説明

耐寒耐水材料及び耐寒耐水服

【課題】寒冷時における海上等の事故及び災害に備えて着用する耐寒耐水服を提供する。
【解決手段】耐水材料(a)1、耐寒材料(b)2の少なくとも2層以上の積層構造物からなる耐寒耐水材料であって、該耐水材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が15cm以下である難燃性織物に、防水性フィルムを接着させた耐寒耐水材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は寒冷時における海上等の事故及び災害に備えて着用する耐寒耐水服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、高熱・火炎を受ける可能性のある場所で着用される耐寒耐水服は、防炎加工を施された綿布または羊毛織物、あるいは、素材自体が難燃性を有するアラミド系繊維、難燃レーヨン繊維(例えば、特許文献1参照)、難燃ビニロン繊維(例えば、特許文献2参照)等からなる織物が用いられていた。ところが、防炎加工された綿布または羊毛織物を用いた場合、難燃性には優れているが、特に、難燃性を有するセルロース系繊維100%からなる織物は、繊維が硬化するため、引裂強さが小さく、磨耗性が非常に悪くなり、破れやすい。特に、表面がざらざらして、着用者に不快感を与えるといった問題がある。
【0003】
また、アラミド系繊維(例えば、特許文献3)を代表とする難燃性を有する繊維は、難燃性を有するものの、染色が困難であり、非常に高価な染色加工(練り込みや電子線架橋等)に制限され、液流染色加工、浸染染色加工及び捺染染色加工が出来ないため生産性が非常に悪いという不具合がある。かかる不具合を回避するため、最表層部に、混紡、混繊した紡績糸を用いることも考えられるが、見栄えが悪く、着用者に不快感を与える。また、難燃ビニロン繊維等も同様に、湿熱脆化や酸・アルカリ分解を引き起こす可能性が大きいため、他の繊維との混紡、混繊が困難であり、生産性が非常に悪く、洗濯耐久性(寸法安定性)が悪い。
【0004】
一方、綿(コットン)等の短繊維(ステープル)と長繊維(合成繊維マルチフィラメント)からなる複合紡績糸を製造する紡績方法は、電気開繊法などが知られている(例えば、特許文献4参照)。また、2層構造糸や繊維束と単糸との複合紡績糸等についても知られている(例えば、特許文献5、6参照)。さらに、アクリレート系繊維を使用した複合紡績糸等についても知られている(例えば、特許文献7、8参照)。しかしながら、難燃性を有するセルロース系繊維を使用した複合紡績糸、織物、編物等の布帛について記載がなく、綿(コットン)等の短繊維(ステープル)と長繊維(合成繊維マルチフィラメント)との重量割合に特化した電気開繊糸ではなく、難燃性織物のざらつき感の風合いを解決していない。さらに、アクリレート系繊維は難燃性を有する繊維であるが、染色性することが出来ない。
【0005】
【特許文献1】特開2003−27383号公報
【特許文献2】特開平2−154084号公報
【特許文献3】特開昭63−196741号公報
【特許文献4】特開昭54−17063号公報
【特許文献5】特開平6−228838号公報
【特許文献6】特開2000−17532号公報
【特許文献7】特開2004−308035号公報
【特許文献8】特開2004−308036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は従来技術の課題を背景になされたもので、高熱・火炎を受けたとき、着用者を有効に保護し、さらに、着用者の生理的負担を抑制するために、軽量、柔軟で、かつ、染色性、耐久性(耐摩耗性、寸法安定性)に優れ、着用者に高度の満足を与える耐水材料及び耐寒耐水服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記問題点を解決すべく鋭意検討の結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の通りである。
1.耐水材料(a)、耐寒材料(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる耐寒耐水材料であって、該耐水材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が15cm以下である難燃性織物に、防水性フィルムを接着させたことを特徴とする耐寒耐水材料。
2.前記合成繊維マルチフィラメントが、ポリアミド繊維であることを特徴とする上記1記載の耐寒耐水材料。
3.前記複合紡績糸が電気開繊法により製造されたものであることを特徴とする上記1又は2記載の耐寒耐水材料。
4.前記難燃性織物のJIS L−1096(1999) 8.4による質量が、150g/m以上250g/m以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
5.前記複合紡績糸のJIS L−1096(1999) 8.8による見掛け番手が、20綿番手以上40綿番手以下であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
6.建染染料、硫化染料により染色されたことを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
7.前記難燃性織物のATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
8.上記1〜7のいずれかに記載の耐寒耐水材料によりなることを特徴とする耐寒耐水服。
【発明の効果】
【0008】
本発明による耐寒耐水材料及び耐寒耐水服は、優れた難燃性、染色性、風合いが得られる。また、入水時に最も優れた保温性を示し、海難事故の遭遇時等の保命率が高い耐寒耐水服で利用することができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明にかかる耐寒耐水材料は、耐水材料(a)、耐寒材料(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる耐寒耐水材料であって、該耐水材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992) A−4法による炭化長が15cm以下である難燃性織物に、防水性フィルムを接着させてなることが好ましい。
【0010】
難燃性を有するセルロース系繊維は、繊維重量に対して、リンが1.0%〜3.0%が付与された綿繊維であり、JIS K−7201(1999)による酸素指数値(OI)は窒素と酸素の混合気体中で燃焼させる際に窒素と酸素の混合比を変化させて、燃焼を継続させるために必要な最小の酸素濃度を測定したものである。空気中の酸素濃度は約21%であるので、酸素指数値(OI)が25好ましくは27以上のセルロース系繊維であることが好ましい。また、リンは難燃性能があることが知られており、リン量が1.0%未満であれば難燃性能が不十分となり、3.0%を超える場合、風合いが硬化し、引張強さ等の力学物性が低下する恐れがある。
【0011】
セルロース系繊維は、木綿(コットン)、麻、亜麻、パルプ、ケナフ、カポック、バクテリアセルロース繊維等の天然セルロース繊維、ビスコース法レーヨン(ポリノジックを含む)、銅アンモニア法レーヨン、溶剤紡糸法レーヨン等の再生セルロース、及びそれらの改質したもの(例えばカルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース繊維等)等が挙げられる。
【0012】
難燃性を有するセルロース系繊維は、リン系難燃性化合物で後加工されたセルロース系繊維や素材自体が難燃性を有するセルロース系繊維であることが好ましい。後加工による防炎加工は、綿(わた)、糸もしくは織物の状態で実施されるが、綿(わた)の状態で防炎加工すると、開繊し難いため、生産性、加工性を考慮すると、織物の状態で防炎加工することが好ましい。
【0013】
リン系難燃性化合物とは、無機系のリン酸塩、ポリリン酸塩、ポリリン酸アミド、ポリリン酸カーバメイト、Nリンニトリルクロライド、有機系のリン酸エステル、チオリン酸エステル、ホスファイト型、ホスファート型、ホスフィン型(ホスホニウム型)、ホスフィンオキサイド型、リン酸アミド型、有機化縮合物などがあるが代表的な加工剤として、THPC(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Choride)、THPS(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Sulfite)、THPOH(Tetrakis Hydroxy Methyl Phosponium Hydroxide)、Dialkyl Phoshon−Carbonic Acid Amid N−Methylol、N−Mehtylol Dimethyl Phosphonopropionamideがあり、反応時にメチロール基を形成し、セルロース系繊維の水酸基(−OH)と反応して高い洗濯耐久性等を有することが出来る。
【0014】
合成繊維マルチフィラメントは、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド繊維、ポリエステル繊維等であるが、染色性(ピグメントの発生)の観点からポリエステル繊維、ポリアミド繊維、さらに、難燃性の観点から燃焼時に溶融し難いポリアミド繊維、磨耗性の観点からポリアミド繊維、ポリエステル繊維が好ましい。
【0015】
難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量比は、90:10〜97:3であることが好ましく、合成繊維マルチフィラメントの割合が10%を超えると、合成繊維フィラメントが繊維表面に多く出現するため、染色性、難燃性が不十分となり、風合いがかたくなる。特に、ポリアミド繊維の割合が10%を超えると、洗濯耐久性(寸法安定性)が悪くなる。合成繊維マルチフィラメントの割合が3%未満の場合、織物(糸)の表面に、リン系難燃性加工物が付与され、難燃性を有する硬化したセルロース系繊維が多く出現し、ざらざらして優れた風合いや、磨耗性が非常に悪くなり、引裂強さが小さくなる。
【0016】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する複合紡績糸は、均一混合、群混合の複合構造からなる複合紡績糸を用いることが出来る。
【0017】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する均一混合複合糸の製造法は、電気開繊法であることが好ましい。電気開繊法とは、パーンに巻かれたマルチフィラメント糸が高電圧をかけられ、開繊装置により静電気力で開繊され、精紡機のフロントローラ前でドラフトされた短繊維束と重ね合わせて、撚掛けして製造する方法である。本発明の電気開繊法による複合紡績糸は、短繊維束に難燃性を有するセルロース系繊維、マルチフィラメント糸に合成繊維を使用した糸である。難燃性を有するセルロース系繊維は、耐磨耗性が悪くなることが知られており、複合紡績糸の部分的に最表層部や内層部、開繊した合成繊維マルチフィラメントで難燃性を付与するセルロース系繊維を保護して、磨耗性や風合いを改善した。
【0018】
セルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントを複合する群混合の製造技術は、精紡績交撚法、ラップスピニング法等が用いられるが、例えば、精紡交撚法とは、精紡機に混合する2種の繊維束を合流させて通常のリング紡績と同様に加燃して複合糸を紡出する方法であり、複合紡績糸の最表層部に、合成繊維マルチフィラメントを多く配置しているため、で難燃性を付与するセルロース系繊維を保護して、磨耗性や風合いを改善した。
【0019】
複合紡績糸の太さは、20綿番手以上40綿番手以下で、40綿番手を超えると、引き裂き強さ等の力学物性が低下する恐れがあり、20綿番手未満の場合、優れた風合いが得ることが出来ない。
【0020】
複合紡績糸の撚数(撚係数)は、出来るだけ芯部に燃焼時の炎が伝わらないように、また、難燃剤を後加工処理されたセルロース系繊維は、繊維が硬くなり、風合いがざらざらするため、毛羽を抑制するために、出来るだけ、撚数(撚係数)が大きい強燃糸を用いることが好ましい。詳しくは、撚り係数が3.8以上、より好ましくは、4.0以上、さらに好ましくは、4.5以上である。
【0021】
難燃性織物とは、上記複合紡績糸で製織した織物を最表層部に配置した一重織物もしくは多重織物であり、質量が150g/m以上250g/m以下、好ましくは170g/m以上200g/m以下である。250g/mを超えると風合いが硬くなり、屈曲磨耗性が低下して、重量負荷があるため、生理負担が増大し、150g/m未満の場合、平面磨耗性、屈曲磨耗性が低下して、優れた難燃性、洗濯耐久性(寸法安定性)を得ることが出来ない。
【0022】
難燃性織物を多重織物にした場合、最表層部の経糸及び/又は緯糸以外に、JIS K−7201(1999)による酸素指数値(OI)が25以上の難燃性を有する繊維を用いれば、難燃性を損なわないので、配置しても構わないが、着用感が損なわれないように、出来るだけ、短繊維(ステープル)を用いることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0023】
難燃性織物の織組織は、特に限定されるものではなく、平組織、綾組織、朱子組織などが用いられ、エアージェットルーム、レピアルーム、プロジェクタイルルームなど公知の織機を用いて製造することが出来る。
【0024】
難燃性織物の織密度は、燃焼時、炎が伝わり難く、また、燃焼性を有するセルロース系繊維(特にコットン)は、摩耗性が低下するため、出来るだけ高密度が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0025】
難燃性織物の難燃性能は、JIS L−1091(1992) A−4法、通産省の繊維品安全対策会議(昭和48年)、及び難燃表示技術基準調査(昭和50年)のとおり、炭化長が25cm以上は易燃性、15cmを超え25cm未満は可燃性、15cm以下は難燃性であり、本発明は、炭化長15cm以下の優れた難燃性を有することが出来る。
【0026】
難燃性織物を製造する工程は、毛焼、糊抜き、精錬、漂白、シルケット、染色、整理(仕上)の工程が好ましく、柔軟性、染色性、磨耗性等を考慮して、液体アンモニア加工が施される。
【0027】
近赤外線領域における迷彩効果を有する迷彩柄は、ライトグリーン、ダークグリーン、ブラウンとブラックであり、特に、近赤外線領域に用いられる染料は、建染染料、硫化染料であり、CI Vat Yellow 2、CI Vat Yellow 48、CI Vat Red 10、CI Vat Red 15、CI Sulphur Black 6、CI Suphur Black 11、CI Vat Black 8、CI Vat Black 19、CI Vat Black 25、CI Vat Green 1、CI Vat Green 9、CI Vat Green 13、CI Vat Blue 14、CI Vat Blue 20、CI Vat Blue 25、CI Vat Blue 66、CI Vat Brown 1、CI Vat Orange 2、CI Vat Orange 9等である。
【0028】
近赤外反射率の設定は、700〜1200nmの範囲で自然界の湿った土、草、乾燥土、日陰の樹葉、日射の樹葉の反射率に合わせて、これら反射率の混成によって迷彩服やテント、その他装備品の形状を崩したり、分断させて自然界に混和させるように調整されるものである。色別では、ブラックが最も低反射率に加工することができ、ブラウン、ダークグリーン、ライトグリーンの順で高い反射率のものに加工することができるものである。なお、近赤外反射率による迷彩柄は4段階に限定するものでなく、さらに多段階にすることにより、更に迷彩性能がよくなる。
【0029】
難燃性織物を染色する染料は、建染染料、硫化染料、反応性染料、酸性染料等があるが、防炎加工を施すことによって、反応性染料、酸性染料は、変色や耐光堅牢度が悪くなるため、建染染料、硫化染料が用いられ、150g/m未満の場合、近赤外線領域における迷彩効果を有する難燃性織物を得るために、染料の繊維単位重量あたりの含有量を多くする必要があるため、染色堅牢度特性(特に湿潤摩擦染色堅牢度)が悪くなる恐れがある。
【0030】
また、用途に応じて、柔軟加工、防水加工、撥水・撥油加工、抗菌・防臭加工、吸水・吸汗加工、抗ピル加工、光反射加工、防汚加工等の機能加工が施すことが可能である。
【0031】
代表的な仕上加工剤は、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、及びポリエチレン系樹脂等を挙げることが出来るが、単独使用でも良く、配合して使用することも可能である。このなかでも、耐薬品性等に優れるポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0032】
撥油性、及び撥水性を有するための加工剤は、金属塩撥水剤(たとえば、アルミニウム塩型、クロム塩型、ジルコニウム塩型、チタン塩型等)、反応性撥水剤(たとえば、エステル結合型撥水剤、エーテル結合型撥水剤等)等が挙げられるが、特に限定されないが、撥油性、及び撥水性を向上すると、風合いが硬くなるので、注意が必要である。
【0033】
耐水材料の撥油性及び撥水性は、ATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であることが好ましい。
【0034】
難燃性織物に積層する防水フィルム(透湿膜)は、ポリウレタン湿式コーティングやポリウレタン・アクリル湿式コーティング等を施す方法、あるいは前記防水性フィルムとして多孔質テトラフルオロエチレンフィルムや多孔質ポリウレタンフィルム等をラミネート又ははり付ける方法が考えられるが、特に限定するものではない。
【0035】
耐寒材料(b)は、表面から裏面まで貫通した孔を有する樹脂シートを用いて成るが、前記機能を果たすには、具体的には、樹脂シートの厚さ3mm以上,含気率80%以上、通気度100cc/cm・s以上であることが望ましい。この様な樹脂シートには連続気泡が形成されるように製造された樹脂発泡体や、独立気泡が形成されるように製造された樹脂発泡体に更に表面から裏面まで貫通する孔を設けた製品等が利用される。また保温性及び通気性の面からは、より小さな孔が数多く存在することが好ましい。樹脂の種類は特に限定されるものではないが製造し易さ、シートとした後の柔軟性及び圧縮時の厚みの保持性を考慮すると、例えばポリウレタンやポリエチレン、ポリ塩化ビニル等を用いることができる。
【0036】
耐寒材料(b)は前記樹脂シートを主要部とするが、衣服にした時の着用のしやすさ、あるいは縫製のしやすさを得るには摩擦抵抗の小さい布帛を少なくとも人体側に積層する必要がある。積層の方法としては柔軟性や通気性を損なうことが少ない方法、例えばホットメルト接着樹脂を薄く粗密度に配して不織布状とした不織布状ホットメルト接着剤を用いて加熱加圧接着する方法や、樹脂シートと布帛いずれか一方の接着面に溶融したホットメルト樹脂を点状に付着させるドット加工を施した後重ね合わせて加熱し加圧して接着する方法等を採用することが好ましい。摩擦抵抗の小さい布帛としては例えば合成繊維フィラメント糸からなるタフタ、トリコット等があげられる。
【0037】
本発明の耐寒耐水服を縫製する際には防水性の維持を目的として、耐水材料(a)と耐寒材料(b)はそれぞれ単独で縫製を行なった後、重ね合わせて一体化し図2に例示されるような耐寒耐水服とすることができる。なお、外層材の縫い目は防水テープ等でシールしておくことが好ましい。
【実施例】
【0038】
次に、実施例及び比較例を用いて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。尚、実施例、比較例に記載する評価は以下に示す方法である。
【0039】
番手:JIS L−1096(1999) 8.8 による。
【0040】
質量:JIS L−1096(1999) 8.4 による。
【0041】
混率:JIS L−1030−1(1998)及びJIS L−1030−2(2005)による。
【0042】
密度:JIS L−1096(1999) 8.6 による。
【0043】
燃焼性(炭化長):JIS L−1091(1992) A−4法 による。
【0044】
セルロース系繊維(綿)に付与されたリン量(重量%):モリブデン酸アンモニウム法による比色定量分析による。
【0045】
染色性:被験者10名によるイラツキ感の判定 ◎:優 ○:良 △:やや不良 ×:不良
【0046】
風合い:被験者10名によるざらざら感の判定 ◎:優 ○:良 △:やや不良 ×:不良
【0047】
着用感:被験者10名が海上浮遊時を想定して、外気環境温度8℃の人工気象室内に水温3〜4℃の水槽を設け、その中に耐寒耐水服を着用し、1.5時間浸漬し、耐寒性(寒さ)の着用感アンケートを実施した。
耐寒性 (◎;優 ○;良 △;やや不良 ×;不良)
【0048】
(耐水材料(a)の製造例)
ポリアミド繊維であるナイロン66(Type−880:東洋紡績株式会社製)、スーピマ綿(Type−DP:東洋紡績株式会社製)を用いて、表1及び表2に示した番手、紡績方法を用いた紡績糸(撚係数=4.55)を得た。ただし、実施例7で用いた耐水材料(a)は、織物の2層目に表糸の1/4の割合で、40/1綿番手(スーピマ綿)を用いて、リング精紡法による紡績糸(撚係数=4.55)を使用して、2重織物を作成した。次いで、常法でエアジェット織機を用いて製織し、2/1綾織物を得た。次いで、常法で、毛焼、糊抜、精錬、漂白、シルケット加工した。次いで、CI Vat green 9 5%owf、エレガントールAS 2.0g/l、クレワットN−2 0.5g/l、苛性ソーダ(40° Be) 1.6cc/l、グルコース2.0/lb、染色条件28℃で染浴を準備し、染料と助剤を分割投入し、10分後、苛性ソーダ及びハイドロサルファイトを分割投入して5分間攪拌した後、15分間で45℃まで昇温し、さらに5分間で60℃まで昇温させ、この状態で50分間染色した。染色完了後、除冷して水洗した。次いで、過酸化水素、酢酸を併用した常法の酸化処理、ソーピング、湯洗を行い、発色を行った。
【0049】
さらに、染色処理された織物をN-メチロールジメチルホスホノプロピオン酸アミドを有効成分とする(Pyrovatex CP new、Ciba Specialty Chemicals K.K.)40%、塩化アンモニウム0.5%を含む水溶液に浸漬し、ウエットピックアップが65%になるように絞り、乾燥・熱処理し、織物を得た。さらに、織物に、多孔質テトラフルオロエチレンフィルムを、ウレタン接着剤を用いてさせることによって防水性織物を得た(比較例3及び比較例4は、かかる工程を2回実施した)。
【0050】
さらに、織物を、アサヒガードAG7105(明成化学株式会社製)50g/l、プロミネートB830W2X(ジャパンコンポジット株式会社製)10g/l、メイカテックスHP600(明成化学株式会社製)30g/lを含む水溶液に浸漬し、ウエットピックアップが55%になるように絞り、乾燥(140℃×25秒間)、キュアリング(140℃×60秒間)処理し、撥水・撥油性を有する織物を得た。
【0051】
(耐寒材料(b)の製造例)
連続気泡を有するポリウレタン樹脂シート(厚さ3mm、含気率95%、50g/cm荷重圧縮時の厚み保持率70%、通気度300cc/cm・s)に不織布状ホットメルト接着剤を介してナイロントリコット(厚さ1.0 mm)を接着させて作製した。耐水材料(a)及び耐寒材料(b)は個別に縫製した後、重ね合わせて図1のような耐寒耐水服を作製した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例は、難燃性、染色性、風合いに優れている難燃性織物であるが、比較例は、難燃性、染色性、風合いをすべて満足する難燃性織物を有することが出来なかった。なお、実施例と比較例共に、JIS L−0841(1992)、JIS L−0842(1988)の堅牢度は、いずれも3級以上の良好な性能を示した。さらに、JIS L−1092(1998) A法における耐水度は98Kpa以上を示し、着用感は、優れた耐寒性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の難燃性織物は、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維との割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲である複合紡績糸を用いることによって、優れた難燃性、染色性、風合いを得ることが出来る。また、入水時に最も優れた保温性を示し、海難事故の遭遇時等の保命率が高い耐寒耐水服で利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の積層体とした耐寒耐水材料を示す断面模式図である。
【図2】耐寒耐水服の縫製例を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1:耐水材料(a)
2:耐寒材料(b)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水材料(a)、耐寒材料(b)の少なくとも2層以上の積層構造物からなる耐寒耐水材料であって、該耐水材料(a)が、難燃性を有するセルロース系繊維と合成繊維マルチフィラメントとの割合が重量%比で、90:10〜97:3の範囲からなる複合紡績糸を用いて製織した織物を最表層部に配置し、JIS L−1091(1992)A−4法による炭化長が15cm以下である難燃性織物に、防水性フィルムを接着させたことを特徴とする耐寒耐水材料。
【請求項2】
前記合成繊維マルチフィラメントが、ポリアミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の耐寒耐水材料。
【請求項3】
前記複合紡績糸が電気開繊法により製造されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の耐寒耐水材料。
【請求項4】
前記難燃性織物のJIS L−1096(1999) 8.4による質量が、150g/m以上250g/m以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
【請求項5】
前記複合紡績糸のJIS L−1096(1999) 8.8による見掛け番手が、20綿番手以上40綿番手以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
【請求項6】
建染染料、硫化染料により染色されたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
【請求項7】
前記難燃性織物のATTCC Test Method 118による撥油性が5級以上、JIS L−1092(1998)による撥水性が3級以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の耐寒耐水材料。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の耐寒耐水材料によりなることを特徴とする耐寒耐水服。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−30448(P2008−30448A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82271(P2007−82271)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】