説明

耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、耐チッピング塗料組成物、耐チッピング塗膜及び塗装物品

【課題】例えば自動車のボディやバンパー、サイドスポイラーなどに好適に用いられ、耐チッピング性能を向上させ得る耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、これを含有する耐チッピング塗料組成物及び耐チッピング塗膜並びに耐チッピング塗膜を備えた塗装物品を提供すること。
【解決手段】ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmである耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子。耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子を含有して成る耐チッピング塗料組成物。耐チッピング塗料組成物を固化して成る耐チッピング塗膜。耐チッピング塗膜を備えた塗装物品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、耐チッピング塗料組成物、耐チッピング塗膜及び塗装物品に係り、更に詳細には、例えば自動車のボディやバンパー、サイドスポイラーなどに好適に用いられ、耐チッピング性能を向上させ得る耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、これを含有する耐チッピング塗料組成物及び耐チッピング塗膜、並びに耐チッピング塗膜を備えた塗装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車においては、走行中にはねあげられた砕石によって、その塗膜が衝撃破損を受け、塗膜の剥離が生じ、外観の低下や錆の発生が起こることが知られている。
したがって、自動車の塗膜は、耐衝撃性能の高い、即ちいわゆる耐チッピング性能に優れた塗膜であることが要求され、そのような塗膜を形成し得る塗料が要求されている。
【0003】
通常、自動車の塗膜は、前処理皮膜、電着塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜などの複数層から成る塗膜であり、上述したようなチッピングによる塗膜の剥離防止は、中塗り塗膜を形成する際に、又は中塗り塗膜と上塗り塗膜との間に塗膜を形成する際に耐チッピング塗料を塗布することなどによって試みられている。
【0004】
塗膜の耐チッピング性能は、比較的軟質な塗膜であって、顔料や充填剤を多く含有し、厚く形成されている塗膜ほど優れる傾向がみられる。
そのため、従来より、耐チッピング塗料として、ポリエステル樹脂とメラミン樹脂、又はポリエステル樹脂とブロックイソシアネート化合物を主成分とし、無機顔料を分散させた塗料が使用されてきた(特許文献1参照。)。
【0005】
また、熱膨張性微粒子を用いることによって、耐チッピング性能を向上させる方法が提案されている(特許文献2及び3参照。)。
【特許文献1】特開平3−131671号公報
【特許文献2】国際公開第97/48772号パンフレット
【特許文献3】特開平5−214269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の塗料のように、塗膜を構成する樹脂自体を軟質にすると、形成された塗膜において割れ等が発生し易く、耐久性が低下する要因となる。また、顔料や充填剤の含有量を増量させると、塗料の安定性が低下する要因となる。
また、特許文献2及び3に記載の方法のように、熱膨張性微粒子を使用すると、塗膜を加熱する工程が必須となり、また加熱条件によっては効果が減少するという問題点がある。また、塗膜内部に不要な応力を発生させ、割れ等の要因となり得るという問題点もある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、例えば自動車のボディやバンパー、サイドスポイラーなどに好適に用いられ、耐チッピング性能を向上させ得る耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、これを含有する耐チッピング塗料組成物及び耐チッピング塗膜、並びに耐チッピング塗膜を備えた塗装物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、所定の特性を有する樹脂粒子を作製し、これを含有する塗料を用いることなどにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子は、ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmであることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の好適形態は、当該樹脂粒子のガラス転移温度が−30〜70℃であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の他の好適形態は、当該樹脂粒子の平均粒径が1〜25μmであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の耐チッピング塗料組成物は、上記本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子を含有することを特徴とする。
【0013】
更に、本発明の耐チッピング塗料組成物の好適形態は、上記本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量が、塗膜形成成分全量を基準として、1〜40%であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の耐チッピング塗膜は、上記本発明の耐チッピング塗料組成物を固化して成ることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明の耐チッピング塗膜の好適形態は、当該塗膜のヤング率が200〜2500N/mmであり、且つ伸び率が3〜80%であり、且つ破断強度が10〜70N/mmであることを特徴とする。
【0016】
更にまた、本発明の耐チッピング塗膜の他の好適形態は、当該塗膜のガラス転移温度が50〜100℃であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の塗装物品は、上記本発明の耐チッピング塗膜を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、所定の特性を有する樹脂粒子を作製し、これを含有する塗料を用いることなどとしたため、例えば自動車のボディやバンパー、サイドスポイラーなどに好適に用いられ、耐チッピング性能を向上させ得る耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子、これを含有する耐チッピング塗料組成物及び耐チッピング塗膜、並びに耐チッピング塗膜を備えた塗装物品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、含有量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
上述の如く、本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子は、ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmであるものである。
このような構成とすることにより、これを含有する耐チッピング塗料組成物を用いて作製される耐チッピング塗膜及びこれを備えた塗装物品について、耐チッピング性能を向上させることができる。
【0020】
例えば、樹脂粒子について、そのヤング率、伸び率及び破断強度という特性値のうち、少なくとも1つの特性値が、ヤング率が100N/mm未満、伸び率が200%超又は破断強度が15N/mm未満という範囲に含まれる場合には、十分な耐チッピング性能が得られない。これは、樹脂粒子の弾性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
一方で、樹脂粒子について、そのヤング率、伸び率及び破断強度という特性値のうち、少なくとも1つの特性値が、ヤング率が2000N/mm超、伸び率が20%未満又は破断強度が70N/mm超という範囲に含まれる場合にも、十分な耐チッピング性能が得られない。これは、樹脂粒子の柔軟性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
耐チッピング性能の向上という観点からは、ヤング率については、500〜1500N/mmであることが好ましい。また、伸び率については、50〜150%であることが好ましい。更に、破断強度については、30〜50N/mmであることが好ましい。
【0021】
また、本発明においては、樹脂粒子のガラス転移温度が−30〜70℃であることが好ましい。
ガラス転移温度が−30℃未満であると、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、樹脂粒子の弾性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
一方、ガラス転移温度が70℃を超える場合にも、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、樹脂粒子の柔軟性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
耐チッピング性能の向上という観点からは、ガラス転移温度は、−30〜50℃であることがより好ましい。
【0022】
更に、本発明においては、樹脂粒子の平均粒径が1〜25μmであることが好ましく、更に好ましくは10〜25μmであり、最も好ましくは15〜25μmである。
平均粒径が1μm未満であると、粒子による衝撃吸収能が低下するためか耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。また、平均粒径が25μmを超えると、塗膜を形成した際に例えば外観の指標となる平滑性が低下することがある。
【0023】
更にまた、本発明においては、当該樹脂粒子の構成成分は、上述の如き特性値を示すと共に、これを含有する耐チッピング塗料組成物を用いて耐チッピング塗膜やこれを備えた塗装物品を作製したときに、塗膜や塗装物品として所望する性能を示すものであれば、特に限定されるものではなく、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂又はポリスチレン樹脂、及びこれらの任意の組合わせに係る樹脂(例えば、共重合体や混合物など)から成る粒子を用いることができ、ポリウレタン樹脂粒子を用いることが望ましい。
【0024】
次に、上述した耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の製造方法の一例につき説明する。
上記耐チッピング塗料組成物用ポリウレタン樹脂粒子は、連続相(蒸留水、グリセリン、ポリビニルアルコール(0.185%))に、分散相(ヘキサメチレンジイソシアネート5g、ヒマシ油系ポリオール5g)を投入して、O/W分散系を調整後、常温で48時間、更に60℃で8時間、界面重合させることにより製造される。
【0025】
次に、本発明の耐チッピング塗料組成物について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の耐チッピング塗料組成物は、上記本発明の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子を含有するものである。
このような構成とすることにより、これを用いて作製される耐チッピング塗膜及びこれを備えた塗装物品について、耐チッピング性能を向上させることができる。
【0026】
ここで、上述したように耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子は、ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmであることを要する。
また、かかる特性値、更には当該樹脂粒子のガラス転移温度や平均粒径、構成成分については上述したように適宜調整することができる。
【0027】
また、本発明においては、耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量は、耐チッピング塗料組成物の塗膜形成成分全量を基準として、1〜40%であることが好ましく、10〜30%であることがより好ましく、20〜30%であることが更に好ましい。
耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量が1%未満の場合には、樹脂粒子による衝撃吸収能が低下するためか耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。
また、耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量が40%を超える場合には、塗膜を形成したときに塗膜界面における樹脂粒子の存在率が高くなり、塗膜の平滑性や付着性が低下することがある。
【0028】
上記耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子以外の塗膜形成成分としては、例えば塗料樹脂や硬化剤、顔料、増粘剤、表面調整剤、分散剤、紫外線吸収剤等の添加剤などを挙げることができる。
【0029】
上記塗料樹脂としては、例えばポリエステル樹脂やアクリル樹脂、アルキド樹脂などを挙げることができる。
【0030】
上記硬化剤としては、例えばメラミン樹脂やポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物などを挙げることができる。
【0031】
上記顔料としては、例えばアゾ系顔料、ペリレン系顔料などの有機系着色顔料やカーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系着色顔料などを挙げることができる。
【0032】
更に、本発明においては、塗膜形成成分として、メラミン化合物やイソシアネート化合物を含有しているものを好適に用いることができる。
このようなメラミン化合物やイソシアネート化合物は、硬化剤として機能し、塗膜形成した際に、塗膜中にメラミン樹脂やポリイソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物等を形成し易い。
メラミン化合物は、よく使用される反応性の水酸基を有する塗料樹脂の水酸基と縮合反応して、塗膜を硬化させることができる。その際に、縮合水やアルコールが揮発する。
また、イソシアネート化合物は、有するイソシアネート基と、よく使用される反応性の水酸基を有する塗料樹脂の水酸基とが付加反応することによって、塗膜を硬化させることができる。その際には揮発する生成物がないため、平滑性などを向上させ易いという利点がある。
【0033】
また、本発明の耐チッピング塗料組成物は、その塗料の形態について特に限定されるものではなく、例えば水系塗料や溶剤系塗料、粉体塗料などとして用いることができる。
なお、各形態の塗料組成物を作製する際には、上述したような耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子以外の塗膜形成成分や必要に応じて添加される溶剤については、従来公知のものを適宜選択することができる。
上記溶剤の具体例としては、酢酸エチルや酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのようなエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのようなケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンなどのようなエーテル類、トルエンやキシレン、ソルベッソなどのような炭化水素溶剤、又は疎水性の高い長鎖アルコール類などを用いることができる。
これらは2種以上を適宜混合してもよい。また、水やブチルセロソルブアセテートなどの水系溶剤が若干含まれていても、全体として有機溶剤とみなすことができればよい。
【0034】
更に、本発明の耐チッピング塗料組成物は、その塗料の用途について特に限定されるものではなく、例えば透明若しくは濁りクリヤー塗料、カラーベース塗料、エナメル塗料、下塗り塗料、又は艶有り若しくは艶消し塗料などとして用いることができる。
なお、各用途の塗料組成物を作製する際にも、上述したような耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子以外の塗膜形成成分については、従来公知のものを適宜選択することができる。
【0035】
更にまた、本発明の耐チッピング塗料組成物は、その塗料のタイプについて特に限定されるものではなく、常温乾燥型塗料や硬化型塗料などとして用いることができる。
なお、各タイプの塗料組成物を作製する際にも、上述したような耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子以外の塗膜形成成分については、従来公知のものを適宜選択することができる。
【0036】
次に、本発明の耐チッピング塗膜について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の耐チッピング塗膜は、上記本発明の耐チッピング塗料組成物を固化して成るものである。
このような構成とすることにより、塗膜自体やこれを有する塗装物品について、耐チッピング性能を向上させることができる。
【0037】
ここで、上述したように耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子は、ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmであることを要する。
また、かかる特性値、更には当該樹脂粒子のガラス転移温度や平均粒径、構成成分については上述したように適宜調整することができる。
更に、耐チッピング塗料組成物においては、所望する耐チッピング性能、更には上述した塗料の形態や用途、タイプに応じて、その塗膜形成成分中における耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量を、適宜調整することができる。
【0038】
また、本発明においては、耐チッピング塗膜のヤング率が200〜2500N/mmであり、且つ伸び率が3〜80%であり、且つ破断強度が10〜70N/mmであることが好ましい。
例えば、耐チッピング塗膜について、そのヤング率、伸び率及び破断強度という特性値のうち、少なくとも1つの特性値が、ヤング率が200N/mm未満、伸び率が80%超又は破断強度が10N/mm未満という範囲に含まれる場合には、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、塗膜の弾性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
一方で、耐チッピング塗膜について、そのヤング率、伸び率及び破断強度という特性値のうち、少なくとも1つの特性値が、ヤング率が2500N/mm超、伸び率が3%未満又は破断強度が70N/mm超という範囲に含まれる場合にも、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、塗膜の柔軟性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
耐チッピング性能の向上という観点からは、ヤング率については、1000〜2000N/mmであることが好ましい。また、伸び率については、50〜80%であることが好ましい。更に、破断強度については、30〜70N/mmであることが好ましい。
【0039】
更に、本発明においては、耐チッピング塗膜のガラス転移温度が50〜100℃であることが好ましく、60〜90℃であることがより好ましく、70〜90℃であることが更に好ましい。
耐チッピング塗膜のガラス転移温度が50℃未満の場合には、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、塗膜の弾性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
一方、ガラス転移温度が100℃を超える場合にも、耐チッピング性能向上効果が小さいものとなることがある。これは、塗膜の柔軟性が低下することによって衝撃吸収性が低下するためと考えられる。
【0040】
また、塗膜構成は、単層構造であっても複数層から成る積層構造であってもよく、上述した耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子が含まれていればよい。なお、外観を向上させる観点からは、耐チッピング塗膜層は表層以外の層に適用することが望ましい。
【0041】
ここで、本発明の耐チッピング塗膜の塗膜構成の一例について図面を用いて説明する。
図1は、本発明の耐チッピング塗膜の一実施形態を示す概略断面図である。同図に示すように、図示しない被塗物の表面に、下塗り塗膜層10、カラーベース塗膜層20及びクリヤー塗膜層30から成る積層構造(3層)の塗膜が形成されている。
そして、下塗り塗膜層30には耐チッピング塗料組成物用ポリウレタン樹脂粒子(図示せず。)が含まれており、耐チッピング塗膜として機能する。また、これを有する塗膜全体も耐チッピング性能が向上する。
【0042】
次に、上述した耐チッピング塗膜の製造方法の一例について説明する。
上記耐チッピング塗膜は、上記耐チッピング塗料組成物を固化して成るものである。
溶剤系塗料の耐チッピング塗料組成物は、上記耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子と塗料樹脂、硬化剤、顔料、溶媒などを混合して得られる。
【0043】
上記得られた溶剤系塗料の耐チッピング塗料組成物を被塗物にスプレー塗装し、焼付けて完成する。
このように固化して塗膜を形成する際には、上述した耐チッピング塗料組成物における塗料の形態や用途、タイプに応じて、従来公知の塗装方法を適宜選択することができ、特に塗装条件について狭い範囲に限られることなく、耐チッピング性能を向上させることができる。
【0044】
次に、本発明の塗装物品について詳細に説明する。
上述の如く、本発明の塗装物品は、上記本発明の耐チッピング塗膜を備えたものである。
このような構成とすることにより、塗装物品について、耐チッピング性能を向上させることができる。
なお、塗膜が形成される被塗物としては、特に限定されるものではなく、例えばプラスチック、金属、ガラス、若しくはこれらの発泡体、又はこれらの成形品等を挙げることができる。
また、被塗物の表面に直接耐チッピング塗膜を形成してもよく、表面処理や下塗り塗装を施した被塗物に耐チッピング塗膜を形成してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
[耐チッピング塗料組成物の調製]
ヤング率が100N/mm、伸び率が20%、破断強度が10N/mmであるポリウレタン樹脂粒子(ガラス転移温度:−30℃、平均粒径:1μm)を用意し、トルエン中に10%の含有量となるように分散させた。
下塗り塗料(日本油脂社製、グレー、商品名:ハイエピコ#560)を撹拌させながら、これに上記トルエン中に分散させたポリウレタン樹脂粒子を塗膜形成成分を基準として含有量が1%となるように添加して、本例の耐チッピング塗料組成物を得た。
【0047】
なお、ポリウレタン樹脂粒子のヤング率、伸び率及び破断強度は、ポリウレタン樹脂粒子の原料である、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)とヒマシ油系ポリオールの混合物を80μmのフィルムアプリケータを用いて錫箔上に塗布し、常温で48時間、更に60℃にて8時間の重合後に剥離して得た遊離塗膜を用いて、株式会社島津製作所製のAGS−H 50Nを用いて測定した。また、ガラス転移温度は、セイコーインスツルメンツ株式会社製のDMS6100を用いて、上記遊離塗膜の粘弾性を測定し、主分数の損失正接のピーク温度から求めた。表1に樹脂粒子の仕様とその含有量を示す。
【0048】
[塗膜の形成]
リン酸亜鉛処理したダル鋼板(厚み0.8mm、70mm×150mm)に、カチオン電着塗料(日本ペイント株式会社製、商品名:パワートップU600M)を乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、次いで160℃で30分間焼き付けた。
次いで、上記得られた耐チッピング塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
次いで、メタリック塗色のカラーベース塗料(BASF株式会社製、商品名:ベルコートNo6010)を乾燥膜厚が15μmとなるように塗装し、ウエットオンウェットでクリヤー塗料(BASF株式会社製、商品名:ベルコートNo6200)を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装し、140℃で30分間焼き付けて、本例の塗装物品を得た。
【0049】
なお、耐チッピング塗膜のヤング率、伸び率及び破断強度は、錫箔上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、140℃で30分間焼き付けた後に剥離して得た遊離塗膜を用いて、株式会社島津製作所製のAGS−H 50Nを用いて測定した。また、ガラス転移温度は、セイコーインスツルメンツ株式会社製のDMS6100を用いて、上記遊離塗膜の粘弾性を測定し、主分数の損失正接のピーク温度から求めた。また、表1に塗膜の仕様を併記する。
【0050】
(実施例2〜11及び比較例1〜4)
表1に示すように、用いるポリウレタン樹脂粒子の仕様やその含有量を変えた以外は、実施例1と同様の操作を繰り返し、本例の耐チッピング塗料組成物を得、塗装物品を得た。
なお、比較例1及び2においては、樹脂粒子を添加しなかった。
【0051】
[耐チッピング性能評価]
グラベロ試験機(スガ試験機社製)を用い、−20℃雰囲気下でショット材として6号砕石250gを使用し、4kgf/cm(約392kPa)のエア圧で塗装板に吹付け、傷付き程度を目視評価した。
得られた結果を表1に併記する。なお、表1中の耐チッピング性能において、「○」は殆ど傷がない、「△」は少し傷がある、「×」は目立つほど多くの傷がある、ことを示す。
また、完成後の塗膜外観の平滑性を目視評価した。得られた結果を表1に併記する。表1中の塗膜外観の平滑性において、「○」は優れている、「△」は中程度である、「×」は若干劣っている、ことを示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、本発明の範囲に含まれる実施例1〜11は、本発明外の比較例1〜4よりも耐チッピング性能が優れていることが分かる。
また、塗装外観の平滑性は、ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径が小さい方が優れることが分かる。なお、実施例10は、塗装外観の平滑性について優れることをあまり要求されない部分においては、充分に使用できる。
現時点においては、耐チッピング性能及び塗装外観の平滑性の観点から実施例7が最も良好な結果をもたらすものと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の耐チッピング塗膜の一実施形態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 下塗り塗膜層
20 カラーベース塗膜層
30 クリヤー塗膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤング率が100〜2000N/mmであり、且つ伸び率が20〜200%であり、且つ破断強度が15〜70N/mmであることを特徴とする耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子。
【請求項2】
ガラス転移温度が−30〜70℃であることを特徴とする請求項1に記載の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子。
【請求項3】
平均粒径が1〜25μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子。
【請求項4】
当該樹脂粒子がポリウレタン樹脂粒子であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子を含有して成ることを特徴とする耐チッピング塗料組成物。
【請求項6】
上記耐チッピング塗料組成物用樹脂粒子の含有量が、塗膜形成成分全量を基準として、1〜40%であることを特徴とする請求項5に記載の耐チッピング塗料組成物。
【請求項7】
上記塗膜形成成分が、メラミン化合物及び/又はイソシアネート化合物を含有することを特徴とする請求項6に記載の耐チッピング塗料組成物。
【請求項8】
当該耐チッピング塗料組成物が、水系塗料、溶剤系塗料又は粉体塗料であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物。
【請求項9】
当該耐チッピング塗料組成物が、透明若しくは濁りクリヤー塗料、カラーベース塗料、エナメル塗料、下塗り塗料、又は艶有り若しくは艶消し塗料であることを特徴とする請求項5〜8のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物。
【請求項10】
当該耐チッピング塗料組成物が、常温乾燥型塗料又は硬化型塗料であることを特徴とする請求項5〜9のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物。
【請求項11】
請求項5〜10のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗料組成物を固化して成ることを特徴とする耐チッピング塗膜。
【請求項12】
ヤング率が200〜2500N/mmであり、且つ伸び率が3〜80%であり、且つ破断強度が10〜70N/mmであることを特徴とする請求項11に記載の耐チッピング塗膜。
【請求項13】
ガラス転移温度が50〜100℃であることを特徴とする請求項11又は12に記載の耐チッピング塗膜。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1つの項に記載の耐チッピング塗膜を備えたことを特徴とする塗装物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−270014(P2007−270014A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98761(P2006−98761)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】