説明

肌のトラブル防止法及び肌トラブルの少ない化粧品

【課題】 汗に起因する肌のトラブル、特に肌に対する刺激感や肌の荒れを軽減するための対策を提供する。
【解決手段】 皮膚表面にある金属陽イオンを吸収もしくは吸着ないし当該金属陽イオンとイオン交換反応を起こす粉体、好ましくは、精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値が1.5以上であって、さらに望ましくは比表面積が600m/g以下、かつ平均粒子径が30μm以下の粉体、例えば無水ケイ酸が配合された化粧料を肌に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は肌のトラブル防止法及び肌トラブルの少ない化粧品に関する。具体的には、汗をかいたときに生じる肌トラブルを防止又は軽減するための方法及び汗をかいたときに生じる肌トラブルを軽減若しくは防止した化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
肌は敏感であり、わずかな刺激や変化があっても不快な刺激感、例えばピリピリする、チクチクする、痒み感などを感じるものである。本願発明者らが実施した成人女性100名を対象にしたアンケート調査によれば、その約40%の人が体調不良、睡眠不足、肌が乾燥しているときにそのような不快な刺激感を感じやすいとし、約30%の人が生理前や紫外線を浴びたとき、季節の変わり目にそのような不快な感覚を感じやすいとしている。そして、約25%の人が汗をかいたときに不快な刺激感を感じやすいとしている。このアンケート調査から、かいた汗がそのような肌のトラブルを生じる要因として重要なファクターを占めると考えられる。
【0003】
また、日本の夏場においては、特に高温多湿になるため、肌のべたつきが激しく、ほとんどの人が肌のべたつきを感じる。その原因は、皮脂や汗及び両者から自然発生的に形成される不安定なエマルジョンに起因すると言われている。
【0004】
上記のような肌の刺激感、不快な感覚を軽減するための方法として、例えば肌が乾燥している場合には保湿剤や油性成分が配合された化粧品を用いることが、紫外線による刺激に対しては紫外線吸収剤や紫外線散乱剤が配合された化粧品を用いることが行われてきた。また、肌の炎症を抑えるために抗炎症剤が配合された化粧品が使用される場合もあった。そして、汗に対する対策としては、種々の制汗剤、例えばトリクロサンや塩酸クロルヘキシジンなどの殺菌剤が配合された制汗剤、揮発性油剤を配合してその蒸発熱を利用して冷感を感じさせる化粧料、吸油性や吸水性の高い粉体等を配合して汗や皮脂、不安定なエマルジョン等を取り込むことによってべたつき感を緩和させたり(例えば特開平11−79965号公報)、塗布後のサラサラ感を持続させる化粧料(例えば特開2001−72525号公報)などを用いる方法が試みられてきた。
【0005】
しかしながら、これらの方法は個々の状態に適した化粧料を使用するといったいわば対処療法的な対策であって、汗をかくことによって生じるべたつき感や汗をかくことによって生じる肌のトラブルを包括的に抑えようとするものではなかった。
【特許文献1】特開平11−79965号公報
【特許文献2】特開2001―72525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的とするところは、汗に起因する肌のトラブル、特に肌に対する不快な刺激感を軽減するための対策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような状況下において、肌のべたつき感の原因を探っていたところ、汗に含まれているNaイオンが主な原因であって、汗に含まれるNaイオンを速やかに取り除くことが肌へのべたつき感を軽減し、さらには、汗によって肌のトラブルを生じていた人において上記肌トラブルを軽減することを見いだし、本願発明を完成するに至った。
【0008】
本発明は、肌表面に存在していると考えられる金属陽イオンを吸着若しくは吸収乃至当該金属陽イオンとイオン交換反応を起こす粉体を配合することによって、肌のトラブルを軽減若しくは防止することを目的とするものである。すなわち、主に汗として肌表面に排出されたNaイオンが肌表面において滞留するのを防止して、Naイオンに起因する刺激を減少させる方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、かいた汗に含まれるNaイオンが肌の表面に滞留するのが妨げられる。このために、汗をかくことによって生じるピリピリ感、チクチク感などの不快感が軽減し、汗によるべたつき感が軽減されるだけでなく汗に起因する肌のトラブルが軽減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の肌トラブルの軽減若しくは防止する方法は、肌表面の金属陽イオンを吸着若しくは吸収乃至当該金属イオンとイオン交換することによって、前記金属陽イオンと皮膚との接触を減少させる方法であって、金属陽イオンを吸着若しくは吸収ないし金属陽イオンとイオン交換を起こす粉体を配合した化粧料を使用することによって成される。
【0011】
本発明にいう肌トラブルは、汗に起因するものであり、汗によって生じる肌への刺激感、より具体的には、例えばヒリヒリする、ピリピリする、チクチクする、しみると言った直截的な意味での刺激感,かゆみやむずむずすると言った感覚や吹き出物・ニキビ、肌がかさかさするといったような肌の荒れ,肌のかぶれや肌がめくれる・むける、肌が赤くなる、湿疹ができると言った症状を言う。これらは、一般的に不快なものである。また、汗によるべたつき感も不快感の一種であるとは言えるが、本願にいう不快な刺激感には含まない。本発明は上記アンケート結果からなされたものであって、汗をかいた際にこのような症状が現れる人を対象とするものである。もっとも、汗によって肌にトラブルを生じない人が実施(化粧品の使用)しても何ら差し支えなく、肌のトラブルの有無に関係なく汗によって生じるべとつき感が軽減されるのはいうまでもない。
【0012】
吸着若しくは吸収乃至イオン交換の対象となる金属陽イオンは、特にNaイオン(Na)である。本発明者らは、かいた汗、特に皮脂腺があまりなく汗腺が比較的多くある首回りや腕などで、運動後にべとつき感を顕著に感じることに着目した。肌のべたつき感の主原因は、冬場より夏場において活発になる皮脂分泌によるものであると言われてきた。外気温に依存して皮脂分泌が活発化するのは事実である。しかし、夏のような高温下であっても低湿度下ではあまりべたつき感を感じないことが経験的に知られており、春などの比較的気温が穏やかな環境においても高湿度下ではべとつき感を感じ、低湿度下では余り感じることはないのも経験的に知られている。また、皮脂の感触はべたつき感ではなくぬめり感であって、ぬめり感は汗のべたつき感とは明確に区別できる。
【0013】
ところが、上記首回りや腕などで感じるべたつき感は、皮脂に起因するものではなく、汗に起因するものであると本発明者らは結論づける。汗は主として水からなるが水以外の成分はそのほとんどが塩化ナトリウムであり、汗の1%弱(0.648〜0.987%)を占めると言われている。塩化ナトリウムは吸湿性があり、水溶液を肌に塗布するだけでもべたつき感を感じる。また、塩化ナトリウム水溶液の濃度と粘度(オストワルド粘度計による測定)は、図1に示すように比例関係を示し、べとつき感はNaイオンの存在が関与していると考えられる。また、塩化ナトリウム水溶液を塗布した後、水が乾燥するにしたがって(すなわち、塩化ナトリウムとして結晶化する)べたつき感は減少することからも裏付けられる。本発明者らによる実験では、塩化ナトリウム水溶液(10質量%)を適量肌に塗布したのち、その上から市販のファンデーションを塗布した後、高温高湿度下(30℃、90%RH)に曝した場合には、精製水を塗布した後ファンデーションを塗布した場合に比べ、70%の人がよりべたつき感を感じたとの結果が得られた。
【0014】
また、本発明においてはNaイオンのみならず、Mgイオン(Mg2+)やカルシウムイオン(Ca2+)、カリウムイオン(K)なども対象となる。べたつき感の主原因はNaイオンではあるが、Naイオン以外の陽イオン(1価、2価等を問わず)もべたつき感の原因をなすものであると考えられ、事実、塩化カルシウムや塩化マグネシウムなども塩化ナトリウムの場合と同様に水溶液を塗布すればべたつき感を感じ、乾燥するにつれてべたつき感は薄れる。
【0015】
陽イオンを吸着若しくは吸収乃至陽イオンとイオン交換をおこす粉体は、特に限定されるものではないが、肌に適用される関係上、肌に刺激を与えないものが好適に用いられる。このような陽イオンを吸着等する粉体は、無機粉体、有機粉体のいずれでもよい。無水ケイ酸やゼオライト、イオン交換樹脂が例示される。また、イオン交換する粉体は、イオン交換によって水素イオンが排出されるものが好ましい。要は、汗として排出された陽イオンが、配合された粉体によって吸収され、あるいは吸着若しくは当該陽イオンとイオン交換が行わればよい。
【0016】
これらの粉体は、Naイオンの比吸着・吸収量(単位量当たりの吸着・吸収量)や比イオン交換能(単位量当たりの交換能)が高ければ高いほどよく、さらに水に分散性のよいものが好まれる。具体的には、精製水を媒体とした10質量%の分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液を媒体とした10質量%の分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値(ΔpHAB)が1.5以上あるのが一つの目安である。この値がないと、化粧料に0.5%程度配合した場合に、十分な効果を発揮しえないことになる。もっとも、粉体によってはそれ以上の値(例えば、2.0や2.5など)を示す場合もあり、このような粉体であれば、もっと少ない配合量、例えば0.1%程度で本発明の目的を達成できる場合もある。また、粉体によっては、化粧料中への配合量を多くできる場合、例えば5%、10%配合可能な場合もあり、このような粉体であれば、もっと少ない吸着・吸収量、交換能の粉体、すなわちΔpHABが1.0程度のものであっても好適に用いられる。ただし、ΔpHABが1.0を下回ると、配合量を増加させても所望する効果が得られなくなったり、化粧料中の粉体の量を非常に多くしなければならず、目的とする剤型の化粧料が得られなくなる。なお、粉体の中には疎水性のものがあり、このものは水中にうまく分散せず、pHの変化(ΔpHAB)を適正に測定できない場合がある。この場合には10容量%のエタノール水溶液を媒体に用いて測定し、ΔpHABを求める。すなわち、10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とする。
【0017】
こういった粉体の具体例として、シラノール基を多く導入した分散性の高い無水ケイ酸や製造時の条件を変えて多孔性を増した無水ケイ酸(その製造方法については、例えば特許2555475号を参照)、塩酸等にて処理したゼオライトが挙げられる。
【0018】
ゼオライトや無水ケイ酸は従来から化粧料に汎用されているが、汗によるべたつき感や汗をかいたときに生じるべたつき感や汗に起因する刺激感との関係については何ら知られていることはなかった。また、その原因は不明であるが、従来の化粧料、特にファンデーションやおしろいなどのメークアップ化粧料の類において、こういったべたつき感や刺激感が解消されているとは決して言えないものであった。そこで、本願発明者らは数々の上市されている無水ケイ酸やゼオライトを用いて、上記pH値の差ΔpHABを測定したところ、表1に示すような結果を得た。この結果によると、必ずしも粒子径とΔpHABとは比例関係にあるとは言えないことが理解された(サンプル1〜5)。また、ほぼ同じ粒子径であっても、比表面積とΔpHABは比例関係にあるとも限らなかった(サンプル6〜8)。そして、大きなΔpHABを示した粉体の中でも、粒子径が小さなものでは凝集性が高く、比表面積が小さなものでは化粧料に用いた場合にはいわゆる「きしみ感」(すべりが悪いといった感覚)を示し、使用感の悪い化粧料が得られることがあった。一方、ゼオライトでは、粒子径が大きくて化粧品の粉体としては利用できないことが分かった。これらの結果をもとにして、ある値以上のΔpHABを有する粉体を用いることを前提として検討したところ、きしみ感を軽減するためにも特定の粒子径と比表面積を有する多孔質粉体である無水ケイ酸を用いるのが特に望ましいことが分かった。
【0019】
【表1】

なお、表1においてサンプル1〜5はそれぞれ触媒化成工業社製の球状無孔質シリカ、サンプル6は鈴木油脂工業社製の無水ケイ酸(商品名「ゴッドボールAF−6C」)、サンプル7は同(商品名「ゴッドボールE−6C」)、サンプル8は洞海化学工業株式会社製の無水ケイ酸(商品名「サンスフェアNP−30」)である。
【0020】
本発明では、少なくとも平均粒子径が30μm以下であり、比表面積が比表面積が600m/g以下の粉体が好ましく用いられる。比表面積が600m/gを超えると、水と混ぜた場合にゲル化を起こす可能性が高く、化粧用素材として好ましくない。一方、比表面積が100m/gを下回るとゲル化を起こさないが、化粧料に用いた場合にはΔpHABの大きなものが得られず、本願発明の効果を達成することができない恐れが強い。そして、30μmを越えるものでは、肌に塗布した場合の使用感触が低下したり、プレス時の成型性が低下したりする。また、3μmを下回るのものでは、肌へ塗布した場合に「きしみ感」を生じさせたり、製造時の化粧料への分散性が悪くなる。これらのことから、これらの粉体は、比表面積が100m/g以上500m/g以下、より好ましくは250m/g以上500m/g以下、さらに望ましくは300m/g以上500m/g以下で、かつ粒子径が3μm以上15μm以下のものであるものが特に好ましいと言える。なお、ここにおいて比表面積はBET法により測定されたものを意味する。また、平均粒子径(体積基準)はレーザー回析/散乱法による湿式法により測定された粒度分布から算出されたものを意味する。
【0021】
上記粉体は、ΔpHABの大きさによっても異なるが、通例、ΔpHABが1.5以上である粉体を用いた場合には、化粧料中0.1%以上、好ましくは0.5%〜10%程度配合される。さらに別な観点からは、化粧料への配合の目安として、精製水を媒体として、当該粉体を加えた化粧料10質量%分散液とした場合のpH値を(a)、1質量%の塩化ナトリウム水溶液を媒体とした10質量%分散液のpH値を(b)とした場合の(a)−(b)の値(ΔS)が、当該粉体を除いた状態の化粧料10質量%分散液とした場合の(a)−(b)の値(ΔB)よりも少なくとも0.3、好ましくは0.5以上、より望ましくは1.0以上大きくなるように配合するのが好ましい。また、上記粉体のΔpHABの測定に用いた溶媒の種類如何を問わず、化粧料の分散性が悪い場合には、水の変わりに10容量%のエタノール水溶液を用いてΔS及びΔBを測定する。なお、ΔBの測定には、粉体を配合した化粧料から当該粉体を除いた処方によるもの(配合前化粧料)を用いる。
【0022】
さらに、海水による肌のトラブルを防止するためには、海水組成に似せた人工海水(2.8質量%塩化マグネシウム、0.15質量%塩化カルシウム2水塩、0.07質量%塩化カリウムとなるようにした混合液)を媒体とした10質量%分散液を用いて同様に操作した場合に、ΔpHABが1.5以上となる粉体を用いるのが好ましい。そして、化粧料中には、前記人工海水を媒体として同様に操作した場合に、ΔS−ΔBが0.3以上、好ましくは0.5以上、望ましくは1.0以上となるように配合するのが目安である。
【0023】
また、本発明の化粧料には、比表面積が600m/g以上の金属陽イオン非吸着性かつ非イオン交換性の粉体をさらに配合するのが好ましい。皮脂によるべたつき感を抑え、相加的若しくは相乗的にべたつき感の抑制を図るものである。このような粉体には、タルクや酸化チタンあるいは無水ケイ酸(この場合には、上記ΔpHABが1.0以下のものであっても、1.5以上のものであっても差し支えない)が例示される。
【0024】
本発明の化粧料は、金属陽イオンを吸収もしくは吸着乃至イオン交換反応を起こす粉体や比表面積が600m/gを越える金属陽イオン非吸収性・非イオン交換性の粉体の他に、肌に適用可能な化粧品とされるために通常用いられる各種基剤原料、例えば水やエタノール,各種脂肪酸,脂肪酸エステル,界面活性剤,顔料,保湿剤,抗炎症剤,紫外線吸収剤,紫外線遮断剤などとともに、例えば化粧水、乳液、クリーム、ファンデーションなどとして提供される。
【0025】
本発明の化粧料は、べたつき感を抑えられるのはもちろんのこと、汗をかくことによって感じる不快感、例えばヒリヒリする、ピリピリする、チクチクする、しみると言った不快な刺激感、かゆみやむずむずすると言った感覚や吹き出物・ニキビ、肌のかぶれや肌がめくれる・むける、肌が赤くなる、湿疹ができると言った症状、肌が赤くなるといった感覚を軽減する。
【0026】
汗に含まれるNaイオンがべたつき感の原因だけでなく、こうした不快な刺激感もNaイオンが原因となっていることが、本願発明者らの調査等によって突き止められたものである。おそらく、皮膚に接触している汗と皮膚内体液との間の浸透圧の差により皮膚を構成する表皮又は真皮内の水分が汗の側に移行し、この水移行という物理的変化が皮膚内の刺激物質等を誘発させる(例えば皮膚をパチンと叩くと物理的刺激により赤くなる)ということが想像される。
【0027】
以下、実施例に基づき本発明についてさらに説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものでないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0028】
表2に示すようなΔpHAB、粒子径、比表面積を有する無水ケイ酸を10質量%、タルク残量、パラベン及び酸化防止剤並びに着色剤のそれぞれ適量を混合し、さらにヘンシェルミキサーにて撹拌混合した後、再び粉砕を行いルース型白粉(比較品1〜2、実施品1〜4)を得た。そして、べたつき感及び刺激感の改善について、下記評価方法にて評価を行った。その結果を表2にまとめた。なお、比較品1の粉体は洞海化学社製サンスフェアH−53、比較品2の粉体は日本アエロジル社製のアエロジル50、実施品1の粉体は鈴木油脂工業社製のゴッドボールE−6C、実施品2の粉体は洞海化学社製NP−100、実施品3の粉体は鈴木油脂工業社製のゴッドボールG−6Cの粒子径及び比表面積を増やし、かつ、シラノール基をさらに導入した未市販品、実施品4の粉体は鈴木油脂工業社製のゴッドボールG−6Cに粒子径を大きくするとともに多孔性を増やした未市販品(仮称「DY−25C」)である。
【0029】
(評価試験1)
就寝前に首周りの片側にのみ上記で得られたルース型白粉を塗布し、一晩睡眠をとった翌朝に、当該部位におけるべたつき感が、白粉を塗布しなかった他方片側部位に対してどの程度防止されているかを確認した。評価基準は、「著しくべたつき感が防止されている」を「3点」、「べたつきが防止されている」を「2点」、「変化なし」を「1点」とした。表2の値は、女性10名からなるパネラーの平均値である。この結果、比較品である白粉に比べて、べたつき感は改善されていたことが確認された。
【0030】
(評価試験2)
本発明の対象となる肌トラブルがあると自己申告があった女性パネラー23名(調査した女性100名中)に対して、夏場において2週間、上記のルース型白粉を使用してもらい、評価試験1に準じて肌トラブルが軽減されたかどうかを確認してもらった。評価基準は、汗をかいた際に肌がヒリヒリする、ピリピリする、チクチクする、かゆい、吹き出物・ニキビ、かぶれる、肌がむける、湿疹ができる、肌が赤くなることを対象とし、それらが「著しく軽減された」を「3点」、「軽減されている」を2点、「変化なし」を1点とした。その結果を表2に示した。表2の値は、これらの女性23名のパネラーの平均値である。この結果、比較品である白粉に比べて、肌トラブルが改善されることが確認された。
【0031】
【表2】

【実施例2】
【0032】
次に、上記の試験で最も良好な結果を示した実施品4の化粧料に用いた無水ケイ酸(仮称「DY−25C」)並びに市販されている無水ケイ酸(触媒化成(株)製、シリカマイクロビードP−500、粒子径10μm、比表面積150m/g、ΔpHAB=1.0)を用いて、実施例1と同様な評価試験を行った。また、参考例に、ΔpHABの小さな粉体として、無水ケイ酸の代わりにポリアルキル酸アルキル(ガンツ化成(株)製、ガンツパールGW−0600W、粒子径6μm、比表面積1m/g、ΔpHAB=0.55)を用いたものについても、実施例1と同様な評価試験を行った。なお、この試験では、汗をかいたときに肌トラブルを生じる女性10人をパネラーとした。その処方例を表3に示し、その評価結果を表4に示した。これによると、無水ケイ酸の配合量に比例して、ΔpH(=(a)−(b))は大きくなり、パネラーによる評価もよいものとなった。また、ΔpHABが1.0以上の無水ケイ酸を用いた場合には、化粧料中概ね0.5質量%以上、無水ケイ酸の配合前後の差として0.3〜0.5以上で良好な効果が現れるものと考えられる。また、参考例の処方(処方11、12)では、1%程度の配合量では全く効果が現れず、通常の処方では考えられないような配合量である40%の配合量でわずかに効果が現れたにすぎなかった。このように少なくともΔpHABが1.0以上の粉体でなければ本願目的を達成するための化粧料原料としては使用できず、本発明の目的を達成するにはΔpHABが1.5以上である無水ケイ酸(平均粒子径3〜15μm、比表面積300〜500m/g)を用いるのが特に望ましいと結論づけられる。
【0033】
【表3】

【0034】
【表4】

【0035】
以下に本発明の実施例である処方例を示す。
<カーマインローション>
下記処方に基づき、常法に従ってカーマインローションを作製した。
エタノール 15.0(質量%)
グリセリン 2.0
1,3−ブチレングリコール 2.0
無水ケイ酸(DY−25C) 1.0
ベンガラ 0.15
酸化亜鉛 0.5
二酸化ケイ素 0.5
カンファー 0.2
香料 適 量
酸化防止剤 適 量
精製水 残 量
【0036】
以下に本発明の実施例である処方例を示す。
<パウダーファンデーション>
下記処方に基づき、常法に従ってパウダーファンデーションを作製した。
タルク 残 部(質量%)
マイカ 30.0
カオリン 10.0
ステアリン酸亜鉛 1.0
酸化チタン 10.0
着色顔料 3.0
ナイロンパウダー 5.0
酸化亜鉛 0.5
酸化ケイ素(DY−25C) 5.0
スクワラン 10.0
ミリスチン酸オクチルドデシル 3.0
セスキオレイン酸ソルビタン 1.0
防腐剤 適 量
香料 適 量
酸化防止剤 適 量
これらの化粧料についても、汗によるべたつき感が抑えられ、汗による肌トラブルが少なくなった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によると、汗によるべたつき感だけでなく、汗に生じるピリピリ感などの肌トラブルが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】塩化ナトリウム水溶液の濃度と粘度との関係を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汗による肌トラブルを軽減若しくは防止するための方法であって、
肌表面の金属陽イオンを吸着若しくは吸収乃至当該金属陽イオンとイオン交換することにより、前記金属陽イオンと皮膚との接触を減少させることを特徴とする肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項2】
精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値が1.5以上である粉体が配合された化粧料を用いる請求項1又は2の何れかに記載の肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項3】
前記(A)−(B)の値が1.5以上である粉体は、その比表面積が600m/g以下である無水ケイ酸であることを特徴とする請求項2に記載の肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項4】
前記(A)−(B)の値が1.5以上である粉体は、その比表面積が600m/g以下であり、且つ、平均粒子径が30μm以下である無水ケイ酸であることを特徴とする請求項2に記載の肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項5】
精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値が1.0以上である粉体が配合された化粧料であって、精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体として当該化粧料の10質量%分散液のpH値を(a)、1質量%の塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体として当該化粧料の10質量%分散液のpH値を(b)とした場合の(a)−(b)の値が、当該物質を加えない化粧料とした場合の(a)−(b)の値よりも0.3以上大きい化粧料を用いる請求項1に記載の肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項6】
前記肌トラブルは、汗をかいた時に生じる不快な刺激感、肌の荒れ、かぶれ、かゆみ感のいずれかである請求項1〜5の何れかに記載の肌トラブルを軽減若しくは防止する方法。
【請求項7】
肌表面に排出された金属陽イオンを吸収若しくは吸着乃至イオン交換反応を起こす粉体を配合して、汗による肌トラブルを軽減若しくは防止したことを特徴とする肌トラブルの少ない化粧料。
【請求項8】
精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値が1.5以上である粉体が配合されたことを特徴とする請求項7に記載の化粧料。
【請求項9】
前記(A)−(B)の値が1.5以上である粉体は、その比表面積が600m/g以下である無水ケイ酸であることを特徴とする請求項8に記載の化粧料。
【請求項10】
前記(A)−(B)の値が1.5以上である粉体は、その比表面積が600m/g以下であり、且つ、平均粒子径が30μm以下である無水ケイ酸であることを特徴とする請求項8に記載の化粧料。
【請求項11】
精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体としたその粉体の10質量%分散液のpH値を(A)、1質量%塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体としてその粉体の10質量%分散液のpH値を(B)とした場合において、(A)−(B)の値が1.0以上である粉体が配合された化粧料であって、精製水又は10容量%エタノール水溶液を媒体として当該化粧料の10質量%分散液のpH値を(a)、1質量%の塩化ナトリウム水溶液又は1質量%となるように塩化ナトリウムを10容量%エタノール水溶液に溶かした液を媒体として当該化粧料の10質量%分散液のpH値を(b)とした場合の(a)−(b)の値が、当該物質を加えない場合の(a)−(b)よりも0.3以上大きい化粧料であることを特徴とする請求項7に記載の化粧料。
【請求項12】
前記肌トラブルは、汗をかいた時に生じる不快な刺激感、肌の荒れ、かぶれ、かゆみ感である請求項7〜11の何れかに記載の化粧料。



【図1】
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【公開番号】特開2006−321773(P2006−321773A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148677(P2005−148677)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】