説明

耐食性チェーン

【課題】 内プレートとブシュとの圧入部分、および、外プレートと連結ピンとの締鋲部分における塗膜剥離を防止して優れた耐食性とチェーン強度を長期にわたって発揮できる耐食性チェーンを提供すること。
【解決手段】 チェーン構成部品を構成する鉄母材22が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜24で被覆されているとともに、この亜鉛−鉄合金皮膜24が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜26で被覆されている耐食性チェーン10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩水、酸、アルカリ等の腐食雰囲気下で使用されるブシュチェーンやローラチェーンとして使用される耐食性チェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩水、酸、アルカリ等による腐食雰囲気下に設置される耐食性チェーンには、チェーン構成部品である内プレート、ブシュ、外プレート、連結ピン、ローラ等をチェーン編成後に、ニッケルめっき処理、亜鉛めっき処理、ダクロタイズド処理などの防食加工が施されている。
このような従来の耐食性チェーンでは、連結ピンとブシュ、ブシュとローラとの間隙にめっき処理液が十分に浸透していない場合に、一般に「孔食」と称する、内部に向かって孔状に進行する腐食を完全に抑制できず、また、外的負荷環境下で使用されると応力疲労破壊が生じる虞れがあった。また、連結ピンとブシュ、ブシュとローラの間隙にめっき処理液が過剰に残留している場合に、相互に固着してチェーンの屈曲不良やローラ回転不良の原因となる虞れがあった。
【0003】
そこで、これを解決した耐食性チェーンとして、チェーン編成前にチェーン構成部品である内プレート、ブシュ、外プレート、連結ピン、ローラ等にニッケルめっき処理、亜鉛めっき処理、ダクロタイズド処理などの防食加工を施して腐食による寿命低下等を防止したもの(例えば、特許文献1参照)、チェーン編成前のチェーン構成部品に亜鉛皮膜を形成し、その上にアルミニウム粉末及びシリコン樹脂を含有する塗料を焼付け塗装して、チェーン構成部品の表面において白錆等が生成することを防止したもの(例えば、特許文献2参照)、チェーン編成前のチェーン構成部品に亜鉛合金を被着し、その表面にクロメート処理を施したもの(例えば、特許文献3参照)がある。
【特許文献1】特開平7−127692号公報(第1頁、図1)
【特許文献2】特許第3122037号公報(第1頁、図1)
【特許文献3】特公昭61−67773号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来のニッケルめっき処理、亜鉛めっき処理等による防食被膜加工をチェーン編成前のチェーン構成部品に施してチェーンを編成した耐食性チェーンでは、ニッケルめっきや亜鉛めっきからなる皮膜を形成する際に、酸洗いやめっき工程において発生する水素がチェーン構成部品の金属組織内に侵入し水素脆化の原因となり、チェーン強度及びチェーン寿命が低下する虞れがあるという問題があった。
【0005】
また、ダクロタイズド処理よる防食加工をチェーン編成前のチェーン構成部品に施してチェーンを編成した耐食性チェーンでは、焼付け温度が300℃以上の高温であるため、表面焼入れ処理を行うチェーン構成部品において硬度低下が起こり、チェーン強度及びチェーン寿命を著しく低下させるという問題があり、さらに、クロムを含有したダクロ液と呼ばれる分散水溶液による浸漬処理を行うため、環境に悪影響を及ぼす虞れがあるという問題があった。
【0006】
さらに、上記ニッケルめっき処理、亜鉛めっき処理、ダクロタイズド処理による防食皮膜加工を施されたチェーン構成部品を編成する場合、内プレートとブシュ、外プレートと連結ピンが圧入嵌合される際、これらの嵌合部や締鋲部の皮膜に剥離が生じ易く、その箇所から早期に発錆し、チェーン編成後の補修が必要であるという問題があった。
【0007】
また、従来のクロメート処理を施した耐食性チェーンでは、チェーン構成部品で編成する際に締鋲部の塗膜剥離部分から環境に悪影響を及ぼす6価クロムが流出する虞れがあり、また、このめっき剥離部分に亜鉛合金めっきを再び塗装しても密着性が脆弱であり、早期に発錆するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前述したような課題を解決するものであって、内プレートとブシュとの圧入部分、および、外プレートと連結ピンとの締鋲部分における塗膜剥離を防止して優れた耐食性とチェーン強度を長期にわたって発揮できる耐食性チェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本請求項1に係る耐食性チェーンは、チェーン構成部品を構成する鉄母材が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜で被覆されているとともに、前記亜鉛−鉄合金皮膜が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜で被覆されていることにより、前述したような課題を解決したものである。
【0010】
そして、本請求項2に係る耐食性チェーンは、請求項1に係る発明の構成に加えて、前記防錆顔料がアルミニウムを含むことにより、前述したような課題をさらに解決したものである。
【0011】
そして、本請求項3に係る耐食性チェーンは、請求項1または請求項2に係る発明の構成に加えて、前記バインダーが水溶性ポリシロキサン樹脂を含むことにより、前述したような課題をさらに解決したものである。
【0012】
そして、本請求項4に係る耐食性チェーンは、本請求項1乃至請求項3のいずれかに係る発明の構成に加えて、前記バインダーがコロイダルシリカを含むことにより、前述したような課題をさらに解決したものである。
【0013】
なお、本発明で言うところの「衝撃亜鉛めっき」とは、鉄母材表面に投射した亜鉛−鉄合金からなるブラスト材が積層した皮膜構造を形成するめっきを意味している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の耐食性チェーンは、以下のような特有の構成に基づく顕著な効果を奏することができる。
すなわち、本請求項1に係る耐食性チェーンは、チェーン構成部品を構成する鉄母材が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜で被覆されていることにより、亜鉛の犠牲防食作用によってチェーン構成部品を構成する鉄母材からの発錆を抑制することができる。
【0015】
また、亜鉛−鉄合金皮膜が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜で被覆されていることにより、焼付け時に亜鉛粉末などを化学的あるいは物理的に結合して空隙を有する塗膜を形成するため、亜鉛同士の接触する機会が多くなって亜鉛の犠牲防食作用を向上させ、長期にわたって防錆効果を発揮させることができる。
【0016】
そして、本請求項2に係る耐食性チェーンは、本請求項1に係る発明が奏する効果に加えて、前記防錆顔料がアルミニウムを含むことにより、亜鉛よりイオン化傾向の大きいアルミニウムが亜鉛よりも先に熔出するので、亜鉛の熔出を遅らせて白錆の発生を抑制するため、長期の犠牲防食作用を奏することができる。
【0017】
また、本請求項3に係る耐食性チェーンは、本請求項1または請求項2に係る発明が奏する効果に加えて、前記バインダーが水溶性ポリシロキサン樹脂を含むことにより、水溶性ポリシロキサン樹脂が防錆顔料の間の空隙に入り込み硬化するため、水分等の腐食因子の侵入を防止して耐水性を向上させるとともに亜鉛−鉄合金皮膜との付着性を高めることができる。
【0018】
さらに、本請求項4に係る耐食性チェーンは、本請求項1乃至請求項3のいずれかに係る発明が奏する効果に加えて、前記バインダーがコロイダルシリカを含むことにより、亜鉛の犠牲防食作用を長期にわたって維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の耐食性チェーンは、チェーン構成部品を構成する鉄母材が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜で被覆されているとともに、前記亜鉛−鉄合金皮膜が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜で被覆され、内プレートとブシュとの圧入部分、および、外プレートと連結ピンとの締鋲部分における塗膜剥離を防止して優れた耐食性とチェーン強度を長期にわたって発揮するものであれば、その具体的な実施態様は何れのものであっても何ら構わない。
【0020】
たとえば、本発明の耐食性チェーンにおける具体的なチェーン構造は、ブシュチェーンのような、左右一対に離間配置される内プレートとこの内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合されるブシュと前記内プレートの外側に配置して前後の内プレートに連結される左右一対の外プレートと前記ブシュの内周面に遊貫して外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合される連結ピンとで編成されているもの、あるいは、ローラチェーンのような、左右一対に離間配置される内プレートとこの内プレートのブシュ圧入孔に圧入嵌合されるブシュと前記内プレートの外側に配置して前後の内プレートに連結される左右一対の外プレートと前記ブシュの内周面に遊貫して外プレートのピン圧入孔に圧入嵌合される連結ピンと前記ブシュの外周面に遊嵌されるローラとで編成されているもののいずれであっても良い。
【0021】
本発明の耐食性チェーンをその具体的な用途で例示すると、物品搬送工程などで用いられるような物品などを搬送するための搬送コンベヤチェーン、あるいは、エンジンなどで用いられるような動力を伝達するための伝動用チェーンが列挙されるが、これらのいずれであっても良い。
【0022】
本発明の耐食性チェーンに用いる内プレートと外プレートの具体的形状は、小判型プレート、ヒョウタン型プレートのいずれであっても何ら差し支えない。
【0023】
そして、本発明に採用した水系防錆塗料の亜鉛を主成分とする防錆顔料の具体的な形態は、球状、フレーク状、棒状などからなる粉状体や粒状体であれば良く、特に、フレーク状のものを用いると、塗料中で優れた分散性を示すとともに、これらフレークが重なるように被塗物の亜鉛−鉄合金皮膜に付着するため被覆効果が高く、防食効果を高めることができる。
なお、このフレーク状の粉状体や粒状体は、ボールミルやアトライタ等により展延処理して得られるものであり、その平均アスペクト比(平均長径/平均厚み)が10以上のものがより好ましい。
【0024】
本発明で用いる水系防錆塗料の防錆顔料は、亜鉛を主成分とするものであって、亜鉛が鉄よりもイオン化傾向が大きいため、鉄基材に対する犠牲防食作用を有効に発揮しているが、このような犠牲防食作用を有するものであれば、亜鉛合金であっても良い。
【0025】
さらに、本発明で用いる水系防錆塗料のバインダーとしては、防錆顔料を結合するとともに亜鉛−鉄合金皮膜を保護することにより、亜鉛−鉄合金皮膜に対する付着性が優れるとともに、空隙が多く防錆顔料同士の直接接触を図って防錆顔料の犠牲防食作用を高めることができる水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分とするものであれば、その具体的組成は如何なるものであっても良く、例えば、水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤単独であってもよく、また、水系ポリシロキサン樹脂及び/またはコロイダルシリカを併用してもよい。
【0026】
すなわち、本発明で用いる水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤としては、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルミチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1.3・ジメチル・ブチリテン)プロピルアミン、N−フェニール−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられ、これら化合物の1種または2種以上を用いても良い。
【0027】
なお、本発明で用いる水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤は、焼付けによりバインダーとして機能させるものであって、アミノ基含有シランカップリング剤の含有量が亜鉛に対して1重量%以上100重量%以下となるように配合することが望ましい。
【0028】
さらに、、本発明で用いる水系防錆塗料は、常法に従って、防錆顔料をバインダーとともに混合、攪拌することによって得られる。その際、水、アルコール系溶剤、セロソルブ系溶剤、グリコール系溶剤といった溶剤、顔料、染料、分散剤、消泡剤等の塗料用添加剤を添加しても良く、水系塗料として用いる場合には、水を添加しても良い。
【0029】
また、防錆顔料は、各成分を個別に、あるいは、一部または全部の成分を予め混合して添加しても良く、水や溶媒と混合してスラリー状として添加しても良い。
このような溶媒としては、前記した溶媒と同様のプロピレングリコールやエチレングリコール等のグリコール系溶媒、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒等が挙げられる。
【0030】
本発明で用いる水系ポリシロキサン樹脂としては、水溶性または水分散性のメチルシリケート、エチルシリケート、シリコーンレジン、変性シリコーンレジン等が挙げられ、これら化合物の1種または2種以上が用いられ、その添加量は、樹脂固形分として亜鉛含有量の1から30重量%が好ましく1重量%未満では、亜鉛及びアルミニウムと水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤の空隙に入り込む量が少なく、耐水性及び被塗装物との付着性を向上させることはできず、30重量%を超えると亜鉛の犠牲防食効果が有効に発揮できない。
【0031】
本発明では、一般的な塗料の添加剤である、ポリカルボン酸系等の分散剤、ノニオン系あるいはアニオン系等の界面活性剤、ウレタン系等の増粘剤、シリコン系あるいはアクリル系等の消泡剤を配合してもよく、されらにレべリング剤や水溶性有機溶剤を配合してもよい。
【実施例】
【0032】
本発明の耐食性チェーンがローラチェーンである場合の実施例について、以下に説明する。図1は、本発明の実施例である耐食性チェーンの断面図であり、図2は、図1に示すA部分を拡大した断面図である。
【0033】
まず、本実施例の耐食性チェーンであるローラチェーン10は、図1乃至図2に示すように、左右一対に離間配置される内プレート11と、この内プレート11のブシュ圧入孔11aに圧入嵌合されるブシュ12と、内プレート11の外側に配置して前後の内プレート11に連結される左右一対の外プレート13と、ブシュ12の内周面に遊貫して外プレート13のピン圧入孔13aに圧入嵌合される連結ピン14と、ブシュ12の外周面に遊嵌されるローラ15とでチェーン長手方向に編成されている。
【0034】
そして、前述したチェーン構成部品を構成する内プレート11とブシュ12と外プレート13と連結ピン14とローラ15は、それぞれ、例えば、図1のA部分を拡大した図2に示すように、鉄母材22が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜24で被覆されているとともに、この亜鉛−鉄合金皮膜24が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜26で被覆されている。
【0035】
ここで、以下に示す表1乃至表3に基づいて、本発明の実施例を比較例とともに詳細に説明する。
まず、表1は、本発明で用いる水系防錆塗料の具体的な配合成分とその配合量を示したものである。各記号の意味については、表1の下に注記している。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
なお、表1において、※1乃至※6は、以下のとおりである。また、表1中の配合量は、重量部である。
※1:亜鉛フレークをポリプロピレングリコールで溶解し、スラリーとしたもの。亜鉛含有量60重量%
※2:旭化成社製アルミペースト 「AW―620」
※3:旭化成ワッカーシリコン社製ジメチルシリコーンエマルション 「SILRESM50E 固形分50重量%
※4:旭電化社製コロイダルシリカ 「アデライトAT−50」
※5:ROHM AND HAAS社製増粘剤「PRIMAL RM2020NPR」(ポリウレタン系)
※6:サンノプコ社製消泡剤(シリコン系またはアクリル系)
【0040】
そして、表2は、本発明の実施例を示したものであって、すなわち、チェーン構成部品(内プレート11、ブシュ12、外プレート13、連結ピン14、ローラ15)の鉄母材22に衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜24で被覆した後、この亜鉛−鉄合金皮膜24に、上記の表1に示す水系防錆塗料を用いてディプスピン法により被覆し、180℃で60分間焼き付け、厚さ10μmの防食性塗膜26を形成した本発明の耐食性チェーンであるローラチェーン10の塩水噴霧試験結果を示している。
【0041】
また、表3は、比較例を示したものであって、すなわち、チェーン構成部品(内プレート11、ブシュ12、外プレート13、連結ピン14、ローラ15)の鉄母材22をショットブラスト処理した後、上記の表1に示す水系防錆塗料を用いてディプスピン法により被覆し、180℃で60分間焼き付け、厚さ10μmの防食性塗膜を形成した耐食性チェーンであるローラチェーンの塩水噴霧試験結果を示している。
【0042】
なお、表2および表3において、※7と※8は以下のとおりである。
※7は、上記の表1に示すような、所謂、ジンクリッチペイントと称する水系防錆塗料である。※8は、内プレート11、ブシュ12、外プレート13、連結ピン14、ローラ15からなるチェーン構成部品毎に塗装し、自動組み立て機でチェーンに組み立てた後に「JIS−K5600−7−1」に準拠して塩水噴霧試験を行い、外プレートと連結ピンとの締鋲部および外プレート表面に発生し始めた赤錆が目視により発見されるまでの時間である。
【0043】
そこで、これらの表2乃至表3に基づいて塩水噴霧試験結果を考察すると、本発明の実施例1乃至実施例18に示されるように、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜24で被覆する下地処理を施した耐食性チェーンのローラチェーン10は、比較例1乃至比較例5のようなショットブラストした耐食性チェーンのローラチェーンに比較すると、赤錆が発生しにくく、特に、外プレートと連結ピンとの締鋲部において約5倍程度の優れた耐食性を発揮している。
【0044】
また、本発明の実施例1乃至実施例18に示されるように、水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤の含有量が4.5重量%または9.0重量%であっても両者とも差異のない優れた耐食性を発揮している。
そして、実施例7乃至実施例12に示されるように、水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤の含有量を同一条件として、これにポリシロキサン樹脂を10重量%添加すると、外プレートと連結ピンとの締鋲部及び外プレートにおいて赤錆の発生がより一層抑制されている。さらに、実施例13乃至実施例18に示されるにコロイダルシリカまたはポリシロキサン樹脂とコロイダルシリカの併用により水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤のみを含有した場合と比較すると約2倍の防食効果を発揮している。
【0045】
以上のように、本発明の耐食性チェーンであるローラチェーン10は、チェーン構成部品を構成する鉄母材22が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜24で被覆されていることにより、亜鉛の犠牲防食作用によってチェーン構成部品を構成する鉄母材22からの発錆を抑制でき、また、亜鉛−鉄合金皮膜24が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜26で焼付け塗装されていることにより、長期にわたって防錆効果を発揮でき、さらに、水系防錆塗料に水系ポリシロキサン樹脂やコロイダルシリカを併用することにより、腐食雰囲気下で著しい耐久性および耐食性を著しく向上させることができ、しかも、従来のような電気めっき、酸洗いの際に生じがちな水素脆性やダクロタイズド処理に起因する6価クロムの環境汚染の問題がなく、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例である耐食性チェーンの断面図。
【図2】図1に示すA部分を拡大した断面図。
【符号の説明】
【0047】
10 ・・・ローラチェーン
11 ・・・内プレート
11a・・・ブシュ圧入孔
12 ・・・ブシュ
13 ・・・外プレート
13a・・・ピン圧入孔
14 ・・・連結ピン
15 ・・・ローラ
22 ・・・鉄母材
24 ・・・亜鉛−鉄合金皮膜
26 ・・・防食性塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーン構成部品を構成する鉄母材が、衝撃亜鉛めっきによって積層した亜鉛−鉄合金皮膜で被覆されているとともに、前記亜鉛−鉄合金皮膜が、亜鉛を主成分とする防錆顔料と水溶性もしくは加水分解性のアミノ基含有シランカップリング剤を主成分として前記防錆顔料を結合するバインダーとで構成された水系防錆塗料からなる防食性塗膜で被覆されていることを特徴とする耐食性チェーン。
【請求項2】
前記防錆顔料が、アルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載された耐食性チェーン。
【請求項3】
前記バインダーが、水溶性ポリシロキサン樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載された耐食性チェーン。
【請求項4】
前記バインダーが、コロイダルシリカを含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の耐食性チェーン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−175241(P2008−175241A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7403(P2007−7403)
【出願日】平成19年1月16日(2007.1.16)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】