説明

耐熱耐食性高性能センサー

【課題】
従来、ダイヤフラムにタンタル等貴金属を採用したり、又ステンレスとタンタルのクラッディング板を用いて、溶接によりセンサー部をつくるが、これでは、ダイヤフラム自身が別材質あるいは、溶接による熱影響部をセンサー部に残すことになるため、センサー感度に直接影響を与える。
【解決手段】
耐熱耐食金属材料製のセンサー部表面上にナノ級までの厚み制御下でガラスコーティングすることにより得られた耐熱耐食性高性能センサー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般化学工業分野、原子力分野、宇宙・航空分野、海洋分野等において腐食性溶液又はガスを取り扱う際に、その圧力を測定するための圧力センサーのダイヤフラム基板の耐熱耐食化に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製基板材料を熱遮熱することにより耐熱性を上げたり、防食手段としてセラミックスや耐熱金属でコーティングする方法が考案されているが、強酸や強アルカリ等幅広い腐食溶液やガスに対応でき、しかも高精度性が要求される圧力センサーや温度センサー等の各センサー部の素材組成・組織ならびにその計測感度や耐久性を損なわないコーティング方法はない。
【0003】
それは、センサー部金属基材上への上記コーティング材を施工する場合、従来法では高温や高圧下ならびに化学反応等で行なうことにより、基板とコーティング間に反応層が形成し剛性等の変化により計測精度の低下を生じたり、高温処理により基材の変質等を生じさせるからである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
(ア)コーティング施工時の金属基材への影響の低減
代表例として図1に高温耐食性ダイヤフラム式圧力センサーを示す。本センサーの圧力計測感度は、図中のSUS製薄板ダイヤフラム(ダイヤフラム材質)の剛性ならび変位により決まるため、このダイヤフラム接液側表面に耐食性コーティングを施工する必要がある。しかしながら、従来法では、このダイヤフラムにタンタル等貴金属を採用したり、またはSUSとタンタルのクラッディング板を用いて、主に高温溶接によりセンサー部をつくるが、これでは、ダイヤフラム自身が別材質あるいは、溶接による熱影響部をセンサー部に残すことになるため、センサー感度に直接影響を与える。そこで、SUS製ダイヤフラム表面に低温でかつ、反応層を生成しないコーティング法が望まれる。
(イ)無機反応安定性
強酸や強アルカリに対する耐食性では、従来無機ガラス、しかも高温使用としてシリカクオーツが最も安定性を有していることが分かっていることから、金属表面に低温でシリカ膜を形成できる技術が必要である。
(ウ)薄膜の膜厚安定性
図1のダイヤフラムの精度を損なわないため、できるだけダイヤフラム剛性に影響を与えないコーティング薄膜を成膜領域に均一に生成する必要がある。
(エ)緻密化
同じく、図1のダイヤフラムの精度を損なわないため、できるだけダイヤフラム剛性に影響を与えない緻密で均一な密度のコーティング薄膜を成膜領域に均一に生成する必要がある。
(オ)金属表面へのコーティング
上記(ア)〜(エ)の特性を有するガラス素材を耐熱金属製センサー表面にコーティングする必要があるが、ガラスの熱膨張率は高温でほとんどないのに対して、金属製センサー基材の熱膨張率はかなり大きいため、従来法では金属基板とガラス間に剥離や亀裂が生じていた。
(カ)価格
従来のタンタル等貴金属を利用した場合、素材費及び施工費がかさむ欠点があった。
(キ)施工及び補修
薄膜コーティングでは、その信頼性から定期的に補修作業を行なうことが望ましい。そこで、使用中のコーティング領域における損傷部位に容易に再コーティングできる技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記(ア)〜(キ)の諸問題を解決できる耐熱耐食性高性能センサーである。
(1)大気中で室温〜1000℃まで高温加熱することでシリカに転化できるポリシラザン類化合物、又はポリシラザン類化合物とポリカルボシラン類化合物の混合溶液をシリカコーティング被覆膜前駆体として用いる。
【0006】
(2)例えば、圧力センサー金属製ダイヤフラム接液部側の表面を研磨・脱脂することにより凸凹をなくし、シリカコーティング被覆膜と金属表面間に強固な接合薄膜を生成できる。
【0007】
(3)膜厚を一定に制御するため、上記(1)を(2)の塗布する場合、スピンコートやスプレー噴霧によりナノ級の膜厚制御が可能である。
(4)上記(3)の方法は同様に、施工時にも利用できることから、補修が容易である。
【0008】
(5)生成膜シリカの単価は安く、かつ(3)による施工法によりコーティング費用は安くできる。
即ち、本発明のセンサーは、圧力センサー金属製ダイヤフラム接液部側の表面を研磨・脱脂し、その研磨・脱脂表面に、高温加熱することでシリカに転化できるポリシラザン類化合物、又はポリシラザン類化合物とポリカルボシラン類化合物との混合溶液をスピンコートやスプレー噴霧により塗布し、大気中で室温〜1000℃まで高温加熱することにより、上記金属製ダイヤフラム接液部側の表面上にナノ級までの厚み制御されたシリカコーティング被覆薄膜を生成させたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、従来の耐熱合金表面に化学的に安定なシリカガラスをコーティングできることにより、高温高圧腐食環境下における各種センサー類の使用が高精度で可能となる。それにより、一般化学プラント、海洋などの腐食環境下における制御用センサーの信頼性や耐久性を格段に向上させることが安価にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の耐熱耐腐食性センサーをHIx循環試験装置の圧力計において使用した場合を図3に基づいて説明する。
上記HIx循環試験装置においては、この装置に腐食サンプルを設置し、高温耐食性バルブを通してヨウ化水素溶液を装置に導入し、その溶液をマグネットポンプにより装置内を循環してサンプルに接触させてその腐食程度を計測用観察ポートから観察する。この装置内を循環するヨウ化水素溶液の圧力は、高温耐食性圧力計で測定されるが、この圧力計のダイヤフラム式圧力センサーとして使用される薄板ダイヤフラム基板に、本発明のガラスコーティングを施した圧力センサーが使用されている。
【0011】
試験装置内を循環する溶液の温度は高温耐食性温度計で測定され、その流量は超音波流量計で測定される。その試験装置を構成する循環配管としては、ガラスライニング直線配管、ガラスライニングエルボー配管が使用され、その必要箇所にはテフロン(登録商標)製パッキング、Ta製継手等が施されている。ライニング又はパッキング材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が使用されている。
【0012】
この試験装置においては、腐食性溶液の液面が圧力計に到達していない場合には、この溶液から生ずる腐食ガスのガス圧を測定することができ、又液面が圧力計に到達している場合には腐食性溶液の液圧を測定することができる。
【0013】
更に、この試験装置には、耐食性破裂板が設けられており、これは、装置内の異常昇圧時にこの破裂板を破裂させることにより循環配管や計測装置などを安全に守るためのガス抜きとして用いられる。
【実施例】
【0014】
図2に、図1に示すSUS316製ダイヤフラム接液部表面にコーティングしたガラス薄膜を示す。図3にこの圧力センサー(高温耐食性圧力計)をISプロセス(ヨウ素と二酸化硫黄を繰り返し使用して水素を製造する閉サイクルプロセス)のヨウ化水素循環系を模擬したHIx循環試験装置に取り付け、80℃以上の高温において循環させているヨウ化水素溶液の圧力及び温度を1000時間以上にわたり連続的にモニターしている。この温度は、循環配管内の溶液流れ中に、その表面をガラスコーティングして防食した温度計を配置して測定される。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明の耐熱耐食性高性能センサーにより、IS水素製造プロセスにおける硫酸及びヨウ化水素系の高温高圧下での圧力や温度を高精度で計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ダイヤフラム式圧力計の構造を示す図である。
【図2】SUS316L製ダイヤフラム表面にコーティングしたガラスナノ薄膜を示す図である。
【図3】HIx循環試験装置とガラスコーティング圧力計を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱耐食金属材料製のセンサー部表面上にナノ級までの厚み制御下でガラスコーティングすることにより得られた耐熱耐食性高性能センサー。
【請求項2】
硫酸やヨウ化水素などの強酸及び強アルカリ腐食溶液やこれら腐食ガスの圧力を高精度で計測できる請求項1記載のセンサー。
【請求項3】
硫酸やヨウ化水素などの強酸及び強アルカリ腐食溶液やこれら腐食ガスの温度を高精度で計測できる請求項1記載のセンサー。
【請求項4】
使用途中のガラスコーティングセンサー部の損傷部位を再コーティングして補修することにより長寿命化できる請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のセンサー。
【請求項5】
1000℃までの高温と高圧環境下で耐えるガラスコーティングを有する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のセンサー。
【請求項6】
ポリシラザン類化合物、及びポリシラザン類化合物とポリカルボシラン類化合物の混合溶液をガラスコーティングのシリカ被膜前駆体とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のセンサー。
【請求項7】
耐熱金属表面を研磨・脱脂しつつ、コーティング中に不純物が入らないようにコーティング作業環境中の大気中不純物粒子を排除しつつコーティングすることにより得られた請求項1乃至請求項6記載のセンサー。
【請求項8】
請求項6の前駆体をセンサー部に塗布後、室温から1000℃で1〜5時間焼成し、コーティング成膜することにより得られた請求項6又は請求項7記載のセンサー。



















【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−30117(P2006−30117A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212662(P2004−212662)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004097)日本原子力研究所 (55)
【Fターム(参考)】