説明

耐摩耗性と耐酸化性のバランスを改良した超高分子量架橋ポリエチレン製医療用移植片の成形プロセス

【課題】耐摩耗性と耐酸化性のバランスを改良した超高分子量架橋ポリエチレン製医療用移植片を提供する。
【解決手段】耐摩耗性と耐酸化性の改良バランスを有する超高分子量ポリエチレン製の医療用移植片は、超高分子量ポリエチレンのプリフォーム(予備成形品)に照射し、照射されたプリフォームを酸素欠如下で融解開始温度またはそれより高い温度でアニールし、安定化した架橋ポリマーから移植片を成形するという方法で作成される。本移植片は非照射超高分子量ポリエチレンに比較して、同程度の耐酸化性およびよりすぐれた耐摩耗性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性と耐酸化性のバランスを改良した超高分子量架橋ポリエチレン製医療用移植片を成形するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、不活性雰囲気または真空中において、たとえばガンマ線などの高エネルギー放射線照射で架橋することは従来公知である。ガンマ線にUHMWPEを暴露すると、ポリマー内で多くのフリーラヂカル反応が誘発される。この反応の一つが架橋である。この架橋がポリマー内に三次元ネットワークを形成し、ポリマーに多方向耐接着摩耗を付与する。UHMWPE照射で生成する遊離基は鎖分断によってポリマーの分子量を減少させる酸化に関与し、物理的特性の劣化、脆化および摩耗率の著しい増加を導く。遊離基の寿命は極めて長いので(8年を超える)、酸化反応が長期にわたって継続し、約5年にわたる酸化の結果、摩耗率が5倍も増加することになる。このように、従来の照射材料の摩耗率は非照射材料に比べ著しく大きい。
【0003】
サン(Sun)らはここに引用として取り入れた米国特許第5,414,049号に、放射線滅菌した医療用移植片の耐酸化性を改良するプロセスを開示している。好ましい実施例では、原料ポリマー材料は成形工程の前に空気および水分を除去したバージン樹脂粉体を成形することによって得られる。たとえば、ラム式押出成形または粉体の圧縮成形等の成形プロセスは低酸素の不活性雰囲気中で行うのが好ましい。医療用移植片はUHMWPE等のオレフィン原料で成形し、酸素を低減した非反応性雰囲気中で酸素不透過性の包装に密封し、放射線滅菌、続いて滅菌密封移植片をオレフィン原料の融点と37℃との間の温度で加熱する。放射線滅菌段階で生成した遊離基の残基は加熱段階で架橋し、材料の耐酸化性が改善される。アニール温度が高すぎると、UHMWPE移植片が熱処理で変形を起こし、これは移植片を精密許容差で一般に機械加工または成形して整形外科で最終用途に供するのに望ましくない。アニール期間の温度プロフィールを低く調整してUHMWPE移植片の変形を回避すれば、一般に遊離基の消滅が不完全となり、UHMWPEは空気または水分に暴露した際に酸化する。
【0004】
ヒュン(Hyun)らはここに引用として取り入れた国際出願WO96/09330において、人工関節に用いる配向性UHMWPE材料を生成するプロセスを開示している。このプロセスでは、低線量の高エネルギー放射線を架橋材料に不活性ガスまたは真空中で低度に照射し、照射材料を圧縮変形が可能な温度、好ましくは融点近傍またはそれ以上に加熱して圧縮変形させ、引き続き材料を冷却、固化させている。これにより、配向性UHMWPE材料の耐摩耗性が改良されている。医療用移植片は配向性材料から機械加工され、または圧縮変形段階から直接成形することもできる。配向性材料の異方性が移植片に機械加工した後の変形可能性を材料に付与する。
【0005】
サロベイ(Salovey)らはここに引用として取り入れた欧州出願EP722973において、UHMWPEを含むポリマーの耐水性を溶融照射による架橋または過酸化物または同様の化学物質を用いることで増強する方法を開示している。
【0006】
本発明のプロセスは照射による移植片の熱歪み問題、および圧縮UHMWPE材料を移植片成形前に熱処理する問題を解決するものである。照射架橋段階を滅菌段階から分離することで、本発明はUHMWPEの滅菌に有効なレベルよりも低い架橋照射を用いることを可能にする。さらに、照射に続く熱処理段階が融点近傍または融点以上で行うことが可能になる。この温度では、最終滅菌のために密封した移植片を機械加工または成形した形状が変形する。融点近傍またはそれ以上での熱処理が分子移動を改善し、融解温度以下の温度で起きないポリマー結晶領域における遊離基を除去するので、架橋の増加および熟成サンプルでの酸化の減少をもたらす。熱処理が低温で行われると、遊離基の失活が不完全であり、熟成時に残留酸化をもたらす。照射とアニール段階を分離することで、本発明のプロセスは商業規模で実施するのが難しい溶融照射の必要性を回避することができる。本発明のさらなる目的は化学架橋剤を使用しないで摩耗特性を改善した架橋UHMWPE医療用移植片を製作することにある。本発明の架橋UHMWPE材料から成形した医療用移植片は空気透過性包装に密封し、ガスプラズマまたは酸化エチレン等の非照射方法を用いて滅菌することができ、移植片を不活性雰囲気で密封する要件を回避することができる。本発明の架橋UHMWPEは高い耐摩耗性が要求される非医療用の用途にも利用できる。
【発明の概要】
【0007】
本発明は医療用移植片において有用な超高分子量架橋ポリエチレンの製造方法に関する。その方法は、超高分子ポリエチレンのプリフォームを好ましくはガンマ線で照射することを含む。プリフォームは任意に、照射前に不活性雰囲気中で、外圧を適用せずにアニールすることもできる。次いで照射されたプリフォームは、実質的に酸素のない雰囲気中で、融解開始温度または融解開始温度より高い温度、好ましくはピークDSC融点の近くまたはそれより高い温度で、すべての遊離基を実質的に再結合し、超高分子ポリエチレンを架橋するのに十分な時間アニールする。このアニール段階は等圧または静水圧下で行ってもよい。アニールされたプリフォームは酸素フリー雰囲気を維持しながら冷却し、医療用移植片に成形する。その移植片を非照射法を用いて滅菌する。滅菌は、その移植片を空気透過性包装に包み、ガスプラズマで処理することによって行うのが好ましい。
【0008】
本発明はさらに、本発明の方法によって作ることができる改良された超高分子量架橋ポリエチレンに関する。この超高分子量架橋ポリエチレンは、約5気圧の酸素圧下でエージングした後、約5未満の膨潤比および、“約0.2未満のカルボニル領域/milサンプル厚さ”という酸化レベルを有するのが好ましい。それは破断点伸び率パーセント少なくとも250、シングルノッチIZOD強度少なくとも15フートポンド/インチ(ft lb/in)、ダブルノッチIZOD強度少なくとも35ft lb/sq.inを有するのが好ましい。この超高分子量架橋ポリエチレンの医療用移植片は耐摩耗性と耐酸化性の改良されたバランスを有する。耐摩耗性はガスプラズマまたはガンマ線を用いて滅菌した従来の超高分子ポリエチレンの耐摩耗性よりすぐれている。耐酸化性は従来のガンマ滅菌超高分子ポリエチレンより著しく改善され、非照射、ガスプラズマ滅菌超高分子ポリエチレンに匹敵する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、超高分子量ポリエチレンはメルトインデックス(ASTM D-1238)が実質的にゼロ、換算比粘度が8より大きい、好ましくは25から30、の推定平均分子量が約400,000、通常は1,000,000から10,000,000のポリエチレンとして定義する。
【0010】
本発明ではUHMWPEプリフォームを出発材料として使用する。ここでプリフォームとはラム式押出機または圧縮成型などでUHMWPE樹脂粒子をロッド、シート、ブロック、スラブなどの形態に圧縮した物品を指す。かかるプリフォームは市販のUHMWPE、たとえばPolyHi Solidur(フォートウェイン社、インディアナ州)のGUR4150HPラム押出UHMWPEロッドから得ることまたは機械加工することができる。出発プリフォームは、ここに引用として取り入れたハワード(Howard)の米国特許第5,478,906号に説明されているように、加圧再結晶することもできる。UHMWPEプリフォーム材料は安定剤、酸化防止剤または医療用途に悪影響をおよぼす可能性のあるその他の化学添加剤を含有しない。
【0011】
本発明のプロセスには、UHMWPEプリフォームを照射して遊離基および架橋UHMWPEを生成させるステップ、照射UHMWPEプリフォームを実質的に酸素を含まない雰囲気中で温度を上げてアニールして照射ステップからの残存遊離基を除去するステップ、こうしてさらに照射UHMWPEを架橋させ耐酸化性を増加させるステップおよびアニール化架橋プリフォームから医療用移植片を成形するステップが含まれる。照射ステップにはガンマ線照射が好んで用いられるが、電子ビームまたはx-線照射も用いられる。本発明のプロセスで作成した超高分子量ポリエチレンは改善された摩耗特性と耐酸化性のバランスを有する。架橋の増加が膨潤比の減少(一般的に5未満)をもたらし、非照射UHMWPEと同等な耐酸化性を有する摩耗性能の改善に繋がる。
【0012】
好ましくはプリフォームを、周知な技術を用い約0.5-10Mradの線量で固体状態でガンマ線照射する。好ましくは、約1.5-6Mradの線量でプリフォームを照射する。約0.5Mrad未満の照射では、架橋は一般的に最終移植片の摩耗特性に望ましい増加を与えるには不十分である。一方、10Mradより大きな照射を用いると、一般的に高線量で達成される摩耗特性の改良がより高い架橋レベルに由来するUHMWPEの脆性増加によって相殺される。本発明のプロセスを用いて調製した超高分子量ポリエチレンは少なくとも250の破断点伸び率、少なくとも約15ft lb/ノッチin.、好ましくは少なくとも約17ft lb/ノッチの単一ノッチ付きアイゾット強度、少なくとも約35ft lb/sq in.の二重ノッチ付きアイゾット強度を有する。プレアニールまたは約280℃を超える温度でアニールしたUHMWPEは一般的に少なくとも約400、好ましくは少なくとも約500の破断点伸び率を有する。照射ステップは一般的に室温で行われるが、より高温で行われてもよい。
【0013】
プリフォームは不活性雰囲気または真空中で、照射ステップ時に酸素不透過性包装等に任意に収容される。窒素、アルゴンおよびヘリウムなどの不活性ガスを使用してもよい。真空を用いる場合は包装材料を不活性ガスで1サイクル以上フラッシュし、真空下に置いて包装材料から酸素を除去する。包装材料の例には、アルミニウムなどの金属フォイルパウチまたは熱シール真空包装用に市販されているMYLAR(商標)ポリエステル被覆包装フォイルが含まれる。ポリエチレンテレフタレートおよびポリ(エチレンビニルアルコール)などの重合包装材料(両方とも市販されている)も利用することができる。不活性雰囲気でプリフォームを照射すると酸化効果およびガンマ線照射時に発生する随伴鎖分断反応を減少させることができる。照射時に雰囲気中に存在する酸素が引き起こす酸化は一般的にプリフォーム表面に限定される。本発明のプロセスは移植片を成形する前にUHMWPEを照射架橋させるので、低レベルの表面酸化は後に続くプリフォームからの移植片の機械加工時に酸化表面が取り除かれるので許容される。
【0014】
UHMWPEプリフォームをガンマ線照射した後に、プリフォームを一般的には不活性ガスの導入または真空を用いて創出された、実質的に酸素を含有しない雰囲気で、照射架橋ステップ時に残存したすべての遊離基を実質的に再結合させるのに十分な時間にわたって昇温熱処理する。こうして材料をさらに架橋させて酸化に対し安定化させる。プリフォーム材料の熱処理時に発生する熱歪みは、移植片を熱処理したプリフォームから成形するので、最終移植片に影響を与えない。このことは最終移植片が熱処理されるプロセスにおいて可能な温度よりも高い温度を用いることを可能にする。遊離基の反応に要する保持時間は温度の上昇に伴って減少する。したがって、UHMWPEの融点を超える温度を含む広範囲な温度は本発明の熱処理ステップに許容される。
【0015】
照射プリフォームは照射され熱処理されたプリフォーム材料の融解開始温度またはそれを超える温度、好ましくは照射熱処理ポリマーのピーク融解温度で、2-120時間、好ましくは5-60時間、より好ましくは12-60時間にわたって熱処理されることが好ましい。ここで融解開始温度とは基底線とDSC融解吸熱量の負の最急峻傾斜との交点における温度で定義する。基底線は融解吸熱量の初期部分で交差し、曲線の最終部分で接する。ピーク融解温度は融解吸熱量のピーク部位で定義する。照射し熱処理したUHMWPEの融解開始温度は一般的に約120℃であり、ピーク融解温度は一般的に135-140℃の間である。本発明の特に好ましい実施例は1.5-6Mradの線量で照射し、引き続き150-170℃で6-60時間、より好ましくは12-60時間にわたって熱処理する。実質的にすべての遊離基が反応するのに十分な温度と保持時間は以下に説明する方法を用いて試料の酸化を測定して決定することができる。好ましい温度および保持時間は、この方法で測定した熟成の達成後に、酸化レベルが試料厚みミルあたりカルボニル面積約0.2未満、好ましくは0.1未満であるように選択される。融解開始温度またはそれを超える温度での熱処理は分子移動の改善およびポリマーの結晶領域における遊離基の除去をもたらし、架橋を増加させ熟成試料の酸化を減少させる結果をもたらす。熱処理を低温で行うと、遊離基の除去が不完全となり、熟成時に残存酸化レベルの増加をもたらす。
【0016】
米国特許第5,478,906号に開示された加圧再結晶の温度および圧力を用いる熱処理を行うことで、標準UHMWPEを照射、加圧再結晶して鎖の配座を延長させることができる。UHMWPEの加圧再結晶では、ポリマーを水が操作温度で発生する圧力に十分耐えうる水中の圧力容器内に入れる。容器の温度を1気圧でポリエチレンが融解する温度(一般的には135-150℃)および50,000psiで約200℃に上昇させる。ポリマーが融解するのに要する時間は使用するUHMWPEプリフォームの大きさに依存する。UHMWPEの導電性は低く、高い結晶化熱を有するので、3in.径のロッドを220℃の容器で200℃に加熱するのに1-2時間かかる。ポリマーが加熱され融解したら加圧する。好ましい圧力は約33kpsi(230Mpa)から70kpsi(480Mpa)である。加圧再結晶前にUHMWPEを不活性雰囲気中で融点を超える温度でアニールすることで特性のさらなる改善が達成される。加圧再結晶前におけるプレアニール化材料の好ましい加圧再結晶圧力は45kpi(310MPA)より大きいものである。250℃から75℃まで冷却する時間は通常約6時間であるが、容器を強制冷却することで製品に悪影響を与えることなく冷却時間を1-2時間に短縮することができる。
【0017】
本発明のプロセスによって作成したUHMWPE材料は顕著な分子または結晶の配位を持たない好ましい等方性材料である。ポリマーの残存応力誘発を防止するために、不均一な力が熱処理中に材料の変形を起こさない方法で、照射後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理の間プリフォームを均衡圧または静水圧などの均一な圧力下に置く。別の方法として、UHMWPEを変形させないように外部加圧のない状態でプリフォームを加熱することができる。圧縮またはその他の力を加えてプリフォームを変形させることは、移植片の機械加工後に内部応力のために変形することもある配向性材料を生じるので望ましくない。
【0018】
所定の時間の後、不活性雰囲気または真空のまま架橋プリフォームを冷却する。プリフォームを空気に暴露する前に、架橋プリフォームを約100℃未満、好ましくは約50℃未満、より好ましくは室温に冷却する。熱処理ステップでプリフォームを包装した場合は冷却後にプリフォームを包装から取り出し、機械加工など周知の方法を用いて移植片に成形する。架橋UHMWPEは、たとえば股関節コップ補装具および膝、肩、指、背骨、肘を含む人体のその他の関節に代わる形態の補装具などの支持面として特に有用である。移植片の最終製品を次に包装し、遊離基を生成しない方法で滅菌する。移植片は酸化的に安定であるので、不活性ガス雰囲気で最終製品を包装する必要はない。たとえば、空気を透過させる包装材料に移植片を包装し、周知な方法であるガスプラズマまたは酸化エチレンを用いて滅菌することができる。たとえば、Abtox社(ムンデライン、イリノイ州)製のPLAZLYTE(商標)ガスプラズマ滅菌ユニットを使用することができる。
【0019】
本発明の別の実施例では、照射ステップの前にUHMWPEプリフォームをプレアニールする。プレアニールステップでは、外部圧力を加えないでプリフォームを280-355℃、好ましくは320-355℃、少なくとも30分、好ましくは少なくとも3時間、不活性雰囲気中に置く。一般的には、ポリマーの分解温度に達しないできるだけ近傍でポリマーを加熱することが望ましい。次に、プレアニールしたプリフォームを、内部応力の発生を実質的に避けるような温度勾配で約130℃以下に、ゆっくり冷却する。冷水に漬けるなどの急速な温度勾配は内部空隙を発生させるので避けるべきである。一般的には、ポリマーを保温材にくるんで冷却するのが簡便である。プレアニールしたプリフォームは出発原料のUHMWPEに比べ、伸び、耐衝撃性および結晶性が改善されている。次に、冷却したプレアニール・プリフォームを照射し、上記の方法でアニールする。
【実施例】
【0020】
==試験方法==
特に記さない限り、試験片はプリフォームロッドの内部から作成される。
UHMWPE 試料から機械加工でASTM D-638に準拠する引っ張り試験片タイプIVを作成した。試験片をLloyd LR10k機械試験フレームに取り付け、ASTM D-638により引張降伏応力(TYS)、極限引張り応力(UTS)および伸び率を試験した。例1-27および比較例A-CのUTS、TYSおよび伸び率の測定にタイプIV試験片を使用した。
UHMWPE 試料から機械加工でタイプI試験片を作成し、試験フレームに取り付けた。ASTM D-638による引張弾性率をこれらの試料で測定した。例28-37および比較例DのTYS、UTSおよび伸び率の測定にもタイプI試験片を使用した。
伸び特性のすべては5試験片の平均を表す。
【0021】
熱分析はUHMWPE試料ロッドから切り出した厚み約3mm、径約1.5mmの円盤で行った。円盤を差動走査熱量計(DSC)の試料皿に置き秤量した。皿に蓋をしてクリンプした。皿をDuPontモデル2000熱分析計に載せ、50℃で平衡させた。次に、20℃/分の速度で加熱した。ピーク融点は融解吸熱量のピーク位置で採った。融解開始温度はDSC曲線から基底線と融解吸熱量の負の最急峻傾斜との交点で決定した。基底線は融解吸熱量の初期部分で交差し、曲線の再度の部分で接する。融解吸熱量の面積で融解熱(Hf)を計算した。
測定した融解熱を結晶UHMWPEの理論融解熱、290J/gで除して結晶化率を決めた。
【0022】
UHMWPE試料ロッドから切り出した厚み1.5mmのUHMWPE円盤で密度を測定した。円盤を組織学グレードの2-プロパノールと水との重量比65/35溶液に浸漬した。補正した密度勾配カラムに試料を入れた。カラムの試料平衡位置から密度を決定し、g/cc単位で記録した。
【0023】
ASTM D-621に次の修正を加えて耐変形性(クリープ)を測定した。すなわち、潤滑液を使用せずに円筒または立方体に試料を機械加工する。測定した試料は0.5in.x0.5in.x0.5in.であった。
【0024】
ASTM D-621に次の修正を加えたノッチ付きアイゾット試験を用いて耐衝撃性を測定した。すなわち、潤滑液を使用せずに試料を機械加工して、タイプA(ノッチ付きアイゾット)、試料寸法; 0.5in.x2.5in.、頂角底面から反対側に0.4in.; 衝撃端1.25in.(棒材の端からノッチの頂点まで); ノッチの指定角22.5度、の形状にした。二重ノッチ付きアイゾット試験片を用いて耐衝撃性を測定した。試験方法はASTM D-648付録A1に記載されている。
【0025】
試験片が密に包装されるのを防止するために、多孔性で空気を透過させる織布に試験片をくるみ、表面にガスを自由に侵入させて酸化熟成を行った。次に試験片を4in.x8in.の円筒圧力ボンベに入れ、ボンベを密封した。ボンベを酸素で5気圧(73.5psi)に加圧し円筒バンドヒーターで70℃に加熱し14日間保持した。この手順を摩耗試験の前に用いて股関節カップから熟成摩耗試験の結果を得た。二重ノッチ付き衝撃強度測定のための熟成アイゾット試験片をASTM D-648付録A1に準拠して同様に作成し、強度測定の前に酸化熟成を行った。
【0026】
酸化測定用の試験片をガンマ線照射してアニールした冷却プリフォーム内部から切り出した。試料を厚み0.5in.、径2.5in.の円盤から角度45度のくさび形に切り出した。くさび型の試料をその厚み全体にわたり帯鋸で切断して作成した厚み250μmの切片で酸化測定を行った。厚み250μmの薄片を新たに空気暴露した表面からミクロトームでそぎ取り、FTIRを用いて分析した。熟成酸化の結果を250μm切片の作成前に、上記の酸化熟成手順で熟成したくさび形切断片から得た。電動式ステージ付き顕微鏡を装着したDigital HTIRに試料を載せた。顕微鏡を通してFTIRの開口部の焦点を合わせ、試料の小切片(25μmx200μm)で赤外線吸光度の測定ができるようにした。顕微鏡のステージはステッパーモータで50μm刻みで移動し、表面から深度4mm下部の数点の位置でカルボニル吸光度を測定した。波数1670-1730でのカルボニルピークの吸光度に基づき酸化を定量化し、波数4250でポリマー主鎖に沿って伸張するメチレンに対応する参照ピークと比較した。この比較には、ナギーおよびリー(Nagy & Li)の「ポリエチレン支持材料評価のためのフーリエ変換赤外線技術(A Fourier Transform Infrared Technique For The Evaluation of Polyethylene Bearing Material)」(生物材料協会(The Society for Biomaterials) 、第16回年会報、3:109,1990)を用いた。深度曲線に対するカルボニル濃度を2.05mm深度まで積分して平均酸化レベルを計算した。試料の厚みミルあたりのカルボニル面積で酸化を記録した。
【0027】
ASTM D2765方法Cにしたがって膨潤比を測定した。試験片の大きさは0.32in.の立方体とした。すべての膨潤比は4試験片の平均を表す。
【0028】
ガスプラズマ滅菌は、(a)構成要素を空気が透過できるパウチに入れて加熱密封する、(b)包装した構成要素をPLAZLYTE(商標)滅菌システム(Abtox, Inc社製、ムンデライン、イリノイ州)チャンバーに入れ真空にする、(c)チャンバーを過酢酸蒸気で満たし所定時間保持する、(d)チャンバーを真空にする、(e)チャンバーを濾過した第2プラズマで満たし所定時間保持する、(f)チャンバーを真空にする、(g)(c)-(f)のステップを繰り返す、(h)チャンバーを大気で満たす、(i)チャンバーを真空にする、(j)(h)および(i)のステップを繰り返してサイクルを完成させる、ことで行った。
【0029】
カップに28mmの球状の孔を有する試験股関節カップを28mm径の大腿骨頭を含む股関節シミュレート摩耗テスタに載せて摩耗比を得た。試験カップをプリフォームロッド内部から機械加工して作成し、20mM EDTAおよび0.2重量%のアジ化ナトリウムを含有する子ウシ血清溶液にあらかじめ30日間浸漬した。摩耗試験の前にカップをガスプラズマで滅菌した。パウル股関節部曲線を用いて1900Nピーク負荷および1.1Hz周波数でヒト歩行を摩耗テスタでシミュレートさせた。縦方向に負荷をかけた。股関節部シミュレータの試験カップを子ウシ血清に浸漬し、水平方向からの角度を23度とした。500,000サイクル毎にカップを洗浄、乾燥して秤量した。それぞれの試験を250-500万サイクル行った。液吸収を補正するために浸漬対照カップを用いた。摩耗比は100万サイクルあたりの浸漬補正カップの重量変化である。
【0030】
==例==
例1-3、28-37および比較例A-Dのそれぞれにおいて、UHMWPEプリフォームは形状が径3.5in.(8.9cm)長さ約30in.(76.2cm)のラム押出UHMWPE(PolyHi Solidur, フォート・ウェイン社、インディアナ州) GUR4150HPから成る。このポリマーは分子量約600万、ピーク融点約135℃、結晶化率約45-55%である。
【0031】
例1-3
上記のUHMWPEロッドをMYLAR(商標)ポリエステル被膜を有する加熱密封包装フォイル、SPクラスEスタイル1.40スリーブ加工素材、のパウチに別々に入れ、窒素で洗浄の後真空にした。この手順を繰り返し、次にパウチを真空下で密封した。例1のロッドをコバルト60ソースからのガンマ線線量1Mradで照射した。ガンマ線照射はIsomedix(Morton Grove社、イリノイ州)で行った。例2および3のロッドをそれぞれ2.5Mradおよび5Mradで照射した。照射の後、包装したロッドを325℃の温度で個別にオーブンに入れ、この温度で4.5時間保持した。4.5時間の終わりに、ロッドを包装内で約20℃/時で常温にオーブン内で冷却した。つぎに、冷却したロッドを包装からから取り出し、上記のように機械的および物理的特性、酸化を測定した。その結果およびプロセス条件を表Iに示す。これらの例は熟成および未熟成状態の両方において、比較例A、BおよびCに比べ優れた耐酸化性を示す。その効果はより高い線量5Mradの例3で最大である(比較例C対比)。例1-3の熟成および未熟成耐酸化性は非照射例Dと同等である。この性能の改善は325℃でのアニールによる実質的に完全な遊離基の失活に由来する。これらの例は予期しない利点、すなわち伸び率約2xという大きな増加を示し、これは325℃でのアニールに起因するものであった。伸びは一般的に280℃よりも高い温度でアニールまたはプレアニールした試料で顕著に増加する。
【0032】
比較例A-C
比較例AおよびCのUHMWPEロッドは例1-3で説明したように真空下で包装し、それぞれ1Mradおよび5.0Mradの線量で照射したロッドである。比較例Bのロッドは包装せずに空気中で2.5Mradで照射したロッドである。ロッドは照射後の熱処理をしていない。機械的特性、物理的特性および酸化を上記のように測定した。結果およびプロセス条件を表Iに示す。ロッドの内部から試験片を採取することで、空気中で照射した例Bに同等な酸化効果をほとんど除外した。例Bにつき、15mg/100万サイクルの未熟成摩耗率および88mg/100万サイクルの熟成摩耗率が500万サイクルの後に測定された。これらの例は熟成加速状態での酸化劣化を示し、失活していない遊離基の酸素との反応を実証している。例Bは衝撃強度および摩耗に及ぼすこの酸化効果を示す。衝撃強度は熟成後10のファクタで減少する。例Bの未熟成摩耗率は比較例Dに比べ改善されているが、熟成の後の摩耗率は6x近くで増加し、比較例Dの摩耗率より著しく高い。
【0033】
比較例D
この例のUHMWPEロッドは照射、熱処理または加圧していないロッドである。これらのロッドをPLAZLYTE(商標)滅菌システム(Abtox, Ink社、ムンデライン、イリノイ州)でガスプラズマ滅菌した。機械的および物理的特性は市販のUHMWPEロッドと類似であり、表Vに示す。未熟成摩耗率30mg/100万サイクルおよび熟成摩耗率33mg/100万サイクルが500万サイクルの後に得られた。
【0034】
例4-15
PolyHi Solidurから得られた形状が径3in.(7.6cm)のロットであるHoechstGUR415 UHMWPEを約15in.(38.1cm)長に切断し、ポリエチレン内層アルミニウムフォイル袋に窒素雰囲気で密封した。
ロットをCo-60ガンマ線で照射し、密閉袋内で1ヶ月熟成して遊離基を反応させた。照射線量は0.5、1、2、および5Mradを使用した。次に棒材を袋から取り出し、ここに引用として取り入れたシモンズ(Simmons)らの米国特許第5,236,669号が記載するように、直ちに圧力容器に入れた。容器を密閉して水で約5000psiまで加圧して加圧再結晶を行った。次に容器を1.5時間にわたって250℃まで加熱した。2時間後、圧力を50,000psiに上昇させ、残りの圧力処理の間この圧力を維持した。250℃で1-2時間の後、容器を75℃まで冷却し、この点で圧力を開放して製品を回収した。追加のロッドも上記の手順を用いて39,000および34,000psiで加圧再結晶した。結果を表IIに示す。
【0035】
例16-21
この例では、径3in.のGUR415 UHMWPEロッドを235℃で4.5時間窒素中でプレアニールし、窒素中で約20℃/時で冷却し、次に窒素雰囲気下でアルミニウムフォイル/ポリエチレン袋に密封した。次に棒材をガンマ線で照射した。1ヶ月の熟成の後、ポリマーを上記の方法で加圧再結晶した。プロセス条件および結果を表IIIに示す。ポリマーは高圧下でのみ鎖が伸張した形状に変換される。加圧再結晶中50,000psiで処理した試料は高い融点、高い融解熱、高い引張弾性率、高い最大強度、高い降伏引張強度、高いアイゾット衝撃強度および耐クリープ性の改善を示した。
例16-21のプレアニールした試料はプレアニールしていない例4,5,7,8,10および11の対応する試料よりも高い伸びを有する。
【0036】
例22-23
この例では、これらの例では、径3in.のGUR415 UHMWPEロッドを2.5Mradおよび5Mradでガンマ線照射し、次に例4-15に記したプロセスを用いて39,500psiで加圧再結晶させた。照射条件および結果を表IVに示す。
【0037】
例24-25
これらの例では、径3in.のGUR415 UHMWPEロッドを2.5Mradおよび5Mradでガンマ線照射し、次に例4-15に記したプロセスを用いて33,500psiで加圧再結晶させた。照射条件および結果を表IVに示す。
例22-23および例24-25は熟成および未熟成状態で、例1-3同様、優れた耐酸化性を示し、これは加圧再結晶段階における遊離基の実質的に完全な失活に起因する。試料は結晶化率の増加を示し、これは結果として架橋の存在下でも結晶構造を変えることが可能であることを示す。
【0038】
例26-27
これらの例では、径3in.のGUR415 UHMWPEロッドを照射前に窒素雰囲気下325℃で4.5時間プレアニールし、約20℃/時で冷却し、引き続き窒素中で2.5Mradおよび5Mradでガンマ線照射し、次に例4-15に記したプロセスを用いて39,500psiで加圧再結晶させた。照射条件および結果を表IVに示す。これらの例は照射後にプレアニール(325℃)段階を加圧再結晶に組み合わせることで、通常のUHMWPE(比較例D)に比べ、耐酸化性が保持され、伸びが増加し、結晶化率が増加することを示す。
【0039】
例28-30
例28-30のUHMWPEロッドは包装し、例2に記したように処理したロッド(2.5Mrad)である。ただしロッドの加熱条件は155℃、それぞれ6,24および48時間とした。次にロッドをオーブンから取り出して冷却した。プロセス条件および機械的特性、物理的特性を表Vに示す。これらの例は155℃でのアニールが耐酸化性に優れた材料を創出することを示す。照射試料28-30は非照射の比較例Dに比べ、二重ノッチ付きアイゾットの減少を示す。また、線量2.5Mradの照射で生じた架橋が膨潤比3.9を生じることを示し、例Dの24.1と比較される。例30の架橋ポリマーで作成した股関節カップにつき、500万サイクル後の未熟成摩耗率14mg/100万サイクルが測定された。
【0040】
例31-33
例31,32および33のUHMWPEロッドは包装し、例3に記したように処理したロッド(5Mrad)である。ただしロッドの加熱条件は155℃、それぞれ6,24および48時間とした。次にロッドをオーブンから取り出して冷却した。プロセス条件および機械的特性、物理的特性を表Vに示す。これらの例は5Mradのガンマ線に暴露し、次に155℃でアニールしたUHMWPEが優れた耐酸化性を与えることを示す。また、放射線線量が衝撃強度および伸びを減少させることを示す。これらの膨潤比2.6を例28-30と比べると、架橋が放射線線量に伴って増加することが分かる。未成熟摩耗率0.8mg/100万サイクルおよび成熟摩耗率0.6mg/100万サイクルが250万サイクル後の例32で測定された。例32の摩耗率は例30,BおよびDに比べ大きく減少している。照射およびアニールの両方を行うことで、この材料の摩耗および耐酸化性は照射しアニールしていない材料よりも大きく改善される。耐酸化性は非照射ポリマー(比較例D)と同等であり、摩耗性能は著しく改善されている。
【0041】
例34-36
例34,35および36のUHMWPEロッドは包装し、例3に記したように処理したロッド(5Mrad)である。ただしロッドの加熱条件は200℃、それぞれ6,24および48時間とした。次にロッドをオーブンから取り出して冷却した。プロセス条件および機械的特性、物理的特性を表Vに示す。これらの例は200℃でのアニールも耐酸化性材料を作成するのに効果的であることを示す。
【0042】
例37
この例のロッドは包装し、例3に記したように処理したロッド(5Mrad)である。ただしロッドの加熱条件は200℃、48時間とした。次にロッドをオーブンから取り出して冷却した。未成熟摩耗率5mg/100万サイクルが500万サイクル後に測定された。結果を表Vに示す。この例は5Mradで架橋し、120℃で48時間アニールした材料の耐摩耗性が改善されることを示し、例30(2.5Mrad、155℃/48時間)、C(5Mrad、非アニール)およびD(非照射)と比較される。
【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐摩耗性と耐酸化性の改良されたバランスを有する医療用移植片の製造方法であって、
超高分子ポリエチレンのプリフォームに照射して遊離基を形成し、
前記照射されたプリフォームを、実質的に酸素のない雰囲気中で融解開始温度またはそれ以上の温度で、実質的にすべての前記遊離基の再結合および前記超高分子ポリエチレンの架橋のために十分な時間加熱することによってアニールし、
前記架橋したプリフォームを冷却し、その間実質的に酸素のない雰囲気を維持し、
前記架橋したプリフォームから医療用移植片を成形し、
前記医療用移植片を空気透過性包装に包み、
前記包装した移植片を非照射法を用いて滅菌する諸段階を含んでなる方法。

【公開番号】特開2009−261978(P2009−261978A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−160178(P2009−160178)
【出願日】平成21年7月6日(2009.7.6)
【分割の表示】特願平10−516865の分割
【原出願日】平成9年10月2日(1997.10.2)
【出願人】(398044444)デピュイ オーソピーディックス,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】