説明

耐摩耗剤およびその潤滑組成物

本発明は、耐摩耗剤およびその潤滑組成物に関する。本発明は、動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法もしくは上記耐摩耗剤を含む潤滑組成物を使用することによるグリース適用をさらに提供する。一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;および(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルのいずれかの硫黄非含有アミン塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、耐摩耗剤およびその潤滑組成物に関する。本発明はさらに、動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法もしくは上記耐摩耗剤を含む潤滑組成物を使用することによるグリース適用を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
潤滑組成物を使用するデバイスの耐久性もしくは耐摩耗性に影響を及ぼす重要なパラメーターのうちの1つは、負荷および速度の種々の条件下で、適切な保護を有するデバイスを提供するにおける、リン耐摩耗剤もしくは極圧添加剤の有効性である。しかし、上記リン耐摩耗剤もしくは極圧添加剤の多くは、硫黄を含む。増大しつつある環境的懸念に起因して、耐摩耗剤もしくは極圧添加剤中の硫黄の存在は、望ましくないものになりつつある。さらに、上記硫黄含有耐摩耗剤もしくは極圧添加剤の多くは、揮発性硫黄種を放出し、臭気を有する耐摩耗剤もしくは極圧添加剤を含む潤滑組成物を生じ、これはまた、環境に対して有害であり得るか、またはますます厳重になっている健康および安全性の法律が明記するより高い可能性がある排出物質(emission)を放出し得る。
【0003】
さらに、使用される上記耐摩耗剤もしくは極圧添加剤の多くは、(i)広い範囲の作動条件に対する制限された極圧性能および耐摩耗性能、(ii)制限された酸化的安定性、(iii)沈着を形成する、または(iv)腐食を引き起こす(例えば、銅腐食)のうちの少なくとも1つを有する。
【0004】
動力伝達系路の動力伝達デバイス(例えば、ギアもしくはトランスミッション、特に、車軸流体(axle fluid)およびマニュアルトランスミッション流体(MTF))およびグリース適用は、非常に挑戦的な技術的課題ならびに複数のおよびしばしば矛盾する潤滑要件を満たすための解決策を示すと同時に、耐久性および清潔さを提供する。
【0005】
特許文献1は、ホスホロチオ酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたトリエステルのアミン塩を含む潤滑油を開示する。上記ホスホロチオ酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたトリエステルのアミン塩は、ギア油、内燃機関および自動車トランスミッションに耐摩耗性能を提供するために、潤滑組成物において有用である。
【0006】
特許文献2;特許文献3;特許文献4;および特許文献5;特許文献6;特許文献7はすべて、(i)チオリン酸エステルの二価金属塩、(ii)リン酸エステルの二価金属塩、もしくは(iii)(i)および(ii)の混合物のうちの少なくとも1つを開示する。
【0007】
結果として、動力伝達系路の動力伝達デバイスもしくはグリース適用の必要性を満たすために、公知の潤滑組成物の欠点がない、耐摩耗剤およびバランスのとれた潤滑組成物を提供することが望ましい。本発明は、そのような耐摩耗剤およびその潤滑組成物を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3,197,405号明細書
【特許文献2】米国特許第6,730,640号明細書
【特許文献3】米国特許第6,872,693号明細書
【特許文献4】米国特許第6,656,887号明細書
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0143266号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2005/0130855号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2005/0107269号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;および(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル(a hydroxy−substituted di−ester of phosphoric acid)、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステル(a phosphorylated hydroxy−substituted di− or tri− ester of phosphoric acid)のいずれかの硫黄非含有アミン塩。
【0010】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;およびリン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの硫黄非含有アミン塩。
【0011】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;およびリン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルの硫黄非含有アミン塩。
【0012】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;およびアミンと、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれかとを反応させる工程を含むプロセスによって得られた/得ることができる、リン化合物の硫黄非含有アミン塩。
【0013】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;および式(1)によって表されるリン化合物のアミンもしくは金属塩:
【0014】
【化1】

ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−(例えば、RO(R’O)P(O)−CHCH(CH)−)によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただし、x=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし(m+n)の和は、約4に等しく;
Mは金属イオンであり;
tは、約1〜約4(もしくは約1〜約2)で変動する整数であり;そして
qおよびeは、有理数であり、その合計は、tを満たすために完全原子価を提供し、ただしqは、約0.1〜約1.5(もしくは約0.1〜約1)の範囲内であり、eは、約0〜約0.9の範囲内である。
【0015】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油および式(1a)によって表されるリン化合物のアミン塩:
【0016】
【化2】

ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−(例えば、RO(R’O)P(O)−CHCH(CH)−)によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただしx=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし(m+n)の和は、約4に等しい。
【0017】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;および以下を含むプロセスによって得られた/得ることができるリン化合物の硫黄非含有アミン塩:
(a)(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル;および(ii)酸素含有無機リン化合物を反応させて、酸性リン化合物を形成する工程;ならびに
(b)上記酸性リン化合物とアミンとを反応させる工程。
【0018】
一実施形態において、本発明は、以下を含む潤滑組成物を提供する:潤滑粘性の油;および以下を含むプロセスによって得られる/得ることができるリン化合物の硫黄非含有アミン塩:
アミンと、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、もしくは(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルのいずれかとを反応させる工程。
【0019】
一実施形態において、本発明は、動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法を提供し、この方法は、上記動力伝達系路デバイスに、本明細書に開示される潤滑組成物を供給する工程を含む。
【0020】
一実施形態において、本発明は、動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法を提供し、この方法は、上記動力伝達系路デバイスに、潤滑粘性の油および(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれかの硫黄非含有アミン塩を含む潤滑組成物を供給する工程を包含する。
【0021】
一実施形態において、本発明は、動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法を提供し、この方法は、上記動力伝達系路デバイスに、潤滑粘性の油および(a)、(b)および(c)から選択される群のうちの少なくとも1つのメンバーを含む潤滑組成物を供給する工程を包含し、ここで(a)、(b)および(c)は、以下のように定義される:
(a)式(1a)によって表されるリン化合物のアミン塩:
【0022】
【化3】

ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−(例えば、RO(R’O)P(O)−CHCH(CH)−)によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただしx=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし(m+n)の和は、約4に等しく;
(b)アミンと、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、もしくは(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれかとを反応させる工程を含むプロセスによって得られた/得ることができる、リン化合物の硫黄非含有アミン塩;ならびに
(c)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの硫黄非含有アミン塩。
【0023】
一実施形態において、本発明は、式(1)および式(1a)によって表される化合物の新たなクラスを提供する。
【0024】
一実施形態において、本明細書に記載される潤滑組成物は、グリース増粘剤をさらに含む。
【0025】
一実施形態において、本発明は、潤滑組成物に適した耐摩耗剤としての、(a)リン化合物の硫黄非含有アミン塩、(b)式(1a)の化合物、および(c)(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、もしくは(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれか;からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む耐摩耗剤を提供する。
【0026】
一実施形態において、本発明は、潤滑組成物に適した耐摩耗剤として、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルのいずれかを含む耐摩耗剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(発明の詳細な説明)
本発明は、上記に開示されるような、潤滑組成物;および動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法を提供する。
【0028】
(式(1)もしくは式(1a)の化合物)
一実施形態において、上記式(1)もしくは式(1a)によって表される化合物は、約1に等しいxを有する。
【0029】
一実施形態において、上記式(1)もしくは式(1a)によって表される化合物は、約0に等しいxを有する。
【0030】
一実施形態において、上記式(1)もしくは式(1a)によって表される化合物は、約2に等しいm;および約2に等しいnを有する。
【0031】
一実施形態において、上記式(1)もしくは式(1a)によって表される化合物は、約3に等しいm;および約1に等しいnを有する。
【0032】
一実施形態において、AおよびA’は、独立して、約1〜約10個、もしくは約2〜約6個、もしくは約2〜約4個の炭素原子を含む。
【0033】
一実施形態において、R、R’およびR”はすべて、独立して、約1〜約30個、もしくは約1〜約20個、もしくは約4〜約20個の炭素原子を含む。
【0034】
一実施形態において、R”は、約8〜約26個、もしくは約10〜約20個、もしくは約13〜約19個の炭素原子を含む。
【0035】
式(1)もしくは式(1a)の化合物は、一級アミン、二級アミン、三級アミン、もしくはこれらの混合物のアミン塩を含む。一実施形態において、上記一級アミンは、三級脂肪族一級アミンを含む。
【0036】
適切な一級アミンの例としては、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ビス−2−エチルヘキシルアミン、オクチルアミン、およびドデシルアミン、ならびにn−オクチルアミン、n−デシルアミン、n−ドデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−オクタデシルアミンおよびオレイルアミン(oleyamine)のような脂肪アミンが挙げられる。他の有用な脂肪アミンとしては、市販の脂肪アミン(例えば、「Armeen(登録商標)」アミン(Akzo Chemicals,Chicago,Illinoisから市販される製品)(例えば、Armeen C、Armeen O、Armeen OL、Armeen T、Armeen HT、Armeen SおよびArmeen SD)が挙げられ、ここで文字の意味は、脂肪基(例えば、ココ基、オレイル基、タロウ(tallow)基、もしくはステアリル基)に関する。
【0037】
適切な二級アミンの例としては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアミルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、メチルエチルアミン、エチルブチルアミン、N−メチル−1−アミノ−シクロヘキサン、Armeen(登録商標)2Cおよびエチルアミルアミンが挙げられる。上記二級アミンは、環状アミン(例えば、ピペリジン、ピペラジンおよびモルホリン)であり得る。
【0038】
三級アミンの例としては、トリ−n−ブチルアミン、トリ−n−オクチルアミン、トリ−デシルアミン、トリ−ラウリルアミン、トリ−ヘキサデシルアミン、およびジメチルオレイルアミン(Armeen(登録商標)DMOD)が挙げられる。
【0039】
一実施形態において、上記アミンは、混合物の形態である。適切なアミン混合物の例としては、(i)三級アルキル一級アミン基(tertiary alkyl primary group)上の約11〜約14個の炭素原子を有するアミン、(ii)三級アルキル一級アミン基上の約14〜約18個の炭素原子を有するアミン、もしくは(iii)三級アルキル一級アミン基上の約18〜約22個の炭素原子を有するアミンが挙げられる。三級アルキル一級アミンの他の例としては、tert−ブチルアミン、tert−ヘキシルアミン、tert−オクチルアミン(例えば、1,1−ジメチルヘキシルアミン)、tert−デシルアミン(例えば、1,1−ジメチルオクチルアミン)、tertドデシルアミン、tert−テトラデシルアミン、tert−ヘキサデシルアミン、tert−オクタデシルアミン、tert−テトラコサニルアミン(tetracosanylamine)、およびtert−オクタコサニルアミン(octacosanylamine)が挙げられる。
【0040】
一実施形態において、有用なアミン混合物は、「Primene(登録商標) 81R」もしくは「Primene(登録商標) JMT」である。Primene(登録商標) 81RおよびPrimene(登録商標) JMT(ともに、Rohm & Haasによって製造販売される)は、それぞれ、C11〜C14三級アルキル一級アミンおよびC18〜C22三級アルキル一級アミンの混合物である。
【0041】
一実施形態において、上記式(1)の金属イオンは、一価もしくは二価の金属、またはこれらの混合物である。一実施形態において、上記金属イオンは二価である。
【0042】
一実施形態において、上記金属イオンの金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、銅、ニッケル、スズもしくは亜鉛が挙げられる。
【0043】
一実施形態において、上記金属イオンの金属としては、リチウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムもしくは亜鉛が挙げられる。一実施形態において、上記金属イオンの金属は、亜鉛である。
【0044】
一実施形態において、式(1)の化合物がアミン塩もしくは一価金属の金属塩である場合、tは約1に等しい。
【0045】
一実施形態において、tは、式(1)の化合物が二価金属の金属塩である場合、約2に等しい。
【0046】
一実施形態において、qは、約0.5〜1の範囲内であり;そしてeは、約0〜約0.5の範囲内である。
【0047】
一実施形態において、式(1)の化合物は、金属イオンを含まない(eは、0に等しく;そしてqは1に等しい)。
【0048】
一実施形態において、tは、約1に等しく、eは、約0に等しく、そしてqは、約1に等しい。
【0049】
(式(1)および式(1a)の化合物を調製するためのプロセス)
一実施形態において、上記リン化合物の硫黄非含有アミン塩は、アミンと、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれかとを反応させる工程を包含するプロセスによって得られる/得ることができる。
【0050】
一実施形態において、上記リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの塩は、以下を包含するプロセスによって調製され得る:
(i)リン酸化剤(例えば、P、P10、もしくはその等価物)と、アルコールとを反応させて、モノリン酸エステルおよび/もしくはジリン酸エステルを形成する工程;
(ii)該リン酸エステルと、アルキレンオキシドとを反応させて、リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルを形成する工程;および
(iii)アミンおよび/もしくは金属と反応させて、該リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルを塩化させる工程。
【0051】
一実施形態において、(ii)のリン酸のヒドロキシ置換されたジエステルは、アミンおよび/もしくは金属で塩化する(上記工程(iii)におけるように)前に、上記工程(i)を反復することによって、少なくとも1回以上、リン酸化剤(代表的には、リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルを形成する)とさらに反応させられる。
【0052】
種々の実施形態において、工程(i)および(ii)は、アミンおよび/もしくは金属と塩化する(上記工程(iii)におけるように)前に、少なくとも1回以上反復され、必要に応じて、続いて、工程(i)が反復される。例えば、上記塩は、上記で定義されるように、上記工程(i)、(ii)、および(iii);もしくは上記工程(i)、(ii)、(i)、および(iii);もしくは上記工程(i)、(ii)、(i)、(ii)、および(iii);上記工程(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)、および(iii)、もしくは上記工程(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)、(ii)、および(iii)、もしくは上記工程(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)および(iii)、もしくは上記工程(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)、(ii)、(i)、(ii)および(iii)を実施する工程を包含するプロセスによって調製され得る。
【0053】
種々の実施形態において、上記反応生成物は、約1重量%〜約99重量%、もしくは約20重量%〜約80重量%、もしくは約35重量%〜約75重量%の、本発明のリン化合物の硫黄非含有アミン塩を生じる。
【0054】
種々の実施形態において、工程(i)における上記モノホスフェート 対 ジホスフェートのモル比は、約1:10〜約10:1、もしくは約1:5〜約5:1、もしくは約1:2〜2:1、もしくは約1:1の範囲を含む。種々の実施形態において、工程(i)におけるアルキレンオキシド 対 モノリン酸エステルおよび/もしくはジリン酸エステルの工程(i)の上記モル比(リンの量に基づいて)は、約0.6:1〜約1.5:1、もしくは約0.8:1〜約1.2:1の範囲を含む。
【0055】
一実施形態において、アルキレンオキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドもしくはブチレンオキシドを含み;工程(ii)におけるアルキレンオキシド 対 リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルのモル比は、約1:1を含む。
【0056】
一実施形態において、アルキレンオキシドは、C以上のアルキレンオキシドを含み;工程(ii)におけるアルキレンオキシド 対 リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルのモル比は、アルキレンオキシドは、反応条件下であまり揮発性ではないので、より広い範囲を含む。
【0057】
工程(i)〜(iii)の上記のプロセスは、種々の実施形態において、約30℃〜約140℃、もしくは約40℃〜約110℃、もしくは約45℃〜約90℃の範囲の反応温度で行われる。
【0058】
上記プロセスは、減圧、大氣圧、もしくは大気圧より高い圧力で行われ得る。一実施形態において、上記プロセスは、大気圧もしくは大気圧より高い圧力で行われ得る。
【0059】
一実施形態において、上記プロセスは、不活性雰囲気中で行われる。適切な不活性雰囲気の例としては、窒素、アルゴンもしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0060】
種々の実施形態において、上記アルキレンオキシドは、約1〜約10個、もしくは約2〜約6個、もしくは約2〜約4個の炭素原子を含む。一実施形態において、上記アルキレンオキシドは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、もしくはこれらの混合物を含む。一実施形態において、上記アルキレンオキシドは、プロピレンオキシドを含む。
【0061】
種々の実施形態において、上記アルコールは、約1〜約30個、もしくは約4〜約24個、もしくは約8〜約18個の炭素原子を含む。
【0062】
上記アルコールは、直線状であってもよいし、分枝状であってもよい。
【0063】
上記アルコールは、飽和であってもよいし、不飽和であってもよい。
【0064】
適切なアルコールの例としては、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、ドデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、オクタデセノール(オレイルアルコール)、ノナデカノール、エイコシル−アルコール、もしくはこれらの混合物が挙げられる。適切なアルコールの例としては、例えば、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルヘキサノール、イソオクタノール、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0065】
市販のアルコールの例としては、MonsantoのAlcohol(登録商標) 7911、Oxo Alcohol(登録商標) 7900およびOxo Alcohol(登録商標) 1100;ICIのAlphanol(登録商標) 79;Condea(現Sasol)のNafol(登録商標) 1620、Alfol(登録商標) 610およびAlfol(登録商標) 810;Ethyl CorporationのEpal(登録商標) 610およびEpal(登録商標) 810;Shell AGのLinevol(登録商標) 79、Linevol(登録商標) 911およびDobanol(登録商標) 25L;Condea Augusta,MilanのLial(登録商標) 125;Henkel KGaA(現Cognis)のDehydad(登録商標)およびLorol(登録商標)、ならびにUgine KuhlmannのLinopol(登録商標) 7−11およびAcropol(登録商標) 91が挙げられる。
【0066】
有用なアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミン、もしくはこれらの混合物のアミン塩が挙げられる。有用なアミンのより詳細な記載は、上記で定義されている。
【0067】
(従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤)
一実施形態において、上記潤滑組成物は、従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤、またはこれらの混合物をさらに含む。
【0068】
一実施形態において、上記潤滑組成物は、従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤を含まない。
【0069】
種々の実施形態において、上記従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤は、上記潤滑組成物の、約0重量%〜約10重量%、約0重量%〜約8重量%、約0重量%〜約6重量%、および約0.05重量%〜約4重量%からなる群より選択される範囲で存在する。
【0070】
上記従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤としては、非イオン性リン化合物、上記で開示されるもの以外のリン化合物のアミン塩(例えば、モノアルキルリン酸エステルおよびジアルキルリン酸エステルの混合物のアミン塩)、上記で開示されるもの以外のリン化合物のアンモニウム塩、金属ジアルキルジチオホスフェート、金属ジアルキルホスフェート、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0071】
一実施形態において、上記従来のリン耐摩耗剤もしくは極圧剤は、非イオン性リン化合物、金属ジアルキルジチオホスフェート、金属ジアルキルホスフェート、およびこれらの混合物からなる群より選択される。
【0072】
一実施形態において、上記従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤は、金属ジアルキルジチオホスフェートを含む。上記ジアルキルジチオホスフェートのアルキル基は、約2〜約20個の炭素原子を含む直線状であっても分枝状であってもよく、ただし、炭素の総数は、上記金属ジアルキルジチオホスフェート油を可溶性にするに十分である。上記金蔵ジアルキルジチオホスフェートの金属は、代表的には、一価金属もしくは二価金属を含む。適切な金属の例としては、ナトリウム、カリウム、銅、カルシウム、マグネシウム、バリウムもしくは亜鉛が挙げられる。一実施形態において、上記リン含有酸、塩もしくはエステルは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛である。適切なジアルキルリン酸亜鉛(ZDDP、ZDPもしくはZDTPといわれる)の例は、しばしば、ジ−(2−メチルプロピル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(アミル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(1,3−ジメチルブチル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(ヘプチル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(オクチル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(ノニル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(デシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(ドデシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(ドデシルフェニル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(ヘプチルフェニル)ジチオリン酸亜鉛、もしくはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、上記従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤としては、金属ヒドロカルビルホスフェートもしくはジヒドロカルビルホスフェートが挙げられる。
【0073】
上記金属ジアルキルホスフェートのヒドロカルビル基は、直鎖状アルキル基もしくは分枝状アルキル基、環式アルキル基、直鎖状アルケニル基もしくは分枝状アルケニル基、アリール基、またはアリールアルキル基を含む。
【0074】
一実施形態において、上記金属ジアルキルホスフェートのヒドロカルビル基は、油溶性アルキル基である。上記アルキル基は、代表的には、約1〜約40個の、もしくは約4〜約40個の、もしくは約4〜約20個の、もしくは約6〜約16個の炭素原子を含む。
【0075】
上記直鎖状アルキル基もしくは分枝状アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシルおよびオクタデシル基が挙げられる。
【0076】
上記環状アルキル基は、一実施形態において、約5〜約7個の炭素原子、および別の実施形態においては、約6〜約11個の炭素原子の系を含む。
【0077】
上記環状アルキル基の例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルシクロペンチル、ジメチルシクロペンチル、メチルエチルシクロペンチル、ジエチルシクロペンチル、メチルシクロヘキシル、ジメチルシクロヘキシル、メチルエチルシクロヘキシル、ジエチルシクロヘキシル、メチルシクロヘプチル、ジメチルシクロヘプチル、メチルエチルシクロヘプチル、およびジエチルシクロヘプチル基が挙げられる。
【0078】
一実施形態において、上記直鎖状アルケニル基もしくは分枝状アルケニル基は、約2〜約30個の、もしくは約6〜約20個の炭素原子を有するモノを含む。上記アルケニル基の例としては、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、ドセニル、ウンドセニル、ドドセニル、トリドセニル、テトラドセニル、ペンタドセニル、ヘキサドセニル、ヘプタドセニル、およびオクタドセニル基が挙げられる。
【0079】
一実施形態において、上記アリール基は、約6〜約18個の炭素原子を有するものを含む。上記アリール基の例としては、フェニルもしくはナフチルが挙げられる。
【0080】
一実施形態において、上記アリール基は、約7〜約26個の炭素原子を有するアリールアルキル基である。上記アリールアルキル基の例としては、トリル、キシリル、エチルフェニル、プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、ジエチルフェニル、ジブチルフェニルおよびジオクチルフェニルが挙げられる。
【0081】
一実施形態において、上記メチルヒドロカルビルホスフェートもしくはジヒドロカルビルホスフェートは、モノアルキルホスフェートの金属塩、および別の実施形態においては、ジアルキルホスフェートの金属塩を含む。
【0082】
一実施形態において、上記金属ヒドロカルビルホスフェートもしくはジヒドロカルビルホスフェートの金属は、一価金属であり、別の実施形態においては、上記金属は二価金属であり、そして別の実施形態においては、上記金属は三価金属である。
【0083】
上記金属ヒドロカルビルホスフェートもしくはジヒドロカルビルホスフェートの金属としては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、鉛、マンガン、銀、もしくはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、上記金属は、亜鉛である。
【0084】
一実施形態において、上記非イオン性リン化合物は、+3もしくは+5の酸価状態を有するリン原子を有する化合物を含む。上記非イオン性リン化合物は、亜リン酸エステル、リン酸エステル、もしくはこれらの混合物を含む。上記非イオン性リン化合物のより詳細な説明としては、米国特許第6,103,673号の第9欄第48行目〜第11欄第8行目が挙げられる。
【0085】
一実施形態において、本明細書に開示されるもの以外のリン化合物のアミン塩は、米国特許第3,197,405号に記載されている。
【0086】
一実施形態において、上記に開示されるもの以外のリン化合物のアミン塩は、米国特許第3,197,405号の実施例1〜25のうちのいずれか1つによって調製され得る。
【0087】
一実施形態において、上記に開示されるもの以外のリン化合物のアミン塩は、ジチオリン酸をエポキシドもしくはグリコールと反応させることから調製される反応生成物である。この反応生成物は、リン酸、無水物、もしくは低級エステル(ここで「低級」とは、上記エステルのアルコール由来部分において約1〜約8個、もしくは約1〜約6個、もしくは約1〜約4個、もしくは1〜約2個の炭素原子を表す)とさらに反応させられる。上記エポキシドは、脂肪族エポキシドもしくはスチレンオキシドを含む。有用なエポキシドの例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブテンオキシド、オクテンオキシド、ドデセンオキシド、スチレンオキシドなどが挙げられる。一実施形態において、上記エポキシドは、プロピレンオキシドである。上記グリコールとしては、1〜約12個、もしくは約2〜約6個、もしくは約2〜約3個の炭素原子を有する脂肪族グリコールが挙げられる。上記ジチオリン酸、グリコール、エポキシド、無機リン試薬およびこれを反応させるための方法は、米国特許第3,197,405号および同第3,544,465号に記載されている。次いで、得られる酸は、アミンと塩化される。
【0088】
従来調製実施例1:
適切なジチオリン酸ベースの生成物の例は、約45分間にわたって約58℃でリンペントキシド(約64g)を、約514gのヒドロキシプロピルO,O−ジ(1,3−ジメチル−ブチル)ホスホロジチオエート(ジ(1,3−ジメチルブチル)−ホスホロジチオ酸と、約1.3モルのプロピレンオキシドとを、約25℃で反応させることにいって調製される)に追加することによって、調製される。上記混合物は、約2.5時間にわたって、約75℃で加熱し、珪藻土と混合され、そして約70℃で濾過される。その濾液を、約11.8重量% リン、約15.2重量% 硫黄、および酸価87(プロモフェノールブルー)を含む。
【0089】
(有機スルフィド)
一実施形態において、上記潤滑組成物は、有機スルフィド、もしくはその混合物をさらに含む。一実施形態において、上記有機スルフィドは、ポリスルフィド、チアジアゾール化合物、もしくはこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含む。
【0090】
種々の実施形態において、上記有機スルフィドは、上記潤滑組成物の、約0重量%〜約10重量%、約0.01重量%〜約10重量%、約0.1重量%〜約8重量%、および約0.25重量%〜約6重量%からなる群より選択される範囲内で存在する。
【0091】
(チアジアゾール化合物)
チアジアゾールの例としては、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールもしくはそのオリゴマー、ヒドロカルビル−置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、ヒドロカルビルチオ−置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールもしくはそのオリゴマーが挙げられる。上記ヒドロカルビル−置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールのオリゴマーは、代表的には、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール単位間の硫黄−硫黄結合を形成して、上記チアジアゾール単位の2つ以上のオリゴマーを形成することによって、形成する。
【0092】
適切なチアジアゾール化合物の例としては、ジメルカプトチアジアゾール、2,5−ジメルカプト−[1,3,4]−チアジアゾール、3,5−ジメルカプト−[1,2,4]−チアジアゾール、3,4−ジメルカプト−[1,2,5]−チアジアゾール、または4,5−ジメルカプト−[1,2,3]−チオジアゾール(thiadaizole)のうちの少なくとも1種が挙げられる。代表的には、容易に入手可能な物質(例えば、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールもしくはヒドロカルビル−置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールもしくはヒドロカルビルチオ−置換された2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)は、一般に利用され、2,5−ジメルカプト−[1,3,4]−チアジアゾールはその利用可能性に起因して、最も一般的に利用される。種々の実施形態において、上記ヒドロカルビル−置換された基の上の炭素原子数は、約1〜約30、約2〜約25、約4〜約20、約6〜約16、もしくは約8〜約10個を含む。
【0093】
一実施形態において、上記チアジアゾール化合物は、フェノールと、アルデヒドおよびジメルカプトチアジアゾールとの反応生成物である。上記フェノールは、アルキルフェノールであって、上記アルキル基が、少なくとも約6個(例えば、約6〜24個、もしくは約6(もしくは約7)〜約12個の炭素原子を含むものを含む。上記アルデヒドは、約1〜約7個の炭素原子を含むアルデヒドもしくはアルデヒドシントン(例えば、ホルムアルデヒド)を含む。有用なチアジアゾール化合物としては、2−アルキルチオ−5−メルカプト−[1,3,4]−チアジアゾール、2,5−ビス(アルキルチオ)−[1,3,4]−チアジアゾール、2−アルキルヒドロキシフェニルメチルチオ−5−メルカプト−[1,3,4]−チアジアゾール(例えば、2−[5−ヘプチル−2−ヒドロキシフェニルメチルチオ]−5−メルカプト−[1,3,4]−チアジアゾール)、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0094】
一実施形態において、上記チアジアゾール化合物としては、2,5−ビス(tert−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(tert−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、もしくは2,5−ビス(tert−デシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾールのうちの少なくとも1種が挙げられる。
【0095】
(ポリスルフィド)
一実施形態において、上記ポリスルフィド分子のうちの少なくとも約50重量%は、トリスルフィドもしくはテトラスルフィドの混合物である。他の実施形態において、上記ポリスルフィド分子のうちの少なくとも約55重量%、もしくは少なくとも約60重量%は、トリスルフィドもしくはテトラスルフィドの混合物である。
【0096】
上記ポリスルフィドは、油、脂肪酸もしくはエステル、オレフィンもしくはポリオレフィン由来の硫化有機ポリスルフィドを含む。
【0097】
硫化され得る油としては、天然油もしくは合成油(例えば、鉱油、ラード油、脂肪族アルコールから得られるカルボン酸エステルおよび脂肪酸もしくは脂肪族カルボン酸(例えば、オレイン酸ミリスチルよびオレイン酸オレイル))、ならびに合成不飽和エステルもしくはグリセリドが挙げられる。
【0098】
脂肪酸は、約8〜約30個、もしくは約12〜約24個の炭素原子を含むものを含む。脂肪酸の例としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、およびトールオイルが挙げられる。硫化脂肪酸エステルを、混合した不飽和脂肪酸エステル(例えば、動物脂肪および植物性油(トールオイル、亜麻仁油、大豆油、菜種油、および魚油を含む)から得られる)から調製した。
【0099】
上記ポリスルフィドは、広範な範囲のアルケンから得られるオレフィンを含む。上記アルケンは、代表的には、1つ以上の二重結合を有する。上記オレフィンは、一実施形態において、約3〜約30個の炭素原子を含む。他の実施形態において、オレフィンは、約3〜約16個、もしくは約3〜約9個の炭素原子を含む。一実施形態において、上記硫化オレフィンは、プロピレン、イソブチレン、ペンテンもしくはこれらの混合物から得られるオレフィンを含む。
【0100】
一実施形態において、上記ポリスルフィドは、上記のように、公知の技術によって、オレフィンを重合することから得られるポリオレフィンを含む。
【0101】
一実施形態において、上記ポリスルフィドは、ジブチルテトラスルフィド、オレイン酸の硫化メチルエステル、硫化アルキルフェノール、硫化ジペンテン、硫化ジシクロペンタジエン、硫化テルペン、および硫化Diels−Alder付加物;ホスホ硫化炭化水素を含む。
【0102】
(摩擦調整剤)
一実施形態において、上記潤滑組成物は、摩擦調整剤をさらに含む。種々の実施形態において、上記摩擦調整剤は、上記潤滑組成物の約0重量%〜約5重量%、約0.1重量%〜約4重量%、約0.25重量%〜約3.5重量%、約0.5重量%〜約2.5重量%、および約1重量%〜約2.5重量%からなる群、または約0.05重量%〜約0.5重量%から選択される範囲で存在する。
【0103】
上記摩擦調整剤としては、脂肪アミン、ホウ酸化グリセロールエステル(borated glycerol ester)、脂肪酸アミド、非ホウ酸化脂肪エポキシド、ホウ酸化脂肪エポキシド、アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪イミダゾリン、アルキルサリチル酸の金属塩(界面活性剤としても言及され得る)、スルホネートの金属塩(界面活性剤としても言及され得る)、カルボン酸の縮合生成物もしくはポリアルキレン−ポリアミン、またはヒドロキシアルキル化合物のアミドが挙げられる。
【0104】
一実施形態において、上記摩擦調整剤としては、グリセロールの脂肪酸エステルが挙げられる。その最終生成物は、金属塩、アミド、イミダゾリン、もしくはこれらの混合物の形態であり得る。上記脂肪酸は、約6〜約24個、もしくは約8〜約18個の炭素原子を含み得る。上記脂肪酸は、分枝鎖もしくは直鎖、飽和もしくは不飽和であり得る。適切な酸としては、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、オレイン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、パルミトオレイン酸、リボール酸、ラウリン酸、およびリノレン酸、ならびに天然生成物である獣脂、ヤシ油、オリーブ油、ラッカセイ油、コーン油、および牛脚脂由来の酸が挙げられる。一実施形態において、上記脂肪酸はオレイン酸である。金属塩の形態にある場合、代表的には、上記金属は、亜鉛もしくはカルシウムを含み;そして上記生成物は、過塩基化生成物および非過塩基化生成物を含む。例は、過塩基化カルシウム塩および一般式Znオレエート(Oleate)Oによって表され得る塩基性オレイン酸−亜鉛塩錯体である。アミドの形態にある場合、上記縮合生成物は、アンモニアで、または一級アミンもしくは二級アミン(例えば、ジエチルアミンおよびジエタノールアミン)で調製されるものを含む。イミダゾリンの形態にある場合、上記縮合生成物は、酸とジアミンもしくはポリアミン(例えば、ポリエチレンポリアミン)とで調製される。一実施形態において、上記摩擦調整剤は、約C8〜約C24原子を有する脂肪酸、およびポリアルキレンポリアミンの縮合生成物、特に、イソステアリン酸とテトラエチレンペンタアミンとの生成物である。
【0105】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、ヒドロキシアルキル化合物と、アシル化剤もしくはアミンとの縮合によって形成されるものを含む。上記ヒドロキシアルキル化合物のより詳細な説明は、米国特許出願第60/725360号(2005年10月11日出願、発明者 Bartley,Lahiri,BakerおよびTipton)の第8段落および第19段落〜第21段落に記載される。米国特許出願第60/725360号に開示される上記摩擦調整剤は、式RN−C(O)Rによって表されるアミド(ここでRおよびRは、各々独立して、少なくとも約6個の炭素原子のヒドロカルビル基であり、Rは、約1〜約6個の炭素原子のヒドロキシアルキル基もしくは上記ヒドロキシアルキル基の縮合によって、そのヒドロキシル基を介してアシル化剤と形成される基である)によって表されるアミドを含む。調製実施例は、実施例1および2(米国特許出願第60/725360号の段落68および段落69)に開示される。一実施形態において、上記ヒドロキシルアルキル化合物にアミドは、グリコール酸(すなわち、ヒドロキシ酢酸、HO−CH−COOH)とアミンとを反応させることによって調製される。
【0106】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、式RNRによって表される二級アミンもしくは三級アミン(ここでRおよびRは、各々独立して、少なくとも約6個の炭素原子のアルキル基であり、Rは、水素、ヒドロカルビル基、ヒドロキシル含有アルキル基、もしくはアミン含有アルキル基である)を含む。上記摩擦調整剤のより詳細な説明は、米国特許出願第2005/037897号の段落8および段落19〜22に記載されている。
【0107】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、ジ−ココアルキルアミン(もしくはジ−ココアミン)とグリコール酸との反応生成物を含む。上記摩擦調整剤は、米国特許出願第60/820516号の調製実施例1および2において調製される化合物を含む。
【0108】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、カルボン酸もしくはその反応性の等価物と、アミノアルコールとの反応生成物から得られるものを含み、ここで上記摩擦調整剤は、少なくとも2つのヒドロカルビル基(各々、少なくとも約6個の炭素原子を含む)を含む。このような摩擦調整剤の例としては、イソステアリン酸もしくはアルキルコハク酸無水物と、トリス−ヒドロキシメチルアミノメタンとの反応生成物が挙げられる。このような摩擦調整剤のより詳細な説明は、米国特許出願第2003/22000号(もしくは国際公開WO04/007652)の段落8および段落9〜14に開示されている。
【0109】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、アルコキシル化アルコールを含む。適切なアルコキシル化アルコールの詳細な説明は、米国特許出願第2005/0101497号の段落19および段落20に記載される。上記アルコキシル化アミンはまた、米国特許第5,641,732号の第7欄第15行目〜第9欄第25行目に記載されている。
【0110】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、米国特許第5,534,170号の第37欄第19行目〜第39欄第38行目に定義されるように、ヒドロキシルアミン化合物を含む。必要に応じて、上記ヒドロキシルアミンは、ホウ酸化されているものを含み、このような生成物は、米国特許第5,534,170号の第39欄第39行目〜第40欄第8行目に記載される。
【0111】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、米国特許第5,703,023号の実施例E(第28欄第30〜46行目)に記載されるように、アルコキシル化アミン(例えば、約1.8% Ethomeen T−12および0.90% Tomah PA−1から得られるエトキシル化アミン)を含む。他の適切なアルコキシル化アミン化合物は、商標「ETHOMEEN」によって公知であり、Akzo Nobelから入手可能な市販のアルコキシル化脂肪アミンを含む。これらETHOMEENTM材料の代表例は、ETHOMEENTM C/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−ココ−アミン);ETHOMEENTM C/20(ポリオキシエチレン−[10]ココアミン);ETHOMEENTM S/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−ソイアミン);ETHOMEENTM T/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]−獣脂−アミン);ETHOMEENTM T/15(ポリオキシエチレン−[5]獣脂アミン);ETHOMEENTM 0/12(ビス[2−ヒドロキシエチル]オレイル−アミン);ETHOMEENTM 18/12(ビス[2-ヒドロキシエチル]−オクタデシルアミン);およびETHOMEENTM 18/25(ポリオキシエチレン[15]−オクタデシルアミン)である。脂肪アミンおよびエトキシル化脂肪アミンはまた、米国特許第4,741,848号に記載される。
【0112】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、米国特許第5,750,476号の第8欄第40行目〜第9欄第28行目に記載されるようなポリオールエステルを含む。
【0113】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、米国特許第5,840,662号の第2欄第28行目〜第3欄第26行目に記載されるように、低能力の摩擦調整剤を含む。米国特許第5,840,662号はさらに、第3欄第48行目〜第6欄第25行目において、上記低能力の摩擦調整剤を調製するための特定の材料および方法を開示する。
【0114】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、米国特許第5,840,663号の第2欄第18〜43魚目に記載されるように、異性化アルケニル置換コハク酸無水物およびポリアミンの反応生成物を含む。米国特許第5,840,663号に記載される上記摩擦調整剤の特定の実施形態は、第3欄第23行目〜第4欄第35行目にさらに開示される。代表例は、米国特許第5,840,663号の第4欄第45行目〜第5欄第37行目にさらに開示される。
【0115】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、商標Duraphos(登録商標) DMODPの下でRhodiaによって市販されているアルキルホスホネートモノエステルもしくはアルキルホスホネートジエステルを含む。
【0116】
一実施形態において、上記摩擦調整剤は、カナダ国特許第1,188,704号から公知のホウ酸化脂肪エポキシドもしくはアルキレンオキシドを含む。これら油溶性ホウ素含有組成物は、約80℃〜約250℃の温度で、ホウ酸もしくは酸化ホウ素と、少なくとも1つの脂肪エポキシドもしくはアルキレンオキシドとを反応させることによって、調製される。上記脂肪エポキシドもしくはアルキレンオキシドは、代表的には、上記エポキシドの脂肪基(もしくは上記アルキレンオキシドのアルキレン基)中に、少なくとも約8個の炭素原子を含む。
【0117】
上記ホウ酸化脂肪エポキシドは、2つの物質の反応を含むそれらの調製のための方法によって特徴づけられるものを包含する。試薬Aは、酸化ホウ素もしくはメタホウ酸(HBO)、オルトホウ酸(HBO)およびテトラホウ酸(tetraboric acid)(H)、もしくはオルトホウ酸を含む坊さんの種々の形態のいずれかを含む。試薬Bは、少なくとも1つの脂肪エポキシドを含む。試薬A 対 試薬Bのモル比は、一般に、約1:0.25〜約1:4、もしくは約1:1〜約1:3、もしくは約1:2である。上記ホウ酸化脂肪エポキシドは、上記2つの試薬をブレンドし、それらを80℃〜250℃、もしくは約100℃〜約200℃の温度で、反応が起こるに十分な時間にわたって加熱することによって調製される化合物である。望ましい場合、上記反応は、実質的に不活性な、通常、液体有機希釈液の存在下で行われ得る。上記反応の間に、水は放出され、蒸留によって除去され得る。
【0118】
(潤滑粘性の油)
上記潤滑油組成物は、潤滑粘性の天然もしくは合成の油、水素化分解、水素化、水素化仕上げ(hydrofinishing)、および未精製、精製、および再精製の油から得られる油、ならびにこれらの混合物を含む。
【0119】
天然の油は、動物油、植物性油、鉱油およびこれらの混合物を含む。合成の油は、炭化水素油、シリコンに基づく油、およびリン含有酸の液体エステルを含む。合成の油は、Fischer−Tropsch ガス−トゥ−リキッド(gas−to−liquid)合成手順によって生成され得るか、ならびに他のガス−トゥ−リキッド油(gas−to−liquid oil)であり得る。一実施形態において、本発明の組成物は、ガス−トゥ−リキッド油において使用される場合に有用である。しばしば、Fischer−Tropsch炭化水素もしくはワックスは、水素異性化(hydroisomerise)され得る。
【0120】
一実施形態において、ベースオイルは、ポリαオレフィン(PAO−2、PAO−4、PAO−5、PAO−6、PAO−7もしくはPAO−8が挙げられる)を含む。上記ポリαオレフィンは、一実施形態において、ドデセンから調製され、別の実施形態においてデセンから調製される。
【0121】
一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、エステル(例えば、アジペート)である。
【0122】
一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、少なくとも部分的には、ポリマーである(粘性調整剤とも言及され得る)(スチレン−ブタジエンの水素化コポリマー、エチレン−プロピレンポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレンポリマー、水素化イソプレンポリマー、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアルキルスチレン、アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、ポリオレフィン、ポリアルキルメタクリレートおよびマレイン酸無水物−スチレンコポリマーのエステルを含む)。種々の実施形態において、上記ポリマーは、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアルキルメタクリレートおよびマレイン酸無水物−スチレンコポリマーのエステル、ポリイソブテンまたはこれらの混合物を含む。
【0123】
一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、上記潤滑組成物の約0重量%〜約70重量%の範囲で存在するポリマー(もしくは粘性調整剤)を含み得る。一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、上記潤滑組成物の約5重量%〜約65重量%の範囲で存在するポリマー(もしくは粘性調整剤)を含み得る。一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、上記潤滑組成物の約10〜約60重量%、もしくは約15重量%〜約50重量%の範囲で存在するポリマー(もしくは粘性調整剤)を含み得る。一実施形態において、上記潤滑組成物は、粘性調整剤とAPIグループIIIもしくはグループIVのベースオイルとの混合物を含む潤滑粘性の油を含む。一実施形態において、上記潤滑組成物は、合成の潤滑粘性の油を含む。
【0124】
潤滑粘性の油はまた、American Petroleum Institute (API) Base Oil Interchangeability Guidelinesに特定されるように定義され得る。一実施形態において、上記潤滑粘性の油は、APIグループI、II、III、IV、V、VIベースオイル、もしくはこれらの混合物を、別の実施形態において、APIグループII、III、IVのベースオイルもしくはこれらの混合物を含む。別の実施形態において、上記潤滑粘性の油は、グループIIIもしくはIVのベースオイルであり、別の実施形態において、グループIVベースオイルである。
【0125】
存在する上記潤滑粘性の油の量は、代表的には、約100重量%から、本発明の化合物、上記摩擦調整剤、上記従来のリン耐摩耗剤および/もしくは極圧剤、上記有機スルフィド、および上記他の性能補助剤(performance additive)(以下に記載される)の量の合計を差し引いた後の残りである。
【0126】
一実施形態において、上記潤滑組成物は、濃縮物および/もしくは十分に処方された潤滑剤の形態で存在する。上記リン含有添加剤、上記有機スルフィド、および上記他の性能補助剤が濃縮物(これは、さらなる油と合わせられて、全体としてもしくは部分的に完成した潤滑剤を形成し得る)の形態で存在する場合、上記潤滑組成物の成分 対 上記潤滑粘性の油および/もしくは 対 希釈油の比は、重量で約1:99〜約99:1、もしくは重量で約80:20〜約10:90の範囲を含む。
【0127】
(他の性能補助剤)
本発明の組成物は、必要に応じて、少なくとも1種の他の性能補助剤をさらに含む。上記他の性能補助剤は、金属不活化剤、界面活性剤、分散剤、粘性調整剤、分散粘性調整剤(dispersant viscosity modifier)、抗酸化剤、防腐食剤(corrosion inhibitor)、発泡インヒビター、解乳化剤、流動点降下剤(pour point depressant)、シール膨張剤(seal swelling agent)、およびこれらの混合物を含む。
【0128】
種々の実施形態において、上記他の性能補助剤化合物の合わせた総量は、上記潤滑組成物の、約0重量%〜約25重量%、約0.1重量%〜約15重量%、および約0.5重量%〜約10重量%からなる群より選択される範囲で存在する。上記他の性能補助剤のうちの1種以上が存在し得るものの、上記他の性能補助剤が、互いに対して種々の量で存在することは、一般的である。
【0129】
抗酸化剤は、モリブデン化合物(例えば、ジチオカルバミン酸モリブデン)、硫化オレフィン、ヒンダードフェノール、アミン化合物(例えば、アルキル化ジフェニルアミン(代表的には、ジ−ノニルジフェニルアミン、オクチルジフェニルアミン、もしくはジ−オクチルジフェニルアミン))を含む。
【0130】
界面活性剤は、天然のもしくは過塩基化界面活性剤、ニュートンのもしくは非ニュートンの、アルカリ金属、アルカリ土類金属もしくは遷移金属と、フェネート(phenate)、硫化フェネート、スルホネート、カルボン酸、リン酸(phosphorus acid)、モノチオリン酸および/もしくはジチオリン酸、サリゲニン、アルキルサリチレート、ならびにサリキサレート(salixarate)のうちの1種以上との塩基性塩を含む。
【0131】
分散剤は、N−置換された長鎖アルケニルスクシンイミド、およびMannich縮合生成物ならびにそれらの後処理バージョンを含む。後処理した分散剤は、ウレア、チオウレア、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換されたコハク酸無水物、ニトリル、エポキシド、ホウ素化合物、およびリン化合物との反応によるものを含む。
【0132】
一実施形態において、上記分散剤は、ホウ酸化ポリイソブチレンスクシンイミドを含む。代表的には、上記ポリイソブチレンの数平均分子量は、約450〜約5000、もしくは約550〜約2500の範囲である。
【0133】
種々の実施形態において、上記分散剤は、上記潤滑組成物の、約0重量%〜約10重量%、約0.01重量%〜約10重量%、および約0.1重量%〜約5重量%からなる群より選択される範囲で存在する。
【0134】
粘性調整剤は、スチレン−ブタジエンの水素化コポリマー、エチレン−プロピレンコポリマー、ポリイソブテン、水素化スチレン−イソプレンポリマー、水素化イソプレンポリマー、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリアルキルスチレン、アルケニルアリール共役ジエンコポリマー、ポリオレフィン、ポリアルキルメタクリレートおよびマレイン酸無水物−スチレンコポリマーのエステルを含む。分散粘性調整剤(しばしば、DVMともいわれる)は、官能化ポリオレフィン(例えば、マレイン酸無水物とアミンの反応生成物で官能化されたエチレン−プロピレンコポリマー、アミンで官能化されたポリメタクリレート、もしくはアミンと反応したスチレン−マレイン酸無水物コポリマー)はまた、本発明の組成物において使用され得る。
【0135】
防錆剤は、オクチルアミンオクタノエート、ドドセニルコハク酸もしくは無水物および脂肪酸(例えば、オレイン酸)とポリアミンとの縮合生成物、または上記のチアジアゾール化合物を含む。金属不活化剤は、ベンゾトリアゾール(代表的には、トリルトリアゾール)、1,2,4−トリアゾール、ベンゾイミダゾール、2−アルキルチオベンゾイミダゾールもしくは2−アルキルチオベンゾイミダゾールの誘導体を含む。
【0136】
発泡インヒビターは、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートおよび必要に応じて、ビニルアセテートのコポリマーを含む。解乳化剤は、トリアルキルホスフェート、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドおよび(エチレンオキシド−プロピレンオキシド)ポリマーを含む。流動点降下剤は、マレイン酸無水物−スチレンのエステル、ポリメタクリレート、ポリアクリレートもしくはポリアクリルアミドを含む。シール膨張剤は、Exxon Necton−37TM(FN 1380)およびExxon Mineral Seal Oil (FN 3200)を含む。
【0137】
(グリース)
一実施形態において、本明細書に記載される潤滑組成物は、グリース増粘剤をさらに含む。上記潤滑組成物がグリース増粘剤を含む場合、上記組成物は、グリース組成物として記載され得る。
【0138】
上記グリース増粘剤は、(i)無機粉末(例えば、粘土、有機粘土、ベントナイト、溶融シリカ、方解石、カーボンブラック、顔料、フタロシアニン銅、もしくはこれらの混合物)、(ii)カルボン酸および/もしくはエステル(例えば、モノカルボン酸もしくはポリカルボン酸および/またはそれらのエステル)、(iii)ポリウレアもしくはジウレア、あるいは(iv)これらの混合物から得られる物質を含む。
【0139】
一実施形態において、上記グリース増粘剤は、方解石から得られる。代表的には、方解石増粘剤は、過塩基性スルホン酸カルシウムもしくは過塩基化カルボン酸カルシウムから得られる。一実施形態において、上記グリース増粘剤は、カルボン酸もしくはエステルと混合された過塩基性スルホン酸カルシウムから得られる。
【0140】
上記カルボン酸および/もしくはそのエステルは、ノカルボン酸もしくはポリカルボン酸および/またはそのエステル、あるいはこれら2種以上の混合物を含む。上記ポリカルボン酸および/もしくはエステルは、ジカルボン酸および/もしくはそのエステルであってもよい。
【0141】
代表的には、グリース増粘剤は、カルボン酸および/もしくはエステルの金属塩から得られる。しばしば、上記金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属(alkaline metal)、アルミニウムもしくはこれらの混合物が挙げられる。適した金属の例としては、リチウム、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウムおよびこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、上記金属としては、リチウム、カルシウム、アルミニウムもしくはこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、上記金属としては、リチウムが挙げられる。一実施形態において、上記金属としては、カルシウムが挙げられる。
【0142】
一実施形態において、上記カルボン酸および/もしくはエステルは、1種以上の分枝状の脂環式のもしくは直線状の、飽和もしくは不飽和の、モノヒドロキシもしくはポリヒドロキシ置換された、または置換されていないカルボン酸および/またはエステルを含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、1種以上の酸クロリドを含む。一実施形態において、上記カルボン酸エステルは、上記カルボン酸のうちの1種以上と、1種以上のアルコールとの1種以上のエステルを含む。上記アルコールは、1〜約5個の炭素原子のアルコールであり得る。種々の実施形態において、上記カルボン酸は、1分子につき、約2〜約30個、もしくは約4〜約30個、もしくは約8〜約27個、もしくは約12〜約24個、もしくは約16〜約20個の炭素原子を含む。
【0143】
一実施形態において、上記カルボン酸および/もしくはそのエステルは、1種以上のモノカルボン酸および/もしくはそのエステル、1種以上のジカルボン酸および/もしくはそのエステル、またはこれら2種以上の混合物を含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、アルカン酸を含む。一実施形態において、上記カルボン酸および/もしくはそのエステルは、1種以上のジカルボン酸および/もしくはそのエステル、ならびに/または1種以上のポリカルボン酸および/もしくはそのエステルの混合物を含む。一実施形態において、上記カルボン酸および/もしくはそのエステルは、1種以上のモノカルボン酸および/もしくはそのエステル、ならびに1種以上のジカルボン酸および/もしくはポリカルボン酸および/もしくはそのエステルの混合物を含む。
【0144】
種々の実施形態において、ジカルボン酸および/もしくはポリカルボン酸および/もしくはこれらのエステル 対 モノカルボン酸および/もしくはそのエステルの重量比は、約5:95〜約40:60、もしくは約20:80〜約35:65、もしくは約25:75〜約35:65、もしくは約30:70を含む範囲内であり得る。
【0145】
一実施形態において、上記カルボン酸および/もしくはそのエステルは、1種以上のヒドロキシステアリン酸および/もしくはこれら酸のエステルを含む。適切なヒドロキシステアリン酸の例としては、9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、もしくはこれら2種以上の混合物が挙げられる。上記エステルは、2種以上のメチルエステルもしくは天然のエステル(例えば、9−ヒドロキシステアリン酸メチル、10−ヒドロキシステアリン酸メチル、12−ヒドロキシステアリン酸メチル)、水素化トウゴマ油(hydrogenated castor bean oil)、もしくはこれら2種以上の混合物であり得る。
【0146】
一実施形態において、上記カルボン酸は、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、アラキン酸、ベヘン酸および/もしくはリグノセリン酸を含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、ウンデシレン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、ガドレイン酸、エライジン酸、cis−エイコセン酸(cis−eicosenoic acid)、エルカ酸、ネルボン酸、2,4−ヘキサジエン酸、リノール酸、12−ヒドロキシテトラデカン酸、10−ヒドロキシテトラデカン酸、12−ヒドロキシヘキサデカン酸、8−ヒドロキシヘキサデカン酸、12−ヒドロキシイコサン酸(12−hydroxy icosanic acid)、16−ヒドロキシイコサン酸(16−hydroxy icosanic acid)、11,14−エイコサジエン酸、リノレン酸、cis−8,11,14−エイコサトリエン酸、アラキドン酸、cis−5,8,11,14,17−エイコサペンテン酸、cis−4,7,10,13,16,19−ドコサヘキセン酸(docosahexenoic acid)、すべてtransの(all−trans−)レチノイン酸、リシノール酸、ラウロレイン酸、エレオステアリン酸、リカン酸(licanic acid)、シトロネル酸(citronelic acid)、ネルボン酸、アビエチン酸、アブシジン酸、もしくはこれら2種以上の混合物のうちの1つ以上を含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リカン酸、エレオステアリン酸、もしくはこれら2種以上の混合物を含む。
【0147】
一実施形態において、上記グリース増粘剤は、12−ヒドロキシステアリン酸およびその塩を含む。
【0148】
一実施形態において、上記カルボン酸は、イソ−オクタン二酸、オクタン二酸、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン酸、もしくはこれら2種以上の混合物を含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、ノナン二酸(アゼライン酸)を含む。一実施形態において、上記カルボン酸は、デカン二酸(セバシン酸)を含む。上記反応性カルボン酸官能基は、エステル(例えば、アジピン酸ジメチル、ノナン二酸(アゼライン酸)ジメチル、デカン二酸(セバシン酸)ジメチル、アジピン酸ジエチル、ノナン二酸(アゼライン酸)ジエチル、デカン二酸ジエチル(ジエチルセバシン酸)、もしくはこれら2種以上の混合物によって与えられ得る。
【0149】
一実施形態において、上記グリース増粘剤は、ジイソシアネートとアミンとを反応させて、(i)ジウレア(例えば、メチレンジイソシアネート(methylene diisocynate)もしくはトルエンジイソシアネート(toluene disocyanate)と、モノアミン(例えば、ステアリルアミンもしくはオレイルアミン)との反応生成物)、(ii)ポリウレア(例えば、1分子あたり2つより多い尿素結合を有するオリゴマーと1分子あたり2個の尿素結合を有するものとの混合物を与えるための、メチレンジイソシアネートもしくはトルエンジイソシアネートと、第1の工程におけるエチレンジアミンとの、および第2の工程における脂肪アミン(例えば、ステアリルアミンもしくはオレイルアミン)との反応生成物)、(iii)ポリウレアと組み合わせて、低分子量の酸(例えば、酢酸もしくは炭酸)のカルシウム塩を利用して、グリースを粘稠にすることによって形成される、ポリウレア複合体、を形成することによって形成されるポリウレア増粘剤を含む。
【0150】
上記グリース組成物は、1種以上の金属不活化剤、抗酸化剤、耐摩耗剤、防錆剤(rust inhibitor)、粘性調整剤、極圧剤(上記に記載されるとおり)、もしくはこれら2種以上の混合物をさらに含み得る。
【0151】
(産業上の適用)
本発明の方法は、種々の動力伝達系路デバイスを潤滑するためにもしくはグリース適用に有用である。上記動力伝達系路デバイスは、ギア、ギアボックス、車軸ギア(axle gear)、トラクションドライブトランスミッション(traction drive transmission)、オートマチックトランスミッションもしくはマニュアルトランスミッションのうちの少なくとも1種を含む。一実施形態において、上記動力伝達系路デバイスは、マニュアルトランスミッションもしくはギア、ギアボックス、または車軸ギアである。
【0152】
上記オートマチックトランスミッションとしては、無段変速機(CVT)、無限変速機(IVT)、トロイダル型変速機、連続スリップトルク変換クラッチ(continuously slipping torque converted clutches:CSTCC)、有段(stepped)オートマチックトランスミッションもしくはデュアルクラッチトランスミッション(DCT)が挙げられる。
【0153】
一実施形態において、本発明は、耐摩耗性能、極圧性能、許容される堆積制御(deposit control)、許容される酸化安定性および低減した臭気のうちの少なくとも1種を与えるための、ギアおよびトランスミッションにおける、本明細書に開示される潤滑組成物の使用を提供する。
【0154】
以下の実施例は、本発明の例示を提供する。これら実施例は網羅的なものではなく、本発明の範囲を限定することは意図しない。
【実施例】
【0155】
(調製実施例1)
工程A:リンペントキシド(219g,約1.54mol)を、約1.5時間にわたって、イソオクチルアルコール(約602g,約4.63mol)を含むフラスコにゆっくりと添加すると同時に、窒素雰囲気中で、約60℃〜約70℃で攪拌する。次いで、その混合物を、約90℃に加熱して、そこで約5時間維持する。その生成物を冷却する。上記生成物の分析によって、約11.6重量%のリン含有量が示される。
【0156】
工程B:約50℃の温度において、工程Aの生成物(280g/molの等重量に基づいて、約760g,約2.71mol)を含むフラスコに、(15〜40℃)で攪拌しながら、化学量論量のプロピレンオキシド(約157.7g,約2.71mol)を、滴下漏斗を介して滴下しながら混合する。上記プロピレンオキシドを、約1.5時間の期間にわたって添加して、混合物を形成する。次いで、その混合物を、70℃に加熱し、約2時間保持する。その生成物を冷却する。工程Bの生成物は、約9.6重量%のリン含有量を有する。
【0157】
工程C:工程Bの生成物(約881.5g,%P=9.6に基づいて、2.73mol P)を、窒素下で50℃に加熱し、リンペントキシド(129g,0.91mol)を四等分して、約1時間にわたって添加する。上記追加の間に、温度を、約55℃〜約70℃の範囲の間に維持しながら、激しく攪拌して、均一な固体である生成物を得る。その温度を約80℃に上昇させ;約3時間維持して、生成物を形成する。冷却すると、上記生成物は、13.7重量%のリンを含む。
【0158】
工程D:工程Cの生成物(約706.7g,約2.24mol)を、フラスコ中、窒素雰囲気中で約45℃に加熱する。ビス−(2−エチルヘキシル)アミン(約596g,約2.47mol)を、滴下漏斗を介して約2時間にわたって滴下しながら、その温度を約55℃〜約60℃であるように制御する。次いで、上記フラスコを約75℃に加熱し、そこで約2時間保持する。冷却すると、工程Dの生成物は淡橙色であり、7.7重量%のリン含有量を有する。
【0159】
(調製実施例2)
調製実施例2は、調製実施例1の工程Aおよび工程Bと類似の手順を使用して調製される。しかし、工程Aに関しては、化学量論量のプロピレンオキシド(209g,3.60mol)を、イソオクチルリン酸(約952g,約3.43mol)に添加する。次いで、その混合物を、約75℃に、4時間加熱する。工程Aの得られる生成物は、約9.65重量%のリン含有量を有する。工程Bに関しては、工程Aの生成物(約208g,約0.374mol)をフラスコ中で加熱し、ビス−(2−エチルヘキシル)アミン(約97.5g,約0.404mol)を、滴下漏斗を介して約40分間の期間にわたって滴下する。次いで、その反応温度を約75℃に上昇させ、約5時保持する。その得られる生成物は、約6.6重量%のリン含有量を有する。
【0160】
(調製実施例3)
調製実施例3は、調製実施例1と類似の手順において調製される。しかし、調製実施例3の工程Aは、リンペントキシド(約189g,約1.33mol)、メチルアミルアルコール(約408g,約4mol)を反応させる。上記リンペントキシドを、約75分間の期間にわたって約60℃の温度で添加する。次いで、その生成物を、約70℃に加熱し、約1.5時間保持する。その得られた生成物は、約13.7重量%のリン含有量を有する。工程Bを、工程Aの生成物(240g/molの等重量に基づいて、171.7g,0.719mol)と、約1.1当量のプロピレンオキシド(約46.0g,約0.791mol)とを反応させることによって、行う。その得られた生成物は、約10.96重量%のリン含有量を有する。工程Cを、工程Bの生成物(約200g,約0.71mol)を窒素雰囲気下で約60℃において加熱し、リンペントキシド(約33g,約0.23mol)と反応させることによって行う。上記発熱反応は、約87℃に達する。約65℃に冷却させて、上記フラスコをこの温度で約1.5時間保持する。次いで、上記フラスコを、約40℃に冷却し、続いて、約1.5時間の期間にわたって、ビス−(2−エチルヘキシル)アミン(約200g,約0.83mol)を滴下する。次いで、上記フラスコを約75℃に加熱し、約2時間保持する。その生成物は、約8.6重量%のリン含有量、および約2.8重量%の窒素含有量を有する。
【0161】
(調製実施例4)
調製実施例4を調製するためのプロセスは、調製実施例2のプロセスと類似である。しかし、工程Aに関しては、上記フラスコは、メチルアミルリン酸(約154.4g,約0.647mol)を含み、約25℃において、窒素雰囲気下で、1,2−エポキシヘキサデカン(約163.0g,約0.679mol)を、滴下漏斗を介して、約1.5時間の期間にわたって滴下する。次いで、その混合物を、約75℃に加熱し、そこで約4時間保持する。その生成物は、約6.7重量%のリン含有量を有する。次いで、工程Aの生成物を窒素雰囲気下で約60℃に加熱し、リンペントキシド(約33g,約0.23mol)を、2等分して、約1.5時間にわたって添加する。上記温度を、約75℃において約1.5時間保持する。次いで、上記生成物を窒素下で約40℃に加熱し、ビス−(2−エチルヘキシル)アミン(約144.8g,約0.596mol)を、滴下漏斗を介して1.5時間にわたって滴下した。次いで、その温度を約70℃に上昇させ、約2時間にわたって保持する。その生成物は、約6.6重量%のリン含有量、および約2.1重量%の窒素含有量を有する。
【0162】
(潤滑組成物1〜4)
潤滑組成物1〜4を、車軸流体(AXF1、AXF2、AXF3およびAXF4)であり、調製実施例1〜4の生成物をそれぞれ、500ppmのリンを提供するに十分な量でベースオイルへとブレンドすることによって調製する。上記車軸流体は、分散剤、硫化オレフィン、防錆剤、粘性調整剤および流動点降下剤(200ppm)を、従来の量でさらに含む。
【0163】
比較潤滑組成物1(CLC1)は、ベースオイルに、500ppmのリンを提供するに十分な量の従来調製実施例1の生成物をブレンドすることによって調製される車軸流体である。上記車軸流体は、分散剤、硫化オレフィン、防錆剤、粘性調整剤および流動点降下剤(200ppm)を、従来の量でさらに含む。
【0164】
(車軸流体試験)
上記車軸流体のAXF1、AXF2、AXF3、AXF4、およびCLC1を、ASTM Method D6121−05a(最終ハイポイド駆動車軸に使用される低速および高トルク条件下で潤滑剤の能力を有する負荷を評価するための標準試験法(Standard Test Method for Evaluation of the Load Carrying Capacity of Lubricants Under Conditions of Low Speed and High Torque Used for Final Hypoid Drive Axles))を使用することによって、評価する。得られた結果は、上記AXF1、AXF2、AXF3、AXF4、およびCLC1車軸流体が、有用な車軸流体として作用するに十分機能することを示す。
【0165】
上記車軸流体AXF1、AXF2、AXF3、AXF4、およびCLC1を、L60−1 ギア潤滑剤の熱酸化安定性試験(Thermal Oxidative Stability of Gear Lubricants Test)(ASTM Method D5704に基づく)を使用することによって、評価する。得られた結果は、AXF1、AXF2、AXF3、およびAXF4車軸流体が上記L60−1試験の期間にわたって、約100℃において約20%〜約44%まで粘性を増加させることを示す。上記CLC1車軸流体は、上記L60−1試験の期間にわたって、約100℃において約43%まで粘性を増加させる。
【0166】
上記車軸流体AXF1、AXF2、AXF3、AXF4、およびCLC1を、ガスクロマトグラフィーヘッドスペース法分析(Gas Chromatography Headspace Analysis)によって、気体状硫化物の放出について評価する。これは、Agilent Equipment(Tekmar(登録商標) HT3 Headspace Autosampler(約250℃においてAgilent 5973N MSD検出器(約5:1のスプリット比,カラムヘリウム流 約1.0ml/分)および約30m長のDB−5MSカラム(定常相の厚み0.25μm)を備えるガスクロマトグラフ)を使用して、行う。上記上部空き高注入ポートの温度を、約200℃で維持し、そのバイアルを、ガス相を分析する前に、約30分間平衡化する。そのバイアル圧は、上記温度に依存し、上記移動相(ヘリウム)の流速は、約1.0ml/分である。上記GC−温度プログラムは、約50℃の温度(2分間等温)、約15℃/分で約280℃まで上昇させ、約280℃で5分間保持である。標準物質は、有機硫黄種AおよびBの混合物(この標準混合物の約1.0μlが、油に添加される)から調製する。上記標準物質の面積を、Agilent GC/MSソフトウェアの抽出イオンモードを使用して得る。応答係数(response factor)を、濃度および抽出されるイオンピークの面積を使用して計算する。上記サンプルの面積を、同じ抽出されたイオンを使用して得る。上記サンプルの面積に標準応答係数を掛け、その結果を、上記サンプル中の種Aおよび種Bのppmとして報告する。上記結果は、AXF1、AXF2、AXF3、およびAXF4車軸流体が、気体状硫化物を放出しないことを示す。上記CLC1車軸流体は、30ppmより多くの気体状硫化物を放出する。
【0167】
上記車軸流体の結果は、全体として、本発明の硫黄非含有アミン塩が、CLC1車軸流体の硫黄含有アミン塩と比較して、許容可能な耐摩耗性能を提供することを示す。さらに、本発明の硫黄非含有アミン塩は、上記CLC1車軸流体の硫黄含有アミン塩と比較して、上記L60−1試験において低下した粘性上昇を提供し、気体状硫化物の検出可能な放出を有さない。
【0168】
(潤滑組成物5〜8)
潤滑組成物5〜8は、調製実施例1〜4の生成物それぞれを約0.49重量%含むオートマチックトランスミッション流体(それぞれ、ATF1、ATF2、ATF3およびATF4)である。上記オートマチックトランスミッション流体は、分散剤、摩擦調整剤、ポリメタクリレート粘性調整剤、リン耐摩耗剤および流動点降下剤(200ppm)を、従来の量でさらに含む。
【0169】
比較潤滑組成物2(CLC2)は、ベースオイルに、約0.49重量%の従来調製実施例1の生成物をブレンドすることによって調製されるオートマチックトランスミッション流体である。上記オートマチックトランスミッション流体は、分散剤、摩擦調整剤、ポリメタクリレート粘性調整剤、リン耐摩耗剤および流動点降下剤(200ppm)を、従来の量でさらに含む。
【0170】
(オートマチックトランスミッション試験)
上記オートマチックトランスミッション流体ATF1、ATF2、ATF3、ATF4およびCLC2を、ASTM Method D130(約150℃で3時間の銅腐食);およびFord Mercon(登録商標)V 4−ボール摩耗試験(ASTM D4172−94(2004)ともいわれる)を使用して、評価する。上記4−ボール摩耗試験を2回行う。示される結果は、2回の試験の平均摩耗傷である。
【0171】
ATF1およびCLC2流体で得られる結果の上記ASTM Method D130銅ランク付けは、それぞれ、1Aおよび2Cである。ATF1およびCLC2の上記4−ボール摩耗試験データはともに、0.46mmである。
【0172】
全体的に、上記結果は、本発明の硫黄非含有アミン塩が、類似のオートマチックトランスミッション流体CLC2と比較して、オートマチックトランスミッション流体に、許容可能な耐摩耗性能および低減した銅腐食を提供することを示す。
【0173】
(グリース組成物)
比較リチウムグリース組成物(CGC1)を調製し、これは、通常量のリン耐摩耗剤(上記に記載されるように、従来調製実施例1の生成物と類似)を含む。
【0174】
本発明のグリース組成物1〜4(GR1、GR2、GR3およびGR4)を、使用されるリン耐摩耗剤がそれぞれ、調製実施例1〜4の生成物であることを除いて、上記比較リチウムグリース組成物と類似の方法で調製する。
(グリース組成物試験)
上記グリース組成物GR1〜GR4、およびCGC1を、ASTM Methods D2596、D2509およびD2266を使用して、耐摩耗性能について評価する。その結果は、本発明のグリース組成物および上記比較グリース組成物が、上記試験において類似の性能を有することを示す。
【0175】
上記物質のうちのいくつかは、最終処方物において影響し合う可能性があり、その結果、最終処方物の成分が最初に添加されるものとは異なり得ることは、公知である。そのように形成される生成物(その意図された用途のために本発明の潤滑組成物を使用することで形成される生成物を含む)は、容易な説明は可能でない可能性がある。にも拘わらず、すべてのこのような改変および反応生成物は、本発明の範囲内に包含される;本発明は、上記の成分を混合することによって調製される潤滑組成物を包含する。
【0176】
本発明は、その好ましい実施形態に関連して説明されてきたが、本明細書を読めば、その種々の改変は当業者に明らかになることが理解されるべきである。従って、本明細書に開示される発明が、添付の特許請求の範囲内に入るような改変を網羅することが意図されることは理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む潤滑組成物:
潤滑粘性の油;および
(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、または(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルいずれかの硫黄非含有アミン塩。
【請求項2】
前記硫黄非含有アミン塩は、リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルまたはリン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルである、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項3】
前記硫黄非含有アミン塩は、以下の式(1)もしくは式(1a):
【化4】

もしくは
【化5】

によって表され、ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であるが、ただし、x=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし(m+n)の和は約4に等しく;
Mは金属イオンであり;
tは、約1〜約4で変動する整数であり;そして
qおよびeは、有理数であり、その合計は、tを満たすために、完全原子価を提供し、ただし、qは、約0.1〜約1.5の範囲内であり、eは、約0〜約0.9の範囲内である、
請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項4】
前記式(1a)によって表されるリン化合物のアミン塩は、式(1a):
【化6】

によって表され、ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただし、x=0の場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし、(m+n)の和は、約4に等しい、
請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項5】
xは約1である、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項6】
xは約0である、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項7】
mは約3に等しく;そしてnは約1に等しい、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項8】
AおよびA’は、独立して、約2〜約4個の炭素原子を含む、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項9】
R、R’およびR”はすべて、独立して、約4〜約20個の炭素原子を含む、請求項3に記載の潤滑組成物。
【請求項10】
有機スルフィドをさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項11】
前記有機スルフィドは、ポリスルフィド、チアジアゾール化合物、もしくはこれらの混合物のうちの少なくとも1つを含む、請求項10に記載の潤滑組成物。
【請求項12】
ホウ酸化ポリイソブチレンスクシンイミドをさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項13】
リン耐摩耗剤もしくは極圧剤、もしくはこれらの混合物をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項14】
前記従来のリン耐摩耗剤もしくは極圧剤は、非イオン性リン化合物、モノアルキルリン酸エステルおよびジアルキルリン酸エステルの混合物のアミン塩、金属ジアルキルジチオホスフェート、金属ジアルキルホスフェート、ならびにこれらの混合物からなる群より選択される、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項15】
摩擦調整剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項16】
グリース増粘剤をさらに含む、請求項1に記載の潤滑組成物。
【請求項17】
前記グリース増粘剤は、カルボン酸および/もしくはエステルから得られる、請求項16に記載の潤滑組成物。
【請求項18】
前記グリース増粘剤は、12−ヒドロキシステアリン酸から得られる、請求項16に記載の潤滑組成物。
【請求項19】
前記グリース増粘剤は、過塩基性スルホン酸カルシウムから得られる、請求項16に記載の潤滑組成物。
【請求項20】
前記グリース増粘剤は、ジウレア増粘剤、ポリウレア増粘剤、もしくはポリウレア複合体増粘剤またはこれらの混合物から得られる、請求項16に記載の潤滑組成物。
【請求項21】
以下を含む潤滑組成物:
潤滑粘性の油;および
(A)もしくは(B)のいずれかを含むプロセスによって得られた/得ることができるリン化合物の硫黄非含有アミン塩:
ここで(A)は、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル;および(ii)酸素含有無機リン化合物を反応させて、酸性リン化合物を形成する工程;ならびに該酸性リン化合物とアミンとを反応させる工程を包含し;または
ここで(B)は、リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルとアミンとを反応させる工程を包含する。
【請求項22】
動力伝達系路デバイスを潤滑するための方法であって、該方法は、該動力伝達系路デバイスに、(i)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステル、もしくは(ii)リン酸のリン酸化ヒドロキシ置換されたジエステルもしくはトリエステルのいずれかの硫黄非含有アミン塩を含む潤滑組成物を供給する工程を包含する、方法。
【請求項23】
前記リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの硫黄非含有アミン塩は、
(a)以下の式(1)もしくは式(1a)によって表されるリン化合物のアミン塩:
【化7】

もしくは
【化8】

ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただしx=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし、(m+n)の和は、約4に等しく;
Mは金属イオンであり;
tは、約1〜約4(もしくは約1〜約2)で変動する整数であり;そして
qおよびeは、有理数であり、その合計は、tを満たすために完全原子価を提供し、ただしqは、約0.1〜約1.5の範囲内であり、eは、約0〜約0.9の範囲内であり;そして
(c)リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの硫黄非含有アミン塩、
からなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
潤滑組成物に適した耐摩耗剤としての、リン化合物の硫黄非含有アミン塩の使用。
【請求項25】
以下を含む化合物:
【化9】

ここで
AおよびA’は、独立して、H、もしくは約1〜約30個の炭素原子を含むヒドロカルビル基であり;
各RおよびR”基は、独立して、ヒドロカルビル基であり;
各R’は、独立して、R、H、もしくはヒドロキシアルキル基であり;
Yは、独立して、R’、もしくはRO(R’O)P(O)−CH(A’)CH(A)−によって表される基であり;
xは、約0〜約1の範囲であり、ただし、x=0である場合、R’は、ヒドロキシアルキル基であり;そして
mおよびnはともに、正の0でない整数であり、ただし、(m+n)の和は、約4に等しく;
Mは、金属イオンであり;
tは、約1〜約4(もしくは約1〜約2)で変動する整数であり;そして
qおよびeは、有理数であり、その合計は、tを満たすために完全原子価を提供し、ただしqは、約0.1〜約1.5の範囲内であり、eは、約0〜約0.9の範囲内である。
【請求項26】
tは、約1に等しく、eは、約0に等しく、そしてqは、約1に等しい、請求項25に記載の化合物。
【請求項27】
リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルの塩を調製するためのプロセスであって、
(i)リン酸化剤(例えば、P、P10、もしくはその等価物)と、アルコールとを反応させて、モノリン酸エステルおよび/もしくはジリン酸エステルを形成する工程;
(ii)該モノリン酸エステルおよび/もしくはジリン酸エステルと、アルキレンオキシドとを反応させて、リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルを形成する工程;ならびに
(iii)アミンおよび/もしくは金属と反応させて、該リン酸のヒドロキシ置換されたジエステルを塩化する工程、
を包含する、プロセス。

【公表番号】特表2010−516865(P2010−516865A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547357(P2009−547357)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【国際出願番号】PCT/US2008/051126
【国際公開番号】WO2008/094759
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(591131338)ザ ルブリゾル コーポレイション (203)
【氏名又は名称原語表記】THE LUBRIZOL CORPORATION
【住所又は居所原語表記】29400 Lakeland Boulevard, Wickliffe, Ohio 44092, United States of America
【Fターム(参考)】