説明

耐熱性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物、その発泡シート並びに成形品

【課題】結晶化速度及び発泡性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその発泡シート並びに発泡シート成形品を提供する。
【解決手段】下記の5成分より構成される脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
(A)脂肪族ポリエステル
(B)層状珪酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる有機化層状珪酸塩
(C)タルク
(D)非イオン性界面活性剤
(E)カルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位をその構成単位として含むビニル重合体

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度及び発泡性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物に関する。更に詳しくは、耐熱性に優れた食品包装トレーやホット飲料用カップの用途に使用される発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、等に代表される脂肪族ポリエステル樹脂は、土中や水中に存在する微生物によって分解される生分解性や、地球温暖化防止のための炭酸ガス排出量の削減等、環境保全の点から近年注目が高まっている。特に食品包装用資材、自動車用材料、農業資材など、様々な用途でその使用が広まっている。
特にポリ乳酸は、トウモロコシ等の再生可能な植物資源から大量生産ができるため生産コストも安く、溶融成形加工も可能なため有用性が高い。しかしながら、ポリエチレン、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート等の非生分解性の汎用樹脂に比べて、ポリ乳酸の結晶化速度は著しく遅いために、実際には非晶性樹脂に近い挙動を示す。すなわち、ガラス転移温度付近で急激に且つ極度に軟化するため、耐熱性、成形性、離型性、耐衝撃性などの点で十分な特性を得ることが困難であった。
【0003】
また、ポリ乳酸はポリエチレン、ポリスチレン等の汎用発泡製品に用いられる樹脂に比べて溶融張力が低く、例えば押出発泡成形をする際に気泡膜が破膜して発泡体を形成し得なかったり、例え発泡体を形成できたとしても充分な発泡倍率が得られないという問題があった。更には得られた発泡体を熱成形して成形品を得る場合にも、先に述べた結晶化速度の低さから、その成形サイクルが長くなって生産効率が悪化したり、得られた成形品の耐熱性が充分でないために、高温時に変形したり寸法安定性が劣るなどの問題があった。
そこで、これらの問題を解決すべく、特許文献1においては、ポリ乳酸を主成分とする樹脂組成物に架橋剤と固体粒子状物質を添加することによって、また特許文献2には、低分子量化されたポリ乳酸樹脂にイソシアネート化合物を添加することによって、高結晶性を付与することが開示されており、それら樹脂を発泡させることで耐熱性のある発泡シートが得られるとしている。また、特許文献3には、生分解性ポリエステル樹脂と、メタアクリル酸エステル化合物、層状ケイ酸塩を含むことによって耐熱性、機械強度、発泡加工適性に優れる組成物が得られる事が開示されている。また、特許文献4には、ポリ乳酸を主体とした生分解性ポリエステル樹脂と層状珪酸塩の複合化によって、荷重0.98MPaでの熱変形温度が顕著に向上し、耐熱性及び機械特性が改善できるとしている。
【0004】
しかしながら、上記の従来技術の場合、ある程度の結晶化速度の向上と発泡性の改善は認められるものの、その効果は未だ十分とは呼べず、このため十分な耐熱性を有する発泡シートや発泡シート成形品を得るためには、成形時間を著しく長く取るか成形後に熱処理する必要がある。成型時間を長く取ることは著しい生産性低下を引き起こすため、工業的には致命的な欠点となる。一方、成型後に熱処理する場合は、熱処理時に発泡シートや発泡シート成形品が変形したり、寸法精度が低下してしまうというなどの問題があり、実用化されていないのが実情である。
【特許文献1】特開2002−3709号公報
【特許文献2】特開2002−155197号公報
【特許文献3】国際公開第04/099315号パンフレット
【特許文献4】特開2003−261756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は結晶化速度及び発泡性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその組成物を発泡成形して得られる発泡シート並びに該発泡シートを熱成形した発泡シート成形品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記5成分を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物は結晶化速度が非常に速く、また発泡性にも優れるため、短い成形時間で非常に高い耐熱性を持つ発泡成形品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
(A)脂肪族ポリエステル
(B)層状珪酸塩を有機オニウム塩によって処理することで得られる有機化層状珪酸塩
(C)タルク
(D)非イオン性界面活性剤
(E)カルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位をその構成単位として含むビニル重合体
【0007】
すなわち本発明は、下記の通りである。
1.脂肪族ポリエステル(A)、層状珪酸塩を有機オニウム塩で処理することで得られる有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、非イオン性界面活性剤(D)、及びカルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位をその構成単位として含むビニル重合体(E)を含有することを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
2.前記脂肪族ポリエステル(A)40〜99.85重量%、前記有機化層状珪酸塩(B)0.05〜10重量%、前記タルク(C)0.05〜30重量%、及び前記非イオン性界面活性剤(D)0.05〜20重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、前記ビニル重合体(E)を0.1〜5.0重量部含有することを特徴とする1.に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
3.前記有機オニウム塩が極性基を有することを特徴とする1.または2.に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
4.前記極性基が水酸基であることを特徴とする3.に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
5.前記非イオン性界面活性剤(D)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ジ脂肪酸ポリオキシエチレングリコール、モノ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である1.〜4.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
6.前記非イオン性界面活性剤(D)が、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルであることを特徴とする1.〜4.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
7.前記ビニル重合体(E)のカルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基がエポキシ基であることを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
8.前記脂肪族ポリエステル(A)がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1.〜7.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
9.1.〜8.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を発泡成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート。
10.1.〜8.のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を炭酸ガスを発泡剤として発泡成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート。
11.9.または10.に記載の脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートを熱成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は結晶化速度が高く発泡性に優れるため、耐熱性に優れた発泡シート及びその成型品を短い成形時間で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明について、特にその好ましい形態を中心に、具体的に説明する。
本発明における脂肪族ポリエステル樹脂は特に限定はないが、生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂が好適に用いられる。そのような脂肪族ポリエステルとしては、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートカーボネート、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコール、ポリエステルアミド、ポリエステルカーボネート、ポリケトン、澱粉等の多糖類等が挙げられる。本発明においては、これらの樹脂は単独で用いてもよく、複数の樹脂成分を共重合又は混合することで組み合わせて使用してもよい。
【0010】
本発明においては、上述の脂肪族ポリエステル樹脂の中でも機械強度や透明性に優れ、汎用性に富むポリ乳酸が好適に用いられる。ポリ乳酸の重量平均分子量は特に制限されないが、好ましくは50,000以上であり、さらに好ましくは100,000以上である。また、ポリ乳酸がD体乳酸原料とL体乳酸原料との共重合体である場合、D体乳酸原料又はL体乳酸原料のうちの一方の含有割合が90mol%以上であることが好ましく、95mol%以上であることがより好ましく、98mol%以上であることがさらに好ましい。当該ポリ乳酸はD体、L体、DL体のいずれの重合体であってもよい。また、構成成分の主体がD体であるポリ乳酸と、構成成分の主体がL体であるポリ乳酸とが任意の割合でブレンドされたものを用いてもよい。
【0011】
また、本発明においては、結晶性を更に高める目的で、重量平均分子量が14万以下のポリ乳酸を添加することもできる。重量平均分子量が14万以下のポリ乳酸は分子鎖の運動性が高く、より速く結晶を形成することができ、その結晶を核として全体の結晶化が速く進行する。この低分子量のポリ乳酸は、重合によって直接得たものでも、また高分子量のポリ乳酸を加水分解または加熱分解処理を施すことによって得たものでも構わない。加水分解による低分子量化は、高分子量のポリ乳酸を含水させ、ガラス転移温度以上で加熱する方法が挙げられる。
ポリ乳酸樹脂の融点は、特に限定されるものではないが、120℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがさらに好ましく、160℃以上であることが特に好ましい。ポリ乳酸樹脂の融点は、通常乳酸成分の光学純度を高くすることにより高くなり、融点が120℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が90mol%以上含まれるか、又はD体が90mol%以上含まれることにより、また融点が150℃以上のポリ乳酸樹脂は、L体が95mol%以上含まれるか、又はD体が95mol%以上含まれることにより、得ることができる。
【0012】
これらポリ乳酸の具体的な例としては、Nature Works社製、商品名、「NatureWorks」、三井化学社製、商品名、「レイシア」、トヨタ自動車社製、商品名、「U’z」などが挙げられる。
本発明における層状珪酸塩としては、ピロフィライト、スメクタイト、バーミキュライト、マイカなどの粘土鉱物が挙げられるが、これらは天然に存在するものを精製したものであっても、水熱法など公知の方法で合成したものであってもよい。本発明において用いられる層状ケイ酸塩の具体例としては、モンモリロナイト、ヘクトライト、バイデライト、サポナイト、合成フッ素化マイカなどが挙げられる。例えば、モンモリロナイトの例としては、SouthernClay社製、商品名、「CloisiteNa」、クニミネ工業社製、商品名、「クニピアRG」などが、合成フッ素化マイカの例としてはコープケミカル社製、商品名、「ソマシフME100」などが挙げられる。
【0013】
本発明における有機化層状珪酸塩とは、層状珪酸塩の層間に存在する陽イオンを有機オニウム塩と交換処理することによって層状珪酸塩を有機化したものである。
本発明における有機オニウム塩とは、有機物成分とルイス塩基が配位結合をつくることによって生成された塩を指し、4級アンモニウム塩、有機ホスホニウム塩、有機スルホニウム塩等がこれに相当する。また、酸性の極性溶媒に溶解させた際に陽イオン性を呈する有機アミン化合物や、両性イオン化合物などもこれに相当するが、下記式(1)に示すような4級アンモニウム塩、又は陽イオン化した有機アミン化合物が好適に用いられる。
【0014】
【化1】

【0015】
式中、R、R、R、及びRはそれぞれ、水素、又はメチル、エチル、ラウリル、セチル、オレイル、イソステアリル、ステアリル等に代表される飽和若しくは不飽和炭化水素である。該炭化水素は直鎖であっても分岐構造を有していてもよく、エポキシ化されていてもよい。また炭化水素鎖は、牛脂やヤシ油に代表されるような天然物から誘導したものであってもよい。またシクロアルカンや芳香環、エステル構造を有していてもよく、ベタイン類のようにカルボン酸を有していてもよい。また、R〜Rの炭化水素鎖のうち少なくとも一つは、10以上の炭素数を有することが好ましい。最長の炭化水素鎖を構成する炭素数が10未満である場合、有機化層状ケイ酸塩と脂肪族ポリエステルとの親和性が不十分であり、十分な物性の改善が得られない場合がある。Xは陰イオンを示し、特に限定されないが、主に塩化物イオンや臭化物イオンなどのハロゲン化物イオンが該当する。
【0016】
本発明における極性基とは、水酸基や、カルボン酸基、カルボン酸誘導体、カルボン酸無水物、ニトロ基、イミド基などの極性を持つ官能基を意味する。中でも水酸基を有するものが好ましい。以下詳細に説明する。
水酸基はヒドロキシアルキレン基、ポリオキシアルキレン基等の形で存在してもよい。本発明における有機オニウム塩中の水酸基の位置は特に限定はないが、有機オニウム塩としてアンモニウム塩、アミンなどを用いる場合は窒素原子近傍に水酸基が結合したものが好適に用いられる。これらの例としては硬化タロウジエタノールアミンやドデシルジエタノールアミン、メチルオクタデシルジヒドロキシエチルアンモニウムクロリド、メチルドデシルジヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドが挙げられる。またポリオキシアルキレン基を含んだ有機アンモニウム化合物の例としては、ポリオキシエチレンオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド、メチルジポリオキシプロピレンオクタデシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。これらポリオキシアルキレン基の付加モル数については任意のものを使用することができる。
【0017】
このような構造を有する有機アミン又は有機オニウム塩の一例としては、青木油脂工業社製、商品名、「ブラウノンS−202」、「ブラウノンS−204」、「ブラウノンS−205T」、「ブラウノンL−202」、ライオンアクゾ社製、商品名、「エソミンC/12」、「エソミンHT/12」、「エソミン18/12」、「エソカードC/25」、「エソカードC/12」、花王社製、商品名、「アンヒトール20BS」、「アンヒトール24B」、「アンヒトール86B」などが挙げられる。
【0018】
本発明において、有機化層状珪酸塩を合成する方法としては特に制限はなく、公知の手法を用いることができる。例えば有機オニウム塩を用いる場合には、次のような方法により層状珪酸塩の有機化を行うことができる。ミキサー等を用いて層状珪酸塩の粉末を水中に分散させ層状粘土鉱物の水分散物を得る。これとは別に、有機オニウム塩の水溶液を調製する。この水溶液を上記層状粘土鉱物の水分散物に加え混合することにより、層状粘土鉱物中の無機イオンが有機オニウム塩から生じた有機オニウムイオンによりイオン交換される。この混合物から水を除去することにより有機化された層状粘土鉱物を得ることができる。有機アンモニウム塩や層状粘土鉱物の分散媒体としては、水以外にもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール及びこれらの混合物、並びにこれらと水との混合物を使用することができる。有機化剤としてアミン化合物や両性イオン化合物を用いる場合においては、塩酸等により親水性溶媒を酸性にしてアミン化合物や両性イオン化合物を陽イオン化した上でイオン交換を行う方法を用いることができる。
【0019】
これらの有機化層状珪酸塩の具体例としては、例えばSouthern Clay社製、商品名、「Cloisite15A」、「Cloisite20A」、「Cloisite25A」、コープケミカル社製、商品名、「ソマシフMAE」、「ソマシフMTE」などが挙げられる。また、水酸基を含有する有機オニウム塩で処理された有機化層状珪酸塩の具体例としては、SouthernClay社製、商品名、「Cloisite30B」、コープケミカル社製、商品名、「ソマシフMEE」、「ソマシフMPE」などが挙げられる。
これらの水酸基を含有する有機オニウム塩で処理することで得られる有機化層状珪酸塩を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、結晶化処理を施した際に脂肪族ポリエステル樹脂の結晶化を促進して、結晶化度を向上させる効果(Template効果)があり、結果として得られる成型体の耐熱性は向上する。また、これらの有機化層状珪酸塩を含有することにより、成型体の剛性が向上するという効果もある。
【0020】
本発明におけるタルクの種類に特に限定はないが、その平均粒径は小さいほど好ましい。好ましくは15ミクロン以下で、より好ましくは5ミクロン以下、更に好ましくは2ミクロン以下である。粒子径が15ミクロン以下のタルクの例としては、例えば富士タルク工業社製、商品名、「LMP100」、「LMP200」、松村産業社製、商品名、「ハイフィラー#5000PJ」などがあり、中でも「ハイフィラー#5000PJ」は粒子径が小さく本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化速度を高める効果が強い。また、このようなタルクは、樹脂との接着性を向上させるために表面処理を施していてもよい。このようなタルクは、市販されており、日本タルク(株)、富士タルク工業(株)等から販売されている。
【0021】
本発明における非イオン性界面活性剤は、親水部と疎水部とから構成される。
疎水部の構造としては、ラウリル基、セチル基、オレイル基、イソステアリル基、ステアリル基等に代表される飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられ、該炭化水素は直鎖であっても分岐構造を有していてもよく、エポキシ化されていてもよい。また、牛脂やヤシ油に代表されるような天然物から精製した脂肪酸から誘導したものであってもよい。また構造中にロジンやラノリンのようなシクロアルカン構造や、ベンゼンやフェノール類などの芳香族構造、又はアクリレートやメタクリレートなどのエステル構造を有していてもよい。またベタイン類のようにカルボン酸を有していてもよい。親水部の構造としては、ヒドロキシアルキレン、ポリオキシアルキレン、カルボキシル、エステル、アミン構造のうちいずれかを有していることが好ましい。より好ましくはヒドロキシアルキレン、ポリオキシアルキレン構造である。
【0022】
このような条件を満たす非イオン性界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラノリンエーテル、ポリオキシエチレンロジンエステル、ポリオキシエチレンステアリン酸エステル、ジ脂肪酸ポリオキシエチレングリコール、モノ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル(ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル)、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ヒドロキシステアリン酸オクチル、ヒドロキシステアリン酸コレステリル、ステアリルジエタノールアミン、ドデシルジエタノールアミン等が挙げられる。このような範囲の構造を有する非イオン性界面活性剤の具体例として、日本エマルジョン社製、商品名、「エマレックス602」、「エマレックス703」、「エマレックス805」、「エマレックス1605」、「エマレックス600di−S」、「エマレックスET−8020」、「エマレックスGWIS−120」などのエマレックスシリーズが挙げられる。
【0023】
これらの非イオン性界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ジ脂肪酸ポリオキシエチレングリコール、モノ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化速度を向上させる効果が高い。
更にこれらの中でポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。これらのポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステルついて更に詳しく説明する。
【0024】
下記式(2)に示すようなポリオキシエチレンアルキルエーテルの中でも、アルキル基の炭素鎖長(R)が12〜18であるポリオキシエチレンアルキルエーテルが好ましい。炭化水素部分(R)の構造としては、飽和、不飽和の両方が使用できる。炭素鎖長としては、18のポリオキシエチレンステアリルエーテルが更に好ましい。これらの例として、「エマレックス602」、「エマレックス610」、「エマレックス620」、「エマレックス630」、「エマレックス640」などが挙げられる。親水部については、ポリオキシエチレンの付加モル数(n)は2以上50以下程度が好ましい。より好ましくは5〜25程度、更に好ましくは、20程度である。また、末端の水酸基は封鎖されてない方が良い。この非イオン性界面活性剤の例としては、「エマレックス620」が挙げられる。
【0025】
【化2】

【0026】
下記式(3)に示す脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルについて説明する。脂肪酸の炭化水素部分(R)の構造としては、飽和、不飽和の両方が使用できる。脂肪酸の炭素鎖長(R)は11〜17のものが好ましく、特に炭素数が17であるステアリン酸ポリオキシエチレングリセリルが好ましい。この場合、ステアリン酸はイソ構造になっていても良い。また、3つの水酸基の中で、全てが脂肪酸エステル化されているトリ脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、或いは2つが脂肪酸エステル化されているジ脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルも用いることができるが、2つの水酸基がそのまま残っている、モノ脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルが好ましい。また、ポリオキシエチレンの付加モル(a+b+c)としては、3以上60以下くらいのものが好ましく用いられるが、より好ましくは、5以上30以下であり、更により好ましくは20程度である。この例として、「エマレックスGWIS−120」などが挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
下記式(4)に示すポリグリセリン脂肪酸エステルについては、脂肪酸の炭化水素部分(R)の構造としては、飽和、不飽和の両方が使用できる。脂肪酸の炭素鎖長(R)は11〜17のものが好ましく、特に炭素数が17であるポリグリセリンステアリン酸エステルが好ましい。ポリグリセリンの重合度nについては、1〜30程度が好ましい。より好ましくは10〜20である。この構造の例としては、理研ビタミン社製、商品名、「ポエムJ−0081HV」等が挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
これらのポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、結晶化促進効果が高いだけではなく、押出シート成形や発泡シート成形、真空圧空成形のプロセス適性にも優れる、本発明で好適に用いられる。中でも脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルは、成形加工時のベトツキが少なく展延性に優れるので、本発明で特に好適に用いられる。
本発明におけるビニル重合体は、カルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位をその構成単位として含む。このビニル重合体の添加により、脂肪族ポリエステル樹脂の鎖延長反応や架橋反応が起こり、溶融張力の向上や伸長時の歪硬化性発現をはかることができる。これらの改良効果は、溶融押出時のドローダウン防止や、加水分解による分子量低下抑制に有効であるばかりでなく、先に述べた本発明の樹脂組成物が持つ高い結晶化性能と相まって、発泡成形における気泡成長時の膜の安定化や均一化、固化に至るまでの気泡の合一を抑制する等、発泡適性を大きく向上させることができる。またカルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位はビニル重合体に対し5〜95重量%の範囲が好ましい。
【0031】
カルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基としては、酸無水物基、エポキシ基、オキサゾリン基などが挙げられるが、本発明においては特にエポキシ基を有する単量体が好ましい。エポキシ基を有する単量体の場合、カルボキシル基との反応性を適度に高めることができ、また、本発明の樹脂組成物が持つ高い結晶化性能を阻害しにくい。なお、この場合のビニル重合体のエポキシ価は0.5〜5.0meq/gであることが好ましく、より好ましくは1.0〜3.0meq/gである。「meq/g」はビニル重合体1g当たりに含まれるエポキシ基のミリモル数を意味する。エポキシ価が0.5meq/g未満の場合、脂肪族ポリエステル樹脂との相溶性やドローダウンが悪化し、5.0meq/gを超えると、脂肪族ポリエステル樹脂との架橋反応が著しく進み、安定な成形が難しくなる。エポキシ基を含む単量体の具体例としては、例えばグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレート等が挙げられる。
【0032】
このビニル重合体を構成するその他の単量体としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン等の芳香族環を有する単量体や、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
特に好ましい単量体単位の組み合わせを持つビニル重合体は、グリシジルメタクリレート単位とスチレン単位を有する重合体、またはグリシジルアクリレート単位とスチレン単位を有する重合体である。
【0033】
これらの条件を満たすビニル重合体の具体例として、東亞合成社製、商品名、「ARUFON UG−4030」、「ARUFON UG−4040」、「ARUFON UG−4070」、上記UG−4040の拡散性及び分散性を向上させたポリ乳酸ベースのマスターバッチグレード、「ARUFON XGM−4540(UG−4040濃度=30重量%)」、日本油脂社製、商品名、「モディパーA4100」、「モディパーA4200」等が挙げられる。
本発明の樹脂組成物中における脂肪族ポリエステル(A)、有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、及び非イオン性界面活性剤(D)の成分比としては、これら4成分の合計量に対して、脂肪族ポリエステル(A)40〜99.85重量%、有機化層状珪酸塩(B)0.05〜10重量%、タルク(C)0.05〜30重量%、非イオン性界面活性剤(D)0.05〜20重量%とすることが好ましい。より好ましくは脂肪族ポリエステル(A)60〜99.3重量%、有機化層状ケイ酸塩(B)0.1〜10重量%、タルク(C)0.1〜20重量%、非イオン性界面活性剤(D)0.5〜10重量%であり、更に好ましくは脂肪族ポリエステル(A)82.0〜94.0重量%、有機化層状ケイ酸塩(B)1.0〜5.0重量%、タルク(C)3.0〜8.0重量%、非イオン性界面活性剤(D)2.0〜5.0重量%である。
【0034】
有機化層状珪酸塩(B)が0.05重量%よりも少ないと、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化度向上効果は小さい傾向にある。一方10重量%より多い場合は、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が脆化し、衝撃強度が弱くなる場合がある。タルク(C)が0.05重量%未満の場合は、結晶化速度が向上せず、最終的に得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物の耐熱性は低い場合がある。一方、タルクが30重量%より多い場合は、得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が脆化し、衝撃強度が弱くなる場合がある。非イオン性界面活性剤(D)が0.05重量%未満の場合は、結晶化速度が向上せず、最終的に得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物の耐熱性は低い場合がある。一方、非イオン性界面活性剤が20重量%より多い場合は、成型体から非イオン性界面活性剤がブリードアウトして外観が損なわれたりすることもある。
【0035】
また、本発明におけるビニル重合体(E)の添加量は、脂肪族ポリエステル(A)、有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、及び非イオン性界面活性剤(D)からなる前記樹脂組成物100重量部に対し、0.1〜5.0重量部であることが好ましく、より好ましくは、0.3〜3.0重量部である。ビニル重合体(E)が0.1重量部より低い場合、鎖延長反応や架橋反応の程度が低くなり、溶融張力の向上や伸長時の歪硬化性の発現が小さく、発泡適性の大きな向上が見込めない場合がある。一方、ビニル重合体(E)が5.0重量部より多い場合は、脂肪族ポリエステル樹脂の架橋反応が著しく進み安定な成形が困難になるばかりか、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の結晶化を阻害し、耐熱性が低くなる可能性がある。
【0036】
また、本発明の組成物には、所望により当該技術分野において用いられる公知の添加剤、すなわち可塑剤、熱安定化剤、酸化防止剤、結晶化促進剤、難燃剤、離型剤、更に下記のような有機充填剤(籾殻、木材チップ、おから、古紙粉砕材、衣料粉砕材、綿繊維、麻繊維、竹繊維、木材繊維、ケナフ繊維、ヘンプ繊維、ジュート繊維、バナナ繊維、ココナッツ繊維などの植物繊維、及び絹、羊毛、アンゴラ、カシミヤ、ラクダなどの動物繊維、紙粉、木粉、竹粉、セルロース粉末、籾殻粉末、果実殻粉末、キチン粉末、キトサン粉末、タンパク質、澱粉など)を添加することができる。
【0037】
また、本発明における脂肪族ポリエステル樹脂組成物には、当該分野において用いられる耐衝撃性向上剤を添加することで、得られる成型体の衝撃強度を向上させることができる。例えば下記の各種耐衝撃改良剤などから選ばれる少なくとも1種のものを用いることができる。すなわち、ポリエチレン、ポリプロプレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、各種アクリルゴム、エチレン−アクリル酸共重合体及びそのアルカリ金属塩(いわゆるアイオノマー)、エチレン−グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−アクリル酸アルキルエステル共重合体(たとえば、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アクリル酸ブチル共重合体)、酸変性エチレン−プロピレン共重合体、ジエンゴム(たとえばポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリクロロプレン)、ジエンとビニル単量体との共重合体(例えばスチレン−ブタジエンランダム共重合体、スチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレンランダム共重合体、スチレン−イソプレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、ポリブタジエンにスチレンをグラフト共重合せしめたもの、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体)、ポリイソブチレン、イソブチレンとブタジエン又はイソプレンとの共重合体、天然ゴム、チオコールゴム、多硫化ゴム、ポリウレタンゴム、ポリエーテルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。エラストマーをマレイン酸変性したもの、又はアミン変性もの等も好ましく用いることができる。これらのエラストマーの例として、旭化成ケミカルズ社の水添スチレン系熱可塑性エラストマー、商品名、「タフテックM1911」、「タフテックM1913」、「タフテックM1943」、又は、同じく旭化成ケミカルズ社製の末端アミン変性エラストマーである「TDM19」、三菱レイヨン社製「メタブレン」シリーズ、住友化学社製の「ボンドファーストE」などが挙げられる。
【0038】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製法に特に限定はなく、公知の脂肪族ポリエステル混錬技術、すなわち、脂肪族ポリエステル(A)、有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、非イオン性界面活性剤(D)、ビニル重合体(E)を溶融混練することによって調製することができる。中でも混錬時に効率的にせん断応力をかけることで分散性を高められる二軸押出機による混錬方法が好適に用いられる。その際、有機化層状珪酸塩、タルク、非イオン性界面活性剤、ビニル重合体の添加方法及び順序には特に限定は無いが、ビニル重合体は脂肪族ポリエステル樹脂と共に予め二軸押出機で混練して充分に分散性と拡散性を高めたマスターバッチにして添加することが好ましい。
【0039】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、一般的な発泡成形法を用いて発泡成形し、脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートとすることができる。例えば、上記の方法で調整した脂肪族ポリエステル樹脂組成物を押出機に供給し、融点以上の温度で加熱溶融混練した後、揮発性物理発泡剤を圧入して混練し、樹脂温度を適正な発泡温度に調整してダイから大気圧下へ押出して発泡させて、発泡シートを得る物理発泡成形法、樹脂組成物の溶融温度で分解する有機系及び無機系分解型発泡剤を予めブレンドしておき、押出機で溶融混練後、ダイから押出して発泡シートを得る化学発泡成形法、分解型発泡剤を練り込んだ樹脂組成物を分解温度未満で押出して未発泡シートを得た後、加圧及び常圧のもとで分解温度以上に加熱して発泡させる加熱発泡成形法等がある。
【0040】
なお、物理発泡成形法で用いられる押出機は、押出機中に発泡剤を圧入することができる定量ガス供給装置を備えた押出機であればその構成に限定はなく、単軸−単軸タンデム型押出機、2軸押出機、2軸−単軸タンデム型押出機等の一般的な発泡シート製造用押出機を用いることができる。これらの押出機の中でも、2軸−単軸のタンデム型が好ましい。2軸−単軸タンデム型押出機を用いることで、樹脂組成物中への発泡剤の分散と、適正な発泡温度への冷却の役割を分けて制御しやすくなる。すなわち、1段目に混練効果の高い2軸押出機を用いることで、樹脂組成物中への発泡剤の分散効果を高め、2段目の単軸押出機中で剪断による発熱を抑制しながら適正な発泡温度へ調整することが可能となり、外観及び独立気泡率等の良好な発泡シートが得られやすくなる。
【0041】
物理発泡成形法で用いられる揮発性物理発泡剤としては、プロパン、ノルマルブタン、イソブタン、ノルマルペンタン、イソペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、メチルクロライド、エチルクロライド等のハロゲン化脂肪族炭化水素、炭酸ガス、窒素等の不活性等が挙げられる。これら発泡剤は単独で用いても、2種以上を混合して用いても構わないが、環境適合性の点からは、脂肪族炭化水素や不活性ガスを主成分とするが好ましく、特に、食品包装用トレーなどの用途に用いる際には、発泡成形直後から空気との置換が速やかに行なわれ、発泡シート中に残存しにくい二酸化炭素が好ましい。なお、物理発泡成形法においては、これら揮発性物理発泡剤と後で述べる化学発泡剤を併用してもよい。
【0042】
化学発泡成形法で用いられる化学発泡剤としては、有機系及び無機系の分解型発泡剤があり、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)やバリウムアゾカルボキシレート(Ba−AC)に代表されるアゾ化合物、ヒドラジド化合物、N,N−ジニトロソペンタメチレンテトラミン等のニトロソ化合物、ヒドラジン化合物、テトラゾール化合物、エステル化合物、重炭酸塩、炭酸塩、亜硝酸塩等が挙げられる。
物理発泡成形法、化学発泡成形法に用いられるダイは、環状ダイやTダイ等が挙げられるが、均一な厚みの発泡シートを得るためには環状ダイが好ましい。環状ダイを用いて発泡すると円筒状の発泡体が得られるので、該発泡体を円柱状の冷却装置に沿わせて引き取り、押出方向に切り開くことで広幅の発泡シートが得られる。
【0043】
本発明で得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートの密度は30〜850kg/mであることが好ましく、よりに好ましくは80〜650kg/m、更に好ましくは125〜350kg/mである。密度が30kg/mより低い場合は、得られる成形品の強度が低下するおそれがあり、また熱成形性が悪くなり金型通りの寸法精度の成形品を得ることが難しくなる傾向にある。一方、密度が850kg/mより大きい場合は、発泡シートの特徴である軽量性、断熱性、緩衝性、回復性、柔軟性等が損なわれる可能性がある。
本発明の発泡シートの厚みは0.2〜7.0mmが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0mm、更に好ましくは0.8〜1.5mmである。厚みが0.2mmより薄い場合は、熱成形時の加熱により発泡シートが破れたり、得られる成形品の強度が低下するおそれがある。一方、厚みが7.0mmより厚い場合は、熱成形性が悪くなり、成形品の厚み斑が大きくなる可能性がある。
【0044】
本発明の発泡シートの気泡サイズは0.05〜1.5mmが好ましく、より好ましくは0.1〜1mm、更に好ましくは0.2〜0.8mmである。気泡サイズが0.05mmより小さい場合は、熱成形時の加熱により気泡膜が破れ易く成形が困難になる可能性があり、一方、気泡サイズが1.5mmより大きい場合は、発泡シートの平滑性や成形品の美粧性が損なわれる可能性がある。
本発明で得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートは、その密度、シート厚み、気泡サイズを適宜調整することで、自動車用や建材用の部材、緩衝材等に好適に用いることができる。また、加熱軟化させ、金型を使用して、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法、更にそれらを応用したマッチホールド成形法、プラグアシスト成形法等の熱成形を行なうことにより、食品包装用トレー、丼ぶり状容器、弁当容器、飲料用カップ等にも成形することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により限定するものではない。
本発明で用いられる指標、測定法などは以下の通りである。
(1)脂肪族ポリエステル樹脂組成物の調製
脂肪族ポリエステル樹脂(A)、有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、ビニル重合体(E)を予め所定の比率でドライブレンドしたものを、スクリュー径30mmの同方向2軸押出機(日本製鋼所(株)製TEX30α(商品名))のホッパーから投入して、バレル温度150〜180℃、スクリュー回転数180rpmで溶融混練を行い、押出機途中に設けられたベント孔より非イオン性界面活性剤(D)を添加して、更に混練を行なった。押出機先端に取り付けられたマルチノズルダイより押出してストランドとし、冷水槽で冷却後にカットした。その後、80℃で24時間以上乾燥して、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。
【0046】
(2)DSC評価1(等温結晶化)
上記(1)で得られた本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを、試料量5〜10mgとしてアルミニウム製パンに挟み、熱示差分析装置(パーキンエルマー社製、商品名、PYRIS Diamond DSC)を用いて、90℃での結晶化に要する時間(t)を測定した。測定は窒素雰囲気下で行い、測定の際には以下のステップの順で温度を変化させた。
ステップ1:200℃で1分間定温保持し融解
ステップ2:降温速度100℃/分で200℃から30℃まで降温
ステップ3:30℃で1分間定温保持
ステップ4:昇温速度100℃/分で30℃から90℃まで昇温
ステップ5:90℃で20分間定温保持
この測定のステップ2及びステップ4で100℃/分の降温・昇温速度を選ぶ理由は、降温過程や昇温過程に起こる結晶化を最小限に留めて試料をできる限り非晶状態に保ち、ステップ5の等温結晶化過程での等温結晶化能を正確に測定することを目的としているためである。
図1に代表的なDSC曲線として、実施例4、比較例2のステップ5のチャートを示す。結晶化時間(t)はステップ5を開始してから、DSC曲線がピークとなるまでの時間を示し、tの値が小さいほど結晶化速度が速いことを意味する。実施例4のtは23(sec)、比較例2のtは512(sec)である。実施例1〜5、比較例1〜3のtを表1にそれぞれ示す。
【0047】
(3)DSC評価2
上記(1)で得られた本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを、試料量5〜10mgとしてアルミニウム製パンに挟み、熱示差分析装置(パーキンエルマー社製、商品名、PYRIS Diamond DSC)を用いて、90℃での0.5分間の等温結晶化後の結晶融解熱量(H)を測定した。
測定は窒素雰囲気下で行い、測定の際には以下のステップの順で温度を変化させた。
ステップ1:200℃で1分間定温保持し融解
ステップ2:降温速度100℃/分で200℃から30℃まで降温
ステップ3:30℃で1分間定温保持
ステップ4:昇温速度100℃/分で30℃から90℃まで昇温
ステップ5:90℃で0.5分定温保持
ステップ6:昇温速度100℃/分で90℃から140℃まで昇温
ステップ7:昇温速度10℃/分で140℃から200℃まで昇温
【0048】
この測定のステップ2、ステップ4、ステップ6で100℃/分の降温・昇温速度を選ぶ理由は、先の(2)DSC評価1の項で述べた理由と同じである。ステップ5で90℃の定温保持時間を0.5分にした理由は、実際の加熱成形における実用的な金型内保持時間を想定し、実際の加熱成形過程で付与される結晶性、即ち耐熱性の評価を目的としているためである。
図2に代表的なDSC曲線として、実施例4、比較例2のステップ7のチャートを示す。結晶融解熱量(H)は、ベースラインを引いた後のピーク面積から算出した。Hの値が大きいほど結晶化度が高いことを意味する。実施例4のHは38.3(J/g)、比較例2のHは3.2(J/g)である。実施例1〜5、比較例1〜3のHを表1にそれぞれ示す。
【0049】
(4)溶融張力
(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1C(商品名)のバレル先端に8.0mmの長さと2.095mmのノズル径を有するキャピラリーを取り付け、バレル温度を190℃に設定、上記(1)で得られた本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを数回に分けて充分に空気を抜きながらバレル内に充填、溶融させた。ピストン速度を10mm/minに設定してキャピラリーより溶融した樹脂組成物をストランド状に押出し、このストランドをキャピラリー下面の60cm直下に設置した直径45mmの張力検出用プーリーに掛けて一定の巻き取り速度で巻き取った。巻き取り速度を1、3、5、7、10、15、20、30、40、60m/分と段階的に上げ、それぞれの巻き取り速度で張力が定常状態になった段階で20秒間データを取り込み、張力の平均値を求めた。それぞれの巻き取り速度において同様の測定を3回実施して、そのn=3の平均値をその巻き取り速度での張力とし、得られた張力のうちで最大の張力を溶融張力とした。巻き取り速度が60m/分に到達する前にストランドが切断した場合は、そこで測定を終了し、得られた最大の張力を溶融張力とした。
【0050】
(5)発泡成形性評価
上記(1)で得られた本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物のペレットを、スクリュー径35mm単軸押出機(1段目)とスクリュー径50mmの単軸押出機(2段目)が接続されたタンデム形式の押出機のホッパーに投入、1段目押出機でバレル温度180〜220℃、スクリュー回転数18〜23rpmで溶融混練を行い、押出機途中に設けられた注入口より炭酸ガスを0.5〜8重量%の割合で圧入して、更に混練を行なった。2段目の押出機でバレル温度を140〜160℃に調製し、直径25mm、スリット間隔0.3mmの円筒状細隙を有する環状ダイから押出して円筒状に発泡させた。次いでこの円筒状発泡体を冷却しながら直径60mmの円柱状の成形装置に沿わせて引き取り、押出方向に沿わせて切り開いて発泡シートを得た。
【0051】
発泡成形性、得られた発泡シートに関しては、以下の4項目の評価を行なった。
1.発泡性:得られた発泡シートの表面が平滑で表面荒れがないものを◎、厚み斑が多少あるが表面荒れがないものを○、厚み斑が大きく表面荒れがあるものを△、気泡が破泡してしまい発泡シートが得られないものを×とした。
2.発泡シートの密度:発泡シートの幅方向中央部から25mm×25mm角の試験片を切り出し、試料の重量(W)を測定した後、水没法にて試験片の体積(V)を求めて次式より密度(ρ)を算出した(水没法)。
ρ(kg/m)={W(g)/V(cm)}×1000
3.発泡シートの厚み:発泡シートの幅方向10mm間隔でデジタルノギスを使用して測定した。
4.発泡シートの気泡サイズ:発泡シートの幅方向中央部から試験片を切り出し、カット面に発泡体の押出方向、幅方向、厚み方向に沿ってL(mm)の直線を引き、これらの直線に接触している気泡の数を数え、次式により押出方向、幅方向、厚み方向の気泡サイズを算出し、更に3方向の平均値を気泡サイズとした(グリッドライン法)。
気泡サイズ(mm)=1.626×L/気泡数
【0052】
(6)発泡シートの熱成形性評価
上記(5)で得られた本発明の脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートを90〜110℃で約5秒〜30秒予備加熱した後、真空圧空成型機を用いて直径75mm、深さ20mmのトレーに成型した。金型温度は110℃で、成形時間を5秒から200秒まで5秒ごとに40点変えて成型試験を実施し、変形せずに離型できたトレーの中で最も成形時間が短いサンプルを100℃〜140℃のオーブンに入れ10分放置した。
この成型工程において、下記の3種類の評価を行った。
1.離型時間:成形時間を変えて真空成型を実施した際、トレーが変形せずに離型した最も短い成形時間を表記した。
2.外観:真空成形によって得られたトレーの表面平滑性が良好でかつ全く「亀裂、しわ」等が認められないものを◎、「亀裂、しわ」等は認められないものの、若干成型斑が認められるものを○、「亀裂」がかなり認められるものを△、真空成型時に発泡シートが破れて成形できないものを×とした。
3.耐熱性:最も短い成形時間で成形したトレーに90℃の熱湯を深さの80%程度まで注ぎ、5分間経過する間にトレー変形が全くないものを◎、変形が1%未満の場合を○、変形が1%〜5%の場合を△、変形が5%より大きいものを×と評価した。
【0053】
[実施例1及び実施例2]
脂肪族ポリエステル樹脂としてポリ乳酸、Nature Works社製、商品名、「NatureWorks4032D」(D体含量=1.5重量%、融点=168℃、重量平均分子量=24.2万、MFR=2.6g/10分)、有機化層状珪酸塩として層間イオンがジヒドロキシエチルドデシルアンモニウムイオンで置換された有機化合成雲母、コープケミカル社製、商品名、「ソマシフMEE」、タルクとして、松村産業社製、商品名、「ハイフィラー#5000PJ」(平均粒径=1.65μm)、非イオン性界面活性剤としてイソステアリン酸ポリオキシエチレングリセリル、日本エマルジョン社製、商品名、「EmalexGWIS−120」(20E.O.)、ビニル重合体としてエポキシ基含有アクリル・スチレン系重合体、商品名、「ARUFON UG−4040」(エポキシ価=2.1meq/g、Tg=63℃、重量平均分子量=9,200)のポリ乳酸ベースマスターバッチグレードである「ARUFON XGM−4540(UG−4040濃度=30重量%)」を用い、表1に示すような組成比になるように、上記(1)で述べた調製法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物ペレットを得た。またこのペレットを用い、上記(5)の発泡成形法で発泡シートを作製し、上記(6)の熱成形法で熱成形を行なった。ペレット、発泡成形評価、熱成形評価の評価結果を表1に示す。
【0054】
[実施例3及び実施例4]
タルクとして、富士タルク工業社製、商品名、「LMP−100」(平均粒径=11.6μm)を用い、表1に示す組成比になるようにすること以外は、実施例1と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物ペレットを得た。またこのペレットを用い、上記(5)の発泡成形法で発泡シートを作製し、上記(6)の熱成形法で熱成形を行なった。ペレット、発泡成形評価、熱成形評価の評価結果を表1に示す。
【0055】
[比較例1]
ポリ乳酸、Nature Works社製、商品名、「NatureWorks4032D」のペレットを用い、上記(5)の発泡成形法で発泡シートを作製し、上記(6)の熱成形法で熱成形を行なった。ペレット、発泡成形評価、熱成形評価の評価結果を表1に示す。
【0056】
[比較例2]
脂肪族ポリエステル樹脂としてポリ乳酸、Nature Works社製、商品名、「NatureWorks4032D」と、ビニル重合体としてエポキシ基含有アクリル・スチレン系重合体、商品名、「ARUFON UG−4040」のみを用い、表1に示すような組成比になるように、実施例1〜4と同様の方法で、脂肪族ポリエステル樹脂組成物ペレットを得た。またこのペレットを用い、上記(5)の発泡成形法で発泡シートを作製し、上記(6)の熱成形法で熱成形を行なった。ペレット、発泡成形評価、熱成形評価の評価結果を表1に示す。
【0057】
[比較例3]
ビニル重合体を添加しないこと以外は実施例と1と同じ組成比、方法を用い、脂肪族ポリエステル樹脂組成物ペレットを得た。またこのペレットを用い、上記(5)の発泡成形法で発泡シートを作製し、上記(6)の熱成形法で熱成形を行なった。ペレット、発泡成形評価、熱成形評価の評価結果を表1に示す。
実施例1〜4と比較例1〜3の比較から、本発明で得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物は非常に高い結晶化速度と高い溶融張力を兼ね備えていることが判る。この組成物を用いることで良好な発泡シート成形が得られ、その発泡シートを熱成形した成形品は短時間の成形で離型が可能であり、良好な外観及び優れた耐熱性を有している。一方、比較例でビニル重合体を添加しない場合は、結晶化速度は速いものの、溶融張力がベースの脂肪族ポリエステル樹脂よりも低くなり、発泡シートを得ることが難しい。また、タルク、有機化層状珪酸塩、非イオン性界面活性剤を添加しない系では、ビニル重合体の添加によって溶融張力が向上して発泡シートは得られるものの、熱成形性は悪く得られる成形品の耐熱も低い。
【0058】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートから得られる成形品は短い成形時間でも高い耐熱性を示す。これらの発泡シート成形品は食品包装トレーやホット飲料用カップの用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明におけるDSC評価1の代表的なDSC曲線を示す図である。
【図2】本発明におけるDSC評価2の代表的なDSC曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル(A)、層状珪酸塩を有機オニウム塩で処理することで得られる有機化層状珪酸塩(B)、タルク(C)、非イオン性界面活性剤(D)、及びカルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基を有する単量体単位をその構成単位として含むビニル重合体(E)を含有することを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪族ポリエステル(A)40〜99.85重量%、前記有機化層状珪酸塩(B)0.05〜10重量%、前記タルク(C)0.05〜30重量%、及び前記非イオン性界面活性剤(D)0.05〜20重量%からなる樹脂組成物100重量部に対し、前記ビニル重合体(E)を0.1〜5.0重量部含有することを特徴とする請求項1に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記有機オニウム塩が極性基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記極性基が水酸基であることを特徴とする請求項3に記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記非イオン性界面活性剤(D)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ジ脂肪酸ポリオキシエチレングリコール、モノ脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びグリセリン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項6】
前記非イオン性界面活性剤(D)が、脂肪酸ポリオキシエチレングリセリルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項7】
前記ビニル重合体(E)のカルボキシル基または水酸基との反応性を持つ官能基がエポキシ基であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項8】
前記脂肪族ポリエステル(A)がポリ乳酸であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を発泡成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を炭酸ガスを発泡剤として発泡成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート。
【請求項11】
請求項9または10に記載の脂肪族ポリエステル樹脂発泡シートを熱成形して得られる脂肪族ポリエステル樹脂発泡シート成形品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−246610(P2007−246610A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69330(P2006−69330)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】