説明

耐水性及び耐溶剤性を有する皮膜を形成する水分散性樹脂組成物

【課題】 硬化剤を使用しなくとも耐水性及び耐溶剤性に優れた皮膜を形成する水分散性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸成分としてエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が共重合され、ジグリコール成分としてジエチレングリコールが共重合された水分散性ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーが共重合されたアクリル系樹脂(B)とを主成分とし、(A)と(B)との樹脂固形分重量比が(A)/(B)=10〜80/90〜20であることを特徴とする水分散性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐水性及び耐溶剤性のある皮膜を形成する水分散性樹脂組成物に関し、詳しくは硬化剤を併用しなくとも耐水性及び耐溶剤性のある皮膜を形成する水分散性樹脂組成物に関する。
本発明はABS、アクリル、ポリカーボネート等の耐溶剤性のない基材の表面保護用途、紙やプラチックフィルム、金属、ガラスなどの基材のコーティング剤や接着剤、印刷インキ、導電性ポリマーなどのバインダー用途、積層フィルムや易接着性塗膜用樹脂、塗料用樹脂などに利用できる水分散性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境規制が厳しくなり、溶剤系加工剤から水系加工剤への移行が進んでいる。しかし、水系加工剤は溶剤系加工剤に比べ耐水性、耐溶剤性が劣っている。
【0003】
水分散性樹脂組成物は親水性が強いと耐溶剤性は優れているが耐水性が劣り、親水性が弱いと耐水性は優れているが耐溶剤性が劣っており、水系加工剤の耐水性と耐溶剤性を両立させるということは非常に難しいことである。
【0004】
耐溶剤性が要求される用途としては、例えばABS、アクリル、ポリカーボネート等の耐溶剤性のない基材の表面保護がある。これらの基材に直接、溶剤系塗料を塗布すると塗料に含まれるトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤や酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤などに表面が侵されるために基材の外観が損なわれる。そのため、予め水系プライマーを塗布することで溶剤系塗料から表面が侵されるのを保護することが求められる。
【0005】
ところで、水分散性樹脂組成物の耐水性及び耐溶剤性を向上させる手段として硬化剤を併用する方法が提案されている。(例えば特許文献1、2、3、4、5を参照)
しかし、この組成物は2液タイプであることから使用前に主剤と硬化剤を混合することが必要で、混合後、両者が反応し液が増粘するために、可使時間内に使用しなければならず作業性が悪いという問題がある。
【特許文献1】特開平01−207374号公報
【特許文献2】特開平04−318091号公報
【特許文献3】特開平09−011427号公報
【特許文献4】特開平11−124539号公報
【特許文献5】特開2003−301274号公報
【0006】
また、耐溶剤性に基づくハンドリング性に優れたポリエステルを含有する積層膜層の例として、共重合成分としてイソフタル酸およびジエチレングリコールを含有する共重合ポリエステルが知られている。(例えば特許文献6参照)ここでは、ジエチレングリコールを共重合することで特にアルコールに対するC層の耐溶剤性が向上できるとある。
さらに、有機溶剤に対する溶解性、溶液安定性に優れ、かつ形成された皮膜は耐溶剤性を発揮する共重合ポリエステル樹脂からなる下塗層を設けた磁気記録媒体も知られている。(例えば特許文献7参照)
しかしながら、これらのポリエステル樹脂からなる積層膜はアルコールに対しての耐溶剤性において優れているとしても、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤やアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤に対する耐溶剤性は不十分であり、さらに耐溶剤性を向上させるためには、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の架橋剤を併用することが求められる。
【特許文献6】特開2004−216877号公報
【特許文献7】特開2001−118240号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、水分散性樹脂組成物は耐水性及び耐溶剤に劣るという問題があり、本発明の目的は硬化剤を使用しなくとも耐水性及び耐溶剤性に優れた皮膜を形成する水分散性樹脂組成物を提供することである。さらに、その皮膜は透明性、プラスチック基材への接着性にも優れているものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、本発明に至った。すなわち、本発明の組成物はジカルボン酸成分としてエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が共重合され、ジグリコール成分としてジエチレングリコールが共重合された水分散性ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーが共重合されたアクリル系樹脂(B)とを主成分とし、(A)と(B)との樹脂固形分重量比が(A)/(B)=10〜80/90〜20であることを特徴とする耐水性及び耐溶剤性を有する皮膜を形成する水分散性樹脂組成物である。
【0009】
本発明における水分散性ポリエステル樹脂(A)は共重合成分であるジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸とエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物からなり、エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物を全酸成分中に6〜20モル%含有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明においては水分散性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分であるジグリコール成分としてジエチレングリコールを全グリコール成分中に20〜80モル%含有することを特徴とするものである。
【0011】
さらに本発明において、アクリル系樹脂(B)の共重合モノマーはグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを全モノマー中に10〜100重量%含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水分散性樹脂組成物は、耐水性及び耐溶剤性ともに優れた皮膜を形成し、その皮膜は透明性にも優れている。また、本樹脂組成物は水系であって硬化剤併用の必要がないために取り扱いが容易であり、プラスチック基材への接着性にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の水分散性ポリエステル樹脂(A)について説明する。
本発明の水分散性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分であるジカルボン酸成分はエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物を必須成分とし、フタル酸、テレフタル酸、テレフタル酸ジメチル、イソフタル酸、イソフタル酸ジメチル、2,5−ジメチルテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、オルソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸及び、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにシクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等が挙げられる。
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物以外のジカルボン酸成分としては芳香族ジカルボン酸が好ましく、芳香族ジカルボン酸の芳香核が、疎水性のプラスチックと親和性が大きいために密着性の向上、耐加水分解性に優れている利点がある。特にテレフタル酸、イソフタル酸が好ましい。
【0014】
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物は全酸成分中に6〜20モル%含有することが好ましい。更に好ましくは10〜18モル%である。エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が6モル%未満では水に対する樹脂の分散時間が長くなり、耐溶剤性も十分とはいえない。逆に20モル%を超えると耐水性が低下する傾向がある。
【0015】
エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物としては、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン酸−2,7−ジカルボン酸などのアルカリ金属塩(スルホン酸のアルカリ金属塩)及び、これらのエステル形成性誘導体が挙げられ、5−スルホイソフタル酸のナトリウム塩及び、そのエステル形成性誘導体がより好ましく用いられる。
【0016】
水分散性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分であるジグリコ−ル成分としては、ジエチレングリコールと炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコ−ル等が挙げられる。炭素数2〜8の脂肪族または炭素数6〜12の脂環族グリコ−ルの具体例としては、エチレングリコ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,2−プロピレングリコ−ル、ネオペンチルグリコ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,3−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,2−シクロヘキサンジメタノ−ル、1,6−ヘキサンジオール、p−キシリレングリコ−ル、トリエチレングリコ−ルなどが挙げられ、これらの1種もしくは2種以上を併用してもよい。
ジエチレングリコールを全グリコール成分中に20〜80モル%含有することが好ましい。ジエチレングリコールが、この範囲外でもアルコールに対して耐溶剤性は得られるが、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤に対して耐溶剤性が不十分である。
【0017】
水分散性ポリエステル樹脂(A)は、数平均分子量が2,000〜30,000が必要であり、好ましい数平均分子量は2,500〜25,000である。数平均分子量が2,000未満の場合は耐水性、耐溶剤性等の樹脂物性が低下するし、30,000を越える場合は水分散性が困難で取り扱いが難しい樹脂しか得られない。
【0018】
水分散性ポリエステル樹脂(A)は公知の製造技術により、ジカルボン酸とジグリコールとをエステル化或いはエステル交換反応後、重縮合反応させることによって製造されるが、その製造方法についてはなんら限定されるものではない。すなわち、前述の酸成分及びグリコール成分を130〜200℃でエステル化或いはエステル交換反応させ、次に減圧条件下において200〜250℃で重縮合反応せしめることにより、目的とする水分散性ポリエスエル樹脂(A)を得ることができる。
この際に用いられる反応触媒としては、酢酸亜鉛、酢酸マンガン等の酢酸金属塩、酸化アンチモン、酸化ゲルマニウム等の金属酸化物、チタン化合物などが挙げられる。
【0019】
水分散性ポリエステル樹脂(A)は水又は水性溶剤を含む水に50〜90℃加温撹拌下で均一に水分散させて用いる。こうして得られる水分散体は固形分濃度が高くなると均一分散体が得られにくいため、ポリエステル固形分濃度は30重量%以下が好ましい。
水性溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、ノルマルプロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
【0020】
次に本発明のグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)について説明する。
グリシジル基含有アクリル系樹脂(B)はグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーの単独重合物あるいは、グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーとこれに共重合できる他のラジカル重合性不飽和モノマーとを共重合した樹脂である。
【0021】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを全モノマー中に10〜100重量%含有することが好ましく、更に好ましくは20〜100重量%である。
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーはグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)の内部架橋を進めることにより、耐水性、耐溶剤性を向上させると考えられる。特にアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤および酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤に対する耐溶剤性が顕著である。
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーが10重量%未満でもアルコールに対する耐溶剤性は得られるが、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤に対する耐溶剤性が不十分である。
【0022】
グリシジル基含有のラジカル重合性不飽和モノマーとしてはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテルといったグリシジルエーテル類などが挙げられる。
【0023】
グリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーと共重合できるラジカル重合性不飽和モノマーとしては、ビニルエステル、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、不飽和ニトリル、不飽和カルボン酸、アリル化合物、含窒素系ビニルモノマー、炭化水素ビニルモノマーまたはビニルシラン化合物が挙げられる。
【0024】
ビニルエステルとしては、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、高級第3級ビニルエステル、塩化ビニル、臭化ビニルが挙げられる。不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、マレイン酸ブチル、マレイン酸オクチル、フマル酸ブチル、フマル酸オクチル、メタクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、エチレングリコールジメタクリル酸エステル、エチレングリコールジアクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジメタクリル酸エステル、ポリエチレングリコールジアクリル酸エステルが挙げられる。
【0025】
不飽和カルボン酸アミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、メチロールアクリルアミド、ブトキシメチロールアクリルアミドが挙げられる。不飽和ニトリルとしてはアクリロニトリルが挙げられる。
【0026】
不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸酸性エステル、フマル酸酸性エステル、イタコン酸酸性エステルが挙げられる。
【0027】
アリル化合物としては、酢酸アリル、メタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、イタコン酸ジアリルが挙げられる。また含窒素系ビニルモノマーとしては、ビニルピリジン、ビニルイミダゾールが、また炭化水素ビニルモノマーとしてはエチレン、プロピレン、ヘキセン、オクテン、スチレン、ビニルトルエン、ブタジエンが挙げられる。ビニルシラン化合物としては、ジメチルビニルメトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシシランが挙げられる。
【0028】
ラジカル重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸を用いるとグリシジル基との架橋により、耐溶剤性の向上効果が一層発揮される。
不飽和カルボン酸モノマーは全モノマー中に5〜20重量%含有することが好ましい。不飽和カルボン酸モノマー5重量%未満では併用効果が見られず、20重量%を超えると経時的に液がゲル化し、貯蔵安定性が悪くなる。
【0029】
グリシジル基含有アクリル系樹脂(B)は公知の製造技術により製造されるが、その製造方法についてはなんら限定されるものではない。ここでは、乳化重合による製造方法を記載する。
例えば、反応槽にイオン交換水、重合開始剤、界面活性剤を仕込み、次に滴下槽にイオン交換水と界面活性剤を仕込み、モノマーを投入して乳化物を作製し、乳化物の滴下によって反応を行う。反応温度は60〜100℃とし、反応時間は4時間〜10時間で行う。
【0030】
乳化重合に使用する界面活性剤としては一般的なアニオン系もしくは、ノニオン系の反応性界面活性剤及び、非反応性界面活性剤を1種もしくは2種以上を併用してもよい。
反応性界面活性剤の具体例としては、アルキルアリルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸塩、(メタ)アクリレート硫酸エステル塩などのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、(メタ)アクリレート硫酸エステルなどのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
非反応性界面活性剤の具体例としては、アルキル硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステルなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンジフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0031】
乳化重合に使用する重合開始剤としては一般的なラジカル重合性開始剤、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等の水溶性過酸化物、又は過酸化ベンゾイルやt−ブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性過酸化物、あるいはアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物などが挙げられる。
【0032】
本発明の水分散性樹脂組成物は水分散性ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)との樹脂固形分重量比が(A)/(B)=10〜80/90〜20である。好ましくは、(A)/(B)=20〜70/80〜30である。
水分散性ポリエステル樹脂(A)が10重量%未満すなわち、グリシジル基含有アクリル系樹脂(B)が90重量%を超えると基材への密着性、皮膜の透明性が低下し、水分散性ポリエステル樹脂(A)が80重量%を超えるすなわち、グリシジル基含有アクリル系樹脂(B)が20重量%未満だと十分な耐溶剤性、耐水性が得ることができない。
【0033】
本発明の水分散性樹脂組成物は水分散性ポリエステル樹脂(A)の水性分散液とグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)のアクリルエマルジョンとを混合して得ることも出来るが、水分散性ポリエステル樹脂(A)の水性分散液中でグリシジル基含有のラジカル重合性不飽和モノマー単独あるいは、グリシジル基含有のラジカル重合性不飽和モノマーとこれに共重合できる他のラジカル重合性不飽和モノマーとを重合して得ることもできる。
この際には、前述の界面活性剤、重合開始剤を用いる。
【0034】
本発明の水分散性樹脂組成物には、消泡剤、湿潤剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤などをこの発明の効果を阻害しない範囲内で添加することができる。
【0035】
本発明の水分散性樹脂組成物をコーティングする基材としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ABS、アクリル等のプラスチックフィルムが挙げられる。さらに紙あるいは織物や編物等の布や不織布、金属、木材、セラミック、陶器などの成形品等に塗工することも可能である。
【0036】
本発明の水分散性樹脂組成物を塗布する前にコロナ放電処理、紫外線照射処理などを行うことによって更に密着性を向上させることができる。
塗布方法しては、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、バーコート法、コンマコ−ト法、或いはスプレーコート法など各種公知の方法を適用することができる。
【0037】
本発明の水分散性樹脂組成物の塗布条件としては、塗布量が通常乾燥後の膜厚で0.1〜5μm、乾燥条件としては、80〜180℃で30秒〜180秒の乾燥が好ましい。乾燥方法としては、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥等公知の乾燥方法が挙げられる。
【実施例】
【0038】
以下に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されたものではない。文中「部」及び「%」は特にことわりのない限り重量部又は重量%を示す。
【0039】
水分散性ポリエステル樹脂(A)の製造
留出管、窒素導入管、温度計、撹拌機を備えた四つ口フラスコにテレフタル酸ジメチル854部、5−ソジウムスルホイソフタル酸355部、エチレングリコール186部、ジエチレングリコール742部及び、反応触媒として、酢酸亜鉛1部を仕込み、130℃から170℃まで2時間かけて昇温し、エステル交換反応した後、イソフタル酸730部、三酸化アンチモン1部を添加し、170℃から200℃まで2時間かけて昇温し、エステル化反応を行った。次いで徐々に昇温、減圧し、最終的に反応温度を250℃、真空度5mmHg以下で1時間重縮合反応を行ない、表1記載の製造例A1の水分散性ポリエステル樹脂(A)を得た。
以下同様の方法により、表1記載のA2、A3、A4、A5、A6及びC1、C2の水分散性ポリエステル樹脂(A)を製造した。
【0040】
【表1】

【0041】
得られた水分散性ポリエステル樹脂(A)25部をイソプロパノール15部、イオン交換水60部の混合溶液に仕込み、70〜80℃で3時間撹拌を行い、表1記載の固形分濃度25%の水分散性ポリエステル樹脂(A)の水分散液を得た。
【0042】
グリシジル基含有アクリル系樹脂(B)の製造
ビーカーにイオン交換水18部、界面活性剤としてエレミノールRS−3000(三洋化成工業(製)、アニオン系界面活性剤、有効成分50%)3部を仕込み、撹拌しつつメタクリル酸グリシジル40部を投入し、モノマー乳化液を作製する。次にコンデンサー、モノマー滴下用ロート、温度計、撹拌機を備えた四つ口フラスコに、イオン交換水37.5部、界面活性剤としてエレミノールRS−3000を1部、過硫酸カリウム0.5部を仕込み、撹拌しつつ窒素置換後、加温を始め、75℃でモノマー乳化液を4時間かけて滴下する。滴下終了後も液温を75〜85℃に維持しつつ反応を進め、4時間後に冷却する。冷却後、さらにイオン交換水を加えて、不揮発分25%の表2記載の製造例B1のグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)を得た。
以下同様の方法により、表2記載のB2、B3、B4、B5のグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)及びD1、D2、D3のグリシジル基を含まないアクリル系樹脂(B)を得た。
【0043】
【表2】

【0044】
水分散性樹脂組成物の製造
前述で得られた水分散性ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有アクリル系樹脂(B)及びグリシジル基を含まないアクリル系樹脂(B)を表3および表4に示した比率%で配合し、実施例1〜11及び比較例1〜11の水分散性樹脂組成物を得た。
【0045】
【表3】

【表4】

【0046】
前述で得られた水分散性樹脂組成物の塗工例及び性能評価
ポリエステルフィルムへの塗工例
膜厚100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムに乾燥後の塗布厚さが3μmになるように水分散性樹脂組成物を塗布し110℃で3分間乾燥後、150℃で1分間熱処理を行った。得られた加工フィルムについて下記の試験を行った。結果を表3および表4に示す。
【0047】
(1)皮膜の透明性評価
加工面の曇りを目視にて判定した。
○:透明、△:曇りのあるもの、×:不透明なもの
【0048】
(2)ポリエステルフィルムへの密着性評価
碁盤目テープ法に準じ、加工面上にセロハンテープ(ニチバン(株)製CT405A−18)を空気が入らないように貼り合わせ、180゜方向に引き剥がした後の加工層の残存程度を次の基準で判定した。
○:残存率100%、△:残存率99〜80%、×:残存率79%以下
【0049】
(3)耐水性評価
加工したフィルムを90℃の温水に1時間浸漬した後に、外観の変化で判定した。
○:外観の変化なし、△:皮膜白化する、×:溶解する
【0050】
(4)耐溶剤性評価
トルエン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、イソプロパノールの各々を含侵させた脱脂綿で加工面を50往復ラビングした後に、外観の変化で判定した。
○:外観の変化なし、△:皮膜白化する、×:溶解する
【0051】
結果は表3および表4の通りであり、実施例1〜11においては皮膜の透明性及びPETフィルムへの密着性が良好であるとともに耐水性及び耐溶剤性に優れた性能が得られたが、それに対して比較例1〜11は全ての性能を満足するものはなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分としてエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が共重合され、ジグリコール成分としてジエチレングリコールが共重合された水分散性ポリエステル樹脂(A)とグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーが共重合されたアクリル系樹脂(B)とを主成分とし、(A)と(B)との樹脂固形分重量比が(A)/(B)=10〜80/90〜20であることを特徴とする耐水性及び耐溶剤性を有する皮膜を形成する水分散性樹脂組成物。
【請求項2】
水分散性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分であるジカルボン酸成分が芳香族ジカルボン酸とエステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物からなり、エステル形成性スルホン酸アルカリ金属塩化合物が全酸成分中に6〜20モル%含有することを特徴とする請求項1に記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項3】
水分散性ポリエステル樹脂(A)の共重合成分であるジグリコール成分としてジエチレングリコールを全グリコール成分中に20〜80モル%含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の水分散性樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系樹脂(B)の共重合モノマーとしてはグリシジル基含有ラジカル重合性不飽和モノマーを全モノマー中に10〜100重量%含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の水分散性樹脂組成物。


【公開番号】特開2010−143955(P2010−143955A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319421(P2008−319421)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000169651)高松油脂株式会社 (8)
【Fターム(参考)】