説明

耐衝撃性に優れたEVOH層を有する多層構造物

【課題】ポリアミドまたはHDPE層、結合層、耐衝撃性に優れたEVOH層、任意層としての結合層、ポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層を上記順序で有する多層構造物。
【解決手段】耐衝撃性に優れたEVOH層はEVOHと下記(a)〜(i)の中から選択される少なくとも一種の衝撃改質剤とをベースとする混合物である:(a)官能化されたエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、(b)(i)エチレンとグラフトまたは共重合された不飽和モノマーXとのコポリマーと(ii)ポリアミドとの反応生成物、(c)(a)と(b)の混合物、(d)ポリアミド、(e)(a)と(d)との混合物、(f)エラストマー、(g)S-B-Mトリブロック、(h)2つのPMMAブロックの間にポリ(ブチルアクリレート)ブロックを有するトリブロック、(i)直鎖または星形のS-B-Sブロックコポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性に優れたEVOH層を有する多層構造物に関するものである。本発明のこの構造物は下記層を下記の順序で有することができる:
(a)ポリアミドまたはHDPE(高密度ポリエチレン)層、
(b)結合層、
(c)耐衝撃性に優れたEVOH層、
(d)任意層としての結合層、
(e)ポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層(1)。
【0002】
上記のポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層(1)は帯電防止性にするための充填剤を含むことができる。
【0003】
上記のポリアミドまたはHDPE層が外層で、上記のポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層が流体(ガソリン)と接触する内層である構造物はタンク、容器、壜、管の製造に有用である。この構造物は共押出しまたは共押出しブロー成形で製造できる。
本発明構造物の利点は多数の物質に対するバリヤ性にある。特に有用な用途はガソリンの輸送、特にガソリンを自動車のタンクからエンジンへ輸送する管である。特に有用な別の用途は自動車用ガソリンタンクである。
【背景技術】
【0004】
安全性および環境保護の観点から、自動車メーカーはガソリン輸送管に対して十分な低温衝撃強度(−40℃)および高温衝撃強度(125℃)と破裂強度や柔軟性等の機械的特性の他に、炭化水素、その他の添加剤(特にメタノールおよびエタノール等のアルコール)に対する耐透過性とを要求している。さらに、ガソリン輸送管は燃料およびエンジン潤滑油に対しても十分な耐久性がなければならない。このガソリン輸送管は熱可塑性プラスチックの通常の技術で複数の層を共押出しして製造される。
【0005】
ガソリン輸送管に要求される特性の中で下記の5つの特性を簡単な方法で同時に達成することは極めて困難である:
(1)低温(−40℃)での衝撃強度(管が破損しないこと)、
(2)燃料に対して耐久性があること、
(3)高温(125℃)強度に優れること、
(4)ガソリンに対する透過性が極めて低いこと、
(5)ガソリン使用時に優れた寸法安定性があること。
【0006】
各種構造の多層管が知られているが、低温衝撃強度に関する検査規格を実際に行うまでは低温衝撃強度を予測することはできない。
【0007】
下記層を下記の順序で有する構造物では、衝撃またはそれに類似する機械的応力が加わるとEVOH層にクラックが生じ、それが構造物全体に広がっていくということがわかった:
ポリアミドまたはHDPE(高密度ポリエチレン)層、
(a)結合層、
(b)EVOH層、
(c)任意層としての結合層、
(d)ポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層
【0008】
この欠点を改良するのに必要な十分な量の衝撃改質剤をEVOH層に添加すると、衝撃を受けたときに、依然としてこの層でクラックが開始することはあっても、そのクラックを他の層に伝播するほどのエネルギーはもはやなく、従って、構造物が耐衝撃性になるということもわかっている。
【0009】
下記の特許文献1には下記層を下記の順序で有する構造物が開示されている:
(a)高密度ポリエチレン(HDPE)の第1層、
(b)結合層、
(c)EVOHまたはEVOHベースの混合物から成る第2層、
(d)任意層としてのポリアミド(A)またはポリアミド(A)/ポリオレフィン(B)の混合物から成る第3層。
【特許文献1】欧州特許第EP1,122,061号公報
【0010】
上記の特許文献1には3種類のEVOHベースの混合物が開示されている。
第1の混合物は下記(重量)を含む組成物である:
55〜99.5部のEVOHコポリマー、
0.5〜45部のポリプロピレンおよび相溶化剤(相溶化剤の量に対するポリプロピレンの量の比率は1〜5)。
【0011】
第2の混合物は下記を含む組成物である:
50〜98重量%のEVOHコポリマー、
1〜50重量%のポリエチレン、
1〜15重量%の相溶化剤(これはLLDPEまたはメタロセンポリエチレンと、エラストマー、超低密度ポリエチレンおよびメタロセンポリエチレンの中から選択されるポリマーとの混合物から成り、この混合物に不飽和カルボン酸またはその官能誘導体が共グラフトされている)
【0012】
第3の混合物は下記を含む組成物である:
50〜98重量%のEVOHコポリマー、
1〜50重量%のエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、
1〜15重量%の相溶化剤(これは(i)エチレンとグラフトまたは共重合された不飽和モノマーXとのコポリマーと(ii)コポリアミドとの反応で得られる)
【0013】
下記特許文献には、上記特許文献1(欧州特許第EP1,122,061号公報)に開示された混合物と同一のEVOHベースの混合物から形成できるEVOH層を有する多層管が開示されている。
【特許文献2】欧州特許第EP1,243,831号公報
【特許文献3】欧州特許第EP1,314,758号公報
【特許文献4】欧州特許第EP1,314,759号公報
【特許文献5】欧州特許第EP1,331,091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、これらのEVOHベースの混合物では強い衝撃に関しては不十分である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の対象は、下記の(A)〜(E)の層を下記の順序:
(A)ポリアミドまたはHDPE(高密度ポリエチレン)層、
(B)結合層、
(C)耐衝撃性に優れたEVOH層、
(D)任意層としての結合層、
(E)ポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層(1)(この層は帯電防止性を与える充填剤を含むことができる)、
で有し、且つ、上記の耐衝撃性に優れたEVOH層がEVOHと下記の(a)〜(i)の中から選択される少なくとも一種の衝撃改質剤とをベースとする混合物であることを特徴とする多層構造物にある:
(a)官能化されたエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、
(b)(i)エチレンとグラフトまたは共重合された不飽和モノマーXとのコポリマーと(ii)ポリアミドとの反応で得られる生成物、
(c)(a)と(b)の混合物、
(d)ポリアミド、好ましくはPA−6、
(e)(a)と(d)との混合物、
(f)エラストマー、好ましくはEPR、EPDMおよびNBR(官能化されていてもよい)、
(g)S−B−Mトリブロック、
(h)2つのPMMAブロックの間にポリ(ブチルアクリレート)ブロックを有するトリブロック、
(i)直鎖または星形のS−B−Sブロックコポリマー(水素化されていてもよく、この場合、S−EB−Sとよばれる)
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
衝撃改質剤の比率は重量で1〜35%で、そのEVOHの比率は99〜65%であるのが有利である。
【0017】
本発明の他の対象は上記の構造物で構成される流体を輸送または貯蔵する装置、特に管、タンク、シュート、壜および容器にある。これらの装置では上記のポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層(1)が収容または輸送される流体と直接接触するのが有利である。上記装置は熱可塑性ポリマーの業界で一般的な技術、例えば共押出しまたは共押出しブロー成形によって製造できる。これら装置の厚さは公知文献に記載されている。
【0018】
本発明の別の形態では、上記の層(1)に帯電防止特性を有さず、この層(1)の片側に層(2)が接着され、この層(2)に帯電防止性を付与する充填剤が含まれる。この層(2)は層(1)と同じポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィンで作ることができる。層(1)と(2)を同じ種類にすることができ、例えば両方をポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィンにすることができる。また、層(1)と(2)を互いに異なる材料にすることもでき、例えば一方をポリオレフィンにし、他方をポリアミド、その他の材料の任意の組み合わせにすることができる。層(1)と層(2)との間には必要に応じて結合層をさらに挿入することができる。
層(1)と層(2)が存在する形態では収容または輸送される流体と直接接触するのは層(2)である。
【0019】
(a)の官能基は酸、酸無水物または不飽和エポキシドにすることができる。不飽和カルボン酸無水物の量はコポリマーの15重量%以下にすることができ、エチレンの量は少なくとも50重量%にすることができる。
(a)の例はエチレンとアルキル(メタ)アクリレートと不飽和カルボン酸無水物とのコポリマーである。アルキル(メタ)アクリレートはアルキルが2〜10個の炭素原子を有するのが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートはメチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートから選択できる。MFIは例えば0.1〜50(g/10分、190℃、2.16kg)である。
【0020】
(a)の他の例はエチレンとアルキル(メタ)アクリレートと不飽和エポキシドとのコポリマーである。アルキル(メタ)アクリレートはアルキルが2〜10個の炭素原子を有するのが好ましい。(a)のMFIは例えば0.1〜50(g/10分、190℃、2.16kg)である。使用可能なアルキルアクリレートまたはメタクリレートの例はにメチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。使用可能な不飽和エポキシドの例は下記のものである:
1)脂肪族グリシジルエステルおよびエーテル、例えばアリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、グリシジルマレート、グリシジルイタコネート、グリシジルアクリレートおよびグリシジルメタクリレート、
2)脂環式グリシジルエステルおよびエーテル、例えば2−シクロヘキセン−1−イルグリシジルエーテル、シクロヘキセン−4,5−ジグリシジルカルボキシレート、シクロヘキセン−4−グリシジルカルボキシレート、5−ノルボルネン−2−メチル−グリシジルカルボキシレート、エンド−シス−ビシクロ[2.2.1]−5‐へプテン−2,3−ジグリシジルジカルボキシレート。
【0021】
(b)は例えばポリオレフィン主鎖と少なくとも一種のポリアミドグラフト基とから形成されるポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーであり、グラフト基はアミン末端基を有するポリアミドと反応可能な官能基を有する不飽和モノマー(X)の残基を介してポリオレフィン主鎖に結合し、不飽和モノマー(X)の残基はその二重結合のグラフトまたは共重合によってポリオレフィン主鎖に結合している。
【0022】
ポリアミドブロックを有するグラフトコポリマーはアミン末端基を有するポリアミドと、ポリオレフィン主鎖にグラフトまたは共重合によって結合した不飽和モノマー(X)の残基とを反応させて得ることができる。
【0023】
上記のモノマーXは例えば不飽和エポキシドまたは不飽和カルボン酸無水物にすることができる。不飽和カルボン酸無水物は例えば無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アリル琥珀酸、4−シクロヘキシ−1,2−ジカルボン酸、4−メチル−4−シクロヘキシ−1,2−ジカルボン酸、ビシクロ(2,2,1)へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸、x−メチルビシクロ(2,2,1)へプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸の中から選択することができる。無水マレイン酸を用いるのが有利である。不飽和カルボン酸無水物を不飽和カルボン酸、例えばアクリル酸またはメタクリル酸で完全または部分的に置換しても本発明の範囲を逸脱するものではない。不飽和エポキシドの例は上記のものである。
【0024】
ポリオレフィン主鎖のポリオレフィンはホモポリマーまたはαオレフィンまたはジオレフィンのコポリマー、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−オクテンおよびブタジエンである。
エチレンとXとのコポリマー(すなわちXがグラフト化されていないコポリマー)はエチレンとXと任意成分としての別のモノマーとのコポリマーである。
【0025】
エチレン/無水マレイン酸コポリマーおよびエチレン/アルキル(メタ)アクリレート/無水マレイン酸コポリマーを用いるのが有利である。これらのコポリマーは0.2〜10重量%の無水マレイン酸と、0〜40重量%、好ましくは5〜40重量%のアルキル(メタ)アクリレートとを含む。そのMFIは5〜100(190℃/2.16kg)である。アルキル(メタ)アクリレートは上記で説明したものである。融点は60〜100℃である。
【0026】
アミン末端基を有するポリアミドの「ポリアミド」という用語は下記の縮合生成物を意味する:
(a)アミノカプロン酸、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸および12−アミノドデカン酸のような1種または複数のアミノ酸またはカプロラクタム、エナントラクタムおよびラウリラクタムのような1種または複数のラクタム;
(b)ヘキサメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等のジアミンと、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカンジカルボキシル酸等の二酸との1種または複数の塩または混合物;または
(c)コポリアミドとなる複数のモノマーの混合物。
【0027】
ポリアミドまたはコポリアミドの混合物を用いることもできる。PA−6、PA−11、PA−12、PA−6単位とPA−11単位とのコポリアミド(PA−6/11)、PA−6単位とPA−12単位とのコポリアミド(PA−6/12)およびカプロラクタム、ヘキサメチレンジアミンおよびアジピン酸(PA−6/6,6)をベースとするコポリアミドを用いるのが有利である。コポリアミドの利点はグラフト基の融点を選択できることにある。
【0028】
グラフト基はカプロラクタム、11−アミノウンデカン酸またはドデカラクタムの残基で構成されるホモポリマーか、上記モノマーの少なくとも2つの中から選択される残基で構成されるコポリアミドであるのが有利である。
重合度は広範囲に変えることができ、その値に応じてポリアミドまたはポリアミドオリゴマになる。本明細書では両者の表現を区別しないで用いる。
【0029】
モノアミン末端基を有するポリアミドの場合、下記式の連鎖停止剤を使用すれば十分である:
【化1】

【0030】
(ここで、R1は水素または20個以下の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖のアルキル基、R2は20個以下の炭素原子を有する直鎖または分岐鎖のアルキルまたはアルケニル基、飽和または不飽和の脂環式基、芳香族基または上記の組み合わせを表す)
この連鎖停止剤は、例えばラウリルアミンまたはオレイルアミンにすることができる。
【0031】
アミン末端基を有するポリアミドは1000〜5000g/mol、好ましくは2000〜4000g/molのモル質量を有するのが有利である。
本発明のモノアミン基を有するオリゴマの合成に好ましいアミノ酸またはラクタムのモノマーはカプロラクタム、11−アミノ−ウンデカン酸またはドデカラクタムの中から選択される。好ましい一官能性連鎖停止剤はラウリルアミンとオレイルアミンである。
【0032】
重縮合は一般に公知の通常の方法、例えば200〜300℃の温度で、真空下または不活性雰囲気下で、反応混合物を攪拌しながら行うことができる。オリゴマーの平均鎖長は重縮合するモノマーまたはラクタムと一官能性連鎖停止剤の初期モル比で決まる。平均鎖長の計算では一般に一つのオリゴマー鎖に対して一つの連鎖停止剤分子を当てる。
【0033】
不飽和モノマー(X)を含むポリオレフィン主鎖へのモノアミン基を有するコポリアミドオリゴマの付加は、オリゴマのアミン官能基と不飽和モノマー(X)との反応で行うことができる。不飽和モノマー(X)は酸基または無水基を有するのが好ましく、従って、アミドまたはイミド結合を作る。
【0034】
不飽和モノマー(X)を含むポリオレフィン主鎖へのアミン末端を有するオリゴマの付加は溶融状態で実行するのが好ましい。一般にはオリゴマーと主鎖とを押出機で230℃〜250℃の温度で混合することができる。押出機中での溶融物の平均滞留時間は15秒〜5分、好ましくは1〜3分にする。この付加効率を上げるためには、遊離したポリアミドオリゴマーすなわち最終ポリアミドブロックグラフトコポリマーを作るために反応しなかったものを選択的に抽出するのが好ましい。
【0035】
不飽和モノマー(X)を含むポリオレフィン主鎖の製造方法およびそのアミン末端を有するポリアミドへの付加は下記特許文献に記載されている。
【特許文献6】米国特許第US 3976720号明細書
【特許文献7】米国特許第US 3963799号明細書
【特許文献8】米国特許第US 5342886号明細書
【特許文献9】フランス特許第FR 2291225号公報
【0036】
トリブロック(g)としてはS−B−Mトリブロックが挙げられ:この各ブロックは共有結合によって連結されているか、一方のブロックに一つ共有結合を介して結合され、他方のブロックに他の共有結合を介して結合された中間分子を介して連結されており、MブロックはMMAモノマー(必要に応じてその他のモノマーと共重合されていてもよい)から成り且つメタクリル酸メチル(MMA)を少なくとも50重量%含み、BブロックはEVOHおよびMブロックに非相溶であり、SはBブロックおよびMブロックに非相溶で、そのTgまたは融点TmはブロックBのTgより高い。
【0037】
S−B−MトリブロックのMはメタクリル酸メチルのモノマーから成るか、メタクリル酸メチルを少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも75重量%含む。このMブロックを構成する他のモノマーはアクリル系のモノマーであってもなくてもよく、反応性モノマーであってもなくてもよい。反応性官能基の例としてはオキシラン基、アミン基およびカルボキシル基等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。反応性モノマーは(メタ)アクリル酸またはこの酸に至る加水分解可能な他の任意のモノマーにすることができる。
【0038】
Mブロックを構成できる他のモノマーとしてはメタクリル酸グリシジル、t−ブチルメタクリレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。Mブロックは少なくとも60%がシンジオタクティックPMMAから成るのが好ましい。
【0039】
BのTgは0℃以下、好ましくは−40℃以下にするのが有利である。
エラストマブロックBを合成するのに用いられるモノマーはブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2−フェニル−1,3−ブタジエンから選択されるジエンにすることができる。このBはポリ(ジエン)、特にポリ(ブタジエン)、ポリ(イソプレン)およびこれらのランダムコポリマーまたは部分的または完全に水素化されたポリ(ジエン類)の中から選択するのが好ましい。ポリブタジエンの中ではTgが最も低いもの、例えば1,4−ポリブタジエン(約−90℃)を使用するのが有利である(1,2−ポリブタジエン(約0℃)よりTgが低い)。Bのブロックは水素化されていてもよい。この水素化は通常の方法に従って行える。
【0040】
エラストマブロックBの合成に用いるモノマーは以下のようなアルキル(メタ)アクリレートにすることができる[(メタ)アクリレートの名称の後に、得られるTg値をカッコ中に示す]:アクリル酸エチル(−24℃)、アクリル酸ブチル(−54℃)、2−エチルヘキシルアクリレート(−85℃)、ヒドロキシエチルアクリレート(−15℃)および2−エチルヘキシルメタクリレート(−10℃)。アクリル酸ブチルを用いるのが好ましい。BとMは非相溶であるという条件から、このアクリレートはMブロックのアクリレートとは相違する。
Bブロックは主として1,4−ポリブタジエンから成るのが好ましい。
【0041】
SのTgまたはTmは23℃以上、好ましくは50℃以上であるのが好ましい。Sブロックの例として芳香族ビニル化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレンまたはビニールトルエンから得られるものを挙げることができる。
S−B−Mトリブロックはポリスチレン/ポリブタジエン/PMMAトリブロックであるのが有利である。
【0042】
S−B−Mトリブロックは10,000〜500,000g/mol、好ましくは20,000〜200,000g/molの数平均分子量を有するのが好ましい。このS−B−Mトリブロックは下記重量組成を有するのが好ましい(全体で100%):
M: 10〜80%、好ましくは15〜70%、
B: 2〜80%、好ましくは5〜70%、
S: 10〜88%、好ましくは15〜85%。
【0043】
S−B−MトリブロックはS−Bジブロックと混合することができる。S−BジブロックのSおよびBブロックはS−B−MトリブロックのSおよびBブロックと同じ特性を有する。このSとBブロックは非相溶性で、S−B−MトリブロックのSおよびBブロックと同じモノマー(場合によってはコモノマー)からなる。すなわち、S−BジブロックのSブロックはS−B−MトリブロックのSブロックで使用可能なモノマーの群と同じ群の中から選択されるモノマーで構成される。同様に、S−BジブロックのBブロックはS−B−MトリブロックのBブロックで使用可能なモノマーの群と同じ群の中から選択されるモノマーで構成される。
【0044】
S−Bジブロックの数平均分子量は10,000〜500,000g/mol、好ましくは20,000〜200,000g/molにすることができる。S−Bジブロックは5〜95重量%、好ましくは15〜85重量%のBブロックからなるのが有利である。
【0045】
S−B−MトリブロックとS−Bジブロックとの混合物は95〜20重量%のS−B−Mトリブロックに対して5〜80重量%のS−Bジブロックを含むのが有利である。
この組成の利点はS−B−Mトリブロックを合成後に精製する必要がない点にある。すなわち、複数のS−B−Mトリブロックは一般に複数のS−Bジブロックから作られ、この反応によって大抵はS−B/S−B−M混合物が得られ、この混合物を分離してS−B−Mトリブロックを得る。
【0046】
これらのS−B−Mトリブロックコポリマーは例えば下記文献に記載の方法を用いるアニオン重合で製造できる。
【特許文献10】欧州特許第524,054号公報
【特許文献11】欧州特許第749,987号公報
【0047】
また、制御されたラジカル重合で製造することもできる。これらのS−B−Mトリブロックコポリマーは下記文献に記載されている。
【特許文献12】国際特許第WO29772号
【0048】
(i)の直鎖または星形のS−B−SブロックコポリマーのS−B−Sトリブロックは下記文献に記載されている。
【非特許文献1】ウルマン百科辞典のA26巻、第655〜659頁
【0049】
S−B−Sトリブロックの例としては、各ブロックが共有結合によって他方のブロックと結合しているか、一つのブロックに一つの共有結合で、他のブロックに別の共有結合で結合した中間分子を介して結合している直鎖S−B−Sトリブロックが挙げられる。
【0050】
S−B−SトリブロックのSおよびBブロックはS−B−MトリブロックのSおよびBブロックと同じ特性を有する。S−B−SトリブロックのSおよびBブロックは非相溶性であり、S−B−MトリブロックのSおよびBブロックと同じモノマー、必要に応じてさらにコモノマーからなる。すなわち、S−B−SトリブロックのSブロックはS−B−MトリブロックのSブロックで使用可能なモノマーの群と同じ群の中から選択されるモノマーで構成される。同様に、S−B−SトリブロックのBブロックはS−B−MトリブロックのBブロックで使用可能なモノマーの群と同じ群の中から選択されるモノマーで構成される。このSおよびBブロックは、他のブロックコポリマー中に存在する他のSおよびBブロックと同一でも異なっていてもよい。
【0051】
直鎖S−B−Sトリブロックの数平均分子量は10,000〜500,000g/mol、好ましくは20,000〜200,000g/molにすることができる。S−B−Sトリブロックは5〜95重量%、好ましくは15〜85重量%のBブロックからなるのが有利である。
S−B−Sトリブロックの他の例としては星形S−B−Sトリブロックが挙げられる。「トリブロック」という用語はブロックの数と一致しないが「星形S−B−Sトリブロック」という用語で当業者に知られている。星形トリブロックの例としては下記化学式の星形トリブロックが挙げられる:
【0052】
【化2】

【0053】
(ここで、nは1、2または3であり、S1およびB1はブロックを表す)。
1ブロックは重合したスチレンを表し、
1ブロックは重合したブタジエン、重合したイソプレンまたは重合したイソプレンと重合したブタジエンとの混合物を表す。B1ブロックは水素化されていてもよい(この場合、B1ブロックは例えばS−EB−Sブロックである)。
Yは、例えば星形ブロックコポリマーの製造で用いられる多官能性カップリング剤に由来の多官能性単位である。このようなカップリング剤およびこれらのブロックコポリマーは下記文献に記載されている。
【特許文献13】米国特許第3,639,521号明細書
【0054】
好ましい星形ブロックコポリマーは15〜45重量%、好ましくは25〜35重量%のスチレン単位を含む。モル質量は少なくとも140,000、好ましくは少なくとも160,000である。
特に好ましい星形ブロックコポリマーは下記文献に記載されている。
【特許文献14】欧州特許第451920号公報
【0055】
これらのコポリマーはスチレンとイソプレンとをベースにし、ポリスチレンブロックのモル質量は少なくとも12,000であり、ポリスチレン含有率はブロックコポリマーの全重量の35重量%以下である。好ましい直鎖ブロックコポリマーは分子量が70,000〜145,000であり、12〜35重量%のポリスチレンを含む。特に好ましい直鎖ブロックコポリマーは下記文献に記載されているスチレンとイソプレンとをベースにするものである。
【特許文献15】欧州特許第451919号公報
【0056】
これらのコポリマーはモル質量が14,000〜16,000であり、ポリスチレン含有率がブロックコポリマーの25〜35重量%であるポリスチレンブロックを有する。モル質量は80,000〜145,000、好ましくは100,000〜145,000である。
直鎖S−B−Sトリブロックと星形S−B−Sトリブロックとの混合物を用いることもできる。これらの直鎖または星形S−B−SトリブロックはFINAPRENE(登録商標)、FINACLEAR(登録商標)、KRATON(登録商標)およびSTYROLUX(登録商標)の商標名で市販されている。
【0057】
(A)層のポリアミドまたはHDPE(高密度ポリエチレン)は、ポリアミド、特に半芳香族ポリアミドまたは半脂環式ポリアミドおよび脂肪族ポリアミドの中から選択することができる。
脂肪族ポリアミドはPA−11、PA−12、6〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜12個の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび11単位が90%以上であるか、12単位が90%以上である11/12コポリアミドの中から選択できる。
【0058】
6〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜12個の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドの例としては下記を挙げることができる:
ヘキサメチレンジアミンと1,12−ドデカンジオン酸の縮合で得られるPA−6,12;
9ジアミンと1,12ドデカンジオン酸との縮合で得られるPA−9,12;
10ジアミンと1,10−デカンジオン酸の縮合で得られるPA−10,10;
9ジアミンと1,12−ドデカンジオン酸の縮合で得られるPA−10,12。
11単位が90%以上であるか、12単位が90%以上である11/12コポリアミドは1−アミノウンデカン酸とラウリルラクタム(または、C12のα、ω−アミノ酸)の縮合で得られる。
ポリアミドにさらにポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーを加えることができる。
【0059】
層(1)および層(2)のポリアミドおよびポリアミド/ポリオレフィン混合物のポリアミドは上記のポリアミドから選択でき、さらにPA6、PA6−6またはPA6/6−6の中から選択することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)〜(E)の層を下記の順序:
(A)ポリアミドまたはHDPE(高密度ポリエチレン)層、
(B)結合層、
(C)耐衝撃性に優れたEVOH層、
(D)任意層としての結合層、
(E)ポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィン層(1)(この層は帯電防止性を与える充填剤を含むことができる)、
で有し、且つ、上記の耐衝撃性に優れたEVOH層がEVOHと下記の(a)〜(i)の中から選択される少なくとも一種の衝撃改質剤とをベースとする混合物であることを特徴とする多層構造物:
(a)官能化されたエチレン/アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、
(b)(i)エチレンとグラフトまたは共重合された不飽和モノマーXとのコポリマーと(ii)ポリアミドとの反応で得られる生成物、
(c)(a)と(b)の混合物、
(d)ポリアミド、好ましくはPA−6、
(e)(a)と(d)との混合物、
(f)エラストマー、好ましくはEPR、EPDMおよびNBR(官能化されていてもよい)、
(g)S−B−Mトリブロック、
(h)2つのPMMAブロックの間にポリ(ブチルアクリレート)ブロックを有するトリブロック、
(i)直鎖または星形のS−B−Sブロックコポリマー(水素化されていてもよく、この場合、S−EB−Sとよばれる)
【請求項2】
上記衝撃改質剤の比率が1〜35重量%であり、そのEVOHの比率が99〜65重量%である請求項1に記載の構造物。
【請求項3】
上記の層(1)が収容または輸送される流体と直接接触する請求項1または2に記載の構造物。
【請求項4】
上記の層(1)が帯電防止性を有さず、層(1)の片側に層(2)が接着され、この層(2)が帯電防止性を与える充填剤を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項5】
上記の層(2)がポリアミドまたはポリアミド/ポリオレフィン混合物またはポリオレフィンで作られる請求項4に記載の構造物。
【請求項6】
上記結合層が層(1)と層(2)との間に挿入されている請求項4または5に記載の構造物。
【請求項7】
上記の層(2)が収容または輸送される流体と直接接触する請求項4〜6のいずれか一項に記載の構造物。
【請求項8】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の構造物で構成された流体の輸送または貯蔵のための装置、特に管、タンク、シュート、壜および容器。

【公表番号】特表2007−501138(P2007−501138A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522373(P2006−522373)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【国際出願番号】PCT/FR2004/002073
【国際公開番号】WO2005/014282
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(591004685)アルケマ フランス (112)
【Fターム(参考)】