説明

耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法

【課題】従来の技術では、真円度と耐座屈性能の両方に優れた電縫管を得ることが難しい。
【解決手段】帯板を通材Wしつつロール成形し、突き合せた板幅両端部を電縫溶接して管10となし、電縫溶接部に熱処理をした後、管を矯正する電縫管の製造方法であって、管を矯正するにあたり、回転矯正機8を用い、該回転矯正機のスタンド間距離を、管10の外径以上かつ管の外径の8倍以下に設定する。さらに、前記回転矯正機は計3スタンド以上で、最前段を入側スタンド、最後段を出側スタンド、それらの間のスタンドを中央スタンドとして、入側、出側両スタンドのロール高さをほぼ同じとし、中央スタンドのロール高さを入側、出側両スタンドのそれに対し+1mm以上、+40mm以下の範囲で上昇または下降させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真円度と耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法に関し、特に、ラインパイプとして敷設した場合、地震や凍土の地盤変化による座屈への影響を受けにくい、真円度と耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油や天然ガス等を輸送するパイプラインには、多くはUOE鋼管が適用され、JCO、スパイラル鋼管、シームレス鋼管、一部には電縫管も適用されている。
電縫管は、熱延帯板を素材とするワーク(加工対象物)を、連続的に通板しつつロール成形してオープン管状となし、スクイズロールで板幅両端部を付き合わせ、電縫溶接して製造する。しかし、前記ロール成形の途中では、ワーク断面形状を真円形状に沿わせることができないため、電縫管は他の鋼管と比べ円周方向に不均一な機械的特性を有する。そこで、電縫溶接して管とした後、さらにサイザーで矯正して目標の真円度に近づけているが、円周方向の不均一歪みは残留したままであった。
【0003】
その結果、特に電縫管をラインパイプとして敷設した場合、地震発生時に局部的にパイプが座屈しやすく、破損しやすいという問題があった。また、凍土地帯のラインパイプとして電縫管を埋設した場合、夏季には軟化し冬季には凍結する地盤変化による圧縮力が、パイプ長手方向に作用することで、ラインパイプが破損するに至るという問題を常に抱えていた。したがって、電縫管をラインパイプに適用する場合は、その敷設条件に大きな制約が伴うため、電縫管の普及率はUOE鋼管等に比較すると低くならざるを得なかった。
【0004】
従来から、電縫管の普及を図るため、例えば、特許文献1、2等に示されるように、素材の改良によって低温靭性にすぐれたAPI規格X80鋼管や機械的複合特性を有するラインパイプ用鋼材の技術開発が行われている。
【特許文献1】特開昭58−34133号公報
【特許文献2】特許第3903747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記従来の技術はいずれも素材または鋼管の平均的な機械的特性を変えるものであって、成形途中で生じた不均一な歪による機械的特性を管円周方向に均一化するものではない。
本発明者らが、電縫管を用いたラインパイプの円周方向機械的特性を調べたところ、素材のロール成形時に、素材の板幅中央部に歪みが集中し、歪みが集中した板幅中央部の降伏応力がそれ以外の部分の降伏応力よりも高くなり、これによって電縫管の円周方向に不均一な機械的特性が生じる大きな原因となっているということが判明した。
【0006】
しかも、電縫管の矯正には、管の真円度を向上することを目的として、サイザーが多用される。このサイザーでは、管を回転させずに孔型ロールによる微小量の縮径のみで矯正するため、管円周方向の特定部位に集中する歪みを分散することが全くできないという欠点がある。すなわち、従来の技術では、真円度と耐座屈性能の両方に優れた電縫管を得ることが難しいという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題を解決するためのものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(請求項1)
帯板を通材しつつロール成形し、突き合せた板幅両端部を電縫溶接して管となし、電縫溶接部に熱処理をした後、前記管を矯正する電縫管の製造方法であって、前記管を矯正するにあたり、回転矯正機を用い、該回転矯正機のスタンド間距離を、前記管の外径以上かつ前記管の外径の8倍以下に設定することを特徴とする耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法。
(請求項2)
前記回転矯正機は計3スタンド以上で、最前段を入側スタンド、最後段を出側スタンド、それらの間のスタンドを中央スタンドとして、入側、出側両スタンドのロール高さをほぼ同じとし、中央スタンドのロール高さを入側、出側両スタンドのそれに対し+1mm以上、+40mm以下の範囲で上昇または下降させることを特徴とする請求項1に記載の耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、回転矯正機を用い、管を回転矯正することで、電縫管の円周方向に比較的均一な機械的特性を有する電縫管を得ることができ、真円度と耐座屈性能に優れた電縫管を製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の実施に適した電縫管造管ラインの1例を示す概略図である。図1の造管ラインでは、素材Wがアンコイラー1で払出され、レベラー2で矯正され、次いでロール成形機4で素材Wを板幅方向に丸めるようにロール成形される。
このロール成形の最終段階で、フィンパススタンド3により板幅方向両端部がさらにロール成形され、溶接前のシームがコンタクトチップ等からなる誘導加熱手段5で誘導加熱された後、スクイズロールからなる圧接手段で付き合わせ圧接される。この誘導加熱し付き合わせ圧接することを電縫溶接するという。電縫溶接により帯板は管10となる。管10は、スクイズロール6出側でビード部切削機7によりビード部切削され、図示しないシームアニーラーで電縫溶接部(溶接後のシームとその周辺の熱影響部)を熱処理された後、管切断機9で所定の長さに切断される。切断後の管10は、管の真円度を向上し管の曲がりを矯正するために回転矯正機8で回転矯正される。20は切断後の管10の通材方向である。
【0010】
一方、図2に例示する従来多用される電縫管造管ラインは、アンコイラー1で払出された素材Wをロール成形した後、電縫溶接して得た管10にビード部切削および電縫溶接部熱処理を施すまでは図1と同じであるが、その後の工程が異なる。
すなわち、従来の製造工程では、アンコイラー1にまでつながっている管10が、回転されずにサイザー11により外径調整され、その後、管切断機9で所定長さに切断される。
【0011】
本発明には、表面形状を回転双曲面形状とする上下一対の鼓形ロールを各スタンドに組み込んだ回転矯正機8を用いる。この回転矯正機は、通材方向(管長手方向)と所定のロール傾斜角をなすように、上下一対の鼓形ロールを組み込んでなるスタンドを、計3スタンド以上直列に配置してなり、上下一対の鼓形ロールで管を回転させながら通材方向(管長手方向)に送りつつ、管を回転矯正するものである。
【0012】
本発明者らは、回転矯正時の材料(管)の挙動を鋭意検討し、その結果、回転矯正機のスタンド間において管の長手方向に圧縮歪みが蓄積すること、あるいは管の長手方向に圧縮歪み・引張歪みが交互に加わることを見出した。これらは、管の長手方向にバウシンガー効果と称する、材料の降伏応力を低減する効果が有効に働くことを示唆している。管の長手方向に圧縮歪みが加わり、塑性変形が生じておれば、その後の材料試験で引張荷重を作用させたとき引張荷重下で得られる降伏応力は、圧縮歪みが加わり塑性変形が生じていない場合よりも低減し、また管の長手方向に圧縮・引張歪みが交互に作用し、材料内部の可動転位が増加しておれば、可動転位が少ない場合よりも、その後の材料試験で降伏応力は低減する。しかも、その歪みは管が回転することによって管円周方向に均一な歪みとなりやすく、さらに、降伏応力の円周方向分布を調査したところ、管全体の降伏応力が低減するだけでなく、その歪みが円周方向で均等化する傾向にあることを把握した。
【0013】
一方、従来の電縫管製造においては、サイザーによって、管を回転させずに孔型ロールによる微小量の縮径のみで矯正するため、管円周方向の特定部位に集中した歪みを分散することが全くできていなかったのである。
そこで、回転矯正機における上記の有用な作用を活用して、造管後の管を回転矯正すれば、ロール成形途中で生じた不均一な歪による降伏応力を、管円周方向に均一化することができ、真円度と耐座屈性能に優れる電縫管を製造可能である。
【0014】
また、回転矯正機を用い、管を回転矯正することで、バウシンガー効果を管の円周方向、長手方向にできるだけ均等化するように働かせるには、管とロールとの接触回数を増やすだけでなく、管の長手方向曲げ歪を有効に使うことが必要である。なぜなら、管の長手方向曲げ歪が過度に小さいと、バウシンガー効果が不十分となるからである。
このため本発明では、管を回転矯正する際、回転矯正機のスタンド間距離Lを、前記管の外径かつ以上前記管の外径の8倍以下に設定するようにした。回転矯正機のスタンド間距離Lは、管を回転矯正する際の管の曲げアーム長に相当するから、管に付与する長手方向曲げ歪を大きくするには、管の曲げアーム長を短くしてやればよいのである。
【0015】
しかし、管の曲げアーム長を過度に短くすると、管の扁平変形が生じ、回転矯正した管の真円度が悪化してしまうことになるから、回転矯正機のスタンド間距離Lは、管の外径以上に設定するとした。一方、管の曲げアーム長を過度に長くすると、管の長手方向曲げ歪が小さくなってしまい、バウシンガー効果が不十分となるから、回転矯正機のスタンド間距離Lは管の外径の8倍以下に設定するようにした。
【0016】
また、回転矯正機は、通常計3スタンド以上で構成され、各スタンドが上下計2ロールを有し、最前段を入側スタンド、最後段を出側スタンド、それらの間のスタンドを中央スタンドとして、入側、出側両スタンドのロール高さをほぼ同じ(誤差1mm未満で同じ)とし、これらのロール高さに対して中央スタンドのロール高さを上昇または下降させて管長手方向に曲げ歪みを加える。
【0017】
その際、入側、出側両ロール高さに対する中央ロール高さの上昇量または下降量を、+1mm未満とすると、管長手方向の圧縮歪が不足して材料の弾性変形以内となり、歪が入らないか著しく低くなる。一方中央ロール高さの上昇量または下降量を+40mm超とすると、管の扁平変形が著しく大きくなり、管の真円度が低下する。そこで、入側、出側両ロール高さに対する中央ロール高さの上昇量または下降量(略して中央ロール上昇量または中央ロール下降量)を+1mm以上、+40mm以下とするのがよい。
【実施例】
【0018】
質量%で0.05%C、0.2%Si、1.2%Mnを含有する鋼組成になる熱延鋼帯を素材とし、該素材を図1または図2に示した造管ラインに通板し、外径が600mm、肉厚が19.1mmの電縫管を製造した。
製造した電縫管の電縫溶接部から円周方向にほぼ90度の位置、およびほぼ180度の位置(電縫溶接部の対向する位置)において、管長手方向にJIS13号引張試験片を各々10本切り出し、引張試験を行って機械的特性を求め、効果を評価した。得られた機械的特性を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
(No.1) 本発明例として、図1の造管ラインにて造管し、その際、計3スタンドからなる回転矯正機のスタンド間距離L、中央ロール上昇量をそれぞれ表1のNo.1欄に示す値に設定した。
(No.2) 比較例として、図1の造管ラインにて造管し、その際、計3スタンドからなる回転矯正機のスタンド間距離L、中央ロール上昇量をそれぞれ表1のNo.2欄に示す値に設定した。
(No.3) 比較例として、図1の造管ラインにて造管し、その際、計3スタンドからなる回転矯正機のスタンド間距離L、中央ロール上昇量をそれぞれ表1のNo.3欄に示す値に設定した。
(No.4) 従来例として、図2の造管ラインにて造管し、その際、サイザーは4スタンド構成のものとした。
【0021】
表1に示した結果から、No.1の本発明例の電縫管は、180度位置近傍の降伏応力YSが、No.2の比較例、No.4の従来例に比べて低下し、円周方向降伏応力の差ΔYSがNo.2の比較例、No.4の従来例よりも小さくなっている。
これに対し、No.2の比較例、No.4の従来例では、180度位置近傍の降伏応力YSが低下しておらず、円周方向降伏応力の差ΔYSが本発明例よりも大きい。また、比較例(No.3)の場合、回転矯正機のスタンド間距離Lが本発明の条件を満たしていないため、管の回転矯正時に大きな偏平変形が生じ、真円度が不合格となった。
【0022】
したがって、No.1の本発明例の電縫管は、真円度と耐座屈性能に優れる電縫管である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施に適した電縫管造管ラインの1例を示す概略図である。
【図2】従来多用される電縫管造管ラインの1例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0024】
W 素材(熱延帯板)
1 アンコイラー
2 レベラー
3 フィンパススタンド
4 ロール成形機
5 誘導加熱手段(コンタクトチップ)
6 圧接手段(スクイズロール)
7 ビード部切削機
8 回転矯正機
9 管切断機
10 管
11 サイザー
20 通材方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯板を通材しつつロール成形し、突き合せた板幅両端部を電縫溶接して管となし、電縫溶接部に熱処理をした後、前記管を矯正する電縫管の製造方法であって、前記管を矯正するにあたり、回転矯正機を用い、該回転矯正機のスタンド間距離を、前記管の外径以上かつ前記管の外径の8倍以下に設定することを特徴とする耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法。
【請求項2】
前記回転矯正機は計3スタンド以上で、最前段を入側スタンド、最後段を出側スタンド、それらの間のスタンドを中央スタンドとして、入側、出側両スタンドのロール高さをほぼ同じとし、中央スタンドのロール高さを入側、出側両スタンドのそれに対し+1mm以上、+40mm以下の範囲で上昇または下降させることを特徴とする請求項1に記載の耐座屈性能に優れる電縫管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−285711(P2009−285711A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−142649(P2008−142649)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】