説明

育毛剤、抗男性ホルモン剤及び頭髪化粧料

【課題】 安全性の高い天然物の中からテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する物質を見出し、それを有効成分とする育毛剤、抗男性ホルモン剤及び頭髪化粧料を提供する
【解決手段】 育毛剤、抗男性ホルモン剤又は頭髪化粧料に、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛剤、抗男性ホルモン剤及び頭髪化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くのステロイドホルモンは産生臓器から分泌された分子型で受容体と結合してその作用を発現するが、アンドロゲンと総称される男性ホルモンの場合、例えば、テストステロンは標的臓器の細胞内に入ってテストステロン5α−レダクターゼにより5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)に還元されてから受容体と結合し、アンドロゲンとしての作用を発現する。
【0003】
アンドロゲンは重要なホルモンであるが、それが過度に作用すると、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等、さまざまな好ましくない症状を誘発する。そこで、従来、これらの各種症状を改善するために過剰のアンドロゲンの作用を抑制する方法、具体的には、テストステロンを活性型5α−DHTに還元するテストステロン5α−レダクターゼの作用を阻害することにより、活性な5α−DHTが生じるのを抑制する方法や、テストステロンから生じた5α−DHTが受容体と結合するのを阻害することによりアンドロゲン活性を発現させない方法が提案されている。
【0004】
このようなテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を有するものとしては、例えば、コエロスポンディアス(Choerospondias)属に属する植物からの抽出物(特許文献1参照)、五斂子からの抽出物(特許文献2参照)、紅豆杉、鳥欖、幌傘楓及び穿心蓮からなる群より選ばれた1種又は2種以上の植物からの抽出物(特許文献3参照)等が知られている。また、5α−DHTとその受容体との結合を阻害する作用を有するものとしては、例えば、マジト及び/又はカチュアからの抽出物(特許文献4参照)、藤茶からの抽出物(特許文献5参照)等が知られている。
【0005】
毛髪は、成長期、退行期及び休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長及び脱落を繰り返している。このヘアサイクルのうち、休止期から成長期にかけての新たな毛包が形成されるステージが、発毛に最も重要であると考えられており、このステージにおける毛包上皮系細胞の増殖・分化に重要な役割を果たしているのが、毛乳頭細胞であると考えられている。毛乳頭細胞は、毛根近傍にある外毛根鞘細胞とマトリックス細胞とからなる毛包上皮系細胞の内側にあって、基底膜に包まれている毛根の根幹部分に位置する細胞であり、毛包上皮系細胞に働きかけてその増殖を促進する等、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において重要な役割を担っている(非特許文献1参照)。
【0006】
このように、毛乳頭細胞は、毛包上皮系細胞の増殖・分化及び毛髪の形成において最も重要な役割を果たしており、従来、培養毛乳頭細胞に対象物質を接触させて、その細胞の増殖活性の有無及び/又は強弱を特定することで、その対象物質の育毛効果を検定する方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0007】
また、従来、毛乳頭細胞増殖促進作用を有する生薬として、例えば、オウギ抽出物、オウレン抽出物、クマノギク抽出物等が提案されている(特許文献7及び特許文献8参照)。このように、安全性及び生産性に優れ、日常的に摂取可能であり、かつ安価でありながら優れたテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用、又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する天然系の各種製剤に対する需要者の要望はきわめて強いが、いまだ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2003−55162号公報
【特許文献2】特開2002−241296号公報
【特許文献3】特開2002−87976号公報
【特許文献4】特開2002−241297号公報
【特許文献5】特開2002−308790号公報
【特許文献6】特開平10−229978号公報
【特許文献7】特開平9−208431号公報
【特許文献8】特開平11−12134号公報
【非特許文献1】「Trends Genet」,1992年,第8巻,p.56−61
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性の高い天然物の中からテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する物質を見出し、それを有効成分とする育毛剤、抗男性ホルモン剤及び頭髪化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の育毛剤において、前記抽出物が、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することが好ましく、本発明の抗男性ホルモン剤において、前記抽出物が、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することが好ましい。なお、「アンドロゲン受容体結合阻害」とは、5α−DHTとアンドロゲン受容体との結合の阻害を意味し、その阻害様式は特に限定されるものではなく、例えば、競合的拮抗薬、非競合的拮抗薬といったアンタゴニストとしての阻害が考えられる。
【0011】
また、本発明の頭髪化粧料は、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を配合したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天然物である不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有し、安全性に優れた育毛剤、抗男性ホルモン剤又は頭髪化粧料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
〔育毛剤,抗男性ホルモン剤〕
本発明の育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
ここで、本発明において「抽出物」には、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
本発明において使用する抽出原料は、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物である。2種以上の植物を抽出原料として用いる場合、上記植物を任意に組み合わせて使用することができる。
【0016】
不老草(Balanophora sp.)は、広東、広西等の中国各省に野生しているツチトリモチ科の植物であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る不老草の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部若しくはこれらの部位の混合物又は全草等が挙げられるが、好ましくは全草である。
【0017】
玉胡蝶(Oroxylum indicum)は、中国南部の各省の山の斜面や渓流沿いに野生している樹高7〜12mのノウゼンカズラ科の落葉高木植物であって、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る玉胡蝶の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部等の地上部、根部若しくはこれらの部位の混合物又は全草等が挙げられるが、好ましくは地上部であり、特に好ましくは種子部である。
【0018】
水翁(Cleistocalyx operculatus)は、広東、広西等に分布しているフトモモ科の高木植物であって、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る水翁の構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、花蕾部等の地上部、根部若しくはこれらの部位の混合物又は全草等が挙げられるが、好ましくは花蕾部である。
【0019】
不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物に含有されるテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する抽出物を得ることができる。
【0020】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0021】
抽出溶媒としては、極性溶媒を用いるのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0022】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0023】
抽出溶媒として使用することのできる親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0024】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
【0025】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0026】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでも育毛剤又は抗男性ホルモン剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0027】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、頭髪化粧料に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0028】
以上のようにして得られる不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は、育毛作用又は抗男性ホルモン作用を有しているため、それらの作用を利用して育毛剤又は抗男性ホルモン剤の有効成分として用いることができる。
【0029】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有する育毛作用は、例えば、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用に基づいて発揮される。ただし、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有する育毛作用は、上記作用に基づいて発揮される育毛作用に限定されるものではない。
【0030】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有する抗男性ホルモン作用は、例えば、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用に基づいて発揮される。ただし、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有する抗男性ホルモン作用は、上記作用に基づいて発揮される抗男性ホルモン作用に限定されるものではない。
【0031】
なお、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は、抽出物が有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を利用して、テストステロン5α−レダクターゼ阻害剤、アンドロゲン受容体結合阻害剤又は毛乳頭細胞増殖促進剤の有効成分として使用してもよい。
【0032】
本発明の育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物のみからなるものであってもよいし、上記抽出物を製剤化したものであってもよい。
【0033】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。また、不老草、玉胡蝶及び水翁より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は、他の組成物(例えば、後述する頭髪化粧料等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0034】
なお、本発明の育毛剤又は抗男性ホルモン剤は、必要に応じて、育毛作用及び/又は抗男性ホルモン作用を有する他の天然抽出物を配合して有効成分として用いることができる。
【0035】
本発明の育毛剤は、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等を予防、治療又は改善することができ、特に男性型脱毛症の予防・改善に好適である。ただし、本発明の育毛剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0036】
本発明の抗男性ホルモン剤は、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を通じて、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明の抗男性ホルモン剤は、これらの用途以外にもテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0037】
〔頭髪化粧料〕
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物は、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有しており、男性型脱毛症等を予防、治療又は改善することができるとともに、頭髪(頭皮)に適用した場合の使用感と安全性とに優れているため、頭髪化粧料に配合するのに好適である。この場合、頭髪化粧料には、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を配合してもよいし、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物から製剤化した育毛剤又は抗男性ホルモン剤を配合してもよい。不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物、上記育毛剤又は上記抗男性ホルモン剤を頭髪化粧料に配合することによって、頭髪化粧料に育毛作用、抗男性ホルモン作用、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を付与することができる。
【0038】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を配合し得る頭髪化粧料の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、ヘアトニック、ヘアローション、ヘアリキッド、ヘアクリーム、整髪剤、シャンプー、リンス、トリートメント、ポマード等が挙げられる。
【0039】
不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を頭髪化粧料に配合する場合、その配合量は、頭髪化粧料の種類に応じて適宜調整することができるが、好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.0001〜10質量%であり、特に好適な配合率は、標準的な抽出物に換算して約0.001〜1質量%である。
【0040】
本発明の頭髪化粧料は、不老草、玉胡蝶及び水翁からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物が有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用又は毛乳頭細胞増殖促進作用を妨げない限り、通常の頭髪化粧料の製造に用いられる主剤、助剤又はその他の成分、例えば、収斂剤、殺菌・抗菌剤、紫外線吸収剤、保湿剤、細胞賦活剤、消炎・抗アレルギー剤、抗酸化・活性酸素除去剤、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、香料等を併用することができる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、併用された上記成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた使用効果をもたらすことがある。
【0041】
本発明の頭髪化粧料は、高い安全性を有しており、かつテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を通じて、男性型脱毛症等を予防・改善することができる。
【0042】
なお、本発明の育毛剤、抗男性ホルモン剤又は頭髪化粧料は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0043】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0044】
〔製造例1〕植物抽出物の製造
不老草の全草の粗粉砕物300gに抽出溶媒2000mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃にて2時間加熱抽出し、熱時濾過した。得られた抽出液を40℃にて減圧下で濃縮し、減圧乾燥機で乾燥して不老草全草抽出物を得た。抽出溶媒として、水、50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比1:1)、エタノールを用いたときの各抽出物の収率を表1に示す。
【0045】
上記と同様にして、玉胡蝶の地上部又は水翁の花蕾部の粗粉砕物を抽出原料として、それぞれの植物からの抽出物を得た。抽出溶媒として、水、50質量%エタノール、エタノールを用いたときの各抽出物の収率を表1に示す
【0046】
[表1]
抽出原料 抽出溶媒 抽出物収率(%)
不老草全草 水 30.2
50質量%エタノール 34.2
エタノール 28.9
玉胡蝶地上部 水 20.9
50質量%エタノール 21.5
エタノール 18.3
水翁花蕾部 水 26.2
50質量%エタノール 21.7
エタノール 20.6
【0047】
〔試験例1〕テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用試験
製造例1で得られた各植物抽出物について、以下のようにしてテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を試験した。
【0048】
蓋付V底試験管にて、テストステロン(和光純薬工業社製)4.2mgをプロピレングリコール1mLに溶解したもの20μLと、1mg/mLのNADPHを含有する5mmol/mLのトリス塩酸緩衝液(pH7.13)825μLとを混合した。
【0049】
さらに、各試料のエタノール水溶液80μL及びS−9(ラット肝臓ホモジネート,オリエンタル酵母工業社製)75μLを加えて混合し、37℃にて30分間インキュベートした。その後、塩化メチレン1mLを加えて反応を停止させた。これを遠心分離し(1600×g,10分間)、塩化メチレン層を分取して、分取した塩化メチレン層について、下記の条件にてガスクロマトグラフィー分析をし、3α−アンドロスタンジオール、5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHT)及びテストステロンの濃度(μg/mL)を定量した。コントロールとして、試料溶液の代わりに試料溶媒を同量(80μL)用いて同様に処理し、ガスクロマトグラフィー分析をした。
【0050】
[ガスクロマトグラフィー条件]
使用装置:Shimadzu GC-7A(島津製作所社製)
カラム:DB−1701(内径:0.53mm,長さ:30m,膜厚:1.0μm,J&W Scientific社製)
カラム温度:240℃
注入口温度:300℃
検出器:FID
試料注入量:1μL
スプリット比:1:2
キャリアガス:窒素ガス
キャリアガス流速:3mL/min
【0051】
3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンの濃度の定量は、下記の方法により行った。
3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンの標準品を塩化メチレンに溶解し、当該溶液についてガスクロマトグラフィー分析をし、これらの化合物の濃度(μg/mL)及びピーク面積から、ピーク面積と化合物の濃度との対応関係を予め求めておいた。そして、テストステロンとS−9との反応後の3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT及びテストステロンそれぞれのピーク面積あたりの濃度を、予め求めておいた対応関係を利用して、次式(1)に基づいて求めた。
【0052】
A=B×C/D・・・(1)
式中、Aは「3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT又はテストステロンの濃度(μg/mL)」を表し、Bは「3α−アンドロスタンジオール、5α−DHT又はテストステロンのピーク面積」を表し、Cは「標準品の濃度(μg/mL)」を表し、Dは「標準品のピーク面積」を表す。
【0053】
式(1)に基づいて算出された化合物濃度を用いて、次式(2)に基づき、変換率(テストステロン5α−レダクターゼによりテストステロンが還元されて生成した3α−アンドロスタンジオール及び5α−DHTの濃度と、テストステロンの初期濃度との濃度比)を算出した。
変換率=(E+F)/(E+F+G)・・・(2)
式中、Eは「3α−アンドロスタンジオールの濃度(μg/mL)」を表し、Fは「5α−DHTの濃度(μg/mL)」を表し、Gは「テストステロンの濃度(μg/mL)」を表す。
【0054】
式(2)に基づいて算出された変換率を用いて、次式(3)に基づき、テストステロン5α−レダクターゼ阻害率(%)を算出した。
阻害率(%)=(1−H/I)×100・・・(3)
式中、Hは「試料添加時の変換率」を表し、Iは「コントロールの変換率」を表す。
【0055】
試料濃度を段階的に減少させて上記阻害率の測定を行い、テストステロン5α−レダクターゼの阻害率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を近似曲線により求めた。
上記試験の結果を表2に示す。
【0056】
[表2]
抽出原料 抽出溶媒 IC50(μg/mL)
不老草全草 水 2745
50%エタノール 2267
エタノール 2170
玉胡蝶地上部 水 1399
50%エタノール 1066
エタノール 1123
水翁花蕾部 水 689
50%エタノール 331
エタノール 389
【0057】
表2に示すように、各植物抽出物は、優れたテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用を有することが確認された。また、各植物抽出物が有するテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用は、各植物抽出物の濃度に依存して変化し、各植物抽出物の濃度を調節することによりテストステロン5α−レダクターゼ阻害作用の強さを調節できることが確認された。
【0058】
〔試験例2〕アンドロゲン受容体結合阻害作用試験
製造例1で得られた各植物抽出物について、下記の試験法によりアンドロゲン受容体結合阻害作用を試験した。
【0059】
マウス自然発生乳がん(シオノギ癌,SC−115)よりクローニングされたSC−3細胞を、2%DCC−FBS及び10−8mol/Lテストステロンを含有するMEM培地(MEM−2培地)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×10cells/mLの細胞密度になるように2%DCC−FBS含有MEM培地で希釈し、96ウェルプレートに1ウェルあたり100μLずつ播種し、一晩培養した。
【0060】
培養終了後、培地を抜き、10−9mol/LのDHTを含む0.5%BSA含有HamF12+MEM培地(HMB培地)に溶解した試料(試料濃度;50μg/mL)を100μL添加し、48時間培養した。その後、終濃度0.4g/mLでテストステロンを含有しないMEM−2培地に溶解したMTTを各ウェルに100μL添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール200μLで抽出した。抽出したブルーホルマザンを含有する2−プロパノールについて、ブルーホルマザンの吸収極大点がある570nmの吸光度を測定した。
【0061】
なお、付着細胞の影響を補正するため、同時に650nmの吸光度も測定し、両吸光度の差をもってブルーホルマザンの生成量に比例する値とした(下記結合阻害率の計算式における吸光度はこの補正済み吸光度である)。
【0062】
上記と並行して、試料単独でSC−3細胞に及ぼす影響をみるため、HMB培地にDHTを添加せず試料のみを添加して、同様の培養と測定を行った。さらに、コントロールとして、試料及びDHTを添加しないHMB培地で培養した場合、及び試料を添加せず10−9mol/LのDHTのみを添加したHMB培地で培養した場合についても同様の測定を行った。得られた結果から、下記式に基づき、アンドロゲン受容体結合阻害率を算出した。
【0063】
アンドロゲン受容体結合阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}
式中、Aは「DHT添加・試料無添加の場合の吸光度」を表し、Bは「DHT無添加・試料無添加の場合の吸光度」を表し、Cは「DHT添加・試料添加の場合の吸光度」を表し、Dは「DHT無添加・試料添加の場合の吸光度」を表す。
上記試験の結果を、表3に示す。
【0064】
[表3]
抽出原料 抽出溶媒 阻害率(%)
不老草全草 水 40.7
50%エタノール 41.3
エタノール 43.1
玉胡蝶地上部 水 18.4
50%エタノール 20.8
エタノール 19.9
水翁花蕾部 水 28.7
50%エタノール 31.0
エタノール 30.0
【0065】
表3に示すように、製造例1で得られた各植物抽出物は、優れたアンドロゲン受容体結合阻害作用を示すことが確認された。
【0066】
〔試験例3〕毛乳頭細胞増殖促進作用試験
製造例1で得られた各植物抽出物について、以下のようにして毛乳頭細胞増殖促進作用を試験した。
【0067】
正常ヒト頭髪毛乳頭細胞を、2%FCS及び増殖添加剤を含有した毛乳頭細胞増殖培地(Cell Application Inc.製)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、10%FBS含有DMEM培地を用いて1.0×10cells/mLの細胞密度に希釈した後、コラーゲンコートした96ウェルプレートに1ウェルあたり200μLずつ播種し、3日間培養した。培養後、培地を抜き、各植物抽出物を無血清DMEMに溶解した試料溶液(試料濃度6.25μg/mL)を各ウェルに200μLずつ添加し、さらに4日間培養した。
【0068】
毛乳頭細胞増殖促進作用は、MTTアッセイを用いて測定した。培養終了後、培地を除き、無血清DMEMに溶解したMTT(終濃度0.4mg/mL)を、各ウェルに100μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール100μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。なお、コントロールとして、試料溶液の代わりに無血清DMEMを添加した場合についても同様の測定を行った。得られた結果から、下記計算式に基づき、毛乳頭細胞増殖促進率(%)を算出した。
【0069】
毛乳頭細胞増殖促進率(%)=A/B×100
なお、式中、Aは「試料添加時の吸光度」を表し、Bは「試料無添加時の吸光度」を表す。
上記試験の結果を表4に示す。
【0070】
[表4]
抽出原料 抽出溶媒 毛乳頭細胞増殖促進率(%)
不老草全草 水 108.6
50%エタノール 101.0
エタノール 105.9
玉胡蝶地上部 水 122.3
50%エタノール 123.3
エタノール 119.3
水翁花蕾部 水 120.8
50%エタノール 125.9
エタノール 120.4
【0071】
表4に示すように、製造例1で得られた各植物抽出物は、優れた毛乳頭細胞増殖促進作用を示すことが確認された。
【0072】
〔配合例1〕
下記組成の養毛ヘアトニックを常法により製造した。
不老草全草水抽出物(製造例1) 0.2g
水翁花蕾部エタノール抽出物(製造例1) 0.1g
塩酸ピリドキシン 0.1g
レゾルシン 0.01g
D−パントテニルアルコール 0.1g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
L−メントール 0.05g
1,3−ブチレングリコール 4.0g
ニンジンエキス 0.5g
エタノール 25.0g
香料 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【0073】
〔配合例2〕
下記組成の養毛ヘアトニックを常法により製造した。
玉胡蝶地上部50質量%エタノール抽出物(製造例1) 0.3g
セファランチン 0.002g
イソプロピルメチルフェノール 0.1g
ヒアルロン酸ナトリウム 0.15g
グリセリン 15.0g
エタノール 15.0g
酢酸トコフェロール 適量
キレート剤(エデト酸ナトリウム) 適量
防腐剤(ヒノキチオール) 適量
可溶化剤(ポリオキシエチレンセチルエーテル) 適量
香料 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【0074】
〔配合例3〕
下記組成の育毛シャンプーを常法により製造した。
不老草全草50質量%エタノール抽出物(製造例1) 0.2g
玉胡蝶地上部水抽出物(製造例1) 0.2g
ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 10.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 10.0g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 20.0g
ヤシ油脂肪酸ジエタノールアミド 4.0g
プロピレングリコール 2.0g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
香料 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【0075】
〔配合例4〕
下記組成の育毛シャンプーを常法により製造した。
水翁花蕾部50質量%エタノール抽出物(製造例1) 0.3g
ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム 20.0g
ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン 30.0g
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム 30.0g
ヤシ油ジエタノールアミド 3.0g
ジステアリン酸エチレングリコール 2.0g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
防腐剤(パラオキシ安息香酸メチル) 0.15g
香料 適量
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の育毛剤、抗男性ホルモン剤又は頭髪化粧料は、男性型脱毛症、多毛症、脂漏症、座瘡(ニキビなど)、前立腺肥大症、前立腺腫瘍、男児性早熟等の予防、治療又は改善に貢献でき、特に男性型脱毛症の予防、治療又は改善に大きく貢献できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする育毛剤。
【請求項2】
前記抽出物が、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用、アンドロゲン受容体結合阻害作用及び毛乳頭細胞増殖促進作用からなる群より選ばれる1種又は2種以上の作用を有することを特徴とする請求項1に記載の育毛剤。
【請求項3】
不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする抗男性ホルモン剤。
【請求項4】
前記抽出物が、テストステロン5α−レダクターゼ阻害作用及び/又はアンドロゲン受容体結合阻害作用を有することを特徴とする請求項1に記載の抗男性ホルモン剤。
【請求項5】
不老草(Balanophora sp.)、玉胡蝶(Oroxylum indicum)及び水翁(Cleistocalyx operculatus)からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物からの抽出物を配合したことを特徴とする頭髪化粧料。

【公開番号】特開2006−347915(P2006−347915A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173764(P2005−173764)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】