説明

肝機能診断装置、MRI装置、および肝機能診断方法

【課題】ガドキセト酸ナトリウムを有効成分とする造影剤を用いてMRI装置で撮影した肝臓の撮影画像から、より容易に肝臓の診断が可能となるようなデータを作成および表示する。
【解決手段】MRI装置が、被検者の撮影画像群に基づいて、所定期間内の各時刻tにおける血管内の造影剤の濃度Ca(t)、および、所定期間内の各時刻tにおける複数の部位のそれぞれの内部の造影剤の濃度Ca(t)を算出し、算出した複数の部位の各々について、各時刻tにおける当該部位の内部の造影剤の濃度Ch(t)と上記血管内の造影剤の濃度Ca(t)から、2コンパートメントモデルの係数K1、k2を算出し、係数K1、k2に基づくK1画像およびK1/k2画像を画像表示装置に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝機能診断装置、MRI装置、および肝機能診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肝臓の造影に優れたMRI用造影剤として、ガドキセト酸ナトリウム(Gd−EOB−DTPA)を有効成分とする造影剤(バイエル薬品株式会社のEOBプリモビスト(登録商標))が知られている。この造影剤(以下、単にEOBという)は、被検者への投与後に特異的に正常な肝臓に集積する特徴があるので、正常な肝と正常でない肝を区別するイメージング製剤として有用である。
【0003】
このEOBを用いた肝臓の診断方法は、以下のようなものであった。まず被検者にEOBを投与し、その後、MRI装置を用いて被検者の肝臓を所定期間撮影する。撮影された画像の枚数は、肝臓のスライス枚数×撮影回となる。読影者は、これら多数の撮影画像を見て、肝臓の各部におけるEOBの集積度合の時間変化を読み取り、その上で、肝臓に異常があるか、肝臓中のどの部位に異常があるかを判断する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】市原隆他、磁気共鳴医学(Magnetic Resonance in Medicine)、(米国)、ワイリーインターサイエンス社(Wiley InterScience)、2009年9月、第62巻、第3号、第373〜383頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような方法では、読影者が撮影画像の経時的変化を把握しなければならないため、読み取る撮影画像の枚数が膨大になる。その結果、読影者の負担が増大すると共に、定量的な判断が困難となり、客観的な判断が困難となっていた。
【0006】
本発明は上記点に鑑み、EOBを用いてMRI装置で撮影した肝臓の撮影画像から、より容易に肝臓の診断が可能となるようなデータを作成および表示することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が投与された被検者(11)の肝臓の複数の部位と、前記肝臓に血液を注ぐ血管と、を対象として所定期間繰り返し撮影された、核磁気共鳴イメージングによる撮影画像群を取得する取得手段(110)と、取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する濃度算出手段(115〜155)と、前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、特許請求の範囲の数8のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数8の時間tに依存しない係数K1を算出する係数算出手段(160)と、算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる表示制御手段(165、170、180)と、を備えた肝機能診断装置である。
【0008】
このように、肝機能診断装置が、被検者(11)の撮影画像群に基づいて、所定期間内の各時刻tにおける血管内の造影剤の濃度Ca(t)、および、所定期間内の各時刻tにおける複数の部位のそれぞれの内部の造影剤の濃度Ca(t)を算出し、算出した複数の部位の各々について、各時刻tにおける当該部位の内部の造影剤の濃度Ch(t)と上記血管内の造影剤の濃度Ca(t)から、2コンパートメントモデルの係数K1を算出し、係数K1に基づく情報を画像表示装置(33)に表示させる。
【0009】
発明者の検討および実験によれば、このような係数K1は、被検者(11)の肝臓の状態を表す有用な情報を含んだ量である。したがって、このような時間に依存しない係数K1を算出してそれに基づいた情報を表示することで、従来のように複数の撮影画像の時間変化を見て診断する場合に比べ、より容易に肝臓の診断が可能となる。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明の係数K1を、比K1/k2に置き換えたものである。発明者の検討および実験によれば、このような比K1/k2は、被検者(11)の肝臓の状態を表す有用な情報を含んだ量である。したがって、このような時間に依存しない係数K1/k2を算出してそれに基づいた情報を表示することで、従来のように複数の撮影画像の時間変化を見て診断する場合に比べ、より容易に肝臓の診断が可能となる。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の肝機能診断装置において、前記係数算出手段(160)は、前記数1を積分することで得られる特許請求の範囲の数10、数11、数12、に従って、前記所定期間内の各時刻tの前記数11のX(t)および前記数12のY(t)の組を算出し、前記複数の時刻tの前記X(t)および前記Y(t)の組のうち、時刻tの最も遅いものから遡って一部の複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて、直線回帰で前記係数K1を算出することを特徴とする。また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明の係数K1を、比K1/k2に置き換えたものである。
【0012】
これらのように、(X(t),Y(t))の点のうち、特定の複数組のみを抽出するのは、被検者(11)への投与後のEOBの分布特性を利用して、より正確に肝臓の状態を検出するためである。すなわち、造影剤は図2に例示した通り、投与後まずダイナミック造影相41において非特異的に分布し、その後肝細胞造影相42において正常肝細胞に特異的に取り込まれる。したがって、正常な肝細胞と異常な肝細胞とが区別できるような2コンパートメントモデルの性質は、肝細胞造影相42になって初めて現れ、それ以前のダイナミック造影相41の段階では、別の性質を持つ2コンパートメントモデルの性質が現れている。
【0013】
そこで、上述のように、複数の(X(t),Y(t))の組のうち、撮影時刻の最も遅い点から遡って一部の複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて直線回帰で係数K1またはK1/k2を算出することで、肝細胞造影相42において初めて現出するコンパートメントモデル、すなわち、正常な肝細胞と異常な肝細胞とが区別できるような2コンパートメントモデルの、パラメータK1またはK1/k2を精度よく算出することができる。
【0014】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1または3に記載の画像表示制御装置において、前記表示制御手段(165、170、180)は、算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく量を、前記複数の部位と同じ配置で並べた二次元画像を、前記画像表示装置(33)に表示させることを特徴とする。また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明の係数K1を、比K1/k2に置き換えたものである。このように、肝臓の各部と同じ配置の二次元画像として、係数K1または比K1/k2を表すことで、より作業者にとって解析がより容易になる。
【0015】
また、請求項7、8に記載のように、請求項1、2に記載の発明の特徴は、MRI装置の発明の特徴としても捉えることができる。また、請求項9、10に記載のように、請求項1、2に記載の発明の特徴は、肝機能診断方法の発明の特徴としても捉えることができる。
【0016】
なお、上記および特許請求の範囲における括弧内の符号は、特許請求の範囲に記載された用語と後述の実施形態に記載される当該用語を例示する具体物等との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るMRI装置1の構成図である。
【図2】EOB投与タイミングとダイナミック造影相41、肝細胞造影相42を示す図である。
【図3】MRI装置によって撮影される撮影画像群の模式図である。
【図4】本実施形態で用いる2コンパートメントモデルの概念図である。
【図5】解析・表示制御処理のフローチャートである。
【図6】プリ画像中の門脈部43を示す図である。
【図7】EOB投与前後の門脈内の画素の値(信号強度)A0、A(t)を示すグラフである。
【図8】門脈内のEOB濃度Ch(t)と肝臓の一部位内のEOB濃度Ca(t)を示すグラフである。
【図9】造影画像中の肝臓領域Hを示す図である。
【図10】EOB投与前後の肝臓内の画素の値(信号強度)H0(n,i,j)、H(n,i,j,t)を示すグラフである。
【図11】グラフプロット法による係数K1、k2算出処理のフローチャートである。
【図12】現実の被検者の造影画像を用いて算出した(X(t),Y(t))をプロットしたグラフである。
【図13】正常な肝臓についてのカラー表示のK1画像52およびK1/k2画像53を概念的に表した図である。
【図14】異常な肝臓についてのカラー表示のK1画像56およびK1/k2画像57を概念的に表した図である。
【図15】正常な肝臓についてのグレースケール表示のK1画像およびK1/k2画像である。
【図16】正常な肝臓についてのグレースケール表示のK1画像およびK1/k2画像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について説明する。図1に、本実施形態に係るMRI装置1(肝機能診断装置の一例にも相当する)の全体構成を示す。このMRI装置1は、核磁気共鳴(NMR)現象を利用して周知の核磁気共鳴イメージングにより被検者11の断層画像を得るもので、センサ・アクチュエータ部2および制御・表示部3を備えている。
【0019】
センサ・アクチュエータ部2は、主マグネット21、傾斜磁場コイル22、傾斜磁場電源23、シーケンサ24、送信系回路25、および受信系回路26を備えている。主マグネット21は、被検者11の周りにその体軸方向または体軸と直交する方向に均一な静磁場を発生させるための永久磁石等の静磁場発生器である。
【0020】
傾斜磁場コイル22は、主マグネット21の磁場空間内に設置され、X、Y、Zの三軸方向に巻かれたコイル群であり、上記静磁場に重畳する傾斜磁場を発生させるための傾斜磁場発生器である。傾斜磁場電源23は、傾斜磁場コイル22を駆動する装置である。傾斜磁場電源23は、後述するシーケンサ24からの命令に従ってそれぞれの傾斜磁場コイル22を駆動することにより、X、Y、Zの三軸方向の傾斜磁場Gx、Gy、Gzを被検者11に印加するようになっている。この傾斜磁場の加え方により被検者11に対するスライス面を設定することができる。
【0021】
シーケンサ4は、上記被検者11の生体内の原子の原子核(具体的にはプロトン)に核磁気共鳴を起こさせる高周波磁場パルスをある所定のパルスシーケンスで繰り返し印加するもので、制御・表示部3の制御に従って動作し、被検者11の断層画像のデータ収集に必要な種々の命令を、傾斜磁場電源23、送信系回路25、および受信系回路26に出力するようになっている。
【0022】
送信系回路25は、被検者11の生体内の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために高周波磁場を照射するもので、高周波発振器25a、変調器25b、高周波増幅器25c、および送信側の高周波コイル25dとから成る。主マグネット21の磁場空間内に設置された高周波発振器25aから出力された高周波パルスは、シーケンサ24の命令にしたがって変調器25bで振幅変調され、この振幅変調された高周波パルスは高周波増幅器25cで増幅された後に被検者11に近接して配置された送信側高周波コイル25dに供給されることにより、電磁波が上記被検者11に照射されるようになっている。
【0023】
受信系回路26は、被検者11の生体内の原子核の核磁気共鳴により放出されるエコー信号(NMR信号)を検出するもので、受信側の高周波コイル26a、増幅器26b、直交位相検波器26c、およびA/D変換器26dとから成り、送信側高周波コイル25dから照射された電磁波による被検者11の応答の電磁波(NMR信号)は被検者11に近接して配置された受信側高周波コイル26aで検出され、増幅器26bで増幅された後、シーケンサ24からの指令によるタイミングで直交位相検波器26cにより直交する二系統の信号に分割され、それぞれがA/D変換器26dでディジタル量に変換されて、制御・表示部3に送られる。
【0024】
制御・表示部3は、各種データ処理と処理結果の表示および保存等を行うもので、I/O31、操作部32、画像表示装置33、RAM34、ROM35、HDD36、CPU37を備えている。
【0025】
I/O31は、シーケンサ24、A/D変換器26dとCPU37との間の信号の授受を媒介するインターフェース回路である。操作部32は、マウス、キーボード等の、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた信号をCPU37に出力する装置である。この操作部32は画像表示装置33に近接して配置され、操作者が傾斜磁場電源23を見ながら傾斜磁場コイル22を通してインタラクティブにMRI装置1の各種作動を制御することができる。画像表示装置33は、CPU37からの制御に従って画像をユーザに表示する装置である。
【0026】
RAM34は、CPU37の作業用の揮発性記憶領域であり、ROM35は、CPU37が実行するプログラム等が記録された不揮発性の記憶媒体である。HDD36は、CPU37が実行するプログラム、および後述する撮影画像群等のデータが記録される不揮発性の磁気記憶媒体である。なお、HDD36に代えて、他の書き込み可能な不揮発性記憶媒体(例えば、フラッシュメモリ)を用いてもよい。
【0027】
CPU37(制御回路の一例に相当する)は、ROM35またはHDD36に記録されたプログラムを実行することで、後述する各種処理を実現する制御回路である。CPU37がプログラムを実行して実現する処理としては、撮影制御処理37a、解析・表示制御処理37b等がある。
【0028】
撮影制御処理37aは、センサ・アクチュエータ部2を制御して、被検者11の肝臓および肝臓の周囲の部分(スラブ)を核磁気共鳴イメージングによってスライス毎に撮影し、この核磁気共鳴イメージングによって作成されたスライス毎の撮影画像(すなわち断層画像)を、HDD36に記録する処理である。
【0029】
より詳しくは、撮影制御処理37aにおいて被検者11の上記スラブを1回撮影する際、CPU37は、シーケンサ24を制御することで、送信側高周波コイル25dにRFパルス301を照射させると同時に、スラブを選択する傾斜磁場を傾斜磁場コイル22に印加させ、スラブを励起した後、位相エンコード方向の傾斜磁場とスライス方向の傾斜磁場を傾斜磁場コイル22に印加させ、エコー信号をA/D変換器26dから取得する。この場合、例えば、スライス方向の傾斜磁場を固定して位相エンコード方向の傾斜磁場を順次変更するループ(内ループ)の終了後、スライス方向の傾斜磁場を変更して再度位相エンコード方向の傾斜磁場を順次変更し、以後、同様にスライス方向の傾斜磁場を順次変更させながら内ループを繰り返し、最終的に全ての位相エンコード方向の傾斜磁場とスライス方向の傾斜磁場を組み合わせた3次元データのセットをA/D変換器26dから取得する。
【0030】
そしてCPU37は、A/D変換器29から出力されたこのようなデータに対して3次元のフーリエ変換を行うことで、被検者11のスライス毎の撮影画像のデータを作成し、このように作成した撮影画像のデータをHDD36に記録する。
【0031】
本実施形態においては、このようなCPU37の撮影制御処理37aにより、MRI装置1が、作業者の操作に従って、被検者11の肝臓全体(記肝臓に血液を注ぐ門脈を含む)を撮影対象のスラブとして、上記の撮影を、所定期間の間複数回繰り返し実行する。
【0032】
より具体的には、図2に示すように、まず、被検者11に造影剤が投与されていない状態で、作業者が操作部32に対して所定の撮影操作を行うことで、CPU37の撮影制御処理37aによって、スラブの撮影が1回行われる。この造影剤の投与前の撮影によってCPU37が取得しHDD36に記録されるスライス毎の撮影画像を、それぞれプリ画像という。
【0033】
続いて作業者は、被検者11に対して造影剤を静注する。ここで用いる造影剤は、常磁性のガドキセト酸ナトリウム(Gd−EOB−DTPA)を有効成分とする造影剤(バイエル薬品株式会社のEOBプリモビスト(登録商標))である。
【0034】
ガドキセト酸ナトリウムを有効成分とする造影剤(以下、単にEOBという)は、投与後早期は従来の細胞外液性造影剤と同様に血管内および細胞間隙に非特異的に分布し、20分程度の時間経過後は、正常肝細胞に存在するトランスポータを介して特異的に正常肝細胞に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄されるという性質を有している。このような特性のEOBを利用することで、正常な肝と正常でない肝とを区別することができる。
【0035】
投与後からEOBが非特異的に分布する段階を、ダイナミック造影相41といい、EOBが正常肝細胞に特異的に取り込まれている段階を、肝細胞造影相42という。図2に示すように、肝細胞造影相42は、EOB投与後4分程度で始まる。
【0036】
被検者11にEOBを静注した後、作業者は、操作部32に対して所定の連続撮影開始操作を行い、CPU37は、その操作に応じて、センサ・アクチュエータ部2を制御して撮影制御処理37aにより、所定間隔(例えば、2分間隔)でスラブの撮影および撮影画像の記録を実行する。この繰り返し撮影は、ダイナミック造影相41および肝細胞造影相42を含むよう、所定期間(例えば、20分より長い時間、より具体的には32分)継続する。以下、EOB投与後に撮影された撮影画像を、造影画像という。
【0037】
図3に、上記のような撮影によってHDD36に記録された撮影画像群(プリ画像群および造影画像群)を模式的に示す。撮影画像は、1回のスラブの撮影におけるスライスの枚数に、スラブの撮影回数を乗算した枚数だけ記録される。
【0038】
撮影画像中の各画素の値は、その撮影画像が撮影された時刻tにおける、当該画素部分の原子核(具体的にはプロトン)の密度を表している。したがって、HDD36に記録された撮影画像には、各撮影時刻tにおける肝臓の各部位中の原子核の密度、および肝臓に血液を注ぐ門脈内における血液の原子核の密度の情報が含まれている。
【0039】
このように、CPU37は、撮影制御処理37aを実行することで、EOBが被検者11に投与された後の所定期間に受信系回路26から取得されたデータに基づいて、被検者11の肝臓の複数の部位および肝臓に血液を注ぐ門脈の、当該所定期間内の各撮影時刻tにおける撮影画像群を作成し、作成した撮影画像群をHDD36に記録する。
【0040】
撮影制御処理37aによる撮影および記録が終了すると、続いてCPU37は、作業者の操作部32に対する解析開始操作に応じて、解析・表示制御処理37bの実行を開始する。
【0041】
解析・表示制御処理37bは、撮影制御処理37aによってHDD36に記録された撮影画像群を用いて、被検者11の肝臓の状態を定量化して画像表示装置33に表示させる処理である。
【0042】
本願発明者は、この定量化のために2コンパートメントモデル解析を用いることを着想した。図4に、本実施形態で用いる2コンパートメントモデルを概念的に示す。この2コンパートメントは、肝臓に血液を注ぐ門脈のコンパートメント5と、肝臓中の一部位6のコンパートメントから成る。
【0043】
門脈5内部の血液中のEOBの濃度(単位体積当たりのEOBの個数。時間tに依存する。)をCa(t)とし、肝臓中の一部位6中のEOB濃度(肝細胞、肝臓毛細血管、および肝臓間質中の単位質量当たりのEOBの個数。同じく時間tに依存する。)をCh(t)と表すと、2コンパートメントモデルは、Ca(t)とCh(t)の間に以下の関係式を規定する。
【0044】
【数1】

この微分方程式中、係数K1(単位は[ml/sec/g])および係数k2(単位は[1/sec])は、時間に依存しない。本実施形態では、CPU37は、解析・表示制御処理37bにおいて、HDD36に記録された撮影画像に基づいて決まるCa(t)、Ch(t)に基づき、上記2コンパートメントモデルを用いた2コンパートメントモデル解析を行うことで、肝臓中の各部について係数K1および係数k2を算出し、算出した係数K1、k2に基づく情報を画像表示装置33に表示させる。この係数K1および係数k2は、発明者の検討によれば、肝臓の状態を表す有用な情報を含んだ量である。この係数K1およびk2を表示に用いることの意義については後述する。
【0045】
図5に、この解析・表示制御処理37bのフローチャートを示す。CPU37は、解析・表示制御処理37bにおいて、まずステップ110で、被検者11の撮影画像群(プリ画像群および造影画像群)を、HDD36から読み出す。
【0046】
続いてステップ115で、操作部32に対する作業者の選択操作に従って、特定の1つのプリ画像中の特定の1つの領域を、ROI(関心領域)として設定する。このとき作業者は、操作部32を操作してプリ画像群のうち門脈を含むプリ画像を選択し、CPU37は選択されたプリ画像を画像表示装置33に表示させ、さらに作業者は、図6に示すように、操作部32を操作してこのプリ画像中の門脈部43を指定し、CPU37はこの指定された門脈部43をROIとして設定する。
【0047】
続いてステップ120では、当該プリ画像中の設定したROI内の画素の値(すなわち信号強度)を読み取り、この画素の値(画素が複数有ればその平均値)を、ベースラインA0としてRAM34に記録する。
【0048】
続いてステップ125では、すべてのプリ画像のすべての画素の値(すなわち信号強度)を読み出し、読み出した値のそれぞれを、ベースラインH0(n,i,j)としてRAM34に記録する。より具体的には、n番目のスライスのプリ画像において、座標位置(i,j)の画素の値が、位置(n,i,j)のベースラインH0(n,i,j)としてRAM34に記録される。
【0049】
続いてステップ130では、門脈部の時間−信号曲線データA(t)を算出する。時間−信号曲線データA(t)は、図7の曲線44上の各点のように、EOB投与後の各撮影時刻tにおける造影画像中の門脈部の画素の値を表すデータである。したがって、例えばA(t)は、時刻tにおいて撮影された造影画像中の門脈部に該当する画素の値を表す。なお、撮影時刻tにおける門脈の位置(すなわち、スライスおよび位置座標)は、ROI43が設定されたプリ画像と同じスライス、および当該プリ画像中のROIと同じ位置座標とする。
【0050】
続いてステップ135では、図7に示すように、ステップ130で算出した門脈部の時間−信号曲線データA(t)の各時刻tの値から、ステップ120で算出したベースラインA0(直線45に相当する)を減算した結果を、時刻tの入力関数Ca(t)とする(図8参照)。この入力関数Ca(t)は、EOB投与後の各撮影時刻tにおける、門脈内血液のEOB濃度に相当する。
【0051】
ここで、CPU37は、このように算出した入力関数Ca(t)の値を、入力関数Ca(t)と造影剤濃度との関係が正確な比例関係になるよう、あらかじめ求められた補正式に基づいて補正するようになっていてもよい。具体的な補正の方法は、例えば非特許文献2に記載されているものを採用してもよい。
【0052】
続いてステップ140では、造影画像のスライス範囲HHを、操作部32に対する作業者の選択操作に応じて設定する。この際、作業者の選択操作は、操作部32を用いて、肝臓を含むスライスの範囲を選択する操作となる。
【0053】
続いて、設定されたスライス範囲HH中のスライス毎に、ループR1内の処理を1回実行する。なお、ループR1内で対象とするスライスを、スライスnという。ループR1内では、まずステップ145で、図9に示すように、対象とするスライスの造影画像に対して、肝臓の輪郭Hを、操作部32に対する作業者の選択操作に応じて設定する。
【0054】
続いて、設定された輪郭中の位置座標(i,j)毎に、ループR2内の処理を1回実行する。ループR2内では、まずステップ150で、スライスnの位置座標(i,j)(例えば、図9の位置46)の時間−信号曲線データH(n,i,j,t)を算出する。時間−信号曲線データH(n,i,j,t)は、図10の曲線47上の各点のように、EOB投与後の各撮影時刻tにおけるスライスnの造影画像中の位置(i,j)の画素の値を表すデータである。あるいは、位置(i,j)そのものの画素の値の代わりに、当該画素および当該画素の周囲8つの画素を含む3×3=9個の画素の平均値を採用してもよい。
【0055】
続いてステップ155では、図10に示すように、ステップ150で算出した時間−信号曲線データH(n,i,j,t)の各時刻tの値から、ステップ125で算出したベースラインH0のうち、同じスライスnおよび同じ位置座標(i,j)のベースラインH0(n,i,j)(直線48に相当する)を減算した結果を、時刻tの出力関数Ch(t)とする(図8参照)。この出力関数Ch(t)は、EOB投与後の各撮影時刻tにおける、スライスnの位置座標(i,j)における局所肝臓部位のEOB濃度に相当する。
【0056】
ここで、CPU37は、このように算出した出力関数Ch(t)の値を、出力関数Ch(t)と造影剤濃度との関係が正確な比例関係になるよう、あらかじめ求められた補正式に基づいて補正するようになっていてもよい。具体的な補正の方法は、例えば非特許文献2に記載されているものを採用してもよい。
【0057】
続いてステップ160では、算出した入力関数Ca(t)および出力関数Ch(t)を数1のように規定される2コンパートメントモデルに適用して2コンパートメントモデル解析(回帰分析)を行うことで、係数K1および係数k2を算出する。ここで計算される係数K1、k2は、現在のスライスnおよび位置座標(i,j)の部位における係数K1、k2である。すなわち、係数K1、k2は、局所係数である。
【0058】
具体的には、入力関数Ca(t)および出力関数Ch(t)を用いて非線形最小2乗法によって係数K1、k2を算出してもよいし、グラフプロット法(直接積分線形最小2乗法ともいう)を用いて係数K1、k2を算出してもよい。
【0059】
以下、グラフプロット法を用いた算出について説明する。図11に、グラフプロット法による係数K1、k2算出処理のフローチャートを示す。グラフプロット法では、まずステップ210で、入力関数Ca(t)および出力関数Ch(t)に基づいて、各撮影時刻tにおける値X(t)および値Y(t)を算出する。ここで、造影画像の撮影回数はN回であったとする。したがって、Ca(t)、Ch(t)の組もN個あり、X(t)、Y(t)の組も、N個算出される。
【0060】
ここでX(t)、Y(t)の算出式は、それぞれ
【0061】
【数2】

【0062】
【数3】


となっている。ここでt=0は、EOBの投与時点となっている。一方、2コンパートメントモデルの数1を時間積分すると
【0063】
【数4】


のようになり、この両辺を
【0064】
【数5】


で除算すると、
【0065】
【数6】


のような直線関係式を得ることができる。つまり、撮影画像群から算出されたCa(t)、Ch(t)が数1の2コンパートメントモデルに完全に合致しているならば、ステップ210で算出したX(t)を横軸に、Y(t)を縦軸に取りプロットしたとき、それらプロットされた点を通る直線のY切片がK1となり、傾きが−k2となる。ただし、実際には(X(t),Y(t))をプロットした線が数1の2コンパートメントモデルに完全に合致した直線になることはほとんどない。
【0066】
図12に、現実の被検者11を対象とした造影画像を用いて算出した(X(t),Y(t))をプロットしたグラフを示す。このグラフ中、黒丸でプロットした点が、投与後早期のダイナミック造影相41における(X(t),Y(t))の点であり、白抜き丸でプロットした点が、肝細胞造影相42における(X(t),Y(t))の点である。
【0067】
この図12の例では、肝細胞造影相42における(X(t),Y(t))の点は、K=0.16、K1/k2=3.25の直線49に非常に高い精度で一致する。実際、これらの点を用いて直線回帰を行って直線49を得た場合の決定係数Rは、0.9225となった。
【0068】
ステップ210に続いては、ステップ220で、作業用の変数iに1を代入し、続いてステップ230では、変数iを1だけインクリメントする。さらにステップ240では、N個の(X(t),Y(t))の点のうち、撮影時刻の早い順から数えてN−i番目からN番目までの点、すなわち、撮影時刻の最も遅いi個の点のみを抽出する。
【0069】
続いてステップ250で、抽出したi個の点を用いた直線回帰分析により、図12に示すような回帰直線49のY切片K1および傾き−k2を算出すると共に、直線回帰の決定係数(重相関係数の2乗)を算出する。決定係数が大きいほど、算出された回帰直線と、その回帰直線の算出に用いたi個の点との一致度が高い。
【0070】
続いてステップ260では、決定係数がしきい値(例えば0.9)未満であるか否かを判定し、しきい値以上であれば再度ステップ230に進み、しきい値未満であればステップ270に進む。ステップ270では、直前のステップ250よりも1回前の直線回帰の結果得られたY切片K1および傾き−k2に基づいて係数K1、k2を算出する。
【0071】
このようなステップ210〜270の処理を行うことで、CPU37は、各時刻のCa(t)、Ch(t)から算出される複数の(X(t),Y(t))の組のうち、直線回帰を行ったときに決定係数がしきい値以上となる範囲で、撮影時刻の最も遅い点から遡って複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて直線回帰で係数K1、k2を算出する。
【0072】
このように、N個の(X(t),Y(t))の点のうち、特定の点のみを抽出するのは、被検者11への投与後のEOBの分布特性を利用して、より正確に肝臓の状態を検出するためである。すなわち、EOBは図2に示した通り、投与後まずダイナミック造影相41において非特異的に分布し、その後肝細胞造影相42において正常肝細胞に特異的に取り込まれる。したがって、正常な肝細胞と異常な肝細胞とが区別できるような2コンパートメントモデルの性質は、肝細胞造影相42になって初めて現れ、それ以前のダイナミック造影相41の段階では、別の性質を持つ2コンパートメントモデルの性質が現れている。
【0073】
実際、図12に示すように、ダイナミック造影相41の立ち上がり以後の期間50における(X(t)、Y(t))のY切片および傾きと、肝細胞造影相42における(X(t)、Y(t))のY切片および傾きとは、明確に異なる。
【0074】
そこで、上述のように、複数の(X(t),Y(t))の組のうち、直線回帰を行ったときに決定係数がしきい値以上となる範囲で、撮影時刻の最も遅い点から遡って複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて直線回帰で係数K1、k2を算出することで、肝細胞造影相42において初めて現出するコンパートメントモデル、すなわち、正常な肝細胞と異常な肝細胞とが区別できるような2コンパートメントモデルの、パラメータK1、k2を精度よく算出することができる。
【0075】
図5の処理のステップ160に続いては、ステップ165で、算出したK1の値を、K1画像の画素の値に代入する。K1画像は、撮影時の1スラブ中のスライスの数だけ作成される画像データである。そしてこのステップ165では、直前のステップ160でスライスnの位置座標(i,j)に対して計算された係数K1を、当該スライスnのK1画像の当該位置座標(i,j)の画素値に、代入する。
【0076】
続いてステップ170では、算出したK1、k2から比K1/k2を算出し、算出した比K1/k2を、K1/k2画像の画素の値に代入する。K1/k2画像も、撮影時の1スラブ中のスライスの数だけ作成される画像データである。そしてこのステップ170では、直前のステップ160でスライスnの位置座標(i,j)に対して計算された係数K1、k2の比K1/k2を、当該スライスnのK1画像の当該位置座標(i,j)の画素値に、代入する。
【0077】
このように、K1画像、K1/k2画像は、算出された肝臓の複数の部位の各々の係数K1および比K1/k2を、複数の部位と同じ配置で並べた二次元画像である。
【0078】
以上のようなスライスnに対するループR2を肝臓内の位置座標(i,j)の組み合わせだけ繰り返し、さらに、ループR1をスライスの数だけ繰り返すことで、各スライスのK1画像およびK1/k2画像が作成される。
【0079】
ループR1が終了すると、続いてステップ175で、K1の総和Sを算出する。総和は、スライス範囲HH内のすべてのスライスについて、肝臓の範囲内のすべての位置座標について行う。
【0080】
続いてステップ180では、作成したK1画像、K1/k2画像、および算出したK1の総和Sのうち、作業者が操作部32を用いて選択したものを画像表示装置33に表示させる。総和Sを表示させる場合は、総和Sの数値をそのまま数字で画像表示装置33に表示させればよい。
【0081】
K1画像、K1/k2画像を表示させる場合は、例えば、図13に示すように、あるスライスのK1画像52と、同じスライスのK1/k2画像53とを、一画面中に共に表示させ、作業者の操作部32に対する送り操作に応じて、表示対象のスライスを変化させるようになっていてもよい。ここで、K1画像52とK1/k2画像53は、カラー色分け表示で表されている。
【0082】
カラー色分け表示を行う場合は、K1画像、K1/k2画像の画素値(スカラー値)を色に変換する必要があるが、例えば、単色光の波長と色との関係に従って、大きい画素値ほど長い波長の色に対応するよう、画素値と色を対応付けてもよい。その際、色と画素値(=K1)との対応関係を示すカラーバー54、55をK1画像52とK1/k2画像53と共に表示するようになっていれば、作業者にとって色分けの意味が分かりやすい。
【0083】
図14も、図13と同型式で表したK1画像56およびK1/k2画像57である。ただし、図13は、従来の診断方法で正常であると判断された肝臓の撮影画像を実際に解析して得たK1画像52、K1/k2画像53であったのに対し、図14は、従来の診断方法で肝硬変の疑いがあると判断された肝臓の撮影画像を実際に解析して得たK1画像56、K1/k2画像57である。図14の画像では、肝臓の右上部および左下部の画素のK1、K1/k2が低いが、従来の診断方法でも、当該部位に異常があると診断されている。
【0084】
このようにカラーでK1画像、K1/k2画像を表した場合、正常と判断された肝臓と、異常と診断された肝臓の色が全く異なって見えるので、作業者にとっても正常、異常の判断が一目瞭然である。また、異常のある肝臓においても、正常な部分と異常な部分の色が全く異なって見えるので、異常部位の特定が容易である。
【0085】
ここで、これらK1、K1/k2、およびK1の総和Sの意味について説明する。上述の通り、係数K1、k2は、2コンパートメントモデルの式
【0086】
【数7】

に従う係数である。この式において、係数K1は、門脈から肝臓の一部位への移動を律する定数であり、門脈を流れる血流のうち、門脈から当該肝部位へ入るEOBを運ぶのに寄与した局所血流量、すなわち、有効肝血流量であると考えられる。そして、係数K1の肝臓全体に渡る総和Sは、門脈から肝臓全体へ入るEOBを運ぶのに寄与した血流量を表すと考えられる。
【0087】
また、係数k2は、肝部位から毛細血管への移動を律する洗い出し係数である。仮にこの2コンパートメントモデルが平衡状態に達した場合、数7の左辺がゼロになるので、比K1/k2は、平衡状態における門脈中の血液のEOB濃度に対する、肝臓の一部位のEOB濃度となる。すなわち比K1/k2は、肝細胞対門脈内血液のEOBの存在比[%]を表す分配定数であると考えられる。
【0088】
以上のような係数K1、k2の物理的意味合いと、EOBがトランスポータを介して正常な肝細胞に特異的に取り込まれるという性質に鑑みれば、肝臓の特定の部位の係数K1の値が高いほど、当該部位の機能は正常に近いと考えられ、また、肝臓のある部位の比K1/k2の値が高いほど、当該部位の機能は正常に近いと考えられ、また、総和Sが大きいほど、肝臓全体の機能は正常に近いと考えられる。つまり、これらの量K1、K1/k2、Sから、正常な肝細胞に存在するトランスポーターの量を定量的に評価できる
また、図13、図14のようにK1画像とK1/k2画像をカラー表示するのではなく、図15、図16に示すようにK1画像とK1/k2画像をグレースケールで表示してもよい。この場合、例えば、K1またはK1/k2の値が大きいほど、画素の輝度を高くする。
【0089】
図15は、従来の診断方法で正常であると判断された肝臓の撮影画像を実際に解析して得たK1画像、K1/k2画像であり、図16は、従来の診断方法で肝硬変の疑いがあると判断された肝臓の撮影画像を実際に解析して得たK1画像、K1/k2画像である。図15と図16を比較すると、図16の方が全体的に暗い印象を受けるので、従来の診断方法による所見と合致している。また、図16の画像では、肝臓の右上部および左下部の画素のK1、K1/k2が低いが、従来の診断方法でも、当該部位に異常があると診断されている。
【0090】
なお、上述の実際の被験者を対象とした撮影においては、MRI装置1として、GE横河メディカルシステム社製の「SIGNA Excite HDx 1.5T」を用い、使用コイルは8ch Body Arrayであり、撮像シーケンスはLAVA法(FOV=400mm、マトリクス=320×190、スライス厚=4.4mm、TR/TE=1.9/4.0ms、FA=12deg、RBW=62.5kHz)を採用した。
【0091】
以上説明した通り、本実施形態のMRI装置1は、被検者11の撮影画像群に基づいて、所定期間内の各時刻tにおける血管内の造影剤の濃度Ca(t)、および、所定期間内の各時刻tにおける複数の部位のそれぞれの内部の造影剤の濃度Ca(t)を算出し、算出した複数の部位の各々について、各時刻tにおける当該部位の内部の造影剤の濃度Ch(t)と上記血管内の造影剤の濃度Ca(t)から、2コンパートメントモデルの係数K1、k2を算出し、係数K1、k2に基づく情報を画像表示装置33に表示させる。
【0092】
上述の通り、発明者の検討および実験によれば、このような係数K1は、被検者11の肝臓の状態を表す有用な情報を含んだ量である。したがって、このような時間に依存しない係数K1、k2を算出してそれに基づいた情報を表示することで、従来のように複数の撮影画像の時間変化を見て診断する場合に比べ、より容易かつ客観的に肝臓の診断が可能となる。また、肝臓の各部と同じ配置の二次元画像として、係数K1または比K1/k2を表すことで、作業者にとって解析がより容易になる。
【0093】
なお、上記実施形態では、CPU37が、撮影制御処理37aを実行することで撮影制御手段(37a)の一例として機能し、図5のステップ110を実行することで取得手段(110)の一例として機能し、ステップ115〜155を実行することで濃度算出手段(115〜155)の一例として機能し、ステップ160を実行することで係数算出手段(160)の一例として機能し、ステップ165、170、180を実行することで表示制御手段の一例として機能する。
【0094】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の範囲は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の各発明特定事項の機能を実現し得る種々の形態を包含するものである。
【0095】
例えば、上記実施形態においては、出力関数Ca(t)として、門脈内のEOB濃度Ca(t)を採用したが、門脈内のEOB濃度の代わりに、肝動脈内のEOB濃度を採用してもよい。肝動脈も、門脈と同じく肝臓に血液を注ぐ血管であるので、上述のような2コンパートメントモデル解析が有効となる。
【0096】
また、上記実施形態は、造影剤として、ガドキセト酸ナトリウムを有効成分とする造影剤が用いられていたが、ガドキセト酸ナトリウムを有効成分とする造影剤以外でも、投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤ならば、どのような造影剤を用いても、同じ解析手法を用いることができる。
【0097】
また、上記実施形態においてMRI装置1は、係数K1、k2の両方を算出し、さらに、K1画像、K1/k2画像、およびK1の総和Sを表示するようになっているが、かならずしもこれらすべてを表示する機能を有しておらずともよい。例えば、K1画像のみを表示するようになっていてもよいし、総和Sのみを表示するようになっていてもよい。これらの場合は、係数K1、k2のうち、係数K1のみを算出すれば足りる。また、K1/k2画像のみを表示するようになっていてもよい。この場合は、係数K1、k2ではなく、比K1/k2のみを算出すれば足りる。
【0098】
また、K1画像の各画素は、その画素におけるK1の値のみならず、K1に基づいた値(例えば、K1が増加するほど増加するK1の単調増加関数)であってもよい。また同様に、K1/k2画像の各画素は、その画素におけるK1/k2の値のみならず、K1/k2に基づいた値(例えば、K1/k2が増加するほど増加するK1の単調増加関数)であってもよい。また、総和Sは、K1に基づいた量(例えば、K1が増加するほど増加するK1の単調増加関数)の総和S’であってもよいし、その総和S’に基づいた値(例えば、S’が増加するほど増加するS’の単調増加関数)であってもよい。
【0099】
つまり、表示するのは、K1に基づいた、よくK1を反映する情報、または、K1/k2に基づいた、よくK1/k2を反映する情報であれば、どのようなものであってもよい。
【0100】
また、上記実施形態においては、MRI装置1が肝機能診断装置の一例として挙げられているが、肝機能診断装置は、必ずしもMRI装置1のような構成でなくともよい。例えば、肝機能診断装置は、上述のMRI装置1からセンサ・アクチュエータ部2を省いた制御・表示部3だけで成り立つような装置(例えば、ワークステーション、パーソナルコンピュータ)であってもよい。その場合、被検者11の撮影画像群は、他のMRI装置で撮影されたものを、通信または持ち運び可能な記憶媒体(USBメモリ等)を介してHDD36に記録すればよい。このような場合、肝機能診断装置は、撮影制御処理37aを実行する必要はなく、解析・表示制御処理37bのみを実行できればよい。
【0101】
また、上記の実施形態において、CPU37がプログラムを実行することで実現している各機能は、それらの機能を有するハードウェア(例えば回路構成をプログラムすることが可能なFPGA)を用いて実現するようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 MRI装置
2 センサ・アクチュエータ部
3 制御・表示部3
5 門脈
6 肝臓中の一部位
11 被検者
33 画像表示装置
37 CPU
37a 撮影制御処理
37b 解析・表示制御処理
41 ダイナミック造影相
42 肝細胞造影相
43 ROI
49 回帰直線
52、56 K1画像
53、57 K1/k2画像

【特許請求の範囲】
【請求項1】
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が投与された被検者(11)の肝臓の複数の部位と、前記肝臓に血液を注ぐ血管と、を対象として所定期間繰り返し撮影された、核磁気共鳴イメージングによる撮影画像群を取得する取得手段(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する濃度算出手段(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数8】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数8の時間tに依存しない係数K1を算出する係数算出手段(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる表示制御手段(165、170、180)と、を備えた肝機能診断装置。
【請求項2】
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が投与された被検者(11)の肝臓の複数の部位と、前記肝臓に血液を注ぐ血管と、を対象として所定期間繰り返し撮影された、核磁気共鳴イメージングによる撮影画像群を取得する取得手段(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する濃度算出手段(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数9】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数9の時間tに依存しない係数K1の、前記数2の時間tに依存しない係数k2に対する比K1/k2を算出する係数算出手段(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記比K1/k2に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる表示制御手段(165、170、180)と、を備えた肝機能診断装置。
【請求項3】
前記係数算出手段(160)は、
前記数1を積分することで得られる
【数10】

【数11】

【数12】

に従って、前記所定期間内の各時刻tの前記数11のX(t)および前記数12のY(t)の組を算出し、前記複数の時刻tの前記X(t)および前記Y(t)の組のうち、時刻tの最も遅いものから遡って一部の複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて、直線回帰で前記係数K1を算出することを特徴とする請求項1に記載の肝機能診断装置。
【請求項4】
前記係数算出手段(160)は、
前記数2を積分することで得られる
【数13】

【数14】

【数15】

に従って、前記所定期間内の各時刻tの前記数14のX(t)および前記数15のY(t)の組を算出し、前記複数の時刻tの前記X(t)および前記Y(t)の組のうち、時刻tの最も遅いものから遡って一部の複数組のみを抽出し、その抽出した複数組を用いて、直線回帰で前記比K1/k2を算出することを特徴とする請求項2に記載の肝機能診断装置。
【請求項5】
前記表示制御手段(165、170、180)は、算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく量を、前記複数の部位と同じ配置で並べた二次元画像を、前記画像表示装置(33)に表示させることを特徴とする請求項1または3に記載の画像表示制御装置。
【請求項6】
前記表示制御手段(165、170、180)は、算出された前記複数の部位の各々の前記比K1/k2に基づく量を、前記複数の部位と同じ配置で並べた二次元画像を、前記画像表示装置(33)に表示させることを特徴とする請求項2または4に記載の画像表示制御装置。
【請求項7】
被検者(11)の周りに静磁場を発生させるための静磁場発生器(21)と、
前記静磁場に重畳する傾斜磁場を発生させるための傾斜磁場発生器(22)と、
前記被検者(11)の生体内の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために高周波磁場を照射する送信系回路(25)と、
前記核磁気共鳴によって前記被検者(11)から発生するNMR信号を検出し、前記NMR信号に基づいたデータを出力する受信系回路(26)と、
記憶媒体(34〜36)と、
画像表示装置(33)と、
制御回路(37)と、を備え、
前記制御回路(37)は、
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が前記被検者(11)に投与された後の所定期間に前記受信系回路(26)から取得された前記データに基づいて、前記被検者(11)の肝臓の複数の部位および前記肝臓に血液を注ぐ血管の、前記所定期間内の各時刻tにおける撮影画像群を作成して前記記憶媒体(34〜36)に記録する撮影制御手段(37a)と、
前記撮影制御手段によって前記記憶媒体(34〜36)に記録された前記撮影画像群を取得する取得手段(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する濃度算出手段(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数16】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数16の時間tに依存しない係数K1を算出する係数算出手段(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる表示制御手段(165、170、180)と、を備えたことを特徴とするMRI装置。
【請求項8】
被検者(11)の周りに静磁場を発生させるための静磁場発生器(21)と、
前記静磁場に重畳する傾斜磁場を発生させるための傾斜磁場発生器(22)と、
前記被検者(11)の生体内の原子核に核磁気共鳴を起こさせるために高周波磁場を照射する送信系回路(25)と、
前記核磁気共鳴によって前記被検者(11)から発生するNMR信号を検出し、前記NMR信号に基づいたデータを出力する受信系回路(26)と、
記憶媒体(34〜36)と、
画像表示装置(33)と、
制御回路(37)と、を備え、
前記制御回路(37)は、
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が前記被検者(11)に投与された後の所定期間に前記受信系回路(26)から取得された前記データに基づいて、前記被検者(11)の肝臓の複数の部位および前記肝臓に血液を注ぐ血管の、前記所定期間内の各時刻tにおける撮影画像群を作成して前記記憶媒体(34〜36)に記録する撮影制御手段(37a)と、
前記撮影制御手段によって前記記憶媒体(34〜36)に記録された前記撮影画像群を取得する取得手段(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する濃度算出手段(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数17】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数17の時間tに依存しない係数K1を算出する係数算出手段(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる表示制御手段(165、170、180)と、を備えたことを特徴とするMRI装置。
【請求項9】
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が投与された被検者の肝臓の複数の部位および前記肝臓に血液を注ぐ血管を対象として所定期間繰り返し撮影された、核磁気共鳴イメージングによる撮影画像群を取得する処理を肝機能診断装置(3)に行わせる取得手順(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する処理を前記肝機能診断装置(3)に行わせる濃度算出手順(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数18】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数18の時間tに依存しない係数K1を算出する処理を肝機能診断装置(3)に行わせる係数算出手順(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記係数K1に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる処理を前記肝機能診断装置(3)に行わせる表示制御手順(165、170、180)と、を備えた肝機能診断方法。
【請求項10】
投与後正常肝細胞に特異的に取り込まれ、さらに肝細胞から毛細血管へ排泄される造影剤が投与された被検者の肝臓の複数の部位および前記肝臓に血液を注ぐ血管を対象として所定期間繰り返し撮影された、核磁気共鳴イメージングによる撮影画像群を取得する処理を肝機能診断装置(3)に行わせる取得手順(110)と、
取得された前記撮影画像群に基づいて、前記所定期間内の各時刻tにおける前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)、および、前記所定期間内の各時刻tにおける前記肝臓の前記複数の部位のそれぞれの内部の前記造影剤の濃度Ch(t)を算出する処理を前記肝機能診断装置(3)に行わせる濃度算出手順(115〜155)と、
前記複数の部位の各々について、前記各時刻tにおける当該部位の内部の前記造影剤の濃度Ch(t)と前記血管内の前記造影剤の濃度Ca(t)を、
【数19】

のように規定する2コンパートメントモデルに適用することで、前記数19の時間tに依存しない係数K1の、前記数2の時間tに依存しない係数k2に対する比K1/k2を算出する処理を前記肝機能診断装置(3)に行わせる係数算出手順(160)と、
算出された前記複数の部位の各々の前記比K1/k2に基づく情報を前記画像表示装置(33)に表示させる処理を前記肝機能診断装置(3)に行わせる表示制御手順(175、180)と、を備えた肝機能診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−167408(P2011−167408A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−35145(P2010−35145)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【出願人】(000125381)学校法人藤田学園 (19)
【Fターム(参考)】