説明

耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地

【課題】ひび割れが集中する効果を増大させた外部ノッチ目地と、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の内部埋込み目地との組合せで、壁厚のふかし厚さを最小限とし、かつ、耐震性能を損なわない目地構造を得ることができる耐震壁。
【解決手段】誘発目地の先端5aを0.5mm幅以下に細くし、深さを欠損率にして5%以上とした外部ノッチ目地5と、幅は欠損率にして30%以下で、長さ方向に凹凸を形成した、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の内部埋込み目地6からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート造の耐震壁において、コンクリート部材の温度変化や乾燥収縮によるひび割れを所定の位置に集中させるようにした耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にコンクリートの構造物は、セメントの水和熱による温度変化や乾燥収縮によってひび割れが生じ易く、このひび割れを完全に防止することは難しい。このため、人目に触れるようなコンクリート部材、たとえばコンクリート壁では、このひび割れが壁面の至る所にランダムに発生しその美観を損なわないように、ひび割れを壁面の特定箇所に発生させるべく誘発目地が設けられている。
【0003】
この誘発目地は、壁厚の1/5以上、望ましくは1/3以上の深さを有する断面欠損部を予め壁面に備えたもので、温度変化や乾燥収縮によって壁内に引張応力が発生した場合には、この目地部にひび割れを誘発させている。
【0004】
しかし、目地深さ分の壁厚は、構造上有効とみなされないため、目地深さ分だけ増打ちをしなければならない。図13は一般的な耐震壁で、有効壁厚が160mmの例である。図中1はひび割れ誘発目地、2は耐力壁内に配置された鉄筋、4はコンクリート、15は弾性シーリング材である。
【0005】
この場合で、欠損率が1/5であり、増打が40mm必要ということになる。壁厚が大きくなると、この増打ちの厚さは大きくなり、有効壁厚が500mmの場合には、1/5の欠損率を確保するために、125mmもの増打ちが要求され、コストアップの大きな要因となっている。したがって、この増打ちの大きさをできる限り、小さくしながら、効果的な誘発目地となる目地断面が求められる。
【0006】
下記特許文献1は、壁としての断面欠損が大きくなって強度低下を招き易い従来の問題点を解消するために、図14に示すように、鉄筋コンクリート造の耐力壁Wに、溝状のひび割れ誘発目地1を形成してある耐力壁構造において、ひび割れ誘発目地1を形成してある耐力壁部分の壁肉厚内に、目地を境として分離自在な状態で対向する一対の縁部材3が埋設してあり、従来のように耐力壁内に断面欠損が生じると言ったことを防止できながら、コンクリートの乾燥収縮が発生するに伴って前記一対の縁部材3どうしは、目地を境として分離方向に移動して収縮を吸収することができ、ひび割れ誘発目地以外のコンクリートにひび割れができるのを未然に防止することが可能となるものが提案されている。
【特許文献1】特開2006−90039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1では、溝状のひび割れ誘発目地1は断面台形状のものであり、目地に引張力が作用したとき目地先端に発生する応力が小さい。そのため、特開2004−346559号公報のように、目地部材を基端部と剛性を有する断面欠損部とを有する構成にして、ひび割れをコンクリート表面側から発生させることができるものもあるが、これでは目地棒等が複雑な構造となり、配設の手間も要する。
【0008】
また、特許文献1では、目地を境として分離自在な状態で対向する一対の縁部材3を埋設してコンクリートの乾燥収縮が発生するに伴って前記一対の縁部材3どうしは、目地を境として分離方向に移動して収縮を吸収することができるとしているが、常にこのような分離方向に移動するかその動きの確実性は疑問である。
【0009】
そのため、前記縁部材3は、互いの対向面どうしは平滑面として仕上げてあると共に、壁コンクリートとの接触面は、粗面として仕上げてあるなどの工夫が必要であり、縁部材は粗面に仕上げられた面が壁コンクリートと接触していることで壁コンクリートとの一体性がより高くなり、壁コンクリートと一体となって外力を受けることができるから壁の強度の維持を図ることが可能となる。
【0010】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、ひび割れが集中する効果を増大させた外部ノッチ目地と、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の内部埋込み目地との組合せで、壁厚のふかし厚さを最小限とし、かつ、耐震性能を損なわない目地構造を得ることができる耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため本発明は、誘発目地の先端を0.5mm幅以下に細くし、深さを欠損率にして5%以上とした外部ノッチ目地と、幅は欠損率にして30%以下で、長さ方向に凹凸を形成した、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の内部埋込目地からなることを要旨とするものである。
【0012】
外部ノッチ目地については、図7に例示するように、先端の半径rが小さいほど目地に引張力が作用したとき、目地先端に発生する応力が増大する。したがって、ノッチ目地を通常用いられる台形型とするよりも、先端の幅ができるだけ小さいノッチ目地とする方が、同じ欠損率の場合には目地にひび割れが集中する効果が増大することになる。請求項1記載の本発明によれば、このように先端の幅ができるだけ小さいノッチ目地とすることにより、目地部にひび割れが集中する確率を高めることができる。
【0013】
また、埋込み目地に関しては、この埋込み目地に沿って発生した収縮ひび割れのひび割れ面に生じた凹凸により、図8に示すような面内せん断伝達機能が維持され、この凹凸がない場合と比較して、壁部材のせん断耐力の発言に大きく寄与することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上述べたように本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地は、壁厚のふかし厚さを最小限とし、かつ、耐震性能を損なわない目地構造を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面について本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の1実施形態を示す横断平面図、図2は同上縦断側面図で、一般的な耐震壁で、2は耐力壁内に配置された鉄筋、4はコンクリートである。
【0016】
本発明は、外部ノッチ目地5と内部埋込目地6とを組み合わせるものであり、このうちの、外部ノッチ目地5は誘発目地として、図3に示すように、先端5aの幅を0.5mm以下、望ましくは0.2mm以下に細くした断面V字形のものであり、その深さを欠損率にして5%以上とした。
【0017】
また、内部埋込目地6はコンクリート4内で鉄筋2の間に配設するものであり、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の帯状板材で、材質は鋼板等の金属や合成樹脂、その他による。
【0018】
内部埋込目地6の異型断面としては、長さ方向に凹凸を形成したものであり、一例として、図4に示すように波型6aが連続するように屈曲させたもの、図5に示すように、一方の側に膨出する円形の小ドーム6bを適宜間隔で形成したもの、また、図6に示すように、円孔6cと一方の側に膨出する矩形の小ドーム6dを交互に配置したものなどである。この図6の例では縁にフランジ6eを形成した。
【0019】
前記内部埋込目地6の幅(ノッチ幅)は欠損率にして30%以下とする。
【0020】
さらに、必要に応じて、内部埋込目地6の表面にコンクリートとの付着を減じる剥離剤等を塗布してもよい。
【0021】
この内部埋込目地6は前記外部ノッチ目地5と対応するものとして、その縁が外部ノッチ目地5の先端に並ぶように配置する。
【0022】
図12は施工時の収まりを示すもので、外部ノッチ目地5は、型枠7に取り付ける桟木8にも受けたアングルフレームにより形成し、内部埋込目地6はセパレータ9に設けたセパレータストッパー10で支承する鋼棒11に平ナット12で固定する。鋼棒11は円孔6cを用いて内部埋込目地6に貫通させる。
【0023】
このようにして、外部ノッチ目地5は先端の幅ができるだけ小さいノッチとすることにより、目地にひび割れが集中させることができ、また、内部埋込目地6は面内せん断力の伝達を可能とするもので、図8に示すようにこれに沿って収縮ひび割れが発生するが、このひび割れ面に生じた凹凸により面内せん断伝達が維持され、この凹凸がない場合と比較して、壁部材のせん断耐力の発現に大きく寄与することができる。
【0024】
次に、本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。図9、図10に示すはり型の試験体Aに目地を設け、引張実験を実施した。図11に加力状況をしめす。
【0025】
内部埋込目地6には波板鉄板を使用し、図11中、13は加圧フレーム、14は油圧ジャッキである。
【0026】
この実験において、下記の指標ηにより目地の性能の評価を行った。即ち、ηが小さいほど一般部のひび割れ荷重に対して目地部のひび割れ荷重が低く、一般部でなく目地部にひび割れが集中する確率が高くなることから、目地の効果が高いことを表している。

【0027】
下記表1は誘発目地の効果をまとめたものである。表1中の提言目地1とは、図9、図10において、外部ノッチ目地5の深さを断面の5%とし、波板による内部埋込目地6の内部埋込み欠損率を10%に設定したものである。
【0028】
提案目地2は目地の内部埋込み欠損率を20%に設定したもの、提案目地3は目地の内部埋込み欠損率を30%に設定したものである。
【0029】
【表1】

【0030】
前記表1の結果で、在来の台形目地では、合計欠損率と1−ηがほぼ同じであり、欠損率分とほぼ同じ荷重低減効果があったことがわかる。これに対して、外部ノッチ目地5だけの場合には、わずか5%の欠損率で、10%欠損率による在来目地の性能を大きく上回り、目地の効果が高いことがわかる。
【0031】
また、提案目地では、合計の欠損率が大きくなるに従い、ηは小さくなって効果[(1−η):収縮ひびわれ発生荷重低減効果]が高くなるが、1−ηの方が欠損率よりも顕著に大きく、外部ノッチ目地5+内部埋込目地6により、増打ちの厚さ(外部ノッチ目地の欠損率に相当)を小さく押さえて、しかも高性能な目地が実現できることを表している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の1実施形態を示す横断平面図である。
【図2】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の1実施形態を示す縦断側面図である。
【図3】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の外部ノッチ目地の説明図である。
【図4】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の第1例を示す説明図である。
【図5】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の第2例を示す説明図である。
【図6】本発明の耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地の第2例を示す斜視図である。
【図7】外部ノッチ目地先端の応力分布を示す説明図である。
【図8】内部目地部に発生したひび割れ面における面内せん断伝達を示す説明図である。
【図9】試験体の横断平面図である。
【図10】試験体の縦断側面図である。
【図11】引張実験の概要を示す斜視図である。
【図12】施工時の納まりを示す横断平面図である。
【図13】一般的なひび割れ誘発目地を示す横断平面図である。
【図14】従来例の説明図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ひび割れ誘発目地 2 鉄筋
3 縁部材 4 コンクリート
5 外部ノッチ目地 5a 先端
6 内部埋込目地 6a 波型
6b 円形の小ドーム 6c 円孔
6d 矩形の小ドーム 6e フランジ
7 型枠 8 桟木
9 セパレータ 10 セパレータストッパー
11 鋼棒 12 平ナット
13 加圧フレーム 14 油圧ジャッキ
15 弾性シーリング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘発目地の先端を0.5mm幅以下に細くし、深さを欠損率にして5%以上とした外部ノッチ目地と、幅は欠損率にして30%以下で、長さ方向に凹凸を形成した、面内せん断力の伝達を可能とする異型断面の内部埋込み目地からなることを特徴とする耐震壁用の高性能ひび割れ誘発目地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−82126(P2008−82126A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266568(P2006−266568)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】