説明

耐油性フィルム及びそれを用いた成形容器

【課題】ポリスチレン系樹脂の特徴である透明性、光沢を維持しながら優れた耐油性を有するポリスチレン系樹脂フィルムを提供する。本フィルムは水/油共存化においても優れた耐油性能を発揮する。また、成形加工後も優れた耐油性を維持可能なフィルムであり、ラミネート食品用容器を提供する。
【解決手段】最低造膜温度(MFT)が、0〜{(Vsp)−10}℃(ただし、Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点を指す)である熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化処理されたスチレン系樹脂からなる耐油性フィルムに関するものであり、特に、食品容器用ラミネートフィルムに好適な耐油性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は加工性に優れ、比較的安価であることから、これまでに様々な用途に使用され、その中でも特に、食品用容器として用いられてきた。ポリスチレン系樹脂が食品用容器としてよく用いられる理由は、前述した特性に加え、美粧性に優れる為である。食品用容器は、スーパー等の売り場において、商品を魅力的に見せ、顧客を惹きつける必要があるため、見た目の良さも重要視される。その際、ポリスチレン系樹脂の特徴である、透明性や光沢が非常に有用となる。透明性が高いことにより、デザイン柄の色調を損なうこと無く印刷することが可能となる。また、光沢により容器に高級感を持たせることができる。これらの特性は、食品用容器として非常に重要なものである。
【0003】
しかし、ポリスチレン系樹脂の欠点として、油に対する耐性がないことが挙げられる。ポリスチレン系樹脂からなる容器は、食品中に含まれる油と接触することにより白化が発生し、時には容器が破損することもある。これは、ポリスチレン系容器の樹脂内に、油分子が侵入することにより発生するものであり、高温になるほど油による侵食は激しくなる。また、油の種類によっても侵食程度は異なり、ポリスチレン系樹脂が特に侵されやすい食用油としては、中鎖脂肪酸(以下、MCT、という)がある。これは、サラダ油等に比べ、MCTは脂肪酸エステル部の炭素鎖が短い、すなわち分子が小さく、ポリスチレン系樹脂内に容易に侵入できる為である。MCTは、ご飯の艶出し剤や離型剤等、食品中に頻繁に用いられている油であり、食品容器として使用する際にはMCTに対する耐性が必要となる。
【0004】
これを解決する方法として、ポリスチレン系樹脂上に、接着剤を介してポリオレフィン系フィルムを積層する方法がある。しかし、この方法ではポリオレフィン系フィルムを用いるため、ポリスチレン系樹脂に比べて光沢、透明感に劣り、食品用容器として重要な美粧性が不十分である。さらに、接着剤を用いるためにコストが高くなり、また接着剤の溶出等の問題がある。
接着剤を使用しない方法として、特許文献1にあるように、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂とを共押出して積層する方法や、特許文献2にあるように、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィン系樹脂からなる樹脂組成物フィルムをポリスチレン系樹脂に熱圧着する方法があるが、これらの方法も同様に、食品用容器として重要な美粧性が不十分である。さらに、これらの方法は、ポリスチレン系樹脂に異素材が大量に混入している為に、原料のリサイクルが困難であるという問題がある。これは、コスト的な問題に加え、省資源化の観点からも非常に大きな問題である。
【0005】
リサイクル性を改善する方法として、特許文献3にあるように、スチレン系樹脂と特定量のエチレン性不飽和カルボン酸との二元共重合体を耐油性層として用い、スチレン系樹脂シートと積層する方法があるが、耐油性層中のポリスチレン系樹脂比率が高く、耐油性能が不十分である。このように、異素材を積層する方法では、美粧性、リサイクル性と耐油性能を両立するのは困難である。
別の方法として、特許文献4にあるように、親水性高分子をコーティングすることにより、スチレン系樹脂シート上に親水性の塗膜を形成する方法がある。しかし、この塗膜は親水性であるが故に耐水性に劣り、水/油共存化においては耐油性能が低下する。
【特許文献1】特開昭59−57748号公報
【特許文献2】特開平6−190988号公報
【特許文献3】特開平5−318580号公報
【特許文献4】特開平9−12752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、スチレン系樹脂フィルムの特徴である透明性や光沢を損なうことなく、MCT等食用油に対する優れた耐性を有する。
本発明はまた、前記の特性を備えたフィルムがラミネートされた成形容器、特に食品用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)スチレン系樹脂フィルム上に、最低造膜温度が、0〜{(Vsp)−10}℃(ただし、Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点を指す)である熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。
(2)スチレン系樹脂フィルムが、親水化処理されていることを特徴とする(1)に記載の耐油性フィルム。
(3)熱可塑性樹脂の溶解度パラメーターが、7〜12(cal/cm31/2であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の耐油性フィルム。
(4)熱可塑性樹脂の重合成分として、水酸基およびカルボキシル基を含まない成分を少なくとも1種含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の耐油性フィルム。
(5)厚みが10〜70μmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の耐油性フィルム。
(6)塗膜の厚みが0.1〜5μmであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の耐油性フィルム。
(7)(1)〜(6)のいずれか1つに記載の耐油性フィルムをラミネートした成形容器。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、スチレン系樹脂の特徴である透明性、光沢を損なうことなく、様々な食用油、特にスチレン系樹脂に対する侵食力が最も強いMCTに対する耐性を有する耐油性フィルムを提供できる。
また、前記の特性を備えた耐油性フィルムがラミネートされた成形容器、特に食品用容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、スチレン系樹脂フィルム上に、最低造膜温度が、0〜{(Vsp)−10}℃(ただし、Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点を指す)である熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜を形成させることにより、透明性、リサイクル性、耐油性に優れた食品容器用ラミネートフィルムに好適な耐油性フィルムを提供するものである。
本発明に用いるスチレン系樹脂としては、スチレン、αアルキルスチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族炭化水素の単独重合体、スチレン−アクリロニトリル、スチレン−メチルメタクリレート、スチレン−無水マレイン酸、スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート三元共重合体等のビニル芳香族炭化水素と共重合可能な単量体との共重合体、ゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系−ブタジエン系共重合体等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種の樹脂が用いられる。
【0010】
スチレン系樹脂フィルムには、上記の樹脂の他に、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、本発明の目的と特性を損なわない範囲で配合してもよい。
本発明は、塗膜される組成物として熱可塑性樹脂エマルジョンを使用する必要がある。容器の成形加工方法として、平板状の基材を加熱、軟化後、成形機で目的の形状に引き伸ばすのが一般的である。食品用容器として使用する為には、成形加工後も耐油性能を維持している必要がある。成形加工後も耐油性能を維持する為には、表面塗膜も同様に引き伸ばされ、基材変形に追随する必要がある。熱可塑性樹脂エマルジョンを塗膜の組成物として用いた場合、成形加工時の加熱工程において、容器基材と共に塗膜も軟化する為、塗膜が基材変形に追随可能となり、成形加工後も耐油性能を維持でき、特に食品用容器としては優れた耐油性能を発揮可能となる。
【0011】
本発明に用いる熱可塑性樹脂エマルジョンとは、溶媒中に高分子層が分散している2相系の液体のことであり、ディスパージョン、ラテックス等も含まれる。エマルジョンの溶媒は特に限定されないが、具体的には、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブチルセロソルブ等のアルコール類、トルエン等有機溶剤及びこれらの混合溶液等が挙げられる。この中でも、環境保全、食品衛生面の観点から水系が好ましい。溶媒組成における水の割合は50〜100重量%が好ましく、より好ましくは90〜100重量%である。
本発明で用いる熱可塑性樹脂は、これら溶媒に溶解せず、エマルジョンを形成している必要がある。エマルジョンであることにより、食品中に含まれる水や、食品容器を消毒する際用いられるアルコール系消毒液等に接触しても、塗膜が溶解することなく、優れた耐油性能を維持することができる。
【0012】
本発明に用いる熱可塑性樹脂エマルジョンの平均粒径は0.01〜0.25μmが好ましく、0.05〜0.2μmがより好ましい。平均粒径は、散乱式粒度分布測定装置により測定する。平均粒径が0.01μm以上の場合、組成物粒子が凝集し塗膜を形成する際に、粒径が大きくなるにつれて粒子間相互作用が増し、その結果粒子凝集を促進し、塗膜を形成しやすくなる。平均粒径が0.25μm以下の場合、組成物粒子が凝集し塗膜を形成する際に、粒子径が小さいほど粒子間にできる空隙が小さくなり、より緻密な塗膜を均一に形成しやすくなる。
【0013】
緻密な塗膜を均一に、欠陥なく形成する為には、乾燥工程における組成物粒子の凝集、融着速度を最適な範囲に保つ必要があるため、本発明に用いる熱可塑性樹脂エマルジョンの最低造膜温度は、0〜{(Vsp)−10}℃(ただし、Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点を指す)であり、好ましくは5〜{(Vsp)−15}℃である。最低造膜温度は最低造膜温度測定機を用い、温度勾配のあるステンレス板上に0.3mmの厚さの試料を塗布、密封乾燥後、皮膜形成が確認された温度とする。緻密な塗膜を形成することにより、より小さな分子の侵入を防ぐことが可能となり、MCT等侵食力が強い油に対する耐油性能を、薄い塗膜においても発現することができ、優れた美粧性、リサイクル性と耐油性能を両立することが可能となる。さらに、油だけでなく水分子の侵入も抑制できるため、耐水性も発揮しやすくなる利点がある。食品の殆どは水と油を両方含有しており、水共存下における耐油性能は、食品容器として使用する際には必須条件となる。
【0014】
乾燥工程において、溶媒蒸発速度に比べて粒子凝集、融着速度が速すぎると、粒子が均一に分散せずに凝集、融着し塗膜を形成する為、塗膜の厚みが均一にならないことに加え、塗膜欠陥を発生しやすくなる。逆に、粒子凝集、融着速度が遅すぎると、粒子融着が不十分となり、塗膜を完全に形成できず、十分な耐油性能を発揮できない。最低造膜温度を0〜{(Vsp)−10}℃に規定することにより、組成物粒子の凝集、融着速度を最適な範囲に調節可能となり、紙等に比べ乾燥条件が限られているポリスチレン系樹脂フィルム上においても、緻密な塗膜を均一に欠陥無く形成できる。
本発明に用いる熱可塑性樹脂の溶解度パラメーター(SP値)は7〜12(cal/cm31/2が好ましく、7.5〜11.5(cal/cm31/2がより好ましい。SP値は、凝集エネルギー密度(CED)の平方根のことであり、下記式で定義される。SP値が7〜12(cal/cm31/2の範囲である場合、ポリスチレン系樹脂フィルムとの接着性を維持しながら塗膜の耐油性、耐水性を発揮しやすくなる。
(溶解度パラメーター)=(CED)=E/V
E…凝集エネルギー(cal/mol)
V…分子容(cm/mol)
【0015】
本発明に用いる熱可塑性樹脂は結晶性、非晶性いずれでもよいが、結晶性熱可塑性樹脂の場合、融点(Tm)は40〜150℃が好ましい。非晶性熱可塑性樹脂の場合、ガラス転移温度(Tg)は0℃〜100℃が好ましい。Tm(非晶性樹脂の場合はTg)が高くなるにつれ塗膜の熱安定性が増し、より高温でも耐油性能を発現することが可能となり、さらにフィルムのブロッキングを防止できる利点を有する。一方、Tm(非晶性樹脂の場合Tg)が低くなるにつれ、塗膜の柔軟性が増し、印刷、ラミネート、成形加工等各工程において外力を受けた際、塗膜のクラックが発生しにくくなり、各工程における耐油性能低下を防止しやすくなる。さらに、塗膜の柔軟性が増すことにより成形加工時の基材変形に対する追随性にも優れ、より深絞り成形においても優れた耐油性能を維持することが可能となる。また、組成物のTm(非晶性樹脂の場合はTg)が低いほど粒子が柔らかいため、塗膜形成過程において熱可塑性樹脂組成物の粒子が凝集、融着する際に、粒子間の空隙を埋めるよう粒子が変形しながら凝集することができ、より緻密な塗膜を形成しやすくなる。したがって、Tm(非晶性樹脂の場合はTg)が前述の範囲内であると、上記の効果がより発揮される。
【0016】
本発明に用いる熱可塑性樹脂の重合成分として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、フッ素樹脂等の単重合体が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及び/またはメタクリル酸のことをいう。また、(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルをまとめて「アクリル系成分」とする。
【0017】
これらの中でも、塗膜の耐水性の観点から、水酸基、カルボキシル基を含まないものが好ましい。以下、水酸基、カルボキシル基を含まない重合成分を「耐水性重合成分」とする。耐水性重合成分を用いると、水/油共存化における耐油性能がより効果的に発揮される。耐水性重合成分は疎水性であるアルキル基からなるものでもよく、エステル基、アミド基等の極性基を有していてもよい。好ましい耐水性重合成分としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、(メタ)アクリル酸エステル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。この中でも特にポリエチレン、ポリプロピレン、(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、ポリスチレンとの接着性、透明性、光沢の観点から、(メタ)アクリル酸エステルがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの中でも、アルコール由来の炭素鎖の炭素数が8以下のものが好ましい。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル等が挙げられる。
【0018】
熱可塑性樹脂の重合成分は、上記樹脂の共重合体であってもよい。例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、2種以上のアクリル系成分の共重合体、エチレンと2種以上のアクリル系成分との共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、αメチルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、αメチルスチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレンと2種以上のアクリル系成分との共重合体、αメチルスチレンと2種以上のアクリル系成分との共重合体、スチレン、αメチルスチレンと1種以上のアクリル系成分との共重合体共重合体等が挙げられる。ただし、スチレンもしくはスチレン誘導体を含む共重合体の場合、耐油性能の観点からスチレン及びスチレン誘導体の合計含有率は0〜80重量%であることが好ましい。より好ましくは0〜70重量%である。
【0019】
また、共重合成分中に耐水性重合成分を少なくとも1種含むことが好ましい。耐水性重合成分を含むことにより、水/油共存化における耐油性能がより効果的に発揮される。耐油性能の観点から、耐水性重合成分はスチレン以外のものが好ましい。好ましい耐水性重合成分は前述した単量体の場合と同様である。耐水性重合成分はエマルジョン中に単重合体として含まれていてもよく、また、共重合体成分として含まれていてもよい。耐水性重合成分は複数含まれていてもよい。耐水性重合成分が熱可塑性樹脂中に占める割合は、5〜100重量%が好ましく、より好ましくは10〜100重量%である。
共重合体として、2種類以上の樹脂を2段重合したコア−シェル構造を有する熱可塑性樹脂も本発明の範囲内に含まれる。また、熱可塑性樹脂成分は1種類である必要はなく、前述単量体や共重合体の混合物でもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂の分子量は1万〜50万が好ましく、3万〜30万がより好ましい。分子量が1万以上の場合、分子量が増すにつれ、塗膜の熱安定性が増し、より高温においても耐油性能を発揮しやすくなる。また、分子量が増し、ポリマー鎖が長くなるほど、ポリマー分子間の引力が増す為、より緻密で油の侵入しにくい塗膜を形成しやすくなる。したがって、薄い塗膜においても優れた耐油性能を発現でき、美粧性、リサイクル性と耐油性能をより両立できる。分子量は50万以下の場合、塗工工程での溶液の取扱いが容易である。
【0021】
本発明のフィルムへの熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜方法は、コーティングによってポリスチレン系樹脂フィルム上に熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜を形成させることが好ましい。コーティングの場合、他素材樹脂を共押出により積層する、もしくは他素材フィルムを接着剤等を用いて積層する場合に比べ、より薄い表面塗膜を形成することができる。そのため、ポリスチレン系樹脂の長所である光沢、透明性を損なうことなく、より耐油性能を向上させることができる。また、本発明で用いる塗膜は極めて薄いため、リサイクルに影響を殆ど与えないという長所も有する。したがって、透明性、リサイクル性と耐油性能の両立の観点から、コーティングが好ましい。さらに、他素材樹脂を溶融、押出しする上記積層方法に比べ、コーティングによる方法は、より少ない熱履歴で塗膜を形成することが可能であるため、押出時に熱劣化、ゲル化しやすい樹脂の塗膜を形成することができる。特に、水酸基やカルボキシル基を有し、熱によりゲル化しやすい樹脂、例えばビニルアルコール、アクリル酸、メタクリル酸の単量体やこれらを含む共重合体を、ゲルなく塗膜を形成できる点で有効である。
【0022】
本発明で用いる熱可塑性樹脂エマルジョンの溶液(以下、コート液という)中に、消泡剤、界面活性剤、乳化剤、防腐剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で加えてもよい。また、高沸点アルコール等の製膜助剤を加えてもよい。製膜助剤としては、ブチルセロソルブ等が挙げられる。
本発明で用いるコート液の濃度は2〜40%が好ましく、4〜30%がより好ましい。濃度が高くなるにつれ、液の濡れ性がより良好になり、コート液を斑無くフィルム表面に塗布することができ、薄く均一な塗膜を形成しやすくなる。さらに、濃度が高くなるにつれ、溶媒量が減るため、乾燥不良を起こしにくくなる利点もある。一方、濃度が低くなるにつれ、乾燥工程において、溶媒の蒸発速度が低下する。蒸発速度の低下により、乾燥工程において組成物粒子を適度に分散させ、均一な塗膜を形成しやすくなる。したがって、コート液の濃度が2〜40%の場合、上記の効果がより一層発揮される。
コート液の20℃における粘度は3〜100mPa・sが好ましい。3〜100mPa・sにすることにより、コート液の流動性をより調節しやすくなり、縦筋等無く均一に安定的に塗布しやすくなる。
【0023】
本発明に用いるコーティング方法としては、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター、静電コーター等公知の方法が採用できる。具体的な塗膜形成方法の形態としては、塗布量の均一性、塗布量制御の観点から、上記コーターでスチレン系樹脂フィルム表面にコーティング液を均一に塗布した後、熱風乾燥機等の乾燥炉で溶媒を除去する方法が好ましいが、限定されるものではない。乾燥時の温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましい。Tg以上の熱を加えることにより、熱可塑性樹脂粒子同士の融着を促進し、より緻密で均一な膜を形成可能となるため、薄膜においても優れた耐油性能を発揮しやすくなる。同時に、耐水性能も向上する為、水/油共存下においても優れた耐油性能を効果的に発揮しやすくなる。さらに、乾燥温度が高いほどスチレン系樹脂フィルムと熱可塑性樹脂エマルジョン塗膜との密着性がより向上する利点もある。また、乾燥温度はスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点以下であることが好ましく、乾燥時の熱によるスチレン系樹脂フィルムの収縮を抑制しやすくなる。
【0024】
本発明における熱可塑性エマルジョンの塗膜の厚みは、0.1〜5μmが好ましく、より好ましくは0.3〜3μmである。この範囲であると、透明性、光沢がより効果的に発揮され、リサイクルに影響を及ぼすこともなく、耐油性能も向上する。コーティング組成物は、スチレン系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に塗布されていればよい。
本発明に用いるスチレン系樹脂フィルムの製造方法は限定されないが、インフレーション法、テンター法等の公知の延伸方法により、二軸延伸されることが好ましい。その際の延伸倍率は、フィルム強度の観点から任意の方向に3〜17倍延伸されていることが好ましい。
【0025】
スチレン系樹脂フィルムの表面は疎水性であるため、本発明に使用するコーティング組成物をフィルム表面に均一に塗布するためには、塗布面となるフィルム表面は親水化されていることが好ましい。親水化処理の方法は限定されず、コロナ、グロー等の放電処理、紫外線、電子線、放射線等の電離活性線処理、火炎処理、オゾン処理、粗面化処理、化学薬品処理、プライマー処理等公知の方法が採用できる。この中でも、処理強度の安定性と設備の安全性の観点からコロナ放電処理が好ましい。親水化処理後の表面張力は、均一塗布の観点から40dyne/cm以上が好ましく、フィルムのブロッキングの観点から70dyne/cm以下が好ましい。
【0026】
スチレン系樹脂フィルムの厚みは、フィルム強度の観点から10μm以上が好ましく、加工適性の観点から70μm以下が好ましい。厚みを70μm以下にすることにより、任意の容器基材にラミネート加工が可能となり、耐油性能、光沢を付与させる上で好ましい。ラミネート工程適性及びフィルム強度の観点から、ポリスチレン系樹脂フィルムの配向緩和応力(ORS)は任意の方向に200〜2000KPaであることが好ましい。
本発明の耐油性フィルムは、任意の成形容器にラミネートして使用することができる。特に、容器の軽量化が進んでおり、容器基材として、発泡体の利用が増加しているため、発泡体に本発明のフィルムを用い、耐油性能を付与させることが好ましい。
【0027】
発泡体は空洞を有する為、強度が不十分な上、食用油に侵食されやすく、シートと比較すると光沢に劣る、という欠点がある。本発明の耐油性フィルムをラミネートすることにより、これらの問題は解決し、ポリスチレン系発泡体をより広い用途で使用することが可能となり、省資源化の観点からも非常に有用である。
また、本発明のフィルムを使用することにより、成形加工後も耐油性能を発現させることが可能となる。本発明のフィルムはポリスチレン系樹脂に対する侵食力が最も強いMCTをはじめ、様々な食用油に対して優れた耐油性能を示すため、特に食品用容器に好適である。さらに、本発明のフィルムはポリスチレン系樹脂の特性である高い透明性、光沢を有することを特徴とするため、様々な容器基材に対し、必要な美粧性を付与させることができる。
【0028】
本発明のフィルムは、ポリスチレン系樹脂シート等の容器基材に直接塗膜を形成させた場合に比べて下記利点がある。本発明フィルムは、容器基材に比べて厚みが薄い為に剛性が低く、成形加工等各工程において表面塗膜にかかる応力を軽減することができる。応力の軽減により、各工程における塗膜クラック発生を抑制でき、優れた耐油性能を維持することができる。また本発明フィルムと容器基材とを熱でラミネートする際、塗膜に熱が加わり、塗膜中粒子の融着がより促進され、耐油性、耐水性が向上するという利点がある。
本発明のフィルムは耐油性に優れる為、従来のポリスチレン系樹脂フィルムに比べて、より幅広い用途で使用可能である。例えば、耐油性が必要とされている用途に使用されているポリプロピレン系樹脂やポリエステル系樹脂等にもラミネート加工し、光沢や高級感を付与することが可能であり、特に油に弱いことで知られているポリスチレン系樹脂の基材に対し、同素材である本発明フィルムを用いて耐油性能を付与することが可能である。これはリサイクルの観点からも非常に有用である。
【実施例】
【0029】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。
[評価方法]
上記方法にて得られた耐油性フィルムに、サラダ油、MCT、水/MCT(重量比1/1)混合物の3種類の油分を用いて耐油性能評価を行う。また、耐油性フィルムを二軸配向ポリスチレンシート(サンディック(株)製、厚み0.2mm)にラミネートし、四角形容器(10cm×10cm、深さ2cm)に成形したものについても同様の評価を行う。
耐油性フィルム上に、サラダ油(日清オイリオグループ(株)製)を塗布後、熱風乾燥機にて90℃で30分間加熱し、フィルムの白化の有無を目視にて観察し、評価を行う。
評価基準は、全く白化がないものを○、一部でも白化しているものを×とする。また、90℃で60分間加熱しても全く白化がないものを◎とする。
MCT(花王(株)製 ココナードMT)単独、MCT/水混合物を用いた評価の場合も同様に塗布した後、熱風乾燥機にて70℃で5分間加熱し、同様に観察、評価を行う。評価基準は、全く白化がないものを○、一部でも白化しているものを×とする。また、70℃で10分間加熱しても全く白化がないものは◎とする。
【0030】
[使用した樹脂]
実施例及び比較例において、用いた塗膜の組成物は下記のとおりである。
各エマルジョンの最低造膜温度は、日本理学工業製の最低造膜温度測定機を用い、温度勾配のあるステンレス板上に0.3mmの厚さ試料を塗布、密封乾燥後、皮膜形成が確認される温度を測定する。
平均粒径はHIRABA製の散乱式粒度分布測定装置LA−910により測定を行う。
SP値は、Smallの計算方法により算出する。計算に必要なデーターがない場合、最も膨潤させる溶媒のSP値を該当高分子のSP値とする。
1:ポリエチレンエマルジョン
中央理化工業(株)製 アクアテックス EC−3500
2:アクリル酸エステルエマルジョン
ニチゴーモビニール(株)製 モビニール(登録商標)742N
3:ポリエステルエマルジョン
東洋紡(株)製 バイロナール(登録商標)MD1200
4:塩化ビニリデンラテックス
旭化成ケミカル(株)製 サランラテックス(登録商標) L551B
5:アイオノマーディスパージョン
三井化学(株)製 ケミパール(登録商標)S650
6:エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン
中央理化工業(株)製 アクアテックス MC−4400
7:エチレン−メタクリル酸共重合体エマルジョン
中央理化工業(株)製 アクアテックス AC−3100
8:スチレン−アクリル酸エステル共重合体エマルジョン
ジョンソンポリマー(株)製 ジョンクリル(登録商標)538
9:スチレン−アクリル酸エマルジョン
昭和高分子(株)製 ポリゾールAP−3770
10:アクリル酸エステル−ウレタン コア−シェル構造粒子エマルジョン
ダイセル化学工業(株)製 アクアブリッド(登録商標)AU−304
11:スチレン−アクリル酸共重合体エマルジョン
ジョンソンポリマー(株)製 ジョンクリル(登録商標)7100
12:ポリ乳酸エマルジョン
ミヨシ油脂(株)製 ランディ PL−1000
13: カルボキシメチルセルロース
ダイセル化学工業(株)製 CMCダイセル(登録商標)1110
14:メチルセルロース
信越化学工業(株)製 メトローズ(登録商標)SM1500
15:ポリビニルアルコール
日本合成化学工業(株)製 ゴーセノール(登録商標)GL−05
16:ポリアクリル酸
日本純薬(株)製 ジュリマー(登録商標)AC−10P
【0031】
[製造例]
本発明で用いるスチレン系樹脂フィルムの製造例を示す。
汎用ポリスチレン樹脂(GPPS)97重量%と、耐衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)3重量%とを配合した物を単軸スクリュー押出機を用い、樹脂を円環状のスリットのダイより押出し、インフレーション法にて120℃で流れ(MD)方向に5倍、巾(TD)方向に6倍延伸し、厚さ25μmのフィルムを得た。得られたフィルムのビカット軟化点は106℃であった。したがって、熱可塑性樹脂エマルジョンの最低造膜温度は0℃〜96℃である必要がある。
上記フィルムの片面にコロナ処理を施して親水化処理を行った(表面張力50dyne/cm)。コーティング組成物の3〜50重量%溶液をメイヤーバーにて塗布を行い、90℃にて乾燥した。
【0032】
[実施例1〜12]
熱可塑性樹脂エマルジョンをコート剤として用いた結果を表1に示す。実施例1〜9に示すように、熱可塑性樹脂の単量体および共重合体のエマルジョンを用いた場合、成形加工後も耐油性能が低下することなく、サラダ油、MCT、水/MCT混合溶液いずれに対しても良好な耐油性能を示した。
実施例10に示すように、シェル−コア構造をとるコーティング組成物を用いた場合も同様の効果が得られた。
実施例11〜12に示すように、塗膜を薄くした場合においても同様の耐油性能が発現した。
【0033】
[比較例1〜7]
比較例を表2に示す。比較例1に示すとおり、何も塗布しない場合、耐油性能は全く示さなかった。
比較例2〜3に示すように、最低造膜温度が規定範囲(0〜96℃)外のものは、耐油性能を示さなかった。
比較例4〜5に示すように、熱可塑性を有さない高分子を用いた場合、成形加工により耐油性能が低下した。さらに、高分子が水溶性を示す為、水/MCT共存下においては十分な耐油性能が発現しなかった。
比較例6〜7に示すように、熱可塑性樹脂の水溶液を用いた場合、成形加工後も耐油性能は維持できるものの、水分の存在により耐油性能が低下する結果となった。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、透明性、光沢、耐油性に優れることから、ラミネートフィルムとして使用でき、特に食品容器用ラミネートフィルムに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂フィルム上に、最低造膜温度が、0〜{(Vsp)−10}℃(ただし、Vspはポリスチレン系樹脂フィルムのビカット軟化点を指す)である熱可塑性樹脂エマルジョンの塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。
【請求項2】
スチレン系樹脂フィルムが、親水化処理されていることを特徴とする請求項1に記載の耐油性フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂の溶解度パラメーターが、7〜12(cal/cm31/2であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐油性フィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂の重合成分として、水酸基およびカルボキシル基を含まない成分を少なくとも1種含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐油性フィルム。
【請求項5】
厚みが10〜70μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐油性フィルム。
【請求項6】
塗膜の厚みが0.1〜5μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の耐油性フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の耐油性フィルムをラミネートした成形容器。

【公開番号】特開2007−277428(P2007−277428A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−106609(P2006−106609)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】