説明

耐水性難燃樹脂組成物及び絶縁電線

【課題】被覆厚さが0.3mm以下の絶縁電線の被覆材として特に有効であり、かつ耐水性に優れた耐水性難燃樹脂組成物の提供。
【解決手段】ポリプロピレン50〜70質量部、非晶質ポリプロピレン25〜49質量部、マレイン酸変性ポリエチレン1〜5質量部からなるベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム100〜150質量部、メラミンシアヌート5〜20質量部をそれぞれ配合したことを特徴とする耐水性難燃樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い難燃性、電気絶縁性、耐水性に優れ、電子機器用電線等の被覆材などとして好適なハロゲンフリーの耐水性難燃樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器用電線にはUL認定が必要である。難燃性はUL94に示されたVW−1燃焼試験方法により、非常に高難燃性が要求される。
従来、ハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと記す。)やエチレン−エチルアクリレート共重合体などのポリオレフィン系樹脂に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの難燃剤、メラミンシアヌレート、ヒドロキシスズ酸亜鉛などの難燃助剤を配合したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
また、シランカップリング剤やステアリン酸などで表面処理した水酸化マグネシウムなどを用いて、樹脂組成物の機械特性を高めることも知られている(例えば、特許文献2参照。)。
さらに、EVAやアクリルゴムなどの酸コポリマーに金属水和物などを多量に添加した難燃性組成物を導体上に被覆した後、電子線で被覆を架橋して得られる絶縁電線も提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0003】
このようなハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物にあっては、焼却処分の際に有害なハロゲン化合物を発生することがなく、この樹脂組成物からなる被覆層を有する絶縁電線が、UL1581規格に規定されるVW−1燃焼試験に合格する高難燃性を発揮し、良好な機械特性、加工性を有しており、例えば電子機器用絶縁電線の絶縁体、シースなどに用いられている。
【特許文献1】特開2000−294036号公報
【特許文献2】特開2000−195336号公報
【特許文献3】特開2004−339317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このようなハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物からなる絶縁体、シースを有する絶縁電線では、絶縁体、シースをなすハロゲンフリーの難燃性樹脂組成物が多量の水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物を含有するため、吸湿しやすくなり、高湿度環境下あるいは水中での絶縁抵抗の低下が著しくなるという問題がある。例えばEVAに水酸化マグネシウムを添加した場合、樹脂100質量部に対して150質量部以上を添加すると、吸水による絶縁抵抗の低下が著しくなる。
【0005】
また、導体への被覆が薄くなるほど絶縁抵抗値が低くなるため、被覆厚0.25mm程度では絶縁性維持がより厳しくなる。反面、難燃性は被覆厚さが0.25mm以下では0.3〜0.5mm程度の被覆厚さの時に比べVW−1難燃性に必要な難燃剤の必要量は少なくなるメリットがある。
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、被覆厚さが0.3mm以下の絶縁電線の被覆材として特に有効であり、かつ耐水性に優れた耐水性難燃樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、ポリプロピレン50〜70質量部、非晶質ポリプロピレン25〜49質量部、マレイン酸変性ポリエチレン1〜5質量部からなるベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム100〜150質量部、メラミンシアヌート5〜20質量部をそれぞれ配合したことを特徴とする耐水性難燃樹脂組成物を提供する。
【0008】
また本発明は、前述した本発明に係る耐水性難燃樹脂組成物が導体上に被覆されてなり、UL1581に規定されるVW−1燃焼試験に合格する難燃性を有していることを特徴とする絶縁電線を提供する。
本発明の絶縁電線において、前記導体上の被覆厚さは0.3mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、UL1581規格に規定されるVW−1燃焼試験に合格する高難燃性を有し、吸水による絶縁抵抗の低下が小さい耐水性難燃樹脂組成物、及び該組成物からなる被覆を絶縁層として備え、耐水性、耐熱性に優れた絶縁電線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物は、ポリプロピレン50〜70質量部、非晶質ポリプロピレン25〜49質量部、マレイン酸変性ポリエチレン1〜5質量部からなるベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム100〜150質量部、メラミンシアヌート5〜20質量部をそれぞれ配合したことを特徴とする
【0011】
通常VW−1難燃性を得るには、難燃剤多量添加の必要性から、EVAなどをベースに、電子線架橋やシラン架橋により耐熱性と機械特性を向上させる手法が数多く提案されている。また、0.03mm以下の薄い絶縁厚のものには、吸水による絶縁抵抗低下が深刻であると同時に、0.3〜0.5mm程度の厚さの電線よりもVW−1合格に必要な難燃剤添加量は少なくて済む。
そこで本発明においては、ベース樹脂に高耐熱、高体積抵抗率のポリプロピレン樹脂を用い、被覆の薄い電線に有効な難燃処方により難燃剤の量を極力減量することにより、水中に24時間浸漬したあとの絶縁抵抗が1000(MΩ・km)以上である耐水性難燃樹脂組成物および絶縁電線を得る。
【0012】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物に用いるポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレンの他に、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体、アタクチックポリプロピレン重合体を主成分とするポリプロピレン樹脂等が挙げられ、各種の市販品んの中から適宜選択して用いることができる。これらのポリプロピレン系樹脂は1種類でも良いし、2種類以上混合して使用することができる。
【0013】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物に用いる非晶質ポリプロピレンとしては、チーグラー・ナッタ型触媒等を用いて、スラリー重合、気相重合、バルク重合、溶液重合あるいはこれらを組み合わせた重合法で、プロピレンを単独、あるいはプロピレンとエチレン等のα−オレフィンを共重合することによって得ることができる。また、該当市販品を用いることができる。本発明の耐水性難燃樹脂組成物において好ましい市販の非晶質ポリプロピレンとしては、例えば、住友化学社製のタフセレンT1712(商品名)が挙げられる。
【0014】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物に用いるマレイン酸変性ポリエチレンとして、好ましい市販品としては、例えば、日本ポリエチレン社製のアドテックスL6100M(商品名)が挙げられる。
【0015】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物において、ポリプロピレン、非晶質ポリプロピレン及びマレイン酸変性ポリエチレンからなるベース樹脂100質量部中のポリプロピレンの配合量は、50〜70質量部の範囲とする。ポリプロピレンの配合量が50質量部未満であると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断強度が低下する。一方、ポリプロピレンの配合量が70質量部を超えると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断伸びが悪化する。
【0016】
また、ベース樹脂100質量部中の非晶質ポリプロピレンの配合量は、25〜49質量部の範囲とする。非晶質ポリプロピレンの配合量が25質量部未満であると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断伸びが悪化する。一方、非晶質ポリプロピレンの配合量が49質量部を超えると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断強度が悪化する。
【0017】
また、ベース樹脂100質量部中のマレイン酸変性ポリエチレンの配合量は、1〜5質量部の範囲とする。マレイン酸変性ポリエチレンの配合量が1質量部未満であると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断強度が悪化する。一方、マレイン酸変性ポリエチレンの配合量が5質量部を超えると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の引張破断伸びが悪化する。
【0018】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物において、難燃剤としては、難燃性付与効果が大きい水酸化マグネシウムとメラミンシアヌレートとをベース樹脂に共配合する。この水酸化マグネシウムには、その平均粒子径が0.7〜1.3μmのものが好ましく、さらには表面処理されたものがベースポリマーに対する親和性が高められ、分散性が向上して好ましい。
【0019】
この表面処理には、ビニルシラン、メタクリルシラン、エポキシシランなどのシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ステアリン酸、オレイン酸などの高級脂肪酸などを用いる処理が採用されるが、なかでもビニルシランカップリング剤またはメタクリルシランカップリング剤で表面処理されたものがベースポリマーとの親和性が高められて好ましい。また、水酸化マグネシウム粒子表面における表面処理剤の存在量は0.1〜2質量%程度で十分である。
【0020】
この水酸化マグネシウムの配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、100〜150質量部の範囲とする。水酸化マグネシウムの配合量が100質量部未満であると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の難燃性が悪くなる。一方、水酸化マグネシウムの配合量が150質量部を超えると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の耐水性が悪化する。
【0021】
またメラミンシアヌートの好ましい市販品としては、例えば、日産化学工業社製のMC−860(商品名)が挙げられる。
【0022】
このメラミンシアヌートの配合量は、ベース樹脂100質量部に対して、5〜20質量部の範囲とする。メラミンシアヌートの配合量が5質量部未満であると、水酸化マグネシウムをベース樹脂100質量部に対して150質量部配合した場合でも、得られる耐水性難燃樹脂組成物の難燃性が悪くなる。一方、メラミンシアヌートの配合量が20質量部を超えると、得られる耐水性難燃樹脂組成物の耐水性が悪化する。
【0023】
本発明の耐水性難燃樹脂組成物では、前述した必須成分以外に、難燃助剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、帯電防止剤、滑剤、加工助剤、着色剤、無機充填剤などの添加剤を適宜配合することができる。
【0024】
本発明の絶縁電線は、前述した耐水性難燃樹脂組成物からなる絶縁体または絶縁体とシースを有するもので、導体上もしくは絶縁体上に周知の押出被覆法により前記耐水性難燃樹脂組成物を被覆して絶縁体あるいはシースを形成したものである。この絶縁電線の被覆の厚さは、0.3mm以下とすることが望ましい。
本発明の絶縁電線は、UL1581に規定されるVW−1燃焼試験に合格する難燃性を有するものである。
本発明の絶縁電線は、水中に24時間浸漬したあとの絶縁抵抗が1000(MΩ・km)以上である優れた耐水性を有する。
本発明の耐水性難燃樹脂組成物及び絶縁電線は、塩素などのハロゲン元素が含まれないので、これらを焼却処分する際に、有害なハロゲン含有ガスが発生することがない。
以下、実施例により本発明の効果を実証する。
【実施例】
【0025】
表1(実施例1〜8)、及び表2(比較例1〜10)に示す配合組成(単位:質量部)の樹脂組成物を配合し、バンバリーにより180℃で5分間混練した。その際、表1及び表2中に記した各配合成分に加え、加工助剤としてベース樹脂100質量部に対し5質量部のステアリン酸、及び2質量部の酸化防止剤を添加した。
混練後、押出機にて、AWG26(7/0.16TA)の導体上に押出被覆を行い、絶縁厚0.3mmの被覆を形成した。
得られた絶縁電線について、以下の評価を行った。
【0026】
評価項目 (合否判断基準)
・引張破断強度 (10MPa以上合格)
・引張破断伸び (150%以上合格)
・難燃性 (UL1581規格VW−1燃焼試験、5本中5本合格)
・絶縁抵抗 (絶縁電線を水道水に浸漬して24時間後の絶縁抵抗を測定し、23℃で1000MΩ・km以上を合格)
【0027】
引張破断強度及び引張破断伸びは、UL1581(PHYSICAL PROPERTIES TESTS OF INSULATION AND JACKET)に記載の方法に従って測定した。
【0028】
表1及び表2において、各配合成分は以下の市販品を用いた。
ポリプロピレン(表1,表2中「PP」と記す)は、E−111G(商品名、三井化学社製)を用いた。
非晶質ポリプロピレン(表1,表2中「非晶質PP」と記す)は、タフセレンT1712(商品名、住友化学社製)を用いた。
マレイン酸変性ポリエチレン(表1,表2中「マレイン酸変性PE」と記す)は、アドテックスL6100M(商品名、日本ポリエチレン社製)を用いた。
水酸化マグネシウムは、キスマ5L(商品名、協和化学社製)を用いた。
メラミンシアンレートは、MC−860(商品名、日産化学工業社製)を用いた。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1に示す本発明に係る実施例1〜8は、十分な引張破断強度と引張破断伸び、十分な難燃性及び耐水性(絶縁抵抗)を達成することができた。
【0032】
一方、表2に示す比較例1は、ポリプロピレンが本発明の範囲未満で且つ非晶質ポリプロピレンが過剰としたものであり、引張破断強度が不合格となった。
比較例2は、ポリプロピレンが過剰で且つ非晶質ポリプロピレンが本発明の範囲未満としたものであり、引張破断伸びが不合格となった。
比較例3は、ポリプロピレンが本発明の範囲未満、非晶質ポリプロピレンが過剰であり且つマレイン酸変性ポリエチレンを配合していないものであり、引張破断強度が不合格となった。
比較例4は、ポリプロピレンが過剰、非晶質ポリプロピレンが本発明の範囲未満であり且つマレイン酸変性ポリエチレンを配合していないものであり、引張破断強度及び引張破断伸びが不合格となった。
比較例5は、ポリプロピレンが本発明の範囲未満で且つマレイン酸変性ポリエチレンを過剰に配合したものであり、引張破断伸びが不合格となった。
比較例6は、非晶質ポリプロピレンが本発明の範囲未満で且つマレイン酸変性ポリエチレンを過剰に配合したものであり、引張破断伸びが不合格となった。
比較例7は、水酸化マグネシウムが本発明の範囲未満であり、難燃性が不合格となった。
比較例8は、メラミンシアヌレートを配合していないものであり、難燃性が不合格となった。
比較例9は、水酸化マグネシウムを本発明における下限値としメラミンシアヌレートを過剰に配合したものであり、耐水性(絶縁抵抗)が不合格となった。
比較例10は、水酸化マグネシウムを本発明における上限値としメラミンシアヌレートを過剰に配合したものであり、耐水性(絶縁抵抗)が不合格となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン50〜70質量部、非晶質ポリプロピレン25〜49質量部、マレイン酸変性ポリエチレン1〜5質量部からなるベース樹脂100質量部に、水酸化マグネシウム100〜150質量部、メラミンシアヌート5〜20質量部をそれぞれ配合したことを特徴とする耐水性難燃樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の耐水性難燃樹脂組成物が導体上に被覆されてなり、UL1581に規定されるVW−1燃焼試験に合格する難燃性を有していることを特徴とする絶縁電線。
【請求項3】
前記導体上の被覆厚さが0.3mm以下であることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。

【公開番号】特開2008−156476(P2008−156476A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346901(P2006−346901)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】