説明

育苗箱

本発明は過剰な灌漑用水の排水用の開口を箱の少なくとも1つの側壁に有する育苗箱に関する。さらに、本発明は若い植物(特に若いイネ)を育てるためのかかる育苗箱の使用、ならびに若い植物(特に若いイネ)を育てる方法にも関し、該方法はかかる育苗箱に含まれる成長培地の中または上に種子(特にイネ種子)を蒔くステップ、および所定の大きさに達するまでこの箱の中で植物を育てるステップを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過剰な灌漑用水の排水用の開口を箱の少なくとも1つの側壁に有する育苗箱に関する。さらに、本発明は若い植物(特に若いイネ)を育てるためのかかる育苗箱の使用、ならびに、かかる育苗箱に含まれる成長培地の中または上に種子(特にイネ種子)を蒔くステップ、および所定の大きさに達するまで箱の中で植物を育てるステップを含む、若い植物(特に若いイネ)を育てる方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
育苗箱(苗床箱とも呼ばれる)の中でイネ種子を蒔くことおよび苗を育てることは、特に日本において通常の稲作方法である。一般に、育苗箱は苗が特定の高さに達するまで温室または保護された場所に置かれる。その後、若い植物は、例えば水田に移植される。
【0003】
通常のイネ育苗箱は上部が開いている、高さ数センチメートルの長方形の容器またはトレイである。一般に、底部側は過剰な灌漑用水の排水用に穴が開いている(すなわち、数個の開口を有する)。箱は、その中でイネ種子が蒔かれ、育てられる成長培地(一般に土壌)を含む。
【0004】
最近数年間、農薬を含む層を有する箱を提供すること、または成長培地もしくは種子を農薬、特に殺有害生物剤(例えば、殺虫剤および殺菌剤)で処理することが通常の方法になってきている。
【0005】
通常の育苗箱は底部側に開口が開いているので、過剰な灌漑用水は底部の開口を通って排水され、成長培地の上または中に存在する農薬の一部を同伴する。結果として、育苗箱の下方の土壌は洗い流される農薬により汚染されるようになる。このことは、若いイネを移植させた後、それ以前に育苗箱が置かれていた場所に他の作物をすぐに植えることを望む農業従事者にとって問題がある。多くの殺有害生物剤はイネにのみ良いと認められるので、農業従事者は汚染された場所に他の作物を植えることができない。この場合、農業従事者は農薬が劣化するまでしばらく待つことを推奨されるが、もちろん経済的不利益を伴う。
【0006】
別の問題はその上に育苗箱が置かれる土壌中に出現している土壌の病気(例えば土壌菌類またはバクテリア)が底部の開口を通って育苗箱へと移動し、成長培地および/または種子もしくは若い植物を感染させることができることである。
【0007】
さらに、漏出により農薬が浪費される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は従来の育苗箱の不利益が存在しない育苗箱を提供することであった。特に、育苗箱はその中に存在する農薬による育苗箱の下方の土壌の汚染を回避するか、または少なくとも低減させるべきである。さらに、育苗箱は灌漑用水の消費も低減させ、必要とされる農薬の量も低減させるべきである。さらに、土壌の病気による感染も回避するか、または少なくとも低減させるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は過剰な灌漑用水の排水用の開口を箱の少なくとも1つの側壁に有する育苗箱により達成される。特に、育苗箱はイネ育苗箱であるが、もちろんその他の植物にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図は長方形の底部の形状を有するイネ育苗箱を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
植物は、例えば穀物(cereal)または観賞植物であることができる。穀物は禾本(grass)(イネ科)の栽培品種であり、例えば、小麦(スペルト、ヒトツブコムギ、エンマー(emmer)、カムート、デュラムおよびライコムギ(triticale)を含む)、ライ麦、大麦、イネ(rice)、ワイルドライス(wild rice)、トウモロコシ(コーン)、キビ(millet)、モロコシ(sorghum)、テフおよびオート麦を含む。好ましくは、植物はイネである。
【0012】
好ましくは、箱は底部に開口を有していない。
【0013】
「開口」は壁の穴または穿孔(perforation)を意味する。
【0014】
相対的な語、(育苗箱の)「側壁」、「上部」(「頂部」とも呼ばれる)および「底部」は以下のように理解されるべきである。側壁は植物の主成長方向に本質的に平行な壁である。「本質的に平行」は完全に平行な方向からのずれが45°未満、さらに好ましくは30°未満、さらに好ましくは20°未満、特に、10°未満であることを意味する。底部はその上に箱が設置され、土壌の上に置かれる箱の部分である(かつ、植物の主成長方向に対して垂直である)。箱の上部は底部の反対側であり、植物の主成長方向に対して垂直である。一般に、上部は開いているが、所望の場合には、例えば、硬いカバー(coverage)または柔軟なシート(例えばプラスチックフィルム)で覆うことができる。
【0015】
箱は任意の好適な形状を有することができる。例えば、多角形(例えば、三角、長方形、正方形、五角形、六角形または八角形)、特に正方形もしくは長方形、円形、楕円形(oval)または不規則な底部の形状(「底部の形状」は底部の平面図として理解されるべきである)を有することができる。しかし、場所の節約および製造上の理由のため、好ましくは正方形または長方形、さらに好ましくは長方形の底部の形状を有する。
【0016】
箱は好ましくは1〜50cm、さらに好ましくは2〜20cm、さらに好ましくは2〜10cm、特に2〜5cm、特に3cm〜4cmの高さを有する。
【0017】
底部が正方形である場合には、辺の長さは好ましくは10〜100cm、さらに好ましくは20〜80cm、特に30〜60cmである。
【0018】
底部が長方形である場合には、その長さは好ましくは20〜100cm、さらに好ましくは30〜80cm、特に50〜70cmである。その幅は、好ましくは10〜80cm、さらに好ましくは10〜50cm、特に20〜40cmである。当然、幅は長方形のより短い辺に相当する。
【0019】
底部が円形を有する場合には、底部の直径は好ましくは10〜80cm、さらに好ましくは20〜60cm、特に30〜50cmである。
【0020】
箱の壁の厚さは、もちろん箱の大きさまたは内部容積によって決まり、一般に、0.5〜15mm、さらに好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは2〜8mm、特に3〜5mm(もちろん、開口を除く)の範囲である。底部はより厚い厚さ、例えば20mm以下、さらに30mmもしくは40mm以下を有することができる。
【0021】
底部が多角形を有する場合には、育苗箱は多角形を形成する辺の数と同数の側壁を有する。好ましくは、箱は側壁の数の少なくとも50%、さらに好ましくは側壁の数の少なくとも75%、特に全ての側壁に開口を有する。あるいは、箱は好ましくは少なくとも2つの側壁、さらに好ましくは少なくとも3つの側壁、特に全ての側壁に開口を有する。例えば、底部が長方形または正方形である場合には、育苗箱は好ましくは少なくとも2つの側壁、さらに好ましくは少なくとも3つの側壁、特に4つの全ての側壁に開口を有する。
【0022】
底部の横断面が円形または楕円形である場合には、開口は好ましくはそれぞれの高さにおける側壁の円周の20〜100%に相当する部分、さらに好ましくは側壁の全周に分布する。
【0023】
箱の材料は任意の好適な、かつ、この目的で通常使用される材料、例えばセラミック(例えば陶土)、コンクリート、金属(例えばアルミニウム)または、好ましくは好適なプラスチック、例えばポリエチレン(PE)、特に高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)(シンジオタクチック、アタクチックおよびイソタクチックPPを含む)、エチレン/プロピレンコポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリエチレンもしくはポリプロピレンとポリアミドの共押出物(coextrudate)、ポリエチレンもしくはポリプロピレンとエチレンコポリマー(例えばエチレン酢酸ビニルコポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー)の共押出物、ポリエチレンもしくはポリプロピレンとポリエチレンテレフタレートの共押出物、ポリアクリロニトリル(PAN)、スチレン-アクリロニトリル、ポリスチレン(PS)または樹脂材料、例えばフェノール樹脂、例えばホルムアルデヒド-フェノール樹脂、ポリエステル樹脂等であることができる。
【0024】
開口の形は重要ではなく、任意の好適な規則的なまたは不規則な形態をとることができる。一般に、開口は工業的に製造されるので、ある程度規則的な幾何学的形態、例えば円形、楕円形または多角形(例えば三角形、長方形、正方形、五角形、六角形、七角形または八角形)の形態を取る。開口の最も長い軸の寸法(円形の場合には直径、楕円形の場合には長軸、三角形の場合には最も長い辺、長方形または正方形の場合には対角線、さらに多い多角形の場合には最長の対角線)は、好ましくは1mm〜50mm、さらに好ましくは2mm〜40mm、さらに好ましくは2mm〜30mm、特に2mm〜20mm、さらに特に2mm〜15mm、特に2mm〜10mm、さらに特に2〜5mmの範囲である。
【0025】
開口の数はその表面によって決まり、好ましくは過剰な灌漑用水の十分な排水を可能にし、同時に箱の安定性を損なわないように選択される。
【0026】
開口は固体材料が洗い流されることを回避するため、格子またはメッシュで覆うことができる。
【0027】
農薬による箱の下方の土壌の汚染を回避するか、または低減させるため、好ましくは、開口は農薬を含む(最も高い)培地の(仮想のまたは計画された)上端より上に設置される。前記のように、この培地は別の農薬層、例えば農薬含有粒剤の形態であることができ、あるいは培地は農薬を含む植物の成長培地(特に土壌)であることができる。「最も高い」は農薬を含む2つ以上の層がある場合、開口はこれらの層の最も高くより上(すなわち、箱の底部から最も遠い層)、さらに正確には、この最も高い層の最も高い頂点より上に配置されることを意味する。少なくとも開口の一部は過剰な灌漑用水の排水を可能にするため、農薬を含む(最も高い)培地の上端に十分に近接して設置される。「十分に近接して」は農薬を含む(最も高い)培地の上端より多くとも3cm、好ましくは多くとも2cm上(例えば、農薬を含む(最も高い)培地の上端の0〜3cm、好ましくは0.2〜2cm、さらに好ましくは0.5〜2cm、特に0.5〜1cm上)を意味する。イネは水中で成長することもできるので、開口は農薬を含む(最も高い)培地の上端から一定の距離であることができる。
【0028】
農薬を含む最も高い培地または成長培地の上端は育苗箱の中で成長する植物の種類により(異なる植物は異なる根の形態を有し、異なる深さの成長培地を必要とする)、および植物を移植前に育てたい所定の大きさによりあらかじめ決定される。植物が成長する間、成長している根により成長培地は拡大することができ、したがって、上端は上方へ移動し得る。しかし、一般にこの拡大は非常に限られており、したがって、無視できる。
【0029】
一般に、育苗箱は成長培地および農薬で1cm〜5cm、好ましくは2〜4cmの高さまで満たされるので、好ましくは、開口は育苗箱の底部の1.5〜6cm、さらに好ましくは2〜5cm、特に3〜4cm上に設置される。
【0030】
農薬は、通常農業に使用される任意の種類の化学物質、例えば殺有害生物剤(例えば殺菌剤、殺虫剤、除草剤、殺線虫剤、殺バクテリア剤等)、肥料、成長調節剤等であることができる。好ましくは、農薬は殺有害生物剤、特に殺虫剤または殺菌剤である。
【0031】
「成長培地」は土壌または人口固体成長培地であることができ、好ましくは土壌である。
【0032】
具体的な実施形態において、さらに、育苗箱は開閉可能であり、少なくとも1つの側壁に配置される開口を含む。開閉は好ましくはスライドまたはフラップ(flapping)機構により実現される。好ましくは、これらの開閉する開口は成長培地が置かれている、または置かれるべき高さに配置される。さらに好ましくは、これらの開閉する開口は底部に近接して配置される。これらの開閉する開口(hole)は以下の過程に関する。育苗箱が種蒔き(planting)のために調製される際、育苗箱は成長培地とともに提供され、その後、十分に水を注がれる。大過剰の水は農薬が施用される前にこれらの開口を通って排出され、開口は閉じられ、植物が成長する間、閉じたままである。さらに、それらは移植後、育苗箱を容易に洗うことを可能にする。閉鎖は任意の好適な方法、例えば板、フラップ(flap)、ハッチ、シート、スライド(slide)、スライドゲート(sliding gate)等により達成される。
【0033】
特定の実施形態において、本発明は成長培地層(好ましくは土壌)および、好ましくは成長培地層の上に設置される、粒剤を含む層の形態である少なくとも1種の農薬を含む前記育苗箱に関する。
【0034】
さらに、本発明は植物を育てるための前記育苗箱の使用にも関する。好ましくは、箱は所定の大きさに達するまで若い植物を育てるために使用される。さらに好ましくは、箱は所定の大きさに達するまで若いイネを育てるために使用される。一般に、所定の大きさは、通常それぞれの植物が開放された土地(open land)へと移植される大きさである。これはいくつかの要因、例えば植物の種(species)および品種(variety)、植物がその後移植される場所の気候、箱の大きさならびに箱の中の植物の密度等によって決まり、当業者には公知である。
【0035】
さらに、本発明は前記育苗箱中で植物を育てるステップを含む、植物を育てる方法にも関する。好ましくは、該方法は若いイネを育てるために役立つ。該方法は成長培地および任意で少なくとも1種の農薬を有する育苗箱を提供するステップ、育てる植物の繁殖材料を植えるステップ(特に育てる植物の種子を蒔くステップ)ならびに植物が所定の大きさに達するまで植物を育てるステップを含む。また、農薬は播種後に別途(alternatively)または追加的に箱へ導入することができる。
【0036】
「繁殖材料」は種子、穀粒(grain)、果実、塊茎、根茎、胞子、挿し木(cutting)、分けつ(offshoot)、分裂組織(meristem tissue)、単一および複数の植物細胞、ならびに完全な植物を得ることができる任意のその他の植物組織を含む。1つの特定の繁殖体は種子である。
【0037】
本発明の育苗箱は過剰な灌漑用水と一緒に洗い流される農薬による、その上に育苗箱が置かれる土壌の汚染を回避するか、または少なくとも低減させ、必要とされる農薬および水の量を低減させる。底部に開口を有しない箱の好ましい実施形態において、その上に箱が置かれる土壌に由来する土壌の病気による、箱の内部の成長培地および/または種子もしくは植物の感染が回避されるか、または少なくとも低減される。さらに、本発明の好ましい実施形態において、箱の底部に開口が存在しないので、植物の根は開口を通って広がらず、したがって、植物を育苗箱から取り除く際(例えば、水田へ移植する際)に根切りは必要ない。このことは、仕事をより少なくし、さらに、根を切断することは常に植物の弱体化に関連するので、より生き生きとした植物になることを意味する。
【0038】
さらに、本発明を非限定的な図面により説明する。
【0039】
図は長方形の底部の形状(平面図)を有するイネ育苗箱を概略的に示し、底部に開口がなく、側壁上に、粒剤型農薬を含む仮想上の層または農薬を含む仮想上の成長培地層の上端(2)の上に近接して開口(1)があり、底部に近接して開/閉開口(3)を有する。
【0040】
側壁上の開口(1)の数および場所は図に示されるものに限定されるとして理解されるべきではない。それどころか、開口は4つの壁全てに分布することができる。開口の形状も図面に示される形状に限定されるとして理解されるべきではなく、任意の好適な形状を取ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過剰な灌漑用水の排水用の開口を箱の少なくとも1つの側壁に含む育苗箱。
【請求項2】
箱の底部に開口を含まない、請求項1に記載の育苗箱。
【請求項3】
多角形の底部の形状を有する、請求項1または2に記載の育苗箱。
【請求項4】
正方形または長方形の底部の形状を有する、請求項3に記載の育苗箱。
【請求項5】
開口を箱の少なくとも2つの側壁に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項6】
円形または楕円形の底部の形状を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項7】
側壁の全周に分布した開口を有する、請求項6に記載の育苗箱。
【請求項8】
少なくとも1種の成長培地および少なくとも1種の農薬をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項9】
少なくとも1種の農薬が、少なくとも1種の農薬を含む粒剤を含む、少なくとも1つの層であって、1つの層が成長培地層の上に設置されるか、または成長培地中に分布した前記層の形態で存在する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項10】
開口が農薬を含む最も高い層の上端の上に配置される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項11】
開閉可能な開口を箱の少なくとも1つの側壁にさらに含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の育苗箱。
【請求項12】
開閉可能な開口が箱の底部の上方に近接して配置される、請求項10または11に記載の育苗箱。
【請求項13】
植物を育てるための請求項1〜12のいずれか1項に記載の育苗箱の使用。
【請求項14】
若いイネが所定の大きさに達するまで若いイネを育てる、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の育苗箱の中で植物を育てるステップを含む、植物を育てる方法。
【請求項16】
若いイネを育てる請求項15に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−500624(P2012−500624A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−523428(P2011−523428)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060823
【国際公開番号】WO2010/020687
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】