肝保護作用を有するタンパク質、肝障害予防・保護用化合物のスクリーニング方法
【課題】薬物等の化学物質に起因する肝障害に対して保護的に作用する遺伝子を見出し、当該遺伝子の機能に立脚した肝障害の予防又は治療薬、そのスクリーニング系、当該遺伝子を用いた肝障害の評価系を提供すること。
【解決手段】Mmd2の発現レベルを指標とする肝障害の予防又は治療薬のスクリーニング方法。Mmd2ポリペプチドの発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質を投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト動物モデルの製造方法。
【解決手段】Mmd2の発現レベルを指標とする肝障害の予防又は治療薬のスクリーニング方法。Mmd2ポリペプチドの発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質を投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト動物モデルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝保護作用を有するタンパク質を用いた、肝障害予防・保護用化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物誘導性肝障害は医薬品開発および臨床での薬物療法における主要な問題の一つである。米国では急性肝障害の50%以上は薬物誘導性であり、600以上の医薬品に肝障害発症の可能性があると言われている (非特許文献1、2)。薬物誘導性肝障害惹起の原因として様々な因子が考えられている。典型的な肝障害薬物であるアセトアミノフェン (APAP) を用いた検討の報告が最も多く、その肝障害惹起の原因としてMitogen-activated protein kinaseの一種であるc-jun N-terminal kinase (JNK) の関与、血液凝固系に関わるPlasminogen activater inhibitor (PAI)-1およびProtease-activated receptor (PAR) 1の関与などが知られている (非特許文献3、4、5)。しかしながら、JNK、PAI−1、PAR−1などはジクロフェナク (DIC) などAPAP以外の肝障害性への関与の程度は薄く、薬物誘導性肝障害惹起の根本的な原因解明には至っていない。また、薬物誘導性肝障害の10%以上は特異的体質によるもので、この原因に関しては不明な点が未だ多いと言われている(非特許文献6)。
【0003】
エストロゲン (E2) はエストロゲン受容体 (ER) に結合し、様々な生体反応に関与していることが知られており、ERにはERα、ERβの2つの亜型が存在する。肝臓において、ERαは高く発現しているが、ERβはほとんど発現が認められないことが知られている (非特許文献7)。ERα アゴニストであるエチニルエストラジオール (EE2) の過量投与により、肝胆汁うっ滞が惹起されることが知られており、ERαは肝障害の発症に関与することが示唆されている (非特許文献8)。一方で、マウスにおいて薬理用量のE2投与は様々な肝障害を抑制することも報告されている。肝虚血再灌流モデルを用いた検討や肝障害性化合物であるジエチルニトロソアミンを投与したマウスを用いた検討で、雄性に比べ雌性において肝障害性の程度が低く、また雄性へのE2投与により肝障害性が減少することが知られている (非特許文献9、10)。
【0004】
ERの研究にERαおよびERβノックアウト (KO) マウスが頻用されている。ERαKOマウスは成獣になるまで通常通り成長するが、雌雄ともに不妊である (非特許文献11)。また、雌性マウスにおいて、子宮は重度の形成不全を示し、卵巣にはのう胞があり黄体は認められない。一方、ERβKOマウスでは成獣になるまで通常通り成長し、雌雄ともに繁殖能力を有するが、産仔数が少なく、生まれた仔は野生型よりも体重が少ないことが報告されている (非特許文献12)。ERαおよびERβダブルKOマウスにおいてはERαKOマウスの特徴に加え、卵巣の卵胞顆粒膜細胞が精巣で認められるセルトリ細胞に転分化することが知られている (非特許文献13、14)。以上のようにERKOマウスを用いた報告が多くなされているが、肝臓におけるERの研究は未だ十分に行われていないのが現状である。
【0005】
タモキシフェン (TAM) は選択的エストロゲン受容体調節薬 (SERM) の一種であり、今日、アロマターゼ阻害薬に代わり乳癌の治療薬として頻用されている (非特許文献15)。SERMはERに対してアゴニストおよびアンタゴニストの両方の作用をもち、その作用は臓器により異なる(非特許文献16)。TAMは乳腺ではERに対するアンタゴニストとして作用するが、子宮および骨組織ではアゴニストとして作用する(非特許文献17)。TAMと同様のSERMに属するラロキシフェン (RAL) は、乳腺ではTAM同様アンタゴニストとして作用し、骨組織においてアゴニストとして作用するが、子宮においてはどちらの作用も示さないことが知られている (非特許文献18、19)。肝臓においてはTAMおよびRALともにE2様作用、つまりアゴニスト作用を示すことが報告されている (非特許文献18、19)。
【0006】
肝障害を惹起する薬物および化合物として様々なものが知られている。
APAPは広く一般に用いられている解熱鎮痛薬であり、前述のように薬物誘導性肝障害において最も研究されている薬物である。DICは非ステロイド性消炎鎮痛薬の一種であり、その作用機序は主としてアラキドン酸代謝におけるシクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより、炎症、疼痛等に関与するプロスタグランジンの合成を阻害するものと考えられている。しかし、一部の患者に重篤な肝障害を引き起こすことが報告され、げっ歯類を用いた検討においても肝障害を引き起こすことが知られている (非特許文献20、21、22)。
【0007】
ブロモベンゼン (BB)は2,3−エポキシドと3,4−エポキシドに代謝されることが知られており (非特許文献23)、2,3−エポキシドは無毒性である。一方、3,4−エポキシドは肝グルタチオンと結合することで解毒されるが、細胞中タンパク質とも結合し、肝障害性を引き起こすことが知られている (非特許文献24、25)。エタノールを3週間投与した雄性SDラットにBBを投与することで肝障害が増悪したことから、CYP2E1による代謝的活性化も示唆されている (非特許文献26)。
【0008】
チオアセタミド (TA)はシトクロームP450 (CYP) 2E1およびフラビンモノオキシゲナーゼによりTA スルフィンおよびTA スルフェンに代謝されることが知られており (非特許文献27、28)、これら代謝物が細胞中のタンパク質に結合することで肝障害性を示すと報告されている (非特許文献29、30、31)。また、雄性SDラットを用いた検討で、絶食下においてTA誘導性の肝障害が増悪することから、CYP2E1による代謝的活性化が肝障害に大きく関わることが示唆されている (非特許文献32)。
【0009】
これまでにE2、SERM投与による薬物誘導性肝障害への影響に関する報告はなく、また、E2による肝保護の詳細なメカニズムは不明である。
【0010】
Mmd2(monocyte to macrophage differentiation-associated 2)は、PAQR(progestin and adipoQ receptor)10とも呼ばれる、7回膜貫通型受容体で、ステロイドの膜受容体の候補遺伝子の1つである。しかしながら、その生物学的な役割は十分に解析されていない(非特許文献33及び34)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Semin Liver Dis 23: 217-226 (2003)
【非特許文献2】Annu Rev Pharmacol Toxicol 45: 177-202 (2005)
【非特許文献3】Gastroenterology 131: 165-178 (2006)
【非特許文献4】Toxicol Sci 104: 419-427 (2008)
【非特許文献5】Hepatology 46: 1177-1186 (2007)
【非特許文献6】Idiosyncratic drug hepatotoxicity. Nat Rev Drug Discov 4: 489-499 (2005)
【非特許文献7】Endocrinology 138: 863-870 (1997)
【非特許文献8】J Biol Chem 281: 16625-16631 (2006)
【非特許文献9】J Appl Physiol 91: 2816-2822 (2001)
【非特許文献10】Science 317: 121-124 (2007)
【非特許文献11】Proc Natl Acad Sci USA 90: 11162-11166 (1993)
【非特許文献12】Proc Natl Acad Sci USA 95: 15677-15682 (1998)
【非特許文献13】Science 286: 2328-2331 (1999)
【非特許文献14】Development 127: 4277-4291 (2000)
【非特許文献15】Lancet 365: 60-62 (2005)
【非特許文献16】Curr Med Chem 16:3076-3080 (2009)
【非特許文献17】Breast Cancer Res Treat 32: 49-55 (1994)
【非特許文献18】Horm Res 48: 155-163 (1997)
【非特許文献19】Endocr Rev 20: 418-434 (1999)
【非特許文献20】Gut 32: 1381-1385 (1991)
【非特許文献21】Arthritis Rheum 40: 201-208 (1997)
【非特許文献22】Toxicol Lett 189: 159-165 (2009)
【非特許文献23】Toxicol Sci 79: 411-422 (2004)
【非特許文献24】Pharmacology 11: 151-169 (1974)
【非特許文献25】Chem Res Toxicol 13: 1326-1335 (2000)
【非特許文献26】Toxicol Appl Pharmacol 67: 166-177 (1983)
【非特許文献27】Drug Metab Dispos 6: 379-388 (1978)
【非特許文献28】J Pharmacol Exp Ther 208: 386-391(1979)
【非特許文献29】J Pharmacol Exp Ther 200: 439-448 (1977)
【非特許文献30】J Pharmacol Exp Ther 294: 473-479 (2000)
【非特許文献31】Cancer Res 41: 3430-3435 (1981)
【非特許文献32】Drug Metab Dispos 29: 1088-1095 (2001)
【非特許文献33】J Mol Evol 61(3): 372-380 (2005)
【非特許文献34】Mol Med 14(11-12): 697-704 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、薬物等の化学物質に起因する肝障害に対して保護的に作用する遺伝子を見出し、当該遺伝子の機能に立脚した肝障害の予防又は治療薬、そのスクリーニング系、当該遺伝子を用いた肝障害の評価系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、薬物誘導性肝障害に対してEE2等のエストロゲン受容体作動薬や、TAM、RAL等の選択的エストロゲン調節薬がERαを介して薬物誘導性肝障害を抑制し得ることを見出した。そしてこのERαを介した肝保護作用の詳細なメカニズムを遺伝子レベルで解析したところ、ERαからの刺激により発現が上昇したMmd2が薬物誘導性肝障害に対して保護的に作用することを見出した。肝臓におけるMmd2の発現レベルには種差があり、ヒト肝臓におけるMmd2の発現レベルは、マウスの1/1000程度であり、このことが、ヒトの肝障害がマウスにおいて十分に再現されない一つの原因となっている可能性を見出した。以上の知見に基づき、本発明を完成した。
【0014】
即ち本発明は以下に関する:
[1]被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法。
[2]以下の工程を含む、[1]記載のスクリーニング方法:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
[3]以下の工程を更に含む、[2]記載のスクリーニング方法:
(5−1)Mmd2発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
[4]以下の工程を更に含む、[2]記載のスクリーニング方法:
(5−2)Mmd2発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
[5]肝障害が化学物質に起因する肝障害である、[1]記載のスクリーニング方法。
[6]Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。
[7]以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
[8]Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いは該ポリペプチドをコードする核酸を特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定するための試薬。
[9]Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Mmd2が肝臓に保護的に作用するという新たなメカニズムに立脚した、肝障害の予防又は治療剤、そのスクリーニング方法が提供される。また、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、Mmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エストロゲン様薬物の雌性マウスのTA誘導性肝障害に対する効果。EE2 (100 μg/kg, i.p.)、TAM (1 mg/kg, i.p.)、RAL (3 mg/kg, i.p.)又はICI (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後にALT (A)、AST (B)及びT-Bil (C)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。**P < 0.01、TAのみを投与したマウスと比較した。
【図2】雌性マウスのTA誘導性肝障害に対するTAMの肝保護効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウスにTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。マウス肝臓の切片について、ヘマトキシリン−エオシン染色を行った。
【図3】種々の化合物により誘導された雌性マウスの肝障害に対するTAMの効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウス(雌、6週齢)にAPAP (400 mg/kg, i.p.)、BB (2.5 mmol/kg, i.p.)、DIC (200 mg/kg, i.p.)又はTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。投与の6時間後(APAP及びDIC)又は24時間後(BB及びTA)にALT (A)及びAST (B)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05, **P < 0.01, 及び ***P < 0.001、TAM非処理マウスと比較した。
【図4】NTマウス又はTA投与マウスと比較した、TAM投与マウス、ICI投与マウス及びRAL投与マウスのプローブ・セット・レギュレーションのベン図描写。TAM (1 mg/kg, i.p.)、RAL (3 mg/kg, i.p.)又はICI (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。
【図5】血漿ALTに対するTA投与の用量依存的効果(A)及びTAMの肝保護のための候補遺伝子(B)。マウス(雌、6週齢)に、TA (0, 10, 50, 又は 200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。
【図6】血漿ALTに対するTA投与の時間依存的効果(A)及びTAMの肝保護のための候補遺伝子(B)。TAM (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の0、3、6、12、24又は48時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05及び***P < 0.001、TAのみを投与したマウスと比較した。
【図7】TAMの肝保護についての候補遺伝子の発現に対する種々の化合物の投与の効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にAPAP (400 mg/kg, i.p.)、BB (2.5 mmol/kg, i.p.)、DIC (200 mg/kg, i.p.)又はTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05、**P < 0.01及び ***P < 0.001、非処理マウスと比較した。#P < 0.05、##P < 0.01及び###P < 0.001、TAM非処理マウスと比較した。
【図8】ERα KOマウスにおけるTA誘導性肝障害へのTAMの効果。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後にALT (A)及びAST (B)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び**P< 0.01。
【図9】ERα KOマウスにおける、TAMの肝保護についての候補遺伝子に対するTAM投与の効果。マウス(雌、6週齢)にTAMを5日間投与した(1 mg/kg, i.p.)。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05、**P < 0.01及び***P < 0.001。ND;検出できず。
【図10】TAの24時間曝露後の種々の細胞株についてのMTTアッセイ。溶媒処理細胞に対する百分率で細胞生存率を表す。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。
【図11】種々のマウス細胞株におけるMmd2 mRANレベル。Mmd2 mRNAの発現レベルをリアルタイムRT-PCR解析により測定した。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。ND;検出できず。
【図12】種々のsiRNAをトランスフェクトしたJ774A.1細胞(A)及びY-1細胞(B)におけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル。siRNAのトランスフェクションの48時間後に、J774A.1細胞(A)及びY-1細胞(B)におけるMmd2 mRNAを、リアルタイムRT-PCR解析により測定した。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。*P< 0.05及び**P< 0.01、siScr処理群と比較した。
【図13】siMmd2を投与した雌性マウスにおける、Mmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil (B)。200 μLの容量中の、アテロコラーゲンのみ、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)をマウスの尾静脈内へ注射した。血漿及び肝臓試料を、アテロコラーゲンの投与の24時間後に採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。**P < 0.01、siScrを投与したマウスと比較した。
【図14】TAM投与の5日後にsiMmd2を投与した雌性マウスにおけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil (B)。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後に、マウスの尾静脈内に200 μLの容量中のアテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図15】TAM投与の5日後にTA及びsiMmd2を投与した雌性マウスにおけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil(B)。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは6匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図16】TA及びsiMmd2を投与した雌性マウスにおける、Mmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil(B)。マウスの尾静脈中へ、200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (100 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは5匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図17】ERα KOマウス(A)及びsiMmd2を投与したマウス(B)における、eNOS mRNAの相対的発現レベル。(A)TAMを5日間(1 mg/kg, i.p.)、マウス(雌性、6週齢)に投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。(B)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。***P < 0.001。
【図18】ERα KOマウス(A)及びsiMmd2を投与したマウス(B)における、Areg mRNAの相対的発現レベル、並びにICRマウスにおけるAreg mRNAに対するTA投与の時間依存的効果。(A)TAMを5日間(1 mg/kg, i.p.)、マウス(雌性、6週齢)に投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。(B)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。(C)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の5日後に、マウス(雌性、6週齢)にTA(200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の0、3、6、12、24又は48時間後に、血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図19】25人のヒトの肝臓におけるMMD2 mRNA発現の個体相互間の可変性。データは2回の独立した試験の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法
後述の実施例に示すように、Mmd2は肝臓に対して保護的に作用し、Mmd2の発現を抑制することにより、肝障害が増悪する。従って、本発明は、被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法を提供するものである。本発明のスクリーニング方法においては、哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルを上昇させた被検物質が、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択され、逆に哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルを減少させた被検物質が、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択される。
【0018】
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、以下の工程を含む:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
【0019】
Mmd2(monocyte to macrophage differentiation-associated 2)は、PAQR(progestin and adipoQ receptor)10とも呼ばれる、公知の7回膜貫通型受容体で、ステロイドの膜受容体の候補遺伝子の1つである。
【0020】
本明細書中、Mmd2は通常、哺乳動物由来のものを意味する。「哺乳動物由来のMmd2」とは、Mmd2の配列(アミノ酸配列又はヌクレオチド配列)が、哺乳動物由来であることを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。Mmd2は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0021】
Mmd2のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒト、チンパンジー及びマウスのMmd2の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_198403(バージョンNM_198403.3)(配列番号1)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_940685(バージョンNP_940685.3)(配列番号2)
[チンパンジーMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 XM_527649(バージョンXM_527649.2)(配列番号3)
アミノ酸配列:アクセッション番号 XP_527649(バージョンXP_527649.2)(配列番号4)
[マウスMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_175217(バージョンNM_175217.6)(配列番号5)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_780426(バージョンNP_780426.1)(配列番号6)
【0022】
本明細書において、肝障害とは、肝細胞の損傷を伴う肝機能障害、劇症肝炎を含む肝炎をいう。肝細胞の損傷に起因して、肝障害は、通常、血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び/又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の上昇を伴うため、肝障害に相当する疾患であるか否かは、これらのマーカー等を指標に熟練した医師ならば容易に診断可能である。肝障害には、化学物質、肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、F又はG型)、自己免疫疾患等に起因するものが包含されるが、本発明においては、肝障害は好ましくは化学物質に起因するものである。化学物質に起因する肝障害とは、化学物質により直接的に又はその代謝物により間接的に惹起された肝障害を意味する。化学物質とは、有機物質、無機物質、金属イオン、高分子化合物、低分子化合物、天然物などを包含する。肝障害を誘導する化学物質としては、代表的には、アセトアミノフェン、ジクロフェナック、ハローセン、シメチジン、ケトコナゾール、フェノバルビタール、アミノサリチル酸、キニジン、アスピリン、アロピリノール、バルプロン酸などの肝障害を起こすことが知られている各種薬物、四塩化炭素、トルエン、アルコール、ブロモベンゼン、チオアセタミドなどの化合物、鉄イオンなどの金属イオンなどが挙げられる。肝障害を誘導する化学物質については、例えばAnnu Rev Pharmacol Toxicol 45: 177-202 (2005)に記載されている。
【0023】
本発明のスクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。また、肝障害を増悪させる懸念がある医薬や、肝障害を引き起こすことが報告されている医薬と併用する可能性がある医薬の有効成分を、被検物質として用いることが出来る。
【0024】
本発明のスクリーニング方法には哺乳動物細胞が用いられる。哺乳動物の具体例は、上述の通りである。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。当該哺乳動物の性別は特に限定されず、雌雄いずれの哺乳動物を用いることが出来るが、好ましくは雌が用いられる。
【0025】
「発現を測定可能な細胞」とは、測定対象遺伝子のmRNA又はポリペプチドの発現量を直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。測定対象遺伝子のmRNA又はポリペプチドの発現量を直接的に評価可能な細胞としては、測定対象遺伝子を天然で発現可能な細胞(好ましくは、測定対象遺伝子を天然で発現する細胞)が挙げられ、一方、測定対象遺伝子のmRNA又は蛋白質の発現量を間接的に評価可能な細胞としては、測定対象遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞が挙げられる。
【0026】
Mmd2を天然で発現可能な細胞(好ましくは、Mmd2を天然で発現する細胞)は、Mmd2を潜在的に発現するものである限り特に限定されず、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、腫瘍細胞などを用いることができる。Mmd2は、マクロファージ、膵β細胞、副腎皮質細胞等に発現しているので、これらの細胞から誘導された細胞株、及びこれらの細胞由来の腫瘍細胞を、Mmd2を天然で発現可能な細胞(好ましくは、Mmd2を天然で発現する細胞)として使用することができる。
【0027】
後述の実施例に示されるように、Mmd2の発現は、ERα(estrogen receptor α)を介したシグナルにより誘導される。従って、ERαを発現する哺乳動物細胞へ、ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を、Mmd2を発現する細胞として、本発明のスクリーニング方法に用いてもよい。ERαアゴニストとしては、エストロゲン、エチニルエストラジオール等が挙げられるが、これらに限定されない。ERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬としては、タモキシフェン、ラロキシフェン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
Mmd2の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、Mmd2遺伝子の転写調節領域(例えば、転写開始点から上流約2kbpの塩基配列からなるDNA)、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子(例えばGFP遺伝子)を含む細胞である。Mmd2に対する生理的な転写調節因子を発現し、Mmd2の発現調節の評価により適切であると考えられることから、測定対象の細胞としては、上述のMmd2を天然で発現可能な細胞が好ましい。
【0029】
Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞への被検物質の接触は、インビトロ又はインビボにおいて行われる。
【0030】
インビトロでの接触は、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を、被検物質を含む適切な培地中で培養することにより行われる。培地は、Mmd2の発現を測定可能な細胞の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などである。他の培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約3〜約72時間である。
【0031】
ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を用いる場合には、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を、被検物質及びERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を含む適切な培地中で培養する。
【0032】
インビボでの接触は、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を含む哺乳動物(好ましくは非ヒト哺乳動物)へ、被検物質を投与することにより行われる。投与は、被検物質が、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ送達されるように行われる。投与後、約3〜約72時間、哺乳動物は適切な飼育環境下で維持された後、当該哺乳動物からMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞や当該細胞を含む組織(例えば肝臓組織)が分離される。細胞の分離は、当該細胞に特異的に発現する細胞表面マーカーの発現を指標に、当該マーカーを特異的に認識する抗体を用いて、セルソーター、抗体磁気ビーズ法等により行うことが出来る。
【0033】
ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を用いる場合には、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を含む哺乳動物(好ましくは非ヒト哺乳動物)へ、被検物質及びERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を投与する。
【0034】
Mmd2を発現可能な細胞を用いた場合、Mmd2ポリペプチドの発現レベルの測定は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。また、Mmd2 mRNAの発現レベルは、該mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。レポーター遺伝子を含む細胞が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体及びMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマーの詳細については後述する。
【0035】
発現レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質を接触させない対照哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルは、被検物質を接触させた細胞におけるMmd2の発現レベルの測定に対し、事前に測定した発現レベルであっても、同時に測定した発現レベルであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0036】
尚、対照哺乳動物細胞についての試験条件(細胞の種類、培養条件等)は、被検物質を接触させる哺乳動物細胞と、被検物質を接触させない点を除き、同一であることが好ましい。
【0037】
そして、被検物質の接触によるMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療する活性、或いは肝障害を増悪する活性と相関付ける。後述の実施例に示すように、Mmd2は、肝臓に対して保護的に作用し、Mmd2の発現をsiRNAで抑制すると、肝障害が増悪する。従って、Mmd2発現レベルの上昇は、肝障害を予防又は治療する活性と正に相関するので、Mmd2の発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択することが出来る。一方、Mmd2発現レベルの減少は、肝障害を増悪する活性を正に相関するので、Mmd2の発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択することが出来る。
【0038】
このようにして選択された、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質が、実際に肝障害を予防又は治療するか、或いは肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質が、実際に肝障害を増悪するか、確認してもよい。この場合、以下の工程が引き続き行われる:
(1’)非ヒト哺乳動物に対して肝障害を誘導すること;
(2’)肝障害の誘導の前又は後に、当該非ヒト哺乳動物に候補物質を投与すること;
(3’)該非ヒト哺乳動物における肝障害の程度を評価すること;
(4’)候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度を、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度と比較すること。
【0039】
非ヒト哺乳動物としては、上述のものを挙げることが出来る。非ヒト哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(マウス等)である。
【0040】
肝障害の誘導は、自体公知の肝障害モデル動物の作成方法に従い行うことが出来る。例えば、上述した肝障害を引き起こす化学物質を非ヒト哺乳動物へ投与することにより、化学物質に起因する肝障害を誘導することが出来る。或いは、肝炎ウイルス等の投与によっても、肝障害を誘導することが出来る。或いは、肝炎を自然発症する肝炎モデル動物を用いてもよい。肝障害の誘導方法については、例えば、Toxicol Sci, vol.87, pp.296-305 (2005);Pediatr Res, vol.55, pp.450-456 (2004)等を参照のこと。
【0041】
肝障害の程度は、自体公知の方法に従い評価することが出来る。例えば肝細胞の破壊により上昇する血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を指標に、肝障害の程度を評価することが出来る。或いは、肝臓の組織切片を作成し、組織化学的に肝臓組織の破壊の程度を解析することにより、肝障害の程度を評価することが出来る。
【0042】
尚、対照非ヒト哺乳動物についての試験条件(動物の種類、肝障害誘導条件等)は、候補物質を投与する非ヒト哺乳動物と、候補物質を投与しない点を除き、同一であることが好ましい。
【0043】
そして、候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度が、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度よりも軽減されている場合には、当該候補物質を、肝障害を予防また治療する活性を有する薬物として得ることが出来る。一方、候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度が、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度よりも悪化している場合には、当該候補物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物として得ることが出来る。
【0044】
本発明のスクリーニング方法は、肝障害の予防又は治療薬の開発に有用である。また、本発明のスクリーニング方法は、肝障害を増悪するリスクを有する薬物の選別に有用である。例えば、被検物質として、前臨床段階の開発化合物を用いることにより、該化合物が肝障害を増悪するリスクを予測することができる。また、被検物質として医療用医薬品を用いることにより、この医薬品を肝障害を引き起こすリスクが報告されている薬物と組み合わせて投与する場合における、肝障害の発生リスクを予測し、仮に肝障害を増悪する活性を有すると判断された場合には、この医薬品の投与においては、肝障害を引き起こすリスクが報告されている薬物との併用を避けるなどの、肝障害に対する予防措置をとることが出来る。
【0045】
2.肝障害の予防又は治療剤
後述の実施例に示すように、Mmd2は肝臓に対して保護的に作用する。従って、本発明は、Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤を提供する。
【0046】
Mmd2ポリペプチドとしては、上記1.の項に例示した哺乳動物由来のMmd2ポリペプチドを用いることが出来る。
【0047】
Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、Mmd2ポリペプチドをコードするDNAが機能的に連結されている。
【0048】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。好ましくはpolII系プロモーターが用いられる。プロモーターとしては、具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が挙げられる。
【0049】
上記発現ベクターは、好ましくはMmd2ポリペプチドをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0050】
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0051】
本発明の予防又は治療剤は、Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0052】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0053】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の予防又は治療剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。本発明の予防又は治療剤がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターを含む場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、本発明の予防又は治療剤がプラスミドベクターを含む場合には、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0054】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。
【0055】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0056】
医薬組成物中のMmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0057】
本発明の予防又は治療剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0058】
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは、その有効成分である上記のポリヌクレオチド又はこれを発現し得る発現ベクターが、標的となる細胞(好ましくは肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等))に送達されるように、哺乳動物(例えば、ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)に対して安全に投与される。
【0059】
本発明の予防又は治療剤は、肝障害(例えば、上述の化学物質に起因する肝障害、肝炎ウイルスの感染による肝炎、自己免疫疾患による肝炎等)の予防又は治療に有用である。
【0060】
3.肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法
後述の実施例に示す通り、Mmd2に対するsiRNAの投与により、肝臓におけるMmd2の発現量を抑制したマウスにおいて、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大する。また、ERαノックアウトマウスにおいてもやはり肝臓におけるMmd2の発現量が低下し、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大する。また、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高いヒトにおいては、該感受性が低いマウスと比較して肝臓におけるMmd2の発現量が低い。従って、本発明は、以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法を提供するものである:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
【0061】
哺乳動物としては、上記1.の項に記載したものを挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。
【0062】
肝臓組織とは、哺乳動物からバイオプシー等の操作により分離された、肝臓の一部を意味する。
【0063】
「肝障害を誘導する化学物質に対する感受性」とは、肝障害を誘導する化学物質を投与した場合における肝障害の発症しやすさを意味する。
【0064】
肝臓組織におけるMmd2の発現レベルは、Mmd2ポリペプチド又はMmd2 mRNAの発現を解析することにより、測定することが出来る。Mmd2ポリペプチドの発現レベルの測定は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。また、Mmd2 mRNAの発現レベルは、該mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体及びMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーの詳細については後述する。
【0065】
次に、測定されたMmd2の発現レベルと、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との相関付けが行われ、当該肝臓組織が由来する個体の肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が判定される。後述の実施例に示すように、肝臓組織におけるMmd2の発現レベルが低いほど、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高い。上記判定は、肝臓組織におけるMmd2の発現レベルと、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との間のこのような負の相関に基づき行われる。
【0066】
例えば、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が低い個体(ネガティブコントロール)及び、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高い個体(ポジティブコントロール)から肝臓組織を摘出し、評価対象の個体から摘出された肝臓組織におけるMmd2発現レベルがポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。あるいは、肝臓組織におけるMmd2発現レベルと肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との相関図をあらかじめ作成しておき、評価対象の個体から摘出された肝臓組織におけるMmd2発現レベルをその相関図と比較してもよい。発現レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0067】
そして、Mmd2発現レベルの比較結果より、評価対象の個体のMmd2発現レベルが相対的に高い場合には、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が相対的に低いと判定することができる。逆に、評価対象の個体のMmd2発現レベルが相対的に低い場合には、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が相対的に高いと判定することができる。
【0068】
また本発明は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いはMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する薬物に対する感受性を判定するための試薬(即ちキット)を提供するものである。
【0069】
抗体によるMmd2ポリペプチドの特異的な認識とは、抗体の抗原認識部位のMmd2ポリペプチドに対する親和性がMmd2以外のポリペプチドに対する親和性と比較して高いことを意味する。また、核酸プローブ又は核酸プライマーによるMmd2 mRNA又はそのcDNAの特異的検出とは、核酸プローブ又は核酸プライマーによるMmd2 mRNA又はそのcDNAの検出感度が、Mmd2以外の遺伝子のmRNA又はそのcDNAの検出感度と比較して高いことを意味する。
【0070】
Mmd2ポリペプチド(例えば、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)を特異的に認識する抗体は、Mmd2ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0071】
また、抗体は、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0072】
1つの好ましい態様において、Mmd2 mRNA又はそのcDNA(例えば、配列番号1、3又は5で表されるヌクレオチド配列からなるRNA又はDNA)を特異的に検出し得る核酸プローブは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAに含まれる、約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、いっそう好ましくは約18〜約50塩基の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドである。
【0073】
別の好ましい態様において、Mmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。核酸プローブの長さは、通常約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、更に好ましくは約18〜約50塩基である。
【0074】
核酸プローブは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0075】
また、核酸プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0076】
Mmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プライマーは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAの一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。例えば、Mmd2 mRNA又はそのcDNAの相補配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと、このハイブリダイゼーション部位より3’側のMmd2 mRNA又はそのcDNAの一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとの組み合わせであり、それらによって増幅される核酸の断片長が約50〜約1,000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基である、一対のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0077】
核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0078】
また、核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0079】
核酸プローブまたはプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖の場合は二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。従って、本明細書においてあるヌクレオチド配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該ヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、該ヌクレオチド配列と相補的な配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、それらのハイブリッドである二本鎖ポリヌクレオチドをすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
【0080】
核酸プローブまたはプライマーは、例えば、Mmd2 mRNA又はそのcDNAのヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0081】
抗体、核酸プローブ及び核酸プライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に適当な濃度となるように溶解し、約−20℃〜4℃で保存することができる。
【0082】
本発明の試薬は、Mmd2発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。
例えば、本発明の試薬がMmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を含むものであれば、免疫学的手法によりMmd2発現レベルを測定することにより、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定することができる。この場合、本発明の試薬は、標識二次抗体、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、ELISAプレート、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。
【0083】
本発明の試薬がMmd2 mRNA又はそのcDANを特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含むものであれば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等によりMmd2発現レベルを測定することにより、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定することができる。RT−PCRを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)、逆転写酵素等をさらに含むことができる。ノザンブロッティングやcDNAアレイを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。in situ ハイブリダイゼーションを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、標識化試薬、発色基質等をさらに含むことができる。
【0084】
4.薬物誘導性肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法
後述の実施例に示す通り、Mmd2に対するsiRNAの投与により、肝臓におけるMmd2の発現量を抑制したマウスは、肝障害を引き起こしやすく、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大している。従って、本発明は、Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法を提供するものである。
【0085】
本発明のモデルに用いられる非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。非ヒト哺乳動物は、好ましくは、げっ歯類(マウス等)である。当該非ヒト哺乳動物の性別は特に限定されず、雌雄いずれの非ヒト哺乳動物を用いることが出来るが、好ましくは雌が用いられる。
【0086】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸は、Mmd2の発現を特異的に抑制し得る。「Mmd2特異的な発現の抑制」とは、Mmd2の発現をそれ以外の遺伝子の発現よりも強く抑制することを意味する。
【0087】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNAとしては、例えば
(A)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む1本鎖又は2本鎖のRNA、及び
(B)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と投与対象の哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞内でハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることによりMmd2のRNA干渉を誘導する1本鎖又は2本鎖のRNA
を挙げることができる。
【0088】
二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
【0089】
RNA干渉誘導性RNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もRNA干渉誘導性RNAの好ましい態様の1つである。
【0090】
RNA干渉誘導性RNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。RNA干渉誘導性RNAが23塩基よりも長い場合には、該RNA干渉誘導性RNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。
【0091】
また、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0092】
尚、本明細書において、全長が23塩基以下の2本鎖のRNA干渉誘導性RNAをsiRNAという。
【0093】
標的ヌクレオチド配列と、RNA干渉誘導性RNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、当該相補配列の中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、相補配列の中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
【0094】
RNA干渉誘導性RNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、RNA干渉誘導性RNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0095】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
【0096】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNAとハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
【0097】
Mmd2の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内でハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態でMmd2ポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
【0098】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、Mmd2の発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
【0099】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、Mmd2の発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、Mmd2のmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、好ましくは、標的配列はMmd2のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0100】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でMmd2のmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
【0101】
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
【0102】
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるRNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。RNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
【0103】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA及びアンチセンス核酸は、Mmd2のmRNA配列(例えば配列番号1、3又は5で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販の核酸自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を合成することにより調製できる。2本鎖のRNA干渉誘導性RNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖を核酸自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0104】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸を発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である非ヒト哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、上述のRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が機能的に連結されている。
【0105】
使用されるプロモーターは、投与対象である非ヒト哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0106】
RNA干渉誘導性RNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0107】
上記発現ベクターは、好ましくはRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0108】
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、非ヒト哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0109】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターは、肝臓へ送達されるように、非ヒト哺乳動物に対して、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内等に投与される。その結果、Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターが肝臓内におけるMmd2発現細胞へ取り込まれ、当該細胞におけるMmd2の発現が阻害される。
【0110】
生体内におけるヌクレアーゼによる核酸(特にRNA)の分解を抑制するために、アテロコラーゲンをキャリアとして用いることが出来る。アテロコラーゲンはコラーゲン分子をペプシンで消化することによって得られる抗原性のない分子である。生体親和性に富み、生体に投与した場合でも炎症を惹起する心配がなく、また生体内で生分解性があり、さらに核酸と相互作用が強いため生体への遺伝子ベクターのキャリアとして有用であると注目されている(Ochiya T, Nature Med. (1999) 5(6): 707-10)。
【0111】
また、核酸の細胞内への導入を促進するために、核酸導入用試薬を用いてもよい。核酸導入用試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、ウイルスベクター(特にレトロウイルスベクター)を用いる場合には、レトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を核酸導入用試薬として用いることが出来る。
【0112】
染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、該改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物は、例えば、以下の工程を含む方法により製造することが出来る:
(a)相同組み換えによりMmd2遺伝子の対立遺伝子のうちの一方を欠損した胚性幹細胞を得ること;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を非ヒト哺乳動物に移植し、キメラ非ヒト哺乳動物を得る工程;
(d)該キメラ非ヒト哺乳動物を交配させ、Mmd2遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
【0113】
更に、Mmd2遺伝子欠損ヘテロ接合体同士を交配することにより、Mmd2遺伝子欠損ホモ接合体を得ることが出来る。染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルが低下した非ヒト哺乳動物は、Mmd2遺伝子欠損のヘテロ接合体でもよいし、ホモ接合体であってもよい。
【0114】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA等の投与又は染色体DNA上のMmd遺伝子の改変を施した非ヒト哺乳動物の肝臓におけるMmd2ポリペプチドの発現レベルは、当該投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物のそれの約50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下である。
【0115】
尚、対照非ヒト哺乳動物の動物種、系統、週齢、性別、飼育環境等の条件は、当該投与又は改変を受けていないことを除き、当該投与又は改変を施した非ヒト哺乳動物のそれと同一である。
【0116】
肝臓におけるMmd2ポリペプチドの発現レベルを低下させた非ヒト哺乳動物に対して、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、F又はG型)(好ましくは化学物質)を、肝障害を誘導するのに十分な用量にて投与することにより、該非ヒト哺乳動物に肝障害を誘導することが出来る。肝障害を誘導する化学物質としては、上記1.の項に例示したものを挙げることが出来る。
【0117】
後述の実施例に示すように、ヒトの肝臓におけるMmd2の発現レベルは、マウスのそれの1/1000程度と極めて低く、このことが、マウスの肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が、ヒトと比較して低く、ヒトの肝障害がマウスにおいて十分に再現されない一つの原因となっていることが推測される。従って、肝臓におけるMmd2の発現レベルを低下させた、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、よりMmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。更に、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルは、肝障害におけるMmd2の役割を解析するためのリサーチツールとして有用である。
【0118】
以下に参考例、実施例および試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0119】
1.実験材料及び実験方法
1−1.実験材料および試薬
ヒト肝16サンプルはHuman and Animal Bridging Research Organization (Chiba, Japan) より購入し、9サンプルは岩手医科大学 (Morioka, Japan) より提供された。ドナー情報は表1にまとめた。ヒト肝癌由来HuH-7細胞、HLE細胞およびヒト胎児腎由来HEK293細胞は、大日本住友製薬 (Osaka, Japan) から購入した。ヒト肝癌由来HepG2細胞はRiken Gene Bank (Tsukuba, Japan) より購入した。ヒト肝由来Fa2N4細胞およびMFETM Plating Medium Fは日本農産工業(Yokohama, Japan) より購入した。ヒト乳腺由来MCF-7細胞、マウス線維芽由来NIH/3T3細胞およびマウス副腎皮質由来Y-1細胞はAmerican Type Culture Collection (ATCC) より購入した。マウス肝癌由来Hepa1-6細胞およびMM45LTi細胞は金沢大学医学部第一内科より提供された。マウスマクロファージ由来J774A.1細胞は金沢大学薬学部生体防御応答学研究室より提供された。マウスマクロファージ由来RAW-264.7細胞は金沢大学病院薬剤部研究室より提供された。DMEM培地は日水製薬 (Tokyo, Japan) より、ウシ胎児血清 (FBS)、リポフェクタミンRNAi MAXおよびアガロースはインビトロジェン (Melbourne, Australia) より、ReverTra Aceは東洋紡 (Osaka, Japan) より購入した。DICはSigma-Aldrich (St. Louis, MO) より、Cell Counting Kit-8は同仁化学研究所(Kumamoto, Japan)より、SYBR(R)Premix Ex TaqTM、RNA isoとランダムヘキサマーは宝酒造(Kyoto, Japan) より購入した。プライマーは北海道システムサイエンス (Sapporo, Japan) に、siRNAはB-Bridge (Mountain view, CA) に合成を依頼した。アセトアミノフェン(APAP)、ブロモベンゼン(BB)、チオアセタミド(TA)、タモキシフェン(TAM)及びエストロゲン(EE2)は和光純薬工業(Osaka, Japan)より購入した。ICI182,780 (ICI) はTOCRIS bioscience (Ellisville, MO) より、RALはToronto Research Chemicals (North York, CA) より購入した。電気泳動はBIO CRAFT (Tokyo, Japan) のBE-560型泳動槽とPA-055型泳動槽を用いた。10 cmプレート、96ウェルプレートはBecton Dickinson Labware(Flanklin Lakes, NJ)より、6ウェルプレートはNunclonΔTM Surface (Roskilde, Denmark) より購入した。セルスクレイパーはイワキ (Tokyo, Japan) より購入した。AteloGeneTMSystemic Useは高研 (Tokyo, Japan) より購入した。その他の試薬は和光純薬工業等の特級または生化学用のものを用いた。以下に本試験で使用した試薬の組成を示した。必要のあるものはオートクレーブ(121℃、20分間または40分間)等の滅菌処理を行った。
【0120】
生理食塩水
塩化ナトリウムの最終濃度が0.9%になるように精製水を加えた。その後、121℃、20分間オートクレーブを行った。
DEPC処理精製水
DEPCの最終濃度が0.1%になるように精製水に加え、37℃で2時間加温した。
その後、121℃、40分間オートクレーブを行った。
10 × PBS
塩化ナトリウム80 g、塩化カリウム2 g、リン酸水素二ナトリウム (12水和物) 29 g、リン酸水素二カリウム2 gに精製水を加え、全量を1 Lとした後、121℃で20分間オートクレーブを行った。使用前に適宜希釈した。
【0121】
【表1】
【0122】
1−2.EE2、TAM、RALおよびICI前投与ICRマウスへのTA投与
ICRマウス (雄性および雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にEE2 (100 μg/kg in saline, i.p.)、TAM (1 mg/kg in saline, i.p.)、RAL (3 mg/kg in saline, i.p.) またはICI (1 mg/kg in saline, i.p.) を5日間連続投与し、最終投与12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3〜5匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0123】
1−3.TAM前投与ICRマウスへの化合物投与
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を5日間連続投与し、その後APAP (400 mg/kg in 80% 1,2-propanediol with 0.15% KCl, i.p.)、BB (2.5mmol/kg in corn oil,i.p.)、DIC (200 mg/kg in saline, i.p.) またはTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。APAPおよびDICは投与6時間後に、BBおよびTAは投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0124】
1−4.AST、ALTおよびトータルビリルビン (T-Bil) 値の測定
マウス下行大静脈より血液を採取し、7,000 rpm (3,000 g)、4℃で15分間遠心分離した後、血清約400 μLをサンプルチューブに採取した。AST、ALTおよびT-Bil値は、血清10 μLを富士ドライケムSDスライドに点着させ、富士フィルム (Tokyo, Japan) のDRI-CHEM 4000Vを用いて測定した。
【0125】
1−5.マウスおよびヒト肝組織からのtotal RNAの調製
ヒト肝サンプルを用いる検討は金沢大学および岩手医科大学のヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理委員会の承認を得た上で行った。マウスまたはヒト肝 50 mg に対して RNA iso 1 mLを加えた。氷冷下、ガラスホモジナイザーでホモジナイズし、1.5 mLチューブに分注後、室温で5分間放置した。0.2 mLのクロロホルム溶液を加えて15秒間激しく攪拌し、再度室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて15分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、0.5 mLのイソプロパノールを加え、室温で10分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、沈殿を70%エタノールで洗浄した。この沈殿を乾燥させた後、DEPC処理精製水に溶解させ、260 nmにおける吸光度を測定することにより定量した。
【0126】
1−6.DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析
DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析は、北海道システムサイエンス(Sapporo, Japan) に依頼した。使用したアジレントアレイはWhole Mouse Genome Oligoであり、マウス全遺伝子を解析した。遺伝子発現はAgilent Technologies Microarray Scannerを用いて5 μmの解像度でスキャンした。スキャンの結果得られた数値化データを、GeneSpringにインポートし、ノーマライゼーションを行い、各シグナル値やフラグ情報を集めた解析用データを作成した。
【0127】
1−7.ICRマウスにおけるTA投与量依存的な検討
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTA (0, 50, 200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与後24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0128】
1−8.ICRマウスにおけるTA投与時間依存的な検討
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与後0, 3, 6, 12, 24および48時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0129】
1−9.Real-time RT-PCRによる種々の遺伝子の発現量解析
1−5により得られたtotal RNAから以下の方法によりcDNAを合成した。Total RNA 10 μg、ランダムヘキサマー (150 ng/μL) 1 μLにDEPC処理精製水を加えて全量を23 μLとした。70℃水浴中で10分間反応後、氷冷した。さらに、5 × 逆転写反応用緩衝液8 μL、2.5 M dNTP 8 μL、ReverTraAce (100 units/μL) 1 μLを加えて全量を40 μLとし、30℃で10分間、42℃で1時間、98℃で10分間、サーマルサイクラーを用いて反応させた。得られたcDNAから以下の方法によりPCRを行った。cDNA溶液を1 μL、2 × SGI溶液を10 μL、10 μM フォワードプライマーおよびリバースプライマーを0.8 μL、ROX溶液を0.3 μL、滅菌水 7.1 μLを加えて全量を20 μLとした。Stratagene (La Jolla, CA) のMx3000PTMを用いて、95℃で3分間、94℃で4秒間、64℃で20秒間を45サイクルで反応を行った。45サイクル終了後、60℃から95℃まで、1℃ /minを上昇させて融解曲線の測定を行った。PCRに用いたプライマーの配列を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
Areg; Amphiregulin, Arg2; Arginase 2, eNOS; epidermal NO synthetase, Gapdh; mouse glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, Gdf9, Growth differentiation factor 9, Hemt1; Hematopoietic cell transcript 1, Mmd2; mouse monocyte to macrophage differentiation-associated 2, Mmp9; Matrix metallopeptidase 9, Pign; Phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class N, hGAPDH; human glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, hMMD2; human monocyte to macrophage differentiation-associated 2
【0132】
1−10.TAM前投与ERα KOマウスへのTA投与
ERα KOマウス (雌性、6週齢 30〜35 g、系統C57BL/6N) にTAMを5日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、最終投与12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0133】
1−11.細胞培養
HuH-7細胞、HLE細胞、HepG2細胞、HEK293細胞、MCF-7細胞、Hepa1-6細胞、J774A.1細胞、MM45LTi細胞、NIH/3T3細胞、RAW-264.7細胞およびY-1細胞は10% FBSを含むDMEMを用いて10 cmシャーレで培養した。継代時、培地をアスピレート除去した後1 × PBS溶液4 mLをシャーレに加え、培地を5 mL入れておいた50 mLのチューブにシャーレより剥離した細胞を移し、4,000 rpm (1,000 g)、4℃で5分間遠心分離した。得られた沈殿を再度培地に懸濁してシャーレに播種し、5 % CO2存在下37℃で培養した。
【0134】
Fa2N4細胞は10% FBSを含むMFETM Plating Medium Fを用いて10 cmシャーレで培養した。継代時、培地をアスピレート除去した後1 × PBS溶液4 mLをシャーレに加え、培地を5 mL入れておいた50 mLのチューブにシャーレより剥離した細胞を移し、4,000 rpm (1,000 g)、4℃で5分間遠心分離した。得られた沈殿を再度培地に懸濁してシャーレに播種し、5 % CO2存在下37℃で培養した。
【0135】
1−12.TA誘導性細胞障害の検討
HuH-7細胞、HLE細胞、HepG2細胞、Fa2N4細胞、HEK293細胞、MCF-7細胞およびHepa1-6細胞を96ウェルプレートに各ウェル20,000個となるよう播種し、5 % CO2存在下37℃で24時間培養した。その後、TA濃度が0, 1, 10, 100 μM, 1, 10 mMになるよう加え、24時間処置した。
【0136】
1−13.MTTアッセイ
同仁化学研究所のCell counting kit-8を用い、以下の方法でMTTアッセイを行った。TA溶液を24時間処理した種々の細胞株に、CCK-8溶液を各ウェル10 μLずつ加えた。溶液添加1時間後における450 nmの吸光度をBiotrak II Plate readerを用いて測定した。
【0137】
1−14.J774A.1およびY-1細胞へのsiMmd2処置
1ウェルあたりLipofectamine RNAiMAX 2.5 μL、20 μM Mmd2 StealthTM RNAiまたは20 μM rSOD2 StealthTM RNAi 1.5 μLに無血清培地を加え全量を4 mLとし、6ウェルプレートにアプライした。20分間静置させた後に、J774A.1細胞 (6×105 cells/well) またはY-1細胞 (4×105cells/well) を播種した。siMmd2の配列としては、
#1 CAGAAAACCAAAUAUGCAA(配列番号29),
#2 CCACACAGUCUCAUGGAAA(配列番号30),
#3 GCUAUGUGGUGAUGGGUUU(配列番号31),
#4 GAUCAAAGCAACAUGGGAA(配列番号32), 及び
#5 GCAGGGAGACCAAGGCAUA(配列番号33)
を用いた。
【0138】
1−15.肝癌由来細胞からのtotal RNAの調製
RNA isoを用いてtotal RNAを調製した。6ウェルプレートで培養したそれぞれの細胞株にRNA iso 500 μLを加えてピペッティングにより懸濁した後、室温で5分間放置した。100 μLのクロロホルム溶液を加え、15秒間激しく撹拌し、再度室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて15分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、250 μLのイソプロパノールを加え、室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、沈殿を75%エタノールで洗浄した。この沈殿を乾燥させた後、15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、DEPC処理精製水に溶解させた。60℃の水浴で10分間インキュベートした後、260 nmにおける吸光度を測定することにより定量した。
【0139】
1−16.アテロコラーゲンを用いたマウスへのsiRNA送達
siRNAのマウスin vivoへの導入はAteloGeneTMを用いて行った。AteloGeneTM 600 μLに等量の40 μMに調製したsiRNA溶液を加え、4 rpm、4℃で20分間回転混和した。その後、10,000 rpm (7,000 g)、4℃にて1分間遠心分離することで脱泡処理した。AteloGeneTM/siRNA複合体を尾静脈より投与 (200 μL/body) し、投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓、脾臓および腎臓を採取した。
【0140】
1−17.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2 mRNAへの影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAMを4日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、投与12時間後にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与12時間後にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TAM投与12時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0141】
1−18.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAMを4日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、投与12時間後にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与12時間後にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を投与し、さらにその12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群6匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0142】
1−19.TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与24時間後にTA (100 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群5匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
本実施例における動物実験については、全て金沢大学動物実験指針に従って行った。
【0143】
2.実験結果
2−1.EE2、TAM、RALおよびICI前投与によるTA誘導性肝障害への影響
1−2の方法によってEE2、TAM、RALおよびICI前投与によるTA誘導性肝障害への影響を6週齢雌性ICRマウスを用いて検討した。TA投与によりNone treatment (NT) と比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた。EE2、TAM、RAL前投与によりTA単独投与群と比べて、血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた (図1A及び1B)。ICI前投与ではTA単独投与群と比べて、血漿ALTおよびAST値の有意な減少は認められなかった。Total bilirubin (T-Bil) についてはいずれの群においても変動は認められなかった (図1C)。TAM投与により最も肝障害性の軽減が認められた。また、EE2前投与のTA投与群では血漿が黄色を示し、肝胆汁うっ滞の関与が考えられた。肝組織染色の検討においてもTA誘導性の肝障害が認められ、TAM前投与によりTA誘導性の肝障害の軽減が認められた (図2)。TAM投与のみでは血漿パラメータ (図1A、B及びC) の上昇は認められず、肝組織染色 (図2) においても肝障害は認められなかった。
【0144】
2−2.TAM前投与による化合物誘導性肝障害への影響
TA以外の化合物でも同様にTAMによる肝保護作用が認められるか検討するため、TAM前投与によるAPAP、BB、DICおよびTA誘導性肝障害への影響について1−3に述べた方法で検討した (図3)。APAP投与において、TAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。また、血漿AST値がALT値よりも高値を示した。BB投与において、TAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。DIC投与では、TAM前投与により血漿ALTの有意な減少が認められた。血漿AST値がALT値よりも高値を示し、AST値のTAM前投与による減少は認められなかった。TA投与では図1と同様にTAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。全ての化合物において対照群と比べて、TAM前投与群において肝障害の軽減が認められた。TAMによる肝障害性の軽減はTA特異的ではなく、APAPやDICなどの薬物およびBBなどの毒物においても認められた。
【0145】
2−3.DNAマイクロアレイによる解析
薬物誘導性肝障害に対するTAMによる肝保護作用の原因因子を解明するために、2-6に述べた方法に従いDNAマイクロアレイによる解析を行った。DNAマイクロアレイはNT、TAM単独投与、ICI単独投与、RAL単独投与、TA単独投与、TA+TAM投与、TA+ICI投与およびTA+RAL投与群のサンプルを用いて解析を行った。2−1で述べたように、EE2投与群のサンプルは血漿の色が黄色を示したため、TAMおよびRALとは別の因子が関わると考え、DNAマイクロアレイ解析は行わなかった。TA単独投与では4,846、TAM前投与群では2,269、ICI前投与群では2,354およびRAL前投与群では3,025の遺伝子がNTと比べて2倍以上上昇した (図4)。また、TA単独投与群を対照とした場合、TAM前投与群では3,732、ICI前投与群では2,783およびRAL前投与群では4,731遺伝子が2倍以上上昇した。TAMおよびRAL前投与群においてTA誘導性の肝障害性が軽減し、ICI前投与群では軽減が認められなかったことから、TAMおよびRAL前投与群のみで上昇した遺伝子を選択した。TAM単独投与およびRAL単独投与で2倍以上上昇し、ICIでは0.5〜2倍の変動幅の遺伝子は380個であった。その中でもTAMおよびRAL単独投与いずれか、もしくはともに5倍以上上昇した遺伝子としてGrowth differentiation factor 9 (Gdf9)、Monocyte to macrophage differentiation-associated 2 (Mmd2)、Matrix metallopeptidase 9 (Mmp9) およびPhosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class Nが候補に挙がった (表3)。また、TAM単独投与およびRAL単独投与でともに2.5倍以上上昇し、ICIでほとんど変動が認められない (変動幅0.90〜1.10倍) 遺伝子として上記に挙げたMmp9およびPign以外にArginase 2 (Arg2) およびHematopoietic cell transcript 1 (Hemt1) の2つが挙げられた (表3)。TA単独投与を対照とした場合、TAM投与およびRAL投与で2倍以上上昇し、ICIでは0.5〜2倍の変動幅の遺伝子として907遺伝子あったが、表3で挙げた遺伝子と共通するものとして唯一Mmd2が挙がった。
【0146】
【表3】
【0147】
また、NTと比べて0.5倍以下に減少した遺伝子数はTA単独投与では5,745、TAM前投与群では2,167、ICI前投与群では1,662およびRAL前投与群では2,253個であった。また、TA単独投与群を対照とした場合、TAM前投与群では3,030、ICI前投与群では2,225およびRAL前投与群では2,845遺伝子が0.5倍以下に減少した。これらの結果に基づき、表3に挙げた計6種を肝保護遺伝子の候補とした。
【0148】
2−4.候補遺伝子のTA投与量依存的な発現変動
Arginase 2 (Arg2)、Growth differentiation factor 9 (Gdf9)、Hematopoietic cell transcript 1 (Hemt1)、Mmd2、Matrix metallopeptidase 9 (Mmp9) およびphosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class N (Pign) におけるTA投与量依存的なmRNA発現量変動を1−7および1−9の方法に述べた方法で検討した。血漿ALT値についても併せて測定した。6週齢ICR雌性マウスにおいて、TA投与量依存的な血漿ALT値の上昇が認められた (図5A)。Arg2 mRNAおよびGdf9 mRNAにおいて、TA投与量依存的な上昇が認められ、Mmd2 mRNAにおいてはTA投与量依存的な減少が認められた (図5B)。Hemt1 mRNAにおいてTA投与10 mg/kgでは変動が認められなかったが、50および200 mg/kg投与では顕著な上昇が認められた。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。Mmp9 mRNAではTA投与10および50 mg/kgでは変動は認められなかったが、200 mg/kg投与では顕著に上昇した。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。Pign mRNAにおいてはTA投与10および50 mg/kgでは変動は認められなかったが、200 mg/kg投与では僅かに減少した。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。
【0149】
2−5.候補遺伝子のTA投与時間依存的な発現変動
Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPignにおけるTA投与時間依存的な血漿ALT値およびmRNA発現量変動を1−8および1−9に述べた方法に従って検討した。TA投与時間依存的な血漿ALT値の上昇が認められ、投与後24時間で最大となり、48時間では減少した。TA投与0, 3, 6, 12および24時間後において、TA単独投与群に比べて、TA+TAM群でALT値の有意な減少が認められた (図6A)。TA投与48時間後では有意ではないものの減少傾向が認められた。Arg2 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与24時間後で最大となり、48時間後で減少した。TA+TAM群ではTA投与48時間後まで上昇し続けた。Gdf9 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与3時間後で上昇し、24時間後まで同程度であり、48時間後で減少した。TA+TAM群ではTA投与24時間後で最大となり、48時間後で減少した。Hemt1 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与24時間後まで上昇し続け、48時間後ではわずかに減少した。TA+TAM群ではTA投与48時間後まで上昇し続けた。Mmd2 mRNAにおいて、TA単独投与では時間依存的な減少が認められた。TA+TAM群ではTA投与3時間後で最大となり、その後減少した。Mmp9 mRNAにおいて、TA単独投与群では、TA投与6時間および24時間でピークとなった。TA+TAM群ではTA投与12時間後までは変動が認められなかったが、24時間後で上昇し、48時間後ではさらに上昇した。Pign mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与後24時間まで減少し、48時間後では上昇した。TA単独投与群と比べて、TA+TAM群で全ての時間において発現上昇が認められたのはMmd2のみであった。
【0150】
2−6.4種の化合物投与における候補遺伝子の発現変動
Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPignにおける4種の肝障害誘導化合物投与によるmRNA発現量変動を検討した (図7)。Arg2 mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において発現の有意な上昇が認められ、ICI前投与では発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびTA+TAM群では対照群と比べて発現の変動は認められなかったが、BB+TAM群では発現の有意な減少が認められ、DIC+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。Gdf9 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の有意な上昇が認められ、TAMおよびICI前投与では発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびBB+TAM群では対照群と比べて発現の有意な減少が認められたが、DIC+TAM群では発現の変動は認められず、TA+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。Hemt1 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の上昇が認められたが、TAMおよびICI前投与で発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびDIC+TAM群では対照群と比べて発現の変動が認められなかったが、BB+TAMおよびTA+TAM群では発現の有意な減少が認められた。Mmd2 mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において顕著な発現の上昇が認められた。ICI前投与では発現の上昇は認められなかった。また、APAP+TAM、BB+TAM、DIC+TAMおよびTA+TAM群において発現の有意な上昇が認められた。Mmp9 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の上昇が認められたが、TAMおよびICI前投与では発現の変動が認められなかった。また、APAP+TAM およびBB+TAM群では発現変動は認められず、DIC+TAM群では対照群と比べて発現の有意な上昇が認められ、TA+TAM群では発現の有意な減少が認められた。Pign mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において発現の上昇が認められなかった。ICI前投与でも発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAM投与では対照群と比べて発現変動が認められず、BB+TAM、DIC+TAMおよびTA+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。DNAマイクロアレイ解析の結果より、TAMおよびRAL単独投与において全ての遺伝子で上昇が認められると考えられたが、Gdf9、Hemt1、Mmp9およびPign mRNAでは上昇が認められず、再現が得られなかった。Arg2およびMmd2 mRNAにおいては上昇が認められ、再現が得られた (図7)。
【0151】
2−7.ERα KOマウスにおけるTAM前投与によるTA誘導性肝障害への影響
ERα KOマウスにおけるTAM前投与によるTA誘導性肝障害への影響を1−10に述べた方法に従い検討した (図8)。野生型マウスにおいて、ICRマウスと同様にTA投与により顕著なALT値の上昇が認められた。また、TAM前投与により、TA単独投与群と比べて血漿ALT値の有意な減少が認められた (図8)。一方、ERα KOマウスにおいてはTAMによる肝保護作用は認められなかった。また、ERα KOマウスにおいて野生型に比べて血漿ALTおよびAST値が有意に高かった。これよりTAMによるTA誘導性肝障害の軽減はERαを介することが示唆された。
【0152】
2−8.ERαノックアウトマウスにおける注目遺伝子の発現変動
TAMはERαを介して様々な生態反応に関与していることが知られているため、Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPign mRNAのERα KOマウスにおける変動を検討した (図9)。Arg2 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいて上昇は認められなかった。Gdf9 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいても有意な上昇が認められた。Hemt1 mRNAにおいてはいずれの群においても検出されなかった。Mmd2 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいては上昇が認められなかった。また、ERα KOマウスにおいてMmd2 mRNAの発現量が野生型に比べて1/10程度であった。Mmp9 mRNAにおいて、TAM前投与により上昇は認められず、ERα KOマウスにおいて有意な上昇が認められた。Pign mRNAにおいてはいずれの群においても変動は認められなかった。これより、Arg2およびMmd2がERαを介して上昇されることが示唆された。2−4、2−5、2−6、2−7および2−8の結果より、Mmd2を肝保護遺伝子の第一候補とし、更に詳細な検討を行った。
【0153】
2−9.TA誘導性細胞障害の検討
Mmd2がTAMによる肝保護に関与しているか検討を行うにあたり、in vitroでの系を構築することとした。In vitro系でこれまでのin vivo系と同様にTA誘導性の肝障害がTAMにより軽減されれば、遺伝子発現調節による解析が容易であると考えた。最初に、1−12および1−13の方法に従いHuH-7、HLE、CYP2E1発現アデノウイルス感染HepG2 (HepG2/AdCYP2E1)、Fa2N4、CYP2E1安定発現HEK293 (HEK293/CYP2E1 stable)、MCF-7およびHepa1-6細胞株を用いて、TAの細胞障害性をMTTアッセイを用いて検討した。いずれの細胞株においてもTA処置による細胞生存率の減少は認められなかった (図10)。TA処置濃度をより高濃度で行い細胞障害を惹起させ検討を進めていくことは困難と考え、in vitro系の検討は保留とし、in vivoで検討を進めていくこととした。
【0154】
2−10.マウス細胞株におけるMmd2 mRNAの発現
in vivoでMmd2の肝保護の関与を検討するために、Mmd2に対するsiRNA (siMmd2) をマウスに投与することとした。in vivoでのノックダウンを検討するにあたり、in vitroでノックダウン効率のよいsiMmd2を選択することとした。最初に、Mmd2 mRNAが発現している細胞株を選択するために、J774A.1、RAW264.7、NIH/3T3、MM45LTi、Hepa1-6およびY-1細胞株の6種のマウス由来細胞株を用いた。J774A.1およびY-1細胞においてMmd2 mRNAの発現が認められた (図11)。RAW264.7、NIH/3T3、MM45LTiおよびHepa1-6細胞においてはMmd2 mRNAの発現は認められなかった。J774A.1およびY-1細胞ともにMmd2 mRNA発現量は検出限界値であったことから、1種の細胞株を用いてノックダウン効率の良いsiMmd2を選択することは信憑性に欠けると考え、両細胞株を用いることとした。
【0155】
2−11.in vitroにおけるsiMmd2処置によるMmd2 mRNAへの影響
J774A.1およびY-1細胞に5種類のsiMmd2 (#1〜#5) を1−14に述べた方法に従い処置した。J774A.1細胞において、#5siMmd2処置によってのみMmd2 mRNAの濃度依存的かつ有意な減少が認められた (図12A)。Y-1細胞においては#1siMmd2および#5siMmd2処置によりMmd2 mRNAの濃度依存的かつ有意な減少が認められた (図12B)。両細胞株において、lipofectamine (lipo) 単独処置およびsiScramble (siScr) 処置において、Mmd2 mRNAの変動は認められなかった。#5siMmd2処置において両細胞株でノックダウンが認められたことから、in vivoでは#5siMmd2 (以下siMmd2) を投与することとした。また、siMmd2の対照としてsiScrを用いることとした。
【0156】
2−12.アテロコラーゲンを用いたin vivoにおけるsiMmd2処置によるMmd2 mRNAへの影響
siRNAを未修飾で投与を行った場合、ヌクレアーゼにより速やかに分解されることが知られている。そこで1−16に述べた方法に従って、siRNA輸送媒体として知られるアテロコラーゲンを用いた検討を行った。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。NTと比べてsiMmd2投与マウスにおいて、肝Mmd2 mRNAの約70%の減少が認められた (図13A)。アテロコラーゲン単独投与群 (Atelo) およびsiScr投与群においては肝Mmd2 mRNAの変動は認められなかった。siMmd2投与群において、若干ではあるが血漿ALT値の有意な上昇が認められ、血漿ASTおよびT-Bil値の変動は認められなかった (図13B)。腎臓および脾臓においてはMmd2 mRNA発現が認められず、ノックダウンを確認することはできなかった。
【0157】
2−13.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2 mRNAへの影響
TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2mRNAへの変動について1-17に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。NTと比べてTAM+siScr投与マウスにおいて、Mmd2 mRNAの約20倍の上昇が認められた (図14A)。また、血漿ALTおよびAST値は有意な減少が認められ、血漿T-Bil値の変動は認められなかった (図14B)。TAM+siMmd2投与マウスにおいてはTAM+siScr投与マウスと比べて約70%のMmd2 mRNAの減少が認められた。TAM+siScr投与マウスで認められた血漿ALTおよびAST値の減少はTAM+siMmd2投与マウスでは認められなかった。
【0158】
2−14.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響を1−18に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。TA+TAM+siMmd2投与マウスにおいて、TA+TAM+siScr投与マウスに比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた (図15B)。血漿T-Bil値に変動は認められなかった。また、TA+TAM+siMmd2投与群において、TA+TAM+siScr投与マウスに比べてMmd2 mRNAの有意な減少が認められた (図15A)。siMmd2投与により、TAMによる肝保護作用の抑制が認められた。
【0159】
2−15.TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響を1−19に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。TA+siMmd2投与マウスにおいて、TA+siScr投与マウスに比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた (図16B)。血漿T-Bil値に変動は認められなかった。siMmd2投与により、TA誘導性肝障害の増大が認められた。また、TA+siMmd2投与群において、TA+siScr投与マウスに比べてMmd2 mRNAの有意な減少が認められた (図16A)。NTと比べてTA+siScr投与群でMmd2 mRNAの有意な減少が認められたが、図5、6及び7と同様の結果であり、再現が得られた。2−14及び2−15の結果より、Mmd2が肝保護遺伝子であることが示唆された。
【0160】
2−16.eNOSおよびAmphiregulin (Areg) mRNA測定
続いて、Mmd2による肝保護作用がどのような機序で起こっているか検討した。Mmd2がERαを介して誘導されることが図9で示されたことから、ERαを介し、かつ肝保護遺伝子として報告のあるeNOSおよびAregのmRNA発現量を測定した。野生型マウスにおいて、TAM前投与によりeNOS mRNAはNTと比べて有意に減少した (図17A)。ERα KOマウスでは減少は認められなかった。またsiMmd2投与によりeNOS mRNAの変動は認められなかった (図17B)。これより、eNOS mRNAの減少がERαを介することが示唆されたが、eNOSが減少したことからTAMによる肝保護にeNOSが関与しているとは考えにくい。また、siMmd2投与により変動が認められないことから、Mmd2がeNOSに関与する可能性は低いと考えられた。よってTAMによる肝保護作用にeNOSは関与しない可能性が示唆された。
【0161】
野生型マウスにおいて、TAM前投与によりAreg mRNAはNTと比べて約90倍に上昇した (図18A)。ERα KOマウスでは野生型に比べるとその上昇は低く、有意でなかった。ICR雌性マウスにおいてもTAM投与によりAreg mRNAはNTに対して有意に上昇した (図18B)。またsiMmd2投与によりAreg mRNAの有意な減少が認められた (図18B)。TA投与時間依存的な変動においてはTA単独投与ではTA投与24時間後において最大となり、投与48時間後では減少した。TA+TAM群においてはTA投与48時間後においてもAreg mRNAの上昇が認められたことから、肝再生がTA単独投与に比べて持続していることが考えられた (図18C)。これより、Areg mRNAの上昇がERαを介すること、およびMmd2との関与が考えられ、Mmd2による肝保護の一因が、Areg mRNAの上昇による肝再生能の向上であることが示唆された。
【0162】
2−17.ヒトにおけるMMD2 mRNA測定
25種のヒト肝臓サンプルを用いて、ヒトにおける肝臓中のMMD2 mRNA発現量を1−9に述べた方法に従って検討した。ヒト肝臓においてもMMD2 mRNAの発現が認められたが (図19)、その発現量は非常に少なく検出限界に近い値であった。また、MMD2 mRNAの最も低い検体を1としたとき、ヒト25検体の平均値は約24であり、マウス3匹の平均値は約23,000であった。マウス肝臓に比べて1/1000程度であった。ヒト肝臓中のMMD2 mRNAには約188倍の個体差が認められた。
【0163】
以上より、薬物誘導性肝障害に対してEE2、TAMおよびRALが肝保護的に働くことを見出し、その作用がERαを介し、Mmd2を上昇させることで起こることが示唆された。また、Mmd2が薬物誘導性肝障害に対して保護的に機能することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明によれば、Mmd2が肝臓に保護的に作用するという新たなメカニズムに立脚した、肝障害の予防又は治療剤、そのスクリーニング方法が提供される。また、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、Mmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝保護作用を有するタンパク質を用いた、肝障害予防・保護用化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物誘導性肝障害は医薬品開発および臨床での薬物療法における主要な問題の一つである。米国では急性肝障害の50%以上は薬物誘導性であり、600以上の医薬品に肝障害発症の可能性があると言われている (非特許文献1、2)。薬物誘導性肝障害惹起の原因として様々な因子が考えられている。典型的な肝障害薬物であるアセトアミノフェン (APAP) を用いた検討の報告が最も多く、その肝障害惹起の原因としてMitogen-activated protein kinaseの一種であるc-jun N-terminal kinase (JNK) の関与、血液凝固系に関わるPlasminogen activater inhibitor (PAI)-1およびProtease-activated receptor (PAR) 1の関与などが知られている (非特許文献3、4、5)。しかしながら、JNK、PAI−1、PAR−1などはジクロフェナク (DIC) などAPAP以外の肝障害性への関与の程度は薄く、薬物誘導性肝障害惹起の根本的な原因解明には至っていない。また、薬物誘導性肝障害の10%以上は特異的体質によるもので、この原因に関しては不明な点が未だ多いと言われている(非特許文献6)。
【0003】
エストロゲン (E2) はエストロゲン受容体 (ER) に結合し、様々な生体反応に関与していることが知られており、ERにはERα、ERβの2つの亜型が存在する。肝臓において、ERαは高く発現しているが、ERβはほとんど発現が認められないことが知られている (非特許文献7)。ERα アゴニストであるエチニルエストラジオール (EE2) の過量投与により、肝胆汁うっ滞が惹起されることが知られており、ERαは肝障害の発症に関与することが示唆されている (非特許文献8)。一方で、マウスにおいて薬理用量のE2投与は様々な肝障害を抑制することも報告されている。肝虚血再灌流モデルを用いた検討や肝障害性化合物であるジエチルニトロソアミンを投与したマウスを用いた検討で、雄性に比べ雌性において肝障害性の程度が低く、また雄性へのE2投与により肝障害性が減少することが知られている (非特許文献9、10)。
【0004】
ERの研究にERαおよびERβノックアウト (KO) マウスが頻用されている。ERαKOマウスは成獣になるまで通常通り成長するが、雌雄ともに不妊である (非特許文献11)。また、雌性マウスにおいて、子宮は重度の形成不全を示し、卵巣にはのう胞があり黄体は認められない。一方、ERβKOマウスでは成獣になるまで通常通り成長し、雌雄ともに繁殖能力を有するが、産仔数が少なく、生まれた仔は野生型よりも体重が少ないことが報告されている (非特許文献12)。ERαおよびERβダブルKOマウスにおいてはERαKOマウスの特徴に加え、卵巣の卵胞顆粒膜細胞が精巣で認められるセルトリ細胞に転分化することが知られている (非特許文献13、14)。以上のようにERKOマウスを用いた報告が多くなされているが、肝臓におけるERの研究は未だ十分に行われていないのが現状である。
【0005】
タモキシフェン (TAM) は選択的エストロゲン受容体調節薬 (SERM) の一種であり、今日、アロマターゼ阻害薬に代わり乳癌の治療薬として頻用されている (非特許文献15)。SERMはERに対してアゴニストおよびアンタゴニストの両方の作用をもち、その作用は臓器により異なる(非特許文献16)。TAMは乳腺ではERに対するアンタゴニストとして作用するが、子宮および骨組織ではアゴニストとして作用する(非特許文献17)。TAMと同様のSERMに属するラロキシフェン (RAL) は、乳腺ではTAM同様アンタゴニストとして作用し、骨組織においてアゴニストとして作用するが、子宮においてはどちらの作用も示さないことが知られている (非特許文献18、19)。肝臓においてはTAMおよびRALともにE2様作用、つまりアゴニスト作用を示すことが報告されている (非特許文献18、19)。
【0006】
肝障害を惹起する薬物および化合物として様々なものが知られている。
APAPは広く一般に用いられている解熱鎮痛薬であり、前述のように薬物誘導性肝障害において最も研究されている薬物である。DICは非ステロイド性消炎鎮痛薬の一種であり、その作用機序は主としてアラキドン酸代謝におけるシクロオキシゲナーゼの活性を阻害することにより、炎症、疼痛等に関与するプロスタグランジンの合成を阻害するものと考えられている。しかし、一部の患者に重篤な肝障害を引き起こすことが報告され、げっ歯類を用いた検討においても肝障害を引き起こすことが知られている (非特許文献20、21、22)。
【0007】
ブロモベンゼン (BB)は2,3−エポキシドと3,4−エポキシドに代謝されることが知られており (非特許文献23)、2,3−エポキシドは無毒性である。一方、3,4−エポキシドは肝グルタチオンと結合することで解毒されるが、細胞中タンパク質とも結合し、肝障害性を引き起こすことが知られている (非特許文献24、25)。エタノールを3週間投与した雄性SDラットにBBを投与することで肝障害が増悪したことから、CYP2E1による代謝的活性化も示唆されている (非特許文献26)。
【0008】
チオアセタミド (TA)はシトクロームP450 (CYP) 2E1およびフラビンモノオキシゲナーゼによりTA スルフィンおよびTA スルフェンに代謝されることが知られており (非特許文献27、28)、これら代謝物が細胞中のタンパク質に結合することで肝障害性を示すと報告されている (非特許文献29、30、31)。また、雄性SDラットを用いた検討で、絶食下においてTA誘導性の肝障害が増悪することから、CYP2E1による代謝的活性化が肝障害に大きく関わることが示唆されている (非特許文献32)。
【0009】
これまでにE2、SERM投与による薬物誘導性肝障害への影響に関する報告はなく、また、E2による肝保護の詳細なメカニズムは不明である。
【0010】
Mmd2(monocyte to macrophage differentiation-associated 2)は、PAQR(progestin and adipoQ receptor)10とも呼ばれる、7回膜貫通型受容体で、ステロイドの膜受容体の候補遺伝子の1つである。しかしながら、その生物学的な役割は十分に解析されていない(非特許文献33及び34)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Semin Liver Dis 23: 217-226 (2003)
【非特許文献2】Annu Rev Pharmacol Toxicol 45: 177-202 (2005)
【非特許文献3】Gastroenterology 131: 165-178 (2006)
【非特許文献4】Toxicol Sci 104: 419-427 (2008)
【非特許文献5】Hepatology 46: 1177-1186 (2007)
【非特許文献6】Idiosyncratic drug hepatotoxicity. Nat Rev Drug Discov 4: 489-499 (2005)
【非特許文献7】Endocrinology 138: 863-870 (1997)
【非特許文献8】J Biol Chem 281: 16625-16631 (2006)
【非特許文献9】J Appl Physiol 91: 2816-2822 (2001)
【非特許文献10】Science 317: 121-124 (2007)
【非特許文献11】Proc Natl Acad Sci USA 90: 11162-11166 (1993)
【非特許文献12】Proc Natl Acad Sci USA 95: 15677-15682 (1998)
【非特許文献13】Science 286: 2328-2331 (1999)
【非特許文献14】Development 127: 4277-4291 (2000)
【非特許文献15】Lancet 365: 60-62 (2005)
【非特許文献16】Curr Med Chem 16:3076-3080 (2009)
【非特許文献17】Breast Cancer Res Treat 32: 49-55 (1994)
【非特許文献18】Horm Res 48: 155-163 (1997)
【非特許文献19】Endocr Rev 20: 418-434 (1999)
【非特許文献20】Gut 32: 1381-1385 (1991)
【非特許文献21】Arthritis Rheum 40: 201-208 (1997)
【非特許文献22】Toxicol Lett 189: 159-165 (2009)
【非特許文献23】Toxicol Sci 79: 411-422 (2004)
【非特許文献24】Pharmacology 11: 151-169 (1974)
【非特許文献25】Chem Res Toxicol 13: 1326-1335 (2000)
【非特許文献26】Toxicol Appl Pharmacol 67: 166-177 (1983)
【非特許文献27】Drug Metab Dispos 6: 379-388 (1978)
【非特許文献28】J Pharmacol Exp Ther 208: 386-391(1979)
【非特許文献29】J Pharmacol Exp Ther 200: 439-448 (1977)
【非特許文献30】J Pharmacol Exp Ther 294: 473-479 (2000)
【非特許文献31】Cancer Res 41: 3430-3435 (1981)
【非特許文献32】Drug Metab Dispos 29: 1088-1095 (2001)
【非特許文献33】J Mol Evol 61(3): 372-380 (2005)
【非特許文献34】Mol Med 14(11-12): 697-704 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、薬物等の化学物質に起因する肝障害に対して保護的に作用する遺伝子を見出し、当該遺伝子の機能に立脚した肝障害の予防又は治療薬、そのスクリーニング系、当該遺伝子を用いた肝障害の評価系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討したところ、薬物誘導性肝障害に対してEE2等のエストロゲン受容体作動薬や、TAM、RAL等の選択的エストロゲン調節薬がERαを介して薬物誘導性肝障害を抑制し得ることを見出した。そしてこのERαを介した肝保護作用の詳細なメカニズムを遺伝子レベルで解析したところ、ERαからの刺激により発現が上昇したMmd2が薬物誘導性肝障害に対して保護的に作用することを見出した。肝臓におけるMmd2の発現レベルには種差があり、ヒト肝臓におけるMmd2の発現レベルは、マウスの1/1000程度であり、このことが、ヒトの肝障害がマウスにおいて十分に再現されない一つの原因となっている可能性を見出した。以上の知見に基づき、本発明を完成した。
【0014】
即ち本発明は以下に関する:
[1]被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法。
[2]以下の工程を含む、[1]記載のスクリーニング方法:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
[3]以下の工程を更に含む、[2]記載のスクリーニング方法:
(5−1)Mmd2発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
[4]以下の工程を更に含む、[2]記載のスクリーニング方法:
(5−2)Mmd2発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
[5]肝障害が化学物質に起因する肝障害である、[1]記載のスクリーニング方法。
[6]Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。
[7]以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
[8]Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いは該ポリペプチドをコードする核酸を特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定するための試薬。
[9]Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Mmd2が肝臓に保護的に作用するという新たなメカニズムに立脚した、肝障害の予防又は治療剤、そのスクリーニング方法が提供される。また、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、Mmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】エストロゲン様薬物の雌性マウスのTA誘導性肝障害に対する効果。EE2 (100 μg/kg, i.p.)、TAM (1 mg/kg, i.p.)、RAL (3 mg/kg, i.p.)又はICI (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後にALT (A)、AST (B)及びT-Bil (C)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。**P < 0.01、TAのみを投与したマウスと比較した。
【図2】雌性マウスのTA誘導性肝障害に対するTAMの肝保護効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウスにTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。マウス肝臓の切片について、ヘマトキシリン−エオシン染色を行った。
【図3】種々の化合物により誘導された雌性マウスの肝障害に対するTAMの効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)を投与した5日後に、マウス(雌、6週齢)にAPAP (400 mg/kg, i.p.)、BB (2.5 mmol/kg, i.p.)、DIC (200 mg/kg, i.p.)又はTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。投与の6時間後(APAP及びDIC)又は24時間後(BB及びTA)にALT (A)及びAST (B)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05, **P < 0.01, 及び ***P < 0.001、TAM非処理マウスと比較した。
【図4】NTマウス又はTA投与マウスと比較した、TAM投与マウス、ICI投与マウス及びRAL投与マウスのプローブ・セット・レギュレーションのベン図描写。TAM (1 mg/kg, i.p.)、RAL (3 mg/kg, i.p.)又はICI (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。
【図5】血漿ALTに対するTA投与の用量依存的効果(A)及びTAMの肝保護のための候補遺伝子(B)。マウス(雌、6週齢)に、TA (0, 10, 50, 又は 200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。
【図6】血漿ALTに対するTA投与の時間依存的効果(A)及びTAMの肝保護のための候補遺伝子(B)。TAM (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の0、3、6、12、24又は48時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05及び***P < 0.001、TAのみを投与したマウスと比較した。
【図7】TAMの肝保護についての候補遺伝子の発現に対する種々の化合物の投与の効果。TAM (1 mg/kg, i.p.)投与の5日後に、マウス(雌、6週齢)にAPAP (400 mg/kg, i.p.)、BB (2.5 mmol/kg, i.p.)、DIC (200 mg/kg, i.p.)又はTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05、**P < 0.01及び ***P < 0.001、非処理マウスと比較した。#P < 0.05、##P < 0.01及び###P < 0.001、TAM非処理マウスと比較した。
【図8】ERα KOマウスにおけるTA誘導性肝障害へのTAMの効果。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の5日後に、マウス(雌、6週齢)にTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の24時間後にALT (A)及びAST (B)を測定した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び**P< 0.01。
【図9】ERα KOマウスにおける、TAMの肝保護についての候補遺伝子に対するTAM投与の効果。マウス(雌、6週齢)にTAMを5日間投与した(1 mg/kg, i.p.)。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P < 0.05、**P < 0.01及び***P < 0.001。ND;検出できず。
【図10】TAの24時間曝露後の種々の細胞株についてのMTTアッセイ。溶媒処理細胞に対する百分率で細胞生存率を表す。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。
【図11】種々のマウス細胞株におけるMmd2 mRANレベル。Mmd2 mRNAの発現レベルをリアルタイムRT-PCR解析により測定した。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。ND;検出できず。
【図12】種々のsiRNAをトランスフェクトしたJ774A.1細胞(A)及びY-1細胞(B)におけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル。siRNAのトランスフェクションの48時間後に、J774A.1細胞(A)及びY-1細胞(B)におけるMmd2 mRNAを、リアルタイムRT-PCR解析により測定した。データは3回の独立した試験の平均値± SDである。*P< 0.05及び**P< 0.01、siScr処理群と比較した。
【図13】siMmd2を投与した雌性マウスにおける、Mmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil (B)。200 μLの容量中の、アテロコラーゲンのみ、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)をマウスの尾静脈内へ注射した。血漿及び肝臓試料を、アテロコラーゲンの投与の24時間後に採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。**P < 0.01、siScrを投与したマウスと比較した。
【図14】TAM投与の5日後にsiMmd2を投与した雌性マウスにおけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil (B)。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後に、マウスの尾静脈内に200 μLの容量中のアテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図15】TAM投与の5日後にTA及びsiMmd2を投与した雌性マウスにおけるMmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil(B)。TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは6匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図16】TA及びsiMmd2を投与した雌性マウスにおける、Mmd2 mRNAの相対的発現レベル(A)及び血漿ALT、AST及びT-Bil(B)。マウスの尾静脈中へ、200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (100 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは5匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図17】ERα KOマウス(A)及びsiMmd2を投与したマウス(B)における、eNOS mRNAの相対的発現レベル。(A)TAMを5日間(1 mg/kg, i.p.)、マウス(雌性、6週齢)に投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。(B)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。***P < 0.001。
【図18】ERα KOマウス(A)及びsiMmd2を投与したマウス(B)における、Areg mRNAの相対的発現レベル、並びにICRマウスにおけるAreg mRNAに対するTA投与の時間依存的効果。(A)TAMを5日間(1 mg/kg, i.p.)、マウス(雌性、6週齢)に投与した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。(B)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の4日後にマウス尾静脈中へ200 μLの容量中の、アテロコラーゲン/siScr、又はアテロコラーゲン/siMmd2 (5 nmol/head, i.v.)を注射した。アテロコラーゲン注射の12時間後に、最後のTAM投与(1 mg/kg, i.p.)を行った。アテロコラーゲンの注射24時間後に、マウスへTA (200 mg/kg, i.p.)を投与した。TAの投与24時間後に血漿及び肝臓試料を採取した。(C)TAM投与(1 mg/kg, i.p.)の5日後に、マウス(雌性、6週齢)にTA(200 mg/kg, i.p.)を投与した。TA投与の0、3、6、12、24又は48時間後に、血漿及び肝臓試料を採取した。データは3匹のマウスの平均値± SDである。*P< 0.05及び***P< 0.001。
【図19】25人のヒトの肝臓におけるMMD2 mRNA発現の個体相互間の可変性。データは2回の独立した試験の平均値である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法
後述の実施例に示すように、Mmd2は肝臓に対して保護的に作用し、Mmd2の発現を抑制することにより、肝障害が増悪する。従って、本発明は、被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法を提供するものである。本発明のスクリーニング方法においては、哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルを上昇させた被検物質が、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択され、逆に哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルを減少させた被検物質が、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択される。
【0018】
本発明のスクリーニング方法は、具体的には、以下の工程を含む:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
【0019】
Mmd2(monocyte to macrophage differentiation-associated 2)は、PAQR(progestin and adipoQ receptor)10とも呼ばれる、公知の7回膜貫通型受容体で、ステロイドの膜受容体の候補遺伝子の1つである。
【0020】
本明細書中、Mmd2は通常、哺乳動物由来のものを意味する。「哺乳動物由来のMmd2」とは、Mmd2の配列(アミノ酸配列又はヌクレオチド配列)が、哺乳動物由来であることを意味する。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。Mmd2は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)由来のものである。
【0021】
Mmd2のヌクレオチド配列やアミノ酸配列は公知である。ヒト、チンパンジー及びマウスのMmd2の代表的なヌクレオチド配列及びアミノ酸配列が、NCBIに以下の通りに登録されている。
[ヒトMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_198403(バージョンNM_198403.3)(配列番号1)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_940685(バージョンNP_940685.3)(配列番号2)
[チンパンジーMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 XM_527649(バージョンXM_527649.2)(配列番号3)
アミノ酸配列:アクセッション番号 XP_527649(バージョンXP_527649.2)(配列番号4)
[マウスMmd2]
ヌクレオチド配列(mRNA又はcDNA配列):アクセッション番号 NM_175217(バージョンNM_175217.6)(配列番号5)
アミノ酸配列:アクセッション番号 NP_780426(バージョンNP_780426.1)(配列番号6)
【0022】
本明細書において、肝障害とは、肝細胞の損傷を伴う肝機能障害、劇症肝炎を含む肝炎をいう。肝細胞の損傷に起因して、肝障害は、通常、血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び/又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の上昇を伴うため、肝障害に相当する疾患であるか否かは、これらのマーカー等を指標に熟練した医師ならば容易に診断可能である。肝障害には、化学物質、肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、F又はG型)、自己免疫疾患等に起因するものが包含されるが、本発明においては、肝障害は好ましくは化学物質に起因するものである。化学物質に起因する肝障害とは、化学物質により直接的に又はその代謝物により間接的に惹起された肝障害を意味する。化学物質とは、有機物質、無機物質、金属イオン、高分子化合物、低分子化合物、天然物などを包含する。肝障害を誘導する化学物質としては、代表的には、アセトアミノフェン、ジクロフェナック、ハローセン、シメチジン、ケトコナゾール、フェノバルビタール、アミノサリチル酸、キニジン、アスピリン、アロピリノール、バルプロン酸などの肝障害を起こすことが知られている各種薬物、四塩化炭素、トルエン、アルコール、ブロモベンゼン、チオアセタミドなどの化合物、鉄イオンなどの金属イオンなどが挙げられる。肝障害を誘導する化学物質については、例えばAnnu Rev Pharmacol Toxicol 45: 177-202 (2005)に記載されている。
【0023】
本発明のスクリーニング方法に供される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。また、肝障害を増悪させる懸念がある医薬や、肝障害を引き起こすことが報告されている医薬と併用する可能性がある医薬の有効成分を、被検物質として用いることが出来る。
【0024】
本発明のスクリーニング方法には哺乳動物細胞が用いられる。哺乳動物の具体例は、上述の通りである。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。当該哺乳動物の性別は特に限定されず、雌雄いずれの哺乳動物を用いることが出来るが、好ましくは雌が用いられる。
【0025】
「発現を測定可能な細胞」とは、測定対象遺伝子のmRNA又はポリペプチドの発現量を直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。測定対象遺伝子のmRNA又はポリペプチドの発現量を直接的に評価可能な細胞としては、測定対象遺伝子を天然で発現可能な細胞(好ましくは、測定対象遺伝子を天然で発現する細胞)が挙げられ、一方、測定対象遺伝子のmRNA又は蛋白質の発現量を間接的に評価可能な細胞としては、測定対象遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞が挙げられる。
【0026】
Mmd2を天然で発現可能な細胞(好ましくは、Mmd2を天然で発現する細胞)は、Mmd2を潜在的に発現するものである限り特に限定されず、当該細胞として、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、腫瘍細胞などを用いることができる。Mmd2は、マクロファージ、膵β細胞、副腎皮質細胞等に発現しているので、これらの細胞から誘導された細胞株、及びこれらの細胞由来の腫瘍細胞を、Mmd2を天然で発現可能な細胞(好ましくは、Mmd2を天然で発現する細胞)として使用することができる。
【0027】
後述の実施例に示されるように、Mmd2の発現は、ERα(estrogen receptor α)を介したシグナルにより誘導される。従って、ERαを発現する哺乳動物細胞へ、ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を、Mmd2を発現する細胞として、本発明のスクリーニング方法に用いてもよい。ERαアゴニストとしては、エストロゲン、エチニルエストラジオール等が挙げられるが、これらに限定されない。ERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬としては、タモキシフェン、ラロキシフェン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
Mmd2の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、Mmd2遺伝子の転写調節領域(例えば、転写開始点から上流約2kbpの塩基配列からなるDNA)、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子(例えばGFP遺伝子)を含む細胞である。Mmd2に対する生理的な転写調節因子を発現し、Mmd2の発現調節の評価により適切であると考えられることから、測定対象の細胞としては、上述のMmd2を天然で発現可能な細胞が好ましい。
【0029】
Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞への被検物質の接触は、インビトロ又はインビボにおいて行われる。
【0030】
インビトロでの接触は、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を、被検物質を含む適切な培地中で培養することにより行われる。培地は、Mmd2の発現を測定可能な細胞の種類に応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などである。他の培養条件も同様に適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約3〜約72時間である。
【0031】
ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を用いる場合には、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を、被検物質及びERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を含む適切な培地中で培養する。
【0032】
インビボでの接触は、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を含む哺乳動物(好ましくは非ヒト哺乳動物)へ、被検物質を投与することにより行われる。投与は、被検物質が、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ送達されるように行われる。投与後、約3〜約72時間、哺乳動物は適切な飼育環境下で維持された後、当該哺乳動物からMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞や当該細胞を含む組織(例えば肝臓組織)が分離される。細胞の分離は、当該細胞に特異的に発現する細胞表面マーカーの発現を指標に、当該マーカーを特異的に認識する抗体を用いて、セルソーター、抗体磁気ビーズ法等により行うことが出来る。
【0033】
ERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を接触させることによりMmd2の発現を誘導した哺乳動物細胞を用いる場合には、Mmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞を含む哺乳動物(好ましくは非ヒト哺乳動物)へ、被検物質及びERαアゴニスト又はERαアゴニスト活性を有する選択的エストロゲン調節薬を投与する。
【0034】
Mmd2を発現可能な細胞を用いた場合、Mmd2ポリペプチドの発現レベルの測定は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。また、Mmd2 mRNAの発現レベルは、該mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。レポーター遺伝子を含む細胞が用いられた場合、発現量は、レポーター遺伝子のシグナル強度に基づき測定される。Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体及びMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又はプライマーの詳細については後述する。
【0035】
発現レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれ得る。なお、被検物質を接触させない対照哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルは、被検物質を接触させた細胞におけるMmd2の発現レベルの測定に対し、事前に測定した発現レベルであっても、同時に測定した発現レベルであってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0036】
尚、対照哺乳動物細胞についての試験条件(細胞の種類、培養条件等)は、被検物質を接触させる哺乳動物細胞と、被検物質を接触させない点を除き、同一であることが好ましい。
【0037】
そして、被検物質の接触によるMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療する活性、或いは肝障害を増悪する活性と相関付ける。後述の実施例に示すように、Mmd2は、肝臓に対して保護的に作用し、Mmd2の発現をsiRNAで抑制すると、肝障害が増悪する。従って、Mmd2発現レベルの上昇は、肝障害を予防又は治療する活性と正に相関するので、Mmd2の発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択することが出来る。一方、Mmd2発現レベルの減少は、肝障害を増悪する活性を正に相関するので、Mmd2の発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択することが出来る。
【0038】
このようにして選択された、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質が、実際に肝障害を予防又は治療するか、或いは肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質が、実際に肝障害を増悪するか、確認してもよい。この場合、以下の工程が引き続き行われる:
(1’)非ヒト哺乳動物に対して肝障害を誘導すること;
(2’)肝障害の誘導の前又は後に、当該非ヒト哺乳動物に候補物質を投与すること;
(3’)該非ヒト哺乳動物における肝障害の程度を評価すること;
(4’)候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度を、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度と比較すること。
【0039】
非ヒト哺乳動物としては、上述のものを挙げることが出来る。非ヒト哺乳動物は、好ましくはげっ歯類(マウス等)である。
【0040】
肝障害の誘導は、自体公知の肝障害モデル動物の作成方法に従い行うことが出来る。例えば、上述した肝障害を引き起こす化学物質を非ヒト哺乳動物へ投与することにより、化学物質に起因する肝障害を誘導することが出来る。或いは、肝炎ウイルス等の投与によっても、肝障害を誘導することが出来る。或いは、肝炎を自然発症する肝炎モデル動物を用いてもよい。肝障害の誘導方法については、例えば、Toxicol Sci, vol.87, pp.296-305 (2005);Pediatr Res, vol.55, pp.450-456 (2004)等を参照のこと。
【0041】
肝障害の程度は、自体公知の方法に従い評価することが出来る。例えば肝細胞の破壊により上昇する血漿中のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)を指標に、肝障害の程度を評価することが出来る。或いは、肝臓の組織切片を作成し、組織化学的に肝臓組織の破壊の程度を解析することにより、肝障害の程度を評価することが出来る。
【0042】
尚、対照非ヒト哺乳動物についての試験条件(動物の種類、肝障害誘導条件等)は、候補物質を投与する非ヒト哺乳動物と、候補物質を投与しない点を除き、同一であることが好ましい。
【0043】
そして、候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度が、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度よりも軽減されている場合には、当該候補物質を、肝障害を予防また治療する活性を有する薬物として得ることが出来る。一方、候補物質を投与した非ヒト哺乳動物における肝障害の程度が、候補物質を投与していない対照非ヒト哺乳動物における肝障害の程度よりも悪化している場合には、当該候補物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物として得ることが出来る。
【0044】
本発明のスクリーニング方法は、肝障害の予防又は治療薬の開発に有用である。また、本発明のスクリーニング方法は、肝障害を増悪するリスクを有する薬物の選別に有用である。例えば、被検物質として、前臨床段階の開発化合物を用いることにより、該化合物が肝障害を増悪するリスクを予測することができる。また、被検物質として医療用医薬品を用いることにより、この医薬品を肝障害を引き起こすリスクが報告されている薬物と組み合わせて投与する場合における、肝障害の発生リスクを予測し、仮に肝障害を増悪する活性を有すると判断された場合には、この医薬品の投与においては、肝障害を引き起こすリスクが報告されている薬物との併用を避けるなどの、肝障害に対する予防措置をとることが出来る。
【0045】
2.肝障害の予防又は治療剤
後述の実施例に示すように、Mmd2は肝臓に対して保護的に作用する。従って、本発明は、Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤を提供する。
【0046】
Mmd2ポリペプチドとしては、上記1.の項に例示した哺乳動物由来のMmd2ポリペプチドを用いることが出来る。
【0047】
Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、Mmd2ポリペプチドをコードするDNAが機能的に連結されている。
【0048】
使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物(例えばヒト等の霊長類やマウス等のげっ歯類)の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。好ましくはpolII系プロモーターが用いられる。プロモーターとしては、具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が挙げられる。
【0049】
上記発現ベクターは、好ましくはMmd2ポリペプチドをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0050】
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。このうち、アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能である等の利点を有する。但し、導入遺伝子の宿主染色体への組込みは極めて稀であるので、遺伝子発現は一過性で通常約4週間程度しか持続しない。治療効果の持続性を考慮すれば、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、且つ逆位末端繰り返し配列(ITR)を介して染色体に組み込まれ得るアデノ随伴ウイルスの使用もまた好ましい。
【0051】
本発明の予防又は治療剤は、Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターに加え、任意の担体、例えば医薬上許容される担体を含むことができる。
【0052】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル等の滑剤、クエン酸、メントール等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水等の希釈剤、ベースワックス等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0053】
発現ベクターの細胞内への導入を促進するために、本発明の予防又は治療剤は更に核酸導入用試薬を含むことができる。本発明の予防又は治療剤がウイルスベクター、特にレトロウイルスベクターを含む場合には、遺伝子導入試薬としてはレトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を用いることができる。また、本発明の予防又は治療剤がプラスミドベクターを含む場合には、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。
【0054】
経口投与に好適な製剤としては、液剤、カプセル剤、サッシェ剤、錠剤、懸濁液剤、乳剤等を挙げることができる。
【0055】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0056】
医薬組成物中のMmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターの含有量は、例えば、医薬組成物全体の約0.1ないし100重量%である。
【0057】
本発明の予防又は治療剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0058】
本発明の予防又は治療剤は、好ましくは、その有効成分である上記のポリヌクレオチド又はこれを発現し得る発現ベクターが、標的となる細胞(好ましくは肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等))に送達されるように、哺乳動物(例えば、ヒト等の霊長類、マウス等のげっ歯類)に対して安全に投与される。
【0059】
本発明の予防又は治療剤は、肝障害(例えば、上述の化学物質に起因する肝障害、肝炎ウイルスの感染による肝炎、自己免疫疾患による肝炎等)の予防又は治療に有用である。
【0060】
3.肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法
後述の実施例に示す通り、Mmd2に対するsiRNAの投与により、肝臓におけるMmd2の発現量を抑制したマウスにおいて、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大する。また、ERαノックアウトマウスにおいてもやはり肝臓におけるMmd2の発現量が低下し、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大する。また、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高いヒトにおいては、該感受性が低いマウスと比較して肝臓におけるMmd2の発現量が低い。従って、本発明は、以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法を提供するものである:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
【0061】
哺乳動物としては、上記1.の項に記載したものを挙げることが出来る。哺乳動物は、好ましくは霊長類(ヒト等)又はげっ歯類(マウス等)である。
【0062】
肝臓組織とは、哺乳動物からバイオプシー等の操作により分離された、肝臓の一部を意味する。
【0063】
「肝障害を誘導する化学物質に対する感受性」とは、肝障害を誘導する化学物質を投与した場合における肝障害の発症しやすさを意味する。
【0064】
肝臓組織におけるMmd2の発現レベルは、Mmd2ポリペプチド又はMmd2 mRNAの発現を解析することにより、測定することが出来る。Mmd2ポリペプチドの発現レベルの測定は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた、免疫学的手法により測定することができる。免疫学的手法としては、フローサイトメトリー解析、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、ウェスタンブロッティング、免疫組織染色等を挙げることができる。また、Mmd2 mRNAの発現レベルは、該mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーを用いて、自体公知の方法により測定することが出来る。該測定方法としては、例えば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等を挙げることができる。Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体及びMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブ又は核酸プライマーの詳細については後述する。
【0065】
次に、測定されたMmd2の発現レベルと、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との相関付けが行われ、当該肝臓組織が由来する個体の肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が判定される。後述の実施例に示すように、肝臓組織におけるMmd2の発現レベルが低いほど、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高い。上記判定は、肝臓組織におけるMmd2の発現レベルと、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との間のこのような負の相関に基づき行われる。
【0066】
例えば、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が低い個体(ネガティブコントロール)及び、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が高い個体(ポジティブコントロール)から肝臓組織を摘出し、評価対象の個体から摘出された肝臓組織におけるMmd2発現レベルがポジティブコントロール及びネガティブコントロールのそれと比較される。あるいは、肝臓組織におけるMmd2発現レベルと肝障害を誘導する化学物質に対する感受性との相関図をあらかじめ作成しておき、評価対象の個体から摘出された肝臓組織におけるMmd2発現レベルをその相関図と比較してもよい。発現レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。
【0067】
そして、Mmd2発現レベルの比較結果より、評価対象の個体のMmd2発現レベルが相対的に高い場合には、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が相対的に低いと判定することができる。逆に、評価対象の個体のMmd2発現レベルが相対的に低い場合には、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が相対的に高いと判定することができる。
【0068】
また本発明は、Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いはMmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する薬物に対する感受性を判定するための試薬(即ちキット)を提供するものである。
【0069】
抗体によるMmd2ポリペプチドの特異的な認識とは、抗体の抗原認識部位のMmd2ポリペプチドに対する親和性がMmd2以外のポリペプチドに対する親和性と比較して高いことを意味する。また、核酸プローブ又は核酸プライマーによるMmd2 mRNA又はそのcDNAの特異的検出とは、核酸プローブ又は核酸プライマーによるMmd2 mRNA又はそのcDNAの検出感度が、Mmd2以外の遺伝子のmRNA又はそのcDNAの検出感度と比較して高いことを意味する。
【0070】
Mmd2ポリペプチド(例えば、配列番号2、4又は6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)を特異的に認識する抗体は、Mmd2ポリペプチドやその抗原性を有する部分ペプチドを免疫原として用い、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv、sFv、dsFv、sdAb等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0071】
また、抗体は、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0072】
1つの好ましい態様において、Mmd2 mRNA又はそのcDNA(例えば、配列番号1、3又は5で表されるヌクレオチド配列からなるRNA又はDNA)を特異的に検出し得る核酸プローブは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAに含まれる、約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、いっそう好ましくは約18〜約50塩基の連続したヌクレオチド配列又はその相補配列を含むポリヌクレオチドである。
【0073】
別の好ましい態様において、Mmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プローブは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドである。ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、モレキュラー・クローニング(Molecular Cloning)第2版(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、例えば、6×SSC(sodium chloride/sodium citrate)中45℃でのハイブリダイゼーション反応の後、0.2×SSC/0.1% SDS中65℃での一回以上の洗浄などが挙げられる。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。核酸プローブの長さは、通常約15塩基以上、好ましくは約18〜約500塩基、より好ましくは約18〜約200塩基、更に好ましくは約18〜約50塩基である。
【0074】
核酸プローブは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0075】
また、核酸プローブは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。あるいは、蛍光物質(例:FAM、VIC等)の近傍に該蛍光物質の発する蛍光エネルギーを吸収するクエンチャー(消光物質)がさらに結合されていてもよい。かかる実施態様においては、検出反応の際に蛍光物質とクエンチャーとが分離して蛍光が検出される。
【0076】
Mmd2 mRNA又はそのcDNAを特異的に検出し得る核酸プライマーは、Mmd2 mRNA又はそのcDNAの一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものであればいかなるものであってもよい。例えば、Mmd2 mRNA又はそのcDNAの相補配列の一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドと、このハイブリダイゼーション部位より3’側のMmd2 mRNA又はそのcDNAの一部にハイブリダイズする、約15〜約50塩基、好ましくは約18〜約30塩基のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとの組み合わせであり、それらによって増幅される核酸の断片長が約50〜約1,000塩基、好ましくは約50〜約500塩基、より好ましくは約50〜約200塩基である、一対のポリヌクレオチドが挙げられる。
【0077】
核酸プライマーは、特異的検出に支障を生じない範囲で付加的配列(検出対象のポリヌクレオチドと相補的でないヌクレオチド配列)を含んでいてもよい。
【0078】
また、核酸プライマーは、適当な標識剤、例えば、放射性同位元素(例:32P、33P、35S、125I、131I、3H、14C等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、蛍光物質(例:フルオレスカミン、フルオレッセンイソチオシアネート等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン等)などで標識されていてもよい。
【0079】
核酸プローブまたはプライマーは、DNAであってもRNAであってもよく、また、一本鎖であっても二本鎖であってもよい。二本鎖の場合は二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA/RNAハイブリッドのいずれであってもよい。従って、本明細書においてあるヌクレオチド配列を有する核酸について記載する場合、特に断らない限り、該ヌクレオチド配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、該ヌクレオチド配列と相補的な配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド、それらのハイブリッドである二本鎖ポリヌクレオチドをすべて包含する意味で用いられていると理解されるべきである。
【0080】
核酸プローブまたはプライマーは、例えば、Mmd2 mRNA又はそのcDNAのヌクレオチド配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0081】
抗体、核酸プローブ及び核酸プライマーは、各々別個に(あるいは可能であれば混合した状態で)水もしくは適当な緩衝液(例:TEバッファー、PBSなど)中に適当な濃度となるように溶解し、約−20℃〜4℃で保存することができる。
【0082】
本発明の試薬は、Mmd2発現レベルの測定方法に応じて、当該方法の実施に必要な他の成分を構成としてさらに含んでいてもよい。
例えば、本発明の試薬がMmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体を含むものであれば、免疫学的手法によりMmd2発現レベルを測定することにより、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定することができる。この場合、本発明の試薬は、標識二次抗体、発色基質、ブロッキング液、洗浄緩衝液、ELISAプレート、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。
【0083】
本発明の試薬がMmd2 mRNA又はそのcDANを特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含むものであれば、RT−PCR、ノザンブロッティング、in situ ハイブリダイゼーション、cDNAアレイ等によりMmd2発現レベルを測定することにより、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定することができる。RT−PCRを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、10×PCR反応緩衝液、10×MgCl2水溶液、10×dNTPs水溶液、Taq DNAポリメラーゼ(5U/μL)、逆転写酵素等をさらに含むことができる。ノザンブロッティングやcDNAアレイを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、ブロッティング緩衝液、標識化試薬、ブロッティング膜等をさらに含むことができる。in situ ハイブリダイゼーションを測定に用いる場合には、本発明の試薬は、標識化試薬、発色基質等をさらに含むことができる。
【0084】
4.薬物誘導性肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法
後述の実施例に示す通り、Mmd2に対するsiRNAの投与により、肝臓におけるMmd2の発現量を抑制したマウスは、肝障害を引き起こしやすく、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が増大している。従って、本発明は、Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法を提供するものである。
【0085】
本発明のモデルに用いられる非ヒト哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることが出来るが、これらに限定されるものではない。非ヒト哺乳動物は、好ましくは、げっ歯類(マウス等)である。当該非ヒト哺乳動物の性別は特に限定されず、雌雄いずれの非ヒト哺乳動物を用いることが出来るが、好ましくは雌が用いられる。
【0086】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸は、Mmd2の発現を特異的に抑制し得る。「Mmd2特異的な発現の抑制」とは、Mmd2の発現をそれ以外の遺伝子の発現よりも強く抑制することを意味する。
【0087】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNAとしては、例えば
(A)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は18塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む1本鎖又は2本鎖のRNA、及び
(B)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と投与対象の哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞内でハイブリダイズし得る18塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズすることによりMmd2のRNA干渉を誘導する1本鎖又は2本鎖のRNA
を挙げることができる。
【0088】
二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、最近、この現象が動物細胞でも起こることが確認されたことから[Nature, 411(6836): 494-498 (2001)]、リボザイムの代替技術として注目されている。
【0089】
RNA干渉誘導性RNAは、代表的には、標的遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列又はその部分配列(以下、標的ヌクレオチド配列)と相補的な配列を有するRNAとその相補鎖からなる2本鎖オリゴRNAである。また、ヘアピンループ部分を介して、標的ヌクレオチド配列に相補的な配列(第1の配列)と、その相補配列(第2の配列)とが連結された一本鎖RNAであって、ヘアピンループ型の構造をとることにより、第1の配列が第2の配列と2本鎖構造を形成するRNA(small hairpin RNA: shRNA)もRNA干渉誘導性RNAの好ましい態様の1つである。
【0090】
RNA干渉誘導性RNAに含まれる、標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さは、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。RNA干渉誘導性RNAが23塩基よりも長い場合には、該RNA干渉誘導性RNAは細胞内で分解されて、約20塩基前後のsiRNAを生じ得るので、理論的には標的ヌクレオチド配列と相補的な部分の長さの上限は、標的遺伝子のmRNA(成熟mRNAもしくは初期転写産物)のヌクレオチド配列の全長である。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、該相補部分の長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、該相補部分の長さは、通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。
【0091】
また、RNA干渉誘導性RNAを構成する各RNA鎖の長さも、通常、約18塩基以上、好ましくは約19塩基以上、より好ましくは約21塩基以上の長さであるが、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されず、理論的には各RNA鎖の長さの上限はない。しかし、インターフェロン誘導の回避、合成の容易さ、抗原性の問題等を考慮すると、siRNAの長さは、例えば約50塩基以下、好ましくは約25塩基以下、最も好ましくは約23塩基以下である。即ち、各RNA鎖の長さは、例えば通常、約18〜50塩基、好ましくは約19〜約25塩基、より好ましくは約21〜約23塩基である。なお、shRNAの長さは、2本鎖構造をとった場合の2本鎖部分の長さとして示すものとする。
【0092】
尚、本明細書において、全長が23塩基以下の2本鎖のRNA干渉誘導性RNAをsiRNAという。
【0093】
標的ヌクレオチド配列と、RNA干渉誘導性RNAに含まれるそれに相補的な配列とは、完全に相補的であることが好ましい。しかし、当該相補配列の中央から外れた位置についての塩基の変異(少なくとも90%以上、好ましくは95%以上の同一性の範囲内であり得る)については、完全にRNA干渉による切断活性がなくなるのではなく、部分的な活性が残存し得る。他方、相補配列の中央部の塩基の変異は影響が大きく、RNA干渉によるmRNAの切断活性が極度に低下し得る。
【0094】
RNA干渉誘導性RNAは、5’及び/又は3’末端に塩基対を形成しない、付加的な塩基を有していてもよい。該付加的塩基の長さは、RNA干渉誘導性RNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り特に限定されないが、通常5塩基以下、例えば2〜4塩基である。該付加的塩基は、DNAでもRNAでもよいが、DNAを用いるとsiRNAの安定性を向上させることができる。このような付加的塩基の配列としては、例えばug-3’、uu-3’、tg-3’、tt-3’、ggg-3’、guuu-3’、gttt-3’、ttttt-3’、uuuuu-3’などの配列が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0095】
shRNAのヘアピンループのループ部分の長さは、標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されないが、通常、5〜25塩基程度である。該ループ部分のヌクレオチド配列は、ループを形成することができ、且つ、shRNAが標的遺伝子の発現を特異的に抑制可能である限り、特に限定されない。
【0096】
「アンチセンス核酸」とは、標的mRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNAとハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNAにコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。
【0097】
Mmd2の発現を特異的に抑制し得るアンチセンス核酸としては、例えば
(A)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)のヌクレオチド配列又は12塩基以上のその部分配列に相補的なヌクレオチド配列を含む核酸、及び
(B)Mmd2をコードするmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)と治療対象動物(好ましくはヒト)の細胞内でハイブリダイズし得る12塩基以上のヌクレオチド配列を含み、且つハイブリダイズした状態でMmd2ポリペプチドへの翻訳を阻害し得る核酸
等を挙げることが出来る。
【0098】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、Mmd2の発現を特異的に抑制する限り特に制限はなく、通常、約12塩基以上であり、長いものでmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列と同一の長さである。ハイブリダイゼーションの特異性を考慮すると、該長さは好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。また、合成の容易さや抗原性の問題等を考慮すると、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、通常、約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。即ち、標的mRNAとハイブリダイズする部分の長さは、例えば約12〜約200塩基、好ましくは約15〜約50塩基、より好ましくは約18〜約30塩基である。
【0099】
アンチセンス核酸の標的ヌクレオチド配列は、Mmd2の発現を特異的に抑制可能であれば特に制限はなく、Mmd2のmRNA(成熟mRNA又は初期転写産物)の全長配列であっても部分配列(例えば約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上)であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、好ましくは、標的配列はMmd2のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
【0100】
アンチセンス核酸中の標的mRNAとハイブリダイズする部分のヌクレオチド配列は、標的配列の塩基組成によっても異なるが、生理的条件下でMmd2のmRNAとハイブリダイズし得るために、標的配列の相補配列に対して通常約90%以上(好ましくは95%以上、最も好ましくは100%)の同一性を有するものである。
【0101】
アンチセンス核酸の大きさは、通常約12塩基以上、好ましくは約15塩基以上、より好ましくは約18塩基以上である。該大きさは、合成の容易さや抗原性の問題等から、通常約200塩基以下、好ましくは約50塩基以下、より好ましくは約30塩基以下である。
【0102】
天然型の核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明において使用されるRNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’−O−メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成することもできる。RNA干渉誘導性RNAやアンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服することができる。
【0103】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA及びアンチセンス核酸は、Mmd2のmRNA配列(例えば配列番号1、3又は5で表されるヌクレオチド配列)や染色体DNA配列に基づいて標的配列を決定し、市販の核酸自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的なヌクレオチド配列を合成することにより調製できる。2本鎖のRNA干渉誘導性RNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖を核酸自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い2本鎖ポリヌクレオチドを調製できる。
【0104】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸を発現し得る発現ベクターにおいては、投与対象である非ヒト哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞(好ましくは、肝臓を構成する細胞(例えば、肝細胞、マクロファージ、血管内皮細胞等)内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターの下流に、上述のRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸(好ましくはDNA)が機能的に連結されている。
【0105】
使用されるプロモーターは、投与対象である非ヒト哺乳動物(例えばマウス等のげっ歯類)の細胞内で機能し得るものであれば特に制限はない。プロモーターとしては、polI系プロモーター、polII系プロモーター、polIII系プロモーター等を使用することができる。具体的には、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR等のウイルスプロモーター、β−アクチン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーター、並びにtRNAプロモーター等のRNAプロモーター等が用いられる。
【0106】
RNA干渉誘導性RNAの発現を意図する場合には、プロモーターとしてpolIII系プロモーターを使用することが好ましい。polIII系プロモーターとしては、例えば、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター等を挙げることができる。
【0107】
上記発現ベクターは、好ましくはRNA干渉誘導性RNA又はアンチセンス核酸或いはそれをコードする核酸の下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、上記発現ベクターは、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。上記発現ベクターは、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、SV40複製オリジンなどを、それぞれ機能可能な態様で含有していてもよい。
【0108】
発現ベクターに使用されるベクターの種類は特に制限されないが、非ヒト哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、プラスミドベクター;レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0109】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターは、肝臓へ送達されるように、非ヒト哺乳動物に対して、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内等に投与される。その結果、Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターが肝臓内におけるMmd2発現細胞へ取り込まれ、当該細胞におけるMmd2の発現が阻害される。
【0110】
生体内におけるヌクレアーゼによる核酸(特にRNA)の分解を抑制するために、アテロコラーゲンをキャリアとして用いることが出来る。アテロコラーゲンはコラーゲン分子をペプシンで消化することによって得られる抗原性のない分子である。生体親和性に富み、生体に投与した場合でも炎症を惹起する心配がなく、また生体内で生分解性があり、さらに核酸と相互作用が強いため生体への遺伝子ベクターのキャリアとして有用であると注目されている(Ochiya T, Nature Med. (1999) 5(6): 707-10)。
【0111】
また、核酸の細胞内への導入を促進するために、核酸導入用試薬を用いてもよい。核酸導入用試薬としては、リポフェクチン、リポフェクタミン(lipofectamine)、DOGS(トランスフェクタム)、DOPE、DOTAP、DDAB、DHDEAB、HDEAB、ポリブレン、あるいはポリ(エチレンイミン)(PEI)等の陽イオン性脂質を用いることが出来る。また、ウイルスベクター(特にレトロウイルスベクター)を用いる場合には、レトロネクチン、ファイブロネクチン、ポリブレン等を核酸導入用試薬として用いることが出来る。
【0112】
染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、該改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物は、例えば、以下の工程を含む方法により製造することが出来る:
(a)相同組み換えによりMmd2遺伝子の対立遺伝子のうちの一方を欠損した胚性幹細胞を得ること;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を非ヒト哺乳動物に移植し、キメラ非ヒト哺乳動物を得る工程;
(d)該キメラ非ヒト哺乳動物を交配させ、Mmd2遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
【0113】
更に、Mmd2遺伝子欠損ヘテロ接合体同士を交配することにより、Mmd2遺伝子欠損ホモ接合体を得ることが出来る。染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルが低下した非ヒト哺乳動物は、Mmd2遺伝子欠損のヘテロ接合体でもよいし、ホモ接合体であってもよい。
【0114】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA等の投与又は染色体DNA上のMmd遺伝子の改変を施した非ヒト哺乳動物の肝臓におけるMmd2ポリペプチドの発現レベルは、当該投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物のそれの約50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下である。
【0115】
尚、対照非ヒト哺乳動物の動物種、系統、週齢、性別、飼育環境等の条件は、当該投与又は改変を受けていないことを除き、当該投与又は改変を施した非ヒト哺乳動物のそれと同一である。
【0116】
肝臓におけるMmd2ポリペプチドの発現レベルを低下させた非ヒト哺乳動物に対して、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルス(A、B、C、D、E、F又はG型)(好ましくは化学物質)を、肝障害を誘導するのに十分な用量にて投与することにより、該非ヒト哺乳動物に肝障害を誘導することが出来る。肝障害を誘導する化学物質としては、上記1.の項に例示したものを挙げることが出来る。
【0117】
後述の実施例に示すように、ヒトの肝臓におけるMmd2の発現レベルは、マウスのそれの1/1000程度と極めて低く、このことが、マウスの肝障害を誘導する化学物質に対する感受性が、ヒトと比較して低く、ヒトの肝障害がマウスにおいて十分に再現されない一つの原因となっていることが推測される。従って、肝臓におけるMmd2の発現レベルを低下させた、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、よりMmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。更に、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルは、肝障害におけるMmd2の役割を解析するためのリサーチツールとして有用である。
【0118】
以下に参考例、実施例および試験例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0119】
1.実験材料及び実験方法
1−1.実験材料および試薬
ヒト肝16サンプルはHuman and Animal Bridging Research Organization (Chiba, Japan) より購入し、9サンプルは岩手医科大学 (Morioka, Japan) より提供された。ドナー情報は表1にまとめた。ヒト肝癌由来HuH-7細胞、HLE細胞およびヒト胎児腎由来HEK293細胞は、大日本住友製薬 (Osaka, Japan) から購入した。ヒト肝癌由来HepG2細胞はRiken Gene Bank (Tsukuba, Japan) より購入した。ヒト肝由来Fa2N4細胞およびMFETM Plating Medium Fは日本農産工業(Yokohama, Japan) より購入した。ヒト乳腺由来MCF-7細胞、マウス線維芽由来NIH/3T3細胞およびマウス副腎皮質由来Y-1細胞はAmerican Type Culture Collection (ATCC) より購入した。マウス肝癌由来Hepa1-6細胞およびMM45LTi細胞は金沢大学医学部第一内科より提供された。マウスマクロファージ由来J774A.1細胞は金沢大学薬学部生体防御応答学研究室より提供された。マウスマクロファージ由来RAW-264.7細胞は金沢大学病院薬剤部研究室より提供された。DMEM培地は日水製薬 (Tokyo, Japan) より、ウシ胎児血清 (FBS)、リポフェクタミンRNAi MAXおよびアガロースはインビトロジェン (Melbourne, Australia) より、ReverTra Aceは東洋紡 (Osaka, Japan) より購入した。DICはSigma-Aldrich (St. Louis, MO) より、Cell Counting Kit-8は同仁化学研究所(Kumamoto, Japan)より、SYBR(R)Premix Ex TaqTM、RNA isoとランダムヘキサマーは宝酒造(Kyoto, Japan) より購入した。プライマーは北海道システムサイエンス (Sapporo, Japan) に、siRNAはB-Bridge (Mountain view, CA) に合成を依頼した。アセトアミノフェン(APAP)、ブロモベンゼン(BB)、チオアセタミド(TA)、タモキシフェン(TAM)及びエストロゲン(EE2)は和光純薬工業(Osaka, Japan)より購入した。ICI182,780 (ICI) はTOCRIS bioscience (Ellisville, MO) より、RALはToronto Research Chemicals (North York, CA) より購入した。電気泳動はBIO CRAFT (Tokyo, Japan) のBE-560型泳動槽とPA-055型泳動槽を用いた。10 cmプレート、96ウェルプレートはBecton Dickinson Labware(Flanklin Lakes, NJ)より、6ウェルプレートはNunclonΔTM Surface (Roskilde, Denmark) より購入した。セルスクレイパーはイワキ (Tokyo, Japan) より購入した。AteloGeneTMSystemic Useは高研 (Tokyo, Japan) より購入した。その他の試薬は和光純薬工業等の特級または生化学用のものを用いた。以下に本試験で使用した試薬の組成を示した。必要のあるものはオートクレーブ(121℃、20分間または40分間)等の滅菌処理を行った。
【0120】
生理食塩水
塩化ナトリウムの最終濃度が0.9%になるように精製水を加えた。その後、121℃、20分間オートクレーブを行った。
DEPC処理精製水
DEPCの最終濃度が0.1%になるように精製水に加え、37℃で2時間加温した。
その後、121℃、40分間オートクレーブを行った。
10 × PBS
塩化ナトリウム80 g、塩化カリウム2 g、リン酸水素二ナトリウム (12水和物) 29 g、リン酸水素二カリウム2 gに精製水を加え、全量を1 Lとした後、121℃で20分間オートクレーブを行った。使用前に適宜希釈した。
【0121】
【表1】
【0122】
1−2.EE2、TAM、RALおよびICI前投与ICRマウスへのTA投与
ICRマウス (雄性および雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にEE2 (100 μg/kg in saline, i.p.)、TAM (1 mg/kg in saline, i.p.)、RAL (3 mg/kg in saline, i.p.) またはICI (1 mg/kg in saline, i.p.) を5日間連続投与し、最終投与12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3〜5匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0123】
1−3.TAM前投与ICRマウスへの化合物投与
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を5日間連続投与し、その後APAP (400 mg/kg in 80% 1,2-propanediol with 0.15% KCl, i.p.)、BB (2.5mmol/kg in corn oil,i.p.)、DIC (200 mg/kg in saline, i.p.) またはTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。APAPおよびDICは投与6時間後に、BBおよびTAは投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0124】
1−4.AST、ALTおよびトータルビリルビン (T-Bil) 値の測定
マウス下行大静脈より血液を採取し、7,000 rpm (3,000 g)、4℃で15分間遠心分離した後、血清約400 μLをサンプルチューブに採取した。AST、ALTおよびT-Bil値は、血清10 μLを富士ドライケムSDスライドに点着させ、富士フィルム (Tokyo, Japan) のDRI-CHEM 4000Vを用いて測定した。
【0125】
1−5.マウスおよびヒト肝組織からのtotal RNAの調製
ヒト肝サンプルを用いる検討は金沢大学および岩手医科大学のヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理委員会の承認を得た上で行った。マウスまたはヒト肝 50 mg に対して RNA iso 1 mLを加えた。氷冷下、ガラスホモジナイザーでホモジナイズし、1.5 mLチューブに分注後、室温で5分間放置した。0.2 mLのクロロホルム溶液を加えて15秒間激しく攪拌し、再度室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて15分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、0.5 mLのイソプロパノールを加え、室温で10分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、沈殿を70%エタノールで洗浄した。この沈殿を乾燥させた後、DEPC処理精製水に溶解させ、260 nmにおける吸光度を測定することにより定量した。
【0126】
1−6.DNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析
DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析は、北海道システムサイエンス(Sapporo, Japan) に依頼した。使用したアジレントアレイはWhole Mouse Genome Oligoであり、マウス全遺伝子を解析した。遺伝子発現はAgilent Technologies Microarray Scannerを用いて5 μmの解像度でスキャンした。スキャンの結果得られた数値化データを、GeneSpringにインポートし、ノーマライゼーションを行い、各シグナル値やフラグ情報を集めた解析用データを作成した。
【0127】
1−7.ICRマウスにおけるTA投与量依存的な検討
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTA (0, 50, 200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与後24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0128】
1−8.ICRマウスにおけるTA投与時間依存的な検討
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与後0, 3, 6, 12, 24および48時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0129】
1−9.Real-time RT-PCRによる種々の遺伝子の発現量解析
1−5により得られたtotal RNAから以下の方法によりcDNAを合成した。Total RNA 10 μg、ランダムヘキサマー (150 ng/μL) 1 μLにDEPC処理精製水を加えて全量を23 μLとした。70℃水浴中で10分間反応後、氷冷した。さらに、5 × 逆転写反応用緩衝液8 μL、2.5 M dNTP 8 μL、ReverTraAce (100 units/μL) 1 μLを加えて全量を40 μLとし、30℃で10分間、42℃で1時間、98℃で10分間、サーマルサイクラーを用いて反応させた。得られたcDNAから以下の方法によりPCRを行った。cDNA溶液を1 μL、2 × SGI溶液を10 μL、10 μM フォワードプライマーおよびリバースプライマーを0.8 μL、ROX溶液を0.3 μL、滅菌水 7.1 μLを加えて全量を20 μLとした。Stratagene (La Jolla, CA) のMx3000PTMを用いて、95℃で3分間、94℃で4秒間、64℃で20秒間を45サイクルで反応を行った。45サイクル終了後、60℃から95℃まで、1℃ /minを上昇させて融解曲線の測定を行った。PCRに用いたプライマーの配列を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
Areg; Amphiregulin, Arg2; Arginase 2, eNOS; epidermal NO synthetase, Gapdh; mouse glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, Gdf9, Growth differentiation factor 9, Hemt1; Hematopoietic cell transcript 1, Mmd2; mouse monocyte to macrophage differentiation-associated 2, Mmp9; Matrix metallopeptidase 9, Pign; Phosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class N, hGAPDH; human glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase, hMMD2; human monocyte to macrophage differentiation-associated 2
【0132】
1−10.TAM前投与ERα KOマウスへのTA投与
ERα KOマウス (雌性、6週齢 30〜35 g、系統C57BL/6N) にTAMを5日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、最終投与12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0133】
1−11.細胞培養
HuH-7細胞、HLE細胞、HepG2細胞、HEK293細胞、MCF-7細胞、Hepa1-6細胞、J774A.1細胞、MM45LTi細胞、NIH/3T3細胞、RAW-264.7細胞およびY-1細胞は10% FBSを含むDMEMを用いて10 cmシャーレで培養した。継代時、培地をアスピレート除去した後1 × PBS溶液4 mLをシャーレに加え、培地を5 mL入れておいた50 mLのチューブにシャーレより剥離した細胞を移し、4,000 rpm (1,000 g)、4℃で5分間遠心分離した。得られた沈殿を再度培地に懸濁してシャーレに播種し、5 % CO2存在下37℃で培養した。
【0134】
Fa2N4細胞は10% FBSを含むMFETM Plating Medium Fを用いて10 cmシャーレで培養した。継代時、培地をアスピレート除去した後1 × PBS溶液4 mLをシャーレに加え、培地を5 mL入れておいた50 mLのチューブにシャーレより剥離した細胞を移し、4,000 rpm (1,000 g)、4℃で5分間遠心分離した。得られた沈殿を再度培地に懸濁してシャーレに播種し、5 % CO2存在下37℃で培養した。
【0135】
1−12.TA誘導性細胞障害の検討
HuH-7細胞、HLE細胞、HepG2細胞、Fa2N4細胞、HEK293細胞、MCF-7細胞およびHepa1-6細胞を96ウェルプレートに各ウェル20,000個となるよう播種し、5 % CO2存在下37℃で24時間培養した。その後、TA濃度が0, 1, 10, 100 μM, 1, 10 mMになるよう加え、24時間処置した。
【0136】
1−13.MTTアッセイ
同仁化学研究所のCell counting kit-8を用い、以下の方法でMTTアッセイを行った。TA溶液を24時間処理した種々の細胞株に、CCK-8溶液を各ウェル10 μLずつ加えた。溶液添加1時間後における450 nmの吸光度をBiotrak II Plate readerを用いて測定した。
【0137】
1−14.J774A.1およびY-1細胞へのsiMmd2処置
1ウェルあたりLipofectamine RNAiMAX 2.5 μL、20 μM Mmd2 StealthTM RNAiまたは20 μM rSOD2 StealthTM RNAi 1.5 μLに無血清培地を加え全量を4 mLとし、6ウェルプレートにアプライした。20分間静置させた後に、J774A.1細胞 (6×105 cells/well) またはY-1細胞 (4×105cells/well) を播種した。siMmd2の配列としては、
#1 CAGAAAACCAAAUAUGCAA(配列番号29),
#2 CCACACAGUCUCAUGGAAA(配列番号30),
#3 GCUAUGUGGUGAUGGGUUU(配列番号31),
#4 GAUCAAAGCAACAUGGGAA(配列番号32), 及び
#5 GCAGGGAGACCAAGGCAUA(配列番号33)
を用いた。
【0138】
1−15.肝癌由来細胞からのtotal RNAの調製
RNA isoを用いてtotal RNAを調製した。6ウェルプレートで培養したそれぞれの細胞株にRNA iso 500 μLを加えてピペッティングにより懸濁した後、室温で5分間放置した。100 μLのクロロホルム溶液を加え、15秒間激しく撹拌し、再度室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて15分間遠心分離した。上清を新しいチューブに移し、250 μLのイソプロパノールを加え、室温で5分間放置した。15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、沈殿を75%エタノールで洗浄した。この沈殿を乾燥させた後、15,000 rpm (12,000 g)、4℃にて10分間遠心分離し、DEPC処理精製水に溶解させた。60℃の水浴で10分間インキュベートした後、260 nmにおける吸光度を測定することにより定量した。
【0139】
1−16.アテロコラーゲンを用いたマウスへのsiRNA送達
siRNAのマウスin vivoへの導入はAteloGeneTMを用いて行った。AteloGeneTM 600 μLに等量の40 μMに調製したsiRNA溶液を加え、4 rpm、4℃で20分間回転混和した。その後、10,000 rpm (7,000 g)、4℃にて1分間遠心分離することで脱泡処理した。AteloGeneTM/siRNA複合体を尾静脈より投与 (200 μL/body) し、投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓、脾臓および腎臓を採取した。
【0140】
1−17.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2 mRNAへの影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAMを4日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、投与12時間後にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与12時間後にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群3匹のマウスを使用した。TAM投与12時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0141】
1−18.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にTAMを4日間連続投与 (1 mg/kg in saline, i.p.) し、投与12時間後にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与12時間後にTAM (1 mg/kg in saline, i.p.) を投与し、さらにその12時間後にTA (200 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群6匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
【0142】
1−19.TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
ICRマウス (雌性、6週齢 20〜25 g; 日本SLC) にAteloGeneTM/siRNA複合体を静脈内投与した。投与24時間後にTA (100 mg/kg in saline, i.p.) を投与した。各群5匹のマウスを使用した。TA投与24時間後に下行大静脈より採血を行った後、肝臓を採取した。
本実施例における動物実験については、全て金沢大学動物実験指針に従って行った。
【0143】
2.実験結果
2−1.EE2、TAM、RALおよびICI前投与によるTA誘導性肝障害への影響
1−2の方法によってEE2、TAM、RALおよびICI前投与によるTA誘導性肝障害への影響を6週齢雌性ICRマウスを用いて検討した。TA投与によりNone treatment (NT) と比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた。EE2、TAM、RAL前投与によりTA単独投与群と比べて、血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた (図1A及び1B)。ICI前投与ではTA単独投与群と比べて、血漿ALTおよびAST値の有意な減少は認められなかった。Total bilirubin (T-Bil) についてはいずれの群においても変動は認められなかった (図1C)。TAM投与により最も肝障害性の軽減が認められた。また、EE2前投与のTA投与群では血漿が黄色を示し、肝胆汁うっ滞の関与が考えられた。肝組織染色の検討においてもTA誘導性の肝障害が認められ、TAM前投与によりTA誘導性の肝障害の軽減が認められた (図2)。TAM投与のみでは血漿パラメータ (図1A、B及びC) の上昇は認められず、肝組織染色 (図2) においても肝障害は認められなかった。
【0144】
2−2.TAM前投与による化合物誘導性肝障害への影響
TA以外の化合物でも同様にTAMによる肝保護作用が認められるか検討するため、TAM前投与によるAPAP、BB、DICおよびTA誘導性肝障害への影響について1−3に述べた方法で検討した (図3)。APAP投与において、TAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。また、血漿AST値がALT値よりも高値を示した。BB投与において、TAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。DIC投与では、TAM前投与により血漿ALTの有意な減少が認められた。血漿AST値がALT値よりも高値を示し、AST値のTAM前投与による減少は認められなかった。TA投与では図1と同様にTAM前投与により血漿ALTおよびAST値の有意な減少が認められた。全ての化合物において対照群と比べて、TAM前投与群において肝障害の軽減が認められた。TAMによる肝障害性の軽減はTA特異的ではなく、APAPやDICなどの薬物およびBBなどの毒物においても認められた。
【0145】
2−3.DNAマイクロアレイによる解析
薬物誘導性肝障害に対するTAMによる肝保護作用の原因因子を解明するために、2-6に述べた方法に従いDNAマイクロアレイによる解析を行った。DNAマイクロアレイはNT、TAM単独投与、ICI単独投与、RAL単独投与、TA単独投与、TA+TAM投与、TA+ICI投与およびTA+RAL投与群のサンプルを用いて解析を行った。2−1で述べたように、EE2投与群のサンプルは血漿の色が黄色を示したため、TAMおよびRALとは別の因子が関わると考え、DNAマイクロアレイ解析は行わなかった。TA単独投与では4,846、TAM前投与群では2,269、ICI前投与群では2,354およびRAL前投与群では3,025の遺伝子がNTと比べて2倍以上上昇した (図4)。また、TA単独投与群を対照とした場合、TAM前投与群では3,732、ICI前投与群では2,783およびRAL前投与群では4,731遺伝子が2倍以上上昇した。TAMおよびRAL前投与群においてTA誘導性の肝障害性が軽減し、ICI前投与群では軽減が認められなかったことから、TAMおよびRAL前投与群のみで上昇した遺伝子を選択した。TAM単独投与およびRAL単独投与で2倍以上上昇し、ICIでは0.5〜2倍の変動幅の遺伝子は380個であった。その中でもTAMおよびRAL単独投与いずれか、もしくはともに5倍以上上昇した遺伝子としてGrowth differentiation factor 9 (Gdf9)、Monocyte to macrophage differentiation-associated 2 (Mmd2)、Matrix metallopeptidase 9 (Mmp9) およびPhosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class Nが候補に挙がった (表3)。また、TAM単独投与およびRAL単独投与でともに2.5倍以上上昇し、ICIでほとんど変動が認められない (変動幅0.90〜1.10倍) 遺伝子として上記に挙げたMmp9およびPign以外にArginase 2 (Arg2) およびHematopoietic cell transcript 1 (Hemt1) の2つが挙げられた (表3)。TA単独投与を対照とした場合、TAM投与およびRAL投与で2倍以上上昇し、ICIでは0.5〜2倍の変動幅の遺伝子として907遺伝子あったが、表3で挙げた遺伝子と共通するものとして唯一Mmd2が挙がった。
【0146】
【表3】
【0147】
また、NTと比べて0.5倍以下に減少した遺伝子数はTA単独投与では5,745、TAM前投与群では2,167、ICI前投与群では1,662およびRAL前投与群では2,253個であった。また、TA単独投与群を対照とした場合、TAM前投与群では3,030、ICI前投与群では2,225およびRAL前投与群では2,845遺伝子が0.5倍以下に減少した。これらの結果に基づき、表3に挙げた計6種を肝保護遺伝子の候補とした。
【0148】
2−4.候補遺伝子のTA投与量依存的な発現変動
Arginase 2 (Arg2)、Growth differentiation factor 9 (Gdf9)、Hematopoietic cell transcript 1 (Hemt1)、Mmd2、Matrix metallopeptidase 9 (Mmp9) およびphosphatidylinositol glycan anchor biosynthesis class N (Pign) におけるTA投与量依存的なmRNA発現量変動を1−7および1−9の方法に述べた方法で検討した。血漿ALT値についても併せて測定した。6週齢ICR雌性マウスにおいて、TA投与量依存的な血漿ALT値の上昇が認められた (図5A)。Arg2 mRNAおよびGdf9 mRNAにおいて、TA投与量依存的な上昇が認められ、Mmd2 mRNAにおいてはTA投与量依存的な減少が認められた (図5B)。Hemt1 mRNAにおいてTA投与10 mg/kgでは変動が認められなかったが、50および200 mg/kg投与では顕著な上昇が認められた。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。Mmp9 mRNAではTA投与10および50 mg/kgでは変動は認められなかったが、200 mg/kg投与では顕著に上昇した。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。Pign mRNAにおいてはTA投与10および50 mg/kgでは変動は認められなかったが、200 mg/kg投与では僅かに減少した。しかし、TA投与量依存性は認められなかった。
【0149】
2−5.候補遺伝子のTA投与時間依存的な発現変動
Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPignにおけるTA投与時間依存的な血漿ALT値およびmRNA発現量変動を1−8および1−9に述べた方法に従って検討した。TA投与時間依存的な血漿ALT値の上昇が認められ、投与後24時間で最大となり、48時間では減少した。TA投与0, 3, 6, 12および24時間後において、TA単独投与群に比べて、TA+TAM群でALT値の有意な減少が認められた (図6A)。TA投与48時間後では有意ではないものの減少傾向が認められた。Arg2 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与24時間後で最大となり、48時間後で減少した。TA+TAM群ではTA投与48時間後まで上昇し続けた。Gdf9 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与3時間後で上昇し、24時間後まで同程度であり、48時間後で減少した。TA+TAM群ではTA投与24時間後で最大となり、48時間後で減少した。Hemt1 mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与24時間後まで上昇し続け、48時間後ではわずかに減少した。TA+TAM群ではTA投与48時間後まで上昇し続けた。Mmd2 mRNAにおいて、TA単独投与では時間依存的な減少が認められた。TA+TAM群ではTA投与3時間後で最大となり、その後減少した。Mmp9 mRNAにおいて、TA単独投与群では、TA投与6時間および24時間でピークとなった。TA+TAM群ではTA投与12時間後までは変動が認められなかったが、24時間後で上昇し、48時間後ではさらに上昇した。Pign mRNAにおいて、TA単独投与ではTA投与後24時間まで減少し、48時間後では上昇した。TA単独投与群と比べて、TA+TAM群で全ての時間において発現上昇が認められたのはMmd2のみであった。
【0150】
2−6.4種の化合物投与における候補遺伝子の発現変動
Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPignにおける4種の肝障害誘導化合物投与によるmRNA発現量変動を検討した (図7)。Arg2 mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において発現の有意な上昇が認められ、ICI前投与では発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびTA+TAM群では対照群と比べて発現の変動は認められなかったが、BB+TAM群では発現の有意な減少が認められ、DIC+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。Gdf9 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の有意な上昇が認められ、TAMおよびICI前投与では発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびBB+TAM群では対照群と比べて発現の有意な減少が認められたが、DIC+TAM群では発現の変動は認められず、TA+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。Hemt1 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の上昇が認められたが、TAMおよびICI前投与で発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAMおよびDIC+TAM群では対照群と比べて発現の変動が認められなかったが、BB+TAMおよびTA+TAM群では発現の有意な減少が認められた。Mmd2 mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において顕著な発現の上昇が認められた。ICI前投与では発現の上昇は認められなかった。また、APAP+TAM、BB+TAM、DIC+TAMおよびTA+TAM群において発現の有意な上昇が認められた。Mmp9 mRNAにおいて、RAL前投与において発現の上昇が認められたが、TAMおよびICI前投与では発現の変動が認められなかった。また、APAP+TAM およびBB+TAM群では発現変動は認められず、DIC+TAM群では対照群と比べて発現の有意な上昇が認められ、TA+TAM群では発現の有意な減少が認められた。Pign mRNAにおいて、TAMおよびRAL前投与において発現の上昇が認められなかった。ICI前投与でも発現の上昇が認められなかった。また、APAP+TAM投与では対照群と比べて発現変動が認められず、BB+TAM、DIC+TAMおよびTA+TAM群では発現の有意な上昇が認められた。DNAマイクロアレイ解析の結果より、TAMおよびRAL単独投与において全ての遺伝子で上昇が認められると考えられたが、Gdf9、Hemt1、Mmp9およびPign mRNAでは上昇が認められず、再現が得られなかった。Arg2およびMmd2 mRNAにおいては上昇が認められ、再現が得られた (図7)。
【0151】
2−7.ERα KOマウスにおけるTAM前投与によるTA誘導性肝障害への影響
ERα KOマウスにおけるTAM前投与によるTA誘導性肝障害への影響を1−10に述べた方法に従い検討した (図8)。野生型マウスにおいて、ICRマウスと同様にTA投与により顕著なALT値の上昇が認められた。また、TAM前投与により、TA単独投与群と比べて血漿ALT値の有意な減少が認められた (図8)。一方、ERα KOマウスにおいてはTAMによる肝保護作用は認められなかった。また、ERα KOマウスにおいて野生型に比べて血漿ALTおよびAST値が有意に高かった。これよりTAMによるTA誘導性肝障害の軽減はERαを介することが示唆された。
【0152】
2−8.ERαノックアウトマウスにおける注目遺伝子の発現変動
TAMはERαを介して様々な生態反応に関与していることが知られているため、Arg2、Gdf9、Hemt1、Mmd2、Mmp9およびPign mRNAのERα KOマウスにおける変動を検討した (図9)。Arg2 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいて上昇は認められなかった。Gdf9 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいても有意な上昇が認められた。Hemt1 mRNAにおいてはいずれの群においても検出されなかった。Mmd2 mRNAにおいて、TAM前投与により有意な上昇が認められ、ERα KOマウスにおいては上昇が認められなかった。また、ERα KOマウスにおいてMmd2 mRNAの発現量が野生型に比べて1/10程度であった。Mmp9 mRNAにおいて、TAM前投与により上昇は認められず、ERα KOマウスにおいて有意な上昇が認められた。Pign mRNAにおいてはいずれの群においても変動は認められなかった。これより、Arg2およびMmd2がERαを介して上昇されることが示唆された。2−4、2−5、2−6、2−7および2−8の結果より、Mmd2を肝保護遺伝子の第一候補とし、更に詳細な検討を行った。
【0153】
2−9.TA誘導性細胞障害の検討
Mmd2がTAMによる肝保護に関与しているか検討を行うにあたり、in vitroでの系を構築することとした。In vitro系でこれまでのin vivo系と同様にTA誘導性の肝障害がTAMにより軽減されれば、遺伝子発現調節による解析が容易であると考えた。最初に、1−12および1−13の方法に従いHuH-7、HLE、CYP2E1発現アデノウイルス感染HepG2 (HepG2/AdCYP2E1)、Fa2N4、CYP2E1安定発現HEK293 (HEK293/CYP2E1 stable)、MCF-7およびHepa1-6細胞株を用いて、TAの細胞障害性をMTTアッセイを用いて検討した。いずれの細胞株においてもTA処置による細胞生存率の減少は認められなかった (図10)。TA処置濃度をより高濃度で行い細胞障害を惹起させ検討を進めていくことは困難と考え、in vitro系の検討は保留とし、in vivoで検討を進めていくこととした。
【0154】
2−10.マウス細胞株におけるMmd2 mRNAの発現
in vivoでMmd2の肝保護の関与を検討するために、Mmd2に対するsiRNA (siMmd2) をマウスに投与することとした。in vivoでのノックダウンを検討するにあたり、in vitroでノックダウン効率のよいsiMmd2を選択することとした。最初に、Mmd2 mRNAが発現している細胞株を選択するために、J774A.1、RAW264.7、NIH/3T3、MM45LTi、Hepa1-6およびY-1細胞株の6種のマウス由来細胞株を用いた。J774A.1およびY-1細胞においてMmd2 mRNAの発現が認められた (図11)。RAW264.7、NIH/3T3、MM45LTiおよびHepa1-6細胞においてはMmd2 mRNAの発現は認められなかった。J774A.1およびY-1細胞ともにMmd2 mRNA発現量は検出限界値であったことから、1種の細胞株を用いてノックダウン効率の良いsiMmd2を選択することは信憑性に欠けると考え、両細胞株を用いることとした。
【0155】
2−11.in vitroにおけるsiMmd2処置によるMmd2 mRNAへの影響
J774A.1およびY-1細胞に5種類のsiMmd2 (#1〜#5) を1−14に述べた方法に従い処置した。J774A.1細胞において、#5siMmd2処置によってのみMmd2 mRNAの濃度依存的かつ有意な減少が認められた (図12A)。Y-1細胞においては#1siMmd2および#5siMmd2処置によりMmd2 mRNAの濃度依存的かつ有意な減少が認められた (図12B)。両細胞株において、lipofectamine (lipo) 単独処置およびsiScramble (siScr) 処置において、Mmd2 mRNAの変動は認められなかった。#5siMmd2処置において両細胞株でノックダウンが認められたことから、in vivoでは#5siMmd2 (以下siMmd2) を投与することとした。また、siMmd2の対照としてsiScrを用いることとした。
【0156】
2−12.アテロコラーゲンを用いたin vivoにおけるsiMmd2処置によるMmd2 mRNAへの影響
siRNAを未修飾で投与を行った場合、ヌクレアーゼにより速やかに分解されることが知られている。そこで1−16に述べた方法に従って、siRNA輸送媒体として知られるアテロコラーゲンを用いた検討を行った。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。NTと比べてsiMmd2投与マウスにおいて、肝Mmd2 mRNAの約70%の減少が認められた (図13A)。アテロコラーゲン単独投与群 (Atelo) およびsiScr投与群においては肝Mmd2 mRNAの変動は認められなかった。siMmd2投与群において、若干ではあるが血漿ALT値の有意な上昇が認められ、血漿ASTおよびT-Bil値の変動は認められなかった (図13B)。腎臓および脾臓においてはMmd2 mRNA発現が認められず、ノックダウンを確認することはできなかった。
【0157】
2−13.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2 mRNAへの影響
TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるMmd2mRNAへの変動について1-17に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。NTと比べてTAM+siScr投与マウスにおいて、Mmd2 mRNAの約20倍の上昇が認められた (図14A)。また、血漿ALTおよびAST値は有意な減少が認められ、血漿T-Bil値の変動は認められなかった (図14B)。TAM+siMmd2投与マウスにおいてはTAM+siScr投与マウスと比べて約70%のMmd2 mRNAの減少が認められた。TAM+siScr投与マウスで認められた血漿ALTおよびAST値の減少はTAM+siMmd2投与マウスでは認められなかった。
【0158】
2−14.TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
TAM前投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響を1−18に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。TA+TAM+siMmd2投与マウスにおいて、TA+TAM+siScr投与マウスに比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた (図15B)。血漿T-Bil値に変動は認められなかった。また、TA+TAM+siMmd2投与群において、TA+TAM+siScr投与マウスに比べてMmd2 mRNAの有意な減少が認められた (図15A)。siMmd2投与により、TAMによる肝保護作用の抑制が認められた。
【0159】
2−15.TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響
TAM未投与におけるMmd2ノックダウンによるTA投与の影響を1−19に述べた方法に従って検討した。マウスは6週齢雌性ICRを用いた。TA+siMmd2投与マウスにおいて、TA+siScr投与マウスに比べて血漿ALTおよびAST値の有意な上昇が認められた (図16B)。血漿T-Bil値に変動は認められなかった。siMmd2投与により、TA誘導性肝障害の増大が認められた。また、TA+siMmd2投与群において、TA+siScr投与マウスに比べてMmd2 mRNAの有意な減少が認められた (図16A)。NTと比べてTA+siScr投与群でMmd2 mRNAの有意な減少が認められたが、図5、6及び7と同様の結果であり、再現が得られた。2−14及び2−15の結果より、Mmd2が肝保護遺伝子であることが示唆された。
【0160】
2−16.eNOSおよびAmphiregulin (Areg) mRNA測定
続いて、Mmd2による肝保護作用がどのような機序で起こっているか検討した。Mmd2がERαを介して誘導されることが図9で示されたことから、ERαを介し、かつ肝保護遺伝子として報告のあるeNOSおよびAregのmRNA発現量を測定した。野生型マウスにおいて、TAM前投与によりeNOS mRNAはNTと比べて有意に減少した (図17A)。ERα KOマウスでは減少は認められなかった。またsiMmd2投与によりeNOS mRNAの変動は認められなかった (図17B)。これより、eNOS mRNAの減少がERαを介することが示唆されたが、eNOSが減少したことからTAMによる肝保護にeNOSが関与しているとは考えにくい。また、siMmd2投与により変動が認められないことから、Mmd2がeNOSに関与する可能性は低いと考えられた。よってTAMによる肝保護作用にeNOSは関与しない可能性が示唆された。
【0161】
野生型マウスにおいて、TAM前投与によりAreg mRNAはNTと比べて約90倍に上昇した (図18A)。ERα KOマウスでは野生型に比べるとその上昇は低く、有意でなかった。ICR雌性マウスにおいてもTAM投与によりAreg mRNAはNTに対して有意に上昇した (図18B)。またsiMmd2投与によりAreg mRNAの有意な減少が認められた (図18B)。TA投与時間依存的な変動においてはTA単独投与ではTA投与24時間後において最大となり、投与48時間後では減少した。TA+TAM群においてはTA投与48時間後においてもAreg mRNAの上昇が認められたことから、肝再生がTA単独投与に比べて持続していることが考えられた (図18C)。これより、Areg mRNAの上昇がERαを介すること、およびMmd2との関与が考えられ、Mmd2による肝保護の一因が、Areg mRNAの上昇による肝再生能の向上であることが示唆された。
【0162】
2−17.ヒトにおけるMMD2 mRNA測定
25種のヒト肝臓サンプルを用いて、ヒトにおける肝臓中のMMD2 mRNA発現量を1−9に述べた方法に従って検討した。ヒト肝臓においてもMMD2 mRNAの発現が認められたが (図19)、その発現量は非常に少なく検出限界に近い値であった。また、MMD2 mRNAの最も低い検体を1としたとき、ヒト25検体の平均値は約24であり、マウス3匹の平均値は約23,000であった。マウス肝臓に比べて1/1000程度であった。ヒト肝臓中のMMD2 mRNAには約188倍の個体差が認められた。
【0163】
以上より、薬物誘導性肝障害に対してEE2、TAMおよびRALが肝保護的に働くことを見出し、その作用がERαを介し、Mmd2を上昇させることで起こることが示唆された。また、Mmd2が薬物誘導性肝障害に対して保護的に機能することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0164】
本発明によれば、Mmd2が肝臓に保護的に作用するという新たなメカニズムに立脚した、肝障害の予防又は治療剤、そのスクリーニング方法が提供される。また、本発明の肝障害の非ヒト哺乳動物モデルを用いれば、Mmd2の発現レベルが低いヒトに近い条件で、肝障害に対する種々の薬物の薬効を評価することが出来る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
【請求項3】
以下の工程を更に含む、請求項2記載のスクリーニング方法:
(5−1)Mmd2発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
【請求項4】
以下の工程を更に含む、請求項2記載のスクリーニング方法:
(5−2)Mmd2発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
【請求項5】
肝障害が化学物質に起因する肝障害である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。
【請求項7】
以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
【請求項8】
Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いは該ポリペプチドをコードする核酸を特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定するための試薬。
【請求項9】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法。
【請求項1】
被検物質による哺乳動物細胞におけるMmd2発現レベルの変化を指標として用いることを含む、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性を有する薬物の候補物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:
(1)被検物質をMmd2の発現を測定可能な哺乳動物細胞へ接触させること;
(2)該哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを測定すること;
(3)被検物質を接触させた哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルを、被検物質を接触させない哺乳動物細胞におけるMmd2の発現レベルと比較すること;及び
(4)比較の結果得られたMmd2発現レベルの変化を、肝障害を予防又は治療、或いは増悪する活性と相関付けること。
【請求項3】
以下の工程を更に含む、請求項2記載のスクリーニング方法:
(5−1)Mmd2発現レベルを上昇させた被検物質を、肝障害を予防又は治療する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
【請求項4】
以下の工程を更に含む、請求項2記載のスクリーニング方法:
(5−2)Mmd2発現レベルを減少させた被検物質を、肝障害を増悪する活性を有する薬物の候補物質として選択すること。
【請求項5】
肝障害が化学物質に起因する肝障害である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
Mmd2ポリペプチドを発現し得る発現ベクターを含む、肝障害の予防又は治療剤。
【請求項7】
以下の工程を含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性の判定方法:
(1)哺乳動物から分離された肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを測定すること;及び
(2)測定の結果得られた肝臓組織におけるMmd2の発現レベルを、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性と相関付けること。
【請求項8】
Mmd2ポリペプチドを特異的に認識する抗体、或いは該ポリペプチドをコードする核酸を特異的に検出する核酸プローブ又は核酸プライマーを含む、肝障害を誘導する化学物質に対する感受性を判定するための試薬。
【請求項9】
Mmd2に対するRNA干渉誘導性RNA若しくはアンチセンス核酸又はこれらの核酸を発現し得る発現ベクターの投与、或いは染色体DNA上のMmd2遺伝子の改変により、肝臓におけるMmd2ポリペプチド発現レベルを、前記投与又は改変を施さない対照非ヒト哺乳動物と比較して低下させた非ヒト哺乳動物に、肝障害を誘導する化学物質又は肝炎ウイルスを投与することにより、該非ヒト哺乳動物における肝障害を誘導することを含む、肝障害の非ヒト哺乳動物モデルの製造方法。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【公開番号】特開2011−196874(P2011−196874A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65172(P2010−65172)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度金沢大学院自然科学研究科(博士前期課程)修士論文発表会において文書をもって発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年度金沢大学院自然科学研究科(博士前期課程)修士論文発表会において文書をもって発表
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】
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