説明

耐衝撃性樹脂積層板

【課題】 反射が少なく、密着性、透明性及び表面硬度性に優れた耐衝撃性樹脂積層板を提供する。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂層(A)の片面にアクリル樹脂層(B)が設けられた基材シート(C)の両面にハードコート層(D)が形成され、更に該ハードコート層(D)の両面に反射防止層(E)が形成されてなることを特徴とする耐衝撃性樹脂積層板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性樹脂積層板に関するものであり、より詳細には反射率が低く、密着性、透明性及び表面硬度性に優れた耐衝撃性樹脂積層板に関する。本発明の高透明かつ高硬度な耐衝撃性樹脂積層板は、ディスプレーの保護板、特に携帯端末機器の液晶、有機ELディスプレー等の保護用透明樹脂板として有用である。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、デジタルスチールカメラ、ハンディーカムなどのモバイル機器の進歩は激しく、その表示装置として、小型の液晶等のディスプレーが標準的に装備されるようになってきた。このディスプレーには保護の目的により、主にハードコート処理の施されたアクリル板あるいはポリカーボネート板が装着されている。
更に、このような携帯機器は軽量・薄肉化がめざましく、上記のアクリル樹脂板も厚みが1mm以下のものが望まれている状況である。しかしながら、板厚が薄くなればなるほど衝撃に対する強度が低下するので破損に対する考慮が必要となる。耐衝撃性の点からはポリカーボネート板は一般的に有効な素材であるが、基材自体の表面硬度が低いために直接ハードコート処理を行っても表面硬度は鉛筆硬度でHBが限界であり、上記した表示装置用途には使用が制限されているのが実情である。従って、携帯機器ディスプレーの保護板としては、透明性が高く薄肉でも衝撃強度が高くて割れにくく、表面硬度が高く(一般には鉛筆硬度で3H以上)傷付きにくいものが要求されている。
【0003】
特許文献1には、メタクリル樹脂中にゴム粒子が分散したアクリル系樹脂層を含み、100〜1800μmの厚みを有するアクリル系樹脂フィルムの表面に、硬化性塗料を硬化させた耐擦傷性皮膜が形成されてなることを特徴とする、耐擦傷性アクリル系樹脂フィルムが開示されている。
特許文献2には、二酸化ケイ素を主成分とする強化ガラス板の一方の表面に飛散防止皮膜が貼付され、かつ、同一または他方の表面に、文字または模様の印刷を施したフィルムが貼付されてなる携帯型表示装置用保護板が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−143365号公報
【特許文献2】特開2003−140558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたアクリル系樹脂板は、一般に耐衝撃性が低いので、外部からの衝撃や荷重によって傷が生じたり、破損し易いという本質的な問題がある。また、特許文献2に記載の二酸化ケイ素を主成分とする強化ガラス板は、アクリル系樹脂板と比較して耐衝撃性、たわみ強度及び剛性が改良されてはいるものの、携帯型表示装置用保護板の目的に使用する場合に軽量化、剛性等の点で尚不十分な場合がある。
すなわち、ディスプレーの表示装置等の保護板として、硬度の高いものは破損しやすく、一方、破損しにくいものは硬度が低く耐擦傷性が不十分であるという問題点があった。
本発明は上記課題を解決して、反射率が低く、密着性、透明性及び表面硬度性に優れた耐衝撃性樹脂積層板、及び該耐衝撃性樹脂積層板を使用した携帯機器表示装置用保護板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記事情に鑑み、耐衝撃性に優れるポリカーボネート樹脂層の片面に高硬度なアクリル樹脂層が設けられた基材シートの両面に更に衝撃時にクラックを生じにくいハードコート層を形成し、更に該ハードコート層の両面に反射防止層を形成した積層構造を採用することにより、反射率が低く、密着性、透明性及び表面硬度性に優れた、耐衝撃性を有する樹脂積層板が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、ポリカーボネート樹脂層(A)の片面にアクリル樹脂層(B)が設けられた基材シート(C)の両面にハードコート層(D)が形成され、更に該ハードコート層(D)の両面に反射防止層(E)が形成されてなることを特徴とする耐衝撃性樹脂積層板に関する発明である。
本発明の耐衝撃性樹脂積層板においては、更に下記の態様とすることが望ましい。
(1)前記ポリカーボネート樹脂層(A)の厚みが0.3〜1.2mmの範囲であり、かつアクリル樹脂層(B)の厚みが40〜100μmの範囲であること、
(2)前記ハードコート層(D)がウレタンアクリレートモノマー及び/又はオリゴマーを主成分とする反応液を紫外線硬化により形成した層であること、
(3)前記反射防止層(E)が真空蒸着法又は湿式コート法で形成され、かつアクリル樹脂層(B)側のハードコート層(D)上の反射防止層(E)を入射光側とした視感反射率が2%以下の層であること
【0008】
本発明は、更に上記した耐衝撃性樹脂積層板からなる透明かつ高硬度である携帯機器表示装置用保護板に関する発明である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、可視光の反射率が低く、透明性と密着性に優れ、表面硬度が高いので耐擦傷性を有し、更に耐衝撃性にも優れている。またブタジエン等のゴム成分を混和した耐衝撃性アクリル板の場合には衝撃で割れを生じなくともが衝撃を受けた部分が白化したり、高温環境ではゴム成分とアクリル成分との屈折率差が生じて白濁するような問題を有するが、本発明の耐衝撃性樹脂積層板はこのような問題を生じない。また、ノルボルネン骨格を有する、透明性に優れる合成樹脂フィルムと比較しても耐衝撃性は改良されている。更に、ポリカーボネートの欠点である表面柔軟性も解決されている。加えて、本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ポリカーボネート樹脂層の片面に設けたアクリル樹脂層の線膨張係数がポリカーボネートとほぼ同一であること、及びポリカーボネート樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)からなる基材シート(C)の両面にハードコート層(D)を形成しているので温度変化時の反りや曲がりも生じない特性を有し、従来から使用されている光学的材料と比較して一般特性のみならず割れや衝撃損傷痕の問題を大幅に改良することが可能となった。
本発明の高透明高硬度耐衝撃性樹脂積層板は、ディスプレーの保護板、携帯端末機器の液晶、有機ELディスプレー等の保護用透明樹脂板として有用であり、特に携帯型表示装置用保護板として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明を詳述する。
本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ポリカーボネート樹脂層(A)の片面にアクリル樹脂層(B)が設けられた基材シート(C)の両面にハードコート層(D)が形成され、更に該ハードコート層(D)の外側両面に反射防止層(E)が形成されてなることを特徴とする。
【0011】
[ポリカーボネート樹脂層(A)]
本発明における基板層を構成するポリカーボネート樹脂層(A)に使用するポリカーボネート樹脂としては、例えばビスフェノールAを主原料とする重合物からフィルム、シートに成形して使用されている公知の重合物が使用可能である。
このポリカーボネート樹脂の分子量は特に限定されないが、通常の押出成形によりシートを成形することが可能な粘度平均分子量が1.5万〜3万程度のものが好ましい。このポリカーボネート樹脂には、一般にシート、フィルム等に用いられる各種の添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色防止剤、着色剤などを添加することができる。尚、シート形状への成形法は後述する。
【0012】
[アクリル樹脂層(B)]
アクリル樹脂層(B)を構成するアクリル樹脂は、公知のフィルム、シートの成形材であるメチルメタクリレートとメチルアクリレート又はエチルアクリレート等の他のモノマーとの共重合物が使用でき、共重合組成比としてはメチルメタクリレートが75〜99モル%、メチル又はエチルアクリレート等が1〜25モル%が好ましい。アクリル樹脂の分子量は、重量平均分子量で3〜35万程度が望ましい。アクリル樹脂の製造方法としては一般的に、乳化重合法、懸濁重合法、連続重合法とに大別されるが、本発明に使用するアクリル樹脂は連続重合法により製造された樹脂が望ましい。
【0013】
[基材シート(C)]
ポリカーボネート樹脂層(A)は、ポリカーボネート樹脂ペレットをフィルム状に押出機で押出し、鏡面を持つロールで成形することが好ましい。ポリカーボネート樹脂層(A)の片面にアクリル樹脂層(B)を設ける方法として、押出機の金型部で表層にアクリル樹脂層が形成されるよう共押出しする方法、あらかじめ成形されたポリカーボネート樹脂層にアクリル樹脂層を熱圧着する方法、ポリカーボネート樹脂層にアクリル樹脂を溶解した溶液をコートし乾燥被膜を得る方法等が例示できる。
ポリカーボネート樹脂層(A)の厚みは、好ましくは0.3〜1.2mm、特に好ましくは0.4〜1.0mmである。ポリカーボネート樹脂層(A)の厚みを該0.3mm以上とすることにより耐衝撃性の向上を図ることができ、一方、表示装置用保護板等の使用目的から通常1.2mmの厚みがあれば耐衝撃性の機能を充分満足する。
又、アクリル樹脂層(B)の厚みは好ましくは40〜100μm、特に好ましくは50〜80μmある。アクリル樹脂層(B)の厚みを該40μm以上とすることにより表面硬度の向上を図ることができ、一方、100μmの厚みがあれば通常必要とされる表面硬度性の機能を満足する。
【0014】
[ハードコート層(D)]
本発明において、上記ポリカーボネート樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)からなる基材シート(C)の両面にハードコート層(D)を形成する。ここでいうハードコートは鉛筆硬度(JIS K 5400に準拠)で3H以上のものが好ましく、4H以上がより好ましい。
ハードコート層(D)は、主に基材シート表面の耐擦傷性をあげる目的であるが、一方の面だけにハードコート層設けた場合には温度変化で反りや曲がりが発生するおそれがあるために両面に設ける必要がある。ハードコート層(D)を構成する成分としては特に限定されないが、1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート含有化合物を重合、共重合、変性等の反応を行わせて得られる樹脂を使用することができる。
【0015】
前記1分子中に少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート含有化合物として、ウレタンアクリレートモノマーおよび/またはオリゴマーを主成分とするものを用いることが好ましい。該ウレタンアクリレートモノマーとして、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレポリマー、フェニルグリシジルエーテル(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンプレポリマー;該ウレタンアクリレートオリゴマーとしてグリセリンジ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、グリセリンジ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートトリレンジイソシアネートウレタンオリゴマー、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートイソホロンジイソシアネートウレタンプレオリゴマー等が挙げられるが、これらのモノマーまたはオリゴマーは単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを用いると架橋密度の高い高硬度性を有するコート層が得られるにもかかわらず、ウレタン結合部の効果により脆さを回避できる。ウレタンアクリレートとして6官能を有するオリゴマーを使用する場合にも適度な強靱性を有するコート層が得られ、シリカ系に比べ本発明の目的に有効に作用する。
尚、上記したウレタンアクリレートモノマーおよび/またはオリゴマー以外の多官能(メタ)アクリレート含有化合物も使用することが可能であり、その具体例としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの単量体は、1種または2種以上を混合して使用しても良い。
【0016】
ハードコート層(D)は、例えば溶媒及び重合開始剤の存在下、ポリカーボネート樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)からなる基材シート(C)にコートして架橋反応を行わせる、周知の方法により形成することができる。コート時に希釈目的もかねた有機溶剤の使用は基材シートとの密着面を向上する点からも有効である。該有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル系、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系が使用できる。
上記成分を含む樹脂組成物をコーティングする方法としては、ディップコート、ダイコーター、ロールコータなど特に制限はないが、外観品位や膜厚制御の面からディップコートが有効に使用できる。コーティング液を塗布した後、紫外線、熱等のエネルギーにより硬化させて被膜とする。このとき硬化方式としては紫外線硬化を選択するのが望ましい。尚、必要によりコーティング組成物中に適当な重合開始剤を添加する。重合開始剤として紫外線硬化型ではベンゾフェノン系、ベンジルジメチルケタール、アルキルフェノン系、アシルフォスフィンオキサイドが例示できる。
ハードコート層(D)に高硬度による耐擦傷性とハードコート層割れ防止の機能を付与するためには、一般的にハードコート層の厚みを薄くするのが好ましい。ハードコート層(D)の厚みは、用途に応じて適宜選択されるが、通常0.5〜10μm、好ましくは1〜6μmである。ハードコート層の厚みを前記0.5μm以上とすることにより表面硬度の向上に伴い耐擦傷性も向上する。また、前記10μm以下とすることにより、衝撃を受けたときにクラックがハードコート層を伝って基材シートに伝播するのを効果的に防止でき、加えて硬化膜がもろくなってクラックが入るのを防止できる。ハードコート層をシリカ系の熱硬化樹脂で形成することも可能ではあるが、ウレタンアクリレート系の樹脂を使用することにより、シリカ系を使用した場合の脆さを改良することができる。
【0017】
[反射防止層(E)]
本発明では、上記ハードコート層(D)の外側両面に反射防止層(E)を設ける。反射防止層(E)は、光反射率が低く透過率が高いというだけでなく、積層板上における、耐衝撃性、密着性、耐熱性、耐摩耗性及び耐薬品性に優れ、生産性も良好であることが必要とされる。
反射防止層(E)は、真空蒸着法、スパッタリング法、湿式コート法等により形成できるが、本発明においては、基材シートの耐衝撃性を損なわないために真空蒸着法又は湿式コート法が好ましい。真空蒸着法は膜がポーラスであり材質の硬度が高い割には耐衝撃性が良好であること、また湿式コート法は有機系の材料が用いられるため、延伸性に優れ、基材シートの特性を低下させないため好ましい。
(1)湿式コート法
湿式コート法における反射防止層は、例えばTiO2粒子等を含んだ高屈折率膜と、SiO2粒子等を含んだ低屈折率膜とで交互に積層された積層構造とするのが望ましい。このようにすると、光学的干渉作用により反射を効果的に防止することができる。
低屈折率(屈折率nが1.35〜1.7程度)膜内に散在している粒子としては、MgO(n:1.7)、Al23(n:1.65)、SiO2(n:1.45)等の粒子が挙げられるが、塗布液として、SiO2微粒子の分散液であるシリカゾルを用いることが好ましい。このようなシリカゾルはアルコキシシランを塩基性触媒を用いて調製することができる。例えば、水と有機溶媒からなる混合溶液を攪拌しながら、アルコキシシラン及び塩基性触媒を添加し、アルコキシシランの重縮合、特に加水分解を有機溶媒の沸点以下の温度で行う。このようにして得られるSiO2粒子の平均粒径は5〜100nmの範囲内であることが実用上望ましい。
【0018】
塗布液として、高屈折率膜用微粒子が分散しているゾルの微粒子は、ジオール類により高分子鎖末端を封止されたアセチルアセトナトリウムキレート化合物と金属アルコキシドとの部分加水分解物である。アセチルアセトナトリウムキレート化合物は、アセチルアセトンを配位子とするキレート化合物である。また、金属アルコキシドとしては、テトラブトキシジルコニウム、テトライソプロポキシチタンなどが挙げられる。高屈折率膜形成用成分は、上述のようなアセチルアセトナトリウムキレート化合物及び金属アルコキシドと、有機溶媒とを混合して攪拌し、更に水と触媒とを添加して部分加水分解を行わせる。このようなアセチルアセトナトリウムキレート化合物と金属アルコキシドとの部分加水分解反応は、通常、100℃以下の温度が好ましく、また、通常0.5〜20時間程度加熱することが好ましい。このようにして得られた粒子の平均粒径は5〜100nmとするのが望ましい。また、このようにして得られた各層の膜厚は50〜200nm程度が好ましい。
【0019】
(2)真空蒸着法
真空蒸着は、電子ビームによって蒸着源を加熱して反射防止層(E)を形成する方法である。
良好な反射防止効果を有する反射防止層を得るため、低屈折率層としてSiO2層、又はSiO2とAl23との混合層、高屈折率層としてNb25層又はTiO2層等とを有することが好ましい。
真空蒸着法としては、真空蒸着装置の真空室を排気した後、電子ビーム加熱蒸着法により、蒸着源の方を向いたハードコート層(D)の上に、反射防止膜を任意の蒸着条件により形成する。例えば蒸着源として、第1層目はTiOx(0<x<2)を用い、第2層目はSiO2を使用することができるが、更にこれらを交互に積層することもできる。この場合、二酸化チタンの屈折率は、2.25、二酸化珪素の屈折率は、1.47となる。このようにして得られる各層の膜厚(幾何学的膜厚)は、特に制限はないがそれぞれ100〜1200オングストローム(A)程度とすることができる。
【0020】
[視感反射率]
視感反射率は、分光光度計等を用いて、アクリル樹脂層(B)側のハードコート層(D)上の反射防止層(E)を入射光側とした視感反射率を測定することにより求められる。
本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ディスプレーの保護板等に使用する場合には反射防止層が必要であり、この場合反射防止層(E)における視感反射率は実用上2%以下とするのが望ましい。
【0021】
本発明の耐衝撃性樹脂積層板において、各層に前記した材料を使用することにより、該耐衝撃性樹脂積層板の全光線透過率を95%以上とすることが可能である。尚、全光線透過率は、JIS K 7105に基づき濁度計(例えば、日本電色工業(株)製、型式:NDH2000)を用いて評価することができる。
【0022】
かくして得られた本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ポリカーボネート樹脂層(A)の一方の面にアクリル樹脂層(B)が設けられた基材シート(C)の両面にハードコート層(D)が形成され、更に該ハードコート層(D)の外側両面に反射防止層(E)が形成されてなる積層板、すなわち、反射防止層(E)/ハードコート層(D)/ポリカーボネート樹脂層(A)/アクリル樹脂層(B)/ハードコート層(D)/反射防止層(E)の順に積層された多層積層板である。本発明の特徴であるこのような層構成を採用することにより、従来不可能であった、反射率が低く、密着性、透明性及び表面硬度性に優れ、更に耐衝撃性にも優れるという、ディスプレーの保護板に要求される機能をバランスよく有することが始めて可能となったのである。
このようして得られた本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ディスプレーの保護板、特に携帯端末機器の液晶、有機ELディスプレー等の保護用透明樹脂板に極めて有用である。
【実施例1】
【0023】
本発明を次の例により説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
尚、実施例中における測定及び評価は以下の通り行った。
(1)20mmφ剛球落下試験
5cm角にカットした基材の周辺を固定し、その中央部にそれぞれ10、20、30、40、50cmの高さから20mmφ(32.6g)の鋼球を自然落下させ、割れ又はクラックが入るかについての評価を行った。
表1中の評価の表示は以下の通りである。
○:割れ及びクラックは生じなかった。△:表面が白化した。×:割れが生じた。
(2)表面硬度
JIS K5400に基づく鉛筆硬度により評価した。
(3)全光線透過率
JIS K 7105に準拠して、濁度計(日本電色工業(株)製、型式:NDH2000)を用いて全光線透過率を測定した。
(4)視感反射率
分光光度計を用いて、アクリル樹脂層(B)側のハードコート層(D)上の反射防止層(E)を入射光側とした、視感反射率を測定した。
【0024】
耐衝撃性樹脂積層板を以下の方法により製造し、得られた積層板の評価を行った。
1.耐衝撃性樹脂積層板の製造
(1)ポリカーボネート樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)からなる基材シート(C)の成形
ポリカーボネート樹脂ペレット(帝人化成(株)製、商品名:パンライト)を使用して、押出成形により厚み0.8mmのシートを成形し、アクリル樹脂ペレット(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリペットV)を使用して、押出成形により厚み0.08mmのフィルムを成形した。次にこれらのフィルムとシートを180℃の温度でプレスし、0.88mm厚の基材シート(C)を得た。
(2)ハードコート層(D)の形成
上記基材シートの両面に下記組成のオリゴマー組成物をディップコートにより、ドライで厚み3μmとなるようコーティングし、1000mj/cm2の紫外線照射を行って硬化させた。
オリゴマー組成物
(a)ウレタンアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:UA−100H):38重量%
(b)光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル製、商品名:イルガキュアー184):2重量%
(c)溶剤(トルエン):60重量%
硬化後、ハードコート層両面の被膜表面はいずれも鉛筆硬度4Hを有し、スチールウールで擦っても全く傷付かないものであった。
また、ハードコート層を形成した段階で、アクリル樹脂層(B)上のハードコート層を上面として鋼球落下試験(鋼球の高さ:50cm)を実施したところ、割れ等の破壊が観察されず、且つ表面硬度の優れたシートであった。
【0025】
(3)反射防止層(E)の形成
真空蒸着機((株)シンクロン製、型式:BMC−850CD1)を使用して、酸化珪素、酸化ジルコニウムを用い、最上層が酸化珪素となるよう交互に製膜し、計5層による反射防止層を得た。この膜の視感反射率は0.84%であった。
2.耐衝撃性樹脂積層板の評価
得られた耐衝撃性樹脂積層板について、全光線透過率(アクリル樹脂層(B)側のハードコート層(D)上の反射防止層(E)を入射光側とした透過率)の測定値は98%以上であった。反射防止層(E)を測定側面として、得られた耐衝撃性樹脂積層板の耐衝撃性と硬度の評価を行った。その結果を表1に示す。
【実施例2】
【0026】
耐衝撃性樹脂積層板を以下の方法により製造し、得られた積層板について実施例1に記載したと同様の評価を行った。
1.耐衝撃性樹脂積層板の製造
(1)ポリカーボネート樹脂層(A)とアクリル樹脂層(B)からなる基材シート(C)の成形
実施例1で使用したと同様のポリカーボネート樹脂ペレットとアクリル樹脂ペレットを使用して、ポリカーボネート層の厚みが0.94mmでその片面にアクリル層の厚みが0.06mmとなるよう同時押出を行い、ロール成形してシートを得た。
(2)ハードコート層(D)の形成
実施例1に記載した方法により基材シートの両面にハードコート層を形成した。
(3)反射防止層(E)の形成
チタンアルコキシド加水分解物を主成分とするコート液を第1層、シリカアルコキシド加水分解物を主成分とするコート液を第2層としてコートし、80℃で10時間の加熱により焼成し、視感反射率1.8%の反射防止層を得た。
2.耐衝撃性樹脂積層板の評価
得られた耐衝撃性樹脂積層板について、実施例1で行ったと同様に行った全光線透過率の測定値は98%以上であった。実施例1で行ったと同様に、耐衝撃性樹脂積層板の耐衝撃性と硬度の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
押出機を使用して実施例1で使用したと同じアクリル樹脂をシート状に押し出し、ロール成形して厚み1mm厚の基材シートを得た。更に実施例1の1.(2)(3)に記載したと同様の方法で、ハードコート層と反射防止層を形成した。
得られた積層シートについて、実施例1で行ったと同様の評価を行った、その結果を表1に記載する。
【0028】
[比較例2〜4]
比較例2としてゴム入りアクリル樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名:アクリライトIR)、比較例3としてノルボルネン系樹脂(JSR(株)製、商品名:アートン)、及び比較例4としてシクロオレフィン系樹脂(日本ゼオン(株)製、商品名:ゼオノア)をそれぞれ基材樹脂として使用して厚み1mmの基材シートを得た。次に実施例1の1.(2)(3)に記載した同様の方法でハードコート層と反射防止層を形成した。得られた積層シートについて実施例1で行ったと同様の評価を実施した。その結果を表1に示す。
いずれも、本発明の耐衝撃性樹脂積層板と比較して耐衝撃値は低いものであった。
【0029】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の耐衝撃性樹脂積層板は、ディスプレーの保護板、特に携帯端末機器の液晶、有機ELディスプレー等の保護用透明樹脂板等に広く使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂層(A)の片面にアクリル樹脂層(B)が設けられた基材シート(C)の両面にハードコート層(D)が形成され、更に該ハードコート層(D)の両面に反射防止層(E)が形成されてなることを特徴とする耐衝撃性樹脂積層板。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂層(A)の厚みが0.3〜1.2mmの範囲であり、かつアクリル樹脂層(B)の厚みが40〜100μmの範囲である請求項1に記載の耐衝撃性樹脂積層板。
【請求項3】
ハードコート層(D)がウレタンアクリレートモノマー及び/又はオリゴマーを主成分とする反応液を紫外線硬化により形成した層である請求項1又は2に記載の耐衝撃性樹脂積層板。
【請求項4】
反射防止層(E)が真空蒸着法又は湿式コート法で形成され、かつアクリル樹脂層(B)側のハードコート層(D)上の反射防止層(E)を入射光側とした視感反射率が2%以下の層である請求項1ないし3のいずれかに記載の耐衝撃性樹脂積層板。
【請求項5】
請求項1ないし4に記載の耐衝撃性樹脂積層板からなる透明かつ高硬度である携帯機器表示装置用保護板。

【公開番号】特開2006−35778(P2006−35778A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222513(P2004−222513)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000010065)フクビ化学工業株式会社 (150)
【Fターム(参考)】