説明

耐圧容器

【課題】
高温環境下の疲労特性に優れ、内部圧力が250kPa以上、温度が180℃〜230℃の範囲の環境で使用することが可能なポリアミド樹脂組成物からなる耐圧容器を提供する。
【解決手段】
ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、平均扁平率が2〜10である扁平断面ガラス繊維(B)5〜120重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物からなる耐圧容器。ポリアミド樹脂(A)はポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマーおよびポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時の疲労特性、衝撃性に優れた、扁平断面ガラス繊維を含有する樹脂組成物からなる耐圧容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、引張、曲げの強度、弾性率などの機械的物性に優れ、しかも耐熱性、耐薬品性が良好であり電気電子部品、自動車用部品、建材部品、機械部品等に広く利用されている。中でもガラス繊維強化ポリアミド樹脂は耐熱性、耐油性、強靭性に優れた特徴を有し、携帯電話やパソコン筐体等の電子機器部品の素材として広く使用されている。
【0003】
近年では、携帯電話やパソコン筐体等の成形品は薄肉化、小型化、軽量化が求められている。このため、製品筐体の成型材料に、高剛性、高靭性、さらに成形品の低ソリ性が不可欠とされている。これに対し、ポリアミド樹脂に扁平断面ガラス繊維を混合する検討がなされてきた。特許文献1には樹脂組成物が剛性、靭性に優れ、特許文献2には樹脂組成物が剛性、靭性、さらに低ソリ性に優れる例が開示されている。特許文献3は伝熱性、絶縁性、靭性及び摺動性に優れる電子部品用の樹脂組成物が記載されている。
【0004】
軽量化、形状における自由度の観点から、特許文献4ではポリアミド樹脂に円形断面ガラス繊維を含む樹脂組成物製耐圧容器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−079212号公報
【特許文献2】特開2009−079215号公報
【特許文献3】特開2009−185151号公報
【特許文献4】特開2004−196926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、例えばゲート部から流動末端までの長さが100mm以上の長尺物であるパイプ状の樹脂製耐圧容器では、円形断面ガラスを用いた場合、樹脂の流動方向の補強効果は十分であるが、樹脂の流動直角方向の補強効果は十分な強度は得られない。特許文献4に記載される円形断面ガラス繊維を含む樹脂組成物製耐圧容器では高温における耐圧性で改善の余地がある。特に自動車エンジンルーム内等の高温の環境で使用する場合、高温疲労特性が要求されるが、従来の技術では満足できるものは得られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために鋭意検討した結果、次のような手段を採用するものである。
(1)ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、扁平断面ガラス繊維(B)5〜120重量部を配合してなることを特徴とするポリアミド樹脂組成物からなる耐圧容器。
(2)(1)のポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、銅化合物(C)0.01〜2重量部を配合してなることを特徴とする(1)記載の耐圧容器。
(3)(1)のポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(D)1〜30重量部を配合してなることを特徴とする(1)または(2)記載の耐圧容器。
(4)(1)のポリアミド樹脂(A)の粘度数が90〜160ml/gであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか記載の耐圧容器。
(5)(1)のポリアミド樹脂(A)がポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマーおよびポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である(1)〜(4)のいずれか記載の耐圧容器。
(6)(1)の扁平断面ガラス繊維(B)の平均扁平率が2〜10である(1)〜(5)のいずれか記載の耐圧容器。
(7)(3)の熱可塑性エラストマー(D)がポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーおよびポリスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか記載の耐圧容器。
(8)内部圧力が250kPa以上、温度が180℃〜230℃の環境で使用する(1)〜(7)のいずれか記載の耐圧容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、内部圧力が250kPa以上、温度が180℃〜230℃の範囲の使用環境において、疲労強度に優れるポリアミド樹脂組成物からなる耐圧容器を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳しく述べる。
【0010】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)としては、例えば環状ラクタムの開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とジアミンとの重縮合物などが挙げられる。具体的には、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン56)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリドデカンアミド(ナイロン12)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー(ナイロン6/66)、ポリカプロアミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマー(ナイロン6T/610)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリドデカンアミドコポリマー(ナイロン6T/12)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリキシレンアジパミド(ナイロンXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ−2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/5MT)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)およびこれらの混合物ないし共重合体を挙げることができる。特に本発明に好適なポリアミドとしては、ナイロン66、ナイロン66/6T、ナイロン6T/610を挙げることができる。
【0011】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)は、溶媒として96%硫酸を使用したISO307(1994年)に準拠して測定した粘度数が、機械特性や流動性の点で90〜160ml/gの範囲であることが好ましい。
【0012】
本発明に用いられるポリアミド樹脂(A)の重合方法は特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、およびこれらの方法を組み合わせた方法を利用することができる。通常、溶融重合が好ましく用いられる。
【0013】
本発明に用いられる扁平断面ガラス繊維(B)は、平均扁平率が2〜10であることが好ましい。平均扁平率が2以上であると、樹脂組成物から得られる成形品の衝撃性、疲労特性(高温、ヒートサイクル)、寸法精度をより向上させることができる。一方、平均偏平率が10以下であれば、樹脂組成物から得られる成形品の強度をより向上させることができる。6以下がより好ましい。
【0014】
ガラス繊維の扁平率は、ガラス繊維の断面の長径(最長径)を短径(最短径)で除することにより求められる。「平均扁平率」とは、各ガラス繊維の扁平率の数平均値を指す。ガラス繊維全てが上記範囲の扁平率である必要はなく、各ガラス繊維の扁平率の数平均値が上記範囲内であればよい。数平均値を求めるためのサンプル数は10以上とする。また、ガラス繊維の断面の長径および短径は、断面を顕微鏡で400倍に拡大して観察することにより求めることができる。扁平断面ガラス繊維(B)の長径は10〜50μmであることが好ましく、15〜35μmであることがさらに好ましい。
【0015】
扁平断面ガラス繊維(B)の繊維長に特に制限はないが、製造上の利便性の観点から、平均繊維長が1〜6mmであることが好ましい。扁平断面ガラス繊維(B)の形態は、混合時の利便性の観点などから、チョップドストランドの形態のものを好適に用いることができる。
【0016】
また、公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤を用いて、扁平断面ガラス繊維(B)を表面処理することで、ポリアミド樹脂との親和性を高めて密着性を向上させ、より優れた機械的強度を得ることができるので好ましい。カップリング剤としてシラン系カップリング剤を用いる場合、その割合はポリアミド樹脂100重量部に対して0.1〜2重量部が好ましい。シラン系カップリング剤を0.1重量部以上用いることにより、補強効果が十分に奏される。一方、シランカップリング剤を2重量部以下とすることにより、成形加工時のガス発生を抑制し、表面外観を良好に保つことができる。
【0017】
扁平断面ガラス繊維としては、例えば、日東紡績株式会社製 CSG3PA−820S(断面の平均扁平率が4、長径28μm、短径7μm、繊維長3mm)などを挙げることができる。
【0018】
本発明において、扁平断面ガラス繊維(B)の割合はポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、5〜120重量部である。5重量部未満では、樹脂組成物から得られる成形品の十分な機械強度が得られない。120重量部を超えると成形加工時の表面外観が悪化する。好ましい範囲としては40〜100重量部である。
【0019】
本発明において、前記ポリアミド樹脂(A)および扁平断面ガラス(B)を配合してなるポリアミド樹脂組成物には、さらに銅化合物(C)を配合することが好まく、長期耐熱性を向上させることができる。銅化合物(C)の具体的な例としては、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどとの化合物などが挙げられる。なかでも1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第一銅、ヨウ化第一銅などを特に好適な銅化合物として例示できる。
【0020】
銅化合物(C)の添加量は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して0.01〜2重量部であることが好ましく、さらに0.015〜1重量部の範囲であることが好ましい。添加量が多すぎると溶融成形時に金属銅の遊離が起こり、着色により成形品の価値を減ずる場合がある。
【0021】
本発明において、前記ポリアミド樹脂組成物には、前記銅化合物(C)と併用する形でハロゲン化アルカリを添加することも可能である。このハロゲン化アルカリ化合物の例としては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができ、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
【0022】
本発明において、前記ポリアミド樹脂組成物には、さらに衝撃性を向上させるために、熱可塑性エラストマー(D)を配合してもよい。熱可塑性エラストマー(D)としては、例えばポリオール等のゴム成分とポリアミドによって生成されるポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリオール等のゴム成分とイソシアネート化合物等によって生成されるポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリオール等のゴム成分とポリエステルによって生成されるポリエステル系熱可塑性エラストマー、エチレン、プロピレン、ブチレンの1種ないし2種以上からなるブロック共重合等からなるゴム成分とポリスチレンからなるポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン類にエチレン・プロピレン・ジエンゴム等の成分を微分散させたポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が挙げられるが、これらは特に限定されるものではなく、硬質成分と軟質成分からなる熱可塑性エラストマーなどが好ましく、成形品に熱融着する軟質成分として要求される目的に合わせて使用することができる。また、ゴム成分が動的もしくは部分架橋されたもの、互いにポリマーがブレンドされたもの、他のポリマーをアロイしたものでも問題はない。本発明においては、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーが特に好ましい。熱可塑性エラストマー(D)は、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、1〜30重量部配合することが好ましい。
【0023】
本発明における前記ポリアミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートなどの非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(例えば、赤燐、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体を添加することができる。
【0024】
前記ポリアミド樹脂組成物を得る方法としては、溶融混練において、例えば2軸押出機で溶融混練する場合にメインフィーダーからポリアミド樹脂(A)、必要により銅化合物(C)および熱可塑性エラストマー(D)を供給し、扁平断面ガラス繊維(B)を押出機のサイドフィーダーから供給する方法が挙げられる。押出機への供給にあたり作業性を向上させるために、エチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被膜あるいは集束された扁平ガラス繊維(B)を用いてもよい。
【0025】
また、前記ポリアミド樹脂組成物を成形する方法は特に制限されず、射出成形、射出圧縮成形、プレス成形、押出成形など公知の方法を用いることができるが、形状自由度、生産性の点で射出成形、射出圧縮成形が好ましい。
【0026】
本発明の耐圧容器は、前記ポリアミド樹脂組成物を、射出成形することにより得ることができる。耐圧容器の形状としては、ゲート部から流動末端までの長さが100mm以上の長尺物である円筒状や角柱状の容器が挙げられる。また、内部に気体や液体さらには混合物等の流路があるパイプ状や半パイプ状が挙げられ、半パイプ状のものは金属と接合させた耐圧容器として用いることができる。本発明の耐圧容器は、250kPa以上の加圧と放圧が繰返される環境、温度が180℃〜230℃の範囲において、成形時の樹脂の流動直角方向における疲労特性に優れる。
【実施例】
【0027】
(1)曲げ強度、曲げ弾性率
試験片:ISO294−1(1994年)に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。
試験条件:ISO178(2001年)に準処し、測定を行った。降伏速度2mm/min、スパン64mm。
試験雰囲気:気温23℃、湿度50%RH。
測定機器:インストロンジャパン株式会社製 万能試験機5566。
【0028】
(2)シャルピー衝撃強度
試験片:ISO294−1(1994年)に準処し、厚さ4mmの多目的試験片を成形した。この多目的試験片の中央部分より、80×10×4mmの試験片を切削加工し、得られた試験片を、JISK7144(1999年)に準処しノッチ加工することで衝撃試験片を得た。
試験条件:ISO179−1(2000年)に準処し、測定を行った。
試験雰囲気:気温23℃、湿度50%RH。
測定機器:CEAST社製 衝撃試験機TYPE6545。
【0029】
(3)高温における曲げ疲労特性
試験片:射出成形した80×80×3mmの角板から、樹脂の流動直角方向にASTM:D671A−TYPEの形状へ切削加工することで曲げ疲労試験片を得た。
試験条件:片持ち両振り、振動数30Hz。
試験雰囲気:200℃。
測定機器:株式会社東洋精機製作所製 繰り返し震動試験機B−20型。
【0030】
(4)ヒートサイクルにおける促進疲労特性
試験片:射出成形した150×100×3mmの角板から、樹脂の流動直角方向に100×10×3mmの形状へ切削加工することで疲労試験片を得た。
前処理:試験片を80℃水中に8時間浸漬処理して吸水させた。
試験条件:試験片端部から15mmまでを専用治具に固定し、その反対側に25MPaの応力をかけ、80℃、95%RH雰囲気下で1時間処理した。その後43重量%塩化カルシウム溶液を表面に塗布し、100℃で1時間加熱処理した。処理後の試験片について、目視によりクラックの有無を観察した。この一連の操作を1サイクルとして15サイクル行い、試験片にクラックが発生するサイクルを割れ発生サイクルとした。
【0031】
(5)耐圧容器の特性1:低温落球衝撃特性
試験片:長さ100mm、内径74mm、外径80mmである厚み3mmの中空パイプを成形した。中空パイプの円形断面が半円となるよう、2等分に切削した。
試験条件:試験片を、−20℃で1時間冷却し、室温に戻らないよう切削面を下に向けて100×80mmの試験片ホルダーに設置した後、試験片中心部に直径63.5mm、重さ1kgの鉄球を落下させた。鉄球の落下は高さ100mmから開始し、割れなかった場合は50mm間隔で高くした。鉄球の落下により試験片が割れたとき、鉄球を落下させた高さを計測した。
測定機器:コーディングテスター株式会社製 落球衝撃試験装置NO.805ST。
【0032】
(6)耐圧容器の特性2:流動直角方向の曲げ特性
試験片:長さ100mm、内径144mm、外径150mmである厚み3mmの中空パイプを成形した。長さ方向が樹脂の流動方向であり、流動直角方向に8×100×3mmへ切削加工することで試験片を得た。
以下の試験条件で曲げ強度と曲げ弾性率を測定した。
試験条件:降伏速度1m/min、スパン50mm。
試験雰囲気:気温23℃、湿度50%RH。
測定機器:インストロンジャパン株式会社製 万能試験機5566。
【0033】
(7)ポリアミド樹脂の粘度数
ISO307(1994年)に準拠し、96%濃硫酸溶液を用いて測定した。
【0034】
(8)ガラス繊維の平均扁平率
ガラス繊維の断面を顕微鏡で400倍に拡大して観察し、長径と短径の長さを測定した。長径を短径で除することにより扁平率を求め、10サンプルの数平均値を求めた。
【0035】
実施例および比較例で使用したポリアミド樹脂、扁平断面ガラス繊維、銅化合物、熱可塑性エラストマーは以下のとおりである。
<ポリアミド樹脂>
ポリアミド66樹脂:融点265℃、粘度数150ml/g。
ポリアミド66/6T(45/55wt%)樹脂:融点300℃、粘度数105ml/g。
<扁平断面ガラス繊維>
扁平断面ガラス繊維:日東紡績株式会社製 CSG3PA−820S(断面の平均扁平率が4、長径28μm、短径7μm、繊維長3mm)。
<円形断面ガラス繊維>
円形断面ガラス繊維:日本電気硝子株式会社製 T275H(断面の直径が10.5μm、繊維長3mm)。
<銅化合物>
ヨウ化第一銅:日本化学産業株式会社製 ヨウ化第一銅。
<熱可塑性エラストマー>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー:三井化学株式会社製“タフマー”(登録商標)MH7020。
【0036】
実施例1〜4、比較例1〜4
Werner−Pfleiderer社製二軸押出機ZSK−57を用いて、表1に示す組成でメインフィーダーからポリアミド樹脂、熱可塑性エラストマーおよび銅化合物を供給し、サイドフィーダーから扁平断面ガラス繊維または円形断面ガラス繊維を供給し、樹脂溶融温度をポリアミド66樹脂組成物については290℃、ポリアミド66/6T樹脂組成物については320℃とし、スクリュー回転を200rpmにて溶融混練後ペレット化した。得られたペレットを80℃、12時間の条件で真空乾燥した。乾燥したペレットを用いて、日精樹脂工業株式会社製の射出成形機NEX1000を用いて、ポリアミド66樹脂組成物については、シリンダー温度290℃、金型温度80℃の条件で、ポリアミド66/6T樹脂組成物については、シリンダー温度320℃、金型温度130℃の条件で成形し、各試験片を得た。評価結果は表1に示すとおりであった。
【0037】
【表1】

【0038】
実施例1〜4および比較例1〜4との比較例の結果より、本発明の樹脂製耐圧容器は、200℃における流動直角方向の曲げ疲労特性と、−20℃における落球衝撃特性が優れるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、扁平断面ガラス繊維(B)5〜120重量部を配合してなるポリアミド樹脂組成物からなる耐圧容器。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、銅化合物(C)0.01〜2重量部を配合してなることを特徴とする請求項1記載の耐圧容器。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂組成物が、ポリアミド樹脂(A)100重量部に対して、熱可塑性エラストマー(D)1〜30重量部を配合してなることを特徴とする請求項1または2記載の耐圧容器。
【請求項4】
前記ポリアミド樹脂(A)の粘度数が90〜160ml/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の耐圧容器。
【請求項5】
前記ポリアミド樹脂(A)がポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマーおよびポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンセバカミドコポリマーからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか記載の耐圧容器。
【請求項6】
前記扁平断面ガラス繊維(B)の平均扁平率が2〜10である請求項1〜5のいずれか記載の耐圧容器。
【請求項7】
前記熱可塑性エラストマー(D)がポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーおよびポリスチレン系エラストマーからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の耐圧容器。
【請求項8】
内部圧力が250kPa以上、温度が180℃〜230℃の環境で使用する請求項1〜7のいずれか記載の耐圧容器。

【公開番号】特開2011−174608(P2011−174608A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14878(P2011−14878)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】