耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法、耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法、高温装置部材の製造方法ならびに金属基材の製造方法
【課題】金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を高価な設備を用いることなく、しかも金属基材を溶解除去することなく効果的に除去することができる耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法を提供する。
【解決手段】金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する場合、まず、この耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、この耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりしてAl濃度を50原子%以上にする。次に、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸溶液に浸漬して化学的ストリッピングを行うことにより、この耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlを選択的に溶解させ、この耐熱および耐環境性合金皮膜を金属基材から除去する。
【解決手段】金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する場合、まず、この耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、この耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりしてAl濃度を50原子%以上にする。次に、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸溶液に浸漬して化学的ストリッピングを行うことにより、この耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlを選択的に溶解させ、この耐熱および耐環境性合金皮膜を金属基材から除去する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法、耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法、高温装置部材の製造方法ならびに金属基材の製造方法に関し、特に、金属基材の表面に形成する耐熱および耐環境性合金皮膜の再生あるいは金属基材の再生に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービン翼、ジェットエンジン翼、ボイラ伝熱管などの高温装置部材においては、耐熱性および耐食性を向上させるために、金属基材の表面に耐熱および耐環境性合金皮膜を形成して使用する場合が多い。この耐熱および耐環境性合金皮膜としては、例えば、拡散アルミナイドコーティング、拡散クロムナイドコーティング、拡散シリコナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Ni−Cr合金オーバーレイコーティング、Pt含有Niアルミナイドコーティング、拡散バリアコーティングなどがある。耐熱および耐環境性合金皮膜としては、そのほかに、ZrO2 などのセラミックスを遮熱層とする遮熱コーティング(TBC)もあり、金属基材と遮熱層との中間に位置したボンドコート層として利用されている。
【0003】
しかし、高温装置部材が使用される環境が800〜1300℃程度の超高温であると、高温装置部材を構成する金属基材における耐食性に寄与する元素(例えば、Al、Cr、Siなど)の拡散が著しく速く、反応性も大きいため、金属基材の表面に形成された安定な保護性皮膜(例えば、Al2 O3 、Cr2 O3 、SiO2 など)を長時間維持することができない。また、500〜800℃のより低い温度域においても、高温装置部材が使用される環境がClやSなどを含んだ強腐食性環境であると、保護性皮膜を形成するAl、Cr、Siなどの元素の消耗速度が大きいため、同様に安定な保護性皮膜を長時間維持することができない。この結果、金属基材の表面に形成された合金皮膜の性能を喪失し、ひいては高温装置部材の寿命が著しく短くなることが大きな問題となっている。
【0004】
また、過酷な運転条件の下で高温装置部材を稼働させた結果として、耐熱および耐環境性コーティングあるいは遮熱コーティングの一部または全体に劣化あるいは損傷が生じる。この劣化あるいは損傷が軽微な場合は、コーティングの損傷個所を補修して再使用されている。一方、コーティング全体を除去し、コーティングを新しく再生すること、すなわちリコーティングも行われている。この全面的なリコーティングでは、基材組織もまた劣化しているので、組織制御のための熱処理が行われることもある。このコーティングの補修および再生によって、高温装置部材の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0005】
コーティングの除去方法としては従来より種々の方法が提案されている。
一般的に用いられているコーティングの除去方法としては、硝酸(50重量%)と燐酸(50重量%)との混液に浸漬することによりコーティングを溶解除去する化学的ストリッピング法が知られている。
【0006】
他のコーティングの除去方法としては、補修を要する翼表面に適正なパワー密度でレーザー光を照射するとともに酸素ガスを供給することにより、翼表面層のコーティング材のみ溶融・酸化させ、この酸化層をサンドブラストにより除去する耐食コーティングのストリッピング方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0007】
また、他のコーティングの除去方法として、遮熱コーティングの除去方法が提案されている(特許文献2参照。)。この方法では、遮熱コーティングを施工してある基材を870℃以上の温度に加熱し、ハロゲン含有媒体の雰囲気に適当な時間、暴露する。この適当な時間とは、ボンドコート層を基材から分離し、かつ基材に損傷を与えない時間である。ハロゲン含有媒体はガス体として、粉末混合物で加熱されたときにガスに変化するものであればよい。例としては、HF、NH4 F、NH4 Cl、HBr、HClが挙げられ、特にNH4 FとHFが好ましいとされている。
【0008】
さらに他のコーティングの除去方法として、Ni基合金から拡散コーティングを除去する方法が提案されている(特許文献3参照。)。この方法では、Alを含む拡散コーティング層は通常、基材側へAlが拡散浸透した内層とその上に形成される外部コーティング層との複層構造を有する。このAlを含む拡散コーティング層を、次のようにして基材のNi基合金表面から除去する。まず、コーティング外層を機械的に除去する。続いて、内層中のAlを除去する。このAlの除去は、内層部分を還元性のガスにさらすことによって行われる。還元性ガスとしては、6重量%以上のハロゲンを含む還元性ガスであって、例えば20重量%までのHFを含み、残H2 とするガスである。暴露温度は少なくとも華氏で1600Fで、望ましくは1600〜2000Fまで、2〜10時間の加熱が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−334373号公報
【特許文献2】米国特許第5614054号明細書
【特許文献3】米国特許第5728227号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の化学的ストリッピング法では、基材の一部もまた溶解除去されるという欠点があった。
また、特許文献1で提案された方法は、高価な設備を必要とし、さらに、貫通孔などの内面のコーティング層を除去することができないという問題もある。
また、特許文献2、3で提案された方法では、コーティング層内のAlをハロゲン(例えば、フッ素)と反応させてAlF3 のガス体として除去するが、コーティング層に含まれるNi、W、Mo、Re、Crなどの元素を効果的に除去することが困難である。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を高価な設備を用いることなく、しかも金属基材を溶解除去することなく効果的に除去することができる耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法ならびにこの方法を利用して新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に製造することができる耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法ならびにこの方法を利用して新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に製造することができる高温装置部材の製造方法を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、金属基材の表面の劣化あるいは損傷が生じた層を除去することにより金属基材を再生することができる金属基材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすると、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸などの溶液に浸漬することにより行う、いわゆる化学的ストリッピングによって耐熱および耐環境性合金皮膜からAlの選択的溶解が起こり、耐熱および耐環境性合金皮膜に含まれているAl以外の元素(例えば、Ni、Re、W、Crなど)も同様に溶解するか、または合金の塊として剥離あるいは脱落することによって、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に除去することができることを見出し、この発明を案出するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法であって、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とするものである。
【0014】
また、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法である。
【0015】
また、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法である。
【0016】
この発明において、耐熱および耐環境性合金皮膜は、例えば、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Pt含有Niアルミナイドコーティングなどであるが、これに限定されるものではない。この耐熱および耐環境性合金皮膜は、好適にはRe含有合金を拡散バリアとして含むが、これに限定されるものではない。
【0017】
耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にするためには種々の方法を用いることができ、必要に応じて選ばれるが、典型的には、耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりする。
【0018】
金属基材からAl濃度が50原子%以上の耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する方法としては、好適には、耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlを化学的ストリッピングにより選択的に溶解させる方法が用いられる。このAlの選択的溶解の際には、耐熱および耐環境性合金皮膜からAl以外の元素(耐熱および耐環境性合金皮膜によって異なるが、例えば、Ni、Re、W、Crなど)も選択的に溶解し、あるいは耐熱および耐環境性合金皮膜から合金の塊として剥離あるいは脱落する。その結果、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜が除去される。この化学的ストリッピングは、好適には塩酸溶液を用いて行うが、これに限定されるものではない。
【0019】
金属基材は、特に限定されず、用途や機能などに応じて要求される特性を満たすものが適宜選ばれるが、単体金属、例えばNiや、各種の合金、具体的には、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、Fe基耐熱合金、Co基耐熱合金などが用いられる。
【0020】
耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した金属基材の表面に新たに形成する耐熱および耐環境性合金皮膜は、除去した耐熱および耐環境性合金皮膜と同一であっても異なってもよい。
高温装置部材は、特に限定されないが、例えば、産業用ガスタービン翼、ジェットエンジン翼、ボイラ伝熱管、燃焼器、燃料噴射ノズル、熱交換パイプ、熱電対の鞘、電気炉、消音器マフラー、触媒担体、燃焼ノズル、自動車用マフラー、ターボチャージャーローターなどが挙げられる。
【0021】
この発明はまた、
金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成する工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を除去する工程とを有することを特徴とする金属基材の製造方法である。
【0022】
ここで、金属基材の表面に形成するAl濃度が50原子%以上の合金皮膜は犠牲層となるものであり、容易に除去することができる限り、組成は特に問わない。このAl濃度が50原子%以上の合金皮膜は、既に述べたように、好適には、塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより除去することができる。このように金属基材の表面に合金皮膜を形成した後、この合金皮膜を除去することにより、金属基材の表面に生じた劣化層あるいは損傷層を除去することができる。こうして、金属基材の表面を劣化層あるいは損傷層がない良好な状態とすることができ、金属基材を再生することができる。この金属基材の製造方法は、必要に応じて、合金皮膜を除去した金属基材の表面に、例えば耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にしているので、例えば化学的ストリッピングによりこのAl濃度が50原子%以上の耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に除去することができ、この際、金属基材が溶解除去されるのを防止することができる。このようにして金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を除去することができることにより、金属基材を再生することができる。そして、こうして再生された金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成することができる。このようにして金属基材をリサイクルすることができるので、限りある資源の有効利用を図ることができ、ひいては金属基材を用いる高温装置部材の低コスト化を図ることができる。
【0024】
また、合金皮膜が形成されていない金属基材の表面に劣化あるいは損傷が生じたときにこの金属基材を再生する場合は、この金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成し、例えば化学的ストリッピングによりこのAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を除去する。こうして金属基材を再生することができる。そして、こうして再生された金属基材の表面に例えば耐熱および耐環境性合金皮膜を形成することができる。このようにして金属基材をリサイクルすることができるので、限りある資源の有効利用を図ることができ、ひいては金属基材を用いる高温装置部材の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造の一例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造の他の例を示す断面図である。
【図3】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図4】図3に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図5】比較例で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図6】図5に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図7】この発明の第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法における除去率の測定結果を示す略線図である。
【図8】この発明の第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法における除去率に対する化学的ストリッピングの条件の影響を調べた結果を示す略線図である。
【図9】この発明の第2の実施の形態による金属基材の製造方法を説明するための断面図である。
【図10】この発明の実施例2で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図11】図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図12】この発明の実施例2において金属基材の表面に形成したAl合金層を除去した後の試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図13】図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態と言う。)について説明する。
まず、第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法について説明する。
この第1の実施の形態においては、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を次のようにして除去する。
金属基材は、例えば、Ni、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、耐熱鋼、Fe基耐熱合金、Co基耐熱合金などが用いられる。これらの金属基材は、Alを含む場合であってもAl濃度は50原子%よりずっと低く、高々十数原子%である。耐熱および耐環境性合金皮膜は、例えば、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Pt含有Niアルミナイドコーティングなどである。これらの耐熱および耐環境性合金皮膜を金属基材の表面に形成したときのAl濃度は一般的には50原子%よりずっと低い。
【0027】
まず、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする。このためには、耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりする。
こうして耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にした後、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸溶液に浸漬して化学的ストリッピングを行う。この化学的ストリッピングにより、耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlが選択的に溶解する。この際、耐熱および耐環境性合金皮膜からAl以外の元素も選択的に溶解し、あるいは合金の塊として剥離あるいは脱落する。こうして、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜が除去される。
【0028】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の具体例として拡散バリアコーティングについて説明する。この拡散バリアコーティングは、金属基材が、例えばNi基単結晶超合金、Ni基耐熱合金、Fe基合金、Nb基合金などからなる場合に適用される。
【0029】
図1および図2は拡散バリアコーティングの構造を示し、図1は単層の拡散バリア層を有する場合、図2は複数層(ここでは3層)の拡散バリア層を有する場合を示す。
図1に示す例においては、金属基材11上に基材拡散層(中間層)12を介して拡散バリア層13およびAlリザバー層14が順次形成されている。
【0030】
図2に示す例においては、金属基材21上に基材拡散層(中間層)22を介して犠牲バリア層23a、安定化層内層23b、拡散バリア層23c、安定化層外層23d、犠牲バリア外層23eおよびAlリザバー層24が順次形成されている。
【0031】
実施例1
金属基材11としてCMSX−4試験片を用いた。このCMSX−4試験片の組成(原子%)は次の通りである。
元素 組成(原子%)
Al 12.59
Ni 63.76
Cr 7.58
Co 9.26
W 1.98
Ti 1.27
Mo 0.38
Ta 2.18
Re 0.98
Hf 0.034
【0032】
このCMSX−4試験片の表面に図2に示す拡散バリアコーティング(3層)を形成した。具体的には、このCMSX−4試験片の表面に基材拡散層22を介して犠牲バリア層23a、安定化層内層23b、拡散バリア層23c、安定化層外層23d、犠牲バリア外層23eおよびAlリザバー層24を順次形成した。ここで、基材拡散層22はガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、犠牲バリア層23aはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、安定化層内層23bはガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、拡散バリア層23cはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、安定化層外層23dはガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、犠牲バリア外層23eはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、Alリザバー層24はベータ(β−NiAl)相である。
【0033】
こうしてCMSX−4試験片の表面に形成した拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理(いわゆるAlパックセメンテーションプロセス)によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:800〜1150℃
時間:1〜16時間
【0034】
図3に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の断面写真(走査型電子顕微鏡写真)を示す。この断面写真の上部の各層は図2に示す各層に対応する。図3より、拡散バリアコーティングには微細な析出物が含まれ、バリア層(犠牲バリア外層、拡散バリア層、犠牲バリア内層)は不連続な組織に変化していることが分かる。
【0035】
図4は図3に示した断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図4から分かるように、拡散バリアコーティング中のAl濃度は約50原子%以上であり、Reを含む部分のAl濃度は約70原子%に増大している。この高Al濃度分布は基材拡散層と金属基材との界面に達し、その後、金属基材中のAl濃度(約13原子%)に達している。
【0036】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は10〜50体積%、望ましくは20体積%
温度:室温、50℃、70℃ 望ましくは50〜70℃
時間:1〜7時間
攪拌:なし、あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:球状(globular)Al2 O3
角形(angular)Al2 O3
【0037】
上述のようにして化学的ストリッピングを行ったところ、拡散バリアコーティング中のAlが選択的に溶解し、さらに、Alの溶解が局所的に進行する結果として、未溶解の合金部分は拡散バリアコーティングから剥離あるいは脱落することが明らかとなった。その結果、Al拡散浸透処理した拡散バリアコーティングは、主として溶液中に溶解したAlと剥離あるいは脱落した合金塊として除去される。この合金塊には、Re、Ni、W、Cr、Al、Coなどの元素が含まれているため、合金として回収してリサイクルすることができる。
【0038】
比較例
実施例1と同様に金属基材11としてCMSX−4試験片を用い、このCMSX−4試験片の表面に拡散バリアコーティングを形成した。
次に、この拡散バリアコーティングにAl濃度が50原子%未満となるようにAl拡散浸透処理を行った。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Ni−(20〜50)Al合金粉末 1〜20重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:800〜1150℃
時間:1〜16時間
【0039】
図5に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の断面写真(走査型電子顕微鏡写真)を示す。この断面写真の上部の各層は図2に示す各層に対応する。図5より、Alリザバー層は均質な組織を有し、バリア層はいずれも比較的緻密で連続層を維持していることが分かる。
【0040】
図6は図5に示した断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図6から分かるように、拡散バリアコーティング中のAl濃度は約42原子%と一定に分布している。また、犠牲バリア外層、拡散バリア層および犠牲バリア内層に含まれるAl濃度は約1原子%程度である。
【0041】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングに対し、実施例1と同様の条件で化学的ストリッピングを行った。その結果、拡散バリアコーティングは除去されず、そのまま残った。これは、拡散バリアコーティング中のAl濃度が約42原子%と50原子%未満であるためである。
【0042】
次に、拡散バリアコーティングの除去率の測定結果について説明する。除去率の定義および算出方法は次の通りである。
除去率は、所定の時間、化学的ストリッピングを行った後、試験片の重量を測定し、溶解前の重量との差を除去量(δW)として計測する。一方、拡散バリアコーティングを形成したときに増加する重量と拡散バリアコーティングに対してAl拡散浸透処理を行ったときの重量増加との和(δC)をコーティング重量と定義する。このとき、除去率(%)=(δW/δC)×100と定義される。この除去率が100%になったとき、拡散バリアコーティングの全体が除去されたことになる。
【0043】
金属基材としてSUS316L、Hastelloy−C276およびHastelloy−Xを用い、これらの金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成した。以下においては、金属基材としてSUS316Lを用いた試料を試料A、金属基材としてHastelloy−C276を用いた試料を試料B、金属基材としてHastelloy−Xを用いた試料を試料Cと呼ぶ。
【0044】
次に、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0045】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は20体積%
温度:50℃
時間:1〜7時間
攪拌:あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:角形(angular)Al2 O3
【0046】
図7は上記の3種類の試料A、B、Cの拡散バリアコーティングの除去率の時間変化の測定結果を示す。図7より、試料A、B、Cのいずれも、化学的ストリッピングの時間が長くなるほど除去率が増大し、約5時間程度で拡散バリアコーティングを100%除去することができることが分かる。
【0047】
図8は、金属基材としてCMSX−4を用い、この金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成し、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした後、この拡散バリアコーティングを種々の条件(条件A〜F)で化学的ストリッピング法により除去した場合の拡散バリアコーティングの除去率の時間変化の測定結果を示す。
【0048】
Al拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0049】
化学的ストリッピングの条件(溶液、温度、攪拌条件)は次の5種類(条件A〜F)に変えた。
A:20体積%HCl、70℃、バレル(barrel) (角形Al2 O3 )
B:20体積%HCl、50℃、バレル(角形Al2 O3 )
C:20体積%HCl、50℃、バレル(球状Al2 O3 )
D:10体積%HCl、50℃、バレル(球状Al2 O3 )
E:10体積%HCl、50℃、攪拌なし(stagnant)
F:20体積%HCl、室温、バレル(角形Al2 O3 )
図8より、条件A、B、Cを用いた場合に良好な結果が得られている。特に望ましいのは条件A、Bである。
【0050】
次に、拡散バリアコーティングの化学的ストリッピングを行ったときの金属基材の溶解挙動について調べた結果について説明する。
金属基材としてSUS310S、Hastelloy−C276、Hastelloy−XおよびCMSX−4を用い、これらの金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成した。
【0051】
次に、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0052】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は20体積%
温度:50℃
時間:1時間
攪拌:あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:角形(angular)Al2 O3
【0053】
こうして化学的ストリッピングを行った試料の質量損失を測定したところ、次のような結果が得られた。
金属基材 質量損失(mg/cm2 )/1時間
SUS310S 1.48
Hastelloy−C276 0.05
Hastelloy−X 0.24
CMSX−4 0.43
【0054】
この結果より、本実験で採用した化学的ストリッピングの条件下では、金属基材の溶解速度は、Al濃度が50原子%以上の拡散バリアコーティングの溶解除去速度に比較して十分に遅いことが分かる。すなわち、拡散バリアコーティングのみを効果的に除去することができることが分かる。
【0055】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、金属基材上に形成した拡散バリアコーティングのAl濃度を50原子%以上としているので、この拡散バリアコーティングを塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより効果的に除去することができる。また、この際、金属基材が溶解除去されるのを防止することができる。
【0056】
次に、この発明の第2の実施の形態による金属基材の製造方法について説明する。
この第2の実施の形態においては、図9Aに示すように、まず、再生しようとする金属基材31を用意する。
次に、図9Bに示すように、この金属基材31の表面にAl拡散浸透処理によりAl濃度が50原子%以上のAl合金層32を形成する。
次に、このAl濃度が50原子%以上のAl合金層32を塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより除去する。こうして、金属基材31に新たな表面が形成され、金属基材31が再生される。
【0057】
実施例2
金属基材31としてCMSX−4試験片を用いた。このCMSX−4試験片の表面にAl拡散浸透処理によりAl濃度が50原子%以上のAl合金層を形成した。
図10はこうしてAl合金層を形成した試料の断面組織を示す。図10より、試料の表面から約40μmの深さの部位(図10では暗く見える部分)にAl合金層が形成されていることが分かる。
図11は図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図11より、Al合金層のAl濃度は65原子%から51原子%の間にあることが分かる。
【0058】
次に、このAl合金層を塩酸溶液を用いて化学的ストリッピングにより除去する。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は50体積%
温度:50℃
時間:1時間
攪拌:あり
アルミナ粒子:角形Al2 O3
【0059】
図12は、Al合金層を化学的ストリッピングにより除去した後の試料の断面組織を示す。また、図13は、図12に示す試料の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図13より、試料には高Al濃度の部分がなく、Al濃度は金属基材であるCMSX−4のAl濃度と同じになっていることから、試料の表面に形成されたAl合金層は全面に亘って除去されており、金属基材の表面が露出したことが分かる。すなわち、試料の表面に形成されたAl合金層のみを効果的に除去することができることが分かる。
【0060】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、再生しようとする金属基材31の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜32を形成し、この合金皮膜32を化学的ストリッピングにより除去しているので、金属基材31を容易に再生することができる。
【0061】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11、21、31…金属基材、12、22…基材拡散層、13…拡散バリア層、14、24…Alリザバー層、23a…犠牲バリア内層、23b…安定化層内層、23c…拡散バリア層、23d…安定化層外層、23e…犠牲バリア外層、32…Al合金層
【技術分野】
【0001】
この発明は、耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法、耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法、高温装置部材の製造方法ならびに金属基材の製造方法に関し、特に、金属基材の表面に形成する耐熱および耐環境性合金皮膜の再生あるいは金属基材の再生に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ガスタービン翼、ジェットエンジン翼、ボイラ伝熱管などの高温装置部材においては、耐熱性および耐食性を向上させるために、金属基材の表面に耐熱および耐環境性合金皮膜を形成して使用する場合が多い。この耐熱および耐環境性合金皮膜としては、例えば、拡散アルミナイドコーティング、拡散クロムナイドコーティング、拡散シリコナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Ni−Cr合金オーバーレイコーティング、Pt含有Niアルミナイドコーティング、拡散バリアコーティングなどがある。耐熱および耐環境性合金皮膜としては、そのほかに、ZrO2 などのセラミックスを遮熱層とする遮熱コーティング(TBC)もあり、金属基材と遮熱層との中間に位置したボンドコート層として利用されている。
【0003】
しかし、高温装置部材が使用される環境が800〜1300℃程度の超高温であると、高温装置部材を構成する金属基材における耐食性に寄与する元素(例えば、Al、Cr、Siなど)の拡散が著しく速く、反応性も大きいため、金属基材の表面に形成された安定な保護性皮膜(例えば、Al2 O3 、Cr2 O3 、SiO2 など)を長時間維持することができない。また、500〜800℃のより低い温度域においても、高温装置部材が使用される環境がClやSなどを含んだ強腐食性環境であると、保護性皮膜を形成するAl、Cr、Siなどの元素の消耗速度が大きいため、同様に安定な保護性皮膜を長時間維持することができない。この結果、金属基材の表面に形成された合金皮膜の性能を喪失し、ひいては高温装置部材の寿命が著しく短くなることが大きな問題となっている。
【0004】
また、過酷な運転条件の下で高温装置部材を稼働させた結果として、耐熱および耐環境性コーティングあるいは遮熱コーティングの一部または全体に劣化あるいは損傷が生じる。この劣化あるいは損傷が軽微な場合は、コーティングの損傷個所を補修して再使用されている。一方、コーティング全体を除去し、コーティングを新しく再生すること、すなわちリコーティングも行われている。この全面的なリコーティングでは、基材組織もまた劣化しているので、組織制御のための熱処理が行われることもある。このコーティングの補修および再生によって、高温装置部材の寿命を大幅に延ばすことができる。
【0005】
コーティングの除去方法としては従来より種々の方法が提案されている。
一般的に用いられているコーティングの除去方法としては、硝酸(50重量%)と燐酸(50重量%)との混液に浸漬することによりコーティングを溶解除去する化学的ストリッピング法が知られている。
【0006】
他のコーティングの除去方法としては、補修を要する翼表面に適正なパワー密度でレーザー光を照射するとともに酸素ガスを供給することにより、翼表面層のコーティング材のみ溶融・酸化させ、この酸化層をサンドブラストにより除去する耐食コーティングのストリッピング方法が提案されている(特許文献1参照。)。
【0007】
また、他のコーティングの除去方法として、遮熱コーティングの除去方法が提案されている(特許文献2参照。)。この方法では、遮熱コーティングを施工してある基材を870℃以上の温度に加熱し、ハロゲン含有媒体の雰囲気に適当な時間、暴露する。この適当な時間とは、ボンドコート層を基材から分離し、かつ基材に損傷を与えない時間である。ハロゲン含有媒体はガス体として、粉末混合物で加熱されたときにガスに変化するものであればよい。例としては、HF、NH4 F、NH4 Cl、HBr、HClが挙げられ、特にNH4 FとHFが好ましいとされている。
【0008】
さらに他のコーティングの除去方法として、Ni基合金から拡散コーティングを除去する方法が提案されている(特許文献3参照。)。この方法では、Alを含む拡散コーティング層は通常、基材側へAlが拡散浸透した内層とその上に形成される外部コーティング層との複層構造を有する。このAlを含む拡散コーティング層を、次のようにして基材のNi基合金表面から除去する。まず、コーティング外層を機械的に除去する。続いて、内層中のAlを除去する。このAlの除去は、内層部分を還元性のガスにさらすことによって行われる。還元性ガスとしては、6重量%以上のハロゲンを含む還元性ガスであって、例えば20重量%までのHFを含み、残H2 とするガスである。暴露温度は少なくとも華氏で1600Fで、望ましくは1600〜2000Fまで、2〜10時間の加熱が望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−334373号公報
【特許文献2】米国特許第5614054号明細書
【特許文献3】米国特許第5728227号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上述の化学的ストリッピング法では、基材の一部もまた溶解除去されるという欠点があった。
また、特許文献1で提案された方法は、高価な設備を必要とし、さらに、貫通孔などの内面のコーティング層を除去することができないという問題もある。
また、特許文献2、3で提案された方法では、コーティング層内のAlをハロゲン(例えば、フッ素)と反応させてAlF3 のガス体として除去するが、コーティング層に含まれるNi、W、Mo、Re、Crなどの元素を効果的に除去することが困難である。
【0011】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を高価な設備を用いることなく、しかも金属基材を溶解除去することなく効果的に除去することができる耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法ならびにこの方法を利用して新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に製造することができる耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法ならびにこの方法を利用して新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に製造することができる高温装置部材の製造方法を提供することである。
この発明が解決しようとする他の課題は、金属基材の表面の劣化あるいは損傷が生じた層を除去することにより金属基材を再生することができる金属基材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすると、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸などの溶液に浸漬することにより行う、いわゆる化学的ストリッピングによって耐熱および耐環境性合金皮膜からAlの選択的溶解が起こり、耐熱および耐環境性合金皮膜に含まれているAl以外の元素(例えば、Ni、Re、W、Crなど)も同様に溶解するか、または合金の塊として剥離あるいは脱落することによって、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に除去することができることを見出し、この発明を案出するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法であって、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とするものである。
【0014】
また、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法である。
【0015】
また、この発明は、
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法である。
【0016】
この発明において、耐熱および耐環境性合金皮膜は、例えば、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Pt含有Niアルミナイドコーティングなどであるが、これに限定されるものではない。この耐熱および耐環境性合金皮膜は、好適にはRe含有合金を拡散バリアとして含むが、これに限定されるものではない。
【0017】
耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にするためには種々の方法を用いることができ、必要に応じて選ばれるが、典型的には、耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりする。
【0018】
金属基材からAl濃度が50原子%以上の耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する方法としては、好適には、耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlを化学的ストリッピングにより選択的に溶解させる方法が用いられる。このAlの選択的溶解の際には、耐熱および耐環境性合金皮膜からAl以外の元素(耐熱および耐環境性合金皮膜によって異なるが、例えば、Ni、Re、W、Crなど)も選択的に溶解し、あるいは耐熱および耐環境性合金皮膜から合金の塊として剥離あるいは脱落する。その結果、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜が除去される。この化学的ストリッピングは、好適には塩酸溶液を用いて行うが、これに限定されるものではない。
【0019】
金属基材は、特に限定されず、用途や機能などに応じて要求される特性を満たすものが適宜選ばれるが、単体金属、例えばNiや、各種の合金、具体的には、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、Fe基耐熱合金、Co基耐熱合金などが用いられる。
【0020】
耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した金属基材の表面に新たに形成する耐熱および耐環境性合金皮膜は、除去した耐熱および耐環境性合金皮膜と同一であっても異なってもよい。
高温装置部材は、特に限定されないが、例えば、産業用ガスタービン翼、ジェットエンジン翼、ボイラ伝熱管、燃焼器、燃料噴射ノズル、熱交換パイプ、熱電対の鞘、電気炉、消音器マフラー、触媒担体、燃焼ノズル、自動車用マフラー、ターボチャージャーローターなどが挙げられる。
【0021】
この発明はまた、
金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成する工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を除去する工程とを有することを特徴とする金属基材の製造方法である。
【0022】
ここで、金属基材の表面に形成するAl濃度が50原子%以上の合金皮膜は犠牲層となるものであり、容易に除去することができる限り、組成は特に問わない。このAl濃度が50原子%以上の合金皮膜は、既に述べたように、好適には、塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより除去することができる。このように金属基材の表面に合金皮膜を形成した後、この合金皮膜を除去することにより、金属基材の表面に生じた劣化層あるいは損傷層を除去することができる。こうして、金属基材の表面を劣化層あるいは損傷層がない良好な状態とすることができ、金属基材を再生することができる。この金属基材の製造方法は、必要に応じて、合金皮膜を除去した金属基材の表面に、例えば耐熱および耐環境性合金皮膜を形成する工程をさらに有する。
【発明の効果】
【0023】
この発明によれば、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にしているので、例えば化学的ストリッピングによりこのAl濃度が50原子%以上の耐熱および耐環境性合金皮膜を容易に除去することができ、この際、金属基材が溶解除去されるのを防止することができる。このようにして金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を除去することができることにより、金属基材を再生することができる。そして、こうして再生された金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性合金皮膜を形成することができる。このようにして金属基材をリサイクルすることができるので、限りある資源の有効利用を図ることができ、ひいては金属基材を用いる高温装置部材の低コスト化を図ることができる。
【0024】
また、合金皮膜が形成されていない金属基材の表面に劣化あるいは損傷が生じたときにこの金属基材を再生する場合は、この金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成し、例えば化学的ストリッピングによりこのAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を除去する。こうして金属基材を再生することができる。そして、こうして再生された金属基材の表面に例えば耐熱および耐環境性合金皮膜を形成することができる。このようにして金属基材をリサイクルすることができるので、限りある資源の有効利用を図ることができ、ひいては金属基材を用いる高温装置部材の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造の一例を示す断面図である。
【図2】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造の他の例を示す断面図である。
【図3】この発明の実施例1で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図4】図3に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図5】比較例で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図6】図5に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図7】この発明の第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法における除去率の測定結果を示す略線図である。
【図8】この発明の第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法における除去率に対する化学的ストリッピングの条件の影響を調べた結果を示す略線図である。
【図9】この発明の第2の実施の形態による金属基材の製造方法を説明するための断面図である。
【図10】この発明の実施例2で用いた試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図11】図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【図12】この発明の実施例2において金属基材の表面に形成したAl合金層を除去した後の試料の断面構造を示す図面代用写真である。
【図13】図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態(以下、実施の形態と言う。)について説明する。
まず、第1の実施の形態による耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法について説明する。
この第1の実施の形態においては、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜を次のようにして除去する。
金属基材は、例えば、Ni、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、耐熱鋼、Fe基耐熱合金、Co基耐熱合金などが用いられる。これらの金属基材は、Alを含む場合であってもAl濃度は50原子%よりずっと低く、高々十数原子%である。耐熱および耐環境性合金皮膜は、例えば、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)、Pt含有Niアルミナイドコーティングなどである。これらの耐熱および耐環境性合金皮膜を金属基材の表面に形成したときのAl濃度は一般的には50原子%よりずっと低い。
【0027】
まず、金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする。このためには、耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施したり、耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬したりする。
こうして耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にした後、この耐熱および耐環境性合金皮膜が形成された金属基材を塩酸溶液に浸漬して化学的ストリッピングを行う。この化学的ストリッピングにより、耐熱および耐環境性合金皮膜中のAlが選択的に溶解する。この際、耐熱および耐環境性合金皮膜からAl以外の元素も選択的に溶解し、あるいは合金の塊として剥離あるいは脱落する。こうして、金属基材から耐熱および耐環境性合金皮膜が除去される。
【0028】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の具体例として拡散バリアコーティングについて説明する。この拡散バリアコーティングは、金属基材が、例えばNi基単結晶超合金、Ni基耐熱合金、Fe基合金、Nb基合金などからなる場合に適用される。
【0029】
図1および図2は拡散バリアコーティングの構造を示し、図1は単層の拡散バリア層を有する場合、図2は複数層(ここでは3層)の拡散バリア層を有する場合を示す。
図1に示す例においては、金属基材11上に基材拡散層(中間層)12を介して拡散バリア層13およびAlリザバー層14が順次形成されている。
【0030】
図2に示す例においては、金属基材21上に基材拡散層(中間層)22を介して犠牲バリア層23a、安定化層内層23b、拡散バリア層23c、安定化層外層23d、犠牲バリア外層23eおよびAlリザバー層24が順次形成されている。
【0031】
実施例1
金属基材11としてCMSX−4試験片を用いた。このCMSX−4試験片の組成(原子%)は次の通りである。
元素 組成(原子%)
Al 12.59
Ni 63.76
Cr 7.58
Co 9.26
W 1.98
Ti 1.27
Mo 0.38
Ta 2.18
Re 0.98
Hf 0.034
【0032】
このCMSX−4試験片の表面に図2に示す拡散バリアコーティング(3層)を形成した。具体的には、このCMSX−4試験片の表面に基材拡散層22を介して犠牲バリア層23a、安定化層内層23b、拡散バリア層23c、安定化層外層23d、犠牲バリア外層23eおよびAlリザバー層24を順次形成した。ここで、基材拡散層22はガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、犠牲バリア層23aはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、安定化層内層23bはガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、拡散バリア層23cはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、安定化層外層23dはガンマ(γ−Ni)相とガンマプライム(γ’−Ni3 Al)相との混合相、犠牲バリア外層23eはシグマ(σ−(Re−W−Cr−Ni))相、Alリザバー層24はベータ(β−NiAl)相である。
【0033】
こうしてCMSX−4試験片の表面に形成した拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理(いわゆるAlパックセメンテーションプロセス)によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:800〜1150℃
時間:1〜16時間
【0034】
図3に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の断面写真(走査型電子顕微鏡写真)を示す。この断面写真の上部の各層は図2に示す各層に対応する。図3より、拡散バリアコーティングには微細な析出物が含まれ、バリア層(犠牲バリア外層、拡散バリア層、犠牲バリア内層)は不連続な組織に変化していることが分かる。
【0035】
図4は図3に示した断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図4から分かるように、拡散バリアコーティング中のAl濃度は約50原子%以上であり、Reを含む部分のAl濃度は約70原子%に増大している。この高Al濃度分布は基材拡散層と金属基材との界面に達し、その後、金属基材中のAl濃度(約13原子%)に達している。
【0036】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は10〜50体積%、望ましくは20体積%
温度:室温、50℃、70℃ 望ましくは50〜70℃
時間:1〜7時間
攪拌:なし、あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:球状(globular)Al2 O3
角形(angular)Al2 O3
【0037】
上述のようにして化学的ストリッピングを行ったところ、拡散バリアコーティング中のAlが選択的に溶解し、さらに、Alの溶解が局所的に進行する結果として、未溶解の合金部分は拡散バリアコーティングから剥離あるいは脱落することが明らかとなった。その結果、Al拡散浸透処理した拡散バリアコーティングは、主として溶液中に溶解したAlと剥離あるいは脱落した合金塊として除去される。この合金塊には、Re、Ni、W、Cr、Al、Coなどの元素が含まれているため、合金として回収してリサイクルすることができる。
【0038】
比較例
実施例1と同様に金属基材11としてCMSX−4試験片を用い、このCMSX−4試験片の表面に拡散バリアコーティングを形成した。
次に、この拡散バリアコーティングにAl濃度が50原子%未満となるようにAl拡散浸透処理を行った。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Ni−(20〜50)Al合金粉末 1〜20重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:800〜1150℃
時間:1〜16時間
【0039】
図5に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の断面写真(走査型電子顕微鏡写真)を示す。この断面写真の上部の各層は図2に示す各層に対応する。図5より、Alリザバー層は均質な組織を有し、バリア層はいずれも比較的緻密で連続層を維持していることが分かる。
【0040】
図6は図5に示した断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図6から分かるように、拡散バリアコーティング中のAl濃度は約42原子%と一定に分布している。また、犠牲バリア外層、拡散バリア層および犠牲バリア内層に含まれるAl濃度は約1原子%程度である。
【0041】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングに対し、実施例1と同様の条件で化学的ストリッピングを行った。その結果、拡散バリアコーティングは除去されず、そのまま残った。これは、拡散バリアコーティング中のAl濃度が約42原子%と50原子%未満であるためである。
【0042】
次に、拡散バリアコーティングの除去率の測定結果について説明する。除去率の定義および算出方法は次の通りである。
除去率は、所定の時間、化学的ストリッピングを行った後、試験片の重量を測定し、溶解前の重量との差を除去量(δW)として計測する。一方、拡散バリアコーティングを形成したときに増加する重量と拡散バリアコーティングに対してAl拡散浸透処理を行ったときの重量増加との和(δC)をコーティング重量と定義する。このとき、除去率(%)=(δW/δC)×100と定義される。この除去率が100%になったとき、拡散バリアコーティングの全体が除去されたことになる。
【0043】
金属基材としてSUS316L、Hastelloy−C276およびHastelloy−Xを用い、これらの金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成した。以下においては、金属基材としてSUS316Lを用いた試料を試料A、金属基材としてHastelloy−C276を用いた試料を試料B、金属基材としてHastelloy−Xを用いた試料を試料Cと呼ぶ。
【0044】
次に、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0045】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は20体積%
温度:50℃
時間:1〜7時間
攪拌:あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:角形(angular)Al2 O3
【0046】
図7は上記の3種類の試料A、B、Cの拡散バリアコーティングの除去率の時間変化の測定結果を示す。図7より、試料A、B、Cのいずれも、化学的ストリッピングの時間が長くなるほど除去率が増大し、約5時間程度で拡散バリアコーティングを100%除去することができることが分かる。
【0047】
図8は、金属基材としてCMSX−4を用い、この金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成し、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした後、この拡散バリアコーティングを種々の条件(条件A〜F)で化学的ストリッピング法により除去した場合の拡散バリアコーティングの除去率の時間変化の測定結果を示す。
【0048】
Al拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0049】
化学的ストリッピングの条件(溶液、温度、攪拌条件)は次の5種類(条件A〜F)に変えた。
A:20体積%HCl、70℃、バレル(barrel) (角形Al2 O3 )
B:20体積%HCl、50℃、バレル(角形Al2 O3 )
C:20体積%HCl、50℃、バレル(球状Al2 O3 )
D:10体積%HCl、50℃、バレル(球状Al2 O3 )
E:10体積%HCl、50℃、攪拌なし(stagnant)
F:20体積%HCl、室温、バレル(角形Al2 O3 )
図8より、条件A、B、Cを用いた場合に良好な結果が得られている。特に望ましいのは条件A、Bである。
【0050】
次に、拡散バリアコーティングの化学的ストリッピングを行ったときの金属基材の溶解挙動について調べた結果について説明する。
金属基材としてSUS310S、Hastelloy−C276、Hastelloy−XおよびCMSX−4を用い、これらの金属基材の表面に実施例1と同様な拡散バリアコーティングを形成した。
【0051】
次に、この拡散バリアコーティングにAl拡散浸透処理によりAlを拡散浸透させてAl濃度を50原子%以上とした。このAl拡散浸透処理の条件は次の通りである。
Al原料:Al粉末 1〜10重量%
活性化剤:NH4 Cl粉末 1〜15重量%
焼結防止剤:Al2 O3 残部
雰囲気:不活性ガス(Ar)
温度:1100℃
時間:1時間
【0052】
次に、上述のようにして拡散バリアコーティングにAlを拡散浸透させた試料の拡散バリアコーティングを化学的ストリッピング法により除去した。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は20体積%
温度:50℃
時間:1時間
攪拌:あり
攪拌時に液中に入れるアルミナ粒子:角形(angular)Al2 O3
【0053】
こうして化学的ストリッピングを行った試料の質量損失を測定したところ、次のような結果が得られた。
金属基材 質量損失(mg/cm2 )/1時間
SUS310S 1.48
Hastelloy−C276 0.05
Hastelloy−X 0.24
CMSX−4 0.43
【0054】
この結果より、本実験で採用した化学的ストリッピングの条件下では、金属基材の溶解速度は、Al濃度が50原子%以上の拡散バリアコーティングの溶解除去速度に比較して十分に遅いことが分かる。すなわち、拡散バリアコーティングのみを効果的に除去することができることが分かる。
【0055】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、金属基材上に形成した拡散バリアコーティングのAl濃度を50原子%以上としているので、この拡散バリアコーティングを塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより効果的に除去することができる。また、この際、金属基材が溶解除去されるのを防止することができる。
【0056】
次に、この発明の第2の実施の形態による金属基材の製造方法について説明する。
この第2の実施の形態においては、図9Aに示すように、まず、再生しようとする金属基材31を用意する。
次に、図9Bに示すように、この金属基材31の表面にAl拡散浸透処理によりAl濃度が50原子%以上のAl合金層32を形成する。
次に、このAl濃度が50原子%以上のAl合金層32を塩酸溶液を用いた化学的ストリッピングにより除去する。こうして、金属基材31に新たな表面が形成され、金属基材31が再生される。
【0057】
実施例2
金属基材31としてCMSX−4試験片を用いた。このCMSX−4試験片の表面にAl拡散浸透処理によりAl濃度が50原子%以上のAl合金層を形成した。
図10はこうしてAl合金層を形成した試料の断面組織を示す。図10より、試料の表面から約40μmの深さの部位(図10では暗く見える部分)にAl合金層が形成されていることが分かる。
図11は図10に示す試料の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図11より、Al合金層のAl濃度は65原子%から51原子%の間にあることが分かる。
【0058】
次に、このAl合金層を塩酸溶液を用いて化学的ストリッピングにより除去する。この化学的ストリッピングの条件は次の通りである。
溶液:水に塩酸を溶解、塩酸の添加量は50体積%
温度:50℃
時間:1時間
攪拌:あり
アルミナ粒子:角形Al2 O3
【0059】
図12は、Al合金層を化学的ストリッピングにより除去した後の試料の断面組織を示す。また、図13は、図12に示す試料の断面における各元素の濃度分布の測定結果を示す。図13より、試料には高Al濃度の部分がなく、Al濃度は金属基材であるCMSX−4のAl濃度と同じになっていることから、試料の表面に形成されたAl合金層は全面に亘って除去されており、金属基材の表面が露出したことが分かる。すなわち、試料の表面に形成されたAl合金層のみを効果的に除去することができることが分かる。
【0060】
以上のように、この第2の実施の形態によれば、再生しようとする金属基材31の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜32を形成し、この合金皮膜32を化学的ストリッピングにより除去しているので、金属基材31を容易に再生することができる。
【0061】
以上、この発明の実施の形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
例えば、上述の実施の形態において挙げた数値、構造、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、材料などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0062】
11、21、31…金属基材、12、22…基材拡散層、13…拡散バリア層、14、24…Alリザバー層、23a…犠牲バリア内層、23b…安定化層内層、23c…拡散バリア層、23d…安定化層外層、23e…犠牲バリア外層、32…Al合金層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法であって、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項2】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜にRe含有合金を拡散バリアとして含むことを特徴とする請求項1に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項3】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜が、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)またはPt含有Niアルミナイドコーティングであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項4】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施し、または、上記耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬することにより上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項5】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項6】
塩酸溶液を用いて上記化学的ストリッピングを行うことを特徴とする請求項5に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項7】
上記金属基材はNi、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、Fe基耐熱合金またはCo基耐熱合金であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項8】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法。
【請求項9】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項8に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法。
【請求項10】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項11】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項10に記載の高温装置部材の製造方法。
【請求項12】
金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成する工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を除去する工程とを有することを特徴とする金属基材の製造方法。
【請求項13】
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項12に記載の金属基材の製造方法。
【請求項14】
上記合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項12または13に記載の金属基材の製造方法。
【請求項1】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法であって、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項2】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜にRe含有合金を拡散バリアとして含むことを特徴とする請求項1に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項3】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜が、拡散アルミナイドコーティング、MCrAlYオーバーレイコーティング(M=Ni、Co、Fe)またはPt含有Niアルミナイドコーティングであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項4】
上記耐熱および耐環境性合金皮膜にAl拡散浸透処理を施し、または、上記耐熱および耐環境性合金皮膜をAl融体に浸漬することにより上記耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項5】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項6】
塩酸溶液を用いて上記化学的ストリッピングを行うことを特徴とする請求項5に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項7】
上記金属基材はNi、Ni基合金、Ni基耐熱合金、Ni基超合金、Ni基単結晶超合金、Fe基耐熱合金またはCo基耐熱合金であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の除去方法。
【請求項8】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法。
【請求項9】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項8に記載の耐熱および耐環境性合金皮膜の製造方法。
【請求項10】
金属基材の表面に形成された耐熱および耐環境性合金皮膜のAl濃度を50原子%以上にする工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去する工程と、
上記耐熱および耐環境性合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に新たな耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程とを有することを特徴とする高温装置部材の製造方法。
【請求項11】
上記Al濃度が50原子%以上の上記耐熱および耐環境性合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項10に記載の高温装置部材の製造方法。
【請求項12】
金属基材の表面にAl濃度が50原子%以上の合金皮膜を形成する工程と、
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を除去する工程とを有することを特徴とする金属基材の製造方法。
【請求項13】
上記Al濃度が50原子%以上の上記合金皮膜を化学的ストリッピングにより除去することを特徴とする請求項12に記載の金属基材の製造方法。
【請求項14】
上記合金皮膜を除去した上記金属基材の表面に耐熱および耐環境性コーティング皮膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項12または13に記載の金属基材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−242189(P2010−242189A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93614(P2009−93614)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(509326809)株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(509326809)株式会社ディ・ビー・シー・システム研究所 (2)
【Fターム(参考)】
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