説明

耐熱エアーホース

【課題】層間接着力が高く耐久性に優れるとともに、耐酸性、耐添加剤性等に優れる耐熱エアーホースを提供する。
【解決手段】管状の内層1と、その外周面に接して設けられる外層2とを備えた耐熱エアーホースであって、上記内層1が、下記の(A)〜(D)を必須成分とするゴム組成物を用いて形成されている。
(A)フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴム。
(B)有機過酸化物架橋剤。
(C)トリアリルイソシアヌレート。
(D)p−キノンジオキシム化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱エアーホースに関するものであり、詳しくは、自動車用のエアー系ホース(ターボエアーホース、ブローバイガス用ホース、エミッションコントロールホース等)として有用な耐熱エアーホースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼル車の排ガス規制の強化が進み、それに対応した新エンジンシステム(コモンレール式燃料噴射システム)の導入が本格化している。上記システムでは、低排ガスを目的に燃焼効率を高めるよう、高温かつ高圧で燃料を噴射させてエンジンの稼働を行っている。また、エンジンに大量の酸素を高圧で導入し、燃焼効率を向上させる目的で、多くのディーゼル車にターボチャージャー(過給器)が導入されている。
【0003】
そして、上記ターボチャージャーに装着されるエアーホース(ターボエアーホース)には、ターボチャージャーで圧縮された高温高圧のエアーをエンジンに供給する役割がある。また、圧縮エアー中にはエンジンから排出される燃料・エンジンオイルの高温ミストも混入する。このことから、上記ターボエアーホースには、高い耐熱性,耐油性および耐圧性が要求される。
【0004】
従来から、この種の自動車等の耐熱エアーホースの形成材料には、アクリル系ゴムが用いられてきたが、近年、その耐熱性に対する要求が厳しくなってきており、アクリル系ゴムに代えて耐熱性に優れたシリコーンゴムが用いられている。しかしながら、上記シリコーンゴムは耐オイル透過性に劣るため、使用中に、エアーホース内を流通するエアーに混在するミスト状のオイルがホース内表面からゴム中にしみ込み、ホース外表面に到達するという、オイルの滲み出し現象が発生するといった問題がある。このため、シリコーンゴムをベース材料として形成されたシリコーンゴム層の内周に、バリヤ性に優れるフッ素系ゴム(FKM)もしくはフッ素系ゴムとアクリル系ゴムのブレンドゴムまたはフルオロシリコーンゴムからなる内管ゴム層を設けるとともに、上記シリコーンゴム層上に補強糸層を形成し、さらに上記補強糸層上にシリコーンゴムまたはアクリル系ゴムからなる上ゴム層を形成し、オイルの滲み出し現象を抑制した、耐熱エアーホースが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−193152公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示された耐熱エアーホースは、そのフッ素系ゴム層(内管ゴム層)とシリコーンゴム層との間の接着性に問題があり、例えば先に述べた耐熱性、耐圧性が要求されるターボエアーホース用途に用いた場合、層間剥離を起こしやすく、それに起因し様々な不具合を生じるおそれがある。また、上記内管ゴム層に使用されるフッ素系ゴムは、通常、耐熱性に優れるポリオール加硫系のフッ素系ゴムであるが、この種のポリオール加硫系では、エンジンオイルに添加される粘度調整剤等に対する耐性(耐添加剤性)や、燃温上昇に伴って生じるサワー燃料に対する耐性(耐酸性)に劣る。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、層間接着力が高く耐久性に優れるとともに、耐酸性、耐添加剤性等に優れる耐熱エアーホースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明の耐熱エアーホースは、管状の内層と、その外周面に接して設けられる外層とを備えた耐熱エアーホースであって、上記内層が、下記の(A)〜(D)を必須成分とするゴム組成物を用いて形成されているという構成をとる。
(A)フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴム。
(B)有機過酸化物架橋剤。
(C)トリアリルイソシアヌレート。
(D)p−キノンジオキシム化合物。
【0008】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ホース内層を、バリヤ性に優れるフッ素系ゴム(FKM)層とすることが有利であることを確認した。また、現状ではポリオール加硫系FKMの使用しか確立されていないのであるが、前記のように、耐酸性や耐添加剤性の観点から、ポリオール加硫系のものは採用し難いことも確認した。そこで、本発明者は、内層用材料に、有機過酸化物加硫系(パーオキサイド架橋)のFKMを用い、これにより、耐酸性や耐添加剤性の問題を解消することを想起した。しかしながら、有機過酸化物加硫系FKMは、付着するエンジンオイル等によるソルベントクラックを生じやすく、さらには、外面ゴム(外層)との接着性にも劣っていた。そこで本発明者は、亀裂進展性(ソルベントクラック性)および層間接着性等の改良のため更に研究を重ね、その結果、上記内層の形成材料として、フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴムを用い、これに、共架橋剤として、トリアリルイソシアヌレートと、p−キノンジオキシム化合物とを加え、有機過酸化物加硫したところ、優れた層間接着性や引張永久ひずみ性(シール性)が得られるとともに、上記トリアリルイソシアヌレートによる共架橋結合部に部分的にp−キノンジオキシム化合物が介在して、緩やかな架橋構造を形成し、伸張時等の応力を緩和するため、上記亀裂進展性(ソルベントクラック性)の問題等も解消することができることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0009】
以上のように、本発明の耐熱エアーホースは、管状の内層(フッ素ゴム層)と、その外周面に接して設けられる外層とを備えており、上記内層が、フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴムと、有機過酸化物架橋剤と、トリアリルイソシアヌレートと、p−キノンジオキシム化合物とを必須成分とするゴム組成物を用いて形成されている。そのため、本発明の耐熱エアーホースは、優れた耐熱性および耐オイル滲み出し性を兼ね備え、かつ、層間接着性や引張永久ひずみ性が高いことから、品質信頼性にも極めて優れている。さらに、耐酸性、耐添加剤性等にも優れる。このことから、特に、高温高圧耐性が要求されるターボエアーホース等の耐熱エアーホースとして優れた性能を発揮することができる。
【0010】
特に、上記内層が、その必須成分とともに受酸剤として酸化マグネシウム(MgO)を含有するゴム組成物を用いて形成されていると、上記酸化マグネシウムが脱HF(フッ酸)の推進剤として機能し、層間接着性がより高くなる。
【0011】
また、上記内層が、その必須成分とともにスコーチ防止剤としてジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドを含有するゴム組成物を用いて形成されていると、内層のスコーチ性が改善され、押出加工成形性および層間接着性に、より優れるようになる。
【0012】
さらに、上記外層が、アクリルゴム(ACM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)等を用いて形成されていると、特に自動車用耐熱エアーホースとして優れた性能を発揮することができ、また、有機過酸化物加硫によって形成されている上記内層との層間接着性に、より優れるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0014】
本発明の耐熱エアーホースは、その内層が、特定の成分を含有するフッ素ゴムを用いて形成されていることを特徴とするものである。そして、その層構成は、例えば、図1に示すように、上記内層(フッ素ゴム層)1と、その外周面に接して設けられた外層2とからなる2層構成のものがあげられる。また、図2に示すように、上記外層2の外周面に補強糸層3を形成し、さらにこの補強糸層3の外周面に、ゴム製の最外層4を形成し、耐熱エアーホースを構成してもよい。また、図3に示すように、上記内層1と外層2との間に、補強糸層3を設け、その補強糸層3の織り目を介して、上記内層1と外層2との接着性(層間接着性)が得られるような構成としてもよい。
【0015】
本発明において、上記内層1は、先にも述べたように、フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴム〔(A)成分〕と、有機過酸化物架橋剤〔(B)成分〕と、トリアリルイソシアヌレート〔(C)成分〕と、p−キノンジオキシム化合物〔(D)成分〕とを必須成分とするゴム組成物を用い、形成されている。
【0016】
上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴムは、そのフッ素含有量が64〜69質量%のものが用いられる。上記フッ素含有量は、好ましくは66〜69質量%の範囲である。すなわち、上記フッ素含有量が64質量%未満であると、引張永久ひずみ性(シール性)に劣るからであり、逆に、69質量%を超えると、押出し加工性や低温性に劣るからである。
【0017】
ここで、上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴムとは、フッ素化された重合体であって、加硫すると常温でゴム弾性を有するものをいう。従来公知のフッ素ゴムはいずれも含まれ、代表的なフッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系、ビニリデンフルオライド/クロロトリフルオロエチレン系、テトラフルオロエチレン/プロピレン系、ヘキサフルオロプロピレン/エチレン系、パーフルオロアルキルビニルエーテル/オレフィン(テトラフルオロエチレン、エチレンなど)系、フルオロシリコン系、フルオロフォスファゼン系などのフッ素ゴムがあげられる。ヨウ素含有フッ素ゴムの例は、例えば、特公平5−63482号公報、特開平7−315234号公報に記載されている。すなわち、ヨウ素含有フッ素ゴムは、上記フッ素ゴムの単量体(例えば、ビニリデンフルオライドなど)に加えて、ヨウ素含有化合物〔例えば、パーフルオロ(6,6−ジヒドロ−6−ヨード−3−オキサ−1−ヘキセン)や、パーフルオロ(5−ヨード−3−オキサ−1−ペンテン)など〕を用いて重合すること等によって得ることができる。上記ヨウ素含有フッ素ゴムは、単独であるいは二種以上併せて用いられる。なかでも、有機過酸化物架橋による層間接着性やソルベントクラック性の観点から、上記フッ素ゴムの単量体が、ビニリデンフルオライド/ヘキサフルオロプロピレン系、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン系のものが好ましい。
【0018】
なお、上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴムの市販品としては、例えば、ダイキン工業社製のダイエルG801等が、好適なものとして使用することができる。
【0019】
上記(A)成分とともに用いられる有機過酸化物架橋剤〔(B)成分〕としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類や、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、α,α′−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキサイド類や、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トリオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類や、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウリレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクテート等のパーオキシエステル類や、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類等があげられる。これらは単独であるいは二種以上併せて用いられる。
【0020】
上記(B)成分の配合割合は、上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴム100重量部(以下、「部」と略す)に対し、0.1〜5部の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは0.2〜4部の範囲である。すなわち、上記有機過酸化物架橋剤〔(B)成分〕が0.1部未満であると、架橋が不充分となって、ホースの強度やシール性が劣るようになるからであり、逆に5部を超えると、硬くなりすぎ、ホースの柔軟性が損なわれる傾向がみられるからである。
【0021】
そして、本発明においては、上記(A)および(B)成分とともに、トリアリルイソシアヌレート〔(C)成分〕およびp−キノンジオキシム化合物〔(D)成分〕といった多官能性モノマー(共架橋剤)が、上記内層1形成用のゴム組成物の必須成分として用いられる。
【0022】
上記(D)成分のp−キノンジオキシム化合物は、下記の一般式(1)で示される化合物であることが好ましく、具体的には、p−ベンゾキノンジオキシム、p−p′−ジベンゾイルキノンジオキシム等があげられる。なお、このようなp−キノンジオキシム化合物は、従来の共架橋剤においてしばしば見受けられる昇華性、架橋制御困難性、臭気問題、層間発泡等の問題を生じないため、本発明において有利に用いられる。
【0023】
【化1】

【0024】
また、上記(C)成分および(D)成分の、(A)成分(ヨウ素含有フッ素ゴム)に対する配合割合は、ソルベントクラック性とホースの強度、シール性の観点から、上記(C)成分は、上記(A)成分100部に対し、0.1〜2部の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5部の範囲である。同様の観点から、上記(D)成分は、上記(A)成分100部に対し、0.05〜2部の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは0.1〜1部の範囲である。
【0025】
ところで、本発明の耐熱エアーホースにおける内層1形成用のゴム組成物において、その必須成分である上記(A)〜(D)の各成分に加え、必要に応じ、受酸剤として酸化マグネシウム〔(E)成分〕を含有させると、この酸化マグネシウムが脱HF(フッ酸)の推進剤として機能し、層間接着性がより高くなるため好ましい。
【0026】
上記(E)成分の配合割合は、上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴム100部に対し、0.1〜20部の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは1〜10部の範囲である。すなわち、この範囲内で酸化マグネシウム〔(E)成分〕を含有することにより、層間接着性等の改善効果が得られるようになるからである。
【0027】
また、上記(A)〜(D)の各成分に加え、必要に応じ、スコーチ防止剤としてジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド〔(F)成分〕を含有させると、内層のスコーチ性が改善され、押出加工成形性および層間接着性が、より優れるようになるため好ましい。
【0028】
上記(F)成分の配合割合は、上記(A)成分のヨウ素含有フッ素ゴム100部に対し、0.05〜2部の範囲に設定されていることが好ましく、より好ましくは0.1〜1部の範囲である。すなわち、この範囲内でジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド〔(F)成分〕を含有することにより、スコーチ性の改善効果が得られるようになるからである。
【0029】
なお、上記内層1用材料には、上記各成分とともに、カーボンブラック、加工助剤、着色料等を必要に応じて配合しても差し支えない。
【0030】
上記内層1の外周面に形成される外層2は、その形成材料として特に限定はないものの、上記外層2が、アクリルゴム(ACM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合ゴム(EPDM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)等を用いて形成されていると、特に自動車用耐熱エアーホースとして優れた性能を発揮することができ、しかも、上記材料が有機過酸化物架橋できることから、有機過酸化物架橋によって形成されている上記内層1との層間接着性に、より優れるようになる。そして、これら材料は、単独であるいは二種以上併せて用いられる。なお、上記外層2の形成材料中には、必要に応じて、カーボンブラック、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤、加工助剤、白色充填材、可塑剤、軟化剤、受酸剤、着色剤、スコーチ防止剤等を適宜添加してもよい。
【0031】
なお、図2および図3において、その層間に設けられる補強糸層3を形成する補強糸としては、例えば、ビニロン(ポリビニルアルコール)糸、ポリアミド(ナイロン)糸、アラミド糸、ポリエチレンテレフタレート(PET)糸等があげられる。
【0032】
上記補強糸の編み組み方法は、特に限定はなく、例えば、スパイラル編み、ニッティング編み、ブレード編み等があげられる。
【0033】
また、図2において、補強糸層3の外周に設けられる最外層4の形成材料としては、特に限定はないが、通常、上記外層2と同様のゴム組成物が用いられる。
【0034】
ここで、前記図1に示した耐熱エアーホースは、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、前記(A)〜(D)の各成分材料を準備し、必要に応じてその他の成分材料〔(E),(F)成分材料等〕も準備し、これらをオープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、内層1用材料組成物を調製する。また、適宜の材料を用い、同様の手法により、外層2用材料組成物も調製する。つぎに、上記内層1用材料組成物を円筒状に押出成形した後、その表面に接着剤を塗布することなしに(接着剤レスで)、直接、上記外層2用材料組成物を上記内層1用材料組成物上に押出成形し、これら各層を加硫することにより、内層1の外周面に外層2が形成されてなる耐熱エアーホースを得ることができる。なお、上記各層は、共押出成形により形成してもよい。
【0035】
また、前記図3に示した本発明の耐熱エアーホースは、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、上記と同様の手法で各層用の組成物を調製し、上記内層1用材料組成物を円筒状に押出成形した後、その表面に、補強糸をブレード状に編み組みする。ついで、上記補強糸の外周面に、上記外層2用材料組成物を押出成形し、これら各層を加硫することにより、内層1の外周面に補強糸層3が形成され、さらにこの補強糸層3の外周面に外層2が形成されてなる耐熱エアーホースを得ることができる。なお、図2に示すホースは、図1のホースの外周に、上記と同様の手法で補強糸層3を形成し、さらにこの補強糸層3の外周面に、最外層4形成用のゴム組成物を押出成形することにより、製造することができる。
【0036】
このようにして得られる本発明の耐熱エアーホースにおいて、ホース内径は30〜100mmの範囲内が好ましく、特に好ましくは30〜70mmの範囲内である。また、内層1の厚みは0.05〜20mmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.1〜10mmの範囲内であり、外層2の厚みは0.05〜20mmの範囲内が好ましく、特に好ましくは0.1〜10mmの範囲内である。
【0037】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0038】
まず、実施例および比較例に先立ち、下記に示す材料を準備した。
【0039】
〔FKMポリマー(A成分)〕
ダイエルG801(フッ素含有量66質量%のヨウ素含有フッ素ゴム)、ダイキン工業社製
【0040】
〔カーボンブラック〕
シーストS、東海カーボン社製
【0041】
〔MgO(E成分)〕
協和マグ#150、協和化学工業社製
【0042】
〔有機過酸化物架橋剤(B成分)〕
パーヘキサ25B−40〔2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン〕、日本油脂社製
【0043】
〔共架橋剤(i)(C成分)〕
タイク(トリアリルイソシアヌレート)、日本化成社製
【0044】
〔共架橋剤(ii)(D成分)〕
バルノックGM(p−ベンゾキノンジオキシム化合物)、大内新興化学工業社製
【0045】
〔スコーチ防止剤(F成分)〕
ノクセラーTRA(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド)、大内新興化学社製
【実施例】
【0046】
〔実施例1〜20、比較例1〜10〕
まず、上記準備した各成分材料を、下記の表1に示す割合でそれぞれ配合し、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、内層材料(フッ素ゴム層用材料組成物)a〜fを調製した。
【0047】
【表1】

【0048】
また、下記に示すように、外層材料(ACM層用材料組成物、AEM層用材料組成物、VMQ層用材料組成物、EPDM層用材料組成物およびEPM層用材料組成物)を調製した。
【0049】
〔ACM層用材料組成物の調製〕
ACMポリマー(ニポールAR31、日本ゼオン社製)100部と、加工助剤(ルナックS30、花王社製)1部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)65部と、可塑剤(アデカサイザーRS735、旭電化工業社製)5部と、老化防止剤(ナウガード445、クロンプトン社製)2部と、加硫剤(バルノックAB、大内新興化学社製)1.5部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層材料(ACM層用材料組成物)を調製した。
【0050】
〔AEM層用材料組成物の調製〕
AEMポリマー(VAMAC GLS、デュポン社製)100部と、加工助剤(ルナックS30、花王社製)2部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)60部と、老化防止剤(ナウガード445、クロンプトン社製)2部と、加工助剤(アーミン18D、ライオン・アクゾ社製)0.5部と、加工助剤(フォスファノールRL210、東邦化学工業社製)4部と、加硫剤(ダイアック#1、デュポン社製)1.5部と、加硫助剤(ノクセラーDT、大内新興化学社製)4部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層材料(AEM層用材料組成物)を調製した。
【0051】
〔VMQ層用材料組成物の調製〕
VMQポリマー(ELASTOSIL R760/70 OH、旭化成ワッカーシリコーン社製)100部と、加硫剤(DS−3、旭化成ワッカーシリコーン社製)1.8部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層材料(VMQ層用材料組成物)を調製した。
【0052】
〔EPDM層用材料組成物の調製〕
EPDMポリマー(エスプレン501A、住友化学工業社製)100部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)150部と、プロセスオイル(ダイアナプロセスPW380、出光興産社製)50部と、老化防止剤(ノンフレックスRD、精工化学社製)1部と、過酸化物架橋剤(パーヘキサ25B−40、日本油脂社製)7部と、架橋助剤(ハイクロスED、精工化学社製)3部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層材料(EPDM層用材料組成物)を調製した。
【0053】
〔EPM層用材料組成物の調製〕
EPMポリマー(エスプレン201、住友化学工業社製)100部と、カーボンブラック(シーストSO、東海カーボン社製)150部と、プロセスオイル(ダイアナプロセスPW380、出光興産社製)50部と、老化防止剤(ノンフレックスRD、精工化学社製)1部と、過酸化物架橋剤(パーヘキサ25B−40、日本油脂社製)7部と、架橋助剤(ハイクロスED、精工化学社製)3部とを、オープンロールあるいはニーダー等の密閉式混合機を用いて混練することにより、外層材料(EPM層用材料組成物)を調製した。
【0054】
〔ホースの作製〕
上記内層材料(フッ素ゴム層用材料組成物)a〜fおよび外層材料(ACM層用材料組成物、AEM層用材料組成物、VMQ層用材料組成物、EPDM層用材料組成物およびEPM層用材料組成物)を、後記の表2〜表6に示す組み合わせで用い、耐熱エアーホースを作製した。すなわち、内層材料を円筒状に押出成形した後、その表面に接着剤を塗布することなしに(接着剤レスで)、直接、上記外層材料を押出成形し、これら各層を蒸気加硫(160℃×45分)することにより、内層の外周面に外層が形成されてなる、二層構造の耐熱エアーホースを得た(図1参照)。なお、上記耐熱エアーホースは、その内層の厚みが2.5mm、外層の厚みが2.5mm、ホース内径40mmとなるよう、作製した。
【0055】
このようにして得られた各耐熱エアーホースを用い、下記の方法に従って各種特性を測定・評価した。これらの結果を、後記の表2〜表6に併せて示した。
【0056】
〔層間接着力〕
各ホースから、厚み3mm(内層の厚み1.5mm、外層の厚み1.5mm)、幅25.4mmの試験片を切り出し、その試験片の内層(フッ素ゴム層)を、引張試験機(JIS B 7721)を用いて、毎分50mmの速度で引き剥がし、その際の層間接着力(N/mm)を測定した。なお、本発明に要求される層間接着力は2.0N/mm以上である。
【0057】
〔亀裂進展性(ソルベントクラック性)〕
各ホースの内層から切り出したJIS1号ダンベルの中心にノッチ傷を入れ、このダンベルを50%伸張し、そのまま、150℃のディーゼルエンジンオイル(10W−30)に10秒ほど浸漬処理した。続いて、150℃雰囲気中に放置し、切断するまでの時間(分)を測定し、亀裂進展性(ソルベントクラック性)の評価を行った。
【0058】
〔引張永久ひずみ〕
各ホースの内層から切り出したJIS1号ダンベルを50%伸張(伸張後の標線間距離は60mm、元の標線間距離は40mm)し、そのまま、150℃で72時間、乾熱老化させた。その後、伸張を解除し、30分間室温冷却した後の標線間距離X(mm)を測定し、下記の数式(A)に従い、変化率を計算した。
【0059】
【数1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
上記結果から、全実施例品は、層間接着性および亀裂進展性(ソルベントクラック性)に優れた結果が得られた。さらに、内層の引張永久ひずみにおいても、良好な結果が得られた。
【0066】
これに対して、比較例1,3,5,7および9品は、内層材料に共架橋剤(ii)(p−キノンジオキシム化合物)を用いておらず、亀裂進展性(ソルベントクラック性)の評価に劣ることがわかる。比較例2,4,6,8および10品は、内層材料に共架橋剤(i)(トリアリルイソシアヌレート)を用いておらず、層間接着性や引張永久ひずみの評価に劣ることがわかる。
【0067】
ところで、全実施例に関し、その層間に補強糸層を介在させたところ(図3参照)、上述の全実施例に準じる諸性能が確認されたとともに、ホースの耐久性がより一層高くなることが確認され、例えば、ターボエアーホースのような高圧ホース用途として優れた性能を発揮しうるものであると認められた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の耐熱エアーホースは、耐熱性が要求されるエアーホース全般に使用することができ、なかでも、自動車用のエアー系ホース、詳しくは、エンジンに大量の酸素を高圧で導入し燃焼効率を向上させるためのエアー系ホース、より具体的には、ターボエアーホース等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の耐熱エアーホースの一例を示す構成図である。
【図2】本発明の耐熱エアーホースの他の例を示す構成図である。
【図3】本発明の耐熱エアーホースの他の例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0070】
1 内層
2 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状の内層と、その外周面に接して設けられる外層とを備えた耐熱エアーホースであって、上記内層が、下記の(A)〜(D)を必須成分とするゴム組成物を用いて形成されていることを特徴とする耐熱エアーホース。
(A)フッ素含有量が64〜69質量%のヨウ素含有フッ素ゴム。
(B)有機過酸化物架橋剤。
(C)トリアリルイソシアヌレート。
(D)p−キノンジオキシム化合物。
【請求項2】
上記内層が、上記(A)〜(D)の必須成分とともに、受酸剤として下記の(E)成分を含有するゴム組成物を用いて形成されている請求項1記載の耐熱エアーホース。
(E)酸化マグネシウム。
【請求項3】
上記内層が、上記(A)〜(D)の必須成分とともに、スコーチ防止剤として下記の(F)成分を含有するゴム組成物を用いて形成されている請求項1または2記載の耐熱エアーホース。
(F)ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド。
【請求項4】
上記外層が、アクリルゴム(ACM)、エチレン−アクリルゴム(AEM)、シリコーンゴム(VMQ)、エチレン−プロピレン−ジエン系三元共重合ゴム(EPDM)およびエチレン−プロピレンゴム(EPM)からなる群から選ばれた少なくとも一つを用いて形成されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の耐熱エアーホース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−195039(P2008−195039A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−35519(P2007−35519)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】