説明

耐衝撃性に優れた血液浄化器

【課題】慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する血液浄化器であって、臨床現場で想定されうる繰り返し衝撃に対して、中空糸膜が損傷しない、かつ性能の変動がないことを特徴とする血液浄化器を提供する。
【解決手段】本発明は、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後、血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の牛血液循環後の残血糸が血液浄化器に内蔵されている中空糸膜の総数に対して1%以下である中空糸膜を内蔵した血液浄化器である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非常に高い透水性を有しながら、耐衝撃性を兼ね備えた中空糸膜を内蔵した血液浄化器に関する。
【背景技術】
【0002】
腎不全治療などにおける血液浄化法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などの血液浄化器が広く使用されている。特に中空糸型の膜を分離材として用いた血液浄化器は体外循環にかかわる循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらに血液浄化器組立ての生産性などの利点から血液浄化分野での重要度が高い。
【0003】
中空糸膜を用いた血液浄化器は、通常中空糸膜中空部に血液を流し、外側部に透析液を向流に流し、血液から透析液への拡散に基づく物質移動により尿素、クレアチニンなどの低分子量物質を血中から除くことを主眼としている。さらに、長期透析患者の増加に伴い、透析合併症が問題となり、近年では透析による除去対象物質は尿素、クレアチニンなどの低分子量物質のみでなく、分子量数千の中分子量から分子量1〜2万の高分子量の物質まで拡大し、これらの物質も除去できることが血液浄化膜に要求されている。特に分子量11700のβ2ミクログロブリンは手根管症候群の原因物質であることがわかっており除去ターゲットとなっている。このような高分子量物質除去の治療に用いられる膜はハイパフォーマンス膜と呼ばれ、従来の透析膜より膜の細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたり、空孔率を上げたり、膜厚を薄くするなどにより、高分子量物質の除去効率の向上を可能としている。
【0004】
ところが、このような高性能を追求した膜は、上記のごとく、膜の細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたり、空孔率を上げたり、膜厚を薄くするなど、中空糸膜の強度を犠牲にしながら開発が進められている。中空糸膜の強度が弱いと、運搬中の衝撃や使用前に誤って落下させてしまうことにより中空糸膜が損傷する危険性が高くなる。
【0005】
中空糸膜の強度を上げる方法としては、膜の構造を非対称構造にしたり、網目構造と球状構造にするなど、性能発現層と支持層とに分ける膜構造からのアプローチがある(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0006】
紡糸条件からのアプローチとしては、低延伸にて構造破壊を抑制し、リーク率を下げる方策が開示されている(例えば、特許文献4参照)。また、中空形成剤を精製することで、中空糸膜の欠点を減らし、破断強度、破断伸度、バースト圧を向上させる方法がある(例えば、特許文献5参照)。
【0007】
モジュール化技術からのアプローチとして、中空糸膜の接着部付近にコーティングすることで耐衝撃性を向上させる方法(例えば、特許文献6参照)や、スペーサーフィラメントを使用する方法(例えば、特許文献7参照)がある。
【0008】
以上のように膜の構造を大きく変化させてしまうことは、目標性能を持つ中空糸膜の設計を根本から見直さなければならなくなったり、強度アップのために支持層すなわち膜厚を厚くしなければならなくなるなど一長一短がある。また、紡糸条件の工夫により膜構造破壊を抑制する方法は、バースト圧評価などで評価される不規則に出現する膜の欠点を少なくすることには効果的ではあるが、衝撃などのように膜全体の強さに対する評価メジャーについては十分ではなかった。さらに、モジュール化におけるコーティングやスペーサーフィラメントの使用は工程数アップやコストアップにつながる問題がある。
【0009】
一般的に、糸の強度を向上させる方法として、紡糸中に延伸をかける方法がある(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、血液浄化器などのような血液と接触する中空糸膜の場合、わずかな延伸でも膜構造破壊が無視できず、血液適合性が著しく低下する。特に高い透水性の中空糸膜では、延伸の影響で、血液系において高いクリアランスが出にくいと考えられており、できるだけ延伸をかけずに、構造破壊を極めて抑制した製膜方法がとられている(例えば、特許文献9参照)。
【特許文献1】特開2008−178814号公報
【特許文献2】特開平10−263375号公報
【特許文献3】WO03/106545号公報
【特許文献4】特開2005−125131号公報
【特許文献5】特開2007−105700号公報
【特許文献6】特開2005−52716号公報
【特許文献7】特開2004−254941号公報
【特許文献8】特開2003−210954号公報
【特許文献9】特開2006−340977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い透水性を有しながら、プライミング操作等における脱泡操作における繰り返し衝撃に対しても十分な強度を有する中空糸膜を内蔵した血液浄化器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ついに本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の構成を有する。
(1)内径が100〜300μm、空孔率が70%以上90%以下である中空糸膜を内蔵し、37℃における純水の透水性が200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下である血液浄化器において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の牛血液循環後の残血糸が血液浄化器に内蔵されている中空糸膜総数に対して1%以下であることを特徴とする中空糸膜を内蔵した血液浄化器。
(2)中空糸膜の平均膜厚が10μm以上18μm以下である(1)に記載の血液浄化器。
(3)中空糸膜のヤング率が4000kg/cm2以上である(1)または(2)に記載の血液浄化器。
(4)前記衝撃を同一方向に100回加えた後に、中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡で観察した際、表面の凹凸度(Ra値)が10nm未満である(1)〜(3)いずれかに記載の血液浄化器。
(5)衝撃を同一方向に100回加えた後に、膜面積1.5m2の血液浄化器を用いて測定したミオグロビンのクリアランスが60ml/min以上である(1)〜(4)いずれかに記載の血液浄化器。
(6)衝撃を同一方向に100回加えた後のミオグロビンのクリアランスが衝撃を加える前の値に比較して80%以上の保持率である(1)〜(5)いずれかに記載の血液浄化器。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血液浄化器は、内蔵された中空糸膜が高透水性でありながら、従来の中空糸膜に比して耐衝撃性を高めたものである。そのため、運搬や過度な操作による衝撃を受けても中空糸膜が損傷しにくく、血液リークなどの臨床現場におけるリスクが少ない、薄膜化が可能であるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明者らは、前記課題を解決するために、血液浄化器に用いられる中空糸膜の製造工程と性能、品質について検討した。高透水性を目指した中空糸膜は、先に記載したように膜の孔径を大きくするなど、膜全体の空孔部分を多くしたり、膜厚を薄くしたりする方向で開発されている。このような高い透水性能のみに着目した中空糸膜は、強度という点を犠牲にせざるを得ない。中空糸膜の強度が従来のものよりも弱くなった場合、製造加工工程、輸送工程、臨床現場での取り扱いにおいて、中空糸膜が損傷するリスクが高くなる。高透水性を達成しつつ、ハンドリング性に支障のない十分な強度を持った中空糸膜を得るためには、製造紡糸工程において、ドープの吐出から巻き取りまでの工程で、緻密な膜構造を形成させるための条件の組み合わせが重要であることを見出し本発明に至った。
【0015】
本発明において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器端部を固定し、反対側の血液浄化器端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方の血液浄化器端部から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回加えた後に、中空糸膜部分に損傷部位がないことが好ましい。血液浄化器の使用において、プライミング時の泡かみが起こった場合には、血液浄化器に生理食塩水を流しながら血液浄化器を叩くなどの衝撃を与えて泡を抜く作業が行われることが多く、このときの衝撃回数は数回から数十回におよぶことから、繰り返し衝撃回数は十分な余裕を含み100回以上が好ましい。
【0016】
本発明において、中空糸膜の平均膜厚は10μm以上18μm以下が好ましい。平均膜厚が大きすぎると、透水性は高くても、中〜高分子量物質の透過性が不足することがあるため、膜厚は薄い方が透過性能にとって好ましい。また、血液浄化器の設計上、膜面積を大きくする際に膜厚が大きいと、血液浄化器の大きさが大きくなってしまい中空糸型のメリットが発揮できない。したがって、膜厚は薄い方が好ましく、17.5μm以下がより好ましい。しかし、平均膜厚が薄すぎると、わずかな偏肉が発生するだけでバースト圧などの項目において血液浄化器に必要な最低限の膜強度を維持するのが困難になることがある。したがって、平均膜厚は12μm以上がより好ましく、13μm以上がさらに好ましく、14μm以上がさらにより好ましい。ここでいう平均膜厚とは、ランダムにサンプリングした中空糸膜5本を測定したときの平均値である。この時、それぞれの値と平均値との差が、平均値の2割を超えないこととする。
【0017】
また、中空糸膜の内径は100〜300μmであることが好ましい。内径が小さすぎると、中空糸膜の中空部を流れる流体の圧力損失が大きくなるため、溶血の恐れがある。また、内径が大きすぎると、中空糸膜の中空部を流れる血液のせん断速度が小さくなるため、血液中のタンパク質が経時的に膜の内面に堆積しやすくなる。中空糸膜内部を流れる血液の圧力損失やせん断速度が適度な範囲となる内径は150〜250μmである。
【0018】
本発明において、中空糸膜の空孔率は70%以上90%以下であることが好ましい。より好ましくは、空孔率は72%以上89%以下、さらに好ましくは、空孔率は74%以上88%以下である。通常、空孔率は中空糸膜の透水性とある程度の相関関係があり、高い透水性を得るためには空孔率を高くする。空孔率が低くなれば、それだけポリマーの占める部分が多くなるので中空糸膜の強度は高まるが、本発明で目標とする高い透水性を得ることができない可能性がある。一方、空孔率が高くなれば、それだけポリマーの占める部分が少なくなるため、中空糸膜の強度が低下し、ハンドリング性が悪くなったり、モジュール化工程に支障が出る可能性がある。本発明は、透水性が比較的高い、すなわち空孔率が比較的高い中空糸膜においても、従来にない高い耐衝撃性を有する中空糸膜を得たものである。
【0019】
本発明において、中空糸膜の37℃における純水の透水性は200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下の範囲が好ましい。透水性が200ml/m2/hr/mmHg未満では本発明の目的とする高透水性とは言えず、一般に血液系における中分子量物質の透過性能も低い。透水性が大きすぎると、細孔径が大きくなり、タンパクリーク量が多くなることがある。したがって、透水性のより好ましい範囲は250ml/m2/hr/mmHg以上1000ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは300ml/m2/hr/mmHg以上500ml/m2/hr/mmHg以下である。
【0020】
本発明において、中空糸膜の偏肉度は0.6以上であることが好ましい。偏肉度とは、中空糸膜モジュール中の100本の中空糸膜断面を観察した際の膜厚の偏りのことであり、最大値と最小値の比で示す。本発明において、100本の中空糸膜の最小の偏肉度は0.6以上であることを特徴とする。100本の中空糸膜に1本でも偏肉度0.6未満の中空糸膜が含まれると、その中空糸膜が輸送時や臨床使用前のプライミング操作の際に損傷を受け、リークや残血の原因となることがあるので、本発明の偏肉度は平均値でなく、100本の最小値を表す。偏肉度は高い方が、膜の均一性が増し、耐衝撃性が向上するので、より好ましくは0.7以上である。
【0021】
本発明において、前記した繰り返し衝撃試験後の血液浄化器を用いて血液循環試験をした際に残血が少ないことが好ましい。繰り返し衝撃試験によって、中空糸膜に目に見える破損部分が認められない場合でも、中空糸膜が衝撃により伸張変形などの構造破壊を起こしている場合には、血液適合性の低下が起こる。残血の指標として、具体的には血液循環試験後の残血糸の本数が血液浄化器に内蔵されている中空糸膜の全数に対して1%以下であることが好ましく、0.7%以下であることがより好ましく、0.5%以下がさらに好ましい。膜面積が1.5m2の血液浄化器には通常およそ10,000本の中空糸膜が内蔵されているが、残血糸が1%を超えるような場合には、目視にも残血していることが認識でき、血液適合性が良くない印象を与えることがある。繰り返し衝撃試験により血液適合性が低下するということは、なんらか中空糸膜の微細構造が変化したことにつながると考えるが、現在の科学技術では分析困難である。
【0022】
本発明において、中空糸膜の剪断破壊率は70%以下が好ましい。剪断破壊率は、樹脂で一部固定された中空糸膜の破壊試験において、樹脂固定部の界面で破壊する確率を評価したものである。樹脂固定部の界面での破壊は、その破壊断面を観察すると、中空糸膜が伸びて細くなる伸張変形を伴わない剪断破壊が起こっていることから剪断破壊の評価となる。逆に、樹脂固定部ではない中空糸膜の中央付近で破壊した中空糸膜の破壊断面は、中空糸膜の径が小さくなっており伸張変形を伴う伸張破壊である。衝撃などによる中空糸膜の破壊は剪断破壊であり、剪断破壊率が70%を超える場合には、剪断破壊が起こりやすく、軽微な繰り返し衝撃によって中空糸膜が損傷を受ける可能性が高い。
【0023】
本発明において、中空糸膜のヤング率は4000kg/cm2以上が好ましい。4200kg/cm2以上がより好ましい。従来行なわれていたような落下試験とは異なり、軽微な繰り返し衝撃による中空糸膜の損傷メカニズムは、中空糸膜の破壊部分断面の観察などから、伸張せずにダメージを受ける剪断破壊であることを本発明者は付き止めた。剪断破壊率はヤング率とある程度相関関係があることから、ある一定以上のヤング率を保持していれば軽微な衝撃による剪断破壊に耐えることができると考えられる。
【0024】
繰り返し衝撃に対する耐性の指標は剪断破壊率とヤング率である。剪断破壊のメカニズムはクラック発生により瞬時に破壊に至る。クラックの発現機構は明らかではないが、構造上不連続な微細構造をとっている部分に起こり易いと推測する。すなわち、中空糸膜において、その構造が対称構造である場合も非対称構造である場合も各々規則性のある微細構造を形成しているよりは、局所的に不連続な構造をとっている場合に剪断破壊が起こり易いと考えられる。不連続な構造は紡糸工程の工夫において出現の頻度は下がるものの完全に回避できるものではなかった。このような不連続な構造は膜厚が20μm以上の中空糸膜においては、その膜厚部分で剪断強度の低下をカバーすることができたが、中空糸膜の薄膜化により剪断強度の低下が顕在化するようになった。本発明では中空糸膜紡糸工程における緻密化設計が薄膜化しつつ剪断強度およびヤング率を向上させることを見出した。以下に、その製造方法の条件を示す。
【0025】
さらに、繰り返し衝撃を加えた後の血液浄化器のミオグロビンクリアランスが、衝撃を加える前の値と比較して80%以上の保持率であることが好ましい。より好ましくは85%以上である。衝撃後の該血液浄化器のクリアランスミオグロビンの保持率が80%未満の場合には、繰り返し衝撃を与えることによって、血液浄化器に内蔵されている中空糸膜が損傷まで至らなかったとしても、一部が伸張して片端部に寄って撓んだりするなどの変形や膜構造の変化が起こった結果と考えられる。血液浄化療法においては先述したように、分子量11700であるβ2ミクログロブリンの除去特性が患者の予後において重要である。しかしながら、β2ミクログロブリンの除去性能は、その性質上、血液を使用する実験系でしか精度よく測定できない。一方、ミオグロビンはβ2ミクログロブリンよりもやや大きい分子量17000の可視光領域に吸収を持つタンパク質であり、血液を使用しない簡便な水溶液の実験系でもクリアランスを精度よく測定できる利点がある。クリアランスミオグロビンは後述するが、日本透析医学会の定めた方法に準じた方法で測定することができる。
【0026】
本発明において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器端部を固定し、反対側の血液浄化器端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方の血液浄化器端部から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回以上加えた後の、膜面積1.5m2の血液浄化器のクリアランスミオグロビンの値は60ml/min以上であることが好ましい。
【0027】
血液と接触する中空糸膜の内表面は、凹凸の少ない方が血液の活性化反応が起こり難く、残血発現の抑制につながるため好ましい。凹凸の指標としては、平均面粗さ(Ra値)や最大高低差(PV値)がある。Ra値については、10nm以下であることが好ましい。さらには、9.5nm以下であることが好ましい。Ra値が10nmを超えると、血液適合性は悪くなるため残血発生リスクは高くなる。同様にPV値は140nm以下が好ましく、135nm以下が好ましい。140nmを超える場合には、血液適合性が悪くなるため残血発生リスクは高くなる。
【0028】
本発明における中空糸膜の素材としては、再生セルロース、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロース系高分子、ポリスルホンやポリエーテルスルホンなどのポリスルホン系高分子、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体などが挙げられるが、透水性が200ml/m2/hr/mmHg以上の中空糸膜を得ることが容易なセルロース系やポリスルホン系が好ましい。特にセルロース系ではセルロースジアセテートやセルローストリアセテート、ポリスルホン系ではポリスルホン、ポリエーテルスルホンが膜厚を薄くすることが容易なため好ましい。
【0029】
高い透水性を得るためには紡糸溶液のポリマー濃度を低くすればよく、ポリマーの種類などにもよるが前述のポリマーの場合、20質量%以下、より好ましくは19.5質量%以下とするのが好ましい。紡糸溶液は、紡糸溶液中の不溶成分やゲルを取り除く目的でノズル吐出直前にフィルターにかけるのが好ましい。フィルターの孔径は小さい方がよく、具体的には中空糸膜の膜厚以下のものが好ましく、中空糸膜の膜厚の1/2以下がより好ましい。フィルターが無い場合やフィルターの孔径が中空糸膜の膜厚を超える場合、ノズルスリットの一部に詰まりが生じ、偏肉糸の発生を招くことがある。さらに、フィルター無しやフィルター孔径が中空糸膜の膜厚を超えると、紡糸溶液中の不溶解成分やゲルなどの混入が原因で部分的なボイドや、数十μm単位での表面構造のきめの細かさが乱れる(ひきつれたり、部分的にシワがよるなどの)原因となりやすい。高い空孔率を有する中空糸膜において部分的なボイドの発生は、中空糸膜の強度を低下させる原因になり得、本願発明を達成するための具体的要件の1つである。また、数十μm単位での中空糸膜表面のきめの細かさを著しく乱すことは、血液を活性化させることにつながり、血栓、残血を招く可能性が高まる。血液を活性化させてしまうことは、性能発現に大きな影響を与えると考えられる。紡糸原液の濾過は、吐出するまでの間に複数回実施してもよく、フィルターの寿命を延ばすことができるので好ましい。
【0030】
上記のように処理した紡糸原液を、外側に環状部、内側に中空形成材吐出孔を有するチューブインオリフィス型ノズルを用いて吐出する。ノズルのスリット幅(紡糸原液を吐出する環状部の幅)のばらつきを小さくすることで、紡糸された中空糸膜の偏肉を減らすことができる。具体的には、ノズルのスリット幅の最大値と最小値の差を10μm以下にすることが好ましい。スリット幅は用いる紡糸原液の粘度や、得られる中空糸膜の膜厚、中空形成材の種類によって異なるが、ノズルスリット幅のばらつきが大きいと、偏肉を招き、通常の血圧でも肉厚の薄い部分が裂けたり破裂したりしてリークの原因になる。
【0031】
紡糸原液を吐出する流速(ドープ吐出速度)は1.2ml/min以上が好ましい。1.3 ml/min以上がより好ましく、紡糸原液の吐出量が1.35ml/min以上がさらに好ましい。ドープ吐出流速が大きい場合には、膜構造がより緻密な傾向になると考えられ、この後の紡糸工程における製膜条件との組み合わせにより、薄膜化しても降伏強力を下げない、すなわちヤング率の向上した中空糸膜を得る効果があり、剪断破壊に対してより強い特性を獲得することができる。紡糸原液を吐出する流速が1.2ml/minに達しないにもかかわらず中空糸膜の膜厚が18μmを超えるような場合は、剪断破壊に対して弱く、耐衝撃性に劣る、もしくは衝撃を受けた後の性能保持率が低下する可能性がある。
【0032】
また、ドラフト比は小さい方が好ましい。具体的には1以上10以下が好ましく、さらには8以下が好ましい。ここで言うドラフト比は、中空糸膜引取り速度に対するノズルから吐出される紡糸原液の吐出線速度の比である。ドラフト比が大きすぎると、膜の細孔形成時に張力がかかり、中空糸膜の形状をコントロールすることが困難となる。
【0033】
紡糸原液を吐出する際のノズルの温度は、次工程の空中走行部分での効果を十分に得るために一般的な中空糸膜製造条件よりは低い温度にすることが好ましい。具体的には、50℃以上130℃以下が好ましく、70℃以上120℃以下がより好ましく、90℃以上120℃以下がさらに好ましい。ノズル温度が低過ぎるとドープの粘度が高くなるため、ノズルにかかる圧力が高くなり紡糸原液を安定に吐出できないことがある。また、ノズル温度が高過ぎると相分離による膜構成に影響し孔径が大きくなりすぎる可能性がある。これらも中空糸膜の強度(剪断破壊)に影響を与える一因となり得る。
【0034】
吐出した紡糸原液は、空中走行部を経て凝固液に浸漬させる。この時の空中走行部は、外気と遮断する部材(紡糸管)で囲み、低温にすることが好ましい。具体的には、15℃以下にするのが好ましく、13℃以下にするのがより好ましい。空中走行部を比較的低温にコントロールする方法として、紡糸管に冷媒を循環させる方法や冷却した風を流し込む方法などがある。冷媒の冷却や風の冷却は液体窒素やドライアイスなどを用いて制御することが可能であるが、作業性を考慮した場合、空中走行部の温度は−20℃以上が好ましく、−10℃以上がより好ましく、0℃以上がさらに好ましく、5℃以上がさらにより好ましい。また、空中走行部の雰囲気は、紡糸原液の相分離に影響を与えるため均一に保たれることが望ましく、囲いなどで覆うことにより温度や風速にムラが生じないようにするのが好ましい。空中走行部分の雰囲気、温度や風速にムラがあると、膜構造にミクロなばらつきができる原因となり、性能発現や強度(剪断破壊)に問題が生じることがある。空中走行部を低温にすることで、ゲル化を促進し、後の工程の凝固過程の凝固速度を適度にコントロールすることができる。
【0035】
中空形成材は使用する紡糸原液にもよるが、不活性な液体や気体を用いるのが好ましい。このような中空形成材の具体例としては、流動パラフィンやミリスチン酸イソプロピル、窒素、アルゴンなどが挙げられる。これらの中空形成材には、必要に応じてグリセリンやエチレングリール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非溶媒を加えることもできる。
【0036】
空中走行部を経てゲル化した膜は、凝固浴中を通過させることにより凝固と相分離を進行させる。凝固浴は、紡糸原液を調製する際に使用した溶媒の水溶液が好ましい。凝固浴が水である場合には、急激に凝固し本発明の目的である強度付与のコントロールがしにくい。凝固浴を溶媒と水との混合液にすることで、凝固時間が調節しやすくなるので好ましい。凝固浴の溶媒濃度は70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。ただし、凝固浴の溶媒濃度が低すぎると紡糸時の濃度コントロールが困難であるため、溶媒濃度の下限は1質量%以上が好ましい。凝固浴の温度は、凝固速度や相分離速度のコントロールのため4℃以上50℃以下が好ましい。15℃以上50℃以下がより好ましく、30℃以上45℃以下がより好ましい。凝固浴には、必要に応じてグリセリンやエチレングリール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの非溶媒、また酸化防止剤や潤滑剤などの添加剤を加えることもできる。
【0037】
凝固浴を経た中空糸膜は洗浄工程を経て溶媒などの不要な成分を洗い流す。このときに用いる洗浄液は水が好ましく、温度は20℃〜80℃が洗浄効果が高くなるため好ましい。20℃未満では洗浄効率が悪く、80℃超では熱効率が悪いことと、中空糸膜への負担が大きく、保存安定性や性能に影響を与えることがある。また、中空糸膜は凝固浴工程を出た直後も膜構造が確定しておらず、洗浄浴中で膜構造がほぼ確定する。構造確定後の中空糸膜は、外部から力を加えると膜構造や表面形状、孔形状が変形してしまうことがあるので、洗浄浴を走行する中空糸膜になるべく抵抗がかからないような工夫を施すのが好ましい。中空糸膜から溶媒や添加剤等の不要な成分を除去するためには、液更新を高めるのが好ましく、従来は、例えば洗浄液のシャワーの中を中空糸膜を走行させるとか、洗浄液の流れと中空糸膜の走行を向流にするなどして洗浄効率を高めていた。しかし、このような洗浄方法を採用すると中空糸膜の走行抵抗が大きくなるため、中空糸膜に延伸をかけて弛んだり縺れたりすることを防ぐ必要があった。
【0038】
中空糸膜の変形抑制と洗浄性の両立をはかるためには、洗浄液と中空糸膜を並流で流すことが有効である。洗浄工程の具体的な態様としては、例えば、洗浄浴に傾きをつけ中空糸膜がその傾斜を下っていくような設備がよい。具体的には、浴の傾斜は1〜3度が好ましい。3度以上では洗浄液の流速が早くなりすぎ中空糸膜の走行抵抗を抑えることができないことがある。1度未満では、洗浄液の滞留による中空糸膜の洗浄不良が発生することがある。このように洗浄浴での中空糸膜への抵抗を抑制することで、洗浄浴入り口の中空糸膜の走行速度と出口の走行速度をほぼ同じにすることができる。具体的には、凝固浴を出てから最終巻き取り工程までの延伸率は10%以下が好ましい。8%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。ここでの延伸率は、具体的には、凝固浴出口の中空糸膜走行速度と、紡糸工程最後の巻き取り速度との比である。また、洗浄効率をより高めるために、洗浄浴は多段に配置されるのが好ましい。段数については洗浄性との兼合いにより適宜設定する必要があり、例えば、本発明に使用される溶媒、非溶媒、親水化剤等の除去を目的とするのであれば、3〜30段程度あれば足りるといえる。
【0039】
洗浄工程を経た中空糸膜は必要に応じてグリセリン処理を行なう。たとえば、セルロース系高分子からなる中空糸膜の場合は、グリセリン浴を通過させた後、乾燥工程を経て巻き取る。この場合、グリセリン濃度は50〜80質量%が乾燥工程での適度な収縮効果があり中空糸膜の強度を上げることにつながり好ましい。グリセリン濃度が低すぎると、乾燥時に中空糸膜が縮み過ぎ、中空糸膜の血液と接触する内表面部分の表面が粗くなるなどにより、性能安定性や血液適合性が悪くなることがある。また、グリセリン濃度が高すぎると、乾燥工程での収縮効果が不十分であり、十分な強度が達成できないことがある。また、中空糸膜に余分なグリセリンが付着しやすく、血液浄化器に組み立てる時に中空糸膜端部の接着性が悪くなることがある。グリセリン浴の温度は、40℃以上80℃以下が好ましい。グリセリン浴の温度が低すぎると、グリセリン水溶液の粘度が高く、中空糸膜の細孔の隅々までグリセリン水溶液が行き渡らない可能性がある。グリセリン浴の温度が高すぎると、中空糸膜が熱で変性、変質してしまう可能性がある。
【0040】
グリセリン浴を通過した後、中空糸膜はドライアーで乾燥して、巻き取る。乾燥工程により、中空糸膜は水分を蒸発して失った分だけ収縮し緻密構造になり、さらに耐衝撃性を上げることができる。ドライアーの温度は40℃〜120℃の範囲であれば、乾燥効率や均一な収縮が得られるため好ましい。乾燥温度が低すぎると収縮が不十分であるし、乾燥温度が高すぎると、中空糸膜を構成する材料が熱で変性、変質してしまう可能性がある。
【0041】
紡糸全工程における総延伸率は、30%以下であることが構造破壊の抑制できる範囲で好ましい。25%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましい。総延伸率が30%を超える場合は、構造破壊が起こり、収縮による強度付与の効果が得られなくなる。
【0042】
紡糸工程における収縮率は、次式で評価する。ここでは、値の小さい方が収縮していることを意味する。収縮率は、50〜75%の範囲が耐衝撃性、性能、血液適合性を満足するので好ましい。収縮率が50%より小さい場合には収縮し過ぎて、性能発現が不十分である。また、収縮率が75%より高い場合には、中空糸膜の収縮が不十分であり、繰り返し衝撃に対する強度が弱い。
収縮率(%)=断面積×紡糸速度/ドープ吐出速度×100
【0043】
このようにして得られた中空糸膜は、37℃における純水の透水性が200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下であり、膜厚は10μm以上18μm以下と薄膜かつ、ヤング率は4000kg/cm2以上であり、この中空糸膜を内蔵した血液浄化膜は繰り返し衝撃試験100回後も中空糸膜の損傷がなく、衝撃試験後の血液浄化膜について血液循環試験後の残血糸は血液浄化器に内蔵されている中空糸膜の総数に対して1%以下と残血は軽微であった。
【0044】
本発明の血液浄化器は、血液透析や血液透析濾過、血液濾過など、腎不全の治療に用いる血液浄化器として好適である。さらに、高い透水性を有しているにも関わらず、使用中に軽微な繰り返し衝撃を受けても、中空糸膜の損傷が無く、また中空糸膜のたわみなどによる性能変化もないため、ハンドリング性に優れ、安全な治療ができるという点で優れている。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0046】
1.繰り返し衝撃試験
血液浄化器を純水でプライミングし、中空糸膜内側(血液側)にはキャップをし、中空糸膜外側(透析液側)の水を血液浄化器を立てた状態で自然に脱液しキャップする。この状態の血液浄化器を高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばしモジュール端部を固定し、反対側のモジュール端部が床に接触する角度を30度になるようアームの長さを調節した状態で、床と接触する方のモジュール端部から床までの高さ20cmの位置からモジュールを自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回加える。(図1)。その後血液側の充填水を脱液し、血液浄化器を水没させた状態で、透析液側から1.5kgf/cm2でエアーを流し、血液側から気泡が出た場合、中空糸膜が損傷を受けた状態であると判定する。
【0047】
2.中空糸膜の内径、外径、膜厚の測定
中空糸膜断面のサンプルは以下のようにして得ることができる。測定には中空形成材を洗浄、除去した後、中空糸膜を乾燥させた形態で観察することが好ましい。乾燥方法は問わないが、乾燥により著しく形態が変化する場合には中空形成材を洗浄、除去したのち、純水で完全に置換した後、湿潤状態で形態を観察することが好ましい。中空糸膜の内径、外径および膜厚は、中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられたφ3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面でカミソリによりカットし、中空糸膜断面サンプルを得た後、投影機Nikon-V-12Aを用いて中空糸膜断面の短径、長径を測定することにより得られる。中空糸膜断面1個につき2方向の短径、長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とし、膜厚は(外径−内径)/2で算出した。5断面について同様に測定を行い、平均値を内径、膜厚とした。
【0048】
3.膜面積の計算
血液浄化器の膜面積は中空糸膜の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは血液浄化器内の中空糸膜本数、πは円周率、dは中空糸膜の内径(m)、Lは血液浄化器内の中空糸膜の有効長(m)である。
【0049】
4.クリアランスミオグロビン(CLmyo)の測定
生理食塩液でプライミングし湿潤化した血液浄化器(膜面積1.5m2)に、0.01%ミオグロビン(キシダ化学社製)透析液水溶液を血液側流量(Qbin)200ml/minで濾過をかけずにシングルパスで流しつつ、透析液を透析液側流量(Qd)500ml/minで流す。最初のミオグロビン原液のミオグロビン濃度(Cbin)と血液浄化器を通って出てきた液のミオグロビン濃度(Cbout)から、血液浄化器のクリアランス(CLmyo、ml/min)を算出する。測定は37℃で実施する。
CLmyo=(Cbin−Cbout)/Cbin ×Qbin
【0050】
5.保持率
同種類、同ロット、同膜面積の血液浄化器を2本準備し、1本は、上記の方法でCLmyoを測定する。もう1本は先に記載した方法で繰り返し衝撃試験を実施した後、CLmyoを測定する。衝撃試験による性能変化が全く無かった場合は、2本の血液浄化器のCLmyo値は等しく、保持率は100%となる。
保持率(%)=衝撃試験後のCLmyo/衝撃試験をしていないCLmyo×100
【0051】
7.透水性(UFR)
血液浄化器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子で挟んで封止した。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した血液浄化器の血液流路側へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量を測定した。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは血液浄化器入口側圧力、Poは血液浄化器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性(ml/hr/mmHg)を算出した。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.99以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水性は膜面積と血液浄化器の透水性から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水性(ml/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は血液浄化器の透水性(ml/hr/mmHg)、Aは血液浄化器の膜面積(m2)である。
【0052】
8.残血評価
評価に用いる全血液の調製は日本透析医学会の定める基準に準じる。抗凝固剤を添加した牛全血液をヘマトクリット30±3%に調製し、繰り返し衝撃試験後の血液浄化器(膜面積1.5m2)を生理食塩液でプライミングした後、血液流速(Qb)200ml/minで循環する。同時に透析液出入り口の一方を閉じた状態で、もう一方からろ液流速(Qf)15ml/minで濾過をかける。循環は37℃で2時間実施する。循環開始2時間後、生理食塩液を100ml/minの流速で流し返血する。返血に使用する生理食塩液の総量は回路体積と血液浄化器のプライミングボリューム(血液側体積)の和とする。返血が終了した血液浄化器について、ケースを破壊し内蔵されている中空糸膜を取り出し、血液が残存している中空糸膜の本数を計測する。
【0053】
9.ヤング率
東洋ボールドウイン社製テンシロンUTMIIを用いて測定した。
中空糸膜は、引っ張り速度100mm/min、チャック間距離100mmで測定し、降伏強力、降伏伸度を読み取る。ヤング率は次式より算出する。
ヤング率(kg/cm2)=降伏強力(kg)/降伏伸度(-)/中空糸膜断面積(cm2)
【0054】
10.剪断破壊率
長さ約150mmの乾燥状態の中空糸膜の中央部に5mmの幅で樹脂を中空糸膜に均一に塗布し乾燥させる。樹脂は2液混合タイプのウレタン樹脂やエポキシ樹脂もしくは1液型のウレタン樹脂を使用する。乾燥時間は24時間とする。乾燥および破壊試験は20℃、湿度65%で実施する。樹脂を乾燥させた中空糸膜を東洋ボールドウイン社製テンシロンUTMIIを用いて引っ張り試験した。引っ張り速度200mm/min、チャック間距離100mmの条件で測定し、破壊した部位を記録する。サンプル数は10本以上測定する。
剪断破壊率(%)=樹脂付近で破壊(剪断破壊)した本数/伸張破壊した本数×100
【0055】
11.空孔率
1時間以上純水に浸漬した中空糸膜束を900rpmの回転数で5分間遠心脱液し、重量を測定する。その後、乾燥機中で絶乾し重量を測定する(Mp)。
Wt(空孔に詰まっている水の重量)=遠心後の糸束の重量−Mp
体積空孔率(Vt)%=Wt/(Wt+Mp/ポリマー密度)×100
【0056】
12.収縮率
紡糸工程における中空糸膜の伸縮率は次式にて算出する。
収縮率(%)=断面積(m2)×紡糸速度(m/min)/ドープ吐出速度(m3/min)×100
【0057】
13.AFM観察(中空糸膜内表面の粗さの測定)
評価する中空糸膜の内表面を露出させたものを試料とした。原子間力顕微鏡SPI3800(セイコーインスツルメンツ社製)にて形態観察をした。この時の観察モードはDFMモード、スキャナーはFS-20A、カンチレバーはDF-3、観測視野は3μm四方である。PV値は膜表面の凹凸を測定した際の基準点に対する全測定点の凹凸の最大値と最小値の差であり、Ra値は基準点に対する全測定点の凹凸の算術平均を表す。
【0058】
14.偏肉度の測定
中空糸100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の糸断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚さを測定する。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
【0059】
(実施例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)14.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.85質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.65質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、98℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、45℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、55質量%のグリセリン浴に通過させ、80℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.35ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は4%、総延伸は9%であった。
【0060】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16.0μm、収縮率は60%、空孔率は82%、ヤング率は6200kg/cm2、剪断破壊率は30%であった。その他測定した結果について表1に示した。
【0061】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5m2となるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(100回)を実施し、その後、中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器のクリアランスミオグロビンは80ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは89ml/minであったので、クリアランスミオグロビンの保持率は90%と計算できる。牛全血液循環後の残血糸は0.28%だった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0062】
(実施例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、100℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、60℃、80質量%のグリセリン浴に通過させ、60℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.20ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は8μmであった。また、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は4%、総延伸は10%であった。
【0063】
得られた中空糸膜の内径は205μm、膜厚は17.0μm、収縮率は74%、空孔率は84%、ヤング率は4200kg/cm2、剪断破壊率は70%であった。(表1)。
【0064】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5m2となるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(100回)を実施し、その後中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器のクリアランスミオグロビンは76ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは95ml/minであったので、クリアランスミオグロビンの保持率は80%と計算できる。牛全血液循環後の残血糸は0.45%だった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0065】
(実施例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.15質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.35質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、102℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、55℃、70質量%のグリセリン浴に通過させ、60℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.50ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は10%、総延伸は15%であった。
【0066】
得られた中空糸膜の内径は205μm、膜厚は14.5μm、収縮率は50%、空孔率は85%、ヤング率は8200kg/cm2、剪断破壊率は0%であった。(表1)。
【0067】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5m2となるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(100回)を実施し、その後中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器のクリアランスミオグロビンは90ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは92ml/minであったので、クリアランスミオグロビンの保持率は98%と計算できる。牛全血液循環後の残血糸は0.07%だった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0068】
(実施例4)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)18.0質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)57.4質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.6質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、112℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、5℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の15質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、55℃、70質量%のグリセリン浴に通過させ、120℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.40ml/min、製膜溶液のドラフト比は7であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを2度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は4%、総延伸は9%であった。
【0069】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は16.5μm、収縮率は60%、空孔率は76%、ヤング率は6600kg/cm2、剪断破壊率は10%であった。(表1)。
【0070】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5m2となるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(100回)を実施し、その後中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器のクリアランスミオグロビンは65ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは65ml/minであったので、クリアランスミオグロビンの保持率は100%と計算できる。牛全血液循環後の残血糸は0%だった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0071】
(実施例5)
ポリエーテルスルホン(住友化学社製 高重合度ポリエーテルスルホン7300P)20質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製 PVP K-90)2質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)48質量%およびポリエチレングリコール(PEG200、第一工業製薬製)30質量%を均一に溶解し、ついで製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、110℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として窒素ガスとともに同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断され、10℃に調整された5mmの乾式部を通過後、40℃の40質量%NMP/PEG200(6/4)水溶液中で凝固させ、50℃の水洗浴を経た後、40℃、50質量%のグリセリン浴に通過させ、40℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.35ml/min、製膜溶液のドラフト比は5であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は5段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は10%、総延伸は20%であった。
【0072】
得られた中空糸膜の内径は195μm、膜厚は18.0μm、収縮率は67%、空孔率は74%、ヤング率は7500kg/cm2、剪断破壊率は0%であった。(表1)。
【0073】
得られた中空糸膜を用いて膜面積が1.5m2となるように血液浄化器を組み立てた。純水でプライミングした血液浄化器について繰り返し衝撃試験(100回)を実施し、その後中空糸膜に損傷部位がないかどうか調べたところ、損傷部位は無かった。この血液浄化器のクリアランスミオグロビンは70ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは70ml/minであったので、クリアランスミオグロビンの保持率は100%と計算できる。牛全血液循環後の残血糸は0%だった。高性能であるとともに、繰り返し衝撃に対しても十分な強度と性能保持率を有していた。
【0074】
(比較例1)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)16.0質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)58.8質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.2質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、110℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された50mmの乾式部を通過後、45℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、60℃、83質量%のグリセリン浴に通過させ、35℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.10ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は4%、総延伸は8%であった。
【0075】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は17.0μm、収縮率は79%、空孔率は86%、ヤング率は3500kg/cm2、剪断破壊率は90%であった。その他、測定した結果について表2に示した。
【0076】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には多数の中空糸膜損傷が認められた。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは98ml/minと高性能であったが、繰り返し衝撃に対して十分な強度を有していなかった。
【0077】
(比較例2)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)17.5質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)57.75質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.75質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を10μm、5μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、102℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、30℃に調整された50mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、60質量%のグリセリン浴に通過させ、80℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.10ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は12μmであった。また、水洗浴は、傾きを3度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが逆方向に流れる向流とした。水洗浴は5段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は12%、総延伸は22%であった。
【0078】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は20.0μm、収縮率は94%、空孔率は80%、ヤング率は5000kg/cm2、剪断破壊率は50%であった。(表2)。
【0079】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には中空糸膜損傷が認められなかったが、繰り返し衝撃試験後の血液浄化器のクリアランスミオグロビンは60ml/minであった。同ロットの繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロブリンは86ml/minであったので、クリアランスβミオグログロブリン保持率は70%であった。牛全血液循環後の残血糸は1.6%だった。繰り返し衝撃試験には耐えたが、凝固浴後の延伸が高かったため、剪断破壊は起こらなかったものの衝撃による構造変化がありクリアランスの保持率と血液適合性は低かった。
【0080】
(比較例3)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)15質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)59.5質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)25.5質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、60℃、85質量%のグリセリン浴に通過させ、80℃のドライアーで乾燥し、120m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.30ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は5%、総延伸は10%であった。
【0081】
得られた中空糸膜の内径は200μm、膜厚は15.0μm、収縮率は93%、空孔率は81%、ヤング率は3100kg/cm2、剪断破壊率は90%であった。(表2)。
【0082】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には10本実施中9本で中空糸膜損傷が認められた。収縮率が高く、収縮が不十分であったため、繰り返し衝撃に対する強度は弱かった。中空糸膜への損傷が見られなかった1本について、クリアランスミオグロビンを測定したところ、55ml/minと低かった。繰り返し衝撃試験を実施していない血液浄化器のクリアランスミオグロビンは91ml/minであったので、クラランスミオグロビンの保持率は60%と低値であった。牛全血液循環後の残血糸は2%以上だった。クリアランス保持率、血液適合性ともに低かった。
【0083】
(比較例4)
セルローストリアセテート(ダイセル化学社製)17質量%、N−メチル−2−ピロリドン(NMP、三菱化学社製)58.1質量%およびトリエチレングリコール(TEG、三井化学社製)24.9質量%を加熱して均一に溶解し、ついで得られた製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を20μm、20μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、105℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成材として予め脱気処理した流動パラフィンとともに吐出し、紡糸管により外気と遮断され、12℃に調整された70mmの乾式部を通過後、40℃の20質量%NMP/TEG(7/3)水溶液中で凝固させ、30℃の水洗浴を経た後、50℃、40質量%のグリセリン浴に通過させ、120℃のドライアーで乾燥し、75m/minで巻き上げた。ドープ吐出速度は1.10ml/min、製膜溶液のドラフト比は11であった。ノズルスリット幅の最大値と最小値の差は7μmであった。また、水洗浴は、傾きを1度とし、洗浄水が緩やかに下っていくように調整し、洗浄水と中空糸膜とが同じ方向に流れる並流とした。水洗浴は7段とした。凝固浴を出てから巻き取りまでの延伸は5%、総延伸は10%であった。
【0084】
得られた中空糸膜の内径は180μm、膜厚は12μm、収縮率は49%、空孔率は65%、ヤング率は7800kg/cm2、剪断破壊率は0%であった。(表2)。
【0085】
得られた中空糸膜を用いて実施例1と同様にして評価した。結果を表2に示した。繰り返し衝撃試験後の血液浄化器には中空糸膜損傷は認められなかった。しかし、繰り返し衝撃試験を実施する前の血液浄化器の透水性は、180ml/hr/m2/mmHg、クリアランスミオグロビンは52ml/minであり、グリセリン濃度が低く、乾燥工程で縮み過ぎ、内表面粗さRa値が10nmを超えるなど粗い構造となったため、強度は向上したもののタンパクの吸着が起こり易く性能は低かった。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の中空糸型血液浄化器はプライミングなどを想定した繰り返し衝撃を受けても中空糸膜に損傷を受けないこと、なおかつ、衝撃を受けた後も透過性能の変動がないこと、さらに高透水性能である特性を持つ。そのため、臨床現場での取り扱いにおいて、血液リークのリスクが少ない、かつ衝撃を受けても安定した性能であることが期待できるという利点がある。したがって、産業の発展に大きく寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本願発明の衝撃試験の実施態様を示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径が100〜300μm、空孔率が70%以上90%以下である中空糸膜を内蔵し、37℃における純水の透水性が200ml/m2/hr/mmHg以上1500ml/m2/hr/mmHg以下である血液浄化器において、湿潤状態で、高さ30cmに設けた支点からアームを伸ばし血液浄化器の一端を固定し、血液浄化器の他端が床に接地したときの角度が30度になるようにアームの長さを調節した後血液浄化器の他端から床までの高さ20cmの位置から血液浄化器を自由落下させて与える衝撃を同一方向に100回加えた際に、中空糸膜に損傷がないこと、かつ、衝撃を加えた後の牛血液循環後の残血糸が血液浄化器に内蔵されている中空糸膜総数に対して1%以下であることを特徴とする中空糸膜を内蔵した血液浄化器。
【請求項2】
中空糸膜の平均膜厚が10μm以上18μm以下である請求項1に記載の血液浄化器。
【請求項3】
中空糸膜のヤング率が4000kg/cm2以上である請求項1または2に記載の血液浄化器。
【請求項4】
前記衝撃を同一方向に100回加えた後に、中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡で観察した際、表面の凹凸度(Ra値)が10nm未満である請求項1〜3いずれかに記載の血液浄化器。
【請求項5】
衝撃を同一方向に100回加えた後に、膜面積1.5m2の血液浄化器を用いて測定したミオグロビンのクリアランスが60ml/min以上である請求項1〜4いずれかに記載の血液浄化器。
【請求項6】
衝撃を同一方向に100回加えた後のミオグロビンのクリアランスが衝撃を加える前の値に比較して80%以上の保持率である請求項1〜5いずれかに記載の血液浄化器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−111965(P2010−111965A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285115(P2008−285115)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】