説明

耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法

【課題】耐溶融滴下性(耐ドリップ性)と自己消火性とに優れた耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】リン原子含有量が0.3〜1.5重量%、窒素原子含有量が0.01〜1.0重量%であるポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸する耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。さらには、紡糸口金から吐出した後に、加熱紡糸筒により遅延冷却を行うものであることや、ポリエステルポリマーが窒素化合物を添加したものであること、ポリエステルポリマーがホスファゼン化合物を添加したものであること、ポリエステルポリマーがリン化合物を共重合したものであること、ポリエステルポリマーがポリエチレンテレフタレートポリマーであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐溶融滴下性(耐ドリップ性)と自己消火性とに優れた耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリエステル繊維に対しても高い難燃性の付与が要求され、種々の技術が開発されている。ポリエステル繊維は多くの優れた特性を有するがゆえに、各種用途に用いられているが、原料のポリエステルポリマー自体が「可燃性」に分類される燃焼性であり、基本的には空気中で燃焼するためである。
【0003】
その難燃性を高める簡便な方法としては、後加工法を挙げることができる。この後加工法は、糸や織編物の段階にて難燃剤を処理する方法であり、例えばリン系難燃剤を浴中法又はパディング法により繊維に吸尽もしくは付着させる方法(特許文献1参照)が提案されている。しかし、どうしても繊維に吸尽もしくは吸着しない成分が存在し、環境に対する負荷が大きく地球環境保全の面からの問題点が指摘されている。さらに繊維の表面層に付与されるために、洗濯等により難燃剤が脱落しやすいという問題があった。
【0004】
そこで、繊維に難燃性を付与するために、難燃剤をポリマー中に共重合等する方法が開発されている。例えば、リンを含む共重合性のモノマー(難燃剤)をポリエステル製造段階にて反応系に添加し、ポリエステルポリマー中にランダムに共重合する方法が実用化されており、このようなモノマーとしてはカルボキシホスフィン酸系化合物(特許文献2参照)やホスファフェナンスレン系化合物(特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
だが、上記に使用されるリン系難燃剤は、リン化合物によりポリエステルポリマーの溶融粘度が低下し、この溶融ドリップ促進効果により繊維を構成するポリマーが溶融滴下し火源から除かれる、いわゆるドリップ促進型の難燃性付与方法に該当する作用効果を持つ。そしてリン系難燃剤の使用では、このようなドリップ促進型の難燃性付与方法であるために、高温のドリップによって二次延焼火災を防止することができないという問題があった。ちなみに欧州などではこの問題は強く認識されており、ドリップによる二次延焼火災を考慮した防炎規格を設けている国も多く存在している。
【0006】
また、さらに難燃ポリエステル繊維は、直接人間の肌に接する衣料等の用途や、人の頭上に設置されることの多い安全ネットや養生メッシュなどの用途に使用されることが多い。しかし上記のようなドリップ促進型の難燃ポリエステル繊維を用いた場合には、ドリップによる二次延焼火災の可能性に加え、火災燃焼時に溶融したポリマーが皮膚に付着し、火傷を起こす危険性が増加するという問題があった。
すなわちこのような背景から、燃焼時の耐ドリップ性が改善された高い自己消火性を有する難燃ポリエステル繊維が望まれていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−11775号公報
【特許文献2】特公昭53−13479号公報
【特許文献3】特公昭55−41610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐溶融滴下性(耐ドリップ性)と自己消火性とに優れた耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法は、リン原子含有量が0.3〜1.5重量%、窒素原子含有量が0.01〜1.0重量%であるポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸することを特徴とする。
さらには、紡糸口金から吐出した後に、加熱紡糸筒により遅延冷却を行うものであることや、ポリエステルポリマーが窒素化合物を添加したものであること、ポリエステルポリマーがホスファゼン化合物を添加したものであること、ポリエステルポリマーがリン化合物を共重合したものであること、ポリエステルポリマーがポリエチレンテレフタレートポリマーであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐溶融滴下性(耐ドリップ性)と自己消火性とに優れた耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法は、リン原子含有量が0.3〜1.5重量%、窒素原子含有量が0.01〜1.0重量%であるポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸する製造方法である。
ここで本発明に用いられるポリエステルポリマーとしては、汎用的なポリエステルポリマーであれば特に制限は無いが、中でもポリエステルの主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、トリメチレンテレフタレート、トリメチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたものであることが好ましい。とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。またポリエステルポリマー中に適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0012】
そして本発明においてはこのポリエステルポリマーが、リン原子含有量が0.3〜1.5重量%であり、窒素原子含有量が0.01〜1.0重量%であることを必須とする。さらに、このポリエステルポリマー中のリン原子及び窒素原子は、リン化合物または窒素化合物をポリエステルポリマーに、共重合またはブレンドすることにより含有されるものであることが好ましい。あるいは、リン及び窒素を共に含有する化合物を共重合またはブレンドしたポリエステルポリマーであることが好ましい。
【0013】
言い換えると、本発明にて用いられるポリエステルポリマーは、リン化合物を共重合し窒素化合物をブレンドしたポリマーであることや、窒素含有リン化合物をブレンドしたポリマーであることが好ましい。また、このポリエステルポリマーとしては、このようなリン化合物や窒素化合物を溶融紡糸前に共重合または添加して得るポリエステルポリマーであることが好ましい。
【0014】
本発明にて用いられるリンを含有するリン化合物については、一般的に難燃剤として用いられる、いわゆるリン系難燃剤をポリエステルポリマー中に添加することができ、例えば芳香族リン酸エステル系難燃剤であるトリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(t−ブチル化フェニル)ホスフェート、トリス(i−プロピル化フェニル)ホスフェートなどが用いることができる。
【0015】
また、ポリエステル鎖中にリンを含む共重合性の難燃剤モノマーをポリエステル製造段階で反応系に添加してポリエステルにランダムに共重合することも可能であり、このようなモノマーとしてはカルボキシホスフィン酸系化合物やホスファフェナンスレン系化合物を用いることができる。中でも共重合に用いるリン化合物としてはカルボキシホスフィン酸系化合物であることが好ましく、特にはホスホランを用いることが好ましい。またこの場合には、リン化合物をポリエステルポリマーに共重合し、窒素化合物は添加することも好ましい方法である。
【0016】
例えば共重合に用いられるカルボキシホスフィン酸系リン化合物としては下記のようなものを挙げることができる。
【0017】
【化1】

【0018】
またホスファフェナンスレン系リン化合物としては、下記のようなものを挙げることができる。
【0019】
【化2】

【0020】
このようにポリマー中にリン化合物を共重合した場合には、難燃性ポリエステル繊維を使用中に、繊維からリン化合物がブリードアウトすることや溶剤による溶出の恐れがなく、耐久性がより向上するために、より一層広い用途で使用することが可能となる。
ここで、リン化合物の添加量は、添加の方法でも、共重合の場合であっても同様に繊維中のリン原子の含有量として、0.3重量%以上1.5重量%以下であり、さらには0.60重量%以上1.20重量%以下であることが好ましい。リンの含有量が0.30重量%より少ないと難燃性ポリエステル繊維に十分な自己消火性が得られず、逆に1.50重量%を超えるとポリマーの固有粘度が低くなりすぎるため、難燃性ポリエステル繊維の製糸が困難になる可能性がある。
【0021】
一方、本発明において用いられる窒素を含有する窒素化合物としては、好ましくは窒素含有率の高いメラミンおよびその誘導体が挙げることができる。また、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系化合物やオクタベンゼンなどのベンゾフェノン系化合物、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾールや2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノールなどのベンゾトリアゾール系化合物を用いることも好ましく、得られるポリエステル繊維において、難燃性に加えて耐光性をも向上させることが可能となる。特にこのような耐光性に優れた難燃性ポリエステル繊維は、産業資材用途、特に土木や建築資材などの用途に最適である。
【0022】
ここで、窒素含有化合物の添加量は、リン化合物と同様に繊維中の窒素原子の含有量として、0.01重量%以上1.0重量%以下となるようにポリエステルに添加することが本発明では必要である。さらには0.03重量%以上0.80重量%以下であることが好ましい。窒素原子の含有量が0.01重量%より少ないとリン化合物による溶融粘度低下に基づく溶融ドリップ促進効果を十分に抑制することができず、得られる難燃性ポリエステル繊維が燃焼時に溶融滴下(ドリップ)し、本発明の効果を得ることができない。逆に1.0重量%を超えた場合は、過剰にリン化合物を添加した場合と同じく、ポリエステルポリマーの固有粘度が低くなりすぎ、難燃性ポリエステル繊維を安定的に紡糸することができない。
【0023】
さて、本発明の製造方法においては、上記のようにリン含有化合物及び窒素含有化合物を個別に用いる場合に加え、リン及び窒素を共に含有する化合物を共重合またはブレンドしたポリエステルポリマーであることも好ましい。このような化合物を用いた場合、リン原子及び窒素原子をその構造中に含有する化合物であり、単独使用でも自己消火性と耐溶融滴下性(耐ドリップ性)を両立することが可能となる。このようなリン原子及び窒素原子を含有する化合物を用いる事により、ポリエステルポリマー中に添加する化合物の総量が少なくなり、ポリマーの固有粘度の低下を抑えることができるようになる。そのため、繊維の製糸工程においてより高強力が得られやすくなり、また、製糸性も良化するという利点を有する。
【0024】
このようなリン及び窒素を共に含有する化合物としては、ホスファゼン系化合物を挙げることができる。ホスファゼン系化合物はリンと窒素を構成元素とする二重結合を持つ化合物群の慣用名であり、環状構造のシクロホスファゼンとそれを開環重合して得られる鎖状ポリマー、並びにシクロホスファゼンを多官能な化合物で修飾して重合したシクロポリマー等多様な誘導体を含む化合物である。
【0025】
より具体的なホスファゼン系化合物の例としては、フェノキシホスファゼン、プロポキシホスファゼン、ジアミノホスファゼン等を基本骨格とした環状化合物、直鎖状化合物、及びこれらをフェニレン基、ビスフェニレン基等を架橋基として架橋した化合物を挙げることができる。特には環状フェノキシホスファゼンであることが好ましい。
【0026】
本発明の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法は、このようなリン原子及び窒素原子を含有するポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸する製造方法であるが、溶融紡糸前にポリエステルポリマー中に添加されるリン化合物や窒素化合物またはホスファゼン系化合物等は、単独で用いても、2種類以上を併用しても良い。また、ポリエステルに添加する工程はポリエステルポリマーの重合段階であっても、重合後溶融紡糸直前の製糸段階であっても良い。また、リン化合物と窒素化合物、またはホスファゼン系化合物等を高濃度に添加したマスターバッチを調製し、ポリエステル繊維の製糸段階で添加する方法であることも好ましい。
【0027】
本発明の製造方法においては、難燃性ポリエステル繊維は溶融紡糸、すなわちポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸することを必須とする。このとき、紡糸口金から吐出された直後の本発明で使用されるポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。また、このようにして溶融ポリマー組成物を紡糸口金から吐出し成形した後、さらに延伸するため、高効率の生産を行うことができる。紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能となるのである。
【0028】
通常、従来の難燃性ポリエステル繊維としては、ハロゲン系難燃剤またはリン系難燃剤を後加工で繊維に吸尽もしくは付着させるか、またはリン系難燃剤を共重合または添加することによって難燃性を付与するのが一般的であった。しかしこのようにハロゲン系難燃剤およびリン系難燃剤を単独で使用した場合、自己消火性は付与されるものの、本発明のように耐溶融滴下性(耐ドリップ性)を向上させることはできない。本発明においては、上記の特定比率のリン原子と窒素原子とを両方含有するポリエステルポリマーを使用することに最大の特徴があり、結果的に高い自己消火性を有しながら、かつ耐溶融滴下性(耐ドリップ性)を付与することができたのである。この本発明の作用機構は詳細には定かではないが、リン化合物が本来有している自己消火性と、溶融粘度低下に基づく溶融ドリップ促進効果の内、溶融ドリップ促進効果を、ポリマーの燃焼に伴い窒素含有化合物の分解において生じた窒素ガスが、溶融ドリップを抑制するのであると考えられる。結果的に高い自己消火性と耐溶融滴下性(耐ドリップ性)とを両立することができたのである。
【0029】
以上のような本発明の製造方法により得られる耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の強度としては、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり、品質安定性に問題がある傾向にある。また、150℃の乾熱収縮率は、1〜15%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、難燃性ポリエステル繊維を用いた織物や編物、不織布、ロープ、紐といった繊維構造物の後加工工程や製品自体の寸法安定性に影響がある。
【0030】
得られる耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点または強力や屈曲性など物性の観点から、0.1〜100dtex/フィラメントであることが、特には1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特には、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも可能である。さらに本発明の難燃性ポリエステル繊維は、繊維構造物にするに先立ち、上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし撚りを掛けることも好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、繊維構造物での強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したものであってもよい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や耐屈曲性がより向上する。
【0031】
また、得られる耐ドリップ性難燃性ポリエステル繊維としては、45°に傾けた質量1gの繊維束を繊維軸方向に90mm燃焼させるために必要な接炎回数が2回以上7回以下であり、かつその間に起こる溶融滴下が3回以下であることが好ましい。
【0032】
そしてこの本発明の製造方法によって得られた耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維は、燃焼時にドリップを抑制する難燃性の高いポリエステル繊維となる。この耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維は、従来のドリップ型難燃性ポリエステル繊維とは異なり、耐ドリップ型の難燃性を呈する。そのため着炎部分のドリップが抑制され、着炎物や溶融物による火傷や延焼の危険性を防ぐことができる。したがって特には、衣料用途、インテリア用途、産業用途等に好適に用いることができるのである。
【実施例】
【0033】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。
【0034】
(ア)繊維の強伸度及び中間荷伸、
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は強度4cN/dtex時の伸度を表した。
【0035】
(イ)乾熱収縮率
JIS L 1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で150℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
【0036】
(ウ)難燃性
JIS L 1091(D法)に準拠し、45°に傾けた質量1gの繊維束を繊維軸方向に90mm燃焼させるために必要な接炎回数を測定し、N=3の接炎回数平均値が2回以上を自己消火性ありとした。また、測定中に起こる溶融滴下のN=3平均値が3回以下であった場合に耐溶融滴下性(耐ドリップ性)ありとした。ここで自己消火性と耐溶融滴下性(耐ドリップ性)共に効果あるものが本発明の目的として合格したものとした。
【0037】
[実施例1]
リン含有量が4.00重量%となるようにホスホランを共重合したポリエチレンテレフタレート樹脂に窒素含有量が0.34重量%となるようにメラミンを添加して得られたポリエチレンテレフタレートマスターバッチを17.5重量%の割合でポリエチレンテレフタレート樹脂と混合した。これをポリマー溶融温度295℃以上に溶融させ、口径直径0.4mm、192孔数の紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した長さ200mmの300℃に加熱した円筒状加熱帯を通じ、次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて遅延冷却し、さらに油剤付与した後、ローラーにて引き取った。この吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて連続的に延伸と熱セットを行い、1100デシテックス/192フィラメントのマルチフィラメントを得た。このものの強度は5.21cN/dtex、伸度28.6%、乾熱収縮率3.4%(150℃×30min)で毛羽欠点もなく、製糸性に優れたものであった。得られたポリエステル繊維のリン含有量は0.70重量%であり、窒素含有量は0.06重量%であった。難燃性を表1に示す。
【0038】
[実施例2]
実施例1において使用したポリエチレンテレフタレートマスターバッチがリン含有量4.00重量%、窒素含有量が2.00重量%となるように環状フェノキシホスファゼンを添加したポリエチレンテレフタレートマスターバッチを用いたこと以外は実施例1と同様に実施し、リン含有量が0.70重量%であり、窒素含有量が0.35重量%であるポリエステル繊維を得た。難燃性の結果を表1に併せて示す。
【0039】
[比較例1]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートマスターバッチの添加量を2.8重量%としたこと以外は実施例1と同様に実施し、リン含有量が0.11重量%であり、窒素含有量が0.009重量%であるポリエステル繊維を得た。難燃性の結果を表1に併せて示す。
【0040】
[比較例2]
実施例1において、ポリエチレンテレフタレートマスターバッチを添加しないこと以外は実施例1と同様に実施し、リンも窒素も含有しないポリエステル繊維を得た。難燃性の結果を表1に併せて示す。
【0041】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン原子含有量が0.3〜1.5重量%、窒素原子含有量が0.01〜1.0重量%であるポリエステルポリマーを溶融し、紡糸口金から吐出し、延伸することを特徴とする耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
紡糸口金から吐出した後に、加熱紡糸筒により遅延冷却を行うものである請求項1記載の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリエステルポリマーが窒素化合物を添加したものである請求項1または2記載の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
ポリエステルポリマーがホスファゼン化合物を添加したものである請求項1〜3のいずれか1項記載の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリエステルポリマーがリン化合物を共重合したものである請求項1〜4のいずれか1項記載の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。
【請求項6】
ポリエステルポリマーがポリエチレンテレフタレートポリマーである請求項1〜5のいずれか1項記載の耐ドリップ性難燃ポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2012−112048(P2012−112048A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259065(P2010−259065)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】