説明

耐熱性複合フィルムおよびそれからなるフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルム

【課題】高温度域での温度膨張係数及び熱収縮率の双方が小さく、優れた耐熱寸法安定性を有するとともに、表面平坦性、層間密着性に優れた耐熱性複合フィルムを簡便な方法で提供する。
【解決手段】耐熱絶縁紙の両面に積層二軸配向ポリエステルフィルムが積層された層構成を有する複合フィルムであって、積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合量0%以上5モル%以下のポリエステル基材層および共重合量11%以上30モル%以下の共重合ポリエステル層を有し、該積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層を介して耐熱絶縁紙に積層されており、複合フィルムの最外層はポリエステル基材層である耐熱性複合フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱寸法安定性及び表面平坦性に優れた耐熱性複合フィルムおよびそれからなるフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムに関し、さらに詳しくは、高温度域での温度膨張係数及び熱収縮率の双方が小さく、かつ表面平坦性、層間密着性に優れた耐熱性複合フィルムおよびそれからなる有機EL、電子ペーパー、太陽電池などのフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートの二軸延伸フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性を有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム、ガラスディスプレイ等の表面に貼るフィルム、各種部材の保護用フィルム等の素材として広く用いられている。
【0003】
液晶ディスプレイに代表される画像表示装置には、従来ガラス基板が用いられてきた。しかし、近年、画像表示装置は薄型、軽量化、大画面化、形状の自由度、曲面表示という要求から、重くて割れやすいガラス基板から高透明高分子フィルム基板への検討が行われてきている。特に近年では有機ELに代表される自発光素子の開発が進み、液晶ディスプレイのようにバックライトを採用せざるを得ないがために多くの部材を使用する必要がある画像表示装置にとって変わろうとしており、このような用途でもガラスの欠点のひとつである割れ易さや重さを改良したいという要求が年々高まってきている。
【0004】
高透明高分子フィルム基板として、種々の高分子材料が検討されており、より耐熱寸法安定性の高い材料の1つとして例えば特許文献1のようにポリエチレンナフタレートフィルムが検討されている。一方で、特にフレキシブルエレクトロニクス分野では温度変化に対する寸法安定性が求められており、例えば特許文献2において、30〜100℃における温度膨張係数(αt)がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも15ppm/℃以下である二軸配向ポリエステルフィルムが提案されている。しかしながら、フレキシブルエレクトロニクス分野においては、近年、さらに高温の100〜180℃の温度域においても100℃以下の温度域と同様に寸法変化の小さい基材フィルムが求められている。
【0005】
室温から175℃までのより高温域まで耐熱寸法安定性に優れる二軸配向ポリエステルフィルムの一例としては、例えば特許文献3において少なくとも3層からなり、芯層に液晶性樹脂を10〜70重量%含有する積層フィルムが提案されている。一方、本特許文献はフレキシブルプリント回路基板として例えば銅との熱膨張係数を合わせるため、具体的に開示されている室温から175℃にかけてのフィルムの熱膨張係数は20ppm前後の状況である。
【0006】
一方、フレキシブルエレクトロニクスデバイスなどの分野で高分子材料を用いた基板フィルム上に各種機能層を高温で加工する際、180℃前後で加工されることがあるが、そのような温度域において高分子基板フィルムに対し、ガラス基板と同様の5ppm前後の低い温度膨張係数および0%前後の低い熱収縮率が求められており、さらにこのような特性を有する基板フィルムを簡略化された工程で製造することが求められている。また、積層された各種機能層の機能性を高めるために、基板フィルムの表面は平坦であることが求められているものの、未だ温度膨張係数ppm程度の耐熱寸法安定性を有し、かつ表面平坦性に優れるフィルムは得られていないのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開2004−9362号公報
【特許文献2】国際公開第2005/110718号パンフレット
【特許文献3】特開2005−335347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、高温度域での温度膨張係数及び熱収縮率の双方が小さく、優れた耐熱寸法安定性を有するとともに、表面平坦性、層間密着性に優れた耐熱性複合フィルムを簡便な方法で提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、高温度域での耐熱寸法安定性に優れ、表面平坦性、及び層間密着性に優れたフレキシブルエレクトロニクスデバイス用途の基板として好適な耐熱性複合フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、二軸配向ポリエステルフィルムは昇温に従い面方向にプラス方向に膨張する傾向にあり、延伸倍率や延伸後の熱処理などによるだけでは100〜180℃における温度膨張係数(αt)を数ppmにするには限界があること、一方アラミドペーパーなどに代表される耐熱絶縁紙は、昇温に従い面方向に収縮する傾向にある、との知見をもとに、二軸配向ポリエステルフィルムと耐熱絶縁紙とを共重合ポリエステル層を介して積層させて、100〜180℃における温度膨張係数(αt)がガラス基板の温度膨張係数に近い−5〜15ppmの範囲にあり、同時に200℃程度の高温下での熱収縮率にも非常に優れた耐熱性の複合フィルムが得られることを見出したものである。また複合フィルムの最外層を二軸配向ポリエステルフィルムにすることにより、フィルム表面平坦性も付与できること、このような異質な材料同士を簡便に接着させるために、共重合量の多いポリエステル層を介して両層を積層させることで解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、耐熱絶縁紙の両面に積層二軸配向ポリエステルフィルムが積層された層構成を有する複合フィルムであって、積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合量0%以上5モル%以下のポリエステル基材層および共重合量11%以上30モル%以下の共重合ポリエステル層を有し、該積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層を介して耐熱絶縁紙に積層されており、複合フィルムの最外層はポリエステル基材層である耐熱性複合フィルムによって達成される。
【0012】
また本発明の耐熱性複合フィルムは、その好ましい態様として、フィルムの100〜180℃における温度膨張係数(αt)がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−5ppm/℃以上15ppm/℃以下の範囲であること、フィルムの200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.2%以上0.2%以下であること、耐熱絶縁紙がアラミドペーパーであること、積層二軸配向ポリエステルフィルムのポリエステル基材層を構成するポリエステルの主たる構成成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、積層二軸配向ポリエステルフィルムの共重合ポリエステル層を構成するポリエステルの主たる構成成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであること、耐熱絶縁紙の1層あたりの厚みが20μm以上200μm以下であること、ポリエステル基材層の1層あたりの厚みが6μm以上250μm以下であること、ポリエステル基材層の各層厚みの合計に対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比が0.25以上4以下であること、のいずれか少なくとも1つを具備する。
【0013】
また本発明は、上記の耐熱性複合フィルムからなるフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムを包含するものであり、フレキシブルエレクトロニクスデバイスとして、有機EL、電子ペーパーおよび太陽電池からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐熱性複合フィルムは、高温度域での温度膨張係数及び熱収縮率の双方が小さく、かつフィルム表面平坦性にも優れることから、有機EL、電子ペーパー、太陽電池などのフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳しく説明する。
<積層二軸配向ポリエステルフィルム>
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムは、共重合量0%以上5モル%以下のポリエステル基材層および共重合量11%以上30モル%以下の共重合ポリエステル層を有する少なくとも2層以上の積層フィルムである。
積層二軸配向ポリエステルフィルムの積層数の上限は、好ましくは5層以下、さらには好ましくは共重合ポリエステル層とポリエステル基材層の2層である。
積層二軸配向ポリエステルフィルムを構成する共重合ポリエステル層とポリエステル基材層は、共押出法を用いてフィルム製膜工程で溶融積層されたフィルムであることが好ましい。
【0016】
また該ポリエステルフィルムは、温度膨張係数や熱収縮率などの耐熱寸法安定性の点で、二軸配向されていることが必要である。未延伸または一軸ポリエステルフィルムの場合、寸法安定性の高い耐熱絶縁紙と貼り合せても、複合フィルムにおいて、延伸されていない方向の温度膨張係数や熱収縮率特性について本願発明の範囲を達成することができない。
【0017】
<ポリエステル基材層>
本発明の積層二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステル基材層を構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルであって、ポリエステル基材層の全酸成分又は全ジオール成分を基準として、共重合量が0%以上5モル%以下のポリエステルである。
【0018】
かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを例示することができる。
これらのポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが熱的特性、力学的物性や光学物性等のバランスが良いので好ましい。特にポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは高温での熱膨張係数や熱収縮率、機械的強度の大きさ、などの点でポリエチレンテレフタレートにまさっている。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが特に好ましい。
【0019】
共重合成分として、例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸成分、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸、或いはプロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールの如きジオール成分を好ましく用いることができる。これらの共重合成分は単独または二種以上を使用することができる。
【0020】
これらの共重合成分において、好ましい酸成分として、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、p−オキシ安息香酸が例示され、ジオール成分としてはトリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物が例示される。
【0021】
ポリエステル基材層を構成するポリエステルが共重合体の場合、フィルム製造時の原料は、共重合体、ポリマーブレンドのいずれの形態であってもよい。例えば、ホモポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートとそれ以外の他のポリエステルとを用意し、これらを溶融混練時にエステル交換させたものであってもよい。
また、上記ポリエステルは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってよく、ごく少量の例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
【0022】
本発明のポリエステルは従来公知の方法、例えばジカルボン酸とジオールとの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとジオールとを従来公知のエステル交換触媒である、例えばナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、チタン、ジルコニウム、マンガン、コバルトを含む化合物の一種または二種以上を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。重合触媒としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンのようなアンチモン化合物、二酸化ゲルマニウムで代表されるようなゲルマニウム化合物、テトラエチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラフェニルチタネートまたはこれらの部分加水分解物、蓚酸チタニルアンモニウム、蓚酸チタニルカリウム、チタントリスアセチルアセトネートのようなチタン化合物を用いることができる。
【0023】
エステル交換反応を経由して重合を行う場合は、重合反応前にエステル交換触媒を失活させる目的でトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリ−n−ブチルホスフェート、正リン酸等のリン化合物が通常は添加され、リン元素としてのポリエステル中の含有量が20〜100重量ppmであることがポリエステルの熱安定性の点から好ましい。
【0024】
なお、ポリエステルは、溶融重合後これをチップ化し、加熱減圧下または窒素などの不活性気流中において更に固相重合を施してもよい。
ポリエステルの固有粘度は0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.90dl/gであることが更に好ましい。固有粘度が0.40dl/g未満では工程切断が多発することがある。また0.9dl/gより高いと溶融粘度が高いため溶融押出しが困難であるうえ、重合時間が長く不経済である。
【0025】
ポリエステル基材層には、本発明の機能を損なわない範囲内で着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。
ポリエステル基材層は、滑剤を含有しないか、含有しても特性に影響を与えないような小粒径の滑剤を少量の範囲で含有することが好ましい。滑剤を含有する場合は、ポリエステル基材層の重量を基準として好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下の範囲内で含有することが好ましい。滑剤の平均粒径は特に限定されないが、0.001〜5μmであることが好ましい。ここで平均粒径とは、粒子の電子顕微鏡写真または透過型電子顕微鏡写真により測定した全粒子の粒子径の平均値を意味する。また、滑剤の種類は特に特定されず、例えば炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、シリカ、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子が挙げられる。
【0026】
ポリエステル基材層1層あたりの厚みは6μm以上250μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは12μm以上200μm以下、特に好ましくは25μm以上125μm以下である。ポリエステル基材層の1層あたりの厚みが下限に満たない場合、複合フィルム中に占める二軸配向ポリエステルフィルムの割合が少なく、面方向の温度膨張係数がマイナス方向に大きくなり、複合フィルムの温度膨張係数の下限に満たないことがある。またポリエステル基材層の1層あたりの厚みが上限を超える場合、複合フィルム中に占める二軸配向ポリエステルフィルムの割合が増えて面方向の温度膨張係数がプラス方向に大きくなり、複合フィルムの温度膨張係数の上限を超えることがある。その他、ポリエステル基材層の1層あたりの厚みが上限を超える場合、フレキシブルエレクトロニクスデバイスの基板フィルムとして用いた場合に自由な屈曲性を得られないことがある。
【0027】
<共重合ポリエステル層>
本発明の複合フィルムは、積層二軸配向ポリエステルフィルムの共重合ポリエステル層を介して耐熱絶縁紙と積層され、かかる共重合ポリエステル層は、共重合量11%以上30モル%以下の共重合ポリエステル層である。
共重合ポリエステル層を有さない場合、耐熱絶縁紙とポリエステル基材層との接着力が十分でないため、複合フィルムの100〜180℃における温度膨張係数が本発明の範囲からはずれる。
【0028】
本発明の共重合ポリエステル層は、ポリエステル基材層と共押出による積層フィルムの製造が可能なため、ポリエステルフィルムと耐熱絶縁紙という異質な材料同士を接着させる際に接着剤を塗布するなどの煩雑な工程を経ずに、共重合ポリエステル層を介して熱圧着させるだけで簡便に接着性を高めることができる。
【0029】
共重合ポリエステル層を構成するポリエステルは、具体的には主たる構成成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートであり、該成分が共重合ポリエステル層を構成するポリエステルの全酸成分を基準として70〜89モル%である。主たる成分量が下限に満たない場合、延伸工程での製膜性が低下し、かつポリエステル基材層との組成が大きく異なり、層間の密着性が低下する。他方、主たる成分量が上限を超える場合、ポリエステル基材層との融点差が小さくなり、耐熱絶縁紙との密着が困難となる。また、共重合ポリエステルの主たる構成成分は、ポリエステル基材層を構成する主たる構成成分と同種であるか、ホモポリマーの融点として両層を比較した場合にポリエステル基材層よりも低融点となる構成成分である。
【0030】
かかる共重合ポリエステルは、フィルム製造時の原料が、共重合体、ポリマーブレンドのいずれの形態であってもよい。例えば、ホモポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートとそれ以外の他のポリエステルとを用意し、これらを溶融混練時にエステル交換させたものであってもよい。
主たる成分以外の共重合成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸等の如き脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸等の酸成分や、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の如き脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオール等のグリコール成分を好ましく挙げることができる。これらの中でも、延伸性を維持しながら融点を低下させやすいことからテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、またはイソフタル酸が好ましい。
また従たるポリマーとしては、主たる構成成分として例示したポリマー群の中から選択することもできる。
【0031】
共重合量は、共重合ポリエステル層の全酸成分又は全ジオール成分を基準として、11%以上30モル%以下である。共重合量が下限に満たない場合は、ポリエステル基材層との融点差が小さくなり、耐熱絶縁紙との密着が困難となる一方、上限をこえる場合は、延伸工程での製膜性が低下し、かつポリエステル基材層との組成が大きく異なり、層間の密着性が低下する。
【0032】
共重合ポリエステル層の厚みは特に限定されないが、好ましくは5〜50μmの範囲であり、より好ましくは5〜30μm、さらに好ましくは5〜20μm、特に好ましくは5〜10μmである。
共重合ポリエステル層を構成するポリエステルは、ポリエステル基材層のポリエステルと同様の方法で製造することができる。また共重合ポリエステル層は、本発明の機能を損なわない範囲内で滑剤、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有していてもよい。
【0033】
<耐熱絶縁紙>
本発明の耐熱絶縁紙は、耐熱性の無機系または有機系の繊維布であり、具体的にはガラス系繊維布、アラミド系繊維布、ポリベンザゾール繊維布及び炭素系繊維布からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、これらの中でもアラミド系繊維布、ポリベンザゾール繊維布がさらに好ましい。
ガラス系繊維布はガラスクロスとも称され、Eガラス(無アルカリガラス)、Sガラス、Dガラス、クォーツ、高誘電率ガラス等が挙げられる。またアラミド系繊維布はアラミドペーパーとも称され、アラミド繊維を必要に応じてバインダーとともに抄紙した後、温度及び圧力をかけて製造したものである。なお、アラミドとしては、ケブラー(商品名:デュポン・東レ・ケブラー社製)、テクノーラ(商品名:帝人テクノプロダクツ社製)、コーネックス(商品名:帝人テクノプロダクツ社製)に代表されるポリ-p-フェニレンフタルアミド、ポリ-m-フェニレンフタルアミド、p-フェニレンフタルアミドおよび3,4'- ジフェニルエーテルフタルアミドの共重合体等が例示される。また炭素系繊維布として、炭素繊維、炭化珪素繊維等が挙げられる。
これらの中でも、好ましくはアラミドペーパーが挙げられ、特に耐熱性の点で、通常パラ系アラミドとも称されるポリ-p-フェニレンフタルアミドを用いたアラミドペーパーが好ましい。
【0034】
耐熱絶縁紙を構成する繊維布の織布フィラメントの織り方について、特に限定されるものではなく、平織り、ななこ織り、朱子織り、綾織り等の構造を有する織物でも良く、好ましくは平織りである。また、織布に限定されるのではなく不織布であってもかまわない。耐熱絶縁紙の1層あたりの厚みは、20μm以上200μm以下であることが好ましく、より好ましくは40μm以上120μm以下である。耐熱絶縁紙の1層あたりの厚みが下限に満たない場合、複合フィルム中に占める耐熱絶縁紙の割合が少なく、面方向の温度膨張係数がプラス方向に大きくなり、複合フィルムの温度膨張係数の上限を超えることがある。また耐熱絶縁紙の1層あたりの厚みが上限を超える場合、複合フィルム中に占める耐熱絶縁紙の割合が増えて面方向の温度膨張係数がマイナス方向に大きくなり、複合フィルムの温度膨張係数の下限に満たないことがある。
【0035】
<層構成>
本発明の複合フィルムは、耐熱絶縁紙(A)の両面に積層二軸配向ポリエステルフィルムが積層された層構成を有し、積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層(B)を介して耐熱絶縁紙に積層されており、該複合フィルムの最外層はポリエステル基材層(C)であることを要する。
【0036】
すなわち本発明の複合フィルムは、少なくともポリエステル基材層(C)/共重合ポリエステル層(B)/耐熱絶縁紙(A)/共重合ポリエステル層(B)/ポリエステル基材層(C)が順次積層された5層を基本構成として含むものであり、さらにかかる5層構成のポリエステル基材層の片面または両面に(B)/(A)/(B)/(C)の層構成を1ユニットとして、1ユニット以上積層させた9層構成、13層構成、17構成などが好ましく例示される。本発明の複合フィルムは、特に好ましくは耐熱絶縁紙の両面に接着層および二軸配向ポリエステルフィルムが順次積層された(C)/(B)/(A)/(B)/(C)の5層構成である。
なお、積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層とポリエステル基材層以外の層も含んでいる場合は、上記の層構成間にさらに他層を含めることができる。
【0037】
本発明の複合フィルムは、芯層として面方向の温度膨張係数がマイナス方向にあるシート状物の耐熱絶縁紙を用い、面方向の温度膨張係数がプラス方向にある二軸配向ポリエステルフィルムと積層させることにより、両層が有する面方向にマイナス方向の温度膨張係数及びプラス方向の温度膨張係数が相殺され、複合フィルムとして100〜180℃の高温域において−5〜15ppm/℃という、従来の基板用高分子フィルムでは得られなかった領域の温度膨張係数を達成することができる。100〜180℃という高温域において、−5〜15ppm/℃というガラス基板に近い温度膨張係数は、二軸配向ポリエステルフィルムだけでは通常達成しえない領域であり、一方、耐熱性の高い無機系または有機系材料は、加工性に乏しく、薄肉フィルム化が難しい材料であるため、本発明のような繊維布で構成されるシート状の耐熱絶縁紙を用いることにより達成されるものである。また二軸配向ポリエステルフィルムポリエステル基材層を最外層に用いることにより、繊維布で構成されるシート状の耐熱絶縁紙の表面粗さを隠蔽し、フレキシブルエレクトロニクスデバイスの基板フィルムに求められる表面平坦性をも具備することができる。
【0038】
<温度膨張係数(αt)>
本発明の複合フィルムは、100〜180℃における温度膨張係数(αt)が、フィルムの長手方向および幅方向のいずれも−5ppm/℃以上15ppm/℃以下の範囲であることが好ましい。なおフィルムの長手方向は、フィルム連続製膜方向、縦方向またはMD方向と称することがある。またフィルムの幅方向とは、フィルムの長手方向に直交する方向であり、横方向またはTD方向と称することがある。複合フィルムの100〜180℃における両方向の温度膨張係数(αt)の下限は、さらに好ましくは−3ppm/℃であり、特に好ましくは2ppm/℃である。また複合フィルムの100〜180℃における両方向の温度膨張係数(αt)の上限は、さらに好ましくは10ppm/℃であり、特に好ましくは7ppm/℃である。かかる温度膨張係数(αt)が下限に満たない場合は、温度変化により面方向においてマイナス方向に寸法変化が大きくなりすぎるため、例えばフレキシブルディスプレイの基板フィルムとして用いた場合に基板フィルム上に積層するガスバリア層、電極層などとの温度膨張係数の差が生じ、高温加工時に機能層に欠陥が生じる他、パターンのアライメントずれが生じるなどして性能低下につながることがある。一方、かかる温度膨張係数(αt)が上限を超える場合は、温度変化により面方向においてプラス方向に寸法変化が大きくなりすぎるため、例えばフレキシブルディスプレイの基板フィルムとして用いた場合に基板フィルム上に積層するガスバリア層、電極層などとの温度膨張係数の差が生じ、高温加工時に機能層に欠陥が生じる他、パターンのアライメントずれが生じるなどして性能低下につながることがある。
【0039】
なお、本発明の温度膨張係数は、TMA装置を用い、チャック間距離20mmで40mNの荷重をかけた状態で180℃の温度条件下で30分間前処理後、室温まで降温させ、その後100℃から180℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させて、フィルムの長手方向及び幅方向それぞれの寸法変化を測定し、下記式(1)により算出した寸法変化率によって求められる。
αt={〔(L2−L1)×106〕/(L1×ΔT)} ・・・(1)
(上式中、L1は100℃時のサンプル長(mm)、L2は180℃時のサンプル長(mm)、ΔTは測定温度差である80(=180℃−100℃)をそれぞれ表す)
【0040】
<熱収縮率>
本発明の複合フィルムは、200℃で10分間熱処理した際の熱収縮率が、フィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.2%以上0.2%以下であることが好ましい。複合フィルムを200℃で10分間熱処理した際の両方向の熱収縮率の下限は、さらに好ましくは−0.1%である。また複合フィルムを200℃で10分間熱処理した際の両方向の熱収縮率の上限は、さらに好ましくは0.1%である。かかる熱収縮率が下限に満たない場合、高温下で面方向においてマイナス方向に寸法変化が大きくなりすぎるため、例えばフレキシブルディスプレイの基板フィルムとして用いた場合に基板フィルム上に積層するガスバリア層、電極層などとの熱収縮率の差が生じ、高温加工時に機能層に欠陥が生じる他、パターンのアライメントずれが生じるなどして性能低下につながることがある。一方、かかる熱収縮率が上限を超える場合は、高温下で面方向においてプラス方向に寸法変化が大きくなりすぎるため、例えばフレキシブルディスプレイの基板フィルムとして用いた場合に基板フィルム上に積層するガスバリア層、電極層などとの熱収縮率の差が生じ、高温加工時に機能層に欠陥が生じる他、パターンのアライメントずれが生じるなどして性能低下につながることがある。
【0041】
なお、本発明の熱収縮率とは、フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに200℃のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルムの長手方向、幅方向において、下記式(2)により算出した熱収縮率である。
熱収縮率(%)={(熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離}×100 ・・・(2)
【0042】
本発明の温度膨張係数および熱収縮率の双方を達成するためには、耐熱性絶縁紙とポリエステル基材層とを共重合ポリエステル層を介して積層し、二軸配向ポリエステルフィルムの各層厚みの合計に対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比、フィルム延伸倍率及び熱固定温度の条件がそれぞれ後述する範囲にあることによって達成される。
【0043】
<フィルム厚み>
本発明の複合フィルムの総厚みは42μm以上1350μm以下であることが好ましい。複合フィルムの総厚みの下限は、さらに好ましくは50μm、特に好ましくは100μmである。また複合フィルムの総厚みの上限は、より好ましくは800μm、さらに好ましくは700μm、特に好ましくは500μm、最も好ましくは250μmである。複合フィルムの総厚みが下限に満たない場合、例えばフレキシブルディスプレイの基材として用いた場合に支持体としての十分な強度を有さないことがある。また複合フィルムの総厚みが上限を超える場合、例えばフレキシブルディスプレイの基材として用いた場合に自由な屈曲性を得られないことがある。
【0044】
ポリエステル基材層、共重合ポリエステル層の各層の厚み及び耐熱絶縁紙の厚みは既述の通りである。
また、ポリエステル基材層の各層の合計厚みに対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比は、0.25以上4以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.33以上3以下、特に好ましくは0.5以上2以下である。ポリエステル基材層の各層の合計厚みに対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比が下限に満たない場合、耐熱絶縁紙の複合フィルム中に占める割合が少ないため、本発明の温度膨張係数及び熱収縮率が上限を超えることがある。一方、ポリエステル基材層の各層の合計厚みに対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比が上限を超える場合、耐熱絶縁紙の複合フィルム中に占める割合が多くなりすぎるため、本発明の温度膨張係数及び熱収縮率が下限に満たないことがある。
【0045】
<表面平坦性>
本発明の耐熱性複合フィルムは、耐熱絶縁紙の両面に共重合ポリエステル層を介してポリエステル基材層が積層された少なくとも5層の層構成を有し、かつ複合フィルムの最外層がポリエステル基材層であることにより、フレキシブルエレクトロニクスデバイスの基板フィルムに求められる表面平坦性を有する。
本発明における表面平坦性は、中心面平均粗さ(WRa)が0.1nm以上20nm以下であることが好ましい。中心面平均粗さ(WRa)は、WYKO社製非接触式三次元粗さ計(NT―2000)を用いて測定倍率25倍、測定面積246.6μm×187.5μm(0.0462mm)の条件にて、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより、下記式から求められる。
【0046】
【数1】

(上式中、Zjkは測定方向(246.6μm)、それと直交する方向(187.5μm)をそれぞれm分割、n分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における三次元粗さチャート上の高さである。)
【0047】
複合フィルムの最外層の中心面平均粗さ(WRa)が下限に満たない場合、加工時のフィルムの滑り性が悪く、作業性が低下することがある。また複合フィルムの最外層の中心面平均粗さ(WRa)が上限を超える場合、ガスバリア層や電極層などの機能層を積層した際、複合フィルムとの間に微細な隙間が発生して機能層の性能が十分に発揮されなかったり、機能層の表面性に影響を与えることがある。かかる中心面平均粗さ(WRa)の範囲を達成するためには、複合フィルムの最外層がポリエステル基材層であることが必要であり、また好ましくは該ポリエステル基材層中に滑剤を含有しないか、含有する場合はポリエステル基材層の重量を基準として好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下の範囲内で含有するものである。
【0048】
<用途>
本発明の耐熱性複合フィルムは、100〜180℃の高温域での温度膨張係数が−5〜15ppm/℃と極めて温度膨張係数が0に近く、同時に、200℃程度の高温下での熱収縮率にも非常に優れた耐熱性フィルムが得られることから、180℃前後の加熱加工工程を含むフレキシブルエレクトロニクスデバイスの基板フィルムに適している。フレキシブルエレクトロニクスデバイスの種類として、有機EL、電子ペーパー、太陽電池、反射型液晶、有機TFT、フレキシブルプリント回路などが例示され、これらの中でも特に有機EL、電子ペーパー及び太陽電池からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく例示される。
【0049】
フレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムとして用いた場合、本発明の複合フィルムは精密な耐熱寸法安定性を有することからガスバリア層や電極層などの機能層との温度膨張係数および熱収縮率が近く、高温加工時に機能層にひびや割れが生じることがなく、機能性の性能低下が少ない効果が得られ、またパターンのアライメントずれのない優れた解像度が得られるといった特徴を有する。
【0050】
<製造方法>
本発明の複合フィルムは下記の方法により製造することができる。
ポリエステル基材層および共重合ポリエステル層を含む積層二軸配向ポリエステルフィルムは、例えば共押出法を用いて製造することができる。ポリエステル基材層および共重合ポリエステル層の2層の二軸配向ポリエステルフィルムについて具体的に説明する。ポリエステル基材層を構成するポリエステルのチップ、共重合ポリエステル層を構成するポリエステルのチップをそれぞれ乾燥後、各押出機ホッパーに供給し、2層フィードブロックで積層し、ダイを通じて回転冷却ドラム上に押出して冷却固化させて未延伸フィルムを得る。続いてこの未延伸フィルムをTg〜(Tg+60)℃で縦方向、横方向に倍率2.0〜5.0倍で2軸方向に延伸し、(Tm−100)〜(Tm―5)℃の温度で1〜100秒間熱固定することで所望のフィルムを得ることができる。ここでTgはポリエステル基材層を構成するポリエステルのガラス転移温度、Tmはポリエステル基材層を構成するポリエステルの融点をそれぞれ表す。
【0051】
延伸は一般に用いられる方法、例えばロールによる方法やステンターを用いる方法で行うことができ、縦方向、横方向を同時に延伸してもよく、また縦方向、横方向に逐次延伸してもよい。さらに弛緩処理を行う場合は、加熱処理をフィルムの(X−80)〜X℃の温度において行うことができる。ここでXは熱固定温度を表す。
このようにして得られたポリエステル基材層および共重合ポリエステル層の積層体に、共重合ポリエステル層を介して耐熱絶縁紙を積層し、200℃に加熱したラミネーターで貼り合わせることによって耐熱性複合フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0053】
(1)温度膨張係数(αt)
測定方向が長さ方向となるように、フィルムサンプルを長さ30mm、幅4mmに切り出し、セイコーインスツルメンツ(株)製のTMA/6100を用い、チャック間距離20mmで40mNの荷重をかけた状態で180℃の温度条件下で30分間前処理後、室温まで降温させ、その後100℃から180℃まで5℃/分の昇温速度で昇温させて、フィルムの長手方向及び幅方向それぞれの寸法変化を測定し、下記式(1)により寸法変化率を求めた。
αt={〔(L2−L1)×106〕/(L1×ΔT)} ・・・(1)
(上式中、L1は100℃時のサンプル長(mm)、L2は180℃時のサンプル長(mm)、ΔTは測定温度差である80(=180℃−100℃)をそれぞれ表す)
【0054】
(2)熱収縮率
フィルムサンプルに30cm間隔で標点をつけ、荷重をかけずに200℃のオーブンで10分間熱処理を実施し、熱処理後の標点間隔を測定して、フィルムの長手方向、幅方向において、下記式(2)により熱収縮率を算出した。
熱収縮率(%)={(熱処理前標点間距離−熱処理後標点間距離)/熱処理前標点間距離}×100 ・・・(2)
【0055】
(3)フィルム厚み
複合フィルムの総厚みは、電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにて測定した。また、二軸配向ポリエステルフィルムの各層厚み、接着剤層の各層厚み及び耐熱絶縁紙の各層厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで3000倍で測定して求めた。
【0056】
(4)表面粗さ
WYKO社製非接触式三次元粗さ計(NT―2000)を用いて測定倍率25倍、測定面積246.6μm×187.5μm(0.0462mm)の条件にて、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトにより、下記式から中心面平均粗さ(WRa)を求める。表面粗さは、両最表面についてそれぞれ行い、それぞれの表面について、測定回数(n)10回での平均値を求めた。
【0057】
【数2】

(上式中、Zjkは測定方向(246.6μm)、それと直交する方向(187.5μm)をそれぞれm分割、n分割したときの各方向のj番目、k番目の位置における三次元粗さチャート上の高さである。)
【0058】
それぞれの面について得られた中心面平均粗さ(WRa)のうち、平坦面側について、下記の判断基準で評価した。
〇:0.1nm以上20nm以下 (表面平坦性良好)
×:20nmを超える (表面平坦性不良)
【0059】
(5)密着性(ピール強度)
得られた複合フィルムの二軸配向ポリエステルフィルムと耐熱絶縁紙の接着層を介した密着性について、2cm/minの速度で剥すピール強度を測定し、下記基準で評価する。
○: 1.0N/mm以上 ・・・・接着性良好
×: 1.0N/mm未満 ・・・・接着性弱い
【0060】
(6)パターニング特性評価
ポジ型感光性樹脂組成物をスピンコーター(大日本スクリーン製造社製、Dspin636)にて、フィルム上にスピン塗布し、ホットプレートにて130℃、180秒間プリベークを行い、膜厚8.0μmの塗膜を形成した。膜厚は膜厚測定装置(大日本スクリーン製造社製、ラムダエース)にて測定した。この塗膜に、100μm幅のラインテストパターン付きレチクルを通してi線(365nm)の露光波長を有するステッパ(ニコン社製、NSR2005i8A)を用いて露光量を段階的に変化させて露光した。これをアルカリ現像液(クラリアントジャパン社製、AZ300MIFデベロッパー、2.38質量%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液)を用い、23℃の条件下で現像後膜厚が6.6μmとなるように現像時間を調整して現像し、純水にてリンスを行い、その後180℃×30分間ポストベークを行い、ポジ型のレリーフパターンを形成した。完成したテストパターンのズレを以下の基準で判断した。
○: パターンズレが0.1%以下 パターニング特性良好
×: パターンズレが0.1%を超える パターニング特性不良
【0061】
(ポリエステル1(PEN))
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチルおよびエチレングリコールをモノマー原料として用い、エステル交換後、重縮合反応を行ってポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(固有粘度0.61dl/g)を得た。エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩、重縮合触媒として三酸化アンチモンを用いた。粒子は用いなかった。
【0062】
(ポリエステル2(PET))
メチルテレフタレートおよびエチレングリコールをモノマー原料として用い、エステル交換後、重縮合反応を行ってポリエチレンテレフタレート(固有粘度0.64dl/g)を得た。エステル交換触媒として酢酸マンガン、重縮合触媒として三酸化アンチモンを用いた。粒子は用いなかった。
【0063】
[実施例1]
ポリエステル基材層として表1に記載の組成1のチップ、共重合ポリエステル層として表1に記載の組成3のチップを用い、170℃×6時間乾燥後、それぞれ押出機ホッパーに供給し、溶融温度305℃で溶融して平均目開きが17μmのステンレス鋼細線フィルターで濾過した後、2層フィードブロックを用いて積層し、3mmのスリット状ダイを通して表面温度60℃の回転冷却ドラム上で押出し、急冷して未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを120℃にて予熱し、さらに低速、高速のロール間で15mm上方より900℃のIRヒーターにて加熱して縦方向に3.1倍に延伸した。続いてテンターに供給し、145℃にて横方向に.3.3倍に延伸した。得られた二軸配向フィルムを235℃の温度で40秒間熱固定し、厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。得られた二軸配向ポリエステルフィルムと耐熱絶縁紙としてデュポン帝人アドバンスドペーパー社製のアラミドペーパー『テクノーラ』(商品名)の100μm厚みのものを用い、ポリエステル基材層/共重合ポリエステル層/耐熱絶縁紙/共重合ポリエステル層/ポリエステル基材層のような構成に積層し、200℃に加熱したラミネーターで張合わせて耐熱性複合フィルムを得た。得られた特性を表2に示す。
本実施例の積層フィルムは層間の密着性が高く、異質な材料を簡便に積層させて高温域まで寸法安定性の高いフィルムを得ることができた。
【0064】
[実施例2〜4]
ポリエステル基材層、共重合ポリエステル層を構成するポリエステル組成を表2に記載の組成に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、複合フィルムを得た。得られた耐熱性複合フィルムの特性を表2に示す。各組成は表1に記載したポリエステル1とポリエステル2の比率のチップを用いた。
各実施例の積層フィルムは層間の密着性が高く、異質な材料を簡便に積層させて高温域まで寸法安定性の高いフィルムを得ることができた。
【0065】
[実施例5〜8]
各層の厚みを表2に記載の厚みに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、複合フィルムを得た。得られた耐熱性複合フィルムの特性を表2に示す。
各実施例の積層フィルムは層間の密着性が高く、異質な材料を簡便に積層させて高温域まで寸法安定性の高いフィルムを得ることができた。
【0066】
[比較例1、2]
ポリエステル基材層、共重合ポリエステル層を構成するポリエステル組成を表2に記載の組成に変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、複合フィルムを得た。得られた複合フィルムの特性を表2に示す。各組成は表1に記載したポリエステル1とポリエステル2の比率のチップを用いた。
比較例1の積層フィルムは、共重合ポリエステル層の共重合量が少なく、耐熱絶縁紙との貼り合せ加工時に十分な密着性が得られなかったため、層間剥離が生じた。また比較例2の積層フィルムは、共重合ポリエステル層の共重合量が多すぎ、ポリエステル基材層との加工性の違いから、十分に製膜ができなかった。
【0067】
[比較例3]
共重合ポリエステル層を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行った。
本比較例のフィルムは、ポリエステル基材層と耐熱絶縁紙が剥離してしまい、積層フィルムにならなかった。
【0068】
[比較例4]
ポリエステル基材層のみで、共重合ポリエステル層と耐熱絶縁紙を用いなかった以外は実施例1と同様の操作を行い、単層フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
本比較例のフィルムは、実施例の積層フィルムに較べて温度膨張係数が大きかった。
【0069】
[比較例5]
ポリエステル基材層のみで、延伸倍率、熱固定温度を変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、単層フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
本比較例のフィルムは、実施例の積層フィルムに較べて温度膨張係数は同程度であるものの、熱収縮率が大きかった。
【0070】
[比較例6]
ポリエステル基材層、共重合ポリエステル層を用いずに、耐熱絶縁紙のみで評価を行った。耐熱絶縁紙の特性を表2に示す。耐熱絶縁紙は、温度膨張係数がマイナス方向に大きかった。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の耐熱性複合フィルムは、高温度域での温度膨張係数及び熱収縮率の双方が小さく、かつフィルム表面平坦性にも優れることから、有機EL、電子ペーパー、太陽電池などのフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルムとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱絶縁紙の両面に積層二軸配向ポリエステルフィルムが積層された層構成を有する複合フィルムであって、積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合量0%以上5モル%以下のポリエステル基材層および共重合量11%以上30モル%以下の共重合ポリエステル層を有し、該積層二軸配向ポリエステルフィルムが共重合ポリエステル層を介して耐熱絶縁紙に積層されており、複合フィルムの最外層はポリエステル基材層であることを特徴とする耐熱性複合フィルム。
【請求項2】
フィルムの100〜180℃における温度膨張係数(αt)がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−5ppm/℃以上15ppm/℃以下の範囲である請求項1に記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項3】
フィルムの200℃×10分における熱収縮率がフィルムの長手方向および幅方向のいずれも−0.2%以上0.2%以下である請求項1または2に記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項4】
耐熱絶縁紙がアラミドペーパーである請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項5】
積層二軸配向ポリエステルフィルムのポリエステル基材層を構成するポリエステルの主たる構成成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1〜4のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項6】
積層二軸配向ポリエステルフィルムの共重合ポリエステル層を構成するポリエステルの主たる構成成分がエチレンテレフタレートまたはエチレンナフタレートである請求項1〜5のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項7】
耐熱絶縁紙の1層あたりの厚みが20μm以上200μm以下である請求項1〜6のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項8】
ポリエステル基材層の1層あたりの厚みが6μm以上250μm以下である請求項1〜7のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項9】
ポリエステル基材層の各層厚みの合計に対する耐熱絶縁紙の各層厚みの合計の比が0.25以上4以下である請求項1〜8のいずれかに記載の耐熱性複合フィルム。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の耐熱性複合フィルムからなるフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルム。
【請求項11】
フレキシブルエレクトロニクスデバイスが有機EL、電子ペーパーおよび太陽電池からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10に記載のフレキシブルエレクトロニクスデバイス用基板フィルム。

【公開番号】特開2010−46899(P2010−46899A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212782(P2008−212782)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】