説明

耐力パネル及び規格化建物並びに構造計算方法

【課題】間取りの制約やコストの上昇を緩和し、且つ基礎梁やアンカーを大断面・高強度にすることなく、作用する過大な力に対抗する。
【解決手段】所定の間隔をおいて軸組の上下梁間に立設され上下端を該上下梁3、4に接合した一対の柱1、Aと、一対1、Aの柱を連結し水平方向の力が作用した場合に変形してエネルギーを吸収する連結材2とからなる耐力パネルBであって、一対の柱の少なくとも一方の柱Aと、上下梁3、4のいずれか一方との接合部Cには、上端または下端が、接合部において水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合部が構成される。鉛直ローラー接合部Cは、ボルト穴15cを有するプレート15bと、第2の柱Aに設けたボルト穴14cを有するプレート14bと、を当接しボルト16a接合する。ボルト穴15c、14cのいずれか一方が、鉛直方向に長い長穴、他方が丸穴で、丸穴は、長穴の中央に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向の力のみを伝達する柱を有する耐力パネルと、この耐力パネルを設けた規格化建物と、この規格化建物を設計する際の構造計算方法と、に関するものである。
【背景技術】
【0002】
柱梁で構成した軸組に適宜耐力パネルを設置して構成した建物において、図5に示すように、水平耐力の高い耐力パネル51a〜51cを平面的に同じ位置に連層して配置すると、最上層の耐力パネル51aから最下層の耐力パネル51cを構成する柱52a〜52c、53a〜53cに軸力が作用する。
【0003】
例えば、同図(a)に示すように建物に水平方向の力が作用していない場合、最下層の耐力パネル51cの柱52c、53cには建物重量に応じた軸力が同じように下向きに作用する。また、同図(b)に示すように建物に水平方向の力が作用した場合、建物重量に応じた軸力に加えて、耐力パネル51a〜51cに働く水平力が変換された軸力が、柱52a〜52cには上向きに、柱53a〜53cには下向きに作用する。従って、最下層の耐力パネル51cの柱53cには建物重量に応じて軸力に水平力が変換された軸力が累加され、直下の部位55に対応する基礎梁54やアンカーに大きな力が働く。
【0004】
これを避けるために、規格化された部材を使用する工業化住宅では、耐力パネルの水平耐力を弱く設定したり、耐力パネルの連層配置を避けていた。このことにより間取りの制限やコスト上昇を招いていた。特に、間口の狭い敷地に中層の建物を計画する場合には設計者は対応に苦慮していた。
【0005】
特許文献1に記載された耐力壁では、耐力壁を構成する矩形の枠の両端部から上方に突出した軸体を梁の下フランジに取り付けた連結金物の挿通穴に上下移動自在且つ水平方向には移動しないように挿通することにより鉛直荷重は支持せず水平荷重を支持するような構成となっている。
【0006】
また特許文献2は特許文献1に記載された耐力壁パネルの保持構造に関するものであり、梁材に保持される耐力壁パネルの上端における水平荷重に対する強度を高めて耐久性を向上させたものである。更に、特許文献3に記載された耐力壁パネルの保持構造は、耐力壁パネル上端と梁材との保持構造を簡略化して施工の省力化をはかるものである。
【0007】
【特許文献1】特開平10−280527号公報
【特許文献2】特開平8−270104号公報
【特許文献3】特開平8−270105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記した従来技術のように、耐力パネルの水平耐力が高い場合、連層して耐力パネルを配置すると、最上層の耐力パネルから最下層の耐力パネルを構成する柱へ軸力が順次累加されて、最下層耐力パネル直下の基礎梁やアンカーに過大な力が働き、その部位が先行して破壊するために耐力パネルの能力を充分に生かせないという問題がある。
【0009】
上記問題を避けるため多層にわたる連層配置を避けることがある。このときには間取りの制約が生じるという問題が派生する。また別の対策としては耐力パネルの水平耐力を弱く設計する。この場合は耐力パネルの必要総数が多くなり間取りの制約が生じるとともにコスト上昇を招くという問題が派生する。
【0010】
また、上記特許文献1の耐力壁の場合、耐力壁を構成する両縦枠が上部からの鉛直荷重を一切負担できない。従って、軸力を分散させたい場合には、耐力パネルとは別に柱を設けなければならないという問題が生じ、コスト上昇を招くという問題が生じる。
【0011】
本発明の目的は、上記の如き間取りの制約やコストの上昇を緩和することにある。また他の目的は、基礎梁やアンカーに作用する過大な力に対抗するために、基礎梁やアンカーを大断面・高強度にして解決することによるコストの上昇を避けることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る耐力パネルは、所定の間隔をおいて軸組の上下梁間に立設され上下端を該上下梁に接合した一対の柱と、該一対の柱を連結し水平方向の力が作用した場合に変形してエネルギーを吸収する連結材とからなる耐力パネルであって、前記一対の柱の少なくとも一方の柱と、前記上下梁のいずれか一方との接合部には、上端または下端が、接合部において水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合部が構成されたものである。
【0013】
上記耐力パネルに於いて、前記鉛直ローラー接合部は、「前記上梁から垂下または前記下梁から起立しボルト穴を有する板材からなる梁側接合片と、前記柱の上端から起立または前記柱の下端から垂下しボルト穴を有する板材からなる柱側接合片と、を当接しボルト接合して構成されたものであり、前記梁側接合片のボルト穴と前記柱側接合片のボルト穴のうち、いずれか一方が鉛直方向に長い長穴で、他方が丸穴であり、前記丸穴は、前記長穴の中央に位置するように高さが設定されており、前記梁側接合片と前記柱側接合片とは、ボルトを軸として回動可能、且つボルトが前記長穴に沿って移動して上下方向に接近あるいは離隔可能となるように、ルーズな状態でボルト接合して構成されることが好ましい。
【0014】
また本発明に係る規格化建物は、規格化された柱・梁で軸組が構成され、該軸組の適所に規格化された耐力パネルを配置することで水平力に対抗する重層の鉄骨造の規格化建物であって、上下端とも梁に対してピン接合される第1の柱と、上下端のいずれか一方は梁に対してピン接合されて他方は梁に対して水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合される第2の柱と、を規格部材として有しており、前記耐力パネルは、前記第1の柱もしくは第2の柱のいずれか一方を2本、または夫々1本ずつを選択し、該選択された2本の柱を所定の間隔で立設するとともに、該2本の柱を水平方向の力が作用した場合に変形してエネルギーを吸収する連結材にて連結して構成されたものである。
【0015】
また本発明に係る規格化建物における構造計算方法は、下記の工程を含むことを特徴とするものである。
【0016】
(1)構造検討の対象となる間取りにおいて耐力パネルを適宜配置する工程、
(2)すべての耐力パネルを構成する柱を第1の柱として構造計算を行う工程、
(3)地震荷重時の軸力以外の検討項目についてはすべて判定がOKとなるように、前記(1)、(2)の工程を繰り返す工程、
(4)地震荷重時の軸力が所定の値を超えている位置において第1層の柱を第2の柱に置き換えて構造計算を行い短期軸力がOKとなっていることを確認する工程。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る耐力パネルでは、該耐力パネルを構成する一対の柱の少なくとも一方の柱と上下梁のいずれか一方との接合部には、水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合部が構成されているので、梁に鉛直方向の力が作用してもこの力を負担することがない。
【0018】
従って、耐力パネルに高い水平耐力を設定した場合の短期軸力(柱の下端に作用する力)が低減する。そのため、耐力パネルの設置された梁の剛性や、柱を梁に接合する為のボルトの強度を小さくすることができ、コストを抑制することができる。
【0019】
また、鉛直ローラー接合部を、梁側接合片と、柱側接合片と、を当接しボルト接合して構成したので、接合片どうしのボルト接合という簡便な手段で、容易に鉛直ローラー接合部を構成することができる。
【0020】
また本発明に係る規格化建物では、上下梁とピン接合される第1の柱と、上下いずれかの梁とは鉛直ローラー接合される第2の柱とを備えているので、大きな軸力が作用する虞のある部位において適宜第2の柱を使用して耐力パネルを構成することができる。このため、水平耐力を弱く設計した耐力パネルを利用することで必要総枚数が多くなったり、軸力を分散させるために耐力パネルとは別に柱を設けるなど、従来の課題を解決してコストを増大させることなく安全性の高い建物を構成することができる。
【0021】
また、本発明に係る規格化建物における構造計算方法は、(1)〜(4)の工程を経ることによって、水平方向の力が作用した場合に基礎梁やアンカーに過大な力を作用させることのない耐力パネルの選択を行うことができる。
【0022】
上記の如く、本発明では、上下両端が上下梁とピン接合される第1の柱と、上下梁のいずれかと鉛直ローラー接合される第2の柱と、を選択して耐力パネルを構成することによって、上層の荷重を負担させたい場合、或いは負担させたくない場合、に適宜対応することができる。
【0023】
上記耐力パネルを利用することによって、耐力パネル耐力を高く設定した上で耐力パネルを連層配置できる。このため、耐力パネル位置が各階階段室脇の壁、外壁の窓脇の壁などに集中させても、基礎梁やアンカーに過大な力が作用することがない。従って、間取りが作り易く、間口の狭い敷地に重層の建物を計画する際に有効である。
【0024】
特に、耐力パネルの片側の柱を第1の柱とすることによって鉛直荷重を受けるようにしているので、建物全体では耐力パネルを含めた柱の本数が減り、コストダウンと供に間取りが作り易くなる。このように、片側の柱を第1の柱として鉛直荷重を受けることができるため、特許文献1に記載された耐力壁のように鉛直荷重を伝えるための柱を別途設置する必要がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明に係る耐力パネル、規格化建物の最も好ましい実施の形態について説明する。本発明に係る耐力パネルは、予め設定された所定の間隔を持って配置され、且つ上下両端が上下の梁に所定の構造で接合された一対の柱と、該一対の柱を連結する連結材によって構成されたものである。
【0026】
耐力パネルを構成する一対の柱のうち少なくとも一方側の柱は、上下両端の何れか一方の端部が梁に対しピン接合され、他方の端部が梁に対し水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントが伝達されることのない鉛直ローラー接合された第2の柱として構成されている。また他方側の柱は、上下両端が梁に対しピン接合された第1の柱として構成されている。
【0027】
上下何れかの端部が梁に対し鉛直ローラー接合される第2の柱を有する耐力パネルでは、鉛直方向に作用する力は第1の柱に伝達されるものの第2の柱に伝達されることはない。また梁に対して水平方向に作用する力は第1の柱及び第2の柱に伝達される。従って、前記の如く構成された耐力パネルを1階に設置した場合には、基礎梁やアンカーボルトに対し鉛直方向の大きな力が作用することがなく、基礎梁やアンカーボルトを特別に大きな断面、或いは強度で構成する必要がない。
【実施例】
【0028】
本実施例に係る耐力パネルの構成、並びに建物の構成について図を用いて説明する。図1は本実施例に係る第2の柱の構成と、この第2の柱を用いた耐力パネルの構成を説明する図である。図2は鉛直ローラー接合部の構成を説明する図である。図3は本実施例に係る第2の柱を用いた耐力パネルを1階に配置すると共に上階に第1の柱のみを用いた耐力パネルを連層した躯体構造を説明する図である。図4は水平方向の力が作用したときの軸力を模式的に説明する図である。
【0029】
先ず、図1、2により第2の柱Aの構成と、この第2の柱Aを用いた耐力パネルBの構成について説明する。
【0030】
第2の柱Aは、所定の間隔(耐力パネルBの幅寸法に対応した寸法)を持って第1の柱1に対峙して配置され、該第1の柱1に対し連結材2を介して接続されるものである。特に、第2の柱Aの上下何れかの端部は、H形鋼からなる上梁3或いは下梁4に対し鉛直ローラー接合部Cを介して接合されることで、水平方向の力のみが伝達され、鉛直方向の力及びモーメントは伝達されることがないように構成されている。本実施例では、第2の柱Aは上端側が上梁3に対し鉛直ローラー接合されている。
【0031】
第1の柱1は角形鋼管からなる柱体10を有しており、該柱体10の下端部に柱脚部材11が設けられ、この柱脚部材11を介して下梁4にピン接合されている。また第1の柱1の上端部には柱頭部材12が設けられ、この柱頭部材12を介して上梁3にピン接合されている。このように構成された第1の柱1では、上梁3に作用する鉛直方向の力を下梁4に伝達することが可能である。
【0032】
第2の柱Aは、第1の柱1と同様に角形鋼管からなる柱体10を有しており、該柱体10の下端部に柱脚部材11が設けられ、この柱脚部材11を介して下梁4にピン接合されている。また、柱体10の上端部には柱頭部14が構成され、この柱頭部14と上梁3に設けた拘束部材15とによって、鉛直ローラー接合部Cが構成されている。
【0033】
第2の柱Aの上端に構成された柱頭部14、及び上梁3に設けた拘束部材15によって構成された鉛直ローラー接合部Cの構成について具体的に説明する。
【0034】
柱頭部14は、第2の柱Aを構成する柱体10の上端部に溶接等の手段で固定された取付片14aと、該取付片14aに溶接等の手段で固定された柱側接合片となる2枚のプレート14bと、によって構成されている。前記2枚のプレート14bは平行に配置されており、且つ所定位置にはこれら2枚のプレート14bを厚さ方向に貫通する丸穴からなるボルト穴14cが形成されている。
【0035】
拘束部材15は、上梁3の下フランジ3aに固定するための複数の穴15dを有する板状の取付片15aと、該取付片15aに溶接等の手段で固定された板状の梁側接合片となるプレート15bと、によって構成されている。前記プレート15bの所定位置には縦方向に長く、横方向には挿通するボルトとの間に若干のクリアランスを見込んだ寸法を持った長穴からなるボルト穴15cが形成されている。特に、プレート15bは柱頭部14を構成する2枚のプレート14bの間に挿入されるものであり、該プレート15bの厚さは2枚のプレート14bの間の寸法よりも若干小さい寸法を有している。
【0036】
拘束部材15は予め上梁3の下フランジ3aに図示しないボルトによって固定され、この拘束部材15に対して第2の柱Aに設けた柱頭部14が接合されることで鉛直ローラー接合部Cが構成されている。従って、梁側接合片となる拘束部材15のプレート15bは上梁3から垂下して配置され、また柱側接合片となる柱頭部14のプレート14bは第2の柱Aの上端から起立して配置される。
【0037】
上梁3の下フランジ3aに固定した拘束部材15のプレート15bを、第2の柱Aを構成する柱体10の上端部に形成した柱頭部14の2つのプレート14bで挟み込むようにして該第2の柱Aを配置し柱脚部材11を下梁4に固定する。そして、ボルト16aを柱頭部14のボルト穴14c、拘束部材15のボルト穴15cに挿通してナット16bを螺合する。これにより、第2の柱Aは、その上端において上梁3に対し水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない状態で接合される。
【0038】
なお、第2の柱Aがその上端において上梁3に対し水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー支持とするには、(1)ボルト16aを半ボルト(プレート15bの厚みに対応した寸法だけネジを切らない部分を有するボルト)としてナット16bを螺合してもルーズな状態が保たれるように構成する。(2)柱頭部14のプレート14b及び拘束部材15のプレート15bの表面にフッ素樹脂や二硫化モリブデン等の潤滑性を有する皮膜を形成して両者の接触面に作用する摩擦力を低減しわずかな力でスライドするように構成する。(3)両者の接触面にベアリングを介在させる、等の方法がある。
【0039】
上記の如く構成された鉛直ローラー接合部Cに於いて、通常時、ボルト16aの長穴からなるボルト穴15cに対する上下方向の位置は略中央になるように、拘束部材15のボルト穴15cの位置、及び柱頭部14のボルト穴14cの位置が設定されている。また、拘束部材15に形成されたボルト穴15cの上下方向の長さは、想定される最大の水平力が作用した場合であってもボルト16aがボルト穴15cの上下端部分においてプレート15bと接触しないように設定されている。
【0040】
従って、上梁3を介して拘束部材15に長期荷重が作用しても、該拘束部材15のプレート15cは下方に移動し得るので、荷重は拘束金物15から第2の柱Aに伝達されることはない。また、地震時には水平力の大きさに応じてボルト16aが上下方向に移動するが、該ボルト16aがボルト穴15cの上下端部分においてプレート15bと接触することはない。即ち、ボルト16aのボルト穴15cに於ける上下方向の移動は常に許容されている。
【0041】
また、地震時の上梁3の変位による水平方向の力の伝達が、拘束部材15を介して第2の柱Aに対して円滑に行えるようにするため、拘束部材15に設けたボルト穴15cの左右方向の寸法は、該拘束部材15の水平方向のわずかな変位の発生によってプレート15bがボルト穴15cの左右端部分においてボルト16aと接触し得るような値に設定されている。
【0042】
なお、本実施例では、柱頭部14は平行に配置された2枚のプレート14aを備えているが、このプレート14aは1枚でも構わない。また、柱頭部14のプレート14aを1枚とし、拘束部材15のプレート15bを平行に配置した2枚のプレートによって構成してもよい。また、柱頭部14のプレート14aのボルト穴14cを縦方向に長い長穴とし、拘束部材15のプレート15bのボルト穴15cを丸穴としてもよい。
【0043】
更に、本実施例では、第2の柱Aの上端部分と上梁3との間に鉛直ローラー接合部Cを構成したが、第2の柱Aの下端部分と下梁4との間に鉛直ローラー接合部Cを構成しても良い。この場合、第2の柱Aを構成する柱体10の上端に、第1の柱1の上端部分と同様の柱頭部材12を設けることで、第2の柱Aを上梁3に対しピン接合することが必要である。
【0044】
耐力パネルBは、上記の如く構成された第1の柱1及び第2の柱Aと、その間に上下方向に配置された2つの連結材2と、によって構成されている。
【0045】
第1の柱1と第2の柱Aは、目的の耐力パネルBの寸法に対応した間隔を持って配置されており、第1の柱1は上下両端部分で上下の梁3、4に夫々柱頭部材12、柱脚部材11を介してピン接合することで、鉛直方向の力、水平方向の力を伝達し得るように構成されている。
【0046】
第1の柱1と第2の柱Aとからなる一対の柱を連結して耐力パネルBを構成する連結材2は、水平方向の力が作用したとき、この力の大きさに応じて変形してエネルギーを吸収する機能を有するものである。
【0047】
このため、連結材2は、鋼材ダンパー20と、2つの枠体21で構成されている。鋼材ダンパー20は、極低降伏点鋼からなリ、略蝶形に形成されており、作用するせん断力に応じて中央のくびれた部分が変形して地震エネルギーを吸収し得るように構成されている。
【0048】
また、枠体21は、底辺となる長辺材21aと、斜辺となる斜辺材21b、21cと、を連結片21dで連結して略二等辺三角形状に構成され、更に水平材21eが長辺材21aの中間位置から連結片21dにかけて配置されることで高い剛性を有している。また鋼材ダンパー20は、枠体21の連結片21dに対してボルト接合されており、劣化した際には交換可能なように構成されている。
【0049】
そして、第1の柱1、第2の柱Aを構成する夫々の柱体10の内側面であって上下方向に夫々2つの枠体21を配置すると共に、夫々の枠体21の長辺材21aを添わせてボルト接合する。これにより、第1の柱1、第2の柱Aには、上下方向に配置された2つの枠体21が、連結片21dどうしが対向するような状態で固定される。更に、枠体21を構成する斜辺材21b、21cの頂点に設けた連結片21dの間に鋼材ダンパー20をボルト接合して固定することで、耐力パネルBが構成される。
【0050】
上記の如く構成された耐力パネルBでは、地震時に作用する水平力に応じて上梁3と下梁4との間で水平方向に相対的な変位が生じたとき、この変位に伴って、向かい合う枠体21に上下方向の相対的な変位が生じる。このときの変位は鋼材ダンパー20に対しせん断力として作用し、斜辺材21b、21cに引張力、圧縮力として作用する。そして、作用するせん断力を鋼材ダンパー20が吸収する。
【0051】
また、通常時は、上梁3に作用する鉛直荷重のすべてあるいは大部分が第1の柱1で負担され、第2の柱Aの上端において、拘束部材15を介して伝達されることがほとんどあるいは全くない。従って、下梁4の第2の柱Aの柱脚部材11が取り付けられた部位に対し、上梁3からの鉛直荷重が作用することはほとんどあるいは全くない。
【0052】
地震時に作用する水平力によって、上梁3と下梁4の間に水平方向の相対的な変位(水平方向変位)が生じたとき、第1の柱1と第2の柱Aは、上端が柱頭部材12、拘束部材15に拘束され、下端が下梁4に固定された柱脚部材11に拘束され、全体として水平力の作用する方向に倒れた平行四辺形をなすように変形する。従って、第1の柱1と第2の柱Aは上梁3と下梁4の水平方向変位に伴って傾斜することとなる。
【0053】
即ち、上梁3に取り付けた拘束部材15が相対的に水平方向に変位し、この変位に伴ってプレート15bに形成されたボルト穴15cの左右方向の端部が、第2の柱Aを構成する縦材10の柱頭部14のボルト穴14cに挿通されたボルト16aと当接して反力が作用し、この反力が抵抗として作用することになる。
【0054】
第1の柱1と第2の柱Aの傾斜は上梁3と下梁4の変位量に応じて変化し、且つ変位量に応じて反力の大きさも変化する。
【0055】
例えば、中小の地震時には、作用する水平力に応じた上梁3と下梁4の相対的な変位に伴って第1の柱1、第2の柱Aが傾斜し、ボルト穴15cのボルト16aに対する当接によって反力が生じ、耐力パネルBそのものが抵抗となって水平力を負担することが可能となる。このため、鋼材ダンパー20の塑性変形を伴うことなく、建物の変形を抑えることが可能となる。
【0056】
このとき、第2の柱Aの上端に形成された鉛直ローラー接合部Cを構成する柱頭部14と拘束部材15との間では鉛直方向の力やモーメントを伝達し合わない為、これらの力によって下梁4を引き上げたり押し込んだりする力は作用しない。
【0057】
尚、第2の柱Aの上端に形成された柱頭部14と拘束部材15との間では水平方向の力は伝達し合い、耐力パネルBに作用する水平方向の力(P)が第2の柱Aを傾斜させようとする力となる。この場合、第2の柱Aを構成する柱体10の柱脚部材11の持ち上げられる側を固定するボルトには下梁4に対する引き抜き力が作用し、その値は、ボルト16aに作用する水平力(P)と、上梁3の下フランジ3aの下面からボルト16aの中心までの寸法(h)との積を、支点となる柱脚部材11の端縁部からボルトまでの寸法(w)で除した値(P・h/w)で表される。
【0058】
また、柱脚部材11の端縁部には、引き抜き力とは向きが正反対で同じ大きさの押し込み力が作用する。しかし、上梁3の下フランジ3aの下面からボルト16aの中心までの寸法(h)は上梁3と下梁4との間隔(建物の階高)に比べて極めて小さいのでこの引き抜き力や押し込み力は極めて小さな値となり、しかもこの2つの力は、接近した位置で互いに打ち消しあう方向に作用するので、下梁4の柱脚部材11の取り付け位置には大きな力は作用しない。
【0059】
また大地震時には、第1の柱1と第2の柱Aの傾斜が大きくなり、一方の柱1又はAにボルト穴15cのボルト16aに対する当接によって圧縮力が生じたとき、更なる傾斜は連結材2に伝えられ、鋼材ダンパー20に対してせん断力が作用する。そして、鋼材ダンパー20は作用したせん断力に応じて塑性変形を繰り返し、エネルギーを吸収して速やかに揺れを減衰させ、建物の損傷を防ぐことが可能となる。
【0060】
上記の如くして鋼材ダンパー20が塑性変形を繰り返してエネルギーを吸収する場合であっても、第2の柱Aから下梁4に作用する力は無視できる。
【0061】
特に、このような耐力パネルBは、第1の柱1、第2の柱Aを上梁3と下梁4の間に配置し、夫々の下端を柱脚部材11を介して下梁4にピン接合し、第1の柱1の上端を柱頭部材12を介して上梁3にピン接合すると共に、第2の柱Aの上端を鉛直ローラー接合部Cを介して接合することで構成することが可能である。
【0062】
上記の如き構成は、工業化住宅のように、上梁3、下梁4のフランジに予め夫々平面モジュールに基づく所定のピッチで複数のボルト穴が形成されている躯体の場合、大きな工事を必要とせずに設置することが可能である。このため、既存の建物の耐震性を高める際に本耐力パネルを採用すると有利である。
【0063】
次に、上記の如く構成した耐力パネルBと、一対の第1の柱1を利用して構成した耐力パネルDと、を同一平面内に連層配置して構成した規格化建物について図3、4により説明する。
【0064】
図に示すように、本規格化建物は3階建ての鉄骨造の工業化住宅であり、図に示す構面方向については1スパンで構成されており、1階部分には耐力パネルBが配置され、2階、3階部分には耐力パネルDが配置されている。1階部分の耐力パネルBと2階、3階部分の耐力パネルDは、スパンの一方の端部に寄せて、これらの耐力パネルB、Dを構成する一対の柱の位置が一致するように配置、即ち連層配置されている。
【0065】
耐力パネルDは、所定の間隔で一対の第1の柱1が配置され、この第1の柱1を連結材2によって連結して構成されている。即ち、耐力パネルDは、従来より一般的に利用されている耐力パネルをそのまま利用したものである。従って、耐力パネルDは、上下に配置された鋼製の梁3に対し、夫々の第1の柱1の下端部分が柱脚部材11を介して固定されると共に上端部分が柱頭部材12を介して固定される。
【0066】
耐力パネルBは1階部分に配置されているため、下梁4としては鋼製の梁であっても良く、鉄筋コンクリート造の基礎梁であっても良い。そして、耐力パネルBを構成する第1の柱1は上下両端部分が柱脚部材11、柱頭部材12を介して下梁4、上梁3に固定されている。また第2の柱Aは、下端部分が柱脚部材11を介して下梁4に固定され、上端部分が鉛直ローラー接合部Cを介して上梁3に固定されている。
【0067】
上記の如く構成された建物では、図4に示すように、水平方向の力が作用していない状態(常時)では、鉛直荷重の一部は黒矢印に示すように、2階、3階に配置された耐力パネルDを構成する一対の第1の柱1を介して下側の梁3に伝達される。
【0068】
ここで、2階の第1の柱1に作用する鉛直荷重(2階の第1の柱1の軸力)は、その上側の梁3から伝達された鉛直荷重に、3階の第1の柱1に伝達された鉛直荷重(3階の第1の柱1の軸力)を加えたものになる。つまり、第1の柱1を用いて耐力パネルDを構成してこれを連層した場合、下階に配置された第1の柱1には、上階の同一位置に配置された第1の柱1の軸力が累加されてゆく。しかし、1階に配置された耐力パネルBにおいては、第2の柱Aが鉛直ローラー接合部Cを介して上梁3に接合されているため、該第2の柱Aには建物の鉛直荷重が伝達されることはなく、その近傍の第1の柱1に分配して伝達される。
【0069】
また建物に対し白矢印で示す水平方向の力が作用したとき、2階、3階に配置された耐力パネルDを構成する一対の第1の柱1には、白矢印で示す互いに向きが反対で同じ大きさの鉛直荷重(付加軸力)が作用する。このとき各階の各柱の軸力は、常時の軸力から付加軸力を加算した(上向きの付加軸力の場合は差し引いた)値となる。
【0070】
この付加軸力においても前述の常時の軸力と同様に、下階に配置された第1の柱1には、上階の同一位置に配置された第1の柱1の付加軸力が累加されてゆく。しかし、1階に配置された耐力パネルBを構成する第2の柱Aは、鉛直ローラー接合部Cを介して上梁3に接合されているため、第2の柱Aにはその直上の第1の柱1の付加軸力が累加されず、該付加軸力は第2の柱Aの近傍の第1の柱1に分配して伝達される。従って、第2の柱Aが固定された位置において、下梁(基礎梁)4に作用する軸力は極めて小さな値となる。
【0071】
また、図とは反対の水平方向の力が作用した場合、第2の柱Aと同一位置にある上階の第1の柱1には上向きの付加軸力(引抜力)が作用するが、第2の柱Aにはその直上の第1の柱1の引抜力が作用せず、耐力パネルBによる引抜力のみが作用するので、第2の柱Aが固定された位置において、基礎梁4や第2の柱Aを固定するアンカーボルトに作用する引抜力は極めて小さな値となる。
【0072】
従って、耐力パネルの水平耐力を低下させることなく、基礎梁4が負担すべき荷重を低減させることができ、基礎梁4の断面性能を高める必要がない。また、第1の柱Aの固定に必要なアンカーボルトの付着力も小さくすることができる。
【0073】
なお、上記実施例では、耐力パネルBを構成する柱の一方のみを第2の柱Aとしたが、耐力パネルBを構成する柱が建物出隅部に配置される場合等を除き、構造安全性が確保されれば、両方の柱を第2の柱Aとしてもよい。
【0074】
次に、上記の如く構成された規格化建物に於ける耐力パネルB、Dを選択する際の方法について説明する。
【0075】
先ず、目的の建物の構造検討の対象となる間取りに対し、耐力パネルを適宜配置する。このとき、配置されたすべての耐力パネルを、一対の第1の柱1と連結材2とからなる耐力パネルDとし、この条件で構造計算を行う。
【0076】
上記構造計算では、通常時に作用する鉛直荷重、鉛直方向の力に対して所定の項目に従って検討し、この検討結果がすべて満足するまで、配置位置、耐力パネルDの形状等の条件を変更して繰り返す。
【0077】
次いで、配置された耐力パネルDに対し地震荷重が作用する条件で計算し、このときの軸力が所定の値を超えているか否かを検討する。そして、軸力が所定の値を超えていない場合にはそのままとし、前記値を超えている場合には、1階の耐力パネルDを構成する一方側の柱(軸力が所定の値を超えている側の柱)を第2の柱Aに置き換えた耐力パネルBとして構造計算を行い、置き換えた第2の柱Aに対する短期軸力が満足することを確認する。
【0078】
上記の如くして規格化建物における耐力パネルB、Dを選択して配置することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る耐力パネルB、および、規格化建物は鋼構造ブレース構造建物一般に利用することが可能であり、このような建物としては、住宅、事務所、店舗、倉庫等がある。特に、間口が狭い重層建物のように、同一平面内に耐力壁を連層する必要が生じるような建物で高い効果を発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実施例に係る第2の柱の構成と、この第2の柱を用いた耐力パネルの構成を説明する図である。
【図2】鉛直ローラー接合部の構成を説明する図である。
【図3】本実施例に係る第2の柱を用いた耐力パネルを1階に配置すると共に上階に第1の柱のみを用いた耐力パネルを連層した躯体構造を説明する図である。
【図4】水平方向の力が作用したときの軸力を模式的に説明する図である。
【図5】従来の建物に於ける軸力を模式的に説明する図である。
【符号の説明】
【0081】
A 第2の柱
B 耐力パネル
C 鉛直ローラー接合部
D 耐力パネル
1 第1の柱
2 連結材
3 上梁
4 下梁
10 柱体
11 柱脚部材
12 柱頭部材
14 柱頭部
14a 取付片
14b プレート
14c ボルト穴
15 拘束部材
15a 取付片
15b プレート
15c ボルト穴
16a ボルト
16b ナット
20 鋼材ダンパー
21 枠体
21a 長辺材
21b、21c 斜辺材
21d 連結片
21e 水平材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔をおいて軸組の上下梁間に立設され上下端を該上下梁に接合した一対の柱と、該一対の柱を連結し水平方向の力が作用した場合に変形してエネルギーを吸収する連結材とからなる耐力パネルであって、
前記一対の柱の少なくとも一方の柱と、前記上下梁のいずれか一方との接合部には、上端または下端が、接合部において水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合部が構成されたことを特徴とする耐力パネル。
【請求項2】
前記鉛直ローラー接合部は、
前記上梁から垂下または前記下梁から起立しボルト穴を有する板材からなる梁側接合片と、
前記柱の上端から起立または前記柱の下端から垂下しボルト穴を有する板材からなる柱側接合片と、を当接しボルト接合して構成されたものであり、
前記梁側接合片のボルト穴と前記柱側接合片のボルト穴のうち、いずれか一方が鉛直方向に長い長穴で、他方が丸穴であり、
前記丸穴は、前記長穴の中央に位置するように高さが設定されており、
前記梁側接合片と前記柱側接合片とは、ボルトを軸として回動可能、且つボルトが前記長穴に沿って移動して上下方向に接近あるいは離隔可能となるように、ルーズな状態でボルト接合して構成されたことを特徴とする請求項1に記載した耐力パネル。
【請求項3】
規格化された柱・梁で軸組が構成され、該軸組の適所に規格化された耐力パネルを配置することで水平力に対抗する重層の鉄骨造の規格化建物であって、
上下端とも梁に対してピン接合される第1の柱と、上下端のいずれか一方は梁に対してピン接合されて他方は梁に対して水平方向の力のみが伝達され鉛直方向の力とモーメントは伝達されない鉛直ローラー接合される第2の柱と、を規格部材として有しており、
前記耐力パネルは、前記第1の柱もしくは第2の柱のいずれか一方を2本、または夫々1本ずつを選択し、該選択された2本の柱を所定の間隔で立設するとともに、該2本の柱を水平方向の力が作用した場合に変形してエネルギーを吸収する連結材にて連結して構成されたことを特徴とする規格化建物。
【請求項4】
下記の工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の規格化建物における構造計算方法。
(1)構造検討の対象となる間取りにおいて耐力パネルを適宜配置する工程、
(2)すべての耐力パネルを構成する柱を第1の柱として構造計算を行う工程、
(3)地震荷重時の軸力以外の検討項目についてはすべて判定がOKとなるように、前記(1)、(2)の工程を繰り返す工程、
(4)地震荷重時の軸力が所定の値を超えている位置において第1層の柱を第2の柱に置き換えて構造計算を行い短期軸力がOKとなっていることを確認する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−150846(P2010−150846A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−331784(P2008−331784)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】