説明

肝移植細胞、アッセイ法、およびその使用法

【課題】実質的に濃縮された哺乳類肝移植細胞集団を提供するための肝移植細胞の単離、および、培養方法の提供。
【解決手段】組成物中の細胞の少なくとも80%はR2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられる、哺乳類肝移植細胞の組成物を濃縮する方法。成熟した肝細胞を生じる能力のある細胞を含む組成物。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
序説
肝臓は、体のいくつもの生命維持に必要な機能を実行しており、この機能には、正常な状態を維持するために重要な多くの物質の調節、合成、および分泌;グリコーゲン(グルコース)、ビタミン、およびミネラルのような重要な栄養素の貯蔵;ならびに老廃物、薬剤、および毒素の浄化、変換、および除去が含まれる。しかし、その特有な特徴と活性のために、肝臓は様々な種類の障害を受けやすくなっており、そのような障害はヒトの健康に多大な影響を与え得る。
【0002】
肝臓で最も豊富で代謝活性のある細胞は、肝細胞である。肝臓の小葉は六角形をしており、6つの門脈3分枝が表面にあり、それぞれ門脈の分枝、肝動脈の分枝、および胆管を含み、これが肝細胞の層によってしっかりとまとめられている。肝細胞は分裂することはまれであるが、肝臓の一部を除去するような、適当な刺激に応答して再生する独特の能力を持つ。この過程には制御された増殖が関与しており、元の重量の5〜10%以内に肝臓を回復させる。
【0003】
肝臓は、傷害を受けた後に再生する独特の能力を持つ。この過程は「成熟した」肝細胞の増殖によって開始し、胆管上皮細胞(BEC)および洞様血管細胞は、その後で増殖する。肝臓の再生は、部分的肝切除術の後、およびウイルス、毒素、または虚血性の障害のような、肝臓を部分的に破壊する傷害後に、重要な役割を果たす。しかし、過剰な傷害があると、「引き返し限界点」に達し、正常組織が瘢痕組織で置換される。肝臓が再生する能力は、既存または繰り返しの肝臓障害または疾患によっても損なわれる。
【0004】
骨髄由来の幹細胞と、肝細胞を発生させる細胞の間には、いくつかの表面決定基が共通してあることが分かっており、これには、齧歯類のc-kit、CD34、およびThy-1、ならびにヒトのc-kitおよびCD34が含まれる(Omoriら、(1997) Hepatology 26: 720-727(非特許文献1);Lemmerら(1998) J. Hepatol 29: 450-454(非特許文献2);Petersonら(1998) Hepatology 27: 433-445(非特許文献3);同上(1999) Science 284: 1168-1179(非特許文献4);Baumannら(1999) Hepatology 30:112-117(非特許文献5);Lagasseら(2000) Nature Med. 11: 1229-1234(非特許文献6)を参照されたい)。これらの所見は、劇症肝炎および肝臓の遺伝性代謝疾患の治療のための2つの新規の手法である、遺伝子療法および肝細胞移植に、重要な臨床的意味を持つ。
【0005】
ある未熟な肝細胞株がBECと肝細胞の両方に分化できることを示す証拠がある。例えば、Fiorinoら(1998) In Vitro Cell Dev Biol Anim 34(3):247-58(非特許文献7)は、条件的形質転換した肝前駆細胞株を報告している。ColemanおよびPresnell (1996) Hepatology 24(6):1542-6(非特許文献8)は、成熟した肝細胞に両能性の分化能力があることを示唆する、増殖する肝細胞培養における表現型の推移を論じている。楕円形の細胞前駆体は、へーリング管または胆管の隣のいずれにも見られると考えられる。胆管細胞は、楕円形細胞の増殖に必要であり、これは前駆細胞の供給源であるか、補助的または誘導する役割を持つことが示される。Kubotaら、国際公開公報第02/28997号(特許文献1)は、ICAM-1を発現する前駆細胞集団を開示している。
【0006】
中間フィラメントタンパク質、特に胆管特異的サイトケラチン19 (CK19)および肝細胞特異的HepPar1抗原は、肝臓の形態形成の際に、肝前駆細胞の発生段階を定義するのに役立つ。小管の肝細胞は増殖し、肝細胞およびBECと共通の表現型の特徴を示す。肝細胞の分化が進むに連れ、HepPar1抗原が増加し、CK14およびCK19の発現が失われる。反対に、前駆細胞が管プレート細胞へ形質転換されると、分化した胆管におけるCK19の発現が増加するが、CK14およびHepPar1抗原は失われる。したがって肝前駆細胞は特定の表現型の特徴の獲得または損失によって特徴づけられるいくつかの段階を通して分化する可能性がある。肝細胞または胆管上皮細胞系への細胞のコミットメントが起きると、1つのマーカーの発現の上昇および他のマーカーの損失が起きる。初期の報告では、そのような両能性前駆細胞のインビボにおける存在は、Douarin (1975) Med. Biol. 53:427-455(非特許文献9);Shiojiriら(1991) Cancer Res. 51: 2611-2620(非特許文献10);Harunaら(1996) Hepatology 23(3):476-81(非特許文献11);TatenoおよびYoshizato (1996)Am J Pathol 149(5):1593-605(非特許文献12);ならびにHaqueら(1996) Lab Invest 75(5):699-705(非特許文献13)が示唆している。アルブミンおよびαフェトプロテインの発現も、肝細胞の有用なマーカーである。
【0007】
肝前駆細胞の考察は、Susickら(2001) Ann. N.Y. Acad. Sci. 944:398-419(非特許文献14);米国特許第5,576,207号(特許文献2);および米国特許出願第2002/0016/000号(特許文献3)に記載されている。
【0008】
肝前駆細胞およびそれに由来するのさらなる解析を行うためには、これは細胞の再生を調節する「環境的」要因と細胞の内因性の要因の間の複雑な相互作用、ならびに成熟した肝細胞を生じる能力のある特定の細胞の表現型を定義を解読できる、明確に規定されたモデル系が重要である。発生中の肝臓および生体肝、ならびに胆管における細胞系統の専門化および分化を調節する因子の同定および解析は、非常に興味深い。肝移植細胞のさらなる解析は、科学的および臨床的に非常に興味深い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開公報第02/28997号
【特許文献2】米国特許第5,576,207号
【特許文献3】米国特許出願第2002/0016/000号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Omoriら、(1997) Hepatology 26: 720-727
【非特許文献2】Lemmerら(1998) J. Hepatol 29: 450-454
【非特許文献3】Petersonら(1998) Hepatology 27: 433-445
【非特許文献4】Petersonら(1999) Science 284: 1168-1179
【非特許文献5】Baumannら(1999) Hepatology 30:112-117
【非特許文献6】Lagasseら(2000) Nature Med. 11: 1229-1234
【非特許文献7】Fiorinoら(1998) In Vitro Cell Dev Biol Anim 34(3):247-58
【非特許文献8】ColemanおよびPresnell (1996) Hepatology 24(6):1542-6
【非特許文献9】Douarin (1975) Med. Biol. 53:427-455
【非特許文献10】Shiojiriら(1991) Cancer Res. 51: 2611-2620
【非特許文献11】Harunaら(1996) Hepatology 23(3):476-81
【非特許文献12】TatenoおよびYoshizato (1996)Am J Pathol 149(5):1593-605
【非特許文献13】Haqueら(1996) Lab Invest 75(5):699-705
【非特許文献14】Susickら(2001) Ann. N.Y. Acad. Sci. 944:398-419
【発明の概要】
【0011】
肝臓に移植され、分化した肝細胞を生じる能力のある前駆細胞である、肝移植細胞(LEC)の分離および解析の方法が提供される。細胞は、前方散乱および自己蛍光、および/または特定の細胞表面マーカーの発現によって、分離できる。細胞は、移植、実験的評価、ならびにこれらの細胞で特異的に発現する遺伝子の同定に有用なmRNAを含む系統および細胞特異的産物の供給源として、ならびにこれらに影響を与える因子または分子の探索のための標的として、有用である。
【0012】
肝移植細胞増殖およびクローン解析を含む解析には、インビトロおよびインビボ系がある。クローン原性アッセイ法は、間質細胞のフィーダー層の存在下でインビトロで実行できる。細胞は、フィーダー層なしでインビトロで増殖させることもできる。これらの培養系は、肝移植細胞の増殖および解析に適している。インビボでは細胞は肝臓に移植され、移植はFAH欠損動物の肝細胞の再増殖によって、実験的に試験できる。
【0013】
肝移植細胞は、肝特異的ウイルス、例えばA、B、C、D、E型肝炎ウイルス等、特にヒト肝炎ウイルスに関連する治療法の評価に使用できる。さらに毒性試験、肝細胞の培養の生産、および肝代謝の副産物、例えば肝細胞による薬剤の変換産物、を提供する手段としても、使用できる。
【0014】
特定の態様の説明
肝移植細胞(LEC)は単離および解析され、インビボで移植されたときに肝細胞に発生する能力のある前駆細胞であることが示される。肝移植細胞の濃縮された細胞集団は、レシピエントに肝機能を回復させるための移植;薬剤スクリーニング;肝発生のインビトロおよびインビボモデル;増殖および分化因子を決定するため、ならびに肝発生および調節に関与する遺伝子の解析のためのインビトロおよびインビボスクリーニングアッセイ法等において、有用である。これらの目的のためには天然の細胞を使うこともできるが、能力を変化させるために遺伝的に改変した細胞でも良い。
【0015】
再生する肝細胞へ発生する能力は、インビボ、例えば免疫不全動物、例えばRAG、SCID、ヌード等、FAH-/-動物、または同種、同系、または異種ドナー細胞を持つFAHノックアウト免疫不全動物において、これらのドナー細胞がこの系で機能性を提供する能力によって、評価することができる。FAH発現は、ヒトの遺伝病であるチロシン血症1型の欠損である。FAH機能は、移植された肝細胞によって提供される。または、生物学的機能の評価には、肝細胞を生成する条件下で適当な増殖因子および/またはサイトカインと培養することによる、インビトロの方法も使用できる。培養で増殖すると、細胞は典型的な上皮細胞の形態を持つ単層として増殖する。
【0016】
本発明の肝移植細胞は、生存率、前方散乱、自己蛍光、および細胞表面マーカーの発現によって、濃縮できる。例えば、ヨウ化プロピジウム(PI)染色後、死んだ細胞は色素を除外できないので、明るく染色される。一方で、生きた細胞はヨウ化プロピジウム染色で陰性または弱く染色される。関心対象の細胞は、図1に示されるように、非常に明るいものと陰性のものとの間のPIlow分集団に存在する。前方散乱も用いて、図1に示されるように強い前方散乱を持つ、関心対象の細胞にゲートをかけることができる。
【0017】
強い前方散乱の細胞集団内で、PIlow細胞、肝移植細胞は特定のマーカーの発現に関して正または負の選択ができる。フローサイトメトリー分析および以下に記載するような細胞表面マーカーの選別によって、生存力のある細胞が選別できる。正の選択のための関心対象のそのようなマーカーの1つは5E12エピトープである。正の選択に5E12と互換的に使用できる他のマーカーには、ep-cam、e-カドヘリン、およびCD49fがある。好ましくは、細胞はHLAクラスI抗原、すなわちHLA-A、HLA-B、およびHLA-Cの低い発現に関しても、選択される。HLAクラスI抗原と互換的に使用できる他のマーカーには、CD38およびCD54が含まれる。さらに、細胞は、CD117および/またはCD14の発現に関して、負の選択をする、または陰性と特徴づけることもできる。通常は選択に使用されるわけではないが、細胞質タンパク質のアルブミンおよびCK19の両方の発現は、LECに特徴的である。
【0018】
定義
以下に提供されるマーカーおよび細胞の定義では、ヒトの細胞が本発明の好ましい態様である際には、ヒトのタンパク質、細胞等に関して通常は定義される。細胞源として他の哺乳類も使用でき、そのような非ヒト種からの細胞の選択は、その種に関して対応する相同で機能的に関連したマーカーを使用することは、当業者には理解されるだろう。
【0019】
肝移植
本明細書では、「肝移植細胞」という用語は、動物に移植されると成熟した肝細胞を生じるような前駆細胞集団を指す。肝前駆細胞の発生能力は、機能および表現型の基準で評価できる。機能的には、肝細胞はFAH欠損を補完する能力、およびアルブミン、α-1-抗トリプシン、αフェトプロテイン等を含む肝特異的タンパク質の発現によって、特徴づけられる。肝細胞は、肝炎ウイルス、例えばA型肝炎(HAV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、D型肝炎(HDV)、E型肝炎(HEV)等が感染する能力によっても特徴づけられる。本発明の肝移植細胞は、BECも生じることができ、これはサイトケラチン19の発現、多細胞性管形成、および個々の単層細胞の間の胆細管の形成によって、機能的に特徴づけられる。
【0020】
陽性および陰性染色
本肝移植細胞は、細胞表面マーカーの発現によって特徴づけられる。特定のマーカーについて細胞が「陽性」または「陰性」と呼ぶのは当技術分野では一般的であるが、実際の発現レベルは定量的な形質である。細胞表面の分子数は数桁の差があっても、やはり「陽性」として特徴づけられる。また、染色で陰性の細胞、すなわちマーカー特異的試薬の結合レベルの対照との差が検出できないような細胞、例えば同位体対応対照も、少量のマーカーを発現しうるのは、当技術分野で周知である。染色レベルを解析すると、細胞集団の間の細かい区別が可能になる。
【0021】
細胞の染色強度は、レーザーが蛍光色素の定量的なレベル(例えば抗体のような特定の試薬が結合した細胞表面マーカーの量に比例する)を検出するフローサイトメトリーによってモニターできる。フローサイトメトリーすなわちFACSは、特定の試薬への結合強度、ならびに細胞のサイズおよび光散乱のような他のパラメーターに基づいた細胞集団の分離にも使用できる。染色の絶対レベルは特定の蛍光色素および試薬の調製によって異なる可能性はあるが、データは対照に対して標準化できる。
【0022】
対照に対して分布を標準化するためには、各細胞を特定の強度の染色を持つデータポイントとして記録する。これらのデータポイントは、測定ユニットは任意の染色強度で対数目盛を用いて表示できる。1つの例では、試料中の最も明るく染色される細胞は、非染色細胞と比較して4桁強い。このように表示すると、染色強度が最も高い桁にある細胞は明るく、最も低い強度の細胞は陰性であるのが明らかである。「低い」陽性に染色される細胞は、同一アイソタイプの対照の明るさを超える染色レベルを持つが、細胞集団で通常に見られる最も明るく染色される細胞ほどは強く染色されない。低い陽性の細胞は、試料中の陰性および明るく染色される陽性の細胞とは異なる独特の性質を持つ可能性がある。別の対照は、例えば加工されたビーズまたは細胞株のように、表面に規定の密度のマーカーを持つ基質で、強度に関して陽性対照を提供するものであることがある。
【0023】
前駆細胞の供給源
細胞の供給源として有用なエキソビボおよびインビトロ細胞集団には、胚、胎児、小児、または成体組織から得られた、新鮮または凍結した肝細胞集団、胆管細胞集団、または膵臓細胞集団等が含まれる。本方法は、他の細胞特異的マーカーに関する陽性選択による、細胞単離のためのさらなる濃縮または精製手順または段階を含み得る。前駆細胞は、任意の哺乳類、例えばヒト、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコ、齧歯類、例えばマウス、ラット、ハムスター、霊長類頭から得られる。
【0024】
R2集団
上述の肝移植前駆細胞を含む細胞集団は、生体色素(ヨウ化プロピジウム、7-AAD等)の存在下における前方散乱、自己蛍光、および生存率に基づいて分離できる。本明細書で使用されるR2細胞集団は、図1に示すような生きた、強い前方散乱の、自己蛍光細胞を指す。生体色素ヨウ化プロピジウム(PI)で染色後、関心対象の細胞は明るく染色されず、すなわち(PIlow)である。この細胞集団は、肝移植前駆細胞について濃縮されているが、線維芽細胞、内皮細胞などの細胞の混入もある。
【0025】
5E12
本発明の肝移植細胞は、5E12抗原の発現が陽性である。5E12モノクローナル抗体は、元々ヒト神経細胞に対して作製された。抗体は約125 kDaのタンパク質を認識する。5E12モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株は、American Type Culture Collectionにアクセッション番号PTA-994(同時係属中の特許出願第60/119725号を参照されたい)として寄託されている。
【0026】
Ep-cam
本発明の肝移植細胞は、ep-camの発現が陽性である。この抗原は、上皮表面抗原(ESA)および上皮糖タンパク質2 (EGP-2)としても知られている。Ep-camは、Ca2+非依存性の同型細胞間接着を仲介する。Ep-CAMのインビボでの発現は、上皮の増殖の増加と関連しており、細胞の分化と負の相関がある。上皮組織の形態形成におけるEp-CAMの調節機能は、いくつかの組織で示されている。配列は、Szalaら(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. 87:3542-3546に開示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号347197等として市販されている。
【0027】
E-カドヘリン
本発明の肝移植細胞は、e-カドヘリンの発現が陽性である。E-カドヘリンは上皮の接着結合に局在する120 kDaの膜貫通糖タンパク質である。5つの細胞外カルシウム結合リピートを通して、カルシウム依存性の細胞間接着を提供する。細胞表面での発現は、特異的な細胞外領域によって与えられる、細胞選別、同種親和性相互作用の特異性を導く。細胞内領域では、細胞質のパートナーであるβカテニンまたはプラコグロビン(PG)と連結し、それによりαカテニンおよびアクチンフィラメントネットワークに連結する。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号610181等として市販されている。
【0028】
CD49f
本発明の肝移植細胞は、CD49fの発現が陽性である。インテグリンα-6 (CD49f)は150 kDaの膜貫通タンパク質であり、主に上皮細胞によって発現されるインテグリンのヘテロダイマーの一部である。α6はインテグリンβ1鎖と結合してVLA-6を形成し、インテグリンβ4鎖と結合してラミニンおよびカリニン受容体を形成する。CD49fは主にT細胞、単球、血小板、上皮および内皮細胞、神経周囲細胞、および胎盤の栄養膜で発現される。配列はTamuraら(1990) J. Cell Biol. 111:1593-1604に示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号557511として市販されている。
【0029】
HLAクラスI
本発明の肝移植細胞は、クラスI HLA発現が陰性であるかまたは低い。クラスI遺伝子座の例には、HLA-A、-B、および-Cがある。クラスI MHC抗原は、多型性の2鎖の細胞表面糖タンパク質である。クラスI抗原の軽鎖はβ-2-ミクログロブリンである。重鎖は分子量が44,000で、各々90アミノ酸の3つのN末端細胞外ドメイン、小さな疎水性の膜貫通部分、および小さな親水性の細胞内C-末端ドメインで構成されている。Malissenら(1982) Proc. Natl. Acad. Sci. 79:893-897を参照されたい。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号557349等として市販されており、この抗体は主要組織適合遺伝子複合体クラスI抗原の単形エピトープのヒト型と反応する。
【0030】
CD54
成体肝組織から単離された本発明の肝移植細胞は、CD54発現が陰性である。胎児組織から単離された細胞は、CD54発現が陰性の場合も陽性の場合もあるが、一般にCD54陽性細胞、例えば5E12-細胞集団に見られる細胞よりは、明るくない。CD54は細胞間接着分子(ICAM-1)、90 (kDa)としても知られている。CD54抗原は、白血球の機能関連抗原-1(CD11a/CD18)のリガンドであり、内皮細胞に対する白血球のLFA-1依存性接着および細胞間接触の関与する免疫機能の両方に影響を与える。CD54抗原は、線維芽細胞、上皮細胞、および内皮細胞で誘導可能である。正常組織では、CD54抗原の密度は、内皮が最も高く、サイトカインへの曝露、炎症、および悪性形質転換のような要因で上昇する。ICAM-1のヌクレオチド配列は、Simmonsら(1988) Nature 331:624-627、1988に開示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号347977等として市販されている。
【0031】
CD117
本発明の肝移植細胞は、CD117発現が陰性である。CD117は受容体チロシンキナーゼc-Kitを認識する。この受容体は、造血幹細胞を含む幹細胞に特に関連している。c-Kitの複数のアイソフォームは異なるmRNAスプライシング、タンパク質分解性切断、および特定の細胞における潜在性の内部プロモーターの使用によって存在する。構造的には、c-Kitは細胞外に5つの免疫グロブリン様ドメイン、および細胞内に77のアミノ酸挿入物によって2つの領域に分割される触媒ドメインを含む;配列はYardenら(1987) EMBO J. 6(11):3341-3351に示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CA、カタログ番号340529等として市販されている。
【0032】
CD14
本発明の肝移植細胞は、CD14発現が陰性である。CD14は2つの形のタンパク質、すなわち50から55 kDのグリコシルホスファチジルイノシトール結合型膜タンパク質(mCD14)、および結合のない単球または肝由来の可溶性血清タンパク質(sCD14)をコードする単一コピーの遺伝子である。両方の分子とも、リポ多糖類(LPS)依存性シグナル伝達に重要で、sCD14はmCD14を持たない細胞にLPS感受性を与える。配列はGovertら(1988) Science 239:497-500に示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CAから市販されている。
【0033】
CD34
本発明の肝移植細胞は、CD34発現が陰性または陽性である可能性がある。CD34は約110 kDの分子量を持つモノマー性細胞表面抗原であり、ヒトの造血前駆細胞上に選択的に発現される。この遺伝子は造血前駆細胞のほかに、小血管の内皮細胞でも発現され、一本鎖の105〜120 kDaの高度にO-グリコシル化された膜貫通糖タンパク質である。配列はSimmonsら(1992) J. Immunn. 148:267-271に開示されている。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CAからカタログ番号550760等として市販されている。
【0034】
CD38
本発明の肝移植細胞は、CD38発現が陰性または陽性である可能性があるが、一般には、例えば5E12-細胞集団の細胞のようなCD38陽性細胞よりは明るくない。CD38は300アミノ酸のII型膜貫通タンパク質で、短いN末端の細胞質尾部および4つのC末端細胞外Nグリコシル化部位を持つ。配列はJacksonら(1990) J. Immun. 144:2811-2815に開示されている。本マーカーは一般にリンパ球、骨芽細胞、および赤芽細胞に関連している。抗体は、例えば、BD Biosciences、Pharmingen、サンディエゴ、CAからカタログ番号347680等として市販されている。
【0035】
肝移植細胞の単離
本肝移植細胞は、上述の特徴を持つ細胞を濃縮する技術を用いて、複雑な細胞混合物から分離される。例えば、細胞集団はR2細胞集団から、5E12、e-カドヘリン、ep-cam、およびCD49fのうちの1つまたは複数の発現によって選択できる。選択的に、細胞はHLAクラスI抗原の発現レベルが低いかまたは陰性(本明細書ではHLAlowと呼ぶ)のものについて選択される。CD54およびCD38はHLAと互換的に使用できる。
【0036】
組織からの細胞の単離には、分散または懸濁のために、適当な溶液が使用できる。そのような溶液は、一般に、例えば生理食塩水、PBS、ハンクス液等のような平衡塩類溶液であって、ウシ胎児血清または他の天然の因子、および通常は5〜25 mMである低濃度の許容される緩衝剤が都合良く添加された溶液である。都合の良い緩衝液にはHEPES、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液等がある。
【0037】
対象の細胞は大きな芽細胞であるので、最初の分離では、水簸(elutriation)、フィコール・ハイパック、または芽細胞にゲートをかけるために前方および鈍角散乱のパラメーターを用いたフローサイトメトリーを含む、当技術分野で周知の種々の方法によって、大きな細胞を選択することができる。
【0038】
細胞集団の分離には、次に実質的に純粋な細胞集団を提供するために、親和性分離を用いる。親和性による分離のための技術には、抗体でコートした磁気ビーズを用いた磁気分離、アフィニティクロマトグラフィー、モノクローナル抗体と結合またはモノクローナル抗体と組み合わせて使用する細胞毒性薬剤、例えば補体および細胞毒素、およびプレートのような固相基質に結合した抗体を用いた「パンニング」、または他の通常の技術が含まれ得る。正確な分離を提供する技術には蛍光細胞分析分離装置があり、これはマルチカラーチャネル、低角度および鈍角の光散乱検出チャネル、インピーダンスチャネル等のような様々な程度の精巧さを持ち得る。細胞は、死細胞に結合する色素(ヨウ化プロピジウム、7-AAD)を用いて、死細胞を除くように選択できる。選択される細胞の生存率をむやみに損なわない任意の技術が使用できる。
【0039】
親和性試薬は、上述の細胞表面分子の特異的な受容体またはリガンドでよい。抗体の調製の詳細およびそれを特異的な結合メンバーとして使用する適切性は、当技術分野で周知である。
【0040】
特に興味深いのは、親和性試薬として抗体を使用することである。これらの抗体に、分離に使用するための標識が結合していると都合が良い。標識には、直接の分離を可能にする磁気ビーズ、基質に結合したアビジンまたはストレプトアビジンを用いて除去できるビオチン、特定の種類の細胞を簡単に分離できる蛍光細胞分析分離装置等と使用できる蛍光色素が含まれる。使用できる蛍光色素には、フィコビリプロテイン、例えばフィコエリスリンおよびアロフィコシアニン、フルオレセイン、およびテキサスレッドが含まれる。しばしば、各マーカーを独立して選別できるように、各抗体は異なる蛍光色素で標識される。
【0041】
抗体は細胞の懸濁液に加え、利用できる細胞表面抗原に結合するために十分な時間、インキュベートする。インキュベーションは通常少なくとも約5分で、通常は約30分未満である。分離の効率が抗体の不足によって制限されないように、反応液中には十分な濃度の抗体があることが望ましい。力価測定によって適当な濃度が決定される。細胞を分離する際の培地は、細胞の生存率を維持する任意の培地で良い。好ましい培地は、0.1〜0.5%BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水である。ダルベッコ変法イーグル培地(dMEM)、ハンクス液(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(dPBS)、RPMI、イスコフ培地、5 mM EDTA添加PBS等の種々の培地が市販されており、細胞の性質に合わせて使用でき、しばしばウシ胎児血清、BSA、HSA等が添加される。
【0042】
次に、標識された細胞は、上述の表現型について分離される。分離された細胞は、細胞の生存率を維持する任意の適当な培地中に採集されるが、通常は採集管の底に血清のクッションがある。dMDM、HBSS、dPBS、RPMI、イスコフ培地等を含む種々の培地が市販されており、細胞の性質に合わせて使用でき、しばしばウシ胎児血清が添加される。
【0043】
肝移植活性の高度に濃縮された組成物は、このようにして作製できる。対象細胞集団は、細胞組成物が約50%またはそれ以上で、通常は細胞組成物が約90%またはそれ以上で、生きた細胞組成物が約95%またはそれ以上の場合もある。濃縮された細胞集団は、直ちに使用するか、液体窒素の温度で凍結させ、長期間保管し、解凍後に再使用することもできる。細胞は通常、10%DMSO、50%FCS、40%RPMI 1640培地中に保存される。一度解凍したら、細胞は増殖因子および/または間質細胞を使用して、増殖および分化のために増殖できる。
【0044】
本方法は、肝細胞機能のインビトロまたはインビボモデルの開発に有用であって、また遺伝子療法および人工臓器の作製のための実験にも有用である。発生する肝細胞は、新規の増殖因子および薬剤の貴重な供給源であり、およびウイルスまたはワクチンの生産(例えば肝炎ウイルス)、ならびに肝臓の寄生虫または肝臓での発生段階を持つ寄生虫(例えばマラリア生物)の研究、薬剤および産業化合物のインビトロ毒性および代謝試験、遺伝子療法実験(肝臓は体の最大の血管性臓器であるため)、人工の移植可能な肝臓の作製、ならびに肝臓の変異誘発および発癌性試験のために役立つ。
【0045】
機能アッセイ法
肝前駆細胞のインビボ能力を決定するための関心対象のアッセイ法は、遺伝性チロシン血症1型の動物モデルであり、これは重症の常染色体劣性の代謝疾患で、肝臓および腎臓に影響を与え、酵素フマリルアセトアセテートヒドロラーゼ(FAH)の欠損によって生じる。FAH遺伝子欠損(FAH-/-)のホモ接合マウスを、2-(2-ニトロ-4-トリフルオロ-メチルベンジオル)-1,3-シクロヘキサンジオン(NTBC)で治療すると、新生児の致死性が見られなくなり、肝臓および腎臓の機能が修正される。この動物モデルは、例えば、Grompeら(1995) Nature Genetics 10:453-460;Overturfら(1996) Nat. Genet. 12(3):266-73;等に記述されている。
【0046】
本発明の1つの態様では、FAHマウスを、肝移植細胞で再構成するが、細胞はヒト前駆細胞または検出可能なマーカーを含むマウス細胞である可能性がある。例えば、細胞を放射線照射したマウスに導入し、まず肝臓を再構成させ、その後NTBCを除去して肝再構成の選択をする。または、NTBCは肝移植細胞の導入後直ちに除去しても良い。再構成した動物は、ワクチンおよび例えばA、B、C、D、E型肝炎のような肝ウイルスに対する抗ウイルス薬のスクリーニング;生物学的活性を持つ薬剤の代謝および毒性試験;等に有用である。
【0047】
インビトロ細胞培養
濃縮された細胞集団は、様々な培養条件下でインビトロで増殖できる。培養で増殖されるとき、対象細胞は典型的な上皮細胞の形態を持った単層として増殖する。培地は液体または例えば、寒天、メチルセルロース等を含む半固体でよい。細胞集団は、通常ウシ胎児血清(約5〜10%)、L-グルタミン、チオール、特に2-メルカプトエタノール、および抗生物質、例えばペニシリンおよびストレプトマイシン、が添加された、例えばイソコフの改変DMEMまたはRPIMI-1640のような、適当な栄養培地中に懸濁されると都合が良い。
【0048】
対象細胞は、フィーダー層の細胞との共培養で増殖させる。フィーダー層として使用するために適した間質細胞には、骨髄間質細胞、例えばSYS-1細胞株、FFS-1線維芽細胞株等が含まれる。フィーダー細胞として使用できる他の細胞には、ヒトまたは他の動物に由来する線維芽細胞;肝臓と同じ種から得られる初代培養の胎児線維芽細胞;STO線維芽細胞株;等が含まれる。これらの細胞層は、培地に規定されない成分を提供し、多分化能細胞の分化を予防する可能性がある。フィーダー層の存在下での培養は、クローン培養、すなわち単一の前駆細胞が細胞集団へ増殖される場合に、特に有用である。
【0049】
機能アッセイ法は、インビトロの培養細胞、特にクローン原性細胞培養物を用いて行える。例えば、培養細胞がアルブミンおよびα1抗トリプシンを含む肝特異的タンパク質を発現する能力を評価することができる。発現は、RT-PCR、ELISAを含む任意の通常の形式を用いて、培養上清等におけるタンパク質の存在で評価できる。培養細胞は、例えばCK19のような胆管タンパク質を発現する能力も評価できる。
【0050】
培養には、細胞が応答する増殖因子を含むことがある。本明細書で定義される増殖因子は、膜貫通受容体に対する特異的効果を通して、培養または無傷の組織において、細胞の生存、増殖、および/または分化を促進する能力のある分子である。増殖因子には、ポリペプチドおよび非ポリペプチド因子が含まれる。対象細胞の培養に使用できる特異的な増殖因子には、肝細胞増殖因子/散乱因子(HGF)、EGF、TGFα、酸性FGFが含まれるがこれらに限定されない(Blockら;J. Biol Chem、1996 132:1133-1149を参照されたい)。特定の目的、すなわち、前駆細胞の活性の維持等を達成するために特異的な培養条件が選択される。増殖因子に加えて、またはその代わりに、細胞は間質またはフィーダー層細胞と共培養してもよい。前駆細胞の増殖に使用するのに適したフィーダー層細胞は、当技術分野で周知である。
【0051】
共培養した対象細胞は、種々の方法で使用できる。例えば、調整培地である栄養培地を様々な段階で単離し、成分を分析してもよい。分離は、分子量、分子の体積、電荷、その組み合わせ等による分離を可能にするHPLC、逆相HPLC、ゲル電気泳動、等電点電気泳動、透析、または他の非分解性技術を用いて行える。これらの技術の1つまたは複数を組み合わせて、前駆細胞の活性を促進する特異的な画分をさらに濃縮できる。
【0052】
対象細胞は、例えばSuzukiら(2000) Hepatology 32:1230-1239に記述されるように、間質細胞を含まない培地中で培養できる。そのような培養は、好ましくは細胞外マトリックスの成分、例えばラミニン、IV型コラーゲン、I型コラーゲン、フィブロネクチン等のコーティングを提供するような基質上で培養される。一般に培地は、例えばHGF、EGF等の増殖因子を含む。
【0053】
肝移植細胞は、肝細胞およびBECの分化および成熟に関連する因子の単離および評価において、培養系と組み合わせて使用できる。細胞は、調整培地のような培地の活性を決定したり、液体の増殖因子活性や特定の構造の形成への関与を評価したり等のために、アッセイ法に使用できる。培養は、薬剤および他の化合物の加工手段として、関心対象の薬剤の肝代謝の効果を決定するためにも使用できる。例えば、肝代謝の産物を単離し、毒性および有効性の試験をしても良い。
【0054】
移植
肝不全には、重症の肝障害および機能障害に伴う全身性の合併症が関与する。既存の肝疾患を持たない患者に、または慢性肝障害に加えて起こる場合もある。急性肝不全の診断には、黄疸および脳症を含めた症状の存在が必要である。劇症肝不全は、全ての肝機能を損ない、ビリルビン代謝の低下、アンモニアおよび腸管由来タンパク質のクリアランスの低下、および凝固因子生産の低下を引き起こす。腎不全、ショック、および敗血症も誘導する場合がある。肝移植をしなければ、通常は上記の症状の組み合わせのために、50%を上回る患者が死亡する。最良の状況であっても、死亡率は50%を上回る。管理には、肝臓が再生し機能し始めるまでの、総合的な支持措置を伴う。既存の疾患がない場合の急性の肝不全では、肝移植が救命処置となり得る。
【0055】
対象細胞は、レシピエントの肝機能の再生のために使用できる。同種細胞は、前駆細胞の単離およびその後の移植に使用できる。肝機能不全の臨床症状の発現の大部分は、細胞の障害および正常な肝能力の障害に起因する。例えば、ウイルス性肝炎は、肝細胞の障害および死の原因となる。この場合、症状発現には、出血の増加、黄疸、および循環肝細胞酵素レベルの上昇が含まれ得る。肝機能不全が腫瘍のような状態に起因する場合には、対象細胞は自己肝組織から単離し、治療後に肝機能を再生させるために使用できる。
【0056】
肝疾患にはいくつもの原因があり、これは微生物の感染や新生物(腫瘍)から、代謝や循環の問題にまでわたる。肝炎は、炎症と肝細胞への障害を伴う。この種の傷害は、感染物質、毒素、または免疫系の攻撃に起因する可能性がある。しかし、肝炎の最も一般的な原因は、ウイルス感染である。米国では主に3種類のウイルスが肝炎の原因となっている:A、B、およびC型肝炎ウイルスである。合わせると、肝炎ウイルスは毎年米国で50万人近くの患者に感染する。さらに、細菌、真菌、および原生動物も肝臓に感染することがあり、肝臓はすべての血液を媒介とする感染に、ほぼ必然的にある程度関与する。
【0057】
数多くの薬剤が肝臓に障害を与える可能性があり、肝臓の化学的性質の軽度の無症候性変化から、肝不全および死までにわたる。肝毒性は、用量に関連する場合もしない場合もある。タイレノール(アセトアミノフェン)は、肝毒性のある薬剤である;ジランチン(抗痙攣薬)およびイソニアジド(抗結核薬)は「ウイルス様」肝炎を引き起こし得る薬剤の例である。環境および産業性の毒素の両方が、肝臓の様々な変化を引き起こす可能性がある。肝障害は必ずしも用量依存的ではなく、軽症の無症候性の炎症から、劇症の不全または進行性の線維症および肝硬変まで様々である。
【0058】
肝臓の代謝過程の問題は、先天性か後天性のいずれの場合もある。ウィルソン病およびヘモクロマトーシスのようなこれらの疾病のいくつかは、肝炎または肝硬変として発現するものもある。ウィルソン病は、まれな遺伝性疾患で、銅を胆汁に排出できないため、肝臓および神経系に銅が蓄積して毒性を示すものである。ヘモクロマトーシスは、鉄の過負荷症候群で、鉄の沈着が起こり、肝臓、心臓、膵臓、および下垂体を含む様々な器官に障害が生じるものである。鉄は通常は循環する赤血球細胞中に見られるので、これらの疾患は、鉄の消化管からの吸収の遺伝性の増加または複数の輸血に起因する可能性がある。
【0059】
肝臓は、いくつもの状態、特に免疫系が自己の正常組織を攻撃する自己免疫疾患の影響を受ける。例には全身性エリテマトーデスおよび関節リウマチのようなリウマチ性疾患、および潰瘍性大腸炎やクローン病のような炎症性腸疾患が含まれる。
【0060】
例えば感染予防または感染への感受性の低下、機能を失わせる変異を持つ遺伝子の置換等の様々な目的のために、培養または移植の前に細胞に遺伝子を導入できる。または、アンチセンスmRNAまたはリボザイムを発現するベクターを導入し、望ましくない遺伝子の発現を阻害することもできる。遺伝子療法の他の方法は、薬剤耐性遺伝子を導入して、正常な前駆細胞が有利になり、選択性の圧力をかけられるようにするもので、例えば、多剤耐性遺伝子(MDR)、またはbcl-2のような抗アポトーシス遺伝子がある。標的細胞のトランスフェクションに使用できる様々な技術が当技術分野で周知であり、例えば、エレクトロポレーション、DNAカルシウム沈殿法、融合、トランスフェクション、リポフェクション等がある。DNAが導入される特定の様式は、本発明の実施には重要ではない。
【0061】
外来遺伝子を哺乳類細胞に導入するために有用な多くのベクターが知られている。ベクターは、エピソーム、例えばプラスミド、サイトメガロウイルスやアデノウイルス等のようなウイルス由来ベクター、または相同組換えもしくは無作為の組込みによって標的細胞ゲノムに組み込まれる、例えばMMLV、HIV-1、ALV等のようなレトロウイルスベクターである可能性がある。前駆細胞および幹細胞の遺伝子組換えの例は、Svendsenら(1999) Trends Neurosci. 22(8):357-64;Krawetzら(1999) Gene 234(1);1-9;Pellegriniら、Med Biol Eng Comput. 36(6):778-90;およびAlison(1998) Curr Opin Cell Biol. 10(6):710-5を参照されたい。
【0062】
または、肝前駆細胞は、不死化-脱不死化(disimmortalized)(例えばKobayashiら(2000) Science 287:1258-1262を参照されたい)できる。そのような手順では、例えば発癌遺伝子のような不死化する遺伝子配列は、例えばcre-lox系のような部位特異的レコンビナーゼを用いて、簡単に除去できるような方法で、細胞に導入される。
【0063】
前駆細胞の遺伝子を組換えたことを証明するためには、種々の技術が使用できる。細胞のゲノムを制限酵素で消化し、DNA増幅を行いまたは行なずに使用できる。ポリメラーゼ連鎖反応;ゲル電気泳動;制限断片分析;サザン、ノーザン、およびウェスタンブロット;配列決定;その他が使用できる。細胞は、導入されたDNAを発現する能力を維持しながら、分化能力を持つことを保証するために、様々な条件下で培養できる。インビトロおよびインビボの様々な検定を用いて、細胞の多能性の能力が維持されるようにできる。
【0064】
細胞は、任意の生理的に許容できる媒体中で、通常は静脈内、例えば門脈静脈、を含む血管内投与;脾臓内投与等ができるが、細胞が再生および分化するために適当な部位のある他の都合の良い部位にも導入できる。通常は、少なくとも1×103/Kg細胞が投与され、より一般的には少なくとも約1×104/Kg、好ましくは1×106/Kgまたはそれ以上が投与される。細胞は、注射、カテーテル等によって導入できる。
【0065】
対象細胞は、培養細胞として、および肝細胞が潅流液の流れから膜または他の物理的障壁によって分離されている人工肝バイオリアクターのための肝細胞の生成に使用できる。中空の線維膜中で培養された肝細胞を利用する4種類の装置(Circe Biomedical HepatAssist(登録商標)、Vitagen ELADTM、Gerlach BELS、およびExcorp Medical BLSS)は、現在、臨床評価中である。劇症または慢性肝不全の急性代償不全のいずれかの急性肝不全の治療のための人工肝補助装置(BLAD)は非常に興味深いが、肝細胞は培養で維持するのが非常に困難なためもあって、作製が困難である。対象の肝移植細胞を培養することによって、そのような装置のために肝細胞を継続的に供給できる。
【0066】
人工肝バイオリアクターは、1つまたは複数の機能を提供する:酸化的解毒(主にチトクロームP450酵素系による);生体内変化(例えば尿素合成、グルコニュリゲーション(gluconuridation)、硫酸化);排出(胆汁系による);タンパク質および高分子合成;中間代謝(糖新生、脂質、およびアミノ酸);ならびに免疫およびホルモン系の調節。
【0067】
臨床評価中の現在のBLADは、中空線維の管腔外空間に培養肝細胞を持つ、中空線維カートリッジを使用する。中空線維カートリッジの管腔空間には、全血または血漿が還流される。還流液の利用できる酸素レベルを上げるために、バイオリアクターの前に酸素供給器を配置し、肝細胞に到達する前に毒素を低下させるためにカラムまたはフィルターを配置することができる。
【0068】
他の装置は、不織ポリエステル線維の上および/またはこれを通して;肝細胞を播いた高度に多孔性のポリウレタンフォーム構造中に作られたチャネルを通して;微小孔構造のポリスルホン中空線維膜を通して;微小孔構造のポリビニルフォーム樹脂材等を通して、軸に沿った流路中に血漿を還流する場合もある。前駆細胞および/または子孫の肝細胞は、被包される場合もある。
【0069】
発現アッセイ法
肝移植細胞中の遺伝子発現を調べることは、特に興味深い。当技術分野で周知であるように、発現された遺伝子セットは、関心対象の様々な細胞、例えば成体肝前駆細胞、幹細胞、造血細胞等と比較することができる。例えば、発生中に調節される遺伝子を決定するための実験を行うことができる。
【0070】
特定のmRNAを検出するために、当技術分野で周知の任意の適当な定性的または定量的方法が使用できる。mRNAは、例えば、マイクロアレイへのハイブリダイゼーション、組織切片上のインサイチューハイブリダイゼーション、逆転写酵素-PCR、またはポリA+ mRNAを含むノーザンブロットによって、検出できる。2つの試料中のmRNA転写物のサイズまたは量の差を決定するために、当業者はこれらの方法を容易に使用できる。例えば、前駆細胞中の特定のmRNAのレベルを、基準試料、例えば肝細胞または他の分化した細胞の、mRNAの発現と比較することができる。
【0071】
試料中のmRNAの発現レベルの検出および比較のためには、任意の適当な方法が、本発明の方法と組み合わせて使用できる。例えば、試料中のmRNA発現レベルは、試料から、発現配列タグ (EST)のライブラリーを作製することによって、決定できる。ライブラリー内のESTの相対量の計数を行って、開始アンプル中の遺伝子転写物の相対的発現量の見積もりができる。その後、被験試料のEST分析の結果を基準試料のEST分析と比較して、特定のポリヌクレオチド、特に本明細書に記述される、発現に差のある1つまたは複数の遺伝子に対応するポリヌクレオチドの相対的発現レベルを決定できる。
【0072】
または、被験試料中の遺伝子発現は、連続的遺伝子発現解析(SAGE)法を用いて解析できる(Velculescuら、Science (1995) 270:484)。SAGEでは、各転写物内の特定の位置の短い独自の配列タグを単離する。配列タグを濃縮し、クローニングし、配列決定をする。開始試料中の特定の転写物の頻度は、関連する配列タグがその配列集団と遭遇する回数が反映している。
【0073】
被験試料中の遺伝子発現は、ディファレンシャル・ディスプレイ(DD)法を用いても解析できる。DDでは、特定のポリヌクレオチド配列(または制限酵素部位)によって決定される断片を、断片の長さおよび発現された遺伝子内の断片の位置に関する情報とともに、遺伝子の独自の識別子として用いる。試料中の発現された遺伝子の相対量は、全ての可能な断片のプール内で、その遺伝子に関連する断片の相対量に基づいて、見積もることができる。DDを実施するための方法および組成物は、当技術分野で周知であり、米国特許第5,776,683号および5,807,680号を参照されたい。
【0074】
または、試料中の遺伝子発現には、ヌクレオチドの相互作用の特異性に基づいたハイブリダイゼーション解析も使用できる。オリゴヌクレオチドまたはcDNAを用いて、特定の配列組成のDNAまたはRNAを同定または捕捉し、既知の捕捉配列にハイブリダイズしたRNAまたはcDNAの量を定性的または定量的に決定し、試料中の細胞メッセージのプール内での特定のメッセージの相対量についての情報を得ることができる。ハイブリダイゼーション解析は、例えば、フィルター、顕微鏡スライド、もしくはマイクロチップを含む高密度の形式、または分光分析(例えば質量分析)を用いる溶液ベースの技術を用いることによって、数百から数千の遺伝子の相対的な発現を同時にスクリーニングするように設計できる。本発明の診断方法におけるアレイの使用の一例を、以下により詳細に記述する。
【0075】
当技術分野で周知の任意の適当な方法にしたがって作製したアレイに対して、ハイブリダイゼーションが行える。例えば、オリゴヌクレオチドの大きなアレイの生産方法は、光を用いた合成テクニックを用いた米国特許第5,134,854号および米国特許第5,445,934号に記述されている。コンピュータ制御されたシステムを用いて、不均質なモノマーのアレイを、いくつかの反応部位における同時カップリングによって、不均質なポリマーのアレイに転換する。または、例えば、国際公開公報第95/35505号に記述されるように、固相基質へ予め合成されたオリゴヌクレオチドを沈着させることによっても、マイクロアレイが作製できる。
【0076】
試料とアレイとのハイブリダイゼーションから得られるデータの収集方法も、当技術分野で周知である。例えば、細胞試料のポリヌクレオチドは、検出可能な蛍光標識を用いて作製でき、試料中のポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、検出可能な標識の存在をマイクロアレイ上でスキャンすることによって、検出できる。装置上で蛍光標識された標的を検出するための方法および装置は、当技術分野で周知である。一般に、そのような検出装置には、顕微鏡および基質上に光を導く光源が含まれる。光子計数器は基質からの蛍光を検出し、x-y変換ステージは基質の位置を変化させる。本方法で使用できる共焦点検出装置は、米国特許第5,631,734号に記述されている。走査型レーザー顕微鏡は、Shalonら、Genome Res. (1996) 6:639に記述されている。使用する蛍光体ごとに、適当な励起線を用いたスキャンを行う。その後の解析のために、スキャンで作製されたデジタル画像を組み合わせる。任意の特定のアレイ要素について、1つの試料から得られる蛍光シグナルの比を、別の試料から得られる蛍光シグナルと比較し、相対的なシグナル強度を決定する。
【0077】
アレイへのハイブリダイゼーションから収集されたデータの解析方法は、当技術分野で周知である。例えば、ハイブリダイゼーションの検出に蛍光標識が使用される場合には、データ解析には、収集されたデータから基質の位置の関数として蛍光強度を決定する段階、異常値、すなわち予め決定されている統計的分布から外れたデータを除去する段階、および残るデータから標的の相対的な結合親和性を計算する段階が含まれる。得られたデータは、標的とプローブの間の結合親和性にしたがって、各領域の強度が変動する画像として表示できる。
【0078】
パターンマッチングは、手作業で実行することもできるが、コンピュータプログラムを使用して行うこともできる。基質マトリックス(例えばアレイ)の作製方法、そのようなマトリックスで使用するオリゴヌクレオチドの設計、プローブの標識、ハイブリダイゼーション条件、ハイブリダイズしたマトリックスのスキャン、および比較解析を含む生成したパターンの解析は、例えば、米国特許第5,800,992号に記述されている。
【0079】
別のスクリーニング方法では、被験試料をタンパク質レベルで検定する。診断は、被験試料中で差のある発現をするポリペプチドの有無または変化した量を決定するための、いくつかの方法のうちの任意のものを用いて行える。例えば、検出には、通常の方法にしたがって行う、標識抗体による細胞または組織切片(例えば生検試料)の染色を利用できる。細胞は、細胞質の分子を染色するために、透過性にできる。一般に、本発明の差のある発現をするポリペプチドに特異的に結合する抗体を試料に加え、エピトープへの結合に十分な時間、通常は少なくとも約10分間、インキュベートする。抗体は直接の検出(例えば放射性同位元素、酵素、蛍光剤、化学発光剤等)のための標識をするか、結合を検出するための第2段階の抗体または試薬(例えばビオチンと西洋ワサビペルオキシダーゼ結合アビジン、例えばフルオレセイン、ローダミン、テキサスレッド等の蛍光化合物に結合した2次抗体)と組み合わせて使用できる。抗体結合の有無は、解離した細胞のフローサイトメトリー、鏡検、ラジオグラフィー、シンチレーション計数等を含む、様々な方法で決定できる。例えばELISA、ウェスタンブロット、免疫沈降法、ラジオイムノアッセイ法等のような、差のある発現をするポリペプチドのレベルまたは量の定性的または定量的検出をする、他の任意の適当な方法が使用できる。
【0080】
スクリーニングアッセイ法
対象の細胞は、肝移植細胞および肝移植細胞から生成する肝細胞に影響を与える物質を検出するための、インビトロアッセイ法およびスクリーニングに有用である。この目的のためには、毒性試験、タンパク質結合のイムノアッセイ法;細胞の増殖、分化、および機能活性の決定;ホルモンの生産等を含む、様々なアッセイ法が使用できる。
【0081】
生物活性のある物質、ウイルス等のスクリーニングアッセイ法では、対象細胞、通常は対象細胞を含む培養液に、関心対象の物質を接触させ、マーカーの発現、細胞の生存率等のような出力パラメーターをモニターすることにより、物質の効果を評価する。細胞は、新しく単離したもの、培養したもの、または上述のような遺伝子組換えをしたもの等でよい。細胞は、クローン培養の環境に誘導される変異体でよい:例えば、独立した培養に分割し、異なる条件下、例えばウイルスを伴ってまたは伴わずに培養したもの;他のサイトカインの存在下および非存在下、またはその組み合わせである。応答のタイミングを含め、ある物質、特に薬学的物質に対して細胞が応答する方法は、細胞の生理的状態を反映する重要な情報である。
【0082】
パラメーターは、細胞の定量可能な成分、特に、好ましくはハイスループットシステムで、正確に測定できる成分である。パラメーターは、細胞表面決定基、受容体、タンパク質またはその立体配座もしくは翻訳後修飾物、脂質、炭化水素、有機または無機分子、核酸、例えばmRNA、DNA等、またはそのような細胞成分に由来する部分またはその組み合わせを含む、任意の細胞成分または細胞産物であり得る。大部分のパラメーターは定量的な測定値を提供するが、場合によっては半定量的、または定性的な結果も受け入れられる。測定値には、単一の決定された値である場合もあるが、平均値、中央値、または偏差等が含まれる可能性がある。特徴として、同一のアッセイ法の多重度から、各パラメーターについてパラメーターの測定値の範囲が得られる。ばらつきは予測され、単一の値を提供するために使用される一般的な統計的手法を持つ標準的な統計的手法を用いて、試験パラメータの各セットについて値の範囲が得られる。
【0083】
スクリーニングのための関心対象の物質には、多くの化学的クラスを含む既知および未知の化合物、主に有機分子が含まれ、これには有機金属分子、無機分子、遺伝子配列等が含まれる可能性がある。本発明の重要な局面は、肝臓のウイルス、例えばA、B、C、D、E型肝炎ウイルス;抗ウイルス薬等の効果を検定するための、毒性試験を含め、候補薬剤を評価することである。
【0084】
ウイルスのような複雑な生物学的物質に加えて、候補物質には、構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含む有機分子が含まれ、典型的には、少なくとも1つのアミン、カルボニル、ヒドロキシル、またはカルボキシル基、しばしば少なくとも2つの官能基が含まれる。候補物質は、しばしば、上述の官能基で1つまたは複数置換された、環状炭素または複素環式構造、および/または芳香族またはポリ芳香族構造を含む。候補物質は、ペプチド、ポリヌクレオチド、糖、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的アナログ、またはその組み合わせを含む、生体分子の場合もある。
【0085】
薬学的に活性な物質、遺伝活性のある分子も含まれる。関心対象の化合物には、化学療法剤、ホルモンまたはホルモンアンタゴニスト等が含まれる。本発明に適した薬学的物質の例は、すべて参照として本明細書に組み入れられる、「The Pharmacological Basis of Therapeutics」GoodmanおよびGilman、McGraw-Hill、New York、New York、(1996)、第9版中の、「Water, Salts and Ions」;「Drugs Affecting Renal Function and Electrolyte Metabolism」;「Drugs Affecting Gastrointestinal Function」;「Chemotherapy of Microbial Diseases」;「Chemotherapy of Neoplastic Diseases」;「Drugs Acting on Blood-Forming organs」;「Hormones and Hormone Antagonists」;「Vitamins, Dermatology」;および「Toxicology」の章に記述されている。また、毒素、および生物戦争の物質および化学戦争の物質も含まれる。例えばSomani, S.M.(編)「Chemical warfare Agents」Academic Press、New York、1992を参照されたい。
【0086】
被験化合物には、上述の分子の全てのクラスが含まれ、さらに未知の内容物の試料が含まれる可能性がある。関心対象は、植物のような天然の供給源由来の天然化合物の複雑な混合物である。多くの試料は溶液中に化合物を含むが、適当な溶媒に溶解できる固体試料も検定できる。関心対象の試料には、環境試料、例えば地下水、海水、鉱山廃棄物等;生体試料、例えば農作物から調製された溶解物、組織試料等;製造試料、例えば医薬品の製造時のタイムコース;および解析用に調製された化合物のライブラリー等が含まれる。関心対象の試料には、治療的価値の評価をする化合物、すなわち、薬剤候補が含まれる。
【0087】
試料という用語には、さらに化合物、例えば、イオン強度、pH、総タンパク質濃度等に影響を与える成分が添加された上述の液体も含まれる。さらに、少なくとも部分的な分画または濃縮を行うための処理が行われる場合がある。生物学的試料は、化合物の分解を低下させるための注意を行なえば、例えば窒素下、凍結、またはその組み合わせ、保存することができる。使用する試料の体積は、測定に十分な量で、通常、約0.1μlから1 mlの生物学的試料で充分である。
【0088】
候補薬剤を含む化合物は、合成または天然化合物のライブラリーを含む様々な供給源から得られる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含め、生体分子を含む様々な有機化合物の無作為または指示された合成のための数多くの手段がある。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形の天然化合物のライブラリーも利用できるか、容易に作製できる。さらに、天然または合成産物のライブラリーおよび化合物は、通常の化学的、物理的、および生化学的手法で容易に修飾し、コンビナトリアルライブラリーを作製するために使用できる。既知の薬学的物質に、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化等のような指示されたまたは無作為の化学修飾を施し、構造的アナログを生産することもできる。
【0089】
物質の生物活性は、物質を少なくとも1つであり通常は複数の細胞試料にその物質を添加することによって、通常はその物質を含まない細胞と組み合わせて、スクリーニングする。物質に応答したパラメーターの変化を測定し、結果は他の物質により得られた基準培養と比較して、例えば物質の存在下および非存在下で評価する。
【0090】
物質は、都合良く溶液中または可溶性の形で、培養細胞の培地に添加する。物質は、静的な溶液に対して、フロースルーシステムで、間欠的もしくは連続的な流れとして、または化合物を一度にまたは何度かに分けて、ボーラスとして添加することができる。フロースルーシステムでは、2つの液体が使用され、1つは生理的に中性の溶液で、他は同一の溶液に被験化合物を添加したものである。第1の液体に細胞上を通過させ、次に第2の液体を通過させる。単一溶液の方法では、細胞を取り囲む培地に、被験化合物のボーラスを添加する。培地の成分の全体の濃度は、ボーラスの添加、またはフロースルー法における2つの溶液の間で、有意に変化してはならない。
【0091】
好ましい物質の製剤は、全体の製剤に有意な効果を持つ可能性のある保存剤のような他の化合物を含まない。したがって、好ましい製剤は、本質的に生物活性のある化合物および生理的に許容される担体、例えば水、エタノール、DMSO等からなる。しかし、化合物が溶媒なしの液体である場合は、製剤は本質的に化合物自体からなる。
【0092】
様々な濃度に対する異なる応答を得るために、異なる濃度の物質を含む複数のアッセイ法が平行して行われる場合がある。当技術分野で周知のように、物質の有効濃度の決定には、通常、1:10または他の対数目盛の希釈で得られるある範囲の濃度が使用される。濃度は、必要ならば第2の連続希釈でさらに詳細に決定される場合がある。通常は、これらの濃度の1つは、陰性対照、すなわち濃度ゼロまたは物質の検出限界より低いか、または表現型に検出可能な変化をもたらす物質濃度より低い。
【0093】
選択されたマーカーの存在を定量するために、様々な方法が使用される。存在する分子の量を測定するために便利な方法は、検出可能な成分で分子を標識することで、この成分は蛍光、発光、放射性、酵素活性等であり、特に、高い親和性でパラメーターに結合する特異的な分子である。蛍光成分はほぼ任意の生体分子、構造、または細胞の種類を標識するものがある。免疫蛍光成分は、特異的なタンパク質のみでなく、特異的な立体構造、切断産物、またはリン酸化のような部位の修飾に特異的に結合するようにできる。個々のペプチドおよびタンパク質は、例えば、細胞中で緑色蛍光タンパク質キメラとしてこれを発現することにより、自己蛍光するように操作できる(総説はJonesら、(1999) Trends Biotechnol. 17(12):477-81を参照されたい)。このように、抗体はその構造の一部として蛍光色素を提供するように遺伝子操作できる。選択した標識によって、蛍光標識以外を用いて、ラジオイムノアッセイ法(RIA)または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)のようなイムノアッセイ技術、均一酵素イムノアッセイ法、および関連する非酵素技術を用いて、パラメーターを測定することができる。核酸、特にmRNAの定量も、パラメーターとして興味深い。これらは核酸ヌクレオチドの配列に依存するハイブリダイゼーション技術によって、測定できる。技術には、ポリメラーゼ連鎖反応法、および遺伝子アレイ技術が含まれる。例えば、「Current Protocols in Molecular Biology」、Ausubelら編、John Wiley & Sons、New York、NY、2000;Freemanら(1999) Biotecniques 26(1):112-225;Kawamotoら(1999) Genome Res 9(12):1305-12;およびChenら(1998) Genomics 51(3):313-24を参照されたい。
【0094】
実験
以下の実施例は、当業者に本発明をどのようにして生産および使用するかの完全な開示および記述を提供するためのものであり、本発明と見なされるものの範囲を制限する意図はない。使用する数字(例えば量、温度、濃度等)に関して正確さを保証するよう努力はされているが、実験誤差および偏差があり得る。特に記述されないかぎり、割合は重量による割合であり、分子量は平均分子量、温度は摂氏;および圧力は大気圧またはその付近である。
【0095】
本明細書に引用される全ての刊行物および特許出願は、各刊行物または特許出願が、特に個々に参照として組み入れられると示されている場合のように、参照として本明細書に組み入れられる。任意の刊行物の引用は、出願日以前の開示を示すためであり、本発明は先行発明があるためにこのような刊行物に先行する権利はないことを認めるものであると解釈してはならない。
【0096】
本発明は、記述される特定の方法、プロトコール、細胞株、動物種または属、および試薬に限定されず、多様である可能性があると、理解する必要がある。また、本発明で使用される用語は、特定の態様を記述するためのものであり、本発明の範囲を制限する意図はなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることも理解される必要がある。
【0097】
本明細書では単数形「1つの」、「および」、および「その」には、文脈上、そうでないことが明らかな場合を除き、複数の指示対象も含まれる。例えば、「1つの細胞」という用語には、複数の細胞が含まれ、「そのタンパク質」には当技術分野で周知の1つまたは複数のタンパク質および同等物が含まれる。本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語は、明らかに示さないかぎり、本発明が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を持つ。
【0098】
実施例1
ヒト肝細胞のフローサイトメトリー選別
胎児および成体組織由来のヒト肝細胞のデュアルレーザーフローサイトメトリー解析および選別は、Becton Dickinson FACSVantage SEで行なった。一次および二次励起光として、アルゴンイオンレーザーおよびヘリウムネオンレーザーが使用され、それぞれ488nm波長で150mW、633 nm波長で30mWを用いた。前方および側方に散乱する光は、線形に増幅され、48 nm帯域フィルターを通して測定した。大型の細胞集団から得られる高レベルの前方散乱シグナルを減衰させるために、前方散乱検出器の前方に、0.6 ODの中性フィルターを使用した。この構成では、単一の線形デケード内で、肝組織に見られる多様なサイズの細胞から得られる前方散乱シグナルを捕捉し、計測するために十分なダイナミックレンジが前方散乱軸上にある。典型的な前方散乱増幅器の設定は、8から16の範囲である。FITC、PE、およびPI蛍光色素は、すべて488nmで励起し、蛍光発光はそれぞれ530/30、585/42、610/20nm帯域フィルターを用いて測定した。APCおよびAPC-Cy7蛍光色素は633nmで励起し、蛍光発光はそれぞれ660/20帯域フィルターおよび750ロングパスフィルターを用いて測定した。全ての免疫蛍光測定は、対数的に増幅した。
【0099】
各蛍光チャネルの電圧設定は、Spherotech RFP 30-5基準粒子を用いて較正した。較正後、補正設定は、単一のカラーコントロールを用いて、経験的に得られた。
【0100】
フローサイトメーター上の分注システムの構成は、肝由来の組織に見られる細胞の独特なサイズの分布および特性に対して最適化した。開口部の直径が130μmの特注のノズルチップおよび10 psiのシース圧設定を使用した。シースタンク、試料ホルダー、およびレシートチューブホルダーの温度は、冷却再循環器によってすべて4℃に維持された。
【0101】
肝由来の細胞集団の分集団は、PIを細胞懸濁液に添加し、細胞をフローサイトメトリーにかけ、PI蛍光に対する前方散乱のプロットとしてデータを解析することによって、同定できる。以下の属性によって、3つの明確な細胞集団が区別される:弱い前方散乱、低レベルの蛍光を示す小さな細胞集団(R1);強い前方散乱および中程度の蛍光を示す大きな細胞集団(R2)、および弱いまたは中程度の前方散乱シグナルの連続および非常に高レベルの蛍光を示す、死細胞を含む第3の明確な集団である。結果は図1に示されている。R2分集団は、PIの非存在下で上述の解析を行って、自己蛍光を持つことが示された。以下の属性にしたがって、2つの明確な細胞集団が区別される;弱い前方散乱、低レベルの蛍光を示す小さな細胞の集団、および強い前方散乱および中程度の蛍光を示す大きな細胞の集団である。
【0102】
凝集体はパルスプロセッシングを用いて、第3の領域の基底を形成するために、幅に対して前方散乱のピークの高さをプロットすることで、区別される。選別ゲートは、これらの3つの領域の交わりとして定義される。標的細胞集団の一次濃縮は、第1回の選別で実行できる。その後、濃縮された産物を、比較的純粋にまで再度選別できる。産物の純度は、再解析によって必ず検証する。
【0103】
実施例2
肝前駆細胞の単離
凍結された肝細胞または新しく単離した肝細胞は、5E12で染色した。細胞は、5E12 Abを用いてMACSカラムによって5E12の濃縮をし、その後5E12+細胞を選別した。または、5E12+細胞は、染色後直接選別した。選別では、細胞はR1とR2ゲートに分離された。R2/5E12+細胞は、インビトロまたはインビボアッセイ法において、肝移植細胞の大部分を占める。細胞は同一の細胞中でのck19およびアルブミンの発現によって、解析した(図2Aおよび2Bに示されている)。5E12に加え、ヒトHLA-クラスI A、B、Cと反応する抗体(W6-32抗体)を用いて、肝移植のために、低いレベルのHLA-クラスI発現する細胞が濃縮された。R2細胞にゲートをかける際、3つの異なる細胞の集まった分集団は、2次元の密度または等高線プロットとして5E12蛍光対HLA-クラスI蛍光を解析することによって、区別される(図1)。1つの分集団は、5E12とHLA-クラスIの両方の染色に陰性を示す(5E12- HLA-);第2の分集団は、相対的に低いレベルの5E12蛍光およびより高いレベルのHLA-クラスI蛍光(5E12- HLA+)を示す;第3の分集団は、より高いレベルの5E12蛍光およびより低いレベルのHLA-クラスI蛍光を示す(5E12+ HLAlow
【0104】
単一の染色、すなわち一色の解析では必ずしも細胞集団が明確に区別されないが、図から、2色のプロットでは細胞が異なる分集団に区別されることが明らかである。
【0105】
結果
細胞表面抗原の発現を選別することによって、肝前駆細胞コロニーを濃縮する方法が提供される。選別されたヒト胎児肝細胞のクローン原性アッセイ法の結果は以下である:細胞は生存率(PI)、サイズ(FS)、および自己蛍光によって選別され、それからさらに表面抗体によって分離され、FFS-またはBMS-6上に播かれた。選別後(ck19/アルブミンまたはck19のみ)に生成した肝細胞コロニーの増殖能力は、培養で2週間後に比較した。R2ゲートをかけられた細胞(FS+ PIlow)のみが、コロニーを形成した。
【0106】
5E12抗体は、ヒト胎児および成体肝前駆細胞を濃縮する。図1は、ヒト胎児肝細胞(16 g.w.)の5E12モノクローナル抗体による染色を示す。R2ゲート中に含まれる細胞は、5E12または同一アイソタイプの対照mAbで染色された。
【0107】
表1および表2は、選別された5E12肝細胞の限界希釈分析の結果を示す。ヒト胎児肝細胞は、MACSカラムを用いて5E12陽性細胞が濃縮された。L R2、5E12陽性細胞は、96ウェルプレート中で、1ウェルあたり1〜500細胞でBMS-6基質上で選別された。培養ウェル中の前駆細胞のコロニーを検出するために、ヒトアルブミン発現は、ELISAによってモニターされた。
【0108】
(表1)選別された5E12陽性細胞の限界希釈分析
分析はACDUで選別した5E12+肝細胞および8つの希釈点(1、5、10、25、50、120、250、500細胞)を用いて行なった。アルブミン陽性ウェルは、7日、14日、21日、28日目に、ELISAで検出した。

【0109】
実施例3
肝移植細胞表現型の解析
ヒト胎児肝細胞およびヒト成体肝細胞は4℃で維持された。細胞懸濁液を作製するために、組織を切り刻み、Ca++を含まない緩衝生食水に再懸濁し、ヒアルロニダーゼの存在下で、コラゲナーゼで37℃で30分間消化した。選択的に、細胞懸濁液はさらにトリプシン/EDTAによって37℃で20分間消化した。細胞懸濁液は、70μmのナイロンフィルターでろ過し、2%FBS、2 mM EDTAを含むIMDM中に再懸濁した。一定量の細胞に、図3および4に示すように、予め力価を測定した2つまたはそれ以上の抗体の組み合わせを添加した。全ての染色に、同一アイソタイプの対照が使用された。細胞は、実施例1および2に記述するように、フローサイトメトリーによって解析した。
【0110】
データ(図3A)は、CD14がLEC細胞(R2、5E12+ HLAlow)を染色しないことを示す。CD54、CD38、およびCD34はLECを陽性に染色する(図3B〜3D)。図4A、4D、4GはLECの典型的な染色パターンを示す。図4B、4E、および4Hは、E-カドヘリン、EpCam、およびCD49fがR2細胞集団上で5E12と類似した染色プロファイルを持つことを示す。図4C、4F、および4Iは、E-カドヘリン、EpCamまたはCD49fで選択されたLEC細胞集団が、一様に5E12陽性であることを示す。これらのデータは、5E12、E-カドヘリン、EpCam、およびCD49fがLECの選択に互換的に使用できることを示す。成体肝組織でも、同様なデータが得られた(図9に示す)。図10はこれらのデータをまとめたものである。
【0111】
実施例4
ヒト肝細胞のインビトロ解析
肝前駆細胞を含む肝細胞は、フィーダーとして使用する間質細胞上で生存し、増殖する。これらの細胞をインビトロで培養すると、肝臓から前駆細胞を単離し、解析することができる。フィーダとして、骨髄間質細胞のBMS-6、および胎児線維芽細胞のFFS-1の2つのフィーダー間質細胞が使用された。この解析は、フィーダー細胞に依存する共培養系、および肝移植能力を持つ高度に増殖性の細胞であるはずの肝前駆細胞の性質に基づく。
【0112】
材料および方法
フィーダー細胞の調製および培養条件
FFS-1マウス線維芽細胞(STO由来)を5時間マイトマイシン処理(10μg/ml、Sigma、セントルイス、ミズーリ州)し、5×104細胞/cm2でまいた。マウス骨髄間質細胞BMS-6は、1.6×104/cm2でまいた。フィーダー層はダルベッコ変法イーグル培地と10%FCSを含むMedium-199の1:1混合物中で培養した。
【0113】
フローサイトメトリーを用いた濃縮肝細胞画分の単離
肝細胞調製品は、典型的な組織消化手順および単細胞懸濁液によって調製し、マルチパラメーターフローサイトメトリーによって解析した。特定の肝細胞分集団は、Becton Dickinson Immunocytometry Systems製造の蛍光細胞分析分離装置(FACS(商標))を用いて行なった。具体的には、FACSVantage SEは、空間的に分離された3つの励起光を送るアルゴン、クリプトン、およびヘリウム-ネオンイオンレーザーで構成した。この設定では、別々の細胞の特徴の解析のために、様々な市販の蛍光プローブを利用することができる。この装置に内蔵された特殊サブシステムにより、予めフィーダー細胞を培養した組織培養プレートの個々のウェルに、指標を付けた単一細胞を直接入れることができる。コンピュータ援用高速データアクイジションシステムでは、各単一細胞から9つまでの独立したデータパラメーターを採取できる。100万以上のイベントを含むリストモードデータファイルを採取できるので、非常に頻度の低い分集団の区別が容易になる。データパラメーターはリストモードデータファイル中に収集され、ソフトウェアプログラムFlowjo (www.Treestar.com)によって解析された。肝細胞の純粋な細胞集団は、予めフィーダー層細胞を培養した96ウェルまたは24ウェルプレートの個々のウェルに直接選別した。
【0114】
細胞の凍結プロトコール
氷上で40%FCSを添加したIMDM +10%FCS中に肝細胞を5分間再懸濁し、15%DMSOを添加したIMDM +10%FCSと1:1で混合する。-80℃で細胞を凍結し、液体窒素に入れる。
【0115】
肝炎感染のプロトコール
肝炎を含むヒト血清と細胞を氷上で1時間インキュベートし、間質細胞上に細胞を播き、2週間培養する。
【0116】
結果
肝細胞集団は、MACSまたは選別または両方によって、R2/5E12+とR2/5E12-に分離した。その後、細胞を2週間培養し、図8に示すように、形成するコロニー中でアルブミンおよびck19の発現によって、CFC-LBC(コロニー形成細胞-肝両能性コロニー)を評価した。肝コロニーの頻度は、3つの細胞濃度を用いた限界希釈によって、計算した。データは表3および図8(ヒト成体細胞)に示されている。
【0117】
限界希釈解析は、細胞選別およびELISAの組み合わせを利用して、限界希釈を決定する。例えば、細胞はR2遺伝子、5E12発現、およびHLA抗原の発現によって選別された。選別された細胞は、上述のように96ウェルプレート中で希釈し、14日間インビトロで培養し、αフェトプロテイン、アルブミン、およびα-1抗トリプシンの発現をELISAで評価した。
【0118】
実施例5
肝炎感染のインビトロモデル
肝炎ウイルスによる肝コロニーのインビトロ感染のための方法が提供される。肝移植前駆細胞を含む胎児肝細胞(18 g.w.)を単離し、D型肝炎ウイルス(HDV)を感染させ、2週間培養した。細胞を2週間培養し、固定し、アルブミン(APC-青)、サイトケラチン19(FITC-緑)、およびHDV(PE-赤)で染色し、D型肝炎ウイルスの感染した肝前駆細胞を同定した。核はヘキストで対比染色した。
【0119】
胎児肝細胞は、HDVウイルスに感染した患者の血清とインキュベートした。1時間後、試料を間質層にのせ、2週間放置した。培養を固定し、肝臓マーカーおよび抗HDVマーカーで染色した。これらの培養方法は、肝炎ウイルスの感染可能な細胞の増殖を維持する。
【0120】
実施例6
ヒト肝移植細胞集団のエキソビボ増殖
HLAlow 5E12+表現型を持つ肝前駆細胞の濃縮されたヒト肝移植細胞は、細胞の接着、付着、および増殖を提供する細胞外マトリックス(ECM)の上または中に播かれた。細胞は肝移植細胞(LEC)培地の存在下で、マトリックスの成分であるラミニンと組み合わせて、適当な基礎培地中で培養された。
【0121】
肝移植細胞(LEC)培地
L-グルタミン;10%ウシ胎児血清;デキサメタゾン(10〜7M);ニコチンアミド(10mM);βメルカプトエタノール(0.05mM);ペニシリン/ストレプトマイシン(1X);組換えヒト肝細胞増殖因子(40ng/mL);組換えヒト上皮成長因子(20ng/mL)を添加したDMEM/F12 (50:50)。
【0122】
エキソビボの増殖中を通して、増殖する細胞のクローン原性の能力は、非培養肝細胞について上記に示すようにして、間質共培養アッセイ法で評価された。分泌された肝タンパク質であるアルブミン、α-1-抗トリプシン、またはα-フェトプロテインは、ECMとLECの培地、または間質共培養で、増殖細胞の培養上清のELISAアッセイ法をおこなってモニターした。
【0123】
ECMとLECの培地で増殖させた細胞の移植能力は、NOD-SCIDマウスまたはNOD-SCID/FAHマウスを含む種々の適当な動物モデルへの移植によって、評価できる。別の手法は、改善した肝移植または長期の肝細胞機能を促進する手段として、増殖させた細胞の分化を誘導することである。ECMとLECの培地上での培養によって増殖させた細胞は、成熟した肝細胞の分化状態を促進するために、別の増殖因子、サイトカイン、または分化誘導剤に曝露することができる。増殖および分化した細胞の移植能力に対するそのような処理の影響は、上述のように、動物モデルへの移植によって評価できる。
【0124】
実施例7
ヒト肝移植細胞集団の移植
ヒト肝細胞の移植および肝細胞分化能力は、NOD-SCIDマウスへの移植によって評価された。簡単に述べると、ヒト肝細胞は、注入緩衝液(50%マトリゲル BD Biosciences #356234、50%DMEM)中に再懸濁し、注入まで氷上に静置した。注入緩衝液中の20μlまでの細胞を、生後0〜48時間の新生NOD-SCIDマウスの肝臓に注入した。移植の5〜6週間後に、注入したマウスの血清中のヒト肝特異的タンパク質(アルブミン、α-1-抗トリプシン、またはαフェトプロテイン)の存在をELISAで解析した。図6では、肝細胞全体、選別した肝細胞全体、または選別したR2 5E12+ HLAlow細胞の移植後6週間のNOD-SCIDマウスの血清に、循環するα-1-抗トリプシン(AAT)およびアルブミン(ALB)が検出された。10,000の選別したR2 5E12+ HLAlow細胞が移植されたマウスのAATまたはALBのレベルは、75,000の選別しない肝細胞全体、または10,000もしくは40,000の選別した肝細胞全体を移植したマウスのレベルよりも高いか同等だった。ヒトAATまたはALBは、5ヶ月まで、選別したR2 5E12+ HLAlow細胞を移植したマウスで繰り返し検出可能であり、これは持続可能な移植および継続的な肝分化を示す。図7は移植の6週間後の代表的なNOD-SCIDマウスの肝臓内での、移植されたヒト胎児肝細胞におけるヒトALBまたはCK19タンパク質の検出を示す。屠殺時にELISAで検出されたヒトAATおよびALBの血清レベルは、下側のパネルに示されている。
【0125】
(表2)ヒト肝移植細胞の限界希釈を示す。

【0126】
(表3)免疫染色によるLECのスクリーニングを示す。

【図面の簡単な説明】
【0127】
【図1】図1Aは前方散乱、自己蛍光、および生存率(ヨウ化プロピジウム)についてのヒト胎児肝細胞の染色、およびこれらの特性に基づくR1およびR2細胞集団への分離を示す。図1Bは、R2集団の細胞の分集団上の5E12およびHLAクラスIエピトープの発現を示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、5E12発現についての選別前に、R2集団がアルブミンおよびCK19の発現に関して不均質であることを示す。
【図3】図3A〜Dはヒト胎児肝細胞の表現型解析を示す。
【図4】5E12、EpCAM、CD49f、E-カドヘリン、およびHLAによる、R2細胞集団の細胞の染色を示す。図4A、4D、および4Gは5E12対HLAクラスI染色を示す。多角形の領域は、5E12+、HLAlow LECの選択に使用したゲートを示す。図4B、4E、および4HはそれぞれE-カドヘリン、EpCam、およびCD49fをx軸として使用した対応するプロットを示す。図4C、4F、および4Iは図4B、4E、および4Hでゲートをかけられた細胞集団の5E12の発現に関する分析を示す。データは5E12、EpCam、E-カドヘリン、およびCD49fの間で同等な染色を示す。
【図5】5A〜5Fは、ヒト胎児肝LECに由来するコロニーのインビトロでの2週間の培養後の、アルブミン(alb)、αフェトプロテイン(afp)、およびCK19に関する染色を示す。
【図6】図6Aおよび6Bは肝細胞全体、選別した肝細胞全体、または選別したR2 5E12+ HLAlow細胞の移植後6週間のNOD-SCIDマウスの血清中の、循環するヒトα-1-抗トリプシン(AAT)(9A)およびアルブミン(ALB)(9B)タンパク質のレベルを示す。データはLECから機能的な肝細胞が移植され、生成されることを示す。
【図7】図7A〜7Fは、移植後6週間のNOD-SCIDマウスの肝臓内における、移植されたヒト胎児肝細胞中のヒトALBまたはCK19タンパク質の検出を示す。図7A〜7Fは単一の肝臓から得られた連続切片である。これらのデータはLECが肝細胞を生成する能力を持つことを示す。ヒトアルブミンが発現されている領域は、CK19も陽性だった。
【図8】図8AはR1およびR2細胞集団に関するヒト成体肝細胞の染色、および5E12、HLAについてのR2細胞集団の染色を示す。図8Bは、インビトロで培養した後の、アルブミンおよびα-1抗トリプシンの発現を示す。
【図9】図9A〜9Hは図3で胎児細胞に関して記述されたのと同様の、ヒト成体肝組織の分析を示す。
【図10】図10A〜10Hは、胎児および成体肝におけるLECの染色を示す。
【図11】2週間の培養後の肝臓に移植された細胞の形態を示し、典型的な上皮細胞単層として増殖している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝組織から単離された哺乳類の肝移植細胞の組成物であって、該組成物中の細胞の少なくとも80%はR2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられ、成熟した肝細胞を生じる能力のある細胞を含む組成物。
【請求項2】
細胞がCD117およびCD14について陰性である、請求項1記載の肝移植細胞の組成物。
【請求項3】
細胞がヒトの細胞である、請求項1記載の肝移植細胞の組成物。
【請求項4】
細胞が外来DNAベクターを含むように遺伝的に改変されている、請求項1記載の肝移植細胞の組成物。
【請求項5】
肝移植活性を持つ濃縮された細胞集団を提供するために、組成物中の細胞の少なくとも80%はR2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられる、哺乳類肝移植細胞の組成物を濃縮する方法であって、以下の段階を含む方法:
5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーを特異的に認識する試薬、ならびにHLAクラスI抗原を特異的に認識する試薬を、肝細胞の試料に混合する段階;
R2集団に関して選択する段階;
5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性の細胞に関して選択する段階;
HLAクラスI抗原について弱いまたは陰性の細胞を選択する段階。
【請求項6】
CD117およびCD14について陰性の細胞を選択する段階をさらに含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
細胞がヒトの細胞である、請求項5記載の方法。
【請求項8】
以下の段階を含む、機能的な肝細胞および/または胆管細胞を宿主動物に提供する方法:
該宿主動物に、実質的に純粋な哺乳類肝移植細胞の組成物を含む細胞集団を導入する段階であって、ここで該組成物中の細胞の少なくとも80%はR2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられる段階。
【請求項9】
細胞がCD117およびCD14について陰性である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞がヒトの細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
機能的な肝細胞がアルブミンまたはα1抗トリプシンを分泌する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
機能的な肝細胞がα1抗トリプシンを分泌する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
機能的な肝細胞がアルブミンを分泌する、請求項8記載の方法。
【請求項14】
細胞が外来DNAベクターを含むように遺伝的に改変されている、請求項1記載の肝移植細胞の組成物。
【請求項15】
R2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられる哺乳類肝移植細胞を含み、フィーダー細胞層をもつまたはもたない、インビトロ細胞培養物。
【請求項16】
哺乳類肝移植細胞がヒトの細胞である、請求項15記載のインビトロ培養物。
【請求項17】
以下を含む、キメラの免疫不全マウス、FAH-/-マウス、またはFAH-/-免疫不全マウス:
組成物中の細胞の少なくとも80%はR2であり、5E12、Ep-Cam、CD49f、およびE-カドヘリンからなる群より選択されるマーカーについて陽性であり、かつHLAlowであると特徴づけられる、哺乳類肝移植細胞の実質的に純粋な組成物から生成した、機能的な再生肝細胞および/または胆管細胞。
【請求項18】
哺乳類肝移植細胞がヒトの細胞である、請求項17記載のキメラマウス。
【請求項19】
以下の段階を含む、哺乳類肝移植細胞中で特異的に発現される遺伝子配列のスクリーニング方法:
請求項1記載の細胞集団、請求項15記載のインビトロ細胞培養物、または請求項17記載のキメラマウスからRNAを単離する段階、
該RNAからプローブを作製する段階、
該プローブに対するハイブリダイゼーションについて核酸集団をスクリーニングする段階。
【請求項20】
肝移植細胞と第2の異なる細胞集団との間で得られるハイブリダイゼーションを比較する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項21】
核酸集団がアレイ中に示される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
以下の段階を含む、哺乳類肝移植細胞の生存率、増殖、代謝機能、または分化に影響を与える物質のスクリーニング方法:
請求項1記載の細胞集団、請求項15記載のインビトロ細胞培養物、または請求項17記載のキメラマウスを接触させる段階、および
肝移植細胞の生存率、増殖、代謝機能、または分化に対する該物質の効果を決定する段階。
【請求項23】
物質がヒト肝細胞に毒性をもつ疑いのある薬剤である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
物質がヒト肝炎ウイルスである、請求項22記載の方法。
【請求項25】
物質がヒト肝炎ウイルスワクチンである、請求項22記載の方法。
【請求項26】
物質が抗ウイルス剤である、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−183299(P2009−183299A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90608(P2009−90608)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【分割の表示】特願2003−507235(P2003−507235)の分割
【原出願日】平成14年6月21日(2002.6.21)
【出願人】(503469430)ステムセルズ インコーポレーティッド (1)
【Fターム(参考)】