説明

耐火被覆された鉄骨構造

【課題】火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造の柱において、該鉄骨構造の温度上昇を均一にすることにより、耐火性能に優れた鉄骨構造の柱を得る。
【解決手段】鉄骨構造の柱1は、床としての鉄筋コンクリート2に直立して設けられており、その上端で上階の床としてのデッキプレート3を支持している。前記柱1は形鋼柱としての縦長300mm×横長300mm×鋼材厚9mm×高さ5000mmの角形鋼管4と、その外表面を被覆する耐火被覆材としての耐火塗料5とを有しており、該耐火塗料5の被覆厚は角形鋼管4の上方から下方にかけて滑らかに減少している。耐火塗料5の被覆厚は角形鋼管4の上方部が平均3.1mm、下方部が平均2.3mmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材としては、ロックウール、軽量セメントモルタル等の吹付け、セラミックファイバーブランケット等の巻き付け、ALC板、ケイ酸カルシウム板等の板部材による囲い込み、燐酸アンモニウムと多価アルコールとの縮合反応によって断熱層を形成する耐火塗料の塗装等が行われてきた(例えば特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照。)。
しかし、これらの耐火被覆材はいずれも火災時における室内の温度分布を十分に考慮したものではなかったため、鉄骨構造の温度上昇が不均一になり、構造体の平均温度が鉄の理想的な座屈温度に達していないにもかかわらず、部分的に温度が上昇して局所的な座屈を生じてしまうおそれがあった。
【0003】
【特許文献1】特公平2−28555号公報(第2〜3頁)
【特許文献2】特開平9−71752号公報(第2〜3頁)
【非特許文献1】国土交通省住宅局建築指導課・新耐火防火便覧編集委員会編,「耐火防火構造・材料等便覧」,新日本法規出版株式会社,昭和45年2月,第3−A巻,p.300−385〜440−641
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、火災時の燃焼熱によって、該燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造において、所定の耐火性能を得るための前記耐火被覆材の被覆厚が火災時における室内の温度分布を十分に考慮したものでないために、鉄骨構造の温度上昇が不均一になり、構造体の平均温度が鉄の理想的な座屈温度に達していないにもかかわらず、部分的に温度が上昇して座屈を生じてしまう点である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、耐火被覆材により被覆された、高さが2〜8mである鉄骨構造の柱において、該柱の下部における耐火被覆材の被覆厚に対して、上部における耐火被覆材の被覆厚が段階的または連続的に厚くなっていることを最も主要な特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、鉄骨構造の柱の下部における耐火被覆材の被覆厚に対して、上部における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを最も主要な特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記鉄骨構造の鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対して、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを最も主要な特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、耐火被覆材により被覆された鉄骨構造において、該鉄骨構造の鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対して、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1または請求項2に記載の発明によれば、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造の柱において、該鉄骨構造の温度上昇を均一にすることにより、耐火性能に優れた鉄骨構造を得ることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造の柱または梁において、該鉄骨構造の温度上昇をさらに均一にすることにより、より耐火性能に優れた鉄骨構造を得ることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明によれば、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造において、該鉄骨構造の温度上昇を均一にすることにより、耐火性能に優れた鉄骨構造を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を具体化した実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。各図は説明のため、一部を拡大して表示してある。
【0013】
なお、本発明において、鉄骨構造とは、鉄鋼に限らず、アルミニウム鋼、ステンレス鋼等の金属鋼による構造体を指す包括的な概念である。
【0014】
また、本発明において、柱の上方部における被覆厚とは、柱高の90%にあたる高さから柱の最上端にいたる領域の平均被覆厚のことを指し、柱の下方部における被覆厚とは、柱の最下端から柱高の10%にあたる高さにいたる領域の平均被覆厚のことを指す。
【0015】
前記柱の上方部もしくは下方部における被覆厚を計算するための測定点は角形鋼管柱の場合には16箇所とする。該角形鋼管柱の上方部においては、柱高の90%にあたる高さから柱の最上端までの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。また、角形鋼管柱の下方部においては、柱の最下端から柱高の10%にあたるまでの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。
【0016】
前記柱がH形鋼である場合には、柱の上方部もしくは下方部における被覆厚を計算するための測定点は32箇所とする。H形鋼柱の上方部においては、柱高の90%にあたる高さから柱の最上端までの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、ウェブまたはフランジの各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。また、H形鋼柱の下方部においては、柱の最下端から柱高の10%にあたるまでの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、ウェブまたはフランジの各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。
【0017】
前記柱が丸形鋼管の場合には、柱の上方部もしくは下方部における被覆厚を計算するための測定点は16箇所とする。丸形鋼管柱の上方部においては、柱高の90%にあたる高さから柱の最上端までの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の外周を垂直に4等分する線との交点を各測定点とする。また、丸形鋼管柱の下方部においては、柱の最下端から柱高の10%にあたるまでの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の外周を垂直に4等分する線との交点を各測定点とする。
【0018】
前記柱が角形鋼管、H形鋼、丸形鋼管のいずれでもない場合には、柱の上方部もしくは下方部における被覆厚を計算するための測定点は、柱の上方部においては、柱高の90%にあたる高さから柱の最上端までの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。また、柱の下方部においては、柱の最下端から柱高の10%にあたるまでの高さを5等分する線のうち上下端の両線を除いた各線と、柱の各面の垂直二等分線との交点を各測定点とする。従って、測定点数は柱の形状により異なる。
【0019】
本発明において、鋼材厚の薄い面もしくは厚い面における耐火被覆材の被覆厚とは、該鋼材厚の薄い面もしくは厚い面の平均膜厚をいう。
【0020】
前記鋼材厚の薄い面もしくは厚い面における耐火被覆材の被覆厚を計算するための測定点は各々16箇所とし、鋼材厚の薄い面もしくは厚い面の垂直二等分線と水平二等分線との交点を原点として水平方向及び垂直方向へ5cm間隔で格子状に引いた線の各交点(4×4格子点)を測定点とする。
【0021】
(第1実施形態)
図1に示すように、第1実施形態の鉄骨構造の柱1は、床としての鉄筋コンクリート2に直立して設けられており、その上端で上階の床としてのデッキプレート3を支持している。前記柱1は形鋼柱としての断面縦長300mm×断面横長300mm×鋼材厚9mm×高さ6500mmの角形鋼管4と、その外表面を被覆する耐火被覆材としての耐火塗料5とを有しており、該耐火塗料5の被覆厚は角形鋼管4の上方から下方にかけて連続的に減少している。耐火塗料5の被覆厚は角形鋼管4の上方部が平均3.1mm、下方部が平均2.3mmである。
【0022】
前記柱1は形鋼柱に限らず、板柱、帯板柱、ラチス柱、トラス柱等の組立柱でも良い。
【0023】
前記耐火被覆材の被覆厚の最適値は柱1の高さによって異なる。柱1の高さが十分に高い場合には、火災時の燃焼熱が柱1全体を過熱するまでに要する時間が十分に長いため、建築基準法における所定の耐火時間を得るために要する耐火被覆材の被覆厚を薄くすることができる。逆に柱1の高さが低い場合には、すぐに柱1全体の温度が上昇してしまうため、耐火被覆材の被覆厚を厚くする必要がある。
【0024】
前記柱が火災にさらされた場合には、火災時の燃焼熱によって生じた上昇気流によって柱の上方部の温度が高くなり、下方部の温度は低くなる。
【0025】
前記柱1の高さが2〜8mである場合には、耐火被覆材の被覆厚の最大値は最小値に対して好ましくは120〜500%、より好ましくは130〜300%、最も好ましくは150〜200%である。この範囲にあるとき、鉄骨構造の温度上昇を均一にすることができる。被覆厚の最大値が最小値に対して120%未満の場合には、耐火被覆材の被覆を厚くすることによる温度上昇の抑制効果が十分ではない。逆に500%を超える場合には、湿式耐火被覆材を施工する際に被覆の厚い面において塗り重ねが必要となるため、一度で施工できないおそれがある。
【0026】
耐火被覆材の被覆厚の最大値が最小値に対して150%〜200%である場合には、柱1の上部と下部とにおける外寸の差が視覚では認識されにくいため、視覚上の傾きがない真っ直ぐな柱1を得ることができ、美観に優れる。
【0027】
前記形鋼柱は角形鋼管4に限らず、I形鋼、H形鋼、丸形鋼管等でも良い。また、形鋼材をそのまま加工した単一形鋼柱に限らず、複数の形鋼材を組み合わせた複合形鋼柱でも良い。
【0028】
前記耐火被覆材は耐火塗料5に限らず、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材であれば任意に設定することができる。例えば、セメントモルタル、耐火モルタル、コンクリート、石膏、プラスター、ロックウール、ラスモルタル、軽量セメントモルタル等の湿式材料、セラミックファイバーブランケット、石綿成形板、ALC板、ケイ酸カルシウム板、石膏ボード、木材、レンガ等の乾式材料等が挙げられる。
【0029】
前記床は鉄筋コンクリート2やデッキプレート3に限らず、床として使用される通常の建築部材を用いることができる。例えば、ALC、プレキャスト鉄筋コンクリート等が挙げられる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0030】
以上のように構成された鉄骨構造が火災にさらされると、火災時の燃焼熱は耐火被覆材の表面から伝導し、徐々に角形鋼管4の温度を上昇させる。火災時の燃焼熱により温められた空気は上昇気流によって対流するため、鉄骨構造の上部の雰囲気温度は下部の雰囲気温度に比べて高くなる。本実施形態の場合には火災が1時間継続した際の柱1の上方から50cmの高さにおける雰囲気温度が953℃であるのに対して、柱の下方から50cmの高さにおける雰囲気温度は240℃である。
【0031】
前記耐火被覆材の被覆厚は角形鋼管4の上方部(すなわち、柱高の90%にあたる高さから、柱1の最上端までの高さの範囲)ほど厚く、下方部(すなわち、柱1の最下端から柱高の10%にあたるまでの高さの範囲)ほど薄いため、雰囲気温度が高いところは厚い被覆厚、雰囲気温度が低いところは薄い被覆厚となって、火災時の温度分布に適した被覆となり、前記高さにおける柱1の裏面温度はそれぞれ348℃、356℃となる。このようにして、角形鋼管4の温度上昇を均一にすることができ、局所的な温度上昇による角形鋼管4の座屈を抑制することができる。角形鋼管4全体を均一の被覆厚で被覆した場合には、角形鋼管4の下部の温度に比べて上部の温度が高く、角形鋼管4全体の平均温度が鉄の座屈温度に到達していない場合でも、局所的な温度上昇を生じた箇所で座屈してしまう。また、耐火被覆材の被覆厚が角形鋼管4の上部ほど薄く、下部ほど厚い場合には、より局所的な温度上昇を生じやすく、角形鋼管4全体の温度上昇が不均一となる。
【0032】
(第2実施形態)
第2実施形態の鉄骨構造の柱1は、床としての鉄筋コンクリート2に直立して設けられており、その上端で上階の床としてのデッキプレート3を支持している。図2に示すように、前記柱1は形鋼柱としての断面縦長300mm×断面横長300mm×ウェブ面6bの鋼材厚10mm×フランジ面6aの鋼材厚15mm×高さ3000mmのH形鋼6と、その外表面を被覆する耐火被覆材としての軽量セメントモルタルとを有しており、該軽量セメントモルタルの被覆厚はH形鋼のフランジ面6aよりもウェブ面6bの方が厚い。前記鋼材厚の厚い面としてのフランジ面6aにおける耐火被覆材の被覆厚は10mmであり、鋼材厚が薄い面としてのウェブ面6bにおける耐火被覆材の被覆厚は15mmであり、前記耐火被覆材の被覆厚は鉄骨構造の鋼材厚に反比例している。
【0033】
前記柱1の鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対し、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚は好ましくは120〜500%、より好ましくは130〜300%、最も好ましくは150〜200%である。この範囲にあるとき、鉄骨構造の温度上昇を均一にすることができるとともに、鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚を相対的に薄くすることができる。鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対して、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚が120%未満の場合には、耐火被覆材の被覆を厚くすることによる温度上昇の抑制効果が十分ではない。逆に500%を超える場合には、湿式耐火被覆材を施工する際に被覆の厚い面において塗り重ねが必要となるため、一度で施工できないおそれがある。
【0034】
前記柱1は形鋼柱に限らず、板柱、帯板柱、ラチス柱、トラス柱等の組立柱でも良い。
【0035】
前記形鋼柱はH形鋼に限らず、I形鋼等の部分によって鋼材厚が異なる鉄骨構造を任意に設定することができる。また、形鋼材をそのまま加工した単一形鋼柱に限らず、複数の形鋼材を組み合わせた複合形鋼柱でも良い。
【0036】
前記耐火被覆材は軽量セメントモルタルに限らず、火災時の燃焼熱から鉄骨構造を保護する耐火被覆材であれば任意に設定することができる。例えば、セメントモルタル、耐火モルタル、コンクリート、石膏、プラスター、ロックウール、ラスモルタル、耐火塗料等の湿式材料、セラミックファイバーブランケット、石綿成形板、ALC板、ケイ酸カルシウム板、石膏ボード、木材、レンガ等の乾式材料等が挙げられる。
【0037】
前記床は鉄筋コンクリート2やデッキプレート3に限らず、床として使用される通常の建築部材を用いることができる。例えば、ALC、プレキャスト鉄筋コンクリート等が挙げられる。また、これらを組み合わせて用いても良い。
【0038】
以上のように構成された鉄骨構造が火災にさらされると、火災時の燃焼熱は耐火被覆材の表面から伝導し、徐々にH形鋼の温度を上昇させる。鋼材厚が薄い面は熱伝導によりすぐに全体が温まってしまうのに対して、鋼材厚が厚い面は温まる速度が遅い。
【0039】
前記H形鋼のフランジ面6aにおける軽量セメントモルタルの被覆厚よりもウェブ面6bにおける被覆厚の方が厚いことにより、鋼材厚が厚い面と薄い面との温度上昇の差を小さくすることができるため、火災時における柱1全体の温度上昇を均一にすることができる。本実施形態における火災が1時間継続した場合のフランジ面6aにおけるH形鋼の裏面温度は384℃であるのに対して、ウェブ面6bにおけるH形鋼の裏面温度は360℃である。逆に、耐火被覆材の被覆厚が均一な場合には、鋼材厚の厚い面の温度に比べて鋼材厚の薄い面の温度が高く、柱1全体の平均温度が鉄の座屈温度に到達していない場合でも、局所的な温度上昇を生じた箇所で座屈してしまう。また、耐火被覆材の被覆厚が鉄骨構造の鋼材厚に正比例する場合には、より局所的な温度上昇を生じやすく、柱1全体の温度上昇が不均一となり、鉄骨構造の座屈を早めることとなる。
【0040】
本実施形態は以下に示す効果を発揮することができる。
・前記耐火被覆材の被覆厚が鉄骨構造の上部ほど厚く、下部ほど薄いことにより、雰囲気温度が高いところは厚い被覆厚、雰囲気温度が低いところは薄い被覆厚となって、火災時の温度分布に適した被覆となる。従って、柱1の温度上昇を均一にすることができ、局所的な温度上昇による鉄骨構造の座屈を抑制することができる。
【0041】
・前記耐火被覆材の被覆厚の最大値が最小値に対して120〜500%であることにより、火災時における鉄骨構造の温度上昇を均一にすることができる。
【0042】
・前記柱1に使用する鋼材がH形鋼等のように部位によって鋼材厚が異なる場合には、鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚よりも、鋼材厚が薄い面における耐火被覆材の被覆厚を厚くすること、すなわち、前記耐火被覆材の被覆厚が鉄骨構造の鋼材厚に反比例することにより、鋼材厚が厚い面と薄い面との温度上昇の差を小さくすることができるため、火災時における柱1全体の温度上昇を均一にすることができるとともに、鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚を相対的に薄くすることができる。
【0043】
なお、本発明の前記実施形態を次のように変更して構成することもできる。
・前記鉄骨構造の柱1に使用する鋼材がH形鋼の場合には、図3に示すように、フランジ面6aの一端に鉄筋等の補強部材7を溶接等により接合し、さらにラス網等の支持部材8を溶接等により接合した状態で耐火被覆材を被覆しても良い。
【0044】
このように構成した場合、フランジ面6aとウェブ面6bに囲まれた空間を中空とすることができるため、鉄骨構造の受熱面積を減少させることができ、温度上昇を抑制することができる。また、ラス網部においては耐火被覆材を伝わった熱は直接H形鋼に伝導しないため、当該部分における耐火被覆材の被覆厚を他の部分に比べて薄くすることができる。
【0045】
・前記柱1に使用する鋼材がH形鋼またはI形鋼である場合には、柱1の入隅部6cにおける耐火被覆材の被覆厚は、図4に示すように他の箇所に比べて厚くしても良い。
【0046】
このように構成した場合、柱1の受熱面積を減らすことができるため、鉄骨構造の温度上昇を抑制することができる。
【0047】
・前記柱に使用する鋼材がH形鋼またはI形鋼である場合には、柱1の出隅部6dにおける耐火被覆材の被覆厚は、図4に示すように他の箇所に比べて薄くすることが好ましい。
【0048】
このように構成した場合、柱1の受熱面積を減らすことができるため、鉄骨構造の温度上昇を抑制することができる。
【0049】
・前記鉄骨構造の柱1に使用する鋼材の断面は、入隅部6c及び出隅部6dを図5(a)に示すように直角に被覆しても良いし、図5(b)または図5(c)に示すように曲率を設けても良い。
【0050】
・前記第1実施形態においては、図1に示すように、耐火被覆材の被覆厚は柱1の上方から下方にかけて滑らかに減少しているが、図6(b)に示すように段階的に被覆厚を変化させても良い。
【0051】
このように構成した場合、管理すべき所定の被覆厚の数値が2種類に限定されるため、施工時の被覆厚管理が容易となる。
【0052】
・前記実施形態においては、図1に示すように、柱1の四外周面全てが耐火被覆剤によって被覆されているが、柱1の高さが十分に高い場合には、図6(a)に示すように該柱1の下部を被覆しなくとも良い。
【0053】
このように構成した場合、耐火被覆材の被覆量を抑制することができる。
【0054】
・前記第2実施形態においては鉄骨構造の柱としたが、部分によって鋼材厚が異なる場合であれば、鉄骨構造の梁としても良い。
【0055】
・前記第2実施形態においては鉄骨構造の横断面において部分による鋼材厚が異なるが、縦断面において部分による鋼材厚が異なっても良い。
【0056】
・前記第1実施形態においては柱1の高さを6.5mとしたが、それ以上でも良い。例えば、高さ10mを超える柱1にも適用することができる。
【0057】
次に、前記実施形態から把握される請求項に記載した発明以外の技術的思想について、それらの効果と共に記載する。
【0058】
・耐火被覆材により被覆された鉄骨構造体において、前記耐火被覆材の被覆厚が鉄骨構造の鋼材厚に反比例することを特徴とする請求項1に記載の鉄骨構造。
【0059】
このように構成した場合、火災時の燃焼熱から鉄骨構造体を保護する耐火被覆材によって被覆された鉄骨構造の柱または梁において、該鉄骨構造の温度上昇をより均一にすることによって、さらに耐火性能に優れた鉄骨構造を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例についての比較試験により、従来の技術に比べた本発明の顕著な効果を説明する。
【0061】
試験はまず、形鋼柱としての断面縦長300mm×断面横長300mm×ウェブ面の鋼材厚10mm×フランジ面の鋼材厚15mm×高さ3000mmのH形鋼にJIS−C−1602−1995に規定されているK熱電対を取り付けた後、該H形鋼の外表面に耐火被覆材としての軽量セメントモルタルを被覆した。該軽量セメントモルタルの組成は以下の通りである。
【0062】
試験に使用した軽量セメントモルタルの組成:普通ポルトランドセメント100重量部、水酸化アルミニウム100重量部、パーライト100重量部、バーミキュライト50重量部、ガラス繊維5重量部、増粘剤1重量部。
【0063】
前記軽量セメントモルタル100重量部に混練水60重量部を加え、モルタルミキサーにて混練した後、モルタルポンプにて圧送し、H形鋼の表面に吹付け施工を行った。表面の凹凸は定規で均した後、コテで押さえて平滑にした。この際の被覆厚さの管理はノギスを用いて行った。
【0064】
続いて該H形鋼を室温で1ヶ月間放置した後、耐火煉瓦及びセラミックファイバーブランケットによって断熱された有底四角箱状の耐火炉に設置して蓋を閉め、外部に熱が漏れないようにした。その後、可燃物としての新聞紙50kgに灯油を染み込ませたものを試験体から10cm離して設置し、着火してK熱電対によって自然に消火するまでの鉄骨の裏面温度を測定した。
【0065】
(実施例1)
実施例1の耐火被覆された鉄骨構造の柱1における軽量セメントモルタルの被覆厚さは、H形鋼の上方から下方にかけて滑らかに減少しており、H形鋼柱の上方部の被覆厚は平均16.0mm、下方部の被覆厚は平均12.3mmであり、柱1全体の平均被覆厚は14.4mmであった。また、H形鋼柱のフランジ面6aとウェブ面6bとで被覆厚はほぼ同じであった。
【0066】
試験の結果、鉄骨の平均裏面温度の最高値は352℃、そのときの最高温度は381℃、最低温度は329℃であった。従って、裏面温度の平均値が最高を示したときの最高温度と最低温度との差は52℃であった。
【0067】
(実施例2)
実施例2の耐火被覆された鉄骨構造の柱における軽量セメントモルタルの被覆厚さは、H形鋼の上方から下方にかけて滑らかに減少しており、H形鋼柱の上方部の被覆厚は平均15.7mm、下方部の被覆厚は平均12.8mmであり、柱全体の平均被覆厚は14.0mmであった。また、H形鋼柱の上方部のフランジ面6aにおける耐火被覆材の平均被覆厚は17.2mmであり、H形鋼柱の上方部のウェブ面6bにおける耐火被覆材の平均被覆厚は13.3mmであった。さらに、H形鋼柱の下方部のフランジ面6aにおける耐火被覆材の平均被覆厚は13.9mmであり、H形鋼柱の下方部のウェブ面6bにおける耐火被覆材の平均被覆厚は11.0mmであった。
【0068】
試験の結果、鉄骨の平均裏面温度の最高値は341℃、そのときの最高温度は353℃、最低温度は330℃であった。従って、裏面温度の平均値が最高を示したときの最高温度と最低温度との差は23℃であった。
【0069】
(比較例1)
比較例1の耐火被覆された鉄骨構造の柱1における軽量セメントモルタルの被覆厚さは、H形鋼の上方から下方にかけてほぼ均一であり、H形鋼柱の上方部の被覆厚は平均15.1mm、下方部の被覆厚は平均14.3mmであり、柱全体の平均被覆厚は14.6mmであった。また、H形鋼柱のフランジ面6aとウェブ面6bとで被覆厚はほぼ同じであった。
【0070】
試験の結果、鉄骨の平均裏面温度の最高値は384℃、そのときの最高温度は423℃、最低温度は314℃であった。従って、裏面温度の平均値が最高を示したときの最高温度と最低温度との差は109℃であった。
【0071】
次に、鉄骨構造の梁においても試験を行った。試験はまず、形鋼梁としての断面縦長400mm×断面横長200mm×ウェブ面の鋼材厚8mm×フランジ面の鋼材厚13mm×長さ5500mmのH形鋼にJIS−C−1602−1995に規定されているK熱電対を取り付けた後、該H形鋼の外表面に耐火被覆材としての耐火塗料を被覆した。該耐火塗料の組成は以下の通りである。
【0072】
試験に使用した耐火塗料の組成:合成樹脂100重量部、ポリ燐酸アンモニウム100重量部、ペンタエリスリトール100重量部、メラミン50重量部、界面活性剤5重量部、増粘剤1重量部。
【0073】
続いて、前記耐火塗料をローラーによりH形鋼梁の表面に塗布した。耐火塗料の被覆厚さは乾燥後に電磁膜厚計を用いて測定し、所定の被覆厚さに達していないところは重ね塗りを行って、被覆厚さを調整した。
【0074】
該H形鋼梁を室温で1ヶ月間放置した後、耐火煉瓦及びセラミックファイバーブランケットによって断熱された有底四角箱状の耐火炉に設置した。その後、可燃物としての新聞紙100kgに灯油を染み込ませたものを試験体の直下1mの地点に設置し、着火してK熱電対によって自然に消火するまでの鉄骨の裏面温度を測定した。
【0075】
(実施例3)
実施例3の耐火被覆された鉄骨構造の梁における耐火塗料の被覆厚さは、フランジ面6aにおける平均被覆厚が2.8mm、ウェブ面6bにおける平均被覆厚が5.5mmであり、H形鋼全体の平均被覆厚は4.2mmであった。
【0076】
試験の結果、鉄骨の平均裏面温度の最高値は420℃、そのときの最高温度は455℃、最低温度は394℃であった。従って、裏面温度の平均値が最高を示したときの最高温度と最低温度との差は61℃であった。
【0077】
(比較例2)
比較例2の耐火被覆された鉄骨構造の梁における耐火塗料の被覆厚さは、フランジ面6aにおける平均被覆厚が4.8mm、ウェブ面6bにおける平均被覆厚が4.5mmであり、H形鋼全体の平均被覆厚は4.6mmであった。
【0078】
試験の結果、鉄骨の平均裏面温度の最高値は408℃、そのときの最高温度は464℃、最低温度は354℃であった。従って、裏面温度の平均値が最高を示したときの最高温度と最低温度との差は110℃であった。
【0079】
また、第3の試験として、まず、形鋼梁としての断面縦長400mm×断面横長200mm×ウェブ面の鋼材厚8mm×フランジ面の鋼材厚13mm×長さ5000mmのH形鋼にJIS−C−1602−1995に規定されているK熱電対を取り付けた後、該H形鋼の外表面に耐火被覆材としての軽量セメントモルタルを被覆した。該軽量セメントモルタルの組成は以下の通りである。
【0080】
試験に使用した軽量セメントモルタルの組成:普通ポルトランドセメント100重量部、水酸化アルミニウム300重量部、パーライト30重量部、バーミキュライト30重量部、ガラス繊維2重量部、増粘剤1重量部、粉末樹脂5重量部。
【0081】
前記軽量セメントモルタル100重量部に混練水60重量部を加え、モルタルミキサーにて混練した後、モルタルポンプにて圧送し、H形鋼の表面に吹付け施工を行った。表面の凹凸は定規で均した後、コテで押さえて平滑にした。この際の被覆厚さの管理はノギスを用いて行った。
【0082】
該H形鋼梁を室温で1ヶ月間放置した後、耐火煉瓦及びセラミックファイバーブランケットによって断熱された有底四角箱状の耐火炉に設置した。その後、ISO834に規定されている標準加熱曲線に従って試験体を1時間加熱し、K熱電対によって鉄骨の裏面温度を測定した。
【0083】
(実施例4)
実施例4の耐火被覆された鉄骨構造の梁における耐火塗料の被覆厚さは、上フランジ面6aaにおける平均被覆厚が10.8mm、下フランジ面6aにおける平均被覆厚が12.8mm、ウェブ面6bにおける平均被覆厚が17.5mmであり、H形鋼全体の平均被覆厚は15.2mmであった。
【0084】
試験の結果を表1に示す。表1に示すように、加熱1時間後の鉄骨の平均裏面温度は538℃、そのときの最高温度は568℃、最低温度は496℃であった。従って、加熱1時間終了時の最高温度と最低温度との差は72℃であった。
【0085】
【表1】

【0086】
(比較例3)
比較例3の耐火被覆された鉄骨構造の梁における耐火塗料の被覆厚さは、フランジ面6aにおける平均被覆厚が15.8mm、ウェブ面6bにおける平均被覆厚が15.7mmであり、H形鋼全体の平均被覆厚は15.7mmであった。
【0087】
試験の結果を表2に示す。表2に示すように、加熱1時間後の鉄骨の平均裏面温度は569℃、そのときの最高温度は666℃、最低温度は393℃であった。従って、加熱1時間終了時の最高温度と最低温度との差は273℃であった。
【0088】
【表2】

【0089】
なお、本明細書に記載されている技術的思想は以下に示す発明者により創作された。
段落番号[0001]〜[0089]に記載されている技術的思想は加藤圭一により創作された。また、願書に添付した特許請求の範囲、明細書、図面の著作者は加藤圭一である。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施形態の柱を示した縦断面図である。
【図2】本発明の実施形態の別例の柱を示した横断面図である。
【図3】本発明の実施形態の別例の柱を示した横断面図である。
【図4】本発明の実施形態の別例の柱を示した横断面図である。
【図5】(a)〜(c)は、本発明の実施形態の別例の柱を示した横断面図である。
【図6】(a)〜(b)は、本発明の実施形態の別例の柱を示した縦断面図である。
【図7】本発明の実施例の梁を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0091】
1 鉄骨構造の柱
2 床としての鉄筋コンクリート
3 床としてのデッキプレート
4 形鋼柱としての角形鋼管
5 耐火被覆材としての耐火塗料
6a 鋼材厚の厚い面としてのフランジ面
6b 鋼材厚が薄い面としてのウェブ面
6c 鋼材の入隅部
6d 鋼材の出隅部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火被覆材が被覆される、高さが2〜mである鉄骨構造の柱において、該柱の下部における耐火被覆材の被覆厚に対して、上部における耐火被覆材の被覆厚が段階的または連続的に厚いものであることを特徴とする鉄骨構造の柱。
【請求項2】
前記鉄骨構造の柱の下部における耐火被覆材の被覆厚に対して、上部における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨構造の柱。
【請求項3】
前記鉄骨構造の鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対して、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の鉄骨構造の柱。
【請求項4】
耐火被覆材により被覆された鉄骨構造において、該鉄骨構造の鋼材厚の厚い面における耐火被覆材の被覆厚に対して、鋼材厚の薄い面における耐火被覆材の被覆厚が120〜500%であることを特徴とする鉄骨構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−104833(P2006−104833A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294722(P2004−294722)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000159032)菊水化学工業株式会社 (121)
【Fターム(参考)】