説明

耳感染の処置のための組成物

モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩、及びタンパク質分解酵素を含んで成る、局所性耳用医薬組成物。当該組成物は、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を超えた送達を促進する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2004年12月10日付けで出願された米国特許仮出願第60/635,218号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、一般的に、耳感染の処置又は予防のための局所性抗生物質医薬組成物に関し、より詳細には、中耳又は内耳感染の処置又は予防のためのモキシフロキサシン組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
70パーセント近くの米国の子供は、2歳までに中耳炎(中耳感染)を患う。そのような子供の半分は、繰り返す。中耳炎は、難聴の最も一般的な原因であり、それは子供の発達及び学習過程をしばしば妨害する。
【0004】
全身性抗生物質が、中耳炎に対してしばしば処方される。典型的な処置計画は、最大で14日間の全身性抗生物質を利用し、この処置過程において副作用は極めて一般的である。
【0005】
局所性抗生物質も、外耳炎(外耳感染)及び中耳炎の処置に利用可能である。製品の例としては、テキサス州フォートワースのAlcon Laboratories,Inc.から入手可能なCIPRO(登録商標)HC(0.2%のシプロフロキサシン;1%のヒドロコルチゾンに相当する塩酸シプロフロキサシン)耳用懸濁液;Alcon Laboratories,Inc.から入手可能なC1PRODEX(登録商標)(0.3%のシプロフロキサシン;0.1%のデキサメタゾン)耳用懸濁液;及び、日本の第一製薬株式会社から入手可能なFLOXIN(登録商標)(0.3%のオフロキサシン) 耳用懸濁液が挙げられる。CIPRO(登録商標)HC耳用懸濁液は、急性外耳炎の処置に適応される。CIPRODEX(登録商標)耳用懸濁液は、中耳腔換気用チューブを用いて、急性外耳炎及び急性中耳炎の処置に適応される。FLOXIN(登録商標)耳用溶液は、中耳腔換気用チューブを用いて、急性外耳炎、急性中耳炎の処置に適応され、鼓膜穿孔を用いて慢性化膿性中耳炎に適応される。しかし、従来の治療剤が鼓膜を越えないことが、一般的に受け入れられている。従って、中耳炎に適応される現存する製品は全て、薬剤を中耳又は内耳に送達するため、外来外科手術又は鼓膜の既存の穿孔により、中耳腔換気用チューブを事前に置く必要がある。中耳腔換気用チューブを通して正確に滴を入れるのは、点耳を怖がり、感染の痛みにより既に動揺している幼児又は小さな子供において、非常に困難であることは理解することができる。
【0006】
Petrusの米国特許第5,954,682号は、1つ以上の治療剤で浸漬させることのできる多孔質媒体4を有する、治療用アプリケータ4を開示する。’682特許、図1、カラム3、59〜61行;カラム6、24〜57行を参照のこと。’682特許は、薬剤及び化学薬剤が膜及び外耳道の内膜を通って浸透するのを可能にする、酵素的及び非酵素的な浸透促進剤も開示する。例えば、’682特許、カラム6、58行からカラム7、35行を参照のこと。’682特許は、特に、「非酵素的浸透促進剤は、生物学的活性剤、例えば薬剤及び化学薬剤が膜及び外耳道10の内膜を通って浸透するのを促進する」ことを開示する。’682特許、カラム7、19〜22行。
【0007】
この文献は、トリプシン(タンパク質分解酵素)、塩酸テトラサイクリン/ポリミキシンB/リン酸ベタメタゾンナトリウム及びテトラカインを含む点耳液が用いられてきたことも報告している。「Otocusi Enzimatico」Laboratories Cusi S−Aからの冊子(November 1992)を参照のこと。この溶液は、外耳及び中耳の化膿又は非化膿疼痛炎症状態の処置に用いられる。この冊子は、「トリプシンが、壊死組織、膿膜、及び瘡蓋の破壊/除去に寄与するタンパク質分解酵素である」ことを述べている。
【0008】
国際公開第WO03/003976号(これは、引用部文献により本明細書中に組み込まれる)は、外耳道中のヒトの耳垢を軟化、除去、崩壊、及び/又は分解するのに有用な耳垢溶解上許容される酵素を含む、ヒトの耳垢の除去を助ける組成物を開示する。好ましい、耳垢溶解上許容される酵素としては、リパーゼ、プロテアーゼ、及びアミラーゼが挙げられる。好ましいプロテアーゼ又はタンパク質分解酵素としては、パンクレアチン、トリプシン、サブチリシン、コラゲナーゼ、ケラチナーゼ、カルボキシペプチダーゼ、パパイン、ブロメライン、アミノペプチダーゼ、エラスターゼ、アスペルギロ・ペプチダーゼ(Aspergillo peptidase)、プロナーゼE(S.グリセウス(S.griseus)から)、ディスパーゼ(バチルス・ポリミキサ(Bacillus polymyxa)から)、及びそれらの混合物が挙げられる。WO03/003976、11ページ、1〜19行を参照のこと。最も好ましいタンパク質分解酵素は、メチルトリプシンである。WO03/003976、12ページ、9行。
【0009】
米国特許第6,716,830号(これは、引用文献により本明細書中に組み込まれる)は、眼、耳及び鼻の感染を処置するための、有力な新規のクラスの抗生物質の使用、並びに眼、耳及び鼻の組織の手術又は他の外傷後における、これらの抗生物質の使用を開示する。この開示された組成物は、眼、耳及び鼻の外科手術の間に罹患組織に投与して、術後感染を予防又は軽減することもできる。開示されている好ましい抗生物質は、モキシフロキサシンである。
【0010】
中耳又は内耳感染を予防又は処置するのに効果的な、改善されたラオキシフロキサシン(raoxifloxacin)、並びにそのような組成物を送達する方法が、依然として望まれている。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明は、モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩、及びタンパク質分解酵素を含んで成る、局所性耳用医薬組成物を含んで成る。この組成物は、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を越えた送達を促進する。
【0012】
好ましい実施態様の詳細な説明
別段示唆しない限り、パーセンテージとして記載した全ての成分濃度は、重量/体積パーセントの単位である。
【0013】
本発明の好ましい組成物は、モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物及び塩、並びに無傷の鼓膜を越えたモキシフロキサシンの送達を促進する浸透促進剤を含む。モキシフロキサシンの構成、調製、及び物理的特性に関する更に詳細な説明については、米国特許第5,607,942号に提供されている(これは、引用文献により本明細書中に組み込まれる)。モキシフロキサシンは、好ましくは0.1〜1%、最も好ましくは0.5%の量で存在する。好ましい浸透促進剤としては、タンパク質分解酵素、例えばトリプシン、コラゲナーゼ、及びペプシンが挙げられる。トリプシンは、好ましくは0.1〜10mg/ml、最も好ましくは5mg/mlの量で存在する。コラゲナーゼは、0.1〜10mg/ml、最も好ましくは5mg/mlの量で存在する。ペプシンは、好ましくは0.1〜10mg/ml、最も好ましくは5mg/mlの量で存在する。好ましい緩衝液は、酢酸ナトリウム.3H2O、塩化ナトリウム、塩化カルシウム.2H2O、水、及びpH調整剤を含んで成る。好ましいpH調整剤は、水酸化ナトリウム又は塩酸である。酢酸ナトリウム.3H2Oは、好ましくは0.1〜1%、最も好ましくは0.68%の量で存在する。塩化ナトリウムは、好ましくは0.1〜1%、最も好ましくは0.60%の量で存在する。塩化カルシウム.2H2Oは、好ましくは0.01〜1%、最も好ましくは0.05%の量で存在する。水は、所望の体積をもたらすのに十分な量を添加する。pH調整剤は、組成物のpHを6〜8、最も好ましくは7.5にするのに十分な量を添加する。
【0014】
予想外なことに、このような組成物中で、タンパク質分解酵素が、従来の皮膚浸透促進剤、例えばジメチルスルホキシド(「DMSO」)及び精製したジエチレングリコールモノエチルエーテル(Transcutol(登録商標)P)よりも、モキシフロキサシンの鼓膜を超えた送達に対して、優れた浸透促進剤であることが発見された。更に、予想外なことに、コラゲナーゼが、トリプシン又はペプシンよりも、モキシフロキサシンの鼓膜を超えた送達に対して、優れた浸透促進剤であることが発見された。
【0015】
本発明の組成物は、耳の組織への局所適用のために、特別に製剤化される。本組成物は、好ましくは、無菌であり、且つ耳の組織、例えば既存の疾病、外傷、外科手術又は他の身体状態の結果として損傷した組織への適用に特に適した物理的特性を有する。
【0016】
好ましくは、本発明の組成物は、ノズルにより押して使用者の耳の中で組成物の滴を分注することのできるボトル、又は使用者の耳の中で組成物のスプレーを送達するように作動することのできるポンプを有するボトルにパッケージされる。本発明の組成物を分注するための特定の好ましい装置は、米国特許第5,474,209号及び同第5,782,345号、並びに国際公開第WO03/003976号に記載されている(これらは、引用文献により本明細書中に組み込まれる)。
【0017】
耳用医薬品は、典型的には、複数回投与形態においてパッケージされる。防腐剤は、使用の間の微生物汚染を防ぐのに必要とされ得る。適切な防腐剤としては、以下のものが挙げられる:ポリクオタニウム−1、塩化ベンザルコニウム、チメロサール、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、エデト酸2ナトリウム、ソルビン酸、又は当業者に知られている他の薬剤が挙げられる。抗菌防腐剤としてのポリクオタニウム−1の使用が好ましい。典型的には、このような防腐剤は、0.001%〜1.0%の濃度で用いられる。
【0018】
本発明の組成物の溶解性は、組成物中の界面活性剤又は他の適切な共溶媒により高めることができる。このような共溶媒としては、ポリソルベート20、60、及び80;ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体界面活性剤(例えば、Pluronic(登録商標)F−68、及びTetronic(登録商標)1304);シクロデキストリン;又は、当業者に知られている他の薬剤が挙げられる。典型的には、このような共溶媒は、0.01%〜2%の濃度で用いられる。
【0019】
シンプルな水溶液の粘度よりも大きい粘度を有する本発明の組成物を提供するための、粘度増強剤の使用は、耳の中での保持時間を増大するのに望まれ得る。このような粘度増強剤としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、又は当業者に知られている他の薬剤が挙げられる。典型的には、このような薬剤は、0.01%〜2%の濃度で用いられる。
【0020】
以下の実施例は、本発明を説明することを意図し、限定するものでは全くない。
【実施例】
【0021】
実施例1
実験モデルは、鼓膜の近くから得た、ニュージーランド白ウサギの耳のディスク(disc)を用いて構築した。ディスクは、耳の骨格を模倣する単純な装置において支持される。ウサギの耳の真皮側は「ドナー側」であり、除去された皮膚層を有する、ウサギの耳の毛皮側は「アクセプター側」である。様々な浸透促進剤と共に、治療剤の例として、0.5%のモキシフロキサシンを選択した。0.68%の酢酸ナトリウム.3H2O、0.60%の塩化ナトリウム、0.05%の塩化カルシウム.2H2O、適量の水、及び組成物のpHを7.5にするための適量のpH調整剤を含む酢酸緩衝液に、モキシフロキサシン及び1つの浸透促進剤を添加した。得られた組成物を、ディスクのドナー側に適用した。表1は、2時間後にHPLCにより測定した、ディスクのアクセプター側における、緩衝液中のモキシフロキサシンの濃度を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
全身性投与(例えば、500mg/日での経口投与)の間の抗生物質の中耳液濃度は、典型的には、具体的な抗生物質に依存して、1〜10ppmの範囲である。典型的には、モキシフロキサシンのMIC濃度は、耳感染に一般的に関連する多くの細菌の場合、1〜2ppmである。DMSO及びTranscutol(登録商標)Pを、典型的な従来の皮膚浸透促進剤として選択した。DMSO及びTranscutol(登録商標)Pは両方とも、非酵素的浸透促進剤である。表1に示すように、モキシフロキサシン、非酵素的浸透促進剤(例えば、DMSO又はTranscutol(登録商標)P)、及び緩衝液の組成物は、モキシフロキサシン及び緩衝液単独よりも、ウサギの耳のアクセプター側において、より高いモキシフロキサシンの濃度をもたらす。しかし、予想外なことに、モキシフロキサシン、酵素的浸透促進剤(例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、又はペプシン)の組成物は、耳感染に一般的に関連する多くの細菌に対して、モキシフロキサシンのMIC濃度以上において、顕著に高いモキシフロキサシの濃度をもたらす。モキシフロキサシンのこのような濃度は、治療濃度を示す。
【0024】
上記より、本発明は、中耳または内耳感染を予防又は処置するのに効果的な、改善されたモキシフロキサシン組成物、並びにそのような組成物を送達する方法を提供することが理解され得る。本発明の操作及び構造は、前記の説明から明らかであると考えられる。上記の組成物及び方法は、好ましいものとして特徴付けられたが、以下の特許請求の範囲で規定される本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変化及び変更がなされ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩、及びタンパク質分解酵素を含んで成る、局所性耳用医薬組成物。
【請求項2】
タンパク質分解酵素がトリプシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
タンパク質分解酵素がコラゲナーゼである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
タンパク質分解酵素がペプシンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を超えた送達を促進する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
酢酸緩衝液を更に含んで成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
0.1〜1%のモキシフロキサシン濃度を有する、モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩;及び
0.1〜10mg/mlの濃度のトリプシン
を含んで成る、局所性耳用医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を超えた送達を促進する、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
酢酸緩衝液を更に含んで成る、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
0.1〜1%のモキシフロキサシン濃度を有する、モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩;及び
0.1〜10mg/mlの濃度のコラゲナーゼ
を含んで成る、局所性耳用医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物が、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を超えた送達を促進する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
酢酸緩衝液を更に含んで成る、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
0.1〜1%のモキシフロキサシン濃度を有する、モキシフロキサシン又はその医薬として有用な水和物若しくは塩;及び
0.1〜10mg/mlの濃度のペプシン
を含んで成る、局所性耳用医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物が、治療濃度のモキシフロキサシンの、鼓膜を超えた送達を促進する、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
酢酸緩衝液を更に含んで成る、請求項13に記載の組成物。

【公表番号】特表2008−523060(P2008−523060A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545442(P2007−545442)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2005/033094
【国際公開番号】WO2006/065301
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(501449322)アルコン,インコーポレイティド (140)
【Fターム(参考)】