説明

耐水性が改良された蓄光性蛍光体及びこれを用いた水性塗料又は水性インク

【課題】 解決しようとする課題は、蓄光性蛍光体の耐水性を改良して水性塗料、や水性インクの用途にも使用できる蓄光性蛍光体を提供することである。
【解決手段】 本発明は、アルカリ溶液や有機溶剤を用いることなく、強酸性水溶液中でシラン類による蓄光性蛍光体の表面処理を行なうことにある。本発明による耐水性が改良された蓄光性蛍光体は、耐水性に優れ水性塗料や水性インクとして使用でき、環境悪化、火災発生や人体への悪影響がなく、利用範囲を格段に広げることができるという利点がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐水性が改良された蓄光性蛍光体及びこれを用いた水性塗料又は水性インクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄光性蛍光体は、蛍光材料の一種であり、自然光や人口照明の光を照射しておくと、光の照射のない暗所状態でも比較的長い時間発光するものがあり、この現象を何回も繰り返すことができることから蓄光性蛍光体または残光性蛍光体と呼ばれる。近年、防災に関する関心が高まり、暗所で光る蓄光性蛍光体は、プラスチックに顔料として混入し成形品に加工し、又はインク、塗料になどに加工して標識などとして多方面に用途が広がりつつある。
【0003】
蓄光性蛍光体としては、2価のユーロピウムで賦活されたアルミン酸塩等が知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
しかし、上記従来の蓄光性蛍光体は、水性塗料、水性インクの用途には、耐水性に欠けることがその利用範囲を制限している。
【0005】
この改善策として、酸化ケイ素質で表面を被覆した蓄光顔料(特許文献3参照)が提案されているが、この改善策では、油性塗料、油性インク等には有効であるが水性塗料、水性インク等には耐水性が不足していて実用には向かない欠点を有している。
【0006】
特許文献3の提案では、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)1重量部、イソプロピルアルコール6重量部、蓄光顔料(根本特殊化学(株)、品名:G300M)1重量部を混合撹拌下に蒸留水、更に濃アンモニア水をpH12となる程度に加え、3時間撹拌を続ける。析出ゲル状物を濾取し、イソプロピルアルコールで3回、アセトンで1回洗浄したのち乾燥する。こうしてシリカ質を被覆した蓄光顔料を作製する方法が開示されているが、強アルカリ水溶液中でアルカリ土類金属アルミン酸塩蓄光性蛍光体にシリカ質を被覆しているのでこの製造過程で蛍光顔料(アルカリ土類金属アルミン酸塩)が侵されている。その後アルコール、アセトンで洗浄し、乾燥しているが、このシリカ質を被覆している蛍光顔料を水性塗料や水性インクとして用いた場合、耐水性が不足してい加水分解等により輝度が低下しする、保存が利かない等の欠点を有している。
【特許文献1】特開平7−11250号公報
【特許文献2】特開平8−170076号公報
【特許文献3】特開平11−106678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、蓄光性蛍光体の耐水性を改良して水性塗料、や水性インクの用途にも使用できる蓄光性蛍光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、アルカリ溶液や有機溶剤を用いることなく、酸性水溶液中でシラン類による蓄光性蛍光体の表面処理を行うことにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明による耐水性が改良された蓄光性蛍光体は、耐水性に優れ水性塗料や水性インクの用途に使用でき、環境悪化、火災発生や人体への悪影響がなく、利用範囲を格段に広げることができるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明でいう蓄光性蛍光体とは、光を照射することにより励起して、光の照射を停止したのち少なくとも60分間は蛍光色を発光し続ける性能(残光)を有するものをいい、代表的なものとして2価のユーロピウムで賦活されたストロンチウム・アルミン酸塩が知られているがこれに限定されるものではない。
【0011】
本発明で用いられるアルコキシシランは、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、またこれらのアルキル基およびアルコキシ基を形成するアルキル基がその水素の一部または全部をフッ素で置き換えたフルオロアルキル基であるシラン類、さらに併用されうる金属アルコキシド類には、チタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドなどがある。以上のアルコキシシラン類およびアルコキシチタン類の所謂アルキル基は、炭素数1から一般に入手しうる炭素数任意のものであり、直鎖状、分枝状の何れであっても良い。
【0012】
本発明で用いられる酸性水溶液とは、アルコキシシランを加水分解できる酸性水溶液であればよく、強酸、例えば塩酸または硫酸を、好ましくは0.1〜5.0重量%、より好ましくは0.5〜3.0重量%含有する溶液である。
【0013】
酸性水溶液を用いる理由は、蓄光性蛍光体が加水分解することを防止でき、アルコキシシランの未反応物が少なく、乾燥したときに蓄光性蛍光体がブロック化しにくいからであり、特許文献3の提案の濃アンモニア水を用いると蓄光性蛍光体の加水分解を促進してしまうことを避けるためである。
【0014】
アルコキシシランの使用量は、蓄光性蛍光体表面積の増減などにより、使用量は必要に応じて適宜増減できるが、好ましくは蓄光性蛍光体100重量部に対してアルコキシシラン1重量部〜30重量部である。
【0015】
耐水性試験として、蓄光性蛍光体20gとイオン交換水50mlを容量140mlのガラス瓶に入れ密閉し、よく振った後に静置し、50日間毎日観察した。なおこの間観察後にこのガラス瓶をよく振った後、再び静置することを繰り返した。
【0016】
本発明でいう残光輝度測定における測定前の試料の前処理は、試料を温度20±2℃、湿度65±5%の条件下に24時間以上外光を遮断した状態で保管することにより行った。
【0017】
残光輝度測定方法は、光源としてD65(青色蛍光ランプ)を用い200Lxの条件で20分間照射することにより蓄光性蛍光体を励起し、照射を停止した後60分後の残光輝度を測定した。残光輝度測定には、輝度計LS−100(コニカミノルタ(株)製)を用いた。
【実施例1】
【0018】
アルコキシシランとして、Si(OCで表されるテトラエトキシシランを用いた。
【0019】
蓄光性蛍光体として、2価のユーロピウムで賦活したストロンチウム・アルミン酸塩(SrAl;Eu)の平均粒径50μmの微紛体を用いた。
【0020】
テトラエトキシシラン50gを1%塩酸水溶液700g中に、攪拌しながら滴下して加水分解した。なお滴下速度は、溶液が白濁しない速度とし、この場合40分かけて滴下した。この透明な溶液に室温で蓄光性蛍光体1000gを攪拌しながら加えた後、50℃±10に加熱保温し攪拌し重縮合した。この場合の攪拌時間は3時間とした。その後、室温まで冷却して、濾過、乾燥し、酸化ケイ素質を被覆した蓄光性蛍光体を得た。
【0021】
この蓄光性蛍光体について耐水性試験を行った。この結果は、50日間加水分解せず極めて良好なものであった。
【0022】
前記の耐水試験前後に、この試料の残光輝度測定を行った。この測定の結果は、共に40mcd/mで耐水性試験前に比べ耐水性試験後の残光輝度は、低下が見られず、よく蛍光色を発光するものであった。
【実施例2】
【0023】
蓄光性蛍光体を2価のユーロピウム及びジスプロシウムで賦活したストロンチウム・アルミン酸塩(SrAl;Eu、Dy)の平均粒径50μmの微紛体を用いた以外は実施例1と同様に試作し、酸化ケイ素質を被覆した蓄光性蛍光体を得た。
【0024】
この蓄光性蛍光体について耐水性試験を行った。この結果は、50日間加水分解せず極めて良好なものであった。
【0025】
前記の耐水試験前後に、この試料の残光輝度測定を行った。この測定の結果は、共に54mcd/mで耐水性試験前に比べ耐水性試験後の残光輝度は、低下が見られず、よく蛍光色を発光するものであった。
【実施例3】
【0026】
実施例1で作成した蓄光性蛍光体を用いて、水性塗料を作成した。常温乾燥型水性樹脂ウオーターゾルS−701(大日本インキ化学工業(株)製)58.9重量%、イオン交換水20重量%、表面調整剤BYK−301(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.3重量%、消泡剤BYK−024(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.3重量%、レオロジーコントロール剤BYK−420(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%をミキサーで混合し、最後に実施例1で作成した蓄光性蛍光体を20重量%混合して水性塗料とした。
【実施例4】
【0027】
酢ビ系エマルジョンとして、ボンコート2310(大日本インキ化学工業(株)製)78.7重量%、表面調整剤BYK−345(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%、消泡剤BYK−038(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.3重量%、レオロジーコントロール剤BYK−420(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%をミキサーで混合し、最後に実施例1で作成した蓄光性蛍光体を20重量%混合してエマルジョン塗料とした。
【実施例5】
【0028】
アクリル系エマルジョンはボンコートEC−818(大日本インキ化学工業(株)製)78.5重量%、表面調整剤BYK−345(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%、消泡剤BYK−024(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%、レオロジーコントロール剤BYK−420(ビッグケミー・ジャパン(株)製)0.5重量%をミキサーで混合し、最後に実施例2で作成した蓄光性蛍光体を20重量%混合してアクリル系エマルジョン塗料とした。
【0029】
これら実施例3乃至実施例5の蓄光性蛍光体を用いた水系塗料は、作成してから6か月保存後に使用しても性能は変わらず、加水分解は認められず良好な残光輝度を呈し実用に供することができるものであった。
(比較例1)
【0030】
実施例1に用いた蓄光性蛍光体2価のユーロピウムで賦活したストロンチウム・アルミン酸塩(SrAl;Eu)の平均粒径50μmの微紛体をそのまま用いて、耐水性試験を行った。この結果は、1日後に少し加水分解が認められ、3日後には全体に加水分解が見られた。
【0031】
前記の耐水試験後に、この試料について残光輝度測定を行った。この測定の結果は、耐水試験1日後の残光輝度は、7mcd/mで、耐水試験3日後の残光輝度は、1mcd/m以下でほんの極少し蛍光色を発光するもので大幅に低下したものであった。
(比較例2)
【0032】
実施例2に用いた蓄光性蛍光体、2価のユーロピウム及びジスプロシウムで賦活したストロンチウム・アルミン酸塩(SrAl;Eu、Dy)の平均粒径50μmの微紛体をそのまま用いて、耐水性試験を行った。この結果は、1日後には全体に加水分解が見られた。
【0033】
前記の耐水試験後に、この試料について残光輝度測定を行った。この測定の結果は、耐水試験1日後の残光輝度は、1mcd/m以下でほんの極少し蛍光色を発光するもので大幅に低下したものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性水溶液にアルコキシシランを加えて加水分解した後、重縮合させて蓄光性蛍光体に酸化ケイ素質を被覆したことを特徴とする耐水性が改良された蓄光性蛍光体。
【請求項2】
蓄光性蛍光体がユーロピウムで賦活されたアルカリ土類金属アルミン酸塩である請求項1記載の耐水性が改良された蓄光性蛍光体。
【請求項3】
蓄光性蛍光体を顔料とした水性塗料又は水性インクであって、アルコキシシランを酸性水溶液に加えて加水分解した後、重縮合させて蓄光性蛍光体に酸化ケイ素質を被覆したことを特徴とする耐水性が改良された蓄光性蛍光体を用いた水性塗料又は水性インク。

【公開番号】特開2008−50548(P2008−50548A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−258010(P2006−258010)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(507006503)イージーブライト株式会社 (8)
【Fターム(参考)】