肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、神経変性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患に伴う疾患を治療または予防するための医薬組成物
肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を治療または予防するための医薬組成物であって、式(I)で表される化合物、或いは薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらのいずれかの組み合わせを含む医薬組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患に伴う種々の疾患を治療および/または予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満(標準体重に比べ、体脂肪の量が異常に多い状態)とは、カロリー摂取がカロリー消費を上回るときの、体内の脂肪組織における余剰カロリーの蓄積によって生じる疾患をいう。肥満により生じる合併症には、例えば高血圧、心筋梗塞、静脈怒張(varicosis)、肺塞栓症、冠血管・動脈疾患、脳溢血、老年認知症、パーキンソン病、2型糖尿病、高脂血症、脳卒中、各種の癌(子宮癌、乳癌、前立腺癌、大腸癌など)、心疾患、胆嚢疾患、睡眠時無呼吸症候群、関節炎、不妊症、静脈性潰瘍、突然死、脂肪肝、肥大型心筋症(HCM)、血栓塞栓症、食道炎、腹壁ヘルニア、尿失禁、循環器疾患、内分泌疾患等が含まれる(非特許文献1)。
【0003】
糖尿病は、複数の環境および遺伝的因子によって生じる全身性代謝障害であり、体内の絶対的または相対的インスリン欠乏により異常に上昇した血中グルコースレベルによって特徴付けられる状態をいう。糖尿病により生じる合併症には、例えば高血糖、ケトアシドーシス、高浸透圧性昏睡(hyperosmolar coma)、大血管性合併症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症等が含まれる。
【0004】
メタボリックシンドロームとは、高トリグリセリド血症、高血圧、糖代謝異常、血液凝固異常および肥満のような、健康に対する危険因子(health risk factors)を伴う症候群をいう。全米コレステロール教育プログラム(National Cholesterol Education Program)(NCEP)のATP IIIの基準(2001年公開)によれば、以下のうち3つ以上の要素を有する者は、メタボリックシンドロームと診断される。
1)男性では40インチ(102cm)以上、女性では35インチ(88cm)以上のウェスト寸法(ウェスト近辺で測定した中心性肥満)
2)150mg/dlを超えるトリグリセリドレベル
3)40mg/dl未満(男性)または50mg/dl未満(女性)の高比重リポ蛋白(HDL)レベル
4)130/85mmHg以上の血圧
5)110mg/dlを超える空腹時血中グルコースレベル
【0005】
インスリン抵抗性とは、体内においてインスリンが正常に分泌されているにもかかわらず、インスリンが行う「細胞に対するグルコース供給」が正常に行われない、という現象をいう。従って、グルコースが細胞に入っていけず、高血糖を引き起こす。またその結果、グルコースの不足により細胞が正常に機能できず、メタボリックシンドロームの発症(manifestation)に至る。
【0006】
退行性疾患とは、病理学的所見に由来する用語であり、従って「酸素消費の減少」を伴う状態を意味し、ミトコンドリア(細胞内の酸素を用いてエネルギーを生成するオルガネラ)の機能不全が老化に関与している退行性疾患をいう。退行性疾患の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等の神経変性疾患を挙げることができる(非特許文献2)。
【0007】
ミトコンドリア機能不全によって起こる疾患には、例えばミトコンドリアの潜在的機能障害によるミトコンドリア膨化、酸化的ストレス(例えば、活性酸素種やフリーラジカルの作用によるもの)による機能障害、遺伝的因子による機能障害およびミトコンドリアのエネルギー生成のための酸化的リン酸化機構の機能不全による疾患が含まれうる。上記の病理学的要因によって進行する疾患の具体的な例には、多発性硬化症、脳脊髄炎、脳神経根炎(cerebral radiculitis)、末梢神経障害、ライ症候群、フリードライヒ(Friedrich’s)失調症、アルパース症候群、MELAS、片頭痛、精神障害、鬱、てんかん(seizure)、認知症、麻痺性エピソード(paralytic episode)、視神経萎縮、視神経症、網膜色素変性症、白内障、高アルドステロン血症(hyperaldosteronemia)、副甲状腺機能低下症、ミオパチー、筋萎縮症、ミオグロビン尿、筋緊張低下、筋肉痛、運動耐容能の低下、腎細尿管症、腎不全、肝不全、肝機能不全、肝腫大、赤血球貧血(鉄欠乏性貧血)、好中球減少症、血小板減少症、下痢、絨毛萎縮症(villous atrophy)、多発性嘔吐(multiple vomiting)、嚥下障害、便秘、感音性難聴(SNHL)、てんかん(epilepsy)、精神遅滞、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病が含まれうる(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5を参照)。
以降、上記の肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を総称して「疾患/症候群」と記載する。
【0008】
現在、そのような疾患/症候群に伴う状態を改善する、またはこれと戦うための最も有効な方法は、より運動して体重を減少し、食事を制限することであることがわかっている。疾患/症候群と戦う現状の有効な方法はいずれも共通に、エネルギー代謝を促進し、結果として体内における過剰エネルギーの消費を最大化させ、エネルギー蓄積の阻害に至らせるという事実を共有している。そのような過剰エネルギーを効果的に排除することが、疾患/症候群を治療する方法であると考えられる。過剰エネルギーを効果的に排除するためには、エネルギー代謝を促進することが最も重要である。この目的のためには、脂肪合成の阻害、糖新生の阻害、グルコース消費の促進、脂肪酸化の促進、エネルギー代謝における中心的な装置であるミトコンドリアの生合成促進および代謝活性化に関与する因子の全体的な活性化を達成することが必須である。
【0009】
疾患/症候群を治療するための標的に関して知られていることはまだほとんどないが、個々の疾患を治療するためのものについてならば、標的タンパクまたは遺伝子が数多く知られており、従ってそのような疾患を、対応する上記の標的タンパクまたは遺伝子を利用して予防または治療する方法もいくつか提案されている。しかし、個々の疾患、例えばメタボリックシンドローム(肥満、糖尿病等を含む)の治療においてさえ、未だ更なる有意な改善の余地がある。疾患の治療について多大な研究が行われてきたという事実があるにも関わらず、過剰なエネルギー摂取および加齢に起因する種々の疾患の治療については、利用可能な医薬品が未だ存在しない。
【0010】
肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む多くの疾患、即ち疾患/症候群を含む多数の疾患は、エネルギー代謝と酸化−還元状態の不均衡から生じる。そのため本発明でも、関心ある化合物の、疾患/症候群に対する効果を確認するための最も基本的な一次試験として、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)に対する活性化作用の有無を確認する方法を採用した。
ところで、AMPKが活性化されると、その結果として、その機構の下流側において、様々な生理的事象が影響を受ける。このことに鑑み、制御される因子や発現現象を以下に示す。
【0011】
1.糖代謝
筋肉および心筋組織においては、AMPKが筋収縮を増進してグルコース取り込みを促進する。即ち、AMPKがGLUT1を活性化し、またはGLUT4の細胞膜への遊走を誘起して、インスリンの作用と関係なく、細胞へのグルコース取り込み増加をもたらす(非特許文献6、非特許文献7)。細胞へのグルコース取り込みが増加した後、AMPKがヘキソキナーゼを活性化して、糖代謝プロセスの流入を増加させると同時に、グリコーゲン合成を阻害する。虚血状態の心筋組織においては、AMPKが6−ホスホフルクト−2−キナーゼ(PFK−2)のリン酸化プロセスを活性化して、代謝カスケードの活性化をもたらし、糖代謝の流入増加に至らせることが知られている(非特許文献8)。加えて、肝臓におけるAMPKの活性化が、肝細胞からのグルコース放出を阻害し、また糖新生の酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)およびグルコース−6−ホスファターゼの活性が、AMPKにより抑止されることが確かめられている(非特許文献9)。これはAMPKが、インスリンと関係なく独立に、肝細胞からのグルコース放出阻害を介して、血中グルコースレベルの調節に関与するためである。
【0012】
2.ミトコンドリア生合成
ミトコンドリアの一つの重要な機能は、グルコース、脂肪酸等の燃料代謝物(fuel metabolites)から生成したエネルギーを、ATPに変換する酸化的リン酸化を行うことである。ミトコンドリアの機能的変質が生じることは、老化に関連する種々の変性疾患、例えば糖尿病、循環器疾患、パーキンソン病、老年痴呆等の発症機構に関与していることが知られている(非特許文献10)。Petersonらは、年配者では、ミトコンドリアの酸化的リン酸化機能が約40%低下していると報告し、ミトコンドリアの低下した機能が、インスリン抵抗性症候群の予想される発症原因である可能性を示唆している(非特許文献11)。Leeらは、糖尿病の進行に先んじて、抹消血におけるミトコンドリア性DNA含量の減少が起こることを確認している(非特許文献12)。筋肉におけるミトコンドリア生合成は、筋細胞における酸化的リン酸化の代謝活性が、継続的なエネルギー欠乏および運動によって増加するという適応反応(adaptive reaction)により増進されることが知られている。Zongらは、遺伝的にAMPKが失活しているトランスジェニックマウスを用いて、継続的なエネルギー欠乏が誘発している状態の骨格筋におけるミトコンドリア生合成には、AMPKが必要であることを明らかにしている(非特許文献13)。更に、Putmanらは、継続的な運動と関連したAMPKが、ミトコンドリア量の増加に関与しているとの仮説を示している(非特許文献14)。
【0013】
ところで、ミトコンドリア生合成において重要な役割を果たすペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベータ1α(PGC−1α)の遺伝子発現を、AMPKが増加させることが確かめられている(非特許文献15)。Raynoldらは、骨格筋における、継続的なエネルギーストレスへの応答としての酸化能の増加において、ミトコンドリア呼吸系に関連するタンパク質の転写や、ミトコンドリアの転写・複製に必須の遺伝子である核呼吸因子(Nuclear Respiratory Factor)−1(NRF−1)が重要な役割を果たすことを示唆している(非特許文献16)。従ってNRF−1は、ミトコンドリア生合成の増加に関与している。加えて、クエン酸シンターゼおよび3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(UCP−3タンパクおよびそのmRNAの量の増加や、ミトコンドリア体積の増加に関連してこれらが増加することが知られている)の酵素活性が、AMPKの活性化により増加されることが知られている(非特許文献14)。
【0014】
3.脂肪代謝の制御とAMPK
AMPKが脂肪代謝に関与している機構を検討すると、AMPKがアセチルCoAカルボキシラーゼのリン酸化を誘起し、このことが脂肪酸合成阻害をもたらす。従ってAMPKは、マロニルCoA(脂肪酸合成の中間体であり、またカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)の阻害剤でもある)の細胞内濃度を低下させる作用によって、脂肪酸酸化を増進することが知られている。CPT1は、脂肪酸がミトコンドリアに入り酸化される脂肪酸酸化プロセスに必須の酵素であり、マロニルCoAによる調節を受けることが知られている。加えて、コレステロールおよびトリアシルグリセロール合成に関与するHMG−CoAレダクターゼおよびグリセロールリン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)の活性を、AMPKがリン酸化を通じて阻害することが知られている(非特許文献17、非特許文献18)。
【0015】
ところで、肝臓におけるAMPKの活性化が、炭水化物応答因子結合タンパク(carbohydrate−response−element−binding protein)(ChREBP)のリン酸化を通じてピルビン酸キナーゼ、脂肪酸シンターゼおよびACCの活性を阻害することが見出されている(非特許文献19)。加えて、脂肪細胞の分化において重要な役割を果たすステロール調節因子結合タンパク−1(sterol−regulatory−element binding protein−1)(SREBP−1)の活性もまた、AMPKの作用によって阻害され、このことが脂肪細胞分化の阻害をもたらす。
【0016】
4.タンパク質合成の制御とAMPK
タンパク質合成プロセスにおいては、AMPKは、TSCの活性化によるmTORおよびp70S6Kの阻害を通じてタンパク質の合成を阻害し、または、AMPKは、伸長因子−2(eEF2)キナーゼの活性化およびリン酸化によるeEF2の不活性化を通じて翻訳・伸長を阻害する。eEF2キナーゼはAMPKの直接の基質であることが見出されている(非特許文献20)。
【0017】
以上述べたように、AMPKは、in vitroおよびin vivoのグルコース、タンパク質および脂肪のエネルギー代謝において中心的な役割を果たすことが知られている。Neilらは、AMPKおよびマロニルCoAは、メタボリックシンドローム治療の可能性ある標的であると主張し、メタボリックシンドロームに罹患した患者は、インスリン抵抗性、肥満、高血圧、異脂肪血症、膵臓β細胞機能不全、2型糖尿病および動脈硬化症発現によって特徴付けられると述べている(非特許文献21)。これら複数の異常を結びつける共通の特徴は、AMPK/マロニルCoAエネルギーレベル検知・シグナリング(energy level−sensing and signaling)ネットワークの調節不全であると仮定されている。そのような調節不全が、細胞の脂肪酸代謝を変化させ、次いでこれが、異常な脂肪蓄積、細胞の機能不全、そして最終的には疾患を引き起こすとの提案がなされている。AMPKを活性化および/またはマロニルCoAレベルを減少させる因子は、これらの異常および症候群を逆転させるか、その発生を防ぐかもしれないとの証拠も示されている。
【0018】
Rogerらは、AMPKは、視床下部AMPKの活性低下(これによってマロニルCoA含量が増加し、食餌摂取に対する欲求が調節される)による肥満抑制の可能性ある標的でありうることを示唆している(非特許文献22)。
Leeらは、α−リポ酸は、視床下部AMPK活性を抑制して食欲を調節することにより抗肥満作用を示しうることを示唆している(非特許文献23)。彼らはまた、α−リポ酸は、筋肉(視床下部ではなく)において脂肪代謝を促進すること、α−リポ酸は、UCP−1の活性化によりエネルギー消費を促進する(特に脂肪細胞において)ので、肥満の治療に有効であることを報告している。
Diraisonらは、膵臓細胞におけるAMPKの活性化が、食欲調節をもたらす腸管ホルモンペプチド(gut hormone peptide)YYの発現を4倍に増加させるので、視床下部以外の組織におけるAMPKの作用によって食欲が調節されうることを報告している(非特許文献24)。
【0019】
Nandakumarらは、虚血性心疾患において、AMPKは、脂肪およびグルコース代謝の調節による虚血再灌流傷害治療のための標的となると提案している(非特許文献25)。
Minらは、AMPKがアルコール性脂肪肝の制御に有効であることを報告している(非特許文献26)。
【0020】
Genevieveらは、AMPKの活性化は、慢性炎症状態またはエンドトキシンショック(肥満に関連した糖尿病を含む)における炎症メディエータであるiNOS酵素の活性を阻害し、従ってインスリン感受性を向上しうる機構を有する新たな医薬品の開発に有効であると報告している(非特許文献27)。加えて彼らは、iNOS活性の阻害はAMPKの活性化によって生じ、従ってこの発見は、敗血症、多発性硬化症、心筋梗塞、炎症性腸疾患、膵臓β細胞機能不全等の疾患に臨床応用しうると報告している。
【0021】
Zingpingらは、ラット筋細胞および心筋細胞において、AMPKは、Ca−カルモジュリンの存在下に、リン酸化を通じて内皮NOシンターゼを活性化させると報告している(非特許文献28)。このことは、狭心症を含む心疾患における、AMPKの関与が証明されたことを示している。
Javierらは、寿命を延ばすことは、エネルギーの利用を制限することにより可能であり、そのような延長された寿命は、in vivoのAMP/ATP比が増加し、その結果AMPによってAMPKのα2サブユニットが活性化されるような方法により達成されると報告している(非特許文献29)。従って彼らは、AMPKが、寿命の延長とエネルギーレベルとインスリン様シグナル情報の関係を検出するセンサーとして機能しうることを示唆している。
【0022】
ところで、丹参(Salvia miltiorrhiza)は、古来から北東アジア地域で重要な生薬として広く用いられてきたもので、種々の循環器疾患の予防・治療に著効を示すことが周知である。本発明者らは、そのような丹参の治療効果に注目し、丹参の主成分が、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム等、種々の疾患を治療しうる優れた薬物であることを示唆している。例えば、本願出願人に譲渡されている特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8および特許文献9を参照されたい。特に、本発明者らは、クリプトタンシノン、15,16−ジヒドロタンシノン、タンシノンII−AおよびタンシノンIをはじめとする丹参の主たる本体(main principle)が、メタボリックシンドローム疾患を治療しうることを明らかにしている。
【化1】
【0023】
【特許文献1】米国特許第6,183,948号
【特許文献2】韓国特許出願公開公報第2004−7005109号
【特許文献3】韓国特許第2003−0099556号
【特許文献4】韓国特許第2003−0099557号
【特許文献5】韓国特許第2003−0099657号
【特許文献6】韓国特許第2003−0099658号
【特許文献7】韓国特許第2004−0036195号
【特許文献8】韓国特許第2004−0036197号
【特許文献9】韓国特許第2004−0050200号
【特許文献10】米国特許第5,969,163号
【非特許文献1】Obesity Research,Vol.12(8),1197−1211
【非特許文献2】Korean Society of Medical Biochemistry and Molecular Biology News,2004,11(2),16−22
【非特許文献3】Journal of Clinical Investigation 111,303−312,2003
【非特許文献4】Mitochondria 74,1188−1199,2003
【非特許文献5】Biochimica et Biophysica acta 1658(2004)80−88
【非特許文献6】Arch.Biochem.Biophys.308,347−352,2000
【非特許文献7】J.Appl.Physiol.91,1073−1083,2001
【非特許文献8】Curr.Biol.10,1247−1255,2000
【非特許文献9】Diabetes 49,896−903,2000
【非特許文献10】Curr.Opin.Cell.Biol.15,706−716,2003
【非特許文献11】Science 300,1140−1142,2003
【非特許文献12】Diabetes Res.Clin.Prac.42,161−167,1998
【非特許文献13】Proc.Natl.Acad.Sci. USA 99:15983−15987,2002
【非特許文献14】J.Physiol.551,169−178,2003
【非特許文献15】Endocr. Rev.24,78−90,2003
【非特許文献16】Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.281,1340,2001
【非特許文献17】J.Biol.Chem.277,32571−32577,2002
【非特許文献18】J.Appl.Physiol.92,2475−2482,2002
【非特許文献19】J.Biol.Chem.277,3829−3835,2002
【非特許文献20】J.Biol.Chem.278,41970−41976,2003
【非特許文献21】Nature drug discovery 3(April),340,2004
【非特許文献22】Cell 117,145−151,2004
【非特許文献23】Nature Medicine 13(June),2004
【非特許文献24】Diabetes 53,S84−91,2004
【非特許文献25】Progress in Lipid Research 42,238−256,2003
【非特許文献26】Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.287,G1−6,2004
【非特許文献27】J.Biol.Chem.279,20767−74,2004
【非特許文献28】FEBS Letters 443,285−289,1999
【非特許文献29】Genes & Develop,2004
【非特許文献30】Reminton‘s Pharmaceutical Science,Mark Publishing Co.,Easton,PA,18th edition,1990
【非特許文献31】J.Am.Chem.Soc.,49(1927),857
【非特許文献32】Tetrahedron Lett.,42(2001),4549−4551
【非特許文献33】J.Chem.Soc.(C),(1968),48−52
【非特許文献34】Tetrahedron Letters,28(1987),3427−3430
【非特許文献35】J.Org.Chem.55(1990),4995−5008
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の事実に基づき種々の研究・実験を鋭意行った結果、本発明者らは、β−ラパコン(7,8−ジヒドロ−2,2−ジメチル−2H−ナフト(2,3−b)ジヒドロピラン−7,8−ジオン)、ダンニオン(2,3,3−トリメチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−ナフト(2,3−b)ジヒドロフラン−6,7−ジオン)、α−ダンニオン(2,3,3−トリメチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−ナフト(2,3−b)ジヒドロフラン−6,7−ジオン)、ノカルジオンA、ノカルジオンB、ランタルクラチンA、ランタルクラチンB、ランタルクラチンC等のナフトキノン系化合物もまた、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の種々の疾患の予防または治療に使用しうることを新たに確認した。
【0025】
β−ラパコンは、南米産ラパチョ樹(Tabebuia avellanedae)から得られるラパコール(一種のナフトキノン)に由来する植物天然産物である。ダンニオンおよびα−ダンニオンもまた、南米産Streptocarpus dunniiの葉から得られる。これらの天然三環性ナフトキノン誘導体は、南米では古来から抗癌薬として、また典型的には南米の風土病であるシャーガス病の治療に広く用いられ、優れた治療効果を示すことでも知られている。特に、抗癌薬としてのそれらの薬理作用が西洋諸国一般に知られるにつれて、これらの天然三環性ナフトキノン誘導体は最近、人々から注目されるようになった。実際、特許文献10に開示されているように、現在、多くの研究グループや研究所により、そのような三環性ナフトキノン誘導体化合物の種々の抗癌薬としての開発が行われている。
【化2】
【0026】
しかし、種々の調査・研究にもかかわらず、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患の治療または予防に関し、そのようなナフトキノン化合物が治療効果を示す事実は、未だ知られていない。
【0027】
β−ラパコン、ダンニオン、α−ダンニオン、ノカルジオンA、ノカルジオンB、ランタルクラチンA、ランタルクラチンB、ランタルクラチンC等の上記ナフトキノン化合物の基本的な化学構造が、丹参から抽出されるタンシノン誘導体のそれと類似しているという事実に基づき、本発明者らは、メタボリックシンドロームの治療・予防薬としてのそれらの薬理作用を検討した。即ち本発明者らは、本発明において開示するナフトキノン化合物が細胞および組織中のAMPKを活性化するか否かを試験することに努力した。そして得られた結果を元に、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む「疾患/症候群」に対する高い治療効果を試験するために、本発明者らは、ob/obマウス(レプチン分泌の減少による肥満のモデル)を用いた種々の実験を通じて、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む疾患/症候群を治療および/または予防する治療効果を試験した。その結果本発明者らは、本発明のナフトキノン化合物が、疾患/症候群の治療および/または予防において優れた効果を示すことを確認した。これらの発見に基づき、本発明を完成させた。
【0028】
従って、本発明の1つの目的は、有効成分として、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の疾患/症候群の治療および予防に有効なナフトキノン化合物を含む医薬組成物を提供することにある。
本発明の上記およびその他の諸目的、特徴並びに他の有利さに関しては、以下の詳細な説明および添付の図面より、より明確に理解される。図面は後述の通りである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一つの態様によれば、上記およびその他の諸目的は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の疾患/症候群を治療および/または予防するための医薬組成物であって、
(a)治療有効量の、下記式(I):
【化3】
(式中、
R1およびR2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基または炭素数1〜6の低級アルキル基であり、
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立に、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基或いはヘテロアリール基であり、R3〜R8のうち2つの置換基が一緒になり環状構造(飽和であってもよく、部分的又は完全に不飽和であっても良い)を形成していてもよく、
nは、0または1であり、
ただし、nが0であるとき、nの箇所に隣接する炭素原子が直接結合し、環状構造を形成する)
で表される化合物、或いは薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらのいずれかの組み合わせ
を含む医薬組成物を提供することにより達成しうる。
【0030】
疾患/症候群に対する式(I)の化合物の治療および予防効果を確認するため、本発明者らは、後述の実験例に示すように、筋芽細胞(C2C12)におけるAMPK活性および前脂肪細胞(3T3−L1およびF442A細胞)の細胞分化抑制に対する式(I)の化合物の活性を測定し、その結果、そのような化合物が、優れたAMPK活性化作用および脂肪細胞分化抑制作用を示すことを確認した。
【0031】
加えて、本発明者らは更に、ob/obマウス(肥満のモデル)、db/dbマウス(肥満/糖尿病のモデル)、DIO(食餌誘導肥満)マウス(高脂肪食条件により生じる)およびZucker fa/faラット(肥満/糖尿病のモデル)を用いるin vivo実験を通じて、式(I)の化合物による、疾患/症候群に対する治療および予防効果を検討し、その結果、式(I)の化合物が治療において大いに有効であることを確認した。
従って、有効成分として式(I)の化合物を含む本発明の医薬組成物は、本発明において定義する種々の疾患/症候群を、AMPKの活性化を通じて治療および予防しうると期待される。
【0032】
本明細書で用いる用語「薬学的に許容される塩」とは、ある化合物の処方であって、それを投与した生物に対し有意な刺激を生じず、またその化合物の生物活性や特性を損なう(abrogate)ことのない処方を意味する。薬学的な(pharmaceutical)塩の例には、薬学的に許容される陰イオンを含む非毒性酸付加塩を形成しうる酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸;酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸等の有機カルボン(carbonic)酸;およびメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸)との、式(I)の化合物の酸付加塩が含まれうる。具体的には、薬学的に許容されるカルボン酸塩の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等)との塩、アミノ酸(アルギニン、リジン、グアニジン等)との塩、および有機塩基(ジシクロヘキシルアミン、N−メチル−D−グルコサミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン(diethanoamine)、コリン、トリエチルアミン等)との塩が含まれる。本発明の式(I)の化合物は、当該分野において公知の従来法により、その塩に変換しうる。
【0033】
本明細書で用いる用語「プロドラッグ」とは、in vivoで親薬物に変換される物質を意味する。プロドラッグは、ある状況下においては親薬物に比して投与が容易な場合があるので、プロドラッグが有用であることがしばしばある。例えば、(親薬物はそうではないが)プロドラッグは生物学的に利用される(bioavailable)場合がある。またプロドラッグは、医薬組成物における溶解性が親薬物に比して向上している場合がある。プロドラッグの一例は、細胞膜(ここでは、水溶性は移動度に対し有害である)を通しての輸送を容易にするために、エステル(「プロドラッグ」)として投与され、その後細胞内(ここでは、水溶性は有益である)に入ってしまえば、代謝により加水分解されて、活性の本体であるカルボン酸となる本発明の化合物であるが、これに限定されない。プロドラッグの更なる一例は、酸性基に短いペプチド(ポリアミノ酸)が結合したものでありうる。この場合、ペプチドが代謝されて活性部位が現れる。
【0034】
本明細書で用いる用語「溶媒和物」とは、化学量論量または非化学量論量の、非共有結合性の分子間力により結合した溶媒を更に含む本発明の化合物またはその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性であり、また無毒である、および/またはヒトへの投与が許容されるものである。溶媒が水ならば、溶媒和物は水和物と呼ばれる。
本明細書で用いる用語「異性体」とは、本発明の化合物またはその塩であって、化学式または分子式は同一であるが、光学的または立体的に異なっているものを意味する。
別途特定しない限り、用語「本発明の化合物」は、化合物それ自体、並びにその塩、プロドラッグ、溶媒和物および異性体を包含することを意図するものである。
【0035】
本明細書で用いる用語「アルキル」とは、脂肪族の炭化水素基を意味する。アルキル部位は「飽和アルキル基」であってよく、これはアルケンまたはアルキン部位を含まないことを意味する。或いは、アルキル部位は「不飽和アルキル」部位であってもよく、これは少なくとも1つのアルケンまたはアルキン部位を含むことを意味する。用語「アルケン」部位とは、少なくとも2個の炭素原子が、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を形成している基をいい、用語「アルキン」部位とは、少なくとも2個の炭素原子が、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を形成している基をいう。アルキル部位は、置換されているか否かを問わず、分岐状であっても、直鎖状であっても、環状であってもよい。
【0036】
本明細書で用いる用語「ヘテロシクロアルキル」とは、1つ以上の炭素原子が酸素、窒素または硫黄原子で置換された炭素環状基を意味し、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジンおよびトリアジンを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で用いる用語「アリール」とは、共役π(パイ)電子系を有する少なくとも1つの環を有する芳香族置換基を指し、炭素環アリール(例えばフェニル)とヘテロ環アリール(例えばピリジン)の両者を含む。この用語は、単環および縮合(即ち、隣接する炭素原子の対を共有する)複環基を含む。
本明細書で用いる用語「ヘテロアリール」とは、少なくとも1つのヘテロ環を含む芳香族基を指す。
アリールおよびヘテロアリールの例には、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジルおよびトリアジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明における式(I)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、任意に置換されていてもよい。置換されている場合、置換基は各々独立に、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ脂環式基、水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボニル基、チオカルボニル基、O−カルバミル基、N−カルバミル基、O−チオカルバミル基、N−チオカルバミル基、C−アミド基、N−アミド基、S−スルホンアミド基、N−スルホンアミド基、C−カルボキシ基、O−カルボキシ基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロ基、シリル基、トリハロメタンスルホニル基、アミノ基(一置換および二置換アミノ基を含む)およびそれらの保護誘導体よりなる群から選択される。
【0039】
式(I)の化合物のうち、下記式(II)〜(IV)の化合物が好ましい。
式(II)の化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子が、それらの間の直接結合を介して環状構造(フラン環)を形成している化合物であり、以降しばしば「フラン化合物」または「フラノ−o−ナフトキノン」と称される。
【0040】
【化4】
【0041】
式(III)の化合物は、nが1である化合物であり、以降しばしば「ピラン化合物」または「ピラノ−o−ナフトキノン」と称される。
【化5】
【0042】
特に好ましくは、式(I)において、R1およびR2は各々水素原子である。
式(II)のフラン化合物のうち、R1、R2およびR4が各々独立に水素原子である下記式(IIa)の化合物、またはR1、R2およびR6が各々独立に水素原子である下記式(IIb)の化合物が特に好ましい。
【0043】
【化6】
【0044】
更に、式(III)のピラン化合物のうち、R1、R2、R5、R6、R7およびR8が各々独立に水素原子である下記式(IIIa)の化合物が特に好ましい。
【0045】
【化7】
【0046】
本明細書で用いる用語「医薬組成物」とは、式(I)の化合物と他の化学成分(希釈剤、担体等)の混合物を意味する。医薬組成物は、化合物の生物への投与を容易にする。化合物を投与する種々の手法が当該技術において知られており、これには経口投与、注射、エアロゾル、非経口投与、局所投与が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物は、関心ある化合物を酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等)と反応させることによって得ることもできる。
【0047】
本明細書で用いる用語「治療有効量」とは、その化合物を投与すると、治療を要する疾患の1つ以上の症状をある程度緩和または減少するのに有効である、或いは予防を要する疾患の臨床マーカーまたは症状の出現を遅らせるのに有効である有効成分の量を意味する。よって治療有効量とは、(i)疾患の進行の速度を逆転させ;(ii)疾患の更なる進行をある程度阻害し;および/または(iii)疾患に伴う1つ以上の症状をある程度緩和する(好ましくは除去する)作用を示す有効成分の量をいう。治療有効量は、治療を要する疾患の既知のin vitroおよびin vivoモデル系に関連して、その化合物を用いて実験することにより、経験的に測定しうる。
【0048】
本明細書で用いる用語「担体」とは、化合物を細胞または組織に取り込ませることを容易にする化学物質を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、多くの有機化合物の、生物の細胞または組織への取り込みを容易にするので、一般に用いられる担体である。
本明細書で用いる用語「希釈剤」とは、関心ある化合物を溶解させ、且つその化合物の活性型を安定化させる、水で希釈された化学物質を定義するものである。緩衝溶液に溶解した塩は、当該技術において希釈剤として用いられる。一般に用いられる緩衝溶液の一つは、リン酸緩衝食塩水(PBS)である。これはこのものが、ヒトの体液におけるイオン強度条件を模倣することによる。緩衝塩は低濃度溶液のpHを制御できるので、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を変えることは稀である。
【0049】
本明細書に記載の化合物は、ヒト患者に対し、そのまま投与してもよく、他の有効成分(併用療法においてそうするように)或いは適切な担体または賦形剤と混合された医薬組成物の形で投与してもよい。化合物を処方および投与する技術は、非特許文献30に見出しうる。
【0050】
本発明の医薬組成物において、式(I)の化合物は、後述するように、当該技術における従来の方法および/または有機化学合成の分野における一般的な技術および慣習に基づく種々の方法により調製することができる。以下に記載する調製方法は説明のためのものに過ぎず、他の方法を採用することもできる。よって、本発明は以下の方法に限定されない。
【0051】
調製方法1:ラパコール誘導体の合成および酸触媒環化反応
ラパチョ樹から得られるβ−ラパコンは比較的少量であるが、β−ラパコンの合成原料として用いるラパコールは、ラパチョ樹からかなり多量に得られる。従って、ラパコールを用いてβ−ラパコンを合成する方法は、ずっと以前に既に開発されている。即ち、L.F.Fieserが非特許文献31において教示するように、ラパコールと硫酸を混合し、得られた混合物を室温で激しく攪拌することにより、β−ラパコンが比較的高収率で得られる。よって、比較的単純な化学構造を有する三環性ナフトキノン(ピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン)誘導体は一般に、下記の反応スキームに示すように、硫酸を触媒として用いる環化反応により比較的高収率で合成される。この方法に基づき、式(I)の化合物を種々合成することができる。
【0052】
【化8】
【0053】
より具体的には、上記の合成方法は、次のように要約しうる。
【化9】
【0054】
即ち、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを塩基の存在下に種々のアリルブロミドまたはその等価体と反応させると、C−アルキル化生成物とO−アルキル化生成物が同時に得られる。反応条件のみに依存して、2つの誘導体のいずれかを合成することも可能である。O−アルキル化誘導体をトルエン、キシレン等の溶媒を用いて還流することにより、O−アルキル化誘導体は、クライゼン転移により他の形式のC−アルキル化誘導体に変換されるので、種々の3位置換2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン誘導体を得ることができる。得られた種々のC−アルキル化誘導体を、硫酸を触媒として用いる環化反応に付してもよく、そうすることにより、式(I)の化合物のうちの、ピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することが可能となる。
【0055】
調製方法2:3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを用いるディールズ−アルダー反応
V.Nairらが非特許文献32において教示するように、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンをホルムアルデヒドと共に加熱して合成される3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを、種々のオレフィン化合物とのディールズ−アルダー反応に付すことにより、種々のピラノ−o−ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成することができることが報告されている。硫酸を触媒として用いるラパコール誘導体の環化反応誘発に比べ、この方法は、種々の形のピラノ−o−ナフトキノン誘導体を、比較的単純な様式で合成することができる点において有利である。
【0056】
【化10】
【0057】
調製方法3:ラジカル反応によるハロアルキル化および環化反応
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成に用いたものと同じ方法を、フラノ−o−ナフトキノン誘導体の合成にも都合よく用いることができる。即ち、A.C.Baillieらが教示するように(非特許文献33)、3−ハロプロピオン酸または4−ハロ酪酸誘導体由来の2−ハロエチルまたは3−ハロエチルラジカル化学種を、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンと反応させて、3−(2−ハロエチルまたは3−ハロプロピル)−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを合成し、次いでこれを、適当な酸触媒条件下における環化反応に付すことにより、種々のピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0058】
【化11】
【0059】
調製方法4:ディールズ−アルダー反応による4,5−ベンゾフランジオンの環化反応
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成に用いた他の方法は、J.K.Snyderらが教示する方法(非特許文献34)であってもよい。この方法によれば、4,5−ベンゾフランジオン誘導体と種々のジエン誘導体の間の、ディールズ−アルダー反応を介する環化反応により、フラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0060】
【化12】
【0061】
加えて、上記の調製方法に基づき、置換基の種類に応じて等価の合成方法を用いて、種々の誘導体を合成しうる。得られた誘導体および方法を、下記表1−a〜1−dに例示する。具体的な調製方法を、下記実施例に記載する。
【表1−a】
【表1−b】
【表1−c】
【表1−d】
【0062】
本発明の医薬組成物は、それ自体既知の方法、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣(dragee making)、微粒子化(levigating)、乳化、カプセル化、封入(entrapping)または凍結乾燥工程により製造しうる。
【0063】
よって、本発明に従って用いる医薬組成物は、活性化合物を処理して薬学的に使用可能な処方物にすることを容易にする賦形剤および助剤からなる1種以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の方法により処方しうる。適切な処方は、選択した投与経路に依存する。公知の手法、担体および賦形剤はいずれも、適切且つ当該分野(例えば、前記非特許文献30)において理解されているように用いてよい。本発明においては、意図する目的に応じて、式(I)の化合物を注射用および非経口投与用の処方物に処方しうる。
【0064】
注射用には、本発明のものを水溶液中、好ましくは生理的に適合性のある緩衝液(ハンク液、リンゲル液等)中、または生理食塩水中に処方しうる。経粘膜投与用には、浸透させるべき障壁に適する浸透剤を処方中に用いる。そのような浸透剤は、当該技術において一般に知られている。
【0065】
経口投与用には、当該技術においてよく知られている薬学的に許容される担体を用いて活性化合物を結合させることにより、化合物を容易に処方することができる。そのような担体により、本発明の化合物を、患者による経口摂取用の錠剤、丸薬、散剤、顆粒、糖衣錠(dragee)、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、分散液等として処方することが可能となる。カプセル、錠剤、丸薬、散剤および顆粒が好ましく、カプセルおよび錠剤が特に有用である。錠剤および丸薬は、腸溶性コーティングで調製することが好ましい。経口用の医薬組成物は、1種以上の賦形剤を、1種以上本発明の化合物と混合し;任意に、得られた混合物を磨砕し;所望であれば適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して錠剤または糖衣錠を得ることにより得ることができる。適切な賦形剤は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース物質;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)等の充填剤でありうる。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸およびその塩(アルギン酸ナトリウム等)等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤並びに結合剤等の担体(carries)を添加してもよい。
【0066】
経口で使用可能な医薬組成物は、ゼラチンでできた押し込み式(push−fit)カプセルや、ゼラチンおよび可塑剤(グリセロール、ソルビトール等)でできた密封軟カプセル(soft,sealed capsules)を含みうる。押し込み式カプセルは、乳糖等の充填剤、デンプン等の結合剤および/またはタルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤との混合物として活性成分を含むことができる。軟カプセルでは、活性化合物は脂肪酸、流動パラフィン、液状ポリエチレングリコール等の適切な溶媒に溶解または分散していてよい。加えて、安定剤も添加されていてよい。経口投与用の処方はいずれも、そのような投与に適する投与形状とすべきである。
【0067】
化合物を注射(ボーラス注射、持続点滴等)による非経口投与用に処方してもよい。注射用処方物は、単位投与量の形態、例えばアンプルで提供してもよく、保存料を添加して多数回投与用の容器で提供してもよい。組成物は、油性または水性媒体中の分散液、溶液、乳液等の形態であってよく、また懸濁化剤、安定剤、分散剤等の調剤用試薬(formulatory agents)含んでいてよい。
或いは、活性成分を粉末とし、使用前に適切な溶媒(滅菌・無パイロジェン水等)を用いて構築するようにしてもよい。
【0068】
本発明において用いるのに適する医薬組成物は、意図する目的を達成するのに有効な量の活性成分を含有する組成を含む。より具体的には、治療有効量とは、疾患の症状を予防、緩和または改善する、或いは治療対象の生存を延長するのに有効である化合物の量を意味する。治療有効量の測定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0069】
本発明の医薬組成物を単位投与量の形態に処方する場合、有効成分としての式(I)の化合物は、好ましくは単位投与量約0.1〜1000mgで含まれる。式(I)の化合物の投与量は、治療される患者の体重や年齢、特徴的な性質、疾患の重篤度に応じて、担当医(attending physician)により決められる。しかし、成人患者の場合、患者に投与される有効成分の投与量は、投与の頻度や強度(intensity)にもよるが、典型的には体重1kgあたり約1〜1000mg/日である。成人患者に筋肉または静脈内投与する場合、単回投与で1日あたり合計で約1〜500mg/で十分であるが、患者によっては、1日あたりの投与量をより多くして用いることが好ましいこともある。
【0070】
本発明の他の1つの態様によれば、疾患/症候群を治療および予防するための医薬品の調製における式(I)の化合物の用途が提供される。疾患/症候群とは、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患をいう。疾患/症候群の「治療」という用語は、発病の症状を示している対象において医薬品を用いたときの、疾患の進行の停止または遅延をいう。「予防」という用語は、発病の症状を示していないが発病の危険性が高い対象において医薬品を用いたときの、発病の症状の停止または遅延をいう。
【0071】
以下の実施例および実験例を参照して、本発明をより詳細に記載する。これらの例は本発明の例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲および精神を限定すると解釈すべきものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1:β−ラパコン(化合物1)の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、15.9g(0.10M)のプレニルブロミド(1−ブロモ−3−メチル−2−ブテン)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに76gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。反応混合物に200mlのEtOAcを添加し、次いでこれを激しく攪拌したところ、EtOAcに溶解しない白色固体が生成した。この固体を濾取し、EtOAc層を分離した。水層を再び100mlのEtOAcで抽出し、先に抽出した有機層と合わせた。有機層を150mlの5%NaHCO3で洗浄し、濃縮した。得られた濃縮物を200mlのCH2Cl2に溶解し、70mlのNaOH水溶液(2N)を添加して激しく振とうし、2層に分離させた。NaOH水溶液(2N)での処理(70ml、2回)により、CH2Cl2層を更に2度得た。分離された水溶液を合わせてpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコールを得た。得られたラパコールを75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコールを80mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに200gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮したところ、不純なβ−ラパコンが得られた。得られたβ−ラパコンをイソプロパノールから再結晶させて、8.37gの純粋なβ−ラパコンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1および8Hz)、7.82(1H、dd、J=1および8Hz)、7.64(1H、dt、J=1および8Hz)、7.50(1H、dt、J=1および8Hz)、2.57(2H、t、J=6.5Hz)、1.86(2H、t、J=6.5Hz)、1.47(6H、s)
【0073】
実施例2:ダンニオン(化合物2)の合成
実施例1においてラパコールを得た工程で、EtOAcに溶解せずに分離された固体は2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンであった。C−アルキル化生成物であるラパコールとは異なり、こちらはO−アルキル化生成物である。まず、分離された2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンを、EtOAcから再び再結晶させた。3.65g(0.015M)の精製した固体をトルエンに溶解し、トルエンを5時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりトルエンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、2.32gの純粋なダンニオンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、d、J=8Hz)、7.56(1H、m)、4.67(1H、q、J=7Hz)、1.47(3H、d、J=7Hz)、1.45(3H、s)、1.27(3H、s)
【0074】
実施例3:α−ダンニオン(化合物3)の合成
4.8g(0.020M)の実施例2において精製した2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンをキシレンに溶解し、キシレンを15時間還流して、実施例2に比して有意に高温且つ長時間の反応条件下でクライゼン転移を誘発した。この反応工程により、クライゼン転移を起こし、2つのメチル基のうちの1つがシフトしたラパコール誘導体と共に、環化反応が進行したα−ダンニオンが得られた。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.65gの純粋なα−ダンニオンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、m)、7.57(1H、m)、3.21(1H、q、J=7Hz)、1.53(3H、s)、1.51(3H、s)、1.28(3H、d、J=7Hz)
【0075】
実施例4:化合物4の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、14.8g(0.11M)のメタリルブロミド(1−ブロモ−2−メチルプロペン)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。反応混合物に200mlのCH2Cl2を添加して激しく振とうし、2層に分離させた。水層を再び70mlのCH2Cl2で抽出し、先に抽出した有機層と合わせた。2種の物質が新たに生成したことがTLCにより確認され、特段の分離工程なしに以降の工程に用いた。減圧下での蒸留により有機層を濃縮し、キシレンに再溶解し、8時間還流した。この工程によりTLC上の2つの物質が1つに合一し、比較的純粋なラパコール誘導体が得られた。得られたラパコール誘導体を80mlの硫酸と混合し、室温で10分間激しく攪拌し、これに200gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に80mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び50mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮したところ、不純なβ−ラパコン誘導体(化合物4)が得られた。得られたβ−ラパコン誘導体をイソプロパノールから再結晶させて、12.21gの純粋な化合物4を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、m)、7.57(1H、m)、2.95(2H、s)、1.61(3H、s)
【0076】
実施例5:化合物5の合成
メタリルブロミドに替えてアリルブロミドを用いた以外は実施例4と同様にして、化合物5を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、d、J=7Hz)、7.65(2H、m)、7.58(1H、m)、5.27(1H、m)、3.29(1H、dd、J=10および15Hz)、2.75(1H、dd、J=7および15Hz)、1.59(3H、d、J=6Hz)
【0077】
実施例6:化合物6の合成
5.08g(40mM)の塩化3−クロロプロピオニルを20mlのエーテルに溶解し、−78℃に冷却した。得られた溶液に、その温度で激しく攪拌しながら1.95g(25mM)の過酸化ナトリウム(Na2O2)を徐々に添加し、次いで更に30分間激しく攪拌した。反応溶液を0℃に加温し、これに7gの氷を添加し、次いで更に10分間激しく攪拌した。有機層を分離し、10mlの冷水(0℃)で再び洗浄し、その後5%NaHCO3(0℃)で洗浄した。有機層を分離してMgSO4で乾燥し、減圧下、0℃未満での蒸留により濃縮して、3−クロロ過プロピオン酸を調製した。
【0078】
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを20mlの酢酸に溶解し、室温においてこれに先に調製した3−クロロ過プロピオン酸を徐々に添加した。反応混合物を攪拌下に2時間還流し、次いで減圧下に蒸留して酢酸を除去した。得られた濃縮物を20mlのCH2Cl2に溶解し、20mlの5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮して、2−(2−クロロエチル)−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとの混合物として化合物6を得た。得られた混合物をシリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、0.172gの純粋なラパコン誘導体(化合物6)を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、d、J=7.6Hz)、7.56〜7.68(3H、m)、4.89(2H、t、J=9.2Hz)、3.17(2H、t、J=9.2Hz)
【0079】
実施例7:化合物7の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、19.7g(0.10M)のシンナミルブロミド(3−フェニルアリルブロミド)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。この時、NaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、実施例8において再度用いた。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコール誘導体を得た。得られたラパコール誘導体を75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコール誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、2.31gの純粋な化合物7を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.09(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.83(1H、d、J=7.6Hz)、7.64(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.52(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.41(5H、m)、5.27(1H、dd、J=2.5および6.0Hz)、2.77(1H、m)、2.61(1H、m)、2.34(1H、m)、2.08(1H、m)、0.87(1H、m)
【0080】
実施例8:化合物8の合成
実施例7におけるNaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、減圧下での蒸留により濃縮した。得られた濃縮物を30mlのキシレンに溶解し、次いで10時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.26gの純粋な化合物8を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.12(1H、dd、J=0.8および8.0Hz)、7.74(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.70(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.62(1H、dt、J=1.6および7.6Hz)、7.27(3H、m)、7.10(2H、td、J=1.2および6.4Hz)、5.38(1H、qd、J=6.4および9.2Hz)、4.61(1H、d、J=9.2Hz)、1.17(3H、d、J=6.4Hz)
【0081】
実施例9:化合物9の合成
3.4g(22mM)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エンおよび1.26g(15mM)の2−メチル−3−ブチン−2−オールを10mlのアセトニトリルに溶解し、得られた溶液を0℃に冷却した。反応溶液に3.2g(15mM)のトリフルオロ酢酸無水物を攪拌しながら徐々に添加し、その後0℃で攪拌を続けた。1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンおよび135mg(1.0mM)の塩化第二銅(CuCl2)を別のフラスコで10mlのアセトニトリルに溶解し、攪拌した。先に精製した溶液を反応溶液に徐々に添加し、これを20時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、0.22gの純粋な化合物9を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.11(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.73(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.69(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.60(1H、dt、J=1.6および7.6Hz)、4.95(1H、d、J=3.2Hz)、4.52(1H、d、J=3.2Hz)、1.56(6H、s)
【0082】
実施例10:化合物10の合成
0.12gの化合物9を5mlのメタノールに溶解し、これに10mgの5%Pd−Cを添加し、次いで室温で3時間激しく攪拌した。反応溶液をシリカゲルでろ過して5%Pd−Cを除去し、減圧下に蒸留して濃縮し、純粋な化合物10を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.64(2H、m)、7.54(1H、m)、3.48(3H、s)、1.64(3H、s)、1.42(3H、s)、1.29(3H、s)
【0083】
実施例11:化合物11の合成
1.21g(50mM)のβ−ラパコン(化合物1)および1.14g(50mM)のDDQ(2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン)を50mlの四塩化炭素に溶解し、72時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.18gの純粋な化合物11を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.85(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.68(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.55(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、6.63(1H、d、J=10.0Hz)、5.56(1H、d、J=10.0Hz)、1.57(6H、s)
【0084】
実施例12:化合物12の合成
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、3.4g(50mM)の2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドおよび20mlの1,4−ジオキサンを耐圧容器に入れ、攪拌下に100℃で48時間加熱した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、238mgの化合物12をβ−ラパコンの2−ビニル誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.88(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.66(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.52(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、5.87(1H、dd、J=10.8および17.2Hz)、5.18(1H、d、J=10.8Hz)、5.17(1H、J=17.2Hz)、2.62(1H、m)、2.38(1H、m)、2.17(3H、s)、2.00(1H、m)、1.84(1H、m)
【0085】
実施例13:化合物13の合成
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、4.8g(50mM)の2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンおよび3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドを20mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、428mgの化合物13をβ−ラパコンの誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.83(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.65(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.50(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、5.22(1H、bs)、2.61(1H、m)、2.48(1H、m)、2.04(1H、m)、1.80(3H、d、J=1.0Hz)、1.75(1H、m)、1.72(1H、d、J=1.0Hz)、1.64(3H、s)
【0086】
実施例14:化合物14の合成
5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(150mM)の2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを50mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.18gの化合物14をβ−ラパコンの誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.87(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.66(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.51(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、6.37(1H、dd、J=11.2および15.2Hz)、5.80(1H、幅広いd、J=11.2Hz)、5.59(1H、d、J=15.2Hz)、2.67(1H、dd、J=4.8および17.2Hz)、2.10(1H、dd、J=6.0および17.2Hz)、1.97(1H、m)、1.75(3H、bs)、1.64(3H、bs)、1.63(3H、s)、1.08(3H、d、J=6.8Hz)
【0087】
実施例15:化合物15の合成
5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(50mM)のテルピネンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを50mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.12gの化合物15を四環性o−キノン誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、d、J=7.6Hz)、7.85(1H、d、J=7.6Hz)、7.65(1H、t、J=7.6Hz)、7.51(1H、t、J=7.6Hz)、5.48(1H、幅広いs)、4.60(1H、幅広いs)、2.45(1H、d、J=16.8Hz)、2.21(1H、m)、2.20(1H、d、J=16.8Hz)、2.09(1H、m)、1.77(1H、m)、1.57(1H、m)、1.07(3H、s)、1.03(3H、d、J=0.8Hz)、1.01(3H、d、J=0.8Hz)、0.96(1H、m)
【0088】
実施例16:化合物16および17の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、16.3g(0.12M)のクロチルブロミドおよび3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。この時、NaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、実施例17において用いた。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコール誘導体を得た。得られたラパコール誘導体を75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコール誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々1.78gおよび0.43gの純粋な化合物16および17を得た。
【0089】
化合物16の1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=0.8および6.8Hz)、7.64(2H、幅広いd、J=3.6Hz)、7.57(1H、m)、5.17(1H、qd、J=6.0および8.8Hz)、3.53(1H、qd、J=6.8および8.8Hz)、1.54(3H、d、J=6.8Hz)、1.23(3H、d、J=6.8Hz)
化合物17の1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=0.8および7.2Hz)、7.65(2H、幅広いd、J=3.6Hz)、7.57(1H、m)、4.71(1H、五重線、J=6.4Hz)、3.16(1H、五重線、J=6.4Hz)、1.54(3H、d、J=6.4Hz)、1.38(3H、d、J=6.4Hz)
【0090】
実施例17:化合物18および19の合成
実施例16におけるNaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、減圧下での蒸留により濃縮した。得られた濃縮物を30mlのキシレンに溶解し、次いで10時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々0.62gおよび0.43gの純粋な化合物18および19を得た。
【0091】
化合物18の1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=0.8および7.2Hz)、7.81(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.65(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、7.51(1H、dt、J=0.8および7.2Hz)、4.40(1H、m)、2.71(1H、m)、2.46(1H、m)、2.11(1H、m)、1.71(1H、m)、1.54(3H、d、J=6.4Hz)、1.52(1H、m)
化合物19の1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、d、J=0.8および7.2Hz)、7.66(2H、幅広いd、J=4.0Hz)、7.58(1H、m)、5.08(1H、m)、3.23(1H、dd、J=9.6および15.2Hz)、2.80(1H、dd、J=7.2および15.2Hz)、1.92(1H、m)、1.82(1H、m)、1.09(3H、t、J=7.6Hz)
【0092】
実施例18:化合物20の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、21.8g(0.10M)のゲラニルブロミドおよび3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、2−ゲラニル−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを得た。得られた生成物を、それ以上の精製をせずに50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、3.62gの純粋な化合物20を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、d、J=7.6Hz)、7.77(1H、d、J=7.6Hz)、7.63(1H、t、J=7.6Hz)、7.49(1H、t、J=7.6Hz)、2.71(1H、dd、J=6.0および17.2Hz)、2.19(1H、dd、J=12.8および17.2Hz)、2.13(1H、m)、1.73(2H、m)、1.63(1H、dd、J=6.0および12.8Hz)、1.59(1H、m)、1.57(1H、m)、1.52(1H、m)、1.33(3H、s)、1.04(3H、s)、0.93(3H、s)
【0093】
実施例19:化合物21の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて6−クロロ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物21を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.02(1H、d、J=8Hz)、7.77(1H、d、J=2Hz)、7.50(1H、dd、J=2および8Hz)、2.60(2H、t、J=7Hz)、1.87(2H、t、J=7Hz)、1.53(6H、s)
【0094】
実施例20:化合物22の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて2−ヒドロキシ−6−メチル−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物22を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.98(1H、d、J=8Hz)、7.61(1H、d、J=2Hz)、7.31(1H、dd、J=2および8Hz)、2.58(2H、t、J=7Hz)、1.84(2H、t、J=7Hz)、1.48(6H、s)
【0095】
実施例21:化合物23の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて6,7−ジメトキシ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物23を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.56(1H、s)、7.25(1H、s)、3.98(6H、s)2.53(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.48(6H、s)
【0096】
実施例22:化合物24の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−メチル−2−ペンテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物24を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.15(4H、m)、2.55(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.80(2H、q、7Hz)、1.40(3H、s)、1.03(3H、t、J=7Hz)
【0097】
実施例23:化合物25の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−エチル−2−ペンテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.15(4H、m)、2.53(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.80(4H、q、7Hz)、0.97(6H、t、J=7Hz)
【0098】
実施例24:化合物26の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−フェニル−2−ブテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.15〜8.15(9H、m)、1.90〜2.75(4H、m)、1.77(3H、s)
【0099】
実施例25:化合物27の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて2−ブロモ−エチリデンシクロヘキサンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.25(4H、m)、2.59(2H、t、J=7Hz)、1.35〜2.15(12H、m)
【0100】
実施例26:化合物28の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて2−ブロモ−エチリデンシクロペンタンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.28〜8.20(4H、m)、2.59(2H、t、J=7Hz)、1.40〜2.20(10H、m)
【0101】
実施例27:化合物29の合成
8.58g(20mM)の実施例5で合成した化合物5を1000mlの四塩化炭素に溶解し、次いで1.14g(50mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、得られた混合物を96時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、得られた赤色固体をイソプロパノールから再結晶させて、7.18gの純粋な化合物29を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.66(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.62(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.42(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、6.45(1H、q、J=1.2Hz)、2.43(3H、d、J=1.2Hz)
【0102】
実施例27:化合物29の合成
p−ベンゾキノンおよび1−(N−モルホリン)プロペンを用い、非特許文献35に教示されている合成方法と同様にして、4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン(ベンゾフラン−4,5−ジオン)を合成した。1.5g(9.3mM)の調製したベンゾフラン−4,5−ジオンおよび3.15g(28.2mM)の1−アセトキシ−1,3−ブタジエンを200mlのベンゼンに溶解し、得られた混合物を12時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下に蒸留して濃縮した。次いでシリカゲルでのクロマトグラフィーを行い、1.13gの純粋な化合物30を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.68(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.64(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.43(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.26(1H、q、J=1.2Hz)、2.28(3H、d、J=1.2Hz)
【0103】
実施例29:化合物31および32の合成
1.5g(9.3mM)の4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン(ベンゾフラン−4,5−ジオン)および45g(0.6M)の2−メチル−1,3−ブタジエンを200mlのベンゼンに溶解し、得られた混合物を5時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下に蒸留して完全に濃縮した。得られた濃縮物を150mlの四塩化炭素に再溶解し、次いで2.3g(10mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、得られた混合物を更に15時間還流した。反応溶液を冷却し、減圧下に蒸留して濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々0.13gおよび0.11gの純粋な化合物31および32を得た。
化合物31の1H−NMR(CDCl3、δ):7.86(1H、s)、7.56(1H、d、J=8.1Hz)、7.42(1H、d、J=8.1Hz)、7.21(1H、q、J=1.2Hz)、2.40(3H、s)、2.28(1H、d、J=1.2Hz)
化合物32の1H−NMR(CDCl3、δ):7.96(1H、d、J=8.0Hz)、7.48(1H、s)、7.23(2H、m)、2.46(3H、s)、2.28(1H、d、J=1.2Hz)
【0104】
実験例1:AMPK活性の測定
筋芽細胞C2C12を、10%仔ウシ血清を含むDMEM中で細胞培養した。細胞密度が約85〜90%に達したら、培地を1%仔ウシ血清を含む培地に変えて、細胞の分化を誘発した。このようにして分化させた筋芽細胞を、実施例1〜29で合成した試料(濃度5μg/ml)で処理し、対照群と比較した。AMPKの酵素活性は、以下のようにして測定した。まず、C2C12細胞を溶解してタンパク抽出物を得、最終濃度30%となるように硫酸アンモニウムを添加して、タンパク質を沈殿させた。タンパク質沈殿物を緩衝液(62.5mM Hepes、pH7.2、62.5mM NaCl、62.5mM NaF、1.25mMピロリン酸Na、1.25mM EDTA、1mM DTT、0.1mM PMSFおよび200μM AMP)に溶解した。その後、これに200μM SAMSペプチド(HMRSAMSGLHLVKRR:下線を付けたセリン残基は、アセチルCoAカルボキシラーゼのAMPKリン酸化部位としてのリン酸化部位である)および[γ−32P]ATPを添加し、反応物を30℃で10分間反応させた。この後、得られた反応液をp81ホスホセルロース紙にスポットした。p81ホスホセルロース紙を3%リン酸溶液で洗浄し、放射活性を測定した。各反応条件において、SAMSペプチドを含まない反応も行い、測定値からベースの数値を差し引いた。
得られた結果を下記表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2からわかるように、筋芽細胞C2C12を本発明の化合物で処理すると、この処理がAMPK酵素活性の増加をもたらす。
【0107】
実験例2:肥満マウス(ob/ob)における体重低下作用
肥満の特性・素因を有する10週齢のC57BL/6JL Lep ob/Lep ob雄性マウスは、Deahan Biolink Co.,Ltd.(Chungchongbuk−do、大韓民国)より購入した。温度23℃、湿度55%、照度300〜500ルクス、明暗(L/D)サイクル12時間、換気10〜18回/時に維持した飼育室で動物を飼育した。動物には、Purina Rodent Laboratory Chow 5001のペレット(実験動物用固形飼料)(Purina Mills Inc.社(ミズーリ州セントルイス、アメリカ合衆国)より購入)および水道水(飲料水)を自由に摂取させた。2週間かけて飼育室の新たな環境にマウスを順応させ、本発明に従って合成したいくつかのピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン誘導体を、26日間にわたり投与量100mg/kgで投与した。計時的投与に対する、体重、血中グルコースおよび食餌摂取の変動を観察した。投与完了後、コンピュータ断層写真撮影(CT)を行い、動物における脂肪組織分布の変動、各種臓器における組織の脂肪分布の変動、脂肪細胞サイズの変動、血液および肝臓中のグルコース、脂質および酵素レベルの変動を確認した。
下記表3は、いくつかの本発明の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの体重における、時間対の変化の結果を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3からわかるように、本発明の化合物の投与は、対照群に比して有意な体重の減少をもたらす。
【0110】
図1〜3は、表3に記載の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を開示するものである。図1〜3からわかるように、本発明の化合物を投与した実験群は、対照群に比して、全ての臓器について、組織の脂肪含有量における有意な減少を示し、更に褐色脂肪含有量の増加を示した。これは、脂肪代謝が有意に増加したことを示すものである。
【0111】
下記表4は、本発明の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスにおける、血中の脂質およびグルコースレベルの変化を示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4からわかるように、本発明の化合物を投与した群は、対照群に比して、血中のトリグリセリド、コレステロールおよびグルコースレベルに関し有意な減少をもたらす。
【0114】
実験例3:AMPKおよびACCのリン酸化の、β−ラパコンによる制御
この例は、AMPKおよびACC(細胞内のエネルギー制御タンパク)のリン酸化に対し、β−ラパコン(化合物1)が作用を示すか否かを確認するために行った。β−ラパコンによるAMPキナーゼおよびACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化を試験するため、6穴プレートに、HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株)を1ウェルあたり細胞1×105個の細胞密度となるようにまき(seeded)、RPMI+10%FBS培地中で培養した。細胞を24時間増殖させた後、培地を無血清RPMI培地に変えて、細胞をβ−ラパコン(10μM)(対照(DMSO)と組み合わせて)で各々30分、1時間、2時間、4時間および6時間処理した。リン酸化ACCの観測には抗ACC抗体および抗pS49−ACC抗体を、リン酸化AMPキナーゼの観測には抗AMPK抗体および抗pT172−AMPK抗体をそれぞれ用いた。図4に示す通り、β−ラパコンによるAMPキナーゼおよびACCのリン酸化は初期(30分)から観測され、またそのようなリン酸化作用6時間まで継続したことが確認できる。加えて、AMPキナーゼの標的であることが知られているACCもリン酸化されたことが確認できる。これらの結果は、β−ラパコンの作用によるAMPKの活性化が、アセチルCoAカルボキシラーゼ(脂質合成における重要な制御酵素)の活性を抑えることができることを示すものである。
【0115】
実験例4:内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用
AMPKの活性化がNRF−1を活性化し、ミトコンドリア生合成を促進することはよく知られている。加えて、NO/cGMPがPGC−1aおよびNRF−1を活性化し、ミトコンドリア生合成を促進する。AMPKを活性化するβ−ラパコンが亜酸化窒素の生成に関与しているか否かを確認するために、リン酸化(内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)の活性を高める)の程度を測定した。β−ラパコンの作用によるeNOSのリン酸化を試験するため、60mmプレートに、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を細胞1×105個の細胞密度となるようにまき、EBM2+5%FBS培地中で24時間培養した。培地を無血清EBM2培地に変えて、所定の時間、細胞をβ−ラパコン(10μM)で処理した。リン酸化eNOSの観測には、抗pS1177−eNOS抗体を用いた。
【0116】
図5に示す通り、eNOSのリン酸化増大が、β−ラパコンによる処理から30分で最大に達し、その後漸減して2時間後には観測されなくなった。β−ラパコンによるeNOSのリン酸化増大は、虚血性心疾患やミトコンドリア筋症、ミトコンドリア機能不全関連疾患(例えば、変性脳疾患、糖尿病、心筋症、老化関連疾患)に対し、β−ラパコンを治療に使用しうる可能性を示すものである。
【0117】
実験例5:C57BL/6マウスにおける、AMPK活性化に対するβ−ラパコンの作用
図6は、C57BL/6マウスにおいて、β−ラパコンがAMPKを活性化することを示すものである。C57BL/6マウスに対し、媒体および5mg/kgのβ−ラパコンを、尾静脈を通じて2時間および4時間投与した。肝臓および性腺の脂肪組織を摘出し、AMPKキナーゼの活性を試験した。活性化度は、放射性同位体のCPM値で示した。同様にして、HepG2細胞(ヒト肝臓由来の細胞株)をβ−ラパコン(10μM)で30分間処理し、AMPKキナーゼ活性の試験を行った。図12の結果からわかるように、β−ラパコンの投与は、肝臓および性腺の脂肪組織、並びに肝細胞におけるAMPKキナーゼ活性の増加をもたらす。
【0118】
実験例6:C57BL/6マウスにおける、AMPKおよびACCのリン酸化に対するβ−ラパコンの作用
β−ラパコンの抗肥満作用を検討するため、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、AMPKおよびACC(肝臓および性腺の脂肪組織におけるエネルギー代謝や脂肪合成において重要な役割を果たす)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用を試験した。図13に示す通り、C57BL/6マウスの性腺および肝臓の組織において、AMPKおよびACCのリン酸化に対しβ−ラパコンが作用を示すことが、ウェスタンブロット分析により確認された。リン酸化AMPKは、エネルギー関連の代謝を活性化すると考えられている。一方、AMPKの活性化により影響を受けるACCは、リン酸化されてその脂肪合成活性が阻害され、このことが、脂質代謝に対し何らかの作用(肥満の阻害を含む)を示すと考えられている。
【0119】
実験例7:C57BL/6マウスにおける、脂質代謝に関与する遺伝子の発現に対するβ−ラパコンの作用
β−ラパコンの抗肥満作用を検討するため、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織における脂質代謝に関与する、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)1(7、8)、ACC2(9)、脂肪酸シンターゼ(FAS)(10、11)、リポ蛋白リパーゼ(LPL)(12〜15)およびステアリン酸CoA脱飽和酵素1(SCD1)(16、17)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認する努力を行った。これらの酵素は脂質代謝において極めて重要である。ACCは、アセチルCoAからのマロニルCoAの形成を触媒し;FASは、マロニルCoAからのパルミチン酸の形成を触媒し;SCD1は、モノ不飽和脂肪の形成を触媒することが知られている。従ってこれらは、主要な貯蔵エネルギー(energy store)であるトリアシルグリセロールの形成において役割を果たしている。よって、これらの酵素は肥満、糖尿病や脂肪代謝関連疾患と密接に関連している。図8に示すように、β−ラパコンを投与した実験群では、対照群に比して、ACC1および2、FAS、LPL並びにSCD1のmRNA発現レベルが著しく減少しており、実験群のLPLmRNA発現レベルは、対照群に比して2倍に増加している。従って、上記酵素に関する遺伝子発現の減少または増加という結果から、β−ラパコンはメタボリックシンドロームの治療に有効な物質であると推論することができる。
【0120】
実験例8:C57BL/6マウスにおける、グルコース代謝に関与するタンパク質の遺伝子発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるヘキソキナーゼ2(HK2)(21、22)、グルコース輸送体(GLUT)2およびGLUT4(18、19、20)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認した。GLUTは、肝臓等の臓器や、脂肪組織、筋芽細胞における血中グルコースの細胞内取り込みや消費を仲介するタンパク質としてよく知られており、HK2は、グルコキナーゼクラスに属する酵素であり、リン酸化により解糖系に入れるようになるタンパク質をリン酸化する。図9からわかるように、HK2のmRNAレベルは、対照群に比して減少するが、グルコース輸送に関与する2種の酵素、GLUT2およびGLUT4のmRNAは、有意な発現の増加を示した。GLUT2およびGLUT4レベルの増加は、血中グルコースの細胞内取り込みを促進するので、β−ラパコンの抗糖尿病薬としての可能性を示すものである。
【0121】
実験例9:C57BL/6マウスにおける、ミトコンドリア生合成に関与するタンパク質の遺伝子発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体コアクチベータ−α1(PGC1α)(23、24)、核呼吸因子(nuclear respiratory factor)1(NRF1)(25〜27)、ミトコンドリア転写因子(mtTFA)(25〜27)およびチトクロームCオキシダーゼ(COX)(28、29)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認した。図10に示すタンパク質は、細胞内エネルギー生合成において重要な役割を果たし、種々の生理的事象の制御に関与することも知られているミトコンドリアの生合成に関与する代表的な酵素である。これらの酵素の間では、mRNA量の差はわずかであったが、全ての酵素について、β−ラパコン投与群は、対照群に比してmRNAレベルの増加を示した。種々のメタボリックシンドロームにおけるミトコンドリアの異常活性が報告されているので、これらの結果は、β−ラパコンがメタボリックシンドローム、ミトコンドリア機能不全関連疾患およびエネルギー代謝関連疾患の治療において、そのような減少の改善を介して有効(therapeutic for the treatment)でありうるという可能性を示すものである。
【0122】
実験例10:C57BL/6マウスにおける、エネルギー代謝に関与する遺伝子の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるエネルギー代謝に関与する遺伝子の転写レベルを、リアルタイム定量PCRを用いて測定した。図11を参照すると、PPAR−αおよびγは、エネルギー消費に関与する酵素の転写制御に関与する酵素であり(30、31)、AMPKは、細胞内AMP/ATP比を感知することにより細胞エネルギー恒常性の維持に中心的な役割を果たし、AOXは、脂質代謝工程のある段階に存するアシルCoAの酸化を介して酸化的リン酸化を触媒し、活性化する(32、33)。加えて、CPT1もまたエネルギー代謝に関与する酵素であり、トリアシルグリセロール合成に向かう経路を取らずに、長鎖アシルCoAをミトコンドリアに送達する(passage)ことを可能にする酵素としてよく知られている(34、35)。β−ラパコンを投与した群では、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−αのmRNAレベルには変化がなかったが、PPAR−γは、約2倍のmRNAレベル増加を示した。加えて、アシルCoAオキシダーゼ(AOX)、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)−α1および2、並びにカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1の間では、mRNAレベルにある程度差があったものの、そのような酵素について、β−ラパコン投与群は、対照群に比してmRNAレベルの増加を示した。そのような遺伝子の発現レベルの増加は、β−ラパコンがエネルギー代謝関連疾患の治療において有効でありうるという可能性を示すものである。
【0123】
実験例11:C57BL/6マウスにおける、SIRT関連転写物の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、投与7、28および56日目に、性腺の脂肪組織におけるサーチュイン(SIRT)(36、37)遺伝子転写物のレベルを、各々リアルタイム定量PCRを用いて測定した。図12におけるSIRT関連転写物を参照すると、ヒトにおいて7つの転写物種が既知である。特に、SIRT1は寿命に関連する酵素としてよく知られており、また、カロリー摂取が制限されるとSIRT1が増加するとの報告もある(37)。図18からわかるように、SIRT1、SIRT3およびSIRT6は有意に増加したが、SIRT2、SIRT5およびSIRT7は、実験群と対照群の間で顕著な差を示さなかった。
【0124】
実験例12:C57BL/6マウスにおける、UCP1およびUCP2遺伝子転写物の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織における脱共役タンパク質1および2(UCP1および2)遺伝子の転写レベルを、リアルタイム定量PCRを用いて測定した。UCP1および2は、熱の生成を介してエネルギー消費を行う酵素であり、これらの酵素は、反応性酸素種(ROS)の生成に関与することなくエネルギーを消費するよう機能し、肥満の発症に密接に関連しているとの報告もある(38、39)。図13に示すように、β−ラパコンの投与は、UCP1および2のmRNAレベルの有意な増加をもたらした。これらの結果は、エネルギー生成工程において付加的に生成するROSによるストレスの減少を介する、メタボリックシンドロームにおける安全な治療薬としてのβ−ラパコンの可能性を示すものである。
【0125】
実験例13:食餌誘導肥満(DIO)C57BL/6マウスにおける、体重および食餌摂取の時間対の変化に対するβ−ラパコンの作用
図14は、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後の、56日間の食餌摂取/体重比の変化および体重変化を示す。β−ラパコン投与群は初めの2週間、食餌摂取の減少を示したが、その後食餌摂取レベルは対照群と同様にまで回復した。これらの結果は、脂質の分解が促進され、十分な量のエネルギーが生成することによるものと考えられる。加えて、マウスに高脂肪食を与えても、動物は対照群に比して、56日間にわたり継続して体重減少を示した。
【0126】
図15は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後の、種々の臓器における56日間の重量の変化を、処理群と対照群間で比較するグラフである。図15に示すように、β−ラパコン投与後の臓器組織における脂肪含有量減少の結果、組織の重量に有意な変化があった。
図16−a〜16−cは、DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを56日間投与した後の、開腹状態の動物全体と、肝臓組織における脂肪蓄積に対するオイルレッドO染色およびEM検査の結果を示す。図16からわかるように、β−ラパコンを56日間投与したDIO C57BL/6マウスは、内臓脂肪と体重の顕著な減少と、肝臓組織(赤く変色)のサイズ縮小を示した。図16における肝臓脂肪の状態の改善を確認するため、オイルレッドOを用いて肝臓における蓄積脂肪を染色した。その結果、対照群に比して脂肪が90%以上減少したことが確認された。加えて、肝臓組織のEM検査結果は、対照群に比して顕著に減少した脂肪空胞およびグリコーゲン貯蔵、正常なミトコンドリア形状の回復、ミトコンドリア数の有意な増加および小胞体形状の改善を示した。
【0127】
図17を参照すると、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、β−ラパコン投与56日目に動物を開腹し、性腺の脂肪組織においてペリリピン染色を行った。図17からわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
図18は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後各々3、7、14、28および56日目に採取した血液中の、トリグリセリド(TG)、コレステロール、遊離脂肪酸、グルコース、インスリン、TNFα、レジスチンおよびレプチンレベルの変化を示す。これからわかるように、血中の脂肪およびグルコースレベルが顕著に改善し、またインスリン抵抗性およびレプチン抵抗性も改善していた。更に、インスリン抵抗性を引き起こすレジスチンの血中レベルも顕著に改善していた。これらの結果から、β−ラパコンが脂肪肝、高脂血症、2型糖尿病およびインスリン抵抗性の治療に大いに有効であることが期待される。
【0128】
図19を参照すると、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、β−ラパコン投与56日目に、褐色脂肪組織においてHE染色を行った。図19からわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
図20は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、56日目に摘出した褐色脂肪組織のEM検査結果を示す。これからわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
【0129】
実験例14:レプチン受容体欠失マウスにおける、β−ラパコン投与による変化
図21は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスに対し、β−ラパコンを投与量150または200mg/kgで毎日経口投与したことによる、56日間の食餌摂取/体重比の変化(図21−a)および体重変化(図21−b)を示す。食餌摂取/体重比は、投与10日目ころから顕著に減少し、その後食餌摂取レベルは対照群と同様にまで回復した。これは、脂質の分解が促進され、食餌摂取が同様でも十分な量のエネルギーが生成することによる。加えて、マウスに高脂肪食を与えても、動物は対照群に比して、56日間にわたり継続して体重減少を示した。これらの結果は、β−ラパコン投与は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスにおいても肥満マウスと同様に、効果的に体重を減少させることを示すものである。肝臓組織における脂肪蓄積を検査するため、β−ラパコン投与56日目に動物を開腹し、肝臓組織についてHE染色(図21−c)およびEM検査(図21−d)を行った。図21−cは、肝臓組織のHE染色結果から、対照群に比べると、脂肪空胞がほぼ全て消失したことを示す。このような結果は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスにおいてもβ−ラパコンが脂肪肝の治療に大いに有効であるとの期待を提供するものである。図21−dから、肝臓組織のEM検査結果は、対照群に比して顕著に減少した脂肪空胞およびグリコーゲン貯蔵、正常なミトコンドリア形状の回復、ミトコンドリア数の有意な増加および小胞体形状の改善を示した。図21−eから、動物の肢の筋組織のEM検査結果は、対照群に見られるミトコンドリアの奇妙な形状に比しての、処置群における正常なミトコンドリア形状の回復と、ミトコンドリア数の有意な増加を示した。
【0130】
実験例15:自発運動活性に対するβ−ラパコンの作用
DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与し、3時間後に、Versa MAX Activity Monitor & Analyzer (Accusan Instruments社(オハイオ州Columbus)製)を用いて自発運動活性を測定した。動物の運動測定に用いたモニターは、41cm×41cm(高さ30cm)のプレキシグラス(Plexiglas)容器に、xおよびy軸に沿って2.5cm間隔でおのおの赤外線が取り付けられて、容器の前後左右に16本の走査線が配置されたものである。自発運動と常同性/毛づくろい行動を区別するため、別個の2本の走査線が、マウスにより継続的に干渉することを有効な測定基準として、動物の活性測定を行った。β−ラパコン投与群、媒体投与群および対照群をおのおの測定器に入れ、動物の活性・運動を7時間にわたり測定した。動物を新たな環境に順応させるため、測定の2時間前にマウスを測定器に入れた。図22に示すように、媒体投与群と対照群の間では実質的に差が示されなかったが、β−ラパコン投与群は、動物の運動および自発運動活性に有意な差を示した。
【0131】
実験例16:身体的持久力増強に対するβ−ラパコンの作用
この例は、水泳試験を通じてマウスの身体的持久力の差を測定することを意図して行ったものである。この目的のため、直径9.5cm、高さ25cmの円筒状の槽に水を入れ、DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した。3時間後に、測定のため、試料を投与した群と対照群を各々同時に円筒状の槽に入れ、各群の身体的持久力を比較した。図23に示すように、β−ラパコン投与群は、β−ラパコンの単回投与で、対照群に比して2倍を超える水泳持久力を示すことが確認された。
【0132】
実験例17:呼吸商(RQ)に対するβ−ラパコンの作用
この例は、呼吸商(RQ)測定を通じて脂肪代謝に対するβ−ラパコンの作用を測定することを意図して行ったものである。酸素消費量および二酸化炭素産生量は、Oxyscan open−circuit indirect calorimeter (Accusan Instruments社(オハイオ州Columbus)製)を用いて測定した。この装置は、密閉された(enclosed)アクリル容器(21cm×21cm×21cm)からなる。各容器に、流速1500ml/minで新鮮な空気を引き込み、その後O2とCO2に検出器を通過させた。ガスの濃度を、ml/体重kgの単位で記録した。産生したCO2の体積(VCO2)を消費されたO2の体積(VO2)で割った商としてRQを算出した。β−ラパコン投与群、媒体投与群および対照群をおのおの容器に入れ、RQを7時間にわたり測定した。動物を新たな環境に順応させるため、測定の2時間前にマウスを測定器に入れた。図24に示すように、測定結果から、β−ラパコン投与群は、媒体投与群および対照群に比して、RQ値に有意な差を示したことが確認された。
【0133】
実験例18:急性毒性試験
1.経口投与
Sprague−Dawleyラット(体重250±7g)(Jung−Ang Lab Animal Inc.,ソウル、大韓民国)を各10匹の4群に分け、本発明の化合物1、2、3、4、12、13、14、16、17、24、25および26を各々投与量50、100および200mg/kgで経口投与した。経口投与の後、毒性を示すか否か2週間に亘り観察したところ、4群のいずれにも死亡した動物はなく、また対照群と比較して、視覚的に観察できる症状は感知されなかった(体重の減少を除く)。
【0134】
2.腹腔内投与
Sprague−Dawleyラット(体重255±6g)(Jung−Ang Lab Animal Inc.,ソウル、大韓民国)を各10匹の4群に分け、本発明の化合物1、2、3、4、12、13、14、16、17、24、25および26を各々投与量50、100および200mg/kgで腹腔内投与した。腹腔内投与の後、毒性を示すか否か2週間に亘り観察したところ、4群のいずれにも死亡した動物はなく、また対照群と比較して、視覚的に観察できる症状は感知されなかった(体重の減少を除く)。
上記の結果から、本発明の化合物は急性毒性を有していないことが確認された。
【0135】
以降、本発明の医薬組成物の処方例および化粧品への適用例を記載する。これらの例は本発明の例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲および精神を限定すると解釈すべきものではない。
【0136】
処方例1:錠剤の調合
化合物1 20g
乳清タンパク 820g
結晶セルロース 140g
ステアリン酸マグネシウム 10g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 10g
【0137】
処方例2:散剤の調合
化合物1 2g
大豆タンパク 58g
カルボキシセルロース 40g
合計 100g
【0138】
処方例3:本発明の化合物の化粧品ローションへの適用
1,3−ブチレングリコール 5%
グリセリン 5%
EDTA−2Na 0.02%
トリメチルグリシン 2.0%
セタノール 1.0%
グリセリルモノステアレート乳化剤 1.0%
ポリソルベート60 1.2%
ソルビタンセスキオレエート 0.3%
2−エチルヘキサン酸セチル 4.0%
スクワラン 5.0%
ジメチコン 0.3%
グリセリルステアレート 0.5%
カルボマー 0.15%
トリエタノールアミン 0.5%
イミダゾリジニル尿素 0.2%
化合物1 0.2%
精製水 73.6%
【0139】
処方例4:本発明の化合物のスキンケア化粧品への適用
1,3−ブチレングリコール 4.0%
ジプロピレンレングリコール 5.0%
EDTA−2Na 0.02%
オクチルドデセス−16 0.3%
PEG60水素化ヒマシ油 0.25%
化合物1 0.03%
精製水 90%
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上から明らかなように、本発明の化合物は、種々の遺伝子やタンパク質の活性を調節する化合物であるので、in vivoでのエネルギーレベル調節を介して種々の疾患・異常を治療するのに有効であると期待される。上記の化合物を有効成分として用いる医薬品は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の種々の疾患の治療および/または予防に優れた作用を示す。
【0141】
例証を目的として本発明の好ましい実施形態が開示されているが、当業者は、添付の特許請求の範囲に開示される本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の修飾、付加および置換が可能であると理解する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図2】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図3】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図4】細胞内におけるAMPKおよびACCのリン酸化の制御に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図5】細胞内における内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図6】C57BL/6マウスにおけるAMPKの活性化に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図7】C57BL/6マウスにおけるAMPKおよびACCのリン酸化の制御に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図8】C57BL/6マウスの脂質代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図9】C57BL/6マウスのグルコース代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図10】C57BL/6マウスのミトコンドリア生合成に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図11】C57BL/6マウスにおけるエネルギー代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図12】C57BL/6マウスにおけるSIRT関連タンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図13】C57BL/6マウスにおけるUCP1およびUCP2遺伝子の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図14】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、体重および食餌の時間対の変化を示すグラフである。
【図15】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の種々の臓器における重量の変化を、処理群と対照群間で比較するグラフである。
【図16】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、開腹状態の動物全体を示す写真、並びに肝臓組織における脂肪蓄積に対するオイルレッドO染色およびEM検査の結果を示す写真である。
【図17】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、性腺脂肪組織における脂肪細胞サイズの比較結果を示す写真である。
【図18】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、脂質、グルコースおよびホルモンの時間対の血中濃度変化を示すグラフである。
【図19】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、褐色脂肪組織のHE染色の比較結果を示す写真である。
【図20】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、褐色脂肪組織のEM検査の結果を示す写真である。
【図21】レプチン受容体欠損マウス(ob/ob)にβ−ラパコンを投与した後の、食餌摂取(g)/体重比の変化を示すグラフ、体重の変化を示すグラフ、脂肪蓄積量を示す写真および組織のEM検査結果を示す写真である。
【図22】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、自発運動活性に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図23】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、身体的持久力に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図24】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、呼吸商(RQ)に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患に伴う種々の疾患を治療および/または予防するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満(標準体重に比べ、体脂肪の量が異常に多い状態)とは、カロリー摂取がカロリー消費を上回るときの、体内の脂肪組織における余剰カロリーの蓄積によって生じる疾患をいう。肥満により生じる合併症には、例えば高血圧、心筋梗塞、静脈怒張(varicosis)、肺塞栓症、冠血管・動脈疾患、脳溢血、老年認知症、パーキンソン病、2型糖尿病、高脂血症、脳卒中、各種の癌(子宮癌、乳癌、前立腺癌、大腸癌など)、心疾患、胆嚢疾患、睡眠時無呼吸症候群、関節炎、不妊症、静脈性潰瘍、突然死、脂肪肝、肥大型心筋症(HCM)、血栓塞栓症、食道炎、腹壁ヘルニア、尿失禁、循環器疾患、内分泌疾患等が含まれる(非特許文献1)。
【0003】
糖尿病は、複数の環境および遺伝的因子によって生じる全身性代謝障害であり、体内の絶対的または相対的インスリン欠乏により異常に上昇した血中グルコースレベルによって特徴付けられる状態をいう。糖尿病により生じる合併症には、例えば高血糖、ケトアシドーシス、高浸透圧性昏睡(hyperosmolar coma)、大血管性合併症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症等が含まれる。
【0004】
メタボリックシンドロームとは、高トリグリセリド血症、高血圧、糖代謝異常、血液凝固異常および肥満のような、健康に対する危険因子(health risk factors)を伴う症候群をいう。全米コレステロール教育プログラム(National Cholesterol Education Program)(NCEP)のATP IIIの基準(2001年公開)によれば、以下のうち3つ以上の要素を有する者は、メタボリックシンドロームと診断される。
1)男性では40インチ(102cm)以上、女性では35インチ(88cm)以上のウェスト寸法(ウェスト近辺で測定した中心性肥満)
2)150mg/dlを超えるトリグリセリドレベル
3)40mg/dl未満(男性)または50mg/dl未満(女性)の高比重リポ蛋白(HDL)レベル
4)130/85mmHg以上の血圧
5)110mg/dlを超える空腹時血中グルコースレベル
【0005】
インスリン抵抗性とは、体内においてインスリンが正常に分泌されているにもかかわらず、インスリンが行う「細胞に対するグルコース供給」が正常に行われない、という現象をいう。従って、グルコースが細胞に入っていけず、高血糖を引き起こす。またその結果、グルコースの不足により細胞が正常に機能できず、メタボリックシンドロームの発症(manifestation)に至る。
【0006】
退行性疾患とは、病理学的所見に由来する用語であり、従って「酸素消費の減少」を伴う状態を意味し、ミトコンドリア(細胞内の酸素を用いてエネルギーを生成するオルガネラ)の機能不全が老化に関与している退行性疾患をいう。退行性疾患の例としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等の神経変性疾患を挙げることができる(非特許文献2)。
【0007】
ミトコンドリア機能不全によって起こる疾患には、例えばミトコンドリアの潜在的機能障害によるミトコンドリア膨化、酸化的ストレス(例えば、活性酸素種やフリーラジカルの作用によるもの)による機能障害、遺伝的因子による機能障害およびミトコンドリアのエネルギー生成のための酸化的リン酸化機構の機能不全による疾患が含まれうる。上記の病理学的要因によって進行する疾患の具体的な例には、多発性硬化症、脳脊髄炎、脳神経根炎(cerebral radiculitis)、末梢神経障害、ライ症候群、フリードライヒ(Friedrich’s)失調症、アルパース症候群、MELAS、片頭痛、精神障害、鬱、てんかん(seizure)、認知症、麻痺性エピソード(paralytic episode)、視神経萎縮、視神経症、網膜色素変性症、白内障、高アルドステロン血症(hyperaldosteronemia)、副甲状腺機能低下症、ミオパチー、筋萎縮症、ミオグロビン尿、筋緊張低下、筋肉痛、運動耐容能の低下、腎細尿管症、腎不全、肝不全、肝機能不全、肝腫大、赤血球貧血(鉄欠乏性貧血)、好中球減少症、血小板減少症、下痢、絨毛萎縮症(villous atrophy)、多発性嘔吐(multiple vomiting)、嚥下障害、便秘、感音性難聴(SNHL)、てんかん(epilepsy)、精神遅滞、アルツハイマー病、パーキンソン病およびハンチントン病が含まれうる(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献3、非特許文献4および非特許文献5を参照)。
以降、上記の肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を総称して「疾患/症候群」と記載する。
【0008】
現在、そのような疾患/症候群に伴う状態を改善する、またはこれと戦うための最も有効な方法は、より運動して体重を減少し、食事を制限することであることがわかっている。疾患/症候群と戦う現状の有効な方法はいずれも共通に、エネルギー代謝を促進し、結果として体内における過剰エネルギーの消費を最大化させ、エネルギー蓄積の阻害に至らせるという事実を共有している。そのような過剰エネルギーを効果的に排除することが、疾患/症候群を治療する方法であると考えられる。過剰エネルギーを効果的に排除するためには、エネルギー代謝を促進することが最も重要である。この目的のためには、脂肪合成の阻害、糖新生の阻害、グルコース消費の促進、脂肪酸化の促進、エネルギー代謝における中心的な装置であるミトコンドリアの生合成促進および代謝活性化に関与する因子の全体的な活性化を達成することが必須である。
【0009】
疾患/症候群を治療するための標的に関して知られていることはまだほとんどないが、個々の疾患を治療するためのものについてならば、標的タンパクまたは遺伝子が数多く知られており、従ってそのような疾患を、対応する上記の標的タンパクまたは遺伝子を利用して予防または治療する方法もいくつか提案されている。しかし、個々の疾患、例えばメタボリックシンドローム(肥満、糖尿病等を含む)の治療においてさえ、未だ更なる有意な改善の余地がある。疾患の治療について多大な研究が行われてきたという事実があるにも関わらず、過剰なエネルギー摂取および加齢に起因する種々の疾患の治療については、利用可能な医薬品が未だ存在しない。
【0010】
肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む多くの疾患、即ち疾患/症候群を含む多数の疾患は、エネルギー代謝と酸化−還元状態の不均衡から生じる。そのため本発明でも、関心ある化合物の、疾患/症候群に対する効果を確認するための最も基本的な一次試験として、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)に対する活性化作用の有無を確認する方法を採用した。
ところで、AMPKが活性化されると、その結果として、その機構の下流側において、様々な生理的事象が影響を受ける。このことに鑑み、制御される因子や発現現象を以下に示す。
【0011】
1.糖代謝
筋肉および心筋組織においては、AMPKが筋収縮を増進してグルコース取り込みを促進する。即ち、AMPKがGLUT1を活性化し、またはGLUT4の細胞膜への遊走を誘起して、インスリンの作用と関係なく、細胞へのグルコース取り込み増加をもたらす(非特許文献6、非特許文献7)。細胞へのグルコース取り込みが増加した後、AMPKがヘキソキナーゼを活性化して、糖代謝プロセスの流入を増加させると同時に、グリコーゲン合成を阻害する。虚血状態の心筋組織においては、AMPKが6−ホスホフルクト−2−キナーゼ(PFK−2)のリン酸化プロセスを活性化して、代謝カスケードの活性化をもたらし、糖代謝の流入増加に至らせることが知られている(非特許文献8)。加えて、肝臓におけるAMPKの活性化が、肝細胞からのグルコース放出を阻害し、また糖新生の酵素であるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)およびグルコース−6−ホスファターゼの活性が、AMPKにより抑止されることが確かめられている(非特許文献9)。これはAMPKが、インスリンと関係なく独立に、肝細胞からのグルコース放出阻害を介して、血中グルコースレベルの調節に関与するためである。
【0012】
2.ミトコンドリア生合成
ミトコンドリアの一つの重要な機能は、グルコース、脂肪酸等の燃料代謝物(fuel metabolites)から生成したエネルギーを、ATPに変換する酸化的リン酸化を行うことである。ミトコンドリアの機能的変質が生じることは、老化に関連する種々の変性疾患、例えば糖尿病、循環器疾患、パーキンソン病、老年痴呆等の発症機構に関与していることが知られている(非特許文献10)。Petersonらは、年配者では、ミトコンドリアの酸化的リン酸化機能が約40%低下していると報告し、ミトコンドリアの低下した機能が、インスリン抵抗性症候群の予想される発症原因である可能性を示唆している(非特許文献11)。Leeらは、糖尿病の進行に先んじて、抹消血におけるミトコンドリア性DNA含量の減少が起こることを確認している(非特許文献12)。筋肉におけるミトコンドリア生合成は、筋細胞における酸化的リン酸化の代謝活性が、継続的なエネルギー欠乏および運動によって増加するという適応反応(adaptive reaction)により増進されることが知られている。Zongらは、遺伝的にAMPKが失活しているトランスジェニックマウスを用いて、継続的なエネルギー欠乏が誘発している状態の骨格筋におけるミトコンドリア生合成には、AMPKが必要であることを明らかにしている(非特許文献13)。更に、Putmanらは、継続的な運動と関連したAMPKが、ミトコンドリア量の増加に関与しているとの仮説を示している(非特許文献14)。
【0013】
ところで、ミトコンドリア生合成において重要な役割を果たすペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベータ1α(PGC−1α)の遺伝子発現を、AMPKが増加させることが確かめられている(非特許文献15)。Raynoldらは、骨格筋における、継続的なエネルギーストレスへの応答としての酸化能の増加において、ミトコンドリア呼吸系に関連するタンパク質の転写や、ミトコンドリアの転写・複製に必須の遺伝子である核呼吸因子(Nuclear Respiratory Factor)−1(NRF−1)が重要な役割を果たすことを示唆している(非特許文献16)。従ってNRF−1は、ミトコンドリア生合成の増加に関与している。加えて、クエン酸シンターゼおよび3−ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ(UCP−3タンパクおよびそのmRNAの量の増加や、ミトコンドリア体積の増加に関連してこれらが増加することが知られている)の酵素活性が、AMPKの活性化により増加されることが知られている(非特許文献14)。
【0014】
3.脂肪代謝の制御とAMPK
AMPKが脂肪代謝に関与している機構を検討すると、AMPKがアセチルCoAカルボキシラーゼのリン酸化を誘起し、このことが脂肪酸合成阻害をもたらす。従ってAMPKは、マロニルCoA(脂肪酸合成の中間体であり、またカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1(CPT1)の阻害剤でもある)の細胞内濃度を低下させる作用によって、脂肪酸酸化を増進することが知られている。CPT1は、脂肪酸がミトコンドリアに入り酸化される脂肪酸酸化プロセスに必須の酵素であり、マロニルCoAによる調節を受けることが知られている。加えて、コレステロールおよびトリアシルグリセロール合成に関与するHMG−CoAレダクターゼおよびグリセロールリン酸アシルトランスフェラーゼ(GPAT)の活性を、AMPKがリン酸化を通じて阻害することが知られている(非特許文献17、非特許文献18)。
【0015】
ところで、肝臓におけるAMPKの活性化が、炭水化物応答因子結合タンパク(carbohydrate−response−element−binding protein)(ChREBP)のリン酸化を通じてピルビン酸キナーゼ、脂肪酸シンターゼおよびACCの活性を阻害することが見出されている(非特許文献19)。加えて、脂肪細胞の分化において重要な役割を果たすステロール調節因子結合タンパク−1(sterol−regulatory−element binding protein−1)(SREBP−1)の活性もまた、AMPKの作用によって阻害され、このことが脂肪細胞分化の阻害をもたらす。
【0016】
4.タンパク質合成の制御とAMPK
タンパク質合成プロセスにおいては、AMPKは、TSCの活性化によるmTORおよびp70S6Kの阻害を通じてタンパク質の合成を阻害し、または、AMPKは、伸長因子−2(eEF2)キナーゼの活性化およびリン酸化によるeEF2の不活性化を通じて翻訳・伸長を阻害する。eEF2キナーゼはAMPKの直接の基質であることが見出されている(非特許文献20)。
【0017】
以上述べたように、AMPKは、in vitroおよびin vivoのグルコース、タンパク質および脂肪のエネルギー代謝において中心的な役割を果たすことが知られている。Neilらは、AMPKおよびマロニルCoAは、メタボリックシンドローム治療の可能性ある標的であると主張し、メタボリックシンドロームに罹患した患者は、インスリン抵抗性、肥満、高血圧、異脂肪血症、膵臓β細胞機能不全、2型糖尿病および動脈硬化症発現によって特徴付けられると述べている(非特許文献21)。これら複数の異常を結びつける共通の特徴は、AMPK/マロニルCoAエネルギーレベル検知・シグナリング(energy level−sensing and signaling)ネットワークの調節不全であると仮定されている。そのような調節不全が、細胞の脂肪酸代謝を変化させ、次いでこれが、異常な脂肪蓄積、細胞の機能不全、そして最終的には疾患を引き起こすとの提案がなされている。AMPKを活性化および/またはマロニルCoAレベルを減少させる因子は、これらの異常および症候群を逆転させるか、その発生を防ぐかもしれないとの証拠も示されている。
【0018】
Rogerらは、AMPKは、視床下部AMPKの活性低下(これによってマロニルCoA含量が増加し、食餌摂取に対する欲求が調節される)による肥満抑制の可能性ある標的でありうることを示唆している(非特許文献22)。
Leeらは、α−リポ酸は、視床下部AMPK活性を抑制して食欲を調節することにより抗肥満作用を示しうることを示唆している(非特許文献23)。彼らはまた、α−リポ酸は、筋肉(視床下部ではなく)において脂肪代謝を促進すること、α−リポ酸は、UCP−1の活性化によりエネルギー消費を促進する(特に脂肪細胞において)ので、肥満の治療に有効であることを報告している。
Diraisonらは、膵臓細胞におけるAMPKの活性化が、食欲調節をもたらす腸管ホルモンペプチド(gut hormone peptide)YYの発現を4倍に増加させるので、視床下部以外の組織におけるAMPKの作用によって食欲が調節されうることを報告している(非特許文献24)。
【0019】
Nandakumarらは、虚血性心疾患において、AMPKは、脂肪およびグルコース代謝の調節による虚血再灌流傷害治療のための標的となると提案している(非特許文献25)。
Minらは、AMPKがアルコール性脂肪肝の制御に有効であることを報告している(非特許文献26)。
【0020】
Genevieveらは、AMPKの活性化は、慢性炎症状態またはエンドトキシンショック(肥満に関連した糖尿病を含む)における炎症メディエータであるiNOS酵素の活性を阻害し、従ってインスリン感受性を向上しうる機構を有する新たな医薬品の開発に有効であると報告している(非特許文献27)。加えて彼らは、iNOS活性の阻害はAMPKの活性化によって生じ、従ってこの発見は、敗血症、多発性硬化症、心筋梗塞、炎症性腸疾患、膵臓β細胞機能不全等の疾患に臨床応用しうると報告している。
【0021】
Zingpingらは、ラット筋細胞および心筋細胞において、AMPKは、Ca−カルモジュリンの存在下に、リン酸化を通じて内皮NOシンターゼを活性化させると報告している(非特許文献28)。このことは、狭心症を含む心疾患における、AMPKの関与が証明されたことを示している。
Javierらは、寿命を延ばすことは、エネルギーの利用を制限することにより可能であり、そのような延長された寿命は、in vivoのAMP/ATP比が増加し、その結果AMPによってAMPKのα2サブユニットが活性化されるような方法により達成されると報告している(非特許文献29)。従って彼らは、AMPKが、寿命の延長とエネルギーレベルとインスリン様シグナル情報の関係を検出するセンサーとして機能しうることを示唆している。
【0022】
ところで、丹参(Salvia miltiorrhiza)は、古来から北東アジア地域で重要な生薬として広く用いられてきたもので、種々の循環器疾患の予防・治療に著効を示すことが周知である。本発明者らは、そのような丹参の治療効果に注目し、丹参の主成分が、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム等、種々の疾患を治療しうる優れた薬物であることを示唆している。例えば、本願出願人に譲渡されている特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8および特許文献9を参照されたい。特に、本発明者らは、クリプトタンシノン、15,16−ジヒドロタンシノン、タンシノンII−AおよびタンシノンIをはじめとする丹参の主たる本体(main principle)が、メタボリックシンドローム疾患を治療しうることを明らかにしている。
【化1】
【0023】
【特許文献1】米国特許第6,183,948号
【特許文献2】韓国特許出願公開公報第2004−7005109号
【特許文献3】韓国特許第2003−0099556号
【特許文献4】韓国特許第2003−0099557号
【特許文献5】韓国特許第2003−0099657号
【特許文献6】韓国特許第2003−0099658号
【特許文献7】韓国特許第2004−0036195号
【特許文献8】韓国特許第2004−0036197号
【特許文献9】韓国特許第2004−0050200号
【特許文献10】米国特許第5,969,163号
【非特許文献1】Obesity Research,Vol.12(8),1197−1211
【非特許文献2】Korean Society of Medical Biochemistry and Molecular Biology News,2004,11(2),16−22
【非特許文献3】Journal of Clinical Investigation 111,303−312,2003
【非特許文献4】Mitochondria 74,1188−1199,2003
【非特許文献5】Biochimica et Biophysica acta 1658(2004)80−88
【非特許文献6】Arch.Biochem.Biophys.308,347−352,2000
【非特許文献7】J.Appl.Physiol.91,1073−1083,2001
【非特許文献8】Curr.Biol.10,1247−1255,2000
【非特許文献9】Diabetes 49,896−903,2000
【非特許文献10】Curr.Opin.Cell.Biol.15,706−716,2003
【非特許文献11】Science 300,1140−1142,2003
【非特許文献12】Diabetes Res.Clin.Prac.42,161−167,1998
【非特許文献13】Proc.Natl.Acad.Sci. USA 99:15983−15987,2002
【非特許文献14】J.Physiol.551,169−178,2003
【非特許文献15】Endocr. Rev.24,78−90,2003
【非特許文献16】Am.J.Physiol.Endocrinol.Metab.281,1340,2001
【非特許文献17】J.Biol.Chem.277,32571−32577,2002
【非特許文献18】J.Appl.Physiol.92,2475−2482,2002
【非特許文献19】J.Biol.Chem.277,3829−3835,2002
【非特許文献20】J.Biol.Chem.278,41970−41976,2003
【非特許文献21】Nature drug discovery 3(April),340,2004
【非特許文献22】Cell 117,145−151,2004
【非特許文献23】Nature Medicine 13(June),2004
【非特許文献24】Diabetes 53,S84−91,2004
【非特許文献25】Progress in Lipid Research 42,238−256,2003
【非特許文献26】Am.J.Physiol.Gastrointest.Liver Physiol.287,G1−6,2004
【非特許文献27】J.Biol.Chem.279,20767−74,2004
【非特許文献28】FEBS Letters 443,285−289,1999
【非特許文献29】Genes & Develop,2004
【非特許文献30】Reminton‘s Pharmaceutical Science,Mark Publishing Co.,Easton,PA,18th edition,1990
【非特許文献31】J.Am.Chem.Soc.,49(1927),857
【非特許文献32】Tetrahedron Lett.,42(2001),4549−4551
【非特許文献33】J.Chem.Soc.(C),(1968),48−52
【非特許文献34】Tetrahedron Letters,28(1987),3427−3430
【非特許文献35】J.Org.Chem.55(1990),4995−5008
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の事実に基づき種々の研究・実験を鋭意行った結果、本発明者らは、β−ラパコン(7,8−ジヒドロ−2,2−ジメチル−2H−ナフト(2,3−b)ジヒドロピラン−7,8−ジオン)、ダンニオン(2,3,3−トリメチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−ナフト(2,3−b)ジヒドロフラン−6,7−ジオン)、α−ダンニオン(2,3,3−トリメチル−2,3,4,5−テトラヒドロ−ナフト(2,3−b)ジヒドロフラン−6,7−ジオン)、ノカルジオンA、ノカルジオンB、ランタルクラチンA、ランタルクラチンB、ランタルクラチンC等のナフトキノン系化合物もまた、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の種々の疾患の予防または治療に使用しうることを新たに確認した。
【0025】
β−ラパコンは、南米産ラパチョ樹(Tabebuia avellanedae)から得られるラパコール(一種のナフトキノン)に由来する植物天然産物である。ダンニオンおよびα−ダンニオンもまた、南米産Streptocarpus dunniiの葉から得られる。これらの天然三環性ナフトキノン誘導体は、南米では古来から抗癌薬として、また典型的には南米の風土病であるシャーガス病の治療に広く用いられ、優れた治療効果を示すことでも知られている。特に、抗癌薬としてのそれらの薬理作用が西洋諸国一般に知られるにつれて、これらの天然三環性ナフトキノン誘導体は最近、人々から注目されるようになった。実際、特許文献10に開示されているように、現在、多くの研究グループや研究所により、そのような三環性ナフトキノン誘導体化合物の種々の抗癌薬としての開発が行われている。
【化2】
【0026】
しかし、種々の調査・研究にもかかわらず、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患の治療または予防に関し、そのようなナフトキノン化合物が治療効果を示す事実は、未だ知られていない。
【0027】
β−ラパコン、ダンニオン、α−ダンニオン、ノカルジオンA、ノカルジオンB、ランタルクラチンA、ランタルクラチンB、ランタルクラチンC等の上記ナフトキノン化合物の基本的な化学構造が、丹参から抽出されるタンシノン誘導体のそれと類似しているという事実に基づき、本発明者らは、メタボリックシンドロームの治療・予防薬としてのそれらの薬理作用を検討した。即ち本発明者らは、本発明において開示するナフトキノン化合物が細胞および組織中のAMPKを活性化するか否かを試験することに努力した。そして得られた結果を元に、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む「疾患/症候群」に対する高い治療効果を試験するために、本発明者らは、ob/obマウス(レプチン分泌の減少による肥満のモデル)を用いた種々の実験を通じて、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含む疾患/症候群を治療および/または予防する治療効果を試験した。その結果本発明者らは、本発明のナフトキノン化合物が、疾患/症候群の治療および/または予防において優れた効果を示すことを確認した。これらの発見に基づき、本発明を完成させた。
【0028】
従って、本発明の1つの目的は、有効成分として、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の疾患/症候群の治療および予防に有効なナフトキノン化合物を含む医薬組成物を提供することにある。
本発明の上記およびその他の諸目的、特徴並びに他の有利さに関しては、以下の詳細な説明および添付の図面より、より明確に理解される。図面は後述の通りである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一つの態様によれば、上記およびその他の諸目的は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の疾患/症候群を治療および/または予防するための医薬組成物であって、
(a)治療有効量の、下記式(I):
【化3】
(式中、
R1およびR2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基または炭素数1〜6の低級アルキル基であり、
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立に、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基或いはヘテロアリール基であり、R3〜R8のうち2つの置換基が一緒になり環状構造(飽和であってもよく、部分的又は完全に不飽和であっても良い)を形成していてもよく、
nは、0または1であり、
ただし、nが0であるとき、nの箇所に隣接する炭素原子が直接結合し、環状構造を形成する)
で表される化合物、或いは薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらのいずれかの組み合わせ
を含む医薬組成物を提供することにより達成しうる。
【0030】
疾患/症候群に対する式(I)の化合物の治療および予防効果を確認するため、本発明者らは、後述の実験例に示すように、筋芽細胞(C2C12)におけるAMPK活性および前脂肪細胞(3T3−L1およびF442A細胞)の細胞分化抑制に対する式(I)の化合物の活性を測定し、その結果、そのような化合物が、優れたAMPK活性化作用および脂肪細胞分化抑制作用を示すことを確認した。
【0031】
加えて、本発明者らは更に、ob/obマウス(肥満のモデル)、db/dbマウス(肥満/糖尿病のモデル)、DIO(食餌誘導肥満)マウス(高脂肪食条件により生じる)およびZucker fa/faラット(肥満/糖尿病のモデル)を用いるin vivo実験を通じて、式(I)の化合物による、疾患/症候群に対する治療および予防効果を検討し、その結果、式(I)の化合物が治療において大いに有効であることを確認した。
従って、有効成分として式(I)の化合物を含む本発明の医薬組成物は、本発明において定義する種々の疾患/症候群を、AMPKの活性化を通じて治療および予防しうると期待される。
【0032】
本明細書で用いる用語「薬学的に許容される塩」とは、ある化合物の処方であって、それを投与した生物に対し有意な刺激を生じず、またその化合物の生物活性や特性を損なう(abrogate)ことのない処方を意味する。薬学的な(pharmaceutical)塩の例には、薬学的に許容される陰イオンを含む非毒性酸付加塩を形成しうる酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸;酒石酸、ギ酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリチル酸等の有機カルボン(carbonic)酸;およびメタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸)との、式(I)の化合物の酸付加塩が含まれうる。具体的には、薬学的に許容されるカルボン酸塩の例には、アルカリ金属またはアルカリ土類金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等)との塩、アミノ酸(アルギニン、リジン、グアニジン等)との塩、および有機塩基(ジシクロヘキシルアミン、N−メチル−D−グルコサミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン(diethanoamine)、コリン、トリエチルアミン等)との塩が含まれる。本発明の式(I)の化合物は、当該分野において公知の従来法により、その塩に変換しうる。
【0033】
本明細書で用いる用語「プロドラッグ」とは、in vivoで親薬物に変換される物質を意味する。プロドラッグは、ある状況下においては親薬物に比して投与が容易な場合があるので、プロドラッグが有用であることがしばしばある。例えば、(親薬物はそうではないが)プロドラッグは生物学的に利用される(bioavailable)場合がある。またプロドラッグは、医薬組成物における溶解性が親薬物に比して向上している場合がある。プロドラッグの一例は、細胞膜(ここでは、水溶性は移動度に対し有害である)を通しての輸送を容易にするために、エステル(「プロドラッグ」)として投与され、その後細胞内(ここでは、水溶性は有益である)に入ってしまえば、代謝により加水分解されて、活性の本体であるカルボン酸となる本発明の化合物であるが、これに限定されない。プロドラッグの更なる一例は、酸性基に短いペプチド(ポリアミノ酸)が結合したものでありうる。この場合、ペプチドが代謝されて活性部位が現れる。
【0034】
本明細書で用いる用語「溶媒和物」とは、化学量論量または非化学量論量の、非共有結合性の分子間力により結合した溶媒を更に含む本発明の化合物またはその塩を意味する。好ましい溶媒は、揮発性であり、また無毒である、および/またはヒトへの投与が許容されるものである。溶媒が水ならば、溶媒和物は水和物と呼ばれる。
本明細書で用いる用語「異性体」とは、本発明の化合物またはその塩であって、化学式または分子式は同一であるが、光学的または立体的に異なっているものを意味する。
別途特定しない限り、用語「本発明の化合物」は、化合物それ自体、並びにその塩、プロドラッグ、溶媒和物および異性体を包含することを意図するものである。
【0035】
本明細書で用いる用語「アルキル」とは、脂肪族の炭化水素基を意味する。アルキル部位は「飽和アルキル基」であってよく、これはアルケンまたはアルキン部位を含まないことを意味する。或いは、アルキル部位は「不飽和アルキル」部位であってもよく、これは少なくとも1つのアルケンまたはアルキン部位を含むことを意味する。用語「アルケン」部位とは、少なくとも2個の炭素原子が、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を形成している基をいい、用語「アルキン」部位とは、少なくとも2個の炭素原子が、少なくとも1つの炭素−炭素三重結合を形成している基をいう。アルキル部位は、置換されているか否かを問わず、分岐状であっても、直鎖状であっても、環状であってもよい。
【0036】
本明細書で用いる用語「ヘテロシクロアルキル」とは、1つ以上の炭素原子が酸素、窒素または硫黄原子で置換された炭素環状基を意味し、例えばフラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジンおよびトリアジンを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で用いる用語「アリール」とは、共役π(パイ)電子系を有する少なくとも1つの環を有する芳香族置換基を指し、炭素環アリール(例えばフェニル)とヘテロ環アリール(例えばピリジン)の両者を含む。この用語は、単環および縮合(即ち、隣接する炭素原子の対を共有する)複環基を含む。
本明細書で用いる用語「ヘテロアリール」とは、少なくとも1つのヘテロ環を含む芳香族基を指す。
アリールおよびヘテロアリールの例には、フェニル、フラン、ピラン、ピリジル、ピリミジルおよびトリアジルが含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明における式(I)中のR1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、任意に置換されていてもよい。置換されている場合、置換基は各々独立に、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロ脂環式基、水酸基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シアノ基、ハロゲン原子、カルボニル基、チオカルボニル基、O−カルバミル基、N−カルバミル基、O−チオカルバミル基、N−チオカルバミル基、C−アミド基、N−アミド基、S−スルホンアミド基、N−スルホンアミド基、C−カルボキシ基、O−カルボキシ基、イソシアナト基、チオシアナト基、イソチオシアナト基、ニトロ基、シリル基、トリハロメタンスルホニル基、アミノ基(一置換および二置換アミノ基を含む)およびそれらの保護誘導体よりなる群から選択される。
【0039】
式(I)の化合物のうち、下記式(II)〜(IV)の化合物が好ましい。
式(II)の化合物は、nが0であり、隣接する炭素原子が、それらの間の直接結合を介して環状構造(フラン環)を形成している化合物であり、以降しばしば「フラン化合物」または「フラノ−o−ナフトキノン」と称される。
【0040】
【化4】
【0041】
式(III)の化合物は、nが1である化合物であり、以降しばしば「ピラン化合物」または「ピラノ−o−ナフトキノン」と称される。
【化5】
【0042】
特に好ましくは、式(I)において、R1およびR2は各々水素原子である。
式(II)のフラン化合物のうち、R1、R2およびR4が各々独立に水素原子である下記式(IIa)の化合物、またはR1、R2およびR6が各々独立に水素原子である下記式(IIb)の化合物が特に好ましい。
【0043】
【化6】
【0044】
更に、式(III)のピラン化合物のうち、R1、R2、R5、R6、R7およびR8が各々独立に水素原子である下記式(IIIa)の化合物が特に好ましい。
【0045】
【化7】
【0046】
本明細書で用いる用語「医薬組成物」とは、式(I)の化合物と他の化学成分(希釈剤、担体等)の混合物を意味する。医薬組成物は、化合物の生物への投与を容易にする。化合物を投与する種々の手法が当該技術において知られており、これには経口投与、注射、エアロゾル、非経口投与、局所投与が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物は、関心ある化合物を酸(塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸等)と反応させることによって得ることもできる。
【0047】
本明細書で用いる用語「治療有効量」とは、その化合物を投与すると、治療を要する疾患の1つ以上の症状をある程度緩和または減少するのに有効である、或いは予防を要する疾患の臨床マーカーまたは症状の出現を遅らせるのに有効である有効成分の量を意味する。よって治療有効量とは、(i)疾患の進行の速度を逆転させ;(ii)疾患の更なる進行をある程度阻害し;および/または(iii)疾患に伴う1つ以上の症状をある程度緩和する(好ましくは除去する)作用を示す有効成分の量をいう。治療有効量は、治療を要する疾患の既知のin vitroおよびin vivoモデル系に関連して、その化合物を用いて実験することにより、経験的に測定しうる。
【0048】
本明細書で用いる用語「担体」とは、化合物を細胞または組織に取り込ませることを容易にする化学物質を意味する。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、多くの有機化合物の、生物の細胞または組織への取り込みを容易にするので、一般に用いられる担体である。
本明細書で用いる用語「希釈剤」とは、関心ある化合物を溶解させ、且つその化合物の活性型を安定化させる、水で希釈された化学物質を定義するものである。緩衝溶液に溶解した塩は、当該技術において希釈剤として用いられる。一般に用いられる緩衝溶液の一つは、リン酸緩衝食塩水(PBS)である。これはこのものが、ヒトの体液におけるイオン強度条件を模倣することによる。緩衝塩は低濃度溶液のpHを制御できるので、緩衝希釈剤が化合物の生物活性を変えることは稀である。
【0049】
本明細書に記載の化合物は、ヒト患者に対し、そのまま投与してもよく、他の有効成分(併用療法においてそうするように)或いは適切な担体または賦形剤と混合された医薬組成物の形で投与してもよい。化合物を処方および投与する技術は、非特許文献30に見出しうる。
【0050】
本発明の医薬組成物において、式(I)の化合物は、後述するように、当該技術における従来の方法および/または有機化学合成の分野における一般的な技術および慣習に基づく種々の方法により調製することができる。以下に記載する調製方法は説明のためのものに過ぎず、他の方法を採用することもできる。よって、本発明は以下の方法に限定されない。
【0051】
調製方法1:ラパコール誘導体の合成および酸触媒環化反応
ラパチョ樹から得られるβ−ラパコンは比較的少量であるが、β−ラパコンの合成原料として用いるラパコールは、ラパチョ樹からかなり多量に得られる。従って、ラパコールを用いてβ−ラパコンを合成する方法は、ずっと以前に既に開発されている。即ち、L.F.Fieserが非特許文献31において教示するように、ラパコールと硫酸を混合し、得られた混合物を室温で激しく攪拌することにより、β−ラパコンが比較的高収率で得られる。よって、比較的単純な化学構造を有する三環性ナフトキノン(ピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン)誘導体は一般に、下記の反応スキームに示すように、硫酸を触媒として用いる環化反応により比較的高収率で合成される。この方法に基づき、式(I)の化合物を種々合成することができる。
【0052】
【化8】
【0053】
より具体的には、上記の合成方法は、次のように要約しうる。
【化9】
【0054】
即ち、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを塩基の存在下に種々のアリルブロミドまたはその等価体と反応させると、C−アルキル化生成物とO−アルキル化生成物が同時に得られる。反応条件のみに依存して、2つの誘導体のいずれかを合成することも可能である。O−アルキル化誘導体をトルエン、キシレン等の溶媒を用いて還流することにより、O−アルキル化誘導体は、クライゼン転移により他の形式のC−アルキル化誘導体に変換されるので、種々の3位置換2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン誘導体を得ることができる。得られた種々のC−アルキル化誘導体を、硫酸を触媒として用いる環化反応に付してもよく、そうすることにより、式(I)の化合物のうちの、ピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することが可能となる。
【0055】
調製方法2:3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを用いるディールズ−アルダー反応
V.Nairらが非特許文献32において教示するように、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンをホルムアルデヒドと共に加熱して合成される3−メチレン−1,2,4−[3H]ナフタレントリオンを、種々のオレフィン化合物とのディールズ−アルダー反応に付すことにより、種々のピラノ−o−ナフトキノン誘導体を比較的容易に合成することができることが報告されている。硫酸を触媒として用いるラパコール誘導体の環化反応誘発に比べ、この方法は、種々の形のピラノ−o−ナフトキノン誘導体を、比較的単純な様式で合成することができる点において有利である。
【0056】
【化10】
【0057】
調製方法3:ラジカル反応によるハロアルキル化および環化反応
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成に用いたものと同じ方法を、フラノ−o−ナフトキノン誘導体の合成にも都合よく用いることができる。即ち、A.C.Baillieらが教示するように(非特許文献33)、3−ハロプロピオン酸または4−ハロ酪酸誘導体由来の2−ハロエチルまたは3−ハロエチルラジカル化学種を、2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンと反応させて、3−(2−ハロエチルまたは3−ハロプロピル)−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを合成し、次いでこれを、適当な酸触媒条件下における環化反応に付すことにより、種々のピラノ−o−ナフトキノンまたはフラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0058】
【化11】
【0059】
調製方法4:ディールズ−アルダー反応による4,5−ベンゾフランジオンの環化反応
クリプトタンシノンおよび15,16−ジヒドロタンシノンの合成に用いた他の方法は、J.K.Snyderらが教示する方法(非特許文献34)であってもよい。この方法によれば、4,5−ベンゾフランジオン誘導体と種々のジエン誘導体の間の、ディールズ−アルダー反応を介する環化反応により、フラノ−o−ナフトキノン誘導体を合成することができる。
【0060】
【化12】
【0061】
加えて、上記の調製方法に基づき、置換基の種類に応じて等価の合成方法を用いて、種々の誘導体を合成しうる。得られた誘導体および方法を、下記表1−a〜1−dに例示する。具体的な調製方法を、下記実施例に記載する。
【表1−a】
【表1−b】
【表1−c】
【表1−d】
【0062】
本発明の医薬組成物は、それ自体既知の方法、例えば従来の混合、溶解、造粒、糖衣(dragee making)、微粒子化(levigating)、乳化、カプセル化、封入(entrapping)または凍結乾燥工程により製造しうる。
【0063】
よって、本発明に従って用いる医薬組成物は、活性化合物を処理して薬学的に使用可能な処方物にすることを容易にする賦形剤および助剤からなる1種以上の薬学的に許容される担体を用いて、従来の方法により処方しうる。適切な処方は、選択した投与経路に依存する。公知の手法、担体および賦形剤はいずれも、適切且つ当該分野(例えば、前記非特許文献30)において理解されているように用いてよい。本発明においては、意図する目的に応じて、式(I)の化合物を注射用および非経口投与用の処方物に処方しうる。
【0064】
注射用には、本発明のものを水溶液中、好ましくは生理的に適合性のある緩衝液(ハンク液、リンゲル液等)中、または生理食塩水中に処方しうる。経粘膜投与用には、浸透させるべき障壁に適する浸透剤を処方中に用いる。そのような浸透剤は、当該技術において一般に知られている。
【0065】
経口投与用には、当該技術においてよく知られている薬学的に許容される担体を用いて活性化合物を結合させることにより、化合物を容易に処方することができる。そのような担体により、本発明の化合物を、患者による経口摂取用の錠剤、丸薬、散剤、顆粒、糖衣錠(dragee)、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、分散液等として処方することが可能となる。カプセル、錠剤、丸薬、散剤および顆粒が好ましく、カプセルおよび錠剤が特に有用である。錠剤および丸薬は、腸溶性コーティングで調製することが好ましい。経口用の医薬組成物は、1種以上の賦形剤を、1種以上本発明の化合物と混合し;任意に、得られた混合物を磨砕し;所望であれば適切な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して錠剤または糖衣錠を得ることにより得ることができる。適切な賦形剤は、乳糖、ショ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、バレイショデンプン、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等のセルロース物質;および/またはポリビニルピロリドン(PVP)等の充填剤でありうる。所望であれば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸およびその塩(アルギン酸ナトリウム等)等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤並びに結合剤等の担体(carries)を添加してもよい。
【0066】
経口で使用可能な医薬組成物は、ゼラチンでできた押し込み式(push−fit)カプセルや、ゼラチンおよび可塑剤(グリセロール、ソルビトール等)でできた密封軟カプセル(soft,sealed capsules)を含みうる。押し込み式カプセルは、乳糖等の充填剤、デンプン等の結合剤および/またはタルク、ステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤との混合物として活性成分を含むことができる。軟カプセルでは、活性化合物は脂肪酸、流動パラフィン、液状ポリエチレングリコール等の適切な溶媒に溶解または分散していてよい。加えて、安定剤も添加されていてよい。経口投与用の処方はいずれも、そのような投与に適する投与形状とすべきである。
【0067】
化合物を注射(ボーラス注射、持続点滴等)による非経口投与用に処方してもよい。注射用処方物は、単位投与量の形態、例えばアンプルで提供してもよく、保存料を添加して多数回投与用の容器で提供してもよい。組成物は、油性または水性媒体中の分散液、溶液、乳液等の形態であってよく、また懸濁化剤、安定剤、分散剤等の調剤用試薬(formulatory agents)含んでいてよい。
或いは、活性成分を粉末とし、使用前に適切な溶媒(滅菌・無パイロジェン水等)を用いて構築するようにしてもよい。
【0068】
本発明において用いるのに適する医薬組成物は、意図する目的を達成するのに有効な量の活性成分を含有する組成を含む。より具体的には、治療有効量とは、疾患の症状を予防、緩和または改善する、或いは治療対象の生存を延長するのに有効である化合物の量を意味する。治療有効量の測定は、特に本明細書に提供される詳細な開示に照らして、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0069】
本発明の医薬組成物を単位投与量の形態に処方する場合、有効成分としての式(I)の化合物は、好ましくは単位投与量約0.1〜1000mgで含まれる。式(I)の化合物の投与量は、治療される患者の体重や年齢、特徴的な性質、疾患の重篤度に応じて、担当医(attending physician)により決められる。しかし、成人患者の場合、患者に投与される有効成分の投与量は、投与の頻度や強度(intensity)にもよるが、典型的には体重1kgあたり約1〜1000mg/日である。成人患者に筋肉または静脈内投与する場合、単回投与で1日あたり合計で約1〜500mg/で十分であるが、患者によっては、1日あたりの投与量をより多くして用いることが好ましいこともある。
【0070】
本発明の他の1つの態様によれば、疾患/症候群を治療および予防するための医薬品の調製における式(I)の化合物の用途が提供される。疾患/症候群とは、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患をいう。疾患/症候群の「治療」という用語は、発病の症状を示している対象において医薬品を用いたときの、疾患の進行の停止または遅延をいう。「予防」という用語は、発病の症状を示していないが発病の危険性が高い対象において医薬品を用いたときの、発病の症状の停止または遅延をいう。
【0071】
以下の実施例および実験例を参照して、本発明をより詳細に記載する。これらの例は本発明の例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲および精神を限定すると解釈すべきものではない。
【実施例】
【0072】
実施例1:β−ラパコン(化合物1)の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、15.9g(0.10M)のプレニルブロミド(1−ブロモ−3−メチル−2−ブテン)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに76gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。反応混合物に200mlのEtOAcを添加し、次いでこれを激しく攪拌したところ、EtOAcに溶解しない白色固体が生成した。この固体を濾取し、EtOAc層を分離した。水層を再び100mlのEtOAcで抽出し、先に抽出した有機層と合わせた。有機層を150mlの5%NaHCO3で洗浄し、濃縮した。得られた濃縮物を200mlのCH2Cl2に溶解し、70mlのNaOH水溶液(2N)を添加して激しく振とうし、2層に分離させた。NaOH水溶液(2N)での処理(70ml、2回)により、CH2Cl2層を更に2度得た。分離された水溶液を合わせてpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコールを得た。得られたラパコールを75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコールを80mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに200gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮したところ、不純なβ−ラパコンが得られた。得られたβ−ラパコンをイソプロパノールから再結晶させて、8.37gの純粋なβ−ラパコンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1および8Hz)、7.82(1H、dd、J=1および8Hz)、7.64(1H、dt、J=1および8Hz)、7.50(1H、dt、J=1および8Hz)、2.57(2H、t、J=6.5Hz)、1.86(2H、t、J=6.5Hz)、1.47(6H、s)
【0073】
実施例2:ダンニオン(化合物2)の合成
実施例1においてラパコールを得た工程で、EtOAcに溶解せずに分離された固体は2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンであった。C−アルキル化生成物であるラパコールとは異なり、こちらはO−アルキル化生成物である。まず、分離された2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンを、EtOAcから再び再結晶させた。3.65g(0.015M)の精製した固体をトルエンに溶解し、トルエンを5時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりトルエンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、2.32gの純粋なダンニオンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、d、J=8Hz)、7.56(1H、m)、4.67(1H、q、J=7Hz)、1.47(3H、d、J=7Hz)、1.45(3H、s)、1.27(3H、s)
【0074】
実施例3:α−ダンニオン(化合物3)の合成
4.8g(0.020M)の実施例2において精製した2−プレニルオキシ−1,4−ナフトキノンをキシレンに溶解し、キシレンを15時間還流して、実施例2に比して有意に高温且つ長時間の反応条件下でクライゼン転移を誘発した。この反応工程により、クライゼン転移を起こし、2つのメチル基のうちの1つがシフトしたラパコール誘導体と共に、環化反応が進行したα−ダンニオンが得られた。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.65gの純粋なα−ダンニオンを得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、m)、7.57(1H、m)、3.21(1H、q、J=7Hz)、1.53(3H、s)、1.51(3H、s)、1.28(3H、d、J=7Hz)
【0075】
実施例4:化合物4の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、14.8g(0.11M)のメタリルブロミド(1−ブロモ−2−メチルプロペン)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。反応混合物に200mlのCH2Cl2を添加して激しく振とうし、2層に分離させた。水層を再び70mlのCH2Cl2で抽出し、先に抽出した有機層と合わせた。2種の物質が新たに生成したことがTLCにより確認され、特段の分離工程なしに以降の工程に用いた。減圧下での蒸留により有機層を濃縮し、キシレンに再溶解し、8時間還流した。この工程によりTLC上の2つの物質が1つに合一し、比較的純粋なラパコール誘導体が得られた。得られたラパコール誘導体を80mlの硫酸と混合し、室温で10分間激しく攪拌し、これに200gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に80mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び50mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮したところ、不純なβ−ラパコン誘導体(化合物4)が得られた。得られたβ−ラパコン誘導体をイソプロパノールから再結晶させて、12.21gの純粋な化合物4を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、d、J=8Hz)、7.64(2H、m)、7.57(1H、m)、2.95(2H、s)、1.61(3H、s)
【0076】
実施例5:化合物5の合成
メタリルブロミドに替えてアリルブロミドを用いた以外は実施例4と同様にして、化合物5を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、d、J=7Hz)、7.65(2H、m)、7.58(1H、m)、5.27(1H、m)、3.29(1H、dd、J=10および15Hz)、2.75(1H、dd、J=7および15Hz)、1.59(3H、d、J=6Hz)
【0077】
実施例6:化合物6の合成
5.08g(40mM)の塩化3−クロロプロピオニルを20mlのエーテルに溶解し、−78℃に冷却した。得られた溶液に、その温度で激しく攪拌しながら1.95g(25mM)の過酸化ナトリウム(Na2O2)を徐々に添加し、次いで更に30分間激しく攪拌した。反応溶液を0℃に加温し、これに7gの氷を添加し、次いで更に10分間激しく攪拌した。有機層を分離し、10mlの冷水(0℃)で再び洗浄し、その後5%NaHCO3(0℃)で洗浄した。有機層を分離してMgSO4で乾燥し、減圧下、0℃未満での蒸留により濃縮して、3−クロロ過プロピオン酸を調製した。
【0078】
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを20mlの酢酸に溶解し、室温においてこれに先に調製した3−クロロ過プロピオン酸を徐々に添加した。反応混合物を攪拌下に2時間還流し、次いで減圧下に蒸留して酢酸を除去した。得られた濃縮物を20mlのCH2Cl2に溶解し、20mlの5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮して、2−(2−クロロエチル)−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンとの混合物として化合物6を得た。得られた混合物をシリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、0.172gの純粋なラパコン誘導体(化合物6)を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、d、J=7.6Hz)、7.56〜7.68(3H、m)、4.89(2H、t、J=9.2Hz)、3.17(2H、t、J=9.2Hz)
【0079】
実施例7:化合物7の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、19.7g(0.10M)のシンナミルブロミド(3−フェニルアリルブロミド)および3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。この時、NaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、実施例8において再度用いた。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコール誘導体を得た。得られたラパコール誘導体を75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコール誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、2.31gの純粋な化合物7を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.09(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.83(1H、d、J=7.6Hz)、7.64(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.52(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.41(5H、m)、5.27(1H、dd、J=2.5および6.0Hz)、2.77(1H、m)、2.61(1H、m)、2.34(1H、m)、2.08(1H、m)、0.87(1H、m)
【0080】
実施例8:化合物8の合成
実施例7におけるNaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、減圧下での蒸留により濃縮した。得られた濃縮物を30mlのキシレンに溶解し、次いで10時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.26gの純粋な化合物8を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.12(1H、dd、J=0.8および8.0Hz)、7.74(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.70(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.62(1H、dt、J=1.6および7.6Hz)、7.27(3H、m)、7.10(2H、td、J=1.2および6.4Hz)、5.38(1H、qd、J=6.4および9.2Hz)、4.61(1H、d、J=9.2Hz)、1.17(3H、d、J=6.4Hz)
【0081】
実施例9:化合物9の合成
3.4g(22mM)の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エンおよび1.26g(15mM)の2−メチル−3−ブチン−2−オールを10mlのアセトニトリルに溶解し、得られた溶液を0℃に冷却した。反応溶液に3.2g(15mM)のトリフルオロ酢酸無水物を攪拌しながら徐々に添加し、その後0℃で攪拌を続けた。1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンおよび135mg(1.0mM)の塩化第二銅(CuCl2)を別のフラスコで10mlのアセトニトリルに溶解し、攪拌した。先に精製した溶液を反応溶液に徐々に添加し、これを20時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、0.22gの純粋な化合物9を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.11(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.73(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.69(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.60(1H、dt、J=1.6および7.6Hz)、4.95(1H、d、J=3.2Hz)、4.52(1H、d、J=3.2Hz)、1.56(6H、s)
【0082】
実施例10:化合物10の合成
0.12gの化合物9を5mlのメタノールに溶解し、これに10mgの5%Pd−Cを添加し、次いで室温で3時間激しく攪拌した。反応溶液をシリカゲルでろ過して5%Pd−Cを除去し、減圧下に蒸留して濃縮し、純粋な化合物10を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.64(2H、m)、7.54(1H、m)、3.48(3H、s)、1.64(3H、s)、1.42(3H、s)、1.29(3H、s)
【0083】
実施例11:化合物11の合成
1.21g(50mM)のβ−ラパコン(化合物1)および1.14g(50mM)のDDQ(2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノン)を50mlの四塩化炭素に溶解し、72時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.18gの純粋な化合物11を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.85(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.68(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.55(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、6.63(1H、d、J=10.0Hz)、5.56(1H、d、J=10.0Hz)、1.57(6H、s)
【0084】
実施例12:化合物12の合成
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、3.4g(50mM)の2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドおよび20mlの1,4−ジオキサンを耐圧容器に入れ、攪拌下に100℃で48時間加熱した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、238mgの化合物12をβ−ラパコンの2−ビニル誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.88(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.66(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.52(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、5.87(1H、dd、J=10.8および17.2Hz)、5.18(1H、d、J=10.8Hz)、5.17(1H、J=17.2Hz)、2.62(1H、m)、2.38(1H、m)、2.17(3H、s)、2.00(1H、m)、1.84(1H、m)
【0085】
実施例13:化合物13の合成
1.74g(10mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、4.8g(50mM)の2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンおよび3.0g(100mM)のパラホルムアルデヒドを20mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、428mgの化合物13をβ−ラパコンの誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.83(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.65(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.50(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、5.22(1H、bs)、2.61(1H、m)、2.48(1H、m)、2.04(1H、m)、1.80(3H、d、J=1.0Hz)、1.75(1H、m)、1.72(1H、d、J=1.0Hz)、1.64(3H、s)
【0086】
実施例14:化合物14の合成
5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(150mM)の2,6−ジメチル−2,4,6−オクタトリエンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを50mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.18gの化合物14をβ−ラパコンの誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.87(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.66(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.51(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、6.37(1H、dd、J=11.2および15.2Hz)、5.80(1H、幅広いd、J=11.2Hz)、5.59(1H、d、J=15.2Hz)、2.67(1H、dd、J=4.8および17.2Hz)、2.10(1H、dd、J=6.0および17.2Hz)、1.97(1H、m)、1.75(3H、bs)、1.64(3H、bs)、1.63(3H、s)、1.08(3H、d、J=6.8Hz)
【0087】
実施例15:化合物15の合成
5.3g(30mM)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノン、20.4g(50mM)のテルピネンおよび9.0g(300mM)のパラホルムアルデヒドを50mlの1,4−ジオキサンに溶解し、得られた混合物を激しい攪拌下に10時間還流した。反応容器を室温まで冷却し、内容物をろ過してパラホルムアルデヒドを固体から除去した。濾液を減圧下に蒸留して濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、1.12gの化合物15を四環性o−キノン誘導体として得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、d、J=7.6Hz)、7.85(1H、d、J=7.6Hz)、7.65(1H、t、J=7.6Hz)、7.51(1H、t、J=7.6Hz)、5.48(1H、幅広いs)、4.60(1H、幅広いs)、2.45(1H、d、J=16.8Hz)、2.21(1H、m)、2.20(1H、d、J=16.8Hz)、2.09(1H、m)、1.77(1H、m)、1.57(1H、m)、1.07(3H、s)、1.03(3H、d、J=0.8Hz)、1.01(3H、d、J=0.8Hz)、0.96(1H、m)
【0088】
実施例16:化合物16および17の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、16.3g(0.12M)のクロチルブロミドおよび3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。この時、NaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、実施例17において用いた。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、ラパコール誘導体を得た。得られたラパコール誘導体を75%エタノールから再結晶させた。得られたラパコール誘導体を50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々1.78gおよび0.43gの純粋な化合物16および17を得た。
【0089】
化合物16の1H−NMR(CDCl3、δ):8.07(1H、dd、J=0.8および6.8Hz)、7.64(2H、幅広いd、J=3.6Hz)、7.57(1H、m)、5.17(1H、qd、J=6.0および8.8Hz)、3.53(1H、qd、J=6.8および8.8Hz)、1.54(3H、d、J=6.8Hz)、1.23(3H、d、J=6.8Hz)
化合物17の1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=0.8および7.2Hz)、7.65(2H、幅広いd、J=3.6Hz)、7.57(1H、m)、4.71(1H、五重線、J=6.4Hz)、3.16(1H、五重線、J=6.4Hz)、1.54(3H、d、J=6.4Hz)、1.38(3H、d、J=6.4Hz)
【0090】
実施例17:化合物18および19の合成
実施例16におけるNaOH水溶液(2N)での抽出後に残ったCH2Cl2層を、減圧下での蒸留により濃縮した。得られた濃縮物を30mlのキシレンに溶解し、次いで10時間還流してクライゼン転移を誘発した。減圧下での蒸留によりキシレンを濃縮し、それ以上の精製をせずに、15mlの硫酸と混合した。得られた混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに100gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に50mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び20mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々0.62gおよび0.43gの純粋な化合物18および19を得た。
【0091】
化合物18の1H−NMR(CDCl3、δ):8.06(1H、dd、J=0.8および7.2Hz)、7.81(1H、dd、J=0.8および7.6Hz)、7.65(1H、dt、J=0.8および7.6Hz)、7.51(1H、dt、J=0.8および7.2Hz)、4.40(1H、m)、2.71(1H、m)、2.46(1H、m)、2.11(1H、m)、1.71(1H、m)、1.54(3H、d、J=6.4Hz)、1.52(1H、m)
化合物19の1H−NMR(CDCl3、δ):8.08(1H、d、J=0.8および7.2Hz)、7.66(2H、幅広いd、J=4.0Hz)、7.58(1H、m)、5.08(1H、m)、3.23(1H、dd、J=9.6および15.2Hz)、2.80(1H、dd、J=7.2および15.2Hz)、1.92(1H、m)、1.82(1H、m)、1.09(3H、t、J=7.6Hz)
【0092】
実施例18:化合物20の合成
17.4g(0.10M)の2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを120mlのDMSOに溶解し、これに0.88g(0.11M)のLiHを徐々に添加した。水素が放出されるので、これは注意して行うべきである。反応溶液を攪拌し、水素がもはや生成しないことを確認した後、更に30分間攪拌した。次いでこれに、21.8g(0.10M)のゲラニルブロミドおよび3.35g(0.025M)のLiIを徐々に添加した。反応溶液を45℃に加熱し、その後この温度で12時間激しく攪拌した。反応溶液を10℃に冷却し、始めに80gの氷、次いで250mlの水を添加した。その後、25mlの濃HClを徐々に添加し、得られる溶液をpH>1の酸性に維持した。200mlのCH2Cl2を添加して反応混合物を溶解し、これを激しく攪拌し、2層に分離させた。水層を廃棄し、CH2Cl2層をNaOH水溶液(2N)で処理(100ml、2回)して、水層を2度分離した。分離された水溶液を合わせ、濃HClでpH>2の酸性に調節したところ、固体が形成された。得られた固体を濾取・分離し、2−ゲラニル−3−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを得た。得られた生成物を、それ以上の精製をせずに50mlの硫酸と混合し、混合物を室温で10分間激しく攪拌し、これに150gの氷を添加して、反応を完結させた。反応物に60mlのCH2Cl2を添加し、次いでこれを激しく振とうした。その後、CH2Cl2層を分離して5%NaHCO3で洗浄した。水層を再び30mlのCH2Cl2で抽出し、5%NaHCO3で洗浄して先に抽出した有機層と合わせた。有機層を濃縮し、シリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、3.62gの純粋な化合物20を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、d、J=7.6Hz)、7.77(1H、d、J=7.6Hz)、7.63(1H、t、J=7.6Hz)、7.49(1H、t、J=7.6Hz)、2.71(1H、dd、J=6.0および17.2Hz)、2.19(1H、dd、J=12.8および17.2Hz)、2.13(1H、m)、1.73(2H、m)、1.63(1H、dd、J=6.0および12.8Hz)、1.59(1H、m)、1.57(1H、m)、1.52(1H、m)、1.33(3H、s)、1.04(3H、s)、0.93(3H、s)
【0093】
実施例19:化合物21の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて6−クロロ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物21を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.02(1H、d、J=8Hz)、7.77(1H、d、J=2Hz)、7.50(1H、dd、J=2および8Hz)、2.60(2H、t、J=7Hz)、1.87(2H、t、J=7Hz)、1.53(6H、s)
【0094】
実施例20:化合物22の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて2−ヒドロキシ−6−メチル−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物22を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.98(1H、d、J=8Hz)、7.61(1H、d、J=2Hz)、7.31(1H、dd、J=2および8Hz)、2.58(2H、t、J=7Hz)、1.84(2H、t、J=7Hz)、1.48(6H、s)
【0095】
実施例21:化合物23の合成
2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンに替えて6,7−ジメトキシ−2−ヒドロキシ−1,4−ナフトキノンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物23を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.56(1H、s)、7.25(1H、s)、3.98(6H、s)2.53(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.48(6H、s)
【0096】
実施例22:化合物24の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−メチル−2−ペンテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物24を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.15(4H、m)、2.55(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.80(2H、q、7Hz)、1.40(3H、s)、1.03(3H、t、J=7Hz)
【0097】
実施例23:化合物25の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−エチル−2−ペンテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.15(4H、m)、2.53(2H、t、J=7Hz)、1.83(2H、t、J=7Hz)、1.80(4H、q、7Hz)、0.97(6H、t、J=7Hz)
【0098】
実施例24:化合物26の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて1−ブロモ−3−フェニル−2−ブテンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.15〜8.15(9H、m)、1.90〜2.75(4H、m)、1.77(3H、s)
【0099】
実施例25:化合物27の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて2−ブロモ−エチリデンシクロヘキサンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.30〜8.25(4H、m)、2.59(2H、t、J=7Hz)、1.35〜2.15(12H、m)
【0100】
実施例26:化合物28の合成
1−ブロモ−3−メチル−2−ブテンに替えて2−ブロモ−エチリデンシクロペンタンを用いた以外は実施例1と同様にして、化合物25を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):7.28〜8.20(4H、m)、2.59(2H、t、J=7Hz)、1.40〜2.20(10H、m)
【0101】
実施例27:化合物29の合成
8.58g(20mM)の実施例5で合成した化合物5を1000mlの四塩化炭素に溶解し、次いで1.14g(50mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、得られた混合物を96時間還流した。反応溶液を減圧下に蒸留して濃縮し、得られた赤色固体をイソプロパノールから再結晶させて、7.18gの純粋な化合物29を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.66(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.62(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、7.42(1H、dt、J=1.2および7.6Hz)、6.45(1H、q、J=1.2Hz)、2.43(3H、d、J=1.2Hz)
【0102】
実施例27:化合物29の合成
p−ベンゾキノンおよび1−(N−モルホリン)プロペンを用い、非特許文献35に教示されている合成方法と同様にして、4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン(ベンゾフラン−4,5−ジオン)を合成した。1.5g(9.3mM)の調製したベンゾフラン−4,5−ジオンおよび3.15g(28.2mM)の1−アセトキシ−1,3−ブタジエンを200mlのベンゼンに溶解し、得られた混合物を12時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下に蒸留して濃縮した。次いでシリカゲルでのクロマトグラフィーを行い、1.13gの純粋な化合物30を得た。
1H−NMR(CDCl3、δ):8.05(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.68(1H、dd、J=1.2および7.6Hz)、7.64(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.43(1H、td、J=1.2および7.6Hz)、7.26(1H、q、J=1.2Hz)、2.28(3H、d、J=1.2Hz)
【0103】
実施例29:化合物31および32の合成
1.5g(9.3mM)の4,5−ジヒドロ−3−メチルベンゾ[1,2−b]フラン−4,5−ジオン(ベンゾフラン−4,5−ジオン)および45g(0.6M)の2−メチル−1,3−ブタジエンを200mlのベンゼンに溶解し、得られた混合物を5時間還流した。反応溶液を室温まで冷却し、減圧下に蒸留して完全に濃縮した。得られた濃縮物を150mlの四塩化炭素に再溶解し、次いで2.3g(10mM)の2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノ−1,4−ベンゾキノンを添加し、得られた混合物を更に15時間還流した。反応溶液を冷却し、減圧下に蒸留して濃縮した。得られた濃縮物をシリカゲルでのクロマトグラフィーにより精製して、各々0.13gおよび0.11gの純粋な化合物31および32を得た。
化合物31の1H−NMR(CDCl3、δ):7.86(1H、s)、7.56(1H、d、J=8.1Hz)、7.42(1H、d、J=8.1Hz)、7.21(1H、q、J=1.2Hz)、2.40(3H、s)、2.28(1H、d、J=1.2Hz)
化合物32の1H−NMR(CDCl3、δ):7.96(1H、d、J=8.0Hz)、7.48(1H、s)、7.23(2H、m)、2.46(3H、s)、2.28(1H、d、J=1.2Hz)
【0104】
実験例1:AMPK活性の測定
筋芽細胞C2C12を、10%仔ウシ血清を含むDMEM中で細胞培養した。細胞密度が約85〜90%に達したら、培地を1%仔ウシ血清を含む培地に変えて、細胞の分化を誘発した。このようにして分化させた筋芽細胞を、実施例1〜29で合成した試料(濃度5μg/ml)で処理し、対照群と比較した。AMPKの酵素活性は、以下のようにして測定した。まず、C2C12細胞を溶解してタンパク抽出物を得、最終濃度30%となるように硫酸アンモニウムを添加して、タンパク質を沈殿させた。タンパク質沈殿物を緩衝液(62.5mM Hepes、pH7.2、62.5mM NaCl、62.5mM NaF、1.25mMピロリン酸Na、1.25mM EDTA、1mM DTT、0.1mM PMSFおよび200μM AMP)に溶解した。その後、これに200μM SAMSペプチド(HMRSAMSGLHLVKRR:下線を付けたセリン残基は、アセチルCoAカルボキシラーゼのAMPKリン酸化部位としてのリン酸化部位である)および[γ−32P]ATPを添加し、反応物を30℃で10分間反応させた。この後、得られた反応液をp81ホスホセルロース紙にスポットした。p81ホスホセルロース紙を3%リン酸溶液で洗浄し、放射活性を測定した。各反応条件において、SAMSペプチドを含まない反応も行い、測定値からベースの数値を差し引いた。
得られた結果を下記表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2からわかるように、筋芽細胞C2C12を本発明の化合物で処理すると、この処理がAMPK酵素活性の増加をもたらす。
【0107】
実験例2:肥満マウス(ob/ob)における体重低下作用
肥満の特性・素因を有する10週齢のC57BL/6JL Lep ob/Lep ob雄性マウスは、Deahan Biolink Co.,Ltd.(Chungchongbuk−do、大韓民国)より購入した。温度23℃、湿度55%、照度300〜500ルクス、明暗(L/D)サイクル12時間、換気10〜18回/時に維持した飼育室で動物を飼育した。動物には、Purina Rodent Laboratory Chow 5001のペレット(実験動物用固形飼料)(Purina Mills Inc.社(ミズーリ州セントルイス、アメリカ合衆国)より購入)および水道水(飲料水)を自由に摂取させた。2週間かけて飼育室の新たな環境にマウスを順応させ、本発明に従って合成したいくつかのピラノ−o−ナフトキノンおよびフラノ−o−ナフトキノン誘導体を、26日間にわたり投与量100mg/kgで投与した。計時的投与に対する、体重、血中グルコースおよび食餌摂取の変動を観察した。投与完了後、コンピュータ断層写真撮影(CT)を行い、動物における脂肪組織分布の変動、各種臓器における組織の脂肪分布の変動、脂肪細胞サイズの変動、血液および肝臓中のグルコース、脂質および酵素レベルの変動を確認した。
下記表3は、いくつかの本発明の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの体重における、時間対の変化の結果を示す。
【0108】
【表3】
【0109】
表3からわかるように、本発明の化合物の投与は、対照群に比して有意な体重の減少をもたらす。
【0110】
図1〜3は、表3に記載の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を開示するものである。図1〜3からわかるように、本発明の化合物を投与した実験群は、対照群に比して、全ての臓器について、組織の脂肪含有量における有意な減少を示し、更に褐色脂肪含有量の増加を示した。これは、脂肪代謝が有意に増加したことを示すものである。
【0111】
下記表4は、本発明の化合物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスにおける、血中の脂質およびグルコースレベルの変化を示す。
【0112】
【表4】
【0113】
表4からわかるように、本発明の化合物を投与した群は、対照群に比して、血中のトリグリセリド、コレステロールおよびグルコースレベルに関し有意な減少をもたらす。
【0114】
実験例3:AMPKおよびACCのリン酸化の、β−ラパコンによる制御
この例は、AMPKおよびACC(細胞内のエネルギー制御タンパク)のリン酸化に対し、β−ラパコン(化合物1)が作用を示すか否かを確認するために行った。β−ラパコンによるAMPキナーゼおよびACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化を試験するため、6穴プレートに、HepG2細胞(ヒト肝細胞癌細胞株)を1ウェルあたり細胞1×105個の細胞密度となるようにまき(seeded)、RPMI+10%FBS培地中で培養した。細胞を24時間増殖させた後、培地を無血清RPMI培地に変えて、細胞をβ−ラパコン(10μM)(対照(DMSO)と組み合わせて)で各々30分、1時間、2時間、4時間および6時間処理した。リン酸化ACCの観測には抗ACC抗体および抗pS49−ACC抗体を、リン酸化AMPキナーゼの観測には抗AMPK抗体および抗pT172−AMPK抗体をそれぞれ用いた。図4に示す通り、β−ラパコンによるAMPキナーゼおよびACCのリン酸化は初期(30分)から観測され、またそのようなリン酸化作用6時間まで継続したことが確認できる。加えて、AMPキナーゼの標的であることが知られているACCもリン酸化されたことが確認できる。これらの結果は、β−ラパコンの作用によるAMPKの活性化が、アセチルCoAカルボキシラーゼ(脂質合成における重要な制御酵素)の活性を抑えることができることを示すものである。
【0115】
実験例4:内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用
AMPKの活性化がNRF−1を活性化し、ミトコンドリア生合成を促進することはよく知られている。加えて、NO/cGMPがPGC−1aおよびNRF−1を活性化し、ミトコンドリア生合成を促進する。AMPKを活性化するβ−ラパコンが亜酸化窒素の生成に関与しているか否かを確認するために、リン酸化(内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)の活性を高める)の程度を測定した。β−ラパコンの作用によるeNOSのリン酸化を試験するため、60mmプレートに、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を細胞1×105個の細胞密度となるようにまき、EBM2+5%FBS培地中で24時間培養した。培地を無血清EBM2培地に変えて、所定の時間、細胞をβ−ラパコン(10μM)で処理した。リン酸化eNOSの観測には、抗pS1177−eNOS抗体を用いた。
【0116】
図5に示す通り、eNOSのリン酸化増大が、β−ラパコンによる処理から30分で最大に達し、その後漸減して2時間後には観測されなくなった。β−ラパコンによるeNOSのリン酸化増大は、虚血性心疾患やミトコンドリア筋症、ミトコンドリア機能不全関連疾患(例えば、変性脳疾患、糖尿病、心筋症、老化関連疾患)に対し、β−ラパコンを治療に使用しうる可能性を示すものである。
【0117】
実験例5:C57BL/6マウスにおける、AMPK活性化に対するβ−ラパコンの作用
図6は、C57BL/6マウスにおいて、β−ラパコンがAMPKを活性化することを示すものである。C57BL/6マウスに対し、媒体および5mg/kgのβ−ラパコンを、尾静脈を通じて2時間および4時間投与した。肝臓および性腺の脂肪組織を摘出し、AMPKキナーゼの活性を試験した。活性化度は、放射性同位体のCPM値で示した。同様にして、HepG2細胞(ヒト肝臓由来の細胞株)をβ−ラパコン(10μM)で30分間処理し、AMPKキナーゼ活性の試験を行った。図12の結果からわかるように、β−ラパコンの投与は、肝臓および性腺の脂肪組織、並びに肝細胞におけるAMPKキナーゼ活性の増加をもたらす。
【0118】
実験例6:C57BL/6マウスにおける、AMPKおよびACCのリン酸化に対するβ−ラパコンの作用
β−ラパコンの抗肥満作用を検討するため、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、AMPKおよびACC(肝臓および性腺の脂肪組織におけるエネルギー代謝や脂肪合成において重要な役割を果たす)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用を試験した。図13に示す通り、C57BL/6マウスの性腺および肝臓の組織において、AMPKおよびACCのリン酸化に対しβ−ラパコンが作用を示すことが、ウェスタンブロット分析により確認された。リン酸化AMPKは、エネルギー関連の代謝を活性化すると考えられている。一方、AMPKの活性化により影響を受けるACCは、リン酸化されてその脂肪合成活性が阻害され、このことが、脂質代謝に対し何らかの作用(肥満の阻害を含む)を示すと考えられている。
【0119】
実験例7:C57BL/6マウスにおける、脂質代謝に関与する遺伝子の発現に対するβ−ラパコンの作用
β−ラパコンの抗肥満作用を検討するため、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織における脂質代謝に関与する、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC)1(7、8)、ACC2(9)、脂肪酸シンターゼ(FAS)(10、11)、リポ蛋白リパーゼ(LPL)(12〜15)およびステアリン酸CoA脱飽和酵素1(SCD1)(16、17)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認する努力を行った。これらの酵素は脂質代謝において極めて重要である。ACCは、アセチルCoAからのマロニルCoAの形成を触媒し;FASは、マロニルCoAからのパルミチン酸の形成を触媒し;SCD1は、モノ不飽和脂肪の形成を触媒することが知られている。従ってこれらは、主要な貯蔵エネルギー(energy store)であるトリアシルグリセロールの形成において役割を果たしている。よって、これらの酵素は肥満、糖尿病や脂肪代謝関連疾患と密接に関連している。図8に示すように、β−ラパコンを投与した実験群では、対照群に比して、ACC1および2、FAS、LPL並びにSCD1のmRNA発現レベルが著しく減少しており、実験群のLPLmRNA発現レベルは、対照群に比して2倍に増加している。従って、上記酵素に関する遺伝子発現の減少または増加という結果から、β−ラパコンはメタボリックシンドロームの治療に有効な物質であると推論することができる。
【0120】
実験例8:C57BL/6マウスにおける、グルコース代謝に関与するタンパク質の遺伝子発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるヘキソキナーゼ2(HK2)(21、22)、グルコース輸送体(GLUT)2およびGLUT4(18、19、20)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認した。GLUTは、肝臓等の臓器や、脂肪組織、筋芽細胞における血中グルコースの細胞内取り込みや消費を仲介するタンパク質としてよく知られており、HK2は、グルコキナーゼクラスに属する酵素であり、リン酸化により解糖系に入れるようになるタンパク質をリン酸化する。図9からわかるように、HK2のmRNAレベルは、対照群に比して減少するが、グルコース輸送に関与する2種の酵素、GLUT2およびGLUT4のmRNAは、有意な発現の増加を示した。GLUT2およびGLUT4レベルの増加は、血中グルコースの細胞内取り込みを促進するので、β−ラパコンの抗糖尿病薬としての可能性を示すものである。
【0121】
実験例9:C57BL/6マウスにおける、ミトコンドリア生合成に関与するタンパク質の遺伝子発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるペルオキシソーム増殖因子活性化受容体コアクチベータ−α1(PGC1α)(23、24)、核呼吸因子(nuclear respiratory factor)1(NRF1)(25〜27)、ミトコンドリア転写因子(mtTFA)(25〜27)およびチトクロームCオキシダーゼ(COX)(28、29)のmRNAレベルを、リアルタイム定量PCRにより確認した。図10に示すタンパク質は、細胞内エネルギー生合成において重要な役割を果たし、種々の生理的事象の制御に関与することも知られているミトコンドリアの生合成に関与する代表的な酵素である。これらの酵素の間では、mRNA量の差はわずかであったが、全ての酵素について、β−ラパコン投与群は、対照群に比してmRNAレベルの増加を示した。種々のメタボリックシンドロームにおけるミトコンドリアの異常活性が報告されているので、これらの結果は、β−ラパコンがメタボリックシンドローム、ミトコンドリア機能不全関連疾患およびエネルギー代謝関連疾患の治療において、そのような減少の改善を介して有効(therapeutic for the treatment)でありうるという可能性を示すものである。
【0122】
実験例10:C57BL/6マウスにおける、エネルギー代謝に関与する遺伝子の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織におけるエネルギー代謝に関与する遺伝子の転写レベルを、リアルタイム定量PCRを用いて測定した。図11を参照すると、PPAR−αおよびγは、エネルギー消費に関与する酵素の転写制御に関与する酵素であり(30、31)、AMPKは、細胞内AMP/ATP比を感知することにより細胞エネルギー恒常性の維持に中心的な役割を果たし、AOXは、脂質代謝工程のある段階に存するアシルCoAの酸化を介して酸化的リン酸化を触媒し、活性化する(32、33)。加えて、CPT1もまたエネルギー代謝に関与する酵素であり、トリアシルグリセロール合成に向かう経路を取らずに、長鎖アシルCoAをミトコンドリアに送達する(passage)ことを可能にする酵素としてよく知られている(34、35)。β−ラパコンを投与した群では、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)−αのmRNAレベルには変化がなかったが、PPAR−γは、約2倍のmRNAレベル増加を示した。加えて、アシルCoAオキシダーゼ(AOX)、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)−α1および2、並びにカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ1の間では、mRNAレベルにある程度差があったものの、そのような酵素について、β−ラパコン投与群は、対照群に比してmRNAレベルの増加を示した。そのような遺伝子の発現レベルの増加は、β−ラパコンがエネルギー代謝関連疾患の治療において有効でありうるという可能性を示すものである。
【0123】
実験例11:C57BL/6マウスにおける、SIRT関連転写物の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、投与7、28および56日目に、性腺の脂肪組織におけるサーチュイン(SIRT)(36、37)遺伝子転写物のレベルを、各々リアルタイム定量PCRを用いて測定した。図12におけるSIRT関連転写物を参照すると、ヒトにおいて7つの転写物種が既知である。特に、SIRT1は寿命に関連する酵素としてよく知られており、また、カロリー摂取が制限されるとSIRT1が増加するとの報告もある(37)。図18からわかるように、SIRT1、SIRT3およびSIRT6は有意に増加したが、SIRT2、SIRT5およびSIRT7は、実験群と対照群の間で顕著な差を示さなかった。
【0124】
実験例12:C57BL/6マウスにおける、UCP1およびUCP2遺伝子転写物の発現に対するβ−ラパコンの作用
食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与し、肝臓および性腺の脂肪組織における脱共役タンパク質1および2(UCP1および2)遺伝子の転写レベルを、リアルタイム定量PCRを用いて測定した。UCP1および2は、熱の生成を介してエネルギー消費を行う酵素であり、これらの酵素は、反応性酸素種(ROS)の生成に関与することなくエネルギーを消費するよう機能し、肥満の発症に密接に関連しているとの報告もある(38、39)。図13に示すように、β−ラパコンの投与は、UCP1および2のmRNAレベルの有意な増加をもたらした。これらの結果は、エネルギー生成工程において付加的に生成するROSによるストレスの減少を介する、メタボリックシンドロームにおける安全な治療薬としてのβ−ラパコンの可能性を示すものである。
【0125】
実験例13:食餌誘導肥満(DIO)C57BL/6マウスにおける、体重および食餌摂取の時間対の変化に対するβ−ラパコンの作用
図14は、食餌誘導肥満(DIO)マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後の、56日間の食餌摂取/体重比の変化および体重変化を示す。β−ラパコン投与群は初めの2週間、食餌摂取の減少を示したが、その後食餌摂取レベルは対照群と同様にまで回復した。これらの結果は、脂質の分解が促進され、十分な量のエネルギーが生成することによるものと考えられる。加えて、マウスに高脂肪食を与えても、動物は対照群に比して、56日間にわたり継続して体重減少を示した。
【0126】
図15は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後の、種々の臓器における56日間の重量の変化を、処理群と対照群間で比較するグラフである。図15に示すように、β−ラパコン投与後の臓器組織における脂肪含有量減少の結果、組織の重量に有意な変化があった。
図16−a〜16−cは、DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを56日間投与した後の、開腹状態の動物全体と、肝臓組織における脂肪蓄積に対するオイルレッドO染色およびEM検査の結果を示す。図16からわかるように、β−ラパコンを56日間投与したDIO C57BL/6マウスは、内臓脂肪と体重の顕著な減少と、肝臓組織(赤く変色)のサイズ縮小を示した。図16における肝臓脂肪の状態の改善を確認するため、オイルレッドOを用いて肝臓における蓄積脂肪を染色した。その結果、対照群に比して脂肪が90%以上減少したことが確認された。加えて、肝臓組織のEM検査結果は、対照群に比して顕著に減少した脂肪空胞およびグリコーゲン貯蔵、正常なミトコンドリア形状の回復、ミトコンドリア数の有意な増加および小胞体形状の改善を示した。
【0127】
図17を参照すると、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、β−ラパコン投与56日目に動物を開腹し、性腺の脂肪組織においてペリリピン染色を行った。図17からわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
図18は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後各々3、7、14、28および56日目に採取した血液中の、トリグリセリド(TG)、コレステロール、遊離脂肪酸、グルコース、インスリン、TNFα、レジスチンおよびレプチンレベルの変化を示す。これからわかるように、血中の脂肪およびグルコースレベルが顕著に改善し、またインスリン抵抗性およびレプチン抵抗性も改善していた。更に、インスリン抵抗性を引き起こすレジスチンの血中レベルも顕著に改善していた。これらの結果から、β−ラパコンが脂肪肝、高脂血症、2型糖尿病およびインスリン抵抗性の治療に大いに有効であることが期待される。
【0128】
図19を参照すると、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、β−ラパコン投与56日目に、褐色脂肪組織においてHE染色を行った。図19からわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
図20は、DIO C57BL/6マウスに対し、β−ラパコンを投与量50mg/kgで毎日経口投与した後、56日目に摘出した褐色脂肪組織のEM検査結果を示す。これからわかるように、脂肪細胞サイズが顕著に減少していた。
【0129】
実験例14:レプチン受容体欠失マウスにおける、β−ラパコン投与による変化
図21は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスに対し、β−ラパコンを投与量150または200mg/kgで毎日経口投与したことによる、56日間の食餌摂取/体重比の変化(図21−a)および体重変化(図21−b)を示す。食餌摂取/体重比は、投与10日目ころから顕著に減少し、その後食餌摂取レベルは対照群と同様にまで回復した。これは、脂質の分解が促進され、食餌摂取が同様でも十分な量のエネルギーが生成することによる。加えて、マウスに高脂肪食を与えても、動物は対照群に比して、56日間にわたり継続して体重減少を示した。これらの結果は、β−ラパコン投与は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスにおいても肥満マウスと同様に、効果的に体重を減少させることを示すものである。肝臓組織における脂肪蓄積を検査するため、β−ラパコン投与56日目に動物を開腹し、肝臓組織についてHE染色(図21−c)およびEM検査(図21−d)を行った。図21−cは、肝臓組織のHE染色結果から、対照群に比べると、脂肪空胞がほぼ全て消失したことを示す。このような結果は、レプチン受容体欠失(ob/ob)マウスにおいてもβ−ラパコンが脂肪肝の治療に大いに有効であるとの期待を提供するものである。図21−dから、肝臓組織のEM検査結果は、対照群に比して顕著に減少した脂肪空胞およびグリコーゲン貯蔵、正常なミトコンドリア形状の回復、ミトコンドリア数の有意な増加および小胞体形状の改善を示した。図21−eから、動物の肢の筋組織のEM検査結果は、対照群に見られるミトコンドリアの奇妙な形状に比しての、処置群における正常なミトコンドリア形状の回復と、ミトコンドリア数の有意な増加を示した。
【0130】
実験例15:自発運動活性に対するβ−ラパコンの作用
DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与し、3時間後に、Versa MAX Activity Monitor & Analyzer (Accusan Instruments社(オハイオ州Columbus)製)を用いて自発運動活性を測定した。動物の運動測定に用いたモニターは、41cm×41cm(高さ30cm)のプレキシグラス(Plexiglas)容器に、xおよびy軸に沿って2.5cm間隔でおのおの赤外線が取り付けられて、容器の前後左右に16本の走査線が配置されたものである。自発運動と常同性/毛づくろい行動を区別するため、別個の2本の走査線が、マウスにより継続的に干渉することを有効な測定基準として、動物の活性測定を行った。β−ラパコン投与群、媒体投与群および対照群をおのおの測定器に入れ、動物の活性・運動を7時間にわたり測定した。動物を新たな環境に順応させるため、測定の2時間前にマウスを測定器に入れた。図22に示すように、媒体投与群と対照群の間では実質的に差が示されなかったが、β−ラパコン投与群は、動物の運動および自発運動活性に有意な差を示した。
【0131】
実験例16:身体的持久力増強に対するβ−ラパコンの作用
この例は、水泳試験を通じてマウスの身体的持久力の差を測定することを意図して行ったものである。この目的のため、直径9.5cm、高さ25cmの円筒状の槽に水を入れ、DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した。3時間後に、測定のため、試料を投与した群と対照群を各々同時に円筒状の槽に入れ、各群の身体的持久力を比較した。図23に示すように、β−ラパコン投与群は、β−ラパコンの単回投与で、対照群に比して2倍を超える水泳持久力を示すことが確認された。
【0132】
実験例17:呼吸商(RQ)に対するβ−ラパコンの作用
この例は、呼吸商(RQ)測定を通じて脂肪代謝に対するβ−ラパコンの作用を測定することを意図して行ったものである。酸素消費量および二酸化炭素産生量は、Oxyscan open−circuit indirect calorimeter (Accusan Instruments社(オハイオ州Columbus)製)を用いて測定した。この装置は、密閉された(enclosed)アクリル容器(21cm×21cm×21cm)からなる。各容器に、流速1500ml/minで新鮮な空気を引き込み、その後O2とCO2に検出器を通過させた。ガスの濃度を、ml/体重kgの単位で記録した。産生したCO2の体積(VCO2)を消費されたO2の体積(VO2)で割った商としてRQを算出した。β−ラパコン投与群、媒体投与群および対照群をおのおの容器に入れ、RQを7時間にわたり測定した。動物を新たな環境に順応させるため、測定の2時間前にマウスを測定器に入れた。図24に示すように、測定結果から、β−ラパコン投与群は、媒体投与群および対照群に比して、RQ値に有意な差を示したことが確認された。
【0133】
実験例18:急性毒性試験
1.経口投与
Sprague−Dawleyラット(体重250±7g)(Jung−Ang Lab Animal Inc.,ソウル、大韓民国)を各10匹の4群に分け、本発明の化合物1、2、3、4、12、13、14、16、17、24、25および26を各々投与量50、100および200mg/kgで経口投与した。経口投与の後、毒性を示すか否か2週間に亘り観察したところ、4群のいずれにも死亡した動物はなく、また対照群と比較して、視覚的に観察できる症状は感知されなかった(体重の減少を除く)。
【0134】
2.腹腔内投与
Sprague−Dawleyラット(体重255±6g)(Jung−Ang Lab Animal Inc.,ソウル、大韓民国)を各10匹の4群に分け、本発明の化合物1、2、3、4、12、13、14、16、17、24、25および26を各々投与量50、100および200mg/kgで腹腔内投与した。腹腔内投与の後、毒性を示すか否か2週間に亘り観察したところ、4群のいずれにも死亡した動物はなく、また対照群と比較して、視覚的に観察できる症状は感知されなかった(体重の減少を除く)。
上記の結果から、本発明の化合物は急性毒性を有していないことが確認された。
【0135】
以降、本発明の医薬組成物の処方例および化粧品への適用例を記載する。これらの例は本発明の例示のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲および精神を限定すると解釈すべきものではない。
【0136】
処方例1:錠剤の調合
化合物1 20g
乳清タンパク 820g
結晶セルロース 140g
ステアリン酸マグネシウム 10g
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 10g
【0137】
処方例2:散剤の調合
化合物1 2g
大豆タンパク 58g
カルボキシセルロース 40g
合計 100g
【0138】
処方例3:本発明の化合物の化粧品ローションへの適用
1,3−ブチレングリコール 5%
グリセリン 5%
EDTA−2Na 0.02%
トリメチルグリシン 2.0%
セタノール 1.0%
グリセリルモノステアレート乳化剤 1.0%
ポリソルベート60 1.2%
ソルビタンセスキオレエート 0.3%
2−エチルヘキサン酸セチル 4.0%
スクワラン 5.0%
ジメチコン 0.3%
グリセリルステアレート 0.5%
カルボマー 0.15%
トリエタノールアミン 0.5%
イミダゾリジニル尿素 0.2%
化合物1 0.2%
精製水 73.6%
【0139】
処方例4:本発明の化合物のスキンケア化粧品への適用
1,3−ブチレングリコール 4.0%
ジプロピレンレングリコール 5.0%
EDTA−2Na 0.02%
オクチルドデセス−16 0.3%
PEG60水素化ヒマシ油 0.25%
化合物1 0.03%
精製水 90%
【産業上の利用可能性】
【0140】
以上から明らかなように、本発明の化合物は、種々の遺伝子やタンパク質の活性を調節する化合物であるので、in vivoでのエネルギーレベル調節を介して種々の疾患・異常を治療するのに有効であると期待される。上記の化合物を有効成分として用いる医薬品は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患、ミトコンドリア機能不全関連疾患等の種々の疾患の治療および/または予防に優れた作用を示す。
【0141】
例証を目的として本発明の好ましい実施形態が開示されているが、当業者は、添付の特許請求の範囲に開示される本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の修飾、付加および置換が可能であると理解する。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図2】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図3】本発明の医薬組成物を投与したC57BL/6JL Lep ob/Lep obマウスの各臓器における、数値換算した脂肪分布を示すグラフである。
【図4】細胞内におけるAMPKおよびACCのリン酸化の制御に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図5】細胞内における内皮亜酸化窒素シンターゼ(eNOS)のリン酸化に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図6】C57BL/6マウスにおけるAMPKの活性化に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図7】C57BL/6マウスにおけるAMPKおよびACCのリン酸化の制御に対するβ−ラパコンの作用を示す写真である。
【図8】C57BL/6マウスの脂質代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図9】C57BL/6マウスのグルコース代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図10】C57BL/6マウスのミトコンドリア生合成に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図11】C57BL/6マウスにおけるエネルギー代謝に関与するタンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図12】C57BL/6マウスにおけるSIRT関連タンパク質の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図13】C57BL/6マウスにおけるUCP1およびUCP2遺伝子の転写・発現に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図14】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、体重および食餌の時間対の変化を示すグラフである。
【図15】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の種々の臓器における重量の変化を、処理群と対照群間で比較するグラフである。
【図16】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、開腹状態の動物全体を示す写真、並びに肝臓組織における脂肪蓄積に対するオイルレッドO染色およびEM検査の結果を示す写真である。
【図17】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、性腺脂肪組織における脂肪細胞サイズの比較結果を示す写真である。
【図18】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、脂質、グルコースおよびホルモンの時間対の血中濃度変化を示すグラフである。
【図19】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、褐色脂肪組織のHE染色の比較結果を示す写真である。
【図20】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、褐色脂肪組織のEM検査の結果を示す写真である。
【図21】レプチン受容体欠損マウス(ob/ob)にβ−ラパコンを投与した後の、食餌摂取(g)/体重比の変化を示すグラフ、体重の変化を示すグラフ、脂肪蓄積量を示す写真および組織のEM検査結果を示す写真である。
【図22】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、自発運動活性に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図23】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、身体的持久力に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【図24】DIO C57BL/6マウスにβ−ラパコンを投与した後の、呼吸商(RQ)に対するβ−ラパコンの作用を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疾患または症候群を治療または予防するための医薬組成物であって、
(a)治療有効量の、下記式(I):
【化1】
(式中、
R1およびR2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基または炭素数1〜6の低級アルキル基であり、
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立に、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基或いはヘテロアリール基であり、R3〜R8のうち2つの置換基が一緒になり環状構造を形成していてもよく、
nは、0または1であり、
ただし、nが0であるとき、nの箇所に隣接する炭素原子が直接結合し、環状構造を形成する)
で表される化合物、或いは薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらのいずれかの組み合わせ
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記式(1)の化合物は、下記式(II)および(III):
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、前記式(I)について定義したものと同義である)
で表される化合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R1およびR2は各々、水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記式(II)の化合物は、R1、R2およびR4が各々独立に水素原子である下記式(IIa)の化合物、またはR1、R2およびR6が各々独立に水素原子である下記式(IIb)の化合物:
【化3】
【化4】
であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記式(III)の化合物は、R1、R2、R5、R6、R7およびR8が各々独立に水素原子である下記式(IIIa):
【化5】
の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記疾患または症候群は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記メタボリックシンドロームは、肥満、肥満合併症、肝臓疾患、動脈硬化症、脳卒中、心筋梗塞、循環器疾患、虚血性疾患、糖尿病、糖尿病関連合併症または炎症性疾患であることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記糖尿病関連合併症は、高脂血症、高血圧または腎不全であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
疾患または症候群を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項1に記載の前記式(1)の化合物の用途。
【請求項1】
疾患または症候群を治療または予防するための医薬組成物であって、
(a)治療有効量の、下記式(I):
【化1】
(式中、
R1およびR2は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、水酸基または炭素数1〜6の低級アルキル基であり、
R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、各々独立に、水素原子、水酸基、炭素数1〜20のアルキル、アルケニルまたはアルコキシ基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基或いはヘテロアリール基であり、R3〜R8のうち2つの置換基が一緒になり環状構造を形成していてもよく、
nは、0または1であり、
ただし、nが0であるとき、nの箇所に隣接する炭素原子が直接結合し、環状構造を形成する)
で表される化合物、或いは薬学的に許容されるその塩、プロドラッグ、溶媒和物または異性体;および
(b)薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはそれらのいずれかの組み合わせ
を含む医薬組成物。
【請求項2】
前記式(1)の化合物は、下記式(II)および(III):
【化2】
(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、前記式(I)について定義したものと同義である)
で表される化合物よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
R1およびR2は各々、水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記式(II)の化合物は、R1、R2およびR4が各々独立に水素原子である下記式(IIa)の化合物、またはR1、R2およびR6が各々独立に水素原子である下記式(IIb)の化合物:
【化3】
【化4】
であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記式(III)の化合物は、R1、R2、R5、R6、R7およびR8が各々独立に水素原子である下記式(IIIa):
【化5】
の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記疾患または症候群は、肥満、糖尿病、メタボリックシンドローム、退行性疾患およびミトコンドリア機能不全関連疾患を含むことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記メタボリックシンドロームは、肥満、肥満合併症、肝臓疾患、動脈硬化症、脳卒中、心筋梗塞、循環器疾患、虚血性疾患、糖尿病、糖尿病関連合併症または炎症性疾患であることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記糖尿病関連合併症は、高脂血症、高血圧または腎不全であることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
疾患または症候群を治療または予防するための医薬品の調製における、請求項1に記載の前記式(1)の化合物の用途。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2008−530085(P2008−530085A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555032(P2007−555032)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000531
【国際公開番号】WO2006/088315
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(504435416)エムディー バイオアルファ カンパニー リミテッド (6)
【出願人】(506222797)ケーティ アンド ジー カンパニー リミテッド (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【国際出願番号】PCT/KR2006/000531
【国際公開番号】WO2006/088315
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(504435416)エムディー バイオアルファ カンパニー リミテッド (6)
【出願人】(506222797)ケーティ アンド ジー カンパニー リミテッド (9)
【Fターム(参考)】
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