度および/もしくは望まれない臨床症状を低減する、かつ/または進行の時間経過を遅らせる、もしくは延長することを意味する。
【0038】
本明細書において用いられる「対象」という用語は、ヒトを含む動物界のすべてのメンバーを含む。対象は適当にはヒトである。
【0039】
本明細書において用いられる「精神病」という用語は、例えば、妄想、幻覚、支離滅裂、現実の知覚歪曲を含む、統合失調症様症状によって特徴づけられる任意の精神障害を意味する。精神病は、統合失調症、ハンチントン病、アルツハイマー病を含む多くの精神疾患において、およびパーキンソン病のためにL-DOPAを服用している個人において発生する。本発明の1つの態様において、精神病はL-DOPA誘導性精神病である。
【0040】
本発明の化合物は適当には、インビボでの投与に適した生物学的に適合性の形で、ヒト対象に投与するための薬学的組成物に製剤する。したがって、もう1つの局面において、本発明は本発明の化合物と薬学的に許容される担体または希釈剤とを含む薬学的組成物を含む。
【0041】
本発明の化合物を含む組成物は、薬学的に許容される媒体との混合物中で活性物質の有効量を組み合わせるような、対象に投与しうる薬学的に許容される組成物を調製するための公知の方法により調製することができる。適当な媒体は、例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences (2003 - 20th edition)および1999年発行の米国薬局方:国民医薬品集(USP 24 NF19)に記載されている。これに基づき、組成物には、1つまたは複数の薬学的に許容される媒体または希釈剤と合わせて、かつ適当なpHを有し、生理的液体と等浸透圧の緩衝溶液に含まれる、物質の溶液が含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0042】
本発明の方法に従い、前述の化合物、その塩または溶媒和物は、当業者には理解されるとおり、選択した投与経路に応じて様々な形で患者に投与しうる。本発明の組成物は、例えば、経口、非経口、口腔内、舌下、鼻、直腸、パッチ、ポンプ、または経皮(局所)投与により投与してもよく、薬学的組成物をそれに応じて製剤する。非経口投与には、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、経上皮、鼻、肺内、くも膜下腔内、直腸、および局所投与様式が含まれる。非経口投与は選択した期間の持続注入によるものであってもよい。
【0043】
本発明の化合物は、例えば、不活性希釈剤もしくは同化性の可食担体と共に経口投与してもよく、またはゼラチン硬カプセルもしくはゼラチン軟カプセルに封入してもよく、または圧縮して錠剤としてもよく、または食物と共に直接組み込んでもよい。治療的経口投与のために、本発明の化合物は賦形剤と共に組み込み、摂食可能な錠剤、口腔錠、トローチ、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、カシェ剤などの形で用いてもよい。
【0044】
本発明の化合物は、非経口投与してもよい。本発明の化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合した水中で調製することができる。分散剤を、アルコールを含むまたは含まない、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、DMSO、およびその混合物、ならびに油中で調製することもできる。保存および使用の通常の条件下で、これらの製剤は微生物の増殖を防ぐための保存剤を含む。当業者であれば、適当な製剤をいかに調製するかを知っていると考えられる。
【0045】
注射用に適した薬学的剤形には、滅菌水溶液または分散液および滅菌注射液または分散液を即時調製するための滅菌粉末が含まれる。すべての場合に、剤形は滅菌でなければならず、容易に注射可能な程度に流動性でなければならない。アンプルは好都合な単位用量である。
【0046】
鼻投与用の組成物は、エアロゾル、点鼻剤、ゲル剤、および散剤として好都合に製剤しうる。エアロゾル製剤は典型的には、生理的に許容される水性または非水性溶媒中の活性物質の溶液または微細懸濁液を含み、通常は噴霧化装置と共に用いるためのカートリッジまたは詰め替え容器の形を取りうる密封容器内に滅菌型の1回用量または複数回用量で提供される。または、密封容器は使用後に廃棄が意図される1回用量鼻吸入器または計量バルブを装備したエアロゾルディスペンサーなどの単位分配装置であってもよい。剤形がエアロゾルディスペンサーを含む場合、これは圧縮された空気またはフルオロクロロ炭化水素などの有機噴射剤などの圧縮ガスでありうる噴射剤を含むことになる。エアロゾル剤形はポンプ-噴霧器の形を取ることもできる。
【0047】
口腔投与または舌下投与に適した組成物には、活性成分が、糖、アカシア、トラガカント、またはゼラチンおよびグリセリンなどの担体と共に製剤された錠剤、ロゼンジ、および香錠が含まれる。直腸投与用の組成物は、カカオ脂などの通常の坐剤基剤を含む坐剤の形が好都合である。
【0048】
局所投与用の組成物は、例えば、プロピレングリコール、イソプロピルアルコール、鉱油、およびグリセリンを含んでいてもよい。局所投与に適した製剤には、リニメント、ローション、塗布剤(applicant);クリーム、軟膏もしくはペーストなどの水中油もしくは油中水乳剤;または滴剤などの液剤もしくは懸濁剤などの液体または半液体製剤が含まれる。前述の成分に加えて、局所製剤は、希釈剤、緩衝剤、着香剤、結合剤、界面活性剤、増粘剤、滑沢剤、保存剤、例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル(抗酸化剤を含む)、乳化剤などの1つまたは複数の追加成分を含んでいてもよい。
【0049】
持続的または直接的放出組成物、例えば、リポソームまたは活性化合物がマイクロカプセル化、多重コーティングなどによる別個に分解可能なコーティングで保護されているものを製剤することもできる。本発明の化合物を凍結乾燥し、得られた凍結乾燥物を、例えば、注射用製剤調製のために用いることも可能である。
【0050】
本発明の化合物は対象に単独で、または前述のとおり薬学的に許容される担体との組み合わせ、および/もしくは精神病治療のための他の薬学的活性薬剤との組み合わせで投与してもよく、その比率は化合物の溶解性および化学的性質、選んだ投与経路、ならびに標準的な薬学的慣行によって決定される。
【0051】
本発明の化合物および/または組成物の用量は、化合物の薬力学的性質、投与様式、受容者の年齢および健康状態および体重、症状の性質および程度、治療の頻度および併用治療を行っている場合にはその種類、ならびに治療する動物における化合物の排出速度などの多くの要因に応じて変動しうる。当業者であれば、前述の要因に基づき適当な用量を決定することができる。経口製剤を、好ましくは用量単位当たり5〜300ミリグラムの本発明の化合物を含む錠剤、カプセル剤、または滴剤として製剤してもよい。本発明の化合物は最初は適当な用量で投与し、これを臨床反応に応じて必要があれば調節してもよい。
【0052】
前述の治療的使用に加えて、本発明の化合物は診断アッセイ、スクリーニングアッセイおよび研究手段としても有用である。
【0053】
診断アッセイにおいて、本発明の化合物はドーパミンD2受容体を特定または検出する際に有用でありうる。そのような態様において、本発明の化合物を放射性同位体標識し(本明細書において前述のとおり)、細胞集団と接触させてもよい。細胞上の放射性同位体標識の存在はドーパミンD2受容体の存在を示すと考えられる。
【0054】
スクリーニングアッセイにおいて、本発明の化合物はドーパミンD2受容体に結合する他の化合物を特定するために用いてもよい。研究手段として、本発明の化合物を受容体結合アッセイおよびドーパミンD2受容体の位置を調べるためのアッセイにおいて用いてもよい。そのようなアッセイにおいて、化合物を放射性同位体標識してもよい。
【0055】
以下の実施例は本発明をさらに詳細に例示するが、本発明は特定の実施例に限定されないことが理解されると考えられる。
【0056】
実施例
反応はすべてアルゴン雰囲気下で行った。すべての溶媒および試薬は市販の供給元から入手し、それ以上精製せずに用いた。クロマトグラフィ精製は60Å(230〜400メッシュ)シリカゲルを用いて実施した。NMRスペクトルは300MHz分光計で記録した。
【0057】
実施例1(a):4-クロロ-1-(3-メトキシフェニル)-ブタン-1-オン
無水THF(20mL)中の塩化4-クロロブチリル(1.59mL、14.194mmol)の溶液を臭化3-メトキシフェニルマグネシウム(14.19mL、14.194mmol、THF中1M溶液)により-20℃で30分間処理した。さらに10分間撹拌した後、反応を飽和NH4Cl溶液(25mL)で停止した。反応混合物を室温に戻し、水で希釈した。化合物を酢酸エチル(2×25mL)で抽出し、水(20mL)、食塩水(15mL)で洗浄し、乾燥(Na2SO4)した。酢酸エチル層を蒸発させ、粗生成物をカラムクロマトグラフィ(EtOAc:ヘキサン、8:92)で精製して、表題化合物(1.1g、36%)をシロップで得た。

【0058】
同様の様式で、下記の他の化合物を調製しうる:
(b)臭化4-フルオロ-3-メトキシフェニルマグネシウムから、4-クロロ-1-(4-フルオロ-3-メトキシフェニル)-ブタン-1-オン;
(c)臭化3-トリフルオロメトキシフェニルマグネシウムから、4-クロロ-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)-ブタン-1-オン;
(d)臭化3-エトキシフェニルマグネシウムから、4-クロロ-(3-エトキシフェニル)-ブタン-1-オン;
(e)臭化4-フルオロ-3-エトキシフェニルマグネシウムから、4-クロロ-(4-フルオロ-3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;および
(f)臭化4-フルオロ-3-トリフルオロメトキシフェニルマグネシウムから、4-クロロ-(4-フルオロ-3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン。
【0059】
実施例2(a):4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン
アセトン(5mL)中の4-クロロ-1-(3-メトキシフェニル)-ブタン-1-オン(実施例1(a)、0.1g、0.470mmol)の溶液をNaI(0.35g、2.351mmol)により室温で処理し、得られた混合物を終夜(14時間)還流した。反応混合物を室温に戻し、溶媒を減圧下で蒸発させた。反応混合物を水(25mL)で希釈し、生成物をエーテル(2×25mL)中に抽出した。合わせたエーテル層を水(25mL)、食塩水(20mL)で洗浄し、乾燥(Na2SO4)した。溶媒を減圧下で蒸発させて、粗製ヨード化合物を得た。
【0060】
アセトン(5mL)中の前述の粗製化合物の溶液を4-(4-クロロフェニル)ピペリジン-4-オール(0.1g、0.470mmol)、K2CO3(0.13g、0.940mmol)で処理し、得られた混合物を48時間還流した。反応混合物を後処理し、パート1で前述したとおりに精製し、表題化合物(0.14g、77%)を固体で得た。

【0061】
同様の様式で、下記の他の化合物を調製した:
(b)実施例1(a)および4-フェニルピペリジン-4-オールから、4-[4-フェニル-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン(比較例);
また下記の他の化合物を調製しうる:
(c)実施例1(b)から、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
(d)実施例1(c)から、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン;
(e)実施例1(d)から、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;
(f)実施例1(e)から、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3- エトキシフェニル)ブタン-1-オン;
(g)実施例1(f)から、4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン。
【0062】
実施例3:インビトロ試験
本発明の化合物を公知の抗精神病化合物とインビトロ試験で比較した。
(a)組織
ラット脳をPel-Freez(Rogers, AR)から購入し、-70℃で保存した。ラット脳線条を用いて薬物のドーパミンD1およびD2受容体への結合を測定した一方で、セロトニン-1受容体、セロトニン-2A受容体、α-2A-アドレナリン受容体、およびβ-2-アドレナリン受容体についてはラット前脳大脳皮質を用いた。各実験前に、ドライアイス台においたガラスプレート上で部分的に解凍したラット脳から線条または前頭大脳皮質(ミエリンは含まない)を切断した。切断組織を緩衝液(50mMトリス-HCl、20℃でpH7.4、1mM EDTA、5mM KCl、120mM NaCl、1.5mM CaCl2、4mM MgCl2)に懸濁液1mlあたり元の湿重量4mgで懸濁した。懸濁液をPolytron(PT-10プローブ、Brinkmann Instruments, Inc, Westbury, NY;設定5)で5秒間ホモジナイズし、その後の洗浄、遠心分離または予備インキュベーションは受容体の23〜37%を失うことになる(J. Neurochem. 43: 221-235, 1984)ためいずれも行わなかった。
【0063】
(b)組織培養細胞中のクローン化受容体
すべてSf9細胞中で発現させた、ヒトドーパミンD1受容体(Sf9細胞またはCOS細胞)、ヒトドーパミンD2受容体(Sf9細胞またはCHO細胞)、ヒトα-アドレナリン受容体-2A受容体、およびヒトムスカリンM1受容体をResearch Biochemicals International(Natick, MA)から購入した。受容体を含む凍結膜を約100μgタンパク質/mlで直接懸濁し、細胞懸濁液を5秒間ホモジナイズ(Polytron、設定5)し、その後の洗浄は行わなかった。
【0064】
(c)[3H]リガンド
[N-メチル-3H]SCH23390(70〜87Ci/mmol)、[3H]ラクロプリド(70〜80Ci/mmol)、[3H]QNBすなわちL-[N-メチル-3H]ベンジル酸キヌクリジニル塩化メチル(84Ci/mmol)、[3H]8-OH-DPATすなわち[3H]-8-ヒドロキシ-ジプロピルアミノテトラリン(163Ci/mmol)、[3H]プラゾシン(80Ci/mmol)、[3H]ヨヒンビン(71Ci/mmol)、[3H]ジヒドロアルプレノロール(106Ci/mmol)、[エチレン-3H]ケタンセリン(60〜90Ci/mmol)および[35S]GTP-ガンマ-S{すなわち[35S]グアノシン-5'-(ガンマ-チオ)三リン酸}(1,250Ci/mmol)はNew England Nuclear Life Science Products(Mandel, Guelph, Ontario, Canada)から購入した。
【0065】
(d)競合的結合アッセイ
様々な受容体における結合に対する化合物と[3H]リガンドとの間の競合を下記のとおりに行った。各インキュベーションチューブ(ガラス製12×75mm)に、一連の濃度(最終濃度0.01nMから1,000nM)の薬物または非特異的結合を規定するための過剰量の第二の薬物を含む緩衝液(50mMトリス-HCl、20℃でpH7.4、1mM EDTA、5mM KCl、120mM NaCl、1.5mM CaCl2、4mM MgCl2)0.5mlと、続いて[3H]リガンド0.25ml、およびホモジナイズした組織懸濁液0.25mlをこの順で加えた。全量1mlを含むチューブを室温(20℃)で2時間インキュベートし、その後インキュベート物を12穴細胞回収器(Titertek, Skatron, Lier, Norway)および緩衝液にあらかじめ浸漬したグラスファイバーフィルターマット(No. 11734, Skatron, Sterling, VA)を用いてろ過した。インキュベート物をろ過した後、フィルターマットを緩衝液(7.5ml)で15秒間洗浄した。フィルターを押出し、シンチレーションミニバイアル(Packard Instruments, Chicago, IL)に入れた。ミニバイアルに各4mlの発光物質(CytoScint, ICN, CA)を加え、6時間後にBeckman Coulter LS5000TAシンチレーション分光器により55%の効率でトリチウムをモニターした。
【0066】
クローン化ドーパミンD1受容体における化合物の競合能力を、最終濃度1.25nM [3H]SCH23390(Kd=0.5nM)と、非特異的結合を規定するために1μM (+)-ブタクラモールを用いて測定した。クローン化ドーパミンD2受容体(D2またはD2のいずれか)における薬物競合を2nM [3H]ラクロプリド(Kd=1.9nM)と、非特異的結合を規定するために10μM S-スルピリドを用いて測定した。ムスカリン受容体における競合を、クローン化M1受容体またはラット前頭皮質のいずれか、0.6nM [3H]QNBと、非特異的結合を規定するために200nMアトロピンを用いて行った。クローン化セロトニン-1A受容体における競合を、1.4nM [3H]8-OH-DPAT(Kd=1.5nM)と、非特異的結合を規定するために100μMセロトニンを用いて行った。セロトニン-2A受容体における競合を、ラット前頭大脳皮質組織またはクローン化セロトニン-2A受容体のいずれか、1nM [3H]ケタンセリンと、非特異的結合を規定するために10μMセロトニンを用いて行い;皮質およびクローン化受容体はきわめてよく似た結果を示した。α-1-アドレナリン受容体における競合を、ラット大脳皮質組織、1.5nM [3H]プラゾシンと、非特異的結合を規定するために10μMアドレナリンを用いて行った。α-2A-アドレナリン受容体における競合を、ヒトクローン化ラット受容体(Sf9細胞)、2.1nM [3H]ヨヒンビンと、非特異的結合を規定するために100μMアドレナリンを用いて行った。β-アドレナリン受容体における競合を、ラット大脳皮質組織、0.5nM [3H]ジヒドロアルプレノロールと、非特異的結合を規定するために200nMプロプラノロールを用いて行った。シグマ受容体における競合を、ラット線条組織および4nM [3H]ハロペリドール(Kd=1nMハロペリドール)と、基準線として1μM(+)ペンタゾシンを用いて行った(この後者の試験を用いて、ハロペリドール自体はシグマ受容体上で約3nMのKiを有していた)。化合物の解離定数、Kを通常通りC50%/[1+C*/Kd]として計算し、ここでC50%はリガンド結合を50%阻害した薬物濃度であり、C*はリガンド濃度であり、かつKdは、一連のリガンド濃度用いての別の実験から得たリガンドの解離定数であった。
【0067】
(e)インビボでのD2占有率の測定法
Sprague-Dawleyラット(各250g)に試験化合物の経口用量20mg/kgを、1回の給餌あたり2mlを用いての胃管栄養法により投与した。試験化合物溶液を下記のとおりに調製した:試験化合物20mgを食塩水(0.9%NaCl)8mlに加えた後、2%乳酸を数滴加え、0.1N NaOHを用いて懸濁液をpH5まで逆滴定した。微粒子懸濁液を胃管栄養法に用いた。各ラットに懸濁液2mlを5分間で与えた。30分後、1時間後、2時間後、および3時間後、各ラットに[3H]ラクロプリドの保存溶液(PerkinElmer Life Science, Boston, MAにより調製)から希釈した7.5μCi(300μLすなわち0.3ml)を、温めた尾静脈に注射した。[3H]ラクロプリドの各注射の1時間後、ラットの頭をギロチンで切断し、脳および線条および小脳を摘出した。小脳および線条は数個の大きい断片に切断した。組織をシンチレーション液中で終夜放置し、[3H]ラクロプリドを抽出した。翌日、試料をBeckmanシンチレーション分光器で計数した。線条におけるD2占有率を計算した。試験化合物の投与を受けていない2匹の対照ラットは結合能力9.23を有していた。
【0068】
(f)カタレプシーの測定法
動物の前足を水平の棒に置いた。対照動物は速やかに棒から離れた。カタレプシー動物は15秒以上棒を把持していた。
【0069】
(g)インビトロ試験結果
実施例2(a)の化合物の解離定数は、クローン化ドーパミンヒトD2受容体で140±8nM、ムスカリンコリン作動性受容体(ラット皮質組織)で570nM、セロトニン-1A受容体(ラット前頭皮質組織)で12,000nM、ドーパミンD1受容体(ラット線条組織)で11,000nM、α-1-アドレナリン受容体(ラット皮質)で1,067nM、α-2-アドレナリン受容体(クローン化Sf9細胞)で9,500nM、ヒスタミンH1受容体(ラット皮質)で1,141nM、HERGチャネル受容体(ラット線条組織で6nM [3H]ドフェチリドを用いて;[3H]ドフェチリドのKd=5nM)で2,600nMおよびシグマ受容体(ラット線条組織)で200nMであった。クローン化ドーパミンD2受容体からの実施例2(a)の化合物の解離は23秒までに50%完了し、2nMハロペリドールまたは3nMクロルプロマジンの30分よりもはるかに長かった。ドーパミンD2受容体の実施例2(a)の化合物10mg/kg(30%ジメチルホルムアミドおよび2%氷酢酸0.5ml中での皮下注射)によるインビボ占有率は1時間後に61%であった(300gのSprague Dawleyラット)。ヒトにおけるD2の治療的占有率は60%から80%の間であった。実施例2(a)の化合物20mg/kgの経口用量は、時間の関数として下記のD2受容体占有率を示した。
30分 39%のD2占有率
1時間 63%のD2占有率
2時間 24%のD2占有率
3時間 28%のD2占有率
【0070】
実施例2(a)の化合物はマウスで60mg/kgまでカタレプシーを起こすことはまったくなかった。この値は3〜10mg/kgの治療的用量に大きな治療上の余地を提供する。
【0071】
実施例2(b)の化合物はD2受容体における解離定数、K=660nMを有していた。D2受容体において200nMよりも高いKを有するいかなる化合物も、精神病の軽減において臨床的価値はまったくない。
【0072】
本発明を現在好ましい例と考えられるものに関して記載してきたが、本発明は開示した例に限定されるものではないことが理解されるべきである。反対に、本発明は添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる様々な改変および等価のアレンジを対象とすることが意図される。
【0073】
すべての発行物、特許および特許出願は、それぞれ個別の発行物、特許、および特許出願が具体的かつ個別にその全体が参照により本明細書に組み入れられることが示されている場合と同程度に、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本出願における用語が参照により本明細書に組み入れられる文書において異なる定義をされていることが判明した場合、本明細書において示す定義がその用語の定義となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物から選択される化合物、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物:

式中
R1はOC1-6アルキル、ハロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択され;
ただしR1がOCH3であるとき、R1はフェニル環の3位に結合している。
【請求項2】
R1がOC1-4アルキル、フルオロ置換OC14アルキル、およびOHからなる群より選択される、請求項1記載の化合物。
【請求項3】
R1がOCH3、OCF3、およびOHからなる群より選択される、請求項2記載の化合物。
【請求項4】
R1がOCH3である、請求項3記載の化合物。
【請求項5】
R2がHである、請求項1〜4のいずれか一項記載の化合物。
【請求項6】
R2がフェニル環の4位に結合しているFである、請求項1〜4のいずれか一項記載の化合物。
【請求項7】
式Iの化合物から選択される化合物、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物:

式中
R1はOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択される。
【請求項8】
R1がOC1-4アルキル、フルオロ置換OC14アルキル、およびOHからなる群より選択される、請求項7記載の化合物。
【請求項9】
R1がOCH3、OCF3、およびOHからなる群より選択される、請求項8記載の化合物。
【請求項10】
R1がOCH3である、請求項9記載の化合物。
【請求項11】
R2がHである、請求項7〜10のいずれか一項記載の化合物。
【請求項12】
R2がフェニル環の4位に結合しているFである、請求項7〜10のいずれか一項記載の化合物。
【請求項13】
式Iの化合物から選択される化合物、ならびにその薬学的に許容される酸付加塩および溶媒和物:

式中
R1はOC1-6アルキル、フルオロ置換OC1-6アルキル、およびOHからなる群より選択され;かつ
R2はHおよびフルオロからなる群より選択される。
【請求項14】
R1がOC1-4アルキル、フルオロ置換OC14アルキル、およびOHからなる群より選択される、請求項13記載の化合物。
【請求項15】
R1がOCH3、OCF3、およびOHからなる群より選択される、請求項14記載の化合物。
【請求項16】
R1がOCH3である、請求項15記載の化合物。
【請求項17】
R2がHである、請求項13〜16のいずれか一項記載の化合物。
【請求項18】
R2がFである、請求項13〜16のいずれか一項記載の化合物。
【請求項19】
下記からなる群より選択される、請求項1記載の化合物:
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン;および
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(4-フルオロ-3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン。
【請求項20】
下記からなる群より選択される、請求項1記載の化合物:
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-メトキシフェニル)ブタン-1-オン;
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-トリフルオロメトキシフェニル)ブタン-1-オン;および
4-[4-(4-クロロフェニル)-4-ヒドロキシピペリジン-1-イル]-1-(3-エトキシフェニル)ブタン-1-オン。
【請求項21】
酸付加塩が塩酸塩である、請求項1〜20のいずれか一項記載の化合物。
【請求項22】
請求項1〜20のいずれか一項記載の化合物ならびに薬学的に許容される担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物。
【請求項23】
精神病の治療法であって、請求項1〜20のいずれか一項記載の化合物の有効量をそれを必要としている対象に投与する段階を含む方法。
【請求項24】
精神病がL-DOPA誘導性精神病である、請求項23記載の方法。

【公表番号】特表2008−539174(P2008−539174A)
【公表日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−508037(P2008−508037)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【国際出願番号】PCT/CA2006/000672
【国際公開番号】WO2006/116848
【国際公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【出願人】(507354769)クレラ インコーポレイティッド (1)
【Fターム(参考)】