説明

耐サワー性に優れたラインパイプ用溶接鋼管向け高強度熱延鋼板およびその製造方法

【課題】耐サワー性に優れたラインパイプ用厚肉熱延鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.01〜0.07%、Si:0.40%以下、Mn:0.5〜1.4%、Al:0.1%以下、Nb:0.01〜0.15%、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、N:0.008%以下を含み、かつNb、V、Tiが、Nb+V+Ti ≦ 0.15<0.15を満足し、さらにCm0.12以下を満足する鋼素材に、加熱温度:1100〜1250℃の範囲の温度に加熱し、930℃以下の温度域における累積圧下率が40〜85%で、仕上圧延終了温度が760〜870℃である仕上圧延を施し、板厚中心温度で、平均で30〜200℃/sの冷却速度で、表面温度で500℃以下の冷却停止温度まで冷却し、冷却停止後、放冷時間:10s超えの放冷を行い、巻取温度:400〜620℃で巻取る。これにより、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を面積率で95%以上含む組織を有し、板厚方向の最高硬さが220HV以下で、降伏強さ:450MPa以上の高強度と高靭性とを有し、耐サワー性に優れた厚肉高強度熱延鋼板が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油、天然ガス等を輸送するラインパイプとして好適な溶接鋼管向け熱延鋼板に係り、とくに耐サワー性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油危機以来の原油の高騰や、エネルギー供給源の多様化の要求などから、従来、開発を放棄していたような厳しい腐食環境である、硫化水素HS、炭酸ガス、塩素イオン等を含む湿潤環境下の油田、ガス田等からの原油、天然ガスの採掘、或いは北海、カナダ、アラスカ等のような極寒地での原油、天然ガスの採掘が活発に行われるようになり、採掘された原油、天然ガスを輸送するためのパイプラインの敷設も活発化している。
【0003】
パイプラインにおいては、輸送効率向上のため、大径で高圧操業を行う傾向となっている。このようなパイプラインの高圧操業に耐えるため、輸送管(ラインパイプ)は厚肉の鋼管とする必要があり、従来から厚鋼板を素材とするUOE鋼管が使用されてきた。しかし、最近では、パイプラインの施工コストの更なる低減という強い要望にしたがい、輸送管として、厚鋼板を素材とするUOE鋼管に代わり、生産性が高くより安価な、コイル形状の熱延鋼板(熱延鋼帯)を素材とした高強度溶接鋼管が用いられるようになってきた。そして、これら高強度溶接鋼管には、パイプラインの破壊を防止する観点から優れた低温靭性を保持することが要求され、さらに、これらの特性に加えて、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)、耐応力腐食割れ性などの、いわゆる耐サワー性に優れることが要求されている。
【0004】
このような要求に対し、例えば、特許文献1には、「耐サワー性に優れた鋼管用鋼板の製造方法」が提案されている。特許文献1に記載された技術は、C:0.04〜0.16%、Mn:0.6〜1.8%を含み、さらにNb:0.06%以下、V:0.07%以下、Ti:0.03%以下、Mo:0.50%以下、Cr:0.50%以下の1種または2種以上、さらに0.3%以下程度のSiを含有する連続鋳造材を750℃以下の温度で熱間圧延を終了して直ちに、200℃以下の温度まで、平均冷却速度20〜80℃/sで冷却して焼入れしたのち、450〜750℃で焼戻しする耐サワー性に優れた鋼管用鋼板の製造方法である。特許文献1に記載された技術によれば、耐サワー性が飛躍的に向上した、引張強さ:540MPa級以上の高強度熱延鋼板となるとしている。
【0005】
また、特許文献2には、「耐HIC性に優れた高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法」が提案されている。特許文献2に記載された技術は、C:0.03〜0.08%、Si:0.05〜0.50%、Mn:1.0〜1.9%、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.01〜0.07%、Ca:0.0005〜0.0040%を含み、かつCeq:0.32%以上を満たす鋼片を、1000〜1200℃に加熱し、熱間圧延終了後の加速冷却を、表面温度で500℃以下となるまで行ったのち、加速冷却を一旦中断し、表面温度で500℃以上になるまで復熱し、その後3〜50℃/sの冷却速度で600℃以下の温度まで冷却する2段冷却を施す、鋼板の製造方法である。特許文献2に記載された技術によれば、X70以上の高強度を有し、サワー環境においても、耐HIC性、耐SSC性にも優れた鋼板が得られるとしている。
【0006】
また、特許文献3には、「耐サワー高強度電縫鋼管用熱延鋼板」が提案されている。特許文献3に記載された技術は、C:0.02〜0.06%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.5〜1.5%、Al:0.01〜0.10%、Nb:0.01〜0.10%、Ti:0.001〜0.025%、Ca:0.001〜0.005%、O:0.003%以下、N:0.005%以下を含み、V:0.01〜0.10%、Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%のうちから選んだ1種または2種以上を含有し、そして、Px=[C]+[Si]/30+([Mn]+[Cu])/20+[Ni]/30+[Mo]/7+[V]/10≦0.17を満足するように含み、かつPy={[Ca]−(130×[Ca]+0.18)×[O]}/(1.25×[S])=1.2〜3.6を満足するように含む鋼片を、1200〜1300℃に加熱し、仕上圧延終了温度を(Ar3変態点−50℃)以上とする熱間圧延を行った後、直ちに冷却を開始し、700℃以下の温度で巻き取り、その後、徐冷する、耐サワー高強度電縫鋼管用熱延鋼板の製造方法である。特許文献3に記載された技術によれば、X60級以上の高強度電縫鋼管を製造できる、板厚12.7mm以上の熱延鋼板を得ることができ、この熱延鋼板を用いれば、溶接部靭性が優れる電縫鋼管を製造することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−255746号公報
【特許文献2】特開平11−80833号公報
【特許文献3】特開2005−240051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、焼戻を必須としており、工程が複雑になり、生産性が低下するという問題があった。また、特許文献2に記載された技術では、加速冷却を中断し、所定の温度まで復熱させることを必須の要件としており、長い冷却ゾーンと、正確な加速冷却制御を必要とし、設備上問題を残していた。
また、特許文献3に記載された技術では、最表層の硬さを低減できず、耐サワー性が必ずしも良好とならない場合があるという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、腐食性の高い原油、天然ガス等を輸送できる、ラインパイプ用溶接鋼管向けとして好適な、板厚方向の硬さ差が少なく、板厚方向の最高硬さが220HV以下で、降伏強さ:450MPa以上(X65級)である、耐サワー性に優れた厚肉熱延鋼板を提供することを目的とする。
なお、ここでいう「厚肉」とは、板厚10mm以上である場合をいうものとする。また、ここでいう「高強度」とは、X65級の強度、すなわち、降伏強さ:450MPa(65ksi)以上である場合をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した目的を達成するために、耐サワー性に影響する各種要因について、鋭意研究した。その結果、鋼板における硬さばらつき、とくに板厚方向の最高硬さが耐サワー性に大きく影響し、板厚方向の硬さ差を小さく、かつ板厚方向の最高硬さを220HV以下とできれば、耐サワー性が顕著に向上することを見出した。
そして、更なる検討を行い、Nb+V+Ti量を所定値以下に制限し、さらに含有する合金元素量の特定な関係式で定義されるCmを、0.12以下となるように合金元素含有量を調整したうえで、熱間圧延後の冷却を、特定条件で急冷したのち、所定の時間以上の放冷を行ない、所定の温度で巻き取ることにより、上記した特性を有する熱延鋼板とすることができることを知見した。
【0011】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加え完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)質量%で、C:0.01〜0.07%、Si:0.40%以下、Mn:0.5〜1.4%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.1%以下、Nb:0.01〜0.15%、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、N:0.008%以下を含み、かつNb、V、Tiが次(1)式
Nb+V+Ti <0.15 ‥‥(1)
(ここで、Nb、V、Ti:各元素の含有量(質量%))
を満足し、さらに次(2)式
Cm=C+Si/30+(Mn+Cu)/30 +Ni/60+Mo/7+V/10 ‥‥(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義されるCm が0.12以下を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を面積率で95%以上含む組織とを有し、板厚方向の最高硬さが220HV以下であることを特徴とする、降伏強さ:450MPa以上で、耐サワー性に優れたラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。
(4)鋼素材に、加熱し、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板とし、該熱間圧延終了後、前記熱延板に、冷却処理を施したのち、巻取り処理を施す、熱延鋼板の製造方法において、前記鋼素材を、質量%で、C:0.01〜0.07%、Si:0.40%以下、Mn:0.5〜1.4%、P:0.015%以下、S:0.003%以下、Al:0.1%以下、Nb:0.01〜0.15%、V:0.1%以下、Ti:0.03%以下、N:0.008%以下を含み、かつNb、V、Tiが次(1)式
Nb+V+Ti <0.15 ‥‥(1)
(ここで、Nb、V、Ti:各元素の含有量(質量%))
を満足し、さらに次(2)式
Cm=C+Si/30+(Mn+Cu)/30 +Ni/60+Mo/7+V/10 ‥‥(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義されるCmが0.12以下を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、前記熱間圧延の加熱を、加熱温度が1100〜1250℃の範囲の温度である加熱とし、前記仕上圧延を、930℃以下の温度域における累積圧下率が40〜85%で、仕上圧延終了温度が760〜870℃である圧延とし、前記冷却処理を、板厚中心温度で、平均で30〜200℃/sの冷却速度で、表面温度で500℃以下の冷却停止温度まで冷却し、冷却停止後、放冷時間:10s超えの放冷を行う処理とし、前記巻取処理を、巻取温度:400〜620℃で巻取る処理とすることを特徴とする、降伏強さ:450MPa以上で、耐サワー性に優れるラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。
(5)(4)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。
(6)(4)または(5)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とするラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、厚肉高強度であるにも係らず、靭性に優れ、かつ鋼板最表層の硬さが低く、鋼板内の硬さばらつきが少なく、耐サワー性に優れた厚肉高強度熱延鋼板を容易に、しかも安価に製造でき、産業上格段も効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本発明厚肉熱延鋼板の組成限定理由について説明する。なお、とくに断わらないかぎり、質量%は単に%と記す。
C:0.01〜0.07%
Cは、鋼板の強度増加に寄与する元素であり、所望の高強度を確保するために、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.07%を超える含有は、鋼板最表層の硬さが高く、さらに鋼板内の硬さばらつきが大きくなり、均一性が低下する。さらに、靭性、耐食性、溶接性等が低下する。このため、Cは0.01〜0.07%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.025〜0.06%である。
【0014】
Si:0.40%以下
Siは、脱酸剤として作用するとともに、固溶して鋼板の強度増加に寄与する。このような効果を確保するためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.40%を超える含有は、靭性、溶接性が低下する。このため、Siは0.40%以下に限定した。なお、好ましくは0.40%未満、さらに好ましくは0.3%以下である。
【0015】
Mn:0.5〜1.4%
Mnは、固溶強化や焼入れ性の向上を介して鋼板強度の増加に寄与する元素であり、所望の高強度を確保するためには、0.5%以上の含有を必要とする。一方、1.4%を超える多量の含有は、耐サワー性を低下させる。このため、Mnは0.5〜1.4%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.7〜1.1%である。
【0016】
P:0.015%以下
Pは、不純物として鋼中に存在し、偏析しやすい元素である。このため、多量に含有すると、靭性が低下するとともに、偏析が顕著となり鋼材の耐サワー性を低下させる。このため、Pは0.015%以下に限定した。なお、好ましくは0.010%以下である。
S:0.003%以下
Sは、不純物として鋼中では硫化物、特に伸長したMnSを形成し、延性、靭性、さらには耐サワー性を低下させる。このため、Sは0.003%以下に限定することが好ましい。なお、好ましくは0.001%以下である。
【0017】
Al:0.1%以下
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超えて多量に含有すると、介在物が残留する割合が多くなり、鋼の清浄度が低下する。このため、Alは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.06%である。
【0018】
Nb:0.01〜0.15%
Nbは、オーステナイトの未再結晶温度域を拡大し、制御圧延による結晶粒の微細化に寄与し、鋼の高強度化、高靭性化に有効な元素である。また、Nbは、炭化物を形成し、析出強化を介して鋼板の強度増加に寄与する。このような効果を得るためには、0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.15%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなる。このため、Nbは0.01〜0.15%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.06%である。
【0019】
V:0.1%以下
Vは、鋼中に固溶し固溶強化を介して、さらには炭化物を形成し析出強化を介して、鋼板の強度増加に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.1%を超える含有は、強度が増加しすぎて、靭性が低下する。このため、Vは0.1%以下に限定した。なお、好ましくは0.08%以下である。
【0020】
Ti:0.03%以下
Tiは、窒化物を形成し、オーステナイト粒の粗大化を抑制して、結晶粒を微細化し、高強度化、高靭性化に寄与する元素である。このような効果を得るためには、0.001%以上の含有を必要とする。一方、0.03%を超えて含有すると、Ti炭化物の析出が容易となり、靭性に悪影響を与える。このため、Tiは0.03%以下に限定した。
【0021】
N:0.008%以下
Nは、窒化物形成元素と結合して、窒化物を形成し、結晶粒の微細化に寄与する。このためには、0.001%以上の含有を必要とする。一方0.008%を超える含有は鋳片割れを発生させる。このため、Nは0.008%以下に限定した。
さらにNb、V、Tiを、上記した成分含有範囲内で、かつ次(1)式
Nb+V+Ti <0.15 ‥‥(1)
(ここで、Nb、V、Ti:各元素の含有量(質量%))
を満足するように調整して含有する。
【0022】
Nb+V+Ti <0.15
Nb、V、Tiは、いずれも炭窒化物を形成する元素であり、粗大な未固溶炭窒化物を形成し、耐サワー性を劣化させる。本発明では、耐サワー性向上のために、合計量を未満に限定する。Nb、V、Tiの合計量が0.15以上では、耐サワー性が顕著に低下する。このため、Nb+V+Tiを0.15未満に限定した。なお、好ましくは0.13以下である。
更に本発明では、上記した成分含有範囲内でかつ上記した(1)式を満足する範囲内で、 さらに次(2)式
Cm=C+Si/30+(Mn+Cu)/30 +Ni/60+Mo/7+V/10 ‥‥(2)
(ここで、C、Si、Mn、Cu、Ni、Mo、V:各元素の含有量(質量%))
で定義されるCmが0.12以下を満足するように調整する。なお、(2)式を計算する場合、含有しない成分は零として計算するものとする。
Cm:0.12以下
(2)式で定義されるCmは、焼入れ性に関連し、鋼板の硬さ分布に影響する因子で、とくに板厚方向の硬さ分布に大きく影響し、とくに表層近傍の硬さ増加に関連して耐サワー性に大きな影響を及ぼす。Cmが0.12を超えて大きくなると、板厚方向の硬さ分布における最高硬さが220HVを超えて高くなり、耐サワー性が低下する。このため、Cmは0.12以下に限定した。なお、好ましくは0.09〜0.12である。
上記した成分が基本の成分であり、本発明では基本の組成に加えて、必要に応じて選択元素として、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有できる。
【0023】
Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、 Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Mo、Cu、Ni、Cr、B、Zrはいずれも、鋼の焼入れ性を向上して、鋼板の強度増加に寄与する元素であり、必要に応じて選択して含有できる。このような効果を得るためには、Mo:0.01%以上、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Cr:0.01%以上、B:0.0003%以上、Zr:0.01%以上、それぞれ含有することが望ましいが、Mo:0.3%、Cu:0.5%、Ni:0.5%、Cr:0.6%、B:0.001%、Zr:0.04%をそれぞれ超える含有は、強度が上昇し耐サワー性が低下する。このため、含有する場合には、それぞれ、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下に限定することが好ましい。
【0024】
Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種
Ca、REMはいずれも、鋼中の硫化物の形態を制御し、耐サワー性の向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有することができる。このような効果を得るためには、Ca:0.001%以上、REM:0.001%以上含有することが望ましい。一方、Ca:0.005%、REM:0.005%を超えて含有しても、効果が飽和し、かえって延性が低下する。このため、含有する場合には、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下に、それぞれ限定することが好ましい。
【0025】
上記した以外の残部は、Feおよび不可避的不純物からなる。
つぎに、本発明熱延鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明厚肉熱延鋼板の組織は、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を面積率で95%以上含む組織とを有する。
本発明厚肉熱延鋼板では、主相として、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を面積率で95%以上、好ましくは97%以上を含む組織とする。主相を、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相とすることにより、所望の高強度を保持し、かつ高靭性を確保できる。なお、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相のみの単相とすることが耐サワー性向上の観点からは好ましい。ここでいう「主相」とは、面積率で95%以上を占有する相をいう。なお、主相以外の第二相は、パーライト、マルテンサイト等が考えられるが、これらの第二相が存在しても、面積率で5%未満であるため、耐サワー性への悪影響は少ない。
【0026】
本発明厚肉熱延鋼板は、上記した組成、組織を有し、板厚方向の最高硬さが220HV以下であり、X65級の強度、すなわち、降伏強さ:450MPa(65ksi)以上を有する、板厚:10mm以上の高強度熱延鋼板である。
つぎに、本発明厚肉熱延鋼板の、好ましい製造方法について説明する。
上記した組成の鋼素材を出発素材とする。鋼素材の製造方法はとくに限定する必要はなく、公知の方法がいずれも適用できるが、例えば、上記した組成の溶鋼を、転炉等の常用の溶製方法により、溶製し、あるいはさらに脱ガス処理等を施した後、連続鋳造法等の常用の鋳造方法により、スラブ等の鋼素材とすることが好ましい。
【0027】
出発素材である鋼素材は、加熱炉等に装入し、所定の温度に加熱したのち、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板とし、該熱延板に、ただちに冷却処理を施し、ついで巻取り処理を施す。
鋼素材の加熱温度は、1000〜1250℃とすることが好ましい。加熱温度が、1000℃未満では、加熱温度が低く、鋼中の炭窒化物が十分再固溶しないうえ、変形抵抗が高く、熱間圧延が困難になる場合がある。一方、1250℃を超えると、結晶粒が粗大化し、鋼板の靭性が低下する。このため、加熱温度は1000〜1250℃の範囲に限定した。
【0028】
上記した加熱温度で加熱された鋼素材は、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施され、熱延板とされる。
粗圧延の条件はとくに限定する必要はなく、所定の寸法形状のシートバーとすることができればよい。粗圧延されたシートバーは、ついで、仕上圧延される。
仕上圧延は、930℃以下の温度域における累積圧下率が40〜85%で、仕上圧延終了温度が760〜870℃である圧延とする。
【0029】
仕上圧延終了温度が、760℃未満では、表層に加工フェライトが残留するため、耐サワー性が低下する。一方、870℃を超えて高温となると、圧延歪が解放され、形成されるフェライト粒が粗大化し、靭性が低下する。このため、仕上圧延終了温度は760〜870℃の範囲に限定した。
また、仕上圧延における、930℃以下の温度域の累積圧下率が40%未満では、靭性が低下する。一方、930℃以下の温度域の累積圧下率が85%を超えて多くなると、バンド状組織となり、靭性が低下する。このため、仕上圧延における、930℃以下の温度域の累積圧下率は40〜85%の範囲に限定した。
【0030】
熱間圧延終了後、熱延板は、冷却処理を施される。
熱間圧延後の冷却処理は、板厚中心温度で、平均で30〜200℃/sの冷却速度で、表面温度で500℃以下の冷却停止温度まで冷却し、冷却停止後、10s以上の放冷を行う処理とする。
平均の冷却速度が30℃/s未満では、フェライト相の形成が認められ、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を主相とする所望の組織を形成することができない。一方、200℃/sを超えて急冷となると、マルテンサイト相の形成が著しくなり、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を主相とする所望の組織を形成することができない。このため、冷却は平均で30〜200℃/sの冷却速度に限定した。なお、好ましくは40〜150℃/sである。
【0031】
また、冷却停止温度は、表面温度で500℃以下の温度とする。冷却停止温度が500℃を超えて高温では、フェライト相の形成が著しくなり、所望のベイナイト相またはベイニティックフェライト相を主相とする組織の形成が困難となる。なお、冷却停止温度は表面温度で300℃以上とすることが好ましい。
また、冷却停止後に、放冷時間:10s超えの放冷を行う。
【0032】
冷却停止後の放冷時間が10s以下では、硬さバラツキが大きくなる。このため、冷却停止後の放冷時間は10s超えに限定した。
熱延板は、放冷後、巻取処理を施されて熱延鋼板とされる。
巻取温度は400〜620℃とする。巻取温度が400℃未満では、強度が不足する。一方、巻取温度が620℃を超えて高温では、ベイニティックフェライトを主体とする組織が形成できにくく、耐サワー性、靭性が低下する。このため、巻取温度は、400〜620℃の範囲に限定した。なお、好ましくは400〜600℃である。
【実施例】
【0033】
表1に示す組成の溶鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブ(肉厚:220mm;鋼素材)とした。これら鋼素材を、表2に示す加熱温度に加熱したのち、粗圧延と、表2に示す条件の仕上圧延を、施し、熱延板とした。仕上圧延終了後、ただちに、表2に示す冷却処理と、巻取処理を施し、表2に示す板厚の熱延鋼板とした。
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、組織観察、引張試験、硬さ試験、HIC試験、衝撃試験を実施した。試験方法はつぎのとおりとした。
(1)組織観察
得られた熱延鋼板から、組織観察用試験片を採取し、圧延方向断面(L断面)について研磨、腐食して、光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡(倍率:2000倍)を用いて5視野以上観察し、撮像して、画像処理により組織の種類、分率を測定した。
(2)引張試験
得られた熱延鋼板から、引張方向が圧延方向と直角方向(C方向)となるように、ASTM A370 規格に準拠して試験片(GL:50mm)を採取し、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS)を求めた。
(3)硬さ試験
得られた熱延鋼板から、硬さ測定用試験片を採取し、圧延方向と直角方向断面(C断面)について、JIS Z 2244の規定に準拠して、ビッカース硬さ計(荷重:10kgf;試験力98N)を用いて、0.5mm間隔で、板厚方向の硬さ分布を求め、板厚方向で最も高い硬さ(最高硬さ)HVmaxと板厚中心位置での硬さHV1/2を求めた。
(4)HIC試験
得られた熱延鋼板から、長さ方向が圧延方向となるように試験片(大きさ:10mm厚×20mm幅×100mm長さ)を採取し、NACE−TM0284に準拠して、HIC試験を実施した。試験は、試験片プレス曲げ加工で曲率150mmRの曲げ加工を施し、SolutionA液(5%NaCl+0.5%氷酢酸水溶液)に0.1MPaHSガスを飽和させた試験液中に96h間浸漬する試験とした。浸漬後、試験片の断面を超音波探傷法で観察し、割れの大きさを測定し、CLR(割れの合計長さ/試験片長さ)×100%を求めた。CLRが8%以下である場合を耐HIC性が良好であるとして○とし、それ以外は×とした。
(5)衝撃試験
得られた熱延鋼板から、長さ方向が、圧延方向と直角方向となるようにVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242の規定に準拠して試験温度:−60℃でシャルピー衝撃試験を実施し、吸収エネルギーvE-60(J)を求めた。各3本ずつ行いその算術平均をその鋼板の吸収エネルギーvE-60(J)とした。
【0034】
得られた結果を表3に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
本発明例はいずれも、板厚方向の最高硬さが220HV以下であり、X65級の強度、すなわち、降伏強さ:450MPa(65ksi)以上の高強度と、vE-60:200J以上の高靭性を有し、耐サワー性に優れた、板厚:10mm以上の厚肉高強度熱延鋼板となっている。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、強度が不足しているか、靭性が低下しているか、板厚方向の最高硬さが高くなりすぎて、耐サワー性が低下している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.01〜0.07%、 Si:0.40%以下、
Mn:0.5〜1.4%、 P:0.015%以下、
S:0.003%以下、 Al:0.1%以下、
Nb:0.01〜0.15%、 V:0.1%以下、
Ti:0.03%以下、 N:0.008%以下
を含み、かつNb、V、Tiが下記(1)式を満足し、さらに下記(2)式で定義されるCmが0.12以下を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、ベイナイト相またはベイニティックフェライト相を面積率で95%以上含む組織とを有し、板厚方向の最高硬さが220HV以下であることを特徴とする、降伏強さ:450MPa以上で、耐サワー性に優れたラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。

Nb+V+Ti <0.15 ‥‥(1)
Cm=C+Si/30+(Mn+Cu)/30 +Ni/60+Mo/7+V/10 ‥‥(2)
ここで、Nb、V、Ti、C、Si、Mn、Cu、Ni、Mo、V:各元素の含有量(質量%)
【請求項2】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1に記載のラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。
【請求項3】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載のラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板。
【請求項4】
鋼素材に、加熱し、粗圧延と仕上圧延からなる熱間圧延を施し熱延板とし、該熱間圧延終了後、前記熱延板に、冷却処理を施したのち、巻取り処理を施す、熱延鋼板の製造方法において、
前記鋼素材を、質量%で、
C:0.01〜0.07%、 Si:0.40%以下、
Mn:0.5〜1.4%、 P:0.015%以下、
S:0.003%以下、 Al:0.1%以下、
Nb:0.01〜0.15%、 V:0.1%以下、
Ti:0.03%以下、 N:0.008%以下
を含み、かつNb、V、Tiが下記(1)式を満足し、さらに下記(2)式で定義されるCmが0.12以下を満足するように含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼素材とし、
前記熱間圧延の加熱を、加熱温度が1100〜1250℃の範囲の温度である加熱とし、
前記仕上圧延を、930℃以下の温度域における総圧下率が40〜85%で、仕上圧延終了温度が760〜870℃である圧延とし、
前記冷却処理を、板厚中心温度で、平均で30〜200℃/sの冷却速度で、表面温度で500℃以下の冷却停止温度まで冷却し、冷却停止後、10s以上の放冷を行う処理とし、
前記巻取処理を、巻取温度:400〜620℃で巻取る処理とすることを特徴とする、降伏強さ:450MPa以上で、耐サワー性に優れるラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。

Nb+V+Ti <0.15 ‥‥(1)
Cm=C+Si/30+(Mn+Cu)/30 +Ni/60+Mo/7+V/10 ‥‥(2)
ここで、Nb、V、Ti、C、Si、Mn、Cu、Ni、Mo、V:各元素の含有量(質量%)
【請求項5】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Mo:0.3%以下、Cu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.6%以下、B:0.001%以下、Zr:0.04%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項4に記載のラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記組成に加えてさらに、質量%で、Ca:0.005%以下、REM:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種を含有する組成とすることを特徴とする請求項4または5に記載のラインパイプ用厚肉高強度熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−11005(P2013−11005A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145823(P2011−145823)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】