説明

耐指紋性硬化性樹脂組成物およびそれを用いる耐指紋性被膜を形成する方法

【課題】加工性に優れ、硬度や耐摩耗性が高く、しかも耐指紋性や耐汚染性が高い耐指紋性被膜用の硬化性樹脂組成物の提供。
【解決手段】(A)分子内に活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)とを有するアクリル樹脂、若しくは活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂との混合物、
(B)分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能重合性化合物、
(C)光重合開始剤、および
(D)マイケル反応触媒、
を含有する耐指紋性硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐指紋汚れ性(耐指紋性)と耐皮脂汚れ性を有する熱と活性エネルギー線の両方で硬化しうる硬化性樹脂組成物およびそれを用いる耐指紋性被膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品、例えばポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS、MS樹脂、AS樹脂などのスチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、トリアセチルセルロースなどの酢酸セルロース等の樹脂から形成される製品は、その軽量性、易加工性、耐衝撃性などが特に優れているので、容器、インストルメントパネル、包装材、各種ハウジング材、光デイスク基板、プラスチックレンズ、液晶デイスプレイやプラズマデイスプレイなどの表示機器の基材等に多く用いられている。
【0003】
しかしながら、これらプラスチック製品は表面硬度が低いため傷つきやすく、ポリカーボネートやポリエチレンテレフタレートのような透明な樹脂においては、その樹脂が持つ本来の透明性あるいは外観が著しく損なわれるという欠点があり、耐摩耗性を必要とする分野でのプラスチック製品の使用を困難なものとしている。
【0004】
このため、これらプラスチック製品の表面に耐摩耗性を付与する活性エネルギー線硬化性ハードコート材料(被覆材)が求められている。しかしながら、市販の活性エネルギー線硬化性ハードコート材料の硬化層は表面に指紋や皮脂が付着しやすく、かつその汚れを簡単に除去できない傾向にあり、製品の美観や透明性を損なう原因となる。
【0005】
このような問題点の解決を目指し、表面エネルギーを低下させて、指紋や皮脂をはじき、付着しにくくすることで、このような汚れに対する耐性を高める試みは数多くなされている。その技術を大きく分けると、3つの手法に分けられる。
(1)パーフルオロアルキル基を導入し、表面を撥水・撥油化する手法(例えば、特開平10−104403号公報(特許文献1)参照)。
(2)ポリジメチルシロキサン基のような撥水性シリコーン樹脂骨格を導入し、表面を撥水・撥油化する手法(例えば、特開平10−7986号公報(特許文献2)参照)。
(3)表面に微細凹凸をつけ、撥水・撥油性をさらに高めるとともに、接触面積も減らし、より汚れをつきにくくする手法(例えば、特開平10−310455号公報(特許文献3)参照)。
【0006】
しかしながら、これらの従来の方法では、携帯電話のように顔の皮脂に直接接触する用途、あるいはタッチパネルのように繰り返し指の接触する用途では、依然として付着しやすく、かつ撥水・撥油のため、付着した汚れをはじき、かえって汚れが目立ってしまう、という問題があった。
【0007】
特開2008−285686号公報(特許文献4)には、炭素数10以上のアルキル基又はポリシクロアルキル基であって、オルガノ(ポリ)シロキサン基及び有機フッ素化合物基のいずれも含まない撥水性基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として含む(メタ)アクリル系共重合体、又はこれと無機酸化物微粒子との複合体、を含有することを特徴とする耐汚染性付与剤が開示されている。この耐汚染性付与剤は、添加剤としての使用であって、ハードコートとしての使用は意図されていないし、硬度や耐摩耗性が不足する傾向にある。
【0008】
ハードコート層の利用は、また、平面状の熱可塑性樹脂成形体上にハードコート層を形成して、ハードコート層が一体化した平面状樹脂成形体を熱曲げ加工等の二次加工を施すことも行われている。更に、最近では、三次元加工が可能な加飾層を有するフィルムを成型物表面に転写したり、加飾したフィルムを貼り付けたりする加飾成形品も製品として多用されるようになってきている。この加飾フィルムのハードコート層は、熱加工時のより大きな変形性が要求され、そのためハードコート層が熱加工性を有することが重要になってきている。従来のハードコートは、熱加工する際に熱可塑性樹脂基材の伸縮に追随できず、クラック等が発生する欠点を有する。そのため、熱可塑性樹脂成形体にスプレー塗装やディッピング塗装でハードコート層を形成する方法が行われているが、3次元形状を有する成形体の塗装工程が複雑となり、コストが高くなるなどの弊害があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−104403号公報
【特許文献2】特開平10−7986号公報
【特許文献3】特開平10−310455号公報
【特許文献4】特開2008−285686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを課題とする。より特定すれば、本発明は、2段階で硬化を行うことにより、三次元加飾成形用の加飾フィルム用のハードコート層として使用可能で、加工後に後硬化させることにより、硬度や耐摩耗性が高く、しかも耐指紋性や耐汚染性が高い耐指紋性被膜用の硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、(A)分子内に活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)とを有するアクリル樹脂、または活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂との混合物、(B)分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能重合性化合物、(C)光重合開始剤、および(D)マイケル反応触媒、を含有する耐指紋性硬化性樹脂組成物を提供するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0012】
上記アクリル樹脂(A)は、好ましくは重量平均分子量5,000〜50,000を有する。
【0013】
上記アクリル樹脂(A)は、より好ましくは重量平均分子量5,000〜15,000を有する。
【0014】
上記の飽和シクロアルキル基(b)は、炭素数6〜18個を有するのが好ましい。
【0015】
本発明では、アクリル樹脂(A)と多官能重合性化合物(B)との固形分配合比(A)/(B)は10/90〜50/50であるのが好ましい。
【0016】
本発明において、活性メチレン基または活性メチン基を有するアクリルモノマーは、アクリル樹脂全体を形成するモノマー総質量に対して10〜80質量%であり、飽和シクロアルキル基を有するアクリルモノマーはアクリル樹脂全体を形成するモノマー総質量に対して2〜60質量%であるのが好ましい。
【0017】
本発明はまた、透明基材に上記の硬化性樹脂組成物を塗布した後、加熱して透明基材と硬化性樹脂組成物が硬化して得られる透明フィルムを併せ持つ複層透明フィルムを得て、その複層透明フィルムを筐体に貼り付けて複層透明フィルムを有する筐体を得、得られた複層透明フィルムを有する筐体に活性エネルギー線を照射して筐体の表面に耐指紋性被膜を形成することを特徴とする筐体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法を提供する。
【0018】
本発明はまた、透明基材に上記の硬化性樹脂組成物を塗布した後、活性エネルギーを照射して複層透明フィルムを得て、その複層透明フィルムを筐体に貼り付けて複層透明フィルムを有する筐体を得、得られた複層透明フィルムを有する筐体を加熱して筐体の表面に耐指紋性被膜を形成することを特徴とする筐体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法も提供する。
【0019】
上記の筐体は、好ましくはプラスチック製品、金属製品、木材製品、またはガラス製品である。
【0020】
本発明は、更に、熱可塑性基材に上記の硬化性樹脂組成物を塗布した後、活性エネルギー線を照射した熱可塑性樹脂成形体を熱曲げ加工し、表面に耐指紋性被膜が形成された二次加工成形体を作製することを特徴とする成形体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法も提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物は、加熱プロセスでマイケル付加反応により、アクリル樹脂(A)の活性メチレン基または活性メチン基(a)と分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能重合性化合物(B)の光硬化性基が反応して架橋する。光照射プロセスでは、成分(B)の光重合性基が反応して架橋する。この二つの反応により、硬度と耐摩耗性が得られ、アクリル樹脂(A)中の飽和シクロアルキル基が耐指紋性および耐指紋付着性を付与する。この2種類の硬化方法は、何れの硬化方法が先で他の方法が後であってもよく、また同時であってもよい。一般的には、熱硬化によるマイケル付加反応を最初に行って、その後光硬化により全体硬化を行う。
【0022】
前述のように、本発明では2段階で硬化させることが可能である。従来技術のハードコート層の伸び率は著しく小さいため、熱可塑性樹脂基材表面に形成して、ハードコート層を備える熱可塑性基材を熱加工する場合に、熱可塑性樹脂基材の伸縮に追随できず、ハードコート層にクラック等が発生したり、ハードコート層が剥離する場合がある。これに対して、本発明の硬化性組成物は、前述の2段階で硬化すると、前硬化の段階では完全に硬化していない半硬化の状態であるので、半硬化のハードコート層は熱可塑性樹脂基材の熱加工時の伸縮に追従可能となる。また、本発明の硬化性組成物は、先に熱硬化反応を用いて半硬化膜の形成を行い、その硬化反応を調整すると、前硬化後著しく大きな伸び率を示す。即ち、最初の加熱プロセスによりマイケル付加反応で被膜を半硬化して取扱いを容易にし、この状態で被塗物(筐体)に貼り付けたり熱曲げ加工などの加工処理も同時に行い、更に活性エネルギー線照射して完全硬化して適当な硬度を持つ耐指紋性の高いハードコート層を形成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物は、(A)分子内に活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)とを有するアクリル樹脂、若しくは活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂との混合物、(B)分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能重合性化合物、(C)光重合開始剤、および(D)マイケル反応触媒、を含有する。以下、各成分を説明する。
【0024】
(成分(A))
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物の成分(A)は、分子内に活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)とを有するアクリル樹脂、若しくは活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂との混合物である。成分(A)のアクリル樹脂は、活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリルモノマー、飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマー、およびその他のアクリルモノマーを共重合することにより合成される。また、その他のアクリルモノマーとして、(メタ)アクリル酸などカルボキシル基含有モノマー、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有モノマー、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルエステル(メタ)アクリレート、プラクセルFM−1(アクリル酸2−ヒドロキシエチルとポリカプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業(株)製などの水酸基含有モノマー、などの反応性基を有するアクリルモノマーを共重合させたのち、付加反応などにより重合性不飽和結合をアクリル樹脂中に導入することも可能である。重合性不飽和結合は飽和シクロアルキル基(b)のみを含むアクリル樹脂を用いる場合に、このアクリル樹脂には反応性基が無く硬化性が不足するので、重合性不飽和基を導入することにより硬化度を上げることができる。
【0025】
活性メチレン基は、2個のカルボニル基によって挟まれ、そのカルボニル基によって電子過剰状態にありプロトンを放出してカルボアニオンを生成しやすい状態にあるメチレン基であり、活性メチン基は、3個のカルボニル基によって挟まれ、そのカルボニル基によって電子過剰状態にありプロトンを放出してカルボアニオンを生成しやすい状態にあるメチン基である。活性メチレン基または活性メチン基は、加熱時に不飽和二重結合とマイケル付加反応をする。
【0026】
活性メチレン基を有するアクリルモノマーの具体例としては、2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−シアノアセトキシエチル(メタ)アクリレート、N−(2−シアノアセトキシエチル)アクリルアミド、N−(2−プロピオニルアセトキシブチル)アクリルアミド、N−(4−アセトアセトキシメチルベンジル)アクリルアミド、N−(2−アセトアセチルアミノエチル)アクリルアミド、2−(N−アセトアセチルアミノエチル)(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0027】
また、活性メチン基を有するアクリルモノマーは、EP第0310011号公報に記載されているような、メタントリカルボン酸またはこれらの誘導体と、ヒドロキシル基を有するアクリルモノマー(例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)メタクリルアミドなど)との反応物が挙げられる。
【0028】
飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマーは、飽和シクロアルキル基を有する(メタ)アクリレートであって、好ましくは炭素数6〜18、良い好ましくは炭素数6〜12の飽和シクロアルキル基を有する(メタ)アクリレートである。具体例をいくつか例示すると、たとえば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロドデシル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンモノメタノールモノ(メタ)アクリレート等をあげることができる。炭素数6未満の飽和シクロアルキル基では、親油性が十分ではないため好ましくない。また、炭素数が18を超えるシクロアルキル基では、多官能重合性化合物(B)との相溶性が低下し塗膜が白濁するなど、外観の不具合が発生する。尚、本発明では、撥水基として通常使われるシリコン(主にポリジメチルシロキサン)やフッ素(主にパーフルオロアルキル基)を含まないのが望ましい。これらのモノマーは得られるコーティング層の撥水性および撥油性を向上させ防汚性を向上させる作用がある一方、この撥水性および撥油性の向上によりコーティング層に付着した油脂成分をはじいてしまい、かえって汚れが目立ってしまうおそれがあるからである。
【0029】
本発明のアクリル樹脂(A)は上記の活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリルモノマーおよび飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマー以外に、その他のアクリルモノマーを共重合してもよい。アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジルなどの官能基を有さないアクリルモノマー、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルエステル、プラクセルFM−1(アクリル酸2−ヒドロキシエチルとポリカプロラクトンとの付加物、ダイセル化学工業(株)製)などの水酸基を有するアクリルモノマー、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基を有するアクリルモノマー、アクリルアミド、およびN−メチロールアクリルアミドのようなその誘導体、アクリロニトリルなどがあり、非アクリル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどがあげられる。
【0030】
本発明のアクリル樹脂(A)は、上記アクリルモノマーを共重合することにより得られる。共重合は、一般に、均一性を向上させるために溶媒を使用することが好ましい。かかる溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール(IPA)、イソブタノール等アルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メトキシエタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル系溶媒、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸ブチル等のカルボン酸エステル系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)、2−エトキシエチルアセタート等のエーテルエステル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の有機溶媒が使用される。また、水を、反応系の均一性が損なわれない範囲で加えてもよい。
【0031】
本発明のアクリル樹脂(A)を得るためのラジカル重合開始剤としては、一般にラジカル重合に用いられる公知の開始剤を用いることができる。代表例を挙げると、ベンゾイルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキシド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物、2,2'−アゾビスブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(V65)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物が特に好適に使用される。重合液中のモノマー類の総和濃度は通常10〜60質量%であり、重合開始剤は通常単量体混合物に対し、0.1〜15質量%、好ましくは1〜10質量%の量で使用される。
【0032】
好ましい重合温度は用いるラジカル重合開始剤により異なるが、重合温度は20〜150℃、重合時間は1〜72時間である。
【0033】
本発明のアクリル樹脂(A)において、活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリルモノマーは、アクリルモノマー全体の総質量に対して、10〜80質量%、好ましくは25〜70質量%の量で含有し、飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマーはアクリルモノマー全体の総質量に対して、2〜60質量%、好ましくは15〜60質量%の量で含有する。活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリルモノマーの量が、下限より少ないと、マイケル付加反応が十分でなく耐溶剤性が不足したり、耐摩耗性が不足する。耐溶剤性が不足した皮膜を備える物品を消費者に提供した場合、当該物品をアルコールなどの溶剤を含む清掃剤で清掃した場合に当該皮膜が溶解する可能性があり好ましくない。また、飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマーの量が下限より少ないと、耐指紋性が不足し、逆に、アクリルモノマーの量が上限より多いと、多官能重合性化合物(B)との相溶性が悪化し、塗膜が白濁するなどの外観異常が起こる。
【0034】
本発明のアクリル樹脂(A)は、2種類の態様が可能である。第1は、活性メチレン基または活性メチン基(a)および飽和シクロアルキル基(b)の両方が1つのアクリル樹脂分子内に存在するアクリル樹脂を用いる場合であり、第2は活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂(A)と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)を別々に合成して、両方のアクリル樹脂(A+A)を混合して用いる場合である。何れの場合でも本発明の効果を発揮することができる。
【0035】
本発明のアクリル樹脂(A)は、上記の何れの場合でも、好ましくは重量平均分子量5,000〜50,000、より好ましくは5,000〜15,000を有する。重量平均分子量は、ポリスチレン換算で重量平均分子量が5,000未満であると、マイケル付加反応後の耐溶剤性が不十分になり、50,000を超えると、2液混合後の増粘が激しくなり、ポットライフが短くなる場合や、多官能重合性化合物(B)との相溶性が低下し塗膜が白濁する。ポットライフが2液混合後の8時間を下回る場合、工場での操業時間内に当該塗料を消費するように工程を変更する必要が発生する場合があり、実用上好ましくない。ただし、活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂(A)と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)を別々に合成して、両方のアクリル樹脂(A+A)を混合して用いる場合、飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)は、マイケル付加反応に関与しないため、分子量が上記範囲内でなくても構わず、重量平均分子量は200,000を下回るものであれば特に問題がない。
【0036】
成分(A)のアクリル樹脂は、本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物中に固形分質量で好ましくは10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%で存在する。10質量%より少ないと、マイケル付加反応が不十分になりマイケル付加反応後の耐溶剤性が不十分になり、50質量%より多いと、多官能性重合性化合物(B)の量が減少するため光硬化反応が不十分になり、耐摩耗性が不足する。
【0037】
(成分(B))
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物の成分(B)は、分子内に2個以上の光硬化性官能基(即ち、エチレン性不飽和基)を有する多官能性重合性化合物である。多官能性重合性化合物は、具体的には多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル化合物(例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールジメタアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールジメタアクリレート、グリセロールアクロキシジメタアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタアクリレートなど)、多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル化合物(例えば、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート、トリアリルトリメリテートなど)、2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物(例えば、ジビニルベンゼンなど)、エポキシ基含有エチレン性不飽和単量体とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体との付加物(例えば、グリシジルアクリレートやグリシジルメタアクリレートとアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸との反応物など)、(ポリ)ジイソシアネートとヒドロキシル基含有エチレン性不飽和単量体(例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレートなど)を反応させて得られるウレタン化合物が挙げられる。
【0038】
これらの多官能重合性化合物は単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0039】
成分(B)の分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能性重合性化合物は、本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物中に固形分質量で好ましくは50〜90質量%、より好ましくは60〜80質量%で存在する。50質量%より少ないと、光硬化反応が不十分になり、耐摩耗性が不足し、90質量%より多いと、活性メチレン基または活性メチン基を有するアクリル樹脂(A)の量が減少するためにマイケル付加反応が不十分になり、マイケル付加反応後の耐溶剤性が不十分になる。
【0040】
本発明において、成分(A)のアクリル樹脂と、成分(B)の多官能性重合性化合物との固形分配合比(成分(A)/成分(B))は、好ましくは10/90〜50/50、より好ましくは20/80〜40/60である。配合比が上記範囲外であると、マイケル付加反応後の耐溶剤性が不十分になったり、光硬化反応が不十分になり耐摩耗性が不足する欠点を有する。
【0041】
(成分(C))
本発明の成分(C)の光重合開始剤は、成分(B)の多官能重合性化合物の硬化を促進するために配合される。
【0042】
光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒロドキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン 、ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−1−プロパノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ミヒラーズケトン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−[4−(1−メチルビニル)フェニル]プロパノン}等が挙げられ、これらの光重合開始剤は2種以上を適宜に併用することもできる。
【0043】
光重合開始剤(C)は、成分(A)、(B)、(C)及び(D)から成る耐指紋性硬化性樹脂組成物の固形分の総和の10質量%以下、好ましくは1〜5質量%の量で用いられる。1質量%より少ないと、光硬化性が不足する。10質量%を超える場合は、耐摩耗性や鉛筆硬度が低下する。
【0044】
(成分(D))
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物の成分(D)は、マイケル反応触媒である。マイケル反応触媒(D)は、メチレン(メチン)に隣接する2個のカルボニル基等の電子吸引基が、よりメチレン(メチン)プロトンの酸性度を高め、カルボアニオン(エノレートアニオン)を生成させるために必要とされる化合物である。マイケル反応触媒(D)としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属の水酸化物;ナトリウムメトキサイド、カリウムエトキサイドなどのアルカリ金属のアルコキシド;4級アンモニウムハライド、4級アンモニウムカーボネート、4級アンモニウムヒドロキサイド、4級アンモニウムテトラヒドロボレートなどのオニウム塩;テトラメチルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン、ジアザビシクロ[4.3.0]ノナ−5−エンなどの3級アミン及びその有機酸との4級塩;グアニジン;アミジン;トリフェニルフォスフィンなどの3級ホスフィンなどが挙げられる。さらに、これらのマイケル反応触媒(D)の助触媒として、例えば特開平7−173262号により公知であるエポキシ化合物などを用いることもできる。
【0045】
上記オニウム塩のカチオン部としては、具体的には、テトラブチルアンモニウムカチオン、テトラメチルアンモニウムカチオン、テトラプロピルアンモニウムカチオン、テトラヘキシルアンモニウムカチオン、テトラオクチルアンモニウムカチオン、テトラデシルアンモニウムカチオン、テトラヘキサデシルアンモニウムカチオン、トリエチルヘキシルアンモニウムカチオン、2−ヒドロキシルエチルトリメチルアンモニウム(コリン)カチオン、メチルトリオクチルアンモニウムカチオン、セチルトリメチルアンモニウムカチオン、2−クロロエチルトリメチルアンモニウムカチオン、メチルピリジニウムカチオン等の4級アンモニウムカチオン;テトラブチルホスホニウムカチオン等の4級ホスホニウムカチオン;トリメチルスルホニウムカチオン等の3級スルホニウムカチオン等を挙げることができる。様々な種類を工業的に入手することができる4級アンモニウムカチオンであることが好ましい。
【0046】
また、オニウム塩のアニオン部としては、具体的には、フロライドアニオン、クロライドアニオン、ブロマイドアニオン、アイオダイドアニオン等のハライドアニオン;酢酸アニオン;安息香酸アニオン、サリチル酸アニオン、マレイン酸アニオン、フタル酸アニオン等のカルボキシレートアニオン;メタンスルホン酸アニオン、p−トルエンスルホン酸アニオン、ドデシルベンゼンスルホン酸アニオン等のスルホネートアニオン;硫酸アニオン、メト硫酸アニオン等のサルフェートアニオン;硝酸アニオン等のナイトレートアニオン;リン酸アニオン、リン酸ジ−t−ブチルアニオン等のホスフェートアニオン等をそれぞれ挙げることができる。また、ヒドロキサイドアニオン、カーボネートアニオン、テトラヒドロボレートアニオン等も挙げることができる。硬化性の観点から、上記ハライドアニオンやカルボキシレートアニオンであることが好ましい。
【0047】
オニウム塩として、具体的には、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムフロライド、テトラブチルアンモニウムフルオライド、テトラエチルアンモニウムブロマイド、ジエチルジブチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルブロマイド、テトラブチルアンモニウムアセテート、ジオクチルジメチルアンモニウムサリチレート、ベンジルラウリルジメチルアンモニウムクロライド、2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムクロライド、テトラエチルホスホニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、トリメチルスルホニウムクロライド等を挙げることができる。
【0048】
マイケル反応触媒(D)として、上記の化合物を単独で用いてもよく、また2種以上を組合せて用いてもよい。
【0049】
マイケル反応触媒(D)は、成分(A)、(B)、(C)及び(D)から成る耐指紋性硬化性樹脂組成物の固形分の総和の0.1〜10質量%、好ましくは1〜7質量%の量で用いられる。0.1質量%より少ないと、マイケル付加反応性が不足する。10質量%を超える場合は、耐摩耗性が低下する。
【0050】
(その他の成分)
本発明の耐指紋性硬化性組成物は、必要に応じて、エチレン性不飽和基を1個有する化合物を配合することもできる。このような化合物を含めることによって、得られるコーティング層の密着性、硬度、および柔軟性を調整することができる。エチレン性不飽和基を1個有する化合物としては、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレートなどの環状構造を有する(メタ)アクリレート化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;フェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノールのアルコキシオキシド付加物の(メタ)アクリレート化合物;エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレーとなどのグリコールのモノ(メタ)アクリレート;N−ビニルピドリロン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル化合物などが挙げられる。
【0051】
本発明の耐指紋性硬化性組成物は、必要に応じて無機充填剤を含んでもよい。無機充填剤を含むことによってコーティング層の耐擦傷性および表面の膜硬度をさらに向上させることができる。用いることができる無機充填剤として、例えば、金属または金属の酸化物の微粒子を挙げることができる。金属としては、例えば、Si、Ti、Al、Zn、Zr、In、Sn、Sb等が挙げられる。具体的な無機充填剤として、例えばシリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが挙げられる。これらの無機充填剤は、平均粒径5〜50nm程度であるものがより好ましい。なお、無機充填剤を用いる場合は、耐指紋性硬化性組成物の固形分重量に対して0.1〜50質量%ほど用いるのが好ましい。無機充填剤の含有量が50質量%を超える場合は、得られるコーティング層の膜強度が弱くなるおそれがある。
【0052】
本発明の耐指紋性硬化性組成物はさらに、必要に応じて、希釈溶媒としての有機溶媒を含んでもよい。このような有機溶媒として、例えば、用いられる溶媒の具体例としては、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリットなどの脂肪族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどのエーテルエステル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。
【0053】
本発明の耐指紋性硬化性組成物はさらに、必要に応じて、光重合開始助剤、帯電防止剤、有機フィラー、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、レベリング剤、顔料などの通常用いられる添加剤を含んでもよい。例えば、好ましく用いることができる光重合開始助剤として、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどが挙げられる。
【0054】
(耐指紋性被膜の形成方法)
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物を用いて筐体表面に耐指紋性被膜(ハードコート層と言うこともある。)を形成することができる。その場合、透明フィルムに上述の硬化性樹脂組成物を塗布した後、加熱して複層透明フィルムを得て、その複層透明フィルムを筐体に貼り付けて複層透明フィルムを有する筐体を得、得られた複層透明フィルムを有する筐体に活性エネルギー線を照射することにより筐体表面に耐指紋性被膜が形成される。例えば、コンピューターや携帯電話などの筐体に貼り付ける場合は、100μm程度の膜厚では、下地が認識できる程度に透明であることが望ましく、さらに着色することも可能であるが、無色透明であることが特に好ましい。加熱プロセスと活性エネルギー線照射は順番を入れ替えても、または同時に行ってもよい。本発明の耐指紋性硬化性組成物を用いることによって、単層であっても耐指紋性に非常に優れ、かつ耐擦傷性、表面の膜硬度および耐指紋性にも優れた被膜(即ち、ハードコート層)を、形成することができる。
【0055】
本発明の耐指紋性硬化性組成物は、上記成分を混合することによって調製することができる。また、組成物の調製時に、必要に応じて、希釈に用いることができる有機溶媒を用いてもよい。なお、本発明の耐指紋性硬化性組成物は、希釈して用いてもよく、また希釈することなく用いてもよい。
【0056】
耐指紋性硬化性組成物の調製方法としては、例えば、上記成分(A)〜(D)、そして必要に応じてその他の成分(例えば、添加剤)を混合することによって、調製することができる。
【0057】
なお本発明の耐指紋性硬化性組成物は、シリコーン系添加剤およびフッ素系添加剤いずれも含まないのが好ましい。これらの添加剤は、得られるコーティング層の撥水性および撥油性を向上させ防汚性を向上させる作用がある一方、この撥水性および撥油性の向上によりコーティング層に付着した油脂成分をはじいてしまい、かえって汚れが目立ってしまうおそれがあるからである。
【0058】
本発明の耐指紋性硬化性組成物を用いることにより、耐指紋性フィルムを容易に調製することができる。この耐指紋性フィルムは、透明基材とコーティング層とを有する。このコーティング層は、上記の耐指紋性硬化性組成物から形成される層であり、この層の存在によって耐指紋性が発揮されることとなる。このような透明基材とコーティング層を備えるフィルムを筐体に貼り付けることによって、複雑な三次元意匠を有している筐体へ容易に耐指紋性を付与できるようになる。
【0059】
耐指紋性フィルムの調製に用いられる透明基材としては、各種透明プラスチックフィルム、例えばトリアセチルセルロース(TAC)フィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ジアセチルセルロースフィルム、アセテートブチレートセルロースフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルム等が使用できる。透明基材として、ポリエチレンテレフタレートを使用するのが好ましい。なお、透明基材の厚さは、用途に応じて適時選択することができるが、一般に25〜1000μm程で用いられる。
【0060】
耐指紋性を有するコーティング層は、透明基材上に、上記の耐指紋性硬化性組成物を塗布することにより形成される。耐指紋性硬化性組成物の塗布方法は、耐指紋性硬化性組成物および塗装工程の状況に応じて適時選択することができ、例えばディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法やエクストルージョンコート法(この方法は米国特許2681294号明細書に記載される方法である。)などにより塗布することができる。耐指紋性硬化性組成物の塗装において、得られるコーティング層の厚さが0.1〜20μmとなるように塗装するのが好ましい。
【0061】
透明基材上に塗装された耐指紋性光硬化性組成物は、一般的にまず加熱して熱硬化して複層透明フィルムを得て、次いでその複層透明フィルムを筐体に貼り付けた後、活性エネルギー線の照射することによって硬化し、これにより耐指紋性のハードコート層が形成される。最初の熱硬化時の加熱温度は、高温・短時間で行うのが生産性の観点から好ましいが、透明基材の軟化温度以下である必要があり、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合は、60〜150℃、好ましくは80〜120℃である。また、活性エネルギー線の照射は、200〜500nmの波長の光を用いて、積算光量で100〜5000mJ/cm照射するのが好ましい。積算光量が100mJ/cm以下では、光硬化反応が不十分になり耐摩耗性が不足する。また、積算光量が5000mJ/cm以上では、塗膜表面の光劣化反応が起こり、耐指紋性が低下したり、塗膜が黄変する。
【0062】
また、本発明に用いることができる筐体は、具体的には携帯電話、ノートパソコンなどの携帯端末製品が挙げられる。また、液晶表示装置、CRT(ブラウン管)表示装置、タッチパネルディスプレーなどの光学表示装置の表面に用いられる各種透明プラスチックフィルム、透明プラスチック板およびガラスなどに、本発明の耐指紋性硬化性組成物の熱硬化膜を有する複層透明フィルムを貼り付けることによって、光学表示装置の表面上にコーティング層を形成することができる。また、透明プラスチック板に本発明の耐指紋性硬化性組成物を塗布し、熱曲げ加工することによりヘルメットのシールドやスピードメータの前面保護板に加工することが可能になる。
【実施例】
【0063】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、特に断らない限り、「部」は固形分の質量部を表わす。
【0064】
製造例1
シクロヘキシルメタクリレート222.7g、アセトアセトキシエチルメタクリレート137.3gからなるモノマー混合物(1)を混合した。この混合液を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で120℃に加温した酢酸n−ブチル273.6gに、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート18.0gを含む酢酸n−ブチル54.0g混合溶液(2)と同時に3時間かけて等速で滴下し、その後、120℃で30分間反応させた。その後、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート1.8gを酢酸n−ブチル 28.8gの溶液を滴下し、その後2時間反応させた。数平均分子量3,000、重量平均分子量6,000のアクリル共重合体(樹脂(1))を得た。
【0065】
製造例2
製造例1に示される各成分のうち、混合溶液(2)のターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート量を11.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量5,000、重量平均分子量11,000のアクリル共重合体(樹脂(2))を得た。
【0066】
製造例3
製造例1に示される各成分のうち、混合溶液(2)のターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート量を3.7gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量9,000、重量平均分子量26,000のアクリル共重合体(樹脂(3))を得た。
【0067】
製造例4
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をシクロヘキシルメタクリレート222.7g、メチルメタクリレート43.7g、アセトアセトキシエチルメタクリレート93.6gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量7,000のアクリル共重合体(樹脂(4))を得た。
【0068】
製造例5
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をシクロヘキシルメタクリレート222.7g、メチルメタクリレート90.5g、アセトアセトキシエチルメタクリレート46.8gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量4,000、重量平均分子量8,000のアクリル共重合体(樹脂(5))を得た。
【0069】
製造例6
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をCD420(トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、サートマー社製)222.7g、アセトアセトキシエチルメタクリレート137.3gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量6,000のアクリル共重合体(樹脂(6))を得た。
【0070】
製造例7
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をFA−513M(ジシクロペンタニルメタクリレート 日立化成工業(株)社製)222.7g、アセトアセトキシエチルメタクリレート137.3gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量6,000のアクリル共重合体(樹脂(7))を得た。
【0071】
製造例8
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をイソボロニルメタクリレート222.7g、アセトアセトキシエチルメタクリレート137.3gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量7,000のアクリル共重合体(樹脂(8))を得た。
【0072】
製造例9
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をアセトアセトキシエチルメタクリレート360.0gのみに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量7,000のアクリル共重合体(樹脂(9))を得た。
【0073】
製造例10
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)アセトアセトキシエチルメタクリレート270.0g、メチルメタクリレート90.0gに変更しル、混合溶液(2)のターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート量を3.6gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量9,000、重量平均分子量43,000のアクリル共重合体(樹脂(10))を得た。
【0074】
製造例11
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をシクロヘキシルメタクリレート180.0g、メチルメタクリレート180.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量4,000、重量平均分子量8,000のアクリル共重合体(樹脂(11))を得た。
【0075】
製造例12
シクロヘキシルメタクリレート193.5g、メタクリル酸48.4gからなる混合物を混合した。この混合液を、攪拌羽根、窒素導入管、冷却管及び滴下漏斗を備えた1000ml反応容器中の、窒素雰囲気下で120℃に加温した酢酸n−ブチル273.6gに、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート18.0gを含む酢酸n−ブチル54.0g混合溶液(2)と同時に3時間かけて等速で滴下し、その後、120℃で30分間反応させた。その後、ターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート1.8gを酢酸n−ブチル28.8gの溶液を滴下し、その後2時間反応させた。
【0076】
その後、テトラブチルアンモニウムブロマイド1.8gとハイドロキノン0.36gを加え、空気バブリングしながら、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル118.1gを2時間かけて滴下し、その後8時間かけて更に反応させて、数平均分子量5,000、重量平均分子量10,000の不飽和二重結合含有アクリル共重合体(樹脂(12))を得た。
【0077】
製造例13
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をCD420(トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、サートマー社製)180.0g、メチルメタクリレート180.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量7,000のアクリル共重合体(樹脂(13))を得た。
【0078】
製造例14
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をイソボロニルメタクリレート180.0g、メチルメタクリレート180.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量6,000のアクリル共重合体(樹脂(14))を得た。
【0079】
製造例15
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をエチルヘキシルメタクリレート180.0g、メチルメタクリレート180.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量7,000のアクリル共重合体(樹脂(15))を得た。
【0080】
製造例16
製造例1に示される各成分のうち、モノマー混合物(1)をラウリルメタクリレート111.4g、メチルメタクリレート111.4g、アセトアセトキシエチルメタクリレート137.2gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量3,000、重量平均分子量6,000のアクリル共重合体(樹脂(16))を得た。
【0081】
製造例17
製造例1に示される各成分のうち、混合溶液(2)のターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート量を8.0gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量7,000、重量平均分子量17,000のアクリル共重合体(樹脂(17))を得た。
【0082】
製造例18
製造例1に示される各成分のうち、混合溶液(2)のターシャルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート量を1.5gに変更した以外は、製造例1と同様にして、数平均分子量18,000、重量平均分子量62,000のアクリル共重合体(樹脂(18))を得た。
【0083】
実施例1
耐指紋性硬化性組成物(1)の調製とハードコートフィルムの作製
製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))10重量部、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)90重量部および1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)5重量部を混合し、そしてMEKを溶媒として不揮発分率が40質量%となるように調整した後、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(サンアプロ(株)社製)1重量部を加え、耐指紋性熱光硬化組成物(1)を得た。
【0084】
得られた組成物を、PETフィルム(厚さ125μm)上にバーコーター(No.12)にてバーコート塗布し、100℃で2分間加熱して溶媒を除去乾燥することで、前硬化後の熱硬化性フィルムを得た。そのときの膜厚は7μmであった。
【0085】
その後、高圧水銀灯(120W/cm)で紫外線を300mJ/cmの工ネルギーとなるように露光し、硬化させることにより、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0086】
実施例2〜5
製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))とアロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)を表1の配合量で調整したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0087】
実施例6〜12
製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))の代わりに、樹脂(2)〜樹脂(8)を表1および表2に記載の配合量で調整したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0088】
実施例13
製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))とNKエステルU−15HA(新中村化学工業(株)社製、ウレタンアクリレート、官能基数15)を表2の配合量で調整したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0089】
実施例14〜19
製造例9により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(9))を20重量部配合し脂環式構造を側鎖に有するアクリル樹脂を表3の実施例14〜19に記載した配合量で調整したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0090】
実施例20
製造例10により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(10))を20重量部配合し脂環式構造を側鎖に有するアクリル樹脂(樹脂(11))を10重量部配合したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0091】
実施例21
表3に記載の配合量で得られた組成物を、PETフィルム(厚さ125μm)上にバーコーター(No.12)にてバーコート塗布し、40℃で3分間加熱して溶媒を除去し、高圧水銀灯(120W/cm)で紫外線を300mJ/cm2のエネルギーとなるように露光し、硬化させることにより、前硬化後の熱硬化性フィルムを得た。そのときの膜厚は7μmであった。
【0092】
その後、100℃で30分間加熱硬化することにより、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0093】
実施例22および23
製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))の代わりに、樹脂(17)および樹脂(18)を表3に記載の配合量で調整したこと以外は、実施例1と同様にして、光硬化性組成物を得た。また実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、耐指紋性ハードコートフィルムを得た。
【0094】
比較例1
製造例9により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))20重量部、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)80重量部および1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)5重量部を混合し、そしてMEKを溶媒として不揮発分率が40質量%となるように調整した後、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、サンアプロ(株)社製)1重量部を加え、光熱併用硬化性組成物(1)を得た。得られた組成物を用いて、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、ハードコートフィルムを得た。
【0095】
比較例2
製造例15により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(15))30重量部、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)70重量部および1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)5重量部を混合し、そしてMEKを溶媒として不揮発分率が40質量%となるように調整した後、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン、サンアプロ(株)社製)1重量部を加え、光熱併用硬化性組成物(2)を得た。得られた組成物を用いて、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、ハードコートフィルムを得た。
【0096】
比較例3
製造例16により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(16))30重量部、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)70重量部および、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)5重量部を混合し、そしてMEKを溶媒として不揮発分率が40質量%となるように調整した後、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)1重量部を加え、光熱硬化性組成物(3)を得た。得られた組成物を用いて、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、ハードコートフィルムを得た。
【0097】
比較例4〜9
表4および表5に記載の配合量で、製造例1により得られた活性メチレン基含有アクリル共重合体(樹脂(1))、脂環式構造を有するアクリルモノマーとしてシクロヘキシルメタクリレートと、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)および、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)5重量部を混合し、そしてメチルエチルケトン(MEK)を溶媒として不揮発分率が40質量%となるように調整し、光硬化性組成物を得た。得られた組成物を用いて、実施例1と同様にしてコーティング層を形成し、ハードコートフィルムを得た。この比較例は、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)を配合しないので、マイケル付加反応をしない例である。
【0098】
得られた組成物やコーティング層を有するサンプルの評価を下記記載のように行なった。なお、これらの評価方法により得られた結果を下記表1〜5に示す。
【0099】
組成物のポットライフ
2液混合後に初期の粘度を測定し、初期粘度より10%粘度が上昇するまでの時間を測定し、ポットライフとした。ポットライフが8時間を超える場合は、塗料配合を施してから一日の操業時間内に消費することが可能であり実用上問題がないが、8時間を下回る場合は、上記操業時間内に消費する場合は、塗料配合を施してから消費までの時間を厳密に管理する必要に迫られるために実用上好ましくない。
【0100】
光硬化性フィルムの耐溶剤性評価
紫外線露光前の塗布乾燥後に得られたサンプルフィルムのコーティング面にイソプロピルアルコールや酢酸エチルを1滴垂らして、室温で溶剤乾燥後の塗膜の外観を評価した。
○:外観の変化なし
△:溶剤を垂らした跡が残る
×:塗膜が溶解又は膨潤する。
【0101】
ヘーズ(曇価)および全光線透過率の測定
ヘーズメーター(スガ試験機社製)を用いて、サンプルの拡散透光率(Td(%))および上記全光線透過率(Tt(%))を測定し、ヘーズ値を算出した。なお、表6〜9に示される全光線透過率(%)およびヘーズ(%)は、いずれも、コーティング層の調製に基材として用いられた厚さ100μmのPETフィルム部分を介在して測定された値である。
【0102】
H=Td/Tt×100
H:ヘーズ(曇価)(%)
Td:拡散透光率(%)
Tt:全光線透過率(%)
【0103】
オレイン酸拭き取り評価(耐指紋性)
得られたサンプルのコーティング層上に、オレイン酸を1滴垂らした。次いでクリーンワイパーを用いて1回、10回、20回および30回拭き取った。評価試験前および評価試験後のサンプルのヘーズを上記に従い測定し、△ヘーズ値を求めた。得られた△ヘーズ値を表に示す。この△ヘーズ値の値が小さいほど、油脂成分の拭き取り性が良好である、つまり耐指紋性が良好である、ということができる。
【0104】
また、塗膜に指紋を付け、クリーンワイパーを用いて軽く10回拭き取り、指紋が拭き取れたかどうか目視で評価した。
○:指紋の拭き取り跡が残らない
△:僅かに拭き取り跡が残る。
×:拭き取れ跡が残り、容易に拭き取れない。
【0105】
耐SW性の評価
得られたサンプルのコーティング層上において、#0000のスチールウールを、250g/cmsの荷重下にて、50往復させた。評価試験前および評価試験後のサンプルのヘーズを上記に従い測定し、試験前後のヘーズの差を計算し、△ヘーズ値を求めた。得られた△ヘーズ値を表に示す。この△ヘーズ値の値が小さいほど、良好な表面硬度を有しており、コーティング層上に傷が生じ難いということができる。
【0106】
鉛筆硬度の評価
得られたサンプルのコーティング層上において、JIS K 5600に準拠した方法でコーティング面を引っ掻き、傷のつかない最高の鉛筆の硬度を求めた。
【0107】
【表1】

【0108】
【表2】

【0109】
【表3】

【0110】
【表4】

【0111】
【表5】

【0112】
*1:アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)
*2:イルガキュア184D(1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、(チバ・ジャパン(株)社製)
*3:DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(サンアプロ(株)社製)1重量部を加え、耐指紋性熱光硬化組成物(1)を得た。
*4:U−15HA(NKエステルU−15HA、新中村化学工業(株)社製ウレタンアクリレート、官能基数15)
*5:シクロヘキシルメタクリレート(脂環式構造を有するアクリルモノマー)
*6:CD420(トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、サートマー社製)
*7:FA−513M(ジシクロペンタニルメタクリレート、日立化成工業(株)社製)、イソボロニルメタクリレート)と、アロニックスM−402(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートおよびジペンタエリスリトールペンタアクリレートの混合物、東亜合成(株)社製)および、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(イルガキュア184D、チバ・ジャパン(株)社製)
【0113】
実施例の耐指紋性硬化性組成物により得られた前硬化フィルムは、優れた耐溶剤性を示しており、印刷等の加飾処理を行うことが可能で、転写等の3次元加飾成形が可能である。また、後硬化後は、全光線透過率が高く、高い透明性を有しており、耐指紋性および耐SW性いずれも非常に優れたコーティグ層となる。実施例は大きく分けて2種類になり、実施例1〜13と実施例20は活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)との両方を有するアクリル樹脂(A)を用いたものであり、実施例14〜19は活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂(A)と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)との混合物を用いる態様である。
【0114】
実施例1〜5は、アクリル樹脂(A)の配合量を変化させたものであり、アクリル樹脂(A)が10質量部以下であると前硬化(熱硬化)フィルムの耐溶剤性が不足気味になるが、指紋の拭き取り性や硬度は優れている。実施例6〜12はアクリル樹脂(A)の種類を変えたものであり、樹脂(1)〜(3)(即ち、実施例3、6および7)は重量平均分子量を変化させたものであり、樹脂(4)〜(5)はアクリル樹脂(A)中に別のモノマー成分(メチルメタクリレート)の量を振って加えたものである。樹脂(6)〜(8)は飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノマーの種類を変化させたものである。
【0115】
実施例14〜20は、2種類のアクリル樹脂(即ち、活性メチレン基または活性メチン基を有するアクリル樹脂Aと飽和シクロアルキル基を有するアクリル樹脂A)の両方を配合した例である。樹脂(9)と樹脂(10)は、共に活性メチレン基を有するアクリル樹脂(A)であるが、分子量が異なるものであり、樹脂(11)〜(14)は飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)であるであるが、飽和シクロアルキル基の種類が変更したものである。実施例21は、実施例3と同じ組成を用いるものであるが、プロセスを変更し前硬化を光硬化で行い、後硬化を熱硬化で行った場合である。実施例22と23は、アクリル樹脂(A)の重量平均分子量を17,000(樹脂(17))と62,000(樹脂(18))に変化させたものである。
【0116】
一方、比較例によるハードコートフィルムは、耐指紋性が大きく劣っていたり、透明性が悪いなどの問題がある。また、熱硬化しない光硬化系の配合例では、光硬化前のフィルムの耐溶剤性が劣っていたり、液状のままでフィルムにならない。
【0117】
比較例1は、製造例9で得られた活性メチレン基(a)を含むアクリル樹脂(A)のみを含み、飽和シクロアルキル基(b)を有さない例である。耐指紋性は非常に悪い。比較例2は、飽和シクロアルキル基(b)ではなく環状でないアルキル基を有するアクリル樹脂(即ち、樹脂(15))を含み、活性メチレン基または活性メチン基(a)を有さない例である。比較例2はやはり耐指紋性が悪い。比較例3は、飽和シクロアルキル基(b)ではなく直鎖のアルキル基を有し、かつ活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂(即ち、樹脂(16))を用いた例である。比較例3は耐指紋性がよいが、ヘーズが特に悪い。比較例4および5は、実施例3と4の組成から、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)を除いたものであり、マイケル付加反応が行われない例である。熱による前硬化が進行しないので、前硬化後に耐溶剤性が不足する。比較例6〜8はアクリル樹脂を含まず、飽和シクロアルキル基を有するアクリルモノマーと多官能重合性化合物(B)を配合したマイケル付加反応が行われない例である。比較例6〜8は飽和シクロアルキル基を有するアクリルモノマーの配合量を変化させたものであり、アクリルモノマー量が20質量部以上でないと、耐指紋性が悪く、飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂(A)よりも多くの飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリルモノーの配合量が必要となる。また、組成物は熱硬化しないため液状のままでありフィルム状にならない。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物は、種々の用途に応用できる。特に、透明な筐体の表面のハードコート層(耐指紋性コーティング層)の有効に用いることができる。もちろん、本発明の耐指紋性硬化性樹脂組成物は、加工性に非常に優れており塗料やその他の塗膜形成用途や、成型用の樹脂としても使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に活性メチレン基または活性メチン基(a)と飽和シクロアルキル基(b)とを有するアクリル樹脂、若しくは活性メチレン基または活性メチン基(a)を有するアクリル樹脂と飽和シクロアルキル基(b)を有するアクリル樹脂との混合物、
(B)分子内に2個以上の光硬化性官能基を有する多官能重合性化合物、
(C)光重合開始剤、および
(D)マイケル反応触媒、
を含有する耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
上記アクリル樹脂(A)が、重量平均分子量5,000〜50,000を有する請求項1記載の耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
上記アクリル樹脂(A)が、重量平均分子量5,000〜15,000を有する請求項2記載の耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
飽和シクロアルキル基(b)が炭素数6〜18個を有する請求項2または3記載の耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル樹脂(A)と多官能重合性化合物(B)との固形分配合比(A)/(B)が10/90〜50/50である請求項4記載の耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
活性メチレン基または活性メチン基を有するアクリルモノマーがアクリル樹脂全体を形成するモノマー総質量に対して10〜80質量%であり、飽和シクロアルキル基を有するアクリルモノマーがアクリル樹脂全体を形成するモノマー総質量に対して2〜60質量%である請求項5記載の耐指紋性硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
透明基材に請求項1〜6いずれかに記載の硬化性樹脂組成物を塗布した後、加熱して透明基材と硬化性樹脂組成物が硬化して得られる透明フィルムを併せ持つ複層透明フィルムを得て、その複層透明フィルムを筐体に貼り付けて複層透明フィルムを有する筐体を得、得られた複層透明フィルムを有する筐体に活性エネルギー線を照射して筐体の表面に耐指紋性被膜を形成することを特徴とする筐体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法。
【請求項8】
透明基材に請求項1〜6いずれかに記載の硬化性樹脂組成物を塗布した後、活性エネルギーを照射して複層透明フィルムを得て、その複層透明フィルムを筐体に貼り付けて複層透明フィルムを有する筐体を得、得られた複層透明フィルムを有する筐体を加熱して筐体の表面に耐指紋性被膜を形成することを特徴とする筐体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法。
【請求項9】
前記筐体が、プラスチック製品、金属製品、木材製品、またはガラス製品である請求項7または8記載の筐体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法。
【請求項10】
熱可塑性基材に請求項1〜6いずれかに記載の硬化性樹脂組成物を塗布した後、活性エネルギー線を照射した熱可塑性樹脂成形体を熱曲げ加工し、表面に耐指紋性被膜が形成された二次加工成形体を作製することを特徴とする成形体の表面に耐指紋性被膜を形成する方法。

【公開番号】特開2011−26409(P2011−26409A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172215(P2009−172215)
【出願日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】