説明

耐染み汚れ性に優れる水系樹脂組成物

【課題】金属表面に塗布することにより耐食性が優れながら、耐染み汚れ性に優れる塗膜を得ることができる実用上有用な水系樹脂組成物、より詳しくはノンクロム鋼板に求められている性能として、厚さ0.1〜5μm程度の薄膜でも優れた耐食性を示すとともに、鋼板との密着性、プレス成型に使用されるプレス油を落とすためのアルカリ脱脂剤、溶剤に対する耐久性、美観的目的から使用される上塗り塗料との密着性、機械安定性など、実用上必要とされる十分な諸性能を兼ね備えた水系樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体100質量部及びリン酸エステル化合物0.1乃至10質量部を含有する水系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水系樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、その塗膜が金属表面に優れた耐食性のみならず、耐染み汚れ性をも付与する水系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家電、自動車、建材等に使用される鋼板、鋼材には、電気又は溶融亜鉛めっきした上に、更に白錆の防止を目的としてクロム処理した鋼板、鋼材が使用されている。
また、クロム処理のみではクロム処理層の溶出等により鋼板、鋼材の耐食性の向上が十分でないため、例えばオレフィン−α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体樹脂を用いて、クロム−樹脂系の処理皮膜を施した表面処理鋼板(特許文献1参照)、或いは、クロメート処理の上に該樹脂で構成される有機複合皮膜を施した表面処理鋼板(特許文献2参照)などが提案され、既知の表面処理鋼板の中でも、耐食性がより良好な鋼板であるとされている。
しかしながら、上述のクロム処理を施した皮膜は、発癌性、肝臓不全、皮膚障害などが指摘されている六価クロムを含有していることから、これらのクロムを含有していないノンクロム処理鋼板、鋼材の開発が望まれている。
【0003】
ノンクロム処理鋼板、鋼材の開発においても、クロム処理鋼板、鋼材と同レベルの耐食性が求められていることから、表面処理剤による性能の向上が不可欠となっている。
そして該表面処理剤には、耐食性のみならず、塗料密着性、耐食性、潤滑性、加工性、プレス成形性、塗装性、耐指紋性、導電性、スポット溶接性、耐溶剤性、耐アルカリ性等数多くの性能が要求される。
また、資源の問題、環境問題、安全性の問題等から溶剤系の表面処理剤は使用が制限される傾向にあり、水系の表面処理剤が求められている。
【0004】
ノンクロム処理鋼板用表面処理剤は、上記多様な性能を補うために、複数種の水系分散体をブレンドすることなどで多機能・高機能化を図っているが、使用する水系分散体の持ついずれかの欠点が現われることとなり、バランスの取れた製品の完成に至っていない。
また、一般に樹脂を水系化(水溶化、水分散化)するためには、乳化剤や親水性成分等が必要となるが、それらの存在により、水系の表面処理剤では親水性が強くなり、耐食性が低下する恐れがある。
【0005】
これまで提案された表面処理剤の耐食性を向上させる方法として、例えば、造膜後に親水性成分である中和剤(沸点100℃以下のアミン等)を揮発させて水分の残存を防ぐ、エチレン−アクリル酸共重合体の水系エマルションを含有する金属用表面処理剤(特許文献3)、ポリアクリル酸などに含まれる多くのカルボキシル基により、耐食性や塗料密着性の向上を図った表面処理剤又は金属防食剤(特許文献4、5)、あるいは、タンニン酸、シランカップリング剤及び微粒シリカを組合せて、下地金属と上層皮膜との密着性を向上させて耐食性の向上を図った表面処理金属板(特許文献6)などがある。
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の金属用表面処理剤においては、疎水性の樹脂のカルボキシル基を中和して乳化させるために架橋剤の併用が不可欠であり、しかしながら内部架橋剤に使用により、架橋した分平均粒子径が大きくなる傾向があることから、スプレー塗装時に目詰りが起こす可能性がある等、機械安定性を欠くという問題があった。
また特許文献4、5に記載の処理剤又は防食剤においては、ポリアクリル酸等の多価カルボン酸のみでは水溶性となり、架橋剤を多く入れたとしてもアルカリに溶解しやすく、アルカリ脱脂後の耐食性に劣ることから、薬剤の大量使用ができないという欠点があった

さらに、特許文献6記載の表面処理金属板は、ノンクロム処理鋼板における亜鉛界面の塗料密着性の改善を目的としたものであったが、タンニン酸、シランカップリング剤で下地処理をしてから、上層を塗工するという2段階の処理が必要とされており、1液による処理で満足できる接着性能を付与することが望まれていた。
【0007】
一方、表面処理剤にリン酸又はリン酸化合物などの防錆効果に優れる化合物を添加して耐食性向上を図ったものとして、例えば、チタン含有水性液に有機リン酸化合物及び水溶性又は水分散性有機樹脂、バナジン酸化合物、ジルコニウム化合物等を含む金属表面処理組成物(特許文献7)、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、リン酸エステル系界面活性剤、アルカリ(土類)金属化合物を含有する水性分散体(特許文献8)などが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献7の金属表面処理組成物においては、配合されたメタバナジン酸化合物などに由来する金属塩、とくにナトリウム塩が鋼板の表面に外観ムラ(色調の差、「染み汚れ」ともいう)を生ずる原因となり得、またアンモニウム塩の場合においても、アンモニアが亜鉛、又はその他金属をエッチングする虞があり、鋼板の外観に影響を及ぼす虞があった。
また、特許文献8の水性分散体にあっては、該分散体を塗布した鋼板において、透湿性は低く抑制されたとする結果が得られているものの、平均粒子径が100nm以上と大きく、耐食性低下の一因となり得る。また、低透湿性が得られるとして、特に反応性リン酸エステル系界面活性剤の使用を挙げているが、反応性界面活性剤の使用はそれ自体が高分子量化するため分散性の低下につながり、さらなる平均粒子径の増大につながる虞がある。
【0009】
上記染み汚れについては、亜鉛めっき層そのものに含まれる元素の含有量を制御することにより、染み汚れの防止を図った鋼板(特許文献9)などの提案はあるが、耐食性等の表面処理剤に求められきた従来の性能に加え、耐染み汚れ性にも優れる表面処理剤としての提案はこれまでになされていない。
【0010】
而して本発明が解決しようとする課題は、金属表面に塗布することにより、耐食性のみならず耐染み汚れ性をも満足できる性能を有する塗膜を得ることができる、実用上有用な水系樹脂組成物を提供することにある。
詳細には、ノンクロム処理鋼板用の表面処理剤として求められ種々の性能、すなわち厚さ0.1乃至5μm程度に形成された薄膜において、耐食性、鋼板との密着性、プレス成型に使用されるプレス油を落とすためのアルカリ脱脂剤又は溶剤に対する耐久性、美観的目的から使用される上塗り塗料との密着性、機械安定性など実用上必要とされる十分な諸性能を兼ね備え、且つ、染み汚れのない表面外観に優れた鋼板を提供できる、水系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体に対して、乳化剤として水に不溶なリン酸エステル化合物を用いて共乳化させることにより、金属表面に塗布した際に十分な耐食性を維持し、美観的目的から使用される上塗り塗料との密着性に優れ、且つ、外観美観を大きく損なう染み汚れ防止に特に優れた性能を発揮する水系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体100質量部及び水に不溶であるリン酸エステル化合物を0.1乃至10質量部含有する水系樹脂組成物に関する。
【0013】
上記水系樹脂組成物に含まれるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とリン酸エステル化合物は、水系媒体中で共乳化している系であることが望ましい。
また、上記水系樹脂組成物に含まれるリン酸エステル化合物は、炭素原子数8乃至18のアルコールから誘導されたものであることが望ましい。
そして、上記水系樹脂組成物において、水系媒体中に分散している前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体からなる樹脂粒子の平均粒子径が80nm以下であることが望ましい。
【0014】
さらに本発明は、前記水系樹脂組成物を乾燥して得られる皮膜にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る水系樹脂組成物は、厚さ0.1乃至5μmの薄い塗装皮膜を形成した場合においても、優れた耐食性、塗料密着性、そして耐染み汚れ性を付与することができ、したがって、ノンクロム処理鋼板用表面処理剤として、実用上きわめて有用なものである。
また本発明の製造方法は、上述の性能を有する水系樹脂組成物を好適に製造することができる。
さらに本発明の皮膜は、優れた耐食性及び耐染み汚れ性を有し、またとりわけ亜鉛めっき鋼板表面に容易に膜形成できるため、優れた性能を有するノンクロム表面処理鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は実施例1の耐染み汚れ性の試験結果(試験板表面の撮影写真)を示す図である。
【図2】図2は比較例2の耐染み汚れ性の試験結果(試験板表面の撮影写真)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明で使用するα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体は、オレフィン由来の構成単位を共重合体中に50質量%以上(即ちα,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位が50質量%未満)含有する共重合体を指し、オレフィンと不飽和カルボン酸を公知の方法によって共重合することにより得られる共重合体である。その態様としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体、不飽和カルボン酸がグラフトした共重合体などが挙げられる。
上記共重合体に用いられるオレフィンとしてはエチレン、プロピレン等を挙げることができるが、エチレンが最も好ましい。
また、上記共重合体に用いられるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のジカルボン酸を挙げることができ、特にこれらに限定されるものではないが、好ましくはアクリル酸である。
【0018】
本発明におけるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンの共重合体の重量平均分子量は1,000乃至100,000であるが、水性樹脂組成部とした際、水への分散性の観点から、好ましくは3,000乃至80,000、より好ましくは5,000乃至60,000である。
【0019】
水分散性及び金属表面への密着性を向上させるため、また造膜時の皮膜の性状向上の目的とする後架橋のための反応基として用いるため、さらに耐ブロッキング性、耐水性、耐湿性向上の観点から、上記共重合体におけるα,β−エチレン性不飽和カルボン酸由来の構成単位の含有割合は、上記共重合体の全質量に対して5乃至30質量%であれば好ましく、10乃至25質量%であればより好ましい。
【0020】
また、本発明で用いるオレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の単量体に由来する構成単位を含んでいてもよい。
オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体中において、その他の単量体に由来する構成単位の含有割合は、上記共重合体の全質量に対して好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
但し、最も好ましいオレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体は、エチレン−アクリル酸共重合体である。
【0021】
リン酸エステルは、例えば五酸化リンやポリリン酸、塩化ホスホリル、三塩化リンなどのリン酸化剤でアルコールを処理すること等によって製造可能であり、反応条件によってモノエステルの他に、ジエステル、トリエステル、そしてリン酸などが生成される。
上記モノ、ジ、トリ−正リン酸エステルに加え、第2級ホスファイト、第3級ホスファイトなどの亜リン酸エステル、さらにこれらの塩類のうち、水に不溶なものを、本発明においてリン酸エステル化合物として使用する。
本発明において使用する水に不溶であるリン酸エステルとは、イオン交換水100質量部に対して0.1質量部以上のリン酸エステルを含む系において、常温〜50℃にて強撹拌後に静置した後、リン酸エステル層とイオン交換水層の2層に分離するリン酸エステルであり、このようなリン酸エステルであれば特に限定されない。
【0022】
一般に、炭素原子数4乃至18程度のアルコールのリン酸エステル化合物が市販されているが、耐食性、耐染み汚れ性、さらに乳化性の向上のために、炭素原子数8乃至18のアルコールの正リン酸エステル化合物が好ましい。
特に酸性リン酸エステル化合物の使用が好ましく、また、加水分解が進行すると、リン酸とアルコールが生成して耐食性低下の原因となることから、耐加水分解性があるジエステル化合物が好ましい。なかでも、本発明に用いるリン酸エステル化合物は、加水分解率は40%以下が好ましい。ジエステル比率は30%以上が好ましく、さらに好ましくは40%以上である。
またリン酸エステルのエチレンオキサイド付加物は乳化性に寄与する可能性があるものの、エチレンオキサイド部分が耐食性の低下を招く恐れがあるので、使用する場合には最小限に抑えることが望ましい。
【0023】
リン酸エステル化合物の使用量は、前記オレフィンとα,β−エチレン性不飽和カルボン酸との共重合体(固形分)100質量部に対し、0.1乃至10質量部が好ましく、さらに好ましくは1乃至5質量部である。
上記リン酸エステル化合物の配合量が10質量部を超えると、リン酸エステル化合物の加水分解によって生成するアルコール量が増加するため、好ましくない。
【0024】
本発明で使用可能なリン酸エステルの具体例(化学式)としては、酸性リン酸エステルとして、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブチルピロホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、イソステアリルアシ
ッドフォスフェート、テトラコシルアシッドホスフェート、エチレングリコールアシッドホスフェート、またこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド付加物、第二級ホスファイトとしてジエチルハイドロゲンホスファイト、ジ−2−エチルヘキシルハイドロゼンホスファイト、ジラウリルハイドロゼンホスファイト、ジオレイルハイドロゼンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイト、またこれらのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド付加物、第三級ホスファイトとしてトリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリアルキルホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(2−エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルモノ(2−エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト等が挙げられる。
これらのうち、本発明で使用可能なリン酸エステル化合物の具体例(製品名)としてはSC有機化学(株)(旧・堺化学工業(株))製のChelex P、O、MD、D、T
D、2300L、OL、S、LT−3、H−8、H−12、H−2300、H−18D、Phoslex A−1、A−2、A−3、A−4、A−8、A−10、A−12、A−13、A−18、A−18D、A−180L、A−208、DT−8、Phospair−16、37、41、Lubdyne 3000、1500、OM200、7000X、8000、LBT−1812、1813、1820、1830;東邦化学工業(株)製のフォスファノールSM−172、ED−200、GF−339、GF−199、ML−200、GF−185、RS−410、RS−710、RL−210、RL−310、RB−410、RP−710;城北化学工業(株)製のJP−360、JP−361、JP−351、JP−302、JP−310、JP−333E、JPM−308、JPM−311、JPM−313、JP212、JP−213D、JP−218−OR、JP−260、JPP−100、JPP−613M、JA−805、JPP−13、JPP−31、JP−318E、JPP−2000、JP−650、JPH−3800、HBP、JP−502、JP−504、JP−504A、JP−506、JP−508、JP−518−0、JP−524、LB−58、EGAP、JPA−514;(株)ADEKA製のアデカスタブPEP−4C、PEP−8、PEP−8W、PEP−24G、PEP−36、PEP−36Z、HP−10、2112、2112RG、260、522A、1178、1500、C、135A、3010、TRP;ラサ工業(株)製のAZP、PAP;味の素ファインテクノ(株)製REOFOS50、65、95、110、DURAD CDP、TCP、TXP、REOLUBE HYD 110;大八化学工業(株)製AP−1、AP−4、DP−4、MP−4、AP−8、AP−10、MP−10、TP−I;日光ケミカルズ(株)製NIKKOL TOP−0Vなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
本発明の水系樹脂組成物は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンの共重合体とリン酸エステル化合物の水系分散体の形態にあることが好ましく、該水系分散体を得るためには、当該(共)重合体中のカルボキシル基とリン酸エステル化合物とを、中和剤を用いて部分中和又は完全中和させる必要がある。
ここで用いられる中和剤としては例えば、アンモニア水、1級アミン、2級アミン、3級アミン、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の強塩基などが挙げられ、この中でも、塗膜の耐水性を向上させる観点から、乾燥時に揮発するトリエチルアミンが望ましい。ただし、アミンは水分散性の向上効果が低いため、前記強塩基とアミンとの組合せ、好ましくは少量のNaOHとトリエチルアミンとの組合せを用いることが好ましい。
【0026】
本発明の水系樹脂組成物における上記中和剤の配合量は特に限定されないが、前述した
とおりアルカリ金属化合物などに由来する鋼板表面の染み汚れを防止し、また水系分散体の粘度をハンドリング性の点で好適な範囲とするため、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸−オレフィン共重合体中の全カルボキシル基とリン酸エステル化合物の酸価の総和に対し0.5乃至0.9当量が好ましく、0.6乃至0.8当量がより好ましい。
前記強塩基とアミンとを組み合わせて用いる場合、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸−オレフィン共重合体中の全カルボキシル基とリン酸エステル化合物の酸価の総和に対し、前記強塩基を好ましくは0.01乃至0.3当量、アミンを好ましくは0.4乃至0.8当量で配合することが望ましい。
【0027】
また本発明の水系樹脂組成物には、シランカップリング剤を配合することにより、耐食性を向上させることができる。
例示すると、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの中でもグリシジル基を有するシランカップリング剤が耐食性、耐アルカリ性、耐溶剤性などに最も効果があり、好ましい。
上記シランカップリング剤の配合量は、水系樹脂組成物の固形分100質量部に対し0.1乃至10質量部が好ましい。配合量が少なすぎると十分な耐食性向上効果が得られず、多すぎると経時でにごりが発生し、沈降物が発生する。このため、水系樹脂組成物の固形分100質量部に対して2乃至7質量部にて配合することが最も好ましい。
【0028】
さらに本発明の水系樹脂組成物にカルボジイミド基を有する化合物を配合することにより、耐アルカリ性を向上させることができる。
例示すると、ポリカルボジイミド、N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N−ジイソプロピルカルボジイミドが挙げられ、中でもポリカルボジイミドが好ましい。
ポリカルボジイミドは市販品でも入手可能であるが、イソシアネート基を少なくとも2個以上有するイソシアネート、例えばヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)などのジイソシアネートを、カルボジイミド化触媒の存在下で加熱することによって製造することもできる。
上記カルボジイミド化合物は、変性によって水性化させることも可能であり、水溶性のカルボジイミド化合物が液安定性の観点から好ましい。
上記カルボジイミド化合物の配合量は、少なすぎると配合のメリットが得られず、多すぎるとカルボジイミド化合物自体の親水性のため耐食性に悪影響を及ぼすこととなる。このため、水系樹脂組成物の固形分100質量部に対し、0.1乃至30質量部を配合することが好ましく、耐水性の観点から1乃至10質量部にて配合することがより好ましく、2乃至7質量部で配合することにより最も効果を得ることができる。
【0029】
さらに本発明の水系樹脂組成物は、オキサゾリン基を有する化合物(たとえばオキサゾリン架橋剤)を配合することにより、耐アルカリ性や皮膜物性を向上させることができる。
一般に市販されているオキサゾリン架橋剤として、スチレンやアクリル酸エステルを共重合させたエポクロスWシリーズ、Kシリーズ(日本触媒(株)製)などが挙げられる。
またオキサゾリン化合物の配合量は水系樹脂組成物の固形分100質量部に対し、0.1乃至30質量部であり、皮膜物性の観点から1乃至15質量部が好ましく、2乃至12質量部で配合することにより最も効果を得ることができる。
【0030】
さらに本発明の水系樹脂組成物は、アジリジン基を有する化合物(たとえば多官能アジリジン)を配合することにより、カルボキシル基を架橋させ、耐水性や耐溶剤性、皮膜物性を向上させることができる。
一般に市販されている多官能アジリジンとして、ケミタイト(日本触媒(株)製)などが挙げられる。
またアジリジン化合物の配合量は水系樹脂組成物の固形分のカルボキシル基に対し0.01ないし0.4当量であり、耐溶剤性の観点から、0.05乃至0.3当量が好ましく、0.1乃至0.2当量で配合することにより最も効果を得ることができる。
【0031】
また本発明において使用する水はイオン交換水が望ましい。
水道水は塩素イオンをはじめとするその他イオン性不純物を含み、カルシウム、マグネシウムイオンに対してポリマレイン酸のキレート効果が生じたり、シランカップリング剤を入れることによって系が不安定になる可能性があり、同じ品質を保つのが難しい。
【0032】
また耐食性向上のために、本発明の水系樹脂組成物に、本発明により得られる効果を損なわない範囲で他の樹脂、又はワックス類を水分散後に配合することができ、或いは他の樹脂、ワックス類の水系分散体の形態として配合することもできる。
配合する樹脂としては、α,β−エチレン系不飽和カルボン酸共重合体と相溶性のあるものが好ましい。例えば、ロジン又はその誘導体、或いは低密度ポリエチレン、低分子量のポリマレイン酸などが挙げられる。
配合するワックス類としては、本発明の目的を損なわない限り公知のいずれのものも使用することができ、単独配合又は2種以上の混合配合のいずれでもよい。使用できるワックス類には大きく分けて、天然ワックス、合成ワックスの2種類がある。天然ワックスとしては例えば、カルナバワックス、ライスワックス、キャンデリラワックス、モンタン系ワックス及びそれらの誘導体、鉱油系ワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスなど、及びこれらにカルボキシル基を付与した誘導体を使用できる。合成ワックスとしてはポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどの酸化物、これらにカルボキシル基を付与した誘導体などの変性ワックスも含まれる。さらに合成ワックスとしては、エチレンとプロピレンの共重合系ワックス、エチレン系共重合体の酸化ワックス、更にマレイン酸を付加したワックス、脂肪酸エステル系なども例示できる。
【0033】
本発明の水系樹脂組成物の好ましい態様は、水系樹脂組成物中の前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体からなる樹脂粒子の含有量が5質量%乃至60質量%であり、樹脂粒子の平均粒子径が80nm以下であれば好ましく、50nm以下であればより好ましい。
上記樹脂粒子の平均粒子径は分散方法、中和に用いるアンモニア、アミンの種類、一価金属の量などで調整することができ、さらに前述の高酸価のリン酸エステル化合物を乳化剤として使用することによってさらに平均粒子径を細かくすることができる。
上記樹脂粒子を小粒径化することにより、機械安定性、造膜性、乾燥性、塗膜の耐水性等の性能に優れた結果を得ることができる。また樹脂粒子の平均粒子径が大きくなるとスプレー塗装などを行う場合に目詰まりをおこす可能性があり、さらには耐食性の低下の一因にもなり得る。
【0034】
本発明に係る水系樹脂組成物の製造方法としては、樹脂の融点以上に昇温が可能で、加圧下もでき、通常の剪断力を有する装置に、前述したα、β−エチレン系不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とリン酸エステル化合物、必要に応じその他の樹脂とワックス類等、そして中和剤を仕込み、さらに樹脂濃度が25乃至70質量%になるように水を仕込み、例えば70乃至250℃まで昇温して溶解又は分散させる。溶解又は分散後、さらにイオン交換水を導入し溶解又は分散させ、一時間程度、溶解又は分散した温度で熟成
する。その後60℃乃至室温まで冷却を行う。
【0035】
このように製造された本発明の水系樹脂組成物は、α、β−エチレン系不飽和カルボン酸−オレフィン共重合体とリン酸エステル化合物が共乳化された状態にある。
なお共乳化とは2種以上の成分が1つの系内で同時に乳化することを指す。
このように共乳化された状態にある本発明の水系樹脂組成物においては、リン酸エステル化合物が耐食性、耐染み汚れ性に寄与するだけでなく、水系樹脂組成物の平均粒子径を小さくしてさらに耐食性、機械安定性の向上に寄与する。さらに上記の製造方法であれば、酸価が少ない第2級ホスファイト、第3級ホスファイトも分散させることができる。
【0036】
本発明の水系樹脂組成物の製造時、あるいは金属表面への塗布時に、発泡防止のための消泡剤の添加も可能であり、塗布後の皮膜にハジキを生じさせないものであれば、市販の一般的な消泡剤の使用が可能である。
また、水系樹脂組成物の塗布時に、界面張力を低下させ、鋼板への濡れ性を上げる目的に有機溶剤を配合することもできる。好ましい有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール類、ヘキサノール、2−エチルヘキサノール、エチレングリコールのエチルエーテルもしくはブチルエーテル、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず使用でき、2種類以上混合しても良い。
【0037】
本発明の水系樹脂組成物は、金属表面に塗布し、乾燥機中などにおいて乾燥することによって耐水性、そして耐食性及び耐染み汚れ性に優れる皮膜を得ることができる。
本発明の水系樹脂組成物が塗工される対象となる金属は特に限定されるものではないが、上述のように耐食性や耐染み汚れ性に特に優れることから、クロム処理がなされないために耐食性に課題を残し、また、耐染み汚れ性という新たな課題が生じることとなった、ノンクロム処理亜鉛めっき鋼板等の鋼板に用いられることが目的に合致しており好ましい。
また、電気又は溶融亜鉛めっき鋼板に本発明の水系樹脂組成物を直接塗布しても発明の効果は十分得られるが、1層目に耐食性の向上を目的とした、あるいは表面処理剤との密着性の向上を目的とした無機系、有機系の下地処理剤を使用した後で、2層目として本発明の水系樹脂組成物を塗布する事により、更なる諸物性の向上が期待できる。
なお、本発明で対象とする「α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体及び水に不溶であるリン酸エステル化合物からなる共乳化系」は、このように金属表面処理において好適に用いることができ、金属表面処理剤として使用され得るものであり、従って、本発明は斯かる共乳化系からなる金属表面処理剤にも関する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の水系樹脂組成物の好ましい製造例、並びに、該組成物を用いた実施例により本発明を説明する。ただし本発明は、これらの実施例及び比較例によって何ら制限されるものではない。
【0039】
製造例1:水系樹脂組成物−1
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製:プリマコール5980I;アクリル酸由来の単量体単位:20質量%、メルトインデックス:300、重量平均分子量:40,000、酸価155)190.0g、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(SC有機化学社製:phoslex A−8、酸価306)10g、トリエチルアミン35.3g(エチレン−アクリル酸共重合体中と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの全酸価に対し0.6当量分)、48%NaOH水溶液4.8g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸
価の総和に対し0.1当量分)、イオン交換水746.8gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン((株)日本触媒製:ケミタイトDZ−22E、固形分30%、有効成分25%)48.6g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水22.5gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−1を得た。
【0040】
製造例2 水系樹脂組成物−2
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(プリマコール5980I)194.0g、2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのオレイルアミン塩(SC有機化学(株)製:phospair 16、酸価163)6g、トリエチルアミン33.6g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのオレイルアミン塩の酸価の総和に対し0.6当量分)、48%NaOH水溶液4.6g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのオレイルアミン塩の酸価の総和に対し0.1当量分)、イオン交換水748.2gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ケミタイトDZ−22E)49.6g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水23.0gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−2を得た。
【0041】
製造例3 水系樹脂組成物−3
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(プリマコール5980I)194.0g、ジオレイルハイドロゼンホスファイト(SC有機化学社製:Chelex H−18D、酸価6)6g、トリエチルアミン34.6g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキサノールリン酸エステルの酸価の総和に対し0.6当量分)、48%NaOH水溶液4.5g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキサノールリン酸エステルの酸価の総和に対し0.1当量分)、イオン交換水749.0gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ケミタイトDZ−22E)49.6g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水23.0gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−3を得た。
【0042】
製造例4 水系樹脂組成物−4
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(プリマコール5980I)194.0g、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(SC有機化学社製:phoslex A−208、酸価175)6g、トリエチルアミン33.7g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基とジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸価の総和に対し0.6当量分)、48%NaOH水溶液4.6g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基とジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸価の総和に対し0.1当量分)、イオン交換水748.1gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ケミタイトDZ−22E)49.6g(エチ
レン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水21.0gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−4を得た。
【0043】
製造例5 水系樹脂組成物−5
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(プリマコール5980I)194.0g、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(phoslex A−8)6g、トリエチルアミン40.4g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸価の総和に対し0.7当量分)、48%NaOH水溶液4.8g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸価の総和に対し0.1当量分)、イオン交換水741.6gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ケミタイトDZ−22E)49.6g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水23.0gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−5を得た。
【0044】
製造例6:水系樹脂組成物−6
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(ダウケミカル社製:プリマコール5990I;アクリル由来の単量体単位:20質量%、メルトインデックス:1300、重量平均分子量:20,000、酸価150)178.8g、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート(phoslex A−8)9.6g、ポリマレイン酸水溶液(日油(株)製:ノンポールPMA−50W)7.1g、トリエチルアミン42.7g(エチレン−アクリル酸共重合体中の全カルボキシル基と2−エチルヘキシルアシッドホスフェートの酸価の総和に対し0.63当量分)、イオン交換水698.2gを加えて密封した。130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、シランカップリング剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社(旧東芝シリコーン)製:TSL8350)8.5g、イオン交換水8.5gを添加し、15分間攪拌した後、さらにポリカルボジイミド(日清紡績(株)製:SV−02)を25.5g、イオン交換水25.5gを添加し、内部架橋させて水系樹脂組成物−6を得た。
【0045】
比較製造例1:比較水系樹脂組成物−1
攪拌機、温度計、温度コントローラーを備えた内容量1.0Lの乳化設備を有するオートクレイブにエチレン−アクリル酸共重合体(プリマコール5980I)200.0g、トリエチルアミン33.5g(エチレン−アクリル酸共重合体中のカルボキシル基に対し0.6当量分)、48%NaOH水溶液4.6g(エチレン−アクリル酸共重合体中のカルボキシル基に対し0.1当量分)、イオン交換水803.2gを加えて密封し、130℃、3気圧で3時間、500rpmで攪拌した。
その後冷却し、エマルションを得た後、内部架橋剤として4,4’−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン(ケミタイトDZ−22E)51.1g(エチレン−アクリル酸共重合体の全カルボキシル基に対して0.14当量分)、イオン交換水24.9gを添加し、内部架橋させて比較水系樹脂組成物−1を得た。
【0046】
比較製造例2:比較水系樹脂組成物−2
1Lビーカーに比較水系樹脂組成物−1を335gとり、ここにメタバナジン酸ナトリウム(新興化学工業(株)製)を3g及びイオン交換水3gを添加した後、メタバナジン酸ナトリウムが溶けるまで攪拌し、比較水系樹脂組成物−2を得た。
【0047】
比較製造例3:比較水系樹脂組成物−3
1Lビーカーに比較水系樹脂組成物−1を335gとり、ここに炭酸ジルコニウムアンモニウム(ベイコート20:日本軽金属(株)製)15gを添加した後、炭酸ジルコニウムアンモニウムが溶けるまで攪拌し、比較水系樹脂組成物−3を得た。
【0048】
比較製造例4:比較水系樹脂組成物−4
1Lビーカーに比較水系樹脂組成物−1を335gとり、ここにモリブデン酸ナトリウム(日本無機化学工業(株)製)3g及びイオン交換水3gを添加した後、モリブデン酸ナトリウムが溶けるまで攪拌し、比較水系樹脂組成物−4を得た。
【0049】
比較製造例5:比較水系樹脂組成物−5
1Lビーカーに比較水系樹脂組成物−1を335gとり、ここにタングステン酸ナトリウム(日本無機化学工業(株)製)3g及びイオン交換水3gを添加した後、モリブデン酸ナトリウムが溶けるまで攪拌し、比較水系樹脂組成物−5を得た。
【0050】
比較製造例6:比較水系樹脂組成物−6(製造例1の水系樹脂組成物ブレンド品)
1Lビーカーに比較水系樹脂組成物−1を335gとり、ここにあらかじめ用意してお
いた2−エチルヘキシルアシッドホスフェートのトリエチルアミン塩水溶液(phoslex A−8 58.2g、トリエチルアミン33.2gを仕込み30分攪拌した後イオン交換水25gで希釈)を6.3g添加して常温で30分攪拌し比較水系樹脂組成物−6を得た。
なお、製造例1の水系樹脂組成物−1がα,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とリン酸エステル化合物の共乳化によって得られた組成物であるのに対し、比較水系樹脂組成物−6は、これら共重合体と化合物を単に混合して得られた組成物である。
【0051】
製造した試料の物性値等を表1に示す。
なお、リン酸エステルの加水分解率は、以下の手順にて算出した。
試料(水系樹脂組成物)/アセトン−d6=1/1で混合し、遠心分離後上澄み液をP31−NMRで測定した。また原料(エステル)の10%−アセトン溶液をP31−NMRで測定し、以下の式を用いて加水分解率を算出した。
加水分解率(%)={[原料の全エステル(mol%)−試料の全エステル(mol%)]/[原料の全エステル(mol%)]}×100
【0052】
【表1】

【0053】
<試験板の作製>
(1)鋼板:電気亜鉛めっき鋼板を使用した。
(2)処理鋼板作製
キシレン、トルエン、アセトンの混合溶液(混合比2:2:1)を使用して上記鋼板表面を脱脂した。
前記水系樹脂組成物にコロイダルシリカ(日産化学工業(株)製:スノーテックスXS)を加え、全固形分が約12wt%となるように、イオン交換水で希釈して、各々の水系樹脂組成物処理液を調製した。水性樹脂組成物とコロイダルシリカの配合は、乾燥後の組成が樹脂分70wt%、シリカ分30wt%となるようにした。
この処理液を、上記脱脂した鋼板表面に手動ロール絞り装置で、乾燥後の皮膜付着量が0.5g/m2となるように塗工した後、焼付炉で到達温度90℃の条件で乾燥させ、試
験板とした。
(c)樹脂被膜の付着量の確認
塗布・乾燥後の鋼板を蛍光X線分析装置((株)島津製作所製;VXQ150)で、Si元素の分析を行った。Si分析値はいずれの処理液も約23mg/m2)を示し、目標
とする樹脂被膜の付着量0.1〜2g/m2の範囲で付着していることを確認した。
なお、樹脂被膜の付着量の算出には、下記計算式を用いた。
【化1】

【0054】
<性能評価>
(1)平面部耐食性、クロスカット耐食性
上記(b)の手順にて作製した各試験板、並びに該各試験板にさらにクロスカットを入れた試験板のそれぞれに対して、JIS−Z−2371による塩水噴霧試験を72時間まで行い、下記評価基準にて平面部耐食性及びクロスカット耐食性を評価した。評価結果を表2に示す。
試験機器:アスコット社製塩水噴霧試験機 S120t型
評価基準:リン酸エステル化合物未添加の比較水系樹脂組成物1の耐食性を2点として相対評価を行った。
[評価基準]
5点 比較水系樹脂組成物1の結果と比較して耐食性に非常に優れる。
4点 比較水系樹脂組成物1の結果と比較して耐食性に優れる。
3点 比較水系樹脂組成物1の結果と比較して耐食性に僅かに優れる。
2点 比較水系樹脂組成物1の結果と比較して同等の耐食性を示す。
1点 比較水系樹脂組成物1の結果と比較して耐食性に劣る。
【0055】
(2)耐染み汚れ性
上記(b)の手順にて作製した各試験板を、温度50℃、湿度95〜98%の恒温恒湿室に、ラックに立て掛けて放置し、240時間後に各試験板を取り出した後、目視にて外観変化を評価した。得られた結果を表2に示す。
なお評価基準の説明として、実施例1(評価:外観変化なし)、比較例2(評価:外観変化あり)の試験板の表面を撮影した写真をそれぞれ図1、図2に示す。これらの図を比較すると、図1は均一な表面外観を有しているのに対して、図2においては鋼板表面全体にわたって黒くまだらな染みが発生しているのが判る。
[評価基準]
3点 変化なし
2点 僅かに外観変化あり
1点 外観変化あり
【0056】
(3)塗料密着性
上記(b)の手順にて作製した各試験板に、塗装膜厚約20μmになるようにメラミン−アルキッド塗料又はアクリル塗料をスプレー塗工し、下記所定の条件で乾燥させた。続いてこの板にカッターナイフで1mm角の碁盤目を100升刻んで試験板とし、JIS K5600に従い、1次密着性試験を行った。
また同様に塗料を乾燥させた後、この板を沸騰水で1時間浸漬した後取り出し、室温(25℃)で1時間放置した後、JIS K5600に従い、2次密着性試験を行った。
さらに(b)の手順にて作製した各試験板において、エリクセン加工(6mm押し出し)を行い、同様の1次・2次密着性試験を行った。
得られた結果を表2に示す。
[使用塗料と乾燥条件]
メラミン−アルキッド塗料:関西ペイント(株)製 アミラック#1000 130℃、20分
アクリル塗料 :関西ペイント(株)製 マジクロン#1000 160℃、20分
[評価基準:塗料の残存マス目数]
5点 残存マス目数 100
4点 残存マス目数 99〜81
3点 残存マス目数 80〜61
2点 残存マス目数 60〜41
1点 残存マス目数 40〜0
0点 密着性試験をする前(煮沸時)に全面剥がれ
【0057】
【表2】

【0058】
上記表2に示すように、実施例1乃至6(本発明の水系樹脂組成物)はいずれも耐食性(平板、クロスカット)、耐染み汚れ性、塗料密着性に優れるとする結果が得られた。
一方、比較例1にあっては、耐染み汚れ性は十分であるものの、実施例の鋼板と比べて耐食性に難点を有し、また、比較例2〜5にあっては耐食性、耐染み汚れ性のいずれも実施例の鋼板と比べて課題を残す結果となった。
また、実施例1の水系樹脂組成物1と同様の組成ながら、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とリン酸エステル化合物を単に混合して得られた組成物である比較例6は、実施例1の組成物と比べ、塗料密着性に劣ると結果となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特開平3−131370号公報
【特許文献2】特公平4−14191号公報
【特許文献3】特開2005−220237号公報
【特許文献4】特開2000−282254号公報
【特許文献5】特公平7−51758号公報
【特許文献6】特開2005−206921号公報
【特許文献7】特開2006−9121号公報
【特許文献8】特開2005−336277号公報
【特許文献9】特開2008−45163号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体100質量部及び水に不溶であるリン酸エステル化合物を0.1乃至10質量部含有する水系樹脂組成物。
【請求項2】
前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体とリン酸エステル化合物が水系媒体中で共乳化している系である、請求項1に記載の水系樹脂組成物。
【請求項3】
前記リン酸エステル化合物が炭素原子数8乃至18のアルコールから誘導されたものである、請求項1又は2に記載の水系樹脂組成物。
【請求項4】
水系媒体中に分散している前記α,β−エチレン性不飽和カルボン酸とオレフィンとの共重合体からなる樹脂粒子の平均粒子径が80nm以下である、請求項1乃至3のうちいずれか1項に記載の水系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載の水系樹脂組成物を乾燥して得られる皮膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−185017(P2010−185017A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30246(P2009−30246)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】